【実施例】
【0052】
以下に実施例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1:骨髄移植および骨髄キメラの作成
マウスは、Japan Slc, Inc.より8週齢から12週齢の雄のC57BL/6NCrSlc(B6, H-2
b)、BALB/cCrSlc(BALB/c, H-2
d)、C3H/HeSlc(C3H, H-2
k)を購入した。マウスは東京女子医科大学の実験動物中央施設のSPF環境下にて、NIHの動物管理ガイドラインに準じて飼育した。
【0054】
骨髄移植の2〜3時間前に、レシピエントBALB/cマウスに、TBI(Total body Irradiation)3Gy (X線発生装置(MBR-1520R-3、Hitachi medical Corp. Tokyo, Japan)を照射した。次いでAnti-CD40L抗体をPBS (Invitrogen, Grand Island, NY, USA)に希釈して、Anti-CD40L抗体0.5mgを骨髄移植直後に腹腔内投与した。Anti-CD40L抗体はBixcell(West Lebanon, NH, USA)より購入した。更に国際公開第2005/120574号パンフレットと同様の方法で得られたKRN7000含有リポソーム(脂質量換算でKRN7000を10%含有する)をHanks' Balanced Salt Solution (HBSS; Invitrogen, Grand Island, NY, USA)に希釈して、KRN7000換算で0.01μg-100μg/kgの用量で骨髄移植の30分後に尾静脈から静脈内投与した。
【0055】
ドナーB6マウスを安楽死させた後に、大腿骨、脛骨を採取し、21ゲージ注射針を用いて骨髄腔より骨髄を洗い出した。骨髄細胞をHBSSに懸濁し、70μmのナイロンメッシュを通した後に1800rpm, 5分間遠心した。2mlのACK Lysing Buffer (Lonza, MD, USA)と室温で10分反応させた後、HBSSに再懸濁して細胞数をカウントし、1匹あたり骨髄細胞2x10
7個に調整し、レシピエントBalb/cマウスの尾静脈より静注した(TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群)。
【0056】
骨髄移植から28〜200日後に、レシピエントBALB/cマウスから末梢血を採取し、室温でACK Lysing Buffer(Lonza, MD, USA)と5分間反応させ、赤血球を破砕した。得られた末梢血単球PBMCのMHC class I抗原をレシピエントタイプ(PE-conjugated anti-H2K
d)とドナータイプ(FITC-conjugated anti-H2K
b)の両方で染色した。更に、血球の分画を判別するためにanti-TCRβ, anti-B220, anti-Gr1, anti-MAC1(BD Bioscience, CA, USA)を用いて染色した。染色は1x10
6の細胞を100μlのCell Staining Buffer(CSB: 5%Fetal Bovine Serum(Invitrogen, Grand Island, NY, USA)と0.5gのSodium azide(Sigma aldrich, St. Louis, MO, USA)を加えたPBS)に懸濁し、10μLの各種抗体を加え4℃で30分間反応させた。BD FACSCant
II(BD Bioscience)にて測定しFACSDiva(BD Bioscience)にて解析した。
【0057】
また、比較のために、放射線照射のみで骨髄移植を行った場合(TBI群)、放射線照射とKRN7000含有リポソーム投与を行った場合(TBI+ KRN7000含有リポソーム群)、及び放射線照射とanti-CD40L抗体投与を行った場合(TBI+anti-CD40L群)についても、上記と同様に試験を行った。また、本試験は、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群はn=25、TBI群はn=8、TBI+ KRN7000含有リポソーム群はn=8、TBI+anti-CD40L群はn=22にて実施した。
【0058】
得られた結果を表1に示す。表1から明らかなように、TBI群、TBI+ KRN7000含有リポソーム群、及びTBI+anti-CD40L群では、骨髄移植28日後の末梢血上にドナー細胞は認められず、移植片は拒絶されていた。一方、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群では、92.0%のマウスで末梢血(PBL)上にドナー細胞の存在が確認された(
図1参照)。また、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群のマウスでは、一度生着したドナー細胞はその後も消失することなく、移植後200日目でもその存在が確認された。
【0059】
【表1】
【0060】
また、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群と同一プロトコールにてKRN7000含有リポソームの投与量を変えたところ、表2に示すように、骨髄移植14日後におけるドナー細胞の生着はKRN7000含有リポソームの用量に依存していることが確認された。
【0061】
【表2】
【0062】
脾臓(SPL)においても、末梢血と同様に、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群でのみドナー細胞の生着が認められた(
図1参照)。また、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群において、骨髄移植200日後では、ドナー細胞は、脾臓だけでなく、リンパ節、骨髄、そして胸腺にも生着していることも確認された(
図2参照)。また、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群において、骨髄移植200日後には、ドナーMHC class I抗原の発現は、TCR-β陽性細胞(T-cells)、B220陽性細胞(B-cells)、MAC-1陽性マクロファージ(Mq)、Gr-1陽性顆粒球(Granulocyte)と、全ての系列の血液細胞に発現が認められた(
図3参照)。
【0063】
以上の結果から、anti-CD40L抗体とKRN7000含有リポソームとを骨髄移植後に併用投与することにより、長期間安定な骨髄キメラを作製できることが示された。
【0064】
このように、本発明の免疫寛容誘導剤によりドナー細胞は拒絶されることなく各組織に生着しているが、特記すべきは、
図4Aに示すように、本発明の免疫寛容誘導剤を投与したレシピエントマウスにはGVHDを疑わせるような体重減少や消化器症状は一切認められなかったことである。通常、骨髄移植後にドナーT細胞が認められればGVHDの発症が懸念されるが、本発明の免疫寛容誘導剤を用いた場合ではドナーT細胞が宿主を攻撃している所見は認めない(
図4B)。実際に、In vitroにおいても、キメラマウスより抽出されたT細胞の3rd partyに対しての反応性は保たれているものの、レシピエント及びドナーに対する反応性は低下していることが確認されている。即ち、ドナー特異的に反応するT細胞が抑制されるのと同時に、ドナー側のT細胞のレシピエントへの反応性も抑制されていることが示され、In vivoでドナー細胞が拒絶されず、GVHDも起こらないことと一致している。実際に、胸腺内に認められるドナーMHC class Iの発現は、成熟したCD4 single positive, CD8 single positiveだけではなく、pre-T細胞であるCD24(+)CD4(-)CD8(-) T細胞にも認められていたことから(
図5参照)、キメラマウス(移植後のレシピエントマウス)に認められるドナーT細胞は胸腺内での教育を受けてから末梢を循環していると考えられる。
【0065】
このことから、胸腺内に陽性選択(positive selection)にてドナーT細胞を誘導するドナー由来の皮質胸腺上皮細胞(cortical thymic epithelial cell:cTEC)が存在することが示唆され、またそうであるならば、同時にドナー由来の胸腺上皮細胞(medullary thymicepithelial cell:mTEC)によるホストT細胞の陰性選択(negative selection)が存在することも類推される。こうしたAllo抗原に対する中枢性免疫寛容の獲得が、本発明の免疫寛容誘導剤を用いた造血細胞キメラ成立の機序であると類推される。
【0066】
実施例2:心臓移植
実施例1におけるTBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群とTBI+anti-CD40L群の骨髄移植後14日目に、骨髄ドナーと同一ドナー(B6マウス)から異所性心移植術を施行した。ドナー、レシピエントマウスの両方をPentobarbital (Dainippon Sumitomo Pharma, Osaka, Japan)を腹腔内投与して麻酔をかけた。ドナーマウスを開腹して腹部大動脈から1%ヘパリン生理食塩水を注入して血液を灌流したのち、開胸して心臓を摘出した。レシピエントマウスを開腹して腹部大動脈と大静脈に、ドナー心臓の上行大動脈と肺動脈をそれぞれ10-0ナイロン糸にて端側吻合した。術後は用手にて腹部の移植心の拍動を確認し、拍動が確認できなくなった際には開腹して直視下に心拍の停止を確認した。
【0067】
安楽死させたマウスから脾臓を摘出し、組織を擦りつぶして細胞をCSBに懸濁した。anti-CD4, anti-CD25(BD Bioscience)にて細胞表面抗原を染色し、FoxP3染色キット(eBioscience, San Diego, CA, USA)を用いて細胞を固定、透過化し、anti-FoxP3, anti-Ki-67(eBioscience)にて核内染色をした。
【0068】
また、比較のために、実施例1におけるTBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群の骨髄移植後14日目に、骨髄ドナーと異なるドナー(C3Hマウス)から異所性心移植術も施行し、上記と同条件で試験を行った。
【0069】
得られた結果を
図6に示す。
図6から明らかなように、骨髄キメラにならないTBI+anti-CD40L群では、骨髄移植片と同様にgraftは全例で拒絶されたのに対して、骨髄キメラを形成できたTBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群(実線)では、B6心移植片を拒絶することなく生着していた。移植片の病理所見では、移植後100日経過しても細胞浸潤を認めず、また慢性拒絶を示唆する血管病変も存在しなかった(
図7参照)。また、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群(大きい点線)では、C3H心臓を移植した場合には、TBI+anti-CD40L群(細かい点線)と同じように移植片は拒絶され、この移植臓器免疫寛容がドナー特異的であることがわかった。
【0070】
実施例3:骨髄移植後のサイトカイン産生と制御性T細胞の評価
実施例1における各群において、骨髄移植後2、24、及び48時間後に、血清サイトカイン(IL-2、IL-4、IL-10、IL-12、IFN-γ)値を測定した。結果を
図8〜12に示す。
【0071】
TBI+anti-CD40L群では、IL-10が移植2時間後にわずかに増加しているが、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群及びTBI+ KRN7000含有リポソーム群に比べるとはるかに少ない。しかしながら、これらのサイトカインは移植後24時間後には消退した。IL-12も、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群及びTBI+ KRN7000含有リポソーム群では移植後に速やかに増加しているが、TBI+ KRN7000含有リポソーム群では24時間後にさらにIL-12産生が増強しているのに対し、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群ではIL-12も24時間後に消退していた。TBI+ KRN7000含有リポソーム群では24時間値でのIL-12高値に引き続き、IFN-γの著明な増加が認められた。一方、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群ではこのIFN-γの24時間後の増加は認められなかった。IFN-γの産生はIL-12依存性であり、このIL-12産生がCD40-CD40Lの副刺激系に依存的であることから、anti-CD40L抗体によるこの経路の遮断が、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群でのIFN-γの産生を抑制したと考えられる。
【0072】
以上の結果から、anti-CD40L抗体とKRN7000含有リポソームの併用投与により、T細胞をTh1へと誘導するサイトカイン産生が抑えられ、Th2へ誘導するサイトカイン産生が優位となったことが示された。
【0073】
TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群で増加するIL-2やIL-10は、免疫寛容において重要な役割を担うとされるTreg(制御性T細胞)を増強する因子として知られている。実際に、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群では他の群と比べて、移植後28日目の脾細胞中のTregが増加していることが確認された(
図13A、BおよびC参照)。更に、Ki67陽性で示される活性化Tregも、TBI+anti-CD40L+ KRN7000含有リポソーム群で有意に増加していることが示された(
図13AおよびD参照)。以上の結果から、anti-CD40L抗体とKRN7000含有リポソームを併用することでTregが数的にも機能的にも増強されたことが分かった。
【0074】
また、TBI+anti-CD40L+KRN7000含有リポソーム群において、表3に示す条件でanti-CD25抗体を投与し、骨髄移植から14日後に、骨髄キメラの成立の有無と脾細胞中のTreg数について評価した。
【0075】
【表3】
【0076】
得られた結果を表4及び
図14に示す。骨髄移植-1〜18日後までの間に、anti-CD25抗体の投与によりTregを消去すると骨髄キメラが成立しなくなったことから(B群)、anti-CD40L抗体とKRN7000含有リポソームを用いた免疫寛容の誘導には、Tregの増強が必須であることが推察される。興味深いことに、骨髄移植28日後以降に、anti-CD25抗体の投与によりTregを消去しても、骨髄キメラは解除されなかった(C群)。即ち、anti-CD40L抗体とKRN7000含有リポソームを用いた免疫寛容の誘導には、一度中枢性寛容が成立すれば、もはやTregによる寛容の維持は必須ではないと考えられる。
【0077】
【表4】