(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361301
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】溶融金属の流量制御用プレート耐火物の損傷測定装置及び測定方法、並びに流量制御用プレート耐火物の交換判定方法
(51)【国際特許分類】
B22D 41/30 20060101AFI20180712BHJP
B22D 41/22 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
B22D41/30
B22D41/22
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-121576(P2014-121576)
(22)【出願日】2014年6月12日
(65)【公開番号】特開2016-419(P2016-419A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2017年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼田 玄聖
(72)【発明者】
【氏名】中田 武男
(72)【発明者】
【氏名】石川 瑛
【審査官】
藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−509392(JP,A)
【文献】
特開平09−210622(JP,A)
【文献】
特開2012−236215(JP,A)
【文献】
特開2010−237008(JP,A)
【文献】
特開2010−082689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 33/00−47/02
G01B 11/00−11/30
B22D 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器からの溶融金属の排出流量を制御するために前記容器の底部に配置される、固定プレート耐火物と、当該固定プレート耐火物の一面に接して摺動する摺動プレート耐火物を有し、摺動プレート耐火物の前記摺動を油圧又は電力によって行うスライディングノズル装置の、前記両プレート耐火物の損傷を測定する装置であって、
400〜550nmの波長のレーザーを使用した二次元検出器を、前記スライディングノズル装置が前記容器の底部に設置された状態で、前記固定プレート耐火物及び摺動プレート耐火物のそれぞれの摺動面に、前記両プレート耐火物の貫通孔中心を通る摺動方向の前記両プレート耐火物の全幅、または、前記両プレート耐火物の前記幅の何れかの端部を測定範囲として、前記レーザーを照射可能に設置したことを特徴とするプレート耐火物損傷測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置を用いて固定プレート耐火物及び摺動プレート耐火物の損傷を測定する方法であって、
前記二次元検出器により前記両プレート耐火物の摺動面までの距離を検出することで、前記両プレート耐火物の厚み方向の損傷を測定することを特徴とするプレート耐火物の損傷測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の測定装置を用いて請求項2に記載の方法でプレート耐火物の損傷を測定し、プレート耐火物の交換の要否を判定する方法であって、
前記スライディングノズル装置が全閉状態において、固定プレート耐火物及び摺動プレート耐火物の、それぞれの貫通孔間の領域におけるそれぞれの貫通孔の近傍からストローク側の深さが0.5mm以上の損傷をエッジ損傷と定義し、下記式を満たす場合にプレート耐火物の交換の必要ありと判定することを特徴とするプレート耐火物の交換要否判定方法。
(S−D)≦(Eup+Elp)
但し、S:プレートストローク量(mm)
D=(Du +Dl )/2
Du :固定プレート耐火物の貫通孔の内径(mm)
Dl :摺動プレート耐火物の貫通孔の内径(mm)
Eup:固定プレート耐火物のストローク側エッジ損傷量(mm)
Elp:摺動プレート耐火物のストローク側エッジ損傷量(mm)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取鍋やタンディッシュなどの容器から排出される溶融金属の流量制御を行うスライディングノズル装置に使用されるプレート耐火物の損傷を測定する装置及び方法、並びにプレート耐火物の交換の有無を判定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
取鍋やタンディッシュなどの容器から排出される溶融金属は、前記容器の底部に配置された、2枚のプレートで構成されるスライディングノズル装置を使用して流量が制御される。このスライディングノズル装置は、スライディングゲート装置或いはスライドバルブ装置などとも称される。
【0003】
スライディングノズル装置を構成するプレート耐火物は、固定プレート耐火物と、この固定プレート耐火物の下面にその上面を接するように配置される摺動プレート耐火物であり、何れも貫通孔が形成されている。以下、固定プレート耐火物の下面及び摺動プレート耐火物の上面を、固定プレート耐火物の摺動面、摺動プレート耐火物の摺動面とも言う。
【0004】
そして、この摺動プレート耐火物をスライダー等の駆動装置により直線移動または回転移動させて、両貫通孔の一致面積を調整することにより、スライディングノズル装置の開度を調節し、排出する溶融金属の流量を制御する。
【0005】
前記プレート耐火物(以下、単に「プレート」とも言う。)は、高温の溶融金属の排出という苛酷な環境下で使用されるため、使用に伴って次第に損傷する。その損傷形態には、開度を絞って溶融金属を排出する場合に各プレートの貫通孔のエッジ部が損傷するエッジ損傷と、摺動プレートの摺動動作に伴い各摺動面が損傷するストローク損傷に大別される。このほかにも酸化による組織劣化や地金の引き込み等により摺動面に荒れが発生する場合がある。
【0006】
ところで、溶融金属を排出するときは、両プレートの貫通孔が一致する面積部分がない状態(スライディングノズル装置が全閉状態で、溶融金属は排出されない。)から、必要な開度まで摺動プレートを移動させて開度を調整することにより適度な流量で溶融金属を排出する。そして、溶融金属の排出が完了すると、摺動プレートを移動させてスライディングノズル装置を再び全閉に戻す。この一連の動作を1チャージ(以下、「1ch」と記載する。)と称する。
【0007】
スライディングノズル装置の使用に際しては、例えば、スライディングノズル装置を1回使用すると、両プレートを交換しない場合でも、貫通孔の酸素洗浄を実施する。2ch程度使用後までは摺動プレートを取り付けたスライダー部分を開かずに、貫通孔部から目視検査をする。3ch使用後からは毎回、前記スライダー部分を開いてプレート間を検査し、何回目かの使用後に両プレートを交換する。
【0008】
スライディングノズル装置のプレート交換については、上記のように摺動プレートを取り付けたスライダー部分を開いた状態で損傷状況の確認を行わず、規定のチャージ回数まで使用した後に、損傷状況に関わらずプレートを交換する方法もある。
【0009】
プレートの前記損傷はチャージ数の増加に伴って進行するため、損傷状況を確認する必要がある。この損傷状況の確認は、オンライン中(高温状態)は目視で確認する一方、オフライン中は室温近くに温度が下がったプレートの表面にストレートエッジ等をあて、ストレートエッジと損傷個所の間の間隙を隙間ゲージ等で測定することによって行っている。
【0010】
しかしながら、使用後のプレートの摺動面には地金付着や剥離などによって細かい凹凸が形成されている。オンライン中の目視測定による損傷測定の精度が低いことは言うまでもないが、オフラインの測定においても、特に凸部ではストレートエッジが浮くため、正確な面損傷度の測定が困難な場合がある。
【0011】
また、プレートは、損傷深さが1mm程度になると、使用上、問題を生じることになるが、損傷を測定するという観点からは、損傷深さが1mm以下の部分では当該損傷を正確に測定することが難しい等の問題があり、プレートの損傷を測定する際の精度が低いこと、さらに、人的ばらつきにより測定精度が悪化することは避けられない。
【0012】
このような背景から、スライディングノズル装置のプレートを交換する場合は、前述したように、決められた使用回数の経過により交換することを原則として、これに、損傷状況の測定により異常の有無を確認する程度であった。
【0013】
しかしながら、このような方法で交換する場合は、交換すべき時期を逸して操業上の問題を生じる場合がある。また逆に、時期が来れば交換の必要がない状態にも関わらず交換することになってコストの増大をもたらす。
【0014】
従って、より定量的にプレートの交換の有無を判定できる方法が望まれており、例えば特許文献1,2が提案されている。
【0015】
特許文献1には、固定プレート及び摺動プレートの摺動面を重ね合わせた状態で各摺動面の凹凸によって生じるプレート間の隙間を光学的に測定し、当該隙間が1mmを超えた場合にプレートを交換する方法が開示されている。
【0016】
しかしながら、特許文献1には、プレートが高温の状態で交換の有無の判定を行うことについては全く記載されてない。また、前記隙間の測定はスライディングノズル装置から取り外して行っているが、プレートを室温まで完全に冷却した場合、熱衝撃のためにプレートの損傷が大きくなる。また、交換の有無の判定を行うためにプレートを取り外し、再度寿命まで数回使用した後取り外すことになるため、取り外し・取り付けの回数が増える。
【0017】
また、特許文献2では、取鍋またはタンディッシュ内の溶融金属を排出した状態で摺動プレートを摺動させて摺動圧力を検出し、この摺動圧力が予め設定した摺動圧力を超えた場合に警報を発して異常を検知する方法が開示されている。
【0018】
しかしながら、特許文献2には、プレートの損傷量と摺動圧力の相関性について記載されておらず、プレートの損傷量に基づいた交換判定ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2010−82689号公報
【特許文献2】特開2004−291011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明が解決しようとする問題点は、特許文献1で開示された方法は、隙間の測定をスライディングノズル装置から取り外して行うので、熱衝撃のためにプレートの損傷が大きくなり、また、取り外し・取り付けの回数が増えるという点である。
【0021】
また、特許文献2で開示された方法は、プレートの損傷量と摺動圧力の相関性について記載されておらず、プレートの損傷量に基づいた交換判定ではないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、スライディングノズル装置にプレートを取り付けたまま、高温下での交換判定を可能とするためのプレートの損傷を測定する装置及び方法と、プレート交換の要否を判定する方法を提供することを目的としている。
【0023】
すなわち、本発明のプレートの損傷測定装置は、
容器からの溶融金属の排出流量を制御するために前記容器の底部に配置される、固定プレートと、当該固定プレートの一面に接して摺動する摺動プレートを有し、摺動プレートの前記摺動を油圧又は電力によって行うスライディングノズル装置の、前記両プレートの損傷を測定する装置であって、
400〜550nmの波長のレーザーを使用した二次元検出器を、前記スライディングノズル装置が前記容器の底部に設置された状態で、前記固定プレート及び摺動プレートのそれぞれの摺動面に
、前記両プレート耐火物の貫通孔中心を通る摺動方向の前記両プレート耐火物の全幅、または、前記両プレート耐火物の前記幅の何れかの端部を測定範囲として、前記レーザーを照射可能に設置したことを最も主要な特徴としている。
【0024】
本発明のプレートの損傷測定装置は、油圧又は電力により自動で固定プレートに対して摺動プレートを摺動させて開閉が可能なスライディングノズル装置を使用するので、使用中におけるプレートの観察を容易に行うことができる。
【0025】
また、400〜550nmの波長のレーザーを使用するので、高温下での距離測定と測定位置の判別を同時に可能とすることができる。
【0026】
また、本発明のプレートの損傷測定方法は、
上記本発明の測定装置を用いて固定プレート及び摺動プレートの損傷を測定する方法であって、
前記二次元検出器により前記両プレートの摺動面までの距離を検出する
ことで、前記両プレートの厚み方向の損傷を測定することを最も主要な特徴としている。
【0027】
本発明のプレートの損傷測定方法は、二次元検出器のレーザーを用いた測定範囲を「貫通孔の中心を通る摺動方向のプレート全幅」とするので、プレートの位置測定を不要にすることができる。また、プレートと二次元検出器の距離を変化させても、容易にその補正をすることが可能となる。
【0028】
また、本発明のプレートの交換要否判定方法は、
上記本発明の測定装置を用いて上記本発明の方法でプレートの損傷を測定し、プレートの交換の要否を判定する方法であって、
前記スライディングノズル装置が全閉状態において、固定プレート及び摺動プレートの、それぞれの貫通孔間の領域におけるそれぞれの貫通孔の近傍からストローク側の深さが0.5mm以上の損傷をエッジ損傷と定義し、下記式を満たす場合にプレートの交換の必要ありと判定することを最も主要な特徴としている。
(S−D)≦(Eup+Elp)
但し、S:プレートストローク量(mm)
D=(Du +Dl )/2
Du :固定プレート耐火物の貫通孔の内径(mm)
Dl :摺動プレート耐火物の貫通孔の内径(mm)
Eup:固定プレート耐火物のストローク側エッジ損傷量(mm)
Elp:摺動プレート耐火物のストローク側エッジ損傷量(mm)
【0029】
上記本発明において、「プレートストローク量」とは、固定プレートに対して、摺動プレートが相対的に移動できる範囲である。スライディングノズル装置の全閉状態における、固定プレートの貫通孔と摺動プレートの貫通孔の中心点の位置の距離がプレートストローク量に相当する。
【0030】
本発明のプレートの交換要否判定方法では、本発明の測定装置を用いて本発明の方法で測定したプレートの損傷をもとに、従来測定不可能とされていたオンライン(操業中)でのプレートの損傷量を高精度に測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、オンラインでのプレートの損傷量を高精度に測定することが可能となるので、交換が必要な時期までプレートを使用できてコスト低減が可能になる。また、本来交換が必要なプレートを使用することによる漏鋼を防止できて、安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】固定プレートと摺動プレートの位置関係を説明する図で、(a)は側面方向から見た図、(b)は上方向から見た固定プレート、(c)は上方向から見た摺動プレートである。
【
図2】本発明装置を使用して本発明方法でプレートの損傷を測定する場合の概要を説明する図である。
【
図3】8ch使用後にプレートの損傷を測定した状況を示した図で、(a)は固定プレート、(b)は摺動プレートの図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明者らは、スライディングノズル装置にプレートを取り付けたまま、高温下での交換判定を可能とすることについて検討した結果、以下の知見を得た。
【0034】
1)油圧又は電力により自動で固定プレートに対して摺動プレートを摺動させて開閉が可能なスライディングノズル装置を使用すれば、使用中におけるプレートの観察を容易に行うことができる。
【0035】
2)一般のレーザー距離計に利用されている赤色レーザーの場合、高温下では測定位置の判別が困難である。これに対して、400〜550nmの波長の青色レーザーを使用すれば、距離測定と測定位置の判別を同時に可能とすることができる。
【0036】
3)対象物と測定機器の距離が一定でないと測定範囲が変化することによって誤差が発生する。従って、三次元カメラなどでは、位置決めのために対象物に一定パターンの光の照射、或いはマーキングが必要になる。これに対して、二次元検出器のレーザーを使用し、測定範囲を「貫通孔の中心を通る摺動方向のプレート全幅」とすれば、プレートの位置測定が不要になる。つまり、このようにプレート全幅を測定すれば、測定結果からプレートの両端位置を検出できるので、プレートと二次元検出器の距離を変化させても、容易にその補正が可能となる。二次元検出器の測定範囲がプレート全幅よりも小さい場合は、プレートの端部又は貫通孔を含めることで測定データにより測定位置が明らかとなる。
【0037】
発明者らは、上記知見を元に、取鍋に油圧シリンダーにより自動で摺動プレートと固定プレートを開閉できるスライディングノズル装置を取付け、鋳造開始から40分後に400〜550nmの波長の青色レーザーを使用した二次元検出器を用いて、プレートの測定を実施した。その結果、800℃以上の高温下でも精度よくプレートに発生した損傷の深さを測定することができた。
【0038】
本発明は、上記知見及び実験結果に基づいてなされたものであり、溶融金属の流量制御用プレートの交換の有無を判定するためのプレートの損傷を測定する装置及び方法と、これらを用いてプレートの交換の有無を判定する方法である。
【0039】
そして、本発明の特徴とするところは、油圧又は電力によって容易に自動で固定プレートに対して摺動プレートを摺動させて開閉できるスライディングノズル装置を用いて、高温下でも測定可能な青色レーザーを使用した二次元検出器を使用してプレートの貫通孔中心を通る摺動方向のプレート全幅を測定することである。
【0040】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、スライディングノズル装置の構成要素である固定プレートと摺動プレートの位置関係について、
図1を用いて説明する。
【0041】
スライディングノズル装置1は、固定プレート2と摺動プレート3を備えた構成である。このうち、摺動プレート3は、その上面が溶融金属容器に固定された固定プレート2の下面に接するように配置され、油圧シリンダー4によって摺動して、固定プレート2との相対位置を変更することができる。
【0042】
これら固定プレート2及び摺動プレート3は、それぞれ貫通孔2a,3aを一方側又は他方側に設けている。これら貫通孔2a,3aの内径Du とDl は、同じであることも多い。
【0043】
スライディングノズル装置1の開度調整は、油圧シリンダー4を作動させて前記摺動プレート3を摺動させ、固定プレート2の貫通孔2aと摺動プレート3の貫通孔3aの一致面積を調整することにより行う。
図1は完全に閉の状態を示したものであり、固定プレート2の貫通孔2aと摺動プレート3の貫通孔3aの中心軸間の距離Sがプレートストローク量である。
【0044】
固定プレート2の貫通孔2aと摺動プレート3の貫通孔3aの一致面積(スライディングノズル開度)を絞って溶融金属を排出する場合には、前記貫通孔2a,3aのそれぞれ隣り合う側(以下、「ストローク側」と言う。)のエッジ部が損傷するエッジ損傷が発生する。これらのエッジ損傷量を、それぞれ、固定プレートストローク側エッジ損傷量Eup、摺動プレートストローク側エッジ損傷量Elpとする。
【0045】
なお、各プレート2,3は、使用に伴って反ストローク側にも若干の損傷が生じる場合もあるが、プレート自体の健全性を毀損しない限りは、スライディングノズル装置1の溶融金属流量制御機能には影響を与えないので、本発明では反ストローク側の損傷については考慮しない。
【0046】
次に、損傷測定装置を使用して各プレート2,3の損傷を測定する方法の概要を
図2に示す。
【0047】
本発明ではレーザーを使用した二次元検出器5からスライディングノズル装置1までの距離を測定するが、操業中は800℃程度の高温で、発光している固定プレート2や摺動プレート3へ前記レーザーを照射して位置決めを行う。
【0048】
本発明で使用する二次元検出器5は、いわゆる二次元レーザー距離計であり、単一の投光部から投光されるレーザー光を、レンズ等で両側に広げて、所定の測定範囲を確保できる構造になっている。この距離計を使用すれば、レーザー光のスキャニングや、レーザー距離計を移動しながらの測定を行う必要がないので、測定時間が短く、簡便に測定することができる。
【0049】
測定位置は貫通孔2a又は3aを含んだ固定プレート2又は摺動プレート3の全幅に対して行うことが測定部の位置を決定する必要が無いため望ましい。
【0050】
二次元検出器5の一回の測定で、固定プレート2又は摺動プレート3の全幅を測定できない場合は、次のように測定すればよい。
【0051】
固定プレート2又は摺動プレート3との距離を一定として二次元検出器5を走査し、固定プレート2又は摺動プレート3の、貫通孔2a又は3aを設けない方の端部2b又は3bと、貫通孔2a又は3aを設けた方の端部2c又は3cを含む部分を複数回に分けて測定する。このようにすることでも全幅に対する各測定部位置を決定することができる。
【0052】
あるいは、複数の二次元検出器5を使用した複数の測定結果を重ね合わせて全幅を測定することでも、全幅に対する各測定部位置を決定することができる。この方法を採用する場合も、前記複数回の測定を行う場合と同様に、各々の測定結果について、固定プレート2又は摺動プレート3の、貫通孔2a又は3aを設けない方の端部2b又は3bと、貫通孔2a又は3aを設けた方の端部2c又は3cを含む部分を測定範囲に含めておくことで、全幅に対する各測定部位置を決定することができる。
【0053】
二次元検出器5で、波長が655nm程度の赤色レーザーを使用した場合は、発光部と近い色合いのため測定位置の判別を行うことが困難であり、測定データも発光の影響を受けるため精度よく測定することができない。一方、波長が532nm程度の緑色レーザーを使用した場合は、測定は可能であるが、位置の判別が難しい。
【0054】
これに対して、波長が405nm程度の青色レーザーを使用した場合は、最も精度が良く、明確にレーザー光が固定プレート2上又は摺動プレート3上で見えるため、測定位置の判別がしやすくなる。従って、本発明では、例えば405nmの波長の青色レーザーを使用した二次元検出器5を使用することとした。
【0055】
固定プレート2及び摺動プレート3の交換の有無を判定するに際し、先に説明した特許文献1では両プレート2,3を重ね合わせた状態での隙間位置を計算し、隙間の最小値が1mmを超えた場合に交換するとしている。
【0056】
しかしながら、発明者らは上記で得られた測定データを解析した結果に基づき、全閉時に固定プレート2及び摺動プレート3の貫通孔2a,3aで挟まれた領域内において、貫通孔2a,3aの近傍からストローク側の深さが0.5mm以上の損傷をエッジ損傷と定義し、損傷領域が重ならないように以下のパラメータを満たす場合に交換を実施することとした。
(S−D)≦(Eup+Elp)
但し、S:プレートストローク量(mm)
D=(Du +Dl )/2
Du :固定プレート2の貫通孔2aの内径(mm)
Dl :摺動プレート3の貫通孔3aの内径(mm)
Eup:固定プレート2のストローク側エッジ損傷量(mm)
Elp:摺動プレート3のストローク側エッジ損傷量(mm)
【0057】
上記、本発明によれば、より安全に、かつコストを低減して固定プレート2や摺動プレート3の交換の有無を判定することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験結果について説明する。
発明者らは、傾転装置を使用して取鍋を横向きに傾転させた状態で、油圧シリンダーを作動して摺動プレートを移動させ、固定プレートと摺動プレートの摺動面を容易に確認できる、取鍋に設置したスライディングノズル装置を使用して、両プレートの損傷を測定し、その交換の有無を判定した。
【0059】
なお、本実験に使用した取鍋の傾転装置は、取鍋ノズルの洗浄等のために通常設置されているものであるが、取鍋の傾転装置が設置されていない場合は、取鍋を傾転せず、油圧シリンダーを作動させて摺動プレートを移動して固定プレートと摺動プレートの摺動面を測定することも可能である。
【0060】
実験は、鋳造のための溶融金属の排出が完了した後、摺動プレートを移動させて、スライディングノズル装置を再び全閉にした後、取鍋を傾転し、取鍋ノズルと固定プレートと摺動プレートの孔部の地金を酸素洗浄した後、再度摺動プレートを移動させて、スライディングノズル装置を全開にして測定を行った。上記洗浄及び測定準備等のために、溶融金属の排出が完了して40分が経過した後に、固定プレートと摺動プレートの摺動面の測定を実施した。
【0061】
405nmの波長のレーザー距離計を二次元検出器として使用し、前記貫通孔近傍が845℃で赤熱した状態で、固定プレート及び摺動プレートの貫通孔中心を通る長手方向のプレート全幅を測定し、貫通孔中心の損傷状況の測定を行った。
【0062】
測定結果を
図3に示す。
図3の横軸が固定プレート、摺動プレートの長手方向位置、縦軸が二次元検出器から、測定位置である固定プレート、摺動プレートの摺動面までの距離であり、プレートの厚み方向の変位としている。
【0063】
実験では、波長が405nmの青色レーザーを使用したため、固定プレート、摺動プレートの摺動面でのレーザーの視認性も良好であり、赤熱した状態の摺動面を、測定位置が不明になる等の問題もなく、固定プレート、摺動プレートの全幅に亘って、二次元検出器から各摺動面までの距離を測定することができた。
【0064】
固定プレート、摺動プレートの長手方向の全幅は共に約510mmであり、その両側は測定値が急激に変化していることから、固定プレート、摺動プレートの端部の位置及び当該位置における距離を検知できている。また、固定プレートと摺動プレートのそれぞれについて、貫通孔部も検知できている。
【0065】
固定プレート、摺動プレートの摺動面の健全部(厚み方向寸法が0mmの位置)と、それぞれの貫通孔部近傍のストローク側エッジ損傷については、深さが0.5mm以上の損傷を損傷部とした。
【0066】
プレートストローク量Sは230mm、固定プレートの貫通孔の内径Du と摺動プレートの貫通孔の内径Dl の平均値D{(Du +Dl )/2}は95mmであり、固定プレートのストローク側エッジ損傷量Eupの測定値は56mm(
図3(a))、摺動プレートのストローク側エッジ損傷量Elpは84mm(
図3(b))であった。
【0067】
従って、S−Dは230mm−95mmで135mm、Eup+Elpは56mm+84mmで140mmとなり、(S−D)≦(Eup+Elp)の関係のため、固定プレートと摺動プレートの交換の必要があると判断して交換を実施した。
【0068】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0069】
1 スライディングノズル装置
2 固定プレート
2a 貫通孔
2b,2c 端部
3 摺動プレート
3a 貫通孔
3b、3c 端部
4 油圧シリンダー
5 二次元検出器