特許第6360130号(P6360130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6360130空乏ヘテロ接合とシェルパッシベートナノ粒子を有する光起電力デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6360130
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】空乏ヘテロ接合とシェルパッシベートナノ粒子を有する光起電力デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/072 20120101AFI20180709BHJP
   H01L 31/0352 20060101ALI20180709BHJP
   H01L 31/0224 20060101ALI20180709BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20180709BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20180709BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20180709BHJP
   C01G 21/21 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   H01L31/06 400
   H01L31/04 342A
   H01L31/04 266
   B82Y20/00
   B82Y40/00
   H01L29/06 601N
   H01L29/06 601D
   C01G21/21
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-225169(P2016-225169)
(22)【出願日】2016年11月18日
(62)【分割の表示】特願2013-503781(P2013-503781)の分割
【原出願日】2011年3月25日
(65)【公開番号】特開2017-85113(P2017-85113A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2016年12月16日
(31)【優先権主張番号】12/890,797
(32)【優先日】2010年9月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/334,650
(32)【優先日】2010年5月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/321,450
(32)【優先日】2010年4月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501318567
【氏名又は名称】ザ ガバニング カウンシル オブ ザ ユニバーシティ オブ トロント
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100119987
【弁理士】
【氏名又は名称】伊坪 公一
(72)【発明者】
【氏名】タン チャン
(72)【発明者】
【氏名】アンドラス パタンティウス−エイブラハム
(72)【発明者】
【氏名】イラン クレーマー
(72)【発明者】
【氏名】アーロン バークハウス
(72)【発明者】
【氏名】ワン シーファ
(72)【発明者】
【氏名】ラタン デブナット
(72)【発明者】
【氏名】エドワード エイチ.サージェント
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンタトス ゲラシモス
【審査官】 河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−111031(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0216891(US,A1)
【文献】 特開2006−286902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20、
51/42−51/48
H02S 10/00−10/40、30/00−50/15、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光透過電極と、
n型TiOを含み且つ前記第1の光透過電極上に堆積された第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に堆積され且つp型光吸収量子ドットナノ粒子を含む第2の半導体層と、さらに
前記第2の半導体層上に堆積された第2の電極と、を備え、
前記n型TiOおよびp型光吸収量子ドットナノ粒子はその間に光起電力接合を形成し、その接合の少なくとも一方の側は当該デバイスが照射されていない場合、自由電子および自由ホールが実質的に空乏化されている、光起電力デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光起電力デバイスにおいて、前記第1の半導体層と前記p型光吸収量子ドットナノ粒子は、前記接合の少なくとも一方の側が空乏化するように、充分に異なる大きさのバンドギャップを有する、光起電力デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の光起電力デバイスにおいて、前記第1の半導体層の前記バンドギャップは前記p型光吸収量子ドットナノ粒子の層のバンドギャップより少なくとも1.5eV大きい、光起電力デバイス。
【請求項4】
請求項2に記載の光起電力デバイスにおいて、前記第1の半導体層のバンドギャップは前記p型光吸収量子ドットナノ粒子の層のバンドギャップより1.5eVから5eVだけ大きい、光起電力デバイス。
【請求項5】
請求項2に記載の光起電力デバイスにおいて、前記第1の半導体層のバンドギャップは前記p型光吸収量子ドットナノ粒子の層のバンドギャップより2eVから5eVだけ大きい、光起電力デバイス。
【請求項6】
請求項1に記載の光起電力デバイスにおいて、前記p型光吸収量子ドットナノ粒子はコロイド量子ドットである、光起電力デバイス。
【請求項7】
請求項1に記載の光起電力デバイスにおいて、前記p型光吸収量子ドットナノ粒子は金属カルコゲナイドコロイド量子ドットである、光起電力デバイス。
【請求項8】
請求項1に記載の光起電力デバイスにおいて、前記p型光吸収量子ドットナノ粒子は鉛カルコゲナイドコロイド量子ドットである、光起電力デバイス。
【請求項9】
請求項1に記載の光起電力デバイスにおいて、前記p型光吸収量子ドットナノ粒子は硫化鉛コロイド量子ドットである、光起電力デバイス。
【請求項10】
請求項6に記載の光起電力デバイスにおいて、前記コロイド量子ドットは3nmから6nmの数値平均直径を有する、光起電力デバイス。
【請求項11】
請求項1に記載の光起電力デバイスにおいて、前記第1の光透過電極は、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化インジウムスズおよびフッ素ドープの酸化スズからなるグループから選択された部材である、光起電力デバイス。
【請求項12】
請求項1に記載の光起電力デバイスにおいて、前記第1の光透過電極はフッ素ドープの酸化スズである、光起電力デバイス。
【請求項13】
請求項1に記載の光起電力デバイスにおいて、前記第2の電極は、ニッケル、フッ化リチウム、プラチナ、パラジウム、銀、金、銅および銀、金および銅の合金からなるグループから選択された部材である、光起電力デバイス。
【請求項14】
請求項1に記載の光起電力デバイスにおいて、前記第2の電極は金である、光起電力デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2010年9月27日に出願された米国特許出願第12/890,797号の利益を主張し、この米国特許出願は、2010年5月14日に出願された米国仮特許出願第61/334,650号および2010年4月6に出願された米国仮特許出願第61/321,450号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、光起電力セルと量子ドットの分野に関する。
【背景技術】
【0003】
光起電力効果を通して電気を生成する太陽電池を、伝統的な発電手段の実行可能な代替手段として提供するためには、低コストと高効率の組み合わせを必要とする。太陽電池の製造コストを低下させるための一つの方法は、太陽電池の一部である集光材料層を形成するために、溶解処理を使用することである。しかしながら、集光材料を含めて、太陽電池の効率は電池材料に依存する。最適な集光材料は、可視および赤外スペクトルの両方において太陽光の吸収を最大にすることによって、高い短絡回路電流密度Jscを達成するものと、各吸収フォトンから、高い開回路電圧Vocと高いフィルファクターFFの形で高レベルの仕事を抽出することである。入力光強度Psolar(通常100mWcm-2)に対して、電力変換効率ηは以下のように定義される。
【数1】
【0004】
Sargent,E.による“Infrared photovoltaics made by solution processing”,Nat.Photonics3, 325−331(2009)およびHillhouse H.S.,etal.による“Solar cells from colloidal nanocrystals:Fundamentals,materials,device,and economics”,Curr.Opin.Colloid Interface Sci.14,245−259(2009)によって、集光材料としてコロイド量子ドットを使用することにより、高い電力変換効率を有する太陽電池を得ることができることが報告されている。コロイド量子ドット太陽電池は、溶解処理によって集光層を形成する能力および、単一接合および多接合太陽電池の両者に利用可能な利点である、広い範囲でバンドギャップを調整する能力の両者を提供する。バンドギャップを調整する能力は更に、高価ではなく豊富に存在する超低バンドギャップ半導体の使用を可能とする。このような半導体は、そのようにしないと太陽電池エネルギー変換のために適していない。Ma,W.,et al.,による“Photovoltaic devices employing ternary PbSxSe1-x Nanocrystal”,Nano Lett.9,1699−1703(2009)等によって報告されているように、リードカルコゲナイド量子ドットとショットキー接合を組み合わせることによって、効率3.4%の太陽電池が達成された。ナノ多孔性TiO2電極をコロイド量子ドットの薄層によって感光性とすることによって、電力変換効率3.2%の、大きな進歩が達成された。例えば、Fan,S.,et al.,による“Highly efficient CdSe quantum−dot−sensitized TiO2 photoelectrodes for solar cell applications”,Electrochem.Commun.11,1337−1330(2009)参照。
【0005】
しかしながら、コロイド量子ドットおよびショットキーの両者は太陽電池効率に限界をもたらす。ショットキーデバイスにおいて、VocおよびFF値の両者は、それらの可能性を遥かに下回っており、コロイド量子ドットによって感光化された太陽電池では、VocおよびFFの増加にも関わらず、Jsc値は一般に低い。
【発明の概要】
【0006】
上述したようなコロイド量子ドットの限界は、集光性ナノ粒子の層を電子受容材料の層と対にして、これらの層の間の接合が、デバイスが光照射を受けていない時にこの接合の少なくとも一方の側の自由電子と自由ホールの両者に対して実質的に空乏化されるようにすることによって、大きく低下させあるいは克服することができる。この空乏化を達成する効果的な手段は、異なる大きさのバンドギャップを有するように、これらの2つの層の材料を選択することである。このような接合は、従って、接合の両側において2つの異なる材料に基づくヘテロ接合であり、さらに特に、接合の近辺で自由電子および自由ホールの両者が低いレベルにあるかまたは存在しないことに基づいて、空乏ヘテロ接合である。この空乏化は、電子受容コンタクトからナノ粒子への電荷の移動によって生じる。本発明の一実施例では、ナノ粒子はp型コロイド量子ドットを含む量子ドットであり、電子受容層は金属酸化物であり、あるいは金属酸化物を含む。この空乏化は、非常に高い自由電子密度を有するショットキー接合の金属コンタクトに比べて比較的低い、電子受容層の電荷密度に、少なくとも部分的に起因する。
【0007】
本発明の範囲内であるある実施例の光起電力デバイスは、従来技術の光起電力デバイスに対して更なる利点を有している。例えば、電子受容層として金属酸化物を使用することによって、デバイスの前面として、あるいは、光起電力接合を形成する2個の半導体層に入射する場合に太陽光が最初に侵入する層として、電子受容層を有するデバイスを構成することが可能となる。その結果、これらの実施例における電子は目的地である電極に到達するまでに移動する距離がより短いので、光線によって解放された電子はホールとの再結合の影響をあまり受けない。さらに、接合が金属酸化物と量子ドット間にある実施例において、この接合は、金属−半導体ショットキー接合よりもより良く輪郭が規定され、且つ、パッシベートされ易く、その結果、欠陥の影響をあまり受けない。これによって、インターフェースでのフェルミレベルピンニングの発生が防止される。更に、価電子帯において大きな不連続性を導入することにより、且つ、インターフェースにおいて電子密度を小さくすることによって、これらの実施例は、ショットキーデバイスよりもホール注入に対してバリアが小さくなる。
【0008】
光起電力デバイスおよび光電子デバイスにおいて、さらに特に表面陰イオンを有するナノ結晶において、一般に、ナノ結晶上に陽イオンを堆積して第1すなわち内側シェルを形成しこの第1のシェル上に陰イオンを堆積して第2のすなわち外側シェルを形成することによって、ナノ結晶の性能が向上することが見出されている。この内側および外側シェルは共に、ナノ結晶の量子閉じ込めを妨害しやすいナノ結晶の表面欠陥をパッシベートする。パッシベーション即ち不動態化は、ナノ結晶表面上に、エタンジチオール、ブチルアミン、あるいはメルカプトプロピオン酸のような短い有機リガンドを配置することによって達成可能であることが知られている。これらのリガンドの代わりに陽イオンおよび陰イオンシェルを使用することにより、次のような利点が提供される。すなわち、陽イオンシェルは有機リガンドがそうであるように陽イオンよりもむしろナノ結晶表面の陰イオンに結合し、そのイオン結合は空気および光、さらに特に湿度、酸素および熱への露出に対して安定である。これらの陽イオンおよび陰イオンシェルの更なる利点は、有機リガンドの必要性を取り除くことによって、これらのシェルでは、光吸収薄膜内でナノ結晶同志が非常に近接して存在することが可能となり、それによって、電子波動関数の重なりおよびキャリア移動度が促進される。これらの特徴は有機リガンドでは通常、妨げられている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の範囲内の空乏ヘテロ接合光起電力セルの実施例の、電流密度対電圧をプロットした図である。
図2】本発明の範囲内の空乏ヘテロ接合光起電力セルの実施例の、電流対電圧をプロットした図である。
図3】本発明の範囲内の空乏ヘテロ接合光起電力セルの実施例の、外部量子効率対波長をプロットした図である。
図4】本発明の範囲内の空乏ヘテロ接合光起電力セルの実施例の、デバイス容量対バイアス電圧およびデバイス抵抗対バイアス電圧をプロットした図である。
図5】本発明の範囲内の二重シェルパッシベート量子ドットを有する空乏ヘテロ接合光起電力セルの実施例の、吸収スペクトルを示す図である。
図6】本発明の範囲内の二重シェルパッシベート量子ドットを有する空乏ヘテロ接合光起電力セルの実施例の、キャリア寿命対光強度をプロットした図である。
図7】本発明の範囲内の二重シェルパッシベート量子ドットを有する空乏ヘテロ接合光起電力セルの実施例の、電流密度対電圧をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ヘテロ接合に隣接する領域を特徴づけるために以下で使用される用語“実質的に空乏”は、この領域の電荷密度が、ショットキー接合の金属側の電荷密度のオーダー(桁)よりも小さいことを意味する。本発明のあるヘテロ接合領域では、この電荷密度は、導電性金属の電荷密度よりも3桁かそれ以上小さく、多くの場合、その電荷密度は、4桁以上、5桁以上あるいは6桁以上小さい。空乏電荷密度が接合のn型電子受容層側である場合に、特に効果的な結果が達成される。本発明の多くの実施例において、空乏領域の電荷密度の範囲は、約1×1012cm-1から約1×1018cm-1の範囲、あるいは1×1014cm-1から約1×1017cm-1、あるいはさらに、約1×1015cm-1から約1×1016cm-1である。
【0011】
ヘテロ接合の2個の側において異なるバンドギャップ幅を有する材料を使用することによって空乏ヘテロ接合を達成する場合、バンドギャップ差(すなわち、接合の一方の側のバンドギャップ幅と接合の他方の側のバンドギャップ幅との差)が少なくとも約1.5eV、あるいは約1.5eVから約5eVの範囲内である場合に、多くの場合、効果的な結果を得ることができ、さらに、約2eVから約5eVの範囲内においてより効果的である。接合の一方の側をn型電子受容層、他方の側をp型の光吸収ナノ粒子とすることによって、大きなバンドギャップは、n型電子受容層にある。
【0012】
ナノ粒子として量子ドットが特に有用であり、コロイド量子ドット、すなわちコロイド化学によって製造された量子ドットが重要な例である。勿論、金属カルコゲナイド量子ドットはこの技術分野で良く知られており、鉛カルコゲナイド特に硫化鉛の量子ドットが特に興味がある。量子ドットは、個々の量子ドットの直径に関係した波長で光を吸収することが知られており、この特性は、本発明において、量子ドットの光吸収特性を選択しあるいは最適化するために使用することができる。多くの場合、約2nmから15nmの範囲内の数平均径を有する量子ドットを効果的に使用することができる一方で、約3nmから約10nmの範囲内の数平均径を有する量子ドットが往々にして最も適しており、約3nmから約6nmの量子ドットが往々にして更により有用である。
【0013】
n型電子受容層と光吸収ナノ粒子の組み合わせが接触して配置された場合、上述した空乏化ヘテロ接合を形成する限りにおいて、n型電子受容層は組成において大きく変化し得る。金属酸化物は、n型電子受容層として効果的に作用する材料の一例であり、金属酸化物の特に有用な例は二酸化チタンである。
【0014】
陽イオンの内側パッシベーションシェルと陰イオンの外側パッシベーションシェルを有するナノ粒子に関連した本発明のこれらの観点において、このようなナノ粒子のコアは通常、その表面に露出した陰イオンを有する量子ドットである。上記したように、多くの場合量子ドットは、金属カルコゲナイドコロイド量子ドットであり、往々にして金属硫化物コロイド量子ドットである。有名な例は硫化鉛であり、硫化鉛の量子ドットは往々にして鉛リッチであり、主に露出したPb2+イオンで構成されているがしかし同時に露出したS2-イオンを含む表面を有する。内側シェルの陽イオンはコア表面のS2-イオンに結合しこれをパッシベートする一方で、外側シェルにおける陰イオンは内側シェルの陽イオンに結合しこれをパッシベートする。第1のシェルに対して用いることが可能な陽イオンの例は、Cd2+、Pb2+、Zn2+およびSn2+である。この中で、Cd2+が特に使いやすく且つ効果的である。第2のシェルとして用いることが有効な陰イオンの例は、ハロゲンイオンとチオシアン酸イオンである。この中で、ハロゲンイオン、特に臭素イオンが最適であり、特にある場合において便利である。これらの2重シェルナノ粒子は上述の空乏ヘテロ接合の光吸収ナノ粒子として有用であるが、さらに一般に光電子デバイス、すなわち粒子が光エネルギーを吸収し吸収したエネルギーを電流に変換するすべてのデバイス、において有用である。
【0015】
更なる観点において、本発明は、パッシベーション物質として有機リガンドを使用することなくパッシベートされたn型半導体ナノ粒子を形成することにある。これは、表面陰イオンを有するp型半導体量子ドットを、表面陰イオンをパッシベートする陽イオンを含有する試薬の溶液によって処理し、その後、その結果として生じる陽イオン処理量子ドットコアを、陽イオンをパッシベートする陰イオンを含んだ試薬溶液によって処理することによって、達成される。Cd2+の例を量子ドットコアのパッシベーションのために有用な陽イオンとして注目すると、Cd2+含有試薬の例は、塩化カドミニウム(II)−テトラデジルホスホン酸−オレイルアミンである。陰イオン含有試薬の事例は、第4級アンモニウムハライドとチオシアン酸塩であり、さらに特別な事例としては、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサトリメチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウムおよびチオシアン酸テトラブチルアンモニウムがある。
【0016】
上記の1個またはそれ以上の特徴を利用した光起電力デバイスは、通常、少なくとも2個の電極を含んでおり、それぞれの電極はヘテロ接合の2個の半導体層の何れかに電気的に接触している。例えば、n型金属酸化物層とp型金属カルコゲナイドコロイド粒子ドット間のヘテロ接合において、第1の電極はn型金属酸化物層と電気的に直接接触しており、第2の電極はコロイド量子ドットと接触している。多くの場合、第1の電極は光透過電極であり、その例は酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ(ITO)およびフッ素ドープの酸化スズ(FTO)である。第2の電極は多くの場合、ニッケル、フッ化リチウム、パラジウム、銀、金または銅、或いはこれらの金属の2個またはそれ以上の合金、例えば銀、金および銅の合金である。電極材料の組合せの一例は、第1の電極としてフッ素ドープの酸化スズおよび第2の電極として金である。
【0017】
[実施例1]
この実施例は、本発明の範囲内の空乏ヘテロ接合光起電力セルの生成方法を示しており、それぞれのセルは、直径が3.7nm(バンドギャップ1.3eV),4.3nm(バンドギャップ1.1eV)および5.5nm(バンドギャップ0.9eV)のPbSコロイド量子ドット(約1017cm-3n型ドーピング)層を透明TiO2電極上に堆積することによって形成される。
【0018】
TiO2電極は、SnO2:F(FTO)被覆ガラス基板上のTiO2ペースト(DSL−90T、Dyesol Ltd,,Queanbeyan,NSW,Australia)によって、以下の様にして形成された。FTO基板は先ずトルエンによってリンスされ、その後、脱イオン化された水とトリトンとの混合体(容量で1−3%)中で20分間超音波処理された。別に、TiO2ペーストが、重量の1部分のTiO2ナノ粒子と重量の3部分のテルピネオールとを混合することによって、形成された。ペーストはその後、TiCl4−処理のFTO基板上で、90秒間、1500rpmでスピンキャストされた。それぞれの基板の端では、イソプロピルアルコールで浸漬した綿棒によってペーストが拭い取られて、FTOの一部が電気的接触のために露出される。これはその後直ちに400℃のホットプレート上で1時間、焼結される。この基板はその後、脱イオン水中の60mMTiCl4のバス中に配置され、70℃のバス中で30分間焼成される。その後、それらは脱イオン水によってリンスされ、窒素によって乾燥され、1時間、520℃のチューブ炉の中に置かれ、その後室温まで冷却される。このサンプルは次に冷却され、TiCl4処理が繰り返され、その後520℃への最終加熱が実施される。次にこの基板は、個々の基板ホルダー内に配置され、更なる処理の前に空気中に1週間以下の期間、保存される。
【0019】
PbSコロイド量子ドットは以下のようにして形成された。ビズ(トリメチルシリル)硫化物(TMS、合成グレード)(0.18g、1mol)が、真空下で24時間80℃まで加熱することにより乾燥されかつ脱気された1−オクタデセン(10mL)に加えられた。オレイン酸(1.34g、4.8mmol)とPbO(0.45g、2.0mmol)および1−オクタデカン(14.2g、56.2mmol)の混合体が、真空下で16時間95℃まで加熱され、その後Ar下に配置された。フラスコの温度は120℃まで上げられ、TMS/オクタデカンの混合物が注入され、その結果温度が約95℃まで低下し、フラスコは36℃まで冷却されることが可能となる。ナノ結晶は50mLの蒸留アセトンによって沈殿し、自然環境下で遠心分離される。次に、浮遊物が廃棄され、沈殿物がトルエン中に再分散され、20mLのアセトンで再び沈殿され、5分間遠心分離され、乾燥され、さらに再びトルエン(約200mL-1)中に分散される。ナノ結晶はその後、N2充填グローブボックス内に配置され、そこでメタンによって2度沈殿され、その後最終的に25または50mgmL-1でオクタン中に再分散される。
【0020】
結果として生じたオレイン酸で覆われたPbS量子ドットは、オクタン中の25または50mg/mL量子ドット溶液によって、TiO2表面を多層スピンコーティングすることにより、TiO2上に堆積される。各層は2500rpmで堆積され、その後メタノール中の10%の3−メルカプトプロピオン酸によって簡単に処理されてオレイン酸リガンドが置換され、それによって量子ドットを不溶性とし、その後メタノールとオクタンによってリンスされる。25mg/mL分散を使用した15回の堆積サイクルによって、TiO2基板上に厚さが22nmの熱的に安定な層が形成され、50mg/mL分散を使用した8回の堆積サイクルによって、同じ厚さの熱的に安定した層が同様に形成された。それぞれの層化された媒体は次に、シャドーマスクを介した5mTorrのAr圧下での1Wcm-2のパワー密度によるDCスパッタによって、量子ドット層上に150nmから200nmの厚さに堆積される。空間分解X線元素分析および透過型電子顕微鏡法を、集束イオンビームによるフライス加工によって準備されたサンプルの薄片に対して実施し、量子ドットとTiO2層の相互浸透が非常に小さいことが見いだされた。
【0021】
図1は、上記のようにして準備された空乏ヘテロ接合光起電力セルの光起電力応答のプロットを、mAcm-2で示す電流密度対電圧で示しており、下側の曲線は暗電流を現し、上側の曲線は、1.3eVのバンドギャップを有する量子ドット(3.7nm)を備えて製造されたセルの照射電流を示す。データは、Keithley2400ソースメータを周囲条件下で使用して測定された。AM1.5での太陽スペクトルを、Xeランプと100mWcm-2に調整された強度を有するフィルタによってクラスA仕様内でシミュレーションした。ソース強度は、Melles−Griot広帯域パワーメータ(300nmから2000nmに応答する)によって、サンプルの位置で0.049cm-2の円形開口を通して測定し、較正された太陽電池セルによって確認した。パワー測定の精度は±7%であると推定された。1.3eVのバンドギャップを有する5個のデバイスに対して、Vocの平均値は0.53±0.02Vであり、Jscの平均値は15.4±1.4mAcm-2、FFの平均値は57±4%であった。平均のAM1.5パワー変換効率ηは従って4.9±0.3%であった。最も効率が高いデバイスでは、Vocは0.52V,Jscは16.4mAcm-2、FFは58%であり、その結果、ηは5.1%となる。
【0022】
図2は、上述のようにして準備された空乏ヘテロ接合光起電力セルの光起電力応答のプロットであり、mAで示される電流対電圧を示しており、下方の曲線は0.9eVのバンドギャップ(5.5nm)を有する量子ドットと共に製造されたセルを表し、中間の曲線は1.1eVのバンドギャップ(4.3nm)を有する量子ドットと共に製造されたセルを表し、上部の曲線は1.3eVのバンドギャップ(3.7nm)を有する量子ドットを有して製造されたセルを表している。この図は、最も大きな量子ドットでのTiO2内での電子移動のための駆動力が最も小さく、0.9eVバンドギャップを有するデバイスが依然として10mA/cm2以上の短絡回路電流密度Jscと0.38Vの開回路電圧Vocを有していることを示している。このことは、PbSコロイド量子ドットからTiO2電極への効率的な電子移動には、バンド差を最小とすることが必要であることを示している。これは、電子ドナーとアクセプタ間のバンド差が大きい有機光電池とは反対であり、大きなバンド差は効率に対してかなりのペナルティを強いる。
【0023】
図3は、外部量子効率(EQE)対波長および吸収率対波長のプロットであり、下側の曲線は最も効率の良い1.3eVバンドギャップ量子ドットデバイスのEQEを表し、上側の曲線は同じデバイスのスペクトル吸収率を表す。EQEは、抽出された電子と入力フォトンの比であり、その曲線は入射フォトン変換効率スペクトルとしても知られている。EQEは、単色光分光器を通して400WXeランプを通過させ、かつ、適正な次数分類フィルタを用いることにより得られる。単色光分光器のコリメート出力は、較正済みのNewport 8180UVパワーメータ(電力計)によって、1.5nm開口を通して測定された。測定バンド幅は約40nmであり、強度はXeランプのスペクトルに伴って変化した。平均強度は0.3mWcm-2であった。電流−電圧応答はKeithley2400ソースメータによって測定された。このプロットは、短波長においてEQEが60%以上の値に達し、かつ、長波長側ではEQEは24%においてピークを有していることを示している。
【0024】
図4は、デバイス容量対バイアス電圧と、デバイス抵抗対バイアス電圧のプロットである。容量は、TiO2からPbSコロイド量子ドット層への電荷移動に基づいて、空乏層から発生する。容量−電圧測定は、Agilent4284ALCRメータを用いて、光起電力デバイス上で直接実行された。吸収分光法はCary500UV−vis−IR走査光分光器を用いて行われた。インピーダンスは、10mVの振幅の信号によって2kHzで獲得され、さらに、図4において、0.03cm3の接触面積を有するデバイスに対して、等価平行抵抗Rpと容量Cpによって表されている。このプロットは、容量および2つの半導体間に分散された関連する空乏層が、観察された開回路電圧値に近い0.6Vのバイアスまで持続することを示している。これは、光生成キャリアの分離を効果的に促進する、内部場が存在することの直接のしるしである。
【0025】
[実施例2]
この実施例は、量子ドットコア、陽イオンの内側シェルおよび陰イオンの外側シェルを含むナノ粒子の、本発明の範囲内での準備および使用を示している。
【0026】
オレイン酸リガンドによって被覆されたコロイド量子ドットは、実施例1に記載した方法によって、合成されかつオレインリガンドがはぎ取られる。これらの量子ドットは合成中に過剰なPbを有するように準備され、その結果、鉛リッチではあるが、しかし、その結晶構造において非極性の{100}および{110}または極性の{111}ファセットの何れかからの表面上に硫黄原子を有するバルク組成となる。Cd陽イオンの内側シェルをこれらのPbSコア上に形成するために、ナノ粒子は、CdCl2−テトラデシルホスホン酸−オレイルアミン(CdCl2−TDPA−OLA)で処理された。この処理は、励起子吸収の僅かに赤へのシフト(6および24nm間)を結果として生じ、その表面上に高度に陽イオンリッチ材料の部分的な単層が成長していることを示唆し、TDPA−OLAのみを含む(CdCl2を含まない)対照処理が実施された場合に約30nmのブルーシフトが観察されることによってこの解釈が強化された。元素分析およびX線光電子顕微法は共に、合成サンプルのパウダー中に存在する他の元素に対して0.3%のCd原子比を示している。X線回折は、純粋にCdベースの相{例えばCdS)が存在しないことを示した。
【0027】
臭素イオンの外側シェルが、次に、メタノール中の臭化セチルトリメチルアンモニウム溶液の使用によって塗布された。セチルトリメチルアンモニウム陽イオンは粒子上の残留オレイン酸塩と結合されて塩が形成され、この塩は、その後の最終的なメタノールリンスによって除去される。臭化セチルトリメチルアンモニウム処理およびメタノールリンスは、ヒドラジンを含まない場合を含む、室温(23℃)の空気中で実施された。処理粒子の外表面に感知できる量の有機物が無いことは、2922cm-1および2852cm-1においてC−H振動が完全に存在しないことを示す、FTIRスペクトルによって確認された。外側に塗布されフィルムに相当量の臭素が存在することは、X線光電子分光法(XPS)とエネルギー分散X線分光分析(EDX)によって確認され、かつ、簡単な計算によって表面陽イオンに対する臭素イオンの比率が略1:1であることが示された。元素分析によって、最初のCdCl2−TDPA−OLAの後で、依然として0.3%のCd陽イオンが、臭素シェルの塗布の後に存在することが確認された。
【0028】
このような2重シェルパッシベート量子ドットを利用する光起電力デバイスが、上記実施例1で記載された同じ方法によって製造された。走査電子顕微鏡は、量子ドット層が約300nmの厚さであり、かつ、層毎の堆積から形成された被膜に往々にして生じるボイドおよびクラックを含まないことを示していた。デバイスの吸収スペクトルは、Auの上部コンタクトからの反射を含むことによって、2重パスとして得られる。9、11および13の量子ドット層を使用して作られたデバイスのスペクトルが図5に示されており、この図は同時にむき出しのFTO/TiO2基板からの対応スペクトルを含んでいる。950nmの吸収ピークはPbS量子ドットの励起子ピークである。このことは、コア量子ドットの量子閉じ込めがシェル構造中に保存されていることを示している。粒子間距離の削減は、最終被膜中の励起子ピークの、溶液中でのドットの励起子ピークに比べてのレッドシフト(〜100meV)によって示唆されている。100mW/cm2の太陽光に露出することによって、デバイスは、0.45Vの開回路電圧(Voc)、21.8mA/cm2の短絡回路電流密度(Jsc)および59%のフィルファクタ(FF)を示し、これによって5.76%のパワー変換効率ηが得られる。量子ドット被膜の正味の吸収のAM1.5Gスペクトル上での積分は、100%量子効率を有する被膜が、24.4mA/cm2の回路電流密度(Jsc)を達成することを示している。これを測定された21.8mA/cm2の回路電流密度(Jsc)と比較すると、400nm−1150nmの全広帯域吸収領域にわたる平均の内部量子効率(IQE)が90%を超えることが示され、最小の再結合損失と効率的なキャリア抽出を示している。
【0029】
2重シェルパッシベート量子ドット被膜のドーピングの密度とキャリアの寿命は、容量−電圧(C−V)およびVoc劣化解析によってそれぞれ決定される。C−V解析は、ドーピングが最も低くドープされた有機リガンドPbSおよびPbSe量子ドット被膜よりも全一桁分低く、図6に示すキャリアの寿命は、二座有機リガンド(配位子)(図6に示す、3−メルカプトプロピオン酸)を用いて作られた制御デバイスの寿命の略2倍の長さであり、100mW/cm2の全太陽光の下においても40μ秒を超える顕著に長い寿命を達成した。
【0030】
2重シェルパッシベート量子ドットではさらに、酸化に対する抵抗性が向上している。図7は、本発明に係る2重シェルパッシベート量子ドットを3−メルカプトプロピオン酸リガンドを担う量子ドットと比較する、電流密度対電圧のプロットであり、それぞれの量子ドットは、フレッシュな場合(製造直後)と研究室のベンチに周囲環境の下で10日間置いたものの両方を示している。2重シェルパッシベート量子ドットは、10日間の間に性能において顕著な変化を示さず、一方、有機リガンド被覆の量子ドットは同じ期間内に完全な効率損失を経験した。
【0031】
臭素イオン以外の陰イオンの内側シェルの有効性を示すために、種々の陰イオンを有する2重シェルパッシベート量子ドットを含むデバイスが製造され、その光起電力性能特性の測定が行われた。陰イオンを担う試薬は、塩化ヘキサトリメチルアンモニウム(HTAC)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、ヨウ化テトラブチルアンモニウム(TBAI)およびチオン酸テトラブチルアンモニウム(TBAT)である。測定されたパラメータは、Jsc(mA/cm2)、Voc(V)、FF(%)、η(%)、シャント抵抗Rshおよび直列抵抗Rs、および整流(フォワードバイアス+1Vおよびリバースバイアス−1V間の電流)であり、これらは以下の表にリストされている。
【表1】
【0032】
添付の特許請求の範囲において、“1つ”または“1個”と言う用語は“1個又はそれ以上”を意味する。ステップまたは要素に先行する場合の用語“含む”およびその変形は、更なるステップまたは要素の付加が任意であって、排他的でないことを意味する。この明細書で引用された全ての特許、特許出願およびその他の公開された参考資料は、参照によってその全体をここに組み入れる。ここに引用された全ての参考資料または全ての一般的な従来技術と、この明細書における明示の開示間の不一致は全て、この明細書の開示を選択して解決されるべきである。これは、言葉或いは句の技術的に理解されている定義と、同じ言葉または句のこの明細書において明示的に提供されている定義との不一致を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7