特許第6361168号(P6361168)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6361168液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、液晶表示素子の製造方法、重合体及び化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361168
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、液晶表示素子の製造方法、重合体及び化合物
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20180712BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   G02F1/1337 525
   C08G73/10
【請求項の数】8
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2014-40919(P2014-40919)
(22)【出願日】2014年3月3日
(65)【公開番号】特開2015-26052(P2015-26052A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-126364(P2013-126364)
(32)【優先日】2013年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】菅野 尚基
(72)【発明者】
【氏名】植阪 裕介
(72)【発明者】
【氏名】秋池 利之
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−107795(JP,A)
【文献】 特表2002−526530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1A)で表される特定構造を有する重合体(P)を含有し、
前記重合体(P)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種であって、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル及びテトラカルボン酸ジエステルジハライドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物と、ジアミンとを反応させて得られる重合体であり、
前記ジアミンは、前記特定構造を有するジアミンを含み、
前記特定構造を有するジアミンは、下記式(d−1A)で表される化合物である、液晶配向剤。
【化1】
(式(1A)中、Rは2価の有機基であり、Xは窒素含有芳香族複素環である。但し、式中の複数のRは同じであり、複数のXは同じである。Qは窒素原子、炭素原子又はケイ素原子であり、Yは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。Qが窒素原子の場合にはt=2かつs=0であり、Qがケイ素原子の場合にはt=3かつs=0であり、Qが炭素原子の場合にはtが2又は3であってかつs=3−tである。)
【化2】
(式(d−1A)中、Rは、単結合又は2価の有機基である。R、X、Q、Y、t及びsは上記式(1A)と同義である。)
【請求項2】
前記特定構造は下記式(1−1A)で表される、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式(1−1A)中、Rは、Qが窒素原子又は炭素原子の場合には炭素数1〜5のアルカンジイル基であり、Qがケイ素原子の場合には単結合である。Rは、単結合又は炭素数1〜5のアルカンジイル基であり、Aは、単結合、−O−、−CO−、*−COO−、*−OCO−、*−CONH−又は*−NHCO−(「*」は、Rとの結合手を示す。)である。但し、Rが単結合の場合、Aは−O−又は*−OCO−である。式中の複数のRは同じであり、複数のRは同じであり、複数のAは同じであり、複数のR−A−Rは同じである。X、Q、Y、t及びsは上記式(1A)と同義である。「*」は結合手を示す。)
【請求項3】
前記Qは窒素原子である、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記重合体(P)は、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物及び1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸二無水物と、前記特定構造を有するジアミンとを反応させて得られる重合体である、請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項6】
請求項に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板の該導電膜上にそれぞれ塗布し、次いでこれを加熱して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を形成した一対の基板を、液晶性化合物を含む液晶層を介して、前記塗膜が対向するように配置して液晶セルを構築する工程と、
前記一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程と、を含む液晶表示素子の製造方法。
【請求項8】
前記液晶性化合物として、アルケニル基及びフルオロアルケニル基のいずれかを1つ有する単官能性の液晶性化合物を含む、請求項に記載の液晶表示素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、液晶表示素子の製造方法、重合体及び化合物に関し、特にPSA(Polymer Sustained Alignment)モード液晶表示素子の製造に好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶表示素子は、対向配置された一対の基板間に、液晶分子を含む液晶層と、液晶層を挟むように配置され液晶分子を所望の配向状態に制御する液晶配向膜とを具備している。また従来、液晶表示素子としては、電極構造や使用する液晶分子の物性等が異なる種々の駆動方式が開発されている。例えば、垂直配向モードとして従来知られているMVA(Multi−Domain Vertical Alignment)型パネルは、液晶パネル中に形成した突起物によって液晶分子の倒れ込み方向を規制することにより視野角の拡大を図っている。しかしながら、この方式によると、突起物に由来する透過率及びコントラストの不足が不可避であり、また液晶分子の応答速度が遅いといった不都合がある。
【0003】
近年、MVA型パネルの問題点を解決すべく、液晶分子の配向を制御するための新たな駆動モードとしてPSA(Polymer Sustained Alignment)モードが提案されている。PSAモードは、光重合性モノマーを液晶材料中に混入しておき、液晶セルを組み立てた後、液晶層を挟む一対の電極間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射することにより、光重合性モノマーを重合して液晶分子の分子配向を制御する技術である。この技術によれば、視野角の拡大や高速応答化を図ることができるといった利点がある。また近年では、PSA型液晶パネルの更なる高速応答化が検討されており、かかる技術として、アルケニル基及びフルオロアルケニル基のうちいずれかを1つ有する単官能性の液晶性化合物(以下、「アルケニル系液晶」ともいう。)を液晶層に導入する試みがなされている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−285499号公報
【特許文献2】特開平9−104644号公報
【特許文献3】特開平6−108053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、液晶表示素子は、従来のようにパーソナルコンピュータ等の表示端末に使用されるだけでなく、例えば液晶テレビや、カーナビゲーションシステム、携帯電話、スマートフォン、インフォメーションディスプレイなど多種の用途で使用されている。このような多用途化から、使用に伴う劣化が少ない信頼性の高い液晶表示素子が求められており、そのような液晶表示素子を得るための材料が望まれている。
【0006】
また、アルケニル系液晶を用いた液晶表示素子では、応答速度の高速化を図ることができる反面、光重合性モノマーの重合の際の光照射によって、アルケニル系液晶を液晶層に含まない液晶セルに比べて電圧保持率の低下が大きくなることが明らかになっている。液晶表示素子の信頼性向上の点からすると、光照射後にも高い電圧保持率を維持するようにする必要がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、使用に伴う劣化が少ない信頼性の高い液晶表示素子を得るための液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような従来技術の課題を達成するべく鋭意検討した結果、特定構造を有する重合体を液晶配向剤中に含有させることにより、上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により以下の液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、液晶表示素子の製造方法、重合体及び化合物が提供される。
【0009】
本発明は一つの側面において、下記式(1A)で表される特定構造を有する重合体(P)を含有する液晶配向剤を提供する。
【0010】
【化1】
(式(1A)中、Rは2価の有機基であり、Xは窒素含有芳香族複素環である。但し、式中の複数のRは同じでも異なっていてもよく、複数のXは同じでも異なっていてもよい。Qは窒素原子、炭素原子又はケイ素原子であり、Yは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。Qが窒素原子の場合にはt=2かつs=0であり、Qがケイ素原子の場合にはt=3かつs=0であり、Qが炭素原子の場合にはtが2又は3であってかつs=3−tである。)
【0011】
上記式(1A)で表される構造は下記式(1)で表される構造であることが好ましい。
【0012】
【化2】
(式(1)中、R及びXは上記式(1A)と同義である。「*」は結合手を示す。)
【0013】
本発明は、別の一つの側面において、上記液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜、及び当該液晶配向膜を具備する液晶表示素子を提供する。また、上記液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板の該導電膜上にそれぞれ塗布し、次いでこれを加熱して塗膜を形成する工程と、前記塗膜を形成した一対の基板を、液晶性化合物を含む液晶層を介して、前記塗膜が対向するように配置して液晶セルを構築する工程と、前記一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程と、を含む液晶表示素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液晶配向剤によれば、使用に伴う劣化の少ない信頼性の高い液晶配向膜を得ることができる。また、本発明の液晶表示素子及び本発明の製造方法により製造した液晶表示素子は、上記液晶配向剤を用いて形成した液晶配向膜を有することから、使用に伴う品質劣化が少なく、信頼性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例及び比較例で使用した透明電極膜の電極パターンを示す図。
図2】実施例で使用した透明電極膜の電極パターンを示す図。
図3】実施例で使用した透明電極膜の電極パターンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の液晶配向剤は、重合体成分として特定構造を有する重合体(P)を含むとともに、必要に応じて任意に配合されるその他の成分を含む。
【0017】
<重合体(P)>
本発明の重合体(P)は、下記式(1A)で表される構造を有する重合体である。
【0018】
【化3】
(式(1A)中、Rは2価の有機基であり、Xは窒素含有芳香族複素環である。但し、式中の複数のRは同じでも異なっていてもよく、複数のXは同じでも異なっていてもよい。Qは窒素原子、炭素原子又はケイ素原子であり、Yは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。Qが窒素原子の場合にはt=2かつs=0であり、Qがケイ素原子の場合にはt=3かつs=0であり、Qが炭素原子の場合にはtが2又は3であってかつs=3−tである。)
【0019】
上記重合体(P)は、下記式(1)で表される構造を有する重合体であることが好ましい。
【化4】
(式(1)中、R及びXは上記式(1A)と同義である。「*」は結合手を示す。)
【0020】
上記式(1A)及び式(1)において、Qが窒素原子又は炭素原子の場合のRの2価の有機基としては、例えば2価の炭化水素基、炭化水素基における炭素−炭素結合間に、−O−、−NH−、−CO−O−、−CO−NH−、−CO−、−S−、−SO−、−Si(CH−、−O−Si(CH−、−O−Si(CH−O−等の官能基を有する2価の基、炭化水素基と、−O−、−NH−、−CO−O−、−CO−NH−、−CO−、−S−、−SO−、−Si(CH−、−O−Si(CH−、−O−Si(CH−O−等の官能基とが連結してなる2価の基、炭化水素基における少なくとも1つの水素原子が、フッ素原子や塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子又は水酸基等で置換された2価の基などが挙げられる。また、Qがケイ素原子の場合のRの2価の有機基としては、例えばQが窒素原子又は炭素原子の場合のRの具体例のほか、−O−、−CO−O−などが挙げられる。
【0021】
ここで、本明細書における「炭化水素基」は、飽和でも不飽和でもよく、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。また、「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を有さず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。脂環式炭化水素基とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを有し、芳香環構造を有さない炭化水素基を意味する。但し、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を有する炭化水素基を意味する。但し、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を有していてもよい。
【0022】
における2価の炭化水素基としては、炭素数1〜20であることが好ましく、炭素数1〜10であることがより好ましく、炭素数1〜6であることが更に好ましい。当該炭化水素基の具体例としては、鎖状炭化水素基として、例えばメチレン基、エチレン基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基、ヘキサンジイル基等のアルカンジイル基、ビニレン基、プロペニレン基などを;脂環式炭化水素基として、例えばシクロヘキシレン基などを;芳香族炭化水素基として、例えばフェニレン基などを;それぞれ挙げることができる。中でも、鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基であることが好ましく、アルカンジイル基であることがより好ましい。
【0023】
の窒素含有芳香族複素環としては、環骨格中に窒素原子を1つ以上含む芳香環であればよい。したがって、環骨格中には、ヘテロ原子として窒素原子のみを含んでいてもよいし、窒素原子と、窒素原子以外のヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子など)とを含んでいてもよい。Xにおける窒素含有芳香族複素環の具体例としては、例えばピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、プリン環、キノリン環、イソキノリン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、フタラジン環、トリアジン環、アゼピン環、ジアゼピン環、アクリジン環、フェナジン環、フェナントロリン環、オキサゾール環、チアゾール環、カルバゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環、フェノチアジン環、オキサジアゾール環等が挙げられる。また、Xは、上記例示した環を構成する炭素原子に置換基が導入されたものであってもよい。当該置換基としては、例えばハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0024】
としては、これらの中でも、環骨格がピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ベンゾイミダゾール環、ナフチリジン環、フタラジン環、キノキサリン環、トリアジン環、アゼピン環、ジアゼピン環又はフェナジン環であることが好ましく、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環であることがより好ましい。
なお、窒素含有芳香族複素環において、Rとの結合位置は特に限定しない。例えばXとしての窒素含有芳香族複素環が5員環である場合、1−位、2−位又は3−位が挙げられ、6員環である場合、1−位、2−位、3−位又は4−位が挙げられる。
【0025】
上記式(1A)中のQは、液晶配向膜及び液晶表示素子の信頼性の観点から、窒素原子が好ましい。Yは、水素原子、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
上記式(1A)で表される構造としては、下記式(1−1A)で表される構造であることが好ましい。
【0026】
【化5】
(式(1−1A)中、Rは、Qが窒素原子又は炭素原子の場合には炭素数1〜5のアルカンジイル基であり、Qがケイ素原子の場合には単結合又は炭素数1〜5のアルカンジイル基である。Rは、単結合又は炭素数1〜5のアルカンジイル基であり、Aは、単結合、−O−、−CO−、*−COO−、*−OCO−、*−CONH−又は*−NHCO−(「*」は、Rとの結合手を示す。)である。但し、Rが単結合の場合、Aは−O−又は*−OCO−である。式中の複数のRは同じでも異なっていてもよく、複数のRは同じでも異なっていてもよく、複数のAは同じでも異なっていてもよい。X、Q、Y、t及びsは上記式(1A)と同義である。「*」は結合手を示す。)
【0027】
上記式(1)で表される構造としては、下記式(1−1)で表される構造であることが好ましい。
【化6】
(式(1−1)中、R、R、Aはそれぞれ上記式(1−1A)と同義である。Xは上記式(1)と同義である。「*」は結合手を示す。)
【0028】
上記式(1−1A)及び上記式(1−1)において、R及びRの炭素数1〜5のアルカンジイル基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基を挙げることができ、これらは直鎖状でも分岐状でもよい。なお、R及びRは、互いに同じでも異なっていてもよい。
としては、Qが窒素原子又は炭素原子の場合、炭素数1〜3であることが好ましく、炭素数1〜2であることがより好ましい。Qがケイ素原子の場合、Rは単結合又は炭素数1〜2であることが好ましく、単結合がより好ましい。Rとしては、単結合又は炭素数1〜3であることが好ましく、単結合又は炭素数1〜2であることがより好ましい。
は、単結合、−O−、−CO−、*−COO−、*−OCO−、*−CONH−又は*−NHCO−(「*」はRとの結合手を示す。)である。中でも、単結合、−O−、*−CONH−、*−COO−又は*−OCO−であることが好ましい。
【0029】
上記重合体(P)の主骨格としては、例えばポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエステル、ポリアミド、セルロース誘導体、ポリアセタール誘導体、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体等により形成される骨格を挙げることができる。これらのいずれを適用するかは、液晶表示素子の駆動モードや用途等に応じて適宜選択すればよいが、中でも、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、ポリアミック酸及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0030】
<ポリアミック酸(P)>
本発明における重合体(P)としてのポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸(P)」ともいう。)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得ることができる。上記式(1A)で表される構造を重合体側鎖に導入しやすい点において、ポリアミック酸(P)の合成に際しては、上記式(1A)で表される構造を有するジアミンを用いることが好ましい。
【0031】
[テトラカルボン酸二無水物]
本発明におけるポリアミック酸の合成に用いるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(1R,2S,4S,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1S,2S,4R,5R−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等)、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物(1R,2R,3R,4R−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等)などを;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物などを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、上記テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、透明性及び溶剤への溶解性などの観点から、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むものであることが好ましい。また、脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも一種を含むものであることが好ましく、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸二無水物(以下、特定テトラカルボン酸二無水物ともいう。)を含むものであることがより好ましい。
【0033】
ポリアミック酸(P)の合成に際し、上記特定テトラカルボン酸二無水物を使用する場合、その使用割合(合計量)は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、10モル%以上であることが好ましく、20〜100モル%であることがより好ましく、50〜100モル%であることが更に好ましい。
【0034】
[ジアミン]
本発明におけるポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミンとしては、上記式(1A)で表される構造を有するジアミンを含むことが好ましい。上記式(1A)で表される構造を有するジアミンの具体例としては、例えば下記式(d−1A)で表される化合物等が挙げられ、好ましくは下記式(d−1)で表される化合物である。
【0035】
【化7】
(式(d−1A)中、Rは、単結合又は2価の有機基である。R、X、Q、Y、t及びsは上記式(1A)と同義である。)
【0036】
【化8】
(式(d−1)中、Rは、単結合又は2価の有機基である。R及びXは上記式(1)と同義である。)
【0037】
上記式(d−1A)及び上記式(d−1)中のRの2価の有機基としては、−CO−、*−OCO−(「*」は、ジアミノフェニル基に結合する結合手を示す。)及び上記Rの2価の有機基として例示した基などを挙げることができる。Rの好ましい具体例としては、例えば下記式(r−1)で表される基が挙げられる。
【化9】
(式(r−1)中、Aは単結合、−O−、−CO−、*−OCO−又は*−COO−であり、Aは単結合、−CO−又は−OCO−*であり、Rは単結合、アルカンジイル基又はアルカンジイル基の炭素−炭素結合間に、−O−、−CO−O−、−CO−NH−又は−CO−を有する2価の基である。「*」及び「*」は結合手を示す。ただし、「*」がジアミノフェニル基に結合する。)
【0038】
上記式(r−1)のRにおけるアルカンジイル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、炭素数1〜8であることが好ましく、炭素数1〜4であることがより好ましい。Rは、単結合又は炭素数1〜8のアルカンジイル基であることが好ましく、単結合又は炭素数1〜4のアルカンジイル基であることがより好ましく、単結合、メチレン基又はエチレン基であることがさらに好ましい。Aは、単結合、−CO−又は*−OCO−であることが好ましい。なお、基「−N−(R−X」の好ましい具体例の説明は、上記式(1)の説明を適用することができる。
【0039】
上記式(d−1)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば下記式(da−1)〜(da−68)のそれぞれで表される化合物等を挙げることができる。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【0040】
【化14】
【0041】
また、上記式(d−1A)のQが炭素原子又はケイ素原子である化合物の好ましい具体例としては、例えば下記式(da−69)〜(da−80)のそれぞれで表される化合物等を挙げることができる。
【0042】
【化15】
【0043】
上記ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミンとしては、上記式(1)で表される構造を有するジアミン(以下、「特定ジアミン」ともいう。)を単独で使用してもよいが、当該特定ジアミンと共に、特定ジアミン以外のジアミン(以下、「その他のジアミン」ともいう。)を使用してもよい。
ここで、その他のジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。これらジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えばm−キシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;
【0044】
芳香族ジアミンとして、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−5−アミン、1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−6−アミン、3,5−ジアミノ安息香酸、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5−ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5−ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、4−(4’−トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、4−(4’−トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、2,4−ジアミノ−N,N―ジアリルアニリン、4−アミノベンジルアミン、3−アミノベンジルアミン、1,3−ジアミノ−4−オクタデシルオキシベンゼン、3−(3,5−ジアミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、及び下記式(Y−1)
【化16】
(式(Y−1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立に、単結合、−O−、−COO−又は−OCO−であり、R及びRIIは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜20の整数であり、mは0又は1であり、nは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物などを;
【0045】
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを、それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【0046】
上記式(Y−1)における「−X−(R−XII−」で表される2価の基としては、炭素数1〜3のアルカンジイル基、*−O−、*−COO−又は*−O−C−O−(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であることが好ましい。
基「−C2c+1」の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基などを挙げることができる。ジアミノフェニル基における2つのアミノ基は、他の基に対して2,4−位又は3,5−位にあることが好ましい。
【0047】
上記式(Y−1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(Y−1−1)〜(Y−1−4)のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。
【化17】
なお、これらのジアミンは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
上記ポリアミック酸(P)の合成に際し、上記特定ジアミンの使用量は、合成に使用するジアミンの全体量に対して0.1〜80モル%であることが好ましく、1〜60モル%であることがより好ましく、3〜50モル%であることが更に好ましく、5〜30モル%であることが特に好ましい。
【0049】
[分子量調節剤]
ポリアミック酸を合成するに際して、上記の如きテトラカルボン酸二無水物及びジアミンとともに、適当な分子量調節剤を用いて末端修飾型の重合体を合成することとしてもよい。かかる末端修飾型の重合体とすることにより、本発明の効果を損なうことなく液晶配向剤の塗布性(印刷性)をさらに改善することができる。
【0050】
分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物などを挙げることができる。これらの具体例としては、酸一無水物として、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルサクシニック酸無水物、n−ドデシルサクシニック酸無水物、n−テトラデシルサクシニック酸無水物、n−ヘキサデシルサクシニック酸無水物などを;モノアミン化合物として、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、n−ドデシルアミン、n−オクタデシルアミンなどを;モノイソシアネート化合物として、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどを;それぞれ挙げることができる。分子量調節剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100重量部に対して、20重量部以下とすることが好ましく、10重量部以下とすることがより好ましい。
【0051】
<特定ジアミンの合成>
上記式(d−1A)で表される化合物及び上記式(d−1)で表される化合物は、有機化学の定法を適宜組み合わせることにより合成することができる。その一例としては、上記式(d−1A)又は上記式(d−1)中の1級アミノ基に代えてニトロ基を有するジニトロ中間体を合成し、その後、得られたジニトロ中間体のニトロ基を適用な還元系を用いてアミノ化する方法が挙げられる。
【0052】
上記ジニトロ中間体を合成する方法は、目的とする化合物に応じて適宜選択することができる。その一例としては、例えば上記式(d−1)で表される化合物の場合、[1]上記式(1)で表される構造を有する2級アミン化合物と、当該2級アミン化合物における2級アミノ基と反応可能であって、かつR及びジニトロフェニル基を有する化合物(例えば、酸クロリドやカルボン酸など)と、を反応させる方法;[2]「R−R−N−」(Rはジニトロフェニル基を示す。)で表される基を有し、かつ官能基を2つ有する二官能性化合物と、当該二官能性化合物と反応可能であって、かつXを有する化合物と、を反応させる方法;等が挙げられる。
上記ジニトロ中間体の還元反応は、好ましくは有機溶媒中、例えばパラジウム炭素、酸化白金、亜鉛、鉄、スズ、ニッケル等の触媒を用いて実施することができる。ここで使用する有機溶媒としては、例えば酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン、アルコール系等が挙げられる。但し、上記式(d−1A)で表される化合物及び上記式(d−1)で表される化合物の合成手順は上記方法に限定されるものではない。
【0053】
<ポリアミック酸の合成>
本発明におけるポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましく、0.3〜1.2当量となる割合がより好ましい。また、ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は−20℃〜150℃が好ましく、0〜100℃がより好ましい。また、反応時間は0.1〜24時間が好ましく、0.5〜12時間がより好ましい。
【0054】
ここで、反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などが挙げられる。これら有機溶媒の具体例としては、非プロトン性極性溶媒として、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどを;フェノール系溶媒として、例えばフェノール、m−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノールなどを;
アルコールとして、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどを;ケトンとして、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどを;上記エステルとして、例えば、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレートなどを;エーテルとして、例えばジエチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフランなどを;ハロゲン化炭化水素として、例えばジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼンなどを;上記炭化水素として、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを;それぞれ挙げることができる。
【0055】
これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒及びフェノール系溶媒よりなる群(第一群の有機溶媒)から選択される一種以上、又は、第一群の有機溶媒から選択される一種以上と、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素よりなる群(第二群の有機溶媒)から選択される一種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第二群の有機溶媒の使用割合は、第一群の有機溶媒と第二群の有機溶媒との合計量に対して、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、更に好ましくは30重量%以下である。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して0.1〜50重量%になるような量とすることが好ましい。
【0056】
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸を脱水閉環してポリイミドとする場合には、上記反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで脱水閉環反応に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで脱水閉環反応に供してもよい。ポリアミック酸の単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。
【0057】
<ポリアミック酸エステル(P)>
本発明における重合体(P)としてのポリアミック酸エステル(以下、「ポリアミック酸エステル(P)」ともいう。)は、例えば、[I]上記合成反応により得られたポリアミック酸と、水酸基含有化合物、ハロゲン化物、エポキシ基含有化合物等とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハライドとジアミンとを反応させる方法によって得ることができる。
【0058】
ここで、方法[I]で使用する水酸基含有化合物としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;フェノール、クレゾール等のフェノール類などが挙げられる。また、ハロゲン化物としては、例えば臭化メチル、臭化エチル、臭化ステアリル、塩化メチル、塩化ステアリル、1,1,1−トリフルオロ−2−ヨードエタン等が挙げられ、エポキシ基含有化合物としては、例えばプロピレンオキシド等が挙げられる。方法[II]で使用するテトラカルボン酸ジエステルは、例えば上記ポリアミック酸の合成で例示したテトラカルボン酸二無水物を、上記アルコール類を用いて開環することにより得ることができる。また、方法[III]で使用するテトラカルボン酸ジエステルジハライドは、上記の如くして得たテトラカルボン酸ジエステルを、塩化チオニル等の適当な塩素化剤と反応させることにより得ることができる。方法[II]及び[III]で使用するジアミンとしては、上記式(1A)で表される構造を有するジアミン及び上記その他のジアミン等を用いることができる。なお、ポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。
【0059】
<ポリイミド(P)>
本発明の液晶配向剤に含有される重合体(P)としてのポリイミド(以下、「ポリイミド(P)」ともいう。)は、上記の如くして合成されたポリアミック酸(P)を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
【0060】
上記ポリイミド(P)は、その前駆体であるポリアミック酸(P)が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。本発明におけるポリイミドは、液晶表示素子の電気特性を良好にする観点において、そのイミド化率が30%以上であることが好ましく、40〜99%であることがより好ましく、50〜99%であることが更に好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0061】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法により、又はポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。このうち、後者の方法によることが好ましい。
【0062】
ポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加してイミド化する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃である。反応時間は、好ましくは1.0〜120時間であり、より好ましくは2.0〜30時間である。
【0063】
このようにしてポリイミド(P)を含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミド(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリイミド(P)を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。これらの精製操作は公知の方法に従って行うことができる。
【0064】
以上のようにして得られる重合体(P)としてのポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドは、これを濃度10重量%の溶液としたときに、10〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンなど)を用いて調製した濃度10重量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。また、本発明の液晶配向剤に含有させるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、500〜100,000であることが好ましく、1,000〜50,000であることがより好ましい。
【0065】
なお、主骨格としてポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミド以外の骨格を有する重合体(P)についても、有機化学の定法を適宜組み合わせることにより合成することができる。その一例として、ポリオルガノシロキサンを主骨格とする重合体(P)は、例えばエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンと、上記式(1A)で表される構造を有するカルボン酸とを反応させることにより得ることができる。
【0066】
液晶配向剤中の重合体(P)の含有割合は、本発明の効果を好適に得る観点から、液晶配向剤中に含まれる重合体成分の全体量に対して、5重量%以上とすることが好ましく、10重量%以上とすることがより好ましい。また、上限値は特に制限がなく、100重量%以下の範囲で任意に設定することができる。
重合体(P)が有する上記特定構造は、本発明の効果を好適に得る観点から、液晶配向剤中に含まれる重合体成分の全体量に対して、1×10−5〜1×10−2モル/gとすることが好ましく、5×10−5〜5×10−3モル/gとすることが好ましい。したがって、重合体(P)が有する上記特定構造の量が上記範囲になるように、重合体(P)の合成に使用する化合物の種類及び量を設定することが望ましい。
【0067】
なお、本発明では、重合体(P)を含む液晶配向剤を用いてPSAモード液晶表示素子の液晶配向膜を形成した場合、液晶セルに対する光照射の際に光重合性化合物(光重合性モノマー)の光重合反応が阻害されないように液晶配向膜側からアシストすることが可能となり、その結果、光重合性化合物の重合反応が十分に進行して信頼性の改善効果を得ることができるものと推測される。
【0068】
<その他の成分>
本発明の液晶配向剤は、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えば、上記重合体(P)以外のその他の重合体、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ基含有化合物」という。)、官能性シラン化合物等を挙げることができる。
【0069】
[その他の重合体]
上記その他の重合体は、溶液特性や電気特性の改善のために使用することができる。かかるその他の重合体としては、上記特定構造を有さない重合体を挙げることができ、その主骨格としては、例えばポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
その他の重合体を液晶配向剤に添加する場合、その配合割合は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100重量部に対して、95重量部以下であることが好ましく、0.1〜90重量部であることがより好ましく、0.1〜85重量部であることが更に好ましい。
【0070】
[エポキシ基含有化合物]
エポキシ基含有化合物は、液晶配向膜における基板表面との接着性や電気特性を向上させるために使用することができる。このようなエポキシ基含有化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−シクロヘキシルアミン等を好ましいものとして挙げることができる。その他、エポキシ基含有化合物の例としては、国際公開第2009/096598号記載のエポキシ基含有ポリオルガノシロキサンを用いることができる。
これらエポキシ化合物を液晶配向剤に添加する場合、その配合割合は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100重量部に対して、40重量部以下が好ましく、0.1〜30重量部がより好ましい。
【0071】
[官能性シラン化合物]
上記官能性シラン化合物は、液晶配向剤の印刷性の向上を目的として使用することができる。このような官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、2−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
これら官能性シラン化合物を液晶配向剤に添加する場合、その配合割合は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100重量部に対して、2重量部以下が好ましく、0.02〜0.2重量部がより好ましい。
なお、その他の成分としては、上記のほか、分子内に少なくとも一つのオキセタニル基を有する化合物や酸化防止剤などを使用することができる。
【0072】
<溶剤>
本発明の液晶配向剤は、上記重合体(P)及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分が、好ましくは有機溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
ここで、本発明の液晶配向剤の調製に使用される溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0073】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計重量が液晶配向剤の全重量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10重量%の範囲である。すなわち、本発明の液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成されるが、このとき、固形分濃度が1重量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得にくい。一方、固形分濃度が10重量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜を得にくく、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が劣る傾向にある。
【0074】
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えばスピンナー法による場合には、固形分濃度1.5〜4.5重量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9重量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12〜50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1〜5重量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3〜15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。本発明の液晶配向剤を調製する際の温度は、好ましくは10〜100℃であり、より好ましくは20〜80℃である。
【0075】
<液晶配向膜及び液晶表示素子>
本発明の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。本発明の液晶表示素子を適用する駆動モードは特に限定せず、TN型、STN型、IPS型、FFS型、VA型、MVA型、PSA型などの種々の駆動モードに適用することができ、中でも特にPSAモードに好ましく適用することができる。
【0076】
本発明のPSAモード液晶表示素子は、例えば以下の工程(1)〜(3)
(1)本発明の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板の該導電膜上にそれぞれ塗布し、次いでこれを加熱して塗膜を形成する工程、
(2)該塗膜を形成した一対の基板を、液晶性化合物を含む液晶層を介して塗膜が対向するように配置して液晶セルを構築する工程、及び
(3)一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する工程、を含む方法によって製造することができる。
【0077】
[工程(1):塗膜の形成]
先ず、基板上に本発明の液晶配向剤を塗布し、次いで塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。液晶表示素子の基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。当該基板が有する導電膜としては、透明導電膜を用いることが好ましく、例えば酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができる。この導電膜は、複数の領域に区画されたパターン状導電膜であることが好ましい。このような導電膜とすれば、導電膜間に電圧を印加する際に、各領域で異なる電圧を印加することによって領域ごとに液晶分子のプレチルト角の方向を変えることができ、これにより視野角特性をより広くすることが可能となる。パターニングされた透明導電膜を得るには、例えばパターンなし透明導電膜を形成した後にフォト・エッチングによりパターンを形成する方法、透明導電膜を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いる方法などによることができる。
【0078】
基板上に液晶配向剤を塗布する方法としては、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行うことができる。液晶配向剤の塗布に際しては、基板表面及び透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板表面のうち塗膜を形成するべき面に、官能性シラン化合物、官能性チタン化合物などを予め塗布する前処理を施しておいてもよい。
【0079】
液晶配向剤を基板に塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30〜200℃であり、より好ましくは40〜150℃であり、特に好ましくは40〜100℃である。プレベーク時間は、好ましくは0.25〜10分であり、より好ましくは0.5〜5分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。ポストベーク温度は、好ましくは80〜300℃であり、より好ましくは120〜250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5〜200分であり、より好ましくは10〜100分である。このようにして、形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmであり、より好ましくは0.005〜0.5μmである。
【0080】
液晶配向剤を塗布した後の加熱によって有機溶媒を除去することにより、配向膜となる塗膜が形成される。このとき、液晶配向剤に含有される重合体が、ポリアミック酸であるか、ポリアミック酸エステルであるか、又はイミド環構造とアミック酸構造とを有するイミド化重合体である場合には、塗膜形成後に更に加熱することによって脱水閉環反応を進行させ、よりイミド化された塗膜としてもよい。PSAモードの場合、ポストベーク後の塗膜をそのまま用いて以下の工程を実施してもよいが、液晶分子の倒れ込みを制御し、配向分割を簡易な方法で行う目的で、該塗膜に対して弱いラビング処理を行ってもよい。このラビング処理は、塗膜面に対して、例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦ることにより行うことができる。
【0081】
[工程(2):液晶セルの構築]
上記のようにして塗膜が形成された基板を2枚準備し、所定間隔をあけて対向配置した2枚の基板間に液晶層を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば以下の2つの方法が挙げられる。第一の方法は、従来から知られている方法(真空注入方式)である。先ず、それぞれの基板上の塗膜が対向するように、基板間が例えば1〜5μmとなる間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶組成物を注入して充填した後、注入孔を封止することにより液晶セルを製造する。第二の方法は、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法である。塗膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定位置に、例えば紫外光硬化性のシール剤を塗布し、さらに塗膜面上の所定の数箇所に液晶組成物を滴下した後、塗膜が対向するように他方の基板を貼り合わせるとともに、液晶組成物を基板の全面に押し広げ、次いで基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化することにより液晶セルを製造する。いずれの方法による場合でも、上記のようにして製造した液晶セルにつき、更に、用いた液晶分子が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去してもよい。
【0082】
使用する液晶組成物としては、液晶性化合物と光重合性化合物とを含むものを好ましく用いることができる。液晶性化合物としては、負の誘電異方性を有するネマチック液晶を好ましく用いることができ、例えばジシアノベンゼン系液晶、ピリダジン系液晶、シッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、ターフェニル系液晶などを用いることができる。また、液晶性化合物としては、PSAモード液晶表示素子の応答速度をより速くする観点から、アルケニル系液晶を併用してもよい。当該アルケニル系液晶としては従来公知のものを使用することができ、例えば下記式(L1−1)〜式(L1−9)のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。なお、液晶性化合物としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【化18】
【0083】
光重合性化合物としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基などといったラジカル重合が可能な官能基を有する化合物を用いることができる。反応性の観点からすると、多官能性であることが好ましく、中でもアクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくともいずれかを2つ以上有することがより好ましい。また、液晶分子の配向性を安定に維持する観点から、光重合性化合物としては、液晶骨格としてシクロヘキサン環及びベンゼン環のうちの少なくともいずれか一種の環を合計2つ以上有する化合物を用いることが好ましい。なお、このような光重合性化合物としては、従来公知のものを使用することができる。光重合性化合物の配合割合は、使用する液晶性化合物の全体量に対して0.1〜0.5重量%とすることが好ましい。
【0084】
なお、液晶組成物は、上記の化合物以外に、例えば重合開始剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤等のその他の成分を含有していてもよい。これらの配合量は、使用するその他の成分に応じて適宜調整することができる。液晶層の厚さは、1〜5μmとすることが好ましい。また、シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
【0085】
[工程(3):光照射工程]
液晶セルの構築後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する。ここで印加する電圧は、例えば5〜50Vの直流又は交流とすることができる。また、照射する光としては、例えば150〜800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができるが、300〜400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。照射光の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。なお、上記の好ましい波長領域の紫外線は、光源を、例えばフィルター回折格子などと併用する手段などにより得ることができる。光の照射量としては、好ましくは1,000J/m以上200,000J/m未満であり、より好ましくは1,000〜150,000J/mである。
【0086】
そして、光照射後の液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより液晶表示素子を得ることができる。ここで使用する偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【0087】
本発明の液晶表示素子は、種々の装置に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビなどの表示装置に用いることができる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0089】
以下の実施例及び比較例において、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率、重合体溶液の溶液粘度、重合体の重量平均分子量及びエポキシ当量は以下の方法により測定した。
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH−NMRを測定した。得られたH−NMRスペクトルから、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1−A11/A12×α)×100 …(1)
(数式(1)中、A11は化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、A12はその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
[重合体溶液の溶液粘度]
重合体溶液の溶液粘度[mPa・s]は、所定の溶媒を用い、重合体濃度10重量%に調製した溶液について、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
[重合体の重量平均分子量]
重量平均分子量は、以下の条件におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:テトラヒドロフラン
温度:40℃
圧力:68kgf/cm
[エポキシ当量]
エポキシ当量は、JIS C 2105に記載の塩酸−メチルエチルケトン法により測定した。
【0090】
<化合物の合成>
[実施例1A:化合物(da−5)の合成]
下記スキーム1に従って、上記式(da−5)で表される化合物(以下、化合物(da−5)ともいう。)を合成した。
【化19】
【0091】
ビス(3−ピリジルメチル)アミン12.5g(62.8mmol)、ジクロロメタン150ml、トリエチルアミン15.9ml(114mmol)を混合し、氷浴で冷やしながら、3,5−ジニトロベンゾイルクロリド13.2g(57.1mmol)をジクロロメタン50mlに溶かしたものを滴下した後、室温で3時間撹拌した。反応後、酢酸エチル500ml及びテトラヒドロフラン500mlを加え、蒸留水400mlで4回水洗した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を留去して析出してくる固体をろ過、乾燥し、褐色粉末のジニトロ体(上記式(dm−5)で表される化合物)を17.7g(45.0mmol、収率78.7%)得た。
次いで、上記ジニトロ体17.7g(45.0mmol)、5%パラジウム炭素(50%含水)1.77g、テトラヒドロフラン90ml、エタノール90mlを混合し、水素ガスを入れた風船を取り付けて、水素雰囲気下、室温で5時間攪拌した。反応後、セライトろ過によりパラジウム炭素を除去し、ろ液を濃縮して褐色粉末の化合物(da−5)を12.8g(38.3mmol、収率85.1%)得た。
【0092】
[実施例2A:化合物(da−6)の合成]
下記スキーム2に従って、上記式(da−6)で表される化合物(以下、化合物(da−6)ともいう。)を合成した。
【化20】
【0093】
2,4−ジニトロフェニル酢酸11.3g(50.0mmol)、ビス(3−ピリジルメチル)アミン9.96g(50.0mmol)、ジクロロメタン200mlを混合し、氷浴で冷やしながら、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩11.5g(60.0mmol)、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン1.22g(10.0mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。反応後、酢酸エチル800mlを加え、蒸留水400mlで4回水洗した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を留去して析出してくる固体をろ過、乾燥し、褐色粉末のジニトロ体(上記式(dm−6)で表される化合物)を16.4g(40.3mmol、収率80.5%)得た。
次いで、上記ジニトロ体16.4g(40.3mmol)、5%パラジウム炭素(50%含水)1.64g、テトラヒドロフラン80ml、エタノール80mlを混合し、水素ガスを入れた風船を取り付けて、水素雰囲気下、室温で6時間攪拌した。反応後、セライトろ過によりパラジウム炭素を除去し、ろ液を濃縮して褐色粉末の化合物(da−6)を11.5g(33.0mmol、収率82.0%)得た。
【0094】
[実施例3A:化合物(da−37)の合成]
下記スキーム3に従って、上記式(da−37)で表される化合物(以下、化合物(da−37)ともいう。)を合成した。
【化21】
【0095】
イミノ二酢酸12.9g(96.7mmol)、2M水酸化ナトリウム水溶液145mlを混合し、氷浴で冷やしながら、3,5−ジニトロベンゾイルクロリド22.3g(96.7mmol)をテトラヒドロフラン30mlに溶かしたものを滴下した後、室温で4時間撹拌した。反応後、氷浴で冷やしながら、1M希塩酸300mlを加え、析出した固体をろ過、乾燥した。その後、酢酸エチル200mlで再結晶を行い、析出した固体をろ過、乾燥し、白色粉末のジカルボン酸体(上記式(dm−37−1)で表される化合物)を15.3g(46.7mmol、収率48.3%)得た。
【0096】
次いで、上記ジカルボン酸体15.3g(46.7mmol)、3−アミノメチルピリジン10.6g(98.1mmol)、ジクロロメタン200mlを混合し、氷浴で冷やしながら、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩21.5g(112mmol)、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン2.28g(18.7mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。反応後、酢酸エチル800mlを加え、蒸留水400mlで4回水洗した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮して得られた固体を酢酸エチル100ml及びヘキサン150mlで再結晶を行い、析出した固体をろ過、乾燥し、褐色粉末のジニトロ体(上記式(dm−37−2)で表される化合物)を17.5g(34.6mmol、収率74.1%)得た。
次いで、上記ジニトロ体17.5g(34.6mmol)、5%パラジウム炭素(50%含水)1.75g、テトラヒドロフラン70ml、エタノール70mlを混合し、水素ガスを入れた風船を取り付けて、水素雰囲気下、室温で4時間攪拌した。反応後、セライトろ過によりパラジウム炭素を除去し、ろ液を濃縮して、褐色粉末の化合物(da−37)を13.5g(30.3mmol、収率87.6%)得た。
【0097】
[実施例4A:化合物(da−67)の合成]
下記スキーム4に従って、上記式(da−67)で表される化合物(以下、化合物(da−67)ともいう。)を合成した。
【化22】
【0098】
2,4−ジニトロベンジルブロミド13.1g(50.0mmol)、ビス(3−ピリジルメチル)アミン9.96g(50.0mmol)、炭酸カリウム8.29g(60.0mmol)、ヨウ化カリウム1.66g(10.0mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド200mlを混合し100℃で5時間撹拌した。反応後、酢酸エチル600mlを加え、蒸留水600mlで4回水洗した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮して得られた固体をエタノール200mlで再結晶を行い、析出した固体をろ過、乾燥し、褐色粉末のジニトロ体(上記式(dm−67)で表される化合物)を15.7g(41.4mmol、収率82.8%)得た。
次いで、上記ジニトロ体15.7g(41.4mmol)、5%パラジウム炭素(50%含水)1.57g、テトラヒドロフラン80ml、エタノール80mlを混合し、水素ガスを入れた風船を取り付けて、水素雰囲気下、室温で4時間攪拌した。反応後、セライトろ過によりパラジウム炭素を除去し、ろ液を濃縮して、褐色粉末の化合物(da−67)を12.2g(38.2mmol、収率92.3%)得た。
【0099】
[実施例5A:化合物(da−70)の合成]
下記スキーム5に従って、上記式(da−70)で表される化合物(以下、化合物(da−70)ともいう。)を合成した。
【化23】
【0100】
ペンタエリトリトール102g(750mmol)、トリエチルアミン41.8ml(300mmol)、テトラヒドロフラン750mlを混合し、氷浴で冷やしながら、3,5−ジニトロベンゾイルクロリド12.8g(75.0mmol)をテトラヒドロフラン50mlに溶かしたものを滴下した後、室温で5時間撹拌した。反応後、酢酸エチル1500mlを加え、蒸留水750mlで4回水洗した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮して得られた固体を酢酸エチル100ml及びヘキサン300mlで再結晶を行い、析出した固体をろ過、乾燥し、褐色粉末のトリオール体(上記式(dm−70−1)で表される化合物)を18.9g(57.2mmol、収率76.3%)得た。
次いで、上記トリオール体18.9g(57.2mmol)、ニコチン酸21.1g(172mmol)、ジクロロメタン250mlを混合し、氷浴で冷やしながら、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩39.5g(206mmol)、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン4.19g(34.3mmol)を加え、室温で4時間攪拌した。反応後、酢酸エチル800mlを加え、蒸留水400mlで4回水洗した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮して得られた固体をエタノール200mlで再結晶を行い、析出した固体をろ過、乾燥し、褐色粉末のジニトロ体(上記式(dm−70−2)で表される化合物)を29.6g(45.9mmol、収率80.4%)得た。
次いで、上記ジニトロ体29.6g(45.9mmol)、5%パラジウム炭素(50%含水)2.96g、テトラヒドロフラン100ml、エタノール100mlを混合し、水素ガスを入れた風船を取り付けて、水素雰囲気下、室温で4時間攪拌した。反応後、セライトろ過によりパラジウム炭素を除去し、ろ液を濃縮して、褐色粉末の化合物(da−70)を23.8g(40.7mmol、収率88.7%)得た。
【0101】
<重合体の合成>
[実施例1B:ポリイミド(PI−1)の合成]
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物(TCA)100モル部、ジアミンとしてp−フェニレンジアミン(PDA)70モル部、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル(HCDA)20モル部、及び化合物(da−5)10モル部を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解し、60℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は80mPa・sであった。
次いで、得られたポリアミック酸溶液に、NMPを追加してポリアミック酸濃度7重量%の溶液とし、ピリジン及び無水酢酸を、使用したテトラカルボン酸二無水物の全体量に対してそれぞれ1.0倍モルずつそれぞれ添加して、110℃で4時間、脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換(本操作によって脱水閉環反応に使用したピリジン及び無水酢酸を系外に除去した。以下同じ。)することにより、イミド化率約60%のポリイミド(PI−1)を26重量%含有する溶液を得た。
【0102】
[実施例2B〜9B、合成例1,2]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量、並びにイミド化に際して使用するピリジン及び無水酢酸の量を下記表1のとおり変更した以外は上記実施例1Bと同様にしてポリイミド(PI−2)〜(PI−11)をそれぞれ合成した。得られた重合体のイミド化率の測定結果を下記表1に合わせて示した。なお、実施例7Bでは、重合体の合成の際にテトラカルボン酸二無水物及びジアミンと共にモノアミンを使用した。
【0103】
【表1】
【0104】
表1中、テトラカルボン酸二無水物の()内の数値は、重合体の合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の合計100モル部に対する使用割合[モル部]を表す。ジアミン及びモノアミンの()内の数値は、重合体の合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の合計100モル部に対する使用割合[モル部]を表す。表1中の略称は、それぞれ以下の意味である。なお、表1中の「−」は、該当欄の化合物を使用しなかったことを意味する。
<テトラカルボン酸二無水物>
TCA:2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
BODA:2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物
CB:1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
MTDA:1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
<ジアミン>
PDA:p−フェニレンジアミン
HCDA:3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル
35DAB:3,5−ジアミノ安息香酸
HCODA:コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン
LDA:上記式(Y−1−4)で表される化合物
D−1:1,3−ジアミノ−4−{4−[トランス−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]フェノキシ}ベンゼン(上記式(Y−1−2)で表される化合物)
D−2:1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサン
D−3:3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン
D−5:2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル
D−6:4,4’−ジアミノジフェニルメタン
D−7:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
D−8:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
da−x:下記式(da−x)で表される化合物
【化24】
<モノアミン>
D−4:アニリン
【0105】
[合成例3:ポリアミック酸(PA−1)の合成]
テトラカルボン酸二無水物として1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CB)100モル部、ジアミンとして2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル100モル部を、NMP及びγ−ブチロラクトン(γBL)(NMP:γBL=10:90(重量比))の混合溶媒に溶解し、40℃で3時間反応を行い、ポリアミック酸(PA−1)を10重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取して測定した溶液粘度は180mPa・sであった。
【0106】
[合成例4:ポリアミック酸(PA−2)の合成]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を上記表1のとおり変更した以外は、合成例3と同様の操作を行うことにより、ポリアミック酸(PA−2)を10重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取して測定した溶液粘度は150mPa・sであった。
【0107】
[合成例5:ポリオルガノシロキサン(APS−1)の合成]
撹拌機、温度計、滴下漏斗及び還流冷却管を備えた反応容器に、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(ECETS)100.0g、メチルイソブチルケトン500g及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗より30分かけて滴下した後、還流下で撹拌しつつ、80℃で6時間反応を行った。反応終了後、有機層を取り出し、0.2重量%硝酸アンモニウム水溶液により、洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒及び水を留去することにより、反応性ポリオルガノシロキサン(EPS−1)を粘調な透明液体として得た。この反応性ポリオルガノシロキサンについて、H−NMR分析を行ったところ、化学シフト(δ)=3.2ppm付近にエポキシ基に基づくピークが理論強度どおりに得られ、反応中にエポキシ基の副反応が起こっていないことが確認された。得られた反応性ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量Mwは3,500、エポキシ当量は180g/モルであった。
次いで、200mLの三口フラスコに、反応性ポリオルガノシロキサン(EPS−1)を10.0g、溶媒としてメチルイソブチルケトン30.28g、反応性化合物として4−ドデシルオキシ安息香酸3.98g、及び触媒としてUCAT 18X(商品名、サンアプロ(株)製)0.10gを仕込み、100℃で48時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物に酢酸エチルを加えて得た溶液を3回水洗し、有機層を硫酸マグネシウムを用いて乾燥した後、溶剤を留去することにより、液晶配向性ポリオルガノシロキサン(APS−1)を9.0g得た。得られた重合体の重量平均分子量Mwは9,900であった。
【0108】
[実施例10B,11B]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量、並びにイミド化に際して使用するピリジン及び無水酢酸の量を下記表2のとおり変更した以外は上記実施例1Bと同様にしてポリイミド(PI−12)、(PI−13)をそれぞれ合成した。得られた重合体のイミド化率の測定結果を下記表2に合わせて示した。なお、表2中の各数値、略称及び「−」についての説明は上記表1と同じである。
【0109】
【表2】
【0110】
<液晶組成物の調製>
[液晶組成物LC1の調製]
ネマチック液晶(メルク社製、MLC−6608)10gに対し、下記式(pc−1)で表される光重合性化合物0.3重量%を添加して混合することにより液晶組成物LC1を得た。
[液晶組成物LC2の調製]
ネマチック液晶(メルク社製、MLC−6608)10gに対し、上記式(L1−1)で表される液晶性化合物を5重量%、及び下記式(pc−1)で表される光重合性化合物0.3重量%を添加して混合することにより液晶組成物LC2を得た。
【化25】
【0111】
[実施例1C]
<液晶配向剤の調製>
重合体として上記実施例1Bで得たポリイミド(PI−1)を含有する溶液に、有機溶媒としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶媒組成がNMP:BC=50:50(重量比)、固形分濃度6.0重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いてろ過することにより液晶配向剤(S1)を調製した。
【0112】
<液晶セルの製造>
上記で調製した実施例1Cの液晶配向剤(S1)を、図1に示したようなスリット状にパターニングされ、複数の領域に区画されたITO電極をそれぞれ有するガラス基板2枚の各電極面上に、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いて塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、150℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚600Åの塗膜を形成した。この塗膜につき、超純水中で1分間超音波洗浄を行った後、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜となる塗膜を有する基板を得た。この操作を繰り返し、塗膜を有する基板を一対(2枚)得た。なお、使用した電極のパターンは、PSAモードにおける電極パターンと同種のパターンである。
次いで、上記一対の基板の塗膜を有するそれぞれの外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、塗膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、上記で調製した液晶組成物LC1を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止した。その後、得られた液晶セルの導電膜間に電圧を印加した状態で、100,000J/mの照射量にて光照射した。
【0113】
<信頼性の評価>
上記で製造した液晶セル(光照射後の液晶セル)を用いて、液晶配向膜(液晶表示素子)の信頼性を評価した。評価は以下のようにして行った。まず、上記の液晶セルに、5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率(VHR1)を測定した。次いで、液晶セルを、LEDランプ照射下の80℃オーブン中で200時間静置した後、室温中に静置して室温まで自然冷却した。冷却後、液晶セルに5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率(VHR2)を測定した。なお、測定装置は(株)東陽テクニカ製「VHR−1」を使用した。このときのVHRの変化率(ΔVHR)を下記数式(2)により算出し、ΔVHRによって液晶配向膜の信頼性を評価した。評価は、ΔVHRが1.0%未満であった場合を信頼性「非常に良好(◎)」、1.0%以上1.5%未満であった場合を信頼性「良好(○)」、1.5%以上2.0%未満であった場合を信頼性「可(△)」、2.0%以上であった場合を信頼性「不良(×)」として行った。その結果、実施例1Cでは信頼性「非常に良好」であった。
ΔVHR[%]=(VHR1−VHR2)/(VHR1)×100 …(2)
【0114】
<実施例2C〜9C及び比較例1,2>
液晶配向剤の組成を下記表3に示すとおり変更した以外は、実施例1Cと同様にして液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、それぞれの液晶配向剤を用いて、実施例1Cと同様にして液晶セルを製造するとともに、その製造した液晶セルの評価を行った。なお、実施例3C、4Cについては、使用する液晶組成物をLC1からLC2に変更した。それらの評価結果を下記表3に示す。
【0115】
【表3】
【0116】
表3に示すように、実施例1C〜9Cではいずれも、光照射、80℃のストレス環境下に長時間(200時間)曝した後であっても電圧保持率の低下が少なく、信頼性が良好であった。これに対し、比較例1,2では、光ストレス及び熱ストレスの付与によって電圧保持率が大きく低下した。
【0117】
さらに、ガラス基板上のITO電極のパターンを図2及び図3のようなフィッシュボーン状の電極パターンにそれぞれ変更したほかは、上記実施例1C〜9Cの液晶配向剤を用いて、上記実施例1Cと同様にして液晶セルを製造して評価を行った。この場合にも、実施例1C〜9Cとそれぞれ同様の効果を示した。
【0118】
<実施例10C,11C>
液晶配向剤の組成を下記表4に示すとおり変更した以外は実施例1Cと同様にして液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、それぞれの液晶配向剤を用いて、実施例1Cと同様にして液晶セルを製造するとともに、その製造した液晶セルの評価を行った。その結果を下記表4に示した。
【0119】
【表4】
【0120】
表4に示すように、上記式(d−1A)中のQが窒素原子であるジアミンを用いて合成した重合体を含む実施例10Cでは、信頼性「非常に良好」であった。また、Qが炭素原子であるジアミンを用いて合成した重合体を含む実施例11Cでは、信頼性「可」の評価であった。さらに、ガラス基板上のITO電極のパターンを図2及び図3の電極パターンにそれぞれ変更したほかは、上記実施例10C,11Cの液晶配向剤を用いて上記実施例1Cと同様にして液晶セルを製造して評価を行った。この場合にもそれぞれ同様の結果を示した。
【符号の説明】
【0121】
1…ITO電極、2…スリット部、3…遮光膜
図1
図2
図3