(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、電子ワイヤ、リードワイヤ、モータ−の巻線等の素線に使用される銅線材として、0.02〜0.05mass%程度の酸素を含有するタフピッチ銅や、酸素量が10質量ppm以下とされた無酸素銅等の低酸素銅からなる銅線材が提供されている。ここで、例えば溶接を行う用途においては、酸素含有量が多いと水素脆化が問題となるため、無酸素銅等の低酸素銅からなる銅線材が用いられている。
【0003】
従来、上述の銅線材は、ディップフォーミングや押出しによって製造される。ディップフォーミングでは、銅の種線の外周に溶融銅を連続的に固化させて棒状銅材を得て、これを圧延して銅線材を得る。また、押出し加工では、銅のビレットを押出し加工し、圧延などを行い、銅線材を得る。しかしながら、これらの製造方法は、生産効率が悪く、製造コストが高くなる問題がある。
【0004】
製造コストが低い銅線材の製造方法としては、例えば特許文献1に記載のように、ベルトキャスター式連続鋳造機(ベルト・ホイール式連続鋳造機)と、連続圧延装置とを用いた連続鋳造圧延による方法がある。この連続鋳造圧延法では、シャフト炉などの大型の溶解炉で溶解した銅溶湯を冷却固化して銅鋳塊とし、この銅鋳塊を連続的に引き出し圧延する方法であり、大規模設備で大量生産が可能である。
【0005】
しかしながら、無酸素銅等の低酸素銅を溶製した場合、銅溶湯中の水素濃度が上昇し、水蒸気の気泡が発生する。そして、ベルトキャスター式連続鋳造機(ベルト・ホイール式連続鋳造機)においては、鋳型が回転移動していることから、発生した上記の気泡が湯面から抜けにくく、銅鋳塊内に残存しボイド欠陥が発生する。
【0006】
このような銅鋳塊中に残存するボイド欠陥は、銅線材の表面欠陥の主要因と考えられている。銅線材の表面欠陥は、引抜加工を施し伸線材とした場合にも、伸線材の表面欠陥を引き起こす。そして、この伸線材を巻線の導体として使用した場合、伸線材の表面にエナメル膜(絶縁膜)を塗布すると伸線材の表面欠陥に残存する水分や油分がエナメル膜に閉じ込められ、乾燥後に熱を加えた際にエナメル膜に気泡が発生し膨れてしまう「フクレ」と呼ばれる欠陥が生じ、問題となる。
【0007】
銅鋳塊におけるボイド欠陥及び銅線材における表面欠陥の発生を抑制するために、例えば特許文献2には、鋳塊のリン含有量が1〜10ppmとなるようにリン化合物を銅溶湯に添加するとともに、タンディッシュ内の銅溶湯の温度を1085〜1100℃に調整して製造された銅鋳塊及び銅線材が開示されている。
しかしながら、特許文献2に記載の銅線材においては、リンの含有量が1〜10ppmと少ないため、銅溶湯中の酸素をリン化合物として固定することができず、水蒸気の気泡の発生を十分に抑制することができなかった。このため、銅鋳塊中のボイド欠陥の発生を抑制できず、銅線材に生じる表面欠陥を十分に低減できなかった。
【0008】
一方、特許文献3には、ベルトキャスター式連続鋳造機(ベルト・ホイール式連続鋳造機)によって鋳造することは記載されていないが、酸素含有量を10ppm以下とするとともにリンを10〜140ppm添加したP含有低酸素銅の製造方法において、木炭粉等の固体還元剤が湯面上に配置された移湯樋において不活性ガスをバブリングさせることにより、酸素と炭素の反応を促進させて脱酸効率の向上を図る技術が提案されている。なお、引用文献3においては、銅溶湯中のガス成分を分圧平衡法で測定しているが、銅鋳塊中のガス成分については記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載されたように、単にリンを添加して銅溶湯中の酸素量を低減しただけでは、ベルトキャスター式連続鋳造機によって製出された銅鋳塊において、ボイド欠陥を十分に低減することができなかった。
また、特許文献3に記載された鋳造方法においては、リンを10〜140ppmと比較的多く含有していることから、鋳造時の銅溶湯中の酸素をリンで十分に固定することは可能であるが、銅中にリンが固溶することにより、銅鋳塊において導電率が大幅に低下してしまうといった問題があった。
【0011】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、ベルトキャスター式連続鋳造機によって鋳造され、ボイド欠陥が確実に低減された銅鋳塊、この銅鋳塊からなり、表面欠陥の発生が抑制された銅線材、及び、この銅鋳塊の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明者ら鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。
ベルトキャスター式連続鋳造機によって鋳造された銅鋳塊におけるボイド欠陥の位置を透過X線によって特定し、真空中においてこのボイド欠陥をドリルによって開放し、ボイド欠陥から放出されたガスを質量分析計で分析した。その結果、H
2、H
2OとともにCO、CO
2が検出された。また、ボイド欠陥の内面をAESで分析した結果、炭素、酸素が検出された。
【0013】
以上の分析結果から、ベルトキャスター式連続鋳造機によって鋳造された銅鋳塊においては、銅溶湯中に含まれる水素、酸素のみでなく炭素もボイド欠陥の発生に大きく影響を与えていることが確認された。
通常、ベルトキャスター式連続鋳造機によって銅鋳塊を鋳造する場合、銅溶湯を貯留するタンディッシュにおいて固体還元剤(木炭粉等)を銅溶湯の上に投入し、銅溶湯の酸化を防止している。このため、銅溶湯中にこの固体還元剤が混入することがあり、また、溶解することもある。そして、銅溶湯中に溶解した炭素は、銅溶湯の温度が低下すると、炭素粒子として晶出することになる。これにより、鋳型内に供給される銅溶湯中には、混入した炭素粉や晶出した炭素粒子が固体として存在している。
【0014】
そして、銅溶湯が鋳型内で凝固する過程において、炭素粉や炭素粒子と酸素とが反応し、CO、CO
2ガスが発生し、ボイドが形成されると考えられる。なお、銅溶湯中に固体として炭素粉や炭素粒子が存在していることから、酸素分圧が低い状況でもCO、CO
2ガスの気泡が発生することになる。そして、このボイドに、水素や水蒸気が混入することにより、直径1mm以上の大きなボイド欠陥が形成される。
ここで、引用文献3に記載されているような通常の連続鋳造鋳型においては、銅溶湯中の炭素粉や炭素粒子が浮上分離されるために炭素を起因とするボイド欠陥は発生しにくいが、ベルトキャスター式連続鋳造機においては、鋳型内において銅溶湯中の炭素粉や炭素粒子が浮上分離され難いため、上述のように炭素を起因とするボイド欠陥が形成されると考えられる。
【0015】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の銅鋳塊は、ベルトキャスター式連続鋳造機によって鋳造された銅鋳塊であって、炭素の含有量が0.4質量ppm以上1質量ppm以下、酸素の含有量が10質量ppm以下、水素の含有量が0.8質量ppm以下、リンの含有量が15質量ppm以上35質量ppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物からなり、さらに、炭素とリンとCuを含む酸化物からなる介在物を有し、炭素を起因とするボイドの発生が抑制されて
おり、導電率が98%IACS以上とされていることを特徴としている。
【0016】
この構成の銅鋳塊においては、酸素の含有量を10質量ppm以下、水素の含有量を0.8質量ppm以下とするとともに、炭素の含有量を1質量ppm以下に規制していることから、水素、酸素、炭素を起因とするボイド欠陥の形成を抑制することができる。
また、15質量ppm以上35質量ppm以下のリンを含有しているので、リンによって酸素を十分に低減することができる。
さらに、炭素とリンとCuを含む酸化物からなる介在物が存在しているので、銅溶湯中の炭素がリンによって固定されることにより、銅溶湯中に炭素粒子が晶出することが抑制され、炭素を起因とするボイド欠陥の形成を抑制することができる。また、リンの含有量を15質量ppm以上35質量ppm以下と比較的多くしても、銅中に固溶するリンが低減され、導電率が大きく低下することを抑制できる。
また、ベルトキャスター式連続鋳造機によって製造されているので、製造コストを大幅に低減することができる。
【0017】
さらに、導電率が98%IAC
S以上と、通常の無酸素銅と同等の導電率を有しているので、無酸素銅の代替材として適用することが可能となる。
【0018】
本発明の銅線材は、上述の銅鋳塊に対して加工を施すことによって成形された銅線材であって、炭素の含有量が1質量ppm以下、酸素の含有量が10質量ppm以下、水素の含有量が0.8質量ppm以下、リンの含有量が15質量ppm以上35質量ppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有することを特徴としている。
【0019】
この構成の銅線材においては、ボイド欠陥の発生が抑制された銅鋳塊から成形されているので、表面欠陥の発生を抑制することが可能となる。
また、ベルトキャスター式連続鋳造機によって製造された銅鋳塊を用いているので、製造コストを大幅に低減することができる。
【0020】
本発明の銅鋳塊の製造方法は、上述の銅鋳塊を製造する銅鋳塊の製造方法であって、前記ベルトキャスター式連続鋳造機に銅溶湯を供給するタンディッシュと、このタンディッシュに銅溶湯を移送する鋳造樋と、の間に、セラミック・フォーム・フィルターを設置するとともに、前記鋳造樋では、炭素粉を固体還元剤として使用するとともに銅溶湯温度を1085℃以上1100℃未満の範囲内に設定し、前記タンディッシュでは、固体還元剤を使用せずに銅溶湯温度を1100℃以上1150℃以下の範囲内とし、リンを添加することを特徴としている。
【0021】
この構成の銅鋳塊の製造方法においては、鋳造樋では、炭素粉を固体還元剤として使用するとともに銅溶湯温度を1085℃以上1100℃未満の範囲内に設定しているので、固体還元剤によって酸素含有量を低減できるとともに、銅溶湯中への炭素の溶解を抑制することができる。
また、鋳造樋とタンディッシュとの間にセラミック・フォーム・フィルターを設置しているので、鋳造樋において混入した炭素粉を除去することができ、タンディッシュ内の銅溶湯中に炭素粉が混入することを抑制できる。
さらに、タンディッシュ内の銅溶湯温度が1100℃以上1150℃以下と比較的高温とされていることから、銅溶湯中に炭素粒子が晶出することを抑制できる。また、銅溶湯温度を高温に維持しているので、晶出前に炭素とPとを反応させることが可能となる。
よって、タンディッシュ内の銅溶湯中に固体として炭素粉や炭素粒子が存在することを抑制でき、CO、CO
2によるボイドの形成を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ベルトキャスター式連続鋳造機によって鋳造され、ボイド欠陥が確実に低減された銅鋳塊、この銅鋳塊からなり、表面欠陥の発生が抑制された銅線材、及び、この銅鋳塊の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態である銅鋳塊、銅線材、及び、銅鋳塊の製造方法について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態である銅鋳塊30及び銅線材40は、炭素の含有量が1質量ppm以下、酸素の含有量が10質量ppm以下、水素の含有量が0.8質量ppm以下、リンの含有量が15質量ppm以上35質量ppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有しており、内部に、炭素とリンとCuを含む酸化物からなる介在物を有している。
さらに、本実施形態である銅鋳塊30及び銅線材40においては、導電率が98%IACS以上とされている。
【0025】
ここで、各元素の含有量を上述のように規定した理由について説明する。
【0026】
(炭素:1質量ppm以下)
炭素の含有量が1質量ppmを超えると、COガス、CO
2ガスが発生し、ボイドが生成しやすくなる。このため、炭素の含有量を1質量ppm以下に規定している。COガス、CO
2ガスの発生をさらに抑制するためには、炭素の含有量を0.7質量ppm以下とすることが好ましい。なお、炭素とリンとCuを含む酸化物からなる介在物を形成するために、炭素の含有量を0.2質量ppm以上とすることが好ましい。
【0027】
(酸素:10質量ppm以下)
酸素の含有量が10質量ppmを超えると、ボイドの原因となるH
2Oガス、COガス、CO
2ガスの生成が促進されてしまう。このため、酸素の含有量を10質量ppm以下に規定している。H
2Oガス、COガス、CO
2ガスの発生をさらに抑制するためには、酸素の含有量を8質量ppm以下とすることが好ましい。
【0028】
(水素:0.8質量ppm以下)
水素の含有量が0.8質量ppmを超えると、ボイドの原因となるH
2ガス、H
2Oガスの発生が促進されてしまう。このため、水素の含有量を0.8質量ppm以下に規定している。H
2ガス、H
2Oガスの発生をさらに抑制するためには、水素の含有量を0.6質量ppm以下とすることが好ましい。
【0029】
(リン:15質量ppm以上35質量ppm以下)
リンは、銅溶湯中の酸素と反応してリン酸化物を生成することにより、銅溶湯中の酸素量を低減させる作用効果を有する。また、炭素とリンと銅を含んだ酸化物を生成することによって銅溶湯中の炭素を固定し、COガス、CO
2ガスの生成を抑制する作用効果を有する。一方、リンは、銅中に固溶することで導電率を大幅に低下させてしまう。
このため、リンの含有量を15質量ppm以上35質量ppm以下の範囲内に設定している。上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、リンの含有量を20質量ppm以上、30質量ppm以下とすることが好ましい。
【0030】
そして、本実施形態である銅鋳塊30及び銅線材40は、
図1に示すように、ベルトキャスター式連続鋳造機(ベルト・ホイール式連続鋳造機20)と、連続圧延機14と、を備えた連続鋳造圧延装置10によって製造される。
ここで、本実施形態に係る銅鋳塊30及び銅線材40を製造する連続鋳造圧延装置10について説明する。
【0031】
連続鋳造圧延装置10は、溶解炉11と、保持炉12と、鋳造樋13と、ベルト・ホイール式連続鋳造機20と、連続圧延機14と、コイラー17とを有している。
【0032】
保持炉12は、溶解炉11でつくられた銅溶湯を、所定の温度で保持したままで一旦貯留し、一定量の銅溶湯を鋳造樋13に送るためのものである。
【0033】
鋳造樋13は、保持炉12から送られた銅溶湯を、ベルト・ホイール式連続鋳造機20の上方に配置されたタンディッシュ21まで移送するものである。
【0034】
タンディッシュ21の銅溶湯の流れ方向終端側には、注湯ノズル22が配置されており、この注湯ノズル22を介してタンディッシュ21内の銅溶湯がベルト・ホイール式連続鋳造機20へと供給される。
ベルト・ホイール式連続鋳造機20は、外周面に溝が形成された鋳造輪23と、この鋳造輪23の外周面の一部に接触するように周回移動される無端ベルト24とを有しており、前記溝と無端ベルト24との間に形成された空間に、注湯ノズル22を介して供給された銅溶湯を注入して冷却し、銅鋳塊30を連続的に鋳造するものである。
【0035】
そして、このベルト・ホイール式連続鋳造機20は、連続圧延機14に連結されている。
この連続圧延機14は、ベルト・ホイール式連続鋳造機20から製出された銅鋳塊30を被圧延材として連続的に圧延して、所定の外径の銅線材40を製出するものである。連続圧延機14から製出された銅線材40は、洗浄冷却装置15および探傷器16を介してコイラー17に巻き取られる。
【0036】
洗浄冷却装置15は、連続圧延機14から製出された銅線材40をアルコール等の洗浄剤で表面を洗浄するとともに冷却するものである。
また、探傷器16は、洗浄冷却装置15から送られた銅線材40の表面傷を探知するものである。
【0037】
以下に、前述の構成とされた連続鋳造圧延装置10を用いた銅鋳塊30及び銅線材40の製造方法について、
図1及び
図2を用いて説明する。
まず、溶解炉11に、4N(純度99.99mass%以上)の電気銅を投入して溶解し、銅溶湯を得る(溶解工程S01)。この溶解工程S01では、シャフト炉の複数のバーナの空燃比を調整して溶解炉11の内部を還元雰囲気とされている。
【0038】
溶解炉11によって得られた銅溶湯は、保持炉12へ送られて所定の温度に保持される(保持工程S02)。この保持炉12では、銅溶湯中の酸素含有量を増加させることにより、銅溶湯中の水素を除去している。
【0039】
次に、保持炉12の銅溶湯が鋳造樋13を介してタンディッシュ21まで移送される(銅溶湯移送工程S03)。本実施形態では、鋳造桶13には固体還元剤(炭素粉)が投入されており、銅溶湯の脱酸が行われる。ここで、銅溶湯への炭素の溶解を抑制するために、鋳造樋13における銅溶湯温度が1085℃以上1100℃未満の範囲内に設定されている。
また、鋳造樋13とタンディッシュ21との間には、高アルミナ質のセラミック・フォーム・フィルターが設置されており、銅溶湯中に混入した固体還元剤(炭素粉)が除去される。
【0040】
そして、タンディッシュ21において、銅溶湯にリンを添加する(リン添加工程S04)。このとき、銅溶湯から固体の炭素粒子が晶出することを抑制するために、タンディッシュ21内の銅溶湯温度を1100℃以上1150℃以下の範囲内に設定している。また、タンディッシュ21内では、固体還元剤を用いずにCOガス雰囲気とすることで、銅溶湯の酸化を防止している。
【0041】
そして、タンディッシュ21から注湯ノズル22を介してベルト・ホイール式連続鋳造機20の鋳造輪23と無端ベルト24との間に形成された空間(モールド)へ供給され、冷却されて凝固し、銅鋳塊30が製出される(連続鋳造工程S05)。この連続鋳造工程S05においては、銅溶湯が急冷されることにより、炭素の晶出が抑制される。なお、本実施形態においては、製出される銅鋳塊30は、幅が約100mm、高さが約50mmの略断面台形状とされている。
【0042】
ベルト・ホイール式連続鋳造機20によって連続的に製出される銅鋳塊30は、連続圧延機14に供給される。この連続圧延機14によって、銅鋳塊30が圧延され、断面円形をなす銅線材40が製出される(連続圧延工程S06)。
製出された銅線材40は、洗浄冷却装置15で洗浄と冷却とが行われ、探傷器16によって傷を検知され、品質に問題のない銅線材40がコイラー17に巻き取られる。
【0043】
このような構成とされた本実施形態に係る銅鋳塊30及び銅線材40においては、酸素の含有量を10質量ppm以下、水素の含有量を0.8質量ppm以下とするとともに、炭素の含有量を1質量ppm以下に規制していることから、酸素、水素、炭素を起因とするボイド欠陥及びこのボイド欠陥に起因する表面欠陥の形成を抑制することができる。
また、15質量ppm以上35質量ppm以下のリンを含有しているので、リンによって酸素量を十分に低減することができる。
【0044】
さらに、炭素とリンとCuを含む酸化物からなる介在物が存在しているので、炭素がリンによって固定されることにより、炭素を起因とするボイド欠陥の形成を抑制することができる。また、リンの含有量を15質量ppm以上35質量ppm以下と比較的多くしても、銅中に固溶するリンが低減され、導電率が大きく低下することを抑制できる。
【0045】
また、ベルトキャスター式連続鋳造機の1種であるベルト・ホイール式連続鋳造機20と連続圧延機14とを備えた連続鋳造圧延装置10によって製造されているので、銅鋳塊30及び銅線材40の製造コストを大幅に低減することができる。
さらに、本実施形態の銅鋳塊30及び銅線材40においては、導電率が98%IACS%以上と、通常の無酸素銅と同等の導電率を有しているので、無酸素銅の代替材として適用することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態においては、鋳造樋13における銅溶湯温度を1085℃以上1100℃未満と比較的低い温度に設定しているので、鋳造樋13において銅溶湯中に炭素が溶解することを抑制できる。
さらに、鋳造樋13とタンディッシュ21との間にセラミックス・フォーム・フィルタが配設されているので、銅溶湯に混入した炭素粉を除去することができる。
また、タンディッシュ21における銅溶湯温度を1100℃以上1150℃以下と比較的高い温度に設定しているので、炭素粒子の晶出を抑制することができる。この結果、銅溶湯中の炭素がPと反応する。
このように、銅溶湯中に固体の炭素が存在することが抑制されているので、COガス、CO
2ガスに起因するボイド欠陥の発生を抑制できる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、ベルト・ホイール式鋳造機を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、ツイン・ベルト式鋳造機等の他のベルトキャスター式連続鋳造機を用いることもできる。
【0048】
また、本実施形態では、4Nの電気銅を溶解原料として、銅鋳塊及び銅線材を製出するものとして説明したが、これに限定されることはなく、スクラップなどを原料として銅線材を製出してもよい。
さらに、銅鋳塊の断面形状やサイズに限定はなく、銅線材の線径についても、実施形態に限定されることはない。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
確認実験は、
図1に示す連続鋳造圧延装置10を用いて、製造条件を変更し、本発明例1〜3、比較例1〜5の銅鋳塊(断面積:4000mm
2)及び銅線材(線径:8.0mm)を準備した。
【0050】
本発明例1〜3では、本実施形態に記載したように、鋳造樋13における銅溶湯温度を1085℃以上1100℃未満の範囲内とするとともに鋳造樋13とタンディッシュ21との間にセラミック・フォーム・フィルターを設置し、タンディッシュ21における銅溶湯温度を1100℃以上1150℃以下の範囲内としてリン(Cu−P化合物)を添加し、連続鋳造圧延を行った。さらに、溶解炉11、保持炉12、鋳造樋13およびタンディッシュでのブタン燃焼における空気の混合比率を適宜調節して、タンディッシュ21内の銅溶湯中の酸素濃度を5から9質量ppm、水素を0.4から0.7質量ppmに調節した。
【0051】
比較例1では、鋳造樋13の銅溶湯温度の制御を1100℃以上1150℃以下とするとともに鋳造樋13とタンディッシュ21との間にセラミック・フォーム・フィルターを設置し、タンディッシュ21における銅溶湯温度の制御を1085℃以上1100℃未満とし、タンディッシュ21においてリン(Cu−P化合物)を添加し、連続鋳造圧延を行った。
比較例2では、タンディッシュ21の銅溶湯温度の制御を1100℃以上1150℃以下とし、他の条件は比較例1と同じにした。
比較例3では、セラミック・フォーム・フィルターの設置を実施しなかったが、他の条件は本発明と同じにした。比較例1〜3では、溶解炉11、保持炉12、鋳造樋13およびタンディッシュでのブタン燃焼における空気の混合比率を適宜調節して、タンディッシュ21内の銅溶湯中の酸素濃度を5〜6質量ppm、水素を0.4〜0.5質量ppmに調節した。
【0052】
比較例4〜6では、鋳造樋13における銅溶湯温度の制御を1085℃以上1100℃未満とするとともに、セラミック・フォーム・フィルターを設置し、タンディッシュ21における銅溶湯温度の制御を1100℃以上1150℃以下とした。さらに、溶解炉11、保持炉12、鋳造樋13およびタンディッシュでのブタン燃焼における空気の混合比率を適宜調節して、タンディッシュ21内の銅溶湯中の酸素濃度と、水素濃度を調節した。
比較例7では、タンディッシュ21においてリンを添加する濃度を高めたが、それ以外の条件は、本発明と同じにした。
比較例8では、タンディッシュ21における銅溶湯の制御を1085℃以上1100℃未満とし、タンディッシュ21においてリンを添加する濃度を下げ、連続鋳造圧延を行った。
【0053】
まず、得られた銅鋳塊及び銅線材の炭素含有量、酸素含有量、水素含有量、リン含有量及び導電率を測定した。測定結果を表1に示す。
炭素含有量は、VG Microtrace社製のグロー放電質量分析装置(VG−9000)にて測定した。
水素含有量は、LECO社製の水素分析装置(RHEN−600型)を用いて不活性ガス融解ガスクロマトグラフィ分離熱伝導度測定法にて測定した。
酸素含有量は、LECO社製の酸素分析装置(RO−600型)を用いて、不活性ガス融解赤外線吸収法にて測定した。
リン含有量は、Thermo Fisher Scientific社製のARL4460を用いて、スパーク放電発光分光分析法にて測定した。
導電率は、横河電気社製の精密級ダブルブリッジを用いてダブルブリッジ法にて測定した。
【0054】
次に、得られた銅鋳塊におけるボイド欠陥の個数を測定した。銅鋳塊を2mmの厚さ(鋳造方向厚さ)に切断し、透過X線によって直径1mm以上のボイド欠陥の個数を測定した。測定結果を表1に示す。
また、得られた銅線材の表面欠陥を渦流探傷器によって検出し、5トン当たりの表面欠陥個数を測定した。測定結果を表1に示す。
【0055】
さらに、得られた銅鋳塊断面のSEM観察を行うとともにEDX分析を実施し、炭素とリンとCuを含む酸化物からなる介在物の有無を確認した。評価結果を表1に示す。また、本発明例1のSEM観察結果及び介在物のEDX分析結果を
図3に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
比較例1、2においては、銅鋳塊における炭素含有量が1質量ppmを超えており、ボイド欠陥及び表面欠陥が多かった。CO、CO
2によるボイドの発生を抑制できなかったためと推測される。
比較例3においては、セラミック・フォーム・フィルターの設置が無く、ボイド欠陥および表面欠陥が多かった。
【0058】
比較例4においては、銅鋳塊における酸素含有量が10質量ppmを超えており、ボイド欠陥及び表面欠陥が多かった。H
2O、CO、CO
2によるボイドの発生を抑制できなかったためと推測される。
比較例5においては、銅鋳塊における水素含有量が0.8質量ppmを超えており、ボイド欠陥及び表面欠陥が多かった。H
2、H
2Oによるボイドの発生を抑制できなかったためと推測される。
【0059】
比較例6においては、銅鋳塊におけるリン含有量が15質量ppm未満であり、ボイド欠陥及び表面欠陥が多かった。酸素が十分に低減されておらず、H
2O、CO、CO
2によるボイドの発生を抑制できなかったためと推測される。
比較例7においては、銅鋳塊及び銅線材におけるリン含有量が35質量ppmを超えており、導電率が大きく低下した。
【0060】
比較例8においては、銅鋳塊におけるリン含有量が15質量ppm未満であり、ボイド欠陥及び表面欠陥が多かった。リンによる酸素低減が不十分であり、CO、CO
2によるボイドの発生を抑制できなかったためと推測される。また、比較例8においては、炭素とリンとCuを含む酸化物からなる介在物は観察されなかった。タンディッシュにおける銅溶湯温度が1085℃以上1100℃未満と比較的低く設定されていることから、銅溶湯から炭素が晶出してCO、CO
2となったため、炭素とリンとCuを含む酸化物からなる介在物が形成されなかったと推測される。
【0061】
これに対して、本発明例1〜3においては、ボイド欠陥及び表面欠陥が少なかった。また、
図3に示すように、炭素とリンとCuを含む酸化物からなる介在物が存在していることが確認された。
炭素の含有量が1質量ppm以下、酸素の含有量が10質量ppm以下、水素の含有量が0.8質量ppm以下、リンの含有量が15質量ppm以上35質量ppm以下の範囲内とされており、さらに炭素とリンとCuを含む酸化物からなる介在物を有していることから、H
2、H
2O、CO、CO
2によるボイドの生成が抑制されたためと推測される。
【0062】
以上の確認実験の結果から、本発明によれば、ボイド欠陥が確実に低減されたベルトキャスター式連続鋳造機によって鋳造された銅鋳塊及びこの銅鋳塊からなり、表面欠陥の発生が抑制された銅線材を提供することが可能であることが確認された。