(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物はその硬化物が光学特性、機械特性、電気特性、耐熱性、接着性、耐湿性、耐水性、耐薬品性等に優れた性質を示すことから、例えば、光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料、塗料、接着剤等、各種用途の構成材料として幅広く用いられている。
【0003】
例えば、光学部材、電気・電子部品材料用途等のように光学特性が要求される用途では、透明性や屈折率といった光学特性とともに、硬化物として機能するために成形性が良好であることが要求される。一方、オプトデバイスや表示デバイスなどの用途ではいわゆるプリント配線板で必要とされるレベルの高い耐熱性が要求される。
【0004】
通常使用されているエポキシ化合物はビスフェノールとエピクロルヒドリンとの反応によって製造される、いわゆる、エピ−ビス型エポキシ樹脂、ノボラックフェノールとエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるノボラック型エポキシ樹脂等、分子骨格にベンゼン環を有するものである。一般的にエポキシ化合物は、アミン類、チオール類、酸無水物、フェノール類等の硬化剤を用いて熱硬化させることで、様々な特性を発現させているが、熱硬化時に着色するものが多く、光学特性が要求される用途には適応できないという問題があった。
【0005】
そのため、紫外線等の活性エネルギー線を用いてカチオン種を発生させる光カチオン硬化触媒や、熱によってカチオン種を発生させる熱カチオン硬化触媒を用いてエポキシ基を重合させるカチオン硬化が盛んに検討されている。しかし、カチオン硬化は硬化剤を用いた熱硬化に比べて透明性の点で有利だが、通常、硬化が不十分であるため耐熱性の点で硬化剤を用いた熱硬化に劣るという欠点があった。
【0006】
透明性と耐熱性を両立するために、構造中に芳香環、ハロゲン原子、硫黄原子を導入したカチオン硬化性エポキシ化合物が検討されている。
【0007】
特許文献1には、末端にグリシジル基を有する含硫黄化合物を含有する樹脂組成物は、カチオン重合することにより高屈折率を有する硬化物を形成することができることが記載されている。しかしながら、硬化剤を用いて熱硬化させようとした場合、前記樹脂組成物はベンゼン骨格のため耐侯性が悪く、着色してしまう。また、2官能エポキシのため硬化速度が遅いという課題があった。
【0008】
一方、特許文献2には、脂環式エポキシ基を有する含硫黄化合物を含有する樹脂組成物は、重合することにより優れた耐熱性と高屈折率を有する硬化物を形成できることが記載されている。
しかしながら、硬化剤を用いて熱硬化させようとした場合、脂環式エポキシは反応性が低く十分に硬化しないという課題があった。
【0009】
すなわち、硬化剤による熱硬化により、優れた硬化性を示し、高い耐熱性及び透明性を有する硬化物を形成することができるエポキシ化合物は未だ見出されていないというのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明における含硫黄エポキシ化合物について以下に説明する。
【0034】
本発明における含硫黄エポキシ化合物は一般式(1)で表される構造を有する。
【0035】
一般式(1)ならびに一般式(6)における、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子または1価の炭化水素基を表す。
【0036】
1価の炭化水素基としてはたとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、テトラデシル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、トリル基、ナフチル基、など炭素数1〜22の炭化水素基が挙げられる。透明性を求められる用途では、ベンゼン環のない脂肪族炭化水素基が好ましい。また、耐熱性の点で、特に水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。
【0037】
一般式(1)ならびに一般式(6)におけるZは、一般式(2)〜(5)のいずれかを表し、一般式(2)〜(5)におけるAは、炭素数1〜8の2価の炭化水素基を示す。
【0038】
炭素数1〜8の2価の炭化水素基としてはたとえば、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基、シクロアルキレン基、およびこれらが結合した基などを挙げることができる。
【0039】
直鎖状または分岐鎖状アルキレン基としては、たとえば、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレンなどの炭素数1〜8の直鎖状アルキレン基、メチルエチレン、メチルプロピレン、エチルエチレン、1,2−ジメチルエチレン、1,1−ジメチルエチレン、1−エチルプロピレン、2−エチルプロピレン、1,2−ジメチルプロピレン、2,2−ジメチルプロピレン、1−プロピルプロピレン、2−プロピルプロピレン、1−メチル−1−エチルプロピレン、1−メチル−2−エチルプロピレン、1−エチル−2−メチルプロピレン、2−メチル−2−エチルプロピレン、1−メチルブチレン、2−メチルブチレン、3−メチルブチレン、2−エチルブチレン、1−メチルペンチレン、2−エチルペンチレン、1−メチルへプチレン、基などの炭素数1〜8の分岐鎖状アルキレン基を挙げることができる。
【0040】
シクロアルキレン基としては、たとえば、シクロペンチレン、シクロヘキシレン(たとえば、o−シクロヘキシレン、m−シクロヘキシレン、p−シクロヘキシレン)基などの炭素数1〜8のシクロアルキレン基を挙げることができる。
【0041】
本発明における含硫黄エポキシ化合物の具体例を以下に示すが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0046】
本発明における含硫黄エポキシ化合物の製造方法について以下に説明する。
【0047】
本発明における含硫黄エポキシ化合物は下記一般式(7)で表される構造を有する多官能チオールと末端にグリシジルエポキシ基を有する不飽和二重結合化合物とを反応させる付加工程と、前記付加反応で得られた一般式(6)で表される化合物を、酸化剤を使用して(−S−)を(−SO
2−)に酸化する酸化工程の2段階で製造する。
【0049】
(一般式(7)中、nは3または4の整数であり、
Xは、水素原子または1価の炭化水素基を表し、
Yは、水素原子または1価の炭化水素基を表す。)
【0050】
ここで、一般式(7)における、XおよびYは、一般式(1)における、XおよびYと同義である。
【0051】
上記一般式(7)で表される構造を有する多官能チオールとしては、例えば、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールブタントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトプロピオナート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)、トリメチロールブタントリス(3-メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリトリトールテトラ(3-メルカプトプロピオナート)、等が挙げられる。末端にグリシジルエポキシ基を有する不飽和二重結合化合物との付加反応における反応性の点で、1級チオールの方が好ましい。
【0052】
末端にグリシジルエポキシ基を有する不飽和二重結合化合物としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、等の(メタ)アクリレート化合物、ブタンジオールモノビニルエーテルモノグリシジルエーテル、ヘキサンジオールモノビニルエーテルモノグリシジルエーテル、シクロへキシレンジメタノールビニルエーテルグリシジルエーテル、等のビニルエーテル化合物、ブタンジオールモノアリルエーテルモノグリシジルエーテル、ヘキサンジオールモノアリルエーテルモノグリシジルエーテル、シクロへキシレンジメタノールアリルエーテルグリシジルエーテル、等のアリルエーテル化合物が挙げられる。多官能チオールとの付加反応における反応性の点で、ビニル化合物、アクリレート化合物が好ましい。
【0053】
多官能チオールとの付加反応は、末端にグリシジルエポキシ基を有する不飽和二重結合化合物としてビニルエーテル又はアリルエーテル系化合物を用いた場合は、エン・チオール反応が進行し、末端にグリシジルエポキシ基を有する不飽和二重結合化合物として(メタ)アクリレートを用いた場合は、チオール・アクリレートマイケル付加反応が進行する。
【0054】
多官能チオールとビニルエーテル又はアリルエーテル系化合物のエン・チオール反応について以下に説明する。
【0055】
ビニルエーテル又はアリルエーテル系化合物の配合量は、チオールに対して、通常1.0〜1.5倍モルであり、経済的な面および精製操作の面で、実用的にはチオールに対して等量(1.0倍モル)が好ましい。
【0056】
反応温度は10〜40℃であり、通常室温下で十分に反応する。
【0057】
また、本反応は活性エネルギー線の照射で行なうこともできる。
【0058】
活性エネルギー線の照射に用いる光源は、波長300nm以下に発光分布を発するものであれば特に限定されない。たとえば、水銀ランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプなどが挙げられる。
【0059】
多官能チオールと(メタ)アクリレートの、チオール・アクリレートマイケル付加反応について以下に説明する。
【0060】
(メタ)アクリレートの配合量は、チオールに対して、通常1.0〜2.0倍モルであり、経済的な面および(メタ)アクリレートの単独重合を抑制する目的で、実用的にはチオールに対して1.0〜1.2倍モルが好ましい。
【0061】
また、本反応は、必要に応じて反応触媒を添加しても良い。
【0062】
触媒としては例えば、第3級アミン類、例えばトリエチルアミン、トリプロピリアミン、トリブチルアミン、ベンジルジメチルアミン等あるいは第3級のアミンの第4アンモニウム縁、例えばテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド等あるいは2−エチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類が好ましい。
【0063】
上記触媒の添加量は反応物に対して0.05〜3.0重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%である。
【0064】
さらに、反応中の重合防止のために重合禁止剤を反応系に添加することが好ましい。
【0065】
重合禁止剤としては例えば、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール等のキノン系重合禁止剤や2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール等のアルキルフェノール系重合禁止剤やアルキル化ジフェニルアミン、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のアミン系重合禁止剤や2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル系重合禁止剤等の重合禁止剤が好ましい。
【0066】
これらの重合禁止剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。添加量としては、出発原料に対して0.02〜3.0重量%、好ましくは0.05〜1.0重量%である。前記重合禁止剤添加量の範囲が、収率の点、重合抑制の点および経済性の点で好ましい。
【0067】
反応温度は、室温〜60℃、好ましくは20〜40℃である。これよりも反応温度が低いと反応時間が長くなり、これよりも反応温度が高いと重合反応が起こる危険がある。反応中は重合防止のため、空気を反応系に吹き込むのが好ましい。
【0068】
また、本反応は適当な溶媒を用いて行なうこともできる。
【0069】
溶媒としては極性溶媒が好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが上げられる。チオール・アクリレートマイケル付加反応の場合は、特に、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどのプロトン性極性溶媒が好ましい。
【0070】
このようにして合成した化合物を、酸化剤を使用して酸化すると、(−S−)基が(−SO
2−)基に酸化された上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を製造することができる。
【0071】
酸化剤としては、たとえば、酸素を含むガス、過酸化水素、過酸化ナトリウム等の無機過酸化物、過酢酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸、p−ニトロ過安息香酸、モノペルオキシフタル酸マグネシウム、ペルオキシマレイン酸、ペルオキシトリフルオロ酢酸、ペルオキシフタル酸、ペルオキシラウリン酸、tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、メンチルヒドロペルオキシド、1−メチルヘキサンヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物が挙げられる。
【0072】
酸化反応において、必要に応じて触媒を使用することができる。たとえば、タングステン、モリブデン、バナジウム、チタン、レニウム、ルテニウムなどが含まれる金属化合物、アセトアルデヒド、イソブチルアルデヒド、イソバレロアルデヒド、トリメチルアセトアルデヒド、などのアルデヒド類、α−アミノメチルホスホン酸、α−アミノエチルホスホン酸などの、α−アミノホスホン酸類、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、臭化トリオクチルエチルアンモニウム、ヨウ化ジラウリルジメチルアンモニム、リン酸水素ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、などの4級オニウム塩などが挙げられる。
【0073】
酸化反応に用いる溶媒は上記酸化剤と反応しないものを使用できる。たとえば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0074】
酸化反応の反応温度は使用する酸化剤、触媒、溶媒によって異なるが、0〜150℃が好ましく、より好ましくは0〜50℃である。
【0075】
本発明の樹脂組成物について説明する。
【0076】
本発明で用いられる硬化剤としては、ジシアンジアミド、多価フェノール類、アミン類、酸無水物類、ポリアミド樹脂、イミダゾール、などが挙げられる。
【0077】
硬化剤として使用される多価フェノール類の例としては、フェノール、クレゾール、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのノボラック樹脂及びこれらのハロゲン化物、アルキル基置換体、ピロガロール、フロログルミン、ポリビニルフェノールなどの多官能フェノール類の他、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどの二官能フェノール類及びこれらのハロゲン化物、アルキル基置換体がある。
【0078】
硬化剤に使用されるアミン類の例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルアミン、ジアミノジフェニルフルホンなどがある。
【0079】
硬化剤に使用される酸無水物類の例としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸及びこれらのハロゲン化物、アルキル基置換体がある。
【0080】
硬化剤に使用されるイミダゾール類の例としてはイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、4,5−ジフェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−ヘプタデシルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾール、2,4,−ジメチルイミダゾール、2−フェニル4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチルイミダゾリンなどが挙げられる。
【0081】
本発明の樹脂組成物は必要に応じて、溶剤を添加することができる。溶剤としては、溶剤は必須成分が溶けるような種類であれば特に制限はない。具体的にはトルエンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサンなどのような脂肪族炭化水素類、エーテルやテトラヒドロフランのようなエーテル類、アセトンやメチルエチルケトンのようなケトン類、酢酸エチルのようなエステル類、イソプロピルアルコールのようなアルコール類などを挙げることができる。溶剤を添加することにより、本発明の組成物の粘度を調整することができる。
【0082】
本発明の樹脂組成物は必要に応じて、触媒を添加することができる。触媒は、エポキシ基と硬化剤の反応を促進させるような触媒能をもつ化合物であればどのようなものでもよく、例えば脂肪族環状アミン類、イミダゾール類、第三級アミン、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、ホスホニウム化合物などがある。これらの触媒は、併用してもよい。
【0083】
本発明の樹脂組成物は加熱により硬化させる。通常50℃以上、好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは180℃以下の温度に通常0.5〜36時間保持される。
【0084】
本発明の樹脂組成物を賦形する方法としては、型を用いて成形する方法、基材上に塗布する方法などが挙げられる。型を用いて成形する方法としては、成形型内に本発明の組成物を注入した後、上述の方法により硬化し、脱型することにより、本発明の組成物からなる成形体を得ることができる。型を用いて成形すると、型の表面形状を転写させた成形体を得ることもできる。この際、成型時に液状である本発明の組成物を用いれば、精密成形を行うことができる。このようにして得られた成形体は、屈折率が通常1.5以上、好ましくは1.6以上であり、レンズ、プリズム、導波路、基板などの光学部品として用いることができる。
【0085】
また、基材上に塗布する方法としては、基材上に本発明の樹脂組成物を塗布した後に、乾燥、および硬化することにより、本発明の組成物が硬化した硬化物からなる層と基材層とを有する積層体を得ることができる。基材上に塗布して成形する方法において、基材としては、ガラス、銅箔などの無機材料でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリカーボネートシート、TACフィルムなどの有機材料でもよい。本発明の組成物は、基材上に通常1μm〜2mmの厚さとなるように塗布される。本発明の組成物は、基材へ塗布された後、通常、組成物中の溶剤を揮発させるために、通風乾燥、加熱乾燥等が行われ、その後、上述の方法により硬化される。この方法により基材上に本発明の組成物が硬化した層を有する積層体が得られる。
【0086】
本発明の樹脂組成物の用途としては、反射防止や保護を目的としたコーティング剤、接着剤、封止材料、あるいは、部品、シート、積層板、複合材等の成形体の原料などが挙げられる。また、本発明の組成物が硬化することにより得られる硬化物の用途としては、レンズ、プリズム、導波路、基板などの光学部品、積層材、複合材、電子部品の材料としての使用が例示される。特に、得られた硬化物の透明性、高屈折性などの特性を生かし、レンズ、導波路などの光学部品、およびそれらの接着剤、封止剤などに用いることもできる。
【実施例】
【0087】
以下に実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り「%」は「重量%」を、「部」は「重量部」を意味する。
【0088】
実施例中のNMR測定はすべて、JEOL社製のJNM−ECX400Pを用いて
1H−NMR測定をCDCl
3中で行った。
【0089】
実施例1
チオール・アクリレートマイケル付加反応工程
【化16】
【0090】
攪拌機、温度計を備えた反応容器に、ペンタエリトリトールテトラ(3-メルカプトプロピオナート)75.8部、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル124.2部、トリエチルアミン0.05部、トリメチルベンジルアンモニウムクロリド0.03部、メタノール200部を仕込み、室温で5時間反応させた。
1H−NMRで反応が完結しているのを確認した。エバポレーターでメタノールおよびトリエチルアミンを留去した。得られた反応生成物を湿式カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=4:1)で精製することで、上記式(1)で表される含硫黄エポキシ化合物を156部得た。
1H−NMRで目的物であることを確認した。スペクトルを
図1に示す。
【0091】
酸化工程
【化17】
【0092】
攪拌機、温度計を備えた反応容器に、チオール・アクリレートマイケル付加反応工程で得られた上記式(1)で表される化合物86部を仕込み、アセトン350部、炭酸水素ナトリウム134部、水400部、を加え、室温で攪拌した。ここにオキソン(ペルオキシ一硫酸カリウム・硫酸カリウム・硫酸水素カリウムの複塩、デュポン社製)179部を1時間かけて加えた。8時間後に
1H−NMRで反応が完結しているのを確認した。反応液を分液漏斗に移し、酢酸エチル500部、水500部を加えて分相した。有機相を10%亜硫酸ナトリウム水溶液500部、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液500部、飽和食塩水500部で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで酢酸エチルを留去し、化合物(2)を125部得た。
1H−NMRで目的物であることを確認した。スペクトルを
図2に示す。
【0093】
実施例2
チオール・エン付加反応工程
【化18】
【0094】
攪拌機、温度計を備えた反応容器に、ペンタエリトリトールテトラ(3-メルカプトプロピオナート)104部、ブタンジオールモノビニルエーテルモノグリシジルエーテル146部を仕込み、室温で5時間反応させた。
1H−NMRで反応が完結しているのを確認した。上記式(3)で表される含硫黄エポキシ化合物を272部得た。
1H−NMRで目的物であることを確認した。
【0095】
酸化工程
【化19】
【0096】
攪拌機、温度計を備えた反応容器に、チオール・エン付加反応工程で得られた上記式(3)で表される化合物140.9部を仕込み、ジクロロメタン300部、水300部、を加え、室温で攪拌した。ここにm−クロロ過安息香酸(純度65%)106.2部を1時間かけて加えた。4時間後に
1H−NMRで反応が完結しているのを確認した。反応液を分液漏斗に移し、10%亜硫酸ナトリウム水溶液300部、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300部、飽和食塩水300部で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで酢酸エチルを留去し、化合物(4)を170部得た。
1H−NMRで目的物であることを確認した。
【0097】
実施例3
チオール・アクリレートマイケル付加工程
【化20】
【0098】
攪拌機、温度計を備えた反応容器に、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)39.8部、グリシジルメタクリレート42.6部、トリブチルアミン0.02部、トリメチルベンジルアンモニウムクロリド0.02部、メタノール100部を仕込み、室温で5時間反応させた。
1H−NMRで反応が完結しているのを確認した。エバポレーターでメタノールおよびトリエチルアミンを留去した。得られた反応生成物を湿式カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=4:1)で精製することで、上記式(5)で表される含硫黄エポキシ化合物を56部得た。
1H−NMRで目的物であることを確認した。
【0099】
酸化工程
【化21】
【0100】
攪拌機、温度計を備えた反応容器に、チオール・アクリレートマイケル付加反応工程で得られた上記式(5)で表される化合物50部を仕込み、アセトン200部、炭酸水素ナトリウム46部、水200部、を加え、室温で攪拌した。ここにオキソン(ペルオキシ一硫酸カリウム・硫酸カリウム・硫酸水素カリウムの複塩、デュポン社製)67部を1時間かけて加えた。8時間後に
1H−NMRで反応が完結しているのを確認した。反応液を分液漏斗に移し、酢酸エチル300部、水300部を加えて分相した。有機相を10%亜硫酸ナトリウム水溶液300部、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300部、飽和食塩水300部で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで酢酸エチルを留去し、化合物(6)を45部得た。
1H−NMRで目的物であることを確認した。
【0101】
実施例4
チオール・エン付加反応工程
【化22】
(7)
【0102】
攪拌機、温度計を備えた反応容器に、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)110.1部、シクロへキシレンジメタノールアリルエーテルグリシジルエーテル190.5部仕込み、40℃で8時間反応させた。
1H−NMRで反応が完結しているのを確認した。上記式(7)で表される含硫黄エポキシ化合物を288部得た。
1H−NMRで目的物であることを確認した。
【0103】
酸化工程
【化23】
(8)
【0104】
攪拌機、温度計を備えた反応容器に、チオール・エン付加反応工程で得られた上記式(7)で表される化合物116部を仕込み、トルエン200部、タングステン酸ナトリウム二水和物(Na
2WO
4・2H
2O)0.2部、硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム0.3部を加え、70℃で攪拌した。35%過酸化水素水86.9部を2時間かけて滴下し、その後4時間反応させた。この溶液を10%亜硫酸ナトリウム水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗浄したのち、硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後トルエンをエバポレーターで留去し、化合物(8)を125部得た。
1H−NMRで目的物であることを確認した。
【0105】
実施例5〜11、比較例1〜3
酸素濃度が10%以下に置換された遮光された200ccのマヨネーズ瓶に、含硫黄多官能エポキシ化合物、硬化剤、硬化促進剤、を表1に示す比率で配合し、120℃で約1分間溶融混合した後冷却して、実施例に示す樹脂組成物を調製した。
【0106】
表1
【表1】
【0107】
表1において使用した材料を以下に示す。
JER828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)・・・三菱化学製
【0108】
化合物(9)
【化24】
【0109】
化合物(10)
【化25】
【0110】
THPA(テトラヒドロ無水フタル酸)・・・新日本理化製,リカシッドTH
MHHPA(メチルヘキサヒドロ無水フタル酸)・・・新日本理化製,リカシッドMH700
Phenol(ノボラックフェノール樹脂)・・・群栄化学工業製、PSF−4300
Amine(m−フェニレンジアミン)・・・和光純薬製
SA102(DBU・オクチル酸塩)・・・サンアプロ製,U−cat SA102
BDMA(N,N−ベンジルジメチルアミン)・・・和光純薬製
C
11Z(2−ウンデシルイミダゾール)・・・四国化成工業製、キュアゾールC
11Z
【0111】
実施例12
実施例5に示す樹脂組成物を、ガラス板上に、ワイヤーバーコーターを用いて膜厚20〜25μmとなるように塗工し、樹脂組成物層を形成した。JIS−C2104−7によって180℃におけるゲル化タイムを測定した。
【0112】
ゲル化タイムについて、2段階で評価した。
○:30分未満
△:30分以上1h未満
×:1h以上
【0113】
硬化物の特性は次の方法で評価した。
【0114】
≪耐熱性:ガラス転移温度Tg≫
セイコーインスツルメンツ社製DSC(示差走査熱量計)により測定し、2段階評価した。
○:Tgが180℃以上
×:Tgが180℃未満
【0115】
≪耐熱黄変性≫
200℃−dryの条件下で、24時間暴露した。暴露後の色差を測定し、ΔYを以下の3段階で評価をした。「△」評価以上の場合、実際の使用時に特に問題ない。
(評価基準)
○:1.0未満
×:1.0以上
【0116】
実施例13〜18、比較例4〜6
樹脂組成物を表1のように変更した他は実施例12と同様に試料を作製、評価を行った。
【0117】
実施例12〜18、比較例4〜6の評価結果を表2にまとめた。
【0118】
表2
【表2】
【0119】
比較例4、5の耐熱黄変性が著しく悪い結果となった。芳香環に直接へテロ原子が隣接する骨格は着色しやすいことが知られており、それを反映する結果になったと推測される。
【0120】
比較例6は、いずれの評価においても著しく悪い結果となった。脂環式エポキシ骨格はアミンやアルコール、カルボン酸といった活性水素化合物との付加反応が起こりにくいことが知られており、それを反映する結果になったと推測される。
【0121】
以上の結果から、本願発明の硫黄含有多官能エポキシ化合物を含有する樹脂組成物を用いることで、高い硬化性と耐熱性および透明性(耐熱黄変性で着色が少ない)を両立させることができた。