特許第6361445号(P6361445)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6361445原材料の購買及び使用計画作成装置、方法並びにプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361445
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】原材料の購買及び使用計画作成装置、方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20180712BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20180712BHJP
【FI】
   G05B19/418 Z
   G06Q50/04
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-210300(P2014-210300)
(22)【出願日】2014年10月14日
(65)【公開番号】特開2016-81195(P2016-81195A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬和
(72)【発明者】
【氏名】松岡 純一
(72)【発明者】
【氏名】金澤 典一
(72)【発明者】
【氏名】屋地 靖人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 豊
【審査官】 山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5598587(JP,B1)
【文献】 特開2005−327769(JP,A)
【文献】 特開2013−254329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料の購買及び製造に掛るコストを最小化する前記原材料の購買及び使用計画を作成する原材料の購買及び使用計画作成装置であって、
前記原材料の購買及び使用計画を立案するための計画情報を取り込むデータ取り込み手段と、
前記データ取り込み手段で取り込んだ計画情報に基づいて、前記生産物の性状と前記製造設備の能力とに関する制約を含む制約式、及び前記コストを表す目的関数を設定する制約式・目的関数設定手段と、
前記制約式・目的関数設定手段で設定した制約式及び目的関数に含まれる所定の変数を固定化し、さらに前記所定の変数を固定化した後も非線形として残る非線形項を削除することで制約式及び目的関数を線形式とする線形化手段と、
前記線形化手段で線形式とした制約式及び目的関数で表わされる数理計画問題を解いて、前記目的関数を最小化する前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する最適化計算実行手段と、
前記最適化計算実行手段で計算した値を用いて、前記線形化手段で線形化する前の制約式及び目的関数に基づいて、前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する厳密式計算手段と、
前記最適化計算実行手段で計算した値と、前記厳密式計算手段で計算した値とが収束しているか否かを判定する収束判定手段とを備え
前記線形化手段が最初に前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行手段及び前記厳密式計算手段が処理を行った結果、前記収束判定手段で収束していないと判定した場合、以降は、前記線形化手段が前記厳密式計算手段で計算した値を用いて前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行手段及び前記厳密式計算手段が処理を行うことを、前記収束判定手段で収束したと判定するまで繰り返すことを特徴とする原材料の購買及び使用計画作成装置。
【請求項2】
前記データ取り込み手段は、実績情報を取り込み、
前記線形化手段は、最初は前記データ取り込み手段で取り込んだ実績情報を用いて前記所定の変数を固定化することを特徴とする請求項1に記載の原材料の購買及び使用計画作成装置。
【請求項3】
前記生産物は銑鉄、焼結鉱及びスラグであり、前記原材料は鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の原材料の購買及び使用計画作成装置。
【請求項4】
生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料の購買及び製造に掛るコストを最小化する前記原材料の購買及び使用計画を作成する原材料の購買及び使用計画作成方法であって、
データ取り込み手段が、前記原材料の購買及び使用計画を立案するための計画情報を取り込むデータ取り込みステップと、
制約式・目的関数設定手段が、前記データ取り込み手段で取り込んだ計画情報に基づいて、前記生産物の性状と前記製造設備の能力とに関する制約を含む制約式、及び前記コストを表す目的関数を設定する制約式・目的関数設定ステップと、
線形化手段が、前記制約式・目的関数設定手段で設定した制約式及び目的関数に含まれる所定の変数を固定化し、さらに前記所定の変数を固定化した後も非線形として残る非線形項を削除することで制約式及び目的関数を線形式とする線形化ステップと、
最適化計算実行手段が、前記線形化手段で線形式とした制約式及び目的関数で表わされる数理計画問題を解いて、前記目的関数を最小化する前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する最適化計算実行ステップと、
厳密式計算手段が、前記最適化計算実行手段で計算した値を用いて、前記線形化手段で線形化する前の制約式及び目的関数に基づいて、前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する厳密式計算ステップと、
収束判定手段が、前記最適化計算実行手段で計算した値と、前記厳密式計算手段で計算した値とが収束しているか否かを判定する収束判定ステップとを有し、
前記線形化ステップで最初に前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行ステップ及び前記厳密式計算ステップの処理を行った結果、前記収束判定ステップで収束していないと判定した場合、以降は、前記線形化ステップにおいて、前記厳密式計算ステップで計算した値を用いて前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行ステップ及び前記厳密式計算ステップの処理を行うことを、前記収束判定ステップで収束したと判定するまで繰り返すことを特徴とする原材料の購買及び使用計画作成方法。
【請求項5】
生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料の購買及び製造に掛るコストを最小化する前記原材料の購買及び使用計画を作成するためのプログラムであって、
前記原材料の購買及び使用計画を立案するための計画情報を取り込むデータ取り込み手段と、
前記データ取り込み手段で取り込んだ計画情報に基づいて、前記生産物の性状と前記製造設備の能力とに関する制約を含む制約式、及び前記コストを表す目的関数を設定する制約式・目的関数設定手段と、
前記制約式・目的関数設定手段で設定した制約式及び目的関数に含まれる所定の変数を固定化し、さらに前記所定の変数を固定化した後も非線形として残る非線形項を削除することで制約式及び目的関数を線形式とする線形化手段と、
前記線形化手段で線形式とした制約式及び目的関数で表わされる数理計画問題を解いて、前記目的関数を最小化する前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する最適化計算実行手段と、
前記最適化計算実行手段で計算した値を用いて、前記線形化手段で線形化する前の制約式及び目的関数に基づいて、前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する厳密式計算手段と、
前記最適化計算実行手段で計算した値と、前記厳密式計算手段で計算した値とが収束しているか否かを判定する収束判定手段としてコンピュータを機能させ
前記線形化手段が最初に前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行手段及び前記厳密式計算手段が処理を行った結果、前記収束判定手段で収束していないと判定した場合、以降は、前記線形化手段が前記厳密式計算手段で計算した値を用いて前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行手段及び前記厳密式計算手段が処理を行うことを、前記収束判定手段で収束したと判定するまで繰り返すことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料の購買及び製造に掛るコストを最小化する前記原材料の購買及び使用計画を作成する原材料の購買及び使用計画作成装置、方法並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業において、銑鉄を安定的に製造することは、操業を行う上で必須の条件である。また、次工程以降の操業を安定的に行う上で、銑鉄の品質は決められた条件に入っている必要がある。これらの条件を満たし、銑鉄を安定的に製造するためには、原材料である鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料(蛇紋岩、硅石、石灰等)の購買計画や、購買された原材料の使用計画を適切に、しかも購買や製造のためのコストをできるだけ安価にすることが望まれる。
【0003】
鉄鉱石は、産出される土地により含有される成分(Fe、SiO2、MgO等)が大きく異なり、その違いにより銘柄として区分されるが、その数は100種類以上にも上る。この銘柄の配合如何により、銑鉄の性状が大きく異なる。また、銑鉄を作る際に、粉の鉄鉱石を、粉コークスと焼き固め多孔質の焼結鉱にすることで、高炉内での空気の流れの向上を図っているが、この焼結鉱に関しても、化学的な性状に加え、物理的な潰れ難さといった性状も考慮する必要がある。また、銑鉄を作る際に屑として出てくるスラグに関しても、再利用、或いは廃棄のためにも性状がある範囲内にある必要がある。
【0004】
上述の通り、原材料の購買及び使用計画を作成する際には、多数の鉄鉱石銘柄に対して、生産物である銑鉄、焼結鉱及びスラグに関する考慮すべき性状の制約も非常に多く、また、製造設備の能力の制約も合わせて考慮する必要がある。さらに、原材料の購買費用には、購買先への支払金額だけでなく輸送費用も含まれ、また、副生物であるCOG、CO2、BFG等のガスの処理費用や製造設備を使用する上での加工費用等を含めた製造費用も考慮する必要がある等、非常に複雑な問題となる。これらを解決して、生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料の購買並びに製造に掛るコストを最小化する原材料の購買及び使用計画を作成することは容易なことではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−254329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
銑鉄を製造する際には、高炉内に鉄鉱石と塊コークスを交互に挿入し、高炉下部にある送風羽口から熱風と微粉炭(細かい粉の石炭)を吹き込むことで、微粉炭やコークスがガス化し、一酸化炭素や水素等の高温のガスが発生する。このガスが還元材となり、銑鉄が生成される。
また、焼結鉱を製造する際には、粉鉱石を含む原料に凝結材としてコークス、無煙炭(炭化度の高い炭)を使用して焼成することにより焼き固め、多孔室の焼結鉱が生成される。
上述した燃焼、ガス化現象におけるガス発生量、熱量等は、その計算に複雑な非線形要素を含む。
銑鉄、焼結鉱及びスラグに対して要求される性状、及び安価にすることが求められるコストは、上述の燃焼、ガス化現象に関わるため、複雑な非線形要素を含み、鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料の購買量や使用量の線形式で記述することができない。このため、焼結鉱の生産量や、銑鉄、焼結鉱及びスラグの性状は、配合される鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料の単純な積み上げでは計算できず、物理的な式を基に、実績データから物理式の係数を合わせこんだ非線形式で与えられる。
また、コストに関しても、ガスの処理費用や製造設備を使用する上での加工費用は非線形式で与えられる。
このように、守らなくてはならない条件(制約式)、最小化すべき指標(目的関数)を線形式で表すことができない。
【0007】
上記のような点に鑑みて、本出願人は、特許文献1において、コークス及び石炭の購買量及び使用量を固定値とすることで、制約式及び目的関数を線形式とした数理計画問題とする手法を提案している。具体的には、コークス及び石炭の購買量及び使用量を固定値とすることで、制約式及び目的関数を線形式とした数理計画問題として計画を作成した後に、その計画を実績に基づいて補正し、補正前の結果に対して収束しているか否かを判定する。収束しなかった場合、補正した計画に含まれるコークス及び石炭の購買量を固定値として、再度、計算を繰り返す。収束した場合、収束したと判定された計画に含まれるコークス及び石炭に関して、コークス及び石炭の購買量及び使用量を固定値としない形の目的関数が小さくなる変動量を計算して、変動量を基に変動させたコークス及び石炭の購買量及び使用量を固定値として、再度、計算を繰り返し、その結果得られたコストが、前回計算されたコストに対して収束しているか否かを判定する。
しかしながら、特許文献1の手法では、数理計画問題を解いた後に、その値を補正するため、数理計画問題を解いた値と、補正後の値とが大きく異なる可能性があり、この場合には収束に非常に時間がかかってしまう。
【0008】
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたものであり、生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料の購買及び製造に掛るコストを最小化する原材料の購買及び使用計画を作成する際に、非線形式で与えられる制約式及び目的関数を線形式とした数理計画問題とし、短時間で原材料の購買及び使用計画を作成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の原材料の購買及び使用計画作成装置は、生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料の購買及び製造に掛るコストを最小化する前記原材料の購買及び使用計画を作成する原材料の購買及び使用計画作成装置であって、前記原材料の購買及び使用計画を立案するための計画情報を取り込むデータ取り込み手段と、前記データ取り込み手段で取り込んだ計画情報に基づいて、前記生産物の性状と前記製造設備の能力とに関する制約を含む制約式、及び前記コストを表す目的関数を設定する制約式・目的関数設定手段と、前記制約式・目的関数設定手段で設定した制約式及び目的関数に含まれる所定の変数を固定化し、さらに前記所定の変数を固定化した後も非線形として残る非線形項を削除することで制約式及び目的関数を線形式とする線形化手段と、前記線形化手段で線形式とした制約式及び目的関数で表わされる数理計画問題を解いて、前記目的関数を最小化する前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する最適化計算実行手段と、前記最適化計算実行手段で計算した値を用いて、前記線形化手段で線形化する前の制約式及び目的関数に基づいて、前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する厳密式計算手段と、前記最適化計算実行手段で計算した値と、前記厳密式計算手段で計算した値とが収束しているか否かを判定する収束判定手段とを備え、前記線形化手段が最初に前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行手段及び前記厳密式計算手段が処理を行った結果、前記収束判定手段で収束していないと判定した場合、以降は、前記線形化手段が前記厳密式計算手段で計算した値を用いて前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行手段及び前記厳密式計算手段が処理を行うことを、前記収束判定手段で収束したと判定するまで繰り返すことを特徴とする。
また、本発明の原材料の購買及び使用計画作成装置の他の特徴とするところは、前記データ取り込み手段は、実績情報を取り込み、前記線形化手段は、最初は前記データ取り込み手段で取り込んだ実績情報を用いて前記所定の変数を固定化する点にある
また、本発明の原材料の購買及び使用計画作成装置の他の特徴とするところは、前記生産物は銑鉄、焼結鉱及びスラグであり、前記原材料は鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料である点にある。
本発明の原材料の購買及び使用計画作成方法は、生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料の購買及び製造に掛るコストを最小化する前記原材料の購買及び使用計画を作成する原材料の購買及び使用計画作成方法であって、データ取り込み手段が、前記原材料の購買及び使用計画を立案するための計画情報を取り込むデータ取り込みステップと、制約式・目的関数設定手段が、前記データ取り込み手段で取り込んだ計画情報に基づいて、前記生産物の性状と前記製造設備の能力とに関する制約を含む制約式、及び前記コストを表す目的関数を設定する制約式・目的関数設定ステップと、線形化手段が、前記制約式・目的関数設定手段で設定した制約式及び目的関数に含まれる所定の変数を固定化し、さらに前記所定の変数を固定化した後も非線形として残る非線形項を削除することで制約式及び目的関数を線形式とする線形化ステップと、最適化計算実行手段が、前記線形化手段で線形式とした制約式及び目的関数で表わされる数理計画問題を解いて、前記目的関数を最小化する前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する最適化計算実行ステップと、厳密式計算手段が、前記最適化計算実行手段で計算した値を用いて、前記線形化手段で線形化する前の制約式及び目的関数に基づいて、前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する厳密式計算ステップと、収束判定手段が、前記最適化計算実行手段で計算した値と、前記厳密式計算手段で計算した値とが収束しているか否かを判定する収束判定ステップとを有し、前記線形化ステップで最初に前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行ステップ及び前記厳密式計算ステップの処理を行った結果、前記収束判定ステップで収束していないと判定した場合、以降は、前記線形化ステップにおいて、前記厳密式計算ステップで計算した値を用いて前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行ステップ及び前記厳密式計算ステップの処理を行うことを、前記収束判定ステップで収束したと判定するまで繰り返すことを特徴とする。
本発明のプログラムは、生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料の購買及び製造に掛るコストを最小化する前記原材料の購買及び使用計画を作成するためのプログラムであって、前記原材料の購買及び使用計画を立案するための計画情報を取り込むデータ取り込み手段と、前記データ取り込み手段で取り込んだ計画情報に基づいて、前記生産物の性状と前記製造設備の能力とに関する制約を含む制約式、及び前記コストを表す目的関数を設定する制約式・目的関数設定手段と、前記制約式・目的関数設定手段で設定した制約式及び目的関数に含まれる所定の変数を固定化し、さらに前記所定の変数を固定化した後も非線形として残る非線形項を削除することで制約式及び目的関数を線形式とする線形化手段と、前記線形化手段で線形式とした制約式及び目的関数で表わされる数理計画問題を解いて、前記目的関数を最小化する前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する最適化計算実行手段と、前記最適化計算実行手段で計算した値を用いて、前記線形化手段で線形化する前の制約式及び目的関数に基づいて、前記原材料の購買量及び使用量、前記生産物の性状及び生産量の値を計算する厳密式計算手段と、前記最適化計算実行手段で計算した値と、前記厳密式計算手段で計算した値とが収束しているか否かを判定する収束判定手段としてコンピュータを機能させ、前記線形化手段が最初に前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行手段及び前記厳密式計算手段が処理を行った結果、前記収束判定手段で収束していないと判定した場合、以降は、前記線形化手段が前記厳密式計算手段で計算した値を用いて前記所定の変数を固定化して、前記最適化計算実行手段及び前記厳密式計算手段が処理を行うことを、前記収束判定手段で収束したと判定するまで繰り返すことを特徴とする
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料の購買及び製造に掛るコストを最小化する原材料の購買及び使用計画を作成する際に、非線形式で与えられる制約式及び目的関数を線形式とした数理計画問題とし、短時間で原材料の購買及び使用計画を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る原材料の購買及び使用計画作成装置の構成を示す図である。
図2】実施形態に係る原材料の購買及び使用計画作成装置の処理動作を示すフローチャートである。
図3A】実績情報の例を示す図である。
図3B】実績情報の例を示す図である。
図3C】実績情報の例を示す図である。
図4A】計画情報の例を示す図である。
図4B】計画情報の例を示す図である。
図4C】計画情報の例を示す図である。
図4D】計画情報の例を示す図である。
図4E】計画情報の例を示す図である。
図4F】計画情報の例を示す図である。
図5A】最適化計算により得られた原材料の購買量の例を示す図である。
図5B】最適化計算により得られた生産物の性状の例を示す図である。
図5C】最適化計算により得られた生産情報の例を示す図である。
図6A】最終的に得られた原材料の購買量の例を示す図である。
図6B】最終的に得られた生産物の性状の例を示す図である。
図6C】最終的に得られた生産情報の例を示す図である。
図7】本発明例と比較例での焼結鉱量に関する収束計算による計算値の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る原材料の購買及び使用計画作成装置100の構成を示す。原材料の購買及び使用計画作成装置100は、生産物である銑鉄、焼結鉱及びスラグの性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料である鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料の購買、並びに製造に掛るコスト(単にコストと称する)を最小化する原材料の購買及び使用計画を作成する。
【0013】
101はデータ取り込み手段として機能するデータ取り込み部であり、実績情報と、原材料の購買及び使用計画を立案するための計画情報とを取り込む。実績情報及び計画情報は、例えば本装置100内の不図示のデータベースから、或いはネットワークを介して外部のデータベースから取り込むような形態でもよいし、入力装置108から入力されるような形態でもよい。
【0014】
102は制約式・目的関数設定手段として機能する制約式・目的関数設定部であり、データ取り込み部101で取り込んだ計画情報に基づいて、生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を含む制約式、及びコストを表す目的関数を設定する。
制約式及び目的関数の設定とは、本装置100において、ゼロの状態から数式自体を生成することを意味するものではなく、予めユーザにより定義された制約式及び目的関数に対して、実際に問題を解く場合に、その時々の計算対象に応じた変数に掛る係数や定数等を設定することをいう。
【0015】
103は線形化手段として機能する線形化部であり、固定化部103aと、非線形項削除部103bとを備える。固定化部103aは、制約式・目的関数設定部102で設定した制約式及び目的関数に含まれる所定の変数を固定化する。非線形項削除部103bは、固定化部103aで所定の変数を固定化した後も非線形として残る非線形項を削除する。これにより、制約式及び目的関数を線形式とする。
操業の安定化のためには、操業に関わる諸条件、例えば塊のままの鉄鉱石を高炉に装入する割合(Lump Ratio)、粉の鉄鉱石を焼結鉱にして高炉に装入する割合(Sinter Ratio)、1(t)の銑鉄を作るのに必要とするコークスの割合(Coke Ratio)は、鉄鉱石、副原料の各銘柄の配合の割合は変更されることがあっても、大きく変更されることはない。そこで、過去に配合された実績(配合割合と、その配合の結果得られる各種性状、品質等の結果を含む)を基準値として、非線形式で与えられる制約式及び目的関数に対して、今回解くべき問題の一部変数に対応する値を基準値に固定化することで、線形化を行う。この場合に、全ての変数を基準値に固定すると解の範囲が限られてしまうため、固定化はできるだけ少ない範囲に留める。すなわち、同一変数であっても、固定化する場所と、固定化しない場所が存在しても構わない。例えばf(ν)=ν1+ν2/ν1(ν1:変数)において、変数ν1に対して、右辺第二項のν1のみを固定値ν1_fixに置き換えることを行ってもかまわない。この場合、非線形であったf(ν)を線形なf´(ν)=ν1+ν2/ν1_fix(ν1:変数、ν1_fix:定数)に変形することが可能である。
制約式及び目的関数に含まれる変数から上記固定化する『一部変数』を選択する基準は、上述の通り制約式及び目的関数の線形化が実現でき、固定化ができるだけ少ない範囲に留める変数を選択するものである。上記の例では、右辺第二項のν1を固定化する変数として選択すれば、f(ν)は線形化可能であるため、右辺第二項のν1を固定化する変数として選択する。
また、変数を固定化した後も非線形として残る非線形項に関しては、制約式及び目的関数から削除することで、線形化を完了する。
固定化する所定の変数、削除する非線形項は、予めユーザにより設定されている。
【0016】
104は最適化計算実行手段として機能する最適化計算実行部であり、線形化部103で線形式とした制約式及び目的関数で表わされる数理計画問題を解いて、目的関数を最小化する原材料の購買量及び使用量、生産物の性状及び生産量を計算する。
【0017】
105は厳密式計算手段として機能する厳密式計算部であり、最適化計算実行部104で計算した値を用いて、線形化部103で線形化する前の制約式及び目的関数に基づいて、原材料の購買量及び使用量、生産物の性状及び生産量の値を計算する。
【0018】
106は収束判定手段として機能する収束判定部であり、最適化計算実行部104で計算した値と、厳密式計算部105で計算した値とが収束しているか否か、すなわち両者の差が予め設定された範囲に入っているか否かを判定する。
【0019】
107は結果出力部であり、収束判定部106で収束したと判定した場合、最適化計算実行部104で計算した原材料の購買量及び使用量、生産物の性状及び生産量を、原材料の購買及び使用計画として出力する。例えばディスプレイ109に結果を表示したり、本装置100の内部或いは外部のコンピュータ装置やデータベース等に結果を出力したりする。
【0020】
108はポインティングデバイスやキーボード等の入力装置である。109はディスプレイである。
【0021】
ここで、線形化部103は、最初はデータ取り込み部101で取り込んだ実績情報を用いて所定の変数を固定化する。その結果、収束判定部106で収束していないと判定した場合、以降は、線形化部103が厳密式計算部105で計算した値を用いて所定の変数を固定化して、最適化計算実行部104及び厳密式計算部105が処理を行うことを、収束判定部106で収束したと判定するまで繰り返す。
例えば得られた鉄鉱石、副原料の各銘柄の配合の割合と、その配合割合の結果として、固定化、非線形項の削除を行う前の制約式により得られた各種性状、品質等の結果を、新たな基準値として採用し、この新たな基準値を用いて、配合割合、各種性状、品質が収束するまで計算を継続することで解を得る。
【0022】
次に、本実施形態に係る原材料の購買及び使用計画作成装置100による原材料の購買及び使用計画作成方法を説明する。図2は、本実施形態に係る原材料の購買及び使用計画作成装置100の処理動作を示すフローチャートである。
本実施形態では、複数の工場が分散しており、各工場で使用する原材料を一括して購買し、各工場に輸送する場合を例にする。
また、一定の期間(例えば1年)毎に原材料の購買及び使用計画を作成し、次期を計画立案対象期間として原材料の購買及び使用計画を作成しようとしているものとする。
以下の説明では、簡単のため、購買量と使用量とが一致しているものとして説明する。購買量と使用量とが一致しない場合は、その分の変数を増やすことで対応することができる。購買量と使用量とが一致しない場合は、購買量に購買できる上限量と下限量の制約が課せられ、使用量は、購買量の上限量と下限量の範囲内に収まっている必要があることが課せられるが、基本的な問題の構造は、購買量と使用量とが一致しているものと大きな違いは存在しない。
【0023】
データ取り込み部101は、実績情報と、原材料の購買及び使用計画を立案するための計画情報とを取り込む(ステップS1)。実績情報は、過去の複数の一定期間の実績情報を取り込むようにしてもよい。
【0024】
図3A図3Cに、実績情報の例を示す。
図3Aは原材料の実績購買量であり、過去のある一定の期間における各工場での鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料の実績購買量(t)が記述されている。なお、図示例ではコークス、石炭をまとめて取り扱うように説明するが、それぞれ独立に取り扱うようにしてもよい。上述したように鉄鉱石は銘柄で区分されており、その数は100種類以上にも上る。また、副原料に関しても数10種類程度存在する。また、コークス、石炭の区分は数銘柄程度である。
図3Bは生産物の実績性状であり、過去のある一定の期間における各工場での銑鉄、焼結鉱及びスラグの実績性状、具体的には銑鉄に含まれるFe量(銑鉄−Fe)(kg/t)、焼結鉱に含まれるFeO割合(焼結鉱−FeO)(%)、スラグの塩基度(スラグ−塩基度)等が記述されている。これらの性状は、実際の成分検査等により測定されたものとなる。
図3Cは生産物の実績生産情報であり、過去のある一定の期間における各工場での銑鉄、焼結鉱及びスラグの実績生産量(t)が記述されている。また、副生物であるBFGガス、COGガス等の発生量(Nm3/t)も記述されている。
【0025】
図4A図4Fに、計画情報の例を示す。
図4Aは原材料の購買可能量であり、鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料それぞれについて、引取目標量を表す上限量及び下限量が記述されている。原材料の引取各山元とは銘柄毎に例えば年間どれだけの量を引き取るかについて契約しており、この引取目標量を守るように原材料を購買する必要がある。
図4Bは原材料の購買単価、輸送単価であり、鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料それぞれについての1トン当たりの購買費用(円/t)と、各工場への1トン当たりの輸送費用(円/t)とが記述されている。
図4Cは原材料の性状情報であり、鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料それぞれの銘柄について性状、具体的にはそれぞれに含まれるFe割合(%)、FeO割合(%)等が記述されている。
図4Dは生産物の生産情報であり、計画立案対象期間における各工場で生産すべき銑鉄の生産量(t)が指定されている。
図4Eは設備能力制約情報(目標値)であり、各工場での設備能力制約が記述されている。この例では、計画立案対象期間内に鉱石破砕、焼結生産に対する総量に対する設備能力制約として設定されている。
図4Fは生産物の制約情報(目標値)であり、計画作成された結果が満たすべき制約に関する情報が記述される。例えば工場1での銑鉄−Feは962.3(kg/t)以上であるという制約を満たす必要がある。なお、「以上」である制約を記述したが、「等価」、「以下」となる制約を取り扱うことも可能である。
【0026】
次に、制約式・目的関数設定部102は、データ取り込み部101で取り込んだ計画情報に基づいて、生産物の性状と製造設備の能力とに関する制約を含む制約式、及びコストを表す目的関数を設定する(ステップS2)。すなわち、予めユーザにより定義された制約式及び目的関数において、変数に掛る係数や定数等を設定する。
本実施形態では、目的関数を式(1)、制約式を式(2)とし、変数xiに相当する変数を式(3)、式(4)に定義する。そして、式(5)に示すように、制約式を満たしながら、目的関数を最小化する最小化問題に定式化を実施する。
【0027】
【数1】
【0028】
【数2】
【0029】
式(1)で表される目的関数は、原材料の購買費用、原材料の各工場への輸送費用、ガスの処理費用、及び製造設備を使用する上での加工費用を表す関数であり、その合計を最小化したいと考えるものである。具体的には、式(6)〜式(9)のように与えられる。
【0030】
【数3】
【0031】
ここで、式(6)の購買費用、式(7)の輸送費用は線形式で与えられる。
一方、式(8)の処理費用とはガス(COG、CO2、BFG等)の処理に掛る費用、式(9)の加工費用とは製造設備(鉱石破砕設備等)を使用する上で掛る費用であり、購買量を変数とする複雑な非線形式で与えられる。
【0032】
式(2)で表される制約式は、銑鉄、焼結鉱及びスラグの性状、製造設備の能力、並びに生産情報に関する制約を表す式である。
銑鉄、焼結鉱及びスラグの性状制約について説明すると、銑鉄‐Feの制約式は、例えば式(10)のように、線形式で与えられる。例えば工場1の目標値は、図4Fの計画情報を用いて、962.3(kg/t)というように与えられる。
【0033】
【数4】
【0034】
一方、焼結鉱−FeO、スラグ−塩基度の制約式は、例えば式(11)、(12)のように、購買量を変数とする複雑な非線形式で与えられる。
【0035】
【数5】
【0036】
また、製造設備の能力制約について説明すると、その制約式は、例えば式(13)、(14)のように与えられる。式(13)にある鉄鉱石は、鉄鉱石のうちで破砕処理を必要とする未選鉱石(塊と粉の鉄鉱石が混じったものを)である。例えば工場1の目標値は、図4Eの計画情報を用いて、1030(kg/t)というように与えられる。また、式(14)にある鉄鉱石、副原料、コークスは、焼結を作るための材料となる鉄鉱石、副原料、コークスを選別したものである。例えば工場1の目標値は、図4Eの計画情報を用いて、415(t)と480(t)の合計というように与えられる。
【0037】
【数6】
【0038】
また、生産情報の制約について説明すると、焼結鉱量(kg)、BFG発生原単位(Nm3/t)の制約式(関係式)は式(15)、(16)のように与えられる。ここで、焼結鉱量工場、BFG発生原単位工場は、問題を簡潔に記述するために導入した中間的な変数である。
【0039】
【数7】
【0040】
次に、線形化部103は、次ステップで変数を固定化するのに用いる基準値を設定する(ステップS3)。
最初のループでは、線形化部103は、ステップS1で取り込んだ実績情報を基準値として取得、設定する。取得される実績情報が、過去のある一定期間の場合は、その情報を基準値として取得、設定する。また、過去の複数の一定期間の場合は、ユーザが適切であると考えた一定期間の情報を選択することで、この情報を基準値として設定する。
【0041】
次に、線形化部103の固定化部103aは、ステップS2で設定された制約式及び目的関数を構成する関数の中で、非線形式で記述される関数の一部変数を、変数に対応する基準値で固定化することで非線形式を線形に近づける(ステップS4)。
【0042】
ここでは、式(15)を例にして、変数の固定化手順の詳細を説明する。
式(15)を具体的な関数として記述すると、式(17)のようになる。LOI(%)は、限界酸素指数を表す。0.11は、焼結工程での酸化度変化(Fe23→FeO)を補正する係数である。
【0043】
【数8】
【0044】
式(17)の右辺第一項、第二項は、鉄鉱石、副原料、石炭を焼成することにより、硫黄分及び酸素部分が気化することを表す。また、式(17)の右辺第三項は、焼結工程での酸化度変化(Fe23→FeO)により、分子量が変化することによる影響分を表す。
ここで、右辺第三項のFeO焼結、工場(kg)を書き下すと、式(18)のようになる。
【0045】
【数9】
【0046】
標準焼結鉱FeO(%)は、線形回帰により求められる定数である。c1は、石炭の使用量変動(石炭変動分)の影響係数を表す定数である。石炭変動分は、石炭を配合する量により、FeO焼結、工場への影響を表す部分である。但し、一般にこの部分は標準焼結鉱FeOに比べて、非常に小さな値となる。
ここで、石炭変動分を書き下すと、式(19)のようになる。
【0047】
【数10】
【0048】
αiは影響係数を表す定数、βiはオフセットを表す定数である。式(19)の右辺第一項は、石炭の使用量の変動によるアルミナの影響、右辺第二項は、FeOの影響を表し、これ以外にも、結晶水、生産率による影響等が発生する。
【0049】
ここで、式(17)の右辺第一項、第二項は線形式により構成される。式(17)の右辺第三項は、焼結工程での酸化度変化(Fe23→FeO)の補正を与える式であり、その量は右辺第一項、第二項に比べて微小である。この右辺第三項のΣ原料、副原料、石炭FeO銘柄、工場は、購買量と各購買量のFeO成分の線形結合で記述できるため、線形式より構成される。なお、Σ原料、副原料、石炭の表記は、Σの下に原料、副原料、石炭が記載されているものとする。
【0050】
以上より、式(17)で与えられる焼結鉱量工場は、FeO焼結、工場を除き、線形式より構成される。
ここで、FeO焼結、工場を表す式(18)は、焼結鉱量工場及び石炭変動分が、非線形式となっている。
式(17)の右辺第三項は、右辺第一項、第二項に比べて微小であるため、右辺第三項に含まれる変数を、その変数に対応する基準値で固定化することで、線形に近い状態に近づける。
【0051】
具体的には、焼結鉱量工場は、操業の安定化のため、鉄鉱石、副原料の各銘柄の配合の割合は変更されることがあっても、大きく変更されることはないので、式(18)に現れる変数である焼結鉱量工場を基準値に置き換える。この定数を、以下、焼結鉱量−基準工場と記述する。
この例では、実績と計画立案対象期間の銑鉄1(t)製造するのに焼結鉱量が大きく変更されることがないため、図3Cの実績情報と、図4Dの計画情報を用いて、
焼結鉱量−基準工場1(t)=945/1150×1080
焼結鉱量−基準工場2(t)=932/1070×1140
焼結鉱量−基準工場n(t)=970/1250×1200
の値とする。
【0052】
更に、石炭変動分を表す式(19)に現れる変数である焼結鉱量工場も同様に、焼結鉱量−基準工場に固定化する操作を行うことで、式(19)の右辺第二項を除き、式(17)で計算される焼結鉱量工場は線形式で構成される。
【0053】
ここで、上述の例では焼結鉱量工場がそうであるように、全ての変数を基準値に固定すると、解の範囲が限られてしまうため、固定化はできるだけ少ない範囲に留める。つまり、同一項目であっても、固定化する箇所と、固定化しない箇所とが存在してもかまわない。
【0054】
次に、線形化部103の非線形項削除部103bは、ステップS4で所定の変数を固定化した後も非線形として残る非線形項を削除することで、線形化を完了する(ステップS5)。
ここでは、式(19)の右辺第二項を削除する。式(19)の右辺第二項の削除後の式は、式(19´)のように線形式で記述できる。この削除した非線形項は、前述の通り微小な量であり、削除による影響は限られた範囲に限定される。
【0055】
【数11】
【0056】
なお、式(17)の右辺第三項が、特許文献1の補正における式(25)に相当する箇所である。特許文献1では、非常に複雑な式となるため、従来数理計画問題に則った、線形な形式で記述できなかったため、数理計画問題としては定式化せずに、つまり、右辺第三項を除いた形で定式化した数理計画問題を解いた後に、右辺第三項を考慮して、該結果を補正することで、値を求めていた箇所となる。このように特許文献1では、数理計画問題を解いた後に、その値を補正するため、数理計画問題を解いた値と、補正後の値とが大きく異なる可能性があり、この場合には収束に非常に時間がかかってしまう。それに対して、本発明を適用することにより、特許文献1では補正で処理をしていた計算式を、数理計画問題の中に組み込むことで、特許文献1における補正での変動量を大幅に抑えることが可能となる。これにより、収束回数の大幅な削減を可能としている。
【0057】
以上、式(15)を例にして説明したが、非線形式で構成される式(8)、(9)、(11)、(12)、(16)も同様、変数の固定化と、非線形項の削除を行うことで、式(20)〜(24)のように、簡単な鉄鉱石・副原料の購買量buy_ore銘柄、工場とコークス・石炭の購買量buy_coke銘柄、工場の線形式で記述することができる。
【0058】
【数12】
【0059】
【数13】
【0060】
【数14】
【0061】
【数15】
【0062】
【数16】
【0063】
次に、最適化計算実行部104は、ステップS4、5で線形化した制約式及び目的関数に基づいて、数理計画問題の定式化に則った形式で問題を設定する。設定された数理計画問題は、線形計画法、混合整数計画法、整数計画法又は2次計画法を用いて最適化して、目的関数を最小化する原材料の購買量、合わせて生産物の性状、生産情報を計算する(ステップS6)。
具体的には、線形化した目的関数を式(25)、制約式を式(26)とし、線形計画問題の定式化に則った式として設定する。なお、(25)の定数項はこの定式化において省略されても、問題の本質に変化が生じないため、省略した。
これら線形計画法、混合整数計画法、整数計画法又は2次計画法は一般的な手法であるので、ここではその説明は省略する。
【0064】
【数17】
【0065】
図5Aに、最適化計算により得られた原材料の購買量を示す。各工場での鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料の計算購買量(t)が記述されている。
また、図5Bに、最適化計算により得られた生産物の性状を示す。各工場での銑鉄、焼結鉱及びスラグの計算性状、具体的には銑鉄に含まれるFe量(銑鉄−Fe)(kg/t)、焼結鉱に含まれるFeO割合(焼結鉱−FeO)(%)、スラグの塩基度(スラグ−塩基度)等が記述されている。
また、図5Cに、最適化計算により得られた生産情報を示す。各工場での銑鉄、焼結鉱及びスラグの計算生産量(t)が記述されている。また、副生物であるBFGガス、COGガス等の発生量(Nm3/t)も記述されている。目的の生産物である銑鉄量(t)については、図4Dの計画情報で与えられたものとする。
【0066】
ここで、数理計画法の手法として一般的な、線形計画法、混合整数計画法、整数計画法、2次計画法では、目的関数は2次項以下の関数、制約式は線形制約で表現される必要がある。目的関数、制約式共に非線形の式で構成される場合、ラグランジュ未定乗数法が一般的に知られている。ラグランジュ未定乗数法を解くためには、各制約条件の線形和を目的関数から引き、変数による偏微分を連立方程式として求解する必要がある。この連立方程式は、非線形の連立方程式であるため、数値解析的な収束計算が必要となり、求解に時間がかかるという問題がある。
それに対して、本実施形態では、一部変数を基準値で固定化し、それでも線形式にならない非線形項を削除することで、制約式及び目的関数が共に線形式で構成されるので、線形計画法、混合整数計画法、整数計画法又は2次計画法を用いた通常の求解手法で最適化することが可能になる。
【0067】
次に、厳密式計算部105は、ステップS6で計算した原材料の購買量及び使用量、生産物の性状及び生産量の値(ただし、図4Dの計画情報で与えられる銑鉄量を除く)を用いて、線形化する前の正確な式で構成される目的関数(1)、制約式(2)に基づいて、原材料の購買量、生産物の性状及び生産情報の値を計算する(ステップS7)。
例えば焼結鉱量工場(kg)については、式(17)、(18)、(19)に、得られた鉄鉱石・副原料の購買量buy_ore銘柄、工場とコークス・石炭の購買量buy_coke銘柄、工場を代入し、連立方程式で解くことにより、非線形項を削除したことによる精度の劣化を解消した、より精度の高い焼結鉱量工場(kg)を得ることができる。
【0068】
ステップS6では線形化された制約式(26)を満たす解が得られることになるが、線形化前の制約式(2)に基づいて正確な計算をした場合、線形化処理により一部非線形項が削除されているため、制約式(2)を満たさない場合も存在する。例えば焼結鉱-FeOが7.0(%)以上の値を取ることが求められている場合、線形化した制約式から求められた値を7.0(%)以上になるように制約し、その制約が満たされている場合でも、線形化前の制約式に基づいて算出した値は6.9(%)となり、求められる7.0(%)以上の値を取らない等が発生する。
【0069】
そこで、以下に述べるように、基準値を、今回計算した線形化前の制約式に基づいて計算した値に入れ替え、収束計算することで、線形化前の制約式においても、制約を満たすまで精度の向上を図る。
【0070】
収束判定部106は、ステップS6で計算した値と、ステップS7で計算した値とが収束しているか否か、すなわち両者の差が予め設定された範囲に入っているか否かを判定する(ステップS8)。
線形化前の制約式に基づいて計算した原材料の購買量、生産物の性状及び生産情報が、線形化した制約式に基づいて計算した値と大きくずれている場合、最適化計算で守られている制約が線形化前の制約式で破られる可能性が大きい。そこで、線形化前の制約式に基づいて計算した値と、線形化した制約式に基づいて計算した値との差が、予め設定された範囲に入っているか否かを判定する。線形化前後の差が予め設定された範囲に入っているか否かを判定する項目は、全ての項目を対象としてもよいし、重要と考える項目を選択して絞り込んでもよい。例えば鉄分に関する制約は最も重要な指標であるため、銑鉄中の鉄分である銑鉄-Fe、焼結鉱の鉄分要素である焼結鉱-FeOは、予め設定された範囲に入っているか否かを判定する項目として選択する。一方、銑鉄1トン当たり高炉から発生するガス量であるBFG発生原単位等は、発電のため利用するものであり、銑鉄の品質に関して重要度が低いため、若干の変動があっても問題とならず、予め設定された範囲に入っているか否かを判定する項目として選択しない等してもよい。選択を絞り込むことで、重要な指標に関しては、厳密に制約を守った使用計画が作成可能となると同時に、あまり重要でない指標に関しては、収束判定を行わないことで、収束判定違反による繰り返し計算が削減され、高速な計画作成の立案が可能となる。
【0071】
ステップS8の収束判定において収束していない場合、ステップS3に戻る。ステップS3では、基準値を、ステップS7で線形化前の制約式に基づいて計算した原材料の購買量、生産物の性状及び生産情報の値に入れ替える。これを、線形化前の制約式に基づいて計算した値と、線形化した制約式に基づいて計算した値との差が収束するまで繰り返す。
【0072】
ここで、線形化前の制約式に基づいて算出した原材料の購買量、生産物の性状及び生産情報は厳密な計算式に基づいた値であり、実際に測定した値とほぼ近い精度を持つ値となっている。すなわち、線形化前の制約式に基づいて算出した原材料の購買量、生産物の性状及び生産情報は、実績データと遜色ない程度に精度が向上していることに着目し、これを新たな基準値と考えることにする。そこで、2回目以降のループでは、線形化前の制約式に基づいて算出した原材料の購買量、生産物の性状及び生産情報を、次回のループでの基準値として入れ替えるようにした。この操作により、ループを重ねる毎に、線形化前の制約式に基づいて計算した値と、線形化した制約式に基づいて計算した値との差はなくなり、収束することとなる。
【0073】
上述した以外の処理費用、加工費用、焼結鉱-FeO、スラグ塩基度、BFG発生原単位等も上述した焼結鉱量工場(kg)と同様の処理を行うことで正確な値を得ることでできる。
【0074】
一方、ステップS8の収束判定において収束している場合、ステップS9に進む。
ステップS9で、結果出力部107は、原材料の購買及び使用計画を出力する。原材料の購買及び使用計画として、具体的には収束したと判定されたコスト(目的関数の値)や、図6A図6Cに示したような、最終的に得られた原材料の購買量、生産物の性状及び生産情報を出力する。
【0075】
以上述べたように、生産物(銑鉄、焼結鉱及びスラグ)の性状と製造設備の能力とに関する制約を守り、原材料(鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料)の購買及び製造に掛るコストを最小化する原材料の購買及び使用計画を作成する際に、非線形式で与えられる制約式及び目的関数を線形式とした数理計画問題とし、短時間で原材料の購買及び使用計画を作成することができる。
図7に、同一データを用いた際の、本発明例と比較例(特許文献1の手法)での焼結鉱量に関する収束計算による計算値の推移を示す。収束判定は、前回結果と今回結果に対する焼結鉱量(t)の差が0.01(t)以下となる条件が3回連続した場合に、収束したと判定するものとした。比較例では収束計算に22回を要していたが、本発明例では8回と、約1/3と大幅な収束計算の手間を省くことが可能となった。
【0076】
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、本発明は実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。例えば上記実施形態では、鉄鋼業における生産物(銑鉄、焼結鉱及びスラグ)及びその原材料(鉄鉱石、コークス、石炭及び副原料)を例としたが、他の生産物及びその原材料、例えば化学製品及びその原材料、鉄鋼以外の金属類及びその原材料等について、原材料の購買及び使用計画を作成することにも本発明は適用可能である。
本発明を適用した原材料の購買及び使用計画作成装置100の各部101〜107は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置により実現される。
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
また、本発明は、本発明の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。
【符号の説明】
【0077】
100:原材料の購買及び使用計画作成装置
101:データ取り込み部
102:制約式・目的関数設定部
103:線形化部
103a:固定化部
103b:非線形項削除部
104:最適化計算実行部
105:厳密式計算部
106:収束判定部
107:結果出力部
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7