(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
<第1の実施の形態> 以下、本発明の実施の形態について
図1乃至
図13に基づき説明する。
図1に示されるねじ締め機1は、ハウジング2と、モータ3と、クラッチ部4と、先端工具装着部5と共回防止機構となるスプリングクラッチ機構6とから主に構成され、先端工具装着部5に先端工具であるビット10が装着されている。このねじ締め機1において、ビット10が取り付けられる位置を、前側とし、後述のハンドル21を後側として前後方向を規定する。
【0042】
ハウジング2は、ねじ締め機1の外殻を成しており、その後端部分に把持部となるハンドル21を有している。ハンドル21にはトリガ21Aとスイッチ21Dが設けられており、トリガ21Aによりモータ3の駆動制御を行い、スイッチ21Dによりモータ3の回転方向(正転と反転)の制御を行っている。またハンドル21には図示せぬ外部電源に接続される電源コード21Bが設けられている。なお、ネジを締め込む方向の回転を正転と定義し、ネジを外す方向の回転を反転と定義する。また、前方部分において掛止部22を備える。
【0043】
掛止部22は、前後方向視中空部を有する略円筒形状の部材である。掛止部22は、ハウジング2の前方部分に固定される。また、掛止部22は、
図1、
図7に示されるように中空部に先端工具装着部5を通すように配置され、先端工具装着部5を回転可能に支持する。掛止部22の前面部分には、
図7及び
図8に示されるように、周方向で等間隔に配列された三対の掛止爪22Aが設けられており、掛止爪22Aはスプリングクラッチ機構6が掛止可能に構成されている。
【0044】
モータ3はハウジング2内においてハンドル21の前側に設けられており、前後方向を軸方向とする出力軸部である回転軸部31を有している。回転軸部31は、ベアリング31Aでハウジング2に支持されており、その先端にピニオン32を有している。また回転軸部31の基端部分には同軸回転するファン33が固定されている。
【0045】
クラッチ部4は、
図2に示されるように、クラッチドラム41とスプラインシャフト42と、駆動部材である10枚の第一クラッチプレート43と、従動部材である10枚の第二クラッチプレート44とワンウェイクラッチ45とから主に構成されている。クラッチドラム41は、前側に略筒状に構成されて第一クラッチプレート43及び第二クラッチプレート44を収容する空間が形成された収容部41Dを備えており、この筒状の収容部41Dの軸方向を回転軸方向として、クラッチドラム41は第一軸受となるベアリング47Aと軸受47Bとを介してハウジング2に回転可能に支承されている。
図1及び
図3に示されるように、クラッチドラム41において、収容部41Dの後端に位置する部分の外周にはピニオン32と噛合するギア41Aが設けられており、収容部41Dの内部には、
図2及び
図3に示されるように、軸方向に延びる複数の凸部41Bが周方向に渡って均等配置されている。収容部41Dの内部において、
図1に示されるように凸部41Bの後端部分となる位置には、壁部41Cが規定されており、壁部41Cにワンウェイクラッチ45が装着されている。またクラッチドラム41において、ベアリング47Aにより支持され、ワンウェイクラッチ45の後側になる箇所には、
図3に示されるように孔41aが形成され、孔41a内にはバネ46(
図1、
図2)が配置されている。
【0046】
スプラインシャフト42は、先端工具装着部5に同軸回転可能に固定されており、
図1に示されるようにクラッチドラム41の筒部分の内部においてワンウェイクラッチ45により支持され、その端部がバネ46と当接して前側へと付勢されている。またスプラインシャフト42の表面において、クラッチドラム41内に曝される箇所には、
図2および
図4に示されるように、軸方向に延びる複数の凸部42Aが周方向に渡って均等配置されている。
【0047】
第一クラッチプレート43は、
図5に示されるように、外周にクラッチドラム41の凸部41Bと噛合する凹部43aが形成され内部にスプラインシャフト42が貫通する孔43bが形成され、第二クラッチプレート44と接触する駆動部側接触面を備えて板状に構成されている。
図1に示されるように、凹部43aと凸部41Bとが噛合するように第一クラッチプレート43がクラッチドラム41の内部に整列して装着された状態で、第一クラッチプレート43はクラッチドラム41に対して軸方向への移動は許容されるが周方向への回転は制限される。また10枚の第一クラッチプレート43のうち、最後端に位置する第一クラッチプレート43は壁部41Cに当接可能である。
【0048】
第二クラッチプレート44は、
図6に示されるように、直径が凸部41Bと干渉しない程度の円板状で、第一クラッチプレート43と接触する従動部側接触面を備えて構成され、中央部分にスプラインシャフト42が貫通し凸部42Aと噛合する凹部44aが形成された孔44bが穿孔されている。凹部44aと凸部42Aとが噛合するように第二クラッチプレート44がスプラインシャフト42に装着された状態で、スプラインシャフト42に対して第二クラッチプレート44は、軸方向への移動は許容されるが周方向への回転は制限される。また10枚の第二クラッチプレート44のうち、最前端に位置する第二クラッチプレート44は、先端工具装着部5の後端部である後述の当接部51Aに当接可能である。
【0049】
第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とは、壁部41C位置から前側に向かって交互に並んで配置され第一クラッチを構成している。第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とはそれぞれ軸方向への移動が許容されているため、最も前側に位置する第二クラッチプレート44が先端工具装着部5の後端部に当接して後方へと付勢されることにより第一クラッチプレート43及び第二クラッチプレート44も後方側(伝達位置)へと移動し、隣り合う第一クラッチプレート43の駆動部側接触面と第二クラッチプレート44の従動部側接触面との間に摩擦が発生する。この発生した摩擦により、クラッチドラム41からスプラインシャフト42へと、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とを介して駆動力が伝達され、同軸に一体回転する。最も前側に位置する第二クラッチプレート44が後方へと付勢されない状態(遮断位置)では、隣り合う第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦は発生しないか発生しても僅かである為、クラッチドラム41とスプラインシャフト42との第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とを介しての一体回転は抑制される。またそれぞれ10枚の第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦力により動力の伝達を行っている為、それぞれ一枚当たりに掛かる摩擦力等の応力が低減され、クラッチ部4の高寿命化を図っている。
【0050】
尚、スプラインシャフト42は、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とが第一軸受であるベアリング47Aと後述のスプリングクラッチ機構6との間に位置するようにベアリング47Aと後述のスプリングクラッチ機構6とに間接的に支持されている。よって摩擦が発生した際にスプラインシャフト42に負担がかかったとしても、スプラインシャフト42の両端が支持されている為、ひびりやぶれの発生は抑制される。
【0051】
ワンウェイクラッチ45は、壁部41Cに装着されてスプラインシャフト42の後端部を支持しており、クラッチドラム41が反転した際に第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とは別系統でスプラインシャフト42に動力を伝達し、クラッチドラム41が正転した際にはスプラインシャフト42に動力伝達不能に構成されている。第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とにおいては、摩擦力が発生しない限り、クラッチドラム41からスプラインシャフト42に正転方向、反転方向の駆動力は伝達されない。しかしワンウェイクラッチ45は、反転方向においては常にクラッチドラム41からスプラインシャフト42へと駆動力を伝達している為、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦が発生しない場合においても先端工具装着部5を反転させることが可能になる。
【0052】
クラッチドラム41と先端工具装着部5とを比較すると、回転軸と直交する方向の径がスプラインシャフト42に駆動力を伝達する駆動側であるクラッチドラム41が大径に構成されている。よってハウジング2において、先端工具装着部5側を細くすることができ、より狭い箇所における図示せぬネジの施工を可能にしている。また第一クラッチプレート43と一体回転するクラッチドラム41の慣性質量を大きくすることができる為、伝達位置において第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦力が発生した際に、クラッチドラム41及びクラッチドラム41に接続されるモータ3の回転数の低下を抑制することができる。
【0053】
また
図1に示されるように、クラッチドラム41の第一クラッチプレート43及び第二クラッチプレート44を収容する収容部41Dの開口部分には、第一シール部材48が配置されている。第一シール部材48は、収容部41Dと後述のソケット51との間の隙間を埋め、収容部41D内部を密閉した状態に保っている。ソケット51は後述の掛止部22(共回防止機構6)で回転可能に支持されている為、ソケット51周辺には回転抵抗を減らす為のグリスが充填されている。このグリスが収容部41D内に侵入して第一クラッチプレート43及び第二クラッチプレート44に付着すると摩擦係数が変化し、第一クラッチプレート43及び第二クラッチプレート44を介してクラッチドラム41からスプラインシャフト42に好適に駆動力を伝達することができなくなる。よって第一シール部材48を配して収容部41D内にグリスが入ることを防止することにより、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦係数の変化を防止し、安定した作業を行うことが可能になる。
【0054】
先端工具装着部5は、主にソケット51から構成されている。ソケット51は、最前端にビット10が装着される装着孔51aが形成され、最後端でスプラインシャフト42に嵌合して接続されており、ハウジング2によって周方向に回転可能であると共に軸方向(前後方向)に移動可能に支持されている。ソケット51の後端面には、第二クラッチプレート44と当接する当接部51Aが規定される。ソケット51がスプラインシャフト42に嵌合して装着されていることにより、先端工具装着部5およびスプラインシャフト42に係る全長を短くすることができ、これによりねじ締め機1の全長を短くすることが可能になる。
【0055】
また
図1に示されるようにソケット51(共回防止機構6)の前側位置にはソケット51周辺に充填されている図示せぬグリスの外部への流出を防止する第二シール部材53が設けられており、ソケット51及び第二シール部材53の周囲にはカバー54が設けられている。カバー54は着脱容易に構成されており、その先端部分からビット10の先端が僅かに露出するように構成されている。作業を行わない状態において、先端工具装着部5は前方位置に配置されている。
【0056】
先端工具装着部5は、先端に装着されたビット10が図示せぬネジに当接する反力によって前方位置から後方位置へと後退することにより、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦を発生させている。しかし図示せぬネジが締め込まれて図示せぬ被加工部材に埋没した状態ではそれ以上ネジを締める必要がない為、カバー54の先端部分が図示せぬ被加工部材と当接してビット10へのネジからの反力を打ち消し、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦を低減してビット10への動力の伝達を遮断している。
【0057】
スプリングクラッチ機構6は、
図9に示されるように、第一部である装着部61と、係合部を構成する座部62(第二部)及びスプリング部63(正転防止部)とから構成され、先端工具保持部5(ソケット51)に装着されている。装着部61は軸受け等に用いられるメタル素材から略筒状に構成されてソケット51に固定されており、
図10に示されるように胴部61Aと、第一スプリング装着部61Bと、当接部61Cとから主に構成されている。具体的には、胴部61Aは、先端工具装着部5に固定されており、よって装着部61は先端工具装着部5に対して回転不能に構成される。第一スプリング装着部61Bは、胴部61Aの前端側に配置されており、外径がスプリング部63を構成するスプリングの内径と略同じか僅かに大きく構成されている。また第一スプリング装着部61Bの胴部61Aとの境界位置には、周方向に一連の第一溝部61aが穿設されている。裁頭円錐部である当接部61Cは装着部61の最前端に位置しており、装着部61の最前端部分を裁頭円錐状に構成した際に画成されるテーパー面から構成されている。
【0058】
座部62は、
図11(a)、
図11(b)に示されるように略筒状に構成され、第二スプリング装着部62Aと被掛止部62Bとを主に備えている。
図11(a)に示されるように、第二スプリング装着部62Aは座部62の後部に配置されており、第一スプリング装着部61Bと同様に、外径がスプリング部63を構成するスプリングの内径と略同じか僅かに大径に構成されている。また第二スプリング装着部62Aの最後端部において、略筒状の内周部分には、斜面62Cにより凹形状部分が画成されており、この凹形状部分にテーパー面である当接部61Cが挿入されて当接部61Cと斜面62Cとが当接可能になる。
図11(a)、(b)に示されるように、被掛止部62Bは第二スプリング装着部62Aの前端に設けられたつば部の前面から突出して構成されており、
図11(b)に示されるように座部62の周方向等間隔に三対配置されている。また第二スプリング装着部62Aと被掛止部62Bが設けられるつば部との境界位置には、周方向に一連の第二溝部62aが穿設されている。
【0059】
図12に示されるように、スプリング部63は、鋼線を密に巻回して構成されており、その巻回方向が正転方向となるように構成されている。ここで正転方向とは、スプリング部63を第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aに嵌合した状態で第一スプリング装着部61Bから第二スプリング装着部62Aに向かう方向で正転する方向である。換言すれば、スプリング部63は、左ねじの螺旋と同じ方向に巻回される。よって座部62に対して装着部61が正転した際に、第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aに嵌合したスプリング部63が正転方向に回転しその内径が小さくなる。内径が小さくなることにより第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aとスプリング部63との摩擦が増大し、装着部61が座部62に対して正転することが不能になる。また逆に座部62に対して装着部61が反転方向に回転した場合は、スプリング部63の内径が拡開するため、装着部61はスプリング部63で回転を妨げられることなく座部62に対して反転することができる。
【0060】
装着部61と座部62とにおいては、斜面62Cにより画成される凹形状部分に当接部61Cが挿入されることにより、相対的な軸ずれが生じ難くなる。装着部61と座部62とはスプリング部63のみで接続されているため軸ずれが生じやすいが、斜面62Cにより画成される凹形状部分に当接部61Cが挿入されることにより、斜面62Cと当接部61Cとの当接による調芯が行われ、装着部61と座部62とが同軸上で回転可能になる。よってスプリングクラッチ機構6は軸ずれが抑制されるため、より高速回転に対応することができる。尚、装着部61と座部62とはそれぞれメタル素材で構成されているため、斜面62Cと当接部61Cとが当接した際にも互いに好適に摺動することができ、それぞれ互いを支持する軸受けとして作用することができる。
【0061】
また第一スプリング装着部61Bと第二スプリング装着部62Aとのそれぞれには第一溝部61aと第二溝部62aとがそれぞれ形成されているため、第一スプリング装着部61Bと第二スプリング装着部62Aとに嵌合するスプリング部63の一端と他端とはそれぞれ第一溝部61aと第二溝部62aに配置される。このような構成によってスプリング部63が第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aから外れ難くなり、特に座部62に対して装着部61が反転してスプリング部63の内径が拡開した際に座部62に対して装着部61が高速回転したとしても、スプリング部63が第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aから外れることが防止される。
【0062】
上記構成のねじ締め機1を使用してネジを施工する際には、ビット10を図示せぬネジの頭に合わせた状態で、ビット10を図示せぬネジに押し付け、トリガ21Aを引く。ビット10を押しつけることにより、
図7に示されるように、掛止部22に対してソケット51(スプリングクラッチ機構6)が後方位置へと移動するため、被掛止部62Bが掛止爪22Aに掛止されることはない。よって掛止部22によりソケット51の回転が規制されることはなく、ソケット51は正転及び反転が可能となる。またビット10を押し付けた反力により、ソケット51がクラッチドラム41側へと移動し、当接部51Aが第二クラッチプレート44に当接し、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦を発生させる。これによりクラッチドラム41からスプラインシャフト42への駆動力の伝達を可能にし、モータ3からの正転方向の出力をソケット51及びビット10に伝達することができる。この時に、第一クラッチプレート43から第二クラッチプレート44へ徐々に駆動力が伝達されるため、クラッチドラム41からスプラインシャフト42へと駆動力が伝達し始める際に発生する衝撃を大幅に抑制し、騒音を低減することが可能となっている。またビット10への押し付け強さに応じて摩擦力が変化する為、使用者が押し付ける力を加減することにより、ビット10の回転を容易に制御することができる。
【0063】
ネジの施工が終わり、ビット10をネジから放した状態では、バネ46の付勢力により、スプラインシャフト42及びソケット51は前方位置へと移動する。これにより当接部51Aと第二クラッチプレート44との当接が解消し、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦が小さくなり、モータ3からの出力がソケット51に伝達されることが抑制される。
【0064】
ネジを打ち間違えた際に図示せぬ被加工部材から図示せぬネジを外すときは、スイッチ21Dを反転側にして、クラッチドラム41を反転させる。この時に、図示せぬネジの頭が図示せぬ被加工部材から突出していれば、ビット10が図示せぬネジに当接した反力により先端工具装着部5が後方位置へと移動し、当接部51Aが第二クラッチプレート44に当接して第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦が発生し、ビット10に反転方向の駆動力が伝達されて好適に図示せぬネジを外すことができる。
【0065】
図示せぬネジの頭が図示せぬ被加工部材から突出していない場合(ネジが被加工部材に埋没している場合)はカバー54が邪魔になり、ビット10が図示せぬネジに当接したとしても充分な反力が得られず先端工具装着部5は前方位置に留まり、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に充分な摩擦が発生しない場合がある。この場合においては、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とを介してクラッチドラム41からスプラインシャフト42へと動力を伝達することができないが、反転方向の駆動力であるためワンウェイクラッチ45を介してクラッチドラム41からスプラインシャフト42へと動力を伝達することは可能になっている。
【0066】
ビット10に充分な反力が得られない場合は、
図13に示されるように、ソケット51(スプリングクラッチ機構6)が後方位置へと移動しないため、被掛止部62Bが掛止爪22Aに掛止し、座部62が回転不能となる。しかしこの場合に、装着部61は、座部62に対して反転可能なため、掛止部22がソケット51の反転を妨げることはない。よってモータ3を反転させた際にビット10にネジによる反力が得られない場合であっても、好適に図示せぬネジを外すことができる。
【0067】
またビット10に反力が得られない状態、たとえばビット10に何も当接していない状態でトリガ21Aを引いた場合(クラッチドラム41が正転方向へ駆動された場合)では、先端工具装着部5が前方位置にあるため第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とを互いに押圧する力が働かず、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に過度の摩擦は発生しない。しかしこの状態においても第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とが僅かに当接する場合があるため、この場合に第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦力が発生してスプラインシャフト42や先端工具装着部5に駆動力が伝達される場合(共回りが発生する場合)がある。しかし上述のようにビット10に反力が得られない場合には、座部62は、被掛止部62Bが掛止爪22Aに掛止するため、回転できない。さらに装着部61は座部62に対して正転できないため、ソケット51がクラッチ部4と共回りすることが防止される。
【0068】
本発明のねじ締め機1によれば、最も後端の第一クラッチプレート43は一体に回転する壁部41Cに当接し、最も前端の第二クラッチプレート44は一体に回転する当接部51Aと当接する為、最も後端の第一クラッチプレート43と壁部41Cとの間、及び最も前端の第二クラッチプレート44と先端工具装着部5との間に摩擦が発生することは無い。これにより、壁部41Cを備えるクラッチドラム41及び先端工具装着部5の耐久性を増している。
【0069】
上記のねじ締め機1によれば、装着部61は、先端工具装着部5に固定されている。つまり、先端工具装着部5に複雑な機構を備えたスプリングクラッチ機構6が装着され、ハウジング2に比較的簡略な部品である掛止部22が固定される構成となっている。そのため、スプリングクラッチ機構6がハウジング2に装着される場合と異なり、先端工具装着部5、スプリングクラッチ機構6などの部品の組立が容易であり、組立精度を調整することも容易となる。さらに、分解も容易であるため、維持管理や修理コストが低減される。
【0070】
詳細には、従来のようにスプリングクラッチ機構6がハウジング2に装着される構成の場合、ハウジング2と先端工具装着部5との間の狭い空間にスプリングクラッチ機構6を配置する必要があった。そのため、ねじ締め機の組立工程は複雑であり、組立精度の調整も困難であった。しかし、本発明のねじ締め機1によれば、複雑な機構を備えたスプリングクラッチ機構6をまず先端工具装着部5に装着し、精度調整を行ったうえで、ハウジング2に先端工具装着部5を収納するという組立工程が可能となる。したがって、組立及び組立精度の調整が容易である。
【0071】
更に、ねじ締め機1は、以下のように動作不良の抑制及び破損防止という効果も有する。
【0072】
詳細には、従来のようにスプリングクラッチ機構がハウジング2に装着される構成の場合、装着部が先端工具装着部を摺動可能に支持する必要があった。この場合、装着部と先端工具装着部との間に隙間を設ける必要があり、さらにかじりや焼き付きの発生を防止するために隙間を一定の大きさにする必要があった。そのため、先端工具装着部の軸の傾きが発生する虞があった。軸の傾きが発生すると、装着部と座部とが互いに傾いた状態で、相互の接触や座部の高速回転が行われることとなり、スプリングの巻付きや破損、接触部分での摩擦の増大による動作不良や破損等が発生する可能性があった。
【0073】
しかし、本発明のねじ締め機1は、スプリングクラッチ機構6が先端工具装着部5に装着される構成を有する。すなわち、本発明のねじ締め機1では、先端工具装着部5と装着部61との間に隙間を設ける必要がない。したがって、装着部61と座部62とが傾いた状態で動作することが防止され、上記のような動作不良や破損が防止される。
【0074】
本実施の形態においては、装着部61や掛止部22は、先端工具装着部5やハウジング2とは独立した部品として構成されたが、本発明はこのような実施の形態に限定されない。装着部61を先端工具装着部5と一体としても良く、掛止部22をハウジング2と一体とすることも可能である。
【0075】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変形や改良が可能である。たとえば
図14及び
図15に示されるように、スプリング部163の前端を折り曲げて掛止爪22Aに掛止可能な被掛止部163Aとしてもよい。また
図16に示されるように、スプリングクラッチ機構に変えて公知のワンウェイベアリング206を用いてもよい。ワンウェイベアリング206においては、外輪部261と内輪部262とスリーブ263とを備えている。外輪部261はハウジング2に摺動可能に支持され、内輪部262を固定している。内輪部262は、筒状に構成され、筒状の内周面ではソケット51を正転方向のみ可能に支持している。また、内輪部262は、前後方向においてはソケット51に追従して移動可能となるように、ソケット51に装着される。スリーブ263は内輪部262の前端部に固定されるとともに筒状に構成され、筒状内にソケット51を摺動可能に支持している。またスリーブ263の前端部分には、掛止爪22Aと掛止可能な被掛止部263Aが設けられており、ソケット51が後側へと移動した際には被掛止部263Aの掛止爪22Aへの掛止が解かれる様に構成されている。これらのような構成によっても無負荷時においてソケット51の正転方向への共回りを防止することができる。
【0076】
<第2の実施の形態> 第2の実施の形態における共回防止機構106を
図17乃至
図23、
図26(a)を用いて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材等には同じ参照番号を付し、説明を省略する。また第1の実施の形態によるねじ締め機1を構成する部品や部材と対応する部品・部材には、第1の実施の形態の図面参照番号に100を加算した参照番号を付す。
【0077】
先端工具装着部105は、主にソケット151と掛止部152とから構成されている。ソケット151は、最前端にビット10が装着される装着孔51aが形成され、最後端でスプラインシャフト42に嵌合して接続されており、ハウジング2に設けられて第二軸受の役割を果たす共回防止機構106で周方向に回転可能であると共に及び軸方向(前後方向)に移動可能に支持されている。ソケット151がスプラインシャフト42に嵌合して装着されていることにより、先端工具装着部105およびスプラインシャフト42に係る全長を短くすることができ、これによりねじ締め機101の全長を短くすることが可能になる。
【0078】
掛止部152は、
図17、
図18に示されるようにソケット151の後部であってスプラインシャフト42(
図17)との接続箇所近傍位置に配置され、掛止部152の後端面部分には最前側の第二クラッチプレート44(
図17)と当接可能な当接部151Aが規定されている。先端工具装着部105が後方位置に移動することにより当接部151Aが第二クラッチプレート44に当接して第二クラッチプレート44を第一クラッチプレート43に押し付ける。掛止部152の前面部分には、
図18及び
図19に示されるように、掛止部152の本体部から前方に突出すると共に回転方向に傾斜し、周方向で間隔を空けずに配置された掛止爪152Aが設けられており、掛止爪152Aは共回防止機構106が掛止可能に構成されている。
【0079】
共回防止機構106は、
図20に示されるように、装着部161と、係合部を構成する座部162及びスプリング部163とから構成されている。装着部161は軸受け等に用いられるメタル素材から略筒状に構成されてソケット151を摺動可能に支持しており、
図21に示されるように胴部161Aと、第一スプリング装着部161Bと、嵌合部161Cと、から主に構成されている。胴部161Aは、ハウジング2に圧入により固定されており、よって装着部161はハウジング2に対して回転不能に構成される。第一スプリング装着部161Bは、胴部161Aの後方に配置されており、外径がスプリング部163内径と略同じか僅かに大きく構成されている。また第一スプリング装着部161Bの胴部161Aとの境界位置には、周方向に一連の第一溝部161aが穿設されている。嵌合部161Cは装着部161の後部に位置しており、第一スプリング装着部161B後端部から後方へ側面視略矩形に突出した形状を有している。
【0080】
座部162は、
図22(a)、
図22(b)に示されるように略筒状に構成され、被嵌合部162Aと被掛止部162Bとを主に備えている。
図22(a)に示されるように、被嵌合部162Aは座部162の前部に配置されており、座部162を構成するつば部(本体部)から前方へ側面視略矩形に突出した形状を有している。被嵌合部162Aは、外径がスプリング部163を構成するスプリングの内径と略同じか僅かに大きく構成されている。被嵌合部162Aは、
図20に示すように嵌合部161Cと嵌合し、座部162を装着部161に対して前後方向に移動可能とするとともに相対回転を不能としている。
図22(a)、(b)に示されるように、被掛止部162Bは被嵌合部162Aの後方に設けられたつば部(本体部)の後面から突出して回転方向に傾斜するように構成されており、
図22(b)に示されるように座部162の周方向に間隔を空けずに複数配置されている。また被嵌合部162Aと被掛止部162Bが設けられるつば部との境界位置には、周方向に一連の第二溝部162aが穿設されている。
【0081】
図20に示されるように、スプリング部163は、鋼線を巻回して構成されたバネである。スプリング部163の前端部は、第一溝部161aに巻付くことによって係止され、後端部は第二溝部162aに巻付くことによって係止される。また、スプリング部163は、座部162を装着部161に対して後方へ付勢するとともに、所定の間隔をもって前後方向に両部材を離間する。スプリング部163は、本発明における付勢部材に相当する。
【0082】
スプリング部163の前端部及び後端部が第一溝部161a及び第二溝部162aの外周に巻付いて係止されることによって、スプリング部163が装着部161及び座部162から外れることが防止される。
【0083】
掛止爪152A及び被掛止部162Bの詳細な形状について
図26を用いて説明する。
図26(a)は、第2の実施の形態における掛止爪152A及び被掛止部162Bの形状の一例を示したものである。
図26(a)に示すように、掛止爪152Aの正転方向下流側に傾斜角aを有する斜面Aが規定されるとともに、正転方向上流側には傾斜角aより小さい傾斜角bを有する斜面Bが規定される。また、被掛止部162Bの正転方向上流側に傾斜角cを有する斜面Cが規定されるとともに、正転方向下流側に傾斜角cより小さい傾斜角dを有する斜面Dが規定される。傾斜角a及びbは掛止部152の本体部(掛止爪152Aが突出する掛止部の部分)に対する掛止爪152Aの角度であり、正転方向(回転方向)に対する傾斜角に相当する。傾斜角c及びdは座部162(被掛止部162Bが突出する座部の部分)に対する被掛止部162Bの角度であり、正転方向(回転方向)に対する傾斜角に相当する。
【0084】
上記構成のねじ締め機101を使用してねじを施工する際には、ビット10を図示せぬねじの頭に合わせた状態で、ビット10を図示せぬねじに押し付け、トリガ21Aを引く。ビット10を押しつけることにより、
図18に示されるように、共回防止機構106に対してソケット151が後方位置へと移動するため、被掛止部162Bが掛止爪152Aに掛止されることはない。よって共回防止機構106によりソケット151の回転が規制されることはなく、ソケット151は正転及び反転が可能となる。またビット10を押し付けた反力により、ソケット151がクラッチドラム41側へと移動し、当接部151Aが第二クラッチプレート44に当接し、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦を発生させる。これによりクラッチドラム41からスプラインシャフト42への駆動力の伝達を可能にし、モータ3からの正転方向の出力をソケット151及びビット10に伝達することができる。この時に、第一クラッチプレート43から第二クラッチプレート44へ徐々に駆動力が伝達されるため、クラッチドラム41からスプラインシャフト42へと駆動力が伝達し始める際に発生する衝撃を大幅に抑制し、騒音を低減することが可能となっている。またビット10への押し付け強さに応じて摩擦力が変化する為、使用者が押し付ける力を加減することにより、ビット10の回転を容易に制御することができる。
【0085】
ねじの施工が終わりビット10をねじから放した場合、ねじを打ち間違えた際に図示せぬ被加工部材から図示せぬねじを外す場合、及び図示せぬねじの頭が図示せぬ被加工部材から突出していない場合の動作は第1の実施の形態と同様である。
【0086】
ビット10に十分な反力が得られない場合、すなわちソケット151が前方位置であっても先端工具装着部105の反転は可能である。前方位置での反転時、
図23に示されるようにソケット151が後方位置へと移動しないため、被掛止部162Bが掛止爪152Aに当接した状態から、掛止部152が反転を開始することとなる。このとき、掛止爪152Aの斜面Bは、被掛止部162Bの斜面Dに当接しつつ滑りながら反転方向に移動し、隣の被掛止部162Bに当接することを繰り返す。このとき、掛止爪152A及び被掛止部162Bが前後方向に突出した形状を有するため、座部162は、前後方向へ変位(ソケット151に対して摺動)する。座部162は、装着部161に対してスプリング部163を介して前後方向に所定の間隔をあけて接続されるため、スプリング部163が前後方向に変形することによって座部162の変位を吸収する。そのため、先端工具装着部105の反転が可能となる。
【0087】
またビット10に反力が得られない状態、たとえばビット10に何も当接していない状態でトリガ21Aが引かれ、クラッチドラム41が正転方向へ駆動された場合、第1の実施の形態と同様、共回りが発生する場合がある。
【0088】
しかし上述のようにビット10に反力が得られない場合には被掛止部162Bが掛止爪152Aに掛止して先端工具装着部105と座部162とが一体回転する構成を採り、かつ座部162は装着部161に対して相対回転不能であるため、先端工具装着部105がクラッチ部4と正転方向に共回りすることが防止される。
【0089】
詳細には、被掛止部162Bの斜面Cと掛止爪152Aの斜面Aとが当接するため、被掛止部162Bに対して掛止爪152Aが当接しつつ正転方向に滑ることは不可能である。すなわち掛止部152と座部162との掛止が解除されず、掛止部152及び先端工具装着部105の正転が防止される。
【0090】
本発明のねじ締め機101によれば、最も後端の第一クラッチプレート43は一体に回転する壁部41Cに当接し、最も前端の第二クラッチプレート44は一体に回転する当接部151Aと当接する為、最も後端の第一クラッチプレート43と壁部41Cとの間、及び最も前端の第二クラッチプレート44と先端工具装着部105との間に摩擦が発生することは無い。これにより、壁部41Cを備えるクラッチドラム41及び先端工具装着部5の耐久性を増している。
【0091】
第2の実施の形態においては、座部162と装着部161が離間して配置され、さらにスプリング部163を備えることによって座部162の前後方向のスムーズな変位を可能としている。このことにより、先端工具装着部105の前後方向の変位を防止し、前方位置におけるスムーズな先端工具装着部105の反転を可能としている。また、先端工具装着部105の前後方向の変位が防止されることにより、ネジがビット10から外れる現象(カムアウト)を確実に防ぐことが出来る。
【0092】
また、第2の実施の形態においては、掛止爪152Aまたは被掛止部162Bは、掛止部152または座部162の周方向に間隔を空けずに連続して並べた配置とすることが可能となる。このように並べた配置とした場合、掛止爪152Aと被掛止部162Bとの周方向の間隔が狭いため、前方位置における正転方向の掛止が即座に行われる。すなわち正転方向の共回りが、従来技術に比較してより確実に防止される。なお、上記効果を得るために周方向に連続して並べた配置とするのは、掛止爪152A及び被掛止部162Bのうちのいずれか一方でよい。
【0093】
第2の実施の形態においては、
図26(a)に示すように、正転方向に対する傾斜角bは傾斜角aより小さく構成され、傾斜角dは傾斜角cより小さく構成される。このような構成とすることによって、掛止部152の座部162に対する正転を確実に不能とすると共に、反転時には当接する斜面同士の摩擦が低減され、スムーズな反転を可能としている。なお、傾斜角bと傾斜角dが等しく、傾斜角aと傾斜角cが等しいことが好ましい。
【0094】
また、スプリング部163が座部162を所定の位置に保持するために、掛止部152が確実に座部162と掛止することが出来る。
【0095】
第2の実施の形態においては、装着部161はハウジング2に装着されていた。しかし、本発明は、このような実施の形態に限定されるものではない。装着部が先端工具装着部に装着される構成であっても、上記と同様の効果を得ることが可能である。
【0096】
<第3の実施の形態> 第3の実施の形態における共回防止機構206を
図24及び
図26(b)を用いて説明する。なお、第1及び2の実施の形態と同様の部材等には同じ参照番号を付し、説明を省略する。また第1及び2の実施の形態によるねじ締め機1を構成する部品や部材と対応する部品・部材には、第1及び2の実施の形態の図面参照番号に200を加算した参照番号を付す。
【0097】
共回防止機構206は、主に装着部261、座部262、及びスプリング部263を有する。装着部261は、先端工具装着部205のソケット251後部に相対回転不能に装着されている。座部262は、スプリング部263を介して前後に所定の間隔をあけて装着部261に接続される。なお、装着部261をソケット251と一体の部材としても良い。
【0098】
装着部261は、前部において嵌合部261Cを備える。嵌合部261Cは、前方に突出し、側面視略矩形を形成する。
【0099】
座部262は略筒状に形成され、被嵌合部262Aと被掛止部262Bとを備える。被嵌合部262Aは、座部262の本体部から後方に突出し、側面視略矩形を形成する。被嵌合部262Aは、装着部261の嵌合部261Cと前後方向に移動可能に嵌合する。座部262は、嵌合部261Cと被嵌合部262Aとが周方向に当接するため、装着部261に対して相対回転不能である。被掛止部262Bは座部262の本体部から前方に突出すると共に回転方向に傾斜している。
【0100】
スプリング部263は、座部262と装着部261との間に介在する。スプリング部263の前端部は座部262に係止され、後端部は装着部261に係止される。また、スプリング部263は、座部262を装着部261に対して前方へ付勢するとともに、両部材を所定の間隔をもって前後方向に離間する。
【0101】
共回防止機構206の前方には、軸受け等に用いられるメタル素材から略筒状に構成された掛止部252が配置される。掛止部252は、前端部においてハウジング2に固定される。掛止部252の後端部には、掛止部252の本体部から後方に突出し回転方向に傾斜した掛止爪252Aが形成される。掛止部252は、内周面においてソケット251を摺動可能に支持している。
【0102】
図26(b)には、第3の実施形態における掛止爪252A及び被掛止部262Bの形状の一例を示す。後方に配置される被掛止部262Bでは、正転方向下流側に正転方向に対する傾斜角aを有する斜面Aが規定されるとともに、正転方向上流側には急斜面(斜面A)より傾きの小さい斜面B(傾斜角b)が規定される。また、前方に配置される掛止爪252Aでは、正転方向上流側に斜面C(傾斜角c)が規定されるとともに、正転方向下流側には斜面Cより傾きの小さい斜面D(傾斜角d)が規定される。換言すれば、第3の実施の形態においては、正転方向に対する傾斜角bは傾斜角aより小さく構成され、傾斜角dは傾斜角cより小さく構成される。ここで、傾斜角bと傾斜角dは等しく、傾斜角aと傾斜角cは等しいことが好ましい。このような構成とすれば、装着部261(座部262)の掛止部252に対する正転を確実に不能とすると共に、反転時には当接する斜面同士の摩擦が低減され、スムーズな反転を可能とできる。
【0103】
上記構成において、先端工具装着部205が後方位置にある場合、被掛止部262Bと掛止爪252Aとが離間するため、ソケット251及び先端工具装着部205の正転と反転が可能となる。一方、先端工具装着部205が前方位置にある場合、被掛止部262Bと掛止爪252Aが掛止されるため先端工具装着部205の正転が不能となるとともに、掛止が解除されることによって反転は可能となる。
【0104】
すなわち、前方位置での反転時において、被掛止部262Bの斜面Bは、掛止爪252Aの斜面Dに当接しつつ滑りながら反転方向に移動し、隣の掛止爪252Aに当接することを繰り返す。このとき、掛止爪252A及び被掛止部262Bが前後方向に突出した形状を有するため、座部262は、前後方向へ変位する。座部262は、装着部261に対してスプリング部263を介して所定の間隔をあけて接続されるため、スプリング部263が前後方向に変形することによって座部262の変位を吸収する。先端工具装着部205の前後方向の変位が防止されることにより、ネジがビット10から外れる現象(カムアウト)を防ぐことが出来る。
【0105】
第3の実施の形態においては、第1及び2の実施の形態と同様の効果に加え、以下のように新たな効果が得られる。
【0106】
上記の共回防止機構206によれば、装着部261は、先端工具装着部205に固定されている。つまり、先端工具装着部205に複雑な機構を備えた共回防止機構206が装着され、ハウジング2に比較的簡略な部品である掛止部252が固定される構成となっている。そのため、共回防止機構206がハウジング2に装着される場合と異なり、先端工具装着部205、共回防止機構206などの部品の組立が容易であり、組立精度を調整することも容易となる。さらに、分解も容易であるため、維持管理や修理コストが低減される。
【0107】
詳細には、共回防止機構がハウジング2に装着される構成の場合、ハウジング2と先端工具装着部との間の狭い空間に共回防止機構を配置する必要があった。そのため、ねじ締め機の組立工程は複雑であり、組立精度の調整も困難であった。しかし、本発明の共回防止機構206によれば、複雑な機構を備えた共回防止機構206をまず先端工具装着部205に装着し、精度調整を行ったうえで、ハウジング2に先端工具装着部205を収納するという組立工程が可能となる。したがって、組立及び組立精度の調整が容易である。
【0108】
上記3つの実施の形態においては、スプリング部63、163、263が変形することによって座部62、162、262の変位を吸収し、先端工具装着部5、105、205のスムーズな反転を可能としていた。しかし、本発明はこのような実施の形態に限定されるものではない。スプリング部63、163、263を用いずに本発明の効果を得ることも可能である。
【0109】
<第4の実施の形態> 第4の実施の形態を
図25及び
図26(c)を用いて説明する。なお、第1乃至第3の実施の形態と同様の部材等には同じ参照番号を付し、説明を省略する。また第1の実施の形態によるねじ締め機1を構成する部品や部材と対応する部品・部材には、第1の実施の形態の図面参照番号に300を加算した参照番号を付す。
【0110】
第4の実施の形態における共回防止機構306は、座部及びスプリング部を備えず、装着部361のみによって構成される。装着部361は、後端部に被掛止部361Bを備える。装着部361は、ハウジング2に固定され、先端工具装着部305のソケット351を摺動可能に支持している。
【0111】
なお、ソケット351及び掛止部352は、第2の実施の形態と同様の構成をとるが、
掛止爪352Aの形状について、下記の点において相違する。
【0112】
被掛止部361Bと掛止爪352Aの形状を
図26(c)に示す。傾斜角b及び傾斜角dは、第2及び第3の実施の形態よりさらに小さいものに設定される。
【0113】
傾斜角bまたは傾斜角dは、ねじ山のリード角よりも小さく設定されることが好ましい。
図27に示すように、一般的なタッピンねじは4.8度以上のリード角を備える。したがって傾斜角bまたは傾斜角dは、4.8度以下に設定されることが好ましい。
【0114】
このような構成において、先端工具装着部305が前方位置にある場合、正転は掛止爪352Aと被掛止部361Bとが互いに掛止することによって確実に防止される。
【0115】
一方、被加工部材に埋没したねじを反転させる場合、先端工具装着部305は前方位置において反転を行うこととなる。ねじが反転するにつれ、ねじ頭は被加工部材から後方に飛び出してくるが、先端工具装着部305もねじ頭の変位に沿って後方へ移動する。すなわち、先端工具装着部305は、ねじ山のリード角に沿って螺旋状の軌跡を描いて後方へ移動することとなる。
【0116】
ここで、傾斜角bまたは傾斜角dがねじ山のリード角よりも小さいため、先端工具装着部305及び掛止部352は、斜面Bと斜面Dとを干渉させることなく、後方へ移動することが可能である。このように共回防止機構306は、先端工具装着部305の反転を可能とする。
【0117】
第2の実施の形態と同様の効果が得られることに加え、第4の実施の形態においては、スプリング部及び座部を用いずに前方位置における先端工具装着部305の反転を可能としている。したがって、第2の実施の形態に比較し、さらに簡易な構成を備えた共回防止機構306を実現している。また、斜面Bと斜面Dが干渉しないため、第2の実施の形態と比べ、反転時の騒音を低減することができる。
【0118】
<変形例> なお、上記第2乃至第4の各実施の形態においては、正転方向に掛止する斜面を急勾配なものとしたが、本発明はこのような構成に限定されない。
図26(d)には、掛止部および被掛止部を構成する斜面A―D及び対応する傾斜角a−dを示す。すなわち、後方の部材は、第2及び第4の実施の形態においては掛止部に相当し、第3の実施の形態においては被掛止部に相当する。また、前方に配置される部材は、第2及び第4の実施の形態においては被掛止部に相当し、第3の実施の形態においては掛止部に相当する。
【0119】
図26(d)に示すように、掛止部および被掛止部の傾斜角a及び傾斜角cを、鋭角とすることも可能である。前方位置における正転方向の駆動力は、原則としてクラッチ部4によって伝達を防止される。すなわち、先端工具装着部105、205、305の前方位置での正転方向の駆動力は、反転方向の駆動力に比較して微弱なものである。したがって、このような構成によっても、先端工具装着部105、205、305の前方位置での正転方向の共回りに係る駆動力の伝達を、斜面Aと斜面Cとが当接することによって防止することが可能である。すなわち、先端工具装着部105、205、305の前方位置での正転方向の共回りが防止される。
【0120】
さらに、掛止爪及び被係止部の形状は、側面視三角形状の構成に限定されるものではない。たとえば側面視略台形状に構成されてもよいし、さらには必ずしも直線によって構成される必要はない。
【0121】
図28には、本発明の変形例を示す。上記実施の形態と同様の部材等には同じ参照番号を付し、説明を省略する。また第1の実施の形態によるねじ締め機1を構成する部品や部材と対応する部品・部材には、第1の実施の形態の図面参照番号に400を加算した参照番号を付す。
【0122】
図28に示す共回防止機構406は、掛止爪452Aまたは被係止部462Bが曲面によって構成される。このような構成でも、スプリング部463が座部462の変位を吸収することによって、先端工具装着部405の前方位置での反転を可能とすると共に、正転
方向の共回りを防止することが可能である。
【0123】
なお、掛止爪452Aまたは被係止部462Bの正転方向に対する曲面の傾きをねじのリード角より小さく設定することによって、スプリング部463及び座部462のない構成とすることも可能である。このことは、第4の実施の形態を参照すれば明らかである。
【0124】
上記各実施の形態及び変形例を通じて明らかなように、本発明の共回防止機構は、スプリングクラッチやワンウェイクラッチを備えず、簡略な構成によって実現可能となる。
【0125】
上記各実施の形態においては、装着部や掛止部は、先端工具装着部105やハウジング2とは独立した部品として構成されたが、本発明はこのような実施の形態に限定されない。第2及び第4の実施の形態を用いて例示すれば、装着部161、361を先端工具装着部105、305と一体としても良く、掛止部152、352をハウジング2と一体とすることも可能である。
【0126】
本明細書及び本発明において、「等しい」というのは、物理的に「厳密に等しいこと」はもちろん、技術常識的からみて等しいとみられる「略等しい」をも含む概念である。
【0127】
なお上記各実施形態において、掛止爪152A、252A、352Aが第1突出部と係合側突出部、及び、第2突出部と被係合側突出部の一方に相当し、掛止部152、252、352が係合部及び被係合部の一方に相当する。また、被掛止部162B、262B、361Bが第1突出部と係合側突出部、及び、第2突出部と被係合側突出部の他方に相当し、座部162、262及び装着部361が係合部及び被係合部の他方に相当する。