【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
【0089】
(スライムバクテリア)
本実施例ではスライムを形成するバクテリアとして国家指定研究所内の微生物拠点センターで保有しているロードバクター・カプスラタス、ロドシュードモナス・パルストリス、バチルス・チューリンゲンシス、及びバチルス・サブチリスバクテリアを使用した。
【0090】
ロードバクター・カプスラタス及びロドシュードモナス・パルストリスを培養するための基本培地を下記表1に示し、バチルス・チューリンゲンシス及びバチルス・サブチリスバクテリアを培養するための基本培地を下記表2に示した。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
ロードバクター・カプスラタスの場合、前記培地を基本として、炭素源であるデキストロース(dextrose)、マルトース(maltose)、及びフルクトース(frutose)をそれぞれ培地の質量に対して0.3%ずつ入れ、pHを6.8に調節した。その後、0.1%(体積/体積)のロードバクター・カプスラタスをそれぞれの炭素源に接種し培養した。接種されたバクテリアは、嫌気条件下で照度2,000lux、30℃で7日間インキュベータを用いて培養された。
図5は培養されたバクテリアの7日後の変化の様子を示しており、肉眼で培地色の変化を観察することで培養状態を確認した。
【0094】
培養されたロードバクター・カプスラタスのスライム膜の形状及び構造を確認するために顕微鏡観察を行った。ロードバクター・カプスラタスのスライム膜と細胞とを区分するために、Maneval’s staining method方法を利用して染色した。
図6に顕微鏡観察の結果を示すが、ロードバクター・カプスラタスの細胞(
図6では表れないが、ピンク色に染色される部分)と、細胞を包んでいるスライム(glycocalyx)膜(
図6では表れないが、白色の部分)とが観察される。
【0095】
培地によるバクテリアの成長速度及びスライムの生成量を評価するために、以下のように実験を行った。培養されたロードバクター・カプスラタスを1,000ppmで30分間遠心分離して得られた上澄液と、エタノールとを1:1(体積/体積)で混合し、4℃で12時間沈殿させてスライム膜を分離した。
【0096】
図7は、各培地によるスライム膜を凍結乾燥して示す写真であり、
図8はロードバクター・カプスラタス及びスライムの生成量を示すグラフであり、
図9はロードバクター・カプスラタスのスライムの構成比を示すグラフである。
【0097】
実験結果、ロードバクター・カプスラタスは、
図8に示したようにマルトースで0.89g/Lの最も速い成長速度を示した。また、マルトースで培養したロードバクター・カプスラタスのスライムは、約0.25g/Lで最も多い生成量を示した。特に、
図9に示したように、マルトースで培養したロードバクター・カプスラタスが1つの細胞当たり最も多いスライムを生成していた。しかし、フルクトースで培養したロードバクター・カプスラタスは0.3g/Lで最も遅い成長速度を示した一方、1つの細胞当たりに生成したスライムは約21%で、デキストロースで培養したカプスラタスと類似した生成量を示した。
【0098】
(スライムバクテリア基盤の吸着材)
スライムが形成されたバクテリアを固定し有機栄養分(培地)を吸着させるために、まず、吸着性能が優秀な吸着材別特性を評価した。本実施例で評価した吸着材は4つであり、T社の高吸収性樹脂(Hydrogel)、T社の高多孔性樹脂(Hydrogel)、S社の膨張蛭石、S社のパーライトを使用した。一般に、バクテリアは材料の表面組織、比表面積及び表面疎水性によって吸着に対する影響を受ける(pedersn(1990)、Kidda et al.(1992))。そこで、本実施例ではバクテリアを吸着する前にそれぞれの吸着材の表面構造および比表面積を評価した。表面構造は走査電子顕微鏡を利用して観察した。また、比表面積はBET(Brunauer、Emmett、Teller)を利用して評価した。
【0099】
高吸収性樹脂は、カルボキシル基(COO
−)などのような親水性高分子を架橋することで形成された3次元網状構造物である(ファン・ジュンソク(2008))。高吸収性樹脂は、親水性のために自己質量の数百倍の水を吸収し膨張する性質を有する。一方で、これは架橋構造によって水に溶解しない性質を有する(パク・サンボム(1994))。高吸収性樹脂の表面構造は、
図10に示したように、表面空隙は存在しないものの、内部は数百μm以上の空隙が蜂の巣状に存在している。これによって、高吸収性樹脂は内部拡散による吸収、吸着及び膨張することができるようになる(ファン・ジュンソク(2008))。高吸収性樹脂の比表面積は0.11m
2/gと測定された。
【0100】
高多孔性樹脂は、高吸収性樹脂(Hydrogel)の粉砕によって表面に多様なサイズの空隙が存在し、毛細管現象による速い吸収、吸着及び膨潤が可能になる。特に、高多孔性樹脂は、
図11に示したように、空隙が互いに連結された多孔性構造を示す。高多孔性樹脂の比表面積は3.54m
2/gと測定された。
【0101】
次に、膨張蛭石は、
図12に示したように、層と層との間が、くし層に形成されている表面構造を示す。これは、蛭石を900〜1,000℃に加熱すると膨張しながら層の間にある水分が蒸気に変えられるために形成された構造である(ソン・ジェホン(2009))。膨張蛭石の物理的特性および化学造成を下記表3に示した。
【0102】
【表3】
【0103】
次に、パーライト(Perlite)は、原石を8〜12メッシュ以下に粉砕して1,000℃以上に加熱することで、パーライトに含まれた揮発油成分が変化しながら、軟化した粒子の内部から膨張して内部気孔が形成される。パーライトの表面構造は、
図13に示したように、ガラス質の皮膜に包まれた形状を有する。パーライトの化学造成及び物理的特性をそれぞれ下記表4及び表5に示した。
【0104】
【表4】
【0105】
【表5】
【0106】
それぞれの吸着材を培養することで、スライム基盤のバクテリアを固定した。
【0107】
ロードバクター・カプスラタス、ロドシュードモナス・パルストリス、バチルス・チューリンゲンシス、及びバチルス・サブチリスに24時間浸漬し吸着した。詳しくは、
図4を参照して、培養液筒に製造されたバクテリアの各培養液を入れ、定量された吸着材を吸着パッド(メッシュのサイズ700×700μm、パッドの厚さ5mm、5段連結)に投入した。培養液筒に浸漬及び浮遊(平衡錐の重さは前記数学式1によって決定した)させた後、蓋を閉めて湿度60%及び温度20%の環境で72時間保管した。次に、培養液筒から吸着パッドを取り出し、開閉型クリップを介してバクテリアが吸着された吸着材を回収した。
【0108】
このとき、バクテリアが吸着された吸着材を製造する際の吸着パッドの平均浸漬深さdは、積載荷重W
L10kg(5kg平衡錐2つ)、固定荷重W
S10kg(2kg吸着パッド5つ)、吸着パッドのサイズ(L×B=0.3m×0.3m)、培養液の単位容積の質量γ
w1,000kg/m
3から約0.22mに決定した。
【0109】
前記製造されたバクテリアが吸着された吸着材として、ロードバクター・カプスラタス、ロドシュードモナス・パルストリス、バチルス・チューリンゲンシス、及びバチルス・サブチリスを吸着した吸着材の吸着性能を評価するために、走査電子顕微鏡の分析結果を
図3(膨張蛭石を使用)及び
図4(高吸収性樹脂を使用、内部及び表面の構造形状を観察)を示した。
図3では比較のために微生物を使用していない場合に対する結果も一緒に示した。
図3及び
図4に示したように、バクテリアの良好の吸着状態(円部分を参照)を示すことが分かる。
【0110】
また、ロードバクター・カプスラタスに対してはバクテリアの吸着を評価するために吸着材別の表面組織を1,000〜10,000倍率の走査電子顕微鏡を用いて観察しており、その結果を
図14a及び
図14bに示した。実験結果、全ての吸着材ではスライムを形成したロードバクター・カプスラタスが吸着されたことが分かり、高多孔性樹脂ではロードバクター・カプスラタスが群集形態に観察された。また、これは膨張蛭石でも類似した形状を示した。
【0111】
(バクテリアが吸着された材料基盤のコーティング材)
上述したように、スライムを形成するバクテリアのうちロードバクター・カプスラタスに対するスライムの生成量及び成長評価を介して、最適の培地条件として選定されたマルトースおよびデキストロースを用いて7日間培養し、培養されたロードバクター・カプスラタスを固定化するために表面組織及び比表面積が優秀な高多孔性樹脂を用いて24時間浸漬し吸着した。次に、ロードバクター・カプスラタスを吸着してスライムを形成した高多孔性樹脂と黄土基盤の結合材とを利用してコーティング材を製造した。
【0112】
黄土基盤の結合材は、スライムバクテリア基盤のコーティング材を製造するために使用される結合材であり、C社の黄土基盤の結合材を使用した。使用された黄土基盤の結合材の化学的造成比(X線蛍光分析器:XRF)及びX線回折分析結果をそれぞれ下記表6及び
図15に示した。使用された黄土基盤の結合材は850℃で焼成されており、化学的造成比およびX線回折を測定した結果、主要成分はSiO
2およびC3A(Al
2O
3)で構成されている。また、20℃以下、55℃以上では非定型の結晶相である非定型ピークを示した。比重および粉末度は、それぞれ2.8および3,200cm
2/gであった。
【0113】
【表6】
【0114】
バクテリアが吸着された高多孔性樹脂、および黄土基盤結合材(黄土セメント)を計量して配合容器に入れ、3分間以上、十分に混合してからコーティング材を製造し、コンクリートに筆を用いて塗布する方法で以下の実験を行った。コーティング材が塗布されたコンクリートの厚さは12時間乾燥してからノギスを利用して測定しており、誤差範囲は±0.5mmであった。
【0115】
実験例1(活用バクテリア:ロードバクター・カプスラタス)
スライムバクテリアコーティング材が塗布されたコンクリートの耐硫酸性を評価するために、コーティング材の配合実験を計3組に分類し、計18配合の実験を行った。コンクリートのコーティング材の配合について、各組での配合詳細を下記表7に示した。
【0116】
【表7】
【0117】
各組の変数は、結合材の置換率、吸着材のバクテリアの混入量、およびコーティング材の厚さである。第1組は、結合材の置換率を主要変数としており、吸着材に対するバクテリアの混入量の100倍の質量との置換率は、1〜2の範囲に設定した。
【0118】
第2組は、第1組の実験結果によって決定された結合材の置換率で固定しており、第2組の主要変数は、吸着材に対するバクテリアの混入量であり、範囲は質量比で50〜200倍である。第3組は、第1組及び第2組の実験結果に基づいて結合材の置換率および吸着材のバクテリア混入率を固定しており、第3組の主要変数は、コーティングの厚さであり、範囲は0.5〜3mmである。全ての組において、コーティング材を塗布していないコンクリート、およびバクテリアを混入していないコーティング材をそれぞれ比較分析した。従来技術との比較分析結果は後述する。
【0119】
本実験例において、コーティング材を塗布するためのコンクリートの配合詳細を下記表8に示した。水−セメントの比は下水施設用の現場打設コンクリートの設計強度を考慮して、0.45にした。セメントは、韓国のS社の1種普通ポートランドセメントを使用した。細骨材および太骨材は、それぞれ最大直径が5mm以下の天然砂、および最大直径が25mmの破砕砂利を使用した。使用された天然砂および破砕砂利の密度は、それぞれ2.62及び2.6であり、造粒率はそれぞれ2.5及び6.3であった。配合の際に使用した骨材の水分状態は、表面乾燥の飽和状態が維持されるようにした。
【0120】
【表8】
【0121】
コンクリートの配合には、300リットル容量の強制式ミクサーを使用した。配合方法を簡略に説明すると、まず300リットルの配合容器に太骨材および細骨材を投入して1分間乾燥練りを実施し、更に1分30秒間乾燥練りを実施した。最後に水を投入して約2分間配合した。全ての配合において、減水剤及び空気連行剤を添加していない。コンクリートの耐硫酸性を評価するために、Φ100×200の円形供試体モールドに打設した。打設された供試体を1日経過後脱型し、恒温恒湿状態で材齢28日まで養成を実施した。養成温度は20±2℃であり、湿度は60±2℃であった。
【0122】
前記製造されたコーティング材と、コーティング材がコーティングされたコンクリートとの性能に対する評価方法は以下のようである。
【0123】
[コーティング材の評価方法]
(1)水和生成物
コーティング材の水和生成物を評価するために、コンクリートのバクテリア混入有無に応じて材齢28日に試料を採取した。採取した試料に対してX線回折分析を測定するために1mm以下に粉砕した。X線回折分析は、X線が角度に応じて試料表面の結晶層によって散乱されることで回折相を得る分析装置である。これを利用して、各試料の水和反応生成物の主要回折ピークを分析した。
【0124】
(2)内部の微細構造及び元素分析
採取された試料の内部の微細構造及び化学的構成元素を分析するために、走査電子顕微鏡及び元素分析器(EDS)を利用した。試料に電子線を放出し、5,000〜30,000の倍率で内部の微細構造を確認した。また、電子線を走査する際に放出されるX線エネルギーを利用して表面に含有された元素の種類および含量を走査した。
【0125】
[コンクリート性能の評価方法]
コーティング材が塗布されたコンクリートの主要変数による硫酸抵抗性を評価するために、JIS K 8951基準に準じて化学試料溶液に浸漬した。化学試料溶液として硫酸を5%の濃度で蒸留水に溶解して製造したものを使用しており、製造された硫酸溶液の濃度が薄くなることを考慮して、14日に1回ずつ溶液を交換した。
【0126】
(1)外観調査
硫酸5%溶液に浸漬されたコンクリートの浸漬日数別性能低下を評価するために、溶液に浸漬前、ならびに浸漬後1日、3日、7日及び28日の試験体に対して、肉眼で外観の変化を評価した。
【0127】
(2)硫酸の浸透深さ
硫酸5%溶液に浸漬されたコンクリートの硫酸浸透深さを測定するために、
図16に示したように、浸漬日数28日で切断して断面の浸漬深さを観察した。
【0128】
(3)硫酸に浸漬されたコンクリートの表面構造及び反応生成物
硫酸5%溶液に浸漬されたコンクリートの表面構造及び反応生成物を評価するために、
図16に示したように、浸漬日数28日で表面(0〜1cm)の試料を採取した。採取された試料の反応生成物を評価するために、X線回折分析装置を使用した。また、内部の微細構造及び表面に含有された元素の種類および含有量を評価するために、電子顕微鏡及び元素分析器を使用した。
【0129】
(4)質量
質量を測定するために、浸漬日数1日、3日、7日及び28日において、硫酸5%溶液に浸漬されたモールドを取り出して使用した。溶液が除去されたモールドに対して布巾などで表面の水気を除去し、乾燥炉の中で105±5℃の温度で乾燥させ、1g単位の秤を使用して質量W(g)を測定した。また、コーティング材の質量を無視するために、下記数学式2のように、硫酸溶液に浸漬する前の質量対比にて浸漬日数別の質量比を示した。
【0130】
【数3】
【0131】
数学式2において、Wは質量比(%)を、W
tは浸漬日数別の供試体の質量(kg)を、W
0は浸漬前の供試体の質量(kg)を示す。
【0132】
(5)圧縮強度
圧縮強度を評価するために、KS(2013)によってΦ100×200モールドを使用して浸漬日数1日、3日、7日及び28日の間、溶液に浸漬されたモールドを取り出して使用した。溶液が除去されたモールドに対して布巾などで表面の水気を除去し、乾燥炉の中で105±5℃の温度で乾燥させた後、500kN容量の万能材料試験機を使用してコンクリートの圧縮強度を測定した。また、硫酸浸漬日数別の圧縮強度の低下を評価するために、硫酸5%溶液に浸漬前の圧縮強度を評価した。
【0133】
(6)動弾性係数
動弾性係数を評価するために、KS(2013)によって1次共鳴振動数を介して動弾性係数を評価した。測定は、浸漬日数28日の間、溶液に浸漬されたモールドを取り出して使用した。測定装置で500〜10,000Hz容量の共鳴周波数測定機器(ERUDITE)を使用して測定した。測定部位は硫酸に侵食された試験体の中央部および表面部とし、劣化の程度を比較するために、中央部および表面部をそれぞれ3回ずつ測定して平均値で算出した。また、共鳴周波数試験による動弾性係数は数学式3及び数学式4によって算定した。
【0134】
【数4】
【0135】
【数5】
【0136】
数学式3において、E
pは動弾性係数(MPa)を、Wは供試体の質量(kg)を、F
1は縦振動の1次共鳴振動数(Hz)を示し、数学式4において、Lは供試体の長さ(mm)を、Aは供試体の断面積(mm
2)を示す。
【0137】
[コーティング材の評価結果]
(1)水和生成物
コーティング材のバクテリア混入有無、及び培地種類によるX線回折分析パターンを
図17a及び
図17bに示した。本評価対象であるバクテリアが混入されたコーティング材は、マルトース及びデキストロースでそれぞれ7日間培養されたバクテリアを使用し、高多孔性樹脂に対するバクテリアの混入量は100倍質量であり、24時間の間に浸漬および吸着し、吸着材−結合材の比は1:1.5として製造されたものである。一方、バクテリアが混入されていないコーティング材は、高多孔性樹脂を蒸留水に浸漬して吸収させたものである。高多孔性樹脂に対する蒸留水の量及び吸着材−結合材の比は、バクテリアが混入されたコーティング材と同一にした。
【0138】
X線回折分析の結果、バクテリアが混入されていないコーティング材は、10℃付近で石膏の結晶相が確認された。形成された石膏は、コーティング材の軟化作用(Softening reaction)を誘発し、これは水和反応生成物である珪酸三カルシウム(C3S)と反応してエトリンガイトを形成する。よって、バクテリアが混入されていないコーティング材では、石膏およびエトリンガイトによって体積が増加し、それによって膨張及び亀裂が発生する可能性が高い。一方、バクテリアを混入したコーティング材では、多量のシリカ成分である珪酸塩鉱物(SiO
2、Quartz)が形成された。SiO
2は0.1〜1μmの粒度を有する微細な粒子であって、反応性が高くセメント粒子の空隙を充填する効果がある。これによって、後述するようにバクテリアを混入した試験体でより高い圧縮強度を示すが、これはコーティング材でSiO
2によって内部緻密度が向上されたためであると判断される(Shiand Day(2001))。また、Ghosh(2009)は、たんぱく質を細胞周辺に形成したシュワネラバクテリアを混入したモルタルからSiO
2が析出されており、これによって強度が増進されたと報告している。しかし、現在、ロードバクター・カプスラタスによって形成されたSiO
2に関してはまだ報告されていない。よって、バクテリアによって形成された外部物質であるスライム、たんぱく質、およびアミノ酸などによって新たな有機−無機鉱物(Organic−inorganic crystal)が形成されたと期待される。また、マルトース培地で培養したロードバクター・カプスラタスを混入したコーティング材では、炭酸カルシウム強度(CaCO
3 Intensity)ピークの数が、バクテリアを混入していないコーティング材に比べ増加したが、デキストロース培地は大した影響を示していない。よって、バクテリアの種特異性および培地(酵素)は鉱物結晶を決定しており、コーティング材の耐久性の向上に培地(酵素)効果を与えることが期待される。
【0139】
(2)内部の微細構造
コーティングのバクテリアの混入有無及び培地の種類による内部の微細構造を
図18a及び
図18bに示した。バクテリアを混入していないコーティング材の場合、多数の内部の微細空隙、石膏及びエトリンガイトが存在した。一方、バクテリアを混入したコーティング材では、内部の微細空隙が殆ど示されておらず、これは形成されたSiO
2によって緻密度が向上したためである(Shi and Day(2001))。また、コーティング材の内部でロードバクター・カプスラタスがコロニーを形成し、群集形態で現れている。
【0140】
[コンクリート性能評価の結果(第1組)]
(1)外観の変化
第1組の主要変数は、バクテリア吸着材−結合材の比であり、硫酸浸漬による浸漬日数別の試験体の外観状態を
図19a及び
図19bに示した。無コーティング試験体(C)の外観変化では、浸漬日数が増加するほどペーストがなくなって鋼材が露出された。また、バクテリアを混入されていない試験体(G1−B1、G1−B1.5及びG1−B2.0)の浸漬日数別の外観変化では、吸着材−結合材の比が減少することでコーティング材の剥離がひどく現れており、吸着材−結合材の比が1.0の試験体では浸漬日数28日で試験体Cと類似した外観状態を示した。スライムバクテリア基盤の試験体の浸漬別の外観変化では、吸着材−結合材の比が1.0の試験体の浸漬日数が増加するほど、角部分でコーティング材の剥離が現れたが、吸着材−結合材の比が1.5及び2.0の試験体では浸漬日数による硫酸侵食に対する影響は微々であった。
【0141】
(2)硫酸の浸透深さ
図20では、結合材の置換率による試験体の硫酸の浸透深さを観察するために浸漬日数28日でΦ100×200mmの供試体の断面を4等分し、断面を切断してイメージ分析を行った結果を示している。浸透深さは供試体の表面から白色の脱色現象が発生した地点までの距離とした。コーティング材を塗布していない試験体(C)の表面から約3.39mmが白色に脱色されていた。また、バクテリアを混入していない試験体(G1−B1.0、G1−B1.5及びG1−B2.0)の場合には結合材の置換率が減少することで白色の脱色現象がより大きく現れた。一方、バクテリアを混入した全ての試験体ではコーティング材の脱落現象とは関係なく、コンクリート表面からの白色の脱色現象が現れなかった。
【0142】
(3)表面の微細構造及び反応生成物
X線回折分析を利用してコンクリート表面(0〜1cm)から採取した試料の反応生成物の主要回折ピークを分析した結果を
図21a及び
図21bに示し、走査電子顕微鏡及び元素分析器を使用して採取した試料の組織構造及び化学的構成元素の分析結果を
図22aおよび
図22cに示した。全ての試験体では主要反応生成物である石膏(Gypsum;CaSO
4・H
2O)、石英(Quartz;SiO
2)及び二酸化硫黄(SulfurOxide:SO
2)を示すピークが検出された。特に、コーティング材を塗布していない試験体(C)では、反応生成物である石膏及び二酸化硫黄の強度(Intensity)が強く形成されており、内部の微細構造でも多量の石膏及びエトリンガイトの形状が確認された。これによって、試験体Cは、他の試験体に比べて、低い圧縮強度を示していると判断される。また、バクテリアを混入していない試験体(G1−B1.0、G1−B1.5及びG1−B2.0)は、吸着材−結合材の比とは関係なく試験体Cと類似した傾向を示した。一方、バクテリアを混入した試験体は、吸着材−結合材の比が増加するほど試験体Cに比べ石英のピークの数および強度が強く検出された。内部の微細構造では、吸着材−結合材の比が増加するほど内部緻密度が向上しており、少量のエトリンガイトの形状が確認された。また、EDS分析結果、バクテリアを混入した試験体では、Si元素が高く示される傾向を示しており、培地成分のためMg、Na、Cl及びPなどが確認された。
【0143】
(4)質量の変化
図23では、第1組の硫酸浸漬日数別の質量の変化を示した。コーティング材を塗布していない試験体(C)は、浸漬日数7日から28日の間に約6〜11%の質量減少を示した。また、バクテリアを混入していいない試験体(G1−B1.0、G1−B1.5及びG1−B2.0)は、浸漬日数3日で吸着材−結合材の比が減少するほど減少する傾向を示しており、浸漬日数28日では吸着材−結合材の比が1.5の試験体で約4%の最も大きい減少を示した。一方、マルトースで培養したバクテリアが混入された試験体では、浸漬日数3日で吸着材−結合材の比は、質量の変化に大した影響を示していなかった。しかし、浸漬日数28日では吸着材−結合材の比が1.0の試験体で約8%の最も急激な減少を示した。デキストロースで培養されたバクテリアを混入した試験体では、浸漬日数別の質量の変化において、吸着材−結合材の比の影響は微々であった。
【0144】
(5)圧縮強度
図24では、第1組の硫酸浸漬による浸漬日数別の圧縮強度の比(f
ck/f
ck(0))を示した。ここで、f
ckは浸漬日数による試験体の圧縮強度であり、f
ck(0)は硫酸浸漬前の試験体の圧縮強度である。コーティング材を塗布していない試験体の圧縮強度の比は、浸漬日数28日で約18%の急激な強度低下を示した。一方、バクテリアを混入していない試験体(G1−B1.0、G1−B1.5及びG1−B2.0)の圧縮強度の比は、吸着材−結合材の比及び浸漬日数とは関係なく類似した傾向を示された。一方、テキストロース培地で培養したバクテリアを混入した試験体の圧縮強度の比は、浸漬日数が増加するほど吸着材−結合材の比とは関係なく増加するか類似した傾向を示した。一方、マルトース培地で培養したバクテリアを混入した試験体の圧縮強度の比は、浸漬日数及び吸着材−結合材の比とは関係なくコーティング材を塗布していない試験体に比べて約22〜35%高く示されており、バクテリアを混入していない試験体に比べて約3〜10%高く示された。これはバクテリアが形成したスライム(Glygocalyx)及びシリカ成分(SiO
2)によってコーティングの内部の緻密度が向上したためである。
【0145】
(6)動弾性係数
硫酸浸漬日数28日における試験体中央部の動弾性係数比(E
d_c/E
d_c(0))及び表面部の動弾性係数比(E
d_s/E
d_s(0))をそれぞれ
図25及び
図26に示した。ここで、E
d_cは浸漬日数28日での中央部の動弾性係数、Ed
_sは浸漬日数28日での表面部の動弾性係数、E
d_c(0)は硫酸に浸漬されていない試験体Cにおける中央部の動弾性係数、E
d_s(0)は硫酸に浸漬されていない試験体Cにおける表面部の動弾性係数である。コーティング材を塗布していない試験体(C)の中央部の動弾性係数の比は約33%であり、表面部の動弾性係数の比は約50%であり、最も急激な減少を示した。バクテリアを混入していない試験体(G1−B1.0、G1−B1.5及びG1−B2.0)の中央部の動弾性係数の比は、吸着材−結合材の比が減少するほど低く示されており、表面部の動弾性係数の比は吸着材−結合材の比とは関係なく約27〜31%低く示された。一方、バクテリアを混入した試験体の中央部の動弾性係数の比は、培地の種類とは関係なく吸着材−結合材の比が増加するほど高く示されており、表面部の動弾性係数の比はG1−M1.0の試験体を除いてはすべて高く示された。
【0146】
[コンクリート性能評価の結果(第2組)]
(1)外観の変化
第2組の主要変数はバクテリア混入量であり、硫酸浸漬によるコンクリートの外観状態を
図27a及び
図27bに示した。バクテリアを混入していない試験体(G2−W50、G2−W100及びG2−W200)は、蒸留水の混入量とは関係なく浸漬日数28日で表面からコーティング材の剥離が発生し、コンクリートが露出した。一方、スライムバクテリア基盤の試験体は、吸着材に対するバクテリアの混入量の50質量倍を除いては浸漬日数7日まで大した影響を示しておらず、浸漬日数28日では培地の種類、および吸着材に対するバクテリアの混入量とは関係なく、表面から少しのコーティング材の剥離が発生した。
【0147】
(2)硫酸の浸漬深さ
図28に、浸漬日数28日で吸着材に対するバクテリアの混入量に応じて、試験体の硫酸の浸透深さを観察するために、断面を切断してイメージ分析した結果を示した。バクテリアを混入していない全ての試験体(G2−W50、G2−W100及びG2−W200)では、コンクリートの表面が白色になる脱色現象が起こっており、吸着材に対する蒸留水の混入量が50倍のG2−W50試験体では約3.71mmと最も大きく起こっていた。一方、バクテリアが混入された試験体は吸着材に対するバクテリアの混入量の100質量倍以下では、コーティング膜の脱落および減少が起こっていたが、コンクリートの表面で白色の脱色現象は起こっていなかった。これは、バクテリアが形成した内部スライムの及びシリカ成分(SiO
2)によって内部緻密度が向上したためであると判断される。
【0148】
(3)内部の微細構造及び反応生成物
図29及び
図30では、それぞれ第2組の主要変数に応じた反応生成物の主要回折ピーク(XRD)、ならびに表面構造(SEM)および元素分析結果(EDS)を示した。分析の結果、バクテリアを混入していない試験体では、吸着材に対する蒸留水の混入量とは関係なく石膏及び二酸化硫黄の強度が強く検出された。内部の微細構造でも針状のエトリンガイト形状が確認されており、元素分析の結果、多量のS(硫黄)元素が測定された。このような反応生成物は、コンクリートの膨張及び軟化作用を起こし、組織構造の破壊及び亀裂を起こす。一方、バクテリアを混入した試験体は、吸着材に対するバクテリアの混入量が増加するほどSiO
2のピークの数および強度が増加する傾向を示しており、内部構造にて多量のスライム(Slime)膜が形成され、内部緻密度が向上したことが分かった。また、EDSの分析結果、第1組と同じくバクテリアを吸着材の質量対比で200倍混入したG2−M200、G2−D200の試験体では、SiO
2のためSi元素が高く現れる傾向を示しており、培地及びバクテリアのためMg、Na、Cl及びPなどが追加で確認された。
【0149】
(4)質量の変化
図31には、吸着材に対するバクテリアの混入量に応じた浸漬日数別の質量の変化を示した。バクテリアを混入していない試験体(G2−W50、G2−W100及びG2−W200)の質量は、浸漬日数に応じて吸着材に対する蒸留水の混入量が増加するほど減少していた。一方、バクテリアを混入した試験体の浸漬日数3日での質量の変化では、培地の有無及びバクテリアの混入量に対する影響は微々であった。しかし、浸漬日数28日では吸着材の質量対比でバクテリアが50倍混入されたG2−M50、G2−D50の試験体は、バクテリアを混入した他の試験体に比べて最も多い質量減少を示した。
【0150】
(5)圧縮強度
図32には、第2組の硫酸浸漬による圧縮強度の比(f
ck/f
ck(0))を示した。バクテリアを混入していない試験体(G2−W50、G2−W100及びG2−W200)の圧縮強度の比は、浸漬日数7日では吸着材に対する蒸留水の混入率とは関係なく約9〜11%の増加を示しており、浸漬日数28日では約12〜15%の増加を示した。浸漬日数3日において、バクテリアを混入した試験体の圧縮強度の比は、バクテリアの混入量及び培地の有無に対して、大きな影響を受けていなかった。しかし、バクテリアを混入した試験体の圧縮強度の比は、浸漬日数28日でコーティング材を塗布していない試験体に比べ約30%高く示された。また、吸着材に対するバクテリアの混入率が100%の試験体の圧縮強度の比は、吸着材の質量に対する蒸留水の混入量が100倍の試験体に比べ約4%高く示された。これは、バクテリアが形成したスライム(Glycocalyx)及びシリカ成分(SiO
2)によってコーティング材の内部緻密度が向上したためである。
【0151】
(6)動弾性係数
図33及び
図34には、それぞれ硫酸浸漬日数28日で、第2組の主要変数による各試験体の中央部の動弾性係数の比(E
d_c/E
d_c(0))、及び表面部の動弾性係数の比(E
d_s/E
d_s(0))を示した。中央部の動弾性係数の比は、全ての配合で約0.97〜1.08の類似した範囲の水準であった。一方、表面部の動弾性係数の比は、バクテリアを混入していない試験体(G2−W50、G2−W100及びG2−W200)で吸着材に対する蒸留水の混入量が増加するほど減少していた。これは水−結合材の増加のためコーティング材の強度が低下したためである。逆に、バクテリアを混入した試験体の中央部の動弾性係数の比は、培地の種類とは関係なく吸着材に対するバクテリアの混入量が増加するほど増加していた。また、バクテリアを混入した試験体の表面部の動弾性係数の比は、約1.00〜1.05の範囲で、浸漬前と類似した水準を示していた。
【0152】
[コンクリート性能評価の結果(第3組)]
(1)外観の変化
硫酸浸漬による試験体の浸漬日数別の外観の変化を
図35a及び
図35bに示した。以前の実験を通して、浸漬日数1日は硫酸浸漬に対してコンクリートの外観は大した変化を示さなかったため測定していない。浸漬日数7日において、バクテリアを混入していない試験体(G3−C0.5、G3−C1.0及びG3−C3.0)の外観は、コーティングの厚さが0.5mmの試験体を除いて、コーティングの厚さに対して大した影響を示さなかった。また、バクテリアを混入した全ての試験体でも、コーティングの厚さ及び培地の種類に対する影響は微々であった。逆に、浸漬日数28日において、バクテリアを混入していない試験体(G3−C0.5、G3−C1.0及びG3−C3.0)の外観は、バクテリアを混入した試験体に比べてコーティング材の脱落現象が大きく示された。特に、コーティングの厚さが0.5mmのG3−C0.5の試験体は、コーティング材が剥離してコンクリートが露出した。一方、バクテリアを混入した試験体の外観は、コーティングの厚さが薄いほどコーティング材の剥離現象が大きく現れた。
【0153】
(2)硫酸の浸透深さ
図36に、浸漬日数28日におけるコーティング厚さによる試験体の硫酸の浸透深さを観察するために断面を切断してイメージ分析した結果を示した。バクテリアを混入していない全ての試験体(G3−C0.5、G3−C1.0及びG3−C3.0)では、浸漬日数7〜28日でコーティング膜の脱落のために表面が露出していた。このため、コーティングの厚さが1.0mm以下の試験体の硫酸の浸透深さは、約2.99〜2.15mmでコーティングされていない試験体(C)と類似して測定された。一方、バクテリアを混入した試験体は、コーティング膜の脱落現象にもかかわらず、硫酸の浸透深さは測定されなかった。
【0154】
(3)表面構造及び反応生成物
図37及び
図38では、それぞれ第3組の主要変数による反応生成物の主要回折ピーク、ならびに表面構造および元素分析結果を示した。分析の結果、全ての試験体で主要な反応生成物である石膏(G)、石英(Q)、二酸化硫黄(S)及び炭酸カルシウムを示すピークが検出されていた。特に、バクテリアの混入有無に関係なくコーティング厚さ1mm以下では反応生成物である石膏及び二酸化硫黄の強度が強く検出されており、内部の微細構造でも多量の石膏及びエトリンガイトが確認された。また、EDS分析結果、石膏及びエトリンガイトを形成の際の消耗のため、カルシウムの回折ピークは比較的低く示された。一方、コーティングの厚さが3.0mmのバクテリアを混入した試験体は、培地の種類とは関係なくSiO
2の強度が増加する傾向を示した。これによって、他の試験体に比べて高い圧縮強度及び耐硫酸性の向上を示すと判断される。また、EDS分析結果、第1組及び第2組と同じくSi元素が高く示される傾向を示しており、培地及びバクテリアによってMg、Na、Cl及びPなどが追加で確認された。
【0155】
(4)質量の変化
図39には、第3組の硫酸の浸漬日数別の質量の変化を示した。バクテリアを混入していない試験体(G3−C0.5、G3−C1.0及びG3−C3.0)は、浸漬日数3日でコーティング厚さとは関係なく大した変化を示さなかった。逆に、浸漬日数28日ではコーティング材の厚さが0.5mmの試験体で約8%の最も大きい質量減少を示した。一方、浸漬日数別のバクテリアを混入した試験体は、培地の種類及びコーティングの厚さとは関係なく、バクテリアを混入していない試験体に比べて、質量が約1〜2%高く示されるか、類似した傾向を示した。
【0156】
(5)圧縮強度
図40には、第3組の硫酸浸漬による浸漬日数別の圧縮強度の比(f
ck/f
ck(0))を示した。バクテリアを混入していない試験体(G3−C0.5、G3−C1.0及びG3−C3.0)の圧縮強度の比は、コーティング厚さ0.5mmを除いては浸漬日数が増加するほど約8〜10%の増加を示した。マルトース培地で培養したバクテリアを混入した試験体の圧縮強度の比は、浸漬日数3日でコーティングの厚さが増加するほど増加する傾向を示しており、デキストロース培地でも類似した傾向を示した。また、浸漬日数28日での圧縮強度の比は、培地の種類に関係なくコーティング厚さが1.0mm以上の試験体で最も大きく示された。バクテリアを混入したG3−M3.0の試験体の圧縮強度の比は、浸漬日数28日でコーティング材を塗布していない試験体に比べて約36%高く示されており、バクテリアを混入していないG3−0.3の試験体に比べて約4〜6%高く示された。これは、コーティング材にて形成されたスライム膜、及び内部緻密度の向上によって硫酸の浸透が抑制され、圧縮強度が向上されたためであると判断される。
【0157】
(6)動弾性係数
図41及び
図42は、それぞれ硫酸浸漬日数28日におけるコーティングの厚さによる試験体中央部の動弾性係数の比(E
d_c/E
d_c(0))、及び表面部の動弾性係数の比(E
d_s/E
d_s(0))を示した。中央部の動弾性係数の比は、バクテリアの混入有無とは関係なく類似した傾向を示した。一方、コーティングの厚さが1.0mm以下の試験体での表面部の動弾性係数の比は、バクテリアの混入有無及び培地の種類とは関係なく類似した傾向を示した。しかし、コーティングの厚さが3mmの試験体における表面部の動弾性係数の比において、マルトースで培養したバクテリアを混入した試験体は、バクテリアを混入していない試験体に比べて約21%高い値を示した。また、デキストロースで培養されたバクテリアを混入したG3−D3.0の試験体に比べて、約8%高い値を示した。これは、バクテリアが生成したスライムの量、及び硫酸侵食による反応生成物による差であると判断される。
【0158】
[従来技術との比較分析結果]
以下では、コンクリート内の硫酸挙動に対する従来のエポキシコーティング材と、本発明とを比較するために、計4配合を実験した結果を説明する。実験体名は、エポキシコーティング材を塗布したコンクリートは「Epoxy」、バクテリアを混入していないコーティング材を「Hwangtoh」、マルトース培地で培養されたバクテリアを混入したコーティング材を塗布したコンクリートを「Maltose」、デキストロース培地で培養されたバクテリアを混入したコーティング材を塗布したコンクリートを「Dextrose」と称した。エポキシコーティング材はS社の製品を使用しており、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤とを1:1で混合して塗布しており、主成分及び物理的特性は下記表9に示したとおりである。スライムバクテリア基盤のコーティング材は、上述した実験に基づいて下記表10に示したように選定しており、バクテリアの混入可否によるコーティング材の性能を評価するために全ての条件を同一にして追加配合を行った。全ての実験体は筆で同様に塗布された。また、コーティングの厚さを同じくするために、エポキシコーティング材は1回塗布した後、12時間乾燥してから2回塗布した。コーティングの厚さは1.0mm±0.05mmに固定した。コンクリートの耐硫酸性を評価するために、JIS K 8951基準に従って、硫酸5%溶液に浸漬されたコンクリートの浸漬日数別の外観の変化、質量の変化、圧縮強度及び動弾性係数を評価した。
【0159】
【表9】
【0160】
【表10】
【0161】
(1)外観の変化
硫酸浸漬による試験体の浸漬日数別の外観の状態を
図43に示した。コーティング材を塗布していない試験体(Control)の外観は、浸漬日数が増加するほどペーストがなくなり、骨材が露出した。浸漬日数7日において、エポキシコーティング材が塗布されたコンクリートの外観は、亀裂及び膨張現象が発生していた。一方、バクテリアを混入したコーティング材が塗布されたコンクリートは、大した変化を示さなかった。浸漬日数28日において、エポキシを塗布したコンクリートの外観は、コーティング材の脱落現象が起こっており、バクテリアを混入していないコーティング材を塗布したコンクリートも類似した傾向を示した。しかし、スライムバクテリア基盤のコーティング材を塗布したコンクリートの外観は、コーティング材の脱落現象が起こったものの、これは他の試験体に比べ小さく示された。
【0162】
(2)質量の変化
図44には、硫酸浸漬日数別の質量の変化を示した。コーティング材を塗布していない試験体(Control)は、浸漬日数7日から28日の間に約6〜11%の質量減少を示した。また、エポキシコーティング材を塗布したコンクリート(Epoxy)は、浸漬日数28日で約5%の急激な質量減少を示した。一方、コーティング材を塗布していない試験体(Control)を除いた全ての試験体の浸漬日数別の質量は、浸漬日数28日で約5〜6%が減少し、類似した傾向を示した。
【0163】
(3)圧縮強度
図45には、硫酸浸漬による浸漬日数別の圧縮強度の比(f
ck/f
ck(0))を示した。コーティング材を塗布していない試験体の圧縮強度の比は、浸漬日数28日で約22%の低下を示した。エポキシコーティング材を塗布した試験体の圧縮強度の比は、浸漬日数が増加するほど減少していた。一方、バクテリアを混入した試験体の圧縮強度の比は、浸漬日数が増加するほど増加しており、浸漬日数28日で圧縮強度の比は、バクテリアを混入していない試験体(Hawngtoh)に比べて約5〜6%高く示されており、エポキシコーティング材を塗布した試験体に比べて約26〜27%高く示された。これは、浸漬日数によるコーティング材の反応生成物、バクテリアが形成したスライム膜及びシリカ成分によって、内部緻密度が向上したためである。
【0164】
(4)動弾性係数
図46及び
図47には、それぞれ硫酸浸漬日数28日で試験体の中央分の動弾性係数の比(E
d_c/E
d_c(0))、及び表面部の動弾性係数の比(E
d_s/E
d_s(0))を示した。中央部の動弾性係数の比は、コーティング材を塗布していない試験体(Control)を除いた全ての試験体で約0.97〜1.06の範囲であり、類似して示された。一方、表面部の動弾性係数の比は、エポキシコーティング材を塗布した試験体がバクテリアを混入していない試験体(Hwangtoh)に比べて約6%高く示されたものの、バクテリアを混入した試験体に比べて約9%低く示された。
【0165】
実験例2(活用バクテリア:ロドシュードモナス・パルストリス及びバチルス・チューリンゲンシス)
ロドシュードモナス・パルストリス及びバチルス・チューリンゲンシスに対して、バクテリアを混入したコーティング材を製造するために、結合材として比重が2.67g/cm
3のα−半水石膏(α−hermihydrate gypsum)及び比重が2.91g/cm
3の高炉スラグ(blast furnace slag;GGBS)を1:1の質量比で混合した結合材を用い、吸着材を浸漬した培養液と2.2:1(吸着材−結合材の比が2.2)の質量比で混合(吸着材としては、前記膨張蛭石を、バクテリア培養液:膨張蛭石の質量比=10:1で使用)したことを除いては、前記実験例1と同じ方法で実験を行った。実験結果は以下のようである。
【0166】
(1)外観の変化
硫酸浸漬による試験体の浸漬日数別の外観の状態を
図48に示した。全ての試験体は浸漬材齢1日及び3日ではっきりとした外観の変化を示さなかった。浸漬材齢7日以降、コンクリート試験体(OPC)及びバチルス・チューリンゲンシスを混入したコーティング材を使用した試験体は、外観の侵食が現れており、特にコンクリート試験体(OPC)の場合、材齢28日では目立つ外観の侵食を示した。ロドシュードモナス・パルストリスを混入したコーティング材を使用した試験体は目立つ外観の変化を示さなかった。
【0167】
(2)圧縮強度
浸漬材齢による試験体の圧縮強度の変化を
図49に示した。ロドシュードモナス・パルストリス及びバチルス・チューリンゲンシスを混入したコーティング材を使用した場合、浸漬材齢7日までで、それぞれ約45%及び25%の圧縮強度の増加を示しており、その後、浸漬材齢28日までで45%の圧縮強度の減少を示した。一方、コンクリート試験体(OPC)の場合、浸漬材齢7日で約5%、浸漬材齢28日で約10%の圧縮強度の減少を示した。
【0168】
(3)質量の変化
浸漬材料による試験体の質量の変化を
図50に示した。全ての試験体は浸漬材齢の増加につれて、質量の減少を示した。コンクリート試験体(OPC)の場合、浸漬材齢28日で約12%の質量減少を示しており、ロドシュードモナス・パルストリス及びバチルス・チューリンゲンシスを混入したコーティング材を使用した場合、材齢28日で約5%の質量の減少を示した。
【0169】
(4)微細構造の分析(SEM)
硫酸5%水溶液への浸漬28日以降、バクテリアの吸着性を評価するために、微細構造の分析結果を
図51に示した。これによれば、ロドシュードモナス・パルストリス及びバチルス・チューリンゲンシスを混入したコーティング材の粒子表面のバクテリア群集の形成を確認することができた。
【0170】
実験例3(活用バクテリア:ロードバクター・カプスラタス、ロドシュードモナス・パルストリス、バチルス・チューリンゲンシス及びバチルス・サブチリス)
ロードバクター・カプスラタス、ロドシュードモナス・パルストリス、バチルス・チューリンゲンシス及びバチルス・サブチリスに対して、バクテリアを混入したコーティング材を製造するために、結合材として比重が3.15g/cm
3の普通ポートランドセメント(ordinary portland cement;OPC)及び比重が2.91g/cm
3の高炉スラグを1:1の質量比で混合した結合材を、吸着材が浸漬された培養液と2.2:1(吸着材−結合材の比が2.2)の質量比で混合(吸着材としては、前記膨張蛭石を、バクテリア培養液:膨張蛭石の質量比=10:1で使用)したことを除いては、前記実験例1と同じ方法で実験を行った。実験結果は以下のようである。
【0171】
(1)質量の変化
浸漬材齢による試験体の質量変化を
図52に示した。硫酸溶液の浸漬材齢7日での質量変化は、配合水として水及びバクテリア培地のみを使用した場合、約4%の質量減少を示しており、バクテリア接種の培養液を配合水として使用する場合、約3〜8%の質量減少を示した。
【0172】
(2)圧縮強度
浸漬材齢による試験体の圧縮強度の変化を
図53に示した。配合水として水及びバクテリア培地のみを使用した試験体は、浸漬材齢が増加するほど圧縮強度が減少したが、バクテリア接種の培養液を配合水として使用した試験体は、浸漬材齢が増加しても圧縮強度の減少は示されなかった。
【0173】
実験例4(活用バクテリア:ロードバクター・カプスラタス、ロドシュードモナス・パルストリス、バチルス・チューリンゲンシス及びバチルス・サブチリス)
ロードバクター・カプスラタス、ロドシュードモナス・パルストリス、バチルス・チューリンゲンシス及びバチルス・サブチリスに対して、バクテリアを混入したコーティング材を製造するために、結合材として比重が2.67g/cm
3のα−半水石膏及び比重が2.91g/cm
3の高炉スラグを1:1の質量比で混合した結合材を、吸着材を浸漬した培養液と2.2:1(吸着材−結合材の比が2.2)の質量比で混合(吸着材としては、前記膨張蛭石を、バクテリア培養液:膨張蛭石の質量比=10:1で使用)したことを除いては、前記実験例1と同じ方法でコーティング材を製造した。また、製造したコーティング材を使用した試料を、硫酸腐食環境でのバクテリアの持続成長性を評価するために、JSTM C 7401に基づいて、硫酸5%溶液に浸漬した。浸漬材齢7日後、コーティング材表面の試料を採取し、これを培地に再接種(継代培養)して群落の形成を確認した。その結果を
図54に示した。
【0174】
図54を参照すると、ロドシュードモナス・パルストリス及びバチルス・チューリンゲンシスを混入したコーティング材の場合、バクテリア群落は確認されておらず、ロードバクター・カプスラタス及びバチルス・サブチリスを混入したコーティング材の場合、比較的多いバクテリアの群落形成を確認することができた。これによれば、硫酸腐食環境に露出されるスライムを形成するバクテリアの持続成長性の側面からは、ロードバクター・カプスラタス及びバチルス・サブチリスの方が有利であることが分かった。
【0175】
実験例4(活用バクテリア:ロードバクター・カプスラタス、活用結合材:マグネシア−リン酸塩複合体)
前記結合材のうち、黄土基盤の結合材、α−半水石膏、高炉スラグ、フライアッシュ、普通ポートランドセメントを用いる場合、セメントの造成のための前記吸着材の使用にも関わらず、pHの上昇のためにバクテリアの成長持続性を完全に実現することは難しい。
【0176】
一方、マグネシア−リン酸塩複合体の場合、pH7〜9の中性水準のpHを示し、初期反応速度が非常に速いため、打設後5〜15分以内に凝結が始まり、高い初期強度の発現率を備えることができる。また、マグネシア−リン酸塩複合体の接着強度は、一般セメントに比べ高い水準であり、セメントコンクリートを母材として使用する場合、高い接着強度のために接着界面ではなく母材から破壊される。また、補修界面の水分状態による付着強度の損失が少なく(一般に、補修界面は湿潤状態である)、養成温度に対する強度発現の影響が少ない。また、上水・下水道の補修工事は一般に冬季に行われ、内部温度は平均0〜5℃の水準であるが、一般のセメントコンクリートの場合、温度が低い環境での強度発現は著しく遅い。一方、マグネシア−リン酸塩複合体は強度発現が養成温度に大きく影響されないため、補修時期によって品質が低下する恐れがない。よって、本発明ではマグネシア−リン酸塩複合体が本発明による結合材として十分な役割をすると判断した。
【0177】
本実験例では、ロードバクター・カプスラタスに対して、バクテリアが混入したコーティング材を製造するための結合材として、多様な造成(下記表11を参照)のマグネシア−リン酸塩複合体を、吸着材を浸漬した培養液と2:1(吸着材−結合材の比が2)の質量比で混合(吸着材としては、前記膨張蛭石を、バクテリア培養液:膨張蛭石の質量比=10:1で使用)したことを除いては、前記実験例1と同じ方法でコーティング材を製造し、実験例1と同じ方法で実験を行った。試験体の圧縮強度及びpHを測定した結果を
図55に示した。
【0178】
【表11】
【0179】
図55を参照すると、高い圧縮強度及び10未満のpH維持性能を実現するためには、マグネシア−リン酸塩複合体のリン酸塩の含量は20〜40質量%であることが好ましく、30〜40質量%であることがより好ましいことが分かる。このとき、マグネシア−リン酸塩複合体の速い初期反応速度を考慮して、遅延剤(ホウ酸:Borax)が前記マグネシア−リン酸塩複合体100質量部に対して、1〜10質量部の含量で添加されることが好ましく、3〜5質量部の水準で添加されることがより好ましいことが分かる。
【0180】
一方、リン酸塩の種類による圧縮強度及びpHに対する影響を調べるために、下記表12に示した4種の一リン酸塩及び4種の二リン酸塩を使用して実験例1と同じ方法で実験を行い、試験体の圧縮強度及びpHを測定した結果を
図56に示した。
【0181】
【表12】
【0182】
図56を参照すると、おおよそ、二リン酸塩よりは一リン酸塩を使用した場合、優れた圧縮強度及びpHを示しており、一リン酸塩のうちでもリン酸ナトリウムまたはリン酸アンモニウム(NH
4H
2PO
4)を使用することが最も好ましいことが分かる。
【0183】
これまで説明した本発明の好ましい実施例は、技術的課題を解決するために開示されたものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば本発明の範囲内で多様な修正、変更、不可などが可能であって、このような修正・変更などは、以下の特許請求の範囲に属すると考えるべきである。