特許第6361386号(P6361386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361386
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】ラック軸及びステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20180712BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20180712BHJP
   F16H 19/04 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   B62D3/12 503Z
   B62D5/04
   F16H19/04 D
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-180582(P2014-180582)
(22)【出願日】2014年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-52875(P2016-52875A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 良太
(72)【発明者】
【氏名】田中 良
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−280199(JP,A)
【文献】 特開昭60−054242(JP,A)
【文献】 特表2007−512962(JP,A)
【文献】 西独国特許出願公開第10252056(DE,A)
【文献】 特開2012−228953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12
B62D 5/04
F16H 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材の外周面を凹状に塑性変形させて有効ラック歯列を形成したラック歯形成部と、
ラック歯を有しない非ラック歯部と、
前記凹状とされた領域の軸方向端部に位置し、前記ラック歯形成部の塑性変形に伴って塑性変形され、前記ラック歯形成部と前記非ラック歯部とを連結する連結部と、
を有するラック軸であって、
前記連結部には、前記有効ラック歯列に隣り合う無効ラック歯が形成される、ラック軸。
【請求項2】
前記連結部は、前記ラック歯形成部の軸方向両側に設けられる、請求項1のラック軸。
【請求項3】
前記軸部材は、中実の部材である、請求項1又は2のラック軸。
【請求項4】
前記連結部は、前記無効ラック歯と、前記ラック歯形成部と前記非ラック歯部とを連結する傾斜部とを備え、
前記軸部材の軸線及び前記有効ラック歯列の歯すじに対し直角な方向から見た前記傾斜部の形状は、前記非ラック歯部から前記ラック歯形成部に向かうに従って先細りとなる形状であって、前記有効ラック歯列の歯すじの中心を通り且つ前記軸部材の軸線に平行な直線に対し対称形状に形成される、請求項1〜3の何れか一項のラック軸。
【請求項5】
前記無効ラック歯は、前記軸部材の軸線及び前記有効ラック歯列の歯すじに対し直角な方向から見た場合に、前記有効ラック歯列の歯すじの中心を通り且つ前記軸部材の軸線に平行な直線に対し両側に形成される、請求項4のラック軸。
【請求項6】
前記連結部は、前記無効ラック歯と、前記ラック歯形成部と前記非ラック歯部とを連結する傾斜部とを備え、
前記軸部材の軸線及び前記有効ラック歯列の歯すじに対し直角な方向から見た前記傾斜部の形状は、前記非ラック歯部から前記ラック歯形成部に向かうに従って先細りとなる形状であって、前記有効ラック歯列の歯すじの中心を通り且つ前記軸部材の軸線に平行な直線に対し非対称形状に且つ前記歯すじの一端側にずれた形状に形成される、請求項1〜3の何れか一項のラック軸。
【請求項7】
ハウジングと、
前記ハウジングに軸方向に移動可能に支持され、車両の車輪に連接される請求項1〜6の何れか一項のラック軸と、
前記ハウジングに軸回りに回転可能に支持されて前記ラック軸の前記有効ラック歯列と噛み合わされ、前記車両のステアリングに連接されるピニオンと、
を備える、ステアリング装置。
【請求項8】
前記ステアリング装置は、
前記ハウジングに取り付けられ、且つ、前記有効ラック歯列に対して軸方向に異なる位置に設けられ、前記ラック軸の軸方向の移動をアシストするアシスト装置、を備える、請求項7のステアリング装置。
【請求項9】
前記アシスト装置は、
前記ハウジングに取り付けられるモータと、
前記モータの回転を減速する減速機構と、
前記ハウジングに回転可能に支持されるボールナットと、
を備え、
前記ラック軸は、前記非ラック歯部に形成され前記ボールナットと螺合可能なボールネジ部を有し、
前記減速機構により減速される回転を前記ボールナット、前記ボールネジ部を介して前記ラック軸の軸方向移動に変換して前記ラック軸の軸方向の移動をアシストする、請求項8のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラック歯列を有するラック軸及びそのラック軸を備えるステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に示すように、車両の車輪の操舵をアシストするパワーステアリング装置には、ラック歯列を有するラック軸が適用される。そして、例えば、特許文献2に示すように、ラック軸には、ラック歯列が形成された部位(ラック歯形成部)と、ラック歯列が形成されていない部位(非ラック歯部)と、ラック歯列が形成された部位とラック歯列が形成されていない部位とを連結する部位(連結部)とが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−6517号公報
【特許文献2】特開2014−79769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、ラック軸におけるラック歯列の軸方向端部には、無効なラック歯、すなわち捨て歯が必然的に形成される。従来のラック軸は、捨て歯を含むラック歯列が形成されたラック歯形成部と、非ラック歯部とを連結部で連結しているため、ラック軸の軸長の短縮化には限界がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、軸長の短縮化を図ることができるラック軸及びそのラック軸を備えるパワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(ラック軸)
(請求項1)本発明に係るラック軸は、軸部材の外周面を凹状に塑性変形させて有効ラック歯列を形成したラック歯形成部と、ラック歯を有しない非ラック歯部と、前記凹状とされた領域の軸方向端部に位置し、前記ラック歯形成部の塑性変形に伴って塑性変形され、前記ラック歯形成部と前記非ラック歯部とを連結する連結部と、を有するラック軸であって、前記連結部には、前記有効ラック歯列に隣り合う無効ラック歯が形成される。
【0007】
これにより、無効ラック歯は、連結部に形成されるので、ラック軸は、従来のラック軸と比較して無効ラック歯の分だけ軸長を短縮できる。よって、このラック軸が適用されるステアリング装置は、小型化を図ることができる。
【0008】
(請求項2)前記連結部は、前記ラック歯形成部の軸方向両側に設けられるとよい。
これにより、ラック軸は、軸長のさらなる短縮化を図ることができる。
(請求項3)前記軸部材は、中実の部材であるとよい。
中実の軸部材には、塑性変形の際に逃げる軸部材の材料を多量に確保できるので、軸部材の伸びを抑制でき、ラック歯形成部における有効ラック歯列の端部のラック歯を高精度に形成できる。
【0009】
(請求項4)前記連結部は、前記無効ラック歯と、前記ラック歯形成部と前記非ラック歯部とを連結する傾斜部とを備え、前記軸部材の軸線及び前記有効ラック歯列の歯すじに対し直角な方向から見た前記傾斜部の形状は、前記非ラック歯部から前記ラック歯形成部に向かうに従って先細りとなる形状であって、前記有効ラック歯列の歯すじの中心を通り且つ前記軸部材の軸線に平行な直線に対し対称形状に形成されるとよい。
これにより、作業者は、軸部材を温間鍛造する際の軸部材の材料の流れを容易に把握できるので、有効ラック歯列を高精度に鍛造できる金型を設計することができる。
【0010】
(請求項5)前記無効ラック歯は、前記軸部材の軸線及び前記有効ラック歯列の歯すじに対し直角な方向から見た場合に、前記有効ラック歯列の歯すじの中心を通り且つ前記軸部材の軸線に平行な直線に対し両側に形成されるとよい。
これにより、無効ラック歯の形成領域は、材料の逃がし領域となるので、有効ラック歯列の精度を確保できる。
【0011】
(請求項6)前記連結部は、前記無効ラック歯と、前記ラック歯形成部と前記非ラック歯部とを連結する傾斜部とを備え、前記軸部材の軸線及び前記有効ラック歯列の歯すじに対し直角な方向から見た前記傾斜部の形状は、前記非ラック歯部から前記ラック歯形成部に向かうに従って先細りとなる形状であって、前記有効ラック歯列の歯すじの中心を通り且つ前記軸部材の軸線に平行な直線に対し非対称形状に且つ前記歯すじの一端側にずれた形状に形成されるとよい。
これにより、対称形状の傾斜部では、ピニオン軸の歯と噛合不可なラック歯が形成されていたものが、非対称形状の傾斜部にすることにより、ピニオン軸の歯と噛合可能なラック歯とすることができる場合があり、ラック軸の軸長をさらに短縮できる。
【0012】
(ステアリング装置)
(請求項7)本発明に係るステアリング装置は、ハウジングと、前記ハウジングに軸方向に移動可能に支持され、車両の車輪に連接される請求項1〜6の何れか一項のラック軸と、前記ハウジングに軸回りに回転可能に支持されて前記ラック軸の前記有効ラック歯列と噛み合わされ、前記車両のステアリングに連接されるピニオンと、を備える。
【0013】
(請求項8)前記ステアリング装置は、前記ハウジングに取り付けられ、且つ、前記有効ラック歯列に対して軸方向に異なる位置に設けられ、前記ラック軸の軸方向の移動をアシストするアシスト装置、を備えるとよい。
【0014】
(請求項9)前記アシスト装置は、前記ハウジングに取り付けられるモータと、前記モータの回転を減速する減速機構と、前記ハウジングに回転可能に支持されるボールナットと、を備え、前記ラック軸は、前記非ラック歯部に形成され前記ボールナットと螺合可能なボールネジ部を有し、前記減速機構により減速される回転を前記ボールナット、前記ボールネジ部を介して前記ラック軸の軸方向移動に変換して前記ラック軸の軸方向の移動をアシストするとよい。
本発明のステアリング装置は、上述のラック軸を適用することにより小型化可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態:ラック軸のボールネジ部を軸線に対し直角方向から見た断面にしてパワーステアリング装置の全体を示す図である。
図2図1のA−A線断面図であり、ラック軸のラック歯形成部を軸線に対し直角方向から見た図である。
図3A】ラック軸のラック歯形成部、ボールネジ部及び連結部を軸線及び有効ラック歯列の歯すじに対し直角な方向から見た図である。
図3B図3AのA−A線断面図であり、傾斜部を軸線に沿って断面にした図である。
図3C図3AのB−B線断面図であり、傾斜部を軸線に平行な直線に沿って断面にした図である。
図4】別形態のラック軸のラック歯形成部、ボールネジ部及び連結部を軸線及び有効ラック歯列の歯すじに対し直角な方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(ステアリング装置の構成)
本実施形態のステアリング装置について、図1及び図2を参照して説明する。
図1に示すように、ステアリング装置10は、図略のステアリングホイールの回転をラック軸13の軸方向の移動に変換するラックピニオン機構11と、ラック軸13に軸方向のアシスト力を付与する電動アシスト部20等とを備える電動パワーステアリング装置である。
【0017】
図1及び図2に示すように、ラックピニオン機構11は、ステアリングホイールの回転が図略のコラムを介して伝達されるピニオン軸12と、ピニオン軸12を回転可能に支持するギヤハウジング14と、ピニオン軸12に噛合しピニオン軸12の回転をラック軸13の軸方向の移動に変換するラック軸13と、ラック軸13の背後からラック軸13をピニオン軸12に噛合する方向に押圧するラックガイド機構60等とを備える。
【0018】
ギヤハウジング14は、図略の車体に固定されている。ラック軸13の両端は、ギヤハウジング14、後述する電動ハウジング24及び減速ハウジング25からそれぞれ外方へ突出している。ラック軸13の両端の継手結合部13Dには、自在継手81がネジ結合される。各自在継手18を介して図略のタイロッド及びナックルアームを介して車輪が連結される。なお、ラック軸13は、詳細は後述するが、有効ラック歯列131を形成したラック歯形成部13Aと、オネジ132を形成したボールネジ部13B(本発明の「非ラック歯部」に相当)と、ラック歯形成部13Aとボールネジ部13Bとを連結する連結部13Cと、メネジ133を形成した継手結合部13D(本発明の「非ラック歯部」に相当)と、ラック歯形成部13Aと継手結合部13Dとを連結する連結部13Eとを有する。
【0019】
ピニオン軸12は、軸方向中間に図略のトーションバーを有し、ピニオン軸12の入力側に回転トルクが作用すると、ピニオン軸12の入力側とピニオン軸12の出力側が互いに相対回転する。この入力側と出力側の相対回転を検出するためのトルクセンサ80が、ギヤハウジング14に設けられる。
【0020】
ラックガイド機構60は、ギヤハウジング14に形成されるガイド穴61と、ガイド穴61に摺動可能に嵌合されるヨーク62と、ガイド穴61の一端に形成されたネジ穴に螺合される詰め栓63と、ヨーク62及び詰め栓63間に介挿される押圧ばね64と、ヨーク62に取り付けられラック軸13に摺接する樹脂シート65等とを備える。ラック軸13は、押圧ばね64の押圧力によりピニオン軸12に噛合する方向に押圧される。
【0021】
ギヤハウジング14の一端には、自在継手81が当接するストッパ部15が形成される。ストッパ部15には、ラック軸13と同軸に環状の取付け溝16が形成され、この取付け溝16には、リング状の緩衝部材75が嵌め込まれる。ストッパ部15は、ラック軸13の軸方向の移動を規制する機能を有し、緩衝部材75は、ラック軸13の軸方向の移動のエネルギを吸収してストッパ部15に当たるときの干渉音を下げる機能を有する。緩衝部材75は、ウレタンの材料で射出成形等により製作される。ギヤハウジング14の他端には、電動ハウジング24が取付けられ、電動ハウジング24には、電動モータ21が取付けられるとともに、減速ハウジング25がボルト26を介して連結される。
【0022】
電動アシスト部20は、電動モータ21と、電動モータ21の回転軸22の回転を減速する減速機構30と、減速された回転をラック軸13の軸方向の移動に変換するボールネジ機構40等とを備える。電動モータ21は、トルクセンサ80及び図略の車速センサからの各信号に基づいて、図略のECU(Electronic control Unit:電子制御ユニット)により制御される。
【0023】
図1に示すように、減速機構30は、電動モータ21の回転軸22と同軸に配置される入力軸34と、入力軸34に一体形成される駆動ギヤ31と、後述するボールナット41の他端外周に嵌合固定される減速ギヤ33と、ラック軸13及び入力軸34間でこれらに対し平行に配置される中間軸35と、中間軸35に一体形成され、駆動ギヤ31及び減速ギヤ33に噛み合う中間ギヤ32等とを備える。減速ギヤ33は、駆動ギヤ31よりも多くの歯数を有し、駆動ギヤ31の回転を減速して後述するボールナット41に伝達する。回転軸22及び入力軸34間には、樹脂製のカップリング23が介挿され、回転軸22の回転は、カップリング23を介して入力軸34に伝達される。カップリング23は、回転軸22及び入力軸34間の軸のずれや傾きを吸収する役目を有する。
【0024】
ボールネジ機構40は、ラック軸13の一部に一体形成されるボールネジ部13Bと、ボールネジ部13Bの周囲を取り囲むように同軸に配置されるボールナット41と、ボールネジ部13B及びボールナット41の間に介在する複数のボール43等とを備える。ボールナット41の一端側へ移動したボール43を、ボールナット41の他端側へ戻して循環させるための図略のサーキュレータが、後述する複列アンギュラ玉軸受54の内径側でボールナット41に取付けられる。
【0025】
減速機構30及びボールネジ機構40は、電動ハウジング24及び減速ハウジング25内に収容される。入力軸34は、電動ハウジング24及び減速ハウジング25により保持された一対の玉軸受50,51によって回転可能に支持される。中間軸35は、電動ハウジング24及び減速ハウジング25により保持された一対の玉軸受52,53によって回転可能に支持される。ボールナット41は、電動ハウジング24により保持された複列アンギュラ玉軸受54によって回転可能に支持される。
【0026】
複列アンギュラ玉軸受54の外輪は、電動ハウジング24の段部とロックナット44とで挟み込まれ、ロックナット44は、電動ハウジング24のネジ穴に螺合される。複列アンギュラ玉軸受54の内輪は、ボールナット41の段部とロックナット44とで挟み込まれ、ロックナット44は、ボールナット41の一端外周のネジ部に螺合される。
【0027】
減速ギヤ33及びボールナット41は、複列アンギュラ玉軸受54のみによって片持ち支持される。減速ギヤ33を片持ち支持した場合は、減速ギヤ33のアライメント誤差が増加するおそれがある。そこで、減速ギヤ33の歯面には、歯すじ方向のクラウニングを設けることが好ましい。これにより、ギヤ騒音の増加は、アライメント誤差の増加に拘らず抑制可能となる。
【0028】
(ラック軸)
上述のように、ラック軸13は、ラック歯形成部13Aと、ボールネジ部13Bと、連結部13Cと、継手結合部13Dと、連結部13Eとを有する。なお、ラック歯形成部13Aとボールネジ部13Bとを連結する連結部13Cは、ラック歯形成部13Aと継手結合部13Dとを連結する連結部13Eと同一構造である。以下では、ラック軸13の要部であるラック歯形成部13A、ボールネジ部13B及び連結部13Cに着目して説明する。
【0029】
図3Aに示すように、ラック軸13は、軸部材Wの一端側の外周面を温間鍛造により凹状に塑性変形させて有効ラック歯列131を形成したラック歯形成部13Aと、軸部材Wの他端側の外周面を切削してオネジ132を形成したボールネジ部13Bと、ボールネジ部13B側の前記凹状とされた領域の軸方向端部に位置し、ラック歯形成部13Aの塑性変形に伴って塑性変形させて形成した連結部13Cとを有する。
【0030】
ラック歯形成部13Aは、鋼材でなる中実の軸部材Wを750°C〜790°Cに加熱し、金型でプレス加工することにより形成される。中実の軸部材Wを使用する理由は、中実の軸部材Wには、塑性変形の際に逃げる軸部材Wの材料を多量に確保できるので、軸部材Wの伸びを抑制でき、ラック歯形成部13Aにおける有効ラック歯列131の端部のラック歯を高精度に形成できる。また、中実の軸部材Wは、車両の車輪が段差等に乗り上げたときの衝撃による曲げに対して中空の軸部材よりも中実の軸部材Wの方が剛性が高いためである。また、中実の軸部材Wは、中空の軸部材と比較して材料コストや加工コスト等の上昇を抑えることができるためである。
【0031】
連結部13Cは、無効ラック歯134と傾斜部135とを備える。すなわち、図3A図3B及び図3Cに示すように、有効ラック歯列131のボールネジ部13Bには、前記有効ラック歯列131に隣り合って無効ラック歯134が形成され、有効ラック歯列131とボールネジ部13Bとの間は、傾斜部135によって、なだらかに連結されている。よって、無効ラック歯134は傾斜部135に重畳されて形成されるので、ラック軸13の軸長を短縮できる。このラック軸13の軸長、直接には連結部13Cの軸長は、傾斜部135の傾斜角度を変更することにより調整可能である。
【0032】
無効ラック歯134は、傾斜部135と干渉するラック歯、すなわちピニオン軸12の歯と噛合不可なラック歯である。無効ラック歯134は、軸部材Wの軸線L及び有効ラック歯列131の歯すじGに対し直角な方向から見た場合に、有効ラック歯列131の歯すじGの中心を通り且つ軸部材Wの軸線Lに平行な直線に対し両側に形成される。
【0033】
無効ラック歯134を形成する理由は、上述のように中実の軸部材Wの外周面を温間鍛造により凹状に塑性変形させて有効ラック歯列131を形成するが、このとき凹状になる部分の一部の材料が軸部材Wの軸方向に逃げて有効ラック歯列131の精度に影響を与えるおそれがあるので、無効ラック歯134の形成領域を材料の逃がし領域として有効ラック歯列131の精度を確保するためである。なお、凹状になる部分の残りの材料は、軸部材Wの径方向に逃げてバリとなるので、当該バリは後加工により取り除くようにする。
【0034】
傾斜部135の形状、すなわち軸部材Wの軸線L及び有効ラック歯列131の歯すじGに対し直角な方向から見た形状(以下、平面形状という)は、ボールネジ部13Bからラック歯形成部13Aに向かうに従って先細りとなる形状であって、有効ラック歯列131の歯すじGの中心を通り且つ軸部材Wの軸線Lに平行な直線に対し対称形状に形成される。より具体的には、図3Aに示すように、傾斜部135の平面形状は、略二等辺三角形状に形成され、図3B及び図3Cに示すように、傾斜部135の側面形状、すなわち軸部材Wの軸線L及び平面形状に直角な方向から見た形状は、略直角三角形状に形成される。
【0035】
換言すると、傾斜部135の立体形状は、略円錐形状を軸方向に半分に切断した形状(略半円錐形状)、すなわちボールネジ部13B側に半円形状の底面が位置し、ラック歯形成部13A側に頂点Pが位置する略半円錐形状に形成される。これにより、作業者は、軸部材Wを温間鍛造する際の軸部材Wの材料の流れを容易に把握できるので、有効ラック歯列131を高精度に鍛造できる金型を設計することができる。
【0036】
連結部13Cは、連結部13Cとラック歯形成部13Aとの境界線F1から、連結部13Cとボールネジ部13Bとの境界線F2までの範囲である。ここで、図3Aに示すように、連結部13Cとラック歯形成部13Aとの境界線F1は、ピニオン軸12の回転軸Gと平行であって傾斜部135の頂点Pを通る直線である。連結部13Cとボールネジ部13Bとの境界線は、温間鍛造による凹状の塑性変形がされた部分と当該塑性変形がされていない部分との境界を通る直線である。これらの直線で挟まれる範囲が、連結部13Cとなり、この範囲内にあってピニオン軸12の歯と噛合不可なラック歯が、無効ラック歯134となる。
なお、ラック歯形成部13Aと継手結合部13Dとを連結する連結部13Eを形成する理由は、継手結合部13Dのメネジ133を有効ラック歯列131から離間させることによりラック軸13の強度を確保するためである。
【0037】
傾斜部135の形状は、上述の対称形状に限定されるものではなく、図4に示すように、軸部材Wの軸線L及び有効ラック歯列131の歯すじGに対し直角な方向から見た形状が、ボールネジ部13Bからラック歯形成部13Aに向かうに従って先細りとなる形状であって、有効ラック歯列131の歯すじGの中心を通り且つ軸部材Wの軸線Lに平行な直線に対し非対称形状に且つ歯すじGの一端側(図の下方側)にずれた形状に形成してもよい。これにより、上述の対称形状の傾斜部135では、ピニオン軸12の歯と噛合不可なラック歯134(図3A参照)が形成されていたものが、非対称形状の傾斜部135にすることにより、ピニオン軸12の歯と噛合可能なラック歯134a(図4参照)とすることができる場合がある。よって、ラック軸13の軸長をさらに短縮できる。
【0038】
本実施形態のステアリング装置10は、ラック軸13を適用することにより小型化可能となる。なお、上述の実施形態のラック軸13は、非ラック歯部としてボールネジ部13B及び継手結合部13Dを例に説明したが、例えば単なる筒状の軸部であっても同様の効果が得られる。また、上述の実施形態のラック軸13は、電動のパワーステアリング装置に適用する場合を説明したが、油圧のパワーステアリング装置やアシストのないステアリング装置に対しても同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
10:ステアリング装置、 11:ラックピニオン機構、 12:ピニオン軸、 13:ラック軸、 13A:ラック歯形成部、 13B:ボールネジ部(非ラック歯部)、 13C:連結部、 13D:継手結合部(非ラック歯部)、 13E:連結部、 131:有効ラック歯列、 134:無効ラック歯、 135:傾斜部、 20:電動アシスト部、 21:モータ、 30:減速機構、 40:ボールネジ機構、 W:軸部材
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4