(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記撮像手段および前記投光手段を一端に備えるハウジングであって、該ハウジングは、他端が開放され被験者の眼球の周囲に覆い被せた場合に、前記光源からの投射光以外の入射を遮るよう構成され、
被験者が前記光源方向を見るようにする位置調整指標が設けられ、
前記ハウジングの端部は、被験者のまぶたを開くようにまぶたの上下方向に変形する機構を備えたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の白内障検査装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献3に開示された白内障検査装置では、点形状の光源を使用して被験者の眼の画像を撮影し、画像解析によって白内障発病の有無を判定している。そのため、瞳孔領域の特定が困難であり、瞳孔領域画像を解析して白内障の重症度の判定を行うのは困難であった。
かかる状況に鑑みて、本発明は、簡便な機材を用いる構成で、瞳孔領域を容易に特定でき、特定した瞳孔領域を用いて白内障レベルを判別できる白内障検査装置および白内障判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、白内障の簡易検査(スクリーニング)を行うための装置および方法を鋭意検討した結果、本発明を完成した。
本発明の白内障検査装置は、下記1)〜5)の手段を備える。
1)リング状投射光として眼球の瞳孔領域に略正面から投射する投光手段、
2)リング状投射光の眼球のリング状反射光を、
撮影時の位置合わせで瞳孔中心から同心円状に虹彩領域の内側に位置調整し撮像し画像情報とする撮像手段
、
3)リング状反射光を検出する反射光検出手段
、
4)リング状反射光のうち最大径かつ最大輝度の反射光の内輪郭の内側を瞳孔領域の色特徴に特定し解析する色特徴解析手段、
5)特定した瞳孔領域
の色特徴から核白内障あるいは後嚢下白内障を判定する白内障判定手段
。
【0006】
本発明の白内障検査装置では、光源からの光をリング状投射光とするのが特徴である。光源からの光をリング状投射光とすることにより、眼球を撮影した画像の中で瞳孔領域を容易に特定することができ、瞳孔領域の解析による白内障の簡易検査(スクリーニング)を行える。リング状反射光を用いて白内障の症状を判定することにより、リング状反射光を用いない場合に比べて、白内障の判定精度を向上することができる。
【0007】
ここで、リング状投射光により、なぜ瞳孔領域を容易に特定することができるのかという点について説明する。一般的に、眼球の撮影画像において、虹彩の内輪郭を判別すれば瞳孔領域を特定することが可能である。しかし、白内障眼の場合、虹彩の内輪郭に濁りがあると、虹彩の内輪郭が不明確になる。特に、皮質白内障の患者の場合、水晶体の周りから瞳の中に向かってまだらに濁る症状であり、虹彩の内輪郭が不明確になる。このため、リング状投射光を眼球の正面より投射して、瞳孔中心に同心円状の反射光を得る。角膜表面はほぼ半球形をしていることから、正面から投射されるリング状投射光は、角膜表面から強く反射されてリング状反射光となり、円状の画像が得られる。
【0008】
リング状反射光は、画像処理上では真白に色が飽和した領域、すなわち、RGB値が限りなく255に近い領域となるため、リング状反射光の内輪郭を抽出するのは容易となる。
また、リング状反射光は、瞳孔中心から同心円状に観測されるのが本来の形であり、瞳孔中心から反射光がずれている場合、それは撮影時の位置合わせの問題に起因する。正常眼において、リング状反射光は4つの境界面(角膜前面、角膜後面、水晶体前面、水晶体後面)のそれぞれで観測されることから、撮影画像には4つのリング状反射光が存在することになるが、水晶体前面は非常に反射率が低いことから、水晶体前面によるリング状反射光は観測が困難である。従って、正常眼におけるリング状反射光は、主に角膜前面による反射光が最も強く観測され、後は、角膜後面と水晶体後面による反射光の3つのリング状反射光が観測できることになる。一方、白内障眼、特に中心性の核白内障の場合は、角膜前面と角膜後面による反射光の2つのリング状反射光しか観測されない。このように撮影した画像にあるリング状の反射光個数を測定することにより、簡易的に正常眼と白内障眼を分けることができる。
上記の判別精度を向上するには、瞳孔を真正面から中心を合わせて撮影する。瞳孔を真正面から中心を合わせて撮影することにより、リング状反射光が同心円状に並ぶため、リング状反射光の識別および反射光の個数の識別が容易となる。
【0009】
投光手段は、撮像手段と連動するカメラフラッシュであることが好ましい。撮像手段として汎用的なデジタルカメラを使用し、カメラに内蔵された若しくは外付けのフラッシュで、白内障の検査(スクリーニング)を行うことができる。
【0010】
本発明の白内障検査装置は
、白内障判定手段において、瞳孔領域の色特徴から核白内障あるいは後嚢下白内障を判定する。
核白内障とは、核と呼ばれる水晶体の真ん中(中心)が濁る
状態であり、瞳孔領域の周辺部と中心部の色特徴の違いが明瞭であることから判定することができる。一方、白内障のうち、最も多いのが、皮質白内障であり、水晶体の周りから瞳の中に向かってまだらに濁る
状態である。また、後嚢下白内障は、水晶体の裏側に近いところで真ん中からスリガラスのように濁る
状態である。
【0011】
また、本発明の白内障検査装置は、瞳孔領域からまつげを判別して、まつげを除いて模様が存在している領域面積および色から混濁度合いを解析する混濁解析手段を更に備え、白内障判定手段において、瞳孔領域の混濁度合いから皮質白内障を判定する。皮質白内障は、水晶体の周りから瞳の中に向かってまだらに濁る症状であり、混濁の領域が広範囲であり、混濁エリアも水晶体の周りに多く分布する傾向があり、それらの特徴から皮質白内障を判別する。
【0012】
また、まつげは特徴的な形をしていることから、その形状の特徴を用いて、まつげの画像の取り除き、まつげの画像を皮質白内障の混濁と峻別することにより、虹彩の内輪郭付近の瞳孔領域の混濁から、まつげによる混濁を排除し、皮質白内障の判定精度を向上する。
ここで、模様とは色ムラのことであり、混濁度合いにより色ムラが生じることから、それらを模様として捉えている。
【0013】
また、本発明の白内障検査装置は、下記a)〜d)の手段を更に備え、白内障判定手段が、
色特徴のパラメータおよび混濁度合いのパラメータから成る特徴ベクトルを、機械学習による識別器を用いて、核白内障、皮質白内障、その他の白内障の有無と程度を判定することが好ましい
。
a)瞳孔領域におけるRGB画像をHSV画像に変換する手段
、
b)RGB画像を二値化画像に変換する手段
、
c)HSV画像におけるH成分,S成分,V成分と各成分の最大値,平均値,中央値
の色特徴のパラメータを算出する色特徴量算出手段
、
d)二値化画像における中心部からの距離に応じてN等分(Nは2以上)して分けた領域毎に混濁の疑義がある部分の画素数を算出して
混濁度合いのパラメータを算定する混濁度合い算定手段
。
【0014】
また、本発明の白内障検査装置の白内障判定手段において、眼内の各透光体の境界面で反射される、リング状反射光の個数により、白内障と判定することができる。
上述の如く、リング状反射光は、瞳孔中心から同心円状に観測され、正常眼の場合、リング状反射光は、主に角膜前面による反射光と角膜後面と水晶体後面による反射光の3つのリング状反射光が観測されるのに対して、白内障眼、特に中心性の核白内障の場合は、角膜前面と角膜後面による反射光の2つのリング状反射光しか観測されない。従って、リング状反射光の個数を測定することにより、正常眼と白内障眼を判別できる。なお、眼内の各透光体の境界面で反射される反射光より、角膜前面で反射されるリング状反射光を用いて瞳孔領域を特定し、その中の反射光の個数により白内障の有無を判定すると共に、上述のa)〜c)の手段を用いて、核白内障、皮質白内障、その他の白内障の有無と程度を判定することもできる。
なお、下記表1に、角膜前面(角膜表皮)、角膜後面(角膜内皮)、水晶体前面および水晶体後面のそれぞれの反射面の反射像輝度比を示す。水晶体前面の反射像の輝度が、他の反射面よりも一桁以上、輝度が小さく、反射が少ないことがわかる。
【0015】
【表1】
【0016】
また、本発明の白内障検査装置は、撮像手段および投光手段を一端に備えるハウジングであって、該ハウジングは、他端が開放され被験者の眼球の周囲に覆い被せた場合に、光源からの投射光以外の入射を遮るよう構成され、被験者が光源方向を見るようにする位置調整指標が設けられ、ハウジングの端部は、被験者のまぶたを開くようにまぶたの上下方向に変形する機構を備えたことが好ましい。
リング状反射光内に虹彩が映り込んでしまうと、それが濁りと判定されるので、これを回避すべく、リング状反射光は必ず虹彩の領域の内側になるよう位置調整することが必要である。そのため
、瞳孔が大きく開いている状態にすべく、ハウジングにより暗所をつくり
、瞳孔が開いている状態で撮影する。
【0017】
ハウジングを用いることで、検査の際に、周囲を暗くしなくてもハウジングの筐体で外部光の入射を遮断し、暗室状態にできる。ここで、ハウジングの形状は、例えば、双眼鏡の形状や、筒状、箱状のものでもよい。なお、ハウジングを暗箱状態にして、所定秒数以上経過後に、撮像手段と投光手段を動作することがより好ましい。瞳孔を大きく開かせるためである。所定秒数とは、例えば3〜5秒、或は、5秒以上の時間経過などである。
また、リング状投射光は眼球の正面より投射して、瞳孔中心に同心円状のリング状反射光を得ることが好ましく、そのため、被験者が光源方向を見るようにする位置調整指標を設ける。ここで、位置調整指標とは、例えば、眼球の正面でなければ見えないLED点滅マーカーなどである。
【0018】
さらに、ハウジングの端部は、被験者のまぶたを開くようにまぶたの上下方向に変形する機構を備える。まぶたの開きが小さいと、まぶたによって瞳孔領域が隠され、また、まつげの影響を受けやすくなる。そのため、被験者のまぶたを強制的に開くように、まぶたの上下の皮膚と接して持ち上げ/持ち下げる機構によって、まぶたが開くようにする。
【0019】
次に、本発明の白内障判定プログラムについて説明する。
本発明の白内障判定プログラムは、コンピュータを下記(1)〜(4)の手段として機能させ、眼球の白内障を判定するプログラムである。
(1)リング状投射光として眼球の瞳孔領域に略正面から投射したときの眼球の角膜および水晶体でのリング状反射光を、
撮影時の位置合わせで瞳孔中心から同心円状に虹彩領域の内側に位置調整し画像情報を取得する画像情報取得手段、
(2)リング状反射光を検出する反射光検出手段、
(3)リング状反射光のうち最大径かつ最大輝度の反射光の内輪郭の内側を瞳孔領域に特定し色特徴を解析する色特徴解析手段、
(
4)特定した瞳孔領域
の色特徴から核白内障あるいは後嚢下白内障を判定する白内障判定手段
。
【0020】
本発明の白内障判定プログラムにおいて
、白内障判定手段
は、瞳孔領域の色特徴から核白内障あるいは後嚢下白内障を判定することが好ましい。
【0021】
本発明の白内障判定プログラムにおいて、コンピュータを、更に、瞳孔領域からまつげを判別するまつげ判別手段と、まつげを除いて模様が存在している領域面積および色から混濁度合いを解析する混濁度合い解析手段として機能させ、白内障判定手段において、瞳孔領域の混濁度合いから皮質白内障を判定することが好ましい。
【0022】
本発明の白内障判定プログラムにおける白内障判定手段において、コンピュータを、下記(a)〜(e)の手段として機能させることが好ましい
。
(a)瞳孔領域におけるRGB画像をHSV画像に変換する手段
、
(b)RGB画像を二値化画像に変換する手段
、
(c)HSV画像におけるH成分,S成分,V成分と各成分の最大値,平均値,中央値
の色特徴のパラメータを算出する色特徴量算出手段
、
(d)二値化画像における中心部からの距離に応じてN等分(Nは2以上)して分けた領域毎に混濁の疑義がある部分の画素数を算出して
混濁度合いのパラメータを算定する混濁度合い算定手段
、
(e)
色特徴のパラメータおよび混濁度合いのパラメータから成る特徴ベクトルを、機械学習による識別器を用いて、核白内障、皮質白内障、その他の白内障の有無と程度を判定する手段
。
【0023】
本発明の白内障判定プログラムにおける白内障判定手段において、コンピュータを、眼内の各透光体の境界面で反射される、リング状反射光の個数により、白内障と判定する手段として機能させることが好ましい。コンピュータの画像処理で画像中のリング状反射光の個数を測定して、正常眼と白内障眼を判別する。
すなわち、本発明の白内障判定プログラムにおける白内障判定手段においては、眼内の各透光体の境界面で反射される反射光より、角膜前面で反射されるリング状反射光を用いて瞳孔領域を特定し、その中の反射光の個数により白内障の有無を判定すると共に、前述の(a)〜(d)の手段を用いて、核白内障、皮質白内障、その他の白内障の有無と程度を判定する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の白内障検査装置および白内障判定プログラムによれば、リング状の光を用いることにより瞳孔領域を容易に特定でき、瞳孔領域の色特徴および混濁度合いを用いて白内障のレベルを判別できるといった効果がある。
発展途上国など眼科医の不足するところで、診断装置設備が不足する場所においても、白内障発病患者に対して、デジタルカメラとコンピュータの組み合わせといった簡便な機器を用いて、白内障の種類まで自動的に推定することができるようになる。
【実施例1】
【0027】
図1は実施例1の白内障検査装置の概念図を示している。また、
図2は白内障検査装置の構成断面図を示している。
図1,2に示すように、実施例1の白内障検査装置は、光源からの光をリング状投射光20として眼球1に投射する投光手段であるリング状フラッシュ22と、リング状フラッシュ22の光の眼球1の水晶体2及び角膜6でのリング状反射光を撮像して画像情報とする撮像手段であるカメラ21と、コンピュータ23から構成される。コンピュータ23は、画像情報を取得する画像情報取得手段23aと、リング状反射光10を検出するリング状反射光検出手段23bと、リング状反射光のうち最大径かつ最大輝度の反射光の内輪郭の内側の瞳孔領域の色特徴を解析する色特徴解析手段23cと、瞳孔領域の混濁度合いを解析する混濁解析手段23dと、リング状反射光10の個数を解析するリング状反射光個数解析手段23eと、リング状反射光10を用いて、白内障を判定する白内障判定手段23fから構成される。カメラ21とリング状フラッシュ22と被験者の眼球1はハウジング7で覆われている。ハウジング7は、暗箱や黒幕など外光を遮断するものである。
【0028】
図1,2に示すように、リング状フラッシュ22は、リング状の開孔を有するリング状スリット22aと遮蔽板22bと発光部22d及び発光部をマウントするマウント部22cで構成される。リング状フラッシュ22の発光部22dを覆うように遮光板22b及びマウント部22cがあり、その遮光板22bとフラッシュ本体の隙間がリング状スリット22aになっている。そして、カメラレンズ21aの光学的中心とリング光フラッシュ22の幾何学的中心が同一線上に配置されるようにする。すなわち、カメラレンズの光学的中心とリング光投射光の光学的中心が同一線上になるようにする。これにより、眼球の略正面からリング状投射光20を投射でき、角膜および水晶体の正面反射を得られるようにする。なお、発光部22dの電力は、バッテリーユニット25から電源ケーブル26を介して供給している。
【0029】
カメラ21は、汎用のデジタルカメラを使用できる。また、リング状フラッシュ22はカメラ21の外付けのフラッシュを用いてもよく、光ファイバーケーブルによりリング状フラッシュ22に導光してもよい。そして、カメラ21のシャッターと連動してリング状フラッシュ22の光源からリング状投射光を投射する。
コンピュータ23は、カメラ21から画像情報データを取り込めるよう、USB(Universal Serial Bus)ケーブル(データ通信インタフェース24)を介してカメラ21と接続されている。
【0030】
カメラ21で、リング状反射光を観測した場合、例えば、
図3(1)あるいは
図3(2)に示すような観測画像が得られる。
最大径かつ最大輝度の反射光であるリング状反射光10は、眼球1の角膜6の前面6aの反射光である。正常眼では
図2に示すように、リング状反射光は4つの境界面(角膜前面6a、角膜後面6b、水晶体前面2a、水晶体後面2b)のそれぞれで観測され、撮影画像には4つのリング状反射光が存在する。しかし、水晶体前面2aは非常に反射率が低いことから、水晶体前面2aによるリング状反射光は観測が一般的に困難であり、
図2および
図3(2)に示すように、3つの境界面(角膜前面6a、角膜後面6b、水晶体後面2b)の3つのリング状反射光(角膜前面6aのリング状反射光10、角膜後面6bのリング状反射光11、水晶体後面2bのリング状反射光12)が観測できる。一方、白内障眼、特に中心性の核白内障の場合は、2つの境界面(角膜前面6a、角膜後面6b)の2つのリング状反射光(角膜前面6aのリング状反射光10、角膜後面6bのリング状反射光11)しか観測されない。
本実施例では、
図3(1)に示すように、最大径かつ最大輝度の角膜前面6aの反射光であるリング状反射光10だけを捉え、その内輪郭の内側の瞳孔領域の色特徴や混濁度合いで白内障を判別する。
【0031】
図4は、実施例1の白内障検査装置の処理フロー図を示している。
先ず、リング状フラッシュを点灯させて、リング状投射光を眼球に投射し、眼球を撮影する(ステップS01)。次に、角膜前面でのリング状反射光の撮影画像から瞳孔領域を検出する(ステップS02)。そして、角膜前面でのリング状反射光を用いて、その内輪郭の内側の領域を瞳孔領域画像として切り出す(ステップS03)。
具体的には、瞳孔領域の検出は、撮影画像を白黒濃淡画像に変換して2値化し、細線化してHough変換によりリング状反射光の円形を検出する。
【0032】
そして、リング状反射光の個数を解析し(ステップS04)、或は、色特徴を解析し(ステップS05)、或は、混濁度合いを解析する(ステップS06)。リング反射光の個数だけを解析して(ステップS04)、リング反射光の個数を検出するだけでも、簡易的に白内障発病の有無を判定することができる。しかし、画像処理による自動判定を精度よく行うために、色特徴の解析(ステップS05)や混濁度合いの解析(ステップS06)もあわせて利用する。
色特徴の解析(ステップS05)や混濁度合いの解析(ステップS06)の結果と、予め学習データから抽出していた判定基準とを照らし合せて、白内障発病(白内障眼)の判定を行う(ステップS07)。判定の結果、白内障発病(白内障眼)または健常眼を判定する(ステップS08,09)。
【0033】
なお、本実施例では、白内障発症の有無のみを識別して、発症している場合は眼科医への受診を促すようなシステムを想定している。すなわち、被験者の眼の撮影画像から、白内障の発症の有無を推定し、医療機関に対して、眼球の画像情報と推定結果情報を統合された情報として、被験者の識別子(ID)と共に医療機関(医師の下)に送信し、被検者の受診を促して、白内障の治療が行われるようにするシステムを想定している。
【0034】
次に、色特徴の解析処理フローについて
図5を参照して説明する。
切り出した瞳孔領域画像から、RGB画像を取得し(ステップS21)、それをHSV画像に変換してHSV画像を取得する(ステップS22)。そして、HSV画像のそれぞれの平均値、最大値、中央値を測定する(ステップS23)。測定した平均値、最大値、中央値を用いて、分類して色特徴を解析する(ステップS24)。
【0035】
次に、
図6〜9を参照して、切り出した瞳孔領域画像の解析について説明する。
図6(1)は、眼球の撮影画像においてリング状反射光の形状・位置に基づいて、瞳孔領域を検出している様子を示している。
図6(2)は、切り出した瞳孔領域画像を示している。この瞳孔領域画像から色特徴を解析する。また、
図6(3)は、切り出した瞳孔領域画像(円形状)を極座標展開した極座標展開画像を示している。極座標展開画像からリング状反射光のリング状フラッシュ模様を解析する。
なお、瞳孔領域画像において、健常者であればリング状反射光は円形状を示す。一方、白内障の患者であれば、リング状反射光は輝度が著しく低下するか、一部が欠落した形状を示す。
【0036】
先ず、色特徴の検出方法について説明する。
図7(1)は、切り出した瞳孔領域画像(RGB画像)を示す。上述の如く、RGB画像から、それをHSV画像に変換してHSV画像を取得して、HSV色空間で色特徴を解析する。
HSV色空間は、色相(H),彩度(S)および明度(V)の3つの成分からなる色空間であり、円錐を用いて視覚化できる。円錐を用いた視覚表現では、色相(H)は色環の三次元円錐状の構造に描かれ、彩度(S)はその円錐の中心からの距離、明度(V)は円錐の頂点からの距離で表される。瞳孔領域画像(RGB画像)におけるR,G,Bは、それぞれ0.0から1.0の範囲にある。(R,G,B)で定義された色が与えられたとすると、それに相当する(H,S,V)のカラーは数式により導出できる。一方、色相(H)は0.0から360.0まで変化し、色相(H)が示された色環に沿った角度で表現される。彩度(S)および明度(V)は0.0から1.0までの範囲で変化する。
【0037】
RGB画像(RGB色空間)では、明るさと色味が混ざって表現されているので、例えば照明の微妙な変化によって明るさが変化した場合、RGBすべてに影響が及ぶことになる。これに対して、HSB色空間では、色相(H),彩度(S)および明度(V)に分解されているので、瞳孔の色みの変化を正しく検出することが可能である。
色特徴を検出し、水晶体全体が白くなっているか否かを判定することにより、核白内障や後嚢下白内障を判別する。また、色特徴から模様を検出し、水晶体内部の混濁度合いを定量化することにより、皮質白内障を判別する。なお、模様の検出の際、後述するように、まつげ除去を行ってノイズ除去を図る。
【0038】
極座標展開画像の解析は、
図8に示すように、3つの特徴量に着目して解析する。
図8において、横方向のラインの特徴であるv、縦方向のラインの特徴であるh、そしてv−hの特徴を3つの特徴量として解析する。
ここで、特徴量v、hを導出するために、
図8に示す横方向および縦方向の画像フィルタを用いる。極座標展開画像において、ある点を中心に画像フィルタを適用して、画像フィルタで白画素になっている画素の明度の平均値 m
1と黒画素になっている画素の明度平均値 m
2 を計算して、最後に、m
1−m
2 を計算して特徴量v,h とする。
【0039】
図8の左の極座標展開画像において、四角枠で囲んでいる部分の場合、横方向の縞模様が多く検出できるため、特徴量vは大きな値をとり、反対に、縦方向の縞模様はあまり検出されないため、特徴量hは特徴量vほど大きな値にはならないと期待される。
このように、特徴量vの大きさと特徴量v−hを用いて、候補点を算出する。
そして、候補点に算出された画素の画素数、すなわち、リング状反射光と判定された画素の画素数と、それぞれの画素に対して横方向の画像フィルタで計算した結果の平均値を用いて、反射光の明瞭度合いを数値化し、これをリング状反射光の強さを示す特徴量とする。
【0040】
次に、リング状反射光の検出方法について説明する。
リング状反射光は、瞳孔の中心と同心円状に現れる。そのため、瞳孔領域画像を極座標展開画像に展開し、横方向の縞模様としてリング状反射光を検出する。すなわち、
図9に示すように、極座標展開画像から、それぞれの点が円を構成しているか否かを検証し、各候補点に対応する円の中心を「投票」し、矛盾の無いものを検出する。
具体的には、以下の(処理1)〜(処理4)を行う。
【0041】
(処理1)先ず、円の中心位置と半径を投票するための投票空間 M(x,y,r)を準備し、M(x,y,r)=0 に初期化する。Mの値がスコアとなり、スコアが大きいほど、そこにリング状反射光が存在することになる。
【0042】
(処理2)予め検出された候補点(
図9における曲線)について、下記の(処理2−1)および(処理2−2)を実行する。
(処理2−1) 極座標 P(r, θ) を平面座標 I(x, y) に変換する。
(処理2−2) 予め決めておいた範囲 [r1,r2] で半径 r を変化させて、(処理2−2−1)および(処理2−2−2)を実行する。
(処理2−2−1) Iから距離rにある点を算出する。
(処理2−2−2) その点においてスコア M(x,y,r)に1を加算する。
【0043】
(処理3)以上の処理を繰り返した後、M(x,y,r)が最大になる(x,y,r)=(xm, ym, rm) を算出する。
(処理4) (xm, ym, rm) に投票した候補点を「矛盾のないもの」とする。
【0044】
図10(a)〜(f)は、様々な極座標展開画像の例を示している。
図10(a),(c),(e),(f)は、縦方向に細い線が多数見られるが、これは「まつげ」の反射像が写りこんでいるからである。
この「まつげ」の反射像は、瞳孔領域の混濁を検出する際のノイズになるため、解析では、これを画像から除外する。
【0045】
図11を参照して、まつげと混濁の識別について説明する。
図11(1)は、「まつげ」の反射像が写りこんでいる瞳孔領域画像の極座標展開画像の一例を示している。瞳孔領域画像のブロック単位で、高速フーリエ変換(FFT)を用いて、模様が存在している領域を検出する。ここでは、64×64の画像ブロックに分割し、横方向成分と縦方向成分に分けて高速フーリエ変換(FFT)を行う。その際、直流成分は平均値(平均明度)に相当するので無視することにし、また、極座標系に展開したときの横方向の高周波成分は、まつげの写り込みの影響を強く受けるので無視することにする。そして、残りの成分の平均値が閾値より大きければ混濁が存在する候補領域とする。
図11(2)では、上記の処理で混濁が存在する候補になったブロック部分を示している。そして、混濁が存在する候補になったブロック部分それぞれに対して二値化処理を施す。
【0046】
まつげの誤検出を回避すべく、さらに以下の処理を行って、まつげの除去を行う。
1)画像の中でまつげが存在しうる領域を予め設定しておき、二値化結果を抽出する。
2)まつげは点在しているものではなく、連続していることから、連結領域を導出する。
3)連結領域で、「同じモーメントをもつ楕円の偏心率(a)」と「その楕円の角度(b)」を求める。
4)a> a
0、かつ、b>b
0であれば、まつげとして除去する。ここで、a
0,b
0はまつげの形状の判定閾値である。
このように、瞳孔領域画像のブロック単位で高速フーリエ変換(FFT)を用いて、模様が存在している領域を検出し、二値化結果の形状特徴から「まつげ」と「混濁」を識別する。
【0047】
「混濁」に関しては、瞳孔領域のどの部分に混濁が現れているかによって白内障の疑いの有無や白内障の程度が異なるため、瞳孔領域の中心からの距離に応じて混濁度合いを調べることにする。例えば、
図12(1)に示す瞳孔領域のような模様に関して、
図12(2)のように瞳孔領域の中心からの距離に応じてドーナツ状に5等分(P
1〜P
5)に分けて、「混濁度合い」を評価する。
【0048】
そして、色特徴のパラメータを、H,S,Vのそれぞれの平均値、最大値、中央値、すなわち、3×3の9個のパラメータ(f
1〜f
9)とする。また、混濁度合いのパラメータを、瞳孔領域の中心からの距離に応じてドーナツ状に5等分(P
1〜P
5)した5個のパラメータ(f
10〜f
14)とする。リング状反射光の画素数(r_1)とフィルタ応答値とこれらの色特徴のパラメータおよび混濁度合いのパラメータを一つの特徴ベクトルv=(f
1,f
2,f
3,・・・,f
16)とする(
図13を参照)。
【0049】
そして、上記の特徴ベクトルv=(f
1,f
2,f
3,・・・,f
N)と眼科専門医による画像診断の結果を組にして、学習データとしてデータベース化していき、サーポートベクターマシン(SVM)などの機械学習手法を用いて判定規則を学習し、白内障眼と健常眼を判別する。
【0050】
交差検定による評価方法は、機械学習における識別器のモデルを評価する手法の一つであり、与えられたデータを分割し、その一部をまず学習データとして利用して、残る部分でその識別器のテストを行い、学習の妥当性の検証・確認を行うもので、分類器(識別器)がどれだけ本当に母集団に対処できるかを良い近似で検証・確認を行う。
交差検定による評価方法のうち、K−分割交差検定では、標本群をK個に分割し、そのうちの1つをテスト事例とし、残る K−1個を学習事例とし、組み合わせを変更してK回評価を繰り返す。
図15は、10分割交差検定による評価を示している。
【0051】
下記表2〜4は、実施例1の白内障検査装置を用いて、健常者と白内障患者について判定・評価した結果を示す。ここで表では、白内障の眼のうち正しく判定できた枚数(True−Positive)、白内障の眼を健常な眼と誤判定した枚数(False−Positive)を示している。ここで、白内障と判定したものには、核白内障と皮質白内障の双方を含んでいる。また、健常な眼のうち正しく判定できた枚数(True−Negative)、健常眼を白内障眼と誤判定した枚数(False−Negative)を示している。
【0052】
下表2〜4において、「Recall」は再現率であり、実際に正であるもののうち、正であると予測されたものの割合を意味し、見つけなければいけないものをどれだけ見つけたかを数値化したものであり、最小値が0で、1あるいは1に近いほど優れている。また、「Precision」は白内障と判定したものの正確さを表す指標であり、TP/(TP+FP)から算術する。「Precision」も、最小値が0で、1に近いほど優れている。また、「F値(F−number)」は、機械学習における予測結果の評価尺度の一つであり、精度と再現率の調和平均を示している。具体的には、F値(F−number)は、Recallの値を“A”、Precisionの値を“B”とすると、2×B×A/(A+B)から算術する。「F値(F−number)」も、最小値が0で、1に近いほど優れている。
【0053】
表2は、サポートベクターマシーン(SVM)を用いて、色特徴と混濁の解析を行った結果(リング状フラッシュの反射像を特徴量に含めない場合)を示している。一方、表3は、リング状反射光を観測して、サポートベクターマシーン(SVM)を用いて、色特徴と混濁の解析を行った結果を示している。また、表4は、リング状フラッシュを使用しない場合とリング状フラッシュを使用した場合の「Recall」,「Precision」および「F値(F−number)」を比較したものである。
【0054】
ここで、表2〜表4の左列に示しているNO閾値およびC閾値は学習における教師データを与える際に用いた白内障発症の有無を判断する境界である。先ず、評価に用いた画像すべてについて、白内障分類に熟練した視能訓練士によって、LOCSIII(The Lens Opacities Classification System III)白内障分類に沿って、NOおよびCの判定を行った。NOは水晶体の濁りの程度を示す指標であり、Cは皮質白内障の程度を示す指標である。それぞれ値が大きい方ほど、程度が高いことを表す。
これらの指標は主観的なものであり、特定の閾値より大きければ白内障とするという統一的な基準はないため、概ね妥当と判断できる範囲、例えば、NOについては2から3、Cについて2から2.4に変化させて、それぞれの値を境界値として学習データを作成しテストを行った。
【0055】
また、サポートベクターマシン(SVM)の学習について説明する。サポートベクターマシンは非常に精度が高い識別器として知られているが、十分な性能を得るためにはパラメータを慎重に設定する必要がある。ここでは広く用いられているラジアル基底関数(RBF;radial basis function)カーネルを使用し、そのパラメータを様々に設定して最良の結果となるものを示した。
【0056】
表4から、全ての閾値について、リング状フラッシュを用いると「Recall」,「Precision」および「F値(F−number)」の結果が向上していることが確認できた。すなわち、リング状フラッシュを使用し、リング状反射光を観測することにより、白内障の判定精度が向上することが示された。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
下記表5,6に、決定木を使用した識別を行った結果を示す。決定木を用いることにより、色模様,混濁またはリング状フラッシュの内、どの特徴がどのように効いているかがわかる。表5,6から、リング状フラッシュを使った方がほぼすべての場合で、F値(F−number) が向上していることがわかった。
また、表5,6において、最良のケース(グレーで示した行)を決定木で可視化した。
図16,
図17に示すように、決定木を可視化したところ、色特徴を使った識別が主に動作し、その他の情報を用いた識別がそれを補う働きをしていることがわかった。
【0061】
なお、可視化の際には交差検定は用いずにすべてのデータを使って学習している。また、
図16,17において、決定木の節点(ノード)は丸枠が対応し、決定木の葉(識別結果)には四角枠が対応している。入力データは最上部に位置する節点(根ノード)に入力され、それぞれの節点での判定条件にしたがってどの子節点に進むかが決定される。丸枠の模様がどの特徴量を使って判定しているかを示している。
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
上述した実施例1の白内障検査装置では、カメラ21とリング状フラッシュ22とコンピュータ23で簡単に構成できるものであったが、カメラ21とリング状フラッシュ22とコンピュータ23のハードウェアが既に存在する場合に、白内障判定プログラムが提供されることにより、カメラとリング状フラッシュとコンピュータのハードウェアが白内障検査装置として作動可能となる。
【0065】
白内障判定プログラムは、
図1に示すように、画像情報取得手段23aと反射光検出手段23bと色特徴解析手段23cと混濁解析手段23dとリング状反射光個数解析手段23eと白内障判定手段23fから構成される。画像情報取得手段31は、カメラ21で撮影した画像を取り込むものである。例えば、汎用のデジタルカメラはコンピュータと接続可能なようにUSBなどのデータ通信インタフェース24を有している。画像情報取得手段23aは、カメラとデータ通信を行い、カメラ内の画像情報を取り込み、画像情報をコンピュータ内で解析できるようにするものである。