特許第6361004号(P6361004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361004
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】免疫寛容誘導剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7032 20060101AFI20180712BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20180712BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20180712BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20180712BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180712BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   A61K31/7032
   A61K39/395 N
   A61K31/7088
   A61P37/06
   A61P43/00 121
   A61P43/00 111
   A61K9/127
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-544622(P2014-544622)
(86)(22)【出願日】2013年11月5日
(86)【国際出願番号】JP2013079865
(87)【国際公開番号】WO2014069655
(87)【国際公開日】20140508
【審査請求日】2016年10月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-243967(P2012-243967)
(32)【優先日】2012年11月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511057663
【氏名又は名称】株式会社レグイミューン
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100112896
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 宏記
(72)【発明者】
【氏名】平井 敏仁
(72)【発明者】
【氏名】尾本 和也
(72)【発明者】
【氏名】田邉 一成
(72)【発明者】
【氏名】川口 絵美
(72)【発明者】
【氏名】石井 保之
(72)【発明者】
【氏名】森田 晴彦
【審査官】 深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−538115(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/120574(WO,A1)
【文献】 特開2008−273842(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/080977(WO,A1)
【文献】 Transpl.Int.,2010年,Vol.23,p.1179-1189
【文献】 American Journal of Transplantation,2004年,Vol.4,p.31-40
【文献】 Biology of Blood and Marrow Transplantation,2010年,Vol.17,p.1154-1168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 39/395
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナー造血細胞をレシピエントに移植することにより、ドナー細胞、組織又は臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導する療法に用いられる免疫寛容誘導剤であって、
α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソーム、及び共刺激経路を阻害する物質を含み、
前記共刺激経路を阻害する物質が、CD40及び/又はCD40Lに対して結合する抗体、CD40及び/又はCD40Lに対するアプタマー、CD40及び/又はCD40Lに対するアンチセンス分子、CD40及び/又はCD40Lに対するsiRNAからなる群より選択される少なくとも1種である、免疫寛容誘導剤。
【請求項2】
前記共刺激経路を阻害する物質が、抗CD40抗体又は抗CD40L抗体である、請求項に記載の免疫寛容誘導剤。
【請求項3】
移植されるドナー造血細胞が、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の造血細胞である、請求項1又は2に記載の免疫寛容誘導剤。
【請求項4】
移植されるドナー造血細胞が、骨髄である、請求項1又は2に記載の免疫寛容誘導剤。
【請求項5】
ドナー細胞、組織又は臓器が、ドナー由来の心臓、肺、肝臓、小腸、皮膚、腎臓または膵臓の一部もしくは全部である、請求項1〜のいずれか一項に記載の免疫寛容誘導剤。
【請求項6】
α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソーム、及び共刺激経路を阻害する物質が同一製剤に含まれている、請求項1〜のいずれか一項に記載の免疫寛容誘導剤。
【請求項7】
α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソームを含む製剤と、共刺激経路を阻害する物質を含む製剤とからなる2剤形態である、請求項1〜のいずれか一項に記載の免疫寛容誘導剤。
【請求項8】
ドナー造血細胞をレシピエントに移植することにより、ドナー細胞、組織又は臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導する療法に用いられる免疫寛容誘導剤の製造のための、α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソームと、共刺激経路を阻害する物質の使用であって、
前記共刺激経路を阻害する物質が、CD40及び/又はCD40Lに対して結合する抗体、CD40及び/又はCD40Lに対するアプタマー、CD40及び/又はCD40Lに対するアンチセンス分子、CD40及び/又はCD40Lに対するsiRNAからなる群より選択される少なくとも1種である、使用。
【請求項9】
α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソーム及び共刺激経路を阻害する物質を含み、
前記共刺激経路を阻害する物質が、CD40及び/又はCD40Lに対して結合する抗体、CD40及び/又はCD40Lに対するアプタマー、CD40及び/又はCD40Lに対するアンチセンス分子、CD40及び/又はCD40Lに対するsiRNAからなる群より選択される少なくとも1種である、造血細胞キメラ誘導剤。
【請求項10】
ドナー造血細胞が移植されたレシピエント又はドナー造血細胞が移植されるレシピエントに投与される、請求項に記載の造血細胞キメラ誘導剤。
【請求項11】
前記ドナー造血細胞が、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の造血細胞である、請求項に記載の造血細胞キメラ誘導剤。
【請求項12】
共刺激経路を阻害する物質が、抗CD40抗体または抗CD40L抗体である、請求項9〜11のいずれか一項に記載の造血細胞キメラ誘導剤。
【請求項13】
造血細胞キメラ誘導剤の製造のための、α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソームと、共刺激経路を阻害する物質の使用であって、
前記共刺激経路を阻害する物質が、CD40及び/又はCD40Lに対して結合する抗体、CD40及び/又はCD40Lに対するアプタマー、CD40及び/又はCD40Lに対するアンチセンス分子、CD40及び/又はCD40Lに対するsiRNAからなる群より選択される少なくとも1種である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドナー造血細胞をレシピエントに移植することにより、ドナー細胞、組織または臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導する療法に用いられる免疫寛容誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの臓器不全に対し、臓器移植は、最終的な、そして唯一の根治的な治療法として認識されている。免疫抑制剤の開発と進歩により、多くの移植臓器の急性拒絶反応はコントロール可能となってきたが、一方で、長期間の免疫抑制剤投与による毒性や、現在の免疫抑制剤では管理が困難な慢性拒絶反応のため、移植臓器の長期生着率は未だに良好とはいえない。移植免疫寛容の誘導は、臓器移植レシピエントの免疫系に、移植臓器を自己のものとして認識させることを目的とし、この免疫寛容が誘導されれば、免疫抑制剤の投与を著しく減じることが可能になり、慢性拒絶反応さえもコントロール可能になると考えられる。免疫寛容の誘導については、多くの研究成果が報告され、現在ではいくつかの臨床応用の報告もなされているが、その機序はまだ不明瞭であり、安全で確実な方法の確立には至っていない。
【0003】
Ildostadらはマウスの実験で、950cGyの放射線照射後に、ドナー骨髄中の移植片生着促進細胞(Facilitating cell)を富化した骨髄移植を行うことで骨髄移植片の生着が促進され、さらに調節性T細胞(Treg)が増殖してGVHDが予防されると報告した(非特許文献1)。Leventhalらは、Facilitating cellを利用して骨髄移植と腎移植を同時に行う臨床試験を実施し、レシピエントの血液細胞をすべてドナー細胞に置き換えることで、免疫抑制を用いずに移植片を生着させ、かつGVHDも抑制することに成功した(非特許文献2)。混合血キメラ(mixed chimera)を確立することで移植臓器の免疫寛容を誘導できることが示されたが、彼らの実験ではほぼ骨髄破壊的といえる強力な前処置がなされており、これをすべての臓器不全患者に適応することは難しい。骨髄移植前に細胞を処理しなければならないことも、この治療法を汎用化するのを困難としている。
【0004】
S. Stroberらは、分割全リンパ節照射(fractionated total lymphoid irradiation (TLI))後の骨髄移植では移植片対宿主病(GVHD)が起こらず、mixed chimeraの状態が長期間続くことを示し、その要因が前処置後に優性となるナチュラルキラーT(NKT)細胞にあると報告している(非特許文献3)。さらに彼らは、TLI後に骨髄移植と心移植を同時に行うことでmixed chimeraと移植心の寛容が得られたとし(非特許文献4)、後に類似のプロトコールでHLA適合腎移植をヒトで施行している(非特許文献5)。彼らが動物実験で使用した放射線照射は、リンパ臓器以外を遮蔽しているとはいうものの240cGyx10回とかなりの高容量であり、また分割照射であるため治療期間も長く、さらにAnti-thymocyte globlin(ATG)の投与も必要であるがその副作用も無視できない。より低線量の放射線を用い、ATGのような細胞障害性のある薬剤をできる限り使わないプロトコールがより望ましい。
【0005】
DH. Sachsらは1989年に世界で初めてmixed chimeraの導入による移植臓器の免疫寛容の誘導を報告した(非特許文献6)。その後彼らは、胸腺照射(thymic irradiation)と抗T細胞抗体の併用(非特許文献7) ADDIN EN.CITE ADDIN EN.CITE.DATA や骨髄非破壊的な線量(3Gy)の放射線全身照射(Total body irradiation;TBI)に共刺激遮断(co-stimulation blockade;CB)と抗T細胞抗体の併用(非特許文献8および9)により、T細胞の機能を抑えることでより低侵襲に免疫寛容を誘導するプロトコールを発見している。彼らはCBとして、抗CD40L抗体を2mgに、時としてCTLA4-Igを追加しているが、抗CD40 Ligand (L)抗体は血栓症が問題となることが知られており(非特許文献10)、またCTLA4-Igも易感染性を引き起こすなど、こうしたCBには実用的には問題のある副作用の課題がある。従って、こうした薬剤の使用を回避するか、できるだけ減量または使わないようなプロトコールが必要である。また、彼らのプロトコールはMHC mismatchedの組み合わせでは有効であったが、Full alloではキメラの誘導率は落ちることを認めている(非特許文献11)。しかしながら、彼らはこうしたプロトコールを応用してサル、及びヒトでの臨床応用を試みてある程度の免疫寛容誘導に成功している(非特許文献12)。これらの実験ではNKT細胞の関与は調べられていないが、胸腺キメラ(thymic chimera)の誘導にNKT細胞が重要であるとする報告や(非特許文献4)、共刺激遮断による免疫寛容誘導にNKT細胞が必須であるとの報告(非特許文献5)から、Sachsらの系においてもNKT細胞が重要な役割を果たしていると推測することができる。NKT細胞が寛容誘導に働くためには、T細胞がNKT細胞に優位な状態を作り出すことが必要であろうことは、Ikeharaらの異種間膵島移植の報告からも推測されうる(非特許文献6)。これらの報告から、NKT細胞の活性化でmixed chimeraの誘導ができる可能性が示唆される。
【0006】
一方で、NierlichらはCB-based mixed chimera modelにおいて、水溶液状(aqua liquid)のα−ガラクトシルセラミド(以下、「α-GalCer」と略記する場合がある)によるNKT細胞の活性化がむしろ免疫寛容の誘導に阻害的に働いたとし(非特許文献7)、またSeinoらは心移植において水溶液状のα-GalCerがわずかな生着延長効果しか示さなかったことを開示している(非特許文献8)。こうした現象は、NKTが免疫を制御する役割を有する一方で、免疫を活性化させる働きも有することが原因と考えられる。NKT細胞がこれらの2つの相反する作用をどのように切り替えているのかの詳細なメカニズムは明らかとはなっていない。一般的なT細胞と同様に、NKT細胞にも複数の共刺激系が存在していることが知られており(非特許文献13)、先にも述べた抗CD40L抗体やCTLA4-IgはNKTによる免疫の活性化を抑える働きをすることが知られている(非特許文献14)。しかしNKT細胞の活性化とCBの併用による移植免疫の制御を達成した報告は未だにない。
【0007】
α-GalCerの誘導体を用いることでこれを人為的にコントロールしようとする試みもなされており、移植への応用も報告されている(非特許文献15)。しかしその効果は限定的であり、免疫抑制剤であるラパマイシンと併用してマウスの心移植の生着率がわずかに延長したのみである。
【0008】
本発明者を含むグループは、リポソーム化されたα-GalCer(liposomal α-GalCer)が抗原提示細胞のCD1dを介してiNKT細胞に提示されることで、水溶液状のα-GalCerと比べて免疫制御に関する作用が高いことや(非特許文献16)、また骨髄破壊的骨髄移植の際にリポソーム化α-GalCerを投与すると、Full chimeraが形成されてもTregが増殖することでGVHDが抑制されることを報告している(非特許文献11)。さらにα-GalCerとしてKRN7000を含有するリポソームは、水溶液状のα-GalCer単独では発揮されないIL-10産生T細胞の誘導作用とIgE抗体産生抑制作用を有し、アレルギー性疾患、自己免疫疾患およびGVHDの予防ないし治療剤としても有用であることを示している(特許文献17及び特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2005/120574号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Cardenas PA, Huang Y, Ildstad ST. The role of pDC, recipient T(reg) and donor T(reg) in HSC engraftment: Mechanisms of facilitation. Chimerism 2011; 2 (3): 65.
【非特許文献2】Leventhal J, Abecassis M, Miller J, et al. Chimerism and tolerance without GVHD or engraftment syndrome in HLA-mismatched combined kidney and hematopoietic stem cell transplantation. Sci Transl Med 2012; 4 (124): 124ra28.
【非特許文献3】Lan F, Zeng D, Higuchi M, Huie P, Higgins JP, Strober S. Predominance of NK1.1+TCR alpha beta+ or DX5+TCR alpha beta+ T cells in mice conditioned with fractionated lymphoid irradiation protects against graft-versus-host disease: "natural suppressor" cells. J Immunol 2001; 167 (4): 2087.
【非特許文献4】Higuchi M, Zeng D, Shizuru J, et al. Immune tolerance to combined organ and bone marrow transplants after fractionated lymphoid irradiation involves regulatory NK T cells and clonal deletion. J Immunol 2002; 169 (10): 5564.
【非特許文献5】Scandling JD, Busque S, Dejbakhsh-Jones S, et al. Tolerance and chimerism after renal and hematopoietic-cell transplantation. N Engl J Med 2008; 358 (4): 362.
【非特許文献6】Sharabi Y, Sachs DH. Mixed chimerism and permanent specific transplantation tolerance induced by a nonlethal preparative regimen. J Exp Med 1989; 169 (2): 493.
【非特許文献7】Sykes M, Szot GL, Swenson KA, Pearson DA. Induction of high levels of allogeneic hematopoietic reconstitution and donor-specific tolerance without myelosuppressive conditioning. Nat Med 1997; 3 (7): 783.
【非特許文献8】Ito H, Kurtz J, Shaffer J, Sykes M. CD4 T cell-mediated alloresistance to fully MHC-mismatched allogeneic bone marrow engraftment is dependent on CD40-CD40 ligand interactions, and lasting T cell tolerance is induced by bone marrow transplantation with initial blockade of this pathway. J Immunol 2001; 166 (5): 2970.
【非特許文献9】Takeuchi Y, Ito H, Kurtz J, Wekerle T, Ho L, Sykes M. Earlier Low-Dose TBI or DST Overcomes CD8+ T-Cell-Mediated Alloresistance to Allogeneic Marrow in Recipients of Anti-CD40L. American Journal of Transplantation 2004; 4 (1): 31.
【非特許文献10】T. Kawai et. al., Nat. Medi. 6: 114, 2000
【非特許文献11】Bigenzahn S, Blaha P, Koporc Z, et al. The role of non-deletional tolerance mechanisms in a murine model of mixed chimerism with costimulation blockade. Am J Transplant 2005; 5 (6): 1237.
【非特許文献12】Sykes M. Mechanisms of transplantation tolerance in animals and humans. Transplantation 2009; 87 (9 Suppl): S67.
【非特許文献13】van den Heuvel MJ, Garg N, Van Kaer L, Haeryfar SMM. NKT cell costimulation: experimental progress and therapeutic promise. Trends in Molecular Medicine 2011; 17 (2): 65.
【非特許文献14】Hayakawa Y, Takeda K, Yagita H, Van Kaer L, Saiki I, Okumura K. Differential regulation of Th1 and Th2 functions of NKT cells by CD28 and CD40 costimulatory pathways. J Immunol 2001; 166 (10): 6012.
【非特許文献15】Haeryfar SMM, Lan Z, Leon-Ponte M, et al. Prolongation of Cardiac Allograft Survival by Rapamycin and the Invariant Natural Killer T Cell Glycolipid Agonist OCH. Transplantation 2008; 86 (3): 460.
【非特許文献16】Yasuyuki Ishii, Risa Nozawa et al. Alpha-galactosylceramide-driven immunotherapy for allergy. Frontiers in Bioscience 13, 6214-6228
【非特許文献17】Omar Duramad, Amy Laysang, Jun Li, Yasuyuki Ishii, Reiko Namikawa. Pharmacologic Expansion of Donor-Derived, Naturally Occurring CD41Foxp31 Regulatory T Cells Reduces Acute Graft-versus-Host Disease Lethality Without Abrogating the Graft-versus-Leukemia Effect in Murine Models. Biol Blood Marrow Transplant. 1-15 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ドナー造血細胞をレシピエントに移植することによりmixed himeraを誘導し、ドナー細胞、組織または臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導する療法において、移植臓器に対する適切な免疫寛容を誘導できる安全且つ実用的な免疫寛容誘導剤及びその使用法を創出することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、α-GalCerを含有するリポソームと共刺激経路を阻害する物質を組み合わせて使用することによって、ドナー造血細胞移植による造血細胞キメラをレシピエントに誘導することができ、これによってドナー細胞、組織または臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導することが可能になることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、以下に掲げる態様の免疫寛容誘導剤、造血細胞キメラ誘導剤等を提供する。
項1. ドナー造血細胞をレシピエントに移植することにより、ドナー細胞、組織又は臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導する療法に用いられる免疫寛容誘導剤であって、α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソーム、及び共刺激経路を阻害する物質を含む、免疫寛容誘導剤。
項2. 共刺激経路が、CD40/CD40L共刺激経路である、項1に記載の免疫寛容誘導剤。
項3. 共刺激経路を阻害する物質が、抗CD40抗体又は抗CD40L抗体である、項1又は2に記載の免疫寛容誘導剤。
項4. 移植されるドナー造血細胞が、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の造血細胞である、項1〜3のいずれか一項に記載の免疫寛容誘導剤。
項5. 移植されるドナー造血細胞が、骨髄である、項1〜3のいずれか一項に記載の免疫寛容誘導剤。
項6. ドナー細胞、組織又は臓器が、ドナー由来の心臓、肺、肝臓、小腸、皮膚、腎臓または膵臓の一部もしくは全部である、項1〜5のいずれか一項に記載の免疫寛容誘導剤。
項7. α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソーム、及び共刺激経路を阻害する物質が同一製剤に含まれている、項1〜6のいずれか一項に記載の免疫寛容誘導剤。
項8. α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソームを含む製剤と、共刺激経路を阻害する物質を含む製剤とからなる2剤形態である、項1〜6のいずれか一項に記載の免疫寛容誘導剤。
項9. ドナー造血細胞が移植されたレシピエント又はドナー造血細胞が移植されるレシピエントに対し、α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソーム、及び共刺激経路を阻害する物質を投与することを含む、ドナー細胞、組織または臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導する方法。
項10. ドナー造血細胞をレシピエントに移植することにより、ドナー細胞、組織又は臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導する療法に用いられる免疫寛容誘導剤の製造のための、α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソームと、共刺激経路を阻害する物質の使用。
項11. α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソーム及び共刺激経路を阻害する物質を含む、造血細胞キメラ誘導剤。
項12. ドナー造血細胞が移植されたレシピエント又はドナー造血細胞が移植されるレシピエントに投与される、項11に記載の造血細胞キメラ誘導剤。
項13. 前記ドナー造血細胞が、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の造血細胞である、項12に記載の造血細胞キメラ誘導剤。
項14. 共刺激経路が、CD40/CD40L共刺激経路である、項11〜13のいずれか一項に記載の造血細胞キメラ誘導剤。
項15. 共刺激経路を阻害する物質が、抗CD40抗体または抗CD40L抗体である、項11〜14のいずれか一項に記載の造血細胞キメラ誘導剤。
項16. ドナー造血細胞が移植されたレシピエント又はドナー造血細胞が移植されるレシピエントに対し、α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソーム、及び共刺激経路を阻害する物質を投与することを含む、レシピエント体内で造血細胞キメラの形成を誘導する方法。
項17. 造血細胞キメラ誘導剤の製造のための、α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソームと、共刺激経路を阻害する物質の使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明の免疫寛容誘導剤によれば、ドナー造血細胞をレシピエントに移植することにより、ドナー細胞、組織または臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導する療法において、レシピエント体内での造血細胞キメラを作製し、これを安定に維持させることができ、移植免疫における免疫寛容を効果的に誘導することができる。また、本発明の免疫寛容誘導剤は、レシピエント体内で、制御性T細胞を増殖し易くすることができ、このことも、免疫寛容を効果的に誘導していることに寄与していると考えられる。
【0015】
更に、従来、移植治療では、放射線照射を中心とした前処理が不可欠であるが、本発明の免疫寛容誘導剤を使用する場合、効果的に免疫寛容を誘導できるので、このような前処理を緩やかな条件に設定して、レシピエントの負担の軽減できる可能性もある。
【0016】
また、造血細胞移植によって治療を行うことのある全身性硬化症、全身エリテマトーデス、関節リウマチ、皮膚筋炎、多発性硬化症、クローン病、自己免疫性血球減少症など難治性自己免疫疾患においても免疫寛容を効率的に誘導できる可能性がある。
【0017】
加えて、本発明の造血細胞キメラ誘導剤は、レシピエント体内での造血細胞キメラを効率的に作製させることができるので、移植免疫における寛容を誘導する目的に使用されるだけでなく、実験モデル動物として利用できる造血細胞キメラ非ヒト動物の作製も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1において、レシピエントマウスの末梢血単球と脾細胞について、MHC classI抗原をレシピエントタイプ(H2Kd)とドナータイプ(H2Kb)の両方で染色した結果を示す。
図2】実施例1において、骨髄移植200日後のTBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群について、末梢血、脾臓、リンパ節、及び骨髄でのドナー細胞の生着を評価した結果を示す。
図3】実施例1において、骨髄移植200日後のTBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群について、胸腺中のドナー細胞の割合(右図)、血液細胞におけるドナーMHC class I抗原の発現を評価した結果を示す。
図4A】実施例1において、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群及びTBI+anti-CD40L群の骨髄移植後の体重変化を測定した結果を示す。
図4B】実施例1において、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群の移植100日後の小腸(左側)と肝臓(右側)の組織像において移植片拒絶を認めないことを観察した結果を示す。
図5】実施例1において、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群で認められたCD24(+)CD4(-)CD8(-)T細胞について、ドナーMHC class I抗原の発現を評価した結果を示す。
図6】実施例2において、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群とTBI+anti-CD40L群に、心臓移植を行い、心臓移植片の生着を観察した結果を示す。
図7】実施例2において、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群の心移植100日後の組織像において拒絶を認めないことを観察した結果を示す。
図8】実施例3において、各群のレシピエントマウスについて、骨髄移植後2、24、及び48時間後に血清中IL-2を測定した結果を示す。
図9】実施例3において、各群のレシピエントマウスについて、骨髄移植後2、24、及び48時間後に血清中IL-4を測定した結果を示す。
図10】実施例3において、各群のレシピエントマウスについて、骨髄移植後2、24、及び48時間後に血清中IL-10を測定した結果を示す。
図11】実施例3において、各群のレシピエントマウスについて、骨髄移植後2、24、及び48時間後に血清中IL-12を測定した結果を示す。
図12】実施例3において、各群のレシピエントマウスについて、骨髄移植後2、24、及び48時間後に血清中IFN-γを測定した結果を示す。
図13A】実施例3において、各群のレシピエントマウスについて、脾細胞中のTregの割合と活性化を測定した結果を示す図である。
図13B】実施例3において、各群のレシピエントマウスについて、脾細胞中のTregの割合と活性化を測定した結果を示す図である。
図13C】実施例3において、各群のレシピエントマウスについて、脾細胞中のTregの割合と活性化を測定した結果を示す図である。
図13D】実施例3において、各群のレシピエントマウスについて、脾細胞中のTregの割合と活性化を測定した結果を示す図である。
図14】実施例3において、anti-CD25抗体を投与することでTreg(および活性化Treg:aTreg)が消去したことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.免疫寛容誘導剤
本発明の免疫寛容誘導剤は、ドナー造血細胞をレシピエントに移植することにより、ドナー細胞、組織または臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導する療法に用いられるものであって、α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソーム、及び共刺激経路を阻害する物質を含むことを特徴とする。以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明に使用されるα−ガラクトシルセラミド(α-GalCer)とは、ガラクトースとセラミドとがα配位にて結合したスフィンゴ糖脂質であり、具体的には、WO94/09020、WO94/02168、WO94/24142、WO98/44928、Science, 278, p.1626-1629, 1997等に開示されているものを挙げることができる。本発明では、免疫寛容の誘導効果をより一層向上させるとの観点から、α-GalCerとして、所謂KRN7000、即ち(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトピラノシル)−2−ヘキサコサノイルアミノ−1,3,4−オクタデカントリオールが好適に使用される。
【0021】
本発明において、α-GalCerはリポソームに包含された状態で使用される。即ち、本発明では、α-GalCerを含有するリポソームを使用する。α-GalCerのセラミド部分は脂溶性を示すため、リポソームに包含されたα-GalCerは、通常、リポソームの脂質二重膜層にα-GalCerが局在化した構造になる。以下、α-GalCerを含有するリポソームについて、リポソーム化α-GalCerと表記することもある。
本発明に使用されるリポソーム化α-GalCerとしては、α-GalCerとしてKRN7000を使用して製造されたKRN7000含有リポソームを好ましい例として挙げることができる。またBiol Blood Marrow Transplant. 1-15 (2011)に記載の方法と同様の方法で調製した、KRN7000含有リポソーム製剤であるRGI-2001(株式会社レグイミューン製)を特に好ましい例として挙げることができる。
【0022】
本発明においてリポソームに包含されたα-GalCerを使用する場合、リポソームの構成脂質とα-GalCerの比率については、当業者であれば用途に応じて適宜設定することができ、特に制限されないが、例えば、リポソーム構成脂質の総量100重量部当たり、α-GalCerが0.05〜100重量部、好ましくは0.5〜20重量部が例示される。
【0023】
リポソーム化α-GalCerに使用される脂質(リポソーム構成脂質)は、二重膜構造を形成可能であることを限度として、特に制限されない。リポソーム構成脂質としては、具体的には、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジステロイルホスファチジルコリン(DSPC)等のジアシルホスファチジルコリン類;ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジステロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)等のジアシルホスファチジルグリセロール類;コレステロール、3β−[N−(ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、N−(トリメチルアンモニオエチル)カルバモイルコレステロール(TC−Chol)、トコフェロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール、チモステロール、エルゴステロール、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等のステロール類;ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジステロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ポリエチレングリコールホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)等のホスファチジルエタノールアミン類;ジミリストイルホスファチジン酸等のホスファチジン類;ガングリオシドGM1等のガングリオシド類;ポリエチレングリコールパルミテート、ポリエチレングリコールミリスチレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0024】
上記リポソーム構成脂質は、一種単独で使用してもよいが、二種以上を組み合わせて使用することが好ましい。リポソーム構成脂質の組み合わせの好適な例として、ジアシルホスファチジルコリン類とジアシルホスファチジルグリセロール類とステロール類の組み合わせ、並びにジアシルホスファチジルコリン類とステロール類の組み合わせ;更に好ましくは、DPPCとDOPCとDPPGとコレステロールとの組み合わせ、並びにDOPCとコレステロール及び/又はDC−Cholとの組み合わせが挙げられる。
【0025】
2種以上のリポソーム構成脂質を組み合わせて使用する場合、各脂質の配合比率については、リポソームに必要とされる大きさや流動性等を考慮に入れて適宜設定される。例えば、ジアシルホスファチジルコリン類とジアシルホスファチジルグリセロール類とステロール類との組み合わせを採用する場合であれば、ジアシルホスファチジルコリン類:ジアシルホスファチジルグリセロール類:ステロール類が、モル比で1:0.125〜0.75:0.125〜1、好ましくは1:0.14〜0.4:0.14〜0.6が挙げられる。また、例えば、DPPCとDOPCとDPPGとコレステロールとの組み合わせを採用する場合であれば、DPPC:DOPC:DPPG:コレステロールが、モル比で1:0.16〜1.65:0.16〜1.0:0.16〜1.3、好ましくは1:0.4〜0.75:0.2〜0.5:0.3〜0.75が挙げられる。また、例えば、ジアシルホスファチジルコリン類(好ましくはDOPC)とステロール類(好ましくはコレステロール及び/又はDC−Chol)との組み合わせを採用する場合であれば、ジアシルホスファチジルコリン類:ステロール類が、モル比で1:0.05〜4、好ましくは1:0.1〜1が挙げられる。
【0026】
α-GalCerをリポソーム化する場合、リポソームには、必要に応じて、ステアリルアミン、オレイルアミン等のカチオン性化合物;ジセチルホスフェート等のアニオン性化合物;膜タンパク質を含有させてもよく、これらの配合比率については適宜設定することができる。
【0027】
α-GalCerをリポソーム化する場合、リポソームのサイズについては、特に制限されないが、通常は平均粒径が5〜1000nm、好ましくは100〜400nmが挙げられる。リポソームの平均粒径は、動的光散乱法により測定される。また、リポソームの構造についても特に制限されず、MLV(multilamellar vesicles)、DRV(dehydration-rehydration vesicles)、LUV(large umilamellar vesicles)、又はSUV(small unilamellar vesicles)のいずれであってもよい。
【0028】
α-GalCerをリポソーム化する場合、リポソームに内包される溶液としては、水、緩衝液、生理食塩水等の薬学的に許容される水性担体が挙げられる。
【0029】
リポソーム化されたα-GalCerは、水和法、超音波処理法、エタノール注入法、エーテル注入法、逆相蒸発法、界面活性剤法、凍結・融解法等の公知のリポソームの製造方法を用いて作製される。また、所定のポアサイズのフィルターを通過させることにより、リポソームの粒度分布を調整することができる。また、公知の方法に従って、MLVから一枚膜リポソームへの転換、一枚膜リポソームからMLVの転換を行うこともできる。
【0030】
本発明において用いられる「共刺激経路を阻害する物質」(以下、単に阻害物質と表記することもある)とは、T細胞を活性化するために抗原提示細胞とT細胞との間でなされる共刺激経路を阻害する物質である。当該阻害物質としては、共刺激経路を阻害できることを限度として特に制限されず、低分子化合物、抗体、タンパク質、核酸(アプタマー、アンチセンス分子、siRNA等)等を使用することができる。
【0031】
共刺激経路としては、具体的には、CD86/CD28共刺激経路、CD80/CD28共刺激経路、CD40/CD40L共刺激経路、OX40/OX40L共刺激経路、ICOS/ICOSL共刺激経路等が挙げられる。本発明において用いられる阻害物質は、前記共刺激経路を構成する共刺激分子又は補助刺激分子いずれか一方の機能を阻害するものであってもよく、またこれらの双方の機能を阻害するものであってもよい。当該阻害物質としては、具体的には、CD86、CD28、CD80、CD40、及びCD40Lの中の少なくとも1種に対して機能を阻害できる低分子化合物;これらの少なくとも1種に対して結合する抗体;これらの1種に対するアプタマー、アンチセンス分子又はsiRNA等が挙げられる。
【0032】
当該阻害物質の阻害対象となる共刺激経路として、好ましくはCD40/CD40L共刺激経路が挙げられる。即ち、当該阻害物質の好適な例として、CD40及び/又はCD40Lに対して機能を阻害できる低分子化合物;CD40及び/又はCD40Lに対して結合する抗体;CD40及び/又はCD40Lに対するアプタマー、アンチセンス分子又はsiRNA等が挙げられる。これらの中でも、更に好ましくは抗CD40抗体、抗CD40L抗体が挙げられる。CD40/CD40L共刺激経路を阻害する物質とリポソーム化されたα-GalCerを同時に用いることによって、ドナー造血細胞のレシピエントへの移植によりなされる造血細胞キメラの製造をより効率的に誘導し、その結果、ドナー細胞、組織または臓器に対する免疫寛容を一層効果的にレシピエントに誘導することが可能となる。
【0033】
本発明の免疫寛容誘導剤において、α-GalCerを含有するリポソームと共刺激経路を阻害する物質との比率については、特に制限されないが、共刺激経路を阻害する物質に対して、α-GalCerを含有するリポソームがα-GalCer重量換算で0.001〜5000重量部、好ましくは0.05〜100重量部、更に好ましくは0.25〜20重量部が挙げられる。
【0034】
本発明の免疫寛容誘導剤において、α-GalCerを含有するリポソーム、及び共刺激経路を阻害する物質は、同一製剤中に含まれていてもよく、また、それぞれ異なる2つの製剤に含まれていてもよい。即ち、本発明の免疫寛容誘導剤の一態様として、α-GalCerを含有するリポソーム、及び共刺激経路を阻害する物質を含む免疫寛容誘導用製剤(1剤形態)が挙げられ、また他の一態様として、α-GalCerを含有するリポソームを含む製剤と、共刺激経路を阻害する物質を含む製剤からなる免疫寛容誘導用キット(2剤形態)が挙げられる。
【0035】
本発明の免疫寛容誘導剤の剤型については、その投与形態に応じて適宜設定でき、液剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等のいずれの剤型であってもよい。また、本発明の免疫寛容誘導剤が2剤形態である場合、α-GalCerを含有するリポソームを含む製剤と、共刺激経路を阻害する物質を含む製剤は、それぞれ同じ剤型であってもよく、また異なる製剤であってもよい。
【0036】
本発明の免疫寛容誘導剤は、α-GalCerを含有するリポソーム及び共刺激経路を阻害する物質以外に、必要に応じて、薬学的に許容される担体を含み、所望の剤型に調製される。薬学的に許容される担体としては、例えば、蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝液,クエン緩衝液,酢酸緩衝液等の水性担体;ショ糖、果糖、白糖、グルコース、乳糖、マンニトール、ソルビトール等の糖類;グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール;非イオン界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース等のセルロース誘導体;抗酸化剤;pH調節剤等が挙げられる。
【0037】
本発明の免疫寛容誘導剤は、ドナー細胞、組織又は臓器の移植を行う患者(レシピエント)に投与されるものであって、ドナー造血細胞をレシピエントに移植することにより、移植細胞、組織又は臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導する療法において使用される。即ち、本発明の免疫寛容誘導剤は、細胞、組織又は臓器の移植が必要とされているレシピエントにおいて、当該移植に先立ってあるいは同時に、ドナー細胞、組織又は臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導するためにドナー造血細胞を移植する際に投与される。
【0038】
患者に移植されるドナー細胞、組織又は臓器については、特に制限されないが、例えば、ドナー由来の心臓、肺、肝臓、小腸、皮膚、腎臓又は膵臓の一部若しくは全部が挙げられる。
【0039】
本発明において、「ドナー造血細胞」とは、レシピエントに移植されるドナー側の造血細胞であって、血球系細胞に分化可能な幹細胞のことをいう。レシピエントに移植される造血細胞の由来組織については、特に制限されず、例えば、骨髄、臍帯血、又は末梢血そのものであってもよく、また骨髄、臍帯血、又は末梢血に由来する造血細胞であってもよい。レシピエントに移植される造血細胞として、好ましくは、骨髄、臍帯血又は末梢血由来の造血細胞が挙げられる。ドナー造血細胞の移植量については、免疫寛容を誘導できる有効量であればよく、レシピエントの症状、年齢等に応じて適宜設定すればよいが、通常1x106〜3x108 cells/kg程度が挙げられる。
【0040】
本発明の免疫寛容誘導剤の投与は、ドナー造血細胞の移植前72時間〜移植後72時間の間に行えばよいが、好ましくはドナー造血細胞の移植と同時又は移植後24時間以内が挙げられる。
【0041】
本発明の免疫寛容誘導剤が2剤形態である場合、α-GalCerを含有するリポソームを含む製剤と、共刺激経路を阻害する物質を含む製剤の投与順については、特に制限されず、これらを同時に又は任意の順で投与すればよい。
【0042】
本発明の免疫寛容誘導剤の投与形態については、非経口投与、経口投与のいずれであってもよく、具体的には、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、関節内投与、粘膜投与等が挙げられる。これらの投与形態の中でも、免疫寛容の誘導をより一層向上させるという観点から、非経口投与、とりわけ静脈内投与が好適である。
【0043】
本発明の免疫寛容誘導剤の投与対象としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ウサギ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ等の哺乳動物;ニワトリ、ダチョウ等の鳥類が挙げられる。好ましくはヒトである。
【0044】
本発明の免疫寛容誘導剤の投与量については、免疫寛容を誘導できる有効量であればよく、レシピエントの症状、年齢等に応じて適宜設定すればよいが、投与されるα-GalCer量換算で1〜100μg/kg程度が挙げられる。
【0045】
通常、造血細胞の移植は、正常な血液を作ることが困難となった疾患を持つ患者に対して行われるが、本発明では、ドナー細胞、組織または臓器に対する免疫寛容をレシピエントに誘導するための造血細胞キメラの作製のために行われる。即ち、レシピエントに対して、ドナー造血細胞の移植と本発明の免疫寛容誘導剤の投与を行うことにより、レシピエント体内で造血細胞キメラが効率的に作製され、当該造血細胞キメラが、移植細胞、組織又は臓器に対する免疫寛容を誘導することが可能になる。
【0046】
また通常の移植治療ではレシピエントに対する全身放射線照射などの前処理が不可欠である。そしてこの前処理はレシピエントの造血細胞を死滅させる目的で行われるため10〜50Gy程度の高い放射線量が必要であり、レシピエントへの負担が大きい。
しかしながら、本発明の免疫寛容誘導剤を使用し、移植治療の前提として免疫寛容を誘導して造血細胞キメラを作製する場合においては、後述する実施例で示されるように、前処理における放射線照射が1〜3Gy程度の緩やかな、造血細胞の非破壊的条件であっても効率的に免疫寛容を誘導できる。したがってレシピエントの負担を軽減でき、それゆえ免疫寛容の誘導を難治性自己免疫疾患に羅患したレシピエントなど、これまで適用外であった患者にも適用拡張できる可能性がある。
【0047】
本発明において、「造血細胞キメラ」とは、レシピエント体内で、ドナー造血細胞とレシピエント造血細胞が共存する状態を指す。造血細胞キメラの状態では、胸腺でドナー由来抗原提示細胞がドナー反応性T細胞を除去するため、ドナー細胞、組織または臓器に対する特異的な免疫寛容が成立する。
【0048】
ところで背景技術の項でも述べたとおり、従来公知の造血細胞キメラの製造では、放射線照射だけでなくT細胞の機能を押さえる物質(抗T細胞抗体など)を用い、さらに共刺激経路を阻害する物質を大量に、かつ複数種類用いるようなプロトコールを採用している。しかしながら、それでもなおFull alloではキメラの誘導率が低下するなど、依然として実用に適した製造法は確立していない。
本発明の免疫寛容誘導剤によれば、免疫寛容誘導の前提となる造血細胞キメラの作製において、共刺激経路を阻害する物質はわずかな量(例えば50mg/kg以下であり、共刺激経路を阻害する物質が抗CD40L抗体であれば、25mg/kg程度。すなわち体重20gのマウスに投与する場合で1mg以下であり、共刺激経路を阻害する物質が抗CD40L抗体であれば0.5mg程度)でよいし、複数種類必要である訳でもない。後述する実施例は、それでも長期間にわたって安定に存在する造血細胞キメラを誘導できることを示している。
また本発明の免疫寛容誘導剤によれば、Facilitating cellのような、toleranceを導入しやすい細胞をex vivoで調製するといった必要もない。
すなわち、本発明の免疫寛容誘導剤は、造血細胞キメラ誘導において初めて実用化し得る免疫寛容誘導剤であることが理解できる。
【0049】
以上のことから、本発明の免疫寛容誘導剤は、造血細胞キメラの誘導に際し低線量の放射線使用で済むばかりでなく、副作用や細胞障害性のある薬剤(共刺激経路を阻害する物質)をできるだけ使用しないで済むものであり、初めて実用化し得る免疫慣用誘導剤であることが分かる。このような顕著な効果を有する免疫寛容誘導剤の有効成分として、α−ガラクトシルセラミドを含有するリポソームおよび共刺激経路を阻害する物質が含まれることは、公知の非特許文献のいずれにも記載が無く、たとえ当業者であっても容易に想到することはできない。
【0050】
2.造血細胞キメラ誘導剤
前述するように、ドナー造血細胞をレシピエントに移植する際に、α-GalCerを含有するリポソームと、共刺激経路を阻害する物質を組み合わせて投与することにより、レシピエント体内での造血細胞キメラの作製が促進される。従って本発明は、更に、α-GalCerを含有するリポソーム、及び共刺激経路を阻害する物質を含む造血細胞キメラ誘導剤をも提供する。更に、当該造血細胞キメラ誘導剤を用いた造血細胞キメラ動物の作製方法をも提供する。
【0051】
当該造血細胞キメラ誘導剤について、含有成分、剤型、投与対象、投与方法等については、前記免疫寛容誘導剤の場合と同様である。また、当該造血細胞キメラ動物の作製方法についても、前記免疫寛容誘導剤の欄に記載の通りである。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1:骨髄移植および骨髄キメラの作成
マウスは、Japan Slc, Inc.より8週齢から12週齢の雄のC57BL/6NCrSlc(B6, H-2b)、BALB/cCrSlc(BALB/c, H-2d)、C3H/HeSlc(C3H, H-2k)を購入した。マウスは東京女子医科大学の実験動物中央施設のSPF環境下にて、NIHの動物管理ガイドラインに準じて飼育した。
【0054】
骨髄移植の2〜3時間前に、レシピエントBALB/cマウスに、TBI(Total body Irradiation)3Gy (X線発生装置(MBR-1520R-3、Hitachi medical Corp. Tokyo, Japan)を照射した。次いでAnti-CD40L抗体をPBS (Invitrogen, Grand Island, NY, USA)に希釈して、Anti-CD40L抗体0.5mgを骨髄移植直後に腹腔内投与した。Anti-CD40L抗体はBixcell(West Lebanon, NH, USA)より購入した。更に国際公開第2005/120574号パンフレットと同様の方法で得られたKRN7000含有リポソーム(脂質量換算でKRN7000を10%含有する)をHanks' Balanced Salt Solution (HBSS; Invitrogen, Grand Island, NY, USA)に希釈して、KRN7000換算で0.01μg-100μg/kgの用量で骨髄移植の30分後に尾静脈から静脈内投与した。
【0055】
ドナーB6マウスを安楽死させた後に、大腿骨、脛骨を採取し、21ゲージ注射針を用いて骨髄腔より骨髄を洗い出した。骨髄細胞をHBSSに懸濁し、70μmのナイロンメッシュを通した後に1800rpm, 5分間遠心した。2mlのACK Lysing Buffer (Lonza, MD, USA)と室温で10分反応させた後、HBSSに再懸濁して細胞数をカウントし、1匹あたり骨髄細胞2x107個に調整し、レシピエントBalb/cマウスの尾静脈より静注した(TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群)。
【0056】
骨髄移植から28〜200日後に、レシピエントBALB/cマウスから末梢血を採取し、室温でACK Lysing Buffer(Lonza, MD, USA)と5分間反応させ、赤血球を破砕した。得られた末梢血単球PBMCのMHC class I抗原をレシピエントタイプ(PE-conjugated anti-H2Kd)とドナータイプ(FITC-conjugated anti-H2Kb)の両方で染色した。更に、血球の分画を判別するためにanti-TCRβ, anti-B220, anti-Gr1, anti-MAC1(BD Bioscience, CA, USA)を用いて染色した。染色は1x106の細胞を100μlのCell Staining Buffer(CSB: 5%Fetal Bovine Serum(Invitrogen, Grand Island, NY, USA)と0.5gのSodium azide(Sigma aldrich, St. Louis, MO, USA)を加えたPBS)に懸濁し、10μLの各種抗体を加え4℃で30分間反応させた。BD FACSCant II(BD Bioscience)にて測定しFACSDiva(BD Bioscience)にて解析した。
【0057】
また、比較のために、放射線照射のみで骨髄移植を行った場合(TBI群)、放射線照射とKRN7000含有リポソーム投与を行った場合(TBI+ KRN7000含有リポソーム群)、及び放射線照射とanti-CD40L抗体投与を行った場合(TBI+anti-CD40L群)についても、上記と同様に試験を行った。また、本試験は、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群はn=25、TBI群はn=8、TBI+ KRN7000含有リポソーム群はn=8、TBI+anti-CD40L群はn=22にて実施した。
【0058】
得られた結果を表1に示す。表1から明らかなように、TBI群、TBI+ KRN7000含有リポソーム群、及びTBI+anti-CD40L群では、骨髄移植28日後の末梢血上にドナー細胞は認められず、移植片は拒絶されていた。一方、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群では、92.0%のマウスで末梢血(PBL)上にドナー細胞の存在が確認された(図1参照)。また、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群のマウスでは、一度生着したドナー細胞はその後も消失することなく、移植後200日目でもその存在が確認された。
【0059】
【表1】
【0060】
また、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群と同一プロトコールにてKRN7000含有リポソームの投与量を変えたところ、表2に示すように、骨髄移植14日後におけるドナー細胞の生着はKRN7000含有リポソームの用量に依存していることが確認された。
【0061】
【表2】
【0062】
脾臓(SPL)においても、末梢血と同様に、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群でのみドナー細胞の生着が認められた(図1参照)。また、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群において、骨髄移植200日後では、ドナー細胞は、脾臓だけでなく、リンパ節、骨髄、そして胸腺にも生着していることも確認された(図2参照)。また、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群において、骨髄移植200日後には、ドナーMHC class I抗原の発現は、TCR-β陽性細胞(T-cells)、B220陽性細胞(B-cells)、MAC-1陽性マクロファージ(Mq)、Gr-1陽性顆粒球(Granulocyte)と、全ての系列の血液細胞に発現が認められた(図3参照)。
【0063】
以上の結果から、anti-CD40L抗体とKRN7000含有リポソームとを骨髄移植後に併用投与することにより、長期間安定な骨髄キメラを作製できることが示された。
【0064】
このように、本発明の免疫寛容誘導剤によりドナー細胞は拒絶されることなく各組織に生着しているが、特記すべきは、図4Aに示すように、本発明の免疫寛容誘導剤を投与したレシピエントマウスにはGVHDを疑わせるような体重減少や消化器症状は一切認められなかったことである。通常、骨髄移植後にドナーT細胞が認められればGVHDの発症が懸念されるが、本発明の免疫寛容誘導剤を用いた場合ではドナーT細胞が宿主を攻撃している所見は認めない(図4B)。実際に、In vitroにおいても、キメラマウスより抽出されたT細胞の3rd partyに対しての反応性は保たれているものの、レシピエント及びドナーに対する反応性は低下していることが確認されている。即ち、ドナー特異的に反応するT細胞が抑制されるのと同時に、ドナー側のT細胞のレシピエントへの反応性も抑制されていることが示され、In vivoでドナー細胞が拒絶されず、GVHDも起こらないことと一致している。実際に、胸腺内に認められるドナーMHC class Iの発現は、成熟したCD4 single positive, CD8 single positiveだけではなく、pre-T細胞であるCD24(+)CD4(-)CD8(-) T細胞にも認められていたことから(図5参照)、キメラマウス(移植後のレシピエントマウス)に認められるドナーT細胞は胸腺内での教育を受けてから末梢を循環していると考えられる。
【0065】
このことから、胸腺内に陽性選択(positive selection)にてドナーT細胞を誘導するドナー由来の皮質胸腺上皮細胞(cortical thymic epithelial cell:cTEC)が存在することが示唆され、またそうであるならば、同時にドナー由来の胸腺上皮細胞(medullary thymicepithelial cell:mTEC)によるホストT細胞の陰性選択(negative selection)が存在することも類推される。こうしたAllo抗原に対する中枢性免疫寛容の獲得が、本発明の免疫寛容誘導剤を用いた造血細胞キメラ成立の機序であると類推される。
【0066】
実施例2:心臓移植
実施例1におけるTBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群とTBI+anti-CD40L群の骨髄移植後14日目に、骨髄ドナーと同一ドナー(B6マウス)から異所性心移植術を施行した。ドナー、レシピエントマウスの両方をPentobarbital (Dainippon Sumitomo Pharma, Osaka, Japan)を腹腔内投与して麻酔をかけた。ドナーマウスを開腹して腹部大動脈から1%ヘパリン生理食塩水を注入して血液を灌流したのち、開胸して心臓を摘出した。レシピエントマウスを開腹して腹部大動脈と大静脈に、ドナー心臓の上行大動脈と肺動脈をそれぞれ10-0ナイロン糸にて端側吻合した。術後は用手にて腹部の移植心の拍動を確認し、拍動が確認できなくなった際には開腹して直視下に心拍の停止を確認した。
【0067】
安楽死させたマウスから脾臓を摘出し、組織を擦りつぶして細胞をCSBに懸濁した。anti-CD4, anti-CD25(BD Bioscience)にて細胞表面抗原を染色し、FoxP3染色キット(eBioscience, San Diego, CA, USA)を用いて細胞を固定、透過化し、anti-FoxP3, anti-Ki-67(eBioscience)にて核内染色をした。
【0068】
また、比較のために、実施例1におけるTBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群の骨髄移植後14日目に、骨髄ドナーと異なるドナー(C3Hマウス)から異所性心移植術も施行し、上記と同条件で試験を行った。
【0069】
得られた結果を図6に示す。図6から明らかなように、骨髄キメラにならないTBI+anti-CD40L群では、骨髄移植片と同様にgraftは全例で拒絶されたのに対して、骨髄キメラを形成できたTBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群(実線)では、B6心移植片を拒絶することなく生着していた。移植片の病理所見では、移植後100日経過しても細胞浸潤を認めず、また慢性拒絶を示唆する血管病変も存在しなかった(図7参照)。また、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群(大きい点線)では、C3H心臓を移植した場合には、TBI+anti-CD40L群(細かい点線)と同じように移植片は拒絶され、この移植臓器免疫寛容がドナー特異的であることがわかった。
【0070】
実施例3:骨髄移植後のサイトカイン産生と制御性T細胞の評価
実施例1における各群において、骨髄移植後2、24、及び48時間後に、血清サイトカイン(IL-2、IL-4、IL-10、IL-12、IFN-γ)値を測定した。結果を図8〜12に示す。
【0071】
TBI+anti-CD40L群では、IL-10が移植2時間後にわずかに増加しているが、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群及びTBI+ KRN7000含有リポソーム群に比べるとはるかに少ない。しかしながら、これらのサイトカインは移植後24時間後には消退した。IL-12も、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群及びTBI+ KRN7000含有リポソーム群では移植後に速やかに増加しているが、TBI+ KRN7000含有リポソーム群では24時間後にさらにIL-12産生が増強しているのに対し、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群ではIL-12も24時間後に消退していた。TBI+ KRN7000含有リポソーム群では24時間値でのIL-12高値に引き続き、IFN-γの著明な増加が認められた。一方、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群ではこのIFN-γの24時間後の増加は認められなかった。IFN-γの産生はIL-12依存性であり、このIL-12産生がCD40-CD40Lの副刺激系に依存的であることから、anti-CD40L抗体によるこの経路の遮断が、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群でのIFN-γの産生を抑制したと考えられる。
【0072】
以上の結果から、anti-CD40L抗体とKRN7000含有リポソームの併用投与により、T細胞をTh1へと誘導するサイトカイン産生が抑えられ、Th2へ誘導するサイトカイン産生が優位となったことが示された。
【0073】
TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群で増加するIL-2やIL-10は、免疫寛容において重要な役割を担うとされるTreg(制御性T細胞)を増強する因子として知られている。実際に、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群では他の群と比べて、移植後28日目の脾細胞中のTregが増加していることが確認された(図13A、BおよびC参照)。更に、Ki67陽性で示される活性化Tregも、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群で有意に増加していることが示された(図13AおよびD参照)。以上の結果から、anti-CD40L抗体とKRN7000含有リポソームを併用することでTregが数的にも機能的にも増強されたことが分かった。
【0074】
また、TBI+anti-CD40L+KRN7000含有リポソーム群において、表3に示す条件でanti-CD25抗体を投与し、骨髄移植から14日後に、骨髄キメラの成立の有無と脾細胞中のTreg数について評価した。
【0075】
【表3】
【0076】
得られた結果を表4及び図14に示す。骨髄移植-1〜18日後までの間に、anti-CD25抗体の投与によりTregを消去すると骨髄キメラが成立しなくなったことから(B群)、anti-CD40L抗体とKRN7000含有リポソームを用いた免疫寛容の誘導には、Tregの増強が必須であることが推察される。興味深いことに、骨髄移植28日後以降に、anti-CD25抗体の投与によりTregを消去しても、骨髄キメラは解除されなかった(C群)。即ち、anti-CD40L抗体とKRN7000含有リポソームを用いた免疫寛容の誘導には、一度中枢性寛容が成立すれば、もはやTregによる寛容の維持は必須ではないと考えられる。
【0077】
【表4】
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図14