特許第6360973号(P6360973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6360973
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】自己潤滑的な複合被覆
(51)【国際特許分類】
   C10M 103/02 20060101AFI20180709BHJP
   C10M 125/02 20060101ALI20180709BHJP
   G04B 13/02 20060101ALI20180709BHJP
   G04B 15/14 20060101ALI20180709BHJP
   G04B 31/08 20060101ALI20180709BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20180709BHJP
   C10N 10/08 20060101ALN20180709BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20180709BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20180709BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20180709BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20180709BHJP
   C10N 50/08 20060101ALN20180709BHJP
【FI】
   C10M103/02 Z
   C10M125/02
   G04B13/02 Z
   G04B15/14 A
   G04B31/08 A
   C10N10:06
   C10N10:08
   C10N10:12
   C10N20:06 B
   C10N20:06 Z
   C10N40:00 Z
   C10N40:02
   C10N50:08
【請求項の数】12
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-518502(P2017-518502)
(86)(22)【出願日】2015年10月5日
(65)【公表番号】特表2017-531714(P2017-531714A)
(43)【公表日】2017年10月26日
(86)【国際出願番号】EP2015072927
(87)【国際公開番号】WO2016055409
(87)【国際公開日】20160414
【審査請求日】2017年4月6日
(31)【優先権主張番号】14188163.1
(32)【優先日】2014年10月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】マルロー・デール,アニエス
(72)【発明者】
【氏名】ブルバン,ステュー
(72)【発明者】
【氏名】ドリュー,ブリス
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−157912(JP,A)
【文献】 特開2008−157913(JP,A)
【文献】 特開2009−210552(JP,A)
【文献】 特開2003−156575(JP,A)
【文献】 特開2008−164582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
C25D1/00−1/22、
C25D3/00−3/66、
G04B1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己潤滑的な固体の複合被覆を有する計時器部品を有する計時器機構であって、
前記被覆は、計時器機構に施されるように意図されたものであり、
前記被覆は、金属マトリックス(4)において分布するグラフェン及び/又は酸化グラフェンの粒子(3)を含有しており、
前記グラフェン及び/又は酸化グラフェンは、ファイバー、粒子又は凝集体の形態であり、
前記金属マトリックス(4)は、固体の要素によって形成されている
ことを特徴とする計時器機構。
【請求項2】
前記酸化グラフェンは、還元酸化グラフェンである
ことを特徴とする請求項1に記載の計時器機構。
【請求項3】
前記グラフェン及び/又は酸化グラフェンは、純金属又は金属合金からの金属イオンに結合している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の計時器機構。
【請求項4】
前記固体の被覆には、熱的硬化処理を行っている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の計時器機構。
【請求項5】
前記被覆には、研磨又はラップ仕上げされている面がある
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の計時器機構。
【請求項6】
前記被覆は、5〜100nmの金のフィルム(7)で被覆されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の計時器機構。
【請求項7】
前記被覆の厚みは、0.2μm〜20μmである
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の計時器機構。
【請求項8】
前記被覆の厚みは、0.5μm〜2μmである
ことを特徴とする請求項7に記載の計時器機構。
【請求項9】
前記被覆の形成の前に、アタッチメント層(5)を堆積させる
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の計時器機構。
【請求項10】
前記被覆は、電気化学的又は化学的に(無電解で)堆積され、
前記被覆の構成物質は、前記槽内の懸濁液に含まれている
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の計時器機構。
【請求項11】
前記被覆は、さらに、アルミニウム、ダイヤモンド、窒化ホウ素、炭化タングステン、ケイ素の純粋な形態、炭化物、窒化物及び酸化物、及びこれらの混合物からなる群から選択される粒子を含有する
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の計時器機構。
【請求項12】
前記被覆は、さらに、チタン、亜硫酸水素モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びこれらの混合物からなる群から選択される粒子を含有する
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の計時器機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己潤滑的な固体の複合被覆に関し、特に、計時器機構に適用されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
計時器機構においては、互いに摩擦接触する可動部品が多数ある。このような摩擦の実体を可能な限り減らさなければならない。なぜなら、このような摩擦が、機構の精度及び/又は自律性に影響を与えうるからである。
【0003】
実際に、このような摩擦の実体は、部品の磨耗、部品の運動のためのエネルギーの消費の増加及びムーブメントの減速を発生させてしまう。
【0004】
したがって、液体潤滑剤(油)又はペースト状潤滑剤(グリース)を用いることが知られている。これらの潤滑剤の適切な量が、明確に定められた領域において控え目に用いられる。この種の潤滑剤は、摩擦を最小限にするために2つの部品の間で動くことができなければならなかったり、アセンブリー時に堆積されたりしなければならない。この2つの部品の間を動くことができるようにする場合の悪影響として、堆積された空間からなくなってしまうということがある。また、温度や相対的湿度の周囲の状態に非常に敏感である。なぜなら、これらの周囲の状態に応じて粘性が変わるからである。
【0005】
したがって、2つの短所が注目される。
* これらの液体や粘着性の潤滑剤は、劣化するように変わる。例えば、埃が混入したり、粘性が増加したり、酸化によって潤滑性が下がったりして変わる。
* この種の潤滑剤が液体又はペースト状であるため、部品の運動によって潤滑剤が接触領域から摩擦しない領域に動く傾向がある。
【0006】
したがって、摩擦する部品を清浄化して、古い潤滑剤を新しい潤滑剤に適切な位置にて交換することを伴うメンテナンス作業を定期的に行う必要がある。
【0007】
このような潤滑剤は、液体ないし粘着性の基剤によって形成される。これには、炭素のような摩擦特性を備えた粒子を含むことがある。文献WO2012/128714は、例えば、グラフェンを含有する液体について記載している。グラフェンは、Andre Geimによって2004年に分離された。グラフェンは、積み重なるとグラファイトになるような二次元の炭素結晶である。グラフェンは、興味深い摩擦特性があるようである。
【0008】
液体ないし粘着性の潤滑剤の他に、摩擦を減らすような乾式被覆が知られている。このような被覆は、保護される部分と一体化されており、なくなったり化学分解したりするようなリスクが小さい。また、このような被覆は、周囲の状態により敏感ではない。例えば、ニッケルマトリックスに分散されている炭素ナノチューブベースの被覆が知られている。このような被覆は、例えば、文献US−A−20081323475に記載されている。
【0009】
文献WO2013/150028において、被覆金属は金であるが、この被覆には、欧州指令によって許可される割合よりもはるかに高いカドミウムの割合を含有する槽を用いることが必要であり、このことは問題である。
【0010】
また、グラファイトは、電気めっきした複合被覆において耐磨耗剤としても用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
計時器は、特に、計時器用部品の寸法が小さく被覆の厚みが小さくなければならないために、一般的な機械の分野の必要性とは非常に異なる必要性があるという点で困難性がある。したがって、所望の被覆は、薄く、非常に有効でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このために、本発明は、自己潤滑的な性質がある固体の複合金属被覆に関し、この被覆は、金属マトリックスにおいて分布するグラフェン及び/又は酸化グラフェンの粒子を含有する。
【0013】
図面に関連する例(これに限定されない)として与えられる以下の説明によって、本発明を明確に理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】複合金属グラフェンで被覆された基材の概略断面図である。
図2】計時器機構の相対的振幅の変化を示しており、(a)は、本発明に係る被覆が施されたもの、(b)は、油で潤滑された計時器機構に関連する被覆が施されたものに対応している。
図3】金の層で付加的に被覆された支持体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図には、本発明に係る自己潤滑的な固体の複合金属被覆2で被覆された計時器機構からの支持体1の断面を示している。
【0016】
この被覆2は、金属マトリックス4に分布されたグラフェン及び/又は酸化グラフェンの粒子3を含有する。
【0017】
好ましくは、ファイバー又はフレークの形態(ファイバー又は粒子凝集体)のグラフェン又は酸化グラフェンの粒子3が用いられる。
【0018】
この被覆の厚みは、一般的には、0.2μm〜20μmであるが、好ましくは、0.5μm〜2μmである。
【0019】
場合によっては、被覆を堆積させる前に支持体1上にアタッチメント層5が堆積される。この層は、例えば、ニッケル又はクロム−金又は金から形成される。
【0020】
被覆の堆積は、被覆される部分が導電性の場合、電気めっきを施すことによって行われる。被覆される部分が非導電性である場合、純化学的なプロセス、例えば、酸化剤(金属カチオン又は陽イオン)、還元剤、触媒を用いるいわゆる「無電解」プロセス、が行われる。
【0021】
電気めっきプロセスの場合、金属イオン及びグラフェン及び/又は酸化グラフェンの粒子を含有する槽が用いられ、この槽に被覆される物が浸され、この物は、電気化学的な槽における堆積のための伝統的なアセンブリーにおいてカソードを形成する。
【0022】
グラフェン及び/又は酸化グラフェンの粒子に加えて、この槽は、他の種類の粒子6を含有することができる。例えば、純粋な形態、炭化物、窒化物又は酸化物のアルミニウム、窒化ホウ素、炭化タングステン、ダイヤモンド、亜硫酸水素モリブデン、PTFE及び/又はケイ素の粒子及びこれらの混合物を含有する実際にカプセル化された油滴(例、フッ素処理された油)である。
【0023】
必要ならば、金属イオンを電気化学的プロセスにおいて周知である錯化剤に結合させることができる。例えば、金の槽の場合のシアニドである。したがって、槽のpHを、緩衝剤によって、槽の化学的性質に応じた固定値に適応させることができる。例えば、ニッケル槽においてホウ酸によって酸pH価に緩衝される。
【0024】
必要ならば、槽は、電気化学的プロセスにおいて周知である添加剤も含有することができる。例えば、レベリング剤、ブライトナー剤及び還元剤である。
【0025】
槽において粒子を良好に分布させるために、槽は、界面活性剤も含有することができる。これは、上述の粒子に結合し、包囲し、その溶液の集塊を防ぐ。
【0026】
粒子の沈殿を防ぎ、一様で均質な堆積を促進するために、異なる構成要素を最良の形態で分布させるために、槽に対して機械的攪拌及び/又は超音波攪拌をする。
【0027】
(非導電性部品に対して)化学的堆積プロセスを用いる場合、同じ原則に従って複合被覆が形成される。すなわち、界面活性剤を含有する槽に粒子3及び6を加えて、槽を機械的攪拌及び/又は超音波攪拌しながら被覆する物に対して粒子3及び6を金属4とともに共堆積させる。
【0028】
堆積された金属は、純粋なニッケルのような純金属、リンを含有するニッケルのような金属合金、又は銅、スズ及び亜鉛の合金(青銅)であることができる。金属性材料の選択は、どのような結果を望むかということに依存する。例えば、ニッケル−リンによって非磁性の被覆を得ることができ、青銅によって装飾性の被覆を得ることができる。また、グラフェン又は酸化グラフェンを含有する金及び/又は銅のイオンを堆積して、金又は銅−金ベースのマトリックスを有する被覆を提供することができる。この基礎マトリックスを作るために用いることができる他の金属イオンとしては、例えば、パラジウム又は白金のイオンのような貴金属のイオンがある。
【0029】
例えば、ニッケル(III)イオン及び亜リン酸を含有する槽においてニッケル及びリンにグラフェン又は酸化グラフェンの粒子を共堆積することができる。別の例においては、金及び銅イオンが存在する状態でグラフェン又は酸化グラフェンを共堆積する。
【0030】
なお、酸化グラフェンが槽において用いられている場合、この酸化グラフェンを、電気化学的堆積プロセスの間に共還元することができ、還元酸化グラフェンに変換することができる。
【0031】
槽に他の粒子6が含まれている場合、これらの他の粒子6は、金属マトリックス4におけるグラフェン又は酸化グラフェン3の粒子と同時に共堆積される。
【0032】
これらの様々な構成要素の堆積の後、堆積された層の均質性を改善したり、かつ/又は硬度のような機械的性質を最適化したりするために、熱的な硬化処理をすることができる。
【0033】
同様に、被覆2の堆積の後に、被覆の細かい研磨を行って粗さを減らすことができる。
【0034】
同様に、5〜100nm(ナノメートル)の厚みの金の堆積7を、電気化学的又は無電解メッキによって堆積され研磨された後の被覆上に、直流電気プロセス又は他の方法(気相成長や陰極スパッタによって)によって作ることができる(図3を参照)。
【0035】
この細かい金の層7に摩擦力を発生させて、これによって、グラフェン及び/又は酸化グラフェンを含有する金属マトリックスの表面内に金が浸透する。
【0036】
このような固体の被覆は、純粋なグラフェンでは考えられない。なぜなら、特に、材料のコストのため、そして、厚みが小さすぎるためである。
【0037】
選ばれた手法においては、グラフェンの効果を金属及び他の構成要素と組み合わせることが可能になっている。グラフェンの割合を増やしたり、より硬い表面を得たりすることによって、摩擦を大幅に減らす特性がある被覆を選ぶことができ、したがって、アルミニウム、ダイヤモンド、窒化ホウ素、炭化タングステン及びこれらの混合物からなる群から選択されるグラフェン硬質粒子を加えることによって、磨耗を抑えることができる。
【0038】
したがって、特定条件のそれぞれを満たすために、特定の金属又は合金の金属マトリックスにおいて、適宜、他の無機又は有機の粒子と結合する、グラフェンの粒子又はクラスターを結合させることが関心事となる。これには、化学的結合ではなく、金属マトリックスにおいて分布する様々な粒子の存在が関連している。
【0039】
また、被覆は、計時器の部品と一体化されており、このことによって、寿命が長いこと、そして、周囲の状態に対する耐性が改善することが確実になる。
【0040】
被覆の堆積を摩擦が発生する領域に制限することができ、この堆積の間に他の部分にマスクすることができる。
【0041】
本発明の一例として、グラフェン又は酸化グラフェンの集塊が分散されるようなニッケルの金属マトリックスを含有するような複合被覆が挙げられる。
【0042】
例1
硫酸ニッケルを150〜600g/l、塩化ニッケルを4g/l〜40g/l、ホウ酸を30g/l〜50g/l及び粉末形態の酸化グラフェンを0.5g/l〜5g/l含有する槽から被覆を作った。槽のpHは3〜4であり、槽の温度を50°〜70℃に維持した。1〜20A/dm2の電流密度を与えて計時器部品に直接被覆を堆積させた。
【0043】
例2
別の例は、硫酸ニッケルの形態でニッケルを60〜150g/l、亜リン酸を5g/l〜30g/l、ホウ酸を30g/l〜50g/l、及び粉末形態の酸化グラフェンを0.1g/l〜5g/l含有する槽から得られた被覆である。pHが1〜2で、0.5〜10A/dm2、特に1〜5A/dm2の電流密度を与えることによって、ニッケル−リン及び酸化グラフェンベースの複合被覆が得られた。このように形成された被覆は、厚みが0.5〜5μmである図2(曲線(a))に記載したもののような性能を与える。
【0044】
図2は、計時器用ムーブメントのバランスの相対的な発振振幅についての24時間の継続時間にわたっての変化を示している。
【0045】
曲線(a)は、本発明に係る被覆を備えるエスケープ車を備えた標準的なムーブメントのバランスの発振振幅値を、従来技術によって潤滑されたエスケープ(エスケープ車の歯及びレバーのパレット石)を備える同じタイプのムーブメントのバランスの発振振幅値で割った関係を百分率で表している。
【0046】
曲線(b)は、被覆がなく潤滑されていないエスケープ車とレバーのパレット石を備えたバランスの発振振幅値を、従来技術によって潤滑されたエスケープ(エスケープ車の歯及びレバーのパレット石)の発振振幅値で割った関係を百分率で表している。
【0047】
なお、本発明に係る被覆の摩擦を減らす能力は、従来から用いられている液体潤滑に匹敵する(曲線(a))。曲線(b)は、潤滑剤がないと、バランスの発振振幅が減ることを示している。
図1
図2
図3