(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6361077
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】移乗作業支援器具
(51)【国際特許分類】
A61G 7/10 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
A61G7/10
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-255309(P2017-255309)
(22)【出願日】2017年12月13日
【審査請求日】2017年12月13日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516160946
【氏名又は名称】山本 好三
(72)【発明者】
【氏名】山本 好三
【審査官】
小原 正信
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−192346(JP,A)
【文献】
特開平01−195857(JP,A)
【文献】
特開平06−047074(JP,A)
【文献】
特開2010−194142(JP,A)
【文献】
特開平01−320055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹当板(7)と滑り止め部材(2)とは合成樹脂製であり、それ以外のものは金属製からなるものを使用して、底面に滑り止め部材(2)が装着された台座(1)上に自在継手(3)を立設し、その自在継手(3)の作動を制御する制御ホルダー(4)と伸縮自在ポール(5)を傾斜可能に連接させ、前記制御ホルダー(4)の作用により伸縮自在ポール(5)の直立と適切な長さと角度を保持して安全性を確保し、伸縮自在ポール(5)上端に、伸縮自在ポール(5)の先端が挿入された管ソケット(11)及び管ソケット(11)が挿設されるアジャスタ(6)を介して、装備されている腹当板(7)は、接触緩衝材でつくられ、介護者(b)の腹部から骨盤にかけて受け支える形状で、上記アジャスタ(6)と連接された上記管ソケット(11)により、被介護者(b)の体型や体勢に応じた角度調整と、回旋しながら方向転換することができることを特徴とする移乗作業支援器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護者の抱き抱えによる移乗作業を支援する移乗作業支援器具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭、病院、施設などでの老齢者や障害のある被介護者の介護において、移乗作業は被介護者の日常生活を営む上で重要である。特に高齢化時代を迎え、その必要度は増している。しかし、老老介護など非力な介護者が手軽に携行し、容易に利用するための小型、軽量な移乗作業支援器具はない。
【0003】
そこで、各種の移乗作業支援機器が提案されている。例えば、特許文献1に開示されている介助リフトは、機械的にアームで吊り上げたり抱き締めたりする機器であり、装置が大きく高価でもあるため一般家庭には適さない。特許文献2に開示されている移乗作業支援器具は、介護者による抱き抱えでの移乗作業支援器具ではない。また、特許文献3に開示されている人体移乗装置は、回転盤や踏板などが装備されている上、装置の移動にはキャスター車輪を使用するなど手軽に携行することは難しく一般家庭での非力な介護者にも容易ではない。したがって、本発明とは技術的および使用方法に大きな違いがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−047074
【特許文献2】特開2010−194142
【特許文献3】特開平01−320055
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
移乗作業は、被介護者と介護者の心身の触れ合いを通じた安心安全で、確実に行われることが重要であることから、介護者が腰を屈めて被介護者を抱き抱えながら持ち上げ、方向転換をして座らせるという作業のため、介護者に被介護者の体重がかかることから精神的にも肉体的にも負担が大きく、腰痛などの障害が発生しやすい。そこで、小型、軽量で非力な介護者にも安全で容易に利用できる器具を開発することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するために本発明は以下の構成とした。
素材を金属と合成樹脂を使用して、底面に滑り止め部材(2)が装着された円形の台座(1)上の中央に自在継手(3)を立設し、その自在継手(3)の作動を制御するために周設した筒状の制御ホルダー(4)と伸縮自在ポール(5)を傾斜可能に連接させ、該ポール上端に回旋と角度調整可能なアジャスタ(6)を取着した腹当板(7)を装備した。
【0007】
自在継手(3)に周設した制御ホルダー(4)は、伸縮自在ポール(5)に装着されているバネ止め金具(8)で上端を固定されている押しバネ(9)によって下方に加圧され、伸縮自在ポール(5)の直立を保持させるとともに、伸縮自在ポール(5)の長さと傾斜度が大きくなりすぎると台座(1)が横方向からの加重に耐えられなくなり適切な位置からずれる危険性があるため、伸縮自在ポール(5)の傾斜とともに制御ホルダー(4)も摺動して上方に移動し、やがて制御ホルダー(4)は加圧している押しバネ(9)の密着高さに到達して摺動が止められる。これにより、伸縮自在ポール(5)の傾斜も止められるため、伸縮自在ポール(5)を適切な長さと傾斜角度で使用することができる。このように、制御ホルダー(4)は伸縮自在ポール(5)の直立保持と、伸縮自在ポール(5)の適切な長さと傾斜角度を制御するための安全装置でもある。
【0008】
伸縮自在ポール(5)上端に装備されている腹当板(7)は、切断面が長円形のパイプでできたアジャスタ(6)が取着されており、伸縮自在ポール(5)の先端部を回旋できるように連接された管ソケット(11)が挿設され、先端部はアジャスタ(6)に可動可能にリンチピン(12)で固定され、中間部は管ソケット(11)を貫通した菊形ボルト(13)によりアジャスタ(6)で狭窄締め付けして固定される。これにより、被介護者(c)の体型や体勢に応じて腹当板(7)の角度調整ができるとともに、腹当板(7)上に被介護者(c)を乗せて回旋しながら方向転換することができる。
【0009】
また、腹当板(7)は、合成樹脂製の板を芯に樹脂製の軟らかくてクッション性のある接触緩衝材でつくられ、伸縮自在ポール(5)に対して交差して装着されており、横方向には被介護者(c)の腹部の形状に沿うように湾曲し、腹部から骨盤にかけて受け支える形状で、縦方向には、かまぼこ形を呈し、下辺の中央部は、確実に腹部の中心部に位置させることと左右へのずれを防止するため、股間方向に凸起している。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、主要部を金属や合成樹脂の軽量かつ堅牢な材質で構成し、簡単な構造で小型、軽量とし、また、自在継手の作動を制御する制御ホルダーの装備により、伸縮自在ポールの長さと角度を安全に制御できることから、非力な介護者でも手軽に携行して安全で容易に利用できるとともに、抱き抱えによる持ち上げの作業がなくなったことから肉体的にも精神的にも大きく負担が軽減された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】 本発明の実施形態を示す移乗作業支援器具の斜視図。
【
図5】 同移乗作業支援器具の利用状態で抱き抱えて引き寄せ始めと引き離し動作を示す側面図。
【
図6】 同移乗作業支援器具の利用状態で抱き抱えによる回旋動作を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1から
図6に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1の(1)は台座で、形状は全方位に対応できるよう円形をしており、底面には床面と強固に固定して安定した作業が出来るよう、ゴム製や樹脂製の滑り止め部材(2)が装着されている。特に、
図5のようにベッドや車椅子などから抱き抱えて引き寄せ始め、および引き離し時に、伸縮自在ポール(5)の傾斜度が大きくなることにより、台座(1)が滑り、適切な位置や機能を維持できなくなることを防止するためである。
【0013】
台座(1)の上面中央には、
図3の自在継手(3)が立設されており、上端部には伸縮自在ポール(5)が連接されている。自在継手(3)は、伸縮自在ポール(5)を全方位に傾斜させるために有効であるが、その機能上、そのままでは上方に連接されている伸縮自在ポール(5)と腹当板(7)の重みで屈曲して倒れる。したがって、利用中に移乗作業支援器具(a)が被介護者の身体から離れないようにしたり、介護者が利用するために近傍に直立させて静置したり、収納時に直立状態で保管させることができない。
【0014】
そこで、
図3のように、伸縮自在ポール(5)の下部で、自在継手(3)に筒状の制御ホルダー(4)を周設し、この制御ホルダー(4)を伸縮自在ポール(5)に装着されているバネ止め金具(8)で上端を固定された押しバネ(9)によって下方に加圧する。このことにより、自在継手(3)の機能を制止しながら、伸縮自在ポール(5)と制御ホルダー(4)が一体化して台座(1)上に直立する。
【0015】
利用時においては、
図4のように、伸縮自在ポール(5)を人為的に横方向に加圧することにより、制御ホルダー(4)が加圧されている押しバネ(9)に抗して伸縮自在ポール(5)周縁を摺動して上方へ移動する。これと並行して自在継手(3)の機能も回復し、伸縮自在ポール(5)も自在に傾斜することができる。しかし、伸縮自在ポール(5)は大きく傾斜しようとしても、制御ホルダー(4)の作動により安全な角度以上は傾斜できない。なお、制御ホルダー(4)を加圧している押しバネ(9)の強度は伸縮自在ポール(5)の直立を保持する程度であるため、傾斜した伸縮自在ポール(5)を傾斜状態から起立させたり、台座(1)を床から跳ね上げたりするほどの強度は必要としない。
【0016】
伸縮自在ポール(5)には、
図3および
図4のように、適切な長さで確実に締め付けて固定するための固定ダイヤル(10)が装備されており、上端には被介護者(c)の体を受け止める腹当板(7)が装着されている。腹当板(7)は、断面が長円形のパイプでできたアジャスタ(6)により、被介護者(c)が移乗時にとる前傾姿勢の腹部の形状に沿うように斜め後方に傾斜して装着されている。
【0017】
アジャスタ(6)には伸縮自在ポール(5)の先端部を回旋できるように連接された管ソケット(11)が挿設され、先端部はアジャスタ(6)に可動可能にリンチピン(12)で固定され、中間部は管ソケット(11)を貫通した菊形ボルト(13)によりアジャスタ(6)で狭窄締め付けして固定される。また、アジャスタ(6)は縦方向に長円形をしているため、長円の長さの範囲内で管ソケット(11)の位置を上下に移動させて固定できる。このことから、被介護者(c)の体型や体勢に合わせてアジャスタ(6)および装着されている腹当板(7)の角度を調整できる。
【0018】
アジャスタ(6)に挿設されている管ソケット(11)には、
図3、
図4のように、伸縮自在ポール(5)の先端が挿入され、伸縮自在ポール(5)側に周回掘られた回旋ガイド溝(14)に管ソケット(11)からの押しネジ(15)で回旋可能に連接されている。
【0019】
本発明の移乗作業支援器具(a)には、
図4のように伸縮自在ポール(5)の傾斜に伴い生ずる台座(1)と制御ホルダー(4)との間隙、押しバネ(9)の伸縮による間隙の変動により、手指や着衣が挟まれる危険性を回避するため、下部が蛇腹でできた制御ホルダー部保護カバー(16)を、また、伸縮自在ポール(5)と腹当板(7)を取着しているアジャスタ(6)と管ソケット(11)との間隙を守るためのアジャスタ部保護カバー(17)が装着されている。
【0020】
次に、この実施形態の移乗作業支援器具(a)の利用方法について
図5と
図6に基づいて説明する。
図5のようにベッドや車椅子などの座席(d)に座っている被介護者(c)の前に移乗作業支援器具(a)を置き、被介護者の位置、高さ、体型、体勢に合わせて移乗作業支援器具(a)の台座(1)の設置位置と伸縮自在ポール(5)の長さと角度の調整および腹当板(7)の角度の調整を行った後、介護者(b)は被介護者(c)の身体を抱き抱えて引き寄せ、
図6のように腹当板(7)を介して伸縮自在ポール(5)上に乗せる。次に、被介護者(c)の前後左右の動揺を支えながら、腹当板(7)のアジャスタ(6)に挿設されている管ソケット(11)の回旋機能を利用して方向転換する。その後、伸縮自在ポール(5)上に乗せる動作と逆の動作で徐々に移乗先の座席(d)に座らせる。これらのことから、介護者(b)は被介護者(c)を伸縮自在ポール(5)の腹当板(7)方向へ抱き抱えながら引き寄せる力だけで、体重を持ち上げる必要がないため体への負担が大きく軽減されるとともに、簡単、容易で精神的にも大きく軽減される。
【符号の説明】
【0021】
a 移乗作業支援器具
b 介護者
c 被介護者
d 座席
1 台座
2 滑り止め部材
3 自在継手
4 制御ホルダー
5 伸縮自在ポール
6 アジャスタ
7 腹当板
8 バネ止め金具
9 押しバネ
10 固定ダイヤル
11 管ソケット
12 リンチピン
13 菊形ボルト
14 回旋ガイド溝
15 押しネジ
16 制御ホルダー部保護カバー
17 アジャスタ部保護カバー
【要約】
【課題】移乗作業は、介護者が腰を屈めて被介護者を抱き抱えながら持ち上げ、方向転換をして座らせるという作業で、介護者に被介護者の体重がかかることから負担が大きく、腰痛などの障害が発生しやすいため、小型、軽量で非力な介護者にも安全で容易に利用できる移乗作業支援器具を提供する。
【解決手段】底面に滑り止め部材が装着された台座上に自在継手を立設し、その自在継手の作動を制御する制御ホルダーと伸縮自在ポールを傾斜可能に連接させ、制御ホルダーの作用により伸縮自在ポールの直立と適切な長さと角度を保持して安全性を確保する。また、伸縮自在ポール上端に装備されている腹当板は、接触緩衝材でつくられ、介護者の腹部から骨盤にかけて受け支える形状で、アジャスタと連接された管ソケットにより、被介護者の体型や体勢に応じた角度調整と、回旋しながら方向転換することができる。
【選択図】
図1