特許第6360909号(P6360909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6360909二液型防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚基材および防汚基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6360909
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】二液型防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚基材および防汚基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20180709BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20180709BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20180709BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20180709BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20180709BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20180709BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20180709BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C09D4/02
   C09D7/61
   C09D7/63
   C09D5/16
   B05D5/00 H
   B05D7/24 302P
   B32B27/18 Z
   B32B27/30 A
【請求項の数】13
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-560239(P2016-560239)
(86)(22)【出願日】2015年11月17日
(86)【国際出願番号】JP2015082257
(87)【国際公開番号】WO2016080391
(87)【国際公開日】20160526
【審査請求日】2017年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-233902(P2014-233902)
(32)【優先日】2014年11月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】仁井本 順治
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−251598(JP,A)
【文献】 特開2000−144042(JP,A)
【文献】 特開2000−129073(JP,A)
【文献】 特開2010−235792(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/108985(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/073580(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/074656(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00〜201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(メタ)アクリルエステルを含有する第一成分と、
(B)アミノ基含有化合物を含有する第二成分と、
第一成分、第二成分のいずれかに(C)防汚剤を含有し、
前記(A)(メタ)アクリルエステル、(B)アミノ基含有化合物のいずれかまたは双方にエーテル構造を有し、(A)(メタ)アクリルエステルの総重量中、3官能以上の(メタ)アクリルエステルを50重量%以上含有し、かつ、(B)アミノ基含有化合物が(A)(メタ)アクリルエステル100重量部に対して20〜100重量部であり、かつ船舶、漁業資材、水中構造物および海洋土木工事の汚泥拡散防止膜からなる群から選ばれる基材用の二液型防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記(C)防汚剤が、亜酸化銅、ピリチオン金属塩、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−S-トリアジン、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル、メデトミジンの中から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の二液型防汚塗料組成物。
【請求項3】
さらに、(D)その他樹脂成分として、テルペンフェノール、ケトン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、エポキシ樹脂、加水分解樹脂、ロジン/ロジン誘導体化合物の中から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の二液型防汚塗料組成物。
【請求項4】
さらに(E)体質顔料を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の二液型防汚塗料組成物。
【請求項5】
さらに(F)顔料分散剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の二液型防汚塗料組成物。
【請求項6】
さらに(G)着色剤を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の二液型防汚塗料組成物。
【請求項7】
さらに(H)脱水剤を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の二液型防汚塗料組成物。
【請求項8】
さらに(I)可塑剤を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の二液型防汚塗料組成物。
【請求項9】
前記二液型防汚塗料組成物の揮発性有機化合物の含有量が400g/L以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の二液型防汚塗料組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の二液型防汚塗料組成物を硬化させて得られることを特徴とする防汚塗膜。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の二液型防汚塗料組成物を、船舶、漁業資材、水中構造物および海洋土木工事の汚泥拡散防止膜からなる群から選ばれる基材に塗布あるいは含浸させた後、該組成物を硬化させて得られることを特徴とする防汚基材。
【請求項12】
前記基材が水中構造物、船舶または漁具である、請求項11に記載の防汚基材。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物を、船舶、漁業資材、水中構造物および海洋土木工事の汚泥拡散防止膜からなる群から選ばれる基材に塗布または含浸させる工程と、塗布または含浸させた該組成物を硬化させる工程と、を備えることを特徴とする防汚基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二液型防汚塗料組成物、該防汚塗料組成物からなる防汚塗膜、防汚基材およびその防汚基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、水中構造物、漁網などにおいて、水中に長期間さらされる基材の表面には、カキ、イガイ、フジツボ等の動物類、ノリ等の植物類、およびバクテリアなど各種水棲生物が付着しやすい。これらの水棲生物が基材表面で繁殖すると、船舶の表面粗度が増加して速度の低下および燃費の拡大を招き、また、基材表面に塗布された防食用塗膜が損傷して、水中構造物の強度や機能の低下や、寿命の著しい短縮化といった被害が生ずるおそれがある。また、養殖網や定置網等の漁網に水棲生物が付着、繁殖すると網目の閉塞による漁獲生物の酸欠致死等重大な問題を生じることがある。また、火力、原子力発電所等の海水の給排水管に水棲生物が付着、繁殖すると冷却水の給排水循環に支障をきたすことがある。このような水棲生物の付着を防止するために基材表面に塗布して用いる各種防汚塗料の研究、開発が進められている。
【0003】
また、昨今の大気汚染防止法の改正、環境問題の観点から、防汚塗料の分野では、長期耐用の防汚性能を有すること(長期防汚性)及び塗り替え作業を減らすことに加えて、塗料中のVOC含有量を低減させることが求められている。
【0004】
従来の防汚塗料ではアクリル樹脂骨格の銅および亜鉛の金属塩含有樹脂、アクリル樹脂骨格のケイ素エステル樹脂などの加水分解性樹脂が使用されているが、それら樹脂は粘度が高く、実用的な乾燥性、強度を維持するため高分子に設計する必要がある。
【0005】
よって、これらの樹脂を使用する塗料組成物は、塗装作業に支障の無い適正な塗料粘度に調整するために有機溶剤を多量に添加する必要があり、塗料の揮発性有機化合物(以下、VOC:Volatile Organic Compounds)含有量を低減させることは困難であった。
【0006】
そこで新たな樹脂の使用が望まれていた。
【0007】
たとえば、特許文献1には、マイケル付加反応供与体とマイケル付加受容体による親水性部分を含むコーティング材料の記載がある。かかる特許文献1の実施例では超分岐ポリエステルアミンアクリレートが開示されている。そして、特許文献1の組成物ではUV照射による硬化方法により造膜すると記載がある。通常船舶塗装はUV硬化方法、強熱乾燥などの乾燥方法は適応されず、塗装時の環境温度でそのまま乾燥させるため特殊乾燥方法を採用する本組成物では実用性が無い。また、医療用途を主目的としたクリヤー膜であり、顔料成分、防汚剤成分を含有していないため本組成物は強度が弱い。そのため船体水流に耐えうる膜の強度を有しておらず、また海洋生物に対する防汚力も不足しており、船舶用防汚塗料への展開としては実用性が無い。
【0008】
特許文献2には、マイケル付加反応による塗膜の形成による処方が記載されている。単官能アクリルエステルとアミンを反応させアミン硬化剤を合成し、それをエポキシ樹脂とさらに反応させて塗膜形成する。ここで使用されているアクリルエステルは単官能のものでかつ加水分解性基(トリイソプロピルシリルアクリレート)を含有するものに限定されている。多官能アクリルエステルを使用するとゲル化が起こり流動性のあるアミン硬化剤を合成できないためである。本処方の塗膜形成時の反応機構はエポキシ/アミン硬化系そのものであり環境温度10℃以下では低温硬化性が不良であり、塗膜強度、耐水性に問題がある。
【0009】
また、特許文献3には、(A)分子中に少なくとも2個以上の環状カルボン酸無水物基を含む無水物一官能ポリマーおよび(B)アミン官能ポリマーを含む被覆組成物が開示されており、特許文献3には、マイケル付加反応の記載がある。しかしながら、酸無水物を反応系に組み込むなどの内容があり、環境温度10℃以下では低温硬化性が不良であり、本発明のように多官能アクリルエステルとアミンを直接反応させ低温硬化性を発現し良好な塗膜物性を確保する反応機構とは技術的着目点が異なる。
【0010】
船舶などの海洋構造物は巨大な構造物であり、塗装は屋外の自然環境下で行われ、強熱乾燥やUV硬化で乾燥性を発現する塗料では対応できないのが現状であり、自然環境温度領域で乾燥する塗料が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2012-521472号公報
【特許文献2】特開2010-235792号公報
【特許文献3】特表平04-506537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このようにマイケル付加反応を使用して得られた重合体は公知であるが、船舶などの海洋構造物への防汚塗料の適用を主眼にし、特に低温域の自然環境温度で良好な乾燥性を発現するという点で、どのような構成を採用すればよいのか、全く知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、上記課題を解決すべく、検討されたものが本発明であり、
(A)3官能以上の(メタ)アクリルエステルを必須成分として所定量含有する第一成分、(B)アミンを含有する第二成分の2液からなり、第一成分、第二成分のいずれかに(C)防汚剤成分を含有し、(A)(メタ)アクリルエステル、前記(B)アミンのいずれかまたは双方にエーテル構造を有するもののマイケル付加反応により造膜される二液型防汚塗料組成物にすることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
[1](A)(メタ)アクリルエステルを含有する第一成分と、
(B)アミノ基含有化合物を含有する第二成分と、
第一成分、第二成分のいずれかに(C)防汚剤を含有し、
前記(A)(メタ)アクリルエステル、(B)アミノ基含有化合物のいずれかまたは双方にエーテル構造を有し、(A)(メタ)アクリルエステルの総重量中、3官能以上の(メタ)アクリルエステルを50重量%以上含有し、かつ、(B)アミノ基含有化合物が(A)(メタ)アクリルエステル100重量部に対して20〜100重量部であり、かつ船舶、漁業資材、水中構造物および海洋土木工事の汚泥拡散防止膜からなる群から選ばれる基材用の二液型防汚塗料組成物。
[2]前記(C)防汚剤が、亜酸化銅、ピリチオン金属塩、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−S-トリアジン、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル、メデトミジンの中から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]の二液型防汚塗料組成物。
[3]さらに、(D)その他樹脂成分として、テルペンフェノール、ケトン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、エポキシ樹脂、加水分解樹脂、ロジン/ロジン誘導体化合物の中から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]または[2]の二液型防汚塗料組成物。
[4]さらに(E)体質顔料を含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかの二液型防汚塗料組成物。
[5]さらに(F)顔料分散剤を含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の二液型防汚塗料組成物。
[6]さらに(G)着色剤を含有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の二液型防汚塗料組成物。
[7]さらに(H)脱水剤を含有することを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の二液型防汚塗料組成物。
[8]さらに(I)可塑剤を含有することを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の二液型防汚塗料組成物。
[9]前記二液型防汚塗料組成物の揮発性有機化合物の含有量が400g/L以下であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載の二液型防汚塗料組成物。
[10][1]〜[9]のいずれかに記載の二液型防汚塗料組成物を硬化させて得られることを特徴とする防汚塗膜。
[11][1]〜[9]のいずれかに記載の二液型防汚塗料組成物を、船舶、漁業資材、水中構造物および海洋土木工事の汚泥拡散防止膜からなる群から選ばれる基材に塗布あるいは含浸させた後、該組成物を硬化させて得られることを特徴とする防汚基材。
[12]前記基材が水中構造物、船舶または漁具である、[11]に記載の防汚基材。
[13][1]〜[9]のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物を、船舶、漁業資材、水中構造物および海洋土木工事の汚泥拡散防止膜からなる群から選ばれる基材に塗布または含浸させる工程と、塗布または含浸させた該組成物を硬化させる工程と、を備えることを特徴とする防汚基材の製造方法。
【0014】
本発明の二液型防汚塗料組成物は、塗工時に、アクリルエステルとアミン化合物のマイケル付加反応により塗膜が形成される機構である。通常のエポキシ樹脂とアミン化合物の反応膜、またアクリルエステルとアミンの反応物は耐水性が高すぎ、たとえ防汚剤成分を添加しても耐水性が高いために防汚剤の徐放作用がなく防汚性を発現しない。そこで本発明はアクリルエステル、アミンのいずれかまたは双方にエーテル成分を導入することによって親水性になる塗膜を形成し、その親水性の作用により防汚剤の徐放性と塗膜消耗性の双方を発現し長期防汚性を確保する機構に着目し、従来の防汚塗料より大幅に低VOC化が可能となる防汚塗料および基材の防汚方法に関する発明である。
【0015】
なお、特許文献1は、生体関連のUV硬化クリアー膜親水性ゲルを意図するものである。かかる処方ではUV硬化などの特殊な硬化方法が必要であり、船舶塗装では実用性がない。また、防汚剤成分を添加していないクリヤー膜では海洋生物に対する防汚効果が圧倒的に不足しており、船舶用途では強い水流をうけるとともに、海洋生物、例えばフジツボなどは塗膜に食い込むために、それらに耐えうる膜の強度が要求される。このような膜強度や耐久性にはついてどのようにすればよいのか特許文献1は示唆しない。したがって特許文献1記載の硬化膜では船舶防汚用途では実用性がない。
【0016】
また、特許文献2は、従来の加水分解性基(トリイソプロピルシリルアクリレート)による防汚効果を狙っており、従来の加水分解型防汚塗料の防汚機構と同じである。これに対し、本発明は加水分解性基(トリイソプロピルシリルアクリレート)を含有することなく、また多官能アクリルエステルとアミンを直接反応さる塗膜形成方法を利用したもので、良好な低温硬化性を発現する。またポリエーテル成分を導入した親水性塗膜による防汚剤の徐放、塗膜研掃性による防汚性発現であり、従来型の加水分解型防汚塗料とは全く違う防汚機構であり技術的着目点が異なる。
【0017】
本発明のように多官能(メタ)アクリルエステルとアミンの直接反応を利用して造膜させ、その樹脂骨格にポリエーテル成分を組み込み、親水性膜を形成させて、防汚剤成分の徐放性、塗膜消耗性による長期防汚性を発現させかつ幅な低VOC化を達成できる防汚剤組成物を評価したものは過去に全く知られていない。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、3官能以上の(メタ)アクリルエステルを必須成分として所定量含む第一成分と、アミンを含有する第二成分からなり、いずれかの成分に防汚剤が含まれてなる二液型防汚塗料組成物である。多官能以上の(メタ)アクリルエステル、アミンのいずれかまたは双方にポリエーテル構造を有する成分を、2液混合による塗工時にマイケル付加反応により造膜させ、親水性を付与させた塗膜を形成させる。ポリエーテル成分は親水性であるため塗膜表面は海水に接触すると膨潤し、水流によって塗膜が研掃され消耗性が発現される。同時に塗膜中の防汚剤成分が海水中に徐放され、優れた消耗持続性、海洋生物に対する長期防汚性を発現することを可能としている。
【0019】
また、本発明の組成物は低温環境温度でも十分な硬化性を有し、塗膜強度にも優れている。このため強熱乾燥、UV照射などの特殊な強制乾燥方法を必要とせず、低温から常温まで自然環境温度域で良好な乾燥性を発現するため船舶用途の塗料としては実用性のあるものである。また本発明は低粘度の多官能(メタ)アクリルエステルと低粘度アミンを使用するため、塗料初期粘度を低く設定でき、スプレーでの塗装作業性を損なうことなくVOC値を400g/L以下に大幅に低減することができる。またベンジルアルコール、反応性希釈剤のような低粘度のものを併用すると実質的に揮発成分を含有しない防汚塗料組成物も可能である。トリクレジルフォスヘートのような低粘度の可塑剤を併用すると揮発成分を含有しない防汚塗料組成物も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[二液型防汚塗料組成物]
<(A)(メタ)アクリルエステル>
(メタ)アクリルエステルとは、アクリル酸、メタクリル酸からエステル変性された化学構造をもち、そのアクリロイル基、メタアクリロイル基(α、β−不飽和カルボニル基)を有するものである。本発明では、(メタ)アクリルエステルにエーテル結合を有するもの、あるいは有さないものが、後述するアミン化合物のエーテル構造と組み合わせて使用される。
【0021】
本発明で使用される(メタ)アクリルエステルは、官能基数2〜6の多官能基を含有する化学構造のものである。また、防汚塗料組成物はアミンなどのカルバニオンまたはその他の求核剤と共役付加反応するマイケル付加反応性を有する。
【0022】
その中でエーテル構造を有する2官能基のものとしては、
ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、アルコキシ化ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エトキシ化(4)ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化(4)ビスフェノールAジアクリレート等、
3官能基のものとしては、
エトキシ化(9)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化(6)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化(6)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化(3)グリセリルトリアクリレート、エトキシ化(15)トリメチロールプロパントアクリレート等、
4官能基のものとしては、
エトキシ化(4)ペンタエリスリトールテトラアクリレート等があり、
具体的な製品としては、SR230(ジエチレングリコールジアクリレート/2官能)、SR502(エトキシ化(9)トリメチロールプロパントリアクリレート/3官能)、SR494(エトキシ化(4)ペンタエリスリトールテトラアクリレート/4官能)(いずれもサートマー製)が代表的なものであり、以下の化学構造をもつ。
【0023】
【化1】
【0024】
【化2】
【0025】
【化3】
一方、エーテル構造を有さない2官能基のものとしては、
1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレートドデカンジアクリレート等、
3官能基のものとしては、
トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等、
4官能基のものとしては、
ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレー等、
5官能基のものとしては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等、
6官能基のものとしては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等
がある。
【0026】
具体的な製品としては、SR212(1.4-ブタンジオールジアクリレート/2官能)、SR351S(トリメチロールプロパントリアクリレート/3官能)、SR295(ペンタエリスリトールテトラアクリレート/4官能)など(いずれもサートマー製)が代表的なものであり、以下の化学構造をもつ。
【0027】
【化4】
【0028】
【化5】
【0029】
【化6】
上記(メタ)アクリルエステルには、単官能の(メタ)アクリルエステルが含まれていてもよい。
【0030】
これらの多官能(メタ)アクリルエステルのうち官能基数が3以上であるものが反応性に優れ低温域での塗膜硬度の立ち上がりが早く、実用強度を早期に発現する。
【0031】
逆に2官能以下のものは反応性が低く、特に低温では塗膜形成時間がかなり長くなり強度もでないため実用性がない。また耐水性が低すぎるため、塗膜が海水中に没水されると、膨れや剥離などの問題が発生する可能性がある。
【0032】
従って、(A)(メタ)アクリルエステルの総重量中、3官能以上の(メタ)アクリルエステルを50%重量以上、好ましくは70重量%以上含有することが実用的であり好ましい。2官能以下の(メタ)アクリルエステルが50重量%以上含まれると、乾燥性、耐水性が悪くなることもある。
【0033】
前記(A)(メタ)アクリルエステルは、1種であってもよく2種以上であってもよい。
<(B)アミノ基含有化合物>
アミノ基含有化合物としては、活性水素があり、(メタ)アクリルエステルとマイケル付加反応しうる汎用的なアミン系硬化剤が使用可能であり、脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、脂環式アミン系硬化剤のいずれのポリアミンも適用できる。
【0034】
それらの中で、エーテル構造を有する化合物としては、ポリオキシプロピレンアミンが代表的であり、ジェファーミンD230(2官能/Mn200)、ジェファーミンD400(2官能/Mn400)、ジェファーミンT403(3官能/分子量Mn400)(いずれもハンツマン製)が代表的なものであり、以下の構造をもつ。
【0035】
【化7】
Rは、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であり、炭化水素基としては、メチル基、エチル基などが挙げられる。
一方、エーテル構造を有さず、2官能基をもつものとして、
脂肪族アミンとしては、テトラキス(2−アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3−ビス(2'−アミノエチルアミノ)プロパン、トリエチレン−ビス(トリメチレン)ヘキサミン、ビス(3−アミノエチル)アミン、ビスヘキサメチレントリアミン[H2N(CH2n NH(CH2n NH2 、n=6]等、
芳香環を含む脂肪族系のアミン類としては、例えば、o−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン(MXDA)、p−キシリレンジアミン、2,4,6−トリス(3−アミノメチルフェニルメチルアミノメチル)フェノール等、
脂環式アミンとしては、4−シクロヘキサンジアミン、4,4'−メチレンビスシクロヘキシルアミン、4,4'−イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナンジアミン(NBDA/2,5−および2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン)、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン(IPDA/3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン)、メンセンジアミン、ノルボルナンジアミンとエポキシ樹脂のアダクト(NBDAアダクト)、イソホロンジアミンとエポキシ樹脂のアダクト(IPDAアダクト)等が挙げられる。
【0036】
上記アミンの中では低粘度であり、乾燥性や耐候性が良好などの面でイソホロンジアミンとエポキシ樹脂のアダクト(IPDAアダクト)が好ましい。
【0037】
前記(B)アミノ基含有化合物は、1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0038】
本発明では、エーテル構造を、(A)(メタ)アクリルエステル、(B)アミノ基含有化合物のいずれかないし双方に含む。エーテル構造を含有することで、塗膜が親水性になり、適度に水を吸水し、膨潤して防汚剤成分が出やすくなり、また膨潤した部分が水流で削られて塗膜が消耗していくので、防汚剤成分の徐放効果、塗膜消耗性が発現される。
【0039】
本発明では、(A)(メタ)アクリルエステルを含む第一成分(第一剤)、(B)アミノ基含有化合物を含む第二成分(第二剤)とからなる二液型の塗料組成物が構成される。
【0040】
組成物中の(B)アミノ基含有化合物の含有量は、(A)(メタ)アクリルエステル100重量部に対して、20〜100重量部含有することが好ましく、さらに好ましくは25〜80重量部、より好ましくは30〜60重量部である。
(B)アミノ基含有化合物が20重量部より少ないと、塗膜の乾燥性が極端に悪くなり、強度、耐水性も不良であり、100重量部をこえると、未反応アミン化合物が混在する塗膜となり、同様に耐水性を低下させるため本範囲が好ましい。
【0041】
以下の防汚剤およびその他成分は、第一成分、第二成分のどちらか一方に含まれていればよく、また双方に含まれていてもよい。またその配合量は、第一成分と第二成分とを混合したときの合計の防汚塗料組成物の固形分に対する重量である。
<(C)防汚剤>
本発明の防汚塗料組成物は、(C)防汚剤を含有する。(C)防汚剤としては、有機系、無機系のいずれの防汚剤であってもよく、亜酸化銅、銅ピリチオン、ジンクピリチオン等のピリチオン金属塩、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−Sトリアジン、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル、メデトミジンなどを用いることができる。
【0042】
本発明の防汚塗料組成物において、(C)防汚剤の量は防汚塗料(固形分)に対して0.1〜90重量%、好ましくは0.5〜80重量%、さらに好ましくは1.0〜60重量%の量で使用することが望ましい。
<(D)その他の樹脂成分>
本発明は塗膜消耗性の調整、塗膜強度の調整のため変性用樹脂として、テルペンフェノール樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、エポキシ樹脂、加水分解樹脂、ロジン/ロジン誘導体化合物のうちから選択される1種または2種以上のその他の樹脂をブレンドさせても良い。変性用樹脂を併用することで塗膜消耗性コントロール、塗膜強度、塗膜物性(例えば、耐クラック性、基材に対する密着性)および表面平滑性を調整することが可能となる。
(D)その他の樹脂成分は、防汚塗料(固形分)中に0.1〜60重量%、好ましくは0.5〜50重量%、より好ましくは1.0〜40重量%の量で使用されるのが望ましい。
【0043】
加水分解樹脂は、海水中等のアルカリ雰囲気下における加水分解性を有するものであり、船舶・水中構造物等で安定した塗膜消耗度を有する。加水分解樹脂は、以下に述べる
・金属塩結合含有共重合体(a1)(以下「共重合体(a1)」ともいう。)、
・架橋型金属塩結合含有共重合体(a2)(以下「共重合体(a2)」ともいう。)、および
・シリルエステル共重合体(a3)(以下「共重合体(a3)」ともいう。)
からなる群より選ばれた少なくとも1種の加水分解性共重合体から構成される。
【0044】
加水分解樹脂は、金属塩結合含有共重合体(a1)にみられる側鎖末端型金属塩結合と、共重合体(a2)にみられる架橋型金属塩結合との両方の構造を含有する、共重合体(a1)および(a2)のいずれの要件をも満たす共重合体であってもよいし、一方の要件を満た共重合体であってもよい。また(a1)および(a2)の代わりに、または(a1)および(a2)とともに、(a3)に示されるシリルエステル共重合体などを使用してもよい。加水分解樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
・金属塩結合含有共重合体(a1)
金属塩結合含有共重合体(a1)は、アクリル樹脂またはポリエステル樹脂であって、一般式(I)で表される側鎖末端基を有する金属塩結合含有共重合体である。なお、本発明では前記構造を「側鎖末端型金属塩結合」とよぶことがある。
【0046】
−COO−M−O−COR1 …(I)
式(I)中、Mは亜鉛または銅を示し、R1は有機基を示す。なお、共重合体(a1)には、通常、式(I)で表される側鎖末端基が複数存在するが、それぞれのR1およびM同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0047】
共重合体(a1)における有機基R1(および後述する式(IV)中の有機基R1)としては、一塩基酸から形成される有機酸残基であって、炭素原子数2〜30の飽和もしくは不飽和脂肪族炭化水素基、炭素原子数3〜20の飽和もしくは不飽和脂環式炭化水素基または炭素原子数6〜18の芳香族炭化水素基、あるいはこれらの置換体が好ましく、炭素原子数10〜20の飽和もしくは不飽和脂肪族炭化水素基または炭素原子数3〜20の飽和もしくは不飽和脂環式炭化水素基、あるいはこれらの置換体がより好ましい。前記置換体としては、例えば、ヒドロキシル基置換体が挙げられる。これらの中でも、バーサチック酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸(これらの不飽和脂肪酸の構造異性体(イソステアリン酸等)を含む。以下同様。)、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、12−ヒドロキシステアリン酸およびナフテン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種の一塩基酸から形成される有機酸残基が特に好ましい。前記R1を有する共重合体(a1)は調製が容易であり、また、前記R1を有する共重合体(a1)を用いることにより防汚塗膜の加水分解性や重ね塗り性を更に優れたものにすることができる。
【0048】
《アクリル樹脂型》
共重合体(a1)のうち、アクリル樹脂型の重合体は好ましい一態様である。共重合体(a1)のうち、アクリル樹脂型の重合体は、例えば一般式(IV)で表される金属塩結合を有する単量体、すなわち一塩基酸金属(メタ)アクリレート(以下「単量体(a11)」ともいう。)を用いた重合反応により、調製することができる。
【0049】
CH2=C(R2)−COO−M−O−COR1 …(IV)
式(IV)中、Mは亜鉛または銅を示し、R1は有機基を示し、R2は水素原子またはメチル基を示す(前記式(I)および(II)と同様である)。式(IV)中のR1およびその好ましい種類は、式(I)中の有機基R1と同様である。但し、後述する架橋型金属塩結合を形成しうる式(II)で表される単量体(a21)と区別するため、式(IV)におけるR1からは、ビニル基[−CH=CH2]およびイソプロペニル基[−C(CH3)=CH2]が除外される。
【0050】
共重合体(a1)は、2種以上の単量体(a11)の共重合反応により得られた重合体であってもよい。また、1種または2種以上の単量体(a11)と、単量体(a11)と共重合しうる1種または2種以上の他の不飽和単量体(以下「単量体(a12)」ともいう。)とを用いた共重合反応によって得られた重合体、すなわち、単量体(a11)から誘導される成分単位と、単量体(a12)から誘導される成分単位とを有する共重合体であってもよい。
【0051】
単量体(a12)としては、アクリル樹脂用の重合性不飽和単量体として用いられている各種の化合物から適宜選択することができ、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等の金属塩結合を含有しない単量体等が好ましい。これらの中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が特に好ましい。
【0052】
アクリル樹脂型の共重合体(a1)は、例えば、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等を用いてアクリル樹脂を調製した後、前記アクリル樹脂の側鎖にある、未だ金属塩結合を形成していないカルボキシル基に、亜鉛または銅(M)を介して有機基(R1)が結合した構造を導入する反応を行い、前記式(I)で表される側鎖末端基を形成するような方法によって調製することもできる。

《ポリエステル樹脂型》
共重合体(a1)のうち、ポリエステル樹脂型の重合体は、多塩基酸および多価アルコールを主原料として合成された酸価50〜200mgKOH/g、好ましくは80〜170mgKOH/gのポリエステル樹脂の末端に、前記式(I)で表される側鎖末端基を有する。
【0053】
前記ポリエステル樹脂を生成するための酸成分としては、例えば、安息香酸、p−t−ブチル安息香酸等のモノカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、1,4−ナフトール酸、ジフェニン酸、4,4'−オキシ安息香酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ノルボルネンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,3−シクロヘキシルジカルボン酸等のジカルボン酸やその無水物、およびこれらジカルボン酸の炭素数1〜4程度のアルキルエステル等が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、これらにトリメット酸、無水トリメット酸、ピロメット酸、無水ピロメット酸等の3官能以上のカルボン酸を併用してもよく、少量の無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸やそのエステルを併用してもよい。
【0054】
前記ポリエステル樹脂を生成するための多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA等が挙げられ、これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらにトリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3官能以上のアルコールを併用してもよい。
【0055】
ポリエステル樹脂型の共重合体(a1)は、例えば、これら各種酸成分およびアルコール成分を用いて、溶解法等の公知の方法によりエステル化反応またはエステル交換反応を行ってポリエステル樹脂を調製した後、末端の未だ金属塩結合を形成していないカルボキシル基に、亜鉛または銅(M)を介して有機基(R1)が結合した構造を導入する反応を行い、前記式(I)で表される側鎖末端基を形成するような方法によって調製することができる。
【0056】
・金属塩結合含有共重合体(a2)
金属塩結合含有共重合体(a2)は、一般式(II)で表される金属塩結合含有単量体(a21)から誘導される成分単位と、前記単量体(a21)と共重合し得る他の不飽和単量体(a22)から誘導される成分単位とを有する共重合体である。
【0057】
CH2=C(R2)−COO−M−O−CO−C(R2)=CH2 ……(II)
式(II)中、Mは亜鉛または銅を示し、R2は水素原子またはメチル基を示す。なお、共重合体(a2)には、通常、式(II)で表される単量体(a21)から誘導される成分単位が複数存在するが、それぞれのR2およびM同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0058】
金属塩結合含有単量体(a21)としては、例えば、亜鉛ジアクリレート、亜鉛ジメタクリレート、銅ジアクリレート、銅ジメタクリレートが挙げられる。単量体(a21)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
金属塩結合含有単量体(a21)は、例えば、無機金属化合物(亜鉛または銅の酸化物、水酸化物、塩化物等)と(メタ)アクリル酸またはそのエステル化合物とを、アルコール系有機溶剤および水の存在下で、金属塩の分解温度以下で加熱・撹拌する等、公知の方法により調製することができる。
【0060】
金属塩結合含有単量体(a21)から誘導される成分単位は、一般式(V)で表される構造を有するが、本発明では前記構造を「架橋型金属塩結合」とよぶことがある。
【0061】
【化8】
金属塩結合含有単量体(a21)と共重合し得る他の不飽和単量体(a22)としては、前述の共重合体(a1)についての単量体(a12)と同様、アクリル樹脂用の重合性不飽和単量体として用いられている各種の化合物から適切なものを選択することができる。すなわち、不飽和単量体(a22)としては、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が好ましく、これらの中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が特に好ましい。
【0062】
また、前述の共重合体(a1)についての単量体(a11)、すなわち前記式(IV)で表される一塩基酸金属(メタ)アクリレートも、金属塩結合含有単量体(a21)と共重合し得る単量体であり、金属塩結合含有共重合体(a2)の調製に用いることのできる不飽和単量体(a22)に該当する。不飽和単量体(a22)としての前記式(IV)で表される一塩基酸金属(メタ)アクリレートについても、R1およびその好ましい態様は、式(I)中の有機基R1と同様である。
【0063】
不飽和単量体(a22)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
不飽和単量体(a22)は、前記式(IV)で表される一塩基酸金属(メタ)アクリレートと、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれた少なくとも1種の不飽和単量体とを含むものであることも好ましい。
【0065】
その他、スチレンおよびスチレン誘導体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体;(メタ)アクリロニトリル等も、不飽和単量体(a22)として挙げられる。
【0066】
共重合体(a2)においても、前述した共重合体(a1)と同様の観点から、前記式(II)の構造に起因する亜鉛および/または銅の含有量は、当該共重合体の0.5〜20重量%であることが好ましく、1〜19重量%であることがより好ましい。ここで「亜鉛および/または銅の含有量」とは、亜鉛および銅が双方とも含まれる場合は亜鉛および銅の合計含有量を意味する。
【0067】
亜鉛および/または銅の含有量は、共重合体(a2)の調製に用いられる単量体の配合割合により調整することが可能である。なお、共重合体(a2)が架橋型金属塩結合および側鎖末端型金属塩結合の両方の構造を有する場合は、それぞれの構造に起因する亜鉛および/または銅の含有量の合計が前記範囲内にあるようにすることが好ましい。
【0068】
共重合体(a1)および共重合体(a2)の数平均分子量(Mn:ポリスチレン換算値)および重量平均分子量(Mw:ポリスチレン換算値)は、防汚塗料組成物の粘度や貯蔵安定性、防汚塗膜の溶出速度等を考慮し、適宜調整することができるが、Mnは、通常1,000〜100,000程度、好ましくは1,000〜50,000であり、Mwは、通常1,000〜200,000程度、好ましくは1,000〜100,000である。
【0069】
・シリルエステル共重合体(a3)
シリルエステル共重合体(a3)は、一般式(III)で表される単量体(a31)(以下「シリルエステル単量体」ともいう。)から誘導される成分単位(以下「シリルエステル成分単位」ともいう。)を有する共重合体であり、前記単量体(a31)と共重合し得る他の不飽和単量体(a32)から誘導される成分単位を必要に応じて有する共重合体である。
【0070】
7−CH=C(R3)−COO−SiR456 …(III)
式(III)中、R3は水素原子またはメチル基を示し、R4、R5およびR6はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、R7は水素原子またはR8−O−CO−(但し、R8は有機基または−SiR91011で表されるシリル基を示し、R9、R10およびR11はそれぞれ独立に炭化水素基を示す。)を示す。
【0071】
シリルエステル単量体(a31)のうちで、R7が水素原子(H)である場合には、当該単量体は一般式(IIIa)で表される。
【0072】
CH2=C(R3)−COO−SiR456・・・・・(IIIa)
式(IIIa)中、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ式(III)中のR3、R4、R5およびR6と同様である。
【0073】
前記R4、R5およびR6における炭化水素基としては、炭素数が1〜10、特に1〜5のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル等のアルキル基がより好ましい。
【0074】
前記式(IIIa)で表されるシリルエステル単量体(a33)としては、例えば、トリメチルシリル(メタ)アクリレート、トリエチルシリル(メタ)アクリレート、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート等のトリアルキルシリル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらの中でも、塗膜中の樹脂の溶出性、溶出持続性、塗膜物性(例えば、耐クラック性)が優れるなどの点でトリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0075】
シリルエステル単量体(a31)のうちで、R7が「R8−O−CO−」である場合には、当該単量体は一般式(IIIb)で表される。
【0076】
8−O−CO−CH=C(R3)−COO−SiR456・・・・(IIIb)
式(IIIb)中の、R3、R4、R5、R6およびR8は、それぞれ式(III)または式(IIIa)中のR3、R4、R5、R6およびR8と同様である。
【0077】
前記R8における有機基としては、炭素数が1〜10、特に1〜5のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル等のアルキル基がより好ましい。前記R9、R10およびR11における炭化水素基としては、炭素数が1〜10、特に1〜5のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル等のアルキル基がより好ましい。
【0078】
前記式(IIIb)で表されるシリルエステル単量体(a34)としては、例えば、マレイン酸エステル(式(IIIb)中でR3=Hのもの)が挙げられる。
【0079】
単量体(a31)(あるいは単量体(a33)および/または(a34))と共重合し得る他の不飽和単量体(a32)としては、前記共重合体(a1)および(a2)の原料化合物として例示した「他の不飽和単量体(a12)、(a22)」が挙げられる。
【0080】
他の不飽和単量体(a32)としては、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が好ましく、これらの中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が特に好ましい。
【0081】
シリルエステル単量体(a31)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、他の不飽和単量体(a32)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
シリルエステル共重合体(a3)では、シリルエステル単量体(a31)から誘導される成分単位は、前記共重合体(全構成単位100モル%)中に、通常10〜100モル%、好ましくは10〜90モル%となる量で、他の不飽和単量体(a32)から誘導される成分単位は、残部量、すなわち通常0〜90モル%、好ましくは10〜90モル%となる量で含まれる。成分単位の含有量が前記範囲にあると、塗膜中の樹脂粘度(例えば、耐クラック性)、塗料の貯蔵安定性、塗膜中の樹脂の溶出性などに優れる点で好ましい。
【0083】
シリルエステル共重合体(a3)の数平均分子量Mn(ポリスチレン換算値)は、通常1,000〜200,000(20万)、好ましくは1,000〜100,000(10万)である。Mnが前記範囲にあると、塗膜中の樹脂粘度(例えば、耐クラック性)、塗料の貯蔵安定性、塗膜中の樹脂の溶出性などに優れる点で好ましい。
【0084】
これらの加水分解樹脂を併用すると、低揮発性有機化合物(VOC)を維持したまま、加水分解樹脂の相乗効果によりポリエーテル成分を減量しても塗膜消耗性は確保されるため、比較的低消耗で良好な防汚性を発現する効果がある。上記加水分解樹脂は単独、または2種以上併用しても良い。
【0085】
本発明の防汚塗料組成物で使用されるロジンおよび/またはロジン誘導体化合物は防汚塗膜から該防汚剤の溶出、塗膜消耗性を促進し、特に静置防汚性を向上させる。ロジン/ロジン誘導体化合物としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン、水添ロジン、不均化ロジン等のロジン誘導体などが挙げられる。これらロジン/ロジン誘導体化合物を加水分解樹脂とともに併用すると、特に静置防汚性が向上する効果がある。
<その他の添加剤>
本発明の防汚塗料組成物は、(E)体質顔料、(F)顔料分散剤、(G)着色剤、(H)脱水剤、(I)可塑剤、(J)タレ止め剤、(K)沈降防止剤、(L)溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有していてもよい。以下、詳述する。
<(E)体質顔料>
(E)体質顔料としては、タルク、シリカ、マイカ、クレー、カリ長石、また沈降防止剤としても用いられる炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、艶消し剤としても用いられるホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム等が挙げられ、これらの中では、タルク、シリカ、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、カリ長石からなる群から選ばれる体質顔料が好ましい。体質顔料は、屈折率が小さく、油やワニスと混練した場合に透明で被塗面を隠さないような顔料であり、本発明の防汚塗料組成物が体質顔料を含有していると、耐クラック性などの塗膜物性向上などの点で好ましい。
【0086】
(E)体質顔料は、防汚塗料(固形分)中に0.1〜80重量%、好ましくは0.5〜60重量%、より好ましくは1.0〜50重量%の量で使用されるのが望ましい。
<(F)顔料分散剤>
(F)顔料分散剤としては、従来公知の有機系、無機系の各種分散剤を用いることができる。有機系顔料分散剤としては、脂肪族アミンまたは有機酸類(LION株式会社製「ヂュオミンTDO」、BYK CHEMIE製「Disperbyk101」)等が挙げられる。
(F)顔料分散剤は、防汚塗料(固形分)中0.1〜30重量%、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.3〜10重量%の量で使用されるのが望ましい。
<(G)着色剤>
(G)着色剤としては、従来公知の有機系、無機系の各種顔料を用いることができる。有機系顔料としては、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等が挙げられる。無機系顔料としては、例えば、ベンガラ、バライト粉、チタン白、黄色酸化鉄等が挙げられる。また、染等も含まれていてもよい。本発明の防汚塗料組成物が着色剤を含有していると、該組成物から得られる防汚塗膜の色相を任意に調節できる点で好ましい。
(G)着色剤は、防汚塗料(固形分)中に0.1〜30重量%、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.3〜10重量%の量で使用されるのが望ましい。
<(H)脱水剤>
(H)脱水剤としては、従来公知の石膏、エチルシリケートなどを用いることができる。
(H)脱水剤は、防汚塗料(固形分)中に0.1〜30重量%、好ましくは0.3〜20重量%、より好ましくは0.5〜10重量%の量で使用されるのが望ましい。
<(I)可塑剤>
(I)可塑剤としては、塩化パラフィン、TCP(トリクレジルフォスフェート)、ポリビニルエチルエーテル、ジアルキルフタレート、ベンジルアルコール等が挙げられる。本実施形態に係る防汚塗料組成物が(I)可塑剤を含有していると、該防汚塗料組成物から形成される塗膜(防汚塗膜)の耐クラック性が向上する点で好ましい。
【0087】
前記塩素化パラフィン(塩化パラフィン)としては、直鎖状でもよく分岐を有していてもよく、室温で液状でも固体(粉体)でもよいが、その平均炭素数が通常8〜30、好ましくは10〜26のものが好ましく用いられ、その数平均分子量が通常200〜1200、好ましくは300〜1100であり、粘度が通常1以上(ポイズ/25℃)、好ましくは1.2以上(ポイズ/25℃)であり、その比重が1.05〜1.80/25℃、好ましくは1.10〜1.70/25℃のものが好ましく用いられる。このような炭素数の塩素化パラフィンを用いると、得られる防汚塗料組成物を用いて割れ(クラック)、剥がれの少ない塗膜を形成できる。なお、塩素化パラフィンの炭素数が8以上とすることで、クラックの抑制効果が得られやすくなり、またその炭素数が30以下とすることで、得られる塗膜表面の消耗性(更新性)に優れ防汚性が向上する。また、この塩素化パラフィンの塩素化率(塩素含有量)は、通常35〜75%であることが好ましく、35〜65%であることがより好ましい。このような塩素化率の塩素化パラフィンを用いると、得られる防汚塗料組成物を用いて割れ(クラック)、剥がれの少ない塗膜を形成できる。このような塩素化パラフィンとしては、東ソー(株)製の「トヨパラックス150」、「トヨパラックスA−70」などが挙げられる。これらの中でも塩素化パラフィン(塩化パラフィン)、TCP(トリクレジルフォスフェート)、ベンジルアルコールが好ましい。これらの可塑剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0088】
(I)可塑剤は防汚塗料(固形分)中に0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1.0〜20重量部%の量で使用されるのが望ましい。
<(J)タレ止め剤(「流れ止め剤」ともいう。)>
(J)タレ止め剤としては、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス系、ポリアマイドワックス系および両者の混合物、合成微粉シリカが挙げられ、好ましくは、ポリアマイドワックス、合成微粉シリカが望ましい。市販品であれば、楠本化成(株)製の「ディスパロンA603−20X、伊藤製油(株)製の「ASAT−250F」等が挙げられる。本発明の防汚塗料組成物がタレ止め剤を含有していると、塗装時のタレ止め性等を調整することができる点で好ましい。(J)タレ止め剤は、防汚塗料(固形分)に対して0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%、さらに好ましくは1.0〜10重量%の量で使用されるのが望ましい。
<(K)沈降防止剤>
(K)沈降防止剤としては、有機粘土系Al、Ca、Znのアミン塩、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレン系ワックス等が挙げられ、好ましくは、酸化ポリエチレン系ワックスが望ましい。市販品であれば、楠本化成(株)製の「ディスパロン4200−20等が挙げられる。本発明の防汚塗料組成物が(K)沈降防止剤を含有していると、溶剤不溶物の貯蔵期間中の沈殿を防止でき、攪拌性を向上させることができる点で好ましい。(K)沈降防止剤は防汚塗料(固形分)に対して0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%、さらに好ましくは1.0〜10重量%の量で使用されることが望ましい。
<(L)溶剤>
本発明の防汚塗料組成物は、(L)溶剤をさらに含有することができる。溶剤としては、従来公知の広範な沸点の溶剤が使用でき、具体的にはターペンなどの脂肪族系溶剤;トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤;イソプロピルアルコール、n一ブチルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル系またはエーテルエステル系などの溶剤が挙げられ、好ましくはキシレン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これら溶剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0089】
本発明の防汚塗料組成物の揮発性有機化合物(VOC)含有量は400g/L以下にすることができ、好ましくは300g/Lである。VOC含有量を400g/L以下とすることにより、環境への負荷や人体への影響を少なくすることができる。なお、このVOCは、実施例の欄で説明する測定条件下での値である。
【0090】
本発明の二液型防汚塗料組成物は、(A)(メタ)アクリルエステルを含む第一成分と、(B)アミノ基含有化合物を含む第二成分とを、それぞれ別途調製し、別々の容器にて保存、運搬等がなされ、使用直前に所定の割合で混合される。使用直前で混合し、塗工すると、乾燥過程で、(A)(メタ)アクリルエステルと、(B)アミノ基含有化合物とのマイケル付加反応が進み、防汚塗膜が形成される。なお、本発明では、触媒の添加や、UV照射は、必ずしも必要としない。
【0091】
なお、本発明で使用している原材料を二液型とせずに、1液型にしたもの(あらかじめ付加反応させたもの)では、塗料製造段階でゲル化ないし固化し、流動性のある塗料を得ることはできず、塗装が困難である。
【0092】
エーテル構造を有さない(メタ)アクリルエステルにはエーテル構造を有するアミノ基含有化合物をマイケル付加反応させ、エーテル構造を有する(メタ)アクリルエステルにはエーテル構造を有さないアミノ基含有化合物をマイケル付加させることで、エーテル構造が導入された親水性塗膜を形成することも可能である。さらに(メタ)アクリルエステル、アミノ基含有化合物の双方にエーテル構造を有するもの同士をマイケル付加反応させても良い。
【0093】
このうち、(メタ)アクリルエステルにエーテル構造を有するものと、エーテル構造を有さないアミノ基含有化合物を反応させた系が、その反応により生成された塗膜が耐水性に優れることにより、長期物性が安定するため、より好ましい。
【0094】
また、(メタ)アクリルエステルおよびアミノ基含有化合物へのエーテル構造の導入量は、耐水性、塗膜強度に大きく関与し、導入量が多すぎると乾燥塗膜の耐水性が著しく低下し、塗膜強度不足、塗膜の膨れ、クラック、塗膜剥離などの問題が発生する。以下のようなポリエーテル構造の場合、
【0095】
【化9】
好ましい導入量はx=1〜10であり、より好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3である。
<防汚塗料組成物の製造方法>
本実施形態に係る防汚塗料組成物は、予め調製した上記成分を、撹拌・混合等することにより製造することができる。撹拌・混合の際には、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、ボールミル、三本ロール、ロスミキサー、プラネタリーミキサー、万能品川撹拌機など、従来公知の混合・撹拌装置を用いればよい。
[防汚塗料組成物の用途]
本実施形態に係る防汚塗膜は、上記した本実施形態に係る防汚塗料組成物を硬化させてなるものである。また、本実施形態に係る防汚基材は、上記した本実施形態に係る防汚塗料組成物の第一成分と第二成分とを混合し、基材に塗布あるいは含浸し、次いで硬化させ、防汚塗膜を形成させるものである。
【0096】
その基材は特に制限されないが、水中構造物、船舶、漁具(漁網)の何れかであることが好ましい。例えば、上述した防汚塗料組成物を、火力・原子力発電所の給排水口等の水中構造物、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、運河・水路等のような各種海洋土木工事の汚泥拡散防止膜、船舶、漁業資材(例:ロープ、漁網、漁具、浮き子、ブイ)などの各種成形体の表面に、常法に従って1回〜複数回塗布すれば、防汚性に優れ、防汚剤成分が長期間に亘って徐放可能であり、厚塗りしても適度の可撓性を有し耐クラック性に優れた防汚塗膜被覆船舶または水中構造物などが得られる。
【0097】
すなわち、本実施形態に係る防汚塗料組成物を各種成形体の表面に塗布硬化してなる防汚塗膜は、アオサ、フジツボ、アオノリ、セルプラ、カキ、フサコケムシ等の水棲生物の付着を長期間継続的に防止できるなど防汚性に優れている。特に、船舶等の素材が、FRP、鋼鉄、木、アルミニウム合金などである場合にもこれらの素材表面に良好に付着する。また、例えば本実施形態に係る防汚塗料組成物を海中構造物表面に塗布することによって、海中生物の付着防止を図ることができ、該構造物の機能を長期間維持でき、漁網に塗布すれば、漁網の網目の閉塞を防止でき、しかも環境汚染の恐れが少ない。
【0098】
本実施形態に係る防汚塗料組成物は、直接漁網に塗布してもよく、また予め防錆剤、プライマーなどの下地材が塗布された船舶または水中構造物等の表面に塗布してもよい。さらには、既に従来の防汚塗料による塗装が行われ、あるいは本実施形態に係る防汚塗料組成物による塗装が行われている船舶、特にFRP船あるいは水中構造物等の表面に、補修用として本実施形態に係る防汚塗料組成物を上塗りしてもよい。このようにして船舶、水中構造物等の表面に形成された防汚塗膜の厚さは特に限定されないが、例えば、30〜250μm/回程度である。
【0099】
上記のようにして得られる本実施形態に係る防汚塗膜は、本実施形態に係る防汚塗料組成物を硬化させてなるものであるため、環境汚染の虞が少なく広汎な船舶・水中構造物付着生物に対して長期防汚性に優れている。
【0100】
以上の通り、本実施形態によれば、環境への負荷が少なく優れた防汚性を有し、かつ長期に亘り塗膜が一定の速度で均一に消耗し、しかも長期間優れた防汚性能を維持でき塗膜の長期防汚性維持性能に優れ、外航船用として好適である防汚塗膜を形成しうるような二液型低VOC加水分解型防汚塗料組成物、防汚塗膜、該防汚塗膜で被覆された船舶、水中構造物、漁具または漁網を提供することができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例および比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
加水分解樹脂の製造:
・側鎖末端型金属塩結合含有共重合体(a1)の製造
[製造例1]
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)30重量部およびキシレン40重量部を仕込み、攪拌しながら100℃に昇温した。続いて、表1に示す単量体および重合開始剤からなる混合物を滴下ロートから3時間かけて等速滴下した。滴下終了後にt−ブチルパーオクトエート1重量部とキシレン10重量部とを2時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌した後、キシレンを20重量部添加して、側鎖末端型金属塩結合含有共重合体(a1)を含む反応混合物を得た。
【0102】
得られた共重合体(a1)あるいは前記共重合体(a1)を含む反応混合物の特性値である、粘度および固形分(%)を評価した。結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
[製造例2]金属塩結合含有単量体(a21)の製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた4つ口フラスコに、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)85.4重量部および酸化亜鉛40.7重量部を仕込み、攪拌しながら75℃に昇温した。
【0104】
続いて滴下ロートからメタクリル酸(MAA)43.1重量部、アクリル酸(AA)36.1重量部、水5重量部からなる混合物を3時間かけて等速滴下した。滴下終了後、反応溶液は乳白色状態から透明となった。さらに2時間攪拌した後、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)を36重量部添加して、透明な金属結合含有単量体溶液(a21)をまず得た。得られた金属塩結合含有単量体溶液(a21)の混合物溶液の固形分は44.8重量%であった。
[製造例3] 金属塩結合含有共重合体(a2)の製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた4つ口フラスコに、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)15重量部、キシレン57重量部およびエチルアクリレート4重量部を仕込み、攪拌しながら100℃に昇温した。
【0105】
続いて、滴下ロートからメチルメタクリレート(MMA)1重量部、エチルアクリレート(EA)70.2重量部、2−メトキシエチルアクリレート(2−MEA)5.4重量部、製造例2で得られた金属結合含有単量体溶液(a21)を52重量部、キシレン10重量部、連鎖移動剤(「ノフマーMSD」、日本油脂製)1重量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、日本ヒドラジン工業(株))2.5重量部、2,2´−アゾビス−2−メチルブチロニトリル)(AMBN)7重量部からなる透明な混合物を6時間かけて等速滴下した。(滴下工程1)
滴下終了後にt−ブチルパーオクトエート(TBPO)0.5重量部とキシレン7重量部を30分かけて滴下し、さらに1時間30分攪拌した後キシレンを4.4重量部添加して、淡黄色透明な架橋型金属塩結合含有共重合体(a2)を得た。得られた架橋型金属塩結合含有共重合体(a2)の特性値を表2に示す。
【0106】
【表2】
[製造例4] シリルエステル共重合体(a3)の製造
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、キシレン53重量部を仕込み、窒素雰囲気下で、キシレンを攪拌機で攪拌しながら、常圧下に、反応容器内のキシレンの温度が85℃になるまで加熱した。反応容器内のキシレンの温度を85℃に維持しながら、TIPSMA(トリイソプロピルシリルメタクリレート)50重量部、MEMA(メトキシエチルメタクリレート)30重量部、およびMMA(メチルメタクリレート) 10重量部および、BA(ブチルアクリレート)10重量部、および2,2´−アゾビス−2−メチルブチロニトリル)1重量部からなるモノマー混合物を、滴下ロートを用いて2時間かけて反応容器内に添加した。
【0107】
次いで、さらに反応容器内にt−ブチルパーオキシオクトエート0.5重量部を加え、常圧下にて、反応容器内の液温を85℃に保持しながら、2時間攪拌機で攪拌を続けた。そして、反応容器内の液温を85℃から110℃に上げて1時間加熱した後、反応容器内にキシレン14重量部を加えて、反応容器内の液温を低下させ、液温が40℃になった時点で攪拌を止めた。こうして、シリルエステル共重合体(a3)含有溶液を調製した。
【0108】
得られたシリルエステル共重合体(a3)の特性値を表3に示す。
【0109】
以上の製造例で得られた共重合体(a1)〜(a3)をその他樹脂成分として使用した。
【0110】
【表3】
側鎖末端型金属塩結合含有共重合体(a1)、架橋型金属塩結合含有共重合体(a2)、シリルエステル共重合体(a3)の特性値は以下の方法で測定した。
(1)(共)重合体溶液中の加熱残分の含有率
(共)重合体溶液1.5g(X1(g))を、恒温槽内で、1気圧、108℃の条件下で3時間保持して揮発分を除去して加熱残分(不揮発分)を得た。次いで、残った加熱残分(不揮発分)の量(X2(g))を測定し、下記式に基づいて、(共)重合体溶液に含まれる加熱残分の含有率(%)を算出した。
【0111】
加熱残分の含有率(%)=X2/X1×100
(2)(共)重合体の平均分子量
(共)重合体の平均分子量(数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw))を下記条件におけるGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定した。なお、条件は以下の通りである。
GPC条件
装置 :「HLC−8120GPC」(東ソー(株)製)
カラム :「SuperH2000+H4000」(東ソー(株)製、6mm(内径)、各15cm(長さ))
溶離液 :テトラヒドロフラン(THF)
流速 :0.500ml/min
検出器 :RI
カラム恒温槽温度 :40℃
標準物質 :ポリスチレン
サンプル調製法 :(共)重合体溶液に少量の塩化カルシウムを加えて脱水した後、メンブレムフィルターで濾過して得られた濾物をGPC測定サンプルとした。
(3)(共)重合体溶液の粘度
B型粘度計〔東京計器(株)製〕を用いて液温25℃の(共)重合体溶液の粘度(単位:mPa・s)を測定した。
実施例1
<防汚塗料組成物の調製>
防汚塗料組成物の第一成分を以下のようにして調製した。
(第一成分)
まず、表4−1に示されるように、1000mlのポリ容器に溶剤キシレン(12.2重量部)、SR295(20重量部)、TCP(1重量部)、酸化亜鉛(30重量部)、TTKタルク(12重量部)、ベンガラNo.404(1重量部)、ノバパームレッドF5RK(0.5重量部)、Disperbyk−101(0.3重量部)、ジンクオマジン(7重量部)、シーナイン211(5重量部)、DisparlonA603−20X(1重量部)を配合し、ガラスビーズ200重量部を添加し、1時間分散した。なお、原材料についてはその一覧を表7に示す。
【0112】
60メッシュのろ過網でろ過し、防汚塗料組成物第一成分を調製した。
(第二成分)
表4−1に記載された組成のアミノ基含有化合物を用意して、第二成分とした。
<防汚塗料組成物の物性評価>
上記調製した第一成分と、第二成分とを、表4-1に示す所定の割合で混合して、防汚塗膜を作製し評価した。
実施例2〜27、比較例1〜17
(A)を含む第一成分および(B)を含む第二成分の配合成分、その他樹脂成分およびこれらの配合量を表4−1、4−2(実施例)、表5−1、5−2(比較例)に示したように変更した以外は実施例1と同様にして防汚塗料組成物を調製した。
比較例18〜23
表6に示される配合量で1液組成の塗料を調製したが、いずれも塗料作製時にゲル化して塗膜を形成できなかった。
<評価項目>
(1)揮発性有機化合物(VOC)重量測定
上記の塗料比重および重量NVの値を用いて下式から算出した。
VOC(g/L)=塗料比重×1000×(100−重量NV)/100。
(2)比重
25℃において、内容積が100mlの比重カップに充満した防汚塗料組成物の質量を量ることにより、比重(塗料比重)を測定した。
(3)加熱残分(重量NV)
防汚塗料組成物1gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、125℃で1時間乾燥後、残渣および針金の質量を量り、加熱残分(重量%)を算出した。
(4)防汚塗料組成物の粘度測定
塗料粘度を23℃に調整し、リオン粘度計( RION CO.,LTD VISCOTESTER VT-04F 高粘度用、1号ローター)を用い測定した。
(5)低温乾燥性
幅25mm、長さ348mm、厚さ2mmのガラス板に実施例で調製した防汚塗料組成物をその乾燥膜厚が150μmとなるようにフィルムアプリケーターで塗装した後、すぐに5℃の温度条件で塗料乾燥測定機ドライングレコーダー(コーティングテスター株式会社製)でT2(指触乾燥時間)、T3(硬化時間)になるまでの時間を測定した。
(6)付着性試験(常温海水浸漬)
150mm×70mm×1.6mmのサンドブラスト処理鋼板にエポキシ系塗料(中国塗料製品"バンノー500")を乾燥膜厚150μm、エポキシ系バインダー塗料(中国塗料製品"バンノー500N")を乾燥膜厚100μmとなるように、この順序で1日毎に塗装した後、該エポキシ系バインダーコートから形成された塗膜の表面に、ついで実施例で調製した防汚塗料組成物をその乾燥膜厚が150μmとなるように塗装間隔1日で塗付し、試験板を作成した。
【0113】
上記試験板を23℃で7日間乾燥させ、常温海水に浸漬し1ヶ月毎の塗膜外観を確認し、2ヶ月経過時点で付着性を確認した。
【0114】
付着性評価は4mm×4mm/9マスでの碁盤目試験により塗膜残率を以下の表8の4段階で評価した。
(7)防汚塗膜の塗膜消耗度;
50mm×50mm×1.5mmの硬質塩化ビニル板にアプリケーターを用いて、実施例で調製した防汚塗料組成物を乾燥膜厚150μmになるように塗付し、これを室温(約20℃)にて7日間乾燥させ、試験板を作成した。
【0115】
25℃の海水を入れた恒温槽に設置した回転ドラムの側面にこの試験板を取り付け、周速15ノットで回転させ、1ヵ月毎の防汚塗膜の積算消耗量(膜厚減少)を測定した。
(8)防汚塗膜の静置防汚性試験;
100mm×300mm×3.2mmのサンドブラスト処理鋼板に、エポキシ系塗料(中国塗料製品"バンノー500")を乾燥膜厚150μm、エポキシ系バインダー塗料(中国塗料製品"バンノー500N")を乾燥膜厚100μmとなるように、この順序で1日毎に塗装した後、該エポキシ系バインダーコートから形成された塗膜の表面に、ついで実施例で調製した防汚塗料組成物をその乾燥膜厚が150μmとなるように塗装間隔1日で塗付し、試験板を作成した。上記試験板を23℃で7日間乾燥させ、長崎県長崎湾に静置浸漬し、1ヶ月毎の水生生物の付着面積を目視により計測し、下記評価基準に基づき評価を行った。
【0116】
0: 水生生物の付着無し
0.5: 水生生物の付着面積が0%を超え10%以下
1: 水生生物の付着面積が10%を超え20%以下
2: 水生生物の付着面積が20%を超え30%以下
3: 水生生物の付着面積が30%を超え40%以下
4: 水生生物の付着面積が40%を超え50%以下
5: 水生生物の付着面積が50%を超える
【0117】
【表4-1】
【0118】
【表4-2】
【0119】
【表5-1】
【0120】
【表5-2】
【0121】
【表6】
【0122】
【表7】
【0123】
【表8】