(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルの外観図である。この図に示す油圧ショベルは、ブーム1a、アーム1b及びバケット1cを有する多関節型のフロント作業装置1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eを有する車体1Bを備えている。
【0014】
ブーム1aは、上部旋回体1dに回動可能に支持されており、油圧シリンダ(ブームシリンダ)3aにより駆動される。アーム1bは、ブーム1aに回動可能に支持されており、油圧シリンダ(アームシリンダ)3bにより駆動される。バケット1cは、アーム1bに回動可能に支持されており、油圧シリンダ(バケットシリンダ)3cにより駆動される。上部旋回体1dは電動機(旋回モータ)16(
図2参照)により旋回駆動され、下部走行体1eは左右の油圧モータ(走行モータ)3e,3fにより駆動される。油圧シリンダ3a、油圧シリンダ3b、油圧シリンダ3c及び油圧モータ3e,3fは、可変容量形油圧ポンプ6(
図2参照)によってタンク8(
図2参照)から汲み上げられる圧油によって駆動される。
【0015】
図2は
図1に示したハイブリッド式油圧ショベルにおけるアクチュエータ駆動制御システムの概略構成図である。なお、先の図に示した部分と同じ部分には同じ符号を付して説明は適宜省略することがある(後の図についても同様に扱うものとする)。
【0016】
この図に示すアクチュエータ駆動制御システムは、エンジン7と、エンジン7との間でトルクの伝達を行うアシスト電動機(電動発電機)10と、エンジン7及びアシスト電動機10の少なくとも一方によって駆動される可変容量形油圧ポンプ6(以下、単に「油圧ポンプ6」と称することがある)と、油圧ポンプ6から吐出される圧油によって駆動される油圧アクチュエータ(例えば、
図1に示した油圧シリンダ3a,3b,3c、油圧モータ3e,3f)と、油圧ポンプ6の容量を調節して吸収トルクを制御するためレギュレータ(ポンプ制御部)6aと、アシスト電動機10及び旋回電動機16等に供給される電力が蓄えられるバッテリ(蓄電装置)15と、アシスト電動機10の制御とともに、アシスト電動機10とバッテリ15間での電力の授受を制御するためのインバータ(電力変換装置)12と、旋回電動機16の制御とともに、旋回電動機16とバッテリ15間での電力の授受を制御するためのインバータ(電力変換装置)13と、油圧アクチュエータ及び旋回電動機16を駆動するための操作信号を操作量に基づいて出力する操作レバー(操作装置)4a,4bと、エンジン7の燃料噴射量を調整するガバナ7aと、エンジン7の実回転数を検出する回転数センサ(実回転数検出手段)19と、エンジン7の回転数制御を出力によって行うエンジンコントローラ14と、アシスト電動機10及び旋回電動機16のトルク制御および油圧ポンプ6の容量制御等を出力によって行う車体コントローラ11と、バッテリ15の充放電制御を出力によって行うバッテリコントローラ20とを備えている。
【0017】
ブーム1a、アーム1b、バケット1c、上部旋回体1dの動作は操作レバー4a,4bの油圧操作信号(制御パイロット圧力)により指示され、下部走行体1eの動作は図示しない走行用の操作ペダル装置の油圧操作信号(制御パイロット圧力)により指示される。
【0018】
操作レバー装置4a,4bは、パイロットポンプ(図示せず)の吐出油により生成された1次圧を操作レバー装置4a,4bに備えられる減圧弁(リモコン弁)(図示せず)の操作開度に応じて2次圧に減圧して制御パイロット圧力(油圧操作信号)を生成する。シャトル弁ブロック9は、2つの操作レバー4a,4bが生成する油圧操作信号(制御パイロット圧力)のうち最も圧力の高いものを操作レバー4a,4bごとに選択して出力する。なお、旋回操作を指示する油圧操作信号は、圧力センサ18で検出するため、シャトル弁ブロック9から出力する油圧操作信号からは除外するものとする。
【0019】
シャトル弁ブロック9から出力された制御パイロット圧力は、方向切換弁5の受圧部に送られ、方向切換弁5が図示の中立位置から切り換えられる。方向切換弁5は、例えば、油圧ポンプ6からの吐出油が流れるセンタバイパスラインに配置されるオープンセンタタイプのスプール弁であり、上記の制御パイロット圧力により切り換え操作されることにより、油圧ポンプ6が吐出する圧油の流れ(方向と流量)を制御し、油圧アクチュエータ3a〜3cの駆動を制御する。油圧ポンプ6は、エンジン7および/またはアシスト電動機10の動力を利用して回転駆動される。
【0020】
油圧ポンプ6は可変容量型のポンプであり、ポジティブ制御方式のレギュレータ6aを有している。レギュレータ6aには、シャトル弁ブロック9から出力された油圧操作信号が導かれている。ポジティブ制御方式のレギュレータ6aは、公知の如く、操作レバー4a、4b及び操作ペダルの操作部材である操作レバー及びペダルの操作量(要求流量)が増加し、油圧操作信号が上昇するにしたがって油圧ポンプ6の斜板傾転角(容量)を増加させ、油圧ポンプ6の吐出流量を増加させる。
【0021】
また、レギュレータ6bは、公知の如く、油圧ポンプ6の吐出圧力が高くなるにしたがって油圧ポンプ6の傾転角(容量)を減らして、油圧ポンプ6の吸収トルクを予め設定した最大トルクを越えないように制御するトルク制限制御機能を備えている。
【0022】
アシスト電動機(電動発電機)10は、油圧ポンプ6およびエンジン7に機械的に接続されている。アシスト電動機10は、エンジン7の動力を電気エネルギ(電力)に変換してインバータ12に出力する発電機としての機能と、インバータ12から供給される電気エネルギ(電力)により駆動され、油圧ポンプ6をアシスト駆動する電動機としての機能を有している。
【0023】
インバータ12は、アシスト電動機10が発電機として機能するときは、アシスト電動機10で生成した交流電力を直流電力に変換して出力し、アシスト電動機10が電動機として機能するときは、バッテリ15からの直流電力を交流電力に変換してアシスト電動機10に供給する。
【0024】
インバータ13は、アシスト電動機10が生成しインバータ12が出力した直流電力を交流に電力に変換して旋回電動機16に供給する。旋回電動機16は上部旋回体1dを駆動する。また、インバータ13は、旋回制動時に旋回電動機16が発電機として機能して回生した交流電力を直流電力に変換して出力する。
【0025】
バッテリ15は、インバータ12,13に電力を供給したり、アシスト電動機10が発生した電気エネルギや旋回電動機16からの電気エネルギを蓄えたりする。バッテリコントローラ20は、センサを介してバッテリ15の電圧や電流を検出し、バッテリ15に蓄えられている電気エネルギの量、いわゆる蓄電残量(SOC)を推定し、当該推定値を車体コントローラ11に出力する機能を有する。
【0026】
エンジンコントローラ(エンジン制御装置)14は、車体コントローラ11からの目標回転速度と、回転数センサ19が検出するエンジン7の実回転速度の偏差を演算し、この回転速度偏差に基づいて目標燃料噴射量を演算し、対応する制御信号をエンジン7に備えられる電子ガバナ7aに出力する。電子ガバナ7aはその制御信号により作動して目標燃料噴射量相当の燃料を噴射しエンジン7に供給する。これによりエンジン7の回転数は目標回転速度に維持されるように制御される。
【0027】
車体コントローラ11からエンジンコントローラ14に出力される目標回転数は、オペレータからエンジン7の目標回転数が選択的に入力される入力装置(目標回転数入力装置)であるエンジンコントロールダイヤル(ECダイヤル)31からの出力に基づいて決定されている。ただし、車体コントローラ11からエンジンコントローラ14に出力される目標回転数は、車体コントローラ11が、油圧ショベルの状態(例えば、エンジン7の冷却水温度やエンジン7の負荷等)を考慮してECダイヤル31で選択された目標回転数から適宜変更する場合がある。いずれにしても、車体コントローラ11が、ECダイヤル31をはじめとするオペレータによる指示と油圧ショベルの状態にもとづいて目標回転数を設定し、エンジンコントローラ14がその回転数になるように電子ガバナ7aに目標となる燃料噴射量の指令信号を送る。
【0028】
車体コントローラ11は、制御演算回路を有しており、この制御演算回路においてアシスト電動機10、旋回電動機16に係る下記(1)〜(3)の制御を行う。
【0029】
(1)旋回電動機16の駆動制御
圧力センサ18は、操作レバー4bが生成する油圧操作信号のうち左右方向の旋回操作(すなわち、旋回電動機16の操作)を指示する油圧操作信号が通過するパイロット油路に設置されており、その油圧操作信号を検出する。車体コントローラ11は、圧力センサ18の検出信号(電気信号)を入力し、検出した油圧操作信号に応じて旋回電動機16の駆動制御を行う。具体的には、左方向の旋回操作を指示する油圧操作信号を検出したときは、その油圧操作信号に基づいてインバータ13を制御して旋回電動機16を駆動する力行制御を行い、油圧操作信号に対応した速度で上部旋回体1dが左旋回するように旋回電動機16を作動させる。一方、右方向の旋回操作を指示する油圧操作信号を検出したときは、その油圧操作信号に基づいてインバータ13を制御して旋回電動機16を駆動する力行制御を行い、油圧操作信号に対応した速度で上部旋回体1dが右旋回するように旋回電動機16を作動させる。
【0030】
なお、操作レバー4bによる旋回電動機16の上記の駆動制御に際して、車体コントローラ11は、旋回要求速度、バッテリ15の蓄電残量(SOC)および油圧ポンプ6の負荷等を参照しながら、圧力センサ18の検出した油圧操作信号に基づいてインバータ12を制御してアシスト電動機10を発電機として動作させる発電制御を行うことがある。例えば、旋回要求速度が相対的に大きい場合には、旋回電動機16の駆動制御とともにアシスト電動機10の発電制御を実行し、旋回要求速度が相対的に小さい場合には旋回電動機16の駆動制御のみを実行して発電制御は実行しない。
【0031】
(2)回収電力の蓄電制御
また、車体コントローラ11は、上部旋回体1dの制動時(旋回制動時)にインバータ13を制御して旋回電動機16を発電機として動作させる発電制御を行い、旋回電動機16から電気エネルギを回収するとともに、回収した電気エネルギをバッテリ15に蓄える制御を行う。
【0032】
(3)アシスト電動機10の制御(バッテリ15の蓄電管理制御)
また、車体コントローラ11は、油圧ポンプ6の油圧負荷(ポンプ吸収トルク)が軽くかつ、バッテリコントローラ20によって検出されるバッテリ15の蓄電残量が少ないときは、インバータ12を制御してアシスト電動機10を発電機として動作させる発電制御を行い、余剰の電力を発生させるとともに、発生した余剰電力をバッテリ15に蓄える制御を行う。逆に、油圧ポンプ6の油圧負荷(ポンプ吸収トルク)が重くかつ、バッテリコントローラ20によって検出される、バッテリ15の蓄電残量が所定量以上あるときは、インバータ12を制御してアシスト電動機10にバッテリ15の電力を供給してアシスト電動機10を電動機として動作させる力行制御を行い、油圧ポンプ6をアシスト駆動する。
【0033】
ところで、エンジン7の入力を時間当たりの燃料の熱エネルギとしたとき、当該入力から駆動対象(油圧ポンプ6およびアシスト電動機10)を回転駆動するために取り出せるエネルギ(エンジン動力X)と、当該駆動対象の回転駆動には利用できないエネルギ(エネルギ損失Y)との関係は、一般的に
図3の実線となる。ここでは、
図3の実線におけるエンジン動力の増加に対するエネルギ損失の増加割合(X/Y)の大きさに基づいて、
図3のグラフを2つの領域に区分し、当該2つの領域の境界値となるエンジン動力の値を「発電しきい値E
th1」と称する。本実施の形態では、
図3の実線に対する近似直線を2つ設定し(低エンジン動力側の領域(低動力域)における近似式をY=α1X+β1とし、高エンジン動力側の領域(高動力域)における近似式をY=α2X+β2とする(α1,α2,β1,β2は定数であり、α1<α2かつβ1>β2))、当該2つの近似直線の交点を発電しきい値E
th1として予め設定している。
【0034】
図3において、発電しきい値E
th1によって区分される2つの領域のうち発電しきい値E
th1よりも低動力側の領域(低動力域)では、傾きが相対的に小さい近似直線(Y=α1X+β1)が設定されていることからも分かるように、エネルギ損失の増加割合が相対的に小さくなっている(α1<α2)。一方、発電しきい値E
th1よりも高動力側の領域(高動力域)では、傾きが相対的に大きい近似直線(Y=α2X+β2)が設定されていることからも分かるように、エネルギ損失の増加割合が大きくなっている(α1<α2)。すなわち、発電しきい値E
th1は、E
th1未満の範囲でエンジン動力を所定の値だけ増加したときのエネルギ損失増加割合が、E
th1を超える範囲でエンジン動力を当該所定の値だけ増加したときのエネルギ損失増加割合よりも小さくなるように選択されている。また、高動力域では、エンジン動力とエネルギ損失との関係はほぼ線形で、エンジン動力とエネルギ損失との和が入力であるので、入力に対するエンジン動力の割合である効率はほぼ一定になる。一方、低動力域では、動力が小さいほど効率が低下することになる。なお、ここでは、2つの近似直線の交点を発電しきい値E
th1としたが、発電しきい値E
th1は他の値としても良い。例えば、
図3において、実線が低動力域の近似直線(Y=α1X+β1)から乖離し始めるエンジン動力値(e1)から、実線が高動力域の近似直線(Y=α2X+β2)に一致するエンジン動力値(e2)までの範囲に含まれる値から、任意に選択した値を発電しきい値E
th1としても良い。また、アシスト電動機10の発電許可範囲が狭くなるが、発電しきい値E
th1をエンジン動力値(e1)以下の低動力域に設定することも可能である。
【0035】
図3に示す特性は、油圧ショベルをはじめとする作業機械に使われるディーゼルエンジンにおいて一般的であり、通常、定格付近の動力の大きな領域(高動力の領域)において、EGR(排気再循環)、空燃費およびターボチャージャに関するハードウェアおよびソフトウェアを調整することで、所望の燃費や動力を実現して、上記のようにエネルギ損失はほぼ線形になっている。しかし、それと同時に低動力の領域においても高動力の領域と同様の特性を実現するのは難しく、特に、動力が0のアイドル運転でもエンジンは燃料を消費するため、エネルギ損失は0にはならない。結果として多くのエンジンでは、
図3に示したように、所定の動力値を境界にして動力と損失の関係が区分的に変化することになる。
【0036】
ところで、アシスト電動機10を発電機として動作させる発電制御を行ってバッテリ15を充電するとき、エンジン7は、油圧ポンプ6に加えてアシスト電動機10を駆動する。
図3によれば、この場合にも、エンジン7の動力によって損失が異なることになる。例えば、油圧ポンプ6の油圧負荷(吸収動力)が低動力域に存在するX1(図示せず)のときに、さらに発電のためΔX(図示せず)が追加されたとき、エネルギ損失は、発電の前後で、
図3の低動力域の近似直線:Y=α1X+β1から、α1ΔX増加することが分かる。一方、油圧ポンプ6の油圧負荷(吸収動力)が高動力域に存在するX2(図示せず)のとき、さらに発電のためΔXが追加されたとき、エネルギ損失は、
図3の高動力域の近似直線:Y=α2X+β2から、α2ΔX増加することが分かる。α1<α2より、同じΔXの発電をするときに増加するエネルギ損失は、油圧ポンプ6の油圧負荷が低動力域に存在するX1のときの方が、高動力域に存在するX2のときよりも(α2−α1)ΔXだけ少なくなる。
【0037】
エネルギ損失の増加は、そのままエンジンへの入力の増加に繋がる。入力は燃料(の発熱量)に対応するので、発電量に対して損失の増加が少ないほど、発電の燃費への影響が少ないことになる。したがって、
図3の特性を持つエンジン7では、バッテリ15を充電するときは、エンジンの動力が発電しきい値E
th1以下のときに発電した方が、それ以上の動力の大きなときに発電するより、燃費がよくなるはずである。
【0038】
また、上記(2)の回収電力の蓄電制御では、充電ができるのは旋回制動時であるので、充電のタイミングは旋回の動作によって決まるが、上記(3)の蓄電管理制御では、油圧ポンプ6の油圧負荷(吸収動力)が、エンジンの最大動力より小さいときならいつでも充電が可能である。したがって、上記(3)の蓄電管理制御で、
図3のエンジン7の特性を考慮して、エンジンの動力が比較的小さいときに選択的に充電し、エンジンの動力が比較的大きいときは充電を抑制することによって、作業機械の燃費の向上が可能になる。
【0039】
図4は、アシスト電動機10による発電時において
図2のアクチュエータ駆動制御システム内で入出力される動力を示す図である。この図に示すように、
図2のシステムは、アシスト電動機10による発電時において、エンジン7が出力する動力(エンジン動力:Pe)は、油圧ポンプ6を回転させる動力(ポンプ吸収動力:Pp)と、発電時にアシスト電動機10を回転させる動力(発電動力:Pa)として利用される。すなわち、「Pe=Pp+Pa」が成立する。
【0040】
上記のことを利用して、燃費を考慮した、バッテリ15の充電方法を説明する。
図5は、車体コントローラ11が実行する上記(3)の蓄電管理制御のうち、アシスト電動機10によるバッテリ15の充電アルゴリズムを示す第1のフローチャートであり、当該フローチャートは周期的に繰り返して実行される。
【0041】
まず、車体コントローラ11は、ステップS10において、油圧ポンプ6およびアシスト電動機10からエンジン7に要求されるエンジン動力Peを推定する。車体コントローラ11によるエンジン動力Peの推定方法としては例えば次の(A)〜(C)の3つがある。
【0042】
(A)エンジンコントローラ14の出力を利用する方法
前述のように、エンジンコントローラ14では、エンジン7の目標燃料噴射量が演算される。一般的に、エンジンの燃料噴射量は、エンジンのトルクにほぼ対応することが知られており、燃料噴射量とトルクの関係を示すマップが利用されている。そこで当該マップを参照し、エンジンコントローラ14で演算された目標燃料噴射量からエンジン7のトルクを推定する。このように推定されたトルクと、回転数センサ19から入力される回転数をエンジンコントローラ14から車体コントローラ11に出力し、車体コントローラ11でトルクと回転数の積を演算することによりエンジン動力Peの推定値が算出できる。
【0043】
(B)油圧ポンプ6の吸収動力Ppとアシスト電動機10の要求発電動力Pa*の和から推定する方法
この方法を説明するにあたって、まず油圧ポンプ6の吸収動力Ppの推定方法について説明するが、その推定に際して、車体コントローラ11は、まず、油圧ポンプ6の流量を推定する。油圧ポンプ6の流量の推定値を算出するには、操作レバー4a、4bによる制御パイロット圧力を圧力センサ17,18で検出し、これらを車体コントローラ11に出力する。前述のように制御パイロット圧力は、シャトル弁ブロック9を通して、レギュレータ6aに導かれ、油圧ポンプ6の斜板傾転角(容量)を増減させる。そこで、車体コントローラ11において、制御パイロット圧力の検出値に対し、これら油圧回路の動作に対応する演算を行い、レギュレータ6aに供給される油圧操作信号を演算することで、油圧ポンプ6の流量が推定できる。そして、この流量推定値と、圧力センサ21から車体コントローラ11に出力される油圧ポンプ6の吐出圧との積を、油圧ポンプ6の効率で除することで、油圧ポンプ6の吸収動力Ppが算出できる。
【0044】
次に、アシスト電動機10の要求発電動力Pa*の演算について
図6を用いて説明する。
図6は、車体コントローラ11によるアシスト電動機10の要求発電動力Pa*の演算プロセスを示す図である。
【0045】
この図に示すように、まず、車体コントローラ11は、バッテリコントローラ20から入力したバッテリ15の蓄電残量(いわゆるSOC)に基づいて目標充電量を決定する。本実施の形態に係るバッテリ15では、主としてSOCが30〜70%の範囲で充放電するのが望ましいため、
図6の例では、SOCが30%以下の範囲で目標充電量を最大値に設定し、SOCが30〜70%の間ではSOCの増加とともに目標充電量を徐々に減少させ、SOCが70%以上の範囲で目標充電量をゼロとしている。そして、旋回電動機16による回生電力による充電を考慮して、上記の目標充電量と回生電力による充電量との差をアシスト電動機10による充電量とする。要求発電動力Pa*は、エンジン7がアシスト電動機10に供給すべき動力であるので、目標充電量と回生電力による充電量の差を、アシスト電動機10、インバータ12及びバッテリ15の充電時の効率の積で除することで演算できる。
【0046】
そして最終的に、上記のように演算した油圧ポンプ6の吸収動力Ppとアシスト電動機10の要求発電動力Pa*の和を演算することで、エンジン動力Peの推定値が算出できる。
【0047】
(C)操作レバー4a、4bの制御パイロット圧力から推定する方法
この方法では、操作レバー4a,4bの操作が行われていないと判定された場合には、油圧ショベルによる作業が行われていないと推定して、エンジン動力Peを0とみなす。一方、操作レバー4a,4bの操作が行われていると判定された場合には、何らかの作業中なのでエンジン動力Peを最大値とみなす。その際、操作レバー4a,4bの操作の有無は、圧力センサ17,18によって検出される制御パイロット圧の大小で判断することができる。当該制御パイロット圧が設定値(例えば、0.5MPa)以下の場合には、操作レバー4a,4bによる操作は行われていないと判定し、当該設定値を超えている場合には、操作レバー4a,4bによる操作が行われていると判定する。
【0048】
上記のように(A)〜(C)のいずれかの方法でS10でエンジン動力Peを推定したら、ステップS20に進み、S10で算出したエンジン動力Peが、発電しきい値E
th1より大きいか否かを判定する。ステップS20において、エンジン動力Peが発電しきい値E
th1より大きいと判定された場合には、車体コントローラ11はアシスト電動機10による発電を禁止する(ステップS30)。すなわち、アシスト電動機10に対する発電要求があっても、これを無視して発電を行わないように制御する。
【0049】
一方、S20において、エンジン動力Peが発電しきい値E
th1以下と判定された場合には、車体コントローラ11はアシスト電動機10による発電を許可する(ステップS40)。すなわち、アシスト電動機10に対する発電要求があった場合には、車体コントローラ11は、アシスト電動機10の発電動力Paとして、当該発電要求通りの動力(すなわち、要求発電動力Pa*)を供給する発電指令を、インバータ12に対して出力する。そして、ステップS30、40が終了したら、最初に戻りS10以降の処理を繰り返す。
【0050】
上記のように、本実施の形態では、アシスト電動機10に対する発電要求があったときに当該発電要求と油圧ポンプ6の作動を実現するためにエンジン7に要求される動力Peを推定し、当該エンジン動力Peが発電しきい値E
th1以下のときにのみアシスト電動機10の発電を許可している。このように発電制御を行えば、エネルギ損失の相対的に少ない低動力域(
図3参照)のみでアシスト電動機10による発電が行われ、エネルギ損失の相対的に多い高動力域(
図3参照)ではアシスト電動機10の発電を禁止できるので、バッテリ15を充電するときのエンジン7の燃料消費量を減少でき、ハイブリッド式油圧ショベルの燃費を向上することができる。
【0051】
なお、ステップS10に係るエンジン動力Peの推定に際して、上記(C)の方法を選択した場合は、操作レバー4a,4bが操作されている場合にはエンジン動力Peは発電しきい値E
th1より常に大きくなってしまうため、アシスト電動機10による充電は、操作レバー4a,4bが操作されていないとき(すなわち、作業が行われていないとき)のみに実行されることになる。
【0052】
次に本発明に係る第2の実施の形態について説明する。
図7は、車体コントローラ11が実行する蓄電管理制御のうち、アシスト電動機10によるバッテリ15の充電アルゴリズムを示す第2のフローチャートであり、当該フローチャートは周期的に繰り返して実行される。
【0053】
まず、車体コントローラ11は、ステップS11において、油圧ポンプ6の吸収動力Ppを推定する処理を行う。ポンプ吸収動力Ppは、上記エンジン動力Peの推定方法の(B)で説明した処理によって算出できる。すなわち、圧力センサ17,18で検出される操作レバー4a、4bによる制御パイロット圧力と、圧力センサ21で検出される油圧ポンプ6の吐出圧に基づいて、油圧ポンプ6の吸収動力Ppの推定値を算出する。
【0054】
次に、車体コントローラ11は、ステップS12において、アシスト電動機10の要求発電動力Pa*を演算する処理を行う。要求発電動力Pa*についても、上記エンジン動力Peの推定方法の(B)で説明した処理によって算出できる。すなわち、バッテリ15のSOCと、回生電力による充電量に基づいて、要求発電動力Pa*を算出する。
【0055】
S13では、車体コントローラ11は、S12で算出した要求発電動力Pa*がゼロより大きいか否かを判定する。要求発電動力Pa*がゼロの場合は、充電は不要なので、アシスト電動機10による発電を行わない(S14)。一方、S13において、要求発電動力Pa*がゼロより大きい場合には、ステップS20aに進む。
【0056】
ステップS20aでは、S11で算出したポンプ吸収動力Ppの推定値と、S12で算出した要求発電動力Pa*の和を算出し、その和であるエンジン動力PeがE
th1より大きいか否かを判定する。
【0057】
S20aにおいて、エンジン動力Peが発電しきい値E
th1以下と判定された場合には、車体コントローラ11は、アシスト電動機10の発電動力Paとして、発電要求通りの動力(すなわち、要求発電動力Pa*)を供給する発電指令を、インバータ12に対して出力する(ステップS40a)。
【0058】
一方、S20aにおいて、エンジン動力Peが発電しきい値E
th1より大きいと判定された場合には、S11で算出したポンプ吸収動力Ppが発電しきい値E
th1以上であるか否かを判定する(S21)。
【0059】
S21において、ポンプ吸収動力Ppが発電しきい値E
th1未満であると判定された場合には、車体コントローラ11は、アシスト電動機10の発電動力Paとして、発電しきい値E
th1からポンプ吸収動力Ppを減じた動力(すなわち、E
th1−Pp)を供給する発電指令を、インバータ12に対して出力する(ステップS22)。すなわち、この場合には、ポンプ吸収動力Ppと要求発電動力Pa*の和が発電しきい値E
th1を超えてしまうが、発電しきい値E
th1未満のポンプ吸収動力Ppは優先的に出力し、発電しきい値E
th1から当該ポンプ吸収動力Ppを減じた動力にまで発電動力Paを制限することで、実際のエンジン動力を発電しきい値E
th1にまで制限する制御が実行される。
【0060】
一方、S21において、ポンプ吸収動力Ppが発電しきい値E
th1以上であると判定された場合には、車体コントローラ11は、アシスト電動機10の発電動力Paをゼロにする発電指令をインバータ12に対して出力し、アシスト電動機10による発電を禁止する(ステップS30a)。すなわち、この場合には、ポンプ吸収動力Ppだけで発電しきい値E
th1以上に達するので、ポンプ吸収動力Ppのみをエンジン7から出力して、発電要求があっても発電動力Paは一切出力しない制御が実行される。この場合には、実際のエンジン動力は発電しきい値E
th1を超えてしまうが、当該超過分のエンジン動力は油圧ポンプ6の駆動に必要な値に抑制される。
【0061】
ステップS14、S40a、S22およびS30aの処理が終了したら、最初に戻りS11以降の処理を繰り返す。
【0062】
このように本実施の形態によっても、エネルギ損失の相対的に少ない低動力域のみでアシスト電動機10による発電が行われ、エネルギ損失の相対的に多い高動力域ではアシスト電動機10の発電を禁止できるので、バッテリ15を充電するときのエンジン7の燃料消費量を減少でき、ハイブリッド式油圧ショベルの燃費を向上することができる。特に本実施の形態では、ポンプ吸収動力Ppと要求発電動力Pa*の和が発電しきい値E
th1を超える場合であっても、ポンプ吸収動力Ppが発電しきい値E
th1以下であれば、両者の差分だけ発電が行われるので、第1の実施の形態の場合と比較して充電の機会を増加でき、蓄電残量がさらに低下することが防止できる。
【0063】
なお、本実施の形態では、ステップS22において、発電しきい値E
th1からポンプ吸収動力Ppを減じた動力(E
th1−Pp)を供給する発電指令を、インバータ12に対して出力したが、これだけに限らず、発電しきい値E
th1からポンプ吸収動力Ppを減じた動力“以下”の動力を供給する発電指令であれば良い。
【0064】
次に本発明に係る第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、発電しきい値E
thがバッテリ15のSOCに応じて変化する点に特徴がある。
図8は、車体コントローラ11が実行する蓄電管理制御のうち、アシスト電動機10によるバッテリ15の充電アルゴリズムを示す第3のフローチャートであり、当該フローチャートは周期的に繰り返して実行される。
【0065】
ステップS11からステップS14までは
図7と同じなので説明は省略する。ステップS13において要求発電動力Pa*がゼロより大きい場合には、ステップS15に進み、車体コントローラ11は、後続の処理で利用する発電しきい値E
thをSOCに基づいて演算する処理を行う。
【0066】
図9は
図8のステップS15で発電しきい値E
thの演算に利用されるマップの一例を示す図である。この図に示すマップに基づいて、車体コントローラ11は、バッテリ15のSOCから発電しきい値E
thを決定する。
【0067】
この図の例では、SOCが理想的な30%〜70%の領域では、先の各実施の形態と同様にエネルギ損失の少ないE
th1に発電しきい値を設定している。
【0068】
また、SOCが70%以上の領域では、アシスト電動機10による発電が不要なので、発電しきい値E
thをゼロに設定している。これにより、アシスト電動機10による発電は常に行われないことになる。なお、要求発電動力Pa*の算出に
図6のマップを利用した場合には、SOCが70%以上のときには要求発電動力Pa*はゼロになるので、制御間の不整合は生じないようになっている。
【0069】
さらに、SOCが30%未満の領域では、エネルギ損失が増加しても発電が必要になるので、蓄電残量の減少に応じて発電しきい値E
thが増加するように設定している(
図9の例では、SOCの減少に応じて発電しきい値はE
thMax(最大値)まで増加する。)。これによりアシスト電動機10による充電の機会が増加し、蓄電残量がさらに低下することが防止できる。
【0070】
S15で発電しきい値E
thを演算したら、ステップS20bに進む。ステップS20bでは、S11で算出したポンプ吸収動力Ppの推定値と、S12で算出した要求発電動力Pa*の和(エンジン動力Pe)が、S15で算出した発電しきい値E
thより大きいか否かを判定する。
【0071】
S20bにおいて、エンジン動力Peが発電しきい値E
th以下と判定された場合には、車体コントローラ11は、アシスト電動機10の発電動力Paとして、発電要求通りの動力(すなわち、要求発電動力Pa*)を供給する発電指令を、インバータ12に対して出力する(ステップS40a)。
【0072】
一方、S20bにおいて、エンジン動力Peが発電しきい値E
thより大きいと判定された場合には、S11で算出したポンプ吸収動力Ppが発電しきい値E
th以上であるか否かを判定する(S21b)。
【0073】
S21bにおいて、ポンプ吸収動力Ppが発電しきい値E
th未満であると判定された場合には、車体コントローラ11は、アシスト電動機10の発電動力Paとして、発電しきい値E
thからポンプ吸収動力Ppを減じた動力(すなわち、E
th−Pp)を供給する発電指令を、インバータ12に対して出力する(ステップS22b)。すなわち、この場合には、ポンプ吸収動力Ppと要求発電動力Pa*の和が発電しきい値E
thを超えてしまうが、発電しきい値E
th未満のポンプ吸収動力Ppは優先的に出力し、発電しきい値E
thから当該ポンプ吸収動力Ppを減じた動力にまで発電動力Paを制限することで、実際のエンジン動力を発電しきい値E
thに制限する制御が実行される。
【0074】
一方、S21bにおいて、ポンプ吸収動力Ppが発電しきい値E
th以上であると判定された場合には、車体コントローラ11は、アシスト電動機10の発電動力Paをゼロにする発電指令をインバータ12に対して出力し、アシスト電動機10による発電を禁止する(ステップS30a)。
【0075】
ステップS14、S40a、S22およびS30aの処理が終了したら、最初に戻りS11以降の処理を繰り返す。
【0076】
このように本実施の形態によれば、エネルギ損失の相対的に少ない低動力域で主にアシスト電動機10による発電が行われ、エネルギ損失の相対的に多い高動力域ではアシスト電動機10の発電を極力禁止できるので、バッテリ15を充電するときのエンジン7の燃料消費量を減少でき、ハイブリッド式油圧ショベルの燃費を向上することができる。特に本実施の形態では、SOCが30%未満に達した場合には、発電しきい値E
thがE
th1よりも大きい値に設定されて、エネルギ損失よりもバッテリ15の充電が優先されるので、先の各実施の形態と比較して充電の機会を増加でき、バッテリ15の蓄電残量の減少を防止することができる。
【0077】
なお、上記の各実施の形態では、作業機械としてハイブリッド式油圧ショベルの場合について説明したが、エンジンに機械的に接続された油圧ポンプ及びアシスト電動機(電動発電機)を備える作業機械であれば、油圧ショベル以外にも本発明は適用可能である。
【0078】
また、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0079】
また、上記のコントローラ11,14,20に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また、上記のコントローラ11,14,20に係る構成は、演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該制御装置の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ、SSD等)、磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク、光ディスク等)等に記憶することができる。
【0080】
また、上記の各実施の形態の説明では、制御線や情報線は、当該各実施の形態の説明に必要であると解されるものを示したが、必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。