特許第6361089号(P6361089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361089
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】R−T−B系焼結磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20180712BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20180712BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180712BHJP
   B22F 3/02 20060101ALN20180712BHJP
   B22F 3/10 20060101ALN20180712BHJP
   B22F 3/24 20060101ALN20180712BHJP
【FI】
   H01F1/057 170
   B22F3/00 F
   C22C38/00 303D
   C22C38/00 304
   !B22F3/02 R
   !B22F3/02 M
   !B22F3/10 E
   !B22F3/24 B
   !B22F3/24 102Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-89521(P2013-89521)
(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公開番号】特開2014-216339(P2014-216339A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】榎戸 靖
(72)【発明者】
【氏名】崔 京九
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−536842(JP,A)
【文献】 特開2010−074084(JP,A)
【文献】 特開2011−211069(JP,A)
【文献】 特開2011−211071(JP,A)
【文献】 特開2002−190404(JP,A)
【文献】 特開昭60−228652(JP,A)
【文献】 特開2010−045068(JP,A)
【文献】 特開2009−302262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/00−1/117、41/00−41/04
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04−1/05、5/00−25/00
C22C 27/00−28/00、30/00−30/06
C22C 33/02、35/00−45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R−T−B系焼結磁石(ただし、RはCeとR1を必須し、R1はCeを含まない希土類元素の少なくとも1種であり、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種以上の遷移金属元素)であって、コア部と前記コアを被覆するシェル部を有する主相粒子を含み、前記コア部におけるR1とCeの質量濃度をそれぞれαNd、αCe、前記シェル部におけるR1とCeの質量濃度をそれぞれβR1、βCe、としたときに、前記シェル部におけるR1とCeの質量濃度比率(βR1/βCe=B)と、前記コア部におけるR1とCeの質量濃度比率(αR1/αCe=A)の比(B/A)が1.10以上であり、
前記希土類元素(R)中のR1とCeとの含有割合は、mol比で50:50〜90:10であることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
【請求項2】
請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石であって、B/Aが1.4以上であることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
【請求項3】
請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石であって、R1はNd、Pr、Dy、Ho、Tbの少なくとも1種であることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類系永久磁石に関し、特にR−T−B系永久磁石におけるRの一部を選択的にCeに置換することによって得られる希土類永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
正方晶R14B化合物を主相とするR−T−B系磁石(Rは希土類元素、TはFeまたはその一部がCoによって置換されたFe、Bはホウ素)は優れた磁気特性を有することが知られており、1982年の発明(特開昭59−46008号公報参照)以来、代表的な高性能永久磁石である。
【0003】
特に、希土類元素RがNd、Pr、Dy、Ho、TbからなるR−T−B系磁石は異方性磁界Haが大きく永久磁石材料として広く用いられてきた。中でも希土類元素RをNdとしたNd−Fe−B系磁石は、飽和磁化Is、キュリー温度Tc、異方性磁界Haのバランスが良く、民生、産業、輸送機器などに広く用いられている。しかしながら、近年、R−Fe−B系磁石の用途が益々拡大し、NdやPr等の消費量が急激に増加しているため、貴重な資源であるNdやPr等の効率的利用を図るとともに、R−Fe−B系磁石の材料コストを低く抑えることが強く求められている。
【0004】
一方、R−T−B系磁石は酸化されやすい希土類元素および鉄を主成分として含むために耐食性が比較的低く、酸化により磁気特性が劣化してしまう。このため、磁石本体の表面に種々の保護膜を形成することが行われている。磁石本体と保護膜との密着強度が低い場合、使用時の状況によっては保護膜がはがれてしまい、磁石本体の腐食が始まる。このため磁石本体と保護膜との密着強度を高くすることが求められている。磁石本体と保護膜との密着強度は、物理的および化学的結合力の両者に起因するが、本質的には磁石本体と保護膜の化学的性質に依存する。すなわち、密着性は磁石の組成に影響を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−6776号公報
【特許文献2】特公平6−942号公報
【特許文献3】特公平6−2930号公報
【0006】
資源量として豊富であり、かつ、高い保磁力を示す希土類元素RとしてCeが知られている。特許文献1は、低コストで高性能な焼結および樹脂結合磁石に関するものである。すなわち、Ce−La−(ジジム)−Feに半金属を加えた組成で、一般式は、電子比で、Ce1−x−y−zPrNdLa(Fe1−mで表される。但し、M,B,C,Si,Ge,P,Sの各元素のうち1種または2種以上の元素からなり、x、y、z、t、m、nは、0.1≦x≦0.5,0.1≦y≦0.85,0≦z≦0.1,0.02≦m≦0.1,0≦n≦8.0,0<1−x−y−z<0.8、の値の範囲とする。ここで、Laは必須であり、本磁石の特性は保磁力では7.3kOe以上である。
また、特許文献2も、低コストで高性能な焼結および樹脂結合磁石に関するものである。すなわち、Ce−La−(ジジム)−Fe−BにCoを置換した組成であり、保磁力7.9kOeが得られている。
また、特許文献3も、低コストで高性能な焼結および樹脂結合磁石に関するものである。すなわち、Ce−La−(ジジム)−FeにM元素を置換した組成であり、保磁力7.5kOe以上が得られている。
いずれも10kOe程度であるNd−T−B系の保磁力よりも著しく低く、従来のNd−T−B系磁石の代替とすることは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、Rの一部が選択的にCeに置換しているR−T−B系磁石において、めっきとの密着強度を向上させつつ、従来に比して保磁力を向上させた永久磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のR−T−B系永久磁石は、R−T−B系焼結磁石(ただし、RはCeとR1を必須とし、R1はCeを含まない希土類元素の少なくとも1種であり、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種以上の遷移金属元素)であって、コア部と前記コアを被覆するシェル部を有する主相粒子を含み、前記コア部におけるR1とCeの質量濃度をそれぞれαR1、αCe、前記シェル部におけるR1とCeの質量濃度をそれぞれβR1、βCeとしたときに、前記シェル部におけるR1とCeの質量濃度比率(βR1/βCe=B)が、前記コア部におけるR1とCeの質量濃度比率(αR1/αCe=A)よりも大きいことを特徴とする。ここで、好ましくは、前記B/Aは1.1以上である。かかる構成を取ることによって、R−T−B系焼結磁石において、高い保磁力と、めっき膜との高い密着強度を併せ持つR−T−B系焼結磁石が得られる。
【0009】
本願発明は、Rとして、CeとR1を有し、資源量が豊富なCeを有効活用できる。また、Ceは希土類元素の中でもっとも融点が低く、金属との高い濡れ性を示す。Ceを用いることで、めっき膜との密着強度を高くできる。特に、CeはNiとCeNiを形成するなど、Niとの親和性も高いことから、Niめっき膜との密着性が高い。一方で、異方性磁界が低下してしまうという問題がある。そこで、発明者らはR−T−B系磁石の保磁力には、その結晶粒子表面の異方性磁界が大きく影響することを鑑み、結晶粒子表面、すなわちシェル部のCe濃度をコア部に比して相対的に下げることにより、高い異方性磁界を有し、相対的に高い保磁力が得られることを見出し本発明に至った。
【発明の効果】
【0010】
本願発明は、Ceを添加したR−T−B系磁石において、Ceをコアに、Ce以外のR1をシェル部に重点的に配置することによって、RをCeとしたR−T−B系磁石より相対的に高い保磁力を保つことが可能となる。また、RとしてNd、Pr、Dy、Ho、Tbを用いた従来のR−T−B系磁石よりめっき膜との密着強度を高くできるため、RとしてNd、Pr、Dy、Ho、Tbを用いた従来のR−T−B系磁石よりもめっき膜がはがれにくくできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせても良いし、適宜選択して用いてもよい。
【0012】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、希土類元素(R)を11〜18at%含有する。ここで、本発明におけるRはCeとR1を必須し、R1はCeを含まない希土類元素の少なくとも1種とする。Rの量が11at%未満であると、R−T−B系焼結磁石の主相となるR14B相の生成が十分ではなく軟磁性を持つα−Feなどが析出し、保磁力が著しく低下する。一方、Rが18at%を超えると主相であるR14B相の体積比率が低下し、残留磁束密度が低下する。またRが酸素と反応し、含有する酸素量が増え、これに伴い保磁力発生に有効なRリッチ相が減少し、保磁力の低下を招く。
【0013】
本実施形態において、前記希土類元素(R)は、CeおよびR1を含む。 R1はCeを含まない希土類元素の少なくとも1種である。ここで、R1としては、原料に由来する不純物、又は製造時に混入する不純物としての他の成分を含んでもよい。なお、R1としては、高い異方性磁界を得ることを考慮すると、Nd、Pr、Dy、Ho、Tbであることが好ましく、また、原料価格と耐食性の観点から、Ndが更に好ましい。希土類元素(R)中のR1とCeの含有割合は、50:50〜90:10であることが好ましい。Ceは、希土類元素の中でもっとも融点が低いことから濡れ性が高い。このためCeを添加することでめっきとの密着強度が向上する。しかしながら、Ceの含有量が50%を超えると、残留磁束密度及び保磁力が低下する傾向にある。一方で、Ceの含有量が10%未満となるとめっきとの密着強度の改善効果が薄くなる傾向にある。
【0014】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、ホウ素(B)を5〜8at%含有する。Bが5at%未満の場合には高い保磁力を得ることができない。一方で、Bが8at%を超えると残留磁束密度が低下する傾向がある。したがって、Bの上限を8at%とする。
【0015】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、Coを4.0at%以下含有することができる。CoはFeと同様の相を形成するが、キュリー温度の向上、粒界相の耐食性向上に効果がある。また、本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、Al及びCuの1種又は2種を0.01〜1.2at%の範囲で含有することができる。この範囲でAl及びCuの1種又は2種を含有させることにより、得られる焼結磁石の高保磁力化、高耐食性化、温度特性の改善が可能となる。
【0016】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、他の元素の含有を許容する。例えば、Zr、Ti、Bi、Sn、Ga、Nb、Ta、Si、V、Ag、Ge等の元素を適宜含有させることができる。一方で、酸素、窒素、炭素等の不純物元素を極力低減することが望ましい。特に磁気特性を害する酸素は、その量を5000ppm以下、さらには3000ppm以下とすることが望ましい。酸素量が多いと非磁性成分である希土類酸化物相が増大して、磁気特性を低下させるからである。
【0017】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、コア部と前記コアを被覆するシェル部を含む主相粒子を有する。前記コア部におけるR1とCeの質量濃度をそれぞれαR1、αCe、前記シェル部におけるR1とCeの質量濃度をそれぞれβR1、βCe、としたときに、、前記シェル部におけるR1とCeの質量濃度比率(βR1/βCe=B)と、前記コア部におけるR1とCeの質量濃度比率(αR1/αCe=A)の比(B/A)が1.1以上である。前述の通り、R−T−B系磁石の保磁力には、その結晶粒子表面の異方性磁界が大きく影響する。本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、RとしてCe(セリウム)とR1を含み、かつ結晶粒子表面、すなわちシェル部、のCe濃度を相対的に下げることにより、従来のCe−T−B系磁石に比べ、相対的に高い保磁力が得られる。このような趣旨より、B/Aは好ましくは、1.4以上である。また、R1は好ましくは、Nd、Pr、Dy、Ho、Tbの少なくとも1種である。
【0018】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、焼結磁石本体の表面に保護膜が形成されている。
本実施形態に係る保護膜は特に限定されないが、特に電解めっきによる保護膜を用いるのが好ましい。電解めっきの材質としては、Ni、Ni−P、Cu、Zn、Cr、Sn、Alのいずれかを用いることができるし、他の材質を用いることもできる。特に、CeはNiとCeNiを形成するなど、Niとの親和性が高いことから、めっき膜としてはNiが最も好ましい。また、これらの材質を複層として被覆することもできる。電解めっきによる保護膜は本実施形態に係る典型的な形態であるが、他の手法による保護膜を設けることもできる。他の手法による保護膜としては、無電解めっき、クロメート処理をはじめとする化成処理及び樹脂塗装膜のいずれか又は組み合せが実用的である。保護膜の厚さは、希土類焼結磁石本体のサイズ、要求される耐食性のレベル等によって変動させる必要があるが、1〜100μmの範囲で適宜設定すればよい。望ましい保護膜の厚さは1〜50μmである。
【0019】
以下、本件発明の製造方法の好適な例について説明する。
本実施形態のR−T−B系磁石の製造においては、まず、所望の組成を有するR−T−B系磁石が得られるような原料合金を準備する。原料合金は、真空又は不活性ガス、望ましくはAr雰囲気中でストリップキャスト法、その他公知の溶解法により作製することができる。ストリップキャスト法は、原料金属をArガス雰囲気などの非酸化雰囲気中で溶解して得た溶湯を回転するロールの表面に噴出させる。ロールで急冷された溶湯は、薄板または薄片(鱗片)状に急冷凝固される。この急冷凝固された合金は、結晶粒径が1〜50μmの均質な組織を有している。原料合金は、ストリップキャスト法に限らず、高周波誘導溶解等の溶解法によって得ることができる。なお、溶解後の偏析を防止するため、例えば水冷銅板に傾注して凝固させることができる。また、還元拡散法によって得られた合金を原料合金として用いることもできる。
【0020】
本発明においてR−T−B系焼結磁石を得る場合、原料合金として、1種類の合金から焼結磁石を作成するいわゆるシングル合金法の適用を基本とするが、R14B結晶粒を主体とする合金(低R合金)と、低R合金よりRを多く含む合金(高R合金)とを用いる所謂混合法を適用することもできる。
【0021】
原料合金は粉砕工程に供される。混合法による場合には、低R合金及び高R合金は別々に又は一緒に粉砕される。粉砕工程には、粗粉砕工程と微粉砕工程とがある。まず、原料合金を、粒径数百μm程度になるまで粗粉砕する。粗粉砕は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行なうことが望ましい。粗粉砕に先立って、原料合金に水素を吸蔵させた後に放出させることにより粉砕を行なうことが効果的である。水素放出処理は、希土類焼結磁石として不純物となる水素を減少させることを目的として行われる。水素吸蔵のための加熱保持の温度は、200℃以上、望ましくは350℃以上とする。保持時間は、保持温度との関係、原料合金の厚さ等によって変わるが、少なくとも30分以上、望ましくは1時間以上とする。水素放出処理は、真空中又はArガスフローにて行う。なお、水素吸蔵処理、水素放出処理は必須の処理ではない。この水素粉砕を粗粉砕と位置付けて、機械的な粗粉砕を省略することもできる。
【0022】
粗粉砕工程後、微粉砕工程に移る。微粉砕には主にジェットミルが用いられ、粒径数百μm程度の粗粉砕粉末を、平均粒径2.5〜6μm、望ましくは3〜5μmとする。ジェットミルは、高圧の不活性ガスを狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粗粉砕粉末を加速し、粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
【0023】
微粉砕には湿式粉砕を用いても良い。湿式粉砕にはボールミルや湿式アトライタなどが用いられ、粒径数百μm程度の粗粉砕粉末を、平均粒径1.5〜5μm、望ましくは2〜4.5μmとする。湿式粉砕では適切な分散媒の選択により、磁石粉が酸素に触れることなく粉砕が進行するため、酸素濃度が低い微粉末が得られる。
【0024】
成形時の潤滑及び配向性の向上を目的とした脂肪酸又は脂肪酸の誘導体や炭化水素、例えばステアリン酸系やオレイン酸系であるステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、炭化水素であるパラフィン、ナフタレン等を微粉砕時に0.01〜0.3wt%程度添加することができる。
【0025】
上記微粉は磁場中成形に供される。
【0026】
磁場中成形における成形圧力は0.3〜3ton/cm2(30〜300MPa)の範囲とすればよい。成形圧力は成形開始から終了まで一定であってもよく、漸増または漸減してもよく、あるいは不規則変化してもよい。成形圧力が低いほど配向性は良好となるが、成形圧力が低すぎると成形体の強度が不足してハンドリングに問題が生じるので、この点を考慮して上記範囲から成形圧力を選択する。磁場中成形で得られる成形体の最終的な相対密度は、通常、40〜60%である。
【0027】
印加する磁場は、10〜20kOe(960〜1600kA/m)程度とすればよい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状の磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。
【0028】
次いで、成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。焼結温度は、組成、粉砕方法、平均粒径と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、1000〜1200℃で 8時間〜50時間焼結する。焼結時間が8時間未満であると、シェル部からコア部へのCeの拡散が不十分となり、シェル部とコア部のR1とCeの質量濃度が制御された構造が得られない。また、50時間以上焼成すると、粒成長が著しく進行し、特に保磁力に悪影響を与えるからである。
【0029】
焼結後、得られた焼結体に時効処理を施すことができる。この工程は、保磁力を制御する重要な工程である。時効処理を2段に分けて行なう場合には、800℃近傍、600℃近傍での所定時間の保持が有効である。800℃近傍での熱処理を焼結後に行なうと、保磁力が増大するため、混合法においては特に有効である。また、600℃近傍の熱処理で保磁力が大きく増加するため、時効処理を1段で行なう場合には、600℃近傍の時効処理を施すとよい。
【0030】
以上、本件発明を好適に実施するための形態を説明したが、本発明の構造は、例えば、シェル部のR1比率を増加させることによって得られる。この場合、焼結体表面にR1を含有する粉末を付着、あるいはR1を含有する層を成膜して熱処理する粒界拡散法を用いることもできる。
【0031】
以上の処理を経た焼結体は、所定寸法・形状に切断される。焼結体の表面の加工方法は特に限定されるものではないが、機械加工を行うことができる。機械的な加工としては、例えば砥石を用いた研磨処理等が挙げられる。
【0032】
次に、保護膜を形成する。保護膜の形成は、保護膜の種類に応じて公知の手法に従って行なえばよい。例えば、電解めっきの場合には、脱脂、水洗、エッチング(例えば硝酸)、水洗、電解めっきによる成膜、水洗、乾燥という常法を採用することができる。脱脂処理、酸による化学エッチングを施し、焼結体の表面を清浄化することができる。
Niの電解めっきに用いるめっき浴としては、塩化ニッケルを含有しないワット浴(すなわち、硫酸ニッケルおよびほう酸を主成分とする)、スルファミン酸浴、ほうフッ化浴、臭化ニッケル浴などが挙げられる。ただし、この場合、陽極の溶解が少なくなるため、ニッケルイオンを浴に補充することが好ましい。ニッケルイオンは、硫酸ニッケルあるいは臭化ニッケルの溶液として補充するのが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実験例1)
原料合金の組成は、14.9mol%R−6.43mol%B−0.57mol%Co−0.06mol%Cu−0.44mol%Al―Fe.balとし、Rをmol比でR1:Ce=100:0〜10:90とした。原料となる金属あるいは合金を前記組成となるように配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
【0035】
得られた原料合金薄板を水素粉砕し、粗粉砕粉末を得た。この粗粉砕粉末に、潤滑剤として、オレイン酸アミドを0.1wt%添加した。次いで、気流式粉砕機(ジェットミル)を使用し、高圧窒素ガス雰囲気中で微粉砕を行い、微粉砕粉末を得た。
【0036】
続いて、作製した微粉砕粉末を磁場中成形した。具体的には、15kOeの磁場中で140MPaの圧力で成形を行い、20mm×18mm×13mmの成形体を得た。磁場方向はプレス方向と垂直な方向である。得られた成形体を1030℃で1時間〜48時間焼成した。焼成時間を長くすることにより、Ceの粒界相への拡散をより増やすことができる。その後、800℃で1時間、500℃で1時間の時効処理を行い、焼結体を得た。
【0037】
得られた焼結体の保磁力をBHトレーサーにて測定した。この結果を表1に示す。
【0038】
その後、各焼結体に電解Niめっきを施した。Niめっきの膜厚は10μmである。Niめっき形成後に、Ni膜、つまり保護膜の密着強度を測定した。この結果を表1に示す。なお、密着強度はJIS−H8504に記載された方法に準じて測定した。
【0039】
また、得られた焼結体をエポキシ系樹脂に樹脂埋めし、その断面を研磨した。研磨には市販の研磨紙を使い、番手の低い研磨紙から高い研磨紙へ変えながら研磨した。最後にバフとダイヤモンド砥粒を用いて研磨した。この際、水などをつけずに研磨を行った。水を用いると粒界相成分が腐食してしまう。
【0040】
EPMAを用い、研磨した試料の組成分布を調べた。電子顕微鏡の反射電子像とEPMA像を観察することにより、主相粒子のコア部およびシェル部、3重点部などを特定した。これらの点について少なくとも各30点の定量分析を行い、その平均組成を求め、これを質量濃度とした。コア部におけるR1とCeの質量濃度をそれぞれαR1、αCe、前記結晶粒子シェル部におけるR1とCeの質量濃度をそれぞれβR1、βCeとし、シェル部におけるR1とCeの質量濃度比率であるβR1/βCeをBとし、前記コア部におけるR1とCeの質量濃度比率であるαR1/αCeをAとした。測定したαR1、αCe、βR1、βCe、および計算したA、B、B/Aを表1に示す。
【0041】
焼成時間1時間のものに比べ、より長時間焼成したものは、原料組成のR1:Ce比にかかわらずシェル部のR1比率がコア部のR1比率に比べ高くなった。これは、熱処理が進むことで主相粒子内のCeが粒界相のR1であるNdと相互拡散を起こしたためと考えられる。同じ原料組成である実施例5、比較例2、実施例6、7で比較すると、比較例2の焼成時間1時間ではシェル部のR1比率とコア部のR1比率にほとんど差はなく、焼成時間が長くなるとB/Aがより大きくなった。このことから、熱処理時間を長くすると相互拡散が進行し、B/Aが大きくなるといえる。
【0042】
焼成時間を1時間とした比較例3、比較例4、比較例2で比較すると、Ceの比率が増えると保磁力の低下が見られるが、焼成時間を8時間、48時間とし、コア部とシェル部のCeの割合を適正とした実施例ではほとんど保磁力の低下が見られない。ただしCeが著しく多い組成では、保磁力の低下が顕著である。なお、R1:Ce=100:0、48時間焼成の試料において、より短時間焼成のものよりも保磁力が低下したのは異常粒成長のためと考えられる。このように、粒子表面は原料組成から想定される(R1・Ce)−Fe−Bよりも、よりR1−Fe−Bにより近い組成となった。
【0043】
R1:Ceを50:50とし、R1としてNdを使用した実施例5と、R1としてPr、Dyを添加した実施例9、実施例10を比較すると、A/Bの値に大きな違いは認められない。実施例11の保磁力が高いのは異方性の高いDyを添加したためである。
【0044】
R−T−B系焼結磁石の保磁力発現機構はニュークリエーションタイプと考えられており、粒子表面の組成が保磁力を支配する。このため、原料組成から想定される保磁力よりも、よりR1−Fe−Bに近い、すなわち高い保磁力が得られたと考えられる。
【0045】
表1に示すように、焼成時間に拘らず、Ceの濃度が増すと、めっき膜との密着強度が向上した。これはCeとめっき膜との化学的密着性がNdよりも良好であるためと考えられる。密着強度を増すためにはCeの添加が望ましい。
【表1】