(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
5本以上7本以下の土留部材を組とし、その中央の土留部材のみに沿って注入管を設置し、その組において注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されていない土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材を引き上げる請求項1又は請求項2に記載の土留部材撤去方法。
土留部材として鋼矢板を使用し、鋼矢板の向きを交互に変えながら波状に並べて設置し、4本の鋼矢板に対して1本の割合で注入管を設置し、波状の鋼矢板の配列で一方の側の鋼矢板に対してのみ注入管を設置する請求項1に記載の土留部材撤去方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜8には、土留部材の引抜き跡の空隙によって生じる地盤沈下等の悪影響を防止に関連した土留工法が記載されている。しかし、特許文献4〜7においては具体的な説明はされておらず、さらに技術的に矛盾がある記載が含まれているものもあり、これらの文献に基づいてその発明が実施できるものではない。特許文献4〜7に記載の発明は実施されなかったと思われる。
【0006】
土留部材の引抜きによる空隙を生じさせない土留部材引抜き工法は、特許文献1〜3あるいは特許文献8などに記載の発明に基づいて、この出願の発明者らによって初めて実施されたと考える。これによって、土留部材の引抜きによる地盤沈下や、土留部材の放置による金属汚染を防止することができる。
【0007】
しかし、特許文献1〜3の工法を実施するためには、予め土留部材に沿って注入管を設置しなければならない。そして、注入材を注入するために、注入材を導入するホースを注入管の上端に取り付けなければならず、その注入管が引き抜かれると、ホースを取り外し、次の注入管に付け替えるという作業が繰り返される。この作業は従来の土留部材撤去方法に追加される工程であり、その分、施工に関するコストや時間が増加することになる。特に、この作業によるコストが大きくなりすぎると、土留部材を再使用できることによるコスト低減のメリットが薄くなってしまう。
【0008】
そこで、特許文献8には3本の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置することが提案されている。注入管から吐出される注入材は、隣の土留部材まで届くという知見に基く。そして、注入管で注入しながら、両隣りの土留部材を引き抜き、最後に注入管が取り付けられた土留部材を引き抜くことにより、土留部材撤去時や撤去直後における地盤沈下も防止される。しかし、特許文献8の発明では油圧式杭圧入引抜機するため、それよりも注入管の設置本数を低減することはできなかった。
【0009】
この発明は、注入管の設置本数をさらに低減することにより、施工に伴うコストを低減することができ、より省エネルギーで省資源の工法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、この発明の土留部材撤去方法は、土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、4本以上7本以下の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置することを特徴とする。特に、5本以上7本以下の土留部材を組とし、その中央の土留部材のみに沿って注入管を設置し、その組において注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されていない土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材を引き上げることにより、作業時間やコストを大きく低減できる。孔内傾斜計を設置し、孔内傾斜計により地盤の傾斜を測定しながら注入材の注入量を引き上げられる土留部材の体積の2倍以上4倍以下の範囲内で調整して注入することにより、少ない注入材の使用でも、より遠くの土留部材に注入材を到達させることができる。
【0011】
また、土留部材として鋼矢板を使用し、鋼矢板の向きを交互に変えながら波状に並べて設置し、4本の鋼矢板に対して1本の割合で注入管を設置し、波状の鋼矢板の配列で一方の側の鋼矢板に対してのみ注入管を設置することもできる。
【発明の効果】
【0012】
この発明の土留部材撤去方法によれば、注入管の使用本数を大幅に低減し、注入管の設置やホースの付け替え作業に伴う時間を短縮できるので、工事全体の時間やコストを下げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。土留部材と注入管の配置例を示す平面図である。
【0015】
土留部材xとしては、コの字状の断面形状を有する鋼矢板を使用している。水道管、ガス管等を埋設する工事に先立って土留部材1を並べて設置して土留壁を形成する。鋼矢板の場合、端部に設けられたセクションと呼ばれる接続部同士を合わせてつなぎながら、端から順に打ち込んでいく。このとき、鋼矢板は向きを交互に変えられながら波状に並べられる。土留部材の打ち込み作業は特定されず、打撃式打ち込み装置や油圧式杭圧入引抜機、あるいは振動式杭打機などが使用できる。
【0016】
この発明の土留部材撤去方法では、土留部材1に沿って注入管2を地中に設置する。ここで、注入管2はすべての土留部材1には設けられず、4本以上7本以下の土留部材に対して1本の割合で設置される。
図1の例では5本の土留部材の内の1本の土留部材に対してのみ注入管が設置される。たとえば、符号1a
-2,1a
-1,1a
0,1a
1,1a
2で示される5本の土留部材が一組(a)となっており、その中央の土留部材1a
0に注入管2aが設置される。他の4本の土留部材1a
-2,1a
-1,1a
1,1a
2には注入管は設置されない。
【0017】
注入管2は予め土留部材1に取り付けておいて、土留部材とともに打ち込んでもよく、すでに設置されている土留部材に沿って後から設置してもよい。
図2は注入管が予め取り付けられた土留部材の例を示す斜視図である。土留部材とともに注入管を建て込む場合は
図2に示すような注入管付きの土留部材を使用する。鋼矢板1は、広い中央面と、その両側の側面を有するが、
図2の例では中央面の中心線に沿って取り付けられている。
【0018】
注入管について説明する。ここで、注入管とは先端部材を含め、注入材の注入のために土留め部材に取り付けられる一連の部材の総称である。
図3は注入管を示す概念図であり、
図2の土留部材に取り付けられる例である。
【0019】
中間ロッド21a、21bは平行に設けられた2本の円柱状のパイプである。それぞれのパイプ21a、21bが独立した薬液の流路を形成する。この中間ロッド21a、21bは長さ方向に分割されている。そして、長さ方向に差し込むことによって接続する接続部材によって接続される。
【0020】
そして、接続箇所にはブレ止め部材22が取り付けられる。ブレ止め部材22は略直方体状の外形を有し、パイプ21a、21bを収容するための2本の孔22a,22bが貫通している。このブレ止め部材22によってパイプ21a、21bの相互の位置関係が固定され、土留め部材の建て込み時などにおけるパイプ21a、21bのブレを防止する。最上部には、薬液を供給するホース23を接続するための注入材導入部材24が設けられる。
【0021】
図4は土留め工事用注入管の先端部材の例を示す正面図、
図5は同背面図、
図6は同側面図、
図7は同A−A断面図、
図8は同B−B断面図である。先端部材10は上部部材12と下部部材13を有する。上部部材12は略直方体であり、上部には2以上の注入材導入口14a,14bが設けられている。本例では、独立した注入材導入口14が2つ並列に設けられている。上部部材12の背面は土留め部材接触面であり、土留部材1の表面に密着できるように平坦に形成されている。
【0022】
先端部材10の内部には注入材導入口14a,14bに続く広い空間が設けられており、注入材混合室19となっている。注入材混合室19の下には先端部材10の下面まで貫通した円形の孔が形成されており、栓移動路17となっている。栓移動路17の中程の位置から土留め部材接触面以外の面に向けて横方向に孔が貫通しており、注入材吐出孔となっている。また、栓移動路17の中程の下部には土留め部材接触面に続く圧力抜き孔が設けられている。
【0023】
下部部材13も上部は略直方体の形状であるが、先端部は正面側が斜めに切り落とされてくさび状になっている。下部部材13の背面も平坦に仕上げられ、土留め部材接触面となっている。下部部材13の上部には円柱状の突起部が形成されており、その外径は栓移動路17の内径に対応している。
【0024】
栓移動路17の中には、栓15が上下動可能に設けられる。栓15の外径は栓移動路7の内径とほぼ同じか、それより若干小さめである。栓15の下にはバネなどの付勢部材16が設けられ、栓15を上に押し上げる力を加えており、他に外力がかかっていないときには栓15は最上部まで押し上げられている。そして、栓15が最上部にあるときに栓15が注入材吐出孔18をふさぎ、栓15が下がった時に栓15が注入材吐出孔18をふさがないようになっている。栓15は十分な長さを有し、少し下がった程度ではまだ注入材吐出孔18は開放されず、十分に下がりきった時に注入材吐出孔18が開放する。栓移動路27の長さは100mm以上120mm以下、栓12の長さは38mm以上42mm以下とし、バネは5Kg重以上の力が加わったときに栓12が注入材吐出孔の開放位置まで下るような強さにすることが好ましい。本例では、栓移動路17の内径は18.2mmで長さは110mm、栓12の長さは40mmであり、6Kg重の力が加わった時に栓12が注入材吐出孔18の開放位置まで下るような強さのバネを使用した。これにより、打ち込みのときの衝撃や振動では容易には注入材吐出孔18の開放位置まで下がらず、注入時には注入材の圧力により注入材吐出孔18の開放位置まで下るようにすることができる。
【0025】
図9は注入管の別の例を示す概念図である。既に建て込まれた土留部材に対して後から地中に打ち込むのに適した注入管の例である。この例では、中間ロッドは二重管構造の円筒状のパイプである。ボーリングマシンを用いて地中に設置する。先端部には、掘り進めるためのビットが設けられている。中間ロッドの最上部に水を導入するためのホース取り付け口を装着し、先端より水を吐出しながら地中に打ち込む。この例でも先端部材のバネの長さや径および強さは
図4の例と同じにしている。必要な深さまで注入管を打ち込んだら、ホース取り付け口を取り外す。
【0026】
図10は注入管の上部の詳細を示す側面図、
図11は接続部材を示す側面図、
図12は注入管固定部材を示す平面図である。ホース取り付け口を取り外したら、中間ロッド22の上端に接続部材30を取り付ける。接続部材30は二重管構造になっており、下部におねじ部、上部にめねじ部を有し、中間には径が大きいフランジ部31が形成されている。そして、フランジ部31にはレンチを取り付けるための切り欠き部が設けられている。おねじ部を中間ロッド上端に形成されためねじ部に挿入し、レンチにより簡単かつ確実に接続部材30を締結することができる。
【0027】
注入管固定部材32は、垂直な土留部材接触板33と、水平な接続部材接触板34により、略L字状に形成される。また、土留部材接触板33と接続部材接触板34との間には略三角形の補強板35が設けられている。この略三角形の補強板35により注入管固定部材32は変形しにくくなっており、10回以上の繰り返し使用に耐えることができる。接続部材接触板35には接続部材の下部がはめ込まれるための空間が形成されており、上方から見るとコの字状になっている。この注入管固定部材32を中間ロッド上端に設置する。
【0028】
注入管固定部材32を中間ロッド上端に
図10のように取り付ける。土留部材接触板33を土留部材xの表面に当て、接続部材接触板34を接続部材30のフランジ部31の下面に当てる。このとき、接続部材30のフランジ部31より下の部分が、接続部材接触板34の空間部に収まる。そして、土留部材接触板33を土留部材xの表面に溶接する。また、接続部材接触板34を接続部材30のフランジ部31の下面に溶接する。こうして、中間ロッド22の上端部は、接続部材30および注入管固定部材33を介して土留部材xに強固に固定される。
【0029】
一方、長い二重管構造の中間ロッド22は溶接に対する耐性の低い素材で作られるので、中間ロッド22に対して直接溶接を行うと、中間ロッド22は破損しやすい。しかし、本例では、中間ロッド22には溶接は行う必要がない。接続部材30および注入管固定部材32は溶接に適した通常の鋼材で作成することができるので、溶接は容易であり、しかも、使用後には取り外して回収でき、繰り返し使用することができる。
【0030】
図13はキャップ36を示す正面図である。下部には接続部材30のめねじ部に係合するおねじ部が形成されている。また、密封性を高めるためのOリングが設けられている。これを接続部材30のめねじ部にねじ込むことにより中間ロッド22の上部が封止される。このキャップ36は密封性が高く、上部から土砂等が入り込むのを防止する上に、中間ロッド内の空気の出入りも遮断する。本発明の土留部材撤去方法では、注入材は遠方まで到達するので、ある注入管から地中に吐出された注入材が次の注入管の下端部より流入しようとするが、このキャップが取り付けられていると、内部に密封された空気によって下からの注入材の逆流が防止される。このようにして、1本の注入管の設置が完了する。この作業を繰り返すことにより、全ての注入管を予め設置する。
【0031】
図17は土留部材撤去の作業を示す概念図である。
図1の例においては、振動式杭打機を使用することが好ましい。振動式杭打機は、短時間で土留部材を引き上げることができる。また、無限軌道などの作業台車により吊り下げられるので地上を自由に移動することができ、土留部材の引き抜き順序を自由に選択することができる。
【0032】
引き抜き作業を開始する前に、注入管の上部に注入材を導入するホースを取り付ける。
図1のa組の土留部材1aの撤去を開始するときは、その組の注入管2aにホースを取り付ける。たとえば、
図9の注入管を使用する場合には、
図14に示すようなホース取り付け部材を使用する。
図14はホース取り付け部材を示す側面図、
図15は同平面図、
図16はホース取り付け部材の取り付け状態を示す側面図である。このホース取り付け部材37は略直方体の外形を有し、一つの側面には平坦な土留部材接触板38が設けられている。このホース取り付け部材37も二重管構造となっており、接続部材30の上部にかぶせることにより、相互に流路がつながるようになっている。また、上面には2つの注入材導入口39が対角線上に配置されている。接続部材30の下部にはねじ部は特に設けられていない。注入を行う注入管の上部に取り付けられたキャップ36を取り外し、接続部材30の上部にかぶせるだけで取り付けることができる。そして、土留部材接触板38を土留部材xの表面に当て、溶接により固定する。注入材導入口39には相互に高さが異なる2本のニップルを取り付け、これに注入材を導入するホースを取り付ける。このように高さの異なるニップルを使用することにより、狭いスペースに径の大きなニップルを設置することができる。そして、注入管2aにより注入材を地中に注入しながら、まず最初の土留部材1a
-2を撤去する。ついで、次の土留部材1a
-1を撤去する。そして、注入管2aの付いた土留部材1a
0をとばして、土留部材1a
1と土留部材1a
2を撤去する。この間も注入管2aにより注入を続ける。こうして、注入管2aの付いた土留部材1a
0以外の注入管はすべて撤去されるが、注入管2aからの注入により引抜き跡は充填される。
【0033】
最後に、注入管2aの付いた土留部材1a
0を撤去する。自走式の作業台車は、問題なく後退し、土留部材1a
0を引き抜きことができる。このときも、注入管2aにより注入を行う。注入管2aは土留部材1a
0に固定された状態で、土留部材とともに引き抜かれる。したがって、引き抜き時には、ボーリングマシンは必要がない。
【0034】
なお、
図9に示すような注入管を後から取り付けた場合、引き抜き開始時においては、注入管は最上部においてのみ土留部材に接続することができる。したがって、土留部材1a
0を引き上げていくと、土留部材に接続されていない注入管の下部が振れるおそれがある。特に、振動式杭打機を使用するとその振動により注入管が大きく揺れることになる。これを防止するために、土留部材の中間部にブレ止め部材を取り付けて、注入管を固定することが好ましい。
【0035】
図18は注入管のブレ止め部材を示す断面図、
図19はブレ止め部材のゴム板を示す平面図である。ブレ止め部材40は、鋼製の本体部41とゴム板部42を有する。本体部41は、注入管の中間ロッドが入るトンネル状の形を有し、両側に土留部材への接触部となる足部が形成されている。また、上部にはネジ穴が形成され、押えネジ43を取り付けることができる。ゴム板42は、注入管の下に敷かれる帯状部と、これに直角な別の帯状部よりなるT字の形状である。
【0036】
注入管とともに土留部材をある程度引き上げたら、上昇を一旦停止する。そして、土留部材1と注入管2の間にゴム板42を入れ、本体部41を注入管2の上からかぶせる。そして、足部を土留部材1の表面に溶接して固定する。これによって、注入管の動きが規制され、振れが防止される。ネジ穴に押えネジ43を取り付け、ネジ43で押えることにより、さらに強固に注入管を固定することができる。
【0037】
土留部材1の引抜き後には、溶接部を切り離すことにより、ブレ止め部材40を簡単に回収できる。このブレ止め部材40は再使用することができる。
【0038】
次に、注入材として使用する硬化剤について説明する。土留め部材の引抜き跡を迅速に充填するためには、硬化剤としては2液を混合するゲルタイムの短いものが好ましい。
【0039】
瞬結性の硬化剤の例について説明する。A液として水ガラス(JIS3号ケイ酸ナトリウム)80リットルに水120リットルを加えたものを用意する。B液としては、高炉セメントB種に無機系懸濁型水ガラス系グラウト用硬化剤を加えたものを用意する。例えば、高炉セメントB種50Kg、YMS45(三興コロイド化学株式会社)10Kgおよび178.7リットルを混合してB液とする。YMS45は硫酸カルシウムと水酸化カルシウムを主成分とする薬剤である。このA液とB液を1対1で使用することにより、また、高炉セメントB種50Kg、YMS90(三興コロイド化学株式会社)5Kgおよび181.4リットルを混合してB液とすると、20℃でのゲルタイムが1〜2分、4週強度0.5〜1N/mm
2となる。これらの硬化剤は、毒物や劇物を含まない安全性の高い無公害薬剤である。
【0040】
ついで、緩結性の硬化剤の例について説明する。高炉セメントB種50Kg、ベントナイト10Kg、セメントミルク凝結硬化促進剤であるYMS2000(三興コロイド化学株式会社)4Kgおよび177.8リットルを混合する。これによって、流動性消失時間が30〜40分、4週強度0.71N/mm
2となる。
【0041】
本発明においては、ゲルタイム60秒程度の硬化剤が特に適している。この程度の時間であれば、注入位置から2本または3本分離れた位置の土留部材まで硬化剤がいきわたり、しかも地盤沈下が発生する前に土壌を安定化させる。
【0042】
図20は土留部材と注入管の配置の第2の例を示す平面図である。この例では、7本の土留部材の内の1本の土留部材に対してのみ注入管が設置される。注入管を使用した土留部材の撤去について試行を重ねることにより、硬化剤のゲルタイムや注入量を適正に選択することにより、3本分離れた土留部材のある位置まで注入材を到達させることができることを見出した。これにより、使用する注入管の数がさらに少なくなり、施工についての時間とコストを大幅に低減することができる。
【0043】
本例においても、振動式杭打機のように地面を自由に移動できる作業台車に搭載された機材が用いられる。第1の例と同様に、注入管により注入しながら、注入管付きの土留部材の前後の土留部材を撤去し、最後に注入管付きの土留部材を引き抜く。こうして、7本の土留部材は、その跡を注入材によって埋めながら、安全に撤去される。
【0044】
なお、設置される土留部材の本数が7の倍数でない場合には、注入管の設置間隔が短い区間が現れる。このような短い区間は、配列の先頭部に設けることができる。たとえば、土留部材の本数を7で割って余りが5になる場合には、
図20に示すように、最初の区間は5本の土留部材に対して1本の注入管を設置し、それ以降は5本の土留部材に対して1本の注入管を設置することができる。
【0045】
注入材は引き上げられる土留部材の体積よりも多めに注入される。土留部材を引き上げる際に、周囲の土砂もある程度持ち上げられてしまうため、引き抜きによって生じる空隙は、土留部材の体積よりも大きくなるからである。また、本例のように、遠くまで注入材を到達させるためには、注入材をさらに多めに注入しなければならない。しかし、あまり多く使用すれば、その分、コストが上昇する。引き上げられる土留部材の体積の2倍以上4倍以下の注入材を注入することが好ましい。さらに、孔内傾斜計を設置し、孔内傾斜計により地盤の傾斜を測定しながら注入量を選択・調整することが好ましい。これは、他の配列の例においても同様である。
【0046】
図21は土留部材と注入管の配置の第3の例を示す平面図である。この例では、4本の土留部材の内の1本の土留部材に対してのみ注入管が設置される。このように配置することにより、波状の鋼矢板の配列で一方の側の鋼矢板に対してのみ注入管を設置されることとなる。
【0047】
施工現場によって、近くに建物があるなどの理由により、一方の側でしか作業ができない場合も生じる。この例によれば、注入管は一方の側の鋼矢板に対してのみ設けられるので、作業しやすい側を選択することができる。第1の配置例や第2の配置例に比較すると注入管の本数は多くなるが、第1の配置例や第2の配置例では実施できないような場所でも本例の配置によって施工が可能となる場合がある。
【0048】
本例は、振動式杭打機の外に、油圧式杭圧入引抜機により実施することもできる。この場合、土留部材は先頭より順番に引き抜かれていく。したがって、注入管付きの土留部材が引き抜かれるとき、次の土留部材はまだ建て込まれた状態であり、その先にある注入管から注入を受けて引き抜かれることになる。しかし、第2の配列例で説明したとおり、注入材は3本分離れた土留部材まで到達させることができるので、引き抜き跡の空隙を埋めることができる。また、先に注入管付きの土留部材が引き抜かれるときに注入された注入材の一部は、次の土留部材の周囲まで到達することが判明した。したがって、この注入に加えて、引き抜き時に新たな注入材が届けば、引き抜き跡を十分に埋めることができる。
【0049】
さらに、6本の土留部材の内の1本の土留部材に対して注入管を設置することによっても、土留部材の配列の一方の側のみに注入管の設置位置を揃えることができる。この場合、振動式杭打機のように地面を自由に移動できる作業台車に搭載された機材が用いられる。