特許第6361352号(P6361352)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6361352ポリアミドエラストマー組成物、及びそれを用いた成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361352
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】ポリアミドエラストマー組成物、及びそれを用いた成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20180712BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20180712BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20180712BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20180712BHJP
   C08G 69/40 20060101ALI20180712BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20180712BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08K3/22
   C08K3/34
   C08K5/54
   C08G69/40
   B32B25/08
   B32B27/20 Z
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-152586(P2014-152586)
(22)【出願日】2014年7月28日
(65)【公開番号】特開2015-57466(P2015-57466A)
(43)【公開日】2015年3月26日
【審査請求日】2017年5月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-167453(P2013-167453)
(32)【優先日】2013年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮本 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】市川 満淳
(72)【発明者】
【氏名】赤津 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】松富 豊
【審査官】 楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−231083(JP,A)
【文献】 特開2004−206890(JP,A)
【文献】 特開平04−300558(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/132639(WO,A1)
【文献】 特開平07−216133(JP,A)
【文献】 特開昭62−215656(JP,A)
【文献】 特開2003−082225(JP,A)
【文献】 特開2004−055992(JP,A)
【文献】 特開平07−026138(JP,A)
【文献】 特開2011−042774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08K 3/22
C08K 3/34
C08K 5/54
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラーと、シランカップリング剤と、ベース樹脂としてのポリアミドエラストマーとを含有するポリアミドエラストマー組成物であって、
前記無機フィラーを10〜80重量%含有し、
前記シランカップリング剤を0.01〜0.3重量%含有し、
前記ポリアミドエラストマーのハードセグメントとソフトセグメントの割合が60/40〜30/70であることを特徴とするポリアミドエラストマー組成物。
【請求項2】
前記ベース樹脂は、ポリアミドエラストマーのみからなることを特徴とする請求項1記載のポリアミドエラストマー組成物。
【請求項3】
前記無機フィラーが酸化マグネシウム及びタルクのいずれか1以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリアミドエラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1乃至いずれか記載のポリアミドエラストマー組成物を熱硬化性樹脂に接着させたことを特徴とする積層体。
【請求項5】
前記ポリアミドエラストマー組成物が、平面形状及びフィン形状のいずれかを有することを特徴とする請求項記載の積層体。
【請求項6】
請求項1乃至いずれか記載のポリアミドエラストマー組成物を含むことを特徴とする封止材。
【請求項7】
請求項1乃至いずれか記載のポリアミドエラストマー組成物を含むことを特徴とする接着剤。
【請求項8】
請求項1乃至いずれか記載のポリアミドエラストマー組成物を含むことを特徴とする電子部品。
【請求項9】
請求項1乃至いずれか記載のポリアミドエラストマー組成物を含むことを特徴とする放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性、熱伝導性、及び封止性能に優れたポリアミドエラストマー組成物、及びそれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子部材においては、集積回路の処理速度や実装密度の向上により、発熱量がますます増大する傾向にある。このため、各種電子部材にあたっては、放熱対策が必要とされている。
従来、電子材料の放熱性を高めるためには、例えば、電子材料を構成する樹脂に対して、シリカや黒鉛などを添加して放熱性を付与している(特許文献1、2及び3)。しかし、これらの添加剤では、熱伝導性と柔軟性のバランスが非常に難しくなるため、様々な要求に答えられない。
そこで、柔軟性、熱伝導性に優れた材料として、スチレン系エラストマー及び/又はその水添物、炭化水素系ゴム用軟化剤及び熱伝導性材料の樹脂組成物が検討されている(特許文献4)。また、ポリエステル系エラストマーとスチレン系エラストマーを含み、窒化ホウ素など無機フィラー及び炭化水素系ゴム用軟化剤からなる樹脂組成物が検討されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−193626号公報
【特許文献2】特開2007−31611号公報
【特許文献3】特開平4−164953号公報
【特許文献4】特開2001−106865号公報
【特許文献5】特開2013−53211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献4や5に記載の樹脂組成物では、経時変化による寸法安定性の不安や、近年求められている要求特性として低温低圧条件での封止性能を満たせないなどの問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、柔軟性、熱伝導性に優れているだけでなく、封止性能にも優れたポリアミドエラストマー組成物、及びそれを用いた成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以上の目的を達成するために、鋭意検討した結果、無機フィラーと、シランカップリング剤と、ポリアミドエラストマーとを含有させることにより、柔軟性、熱伝導性に優れているだけでなく、封止性能にも優れたポリアミドエラストマー組成物、及びそれを用いた成形体が得られることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、無機フィラーと、シランカップリング剤と、ポリアミドエラストマーとを含有するポリアミドエラストマー組成物であって、前記無機フィラーを10〜80重量%含有することを特徴とするポリアミドエラストマー組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、上記ポリアミドエラストマー組成物を熱硬化性樹脂に接着させたことを特徴とする積層体に関する。
【0009】
さらに、本発明は、上記ポリアミドエラストマー組成物を含むことを特徴とする封止材、接着剤、電子部品、及び放熱部材に関する。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、柔軟性、熱伝導性に優れているだけでなく、封止性能にも優れたポリアミドエラストマー組成物、及びそれを用いた成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ポリアミドエラストマー)
本発明に係るポリアミドエラストマー組成物に用いられるポリアミドエラストマーは、ポリアミド単位をハードセグメントとしポリエーテル単位をソフトセグメントとするポリアミドエラストマーが好ましく用いられ、例えば、ハードセグメントとソフトセグメントをエステル結合で結んだポリエーテルエステルアミドエラストマーや、ハードセグメントとソフトセグメントをアミド結合で結んだポリエーテルアミドエラストマーなどが挙げられる。
【0012】
ハードセグメントは、ポリアミド形成単位と、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸の中から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸とを反応させて得られるセグメントである。
【0013】
ハードセグメントのポリアミド形成単位とは、ラクタム、アミノカルボン酸及び/又はジアミンとジカルボン酸とからなるナイロン塩からなる単位であり、ジアミンとジカルボン酸とからなるナイロン塩、ラクタム、アミノカルボン酸及びジカルボン酸を1種又は2種以上反応させて得られる単位が挙げられる。
【0014】
ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ω−エナントラクタム、ω−ウンデカラクタム、ω−ラウリルラクタム、2−ピロリドンなどの炭素数5〜20の脂肪族ラクタムなどが挙げられる。
アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、10−アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などの炭素数5〜20の脂肪族ω−アミノカルボン酸などが挙げられる。
ジアミンとジカルボン酸とからなるナイロン塩で用いられるジアミンとしては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、3−メチルペンタメチレンジアミンなどの炭素数2〜20の脂肪族ジアミンなどのジアミン化合物が挙げられ、ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、及びドデカン二酸のような炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸などのジカルボン酸化合物が挙げられる。
これらの中でも特に、低吸水による寸法安定性、耐薬品性、機械特性の観点から、ω−ラウリルラクタム、11−アミノウンデカン酸または12−アミノドデカン酸が好ましい。
【0015】
ハードセグメントのジカルボン酸は、分子量調整剤として使用することができる。ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、及びドデカン二酸などの炭素数2〜25の直鎖脂肪族ジカルボン酸、又は、トリグリセリドの分留により得られる不飽和脂肪酸を二量化した炭素数14〜48の二量化脂肪族ジカルボン酸(ダイマー酸)及びこれらの水素添加物(水添ダイマー酸)などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、並びに、テレフタル酸、及びイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を挙げることができる。ダイマー酸及び水添ダイマー酸としては、ユニケマ社製商品名「プリポール1004」、「プリポール1006」、「プリポール1009」、「プリポール1013」などを用いることができる。
該ジカルボン酸の存在下、上記ポリアミド形成単位を常法により開環重合あるいは重縮合させることによって両末端にカルボキシル基を有するポリアミドが得られる。
【0016】
ハードセグメントの数平均分子量は、300〜15000であることが好ましく、柔軟性、成形性の観点から、300〜6000であることがより好ましい。
【0017】
一方、ソフトセグメントは、ポリエーテルが好ましく、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、下記式(1)に示されるABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を用いることができる。また、ポリエーテルの末端にアニモニア等を反応させることによって得られるポリエーテルジアミン等を用いることができる。ソフトセグメントの数平均分子量は、200〜6000であることが好ましく、650〜2000であることがより好ましい。
【0018】
【化1】

(式中、xは1〜20、yは4〜50、zは1〜20を表す。)
【0019】
上記式(1)において、xおよびzは、それぞれ1〜20の整数であるが、1〜18の整数が好ましく、1〜16の整数が更に好ましく、1〜14の整数が特に好ましく、1〜12の整数が最も好ましい。また、yは、4〜50の整数であるが、5〜45の整数が好ましく、6〜40の整数が更に好ましく、7〜35の整数が特に好ましく、8〜30の整数が最も好ましい。
【0020】
上記ハードセグメントと上記ソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。この中でも、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリエチレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリプロピレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリテトラメチレンエーテルグリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せが好ましく、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せが特に好ましい。
【0021】
また、上記ハードセグメントと、上記ソフトセグメントとの割合(重量比)は、ハードセグメント/ソフトセグメント=95/5〜20/80であることが好ましく、60/40〜30/70であることがより好ましく、50/50〜30/70であることが特に好ましい。ハードセグメントが20重量%未満では、成形体からブリードアウトを生じやすく製品として成立しない場合があり、95重量%を超えると、柔軟性が不足する傾向にある。
【0022】
以上のようなポリアミドエラストマーは、市販品として、ダイセル・エボニック社製:ダイアミド、ARKEMA社製:Pebax、エムスケミー・ジャパン社製:グリルアミド、リケンテクノス社製:ハイパーアロイアクティマー、三菱エンジニアリングプラスチックス社製:ノバミット、宇部興産株式会社製:UBESTA XPAの各シリーズなどが挙げられる。
【0023】
中でも特に、「UBESTA XPA 9040X1、同9040F1、同9048X1、同9048F1、同9055X1、同9055F1、同9063X1、同9063F1、同9068X1、同9068F1、同9040X2、同9048X2、同9040F2、同9048F2、同9035X」(宇部興産株式会社製)などのポリエーテルアミドエラストマーを好ましく使用することができる。
【0024】
(無機フィラー)
本発明に係るポリアミドエラストマー組成物は、熱伝導率向上のために、無機フィラーを含有する。無機フィラーとしては、導電性フィラー{金属系(銀、銅、ニッケル、ステンレス繊維等)、酸化物系(ZnO、ITO、ATO等)、窒化物系(Si、Li等)、炭化物系(SiC、CaC等)、ホウ化物系(FeB、MgB等)、炭素系}、磁性フィラー(フェライト、Sm/Co、Nd/Fe/B等)、圧電性フィラー、熱伝導性フィラー(Ag、h−BN、AlN、Al)、補強性フィラー(ガラス繊維、炭素繊維、MOS、タルク、雲母等)、成形加工性フィラー、耐衝撃フィラー、耐摩耗性フィラー、耐熱性フィラー(粘土鉱物、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム等)、難燃性フィラー(ホウ酸亜鉛、赤燐、リン酸アンモニウム、水酸化マグネシウム等)、防音防振性フィラー(鉄粉、硫酸バリウム、雲母、フェライト等)、固体潤滑剤フィラー(黒鉛、二硫化モリブデン、フッ素樹脂粉末、タルク等)、熱線輻射フィラー(ハイドロタルサイト、酸化アルミニウム、木炭、酸化マグネシウム等)等が挙げられる。中でも熱伝導率向上の点で、酸化マグネシウム、タルクが好ましく用いられる。
【0025】
また、無機フィラーの形状は、粒状、真球状(易加工性、破壊靭性の向上)、扁平状(薄片状)(剛性、制振、表面潤滑性)、針状(機械的熱的補強、導電効率、制振)などが挙げられるが、目的に応じ適宜利用することができる。また、無機フィラーの平均粒子径は、0.01〜100μmが好ましく、0.1〜50μmがより好ましい。
【0026】
無機フィラーは、ポリアミドエラストマー組成物の総重量の10〜80重量%で添加され、30〜80重量%が好ましく、40〜75重量%がより好ましく、50〜75重量%が特に好ましい。無機フィラーが10重量%より少ないと、熱伝導率がポリアミドエラストマーと同等であり、80重量%より多いと、柔軟性低下や成形加工性悪化するため好ましくない。
【0027】
(シランカップリング剤)
本発明に係るポリアミドエラストマー組成物は、上記無機フィラーの分散性を向上させるため、シランカップリング剤を含有する。シランカップリング剤の具体例としては、α−アミノエチルトリエトキシラン、α−アミノプロピルトリエトキシシラン、α−アミノブチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有シラン類;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のビニル基含有シラン類;β−カルボキシエチルトリエトキシシラン、β−カルボキシエチルフェニルビス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−β−(N−カルボキシルメチルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のカルボキシル基含有シラン類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のメルカプト基含有シラン類;γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のハロゲン含有シラン類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有シラン類;γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン等のイソシアネート基含有シラン類等が挙げられる。中でもポリアミドエラストマーとの親和性の観点から、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン等のアミノシラン類やγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン類が好ましく用いられる。
【0028】
シランカップリング剤は、ポリアミドエラストマー組成物の総重量の0.01〜0.3重量%で添加されることが好ましく、0.05〜0.3重量%がより好ましく、0.1〜0.2重量%が特に好ましい。シランカップリング剤が0.01重量%より少ないと、接着性向上および組成物の柔軟性向上の効果が低い傾向があり、0.3重量%より多いと、混練性や成形加工性悪化の傾向がある。
【0029】
(その他の成分)
本発明に係るポリアミドエラストマー組成物においては、その特性が阻害されない範囲で、耐熱剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、スリップ剤、結晶核剤、粘着性付与剤、シール性改良剤、防曇剤、離型剤、可塑剤、顔料、染料、香料、難燃剤、補強材などを必要に応じて適宜添加することができる。
【0030】
(製造方法)
本発明のポリアミドエラストマー組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、常法に従って、ポリアミドエラストマーと、無機フィラーと、シランカップリング剤と、必要に応じて添加されるその他の成分とをドライブレンドした後、溶融混練することにより製造することができる。
【0031】
混練装置としては、特に限定はなく、従来公知の縦型の反応容器、混合槽、混練槽あるいは一軸または多軸の横型混練装置、例えば一軸あるいは多軸のルーダー、ニーダーなどが例示される。混合温度は、160〜260℃が好ましく、混合時間は、混合装置や混合温度にもよるが、2〜200秒が好ましい。
【0032】
(用途:積層体、封止材、接着剤、電子部品、放熱部材)
本発明のポリアミドエラストマー組成物は、柔軟性、熱伝導性、及び封止性能に優れており、積層体、封止材、接着剤、電子部品、及び放熱部材として好適に使用することができる。
【0033】
本発明のポリアミドエラストマー組成物は、ガラスエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂又はフェノール樹脂のような電子基板に使用される熱硬化性樹脂との接着性が良好であるため、それらの樹脂とホットプレスするなどの方法により接着させて積層体とすることができる。積層体は、平面形状やフィン形状などの形状を有し、放熱性を向上させることができるため、放熱性封止材等に使用することができる。
【0034】
また、本発明のポリアミドエラストマー組成物は、放熱部材の封止材及び接着剤として、パソコンの筐体等の電子部材において絶縁性と放熱性が必要とされる部位において、特に電子部品封止材及び放熱性接着剤として有用である。
さらに、本発明のポリアミドエラストマー組成物の用途は、放熱部材の封止材及び接着剤に限定されるものではなく、受動部品、接続部品、変換部品、電源及び高周波部品などの電子部品、自動車部品、家電部品にも使用することができる。また、電線被覆、医療用部品、履物、雑貨等の広い分野のゴム弾性を必要とする用途にも使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。
【0036】
まず、本実施例で用いた測定方法を以下に示す。
(熱伝導率)
溶融混練して得られた組成物を、射出成形機にて厚さ3mmの板状に成形し、定常法熱伝導率測定装置(アルバック理工株式会社製)にて測定した。
【0037】
(成形容易性)
評価ペレットを、メルトフローインデックステスター((株)安田精機製作所製)を用いてJIS K7210に準拠して測定し、成形容易性を以下の評価基準で評価した。
S:10g/10minを超える。
A:7g/10minを超え、10g/10min以下である。
B:5g/10minを超え、7g/10min以下である。
C:3g/10minを超え、5g/10min以下である。
D:3g/10min以下である。
【0038】
(体積固有抵抗値)
溶融混練して得られた組成物を、射出成形機にて100×70×3mmの板状に成形し、(株)三菱アナリテック製ハイスターUPを用いて、MCC−A法に準拠して測定した。
【0039】
(放熱性)
評価基板の両端の電極より直流電流にて0.1Wの電力を通電し、室温25℃の環境下にて評価品抵抗部を発熱させ、熱電対を使用してチップ抵抗の温度を測定し、その温度から放熱性を以下の評価基準で評価した。
S:測定した温度が40℃以下である。
A:測定した温度が40℃を超え、50℃以下である。
B:測定した温度が50℃を超え、60℃以下である。
C:測定した温度が60℃を超え、80℃以下である。
D:測定した温度が80℃超過である。
【0040】
(封止耐久性)
評価基板を、−70℃の環境下で30分間暴露する。その後、60℃の環境下で30分間暴露する。これを1サイクルとし、1サイクル終了毎に、23℃の常温の水浴に水没させて通電し絶縁抵抗値を測定し、絶縁抵抗値が1×10Ω以下になるまで、試験を行い、絶縁抵抗値が1×10Ω以上を保持したサイクル回数で封止耐久性を以下の評価基準で評価した。
S:50サイクル以上、保持した。
A:40サイクル以上、50サイクル未満、保持した。
B:30サイクル以上、40サイクル未満、保持した。
C:20サイクル以上、30サイクル未満、保持した。
D:20サイクル未満しか、保持しなかった。
【0041】
(実施例1)
表1に示す配合にて、ポリアミドエラストマー組成物を作製した。具体的には、ハードセグメントとソフトセグメントの割合が40/60で製造されたポリアミドエラストマー1(ポリエーテルアミドエラストマー:宇部興産株式会社製:UBESTA XPA 9040X1)84.9重量%に対し、国際公開第2012−043640号記載の数種類の粒径が異なるものをブレンドした酸化マグネシウム15重量%、シランカップリング剤(アミノシラン:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製:SILQUEST A−1100)0.1重量%を円筒型混合器に投入し、ドライブレンドした。得られた混合品を二軸混練機(日本製鋼株式会社製:TEX44)に導入し、設定温度200℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量40kg/hrで溶融混練し、紐状に押出し、水槽で冷却後、ペレタイザーを用いて、ポリアミドエラストマー組成物のペレットを得た。また、得られたペレットを射出成形(シリンダー温度200℃、金型温度20℃、冷却時間30秒)により、3mm厚の樹脂板に成形した。得られた成形品は、ガラスエポキシ基板(株式会社ティーズ社製:JIS Z3197記載の形状に準拠し作成)に、設定温度150℃のホットプレス(神藤金属工業所株式会社製)を用いて接着し、評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0042】
(実施例2〜4)
ポリアミドエラストマーと酸化マグネシウムの配合比率を変えた以外は、実施例1と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0043】
(実施例5)
実施例4と同様にして得られた成形品(3mm厚の樹脂板)を、JIS Z3197記載の形状に準拠し作成されたポリイミド樹脂基板に、設定温度170℃のホットプレス(神藤金属工業所株式会社製)を用いて接着し、評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0044】
(実施例6)
実施例4と同様にして得られた成形品(3mm厚の樹脂板)を、JIS Z3197記載の形状に準拠し作成されたフェノール樹脂基板に、設定温度170℃のホットプレス(神藤金属工業所株式会社製)を用いて接着し、評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0045】
(実施例7,8)
ポリアミドエラストマーとシランカップリング剤の配合比率を変えた以外は、実施例4と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0046】
(実施例9)
シランカップリング剤をエポキシシラン(信越化学社製:KBM403)に変えた以外は、実施例4と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0047】
(実施例10)
基板の形状をフィン状に変えた以外は、実施例4と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0048】
(実施例11)
酸化マグネシウムに変えて、扁平状粒子(平均粒子径8μm)のタルク(日本タルク株式会社:シムゴンM)を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0049】
(実施例12)
ポリアミドエラストマー1をハードセグメントとソフトセグメントの割合が50/50で製造されたポリアミドエラストマー2(ポリエーテルアミドエラストマー:宇部興産株式会社製:UBESTA XPA 9048X1)に変えた以外は、実施例4と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0050】
(実施例13)
ポリアミドエラストマー1をハードセグメントとソフトセグメントの割合が60/40で製造されたポリアミドエラストマー3(ポリエーテルアミドエラストマー:宇部興産株式会社製:UBESTA XPA 9055X1)に変えた以外は、実施例4と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0051】
(実施例14)
ポリアミドエラストマー1をハードセグメントとソフトセグメントの割合が30/70で製造されたポリアミドエラストマー4(ポリエーテルアミドエラストマー:宇部興産株式会社製:UBESTA XPA 9035X1)に変えた以外は、実施例4と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0052】
(実施例15)
ポリアミドエラストマー1をポリアミドエラストマー5(ポリエーテルエステルアミドエラストマー:ARKEMA社製:Pebax5533)に変えた以外は、実施例4と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0053】
(実施例16)
ポリアミドエラストマー1をポリアミドエラストマー6(ポリエーテルエステルアミドエラストマー:ARKEMA社製:Pebax4033)に変えた以外は、実施例4と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0054】
(比較例1)
シランカップリング剤を投入しなかった以外は、実施例4と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0055】
(比較例2)
無機フィラーを投入しなかった以外は、実施例4と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0056】
(比較例3)
ポリエステルエラストマー(東洋紡社製:バイロショット)を射出成形(シリンダー温度200℃、金型温度20℃、冷却時間30秒)により、3mm厚の樹脂板に成形した。得られた成形品は、ガラスエポキシ基板(株式会社ティーズ社製:JIS Z3197記載の形状に準拠し作成)に、設定温度150℃のホットプレス(神藤金属工業所株式会社製)を用いて接着し、評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0057】
(比較例4)
ポリアミドエラストマーと酸化マグネシウムの配合比率を変えた以外は、実施例1と同様の方法にてポリアミドエラストマー組成物及び評価品を得た。組成物の熱伝導率、成形容易性、体積固有抵抗値、及び評価品の放熱性、封止耐久性を測定した結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
以上より、無機フィラーとシランカップリング剤を添加したポリアミドエラストマー組成物は、組成物の熱伝導性を維持したまま封止耐久性の向上が図られることが分かった。また、熱硬化性樹脂基板に接着させても十分な封止耐久性を有することが分かった。