特許第6361251号(P6361251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6361251多孔性フィルム、蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361251
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】多孔性フィルム、蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20180712BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20180712BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20180712BHJP
【FI】
   C08J9/00 ACES
   H01M2/16 P
   H01M2/16 L
   H01G11/52
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-82491(P2014-82491)
(22)【出願日】2014年4月14日
(65)【公開番号】特開2014-224240(P2014-224240A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2017年4月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-84615(P2013-84615)
(32)【優先日】2013年4月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】生駒 啓
(72)【発明者】
【氏名】田邨 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
【審査官】 福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/105661(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/108235(WO,A1)
【文献】 特開2012−072380(JP,A)
【文献】 特開2010−053245(JP,A)
【文献】 特開2005−290366(JP,A)
【文献】 特開2009−226476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
H01G 11/52
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を主成分とし、表面開口率(S)と空孔率(P)の関係が下記式(1)を満足し、表面開口率(S)の範囲が45%以上であり、かつJIS K 7127による長手方向の弾性率と幅方向の弾性率との和TMD+TTDが下記式(2)を満たす多孔性フィルム。
0.3 < 空孔率(P)/表面開口率(S) <1.0 ・・・(1)
TMD+TTD≧1,200(MPa) ・・・(2)
【請求項2】
135℃で60分間熱処理したときの長手方向の熱収縮率が8%以下である請求項1記載の多孔性フィルム。
【請求項3】
窒素吸着法による細孔比表面積が30〜100m/gである、請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
【請求項4】
多孔性フィルム中のポリプロピレン樹脂の含有量が80質量%以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔性フィルム。
【請求項5】
多孔性フィルムのβ晶形成能が60%以上である、請求項1〜のいずれかに記載の多孔性フィルム。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の多孔性フィルムを用いてなる蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の多孔性フィルム上に機能層を積層してなる蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項8】
請求項またはに記載の蓄電デバイス用セパレータと、正極と、負極と、電解液とを備えた蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータとして用いた際の電池抵抗が低く、表面開口の均一性に優れており、さらには多孔性フィルムの熱収縮率が低いために耐熱性に優れ、また耐熱保護層の耐熱性を最大限発揮することができる多孔性フィルム、及び該多孔性フィルムを用いた蓄電デバイス用セパレータ、および該蓄電デバイス用セパレータを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を用いた多孔性フィルムは、蓄電デバイスや電解コンデンサーのセパレータや各種分離膜、衣料、医療用途における透湿防水膜、フラットパネルディスプレイの反射板や感熱転写記録シートなど多岐に亘る用途への展開が検討されている。中でも、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話、デジタルカメラなどのモバイル機器や、電気自動車、ハイブリッド車などに広く使用されているリチウムイオン電池用のセパレータとして、熱可塑性樹脂を用いた多孔性フィルムは好適である。
【0003】
セパレータ用の多孔性フィルムにおいては、生産性に優れ低コストであることに加え、セパレータ抵抗が低く出力特性が高いこと、フィルムの剛性が高く、耐熱保護層などの機能層の塗工性および電池組立工程適性に優れていること、さらには、多孔性フィルムの耐熱性が高く、異常時に電池の温度が上昇しても安全性が確保されることなどの特性が求められる。しかし、機械特性や耐熱性を高くするためには、多孔性フィルムの厚み当たりの樹脂量を増やすことが必要となるが、厚みあたりの樹脂量が増加すると、多孔性フィルムの空孔率が低くなり、セパレータ抵抗が高くなるため、安全性、生産性、工程適性と出力特性とを同時に満たすことは困難であった。
【0004】
特に、近年、多孔性フィルムの表面に無機粒子や耐熱樹脂などを含む機能層をコーティングすることによる耐熱性の向上が検討されているが、多孔性フィルムの剛性や強度が低いと、塗工工程におけるフィルムの搬送時にシワが発生したり、破断したりする場合があるため、機能層をコーティングする基材としての多孔性フィルムには、高い機械特性、特に剛性が求められる。しかし、一般に機械剛性を高くするためには空孔率を下げることが必要となり、セパレータ抵抗と機械強度を同時に満たすことは困難であった。
【0005】
一方、熱可塑性樹脂を多孔化する手法としては、様々な提案がなされており、大別すると湿式法と乾式法に分類することができる。湿式法とは、ポリエチレンやポリプロピレンをマトリックス樹脂とし、溶質として被抽出物を添加、混合してシート化し、その後被抽出物の良溶媒を用いて添加剤のみを抽出することで、マトリックス樹脂中に空隙を生成せしめる方法である(たとえば、特許文献1参照)。該方法を用いると、溶媒を含有させることにより押出時の樹脂粘度を低下させることができ、高分子量の原料を使用することができることから、機械物性が向上するが、高温時の熱収縮率が大きくなることと溶質の抽出工程や抽出溶媒の洗浄工程を含むため、生産性の向上が困難であった。
【0006】
一方、乾式法としては、たとえば、溶融押出時に低温押出、高ドラフト比を採用することにより、延伸前のフィルム中のラメラ構造を制御し、これを一軸延伸することでラメラ界面での開裂を発生させ、空隙を形成する方法(所謂、ラメラ延伸法)が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。該方法は、抽出、洗浄工程を必要としないため湿式法に比べ生産性に優れるが、一軸延伸であるため製品を広幅化しにくいことや、延伸速度を低くする必要があるため、更なる生産性向上が困難であった。また、一軸延伸であるため長手方向の熱収縮率が大きくなり、長手方向に裂けやすいなどの問題があった。
【0007】
乾式法であり、かつ二軸延伸により製膜される多孔性フィルムとしては、ポリプロピレンの結晶多形であるα型結晶(α晶)とβ型結晶(β晶)の結晶密度の差と結晶転移を利用してフィルム中に空隙を形成させる、所謂β晶法と呼ばれる方法の提案も数多くなされている(たとえば、特許文献3〜11参照)。該方法は乾式の二軸延伸により製膜されるため生産性に優れるが、押出時の樹脂粘度が高くなるため、ポリプロピレン樹脂の分子量に上限があり、機械物性を高くすることは困難であった。さらに、機械物性を高くするには、空孔率を低くする必要があり、電池抵抗との両立が困難であった。例えば、特許文献3には、突刺強度が高く、機械物性が良好である多孔性フィルムの記載がある。しかし、電池抵抗が高く、イオン伝導性が阻害されるため、出力特性が不十分の場合があり、高出力用途に不十分であった。一方、特許文献4〜11には、電池抵抗の良い多孔性フィルムについて記載がある。しかし、これらの多孔性フィルムは出力特性に優れるものの、熱収縮率が大きくなるため、耐熱性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭55−131028号公報
【特許文献2】特公昭55−32531号公報
【特許文献3】特開2000−30683号公報
【特許文献4】特開2008−307890号公報
【特許文献5】特開2008−311220号公報
【特許文献6】特開2009−39910号公報
【特許文献7】特開2009−45771号公報
【特許文献8】特開2010−111832号公報
【特許文献9】特開2010−171003号公報
【特許文献10】国際公開第2010/147149号パンフレット
【特許文献11】国際公開第2010/008003号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、蓄電デバイス用セパレータとして使用したとき、セパレータとして用いた際の電池抵抗が低く、表面開口の均一性に優れており、さらには多孔性フィルムの熱収縮率が低いために耐熱性に優れ、また耐熱保護層の耐熱性を最大限発揮することができ、電池特性にも優れた多孔性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題は、熱可塑性樹脂を主成分とし、表面開口率(S)と空孔率(P)の関係が下記式(1)を満足し、表面開口率(S)の範囲が45%以上であり、かつJIS K 7127による長手方向の弾性率と幅方向の弾性率との和TMD+TTDが下記式(2)を満たす多孔性フィルムによって達成可能である。
【0011】
0.3 < 空孔率(P)/表面開口率(S) <1.0 ・・・(1)
TMD+TTD≧1,200(MPa) ・・・(2)
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔性フィルムは、蓄電デバイス用セパレータとして使用したとき、セパレータとして用いた際の電池抵抗が低く、かつ多孔性フィルムの熱収縮率が低いために耐熱性に優れ、また耐熱保護層の耐熱性を最大限発揮することができるため、蓄電デバイス用のセパレータとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
セパレータ用の多孔性フィルムにおいては、生産性に優れ低コストであることに加え、電池抵抗が低く出力特性が高いこと、また、近年、多孔性フィルムの表面に無機粒子や耐熱樹脂などを含む機能層をコーティングすることによる耐熱性の向上が検討されているが、原反となる多孔性フィルムの耐熱性が低いと、高温時に原反の熱収縮に伴って、機能層を塗布した多孔性フィルムも熱収縮が起こり、機能層の効果を最大限発揮することができず、電池抵抗と耐熱性を同時に満たすことは困難であった。
本発明の多孔性フィルムは、熱可塑性樹脂を主成分としている。ここで、主成分とするとは、多孔性フィルムを構成する全成分中に占める熱可塑性樹脂の割合が50質量%以上であることを意味し、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0014】
本発明の多孔性フィルムは、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する孔(以下、貫通孔という)を有している。この貫通孔を有する多孔性フィルムを得る方法としては、上記の特性を満たしていれば、製法や材質は特に限定されず、例えば製法としてはβ晶法やラメラ延伸法など乾式法、抽出法、更にはフィルムを製膜後にレーザーなどを利用して物理的に貫通孔を開ける方法などを用いることができ、生産性、長手方向と幅方向の物性の均一性の観点から、β晶法によることが好ましい。材質としてはポリアミド、ポリアミドイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレートなどを採用することができるが、材質は、材料コストを低減できセパレータを低価格で製造でき、セパレータの機能として異常時に電池の温度が上昇した際に、多孔性フィルムが溶融し開口部が閉塞することで、電子の授受をシャットダウン(SD)する機能を有する観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましく、耐熱性の観点から、ポリプロピレン樹脂であることが特に好ましい。
【0015】
ここで、β晶法とは、結晶構造としてβ晶を有するポリプロピレン樹脂のキャストシートを用い、該キャストシートを縦延伸することにより、β晶の結晶構造をα晶に転移させるとともに、製膜方向に配向したα晶のフィブリル状物を形成させ、そのフィブリル状物を横延伸工程において開裂させて網目構造を形成させることにより、貫通孔を有するフィルムを得る手法である。ここで、キャストシートとは、溶融したポリプロピレン樹脂をキャストドラム上でシート状に成型した、未延伸のシートを意味する。β晶法においては、多孔性フィルムの物性を向上させるために、ポリプロピレン樹脂にβ晶核剤を添加しβ晶形成能を高めることが好ましい。β晶形成能が高いことにより、α晶への結晶転移を起こす結晶構造の部分が多くなり、フィルム中に形成される空隙の数を増加させることができる。また、β晶核剤を含む原料制御により、ポリプロピレン結晶の配向性、緻密性を向上させ、孔を均一かつ緻密に開孔させることにより、多孔性フィルムを蓄電デバイス用セパレータとして用いた際の電池抵抗の低減を達成することができる。また、開孔状態の均一性を向上させることにより、粗大孔を減少させ、弾性率や引張伸度などの機械物性を向上させることができる。これらのβ晶法における電池抵抗の低減と機械特性の向上は、後述する原料を用い、特定の製膜条件で製膜を行うことにより達成することができる。
【0016】
つぎに本発明の多孔性フィルムに用いる原料について説明する。
【0017】
本発明において、多孔性フィルムのβ晶形成能は、貫通孔の形成性の観点から60%より大きいであることが好ましい。より好ましくは65〜90%であり、65〜85%が特に好ましい。β晶形成能が60%以下の場合、β晶量が少ないためにα晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、フィルムの電池抵抗に劣る場合がある。β晶形成能を60%より大きくするに制御する方法としては、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用する方法、β晶核剤と呼ばれる、ポリプロピレン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤を添加剤として用いる方法があるが、本発明においては、後述するβ晶核剤を使用する方法、またはアイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂に後述するβ晶核剤を添加剤として用いる方法によることが好ましい。
【0018】
本発明で用いるβ晶核剤としては、たとえば、1,2−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、コハク酸マグネシウムなどのカルボン酸のアルカリあるいはアルカリ土類金属塩、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドに代表されるアミド系化合物、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのテトラオキサスピロ化合物、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムなどの芳香族スルホン酸化合物、イミドカルボン酸誘導体、キナクリドン系顔料を挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を用いることが好ましい。また、β晶核剤の含有量としては使用するβ晶核剤によって異なるが、上記アミド系化合物を使用する場合には、ポリプロピレン組成物全体を基準とした場合に、0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であればより好ましく、後述する効果を有するためには0.22〜0.3質量%であれば特に好ましい。0.05質量%未満では、β晶の形成が不十分となり、多孔性フィルムの電池抵抗が増大する場合がある。また、0.5質量%を超えると、β晶核剤の凝集などによりフィルムに粗大ボイドが形成され、弾性率、突刺強度、引張強度などの機械強度が低下する場合がある。
【0019】
本発明においては、ポリプロピレン樹脂として、メルトフローレート(以下、MFRと表記する)が2〜30g/10分のアイソタクチックポリプロピレン樹脂を用いることが、押出成形性及び孔の均一な形成の観点から好ましい。ここで、MFRとはJIS K 7210(1995)で規定されている樹脂の溶融粘度を示す指標であり、ポリオレフィン樹脂の特徴を示す物性値である。本発明においては230℃、2.16kgで測定した値を指す。本発明においては、結晶性の観点からポリプロピレン樹脂のアイソタクチックインデックスは90〜99.9%の範囲であることが好ましく、95〜99%であることがより好ましい。アイソタクチックインデックスが90%未満の場合、樹脂の結晶性が低くなり、製膜性が低下する場合があるほか、フィルムの弾性率に劣る場合がある。
本実施の形態において用いられるポリプロピレン樹脂は、二軸延伸時の空隙形成効率の向上や、孔の均一な開孔、孔径が拡大することによる透気性向上の観点から、ポリプロピレンを80〜99質量部とエチレン・α−オレフィン共重合体を20〜1質量部の質量比率とした混合物とすることが好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体としては直鎖状低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレンを挙げることができ、中でも、オクテン−1を共重合した、融点が60〜90℃の共重合ポリエチレン樹脂(共重合PE樹脂)を好ましく用いることができる。この共重合ポリエチレンは市販されている樹脂、たとえば、ダウ・ケミカル製“Engage(エンゲージ)(登録商標)”(タイプ名:8411、8452、8100など)を挙げることができる。
【0020】
上記共重合ポリエチレン樹脂は本実施の形態に係るフィルムを構成するポリプロピレン樹脂全体を100質量%としたときに、10質量%未満含有することが以下に記載する空孔率や平均貫通孔径を好ましい範囲に制御することが容易となるので好ましい。フィルムの機械特性の観点からは0.1〜7質量%であればより好ましく、電池抵抗の観点からより好ましくは1〜7質量%であり、3〜7質量%がさらに好ましい。
【0021】
本実施の形態において用いられるポリプロピレン樹脂は、孔構造を均一化し、フィブリルを微細化し、フィルム面内の熱収縮量のムラを低減する観点から、上述したエチレン・α−オレフィン共重合体に加え、分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体のポリプロピレン樹脂への分散性を高めることができるものであれば良いが、国際公報第2007/046225号に記載の通り、ポリプロピレン樹脂とエチレン・α−オレフィン系共重合体の相溶性は良好であり、例えば一般にポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂の相溶化剤として用いられるエチレン・プロピレンランダム共重合体は本実施の形態において孔構造均一化のための分散剤として機能しない。本実施の形態に好ましく用いられる分散剤としては、ポリプロピレンとの相溶性が高いセグメント(例えばポリプロピレンセグメント、エチレンブチレンセグメント)とポリエチレンとの相溶性が高いセグメント(ポリエチレンセグメントなど)を各々有するブロック共重合体が好ましい。このような構造を有する樹脂として、市販されている樹脂、例えばJSR社製オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー(以下、CEBCと表記する)“DYNARON(ダイナロン)(登録商標)”(タイプ名:6100P、6200Pなど)や、ダウ・ケミカル社製オレフィンブロック共重合体“INFUSE OBC(登録商標)”を挙げることができる。分散剤の添加量としてはエチレン・α−オレフィン系共重合体100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、5〜33質量部であることがより好ましく、8〜25質量部であることがさらに好ましい。また、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のポリプロピレン樹脂(A)への分散性向上の観点および孔形成の均一性向上の観点から、分散剤(C)の融点は、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)の融点より、0〜60℃高いことが好ましく、15〜30℃高いことがより好ましい。
【0022】
本発明の多孔性フィルムを形成するポリプロピレン組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリプロピレン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤の添加量は、ポリプロピレン組成物100質量部に対して2質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。
【0023】
本発明の多孔性フィルムを形成するポリプロピレン組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、無機あるいは有機粒子からなる孔形成助剤を含有させることができる。孔形成助剤を使用する場合、含有量はポリプロピレン組成物100質量部に対して5質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。5質量部を超えると、蓄電デバイス用セパレータとして使用した際に、脱落した粒子が電池性能の低下の原因となる場合があるほか、原料コストが高くなり、生産性が低下する場合がある。
【0024】
本発明の多孔性フィルムは、表面開口率(S)と空孔率(P)の関係が下記式(1)を満足し、表面開口率(S)の範囲が45%以上である。
【0025】
0.3 < 空孔率(P)/表面開口率(S) < 1.0 ・・・(1)
この空孔率(P)と表面開口率(S)の関係(P/S)は、0.3<P/S<1.0が好ましく、より好ましくは0.5<P/S<1.0の範囲であり、0.6<P/S<0.85の範囲であることが特に好ましい。空孔率(P)と表面開口率(S)の関係が0.3未満の場合は、表面リチウムイオン透過部の面積が過剰に大きくなり、電池抵抗が低くなるが、もれ電流が大きくなり、長期信頼性に関わる自己放電特性が悪化する場合がある。また、1.0を超えるとリチウムイオン不透過部の割合が多く、もれ電流が小さくなり、長期信頼性に関わる自己放電特性が良化するが、電池のセパレータとして用いた際に電気抵抗が高くなり特に電気自動車、ハイブリッド車などの高出力を必要とする用途において課題となる場合があり、また、セパレータと電極との界面の面内抵抗が不均一となり、電析が起こり、電池寿命が低下する場合がある。これらの特性バランスを両立する範囲が0.3<P/S<1.0になる。式(1)を満足するフィルムを得る方法としては、原料中のβ晶核剤の添加量、結晶化温度を調整すること、エチレン・α−オレフィン系共重合体や分散剤を添加すること、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸速度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御することができる。
【0026】
表面開口率(S)は45%以上が好ましく、60%より大きいことがより好ましく、64%より大きいことがさらに好ましく、特に68%より大きいことが好ましい。表面開口率(S)が、45%未満では表面開口性が不均一であり、セパレータと電極との界面の面内抵抗が不均一となり、電析が起こり、電池寿命が低下する場合がある。表面開口率(S)は45%以上にする方法としては原料中のβ晶核剤の添加量、結晶化温度を調整すること、エチレン・α−オレフィン系共重合体や分散剤を添加すること、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸速度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御することができる。
【0027】
なお、表面開口率とは、充放電時の多孔性フィルム表面のリチウムイオン透過領域が全表面領域に占める割合を示し、倍率1000倍の表面SEMを2値化処理することによって算出する。ただし、本算出方法では、リチウムイオン透過部とされる領域に300nm以下の微細な樹脂フィブリルが含まれる場合がある。このような微細なフィブリルは2値化処理の際にリチウムイオン透過領域として処理される場合がある。ゆえに、多孔性フィルムの表面開口の均一性が高い場合、フィブリルが微細化していることによってリチウムイオン透過部に微細なフィブリルを含む場合などにおいて厚み方向に均一な構造を有していても空孔率(P)と表面開口率(S)の関係(P/S)が1.0未満になる場合がある。
【0028】
本発明の多孔性フィルムは、135℃で60分間熱処理したときの長手方向の熱収縮率が8%以下が好ましい。より好ましくは0〜5%であり、0〜3%であることがより好ましい。135℃での熱収縮率が5%を超えると、枚葉積層型蓄電デバイス用セパレータとして使用した際に異常高温時にセパレータの収縮によって端部の短絡が起こり安全性に劣る場合があり、捲回型蓄電デバイス用セパレータとして使用した際に異常高温時に巻き絞まりが起こり電極表面の凸部での短絡・破膜が起こり安全性に劣る場合があるほか、例えば本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの表面にポリエチレンを含むシャットダウン層を塗布や共押出積層などにより積層して用いる場合、135℃付近でポリエチレンが溶けて孔を塞いだときに、基材である多孔性ポリオレフィンフィルムも収縮して電池が短絡する場合がある。熱収縮率は、原料中のβ晶核剤の添加量および結晶化温度を調整すること、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0029】
本発明の多孔性フィルムの長手方向の弾性率と幅方向の弾性率の和TMD+TTDの値は1,200MPa以上が好ましく、1,250MPa以上であることがより好ましく、1,300MPa以上であることがさらに好ましく、1,400MPa以上が特に好ましい。和TMD+TTDの値が1,200MPa未満の場合、フィルム搬送時のフィルムの長手方向および/または幅方向の圧縮変形が大きく、流れシワが入りやすくなり、熱保護層などの機能層の塗工工程で品質を低下させたり、特に枚葉セパレータを用いるラミネート型積層電池での電池組立工程における工程適性が不十分となる場合がある。和TMD+TTDの値が1,200MPa以上のフィルムを得る方法としては、原料中のβ晶核剤の添加量および結晶化温度を調整すること、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸速度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御することができる。
【0030】
本発明の多孔性フィルムは、長手方向の弾性率と幅方向の弾性率との比TMD/TTDが下記式()を満たしていることが好ましい。
【0031】
0.7≦TMD/TTD≦4.0 ・・・(
TMD/TTDの値は、より好ましくは0.7≦TMD/TTD<3.0であり、0.8≦TMD/TTD≦3.0であることが特に好ましい。TMD+TTDが0.7未満、および/または、4.0より大きい場合、フィルム全体の弾性率が高い場合においても長手方向もしくは幅方向の弾性率のみ高くなり、熱保護層などの機能層の塗工工程および電池組立工程における工程適性が不十分となる場合がある。式()を満足するフィルムを得る方法としては、原料中のβ晶核剤の添加量および結晶化温度を調整すること、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸速度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御することができる。
【0032】
本発明の多孔性フィルムは、透気抵抗が10〜5,000秒/100mlであることが好ましく、50〜500秒/100mlであることがより好ましく、80〜300秒/100mlであることが特に好ましい。透気抵抗が10秒/100ml未満であると、工程適性の指標となる弾性率などの機械強度が低下する場合がある。透気抵抗が1,000秒/100mlを超えると、特に高出力蓄電デバイス用のセパレータとして用いた際に出力特性が低下する場合がある。透気抵抗は、原料中のβ晶核剤の添加量および結晶化温度を調整すること、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、横延伸速度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0033】
本発明の多孔性フィルムは、フィルム厚みが5〜30μmであることが好ましい。厚みが5μm未満では使用時にフィルムが破断する場合があり、30μmを超えると、電池抵抗が増大してセパレータとして用いた際に出力特性が低下する場合があるほか、蓄電デバイス内に占める多孔性フィルムの体積割合が高くなり、高いエネルギー密度を得ることができなくなる場合がある。フィルム厚みは10〜25μmであればより好ましい。
【0034】
本発明の多孔性フィルムは、電池特性と強度を両立させる観点から、空孔率が30〜80%であることが好ましく、35〜70%がより好ましく、40〜60%がさらに好ましい。空孔率が30%未満では、特に高出力蓄電デバイス用のセパレータとして使用したときに電池抵抗が大きくなる場合がある。一方、空孔率が75%を超えると、弾性率や引張強度などの機械強度が低下する場合がある。空孔率は、原料中のβ晶核剤の添加量および結晶化温度を調整すること、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0035】
尚、本願においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、製膜方向、長手方向、MD方向あるいは単にMDと称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向、TD方向あるいは単にTDと称することがある。
【0036】
本発明の多孔性フィルムは、窒素吸着法による細孔比表面積が30〜100m/gであることが好ましい。細孔比表面積が30m/g未満であると、特に高出力電池用のセパレータとして用いたとき出力特性が低下する場合がある。細孔比表面積が100m/gを超えると、フィルムの強度が低下し、後加工工程において、多孔性フィルムにかかる張力によりフィルムが変形し、シワが入ったり平面性が低下する場合がある。細孔比表面積は、より好ましくは40〜100m/g、更に好ましくは50〜100m/g、最も好ましくは55〜100m/gである。細孔比表面積を上記範囲とするには、原料中のβ晶核剤の添加量および結晶化温度を調整すること、キャストドラムの温度、長手方向の延伸倍率と温度、熱処理工程での温度と時間、およびリラックスゾーンでの弛緩率を後述する範囲内とすることにより制御可能である。
【0037】
本発明の多孔性フィルムは、様々な効果を付与する目的で積層構成をとっても構わない。積層数としては、2層積層でも3層積層でも、また、それ以上の積層数でもよく、本発明の多孔性フィルムを少なくとも一方の表層とする積層形態、本発明の多孔性フィルムの両表面に同一もしくは異なる表層を形成する積層形態のいずれを採用してもよい。積層の方法としては、共押出によるフィードブロック方式やマルチマニホールド方式、ラミネートにより多孔性フィルム同士を貼り合わせる方法などがあるが、積層する樹脂などの物性に応じて、積層方法を選択すればよい。積層構成としては、例えば、低温でのシャットダウン性を付与する目的でポリエチレンを含む層を積層したり、強度や耐熱性を付与する目的で粒子を含む層を積層したりすることができる。
【0038】
以下に本発明の多孔性フィルムの製造方法を具体的な一例をもとに説明する。なお、本発明のフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0039】
ポリプロピレン樹脂として、MFR8g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂99.5質量部、β晶核剤としてN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.3質量部、酸化防止剤としてIrganox1010、Irgafos168を各々0.1質量部、滑剤としてベヘン酸カルシウム0.05質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給して溶融混練を行い、ストランドをダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(a)を準備する。この際、溶融温度は280〜310℃とすることが好ましく、チップの断面形状は、円、楕円、長方形のいずれでもかまわない。作製したポリプロピレン原料のポリプロピレンβ晶の結晶化温度は、電池抵抗を低減させ、面弾性率とのバランスを向上させるためには、130℃以上であることが好ましく、130.5℃以上であることがより好ましい。ポリプロピレンβ晶の結晶化温度に特に上限は設けないが、140℃以上にすることは困難である。驚くべきことに、吐出後のストランドの引取速度を大きくして、ドラフト比を大きくすることにより、結晶化温度を上記温度範囲に制御し、電池抵抗を低減させることが可能となることがわかった。好ましいドラフト比は2以上が好ましく、3以上がより好ましい。ドラフト比が10を超えるとストランドが切れやすく、ガット切れが起こりやすくなる場合がありチップの生産性が低下しやすい。
同様に、上記のホモポリプロピレン樹脂59.8質量部、エチレン・α−オレフィン系共重合体として市販のMFR18g/10分の超低密度ポリエチレン樹脂エチレン・オクテン−1共重合体を30質量部、分散剤として市販のCEBC10質量部、酸化防止剤0.2質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(b)を準備する。
上記のポリプロピレン原料(a)80.0質量部、上記のポリプロピレン原料(a)20.0質量部をブレンドして単軸押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。ここで、共押出しによりフィルムを積層構造とする場合には、複数の押出機を用い、フィードブロック方式やマルチマニホールド方式により積層構造とした後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、積層未延伸シートとすることができる。キャストドラムは、表面温度が105〜130℃であることが、電池抵抗制御の観点から好ましく、120〜130℃がさらに好ましい。この際、特にシートの端部の成形が、後の延伸性に影響するので、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。また、シート全体のドラム上への密着状態から、必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付けてもよい。
【0040】
次に、得られたキャストシートを二軸配向させ、フィルム中に空孔を形成する。二軸配向させる方法としては、フィルム長手方向に延伸後幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、電池抵抗と機械強度のバランスの取れたフィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に、長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。
【0041】
具体的な延伸条件としては、まず、キャストシートの温度を制御しながら長手方向に延伸する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としては、電池抵抗と機械強度の両立の観点から、90〜140℃であることが好ましく、より好ましくは100〜130℃、特に好ましくは115〜125℃である。90℃未満では、フィルムが破断する場合がある。また、140℃を超えると、電池抵抗が増大する場合がある。電池抵抗と機械強度の両立の観点から、延伸倍率としては、3〜10倍であることが好ましい。より好ましくは4.5〜6倍である。延伸倍率を高くするほど電池抵抗は低下するが、10倍を超えて延伸すると、次の横延伸工程でフィルム破れが起きやすくするほか、電池抵抗が低くなりすぎて機械強度が低下する場合がある。
【0042】
次に、テンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。横延伸温度は、電池抵抗と機械強度の両立の観点から、130〜155℃であることが好ましく、より好ましくは145〜155℃である。130℃未満ではフィルムが破断する場合があり、155℃を超えると電池抵抗が増大する場合がある。幅方向の延伸倍率は、引張強度向上の観点から2〜12倍であることが好ましい。より好ましくは7〜11倍、更に好ましくは7〜10倍である。2倍未満であると、電池抵抗が増大したり、幅方向の引張強度が低下する場合がある。12倍を超えるとフィルムが破断する場合がある。なお、このときの横延伸速度としては、500〜6,000%/分で行うことが好ましく、1,000〜5,000%/分であればより好ましい。電池抵抗を低減させながら弾性率を向上させる観点から、面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)は、高倍とするほうが好ましく、具体的には20倍以上が好ましく、30倍以上がより好ましく、45倍以上が特に好ましい。面積倍率が低倍の場合、具体的には20倍未満の場合、電池抵抗低減と弾性率向上が困難となる。面積倍率の上限は特に設けないが、60倍を超えると製膜性が悪くなり破れやすくなる場合がある。
【0043】
横延伸に続いて、テンター内で熱処理工程を行う。ここで熱処理工程は、横延伸後の幅のまま熱処理を行う熱固定ゾーン(以後、HS1ゾーンと記す)、テンターの幅を狭めてフィルムを弛緩させながら熱処理を行うリラックスゾーン(以後、Rxゾーンと記す)、リラックス後の幅のまま熱処理を行う熱固定ゾーン(以後、HS2ゾーンと記す)の3ゾーンに分かれていることが、電池抵抗と機械強度の両立、さらには低熱収の観点から好ましい。
【0044】
HS1ゾーンの温度は、電池抵抗と機械強度の両立の観点から140〜165℃であることが好ましく、150〜160℃であることがより好ましい。140℃未満であると、幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。165℃を超えると、フィルムの配向緩和が大きすぎるために、続くRxゾーンにおいて弛緩率を高くできず、電池抵抗と機械強度の両立が困難となる場合があるほか、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなる場合がある。
【0045】
HS1ゾーンでの熱処理時間は、幅方向の熱収縮率と生産性の両立の観点から0.1秒以上10秒以下であることが好ましい。
【0046】
本発明におけるRxゾーンでの弛緩率は、電池抵抗低下と面弾性率低減に加えて熱収縮率低減の観点から、5〜35%であることが好ましく、5〜30%であるとより好ましい。弛緩率が5%未満であると面弾性率および熱収縮率が小さくなる場合がある。35%を超えると電池抵抗が増大する場合があるほか、幅方向の厚み斑や平面性が低下する場合がある。
【0047】
Rxゾーンの温度は、電池抵抗低下と熱収縮率低減の観点から、155〜170℃であることが好ましく、160〜165℃であるとより好ましい。Rxゾーンの温度が155℃未満であると、弛緩の為の収縮応力が低くなり、上述した高い弛緩率を達成できない場合があるほか、幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。170℃を超えると、高温により孔周辺のポリマーが溶けて電池抵抗が増大する場合がある。
【0048】
Rxゾーンでの弛緩速度は、100〜1,000%/分であることが好ましく、150〜500%/分であることがより好ましい。弛緩速度が100%/分未満であると、製膜速度を遅くしたり、テンター長さを長くする必要があり、生産性に劣る場合がある。1,000%/分を超えると、テンターのレール幅が縮む速度よりフィルムが収縮する速度が遅くなり、テンター内でフィルムがばたついて破れたり、幅方向の物性ムラや平面性の低下を生じる場合がある。
【0049】
HS2ゾーンの温度は、電池抵抗と機械強度の両立の観点から、155〜165℃であることが好ましく、160〜165℃であることがより好ましい。155℃未満であると、熱弛緩後のフィルムの緊張が不十分となり、幅方向の物性ムラや平面性の低下を生じたり、幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。また、HS2の温度が高い方が、機械強度が高くなる傾向があり、155℃未満では機械強度に劣る場合がある。165℃を超えると、高温により孔周辺のポリマーが溶けて電池抵抗が増大する場合がある。
【0050】
本発明におけるHS2ゾーンでの熱処理時間は、幅方向の物性ムラや平面性と生産性の両立の観点から0.1秒以上10秒以下であることが好ましい。熱固定工程後のフィルムは、テンターのクリップで把持した耳部をスリットして除去し、ワインダーでコアに巻き取って製品とする。
【0051】
本発明の多孔性フィルムは、電池抵抗、生産性に優れるだけでなく、機械強度、耐熱性、押出安定性に優れることから、包装用品、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品、分離膜、光拡散板、反射シート用途で用いることができるが、特に蓄電デバイス用のセパレータとして好ましく用いることができる。ここで、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置として使用することができる。本発明の多孔性フィルム上に機能層を積層してなる蓄電デバイス用セパレータは、電池抵抗、生産性に優れるだけでなく、耐熱性、耐短絡性に優れることから、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置用の蓄電デバイスセパレータとして好ましく用いることができる。本発明の多孔性フィルムを用いたセパレータと、正極と、負極と、電解液を備えた蓄電デバイスは、セパレータの優れた特性から産業機器や自動車の電源装置に好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0053】
(1)厚み
接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(10.5mmφ超硬球面測定子、測定荷重0.06N)にて測定した。測定は場所を替えて10回行い、その平均値を多孔性フィルムの厚みtとした。
【0054】
(2)透気抵抗
多孔性フィルムから100mm×100mmの大きさの正方形を切取り試料とした。JIS P 8117(1998)のB形ガーレー試験器を用いて、23℃、相対湿度65%にて、100mlの空気の透過時間の測定を行った。測定は試料を替えて3回行い、透過時間の平均値をそのフィルムの透気抵抗とした。
【0055】
(3)表面開口率(S)
多孔性フィルムにエイコーエンジニアリング社製IB−5型イオンコーターを用いてイオンコートを行い、日本電子社製電界放射走査顕微鏡(JSM−6700F)を用いてフィルム表面を撮影倍率1,000倍で観察した。得られた画像データ(スケールバーなどの表示がない、観察部のみの画像)をMVTec社製HALCON Ver.10.0を用いて画像解析を行い、表面開口率(%)を算出した。画像解析方法としては、まず256階調モノクロ画像に対して、11画素平均画像Aと3画素平均画像Bをそれぞれ生成し、画像B全体の面積(Area_all)を算出した。
【0056】
次に画像Bから画像Aを差として除去し、画像Cを生成し、輝度≧10となる領域Dを抽出した。抽出した領域Dを塊ごとに分割し、面積≧100となる領域Eを抽出した。その領域Eに対して、半径2.5画素の円形要素でクロージング処理した領域Fを生成し、横1×縦5画素の矩形要素でオープニング処理した領域Gを生成することで、縦サイズ<5の画素部を除去した。そして、領域Gを塊ごとに分割し、面積≧500となる領域Hを抽出することで、フィブリル領域を抽出した。
【0057】
さらに画像Cにて画像≧5となる領域Iを抽出し、領域Iを塊ごとに分割し、面積≧300となる領域Jを抽出した。領域Jに対して、半径1.5画素の円形要素でオープニング処理した後、半径8.5画素の円形要素でクロージング処理した領域Kを生成し、領域Kに対して、面積≧200となる領域Lを抽出した。領域Lにおいて、面積≧4,000画素の暗部を明部で埋めた領域Mを生成することでフィブリル以外の未開口部の領域を抽出した。
【0058】
最後に、領域Hと領域Mの和領域Nを生成し、和領域Nの面積(Area_closed)を算出することで、未開口部の面積を求めた。なお、表面開口率の計算は、以下の式により算出した。
【0059】
表面開口率(%)=(Area_all − Area_closed) / Area_all
上記の方法にて、同じ多孔性フィルムの両面において10ヶ所ずつ測定し、その平均値の値を当該サンプルの表面空孔率(%)とした。
【0060】
(4)空孔率(P)
多孔性フィルムを100mm×100mmの大きさに切取り試料とした。電子比重計(ミラージュ貿易(株)製SD−120L)を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて比重の測定を行った。測定を3回行い、平均値をフィルムの比重ρとした。
【0061】
次に、測定したフィルムを280℃、5Mpaで熱プレスを行い、その後、25℃の水で急冷して、空孔を完全に消去したシートを作成した。このシートの比重を上記した方法で同様に測定し、平均値を樹脂の比重(d)とした。なお、後述する実施例においては、いずれの場合も樹脂の比重dは、0.91であった。フィルムの比重と樹脂の比重から、以下の式により空孔率を算出した。
【0062】
空孔率(%)=〔( d − ρ ) / d 〕 × 100
(5)β晶形成能
多孔性フィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から220℃まで40℃/分で昇温(ファーストラン)し、5分間保持した後、20℃まで10℃/分で冷却(ファーストラン)した。5分保持後、再度40℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークにについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とした。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0063】
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
ただし、上記方法において、140〜160℃に頂点を有する融解ピークが存在するが、β晶の融解に起因するものか不明確な場合は、140〜160℃に融解ピークの頂点が存在することと、下記条件で調製したサンプルについて、上記2θ/θスキャンで得られる回折プロファイルの各回折ピーク強度から算出されるK値が0.3以上であることをもってβ晶形成能を有するものと判定する。
【0064】
下記にサンプル調製条件、広角X線回折法の測定条件を示す。
【0065】
・サンプル:
フィルムの方向を揃え、熱プレス調製後のサンプル厚さが1mm程度になるよう重ね合わせる。このサンプルを0.5mm厚みの2枚のアルミ板で挟み、280℃で3分間熱プレスして融解・圧縮させ、ポリマー鎖をほぼ無配向化する。得られたシートを、アルミ板ごと取り出した直後に100℃の沸騰水中に5分間浸漬して結晶化させる。その後25℃の雰囲気下で冷却して得られるシートを切り出したサンプルを測定に供する。
【0066】
・広角X線回折方法測定条件:
上記条件に準拠し、2θ/θスキャンによりX線回折プロファイルを得る。
【0067】
ここで、K値は、2θ=16°付近に観測され、β晶に起因する(300)面の回折ピーク強度(Hβ1とする)と2θ=14,17,19°付近にそれぞれ観測され、α晶に起因する(110)、(040)、(130)面の回折ピーク強度(それぞれHα1、Hα2、Hα3とする)とから、下記の数式により算出できる。K値はβ晶の比率を示す経験的な値であり、各回折ピーク強度の算出方法などK値の詳細については、ターナージョーンズ(A.Turner Jones)ら,“マクロモレキュラーレ ヒェミー”(Makromolekulare Chemie),75,134−158頁(1964)を参考にすればよい。
【0068】
K = Hβ1/{Hβ1+(Hα1+Hα2+Hα3)}
なお、ポリプロピレンの結晶型(α晶、β晶)の構造、得られる広角X線回折プロファイルなどは、例えば、エドワード・P・ムーア・Jr.著、“ポリプロピレンハンドブック”、工業調査会(1998)、p.135−163;田所宏行著、“高分子の構造”、化学同人(1976)、p.393;ターナージョーンズ(A.Turner Jones)ら,“マクロモレキュラーレ ヒェミー”(Makromolekulare Chemie),75,134−158頁(1964)や、これらに挙げられた参考文献なども含めて多数の報告があり、それを参考にすればよい。
【0069】
(6)結晶化温度(Tc)
上記(4)の示差走査熱量計によるβ晶形成能の測定方法と同様の方法で原料のポリプロピレン樹脂を測定し、冷却(ファーストラン)のピーク温度を結晶化温度(Tc)とした。
【0070】
(7)メルトフローレート(MFR)
ポリプロピレン樹脂のMFRは、JIS K 7210(1995)の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定した。ポリエチレン樹脂は、JIS K 7210(1995)の条件D(190℃、2.16kg)に準拠して測定した。
【0071】
(8)弾性率
多孔性フィルムを長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。なお、150mmの長さ方向をフィルムの製膜方向および幅方向に合わせて各方向のサンプルを用意した。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用い、JIS K 7127(1999、試験片タイプ2)に準じて引張試験を行い、2%引張伸度時の引張応力と歪み変位量を測定し、その傾きを算出した。なお、初期チャック間距離は50mmとし、引張速度を300mm/分とした。測定は各サンプル5回ずつ行い、その傾きの平均値を弾性率とした。
【0072】
(9)熱収縮率
多孔性フィルムを長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。なお、150mmの長さ方向をフィルムの幅方向に合わせた。サンプルの中央部に100mmの間隔で標線を描き、加熱前の標線間距離Lを測定した。サンプルの上端を把持し、下端に3gの加重をかけ、135℃に加熱した熱風オーブン内に吊り下げて60分間静置し加熱処理を行った。熱処理後、放冷し、加重を外したあと、加熱後の標線間距離Lを測定し、以下の式で計算される値を熱収縮率とした。測定は各サンプルにつき5回実施して平均値を表1に記した。
【0073】
熱収縮率(%) = (L−L)/L×100
(10)細孔比表面積
日本ベル社製「ベルソープミニ」を用いJIS Z8830(2013)に準じ、下記条件にて比表面積(BET法による比表面積)を測定した。サンプル0.4gをガラスセルに入れて、室温で約5時間減圧脱気した後に測定した。
【0074】
・測定手法:窒素ガス吸着法
・吸着質:窒素
・死容積測定ガス:ヘリウム
・測定温度:77K
・飽和蒸気圧:101.3kPa
・測定相対圧P/P:約0〜1
(11)電池抵抗
宝泉(株)製のリチウムコバルト酸化物(LiCoO)厚みが40μmの正極を直径15.9mmの円形に打ち抜いた。また、宝泉(株)製の厚みが50μmの黒鉛負極を直径16.2mmの円形に打ち抜いた。次に、多孔質フィルムまたは多孔フィルムを直径24mmに打ち抜いた。正極活物質と負極活物質面が対向するように、下から負極、多孔質フィルムまたは多孔フィルム、正極の順に重ね、蓋付ステンレス金属製小容器(宝泉(株)製、HSセル、ばね圧1kgf)に収納した。容器と蓋とは絶縁され、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接している。この容器内にプロピレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)の混合溶媒に溶質としてLiPFを濃度1モル/リットルとなるように溶解させた電解液を注入して密閉し、電池を作製した。
【0075】
作製した二次電池について、25℃の雰囲気下で測定を行った。1.5mAの電流値で4.2Vとなるまで定電流充電を行い、4.2Vの電圧で電流値が50μAになるまで定電圧充電を行った。続いて、3mAの電流値で2.7Vの電圧まで定電流放電を行った。上記充放電操作を4回行った。次に、1.5mAの電流値で4.2Vとなるまで定電流充電を行い、4.2Vの電圧で電流値が50μAになるまで定電圧充電を行った。続いて、3、6、9、12、15mAの電流値で10秒間定電流放電を行い、その電池電圧を測定した。なお、各放電前に1.5mAの電流値で4.2Vとなるまで定電流充電を行い、4.2Vの電圧で電流値が50μAになるまで定電圧充電を実施した。
【0076】
放電電流値と10秒間低電流放電後の電池電圧との関係(傾き)から抵抗(R1)を算出した。測定は試料を替えて5回行い、平均値を抵抗R0とした。
【0077】
厚みの異なるサンプルを規格化するために以下の式で算出される値を電池抵抗(R)とした。
【0078】
電池抵抗(R)=R0/t×18
○:R≦7.5
△:7.5<R≦8.5
×:8.5<R
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂として、融点165℃、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を99.7質量部、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、NU−100)を0.3質量部、ベヘン酸カルシウム0.05質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーからL/D=41の二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ダイから吐出して、ドラフト比が3.8となるように引き取り、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットして結晶化温度(Tc)が130.8℃となるポリプロピレン組成物(あ)のチップを得た。
【0079】
ポリプロピレン樹脂として、融点165℃、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製FLX80E4を59.8質量部、共重合PE樹脂としてエチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、メルトインデックス:18g/10分)を30質量部と、分散剤としてCEBC(JSR(株)製 DYNARON6200P)を10質量部と、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010およびIRGAFOS168を各々0.1質量部とがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、230℃で溶融混練を行った。そして、溶融混練された材料をストランド状にダイから吐出して、ドラフト比が1.9となるように引き取り、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(い)を得た。
【0080】
得られたポリプロピレン組成物(あ)を80質量部、ポリプロピレン組成物(い)を20質量部をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、210℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイにて120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、123℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5.2倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に7.7倍延伸した。
【0081】
続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で熱処理し(HS1ゾーン)、更に164℃で弛緩率10%でリラックスを行い(Rxゾーン)、弛緩後のクリップ間距離に保ったまま164℃で熱処理を行った(HS2ゾーン)。
【0082】
その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み20μmの多孔性フィルムを得た。
【0083】
(実施例2)
実施例1と同様の条件でキャストシートを作製し、ついで、126℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5.3倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に7.7倍延伸した。
【0084】
続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で熱処理し(HS1ゾーン)、更に164℃で弛緩率20%でリラックスを行い(Rxゾーン)、弛緩後のクリップ間距離に保ったまま164℃で熱処理を行った(HS2ゾーン)。
【0085】
その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み20μmの多孔性フィルムを得た。
【0086】
(実施例3)
実施例1と同様の条件でキャストシートを作製し、ついで、126℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5.3倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に7.7倍延伸した。
【0087】
続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で熱処理し(HS1ゾーン)、更に164℃で弛緩率15%でリラックスを行い(Rxゾーン)、弛緩後のクリップ間距離に保ったまま160℃で熱処理を行った(HS2ゾーン)。
【0088】
その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み20μmの多孔性フィルムを得た。
【0089】
(比較例1)
ポリプロピレン樹脂として、融点165℃、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を99.7質量部、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、NU−100)を0.3質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ダイから吐出して、ドラフト比が1.9となるように引き取り、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットして結晶化温度(Tc)が128.0℃となるポリプロピレン組成物(う)のチップを得た。
【0090】
得られたポリプロピレン組成物(う)を単軸の溶融押出機に供給し、210℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイにて120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、123℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5.1倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に7.7倍延伸した。
【0091】
続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で熱処理し(HS1ゾーン)、更に160℃で弛緩率12%でリラックスを行い(Rxゾーン)、弛緩後のクリップ間距離に保ったまま163℃で熱処理を行った(HS2ゾーン)。
【0092】
その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み23μmの多孔性フィルムを得た。
【0093】
(比較例2)
比較例1で得られたポリプロピレン組成物(う)を単軸の溶融押出機に供給し、210℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイにて119℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、123℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5.2倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に7.7倍延伸した。
【0094】
続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で熱処理し(HS1ゾーン)、更に163℃で弛緩率15%でリラックスを行い(Rxゾーン)、弛緩後のクリップ間距離に保ったまま160℃で熱処理を行った(HS2ゾーン)。
【0095】
その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み20μmの多孔性フィルムを得た。
【0096】
(比較例3)
比較例1で得られたポリプロピレン組成物(う)を単軸の溶融押出機に供給し、210℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイにて120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、125℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5.0倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して155℃で幅方向に9.5倍延伸した。
【0097】
続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で熱処理し(HS1ゾーン)、更に163℃で弛緩率17%でリラックスを行い(Rxゾーン)、弛緩後のクリップ間距離に保ったまま163℃で熱処理を行った(HS2ゾーン)。
【0098】
その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み24μmの多孔性フィルムを得た。
【0099】
(比較例4)
融点165℃、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を70質量部、共重合PE樹脂としてエチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 Engage8411、MFR:18g/10分)を30質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、ドラフト比が1.8となるように引き取り、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(え)チップを得た。
【0100】
比較例1で得たポリプロピレン組成物(う)67質量部とポリプロピレン組成物(え)33質量部をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、210℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイにて121℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、122℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5.0倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に6.0倍延伸した。
【0101】
続く熱処理工程で、160℃で弛緩率10%でリラックスを行った(Rxゾーン)。
【0102】
その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み24μmの多孔性フィルムを得た。
【0103】
(比較例5)
比較例1で得たポリプロピレン組成物(う)90質量部と比較例4で得たポリプロピレン組成物(え)10質量部をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、210℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイにて121℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、122℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5.0倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に6.0倍延伸した。
【0104】
続く熱処理工程で、160℃で弛緩率10%でリラックスを行った(Rxゾーン)。
【0105】
その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み22μmの多孔性フィルムを得た。
【0106】
(比較例6)
比較例1で得たポリプロピレン組成物(う)80質量部と実施例1で得たポリプロピレン組成物(い)20質量部をドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、210℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイにて120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、123℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5.2倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に7.7倍延伸した。
【0107】
続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で熱処理し(HS1ゾーン)、更に164℃で弛緩率10%でリラックスを行い(Rxゾーン)、弛緩後のクリップ間距離に保ったまま164℃で熱処理を行った(HS2ゾーン)。
【0108】
その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み23μmの多孔性フィルムを得た。
【0109】
(比較例7)
実施例1で得たポリプロピレン組成物(あ)を単軸の溶融押出機に供給し、210℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイにて120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、123℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5.2倍延伸を行った。次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に7.7倍延伸した。
【0110】
続く熱処理工程で、延伸後のクリップ間距離に保ったまま150℃で熱処理し(HS1ゾーン)、更に164℃で弛緩率10%でリラックスを行い(Rxゾーン)、弛緩後のクリップ間距離に保ったまま164℃で熱処理を行った(HS2ゾーン)。
【0111】
その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、厚み23μmの多孔性フィルムを得た。
【0112】
【表1】
【0113】
本発明の要件を満足する実施例では電池抵抗が低いだけでなく、耐熱性に優れることから電池抵抗と耐熱性のバランスが良好であるだけでなく、弾性率に優れるため、機能層塗工用原反としても好適に用いることが可能である。一方、比較例では、耐熱性に劣る、または、電池抵抗に劣ることから電池抵抗と弾性率のバランスが良好ではなく、蓄電デバイス用のセパレータとして用いることが困難である。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の多孔性フィルムは、耐熱保護層などの塗工層を塗工するおよび電池組立工程適性かつセパレータとして用いた際の電池抵抗に優れるため、蓄電デバイス用のセパレータとして好適に使用することができる。