特許第6361159号(P6361159)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361159
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】二軸配向ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20180712BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20180712BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   C08J5/18CFD
   B32B27/36
   B29C55/12
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-29153(P2014-29153)
(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公開番号】特開2015-151529(P2015-151529A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荘司 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 功
(72)【発明者】
【氏名】高田 育
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/208519(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/005097(WO,A1)
【文献】 特開2009−235231(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099608(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/117842(WO,A1)
【文献】 特開平10−128935(JP,A)
【文献】 特開2001−328159(JP,A)
【文献】 特開2011−073151(JP,A)
【文献】 特開2009−154296(JP,A)
【文献】 特開平11−217448(JP,A)
【文献】 特開2013−063650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02、5/12−5/22
B29C 55/00−55/30、61/00−61/10
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリエステルA層とポリエステルB層を有する積層ポリエステルフィルムであって、ポリエステルA層が少なくとも一方の最外層に位置し、前記A層およびB層を構成するポリエステルがともにグリコール成分としてエチレングリコール成分を60モル%以上含有および/またはジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分を60モル%以上含有し、かつポリエステルB層の融点がポリエステルA層の融点よりも低く、フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、以下の特性を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。
I.25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4200MPa以下
II.引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上7.0N/mm未満
III.150℃における100%延伸時の応力の平均値が30MPa〜130MPa
【請求項2】
フィルムを150℃で任意の一方向(X方向)に100%延伸した後の、X方向と、X方向と直交する方向(Y方向)の引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上である請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステルA層とポリエステルA層より融点の低いポリエステルB層とを有する積層ポリエステルフィルムであって、ポリエステルA層が、少なくとも一方の最外層に位置する請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
フィルム両面における、式(1)で表されるフィルム面内の複屈折値Δnが35以下である請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
フィルム面内の最大屈折率をnα、それに直交する方向の屈折率をnβとした場合に、
Δn=|nα−nβ|・・・(1)
【請求項5】
フィルムの厚みムラが10%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
融解二次ピーク(Tmeta)が210℃以上235℃以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
フィルム両面における面配向係数のうち、高い方の面における面配向係数が0.12以上0.17以下である請求項1〜6のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】
成型加工用途に使用される請求項1〜7のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項9】
光学用途に使用される請求項1〜8のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸配向ポリエステルフィルムに関するものであり、成型加工用途、光学用途に、特に適して用いられる二軸配向ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりにより、建材、自動車部品や携帯電話、電機製品などで、溶剤レス塗装、メッキ代替などの要望が高まり、フィルムを使用した加飾方法の導入が進んでいる。
【0003】
かかる加飾方法に使用される成型用ポリエステルフィルムとして、いくつかの提案がされている。例えば、低温においても低成型応力、低貯蔵弾性率を示し、高易成型性を満たす成型用ポリエステルフィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、低温においては高貯蔵弾性率、高温で低成型応力を示す、耐熱性と成型性を両立したポリエステルフィルムも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、スマートフォン、タブレット端末といったスマートデバイスの拡大に伴い、液晶ディスプレイ薄膜化の要望が高まっており、偏光板・位相差層においても高精細化、薄膜化が進んでいる。このため、位相差層の高精細化、薄膜化を達成するために、工程フィルムに位相差層を塗布し、工程フィルムごと成型することで、位相差層の高精細化、薄膜化を達成させるプロセス開発が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-28816
【特許文献2】国際公開第2012−005097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載のフィルムを成型転写用途に用いた場合、成型性には優れる一方、成型予熱時に非晶層の熱結晶化が進行するため、成型後の剥離工程においてフィルム破れが発生しやすく取り扱い性が低下する問題があった。そのため、該フィルムを位相差層の製造工程フィルムとして用いた場合、成型は可能であるが剥離性の悪化による歩留まり低下が問題となり、実プロセスへの展開は困難である。
【0007】
他方、通常のポリエステルフィルムでは成型自体が困難であり、深い形状への加飾成型や、工程フィルムごと成型する偏光板・位相差向けには使用することが難しい。
【0008】
本発明の課題は上記した従来技術の問題点を解消することにある。すなわち、成型性、成型後の耐剥離破れ性に優れており、成型加工用、光学用へ好適に使用することのできる二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するための本発明の要旨とするところは、
フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、以下の特性を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。
I.25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4200MPa以下
II.引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上7.0N/mm未満
III.150℃における100%延伸時の応力の平均値が30MPa〜130MPa
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、150℃における成型応力が低いため、易成型性が良好であり、また、ヤング率、および成型前後の引き裂き伝播抵抗が高いため、剥離工程における取り扱い性に優れることから、建材、モバイル機器、電機製品、自動車部品、遊技機部品などの成型加飾用途、偏光板等の光学用フィルム等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとは、主鎖における主要な結合をエステル結合とする高分子化合物の総称である。そして、ポリエステル樹脂は、通常ジカルボン酸あるいはその誘導体とグリコールあるいはその誘導体を重縮合反応させることによって得ることができる。
【0012】
本発明では、成型性、外観、耐熱性、寸法安定性、経済性の点から、ポリエステルを構成するグリコール単位の60モル%以上がエチレングリコール由来の構造単位であり、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸由来の構造単位であることが好ましい。なお、ここで、ジカルボン酸単位(構造単位)あるいはジオール単位(構造単位)とは、重縮合によって除去される部分が除かれた2価の有機基を意味し、要すれば、以下の一般式で表される。
【0013】
ジカルボン酸単位(構造単位): −CO−R−CO−
ジオール単位(構造単位): −O−R’―O−
(ここで、R、R’は二価の有機基)
なお、トリメリット酸単位やグリセリン単位など3価以上のカルボン酸あるいはアルコール並びにそれらの誘導体が含まれる場合は、3価以上のカルボン酸あるいはアルコール単位(構造単位)についても、同様に、重縮合によって除去される部分が除かれた3価以上の有機基を意味する。
【0014】
本発明に用いるポリエステルを与える、グリコールあるいはその誘導体としては、エチレングリコール以外に、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、並びに、それらの誘導体が挙げられる。中でも、成型性、取り扱い性の点で、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく用いられる。
【0015】
また、本発明に用いるポリエステルを与えるジカルボン酸あるいはその誘導体としては、テレフタル酸以外には、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、並びに、それらの誘導体を挙げることができる。ジカルボン酸の誘導体としてはたとえばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸2−ヒドロキシエチルメチルエステル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、ダイマー酸ジメチルなどのエステル化物を挙げることができる。中でも、成型性、取り扱い性の点で、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、および、それらのエステル化物が好ましく用いられる。
【0016】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、複雑な形状への賦形性、工程フィルムごと成型する際の易成型性を満たすため、150℃におけるフィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、100%延伸時の応力の平均値が30MPa以上130MPa以下である必要がある。
【0017】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、150℃におけるフィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、100%延伸時の応力の平均値を上記の範囲とする方法としては、特に限定されないが、例えば本発明のポリエステルフィルムを構成するグリコール成分として、エチレングリコール成分を60モル%以上含有し、ジエチレングリコール成分、1,3−プロパンジオール成分、1,4−ブタンジオール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上のグリコール成分を含むことが好ましい。なかでも、ジエチレングリコール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上含まれることが好ましい。また、本発明のポリエステルフィルムを構成するジカルボン酸成分として、テレフタル酸成分を60モル%以上含有し、イソフタル酸成分、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の少なくとも1種類以上のジカルボン酸成分を含むことが好ましい。成型性、成型後の耐破れ性の観点から、150℃における100%延伸時の応力の平均値は、50MPa以上90MPa以下であればさらに好ましく、60MPa以上80MPa以下であれば最も好ましい。
【0018】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、150℃における100%延伸時の応力を上記の範囲とする特に好ましい構成として、グリコール成分として、エチレングリコール成分を85モル%以上97モル%未満含有し、ジエチレングリコール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上を3モル%以上15モル%未満含有し、ジカルボン酸成分として、85モル%以上がテレフタル酸成分であることが好ましい。さらに好ましくは、グリコール成分として、エチレングリコール成分を90モル%以上95モル%未満含有し、ジエチレングリコール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上を5モル%以上10モル%未満含有し、ジカルボン酸成分として、90モル%以上がテレフタル酸成分、さらに好ましくは、ジカルボン酸成分の95モル%以上がテレフタル酸成分であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、150℃における100%延伸時の応力を上記の範囲とするために、上記組成とし、さらに、フィルム両面の面配向係数のうち、高い方の面配向係数が0.12以上0.17以下であることが好ましい。
【0020】
フィルム両面の面配向係数のうち、高い方の面配向係数が0.12以上0.17以下とする方法は特に限定されないが、例えば、上記組成とし、面倍率9.8倍以上13.5倍以下に延伸する方法が挙げられる。また、延伸温度としては、70℃以上150℃以下であることが好ましく、さらに二軸延伸後の熱処理温度は、最も高温となる温度で200℃以上240℃以下とすることが好ましい。処理温度を高温とすることで、配向緩和がおこり、面配向係数は低下する傾向になるが、寸法安定性、フィルムの品位の観点から二軸延伸後の熱処理温度は200℃〜240℃であれば好ましく、210℃〜235℃であればさらに好ましく、215℃〜230℃であれば最も好ましい。なお、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの熱処理温度は、示差走査型熱量計(DSC)において窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度で測定したときのDSC曲線に熱履歴に起因する融解二次ピーク(Tmeta)より求めることができる。熱処理工程における熱効率の関係から、Tmetaが熱処理温度よりも低下する場合があるため、Tmetaは210℃〜235℃であると好ましく、220℃〜230℃であると最も好ましい。
【0021】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、引き裂き伝播抵抗の平均値がフィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、4.5N/mm以上7.0N/mm未満である必要がある。引き裂き伝播抵抗の平均値が4.5N/mm未満では、成型時の配向増加により剥離時に破れが発生しやすくなる。また、7.0N/mm以上の場合には、成型倍率、成型温度が高い場合に剥離破れが顕著に増加するため好ましくない。ポリエステルフィルムの引き裂き伝播抵抗は、フィルム中の非晶配向度が低くなるのに従いその値が大きくなる傾向があり、引き裂き伝播抵抗が7.0N/mm以上の場合には、高成型倍率、高成型温度における、折りたたみ結晶の増加に伴うフィルムの極端な脆化により、成型後の剥離破れが増加すると考えられる。このようなポリエステルフィルムの構造と加熱成型工程における構造変化の関係から、引き裂き伝播抵抗の有効な範囲が上記のように限定される。
【0022】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4200MPa以下である必要がある。好ましくは、3300MPa以上4100MPa以下であり、3500MPa以上4000MPa以下であると最も好ましい。加熱成型後の耐破れ性は、フィルム単体の引き裂き伝播抵抗だけでなくフィルムの剛性とも相関があり、本発明者らは、特にフィルムの引き裂き伝播抵抗の平均値とヤング率がともに上記範囲の場合となる場合に、成型後の耐破れ性が特異的に向上することを見出した。引き裂き伝播抵抗の平均値とヤング率をともに上記の範囲とする方法としては、
・フィルムをポリエステルA層とポリエステルA層より融点の低いポリエステルB層とを有し、ポリエステルA層が少なくとも一方の最外層に位置する積層構成とする方法(なお、本発明において、ポリエステルA層と、ポリエステルB層とを有する積層フィルムの場合、融点の高い方の層をポリエステルA層とする。)、
・幅方向延伸後の熱処理工程において、2%以上10%以下の微延伸を行う方法、
を併用することが挙げられる。
【0023】
融点の高いA層と融点がA層より低いB層とを有することにより、A層が剛直な層として、25℃におけるヤング率の平均値を3000MPa以上4200MPa以下に保ち、一方、B層が運動性の高い層として、150℃における100%延伸時応力の平均値を50MPa〜130MPaとすることが容易にでき、易成形性を達成する役割を果たす。加えて、A層の高結晶構造とB層の緩和した非晶構造、および積層界面における引き裂き時の界面破壊エネルギーの増加により引き裂き伝播抵抗が高まり、単膜構成では困難であった特性の両立が可能となる。なお、フィルムのカール抑制の観点から、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルA層とポリエステルB層とを有する積層ポリエステルフィルムの場合、A層/B層/A層の3層構成であることが好ましい。
【0024】
また、幅方向延伸後の熱処理工程において、2%以上10%以下の微延伸を行うことにより、熱処理による非晶相の折りたたみ結晶成長が抑制され、フィルムの耐引き裂き性が向上する。特に、共重合成分添加時には、配向が低下することで自由体積が増加し、折りたたみ結晶の成長速度が上昇するためフィルムの脆化が著しい。そのため、単に積層構成にしただけでは、脆化による耐引き裂き性の低下を抑制することは困難であるが、熱処理工程における微延伸を行うことにより、耐引き裂き性を実用に耐えうる水準へと引き上げることが可能となる。熱処理工程における微延伸倍率は、好ましくは4%以上8%以下であり、5%以上7%以下であると最も好ましい。また、熱処理温度については特に限定されないが、ボーイングによる幅方向での物性ムラ抑制と配向緩和を両立する観点から、210℃以上230℃以下であると好ましい。ここで好ましい熱処理温度とは、二軸延伸後に行う熱処理温度の中で、最も高温となる温度を示す。
【0025】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルA層とポリエステルB層とを有する積層フィルムの場合、150℃におけるフィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、100%延伸時の応力の平均値が30MPa以上130MPa以下、引き裂き伝播抵抗の平均値がフィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)において、4.5N/mm以上7.0N/mm未満、25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4200MPa以下、150℃における100%延伸時の応力の平均値が30MPa〜130MPaといった物性を同時に満足するためのポリエステルA層、ポリエステルB層の好ましい態様としては、下記のような構成が挙げられる。
【0026】
ポリエステルA層のグリコール成分として、エチレングリコール成分を90モル%以上99モル%未満含有し、ジエチレングリコール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコールの少なくとも1種類以上が1モル%以上10モル%未満含有し、ジカルボン酸成分として、90モル%以上がテレフタル酸成分であることが好ましい。さらに好ましくは、グリコール成分として、エチレングリコール成分を95モル%以上99モル%未満含有し、ジエチレングリコール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上が1モル%以上5モル%未満含有し、ジカルボン酸成分として、95モル%以上がテレフタル酸成分、さらに好ましくは、上記グリコール成分に、ジカルボン酸成分の98モル%以上がテレフタル酸成分であることが好ましい。
【0027】
ポリエステルB層のグリコール成分として、エチレングリコール成分を80モル%以上95モル%未満含有し、ジエチレングリコール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上が5モル%以上20モル%未満含有し、ジカルボン酸成分として、90モル%以上がテレフタル酸成分であることが好ましい。さらに好ましくは、グリコール成分として、エチレングリコール成分を85モル%以上95モル%未満含有し、ジエチレングリコール成分、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上が5モル%以上15モル%未満含有し、ジカルボン酸成分として、95モル%以上がテレフタル酸成分、さらに好ましくは、上記グリコール成分に、ジカルボン酸成分の98モル%以上がテレフタル酸成分であることが好ましい。
【0028】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムを150℃で任意の一方向(X方向)に100%延伸した後の、X方向と、X方向と直交する方向(Y方向)の引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上であるとさらに好ましい。成型延伸後の引き裂き伝播抵抗が上記範囲であることにより、成型後の剥離破れが起こりにくくなり、成型倍率、成型温度の高い条件においても、剥離時のフィルム破れを効果的に抑制することが可能である。好ましくは、5.0N/mm以上であり、5.5N/mm以上であると最も好ましい。フィルムを150℃で任意の一方向(X方向)に100%延伸した後の、X方向と、X方向と直交する方向(Y方向)の引裂伝播抵抗の平均値を上記範囲とする方法としては、先述のヤング率と引き裂き伝播抵抗の値を特定範囲とする方法が挙げられる。
【0029】
また、本発明のポリエステルフィルムは、下記(1)式で表されるフィルム面内の複屈折値Δnが35以下であることが好ましい。
Δn=|nα−nβ|(1)
但し、フィルム面内の最大屈折率をnαとし、それに直交する方向の屈折率をnβとする。フィルムの面内異方性を低減せしめることにより、成型時の応力集中に起因した破断、剥離時破れの起点の発生が抑制される。Δnを上記の範囲とする方法としては特に限定されないが、縦延伸倍率と横延伸倍率の差を0.6以下とする方法などが挙げられる。Δnが35以上では、フィルム面内における屈折率の最大方向の引き裂き伝播抵抗が低下するとともに、加熱時の結晶化速度が大きく、成型後の耐引き裂き性に劣ることがある。Δnの値は30以下であると更に好ましく、25以下であると最も好ましい。
【0030】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、成形後の外観の観点から厚みムラが10%以下であることが好ましい。厚みムラが10%より大きいと、成形転写後の成形体の外観が低下してしまう場合がある。経済性、成形後の外観の観点から、厚みムラは8%以下であればさらに好ましく、5%以下であれば最も好ましい。本発明の成形同時転写用積層フィルムの厚みムラを10%以下とする方法は特に限定されないが、例えば、キャスト位置を前方キャストにする方法、口金のリップ間隙を狭くする方法、キャストドラムやロールの真円度(JIS B 0621−1984)を一定値以下にする方法、延伸温度ムラを低減するためにラジエーションヒーターを使用する方法などが挙げられる。
【0031】
次に本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの具体的な製造方法の例について記載するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0032】
ポリエステルA層とポリエステルB層とを有する積層ポリエステルフィルムとする場合、まず、ポリエステルA層に使用するポリエステルAとして、ポリエチレンテレフタレート樹脂(a)と1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(b)を所定の割合で計量する。また、ポリエステルB層に使用するポリエステルBとして、ポリエチレンテレフタレート樹脂(c)と1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(d)を所定の割合で計量する。
【0033】
そして、混合したポリエステル樹脂をベント式二軸押出機に供給し溶融押出する。この際、押出機内を流通窒素雰囲気下で、酸素濃度を0.7体積%以下とし、樹脂温度は265℃〜295℃に制御することが好ましい。ついで、フィルターやギヤポンプを通じて、異物の除去、押出量の均整化を各々行い、Tダイより冷却ドラム上にシート状に吐出する。その際、高電圧を掛けた電極を使用して静電気で冷却ドラムと樹脂を密着させる静電印加法、キャスティングドラムと押出したポリマーシート間に水膜を設けるキャスト法、キャスティングドラム温度をポリエステル樹脂のガラス転移点〜(ガラス転移点−20℃)にして押出したポリマーを粘着させる方法、もしくは、これらの方法を複数組み合わせた方法により、シート状ポリマーをキャスティングドラムに密着させ、冷却固化し、未延伸フィルムを得る。これらのキャスト法の中でも、ポリエステルを使用する場合は、生産性や平面性の観点から、静電印加する方法が好ましく使用される。
【0034】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、耐熱性、寸法安定性の観点から二軸配向フィルムとすることが必要である。二軸配向フィルムは、未延伸フィルムを長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する、あるいは、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法により、または、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行うことで得ることができる。
【0035】
かかる延伸方法における延伸倍率としては、長手方向に、好ましくは、2.8倍以上3.4倍以下、さらに好ましくは2.9倍以上3.3倍以下が採用される。また、延伸速度は1,000%/分以上200,000%/分以下であることが望ましい。また長手方向の延伸温度は、70℃以上90℃以下とすることが好ましい。また、幅方向の延伸倍率としては、好ましくは3.1倍以上4.5倍以下、さらに好ましくは、3.5倍以上4.2倍以下が採用される。幅方向の延伸速度は1,000%/分以上200,000%/分以下であることが望ましい。また、25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4500MPa以下としつつ、引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上7.0N/mm未満とするために、幅方向の延伸は複数ゾーンに分けて段階的に昇温しながら延伸する方法が好ましく、例えば延伸前半温度を90℃以上120℃以下、延伸中盤温度を100℃以上130℃以下、さらに延伸後半温度を110℃以上150℃以下で、延伸前半温度、延伸中盤温度、延伸後半温度の順に温度を高くしていく方法が挙げられる。
【0036】
さらに、二軸延伸の後にフィルムの熱処理を行う。熱処理はオーブン中、加熱したロール上など従来公知の任意の方法により行うことができる。熱処理時間は特性を悪化させない範囲において任意とすることができ、好ましくは5秒以上60秒以下、より好ましくは10秒以上40秒以下、最も好ましくは15秒以上30秒以下で行うのがよい。また、25℃におけるヤング率の平均値が3000MPa以上4500MPa以下としつつ、引裂伝播抵抗の平均値が4.5N/mm以上7.0N/mm未満とするために、熱処理を複数のゾーンに分けて段階的に昇温・降温する方法や、熱処理工程で幅方向に微延伸する方法が好ましく採用される。例えば熱処理前半温度を180℃以上210℃以下で幅方向に1%以上10%以下、好ましくは3%以上10%以下微延伸し、熱処理中盤温度を200℃以上240℃以下で幅方向に1%以上10%以下、好ましくは3%以上10%以下微延伸し、熱処理後半温度を150℃以上200℃未満とする方法が挙げられる。熱処理後半温度は熱収縮率を低くするために1%以上10%以下弛緩しながら実施することも好ましい。さらに、印刷層や接着剤、蒸着層、ハードコート層、耐候層といった各種加工層との接着力を向上させるため、少なくとも片面にコロナ処理を行ったり、易接着層をコーティングさせることもできる。コーティング層をフィルム製造工程内のインラインで設ける方法としては、少なくとも一軸延伸を行ったフィルム上にコーティング層組成物を水に分散させたものをメタリングリングバーやグラビアロールなどを用いて均一に塗布し、延伸を施しながら塗剤を乾燥させる方法が好ましく、その際、易接着層厚みとしては0.01μm以上1μm以下とすることが好ましい。また、易接着層中に各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、顔料、染料、有機または無機粒子、帯電防止剤、核剤などを添加してもよい。易接着層に好ましく用いられる樹脂としては、接着性、取扱い性の点からアクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。さらに、140〜200℃条件下でオフアニールすることも好ましく用いられる。
【0037】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、150℃における成型応力が低いため、易成型性が良好であり、また、成型後の耐引き裂き性が高いため、転写材として、建材、モバイル機器、電機製品、自動車部品、遊技機部品などの成型加飾用途や、偏光板等の光学用フィルム等の工程フィルムごと成型を施すような成型加工用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0038】
(1)ポリエステルの組成
ポリエステル樹脂およびフィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、H−NMRおよび13C−NMRを用いて各モノマー残基成分や副生ジエチレングリコールについて含有量を定量することができる。積層フィルムの場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体を構成する成分を採取し、評価することができる。なお、本発明のフィルムについては、フィルム製造時の混合比率から計算により、組成を算出した。
【0039】
(2)ポリエステルの固有粘度
ポリエステル樹脂およびフィルムの固有粘度は、ポリエステルをオルトクロロフェノールに溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃にて測定した。積層フィルムの場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体の固有粘度を評価することができる。
【0040】
(3)フィルム厚み、層厚み
フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、フィルム断面をミクロトームで切り出した。該断面を透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM H7100)で5000倍の倍率で観察し、フィルム厚みおよびポリエステル層の厚みを求めた。
【0041】
(4)厚みムラ
フィルムを10cm×10cmに切り出し、長手方向に5点、幅方向に5点、のべ10点の厚みを(3)と同様にして測定し、その総加平均値、最大値、最小値から以下の式に従い厚みムラを求めた。
a = (最大値−総加平均)/総加平均×100
b = (総加平均−最小値)/総加平均×100
厚みムラ(%) = a+b。
【0042】
(5)融点
示差走査熱量計(セイコー電子工業製、RDC220)を用い、JIS K7121−1987、JIS K7122−1987に準拠して測定および、解析を行った。ポリエステルフィルムを5mg、サンプルに用い、25℃から20℃/分で300℃まで昇温した際のDSC曲線より得られた吸熱ピークの頂点の温度を融点とした。なお、積層フィルムの場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体の融点を測定することができる。本発明において、ポリエステルA層とポリエステルB層とを有する積層ポリエステルフィルムの場合は、各層の融点を測定し、融点の高い層をポリエステルA層、低い方の層をポリエステルB層とした。
【0043】
(6)結晶融解前の微小吸熱ピーク温度(Tmeta)
示差走査熱量計(セイコー電子工業製、RDC220)を用い、JIS K7121−1987、JIS K7122−1987に準拠して測定および、解析を行った。ポリエステルフィルムを5mg、サンプルに用い、25℃から20℃/分で300℃まで昇温した際の結晶融解ピークの前に現れる微小の吸熱ピーク温度をTmetaとして読み取った。
【0044】
(7)150℃における100%延伸時の応力
引張試験機(オリエンテック社製テンシロンUCT−100)を用いて、フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)に切り出した幅10mmのサンプルフィルムをチャック間長さ50mm(初期試料長)となるようにセットし、温度150℃、湿度65%RHの条件に設定した恒温層中で60秒間の予熱後、引張速度300mm/分で引張試験を行い、サンプルが100%伸張したとき(チャック間距離が100mmとなったとき)のX方向およびY方向の応力の平均値を求めた。測定はX方向を任意に定めた5サンプルについてX方向、Y方向のサンプルを切り出し、X方向、Y方向のそれぞれについて5回の測定を行った。
【0045】
(8)25℃におけるヤング率
(7)と同様に切り出したサンプルについて、オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”を用いて、幅10mm、長さ150mmに切断したフィルムをチャック間距離50mmの装置にセットして、引張速度300mm/分、温度25℃、相対湿度65%の条件下で引張試験を行い、得られた荷重−伸び曲線の立ち上がり部の接線からヤング率を求めた。測定はX方向を任意に定めた5サンプルについてX方向、Y方向のサンプルを切り出し、X方向、Y方向のそれぞれについて5回の測定を行った。
【0046】
(9)面配向係数
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて、フィルムの任意の一方向(X方向)の屈折率(n)および、X方向と直交する方向(Y方向)の屈折率フィルムの長手方向の屈折率(n)、厚み方向の屈折率(nZD)を測定し、下記式から面配向係数(fn)を算出した。
fn=(n+n)/2−nZD
面配向係数は、フィルムの両面について測定を行い、表には、高い方の面配向係数の値を記載した。測定はX方向を任意に定めた5サンプルについてX方向、Y方向のサンプルを切り出し、X方向、Y方向のそれぞれについて測定を行った。
【0047】
(10)面内複屈折Δn
下記式に従い面内複屈折率Δnを算出した。
Δn=|nα−nβ
ただし、nαは面内の最大屈折率、nβをそれに直交する方向の屈折率とする。なお、本発明のフィルムにおいては、(8)の測定にて得られたnの最大値をnαとし、それに直交する方向の屈折率をnβとした。測定はフィルムの両面について行い、表には、高い方のΔnの値を記載した。
【0048】
(11)引裂伝播抵抗
荷重引裂試験機(東洋精機製)を用いて、JIS K−7128−2−1998に従って測定した。サンプルは、フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)にそれぞれ長さ75mm×幅63mmの長方形とし、幅方向中央部に端から20mmの切れ込みを入れ、残り43mmを引裂いたときの指示値を読み取る。引裂伝播抵抗の値としては、指示値より求めた引裂力(N)をフィルム厚み(mm)で除した値とした。なお、測定は各方向10回ずつ行い、その平均値を採用した。
【0049】
(12)150℃において100%延伸後の引裂伝播抵抗
引張試験機(オリエンテック社製テンシロンUCT−100)を用いて、フィルムの任意の一方向(X方向)および、X方向と直交する方向(Y方向)に切り出した幅30mmのサンプルフィルムをチャック間長さ50mm(初期試料長)となるようにセットし、温度150℃、湿度65%RHの条件に設定した恒温層中で60秒間の予熱後、引張速度300mm/分でサンプルを100%伸張した。サンプルの真ん中を中心として、伸長方向に長さ75mm、伸長後の幅のサンプルを切り出し、幅方向中央部に端から20mmの切れ込みを入れ、残り43mmを荷重引裂試験機(東洋精機製)を用いて引裂いたときの指示値を読み取る。引裂伝播抵抗の値としては、指示値より求めた引裂力(N)をフィルム厚み(mm)で除した値とした。なお、測定は100%伸長サンプル10個についてそれぞれ行い、その平均値を採用した。
【0050】
(13)成型加工性
本発明のポリエステルフィルムを、450℃の遠赤外線ヒーターを用いて、表面温度が
150℃の温度になるように加熱し、70℃に加熱した円筒形金型(底面直径50mm、
高さ20mm)に沿って真空成型を行った。円筒形金型は、エッジ部分のRを1mm、2
mm、3mmの3種類準備して真空成型を行った。金型に沿って成型できた状態を以下の
基準で評価した。
S:R1mmで成型できた(R1mmを再現できた)。
A:R2mmで成型できた(R2mmを再現できた)が、R1mmでは成型できなかった。
B:R3mmで成型できた(R3mmを再現できた)が、R2mmは成型できなかった。
C:R3mmで成型できなかった。
B以上を合格とした。
【0051】
(14)剥離破れ試験
本発明のポリエステルフィルム表面に、ポリアリレート/MEK分散体をダイコーターにて塗工・乾燥を行った(乾燥温度:150℃、乾燥時間:1分、巻出張力:200N/m、巻取張力:100N/m)。得られたポリアリレートが塗布されたポリエステルフィルムを、熱風オーブンに投入し、長手方向に100%の一軸延伸を行った(オーブン温度:150℃、幅方向フリー)。その後、ポリアリレート層を剥離し、剥離の様子、および剥離後のポリエステルフィルムの状態を以下の基準で評価した。
S:問題なく剥離が可能である。
A:破れはあるが方向によっては剥離が可能。
B:破れてしまい剥離が困難。
A以上を合格とした。
【0052】
(ポリエステルの製造)
製膜に供したポリエステル樹脂は以下のように準備した。
【0053】
(ポリエステルA)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.65)。
【0054】
(ポリエステルB)
1,4−シクロヘキサンジメタノールがグリコール成分に対し33mol%共重合された共重合ポリエステル(イーストマン・ケミカル社製 GN001)を、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレートとして使用した(固有粘度0.75)。
【0055】
(ポリエステルC)
ジカルボン酸成分としてテレフタル成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が70モル%、ネオペンチルグリコール成分が30モル%であるネオペンチルグリコール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.75)。
【0056】
(ポリエステルD)
ジカルボン酸成分としてテレフタル成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が85モル%、ジエチレングリコール成分が15モル%であるジエチレングリコール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.65)。
【0057】
(ポリエステルE)
ジカルボン酸成分としてテレフタル成分が82.5モル%、イソフタル成分が17.5モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%であるイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.7)。
【0058】
(ポリエステルF)
ジカルボン酸成分としてテレフタル成分が85モル%、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が15モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%である2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.7)。
【0059】
(粒子マスター)
ポリエステルA中に数平均粒子径2.2μmの凝集シリカ粒子を粒子濃度2質量%で含有したポリエチレンテレフタレート粒子マスター(固有粘度0.65)。
【0060】
(実施例1)
A/B/Aの3層積層フィルムとした。各層の組成を表の通りとして、A層用の原料とB層用の原料をそれぞれ酸素濃度を0.2体積%とした別々のベント同方向二軸押出機に供給し、A層押出機シリンダー温度を270℃、B層押出機シリンダー温度を277℃で溶融し、A層とB層合流後の短管温度を277℃、口金温度を280℃で、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させA層/B層/A層からなる3層積層未延伸フィルムを得た。次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、延伸温度85℃で長手方向に3.1倍延伸し、すぐに40℃に温度制御した金属ロールで冷却化した。
【0061】
次いでテンター式横延伸機にて延伸前半温度100℃、延伸中盤温度130℃、延伸後半温度150℃で幅方向に3.7倍延伸し、そのままテンター内にて、熱処理前半部を210℃として、このゾーンにて5.3%の微延伸を行い、熱処理中盤温度220℃でさらに恒温の熱処理を行った後、熱処理後半にて幅方向に3%のリラックスを掛けながら温度200℃で熱処理を行い、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0062】
(実施例2)
組成を表の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0063】
(実施例3)
組成を表の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0064】
(実施例4)
組成を表の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0065】
(実施例5)
組成を表の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0066】
(実施例6)
組成を表の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0067】
(実施例7)
組成を表の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0068】
(実施例8)
組成を表の通りに変更し、熱処理前半温度を200℃、熱処理中盤温度を210℃、熱処理後半温度を190℃にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0069】
(実施例9)
組成を表の通りに変更した以外は実施例8と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0070】
(実施例10)
熱処理前半部での微延伸倍率を2.4%とした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0071】
(実施例11)
熱処理前半部での微延伸倍率を4.2%とした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0072】
(実施例12)
熱処理前半部での微延伸倍率を8.1%とした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0073】
(実施例13)
熱処理前半部での微延伸倍率を10.0%とした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0074】
(実施例14)
熱処理前半温度を223℃、熱処理中盤温度を233℃、熱処理後半温度を213℃にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0075】
(実施例15)
熱処理前半温度を200℃、熱処理中盤温度を210℃、熱処理後半温度を190℃にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0076】
(実施例16)
幅方向の延伸倍率を4.0%にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0077】
(実施例17)
フィルムの積層比を5/40/5(A層/B層/A層)とした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み50μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0078】
(比較例1)
組成を表の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0079】
(比較例2)
熱処理前半温度を190℃、熱処理中盤温度を195℃、熱処理後半温度を180℃にした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0080】
(比較例3)
単層フィルムとした。組成を表の通りとして、原料をそれぞれ酸素濃度を0.2体積%とした別々のベント同方向二軸押出機に供給し、A層押出機シリンダー温度を270℃、B層押出機シリンダー温度を277℃で溶融し、A層とB層合流後の短管温度を277℃、口金温度を280℃で、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させ未延伸シートを得た。その後は、実施例1と同様にしてフィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0081】
(比較例4)
組成を表の通りに変更した以外は比較例3と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0082】
(比較例5)
組成を表の通りに変更した以外は比較例3と同様にして、フィルム厚み75μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
【表5】
【0088】
【表6】
【0089】
【表7】
【0090】
【表8】
【0091】
表中の略語の意味は以下のとおりである。
EG:エチレングリコール
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール
DEG:ジエチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
NDC:2,6−ナフタレンジカルボン酸
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、150℃における成型応力が低いため、易成型性が良好であり、また、ヤング率、および成型前後の引き裂き伝播抵抗が高いため、成型後の剥離工程における取り扱い性に優れることから、建材、モバイル機器、電機製品、自動車部品、遊技機部品などの成型加飾用途、偏光板等の光学用フィルム等に好適に用いることができる。