(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る車両の車体構造の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1には、本発明を採用し得る自動車の車体1を示した。
図1は、車体1を示す斜視図である。
図1に示す自動車の車体1は、エンジン等が配置される前室2、乗員が乗車する乗員室3、及び、荷物等を積載する後室4を有する。つまり、自動車の車体1は、3ボックス構造を有する。
【0020】
乗員室3の下方に敷設されるフロアパネル11の上下には、一対のフロアメンバ(図示せず)とフロアクロスメンバ12とが設けられる。一対のフロアメンバは車体1の前後方向に延在するフレーム状部材である。フロアクロスメンバ12は車体1の左右方向に延在するフレーム状部材である。一対のフロアメンバと複数のフロアクロスメンバ12とは、交差部分で互いに接合される。この接合により、複数の井の字形状を有する井桁構造が形成される。該井桁構造により、乗員室3のフロアパネル11が補剛される。
【0021】
フロアパネル11の前縁には、トーボードパネル13が立設される。トーボードパネル13により、乗員室3と前室2とが仕切られる。
一対のフロアメンバの前端には、一対のフロントサイドメンバ14が接合される。一対のフロントサイドメンバ14は、前室2において前後方向に延在する。前室2において、一対のフロントサイドメンバ14の間には、左右方向に延在するフロントクロスメンバ(図示せず)が架け渡されるようにして固定される。フロントクロスメンバには、左右方向に延在する車軸(図示せず)が取付けられる。車軸は、両端に一対の前輪(図示せず)が装着される。一対の前輪は、トーボードパネル13の前側に配置される。また、複数のフロアクロスメンバ12の各左右両端部には、一対のサイドシル15が接合される。
トーボードパネル13の左右両端部、並びに、一対のサイドシル15及び後述の一対のAピラー17の前方下端部から、これらの部材の前方下側にかけてトルクボックス16が取付けられる。
【0022】
サイドシル15の前端には、略上下方向に立設するAピラー17が接合される。トーボードパネル13における車体1の左右方向の両端部には、一対のAピラー17が接合される。Aピラー17は、サイドシル15との接合部近傍において略上下方向に延在し、上側途中から後方に傾斜するように屈曲して延在する。
Aピラー17における上下方向の略中央部には、フロントアッパメンバ18が接合される。フロントアッパメンバ18はAピラー17から前方向へ延在する。Aピラー17及びフロントアッパメンバ18の下方において、リインフォースメント用の補剛部材19が、Aピラー17及びフロントアッパメンバ18に接合される。Aピラー17の前端は、一対のフロントサイドメンバ14の前端と共に、ラジエータフレーム20に接合される。ラジエータフレーム20の全面には、フロントバンパビーム21が固定される。
【0023】
サイドシル15における前後方向の略中央部には、略上下方向に立設するBピラー22が接合される。また、サイドシル15における前後方向の後方には、略上下方向に立設するCピラー23が接合される。Aピラー17の上端とCピラー23の上端との間には、前後方向に延在するルーフサイドレール24が接合される。Bピラー22の上端は、ルーフサイドレール24の略中央部に接合される。一対のルーフサイドレール24の間には、車体1の幅方向に延在するルーフクロスメンバ25が設けられる。
Aピラー17には、フロントドア(図示せず)が開閉可能に取付けられる。フロントドア内には、フロントドアビーム及びフロントドアクロスメンバ等が設けられる。Bピラー22には、リアドア(図示せず)が開閉可能に取付けられる。リアドア内には、リアドアビーム及びリアドアクロスメンバ等が設けられる。
なお、車両のドアの開閉形態がフロントドア及びリアドアにおいて逆方向に回動する形態である場合、つまりいわゆる観音開きである場合、リアドアはCピラー23に取付けられることになる。
【0024】
フロアパネル11の後端には、リアバルクヘッドパネル26が立設される。リアバルクヘッドパネル26により、乗員室3と後室4とが仕切られる。リアバルクヘッドパネル26における車体1の幅方向の両端縁部には、左右一対のCピラー23が接合される。
一対のサイドシル15の後端には一対のリアサイドメンバ(図示せず)が接合される。一対のリアサイドメンバは、リアバルクヘッドパネル26から後方へ突出する。一対のリアサイドメンバの後端部に、リアバンパビーム(図示せず)が固定される。
【0025】
図1の骨格構造を有する車体1は、例えばトーボードパネル13等を有するセンタストラクチャ6において車体1の幅方向両端部に、Aピラー17等を有するサイドストラクチャ7を左右からそれぞれ接合することにより、製造し得る。また、
図1に示す骨格構造を有する車体1に対して、例えばボンネットフード板、左右のフェンダー板、トランクリッド板、及びルーフ板等外板を接合することにより、自動車の車体1が完成する。これにより、自動車の前室2、乗員室3及び後室4が画成される。
なお、センタストラクチャ6又はサイドストラクチャ7における複数の骨格部材は、スポット溶接又はレーザ溶接等による点付け溶接により接合することができる。例えば、トーボードパネル13とAピラー17との接合は、スポット溶接又はレーザ溶接等により達成される。
【0026】
図2は、
図1の車体の製造に用いられるセンタストラクチャ6の一部を示す分解斜視図である。
図2には、センタストラクチャ6を構成する部材として、トーボードパネル13及びダッシュパネル27が示されている。ダッシュパネル27は、トーボードパネル13の上縁に接合される。トーボードパネル13及びダッシュパネル27の接合体は、
図1に示した車体1の前室2と乗員室3とを仕切る壁部材となる。なお、トーボードパネル13は、本発明における仕切りパネルの一例である。
センタストラクチャ6は、車体1の幅方向の略中央部に配置される。
【0027】
また、トーボードパネル13は、例えば一枚の金属板をプレス成型等によって適宜の形状を有するようになった成型体である。トーボードパネル13は、車体1の幅方向両端、つまり左右両端部に、一対の内フランジ部31を有する。内フランジ部31は、トーボードパネル13の左右両端部において、それぞれ上下方向に延在する。内フランジ部31は、センタストラクチャ6において、トーボードパネル13の両端から前方に突出する。
【0028】
図3は、車体1の製造に用いられるサイドストラクチャ7の部分斜視図である。
図3には、サイドストラクチャ7を構成する部材として、Aピラー17、サイドシル15、フロントアッパメンバ18、及び、リインフォースメント用の補剛部材19が示されている。なお、Aピラー17及びサイドシル15は、本発明におけるサイドパネルの一例である。
サイドシル15の前端に、略上下方向に立設するAピラー17が接合される。Aピラー17の高さ方向の略中央部には、フロントアッパメンバ18が接合される。フロントアッパメンバ18とAピラー17との間に、リインフォースメント用の補剛部材19が接合される。
サイドストラクチャ7は、センタストラクチャ6の左右両端縁に沿って立設することにより、車体1の側面部を形成する。
【0029】
また、Aピラー17は、外フランジ部32を有する。外フランジ部32は、上下方向に延在するAピラー17の前縁において略上下方向に延在する。外フランジ部32は、サイドストラクチャ7において、Aピラー17の前縁から前方へ突出する。
【0030】
続いて
図4を参照しつつ、
図1に示す車体1において、センタストラクチャ6とサイドストラクチャ7とを接合する製造工程を説明する。
図4は、
図1のX―X面で切断した場合のトーボードパネル13及びAピラー17を示した断面概略図である。
図4のAピラー17は、内側サイドパネル33及び外側サイドパネル34を有する。Aピラー17は、図示しない後方において内側サイドパネル33と外側サイドパネル34とが接合されることにより、中空の角材となる。
【0031】
内側サイドパネル33は、例えば一枚の金属板を成型した成型体であり、第1外フランジ部35を有する。第1外フランジ部35は、上下方向に延在する内側サイドパネル33の前方縁辺部である。第1外フランジ部35は、内側サイドパネル33の一部であるので、上下方向に延在する。
【0032】
外側サイドパネル34は、例えば一枚の金属板を成型した成型体であり、第2外フランジ部36を有する。第2外フランジ部36は、上下方向に延在する外側サイドパネル34の前方縁辺部である。第2外フランジ部36は、外側サイドパネル34の一部であるので、上下方向に延在する。
図4に示すAピラー17においては、重ねられた第1外フランジ部35及び第2外フランジ部36により、Aピラー17の外フランジ部32が形成される。
【0033】
なお、サイドストラクチャ7の剛性が低下しない限り、上記内側サイドパネル33と上記外側サイドパネル34とは一枚の鋼板であっても良い。具体的には、一枚の鋼板が
図4に図示しない後方において折曲され、鋼板の一端縁辺部が第1外フランジ部と成り、他端縁辺部が第2外フランジ部と成り、上記Aピラー17の外フランジ部32と同様に、重ねられた第1外フランジ部及び第2外フランジ部により外フランジ部が形成されるようになっていても良い。
【0034】
センタストラクチャ6とサイドストラクチャ7とを接合する場合、
図4(A)に示すように、先ずセンタストラクチャ6のトーボードパネル13に近接させてサイドストラクチャ7のAピラー17を配置する。このとき、内フランジ部31と外フランジ部32とを重ね合わせる。
【0035】
次に、
図4(B)に示すように、トーボードパネル13の内フランジ部31とAピラー17の外フランジ部32とを重ねた状態で、スポット溶接等によって接合する。これにより、トーボードパネル13の内フランジ部31とAピラー17の外フランジ部とを接合した接合部37が形成される。
なお、スポット溶接等で内フランジ部31と外フランジ部32とを接合する場合、スポット溶接による複数の接合点は、一定の間隔を離散的に形成される。
【0036】
次に、
図4(C)に示すように、構造体381を配置する。構造体381は、トーボードパネル13の乗員室3側に配置される。構造体381はトーボードパネル13を後方から支持することによって、トーボードパネル13の大きな変形又は破断を抑える部材である。構造体381の配置箇所は、車体1の幅方向において接合部37よりも内側である。なお、本発明に係る車両の車体構造において構造体の配置箇所は、トーボードパネル13等の仕切りパネルを後方から支持可能である限り特に制限されない。
なお、
図4(C)においては、車体1の左側接合部37に取付けられて成る構造体381を示している。もっとも、車体1の右側接合部にも同様の構造体381を取付けることができる。つまり、本実施形態においては、構造体381は、車体1の左右両側に設けることのできる一対の部材である。
以上により、センタストラクチャ6とサイドストラクチャ7とが接合され、かつ構造体381が取付けられて成る、従来よりも更に衝突安全性能が向上した車体1が製造される。
【0037】
なお、本発明においては、構造体を配置する工程、及び、内フランジ部と外フランジ部とを接合する工程は、いずれを先に実行しても良い。
構造体を配置する工程を先ず実行する場合、具体的には、先ずセンタストラクチャ6のトーボードパネル13に近接させてサイドストラクチャ7のAピラー17を配置する。更に、内フランジ部31と外フランジ部32とを重ね合わせた状態で、センタストラクチャ6及びサイドストラクチャ7を保持する。内フランジ部31と外フランジ部32とが未接合である状態で、左右一対のサイドストラクチャ7に掛け渡すようにして横骨部材を取付ける。次いで、横骨部材に構造体を取付ける。これにより、構造体を配置する工程が完了するので、内フランジ部31と外フランジ部32とを接合して接合部37を形成することができる。
【0038】
構造体381の材料としては、例えば衝突に係る応力がトーボードパネル13を介して構造体381に作用しても容易には変形及び破断しない、又はし難い材料であるのが好ましく、高い剛性を有しているのが良い。具体的には、
図1に示した車体1の構成部品のうち、高い剛性を有する骨格部材、例えばAピラー17及びサイドシル15等の材料と同一の材料により、構造体381を形成しても良い。
【0039】
続いて示す
図5は、
図4(C)に示した実施形態の部分拡大斜視図である。
図5に示すように、トーボードパネル13とAピラー17との接合部37は、リインフォースメント用の補剛部材19よりも下側の部分において、前方に突出して露出している。なお、
図5は車体の左方からの外観図であるので、トーボードパネル13よりも乗員室3側に設けられる上記構造体381は図示していない。
なお、構造体381は接合部37及びリインフォースメント用の補剛部材19に干渉しない位置に設けられるので、補剛部材19とAピラー17との接合状態に対して、構造体381が影響を与えることがない。つまり、本発明においては、補剛部材19によるフロントアッパメンバ18の補剛性能を劣化させることなく、脱落した前輪が当たる可能性が高い接合部37を覆うように構造体381を取付けることができる。
【0040】
図6は、トーボードパネル13、及びその周辺に配置される部材の断面概略図である。
図6に示すように、トーボードパネル13によって、前方に前室2が画成され、後方に乗員室3が画成される。
前室2には、前方に延在するフロントアッパメンバ18と、リインフォースメント用の補剛部材19とが設けられている。
乗員室3には、トーボードパネル13と、インストルメントパネル39と、ステアリングサポートビーム40と、ステアリングホイール41と、接続部材42と、構造体381とが設けられている。トーボードパネル13の後方には、乗員が操作可能な機器類を収容する領域が設けられる。インストルメントパネル39は、該領域を覆う部材であり、樹脂等によって成型されることが多い。ステアリングサポートビーム40は、インストルメントパネル39の内部に収容される部材の一つである。ステアリングサポートビーム40は、左右方向に延在し、中空の略円筒形状を成すフレーム状部材である。ステアリングサポートビーム40は、その両端部が、車体1の左右に設けられる一対のAピラー(
図6には図示せず)に固定的に接続される。ステアリングホイール41は、車両の前後進時の方向を操作する部材である。ステアリングホイール41は、適宜の部材が組合されて成る接続部材42を介してステアリングサポートビーム40に接続される。
図6には図示していないが、ステアリングホイール41を操作すると、車輪に操作内容が伝達され、車輪が操作内容を反映した方向に向くように、種々の連結部材が組付けられている。
なお、ステアリングサポートビーム40は、本発明における乗員室内で左右方向に延在する横骨部材の一例である。
【0041】
構造体381は、ステアリングサポートビーム40に接続される。構造体381は、緩衝部43及び支持部441を有する。緩衝部43は、ステアリングサポートビーム40から垂下する。支持部441は、緩衝部43の下端部から前方に向かって延在し、トーボードパネル13を支持する。もっとも、本発明において構造体は、乗員室側に固定されていれば良く、運転に支障がない限り乗員室内の固定された横骨部材に接続されるのが良い。緩衝部43及び支持部441の機能については、
図9についての説明と共に後述する。
なお、
図6に示す緩衝部43は、ステアリングサポートビーム40から略鉛直に垂下しているが、本発明においてはステアリングサポートビームから前方又は後方に傾斜して延在していても良い。また、
図6に示す支持部441は、緩衝部43の下端部から前方下側に傾斜して延在しているが、本発明においては端部ではなく側方から分岐するように前方水平方向に延在していても良い。また、構造体381は緩衝部43と支持部441との間で屈曲されて成る屈曲部材であるが、本発明においては緩衝部と支持部とが曲面で接続される湾曲部材であっても良い。更に、本発明においては、構造体は緩衝部43を設けること無く、ステアリングサポートビーム40等の固定物から仕切りパネルの乗員室側の面に向かって直線的に延在する棒状部材又は中空のフレーム状部材であっても良い。
支持部441の前端部は、トーボードパネル13の乗員室側の面、つまりトーボードパネル13の後方面に当接している。よって、破線で示した前輪FTが衝突時に脱落して白抜き矢印の方向に押し込まれたとしても、構造体381がトーボードパネル13を後方から支持する。
【0042】
なお、本発明においては、例えば構造体の端部と仕切りパネルの乗員室側の面とを接合しても良く、構造体の端部と仕切りパネルとの間に間隙を設けても良い。本発明において好ましくは、構造体の端部と仕切りパネルの乗員室側の面とを当接させる又は接合するのが良い。例えば
図6に示す実施形態のように、構造体381における支持部43の前端部とトーボードパネル13の乗員室側の面とを当接させると、支持部43の前端部とトーボードパネル13の乗員室側の面とが常に接触状態となる。該接触状態であると、車輪FT等がトーボードパネル13に対して押し込まれるときに、間隙を設けて構造体381を配置する場合に比べて、トーボードパネル13が乗員室側に変形して構造体381に勢いを以って接触することが無い。よって、トーボードパネル13には、構造体381に対して非接触状態から接触状態となる際の応力、衝撃、損傷、変形等が生じない。換言すると、予め構造体381をトーボードパネル13に対して接触状態としておくことによって、トーボードパネル13に作用する意図しない応力及び衝撃等を低減することができる。構造体の前端部と仕切りパネルの乗員室側の面とを接合する場合も同様に、仕切りパネルに作用する意図しない応力及び衝撃等を低減することができる。該意図しない応力及び衝撃等としては、例えば通常の走行時等に生じる応力及び衝撃等ではなく、仕切りパネルが乗員室側に大きく変形又は破断し得る応力及び衝撃等を挙げることができる。
図4(C)及び
図6においては、車体1の左側の構造体381のみを示しているが、右側にも同様の構造体381を取付けることができる。つまり、構造体381は、左右両側に設けられる一対の部材である。
【0043】
更に、構造体の端部と仕切りパネルの乗員室側の面とを接合すると、構造体に対する仕切りパネルの位置が固定される。基本的に構造体は応力及び衝撃等を受けても基本的に不動であるのに対して、仕切りパネルは変形し得る。仕切りパネルが変形すると、仕切りパネルにおいて構造体の端部が近接又は臨んでいた部位と、構造体の端部との位置関係がずれることになる。構造体に対する仕切りパネルの位置が固定されると、この位置関係はずれない又はずれ難くなる。位置関係がずれない又はずれ難いと、車輪等が仕切りパネルに対して押し込まれることによって仕切りパネルが変形しようとしても、構造体が仕切りパネルの変形を抑制する。なお、上記位置関係がずれようとする場合、構造体と仕切りパネルとの接合部位には剪断方向に応力が作用する。車両の製造に用いられることの多いスポット溶接によって形成される接合部位は、良好な耐剪断性能を有している。よって、構造体と仕切りパネルとを接合する場合は、スポット溶接によって接合すると、仕切りパネルの変形のし難さを向上させることができる。
構造体の端部と仕切りパネルの乗員室側の面とを接合する場合、構造体と仕切りパネルとの接合態様としては、衝突に係る応力が仕切りパネル及び構造体381に作用しても接合自体が破断しない又は破断し難い接合強度を有する態様であるのが好ましく、例えば車両製造時に多用される溶接等を採用することができる。
【0044】
次に、
図1に示した車体1を有する自動車の衝突安全性能について、
図7〜
図9を参照しつつ説明する。
先ず、
図7は、車体1の衝突形態の一例の説明図である。
図7には、
図1に示した車体1を有する第1自動車51と共に、第2自動車52が示されている。
図7において第1自動車51の外形は破線で示されている。
第2自動車52は、例えば停車中の第1自動車51に対して、時速90kmで前方から衝突する。第2自動車52は、第1自動車51の一対のフロントサイドメンバ14より外側、
図7に示した衝突例においては左方フロントサイドメンバ14より左側に衝突する。このような衝突では、第2自動車52により、第1自動車51の前輪FTが車軸から脱落する可能性がある。前輪FTが脱落すると、脱落時に前輪FTに作用した応力が後方に向かう慣性力となる。更に、第2自動車52の車体、並びに、第2自動車52から脱落した部品及び前輪等が、第1自動車51の前輪FTを後方に押し続ける慣性力を有することもある。第1自動車51の脱落した前輪FTは、接合部37を押し潰す可能性がある。
【0045】
続いて示す
図8は、比較例として示す車体の衝突時の断面概略図である。
図8には、
図4(C)において示した構造体381を設けていない。構造体381を設けなかったこと以外は、
図4(C)に示す実施形態と同一の部材を用いているので、同一の参照符号を付すこととし、共通部材の詳細な説明は省略する。
図8に示す衝突形態は、
図7に示した形態で従来の車両が衝突する場合の一例である。
【0046】
先ず、
図8(A)に示すように、脱落した前輪FTが白抜きの矢印方向、つまり後方に移動する。該脱落した前輪FTは、内フランジ部31と外フランジ部32との接合部37に向かって移動している。接合部37は前方に向かって突出し、別部材を付設していないので接合部37に対して干渉物が干渉する場合、該干渉物からの応力が接合部37に直接作用することになる。
【0047】
次いで、
図8(B)に示すように、脱落した前輪FTは、接合部37を破断させる。接合部37が破断すると、内フランジ部31と外フランジ部32との接合状態が解除される。具体的には、一般的に車両の製造に用いられているスポット溶接は、スポット溶接により接合された部材に引き剥がす力を加えると、接合が破断する。更に、一の接合箇所が引き剥がされて破断した場合、隣接する他の接合箇所も連鎖的に引き剥がされて破断することが多い。脱落した前輪FTは、接合部37に対して後方向に応力を作用させることによって、接合部37を押し潰す。接合部37が押し潰されると、内フランジ部31と外フランジ部32とを引き剥がす応力が接合部37に作用する。これにより、接合部37が破断する。
外フランジ部32が形成されて成る内側サイドパネル33及び外側サイドパネル34を有するAピラー17は、車体1の骨格部材の一つであるので高い剛性を有する部材である。よって、外フランジ部32が前輪FTの干渉により変形及び破断したとしても、Aピラー17全体の変形及び破断等は生じ難い又は生じない。例えばAピラー17は、
図8(B)に示すように、外側サイドパネル34の前面が後方に若干押し込まれる程度の変形で留まることがある。
接合部37が変形及び破断し、更にAピラー17が変形しても、脱落した前輪FTの後方に押し込まれる力が維持されている場合、トーボードパネル13に前輪FTが押し込まれる可能性がある。具体的には、
図8(B)に示すように、脱落した前輪FTは、トーボードパネル13を乗員室3内に向かって押し込まれるように移動する。前輪FTが内フランジ部31を変形又は破断させつつ後方に移動し、トーボードパネル13を後方へ押し込むようにして変形させる。脱落した前輪FTの後方へ向かう力が大きい場合、
図8(B)に示すように、乗員室3内に前輪FTの一部が侵入することもある。
【0048】
以上により、例えば
図7に示したような衝突形態の場合は、脱落した前輪FTが、接合部37を破断させ、トーボードパネル13を乗員室3内に向かって変形させ、更に乗員室3内に侵入することがある。
接合部37が破断すると、乗員室3は密閉された箱形状に維持され難くなる。接合部37が破断し、更にトーボードパネル13が変形すると、乗員室3と前室2とが連通することになり、乗員室3は密閉された箱形状に維持されなくなる。
【0049】
ここで、
図9を参照しつつ、本発明に係る車両の車体構造の一実施形態である、
図1の車体1が衝突した場合について説明する。
図9に示す衝突形態は、
図7に示した形態で本発明に係る車両が衝突する場合の一例である。
図9は、
図1に示した車体1の衝突時におけるトーボードパネル13及び左側のAピラー17の接合部37と、構造体381とを示した断面概略図である。
【0050】
図9(A)は、脱落した前輪FTが、内フランジ部31と外フランジ部32との接合部37に対して押し込まれる場合の断面概略図である。
脱落した前輪FTがその慣性力、衝突物の押圧力等によって白抜きの矢印の方向へ移動する場合、前輪FTは、
図9(A)に示すように接合部37に対して押し込まれる可能性がある。
図4(C)にも示したように、本実施形態においては、トーボードパネル13の後方に構造体381が設けられている。具体的には、トーボードパネル13の後方面に対して、構造体381における支持部441の前端部が当接している。
【0051】
図9(B)は、脱落した前輪FTが、接合部37に対して接触し始めた場合の断面概略図である。
図9に示すように、接合部37には別部材を装着しておらず、接合部37が露出している。したがって、脱落した前輪FTが後方に移動すると、接合部37に対して前輪FTが直接接触する。よって、接合部37は、前輪FTから応力を直接受ける。前輪FTが大きな応力を以って押し込まれると、応力を直接受ける接合部37は後方に圧縮されて押し潰される可能性がある。
【0052】
ここで、脱落した前輪FTが接合部37に接触又は接合部37を押し潰しても、押し込まれる前輪FTが停止しない可能性がある。つまり、前輪FTが接合部37に接触し、接合部37に対して後方に向かう応力を作用させても、依然として後方に向かう応力を前輪FTが有している可能性がある。この場合、押し込まれる前輪FTが進行方向を大きく変える態様と、変えない態様とが考えられる。
【0053】
前輪FTが進行方向を大きく変える態様としては、例えば、前輪FTが外側、
図9においては車体1の左側に逸れることによってトーボードパネル13及びAピラー17に応力を及ぼさなくなる場合と、前輪FTが内側に逸れることによってトーボードパネル13に向かう場合と、に大別することができる。
前輪FTが外側に逸れる場合は、車体1に衝突に係る応力が作用しなくなるので好ましい。
また、前輪FTが内側に逸れる場合は、従来であれば
図8(B)に示すように接合部37が破断し、トーボードパネル13が乗員室3に向かって押し込まれる可能性がある。本実施形態では、構造体381がトーボードパネル13を乗員室3側から支持している。よって、前輪FTからトーボードパネル13に対して乗員室3内に向かって作用する応力は、構造体381がトーボードパネル13の後方で受けることとなる。
構造体381に対して応力が作用する場合、
図6にも示したように、トーボードパネル13に近接又は接触する支持部441が応力を受ける。支持部441が応力を受けると、支持部441の後方端部から上方に延在する緩衝部43に対して応力が伝達される。支持部441に対して作用する応力は、その方向が支持部441の軸線に対して平行又は略平行である。これに対して、緩衝部43に対して作用する応力は、その方向が緩衝部43の軸線に対して直交又は略直交であり、少なくとも平行ではない。換言すると、緩衝部43に対して作用する応力の方向は、緩衝部43が後方に撓む方向である。よって、構造体381は、支持部441と緩衝部43とがそれぞれ異なる延在方向を有することにより、支持部441に作用する応力の一部を緩衝部43が撓む方向として受けることができる。緩衝部43が撓る性質を有していれば、支持部441に対して作用した応力は、緩衝部43の後方への撓りによって減衰して、ステアリングサポートビーム40等の固定物に伝達される。ステアリングサポートビーム40は、左右一対のAピラー17に固定的に取付けられることが多い。緩衝部43からステアリングサポートビーム40に対して作用する応力はAピラー17に伝達される。よって、本実施形態においては、構造体381が受ける応力は、支持部441が応力を受け、緩衝部43で減衰され、更にステアリングサポートビーム40及びAピラー17に分散される。
したがって、前輪FTによって接合部37が押し潰されたとしても、トーボードパネル13が乗員室3側に大きく変形又は破断することは無い。つまり、接合部37自体が押し潰される等して破断してしまっても、構造体381によって、特にトーボードパネル13の後方への大きな変形又は破断を防止することができるので、乗員室3が接合部37を起点とした開放状態となることはない、又はなり難い。
【0054】
また、上述した前輪FTが進行方向を変えない態様としては、例えば
図9(C)に示す状態となることが考えられる。
図9(C)は、脱落した前輪FTが、トーボードパネル13及びAピラー17に対して接触し始めた場合の断面概略図である。つまり、前輪FTが、接合部37を押し潰し、更に接合部37を押し潰した方向に移動する態様である。この場合、前輪FTはトーボードパネル13及びAピラー17に応力を作用させる。Aピラー17は、高い剛性を有する骨格部材であるので、大きく変形又は破断し難い。応力が作用し得るトーボードパネル13は、後方から構造体381が支持するので、乗員室3側に大きく変形又は破断しない、又はし難い。この場合おいても、上述したトーボードパネル13に前輪FTが押し込まれる場合と同様に、構造体381が受ける応力は、支持部441が応力を受け、緩衝部43で減衰され、更にステアリングサポートビーム40及びAピラー17に分散される。
よって、前輪FTによって接合部37が押し潰されたとしても、トーボードパネル13が乗員室3側に大きく変形又は破断することは無い。したがって、接合部37自体が押し潰される等して破断してしまっても、構造体381によって、トーボードパネル13の後方への大きな変形又は破断を防止することができるので、接合部37を起点として乗員室3が大きく開放状態となることはない、又はなり難い。換言すると、構造体381を設けることによって、前輪FTが接合部37に直接押し込まれても、接合部37が押し潰される程度で留まり、それ以上の大きな車体1への損傷を防止することができる。
【0055】
接合部37は、車体1に軸支される前輪FTの後ろ側に位置するように設けられている。また、接合部37は、少なくとも前輪FTの回転中心についての後ろ側に位置するように設けられている。本発明において接合部は、上述した前輪FTだけでなく後輪(図示せず)近傍にも設けられる。よって、接合部の位置としては、車輪の前方又は後方、少なくとも車輪の回転中心の前方又は後方となる。車輪に対する接合部のこのような位置は、車輪が脱落した場合、車輪が強い衝撃を以って押し込まれ易い位置である。本実施形態においては、接合部37から延在する部材、特にトーボードパネル13が大きく変形又は破断しないように、構造体381が設けられている。トーボードパネル13が乗員室3側に向かって大きく変形又は破断して乗員室3が開放状態となることを、構造体381によって効果的に防止可能である。
【0056】
トーボードパネル13の大きな変形又は破断は、接合部37を起点として乗員室3が開放状態となる大きな原因の一つである。本実施形態においては、トーボードパネル13の大きな変形又は破断を構造体381によって防止することができる。結果として、乗員室3は、密閉された箱形状に維持され易い。
【0057】
このように本実施形態の車体構造では、特にトーボードパネル13の変形及び破断を効果的に抑え、車両の衝突安全性能を更に高めることができる。
また、本実施形態では、接合部37の溶接作業、及び、構造体381の取付作業は、特殊で大型の専用装置は不要であり、通常の車両製造工程中に用いられる溶接装置等を採用することができる。特に、構造体381の取付作業は、種々の部材が組付けられて成るステアリングサポートビーム40に構造体381を付設するだけであるので、大きな作業工程の変更は不要である。また、構造体381は、インストルメントパネル39及びトーボードパネル13周辺の空いた領域に設置されるので、車体構造の大きな変更も不要である。よって、本実施形態は、既存の車体製造ラインをそのまま利用可能である。また、製造工程の変更を最小限に抑えることができる。
【0058】
上述の実施形態は、センタストラクチャ6のトーボードパネル13に対して、本発明を適用した例である。
この他にも例えば、センタストラクチャ6のリアバルクヘッドパネル26に対して、本発明を適用しても良い。構造体を乗員室側に設けることにより、車体1の後方からの衝突の際に、リアバルクヘッドパネル26とCピラー23との接合部が後輪又は衝突物等が押し込まれることになっても、乗員室3が開放状態となり難くなる。
【0059】
[構造体の変形例]
上述した実施形態においては、構造体381が車体1の幅方向において接合部37よりも内側に配置されていた。本発明に係る車両の車体構造において、構造体は、乗員室側から仕切りパネルを支持する限り様々な形状及び取付位置を採用することができる。
図10(A)〜(C)には、本発明に係る車両の車体構造における構造体の変形例を示した。
図10(A)〜(C)に示した各実施形態と、
図4(C)に示した実施形態との相違点は、構造体の形状、及び取付位置である。該相違点以外は
図4(C)に示した実施形態と同一部材を用いているので、同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0060】
図10(A)には、構造体382を取付けて成る実施形態を示す。
具体的には、
図10(A)に示す構造体382と、
図4(C)に示した構造体381とは、形状は略同一である。構造体382と構造体381との相違点は、設けられる位置である。構造体381が車体1の幅方向において接合部37よりも内側に設けられていたのに対して、構造体382は車体1の接合部37の後方であって、Aピラー17の内側サイドパネル33の内側面に当接して設けられている。
本発明において構造体は、車体の幅方向において接合部よりも内側に配置される態様、及び、接合部の乗員室側であって、サイドパネルに沿って配置される態様の少なくとも一方を採用することができる。
図10(A)に示す実施形態は、構造体が、接合部の乗員室側であって、サイドパネルに沿って配置される態様の一例である。なお、本発明においては、構造体がサイドパネルに沿って配置される態様には、構造体の一部とサイドパネルの一部とが当接又は接合されて成る実施形態も含まれることとする。
構造体382における支持部442は、内側サイドパネル33に沿って延在し、かつ内側サイドパネル33の乗員室3側の面に当接している。
図10(A)には図示していない構造体382の後方、特に支持部442の後端部には、
図6に示した実施形態と同様に緩衝部が接続され、ステアリングサポートビーム40等の固定物に取付けられている。構造体382における支持部442の前端部は、トーボードパネル13の乗員室3側の面に当接している。
【0061】
構造体382はトーボードパネル13だけでなく、Aピラー17の内側サイドパネル33にも当接しているので、トーボードパネル13及び内側サイドパネル33の乗員室3側への大きな変形及び破断を構造体382によって防止することができる。
更に言うと、構造体382は、構造体381と同様に、容易には大きな変形及び破断を生じない材料によって形成されるのが好ましい。つまり、構造体382は内側サイドパネル33に沿って当接する高剛性部材である。また、上述したように、Aピラー17は、車体1の骨格部材であるので、高い剛性を有する。これにより、構造体382の内側端面、特に支持部442の右側面から、Aピラー17の外側端面、特に外側サイドパネル34の左側面までが、一つの高剛性部材とみなすことができる。すなわち、
図10(A)に示す実施形態は、例えば
図4(C)に示す実施形態に対して、支持部442における左右方向の大きさだけ内側に拡大したAピラーが配置されている実施形態であるとみなすことができる。該実施形態は、内側に拡大したAピラーの前方正面に接合部37が配置されている状態となる。したがって、該実施形態は、例えば接合部37に対して脱落した前輪が直接押し込まれた場合に、内側に拡大したAピラーが応力を受ける。高い剛性を有するAピラー17及び構造体382が応力を受けることによって、応力の大部分はAピラー17及び構造体382に分散及び吸収される。これにより、接合部37を起点とした乗員室3の大きな開放状態は生じない又は生じ難いので好ましい。
なお、
図10(A)においては、車体1の左側の構造体382のみを示しているが、右側にも同様の構造体382を取付けることができる。つまり、構造体382は、左右両側に設けられる一対の部材である。
図10(A)に示す実施形態は、脱落する前輪等の車輪が接合部に対して直接押し込まれる衝突形態が主に想定される場合に特に好適である。
【0062】
図10(B)には、構造体383を取付けて成る実施形態を示す。
具体的には、
図10(B)に示す構造体383と、
図4(C)に示した構造体381との相違点は、設けられる位置及び形状である。構造体381が車体1の幅方向において接合部37よりも内側に設けられていたのに対して、構造体383は接合部37の後方であって、Aピラー17の内側サイドパネル33の内側面に当接して設けられている。また、支持部の延在方向及び支持部の先端形状も異なっている。
図10(B)に示す実施形態は、構造体が、接合部の乗員室側であって、サイドパネルに沿って配置される態様の一例である。
構造体383における支持部443は、車体1の幅方向において接合部37よりも内側から接合部37に向かって延在している。支持部443の先端部には、第2支持部453が付設されている。第2支持部453は、断面略L字状の板部材であり、支持部443の前端部に固定的に取付けられている。第2支持部453は、トーボードパネル13の乗員室3側の面と、内側サイドパネル33の乗員室3側の面に当接している。接合部37は上下方向に延在するので、乗員室3側において接合部37に沿って第2支持部443が上下方向に延在するのが好ましい。これにより、脱落した前輪等が、接合部37における上下方向のどの位置に押し込まれたとしても、第2支持部453を介して構造体383が応力を受けることができる。
図10(B)には図示していない構造体383の後方、特に支持部443の後端部には、
図6に示した実施形態と同様に緩衝部が接続され、ステアリングサポートビーム40等の固定物に取付けられている。
【0063】
構造体383はトーボードパネル13だけでなく、Aピラー17の内側サイドパネル33にも当接しているので、トーボードパネル13及び内側サイドパネル33の乗員室3側への大きな変形及び破断を構造体383によって防止することができる。
更に言うと、前輪等から接合部37に対して応力が作用した場合に、構造体383の支持部443が緩衝部としての機能も発揮することができる。詳述すると、第2支持部453の後方に延在する支持部443は、上述したように車体1の幅方向において接合部37の内側から接合部37に向かって延在している。つまり、支持部443は、前後方向に対して傾斜し、かつ外側に向かって延在している。よって、接合部37に対して前輪等が直接押し込まれた場合、先ず、乗員室3内で第2支持部453が応力を受ける。第2支持部453が応力を受けると、第2支持部453が固定的に取付けられて成る支持部443に応力が伝達される。このとき、前後方向に略平行な応力が第2支持部453から支持部443に対して伝達される。支持部443が前後方向に対して傾斜しているので、支持部443に伝達された応力は、支持部443が後方に撓む方向に作用する応力と、支持部443が後方に押し込まれる方向に作用する応力と、に分かれて作用する。よって、支持部443が撓る性質を有していれば、支持部443が後方に撓む方向に作用する応力が減衰した状態で、支持部443の後端部に接続される緩衝部(
図10(B)には図示せず)に対して応力が伝達される。したがって、
図10(B)に示す実施形態は、支持部443が緩衝部と同様の機能を発揮し、更に支持部443に接続される緩衝部においても応力の減衰を図ることができる。第2支持部453に対して作用した応力は、支持部443及び緩衝部43の後方への撓りによって減衰した後に、ステアリングサポートビーム40等の固定物に伝達される。これにより、接合部37を起点とした乗員室3の大きな開放状態は生じない又は生じ難いので好ましい。
なお、
図10(B)においては、車体1の左側の構造体383のみを示しているが、右側にも同様の構造体383を取付けることができる。つまり、構造体383は、左右両側に設けられる一対の部材である。
図10(B)に示す実施形態は、脱落する前輪等の車輪が接合部に対して直接押し込まれる衝突形態が主に想定される場合に特に好適である。
【0064】
図10(C)には、構造体384を取付けて成る実施形態を示す。
具体的には、
図10(C)に示す構造体384と、
図4(C)に示した構造体381との相違点は、形状である。構造体381が棒状を成す支持部441がトーボードパネル13に直接当接していたのに対して、構造体384は支持部444とトーボードパネル13との間に板状部材の第2支持部454が介設されている。
図10(C)に示す実施形態は、構造体が、仕切りパネルにおける乗員室側の面に当接又は接合し、かつ、接合部の乗員室側であって、サイドパネルに沿って配置される態様の一例である。
構造体384における支持部444は、上記構造体381の支持部441と同様に、車体1の幅方向において接合部37よりも内側に配置され、前後方向に対して平行又は略平行である。支持部444の前端部にはトーボードパネル13に沿って上下方向及び左右方向に延在する第2支持部454が付設される。第2支持部454は、トーボードパネル13の乗員室3側の面であって車体1の幅方向における接合部37よりも内側の部位から、接合部37の後方までに亘って当接している。よって、トーボードパネル13において第2支持部454が当接している範囲内に脱落した前輪FT等が押し込まれた場合に、第2支持部454が応力を受けることができる。第2支持部454が受けた応力は、支持部444に伝達される。支持部444が受けた応力は、支持部444の後端部に接続される緩衝部(
図10(C)には図示せず)に伝達される。構造体384の緩衝部が受けた応力は、
図4(C)及び
図6に示した構造体381と同様に、緩衝部が後方に撓む応力と、ステアリングサポートビーム40等の固定物に伝達される応力とに分散される。したがって、構造体384は、
図4(C)に示した実施形態に比べて、トーボードパネル13において広い範囲で応力を受けることができる。これにより、
図4(C)に示した実施形態よりも、トーボードパネル13が乗員室3側に大きく変形及び破断する可能性をより一層低減することができる。つまり、接合部37を起点とした乗員室3の大きな開放状態は生じない又は生じ難いので好ましい。
なお、
図10(C)においては、車体1の左側の構造体384のみを示しているが、右側にも同様の構造体384を取付けることができる。つまり、構造体384は、左右両側に設けられる一対の部材である。
図10(C)に示す実施形態は、脱落する前輪等の車輪が接合部に対して直接押し込まれる衝突形態が主に想定される場合に特に好適である。
【0065】
上述した各実施形態は、3ボックス構造の自動車の車体1に、本発明を適用した例である。
この他にも例えば、1ボックス構造の自動車、2ボックス構造の自動車、トラック、バス、電車、航空機、などの車両において、本発明を適用することができる。特に、車体1のセンタストラクチャ6の幅方向両側に一対のサイドストラクチャ7を接合することにより製造される車両においては、本発明を好適に適用できる。
【0066】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により、本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。