特許第6360113号(P6360113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6360113
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】ホウ素含有化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/05 20060101AFI20180709BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180709BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C07F5/05 ZCSP
   A61P35/00
   A61K31/69
【請求項の数】15
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2016-148978(P2016-148978)
(22)【出願日】2016年7月28日
(65)【公開番号】特開2018-16590(P2018-16590A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2017年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】507288132
【氏名又は名称】ステラファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 能英
(72)【発明者】
【氏名】上原 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】切畑 光統
【審査官】 水野 浩之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/097065(WO,A1)
【文献】 特開平02−207086(JP,A)
【文献】 特開2012−153647(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/010913(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/018015(WO,A1)
【文献】 特表2009−504732(JP,A)
【文献】 特開2009−067777(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/010912(WO,A1)
【文献】 GENADY, Afaf R. , et al.,Organic & Biomolecular Chemistry,2010年10月 7日,Issue. 19,P. 4427-4435
【文献】 JUSTUS, Eugen, et al.,Collection of Czechoslovak Chemical Communications,2007年,Vol. 72, No. 12,p. 1740-1754
【文献】 YISGEDU, Teshome B. , et al.,Chemistry a European Journal,2009年 2月16日,Vol. 15, Issue. 9,p. 2190-2199
【文献】 HARFST, Sven, et al.,Journal of Chromatography A,1994年 8月26日,Vol. 678, Issue. 1,p. 41-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表わされるホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩:
【化1】
ここで、式中、黒丸はB原子を表わし、白丸は、B−Hを表わし;
-Rは、−(CH)n−X−R(nは、0〜6の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、C〜C20アルキル、ヒドロキシC〜C20アルキル、アミノC〜C20アルキル、アジドC〜C20アルキル、ヒドロキシカルボニルC〜C20アルキル、置換または無置換のフェノキシC〜C20アルキル、置換または無置換のフェニルチオウレアC〜C20アルキル、または、置換または無置換のベンジル基を表わす)、または、−(CH−O−の繰り返し配列を3回以上10回以下有しかつ酸素原子側の末端にメチル基またはエチル基を有する基を表わし
-Rは、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;
は、アミノ酸類、アミノ酸アミド、5−アミノレブリン酸、コウジ酸またはその塩、ハイドロキノンまたはその塩、レスベラトロールまたはその塩、DPA(ジメチルピラゾロピリミジンアセトアミド)型TSPO(トランスロケータープロテイン)リガンド、カフェ酸またはその塩、単糖類またはその塩、および核酸またはその構成成分またはそれらの塩からなる群より選択される腫瘍認識部位を表わす)を表し;および
Mは、単原子陽イオン、多原子陽イオン、または錯陽イオンを表す。
【請求項2】
下記式で表わされるホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩:
【化2】
ここで、式中、黒丸はB原子を表わし、白丸は、B−Hを表わし;
-Rは、−(CH)n−X−R(nは、0を表わし;Xは、不存在であり;Rは、C〜C20アルキルを表わす。)を表わし;および
Mは、単原子陽イオン、多原子陽イオン、または錯陽イオンを表す。
【請求項3】
前記-Rが、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化3】
(ここで、Rは、ヒドロキシル基またはその塩である)で示されるコウジ酸を表わす)を表わす、請求項1記載のホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項4】
前記-Rが、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rが、
【化4】
(ここで、RおよびRは、同一でも異なっていても良く、ヒドロキシル基およびその塩から選択される1つの基を表わす)を表わす)を表わす、請求項1記載のホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項5】
前記-Rが、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化5】
または
【化6】
のいずれかで表わされる化合物又はその塩を表わす)を表わす、請求項1記載のホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記-Rが、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化7】
または
【化8】
(ここで、Rが、水素、メチル、イソブチル、1-プロピル、イソプロピル、tert-ブチル、エチル、カルボニルメチル、2-カルボニルエチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシ、メルカプトメチル、メチルチオエチル、2-アミノ-2-オキソエチル、3-アミノ-3-オキソプロピル、置換または無置換のベンジル、4-ヒドロキシベンジル、3-アミノプロピル、4-アミノブチル、3-グアジニノプロピル、インドリルメチル、イミダゾールメチル、置換または無置換のフェニル、1-ヒドロキシエチル、またはパラボロノフェニルである)で表される基並びにこれらの塩の中から選ばれるいずれか1つの基である)を表わす、請求項1記載のホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項7】
前記-Rが、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化9】
または
【化10】
(ここでR10は、
【化11】
を表わす)で表される基並びにこれらの塩の中から選ばれるいずれか1つの基である)を表わす、請求項1記載のホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項8】
前記-Rが、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化12】
または
【化13】
で表される基並びにこれらの塩の中から選ばれるいずれか1つの基である)を表わす、請求項1記載のホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項9】
前記-Rが、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化14】
で表される基並びにこれらの塩の中から選ばれるいずれか1つの基である)を表わす、請求項1記載のホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項10】
前記薬学的に許容される塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩、テトラフェニルホスホニウム塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、エタールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、又はN,N'−ジベンジルエチレンジアミン塩である、請求項1〜9記載のホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項11】
【化15】
で表わされる請求項1記載のホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項12】
下記式
【化16】
黒丸:B, 白丸:B-H
(-R11は、−(CH)n−X−R(nは、0〜6の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、C〜C20アルキル、ヒドロキシC〜C20アルキル、アミノC〜C20アルキル、アジドC〜C20アルキル、ヒドロキシカルボニルC〜C20アルキル、置換または無置換のフェノキシC〜C20アルキル、置換または無置換のフェニルチオウレアC〜C20アルキル、または、置換または無置換のベンジル基を表わす)、または、−(CH−O−の繰り返し配列を3回以上10回以下有しかつ酸素原子側の末端にメチル基またはエチル基を有する基を表わす)で表わされる化合物の薬学的に許容される塩;と、
12−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、アミノ酸類、アミノ酸アミド、5−アミノレブリン酸、コウジ酸またはその塩、ハイドロキノンまたはその塩、レスベラトロールまたはその塩、DPA(ジメチルピラゾロピリミジンアセトアミド)型TSPO(トランスロケータープロテイン)リガンド、カフェ酸またはその塩、単糖類またはその塩、および核酸またはその構成成分またはそれらの塩からなる群より選択される腫瘍認識部位を表わし、R12はハロゲンを表わし、Mは、単原子陽イオン、多原子陽イオン、または錯陽イオンを表す)とを反応させる工程を含む、下記式のホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩
【化17】
Mは、単原子陽イオン、多原子陽イオン、または錯陽イオンを表す。)
の合成方法。
【請求項13】
下記式のホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩
【化18】
ここで、Mは、単原子陽イオン、多原子陽イオン、または錯陽イオンを表す。)と、
11−R13
(ここでR11は、−(CH)n−X−R(nは、0〜6の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、C〜C20アルキル、ヒドロキシC〜C20アルキル、アミノC〜C20アルキル、アジドC〜C20アルキル、置換または無置換のフェノキシC〜C20アルキル、置換または無置換のフェニルチオウレアC〜C20アルキルを表わす)、
または、−(CH−O−の繰り返し配列を3回以上10回以下有しかつ酸素原子側の末端にメチル基またはエチル基を有する基を表わし;R13は、ハロゲンを表わす)で表される化合物とを反応させる工程を含むホウ素含有化合物の薬学的に許容される塩
【化19】
(ここで、Mは、単原子陽イオン、多原子陽イオン、または錯陽イオンを表す。)
の合成方法。
【請求項14】
請求項1から請求項10までのいずれかに記載のホウ素化合物の薬学的に許容される塩を1種または2種以上含有する医薬組成物。
【請求項15】
BNCTによるガン治療用である、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有化合物およびその製造方法に関する。本発明のホウ素含有化合物は、各種用途への適用が考えられる。例えば、本発明のホウ素含有化合物は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に用いられる中性子捕捉療法剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、放射性アイソトープを利用した新しい癌の治療方法として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が注目を集めている。ホウ素中性子捕捉療法は、ホウ素10同位体(10B)を含むホウ素含有化合物をガン細胞に取り込ませ、低エネルギーの中性子線(例えば熱中性子)を照射して、細胞内で起こる核反応により局所的にガン細胞を破壊する治療方法である。この治療方法では、10Bを含むホウ素含有化合物をガン組織の細胞に選択的に蓄積させることが、治療効果を高める上で重要であるため、ガン細胞に選択的に取り込まれるホウ素含有化合物の開発がなされている。
【0003】
これまでに、BNCTに用いる薬剤として基本骨格にホウ素原子またはホウ素原子団を導入したホウ素含有化合物がいくつかは合成されている。実際の臨床で用いられている薬剤としては、p−ボロノフェニルアラニン(BPA)やメルカプトウンデカハイドロドデカボレート(BSH;ボロカプテイト)がある。このうち、BSHは、ホウ素ケイジ(クラスター)化合物であり、最も低毒性であり、ナトリウム塩の形で主に脳腫瘍の治療に用いられ、その有用性が確認されている(例えば、非特許文献1〜8参照)。
【0004】
さらに、BSHを修飾した化合物もいくつか提案されている(例えば、非特許文献9〜10)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】I.M.Wyzlicら、Tetrahedron Lett.,1992,33,7489−7490,
【非特許文献2】W.Tjark,J.Organomet.Chem.,2000,614−615,37−47,
【非特許文献3】K.Imamuraら、Bull.Chem.Soc.Jpn.,1997,70.3103−3110.
【非特許文献4】A.S.Al−Madhornら、J.Med.Chem.,2002,45,4018−4028,
【非特許文献5】F.Compostellaら、Res.Develop.Neutron Capture Ther.,2002,81−84,
【非特許文献6】S.B Kahlら、Progress in Neutron Capture Therapy for Cancer,Plenum Press,New York 1992,223,
【非特許文献7】J.Caiら、J.Med.Chem.,1997,40,3887−3896,
【非特許文献8】H.Limら、Res.Develop.Neutron Capture Ther.,2002,37−42
【非特許文献9】S. Kusakaら、Applid Radiation and Isotopes,2011,69,1768−1770
【非特許文献10】Y. Hattoriら、J. Med. Chem.,2012,55,6980−6984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
BNCTに利用できるガン細胞に選択的に取り込まれる、新たなホウ素含有化合物のさらなる開発が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、BNCT等に利用できる、新たなホウ素含有化合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す、ホウ素含有化合物およびその製造方法により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(I)または下記式(II)で表わされるホウ素含有化合物またはその薬学的に許容される塩に関する。
【化1】
【化2】
ここで、式(I)または式(II)中、黒丸はB原子を表わし、白丸は、B−Hを表わし;
-Rは、−(CH)n−X−R(nは、0〜6の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、C〜C20アルキル、ヒドロキシC〜C20アルキル、アミノC〜C20アルキル、アジドC〜C20アルキル、ヒドロキシカルボニルC〜C20アルキル、置換または無置換のフェノキシC〜C20アルキル、置換または無置換のフェニルチオウレアC〜C20アルキル、または、置換または無置換のベンジル基を表わす)、または、−(CH−O−の繰り返し配列を3回以上10回以下有しかつ酸素原子側の末端にメチル基またはエチル基を有する基を表わし;
-Rは、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、アミノ酸類、アミノ酸アミド、5−アミノレブリン酸、コウジ酸またはその塩、ハイドロキノンまたはその塩、レスベラトロールまたはその塩、DPA(ジメチルピラゾロピリミジンアセトアミド)型TSPO(トランスロケータープロテイン)リガンド、カフェ酸またはその塩、単糖類またはその塩、および核酸またはその構成成分またはそれらの塩からなる群より選択される腫瘍認識部位を表わす)、または不存在であり;
+は、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンあるいはテトラアルキルアンモニウムイオン(NR4+)、またはテトラフェニルホスホニウムイオンを表わす。
【0010】
本発明はまた、
【化3】
黒丸:B, 白丸:B-H
(-R11は、−(CH)n−X−R(nは、0〜6の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、C〜C20アルキル、ヒドロキシC〜C20アルキル、アミノC〜C20アルキル、アジドC〜C20アルキル、ヒドロキシカルボニルC〜C20アルキル、置換または無置換のフェノキシC〜C20アルキル、置換または無置換のフェニルチオウレアC〜C20アルキル、または、置換または無置換のベンジル基を表わす)、または、−(CH−O−の繰り返し配列を3回以上10回以下有しかつ酸素原子側の末端にメチル基またはエチル基を有する基を表わす)
で表される化合物;と、
12−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、アミノ酸類、アミノ酸アミド、5−アミノレブリン酸、コウジ酸またはその塩、ハイドロキノンまたはその塩、レスベラトロールまたはその塩、DPA(ジメチルピラゾロピリミジンアセトアミド)型TSPO(トランスロケータープロテイン)リガンド、カフェ酸またはその塩、単糖類またはその塩、および核酸またはその構成成分またはそれらの塩からなる群より選択される腫瘍認識部位を表わし、R12はハロゲンを表わす)とを反応させる工程を含む、下記式のホウ素含有化合物
【化4】
またはその薬学的に許容される塩の合成方法に関する。
【0011】
本発明はまた、
【化5】
で表される化合物と、
11−R13
(ここでR11は、−(CH)n−X−R(nは、0〜6の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、C〜C20アルキル、ヒドロキシC〜C20アルキル、アミノC〜C20アルキル、アジドC〜C20アルキル、ヒドロキシカルボニルC〜C20アルキル、置換または無置換のフェノキシC〜C20アルキル、置換または無置換のフェニルチオウレアC〜C20アルキル、または、置換または無置換のベンジル基を表わす)、または、−(CH−O−の繰り返し配列を3回以上10回以下有しかつ酸素原子側の末端にメチル基またはエチル基を有する基を表わし;R13は、ハロゲンを表わす)
で表される化合物とを反応させる工程を含むホウ素含有化合物
【化6】
の合成方法に関する。
【0012】
本発明はまた、上記のホウ素含有化合物を1種または2種以上含有する医薬組成物に関する。
【0013】
このような医薬組成物は、BNCTによるガン治療用であり得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明の新規なホウ素含有化合物および製造方法は、特に、BNCTに好都合に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のホウ素含有化合物およびその他の化合物について、腫瘍細胞への取り込み試験を行った結果を示す図である。
【0016】
図2】本発明のホウ素含有化合物およびその他の化合物について、ラットグリオーマ細胞への取り込み試験を行った結果を示す図である。
【0017】
図3】本発明のホウ素含有化合物およびその他の化合物について、腫瘍細胞への取り込み試験を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、以下の化学式(I)で表わされるホウ素含有化合物に関する。
【化7】
【0019】
本発明はまた、以下の化学式(II)で表わされるホウ素含有化合物の塩に関する。
【化8】
【0020】
ここで、式(I)または(II)中、黒丸はB原子を表わし、白丸は、B−Hを表わし;
-Rは、−(CH)n−X−R(nは、0〜6の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、C〜C20アルキル、ヒドロキシC〜C20アルキル、アミノC〜C20アルキル、アジドC〜C20アルキル、ヒドロキシカルボニルC〜C20アルキル、置換または無置換のフェノキシC〜C20アルキル、置換または無置換のフェニルチオウレアC〜C20アルキル、または、置換または無置換のベンジル基を表わす)、または、−(CH−O−の繰り返し配列を3回以上10回以下有しかつ酸素原子側の末端にメチル基またはエチル基を有する基を表わす。ここで、Rの、−(CH)n−X−Rは、その左端部が、式(I)におけるS原子側を示す。
【0021】
-Rは、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、アミノ酸類、アミノ酸アミド、5−アミノレブリン酸、コウジ酸またはその塩、ハイドロキノンまたはその塩、レスベラトロールまたはその塩、DPA(ジメチルピラゾロピリミジンアセトアミド)型TSPO(トランにスロケータープロテイン)リガンド、カフェ酸またはその塩、単糖類またはその塩、および核酸またはその構成成分またはそれらの塩からなる群より選択される腫瘍認識部位を表わす)、または不存在である。
【0022】
ここで、M+は単原子陽イオン、多原子陽イオン、または錯陽イオンを表わす。
【0023】
なお、-Rが不存在の場合は、式中Sとあるのは、Sとなる。
【0024】
ここで、化合物のBSHに該当する部分は、ホウ素、水素およびイオウ原子から成る20面体のホウ素クラスター構造をとる化合物である。BSHは無機低分子化合物であるにもかかわらず、体積はベンゼン環より大きく、3つのホウ素原子が2つの電子を共有するいわゆるスリーセンターボンド構造をとり、電子が局在化した特異な構造をしている。なお、BSHに該当する部分は、本明細書で、単にS101211と表すこともある。
【0025】
本明細書において、「置換または無置換のフェニル」、「置換または無置換のフェノキシC〜C20アルキル」または「置換または無置換のベンジル」でいう置換は、フェニル基の任意の1〜2個の位置で同一または異なる置換基を有していても良いことを表わす。限定はされないが、このような置換基は、好ましくは、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ジC1−6アルキルアミノ基、ニトロ基、アジド基、チオール基、ジヒドロキシボリル酸(ホウ酸基)、カルボキシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、またはハロゲンで置換されることをいう。ここで、C1−6アルコキシ基としては、特に好ましくはメトキシ基であり、ジC1−6アルキルアミノ基としては、特に好ましくはメチルアミノ基であり、ハロゲンとしては、特に好ましくはフッ素である。
【0026】
本明細書において、「置換または無置換のフェニルチオウレアC〜C20アルキル」でいう置換は、フェニル基の任意の1〜2個の位置で同一または異なる置換基を有していても良いことを表わす。置換基は、限定はされないが、好ましくは、フルオレセイン、クマリン硫酸、ボロンジピロメテン(BODIPY)、またはローダミンである。
【0027】
本明細書において、C〜C20アルキルは、分枝または直鎖または環状のいずれのアルキルでもよい。限定はされないが、ヘプチル、オクチル、ノニル、
デシル、イコシル、イソオクチル、C〜C16シクロアルキルなどが例示される。特に好ましくは直鎖状のC〜C16アルキルである。
【0028】
本明細書において、Rにおけるアミノ酸類には、例えば、必須アミノ酸(D体およびL体を含む)、BPA(p-ボロノフェニルアラニン)、およびシクロ環含有アミノ酸が含まれる。また、Rにおけるアミノ酸アミドには、これらのアミノ酸類のうちのカルボキシル基がCONHに置き換わった構造を有している。ここで、シクロ環含有アミノ酸におけるシクロ環は、好ましくは、C3−6シクロ環である。シクロ環含有アミノ酸の具体的な例としては、アミノシクロブタン酸が挙げられる。必須アミノ酸は、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸 、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、またはバリンである。
【0029】
単糖類は、代表的には、アルドースまたはケトースをいう。本発明で用いられる単糖類は、三炭糖(トリオース)、四炭糖、五炭糖(ペントース)、六炭糖(ヘキソース)のいずれでもよい。より具体的には、これらの単糖類としては、グリセルアルデヒド、エリトロース、トレオース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、またはイドースなどのアルドース;ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、キシルロース、リブロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、またはタガトースなどのケトースが例示される。
【0030】
5−アミノレブリン酸は、NH−CH−CO‐(CH−COO− または、NH−(CH)−CO‐(CH−CO−NH−のいずれかであることが好ましい。
【0031】
N,N−ジエチル−2−[4−(2−ヒドロキシフェニル)]−5,7−ジメチルピラゾロ [1,5−α]ピリミジン−3−アセトアミド(DPA)型TSPOは、限定はされないが、例えば以下の構造を有する。
【化9】
【0032】
核酸またはその構成成分とは、好ましくは1つのヌクレオチドまたは2つ以上のヌクレオチドの配列である。ATP、GTP、CTP、UTP、dATP、dGTP、dCTP、またはdTTP、またはこれらの2以上の組み合わせが含まれる。
【0033】
+は単原子陽イオン、多原子陽イオン、または錯陽イオンを表し、これらの例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびにアルミニウム塩、アンモニウム塩などの無機塩基が挙げられる。さらには、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミンなどの有機塩基との塩も使用することができる。
【0034】
核酸またはその構成成分、カフェ酸、コウジ酸、ハイドロキノン、レスベラトロール、または単糖類等の塩というときには、薬学的に許容できる塩であることが好ましい。薬学的に許容できる塩とは、無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびにアルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。
【0035】
ここで、好ましい一態様によれば、上記-Rは、−(CH)n−X−R(nは、1〜4の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わし、;Rは、C〜C20アルキルを表わす)であり、M+が、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンあるいはテトラアルキルアンモニウムイオン(NR4+)、またはテトラフェニルホスホニウムイオンである。
【0036】
別の好ましい一態様では、上記-Rは、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化10】
(ここで、Rは、ヒドロキシル基またはその塩である)で示されるコウジ酸を表わす)である。なお、本発明において、化学式中-は、一重結合の結合手を表わす。すなわち、メチル基を意味しない。
【0037】
さらに、別の一態様では、-Rが、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化11】
(ここで、RおよびRは、同一でも異なっていても良く、ヒドロキシル基およびその塩から選択される1つの基を表わす)である。
【0038】
別の一態様では、上記-Rは、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化12】
または
【化13】
のいずれかで表わされる化合物又はその塩である。
【0039】
別の一態様では、上記-Rは、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化14】
または
【化15】
(ここで、Rが、水素、メチル、イソブチル、1-プロピル、イソプロピル、tert-ブチル、エチル、カルボニルメチル、2-カルボニルエチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシ、メルカプトメチル、メチルチオエチル、2-アミノ-2-オキソエチル、3-アミノ-3-オキソプロピル、置換または無置換のベンジル、4-ヒドロキシベンジル、3-アミノプロピル、4-アミノブチル、3-グアジニノプロピル、インドリルメチル、イミダゾールメチル、置換または無置換のフェニル、1-ヒドロキシエチル、またはパラボロノフェニルである)で表される基並びにこれらの塩の中から選ばれるいずれか1つの基である。
【0040】
別の一態様では、前記-Rが、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化16】
または
【化17】
(ここでR10は、
【化18】
を表わす)で表される基並びにこれらの塩の中から選ばれるいずれか1つの基である。
【0041】
別の一態様では、上記-Rは、−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;-Rは、
【化19】
または
【化20】
で表される基並びにこれらの塩の中から選ばれるいずれか1つの基である。
【0042】
別の一態様では、上記Rは不存在である。
【0043】
以下では、本発明の前記化学式(I)で表されるホウ素含有化合物の製造方法について説明する。
【0044】
本発明のホウ素含有化合物(I)の製造方法では、原料として、一般式(1a):
【化21】
で表されるシアノエチルBSHを用いる。このようなBSH化合物は、限定はされないが、文献既知の方法(例えば、Gabel,D.;Moller,D.;Harfst,S.;Rosler,J.;Ketz,H.Inorg.Chem.1993,32,2276−2278.)に従い、合成することができる。すなわち、この方法では、BSHとβ-ブロモプロピオニトリルとを、アセトニトリル中で反応させ、次にテトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどと処理して、目的のシアノエチルBSH化合物を得る。
【0045】
このようなシアノエチルBSH(1a)を、
一般式(2a):
11−R13 (2a)
(式中、R11は、−(CH)n−X−R(nは、0〜6の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、C〜C20アルキル、ヒドロキシC〜C20アルキル、アミノC〜C20アルキル、アジドC〜C20アルキル、ヒドロキシカルボニルC〜C20アルキル、置換または無置換のフェノキシC〜C20アルキル、置換または無置換のフェニルチオウレアC〜C20アルキル、または、置換または無置換のベンジル基を表わす)、または、−(CH−O−の繰り返し配列を3回以上10回以下有しかつ酸素原子側の末端にメチル基またはエチル基を有する基を表わし;
13は、ハロゲンである)で表される化合物
と反応させることで、本発明のホウ素含有化合物を製造することができる。
【0046】
ここでの反応条件としては、限定はされないが、反応温度80℃以上、反応12時間以上、72時間以下であることが好ましい。使用する溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等であることが好ましい。
【0047】
ここで、上記化学式(2a)は市販品を使用することもできるし、合成して使用することもできる。これらの化合物の製造方法は、限定はされないが、一例として、6-ブロモヘキシルオキシベンゼンについて、その合成経路を示す。
【0048】
【化22】
【0049】
本化合物は、フェノールをアセトニトリルに溶解し、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選択されるいずれか1種の存在下で、ジブロモヘキサンと反応させることで製造することができる。
【0050】
上記反応において溶媒としてはアセトニトリルの他、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等も使用することができる。その中でもアセトニトリル、アセトンを使用することが好ましい。
【0051】
ここでの反応条件としては、限定はされないが、温度は60℃以上120℃以下で、3時間以上の反応であることが好ましい。
【0052】
また、ジブロモアルカンの鎖長を適宜変えることにより、任意のアルキル鎖長の化合物を得ることができる。
【0053】
各工程では、適宜に、中和工程、精製工程を施した後に、次工程が施される。上記各工程における各生成物は、単離精製されても、そのまま次の工程に供してもよい。単離精製手段は、洗浄、抽出、再結晶法、各種クロマトグラフィーなどが包含される。各工程における各生成物は、これらの単離精製手段を単独で、あるいは適宜2種以上を組み合わせて使用して行うこともできる。
【0054】
本発明では、さらに、より高い腫瘍認識能力を有する化合物群を製造することもできる。限定はされないが、そのような化合物の製造方法としては、以下の方法がある。すなわち、このような方法においては、下記化学式(III)
【化23】
黒丸:B, 白丸:B-H
(R11は、−(CH)n−X−R(nは、0〜6の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、C〜C20アルキル、ヒドロキシC〜C20アルキル、アミノC〜C20アルキル、アジドC〜C20アルキル、ヒドロキシカルボニルC〜C20アルキル、置換または無置換のフェノキシC〜C20アルキル、置換または無置換のフェニルチオウレアC〜C20アルキル、または、置換または無置換のベンジル基を表わす)、または、−(CH−O−の繰り返し配列を3回以上10回以下有しかつ酸素原子側の末端にメチル基またはエチル基を有する基を表わす)
で表される化合物;と、
12−(CH)m−X−R(mは0〜8の整数を表わし;Xは、O、S、NH、S−S、O−CO、NHCO、またはSCOを表わすか、不存在であり;Rは、アミノ酸類、コウジ酸またはその塩、ハイドロキノンまたはその塩、レスベラトロールまたはその塩、ベンゾジアゼピン型TSPO(トランスロケータープロテイン)リガンド、単糖類またはその塩、または核酸からなる群より選択される腫瘍認識部位を表わし;R12は、ハロゲンを表わす)とを反応させる工程を含む。
【0055】
上記製造工程においては、上記化学式(III)の化合物をアセトニトリルに溶解させ、R12−(CH)m−X−Rで表される化合物を加えて70℃以上140℃以下で、12時間以上反応させることができる。
【0056】
また上記反応において溶媒としてはアセトニトリルの他、ジメチルホルムアミド)、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール等も使用することができる。その中でもアセトニトリル、ジメチルホルムアミドを使用することが好ましい。
【0057】
上記反応において、上記化学式(III)の塩の種類は特に限定されないが、ナトリウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等が好ましい。また、ハロゲンは特に限定されないが、Brを使用することが好ましい。
【0058】
このような化合物は、そのまま、あるいは薬学的に許容できる塩の形態で、あるいはそれらと薬学的に許容できるキャリアーと混合して当業者に公知の製剤の形で、あるいはBSH封入ウイルスエンベロープベクターなどの形で、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に好都合に用いられうる。
【0059】
治療は、任意の適当な投与経路で、化合物が標的部位に蓄積するような方法で、本発明の化合物を含む薬剤を投与することによって行われる。本発明の化合物は、腫瘍に濃縮することが好ましい。化合物を含む製剤は一度に投与することもできるし、順次投与することもできる。製剤の投与を必要に応じて繰り返すことができる。所望であれば、腫瘍を外科的に可能な程度に除去した後、残りの腫瘍を本発明の製剤を使って破壊することも可能である。
【0060】
本発明のホウ素含有化合物製剤を用いる治療は、任意の適当な投与経路で、ホウ素含有化合物が標的腫瘍中に蓄積するような方法で、投与することによって行われる。ホウ素含有化合物は放射線照射前に腫瘍に濃縮することが好ましく、放射線照射前の腫瘍:血液比が約2:1 または少なくとも1.5 :1であると有利である。ホウ素含有化合物は一度に投与することもできるし、順次投与することもできる。腫瘍内に化合物が望ましく蓄積した後、その部位に有効量の低エネルギー中性子を照射する。皮膚を通してその部位を照射することができるし、あるいはその部位を照射前に完全にあるいは部分的に暴露することもできる。ホウ素含有化合物の投与とそれに続く放射線照射を必要に応じて繰り返すことができる。所望であれば、腫瘍を外科的に可能な程度に除去した後、残りの腫瘍を本発明のホウ素含有化合物を使って破壊する。もう1つの態様として、患者に適当量のホウ素含有化合物を投与し、天然に存在する中性子放射物質である252カリフォルニウムの有効量で照射する。これは腫瘍中に挿入し、適当な時間に取り出すことが好ましい。
【0061】
ここで、腫瘍の種類は特に限定されないが、神経膠芽腫および悪性神経膠腫などを含む脳腫瘍、悪性黒色腫、乳がん、あるいは前立腺がんなどが特に好適な対象となり得る。その他、肺がん、子宮がん、腎臓がん、肝臓がんなどの上皮細胞がん、各種肉腫なども対象となり得る。
【0062】
本発明のホウ素含有化合物投与の為に、適切な賦形剤、アジュバント、および/または薬学的に受容可能なキャリアーと混合して、単独で、あるいは他の薬剤と組み合わせて患者に投与され得る。特に好ましく用いられ得るキャリアーは、限定はされないが、薬学的に不活性な水系のキャリアーである。そのようなキャリアーとしては生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、および水等が含まれる。本発明の一実施形態において、薬学的に受容可能なキャリアーは薬学的に不活性である。
【0063】
本発明のホウ素含有化合物の投与は、経口および非経口でなされ得る。非経口投与の場合、動脈内(例えば、頚動脈を介する)、筋肉内、皮下、髄内、クモ膜下腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、または鼻孔内へなされうる。
【0064】
製剤は、散剤、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ剤、錠剤、カプセル剤、注射剤、液剤などのいずれの形態にもなり得る。また、その剤型に応じ、製剤学的に公知の手法により、適切な賦形剤 ;崩壊剤;結合剤;滑沢剤;希釈剤;リン酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、および他の有機酸またはそれらの塩のような緩衝剤緩衝剤;等張化剤;防腐剤;湿潤剤;乳化剤;分散剤;安定化剤;溶解補助剤;アスコルビン酸のような抗酸化剤;低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド(例えば、ポリアルギニンまたはトリペプチド);タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン、またはイムノグロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはアルギニン);単糖、二糖および他の炭水化物(セルロースまたはその誘導体、グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);対イオン(例えば、ナトリウム);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート、ポロキサマー)、などの医薬品添加物と適宜混合または希釈・溶解することにより調剤することができる。等張性および化学的安定性を増強するこのような物質は、使用された投薬量および濃度においてレシピエントに対して非毒性である。製剤で特に好ましいものは、水系キャリアーとともに調製される注射剤である。
【0065】
処方および投与のための技術は、例えば、日本薬局方の最新版および最新追補、「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES」(Maack Publishing Co.,Easton,PA)の最終版に記載されている。
【0066】
本発明のホウ素含有化合物の製剤は、目的の薬剤が意図する目的を達成するのに有効な量で含有される薬剤であり、「治療的有効量」または「薬理学的有効量」は当業者に十分に認識され、薬理学的結果を生じるために有効な薬剤の量をいう。治療的有効用量の決定は十分に当業者に知られている。
【0067】
治療的有効量とは、投与により疾患の状態を軽減する薬剤の量をいう。このような化合物の治療効果および毒性は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定され得る。用量は、好ましくは、毒性をほとんどまたは全くともなわないED50を含む循環濃度の範囲内にある。この用量は、使用される投与形態、患者の感受性、および投与経路に依存してこの範囲内で変化する。一例として、複合体の投与量は、年齢その他の患者の条件、疾患の種類、使用する複合体の種類等により適宜選択される。好ましい日用量は、処置すべき哺乳動物の体重1Kg当たり化学式(I)の化合物0.01〜1,000mgである。ヒトでは、好ましい日用量の範囲は、体重1Kgに対して式(I)の化合物0.01〜800mg、尚より好ましくは1〜600mgである。
【0068】
以下に、本発明のホウ素含有化合物の製造の具体例を実施例の態様で示すが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0069】
下記実施例において、化合物の分析および分離精製は、以下の機種や試薬を用いて行った。
・NMRスペクトル:日本電子 JMTC−400/54/SS 400 MHz(日本電子社製)。特に明記しない限り、内部標準としてTMSを用いた。また、下記ケミカルシフトはδ値で示した。
・カラムクロマトグラフィー用シリカゲル:BW−200(富士シリシア社製)。
・融点:BUCHI Melting point B-545を用いて測定した。
・IR:JASCO FT/IR-460 plusを用いて測定した。
【0070】
(実施例1−1)
S-n-オクチル-チオウンデカヒドロ-クロソ-ドデカボレート2ナトリウム塩の製造
S-(2-シアノエチル)-チオウンデカヒドロ-クロソ-ドデカボレート2テトラメチルアンモニウム塩(250mg, 0.685mmol)をアセトニトリル(10mL)に溶解させ、1-ブロモオクタン(142μL, 0.822mmol)を加え、24時間加熱還流した。反応混合物を濃縮乾固した後に、アセトン(100mL)を加え、不溶物をろ去した。ろ液に25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド/メタノール(250mg, 0.685mmol)を加え、生じた沈殿物をろ取し、アセトンで洗浄した。得られた無色固体をH2O(100mL)に溶かし、amberlite IR120(H+)(5.0mL)を加え、30分静置した。反応混合物をろ過し、ろ液を1N NaOHで中和後、濃縮乾固し、無色不定形固体として目的化合物(159mg, 72.0%)を得た。
1H NMR(DMSO-d6): 0.25-1.65(m, 26H), 2.08-2.09 (m, 2H), 2.19-2.23 (m, 2H)
【0071】
同様にして、以下の表1の化合物を合成した。
【表1】
【0072】
(実施例2−1)
(S-((3-アミノ-3-ヒドロキシカルボニルブチル)オクチル)-λ3-スルファネイル) ウンデカヒドロ-クロソ-ドデカボレート ナトリウム塩の製造
実施例1で得られたS-n-オクチル-チオウンデカヒドロ-クロソ-ドデカボレート2ナトリウム塩(122 mg, 0.338 mmol)をアセトニトリル (10mL)に溶解させ、(S)-(+)-2-アミノ-4-ブロモブタン酸臭素酸塩(119 mg, 0.453mmol)を加え、24時間加熱還流を行った。反応混合物を濃縮乾固した後に、アセトン(100mL)を加え、不溶物をろ去した。ろ液を濃縮した後にODSカラムクロマトグラフィー(H2O-80%H2O/MeCN)で精製後、凍結乾燥することによって、無色粉体として目的化合物(110mg, 81.3%)を得た。
1H NMR(D2O): 0.55-1.65(m, 24H), 2.20-2.50 (m, 1H), 3.85-3.29 (m, 4H), 3.79-3.87 (m, 1H).
【0073】
同様にして、表2〜表4に示す化合物を合成した。
【表2】
【表3】
【表4】
【0074】
(実施例3)
(S-((5-ヒドロキシ-4-オキソ-4H-ピラン-2-イル)メチル)オクチル)-λ3-スルファネイル) ウンデカヒドロ-クロソ-ドデカボレート ナトリウム塩の製造
実施例1で得られたS-n-オクチル-チオウンデカヒドロ-クロソ-ドデカボレート2ナトリウム塩(173 mg, 0.535 mmol)をアセトニトリル (10mL)に溶解させ、2-ブロモメチル-5-ヒドロキシ-4H-ピラン-オン (131 mg, 0.639 mmol)を加え、24時間加熱還流を行った。反応混合物を濃縮乾固した後に、アセトン(100mL)を加え、不溶物をろ去した。ろ液を濃縮した後にODSカラムクロマトグラフィー(H2O-70%H2O/MeCN)で精製後、凍結乾燥することによって、無色粉体として目的化合物(184 mg, 80.8%)を得た。
1H NMR(DMSO-d6): 0.60-1.85(m, 26H), 3.05-3.09 (m, 2H), 4.12-4.31 (m, 2H), 6.61 (s, 1H), 7.09 (s, 1H).
【0075】
同様にして、以下の表5に示す化合物を合成した。
【表5】
【0076】
実施例1〜3と同様の方法で、表6に示す化合物を合成した。
【表6】
【0077】
(生物学的評価1)
実施例で得たホウ素含有化合物(ホウ素薬剤)について、下記のように生物学的アッセイを行い、細胞毒性、がん細胞への取込みおよび中性子照射による殺細胞効果について、評価する。
【0078】
細胞毒性試験(WST−8)
96ウェルのマイクロプレートを用い、1ウェルあたりに1.5X10cell/mlの濃度のラットグリーマ細胞(C6)またはメラノーマ細胞(B16)を播取し、室温(37℃、5%CO)で24時間培養を行なった。培養液を吸引除去し、実施例で得たホウ素含有化合物を種々の濃度で含む培養液を100μLずつそれぞれのウェルに加えた。室温(37℃、5%CO)で24時間培養後、培養液を吸引除去し、100μLのWST−8溶液をそれぞれ加え、さらに4時間室温(37℃、5%CO)で培養を行なった。マイクロプレートリーダーを用いて450nm(リファレンス波長:655nm)の波長を測定し、細胞を含まないウェルの吸光度をバックグランドコントロールとした。これにより各IC50値を決定した。
【0079】
実施例で得られたホウ素含有化合物のうち、R4をコウジ酸またはアミノ酸類とする化合物は、少なくとも、4−ボロノ−L−フェニルアラニン(L−BPA)と同程度以上の細胞毒性を示した。
【0080】
(生物学的評価2)
腫瘍細胞へのホウ素含有化合物の取り込み試験
1.5X10cellのラットグリオーマ細胞(C6)またはメラノーマ細胞(B16)を播取し、24時間室温(37℃、5%CO)で培養を行なった。培養液を吸引除去し、各ホウ素薬剤を0.2mM含む培養液を加え、さらに24時間室温(37℃、5%CO)で培養を行なった。培養液を吸引除去後、PBSを用いて細胞を3回洗浄した後に、トリプシン処理を行い、細胞を回収した。回収した細胞数をカウントし、HClO(60%、0.3ml)とH(31%、0.6ml)を1時間、75℃に加熱して灰化溶液を作成した。メンブランフィルターを用いて灰化溶液をろ過し、ICP−AESを用いて溶液中のホウ素濃度を測定することによって、細胞内のホウ素濃度を決定した。
【0081】
実施例のホウ素含有化合物の取り込み試験の結果を図1および図3に示す。ここで、比較対照にはBNCTの臨床研究に使用されている4−ボロノ−L−フェニルアラニン(L−BPA)を設定した。
【0082】
その結果、本発明の化合物は、アルキル鎖がある程度以上の長さになると、BPAと比較して、より低濃度の処理で同等以上に細胞に取り込まれることがわかった。また、C14以上になると、薬剤の取り込みは減少傾向にあった。薬剤の毒性についてはアルキル鎖の長さに比例して高くなる傾向が見られるため、実験を行った化合物の中では、アルキル鎖の長さはC〜C14程度が特に好ましいと考えられる。
【0083】
同様の実験を、ラットグリオーマ(F98)を用いて行った。
【0084】
その結果、本発明のホウ素含有化合物は、細胞に効率よく取りこまれた。(図2)。
【0085】
主な化合物のその他の取りこみについての結果を以下の表7に示す。表中、取込み○:BPAより高い、△:BPAと同程度、×:BPAよりも低い意味を表わす。
【0086】
【表7】
【0087】
(生物学的評価3)
中性子照射による腫瘍細胞に対する殺細胞効果
5.0X10cellの細胞を播取し、24時間室温(37℃、5%CO)で培養を行なう。培養液を吸引除去し、各ホウ素薬剤を2.0mM含む培養液を加え、さらに6時間室温(37℃、5%CO)で培養を行なう。培養液を吸引除去後、PBSを用いて細胞を3回洗浄した後に、トリプシン処理を行い、細胞を回収する。回収した細胞を培養液に懸濁させ、5.0X10cell/mlの濃度に調製し、この懸濁液1mlをテフロンチューブに移す。細胞溶液を入れたテフロンチューブに対して、熱中性子線を0〜4.3×1012cm−2照射し、その細胞を300cellずつ培養液6ml中に播取する。9日間室温(37℃、5%CO)で培養を行なった後、エタノールを用いてコロニーを固定し、0.1%クリスタルバイオレットで染色してからコロニー数を数えて、殺細胞効果を比較する。
図1
図2
図3