特許第6361277号(P6361277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361277
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】シールリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/18 20060101AFI20180712BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   F16J15/18 C
   F16J15/18 A
   F16J15/10 X
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-101676(P2014-101676)
(22)【出願日】2014年5月15日
(65)【公開番号】特開2015-218791(P2015-218791A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】徳永 渉
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−090961(JP,A)
【文献】 特開2004−353760(JP,A)
【文献】 特開2008−157397(JP,A)
【文献】 特開2002−005298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00−15/14
F16J 15/16−15/32;15/324−15/3296;15/46−15/53
F16J 1/00−1/24;7/00−10/04
F16F 5/00
F16F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する、射出成形によって成形される樹脂製のシールリングであって、周方向の1箇所に分断された合口部を有し、径方向外側に弾性的に拡げられた状態で、内周面の一部が前記軸の外周面に摺動されながら前記軸の中心軸線に沿った方向にスライドされることで前記環状溝に装着されるシールリングにおいて、
前記合口部によって分断された一方側と他方側のそれぞれに、径方向内側に突出し、前記軸の外周面に摺動する突出部を備えると共に、
前記突出部は、前記軸の外周面の半径と等しい曲率半径を有する、径方向外側に湾曲した湾曲面を備え、
射出成形時のゲート跡が、前記湾曲面に形成されていることを特徴とする、シールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する樹脂製のシールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧等を用いる機器において、相対的に移動する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するために、樹脂製のシールリングが用いられている。軸に形成された環状溝に装着されるシールリングでは、一般に、外周面と側面(軸方向の端面)がシール面となる。そのため、射出成形によって製造される樹脂製のシールリングでは、金型のゲートはシールリングの内周側に設けられる。これにより、ゲート内で固化した樹脂の部分(ゲート部)が除去された後に残るゲート跡は、寸法精度が相対的に要求されないシールリングの内周面に形成されることになるため、ゲート部を除去する加工が容易になる。ここで、合口部が射出成形によって成形されるシールリングにおいて、合口部の成形品質を向上させるために、合口部が形成された端部の近傍にゲート部が形成されるシールリングが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
合口部を有する樹脂製のシールリングを軸の環状溝に装着させる方法としては、図10に示されるように、シールリングを弾性的に径方向外側へ拡げた状態(以下、径方向外側へ拡げることを「拡張」ともいう)で軸の一端から環状溝までスライドさせる方法がある。以下、従来例に係るシールリングを軸の環状溝に装着させる方法について、図10図11を用いて詳しく説明する。図10は、従来例に係るシールリングが軸の環状溝に装着されるときの手順を模式的に示す図であり、図11は、従来例に係るシールリングが拡張された状態で軸の外周面に接触しているときの状態を示す模式的な部分側面図である。なお、従来例に係るシールリングは、上記特許文献1に開示された射出成形によって合口部が形成されるシールリングのような、射出成形時のゲート跡が合口部によって分断された端部の近傍に形成されるシールリングである。また、両図においては、従来例に係るシールリングの合口部の構成は、説明のために簡略化されているが、合口部の端部における径方向内側に、軸の外周面に対して線接触する端縁等が形成されているシールリングであれば、同様の状態が生じ得る。また、本出願の図面においては、説明のためにゲート跡を大きく図示しているが、実際の製品においては、ゲート跡は小さく形成される。
【0004】
一般に、ゲート跡においては、ゲート部が除去されたときに形成された微小な凹凸や樹脂内に含まれる充填剤の配向などによって、応力集中や強度低下が生じやすい。そのため、シールリングが拡張されることによってゲート跡に伸びや歪み等の変形が生じたときには、ゲート跡を起点として塑性変形や破損が生じやすい。そこで、図10に示されるように、従来例に係るシールリング900が、拡張された状態で軸300の中心軸線Cに沿った方向へ移動されることによって軸300の環状溝310に装着される場合には、過度の拡張による破損等を防ぐために、最低限拡張された状態で行われることがある。この場合には、図11に示されるように、合口部910によって分断された一方の端部911の内周側の端縁911aが外周面301に対して線接触する。なお、合口部910によって分断された他方の端部912の内周側の端縁912aも外周面301に対して線接触する。図10に示されるように、このような状態において外力F1、F2が入力されると、シールリング900は、両端縁911a、912aのそれぞれに摩擦力M1、M2を受けながら、軸300上を図中の矢印方向に移動する。なお、外力F1、F2は、通常、シールリング900を安定的にスライドさせるために、合口部910によって分断されたシールリング900の外周面の一方側と他方側にある入力点P1、P2(好ましくは、合口部910から周方向の各側に約90度の位置にある、合口部910に関して周方向に対称な2点
)に入力される。シールリング900は、このようにして作用する外力F1、F2と摩擦力M1、M2により、概ね、端縁911aと入力点P1との間の部分、及び、端縁912aと入力点P2との間の部分において、軸方向(スライド方向の反対方向)に弾性的に変形する(以下、このような変形を「軸方向の変形」などという)。ここで、シールリング900においては、シールリング900の復元力による押圧力が、外周面301に対して線接触している両端縁911a、912aに集中するため、軸方向の変形が大きくなる傾向にあった。そのため、場合によっては、両端縁911、912の近傍に形成されたゲート跡913、914を起点に、変形方向に折れるようにして破損することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3500932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、軸の外周に設けられた環状溝に装着されることによって、軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する、射出成形によって成形される樹脂製のシールリングにおいて、環状溝に装着されるときに、径方向外側に拡げられたり、内周面の一部が軸の外周面に摺動されながら軸の外周面上をスライドされたりしても、ゲート跡を起点とした破損が生じにくいシールリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
すなわち、本発明のシールリングは、
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する、射出成形によって成形される樹脂製のシールリングであって、周方向の1箇所に分断された合口部を有し、径方向外側に弾性的に拡げられた状態で、内周面の一部が前記軸の外周面に摺動されながら前記軸の中心軸線に沿った方向にスライドされることで前記環状溝に装着されるシールリングにおいて、
前記合口部によって分断された一方側と他方側のそれぞれに、径方向内側に突出し、前記軸の外周面に摺動する突出部を備えると共に、
前記突出部は、前記軸の外周面の半径と等しい曲率半径を有する、径方向外側に湾曲した湾曲面を備え、
射出成形時のゲート跡が、前記湾曲面に形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るシールリングによれば、突出部は他の部分よりも肉厚に構成されている。そのため、シールリングが径方向外側に弾性的に拡げられた(拡張された)ときには、突出部における伸びや歪み等の変形は、他の部分に比べて小さくなる。そして、シールリングが拡張された状態で、軸の外周面上をスライドされるときには、突出部が軸の外周面上を摺動する。ここで、樹脂製のシールリングの復元力によって外周面を押圧する突出部は、押圧位置において弾性的にある程度変形し得るため、摺動時に突出部に作用する摩擦力が当該押圧位置においてある程度分散される。ゆえに、ゲート跡が突出部に形成される構成によれば、シールリングの拡張時におけるゲート跡の変形が小さくなると共に、ゲート跡に作用する摩擦力が分散されるため、ゲート跡に作用する応力が低減される。これにより、環状溝への装着時におけるゲート跡を起点としたシールリングの破損を抑制することが可能になる。
【0010】
また、本発明によれば、湾曲面が軸の外周面に対して面接触することにより、軸の外周面に対する突出部の押圧力が当該湾曲面内で効果的に分散されるため、ゲート跡に作用する応力が効果的に低減される。したがって、環状溝への装着時におけるゲート跡を起点としたシールリングの破損を効果的に抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軸の外周に設けられた環状溝に装着されることによって、軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する、射出成形によって成形される樹脂製のシールリングにおいて、環状溝に装着されるときに、径方向外側に拡げられたり、内周面の一部が軸の外周面に摺動されながら軸の外周面上をスライドされたりしても、ゲート跡を起点とした破損が生じにくいシールリングを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1に係るシールリングの側面図である。
図2】本発明の実施例1に係るシールリングを外周面側から見た図である。
図3】本発明の実施例1に係るシールリングにおける軸の外周面への接触状態を示す部分側面図である。
図4】本発明の実施例1に係るシールリングが軸の外周面上でスライドされるときの状態を示す図である。
図5】本発明の実施例1に係るシールリングの使用時の状態を示す模式的断面図である。
図6】本発明の実施例2に係るシールリングの側面図である。
図7】本発明の実施例2に係るシールリングにおける軸の外周面への接触状態を示す部分側面図である。
図8】本発明の実施例3に係るシールリングの側面図である。
図9】本発明の実施例3に係るシールリングにおける軸の外周面への接触状態を示す部分側面図である。
図10】従来例に係るシールリングにおける軸の環状溝への装着手順を示す模式図である。
図11】従来例に係るシールリングにおける軸の外周面への接触状態を示す部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、本実施例に係るシールリングは、自動車用の油圧機器の他、各種装置に設けられた油圧機器に好適に用いられる。
【0014】
[実施例1]
図1から図5を参照して、本発明の実施例1に係るシールリングについて説明する。本実施例に係るシールリング100は、軸300の外周に設けられた環状溝310に装着さ
れ、相対的に移動(相対的な回転や相対的な往復移動を含む)する軸300とハウジング400との間の環状隙間を封止する。
【0015】
<シールリングの構成>
特に、図1図2を参照して、シールリング100の構成について説明する。図1は、シールリング100の側面図であり、図2は、シールリング100及びその合口部110を外周面120側から見た図である。シールリング100は、射出成形によって成形される樹脂製のシールリングである。好適な樹脂材料としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリアミド樹脂等を上げることができる。また、シールリング100の外周面120の周長は、ハウジングの軸孔の内周面の周長より短く構成されている。つまり、シールリング100は、軸孔の内周面に対して締め代を持たないように構成されている。したがって、外力が作用していない状態においては、外周面120はハウジングの軸孔の内周面に接触しない。また、合口部110によって分断された内周面121は、外力が作用していない状態においては、その大部分が概ね円形となるように形成されているが、円形部分の内径は、軸300の環状溝310の底面の直径よりも大きく、且つ、外周面301の直径よりも小さくなるように構成されている。ゆえに、内周面121の一部が外周面301に摺動されながら、シールリング100が外周面301上をスライドされたときには、シールリング100は径方向外側に弾性的に拡げられた(撓んだ)拡張状態になる。
【0016】
そして、シールリング100は、周方向の1箇所に合口部110が設けられており、この合口部110によって、一方側の第1端部111と他方側の第2端部112とが分断されている。図面に示されるように、合口部110は、外周面側及び両側面側の何れから見ても階段状に分断された、いわゆる特殊ステップカットを採用している。特殊ステップカットは公知技術であるため、その詳細な説明は省略するが、熱膨張収縮によりシールリング100の周長が変化しても安定したシール性能を維持する特性を有する。また、シールリング100においては、特殊ステップカットの形状は射出成形によって成形される。なお、本実施例においては、合口部110の一例として特殊ステップカットが採用されているが、これに限定されず、所望のシール性能が発揮される限りにおいて、ストレートカットやバイアスカット等を採用してもよい。
【0017】
図1に示されるように、第1端部111の内周側には、内周面121の円形部分より径方向内側に突出した第1突出部131が設けられている。第1突出部131の内周側には、径方向内側に湾曲した第1湾曲面131aが形成されており、第1湾曲面131aの中央部にはゲート跡133が形成されている。同様に、第2端部112の内周側には、内周面121の円形部分より径方向内側に突出した第2突出部132が設けられており、第2突出部132の内周側には、径方向内側に湾曲した第2湾曲面132aが形成されている。そして、第2湾曲面132aの中央部にはゲート跡134が形成されている。このように構成されるシールリング100では、射出成形時には、ゲート跡133、134の位置にゲート部が形成される。つまり、両端部111、112における、合口部110に近い位置から溶融した樹脂が射出されるため、特殊ステップカットの成形品質が確保される。なお、シールリング100においては、ゲート跡133の表面と第1湾曲面131aとを滑らかにするための加工が行われてもよい。また、ゲート跡134の表面と第2湾曲132aに対しても同様である。
【0018】
<シールリング装着時のメカニズム>
特に、図3から図5を参照して、シールリング100が軸300の環状溝310に装着されるときのメカニズムについて説明する。図3は、シールリング100が拡張された状態で外周面301に接触しているときの状態を示す模式的な部分側面図であって、第1湾曲面131aが部分的に接触しているときの状態を示している。図4は、シールリング1
00が軸300の外周面301上をスライドされるときの状態を模式的に示す図である。図5は、環状溝310に装着されたシールリング100の使用時(油圧作用時)の状態を示す模式的な断面図である。なお、第2湾曲面132aが外周面301に接触しているときの状態は、図3に示される状態と概ね同様であるために説明は省略する。
【0019】
上述のように、第1突出部131には第1湾曲面131aが形成されているため、図3に示されるように、第1湾曲面131aが外周面301に接触するまでシールリング100が拡張されると、第1湾曲面131aの中央部が部分的に外周面301に対して接触する。第1突出部131は、他の部分よりも肉厚に構成されているため、第1突出部131における伸びや歪み等の変形は、他の部分に比べて小さい。また、シールリング100は樹脂製であるため、当該接触している第1湾曲面131aの一部はある程度の弾性変形によって外周面301に対して面接触し得る。ここで、シールリング100においては、ゲート跡133が第1湾曲面131aの中央部に形成されているため、ゲート跡133の表面の一部も、軸300の外周面301に対して面接触する。なお、第2湾曲面132a及びこれに形成されたゲート跡134も、外周面301に対して同様に変形した状態で面接触している。
【0020】
図4に示されるように、両ゲート跡が外周面301に面接触している状態で、外力F1、F2が、入力点P1、P2にそれぞれ入力されると、シールリング100は、両ゲート跡を外周面301に対して摺動させながら、図中の矢印で示される中心軸線Cに沿った方向にスライドされて、環状溝310に装着される。このとき、両ゲート跡には、それぞれ摩擦力M1、M2が作用する。そのため、シールリング100は、概ね、ゲート跡133と入力点P1との間の部分、及び、ゲート跡134と入力点P2との間の部分において軸方向に変形する。
【0021】
次に、シールリング100の使用時の状態について簡単に説明する。図5に示されるように、ハウジング400の軸孔内において、環状溝310に装着されたシールリング100を介して差圧が生じると、高圧側(H)から低圧側(L)に向かって作用する流体圧力によって、シールリング100は、環状溝310における低圧側の側壁面とハウジング400の軸孔の内周面に対して密着された状態となる。これにより、相対的に移動する軸300とハウジング400との間の環状隙間が封止される。
【0022】
<本実施例に係るシールリングの優れた点>
上述のように、シールリング100が軸300に設けられた環状溝310に装着される場合には、第1湾曲面131a及び第2湾曲面132aが外周面301に部分的に面接触するまで拡張された状態で、両湾曲面131a、132aを軸300の外周面301に摺動させながらスライドされる。ここで、シールリング100においては、他の部分に比べて拡張時における変形が小さい両突出部131、132に、ゲート跡133、134が設けられているため、両ゲート跡133、134に作用する応力が小さくなる。また、ゲート跡133、134は、それぞれ第1湾曲面131aの中央部と第2湾曲面132aの中央部に形成されている。これにより、シールリング100の復元力によって生じる外周面301に対する押圧力は、両ゲート跡の表面内で分散されるため、シールリング100のスライド時に両ゲート跡に作用する摩擦力も分散される。ゆえに、シールリング100によれば、拡張された状態で軸300上をスライドされるときに両ゲート跡に作用する応力が低減されるため、環状溝310への装着時における両ゲート跡を起点としたシールリング100の破損を抑制することが可能になる。
【0023】
なお、ゲート跡133の第1湾曲面131aにおける位置は中央部に限定されない。スライド時に作用する応力低減の効果は、ゲート跡133と軸300の外周面301との接触面積が大きいほど発揮され得る。そのため、ゲート跡133は、第1湾曲面131aに
おける、より外周面301に接触しやすい位置に形成されるとよい。また、第1湾曲面131aの形状を、外周面301との接触面積が大きくなるように適宜変更してもよい。例えば、第1湾曲面131は、実質的に平面で形成された面であってもよい。第2湾曲面132についても同様である。
【0024】
[実施例2]
上記実施例1では、ゲート跡がシールリングの突出部に形成されている。これに対して、実施例2においては、ゲート跡が突出部よりも合口部側に形成される。以下、図6図7を用いて、実施例2について説明する。なお、上記実施例と同一の構成については、同一の符号を付してその説明は省略する。また、同一の構成の作用も実質的に同一である。
【0025】
図6は、実施例2に係るシールリング101の側面図であり、図7は、シールリング101が拡張された状態で外周面301に接触しているときの状態を示す模式的な部分側面図であって、第1湾曲面131aが部分的に接触しているときの状態を示している。図6に示されるように、シールリング101は、内周面121における第1突出部131よりも合口部110側の部分である第1先端内周面131bにゲート跡133が形成されている点、及び、内周面121における第2突出部132よりも合口部110側の部分である第2先端内周面132bにゲート跡134が形成されている点で、実施例1に係るシールリング100とは異なる。
【0026】
ここで、シールリング101が拡径された状態で、両突出部131、132が外周面301に接触しているときには、両突出部131、132間の部分における変形が大きいのに対して、各突出部よりも合口部110側の部分の変形は小さくなるため、当該部分に作用する応力が小さくなる。また、シールリング101が外周面301上をスライドされるときには、シールリング101に作用する摩擦力は両湾曲面131a、131bに対して作用する。そのため、図4を参考にすると、シールリング101をスライドさせる外力が、シールリング101における点P1に相当する位置に入力されると、第1先端内周面131bに作用する軸方向変形を生じさせる応力は小さくなる。同様に、シールリング101をスライドさせる外力が、シールリング101における点P2に相当する位置に入力されると、第2先端内周面132bに作用する軸方向の応力も小さくなる。以上より、シールリング101によれば、両ゲート跡が両先端内周面上に形成されることによって、両ゲート跡に作用する応力が低減されるため、環状溝310への装着時におけるゲート跡を起点とした破損を抑制することが可能になる。
【0027】
[実施例3]
上記実施例では、径方向内側に湾曲した湾曲面が突出部に形成されている。これに対して、実施例3においては、軸の外周面の半径と等しい曲率半径を有する、径方向外側に湾曲した湾曲面が、突出部に形成される。以下、図8図9を用いて、実施例2について説明する。なお、上記実施例と同一の構成については、同一の符号を付してその説明は省略する。また、同一の構成の作用も実質的に同一である。
【0028】
図8は、実施例3に係るシールリング102の側面図であり、図9は、シールリング102が拡張された状態で外周面301に接触しているときの状態を示す模式的な部分側面図であって、第1湾曲面131cが部分的に接触しているときの状態を示している。図8に示されるように、シールリング102においては、第1突出部131の内周側には、軸300の外周面301の半径と等しい曲率半径を有する、径方向外側に湾曲した第1湾曲面131cが形成されている。そして、第1湾曲面131cにはゲート跡133が形成されている。同様に、第2突出部132の内周側には、外周面301の半径と等しい曲率半径を有する、径方向外側に湾曲した第2湾曲面132cが形成されており、第2湾曲面132cにはゲート跡134が形成されている。なお、シールリング102においては、ゲ
ート跡133の表面と第1湾曲面131c、及び、ゲート跡134の表面と第2湾曲132cとを滑らかにさせるための加工が行われてもよい。
【0029】
上述のように、第1湾曲面131cは軸300の外周面301の半径と等しい曲率半径を有するため、第1湾曲面131cが外周面301に接触するまでシールリング100が拡張されると、図9に示されるように、第1湾曲面131cは、そのほぼ全域にわたって、外周面301に対して面接触する。これにより、ゲート跡133も、そのほぼ全域にわたって、外周面301に対して面接触することができる。同様に、第2湾曲面132cも、拡張されたときには、そのほぼ全域にわたって、外周面301に対して面接触するため、ゲート跡134も、そのほぼ全域にわたって、外周面301に対して面接触することができる。したがって、シールリング102によれば、スライド時に両ゲート跡に作用する摩擦力が効果的に分散されるため、破損の起点となりやすい両ゲート跡に作用する応力が低減される。これにより、環状溝310への装着時における両ゲート跡を起点としたシールリング102の破損を抑制することが可能になる。
【0030】
なお、上述の実施例においては、シールリングのスライド時において、突出部よりも合口部側に形成される部分が、軸の外周面から離間している場合を前提にしている。この場合には、当該部分に外周面からの摩擦力が作用しないため、より効果的にゲート部を起点とした破損が抑制されると考えられる。ただし、当該部分は、シールリングのスライド時において軸の外周面に摺動してもよい。本発明においては、シールリングのスライド時には、突出部が常に外周面に摺動するため、突出部よりも合口部側に形成される部分が外周面に摺動したとしても、当該摺動位置に過大な摩擦力は作用しないと考えられる。ゆえに、このような場合であっても、ゲート跡を起点とするシールリングの破損の抑制は実現され得る。
【符号の説明】
【0031】
100、101、102 シールリング
110 合口部
131 第1突出部
132 第2突出部
131a、131c 第1湾曲面
132a、132c 第2湾曲面
133、134 ゲート跡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11