(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかるスイング評価装置およびスイング評価方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態では、打撃具として野球用のバットを用いる場合を例にして説明する。
【0010】
(実施の形態)
図1は、実施の形態にかかるスイング評価装置10の構成を示す説明図である。
スイング評価装置10は、ドップラーセンサ12と、慣性センサ14と、コンピュータ16とによって構成され、打撃具のスイングを評価する。
ドップラーセンサ12は、スイングの目標方向に対する打撃具の速度である目標方向速度を測定する目標方向速度測定手段であり、慣性センサ14は、スイング中の打撃具の速度を継続的に記録した履歴速度を測定する履歴速度測定手段であり、コンピュータ16は、目標方向速度と、履歴速度とに基づいて、スイングを評価する評価手段である。
ここで、スイング評価装置10におけるスイングの評価とは、打撃具がボールを打撃する際の目標方向に対する打撃具の速度である。
打撃具のスイング時の速度は、スイング開始から徐々に高くなり、最高速度を経て徐々に(または打撃者が打撃具の運動を停止することにより急速に)低下する。打撃具によりボールを打ち出す際のエネルギーは打撃具の速度に比例するため、ボール打撃時に最高速度となっているのが望ましい。
また、目標方向にボールを打ち出すには、打撃具の移動方向が目標方向と一致している時に打撃具によってボールを打撃するのが望ましい。
このため、ボールの目標方向に対する速度と、スイング中の最高速度とを比較することにより、測定者Fのスイングを評価することができる。すなわち、目標方向速度の最高値と履歴速度の最高値との差が小さいほど、当該スイングに対する評価を高くすることができる。
【0011】
本実施の形態では、打撃具としてのバット20を用いて、測定者Fがティー26に設置された野球ボールBを打ち出す際に(ティーバッティング)、打ち出し方向(目標方向)Lに対するバット20の速度がスイング中の最高速度となっているかによって、スイングの評価をおこなう。
スイング後は野球ボールBが測定者Fの前方に打ち出されるため、ドップラーセンサ12は測定者Fの後方に設置される。
なお、ティーバッティングではなく素振りで測定をおこなう場合は、ドップラーセンサ12は測定者Fの前方に設置する。
慣性センサ14はバット20に取り付けられる。
コンピュータ16は、ドップラーセンサ12および慣性センサ14と通信可能な位置に設置される。
【0012】
つぎに、ドップラーセンサ12について説明する。
図2は、ドップラーセンサ12の外観を示す斜視図である。
図2に示すように、ドップラーセンサ12は、筐体120と、アンテナ122と、アンテナ支持部124と、表示部128と、入力部130とを含んで構成されている。
筐体120は、上下方向の厚さと、厚さよりも大きな寸法の左右方向の幅と、幅よりも大きな寸法の前後方向の長さを有し、矩形板状を呈している。
筐体120の上面1204は、長手方向を筐体120の前後方向に平行させたほぼ長方形を呈している。
また、上面1204に対向する下面1206にはドップラーセンサ12を三脚などの固定具に取り付けるための不図示の雌ねじ(カメラネジ)が設けられている。
【0013】
アンテナ122は、アンテナ支持部124を介して筐体120の上面1204に連結されている。
アンテナ122は、指向性を有し、後述する信号処理部126(
図3参照)から供給される送信信号に基づいて移動体に向けて送信波を送信するとともに、移動体で反射された反射波を受信して受信信号を生成し信号処理部126に供給するものである。
本明細書においては、アンテナ122の利得が最大となる方向に沿って延在する仮想線をアンテナの指向方向を示す仮想軸とし、この仮想軸を目標方向Lに一致させる。
本実施の形態では、アンテナ122は、矩形板状のパッチアンテナで構成され、厚さ方向の一方の面が送信波を送信しかつ反射波を受信する表面であり、表面の反対側が裏面となっている。
また、アンテナ122としてパッチアンテナを用いたので、ドップラーセンサ12の小型化を図る上で有利となる。しかしながら、アンテナ122としてホーンアンテナなど従来公知の様々なアンテナが使用可能である。
なお、アンテナ122の指向角が狭すぎると、移動体の測定範囲が限定される不利があり、アンテナ122の指向角が広すぎると、測定対象となる移動体以外の物体からの不要な反射波を受信することになり測定精度を確保する上で不利となる。
そのため、アンテナ122の指向角は、5度〜90度とすることが移動体の測定範囲を確保しつつ測定対象外の物体からの不要な反射波の受信を抑制する上で有利である。
【0014】
アンテナ支持部124はアンテナ122を支持する。
アンテナ支持部124の収容空間には、後述する信号処理部126が収容されている。なお、信号処理部126は、筐体120に収容されていてもよい。
表示部128は、矩形状の平坦な表示面を上方に向けて筐体120の前面1202に設けられ、前面1202の大半は表示部128で占有されている。
表示部128は、計測結果である移動体の移動速度および回転数を含む様々な表示内容を数字、記号、アイコンなどの形態で表示面に表示させる。このような表示部128として液晶パネルなどのフラットパネルディスプレイを用いることができる。
入力部130は、モード選択ボタン、電源ボタンを含む複数の操作ボタンを含んで構成されている。なお、上述した表示部128をタッチパネル式ディスプレイにして、入力部130を表示部128で兼ねるようにしてもよい。
電源ボタンは、ドップラーセンサ12の電源のオン、オフをおこなうためのものである。
また、ドップラーセンサ12は、図示しない電力蓄電用のバッテリーを備え、バッテリーに蓄電された電力を用いて駆動する。これにより、ドップラーセンサ12を使用者の近傍に設置可能となり、かつ投球等の邪魔になりにくくすることができる。
【0015】
つぎに
図3を参照してドップラーセンサ12の制御系の構成について説明する。
図3は、ドップラーセンサ12の構成を示すブロック図である。
ドップラーセンサ12は、前記のアンテナ122、表示部128、入力部130に加えて、信号処理部126、演算部132、無線通信部134などを含んで構成されている。
【0016】
信号処理部126は、アンテナ122と不図示のケーブルによって接続され、該ケーブルを介してアンテナ122に送信信号を供給するものである。また、信号処理部126は、アンテナ122のそれぞれから供給される受信信号に基づいてドップラー周波数Fdを有するドップラー信号Sdを時系列データとして生成するものである。
ドップラー信号Sdとは、前記送信信号の周波数F1と前記受信信号の周波数F2との差分の周波数F1−F2で定義されるドップラー周波数Fdを有する信号である。
信号処理部126は、市販されている種々のものが使用可能である。
なお、前記の送信信号としては、例えば、24GHz帯あるいは10GHz帯のマイクロ波が使用可能であり、ドップラー信号Sdを得られるものであれば送信信号の周波数は限定されない。
また、送信波の出力はたとえば10mW以下とする。これは、ドップラーセンサ12をバッテリー駆動とした場合、使用可能時間を長くするため、消費電力はなるべく低く抑えることが望ましいためである。ドップラーセンサ12において、アンテナ122からの送信波の送信に消費される電力は極めて大きい。このように、送信波の出力をたとえば10mW以下とすることによって、消費電力を低減し、バッテリーで駆動するドップラーセンサ12の使用可能時間を長くすることができる。
【0017】
演算部132は、信号処理部126から供給されるドップラー信号Sdを入力して演算処理を行うことにより、野球バット20の移動速度を算出するものである。
本実施の形態では、演算部132は、マイクロコンピュータによって構成されている。
演算部132は、CPU132Aと、不図示のインターフェース回路およびバスラインを介して接続されたROM132B、RAM132C、インターフェース132D、表示用ドライバ132Eなどを含んで構成されている。
ROM132BはCPU132Aが実行する制御プログラムなどを格納し、RAM132Cはワーキングエリアを提供するものである。
インターフェース132Dは、ドップラー信号Sdを入力してCPU132Aに供給し、また、入力部130からの操作信号を受け付けてCPU132Aに供給するものである。
表示用ドライバ132EはCPU132Aの制御に基づいて表示部128を駆動するものである。
【0018】
演算部132では、以下のような計測原理で、目標方向L方向(アンテナ122の指向方向)に対する打撃具の速度を算出する。
従来から知られているように、ドップラー周波数Fdは式(1)で表される。
Fd=F1−F2=2・V・F1/c (1)
ただし、V:打撃具(野球バット20)の速度、c:光速(3・108m/s)
したがって、式(1)をVについて解くと、(2)式となる。
V=c・Fd/(2・F1) (2)
すなわち、野球バット20の速度Vは、ドップラー周波数Fdに比例することになる。
したがって、ドップラー信号Sdからドップラー周波数Fdの周波数成分を検出し、検出したドップラー周波数成分から式(2)に基づいて目標方向L方向に対する野球バット20の速度V、すなわち請求項における目標方向速度を求めることができる。
【0019】
無線通信部134は、コンピュータ16との間で無線通信を用いてデータ(野球バット20の速度データ等)の授受を行うものである。
なお、演算部132における処理を、コンピュータ16によって実行するようにしてもよい。
この場合、信号処理部126で生成された時系列のドップラー信号Sdを、無線通信部134を介してコンピュータ16に送信して、コンピュータ16において上記目標方向速度の演算処理をおこなう。
また、本実施の形態では、ドップラーセンサ12とコンピュータ16との間の通信を無線通信を用いて行っているが、USBなどを用いた有線による通信を利用しても良い。
【0020】
つぎに、慣性センサ14について説明する。
図4は、慣性センサ14の外観を示す図である。
図4Aは慣性センサ14の外観斜視図、
図4Bは慣性センサ14の野球バット20への取り付け状態を示す図である。
慣性センサ14は、無線通信機能を有する小型のセンサユニットである。慣性センサ14のサンプリング周波数は、たとえば500Hz〜1000Hzであり、既存の磁気センサのサンプリング周波数(たとえば240Hz)と比較して数倍の時間分解能を有する。また、既存の磁気センサは有線方式であるのに対して、慣性センサ14は無線方式で測定結果をコンピュータ16に送信することができる。
慣性センサ14は、筐体142、表示部144、入力部146を備える。
図4Aに示すように、慣性センサ14の筐体142は、前面1421、後面1422、上面1423、下面1424、右側面1425、左側面1426を備え、前後方向の厚さと、厚さよりも大きな寸法の左右方向の幅と、幅よりも大きな寸法の上下方向の長さを有し、矩形板状を呈している。
筐体142の前面1421は、長手方向を筐体142の上下方向に平行させたほぼ長方形を呈している。
前面1421には、表示部144および入力部146が設けられている。
表示部144は、液晶モニタ等であり、慣性センサ14による測定状況(「測定中」等の表示)や測定結果などが表示される。なお、表示部144を省略しても良く、測定中などの表示をLEDの点灯などによっておこなってもよい。
入力部146は、慣性センサ14による測定の開始や終了を指示する指示入力が入力される。なお、入力部146は省略しても良く、測定の開始や終了の指示入力は外部から(たとえば、コンピュータ16から無線通信を用いて)与えても良い。
また、前面1421に対向する後面1422には筐体142を野球バット20に取り付けるための固定部(図示なし)が設けられている。
【0021】
慣性センサ14は、3次元直交座標における測定点の加速度および角速度をリアルタイムで測定する。
本実施の形態では、筐体142の中心点を測定点Oとし、測定点Oを原点とする慣性センサ14の測定用3次元直交座標が設定されており、この3次元直交座標を基準として加速度および角加速度を測定する。具体的には、測定点Oから筐体142の下面1424方向に第1軸X1、右側面1425方向に第2軸X2、後面1422方向に第3軸X3が、それぞれ設定されている。
【0022】
慣性センサ14の野球バット20への取り付け位置は任意であるが、たとえば
図4Bに示すように、グリップ22の上端部に取り付ける。これにより、慣性センサ14に野球ボールBおよび測定者Fの手が当たるのを防止することができる。
なお、スイング時における野球バット20の運動は、測定者Fのグリップ位置を支点とする回転運動とみなせる。このとき、野球バット20の各点における角速度は一定であるが、移動方向への速度については支点からの距離によって異なる。すなわち、グリップ位置から最も遠いバット先端部24が最速位置となる。
このため、後述する履歴速度は、スイング中におけるバット先端部24の移動速度として算出する。
【0023】
図5は、慣性センサ14の構成を示すブロック図である。
慣性センサ14は、前記の表示部144、入力部146に加えて、3軸加速度センサ148および3軸ジャイロセンサ150、演算部152、無線通信部154などを含んで構成されている。
3軸加速度センサ148は、測定点Oにおける3次元直交座標の各軸(上記X1,X2,X3)方向の加速度を測定する。
3軸ジャイロセンサ150は、測定点Oにおける3次元直交座標の各軸(上記X1,X2,X3)方向の角加速度を測定する。
なお、慣性センサ14は、3次元方向における加速度、角速度、角加速度のうち少なくとも1つを測定できればよい。
演算部152は、慣性センサ14の起動や測定データへのタイムスタンプの付与、測定データの送信の制御等をおこなう。
演算部152はマイクロコンピュータで構成され、具体的な構成はドップラーセンサ12と同様であるので、説明を省略する。
無線通信部154は、3軸加速度センサ148および3軸ジャイロセンサ150の測定データをコンピュータ16に送信する。
【0024】
つぎに、コンピュータ16の構成について説明する。
図6は、コンピュータ16の構成を示すブロック図である。
コンピュータ16は、CPU1602と、不図示のインターフェース回路およびバスラインを介して接続されたROM1604、RAM1606、ハードディスク装置1608、ディスク装置1610、キーボード1612、マウス1616、ディスプレイ1616、プリンタ1618、入出力インターフェース1620、無線通信部1622などを有している。
ROM1604は制御プログラムなどを格納し、RAM1606はワーキングエリアを提供するものである。
【0025】
ハードディスク装置1608は、慣性センサ14から受信した測定データ(3次元加速度データ、3次元角加速度データ)を用いて、スイング中の各時刻における野球バット20の速度である履歴速度を算出する履歴速度算出プログラムを格納している。
また、ハードディスク装置1608は、ドップラーセンサ12から送信された目標方向速度と、上記履歴速度算出プログラムによって算出された履歴速度とに基づいて、スイングを評価するスイング評価プログラムを格納している。
なお、本実施の形態では、履歴速度算出プログラムは、スイング評価プログラムの1モジュールとする。
また、ハードディスク装置1608は、仮想空間上に野球バット20を再現した3次元形状モデルを記憶している。3次元形状モデルを用いて履歴速度算出プログラムを実行する。
各プログラムの詳細については、後述する。
【0026】
ディスク装置1610はCDやDVDなどの記録媒体に対してデータの記録および/または再生を行うものである。
キーボード1612およびマウス1616は、操作者による操作入力を受け付けるものである。
ディスプレイ1616はたとえば上記評価指標等のデータを表示出力するものであり、プリンタ1618はデータを印刷出力するものであり、ディスプレイ1616およびプリンタ1618によってデータを出力する。
入出力インターフェース1620は、外部機器との間でデータの授受を行うものである。
無線通信部1622は、ドップラーセンサ12および慣性センサ14との間で無線通信を用いてデータ(測定データ等)の授受を行うものである。
【0027】
つぎに、
図7のフローチャートを参照して本実施の形態のスイング評価方法について説明する。
図7は、本実施の形態のスイング評価方法の手順を示すフローチャートである。
まず、測定者Fは野球バット20に慣性センサ14を取り付ける(ステップS10)。
つぎに、測定者Fが慣性センサ14の取り付け位置情報をコンピュータ16に入力する(ステップS12)。取り付け位置情報とは、たとえば取り付け後の慣性センサ14の基準点(たとえば筐体142の上下左右方向の中心点)と野球バット20のグリップ22の端部(グリップ端)との距離等である。
つぎに、測定者Fは、ドップラーセンサ12および慣性センサ14の測定を開始させる(ステップS14)。具体的には、ドップラーセンサ12および慣性センサ14の入力部に対して、測定を開始するよう操作入力する。なお、ドップラーセンサ12との距離が離れている場合などは、本フローチャートの処理に先立ってドップラーセンサ12による測定を開始しておいてもよい。
つづいて、測定者Fは野球バット20をスイングし、ドップラーセンサ12は野球バット20の目標方向L方向に対する速度(目標方向速度)を、慣性センサ14は野球バット20の加速度および角速度を、それぞれ測定する(ステップS16:目標方向速度測定工程、履歴速度測定工程)。また、ドップラーセンサ12および慣性センサ14は、それぞれ測定した目標方向速度および加速度を無線通信を用いてコンピュータ16に送信する。なお、測定データの送信は、測定中逐次おこなわれる。
コンピュータ16は、ドップラーセンサ12および慣性センサ14から目標方向速度および加速度を受信すると、目標方向速度をRAM1606等に格納するとともに、履歴速度算出プログラムによって、受信した加速度を用いてスイング中の各時刻における野球バット20の速度である履歴速度を算出する(ステップS18)。
【0028】
ここで、履歴速度の算出方法について説明する。
上述のように、慣性センサ14は、野球バット20に取り付けられるが、野球バット20の形状は既知かつほぼ一定である(打撃時におけるしなり等は無視できる)ため、慣性センサ14の測定点を固定すれば、野球バット20の任意の点と測定点との相対位置を特定することができる。履歴速度算出プログラムは、慣性センサ14の測定結果に基づいて、各時刻における野球バット20の各点の位置を算出し、スイング中の野球バット20の挙動をRAM1406上の仮想空間上に再現する。すなわち、加速度の時系列データに基づいて3次元形状モデルを仮想空間上で動かすことにより、挙動データを生成する。そして、スイング時に最速位置となるバット先端部24の速度の履歴を履歴速度として算出する。
【0029】
そして、コンピュータ16は、スイング評価プログラムによって、ドップラーセンサ12から受信した目標方向速度と、慣性センサ14から受信した加速度に基づいて算出した履歴速度とに基づいて、測定者Fのスイングを評価し(ステップS22:評価工程)、評価結果をディスプレイ1616等に出力する(ステップS24)。
スイング評価プログラムでは、目標方向速度および履歴速度の最高速度をそれぞれ抽出し、これらの値をスイング評価マップ上でプロットしてスイングの評価をおこなう。
図8は、スイング評価マップの一例である。
図8のグラフにおいて、縦軸は目標方向速度の最高速度、横軸は履歴速度の最高速度である。
図8の各プロットは、複数のスイングで測定された最高速度に基づいてプロットしたものである。線分P上のプロットは、目標方向速度の最高値と履歴速度の最高値とが等しくなっており、最も評価が高い。
図8では、目標方向速度の最高値と履歴速度の最高値との差が2%以内のスイングをOKスイングと評価している。また、上記差が2%を上回るスイングをNGスイングとしている。
なお、理論上、目標方向速度の最高値が履歴速度の最高値を上回ることはないが、測定誤差を考慮して線分Lよりも上にもOKスイングと評価する領域を設けている。また、目標方向速度の最高値が履歴速度の最高値を所定値以上上回る場合は、測定誤差が大きく評価不能としている。
図8では、評価をOKとNGの2種類としているが、線分Lからの距離により、さらに細分化した評価結果を表示してもよい。
【0030】
図9は、目標方向速度の最高値の抽出方法を模式的に示す図である。
図9において、縦軸は速度、横軸は時間である。
また、
図9Aは
図1に示すようなティーバッティングによる測定時の目標方向速度であり、
図9Bは素振りによる測定時の目標方向速度である。
図9に示すように、ドップラーセンサ12で得られる目標方向速度は、スイング開始時刻から徐々に上昇し、野球バット20の移動方向が目標方向Lと一致した時に最大値Mxをとり、その後徐々に下降する。
これは、ドップラーセンサ12によって得られる目標方向速度は、目標方向Lと一致する方向の速度成分であり、野球バット20の移動軌跡が目標方向Lに対して外れるほど測定速度の誤差が増大するためである。より詳細には、目標方向Lに対して角度θをもって移動する移動体の移動速度は、実際の移動速度よりもcosθ遅く計測される。
このため、スイング評価プログラムでは、
図9に示す最大値Mxを目標方向速度として抽出する。
なお、
図9Aに示すティーバッティングでは、ドップラーセンサ12によって野球ボールBの移動方向成分SBも測定されている。野球ボールBの移動方向成分SBは、野球バット20の速度成分SAよりも高速であり、単に計測時間内の最大値を抽出すると野球バット20ではなく野球ボールBの速度を抽出する可能性がある。
このため、スイング評価プログラムでは、ティーバッティング時には野球バット20の速度成分SCのみを抽出し、この速度成分SCから最大値Mxを抽出する。より詳細には、野球バット20の速度成分SCは、野球ボールBの打ち出し(移動開始)と同時に急激に低下(減速)することから、この減速直前の速度を最大値Mxとして抽出する。
【0031】
図10および
図11は、スイング中における野球バット20の挙動を示す図である。
図10Aおよび
図11Aは野球バット20を正面(目標方向L)から見た図、
図10Bおよび
図11Bは野球バット20を真上から見た図、
図10Cおよび
図11Cは野球バット20を後面から見た図である。
図10および
図11において、符号S1はスイング開始位置、符号S2はスイング速度が最速となる最速ポイントである。
図10では最速ポイントS2が目標方向Lとほぼ一致している。すなわち、
図8のスイング評価マップでOKスイングと評価されるスイングである。
一方、
図11は、最速ポイントS2が目標方向Lとずれている。
図11Cでは最速ポイントS2以降の軌跡が上方に向かっており、アッパースイング気味であることがわかる。このようなスイングは、目標方向速度の最高値が履歴速度の最高値を大きく下回り、
図8のスイング評価マップでNGスイングと評価される。
【0032】
以上説明したように、実施の形態にかかるスイング評価装置10は、スイングの目標方向Lに対する野球バット20の速度である目標方向速度と、スイング中の野球バット20の速度を継続的に記録した履歴速度とを用いてスイングを評価する。これにより、スイングの目標方向と野球バット20の速度との関係を客観的に評価することができ、選手の技量の向上やトレーニング品質の向上を図ることができる。
また、スイング評価装置10は、目標方向速度の最高値と履歴速度の最高値との差が小さいほどスイングに対する評価を高くする。すなわち、野球バット20の移動方向が目標方向Lに向いている時に最高速度となるスイングの評価が高くなり、この評価に基づいてトレーニング等をおこなうことにより、目標方向Lに対するボールの飛距離や速度の向上を図ることができる。
また、スイング評価装置10は、比較的小型な測定機器が普及しているドップラーセンサおよび慣性センサを用いて目標方向速度や履歴速度を測定することができ、スイング評価装置10の機器構成を簡素化することができる。
【0033】
なお、本実施の形態では、スイングの評価をおこなう装置としてコンピュータ16を用いるが、たとえばスマートホンやタブレット等の小型情報処理装置によってスイングの評価をおこなってもよい。
また、たとえばドップラーセンサ12や慣性センサ14にスイングを評価する機能を搭載してもよい。この場合、スイング評価結果をドップラーセンサ12や慣性センサ14の表示部に表示してもよいし、他の情報処理装置に送信して表示等の出力をおこなってもよい。
さらに、ドップラーセンサ12で測定された目標方向速度と、慣性センサ14の測定値に基づいてコンピュータ16で算出した履歴速度とを、測定者F自身または第3者が確認し、スイングの評価をおこなってもよい。
【0034】
また、本実施の形態では、目標方向速度測定手段としてドップラーセンサ12を用いたが、これに代えて、目標方向Lを測定方向とする光センサを用いてもよい。この場合、レーザや光電管を用いて目標方向Lに測定用の光を照射し、この光を打撃具が横切った際の速度を測定する。光センサを用いることによって、打撃具の動きを直接的に測定することができ、精度よく目標方向速度を測定することができる。
また、本実施の形態では、履歴速度測定手段として慣性センサ14を用いたが、これに代えて磁気センサを用いてもよい。従来より広く用いられている磁気センサを用いて目標方向速度を測定することができる。
【0035】
また、本実施の形態では、打撃具として野球バット20を用いる例を説明したが、本発明はゴルフクラブやテニスラケット、ホッケーのスティックなど、軸形状を有する様々な打撃具に適用可能である。