特許第6360046号(P6360046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6360046ポリウレタン系粘着剤シートの製造方法及び熱解離結合含有ポリウレタン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6360046
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】ポリウレタン系粘着剤シートの製造方法及び熱解離結合含有ポリウレタン
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20180709BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20180709BHJP
   C09J 175/06 20060101ALI20180709BHJP
   C09J 175/08 20060101ALI20180709BHJP
   C08G 18/72 20060101ALI20180709BHJP
   C08G 18/80 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C09J7/38
   C09J175/04
   C09J175/06
   C09J175/08
   C08G18/72
   C08G18/80
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-518179(P2015-518179)
(86)(22)【出願日】2014年5月2日
(86)【国際出願番号】JP2014062142
(87)【国際公開番号】WO2014188865
(87)【国際公開日】20141127
【審査請求日】2016年9月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-110266(P2013-110266)
(32)【優先日】2013年5月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-127454(P2013-127454)
(32)【優先日】2013年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004020
【氏名又は名称】ニチバン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】朝田 和孝
(72)【発明者】
【氏名】山下 啓司
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−269428(JP,A)
【文献】 特開平08−291279(JP,A)
【文献】 特開平06−172735(JP,A)
【文献】 特開平10−182787(JP,A)
【文献】 特表2008−516027(JP,A)
【文献】 特開2001−081152(JP,A)
【文献】 特開2008−156488(JP,A)
【文献】 特開2013−136731(JP,A)
【文献】 特開平10−319203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
C08G 18/72− 18/87
C08G 71/00− 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレトジオン結合、ビウレット結合、又はアロファネート結合から選ばれる熱解離性結合を1種又は2種以上含むポリウレタン(A)と、
イソシアネート基と反応する官能基を含む化合物(B)と
を、前記熱解離性結合が解離してイソシアネート基が生成し得る温度以上で混合し、シート化させることを特徴とする、ポリウレタン系粘着剤シートの製造方法。
【請求項2】
前記ポリウレタン(A)が、少なくとも、
ウレトジオン結合、ビウレット結合、又はアロファネート結合から選ばれる熱解離性結合を1種又は2種以上含む、ポリイソシアネート又はウレタンプレポリマー(A’)と
イソシアネート基と反応する官能基を含む化合物(B’)と
を反応させて得られる、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記化合物(B’)が、平均分子量が5×10〜2×10であり、かつ1分子中に活性水素基を2個以上含む活性水素基含有化合物である、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記活性水素基含有化合物が、少なくとも、
両末端にカルボキシル基を含む炭素数4〜8の多価カルボン酸と、
両末端に水酸基を含む炭素数が2〜9の多価アルコールと
を重縮合させて得られるポリエステルポリオールである、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリエステルポリオールの平均分子量が2×10〜2×10である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記ポリエステルポリオールが多価カルボン酸と分岐構造を含むジオールを重縮合させて得られる、請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
前記ポリウレタン(A)がアロファネート又はウレトジオン結合を含む請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
前記ポリウレタン(A)がウレトジオン結合を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
前記ポリウレタン(A)100質量部と、前記化合物(B)1〜150質量部とを、120〜190℃で、10分〜120分間混合することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
前記ポリウレタン系粘着剤シート中のポリウレタン系粘着剤のガラス転移点が0℃未満であり、かつ当該粘着剤の貯蔵弾性率が10〜10dyn/cmであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項記載の無溶剤による製造方法。
【請求項11】
ウレトジオン結合又はビウレット結合から選ばれる熱解離性結合を1種又は2種以上含むポリイソシアネート又はウレタンプレポリマー(A’)
ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリエーテルポリオール、及び水酸基末端ポリブタジエンのうちのいずれかを含み、かつ平均分子量が5×10以上である、1分子中に活性水素基を2個以上含む活性水素基含有化合物とを反応させて得られるポリウレタン(A)と、
イソシアネート基と反応する官能基を含む化合物(B)と
を、前記熱解離性結合が解離してイソシアネート基が生成し得る温度以上で混合して得られる、ポリウレタン系粘着剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱加工性を有するポリウレタン系粘着剤シートの製造方法、その製造方法により得られるポリウレタン系粘着剤シート、及び粘着剤の製造に使用することができる熱解離性結合を含むポリウレタンに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤の製造においては、VOC対策、製造時の安全性対策などの点から、脱溶剤の要請が高まっている。粘着剤の溶剤系以外の製造方法には、大まかに水系、硬化型(光硬化や熱硬化など)、及び熱溶融加工系(ホットメルト塗工、カレンダー塗工、Tダイ押出塗工など)が存在する。
【0003】
特許文献1には、脂肪族ジイソシアネート化合物から形成される、ビウレット体などの3官能のイソシアネート化合物(D)を含有する無溶剤型接着剤組成物が記載されている。また、非特許文献1には、ウレトジオン結合を含んだポリウレタン粉体塗料用ポリウレトジオン型硬化剤が記載されている。
しかし、ポリウレタン系粘着剤の製造に使用し得ることは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−321664号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】森田寛、マイヤー・ベスチュウス著「ポリウレタン粉体塗料用ポリウレトジオン型硬化剤」色材研究発表会講演要旨集、226−229,1997年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の水系の製造方法では、界面活性剤の使用が必須であるところ、この界面活性剤が粘着剤の表層に移行するため、耐水性の悪化や被着体の汚染、粘着特性が悪化し、目的とする粘着特性を有する粘着剤の製造が困難である。また、ポリウレタンについては界面活性剤の悪影響を排除するために、乳化剤を用いない自己乳化型ウレタンディスパージョンも実用化されているが、粘着剤として実用化された例は見ない。
また、前記の硬化型の製造方法では、塗工と同時に重合反応の工程が必要となるため、製造におけるハードルが高く、安定した特性を得ることが困難であるとともに、単量体の残存量を減らすために生産性を犠牲にする場合がある。
脱溶剤化技術の中で熱溶融加工型が、不純物に由来する粘着特性低下の面、生産性の面で有利な方法である。
【0007】
前記の熱溶融加工系の製造方法は、スチレン系やオレフィン系、アクリル系などの多種のエラストマーでは実用化されているが、いずれも加熱により、成分の一部を溶融させ、軟化させることで熱加工性を高めている。例えば、スチレン系の場合、スチレン成分からなる凝集力を発現させるドメインが加熱により溶融し系全体の高温時の粘度を低下させて、熱加工性を高めている。アクリル系、例えば、メタクリル酸メチル―アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチルなどの場合、メタクリル酸メチルからなる凝集力を発現させるドメインが加熱により溶融し、系全体の高温時の粘度を低下させて、熱加工性を高めている。オレフィン系の場合、ポリプロピレン等からなる凝集力を発現させるハードセグメントが加熱により溶融し、系全体の高温時の粘度を低下させて、熱加工性を高めている。
しかし、これらの方法では、ドメインの溶融とガラス状化がいずれも可逆現象であるため、最終生成物は耐熱性に劣っている。また、これらは、溶融粘度の兼ね合いからエラストマーの分子量が比較的低めに設定されている上にオリゴマー成分である粘着付与剤樹脂を必須成分として含み、また、加工性を改善するためにオイル成分も含まれる場合が多いため、耐溶剤性、耐候性が良くなく、含有する低分子量成分に由来する不具合が起こる場合もある。
【0008】
ポリウレタンの場合も、前記のスチレン系などの場合と同様に、分子間相互作用に基づく、熱加工可能な熱可塑性エラストマーに分類される素材が実用化されているが、他の熱可塑性エラストマーと同様に単独では粘着剤として機能せず、相溶する粘着付与剤樹脂も存在しないため、これらの配合物からウレタン系熱加工型粘着剤を作ることはできない。仮にできたとしても凝集力ドメインの溶融に基づく熱加工可能な粘着剤は上記と同様の理由から、得られた粘着剤が耐熱性に劣っていることなどの問題がある。
【0009】
本発明の目的は、凝集力ドメインの可逆的な加熱溶融によらない新しい機構の熱加工型粘着剤の製造方法を提供することであり、それによって従来の熱溶融加工型粘着剤で課題となっている耐熱性、耐溶剤性等に優れた粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
ウレトジオン結合、ビウレット結合、又はアロファネート結合から選ばれる熱解離性結合を1種又は2種以上含むポリウレタン(A)と、
イソシアネート基と反応する官能基を含む化合物(B)と
を、前記熱解離性結合が解離してイソシアネート基を生成し得る温度以上で混合し、シート化させることを特徴とする、ポリウレタン系粘着剤シートの製造方法に関する。
また、本発明は、上記熱解離性結合を1種又は2種以上含むポリウレタン(A)及びその粘着剤製造用途にも関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、ポリウレタン(A)中にウレトジオン結合、ビウレット結合、又はアロファネート結合から選ばれる熱解離性結合が1種又は2種以上導入されている。これら熱解離性結合は熱によって解離してイソシアネート基を生じる。したがって、ポリウレタン(A)は、加熱により熱解離性結合において切断されて、その分子量が低下する。そのため、本発明の製造における、ポリウレタン(A)と化合物(B)との混合物の粘度は加熱により低下して、その熱加工性は向上するという効果が得られる。また、熱解離性結合の熱による解離は不可逆的なので、その後、上記の混合物の温度が低下しても、その加工性は低下しないという利点もある。加工終了後には、解離により生じたイソシアネート基と化合物(B)が反応し、新たな共有結合が生じ、粘着剤が生成する。
【0012】
本発明の製造方法によれば、無溶剤、熱溶融加工型でありながら目的とする粘着特性や耐熱性を有するウレタン系粘着剤シートの製造が可能である。
また、従来技術である熱解離性結合を含まないポリイソシアネートとポリオールとのウレタン結合から得られる2液硬化型ウレタン粘着剤は、2液混合後、剥離紙等のシート上に薄層に塗布する際にその反応性を制御することが一般に難しく、均一な厚みで平滑な表面での層を設けることが難しいという問題点があるが、本発明の製造方法では、このような問題がなく、無溶剤にて均一で平滑な粘着剤層を設けることができる。
さらに、2液硬化型ウレタン粘着剤の製造の場合、塗工後、巻き取りまでの間にある程度の硬化が必要となるため、その製造装置には、低水分に保った液体制御システム、塗工ヘッド、及び水分混入のない長い加熱炉が必要となっている。一方、本発明の製造方法は、製造装置の基本構造が加熱混合部と塗工ヘッドだけで済ませることが可能となるため、設備負荷が少なく、効率的な生産システムの構築が可能になる。
その上、本発明の製造方法では、本発明のポリウレタン(A)を特に変えずに、イソシアネート基と反応する化合物(B)を変えるだけで、得られる粘着剤の粘着特性を調整することが可能となる。これにより、本発明では、マスプロでポリウレタン(A)を製造しておき、化合物(B)を適宜変えることにより、多品種少量生産に対応することができる。
さらに、本発明の製造方法では、粘着性を有する成型物を得ることも可能となる。複雑な形状を有する、型で作るようなものであっても、粘着性を有した成型物を得ることが可能となる。
【0013】
本発明のポリウレタン(A)は、通常のポリイソシアネートと比べて、活性の高いイソシナネート基が熱解離性結合によって保護されているので、保存時又は加工時における空気中の水分等との反応が抑えられ、貯蔵安定性に優れている。このように、本発明のポリウレタン(A)は、水分に感応性が高いイソシアネート基が保護されているので、低水分状態で厳密に管理保存する必要性も少なく、それどころか普通に倉庫に保管することも可能である。
また、本発明のポリウレタン(A)は、固形物でもあることから、仕込みも秤量して投入すれば良く、高度に流量制御された装置等が不要となる。
さらに、本発明のポリウレタン(A)は、構造及び平均分子量などによって加工時の粘度を調整することができるので、製造装置の塗工方式やヘッドを自由に選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】A1とB3とを反応させて得られた熱解離性結合含有ポリウレタンの赤外吸収スペクトルを示す図である。
図2】A1とB3とを反応させて得られた熱解離性結合含有ポリウレタンを160℃で加熱した後の赤外吸収スペクトルを示す図である。
図3】A1とB3とを反応させて得られた熱解離性結合含有ポリウレタンを160℃で加熱した後、さらにB1と反応させて得られた粘着剤シートの赤外吸収スペクトルを示す図である。
図4】A4とB3とを反応させて得られた熱解離性結合含有ポリウレタンの赤外吸収スペクトルを示す図である。
図5】A4とB3とを反応させて得られた熱解離性結合含有ポリウレタンを、さらにB4と反応させた得られた粘着剤シートの赤外吸収スペクトルを示す図である。
図6】実施例1の動的粘弾性チャートを示す図である。
図7】スチレン系熱可塑性エラストマーを主原料とした粘着剤〔SIS(クレイトン1107)/脂肪族系石油樹脂(ピコタック95)/オイル=60/50/5〕の動的粘弾性チャートを示す図である(出典:倉地啓介、「最近の粘着付与樹脂」、接着、第34巻6号、36-43頁、1990)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、ポリウレタン(A)、又はポリイソシアネート若しくはウレタンプレポリマー(A’)は、
ウレトジオン結合:
【化1】
ビウレット結合:
【化2】
アロファネート結合:
【化3】
から選ばれる熱解離性結合を1種又は2種以上含む。
上記の熱解離性結合の少なくとも一部は、加熱による解離によりポリウレタン(A)の分子量を低下せしめるように、当該ポリウレタン中の末端以外の部分に存在している必要がある。
上記の熱解離性結合として、イソシアネート基を生成する温度が比較的低温である点から、好ましくはウレトジオン結合及びアロファネート結合、より好ましくはウレトジオン結合である。
【0016】
前記ポリウレタン(A)は、前記熱解離性結合を1種又は2種以上含んでいれば、特に制限されず、一般的にポリウレタンの分野で使用することができるものは全て使用可能である。具体的には、前記熱解離性結合を1種又は2種以上含むポリイソシアネート又はウレタンプレポリマー(A’)と、イソシアネート基と反応する官能基を含む化合物(B’)とを、慣用の方法にて反応させて得られるポリウレタンが挙げられる。
但し、上記の反応は、前記熱解離性結合を含むポリウレタン(A)が得られるように、ポリイソシアネート又はウレタンプレポリマー(A’)中に含まれる前記熱解離性結合が解離してイソシアネート基を生成し得ない温度未満で反応させることが好ましい。
また、上記ポリイソシアネート又はウレタンプレポリマー(A’)は、上記イソシアネート基と反応する官能基を含む化合物(B’)に対して、1当量使用することが望ましいが、熱加工性の他、特に粘着特性をコントロールする目的で、0.5当量以上1.2当量以下の範囲で使用することが好ましい。
【0017】
前記ポリウレタン(A)は、粘着性を有していても有していなくてもよいが、粘着性を有していない場合には、ベール状、ブロック状ではなくペレット状の原料の作成が可能なため、輸送、保管、配合等の作業において取り扱いが容易となるため粘着性を有しない方が好ましい。
粘着性を有するポリウレタン(A)は、指で触ったときの粘着性の有無(指タック)や、プローブタックの他、既知のブロッキングを評価する方法で判断される。特に、指タックによる方法が簡便なため、好ましい。
【0018】
前記(A’)のポリイソシアネートとしては、前記熱解離性結合を1種又は2種以上含んでいれば特に制限されず、原料にポリイソシアネートを用いて、公知の手法にて前記熱解離性結合が形成させるように反応させることで、製造することができる。原料として用いられるポリイソシアネートは、一般にポリウレタンの製造に使用できるものは全て使用可能である。具体的には、トルエンジイソシアネート(例えば、2,4−トルエンジイソシアネート及び2,6−トルエンジイソシアネート)、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート又はこれらを反応して得られる誘導体、或いはテトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト(例えば1,6−ヘキサンジイソシアネート)、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート又はこれらを反応して得られる誘導体、また或いはイソホロンジイソシアネート、水添化トリレンジイソシアネート、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート又はこれらを反応して得られる誘導体、さらにこれらの混合物等の有機ジイソシアネート又はこれらを反応して得られる誘導体が好ましい。なお、上記誘導体は、前記熱解離性結合を1種又は2種以上含んでいてもよい。
また、熱加工性又は粘着特性をコントロールすることなどを目的に、必要に応じて、上記の原料として用いられるポリイソシアネートで、熱解離性結合を含んでいないものを、(A’)のポリイソシアネートと併用してもよい。その量は、熱加工性の観点から、前記化合物(B’)に対して0〜0.75当量が好ましい。このような熱解離結合を含んでいないポリイソシアネートの量を増加させると、加工時に熱解離する部分が減少するために加工時の粘度が高くなる傾向がある。熱解離性結合と解離しない結合の比率で加工時の粘性を制御することが可能である。
前記(A’)のポリイソシアネート、あるいは前記の熱解離性結合を1種又は2種以上含む誘導体として、具体的には、市販品として、トルエンジイソシアネート2量体(ウレトジオン体)である商品名:AddlinkTT(Rhein Chemie)、ヘキサメチレンジイソシアネ−トのウレトジオン体を含む混合物である、Desmodur N3400、Desmodur XP-2840、Desmodur XP-2730(Bayer Material Science)、ヘキサメチレンジイソシアネ−トのアロファネート体を含む混合物であるDesmodur XP-2580、Desmodur XP-2714(Bayer Material Science)、タケネート D-178N(三井化学)、ヘキサメチレンジイソシアネ−トのビウレット体を含む混合物である Desmodur N100、Desmodur N3200(Bayer Material Science)、Duranate 24A-100(旭化成ケミカルズ)、タケネート D-165N(三井化学)、イソホロンジイソシアネートのアロファネート体を含む混合物であるDesmodur XP2565などがある。
分解温度の点から、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト(例えば1,6−ヘキサンジイソシアネート)の2量体(ウレトジオン体)及びトルエンジイソシアネート(例えば、2,4−トルエンジイソシアネート)の2量体(ウレトジオン体)あるいはイソホロンジイソシアネートの2量体(ウレトジオン体)を含むポリイソシアネートが好ましい。
【0019】
本発明において、イソシアネート基と反応する官能基を含む化合物(B)及び(B’)は、同一又は異なっていてもよく、イソシアネート基と反応する官能基を含んでいれば特に制限されず、一般にポリウレタン樹脂の製造に使用できるものは全て使用可能である。
また、上記イソシアネート基と反応する官能基として、水酸基、アミノ基、及びカルボキシル基などの活性水素基が例示され、活性水素基としては特に水酸基が好ましい。
前記化合物(B)は、1分子中に、イソシアネート基と反応する官能基を1個以上含んでいればよいが、得られる粘着剤シートの耐熱性や耐溶剤性が向上する点から、好ましくは2個以上、より好ましくは少なくとも両末端に2個含む。
一方、前記化合物(B’)は、1分子中に、イソシアネート基と反応する官能基を、2個以上含む必要があり、少なくとも両末端に2個含むのが好ましい。
【0020】
好ましくは、前記化合物(B)及び(B’)としては、イソシアネート基と反応する官能基として活性水素基を含む活性水素基含有化合物が挙げられる。このような活性水素基含有化合物として、多価アルコール、特に飽和多価アルコールが例示される。
上記多価アルコールの炭素数は、例えば2〜20、好ましくは2〜9、より好ましくは4〜8である。上記多価アルコールは少なくとも両末端に水酸基を含んでいてもよい。具体的には、上記多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、及び1,12−ドデカンジオールなどが例示される。なお、得られる粘着剤シートの粘着性が向上する点から、高分子量のものが好ましく、特に、前記化合物(B’)は、下記に例示した高分子が好ましい。
【0021】
あるいは、前記活性水素基含有化合物、特に前記化合物(B’)として、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルポリオールを一部エステル変性したエーテルエステルポリオール、水酸基末端ポリブタジエン、水酸基末端ポリイソプレン、植物油脂系ポリオール及びアミノ基を持つポリアルキレン(例えばエチレン及びプロピレンなど)オキシドジアミンなどが例示され、耐熱性、コスト、供給面の理由から、ポリエステルポリオールが好ましい。
【0022】
前記ポリエステルポリオールとして、一般にポリウレタン系粘着剤の製造に使用できるものは全て使用可能であり、具体的には、多価カルボン酸と前記の多価アルコールとを重縮合して製造されるもの、あるいはε−カプロラクトンを開環重合したものが例示される。
上記多価カルボン酸の炭素数は4〜8が好ましい。具体的には、上記多価カルボン酸として、少なくとも両末端にカルボキシル基を含む多価カルボン酸、より具体的には、アジピン酸及びテレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸が例示される。
具体的には、DIC社のポリライトシリーズ、クラレ社のクラレポリオールPシリーズ、Fシリーズ、宇部興産社のエタナコール3000シリーズ、豊国製油社のポリエステルポリオール製品、ダイセル社のプラクセル200シリーズ、300シリーズ、日本ポリウレタン工業のニッポラン等が使用できる。前記ポリエステルポリオールとして、少なくとも、両末端にカルボキシル基を含む炭素数4〜8の多価カルボン酸と、両末端に水酸基を含む炭素数が2〜9の多価アルコールとを重縮合させて得られるもの、特に、多価カルボン酸と分岐構造を含むジオールを重縮合させて得られるものが、分岐構造を含むジオールによって柔軟な構造の粘着剤シートが得られるので、好ましい。
【0023】
前記ポリカーボネートジオールとしては、前記多価アルコール、例えば1,6−ヘキサンジオールと他のジオールとの共重合、あるいはカプロラクトン等のポリエステルとの共重合をさせて得たポリカーボネートジオールが例示される。具体的には、宇部興産社のエタナコールUH、UHC、UC、UM各シリーズ、ダイセル社のプラクセルCDシリーズ、クラレ社のクラレポリオールCシリーズ、旭化成ケミカルのデュラノールシリーズ等が使用できる。前記ポリカーボネートジオールとして、分岐構造を含むジオールとの共重合あるいはポリエステルとの共重合が柔軟な構造の粘着剤シートが得られるので、好ましい。
【0024】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、平均官能基数が2のものとして、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等を開環重合させたポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、及びこれらを共重合させたポリエーテルグリコール等のポリエーテルグリコール、また或いはこれら2の平均官能基数を持つポリオールの2種以上の混合物が好ましい。
また、上記のポリエーテルポリオールとしては、例えば、平均官能基数が3以上のものとして、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、スクロースなど活性水素基を3以上持つものを開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等を開環重合させたポリエチレンポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルポリオールなどのポリエーテルポリオール、また或いはこれら2または3以上の平均官能基数を持つポリオールの2種以上の混合物が好ましい。
具体的には、三洋化成社のサンニックスシリーズ、三井化学ポリウレタン社のアクトコールシリーズ、旭電化社のアデカーポリエーテルシリーズ、Lyondell社のAcclaimシリーズ、旭硝子社のエクセノールシリーズ、プレミノールシリーズなどが使用できる。
本発明では、前記活性水素化合物はそれぞれ単体で用いられ得るが、例えば、平均分子量、平均官能基数、モノマー単位の種類などで異なる2種以上の混合物を使用してもよい。
【0025】
前記化合物(B)及び(B’)の平均分子量は特に制限されないが、(B’)については、生成物の柔軟性の点から、5×10以上、好ましくは1×10以上、より好ましくは2×10以上であり、また、上限は特に制限されないが、原料の入手の点から、例えば、2×10以下が使える。
なお、本発明において、平均分子量は、水酸基価(OHv、単位はmgKOH/g)に基づいて、以下の式:
平均分子量=(56100/OHv)×1分子当たりの平均水酸基数
を用いて算出される。ここで、水酸基価とは、JIS K1557-1(2007年版)B法(フタル化法)に準拠して測定した値である。また、上記1分子当たりの平均水酸基数は、活性水素化合物を製造するときに原料として用いた開始剤1分子あたりの活性水素原子の数をいい、例えば、エチレングリコール及びプロピレングリコールは2であり、グリセリンおよびトリメチロールプロパンは3である。同様に、活性水素基が水酸基以外の場合の平均分子量も計算することができる。例えば、活性水素基がアミノ基の場合はアミン価から、活性水素基がカルボシキル基の場合は酸価から、それぞれ計算することができる。ここで、アミン価及び酸価は、それぞれJIS K-7237又はJIS K-1557-5に準拠して測定した値である。
【0026】
前記化合物(B)及び(B’)以外の、イソシアネート基と反応する官能基を含む化合物を本発明のポリウレタン系粘着剤の製造に使用してもよい。例えば、他のモノオールやポリオールなどの活性水素化合物を、本発明の効果を損なわない限り、使用することも可能である。このようなモノオールやポリオールなどの活性水素化合物として、アクリルモノオールやエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなど一般的なものが使用可能である。
【0027】
前記(A’)のウレタンプレポリマーとしては、前記熱解離性結合を1種又は2種以上含んでいれば特に制限されず、ポリイソシアネートと前記化合物(B’)とを、イソシアネート基が活性水素基より過剰に存在する条件下(例えば、イソシアネート基が活性水素基に対して1.5〜2.0当量)で、公知の手法にて前記熱解離性結合が形成させるように反応させることで、製造することもできる。該ポリイソシアネートは、一般にポリウレタンの製造に使用できるものは全て使用可能であり、前記(A’)のポリイソシアネートの原料として使用されるポリイソシアネートはもちろんのこと、前記(A’)のポリイソシアネートそのものも使用することができる。
好ましくは、前記(A’)のウレタンプレポリマーとしては、例えば、熱解離性結合を含む脂肪族系又は芳香族系のポリイソシアネートと、平均分子量が5×10〜2×10であり、かつ1分子中に活性水素基を2個以上含む活性水素基含有化合物とを、イソシアネート基が活性水素基より過剰に存在する条件下で反応させて得られるウレタンプレポリマーが挙げられる。
但し、上記の反応は、前記熱解離性結合を含む(A’)のウレタンプレポリマーが得られるように、ポリイソシアネート中に含まれる前記熱解離性結合が解離してイソシアネート基を生成し得ない温度未満で反応させることが好ましい。
【0028】
本発明は、前記ポリウレタン(A)と前記化合物(B)とを、前記熱解離性結合が解離してイソシアネート基を生成し得る温度(以下「熱解離温度」ともいう)以上で混合し、基材に公知の手法で塗工するなどして、ポリウレタン系粘着剤シートを製造する。本発明では、上記混合中から、シート化後においても、前記熱解離結合の解離やポリウレタン結合の形成などの反応が進行し、ポリウレタン系粘着剤層が形成される。
前記熱解離性結合の解離は赤外分光光度計によって検出可能である。本発明においては、前記ポリウレタン(A)と前記化合物(B)との混合物の熱加工性が向上し得る程度に、前記熱解離性結合が解離してイソシアネート基を生成していればよい。熱解離温度は、熱解離性結合の種類、ポリウレタン(A)1分子中の数などに応じて適宜設定し得る。例えば、ウレトジオン結合では、100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上;ビウレット結合では、160℃以上、好ましくは180℃以上;アロファネート結合では140℃以上、好ましくは160℃以上である。
熱解離温度の上限は、ポリウレタンの耐熱性の点から、200℃以下、特に190℃以下、とりわけ180℃以下が好ましい。
【0029】
また、加工(混合、塗工)時間は、前記熱解離性結合が解離してイソシアネート基が生成し得るのであれば、特に制限されず、熱解離温度、熱解離性結合の種類、ポリウレタン(A)1分子中の数、装置などに応じて適宜設定し得る。例えば、10分〜120分程度である。
【0030】
本発明のポリウレタン系粘着剤シートの製造において、加工性、粘着力と凝集力のバランスの点から、前記ポリウレタン(A)を100質量部としたときに、前記化合物(B)は、例えば1〜150質量部、好ましくは1〜100質量部、より好ましくは1.5〜100質量部、特に好ましくは2〜75質量部添加させる。
【0031】
前記ポリウレタン(A)中の熱解離して出現するイソシアネートと前記化合物(B)とのNCO/OHモル比は、ポリマー分子量を上げるために1/1が好ましいが、特性を制御させるために0.5/1〜1.2/1の範囲で変化させても良い。
【0032】
本発明におけるポリウレタン系粘着剤シートの製造は、まず、熱解離性結合を含むポリウレタン(A)を製造し、このポリウレタン(A)と、イソシアネート基と反応する官能基を含む化合物(B)とを、加熱状態で混合し、基材又は剥離シートなどに塗工するなどしてシート化し、粘着剤シートを得る工程を含む。また、フィルム製膜時に同時に粘着剤層を形成させる共押出し方式によってシート化して粘着剤シートを得る方法も採用できる。
ポリウレタン(A)の製造については、例えば、バルク重合法、溶液重合法等の通常の方法を用いることができる。溶液重合法にて用いる溶剤としては、具体的には、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、セロソルブ、カルビトール等のグリコールエーテル系溶剤、セロソルブアセテート等の酢酸グリコールエーテル系溶剤、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、更にこれらの混合溶剤が挙げられる。
好ましくは、バルク重合法などの溶剤を使用しない、実質的に無溶剤の製造方法である。溶剤を用いないため、当該溶剤を除去したり、原料溶液を調製したりする工程が不要となるので、本発明のポリウレタン系粘着剤シートを簡便に製造することができ、また環境対策にも優れている。この方法でポリウレタン(A)を製造すると、イソシアネート基と反応する官能基を含む化合物(B’)が室温で液状であり、また、ポリウレタン(A)を製造する際に使用する(A’)のポリイソシアネートが液状又は前記化合物(B’)に溶解する場合には、加熱も不要であるため、攪拌機で混合するだけで、ポリウレタン(A)を製造することも可能である。
このようにして得られたポリウレタン(A)と化合物(B)を加熱状態で混合し、シート状に塗工することなどにより本発明の粘着剤シートを得ることができる。
上記の実質的に無溶剤の製造方法とは、最終生成物に含まれる残留溶剤の濃度が5ppm未満、より好ましくは1ppm未満になる製造方法のことをいう。
【0033】
本発明におけるポリウレタン系粘着剤シートを製造する際には、必要に応じて触媒及び添加剤等を用いることができる。触媒としては、含窒素化合物、有機金属触媒等一般的なウレタン化触媒が挙げられる。含窒素化合物としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等、有機金属触媒としては、ジアルキル錫化合物{例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキソエート)}、カルボン酸金属触媒(例えば、オクチル酸錫、ステアリン酸錫)等が挙げられる。触媒の使用により、ポリウレタン(A)を製造する際の反応速度を増加させたり、ポリウレタン(A)中に含まれる熱解離性結合の解離温度を変化させたりすることが可能となる。添加剤としては、例えば、置換ベンゾトリアゾール類等の紫外線吸収剤、フェノール誘導体等の酸化防止剤、及び加水分解防止剤等が挙げられる。
【0034】
また、凝集力向上のために、前記化合物(B)と併用して、3官能以上の官能基を持つ化合物、例えば、3−メチル−1,5−ペンタ−ジオール、トリメチロールプロパン、及びアジピン酸を反応させて得たポリエステルポリオールを添加してもよい。
【0035】
本発明では、前記熱解離結合の数、ならびに前記ポリウレタン(A)及び前記化合物(B)の種類及び配合比等を自由に変更することができ、それによって、得られる粘着剤シートの粘着特性を容易に調整することができる。既存の溶剤型のポリウレタン系粘着剤シートがあれば、それをモデルとして、本発明の粘着剤シートを設計することもできる。
【0036】
本発明の製造方法によれば、ポリウレタン系粘着剤中の残留溶剤の濃度が5ppm未満、好ましくは1ppm未満であり、G’の平坦領域が−20〜170℃、好ましくは0〜150℃であるポリウレタン系粘着剤を含む、粘着剤シートを得ることができる。本発明はこのような粘着剤シートにも関する。
【0037】
本発明は前記ポリウレタン(A)にも関する。本発明は、特に、前記ポリイソシアネート又はウレタンプレポリマー(A’)と、前記活性水素基含有化合物とを反応させて得られる、ポリウレタン(A)であって;前記活性水素基含有化合物が、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリエーテルポリオール、及び水酸基末端ポリブタジエンのうちのいずれかを含み、かつ前記活性水素基含有化合物の平均分子量が5×10以上である、ポリウレタン(A)にも関する。
【0038】
本発明は、前記ポリウレタン(A)の粘着剤製造用途にも関する。
すなわち、本発明は、ポリウレタン系粘着剤の製造のための、特に本発明の製造のための、前記ポリウレタン(A)の使用、あるいは前記ポリイソシアネート又はウレタンプレポリマー(A’)と前記化合物(B’)の使用にも関する。
【0039】
本発明は、さらに、前記ポリウレタン(A)を含有する、あるいは前記ポリイソシアネート又はウレタンプレポリマー(A’)と前記化合物(B’)とを含有する、ポリウレタン系粘着剤製造用組成物、特に本発明の製造用組成物にも関する。
上記ポリウレタン系粘着剤製造用組成物には、前記ポリウレタン(A)、前記ポリイソシアネート又はウレタンプレポリマー(A’)、及び前記化合物(B’)以外にも、任意の成分、例えば、本発明のポリウレタン系粘着剤シートの製造に使用される、前記の触媒又は添加剤等を含むことができる。
【0040】
本発明の製造方法によれば、粘着付与剤樹脂及びオイル成分を実質的に含まず、かつポリウレタン系粘着剤中の残留溶剤が5ppm未満、好ましくは1ppm未満であるポリウレタン系粘着剤を含む粘着シートを得ることができる。本発明はこのような粘着剤シートにも関する。
【0041】
前記の粘着付与剤樹脂及びオイル成分は、一般に粘着剤の製造に使用できるものは全て使用可能であり、具体的には、粘着付与剤樹脂として、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等からなる天然樹脂系の他、石油樹脂系や、アルキルフェノール樹脂、クロマンインデン樹脂を含むその他樹脂からなる合成樹脂系が例示され、オイル成分としてプロセスオイル、エキステンダーオイル等の石油系や液状ポリイソブチレン、液状ポリブテン、液状ポリイソプレン等の液状ゴム、二塩基酸エステル系等の合成可塑剤が例示される。なお、上記「実質的に含まず」というのは、粘着付与剤樹脂及びオイル成分がその添加目的の機能・効果を発揮し得ない程度の量を意味し、通常、粘着付与剤樹脂については1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、オイル成分については1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0042】
本発明の粘着剤シートの製造に使用される前記ポリウレタン(A)と前記化合物(B)との混合物は、160℃での溶融粘度が、特に制限されないが、好ましくは1×10〜1×10センチポイズ、より好ましくは1×10〜1×10センチポイズの範囲である。1×10〜1×10センチポイズの範囲はホットメルト塗工に都合がよく、1×10〜1×10センチポイズの範囲はカレンダー塗工に都合がよい。さらに粘度が高い場合においても押出機を用いることによっても塗工が可能である。当該溶融粘度は、通常、前記ポリウレタン(A)中の熱解離結合の数、前記化合物(B’)の分子量又は平均官能基数、あるいは前記ポリイソシアネート又はウレタンプレポリマー(A’)の官能基数などで、調整することができる。
【0043】
本発明の粘着剤シートのポリウレタン系粘着剤は、良好な粘着機能を発揮する上で、室温(25℃)での貯蔵弾性率が10dyn/cm以下であることが好ましい。当該貯蔵弾性率の下限は特に制限はないが、10dyn/cmが例示される。当該貯蔵弾性率は、通常、活性水素化合物の構造や平均分子量、ポリイソシアネートの構造や平均分子量、あるいはNCO/OH比をコントロールすることで、調整することができる。
【0044】
また、本発明の粘着剤シートのポリウレタン系粘着剤は、良好な粘着機能を発揮する上で、ガラス転移点が0℃以下であることが好ましく、より好ましくは−20℃以下である。当該ガラス転移点の下限は特に制限されないが、−60℃が例示される。当該ガラス転移点は、通常、活性水素化合物の構造や平均分子量、ポリイソシアネートの構造や平均分子量、あるいはNCO/OH比をコントロールすることで、調整することができる。
【0045】
本発明の粘着剤シートは、シート状はもちろんのこと、フィルム状、ラップ状、板状、帯状、テープ状などの形態をも含み得るものと理解されるべきである。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を用いて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例中の部及び%は、原則として、それぞれ質量部及び質量%を示す。
【0047】
1.原料
以下で使用した原料及びその使用量は表1及び2に示した。なお、使用量は部で表している。また、表1及び2に示した原料は以下のとおりである。
A1:HDI系ポリイソシアネート、ウレトジオン含有、Bayer Material Science社製、商品名Desmodur N-3400;
A2:HDI系ポリイソシアネート、ビウレット含有、旭化成ケミカルズ(株)製、商品名Duranate 24A-100;
A3:HDI系ポリイソシアネート、アロファネート含有、三井化学(株)製、商品名タケネート D-178L;
A4:TDI系ポリイソシアネート、ウレトジオン含有、Rhein Chemie社製、商品名addlinkTT;
A5:HDI系ポリイソシアネート、イソシアヌレート体、Bayer Material Science_社製、商品名Desmodur N-3300;
A6:ヘキサメチレンジイソシアネート;
B1:1,6−ヘキサンジオール
B2:1,12−ドデカンジオール
B3:3−メチル−1,5−ペンタ−ジオールとアジピン酸を反応させて得たポリエステルポリオール、平均分子量:6000、(株)クラレ製、商品名クラレポリオールP-6010;
B4:3−メチル−1,5−ペンタ−ジオールとアジピン酸を反応させて得たポリエステルポリオール、平均分子量:2000、(株)クラレ製、商品名クラレポリオールP-2010;
B5:3−メチル−1,5−ペンタ−ジオールとテレフタル酸を反応させて得たポリエステルポリオール、平均分子量:2000、(株)クラレ製、商品名クラレポリオールP-2020;
B6:iNDとアジピン酸を反応させて得たポリエステルポリオール、平均分子量:5000、豊国製油(株)製、商品名HS2N-521A;
B7:プロピレングリコールとセバシン酸を反応させて得たポリエステルポリオール、平均分子量:8000、豊国製油(株)製、商品名HSPP-830S;
B8:1,6−ヘキサンジオールとカプロラクトンを反応させて得たポリカーボネートジオール、平均分子量:2000、宇部興産(株)製、商品名ETERNACOLL UHC50-200:
B9:テトラヒドロフランとネオペンチルグリコールを反応させて得たポリエーテルポリオール、平均分子量:1860、旭化成せんい(株)製、商品名PTXG;
B10:水酸基末端ポリブタジエン、平均分子量:3000、Cray Valley社製、商品名KRASOL LBH-3000;
B11:3−メチル−1,5−ペンタ−ジオール、トリメチロールプロパン、及びアジピン酸を反応させて得たポリエステルポリオール、平均分子量:3000、(株)クラレ製、商品名クラレポリオールF-3010;
【0048】
2.熱解離性結合含有ポリウレタンの調製
表1〜3に示したイソシアネート(A’)及び任意に添加されたA6と化合物(B’)とを、NCO/OHモル比が1.0/1.0になるように、攪拌装置にて攪拌して混合し、混合物を60℃で加熱することにより、熱解離性結合含有ポリウレタン(A)を調製した。反応の終了は赤外分光光度計にてイソシアネートの吸収がなくなった時点とした。
また、得られたポリウレタン(A)の粘着性を、文献(日本粘着テープ工業会、粘着ハンドブック編集委員会編「粘着ハンドブック 第3版」243頁、2005年10月1日発行)記載の方法で、当該ポリウレタン(A)に瞬間的に当てた親指に対するポリウレタン(A)の親指へのつきを官能評価した(指タック法;◎:指に対してタックがない、〇:非常に微小なタック感がある、△:微小なタックがある、×:明らかなタックがある)。結果を表1〜3に示した。
【0049】
3.ポリウレタン系粘着剤シートの調製
上記で得られた熱解離性結合含有ポリウレタン(A)100質量部に化合物(B)を、表1〜3に示すとおりに、加熱混合して、ポリウレタン系粘着剤を調製し、熱プレス機で剥離紙上にシート化し、PETフィルム(厚さ25μm)をラミネートし、23℃雰囲気下で5日間以上熟成して、実施例1〜17を作製した。一方、比較例1は加熱攪拌を行っても軟化が起こらないため均一な配合物を得ることができず、また熱プレスを行ってもシート状成型物を得ることが出来ないので、粘着剤シートを作製することができなかった。
なお、上記ポリウレタン(A)は、熱解離性結合が100%解離した場合に発生するイソシアネート基が上記化合物(B)の水酸基に対して1当量の比になるように添加した。
ただし、A1、A2、及びA3については、その熱解離性結合の量は推定値である。
【0050】
比較例2
以下の手順に従い、2液硬化型ウレタン粘着剤シートの作製も試みた。
先ず、A6とプロピレングリコール(Mw:2000)とを、当量が1/1になるように2液混合ポンプにより均一混合し、その混合液をナイフコータに投入して、上記の粘着剤シートの調製と同様に、剥離紙上に厚み300μmになるように塗布したが、剥離紙上で塗布液のはじきが部分的に生じた。混合速度を調整しても粘度の管理が困難で、均一な塗布層を得ることができなかった。
【0051】
4.熱加工性の評価
上記の粘着剤シートの調製における、加工適性を定性的に評価した(◎:160℃の熱で液状化し、良好にシート化可能、〇:160℃の熱で液状化しないものの、良好にシート化可能、△:シートの平滑性に難あるがシート化は可能、×シート化できない)。結果を表1〜3に示した。
【0052】
5.赤外吸収スペクトルの測定
A1とB3を、前記の熱解離性結合含有ポリウレタンの調製と同様に反応させて、熱解離性結合含有ポリウレタンを得た。当該ポリウレタンの赤外吸収スペクトルを測定したところ、ウレトジオン結合の吸収(1767cm−1)が認められた(図1)。次に、当該ポリウレタンを160℃、30分加熱したところ、イソシアネート基の吸収(2270cm−1)が認められる一方、ウレトジオン結合の吸収(1767cm−1)が消失していた(図2)。さらに、当該加熱後のポリウレタンとB1を、前記のポリウレタン系粘着剤シートの調製と同様に反応させて粘着剤シートを得た。当該粘着剤シートの赤外吸収スペクトルを測定したところ、イソシアネート基の吸収(2270cm−1)とウレトジオン結合の吸収(1767cm−1)が消失しており、反応の進行が確認できた(図3)。
また、A4とB3を前記の熱解離性結合含有ポリウレタンの調製と同様に反応させて、熱解離性結合含有ポリウレタンを得た。当該ポリウレタンの赤外吸収スペクトルを測定したところ、イソシアネート基の吸収(2270cm−1)はなく、ウレトジオン結合の吸収(1781cm−1)が認められた(図4)。次に当該ポリウレタンとB4を、前記のポリウレタン形粘着剤シートの調製と同様に反応させて粘着剤シートを得た。当該粘着剤シートの赤外吸収スペクトルを測定したところ、イソシアネート基の吸収(2270cm−1)とウレトジオン結合の吸収(1781cm−1)が消失しており、反応の進行が認められた(図5)。
このように、熱加工前の熱解離性結合含有ポリウレタン(A)と、熱加工後に得られた粘着剤シートの赤外吸収スペクトルとを比較すると、熱解離性結合に由来するピークが熱加工により消失しており、加熱時の性状変化(低粘度化)と加工後の凝集力向上とあわせて、結合の解離、及び解離して発生したイソシアネート基と化合物(B)との反応が行われたことが推察される。
【0053】
6.粘着特性の測定
上記で製造された粘着剤シートについて、その粘着特性等を下記に示す試験で測定した。結果を表1〜3に示した。
【0054】
(1) 試験片の作製
前記で得られた実施例1〜17及び比較例1の粘着剤シートについて、対SUS粘着力、プローブタック、及び保持力の測定のために、基材のMD方向がサンプルの長辺となるように、幅12mm×長さ75mmにカットして、試験片を作成した。
(2) 対SUS粘着力
JIS Z−0237に従い、23℃、50%RH雰囲気下でSUS304鋼板に12mm幅の試験片を貼付、圧着装置を用い、2kgのゴムロールで300mm/minの速度で1往復圧着し、20分間放置後、剥離速度300mm/minで180°剥離力を測定した(3検体の平均値)。
(3) プローブタック
ASTM D−2979に準じ、23℃、50%RH雰囲気下でNSプローブタックテスター(ニチバン(株)社製)を用いて、直径5mmのプローブ、押圧0.98N/cm、接触時間1秒、剥離速度10mm/secの条件で測定した(3検体の平均値)。
(4) 保持力
JIS Z−0237に従って、23℃、50%RH雰囲気下でガラス板に12mm×20mmの面積となるように貼付し、2kgのゴムロールで300mm/分の速度で1往復圧着した。20分放置後、貼付材が垂直に垂れ下がるように吊るし、0.5kgの荷重を加えて、60分後のズレ長さ(mm)あるいは落下時間を測定した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表1〜3から、本発明の粘着剤シートは、特に粘着付与剤樹脂などの低分子量成分を含まなくても十分な粘着特性を有することが認められた。
また、実施例9と10との比較から明らかなように、(B)として3官能以上の官能基を持つ化合物(B11)を添加することにより架橋度を調整することが可能なため、耐候性、耐溶剤性に優れた粘着剤シートを得ることが可能である。
さらに、表3に示すように、熱解離結合のないイソシアネート化合物を添加しても、十分な熱加工性を有する粘着剤シートが得られる。
熱加工性が「◎」である実施例8及び11〜15はホットメルト塗工が容易であった。残りの熱加工性が「○」又は「△」である実施例はホットメルト塗工が困難であったが、カレンダー塗工が容易であった。
【0059】
7.動的粘弾性の測定
実施例1の動的粘弾性を、Anton Paar社製MCR-301を用い、20mmΦのパラレルプレートを使用し、ひずみは振り角0.05%、周波数1Hzとし、−80〜200℃までの温度分散測定で調べた。得られた動的粘弾性チャートによると、G’の平坦領域が170℃付近まで伸びており、スチレン系熱可塑性エラストマーを主原料とした粘着剤(100℃付近からG’が低下している)と比較して耐熱性が高いことが期待される(図6及び7)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によると、凝集力ドメインの可逆的な加熱溶融によらない新しい機構の無溶剤、熱加工可能な粘着剤シートの製造が可能となる。また、本発明の粘着剤シートは優れた耐熱性を有する。さらに、本発明の粘着剤シートは粘着付与剤樹脂やオイル成分などの低分子量成分を含まなくても十分な粘着特性を呈することができ、また、化合物(B)として前記3官能以上の官能基を持つ化合物などを添加することにより架橋度を調整することも可能なため、耐候性、耐溶剤性に優れた粘着剤シートを得ることもできる。
本発明の方法により、従来の熱溶融タイプの粘着剤では適応が困難であった耐熱性、耐候性、耐溶剤性が必要であった用途に脱溶剤型の粘着剤を適応することが可能となる。
また、本発明のポリウレタン(A)は粘着剤の製造原料として使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7