特許第6361076号(P6361076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6361076車両用空調機の室内機、これを備える車両、天井板組立体、室内機のメンテナンス方法、及び天井板の交換方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6361076
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】車両用空調機の室内機、これを備える車両、天井板組立体、室内機のメンテナンス方法、及び天井板の交換方法
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/32 20060101AFI20180712BHJP
   F24F 13/22 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   B60H1/32 614D
   F24F1/00 361B
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-167809(P2017-167809)
(22)【出願日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年2月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518018986
【氏名又は名称】三菱重工エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】荒川 真一
(72)【発明者】
【氏名】森田 幹生
【審査官】 河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−151224(JP,A)
【文献】 特開平7−52632(JP,A)
【文献】 特開2014−124981(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0061414(US,A1)
【文献】 特開2010−221921(JP,A)
【文献】 米国特許第4885916(US,A)
【文献】 特開2014−148292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/32
F24F 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の室内の妻側端の妻側通路の天井部に設けられて室内に空調風を供給可能であるとともに、前記妻側通路の車幅方向の幅寸法よりも小さな寸法を、前記車幅方向に沿う方向の幅寸法として有する車両用空調機の室内機。
【請求項2】
前記天井部を形成する天井板の上方に配置される熱交換器、及びファンと、
前記熱交換器、及び前記ファンを収容する室内機本体と、
前記熱交換器で生じたドレン水を受け止めるとともに、前記室内機本体に対して下方から着脱可能に設けられたドレンパンと、
を有する請求項1に記載の車両用空調機の室内機。
【請求項3】
前記ドレンパンは、前記室内機本体に固定されず、前記天井板の裏面に一体に設けられている請求項2に記載の車両用空調機の室内機。
【請求項4】
前記ドレンパンは、
前記車幅方向の少なくとも一方側に設けられて、ドレンホースが接続されるドレン水の排出口と、
前記車両に設置された状態で、前記車幅方向の他方側から、前記一方側の前記排出口に向かって下方に傾斜する底面である傾斜面と、
を有する請求項2又は3に記載の車両用空調機の室内機。
【請求項5】
前記幅寸法は、550mm以上1000mm以下である請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用空調機の室内機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用空調機の室内機と、
該室内機と接続されて室外に配置された室外機と、
前記室内機及び前記室外機が取り付けられた車両本体と、
を備える車両。
【請求項7】
車両の室内の妻側端の妻側通路の天井部に設けられて室内に空調風を供給可能であるとともに、前記妻側通路の車幅方向の幅寸法よりも小さな寸法を、前記車幅方向に沿う方向の幅寸法として有する車両用空調機の室内機を、下方から覆う天井板と、
前記天井板の上方に配置される熱交換器、及びファンを収容する室内機本体に固定されず、前記天井板の裏面に一体に設けられているドレンパンと、
を備える天井板組立体。
【請求項8】
前記ファンの下方に配置され、前記天井板と一体に設けられた隙間調整部材をさらに備える請求項7に記載の天井板組立体。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項に記載の室内機のメンテナンス方法であって、
前記車両から前記天井部を形成する天井板を取り外して前記室内機のドレンパンを下方に露出させる工程と、
前記ドレンパンの幅方向の少なくとも一方側に設けられたドレン水の排出口からドレンホースを取り外す工程と、
前記ドレンパンを取り外して前記室内機の内部を露出させる工程と、
を含む室内機のメンテナンス方法。
【請求項10】
前記内部を露出させる工程では、前記ドレンパンを、前記一方側に対して他方側が上方に位置するように、前記ドレンパンを傾けてから取り外す請求項9に記載の室内機のメンテナンス方法。
【請求項11】
車両の室内の妻側端の妻側通路の天井部に設けられて室内に空調風を供給可能であるとともに、前記妻側通路の車幅方向の幅寸法よりも小さな寸法を、前記車幅方向に沿う方向の幅寸法として有し、かつ、前記天井部を形成する天井板の上方に配置される熱交換器、及びファンと、前記熱交換器、及び前記ファンを収容する室内機本体と、前記熱交換器で生じたドレン水を受け止めるとともに、前記室内機本体に対して下方から着脱可能に設けられたドレンパンと、を有する車両用空調機の室内機が設けられた車両において、
前記天井板を取り外し、前記室内機本体に固定された前記ドレンパンを下方に露出させる工程と、
前記室内機本体から前記ドレンパンを取り外す工程と、
請求項7又は8に記載の天井板組立体を、前記室内機本体の下方に組み付ける工程と、
を含む天井板の交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調機の室内機、これを備える車両、天井板組立体、室内機のメンテナンス方法、及び天井板の交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バスや鉄道以外の新たな交通手段として、ゴムタイヤ等からなる走行輪によって軌道上を走行する軌道系交通システムが知られている。この種の軌道系交通システムは、一般に「新交通システム」と呼ばれており、車両の両側部等に配された案内輪が、軌道に沿って設けられたガイドレールに案内される。
新交通システムの具体例としては、例えば、APM(Automated People Mover:全自動無人運転車両)や都市内向けAGT(Automated Guideway Transit:自動案内軌条旅客輸送システム)等がある。
【0003】
軌道系交通システムの車両には空調装置が設けられている。そして車両用の空調装置(冷房装置)の一例が下記特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の空調装置は、車両の天井に取り付けられており、室内機と室外機とが一体をなしている。
【0004】
一方で、スペース上の制約等から室内機と室外機とを分離してそれぞれ別の場所に設置する、いわゆるセパレート式の空調装置が採用された車両が知られている。このような形式の空調装置では、室内機を車両内部に設置し、室外機を車両床下に設置することが多い。特に小型の車両を用いるAGTでは、車両の妻面付近における貫側通路の上部に室内機を取り付ける場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭58−134124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで従来のセパレート式空調装置の室内機では、貫側通路付近の天井の化粧板等を取り外しても室内機の一部のみが下方に露出するに過ぎず、室内機の清掃や内部点検等のメンテナンスを行う際には、車両の室内機周りの構成部品をとりはずした上で室内機にアクセスする必要があった。
【0007】
そこで本発明では、高いメンテナンス性を有する車両用空調機の室内機、これを備える車両、天井板組立体、室内機のメンテナンス方法、及び天井板の交換方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様の車両用空調機の室内機は、車両の室内の妻側端の妻側通路の天井部に設けられて室内に空調風を供給可能であるとともに、前記妻側通路の車幅方向の幅寸法よりも小さな寸法を、前記車幅方向に沿う方向の幅寸法として有している。
【0009】
妻側通路の幅に対応する幅方向の領域には、天井部の下方で少なくとも座席や、配管等を収容する壁等の構造物は存在していない。よって、室内機の幅寸法が妻側通路の幅よりも小さいことで、室内機の全体を妻側通路に向かって、即ち下方に露出させることができるため、室内機へのアクセスが容易となる。よって室内機の内部を妻側通路から容易に点検したり、室内機全体を天井部から容易に取り外したりすることができる。即ち、室内機の幅寸法が妻側通路の幅よりも大きい場合のように、室内機にアクセスするために室内機周りの構成部品を取り外す必要がない。
【0010】
また上記の車両用空調機の室内機は、前記天井部を形成する天井板の上方に配置される熱交換器、及びファンと、前記熱交換器、及び前記ファンを収容する室内機本体と、前記熱交換器で生じたドレン水を受け止めるとともに、前記室内機本体に対して下方から着脱可能に設けられたドレンパンと、を有していてもよい。
【0011】
この構成によれば、ドレンパンの幅寸法は妻側通路の幅寸法よりも小さくなるため、天井板を取り外すのみで、ドレンパンに妻側通路からアクセスでき、ドレンパンを取り外して室内機のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0012】
また上記の車両用空調機の室内機では、前記ドレンパンは、前記室内機本体に固定されず、前記天井板の裏面に一体に設けられていてもよい。
【0013】
この構成によれば、天井板の裏面(室内に露出しない面)にドレンパンが一体に設けられていることから、天井板を取り外すことにより、同時にドレンパンを室内機から取り外すことができる。これにより、室内機の部品点数削減が可能となるとともに、室内機をメンテナンスする際の工数も削減することができる。
【0014】
また上記の車両用空調機の室内機では、前記ドレンパンは、前記車幅方向の少なくとも一方側に設けられて、ドレンホースが接続されるドレン水の排出口と、前記車両に設置された状態で、前記車幅方向の他方側から、前記一方側の前記排出口に向かって下方に傾斜する底面である傾斜面と、を有していてもよい。
【0015】
この構成によれば、底面としてドレンパンは排出口に向かって傾斜する傾斜面を有する。したがって、ドレンパンに達した室内機のドレン水は、傾斜面に沿って排出口に向かって流れる。これにより、ドレンパンにドレン水が常態的に貯留されることを防ぐことができる。即ち、メンテナンスでドレンパンを取り外す際に、ドレン水が散って室内(車内)を汚してしまう可能性を低減することができる。
【0016】
また上記の車両用空調機の室内機では、前記幅寸法は、550mm以上1000mm以下であってもよい。
【0017】
妻側通路の幅寸法は一般に550mm以上1000mm以下であるため、妻側通路の幅寸法と室内機の幅寸法とを同等にすることができる。よって、空調機の能力の上限を維持しつつも室内機へのアクセスが容易となり、室内機を妻側通路から容易に点検を行ったり、室内機全体を天井部から容易に取り外したりすることができる。
【0018】
本発明の第二の態様の車両は、上記の車両用空調機の室内機と、該室内機と接続されて室外に配置された室外機と、前記室内機及び前記室外機が取り付けられた車両本体と、を備えている。
【0019】
上記の車両用空調機の室内機が設けられていることで、室内機へのアクセスが容易となる。よって室内機を妻側通路から容易に点検を行ったり、室内機全体を天井部から容易に取り外したりすることができる。
【0020】
本発明の第三の態様の天井板組立体は、車両の室内の妻側端の妻側通路の天井部に設けられて室内に空調風を供給可能であるとともに、前記妻側通路の車幅方向の幅寸法よりも小さな寸法を、前記車幅方向に沿う方向の幅寸法として有する車両用空調機の室内機を下方から覆う天井板と、前記天井板の上方に配置される熱交換器、及びファンを収容する室内機本体に固定されず、前記天井板の裏面に一体に設けられているドレンパンと、を備えている。
【0021】
この構成によれば、天井板の裏面(室内に露出しない面)にドレンパンが一体に設けられていることから、天井板を取り外すことにより、同時にドレンパンを室内機から取り外すことができる。これにより、室内機の部品点数削減が可能となるとともに、室内機をメンテナンスする際の工数も削減することができる。
さらに、ドレンパンと一体ではない既設の天井板に代えて、一体構造となったドレンパンと天井板とを設けることで、メンテナンス性の観点から、既設の車両用空調機をアップグレードさせることが可能となる。
【0022】
また、上記の天井板組立体は、前記ファンの下方に配置され、前記天井板と一体に設けられた隙間調整部材をさらに備えていてもよい。
【0023】
このような隙間調整部材を設けることで、ファンと天井板との間にスペースが生じている場合であっても、このスペースを隙間調整部材によって埋めることができ、ファンの下方の空間が大きくなり過ぎることを回避できる。即ちファンの下方に適切な容積の空間(流路)を形成でき、ファンによる室内機本体の空気の取り込み、及び室内への空気の供給をスムーズにできる。
【0024】
本発明の第四の態様の車両用空調機のメンテナンス方法は、上記の室内機のメンテナンス方法であって、前記車両から前記天井部を形成する天井板を取り外して前記室内機のドレンパンを下方に露出させる工程と、前記ドレンパンの幅方向の少なくとも一方側に設けられたドレン水の排出口からドレンホースを取り外す工程と、前記ドレンパンを取り外して前記室内機の内部を露出させる工程と、を含んでいる。
【0025】
このようなメンテナンス方法を採用することで、室内機を妻側通路から容易に点検を行ったり、室内機全体を天井部から容易に取り外したりすることができる。
【0026】
また上記のメンテナンス方法では、前記内部を露出させる工程では、前記ドレンパンを、前記一方側に対して他方側が上方に位置するように、前記ドレンパンを傾けてから取り外してもよい。
【0027】
この場合、ドレンパンに貯留されたドレン水を排出口に向かって移動させた上で、ドレンパンを取り外すことになる。従ってドレンパンを取り外す際に、ドレン水を排出口に導くことができるため、ドレンパンに貯留されたドレン水が散って室内を汚したり、ドレン水が作業員にふりかかったりする可能性を低減することができる。
【0028】
本発明の第五の態様の車両用空調機の天井板の交換方法は、車両の室内の妻側端の妻側通路の天井部に設けられて室内に空調風を供給可能であるとともに、前記妻側通路の車幅方向の幅寸法よりも小さな寸法を、前記車幅方向に沿う方向の幅寸法として有し、かつ、前記天井部を形成する天井板の上方に配置される熱交換器、及びファンと、前記熱交換器、及び前記ファンを収容する室内機本体と、前記熱交換器で生じたドレン水を受け止めるとともに、前記室内機本体に対して下方から着脱可能に設けられたドレンパンと、を有する車両用空調機の室内機が設けられた車両において、前記天井板を取り外し、前記室内機本体に固定された前記ドレンパンを下方に露出させる工程と、前記室内機本体から前記ドレンパンを取り外す工程と、上記の天井板組立体を、前記室内機本体の下方に組み付ける工程と、を含んでいる。
【0029】
このような交換方法を採用することで、ドレンパンと一体ではない既設の天井板に代えて、一体構造となったドレンパンと天井板とを設けることで、メンテナンス性の観点から、既設の車両用空調機をアップグレードさせることが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
上記の車両用空調機の室内機、車両、天井板組立体、メンテナンス方法、及び交換方法によれば、室内機の幅寸法を上記の通りとすることで、高いメンテナンス性を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第一実施形態に係る車両の要部を示す横断面図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る室内機の縦断面図であって、図1のA−A断面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る室内機の一部を分解した状態を示す斜視図である。
図4】本発明の第一実施形態に係るメンテナンス方法を示す工程図である。
図5】本発明の第一実施形態に係る室内機のドレンパンの変形例を示す横断面図である。
図6】本発明の第二実施形態に係る室内機の縦断面図であって、図1のA−A断面図に対応する図である。
図7】本発明の第三実施形態に係る室内機の縦断面図であって、図1のA−A断面図に対応する図である。
図8】本発明の実施形態に係る天井板の交換方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態に係る車両100について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る車両100は、特にAGTと呼ばれる新交通システムに用いられる。
図1に示すように、本実施形態に係る車両100は、貨客等を搭載する車両本体1と、車両本体1に取り付けられた車両用空調機2と、を備えている。車両本体1は、箱状をなし、その床面上には座席3が設けられている。車両本体1の車幅方向中央部の領域は通路4となっている。この通路4の端部には、車両100の長手方向(走行方向)両側における壁面(妻面5)を貫通する貫通口5aにつながる妻側通路4Aが設けられている。即ち妻側通路4Aは、車両100の室内で、車両100の長手方向の端部となる妻側端に設けられている。本実施形態では妻側通路4Aは貫通口5aに向かって一定の車幅方向における寸法(幅寸法)を有しており、この幅寸法は例えば550mm以上1000mm以下であり、特に国内向けAGTでは860mmが採用されている。
ここで車幅方向とは、車両100の長手方向及び上下方向に直交する方向を示す。
【0033】
また図示を省略するが、車両本体1の下部には走行台車が設けられている。この走行台車に設けられた駆動輪が回転することで、車両100が軌道上を走行する。
【0034】
次に車両用空調機2について説明する。
車両用空調機2は、車両本体1の内部である室内を適温に保つために設けられている。車両用空調機2は、車両本体1の外部(室外)の空気と冷媒との間で熱交換を行なう室外機6と、車両本体1の内部に空調風を供給する室内機7と、を有している。
【0035】
この車両用空調機2は室外機6と室内機7とが離れて配置されたセパレート式の空調機である。室外機6は本実施形態では例えば車両本体1の床下に取り付けられている。ここで、室外機6の設置場所は限定されず、室外の空気との間で熱交換可能であればよく、車両本体1の天井の上に設置されていてもよい。図示は省略するが、室外機6は室外ファンと、室外熱交換器と、冷媒を圧縮する圧縮機と、冷媒が流れる冷媒配管と、冷媒配管に設けられた各種弁装置と、圧縮機等の運転制御を行うコントロールボックスを主に有している。
【0036】
室内機7は、車両本体1の内部における妻側通路4Aの上方(天井)に取り付けられている。室内機7は、概ね箱状をなしており、妻側通路4Aの天井の空間に収容されている。即ち、妻側通路4Aの上方には化粧板等で形成された天井板8が取り付けられ、この天井板8によって妻側通路4Aの上方に形成された天井部4Aaに室内機7が収容されている。
【0037】
図2又は図3に示すように、室内機7は、筐体である室内機本体9と、室内機本体9に収容された室内ファン14及び冷媒配管Pと、室内機本体9に収容されて冷媒配管Pが接続された室内熱交換器15と、室内熱交換器15の下方に配置されたドレンパン10と、を有している。
【0038】
室内機本体9の車幅方向に沿う方向に寸法(幅寸法)は、妻側通路4Aの幅寸法よりも小さく設定されている。一例として、妻側通路4Aの幅寸法が860mmである場合、室内機本体9の幅寸法は860mmよりも小さくなっている。
また室内機本体9には下方に開口する開口部9aが形成されている。室内機本体9には貫通口5a側から離れた側で開口部9aの一部を閉塞可能とする底板9bが設けられている。底板9bは、室内機本体9における貫通口5a側から離れた側で、ヒンジH等によって室内機本体9に取り付けられている。室内機7の設置時には底板9bはボルト等の締結部材Tで室内機本体9に固定されて開口部9aの一部を閉塞している。この締結部材Tを取り外すと、ヒンジHを中心に底板9bが回転し、室内機本体9の内部を露出させることが可能である。
【0039】
ここで、締結部材Tとしてクォーターターン等の着脱容易な部材で底板9bが室内機本体9に固定されていてもよい。クォーターターンとはスタッドを4分の1回転させるのみで締め付けが可能な締結具である。締結部材Tは、例えば抜け止めのリテーナ等によって底板9bから脱落しないようになっていてもよい。
【0040】
冷媒配管Pは室外機6の冷媒配管(不図示)と接続されている。この冷媒配管Pは例えば車両本体1の側外板の内側で側外板に沿って配置されている。
【0041】
室内熱交換器15は、底板9bによって閉塞されない位置で開口部9aの上方に配置されている。室内熱交換器15は、室内機本体9内の空気と冷媒配管Pの冷媒との間で熱交換を行なって空調風を生成する。室内熱交換器15は冷房運転時には室内(車内)の空気を冷却し、暖房運転時には室内の空気を暖める。
【0042】
室内ファン14は例えばシロッコファンである。本実施形態では底板9bの上方で車幅方向に複数の室内ファン14が並んで配置されている。室内ファン14は室内機本体9の内部に室内の空気を取り込む。室内機本体9の内部に取り込まれた空気は室内熱交換器15で空調風となり、室内ファン14によって車両本体1の長手方向に、室内機本体9に形成された吹出口9cから吹き出されることで、室内に空調風を供給可能としている。
ここで詳細な図示は省略するが吹出口9cを長手方向から覆うように、車両本体1の天井部4AaにはルーバーRが設けられている(図1参照)。
【0043】
ドレンパン10は、室内熱交換器15の下方で開口部9aを閉塞可能に、上記のクォーターターン等の締結部材Tによって室内機本体9に対して着脱可能に設けられている。ドレンパン10は、室内熱交換器15で空気中の水分が凝縮することで生成されたドレン水を受け止めるように、受け皿状をなしている。
【0044】
具体的にはドレンパン10は、底面として車両本体1の床面と平行をなす中央底面21と、中央底面21からその長手方向の両側に向かって上方に向かって延びることで床面に対して傾斜する一対の傾斜底面22とを有している。また、ドレンパン10の車幅方向両側の端面には、ドレン水を外部に導く排出口11が形成されている。これら排出口11は、中央底面21に向かって開口するとともに車幅方向外側に向かって突出し、例えば円筒状をなしている。各排出口11にはドレンホース12が取り付け可能となっている。ドレンホース12はホースバンドB等によって排出口11に固定される。ドレンホース12は、冷媒配管Pと同様に例えば車両本体1の側外板の内側で側外板に沿って配置されている。そしてドレンホース12は床下に開口している。ここで排出口11は車幅方向の一方側のみに設けられていてもよい。
【0045】
またドレンパン10には、室内機本体9に取り付けられる側(上側)の端縁から車幅方向の両側に外側に突出するフランジ状部23が設けられている。フランジ状部23を含むドレンパン10の車幅方向の寸法は、室内機本体9の車幅方向の寸法と同等である。フランジ状部23の上記端縁からの車幅方向の突出寸法は、例えば排出口11の上記端面からの車幅方向の突出寸法と同等であるとよい。フランジ状部23に上記の締結部材Tが挿通されてドレンパン10が室内機本体9に着脱可能となっている。締結部材Tは例えば抜け止めのリテーナ等によってフランジ状部23から脱落しないようになっていてもよい。
【0046】
ここでドレンパン10は、締結部材Tを用いなくとも室内機本体9から脱落しないように、例えば、上記のフランジ状部23が室内機本体9に引っ掛かることが可能な構造を有していてもよい。そして車幅方向の一方側若しくは他方側を上方に持ち上げることでフランジ状部23の室内機本体9への引っ掛かりを解除するような構造となっていてもよい。
【0047】
次に、本実施形態に係る車両用空調機2の室内機7のメンテナンス方法について、図4を参照して説明する。
即ち、このメンテナンス方法は、天井板8を取り外してドレンパン10を露出させる工程S1と、排出口11からドレンホース12を取り外す工程S2と、ドレンパン10を取り外して室内機7の内部を露出させる工程S3と、を含んでいる。
【0048】
工程S1では、ドレンパン10及び底板9bを妻側通路4Aに向けて下方に露出させる。
工程S2では工程S1の後に、上述のホースバンドBを緩めることでドレンホース12を排出口11から取り外す。
工程S3では工程S2の後に、上述の締結部材Tを緩めることでドレンパン10を室内機本体9から取り外す。
【0049】
これらの工程を実行することで、室内機本体9内の室内ファン14や室内熱交換器15にアクセス可能となる。
【0050】
ここで工程S3では、ドレンパン10を車幅方向一方側に対して他方側が上方に位置するように、ドレンパン10を車幅方向に傾けてから室内機本体9から取り外してもよい。例えば車幅方向の一方側にのみ排出口11が有る場合には特に、このようにドレンパン10を車幅方向に傾けて取り外すとよい。
【0051】
また室内ファン14へのアクセスを容易化するため、工程S1の後に室内機本体9から底板9bの締結部材Tを取り外し、ヒンジHを中心に回転させて開口部9aを露出させる工程を実行してもよい。
【0052】
以上、説明した本実施形態に係る車両100では、室内機7の幅寸法が妻側通路4Aの幅寸法よりも小さいことから、室内機7の全体を妻側通路4Aに向けて下方に露出させることができる。よって、室内機7へのアクセスが容易となり、妻側通路4A上で室内機7を容易に点検でき、室内機7の全体を天井部4Aaから取り外したりすることができる。これにより、室内機7のメンテナンス性を高めることができる。即ち、室内機7の幅寸法が妻側通路4Aの幅寸法よりも大きい場合のように、室内機7にアクセスするために室内機7周りの構成部品(化粧板や骨組み等)を取り外す必要がなくなるため、容易に室内機7をメンテナンスすることができる。
【0053】
また、上記のメンテナンス方法を実行する際、ドレンパン10を車幅方向に傾けてから取り外すと、ドレンパン10に貯留されたドレン水を排出口11に向かって移動させた上で、ドレンパン10を取り外すことになる。従ってドレンパン10を取り外す際に、ドレン水を排出口に導くことができるため、ドレンパン10に貯留されたドレン水が散って室内を汚したり、ドレン水が作業員にふりかかったりする可能性を低減することができる。
【0054】
また底板9bの締結部材Tを室内機本体9から取り外すことで、室内ファン14へのアクセスが容易となり、さらなるメンテナンス性の向上が可能である。
【0055】
ここで、上述の実施形態ではドレンパン10の底面が床面と平行である構成を例に説明をした。しかしながら、ドレンパン10の構成はこれに限定されない。他の例として、図5に示すようにドレンパン10の底面を傾斜面31とすることが可能である。傾斜面31は、ドレンパン10の車幅方向の一方側に向かって下方に傾斜している。
【0056】
この場合、ドレンパン10に貯留された室内機7のドレン水は、傾斜面31に沿って一方側の排出口11に向かって流れる。これにより、ドレンパン10にドレン水が常態的に貯留されることを回避できる。即ち、ドレンパン10を取り外す際に、ドレン水が散って車内を汚したり、ドレン水が作業員にふりかかったりする可能性を低減することができる。
【0057】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について、図6を参照して説明する。なお、上記第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
本実施形態では、ドレンパン10Aと天井板8とが一体構造となって、ドレンパン10Aが室内機本体9には固定されていない点で上記第一実施形態と異なっている。
【0058】
図6に示すように、室内機本体9には底板9bが設けられておらず、代わりに室内ファン14の下方に配置され、天井板8と一体構造の隙間調整部材17が設けられている。隙間調整部材17は例えば樹脂等で形成された部材であって、天井板8の裏面(車両本体1の内部に露出する面と反対側の面)に設けられている。
【0059】
この構成によれば、天井板8の裏面にドレンパン10Aが一体に取り付けられていることから、天井板8を取り外すことにより、同時にドレンパン10Aを室内機7から取り外すことができる。これにより、部品点数を削減することができるとともに、室内機7をメンテナンスする際の工数も削減することができる。
【0060】
さらにこの構成では、室内ファン14と天井板8の裏面との間に、そのスペースを埋める隙間調整部材17が設けられている。即ち、室内ファン14と天井板8との間にスペースが生じている場合であっても、このスペースを隙間調整部材17によって埋めることができ、室内ファン14の下方の空間が大きくなり過ぎることを回避できる。即ち室内ファン14の下方に適切な容積の空間(流路)を形成でき、室内ファン14による室内機本体9の空気の取り込み、及び室内への空気の供給をスムーズにできる。
【0061】
[第三実施形態]
続いて、本発明の第三実施形態について、図7を参照して説明する。なお、上記の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し詳細な説明を省略する。本実施形態では第二実施形態と同様にドレンパン10Bと天井板8とが一体構造となっているが、第二実施形態の場合と比べると室内ファン14と天井板8の裏面との間に大きなスペースは形成されていない。言い換えると、室内機本体9の取り付け高さが、上述の第一実施形態及び第二実施形態よりも低く設定されており、隙間調整部材17は設けられていない。
【0062】
この構成によれば、上記第二実施形態と同様に、天井板8の裏面にドレンパン10Bが一体に取り付けられていることから、天井板8を取り外すことにより、同時にドレンパン10Bを室内機7から取り外すことができる。これにより、部品点数を削減することができるとともに、室内機7をメンテナンスする際の工数も削減することができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0064】
例えば、第二実施形態の天井板8とドレンパン10Aと隙間調整部材17とを一体とした天井板組立体、及び第三実施形態の天井板8とドレンパン10Bとを一体とした天井板組立体を、既設の第一実施形態のドレンパン10及び天井板8と取り換えてもよい。
即ち、図8に示す天井板の交換方法のように、既設の天井板8を取り外し、室内機本体9に固定された既設のドレンパン10を下方に露出させる工程S11を実行する。
その後、室内機本体9から既設のドレンパン10を取り外す工程S12を実行する。
最後に第二実施形態及び第三実施形態の天井板組立体を、室内機本体9の下方に組み付ける工程S13を実行する。
【0065】
このような工程を実行することで、メンテナンス性の観点から、第一実施形態の車両用空調機2をアップグレードさせることが可能となる。
【符号の説明】
【0066】
1 車両本体
2 車両用空調機
3 座席
4 通路
4A 妻側通路
4Aa 天井部
5 妻面
5a 貫通口
6 室外機
7 室内機
8 天井板
9 室内機本体
9a 開口部
9b 底板
9c 吹出口
10、10A、10B ドレンパン
11 排出口
12 ドレンホース
14 室内ファン
15 室内熱交換器
17 隙間調整部材
21 中央底面
22 傾斜底面
23 フランジ状部
31 傾斜面
100 車両
H ヒンジ
T 締結部材
P 冷媒配管
R ルーバー
B ホースバンド
【要約】
【課題】高いメンテナンス性を有する車両用空調機の室内機、これを備える車両、天井板組立体、室内機のメンテナンス方法、及び天井板の交換方法を提供する。
【解決手段】車両の室内の妻側端に設けられた通路の天井部4Aaに設けられ、通路の幅寸法よりも小さな幅寸法を有する車両用空調機の室内機7である。また、この室内機7は、天井板8の上方に配置された室内ファン14及び室内熱交換器15と、室内ファン14及び室内熱交換器15を収容する室内機本体9と、室内熱交換器15で生じたドレン水を受け止めるとともに室内機本体9に対して下方から着脱可能なドレンパン10と、を有している。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8