(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数のタブ対の全てが同時に駆動された場合であっても、前記複数のタブ対の各々は、他のいずれのタブ対とも軌跡が干渉することのないように、前記各タブ対を構成する各ジェットタブの形状及び配置が設定されている
請求項1から8のいずれか一項に記載の推力偏向装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に関連づけて説明する。以下の実施の形態において、同一の部材には原則として同一の符号が付され、その繰り返しの説明は省略される。符号の添え字は、同種の部材を区別するためのものである。その区別が不要の場合、添え字は、適宜省略される。
【0023】
1.方向の定義
本願明細書では、X軸、Y軸及びZ軸を持つ直交座標が使用される。
図1及び
図9に示すように、ノズル(10;10
a)の中心軸(O)がZ軸に対応している。Z軸の正方向は、ノズルの内部で燃焼ガス流(G1)が流れる方向に対応している。「第1方向」は、ノズル出口(11、11
a)の面に垂直で、ノズル(10;10
a)の内側からノズル出口の外側に向かう方向で定義される。言い換えれば、「第1方向」は、Z軸に対応している。Y軸は、X軸及びZ軸の双方に対して垂直である。
【0024】
2.主な用語の定義
1)「ノズル」とは、
図1及び
図9に示すように、ノズル内壁面(12;12
a)を含む部分に加え、ノズルの外装部分も含む。
2)「ノズル出口」とは、
図1及び
図9に示すように、例えばノズルの後端、具体的には、
図1の図番11a、
図9の図番11で示される部分を指す。。
3)「ノズル出口の面」とは、上記「ノズル出口」を含む面である。
4)「後方」とは、Z軸の正方向を指す。「ノズルの後方」とは、
図1及び
図9に示すように、ノズルの後端よりも燃焼ガス(G1)が放出される側の方向を指す。
5)「前方」とは、Z軸の負方向を指す。
6)「同時」とは、厳密な同時に加え、実質的に同時も含む。
7)「対称面」とは、
図5、
図10、
図15及び
図16にそれぞれ示すように、第1から第6対称面(SUR
a‐SUR
f)の各々を指す。対称面の数は、タブ対の個数分ある。例えば、
図5において第1タブ対(TAB
1)に着目すると、第1対称面(SUR
a)は、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2の間にある平面である。第1対称面は、ノズルの中心軸を含んでいる。
【0025】
3.推力偏向装置の原理
3.1.偏向力
本題に入る前に、推力偏向装置の原理を簡単に説明する。
図1は、推力偏向装置1aの主要部の側方断面図である。なお、
図1では、ノズル10aが中心軸Oに対して回転対称であることに留意されたい。
【0026】
ノズル10aは、そのスロート14aからノズル出口11aに向かうにつれて、ノズル10aの口径が大きくなるように構成されている。ノズル出口11aの後方に、ジェットタブ20aが配置されている。
図1では、ジェットタブ20aの一部がノズル出口11aに重なっている。
【0027】
燃焼ガスG1は、スロート14aからノズル出口11aの方向に膨張しながら流れる。そして、燃焼ガスG1は、ノズル出口11aからノズル10aの外部へと放出される。ただし、ジェットタブ20aの存在により、ジェットタブ20aの前方に高圧領域REGが発生する。高圧領域REGでは、燃焼ガスG1の流入が抑制される。高圧領域REGの前方部分SPを起点として、斜め衝撃波SHWが発生する。斜め衝撃波SHWによって、燃焼ガスG1は、偏向され、偏向流G2としてノズル10aの外部へと放出される。このとき、偏向流G2のY軸方向成分(ノズル10aの中心軸Oに対して垂直方向)により偏向力Fが発生する。偏向力Fによって、ノズル10a(ノズル10aを備える飛しょう体)を推進させる推力が偏向される。
【0028】
3.2.ジェットタブの形状
ジェットタブの形状は任意でよい。この点について、
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)及び
図3を参照して説明する。
図2(A)は、推力偏向角の説明図である。
図2(A)は、ノズル1aの側面に加え、ロケットモータ7の側面を示している。ロケットモータ7には、推進力Fx及び偏向力Fyが作用する。推進力Fxは、中心軸(O)方向に働く力である。偏向力Fyは、
図1に示す偏向力Fに対応する。このとき、推力偏向角θは、Arctan(Fy/Fx)で定義される(θ≧0)。
図2(B)は、ノズル出口面積A
0の説明図である。ノズル出口面積A
0とは、ノズル内壁面12aで囲まれる部分、つまり、ノズル出口11aの面積を指している。
図2(C)は、重なり面積A
rの説明図である。重なり面積A
rとは、ジェットタブ20aがノズル出口11aと重なっている部分の面積を指している。実際には、複数のジェットタブ20aが設けられている。ここでは、説明を明確にするため、1個のジェットタブ20aを例に挙げる。
【0029】
図3は、推力偏向角θと面積比Sとの関係を示す図である。面積比Sは、重なり面積A
rとノズル出口面積A
0との比(S=A
r/A
0)で表される。このとき、推力偏向角θは、面積比S=A
r/A
0の単調増加の関数で表される。つまり、重なり面積A
rが増加するにつれて、推力偏向角θも増加する。また、重なり面積A
rが増加するにつれて、
図2(A)に示す偏向力Fyも、概ね増加する。このことから、必要な偏向力を得るためには、基本的には、ジェットタブ20aの形状が任意でよいことが分かる。
【0030】
4.本願発明者によって認識された課題
同じ偏向力を得ることができるならば、ジェットタブの大きさは、できるだけ小さい方がよい。それは、このことが推力偏向装置の小型化及び軽量化につながるためである。本願発明者は、この点に着目した。しかしながら、そのためには、次の点を考慮する必要がある。
【0031】
このことを、
図4を参照して説明する。
図4は、ジェットタブ20aが受ける力の説明図である。ここでは、ジェットタブ20は、概ね直方体の形状を持っており、ノズル出口11aを含む面に対して平行である。ジェットタブ20aは、燃焼ガスG1から流体力学的な力を受ける。
図4では、ジェットタブ20aの先端部23aがノズル10aの後方でノズル出口11aに重なっている。
【0032】
燃焼ガスG1は、ノズル10aのスロート(不図示)からノズル出口11aへ向かって放出されている。このとき、ジェットタブ20は、大別して、燃焼ガスG1から2種類の力を受ける。1つ目は、ジェットタブ20aの内側面27aが受ける力F1である。2つ目は、ジェットタブ20aの表面25aが受ける力F2である。流体力学の観点では、これら二つの力が支配的である。
【0033】
1つ目の力F1について述べる。
図4に示すように、力F1は、ジェットタブ20aの内側面27aに対して垂直に働く力である。初め、ジェットタブ20aは、ノズル出口11に重ならない位置にある(想像線:二点鎖線を参照)。その後、ジェットタブ20aは、この位置からノズル出口11aに重なる位置へ駆動部30aによって回転される。このとき、駆動部30aは、力F1によって回転を妨げられる方向に力を受ける。この力によって、ジェットタブ20aは、流体負荷トルクTを受ける。流体負荷トルクTの方向は、ジェットタブ20aの回転方向と逆向きである。流体負荷トルクTの大きさは、力F1×スパンL1で表される。スパンL1は、ジェットタブ20aとシャフト51aが連結されている位置からジェットタブ20が力F1を受ける位置までの距離である。なお、ここで言う、力F1は、ある代表点に作用する力である。実際にジェットタブ20aが受ける力は、各点に作用する力の総和である。具体的には、ジェットタブ20aが受ける流体負荷トルクTは、各点に作用する流体負荷トルク(F1×L1)の総和である。
【0034】
二つ目の力F2について述べる。
図4に示すように、力F2は、ジェットタブ20aの表面25aに対して垂直に働く力である。力F2によって、ジェットタブ20aの先端部23aが、燃焼ガス流(G1)の方向に押される。この力によって、ジェットタブ20aは、曲げモーメントMを受ける。曲げモーメントMの大きさは、力F2×スパンL2で表される。スパンL2は、シャフト51からジェットタブ20aが力F2を受ける位置までの距離である。なお、ここで言う、力F2は、ある代表点に作用する力である。実際にジェットタブ20aが受ける力は、各点に作用する力の総和である。具体的には、ジェットタブ20aが受ける曲げモーメントMは、各点に作用する曲げモーメント(F2×L2)の総和である。
【0035】
ジェットタブ20aの厚みTHが更に薄くなれば、ジェットタブ20aの内側面27aに対して垂直に働く力F1は、その分小さくなる。しかしながら、ジェットタブ20aの強度がその分低下する。他方、ジェットタブ20aがノズル出口11aと重なる部分が更に小さくなれば、ジェットタブ20aの表面25aに対して垂直に働く力F2は、その分小さくなる。しかしながら、所望する偏向力Fを得ることが難しくなる。したがって、所望する偏向力Fを確保しつつ、ジェットタブ20aにかかる力F1、F2をできるだけ低減させる工夫が求められる。
【0036】
5.第1の実施の形態
5.1.概要
第1の実施の形態の概要を
図5及び
図6を参照して説明する。
図5は、第1の実施の形態に係る推力偏向装置1の斜視図である。
図5に示すように、推力偏向装置1は、ノズル10と、第1‐第8ジェットタブ20
1‐20
8と、駆動部30とを備える。第1‐第8ジェットタブ20
1‐20
8は、第1‐第8回転軸21
1‐21
8をそれぞれ備える。ノズル10は、ノズル出口11と、ノズル底部13とを備える。駆動部30は、第1ジェットタブ20
1を第1回転軸21
1の回りに回転させ、第2ジェットタブ20
2を第2回転軸21
2の回りに回転させる。
【0037】
本実施の形態では、1個のジェットタブ20にかかる力を低減させつつ、所望する偏向力Fを得るために、2個のジェットタブ20で1つのタブ対TABが構成されている。その詳細は、次の通りである。第1タブ対TAB
1が第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2で構成されている。同様に、第2タブ対TAB
2が第3ジェットタブ20
3及び第4ジェットタブ20
4で構成されている。第3タブ対TAB
3が第5ジェットタブ20
5及び第6ジェットタブ20
6で構成されている。第4タブ対TAB
4が第7ジェットタブ20
7及び第8ジェットタブ20
8で構成されている。
【0038】
各タブ対TABを構成する2個のジェットタブ20の間に、第1‐第4対称面SUR
a‐SUR
dがある。第1タブ対TAB
1に着目すると、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2の間に、第1対称面SUR
aがある。第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2は、第1対称面SUR
aに対して対称に配置され、第1対称面SUR
aに対して対称な形状を有する。いずれのタブ対TABも同じ構成を持つ。以下の説明では、特に断りのない限り、第1タブ対TAB
1に焦点を当てる。
【0039】
図6は、第1タブ対TAB
1周辺の部分拡大図である。
図6に示すように、第1ジェットタブ20
1は、第1回転軸21
1に接続された第1基端部22
1と、第1先端部23
1とを更に備える。第2ジェットタブ20
2は、第2回転軸21
2に接続された第2基端部22
2と、第2先端部23
2とを更に備える。第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2の各々は、Z軸方向(第1方向)にみて、ノズル出口11と重ならないように配置されている。第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2は、駆動部30によって、第1回転軸21
1及び第2回転軸21
2の回りにそれぞれ回転する。第1回転軸21
1及び第2回転軸21
2は、互いに離間している。両者の位置は、それぞれ固定されている。
【0040】
ここで、第1回転軸21
1と第1最先端24
1(第1回転軸21
1から最も離れた第1ジェットタブ20
1上の点)との間の距離は、距離D1で表される。第1回転軸21
1から第1対称面SUR
aまでの距離は、D2で表される。第2回転軸21
2と第2最先端24
2(第2回転軸21
2から最も離れた第2ジェットタブ20
2上の点)との間の距離は、D3で表される。第2回転軸21
2から第1対称面SUR
aまでの距離は、D4で表される。
【0041】
第1ジェットタブ20
1は、駆動部30によって、第1退避位置P1
1から第1進出位置P2
1の範囲内で駆動される。第2ジェットタブ20
2も、駆動部30によって、第2退避位置P1
2からび第2進出位置P2
2の範囲内で駆動される。
第1ジェットタブ20
1が第1退避位置P1
1にあり、第2ジェットタブ20
2が第2退避位置P1
2にあるとき、第1先端部23
1と第2先端部23
2とは、互いに向き合っていない。
第1ジェットタブ20
1が第1退避位置P1
1から第1進出位置P2
1へ向けて駆動され、かつ、第2ジェットタブ20
2が第2退避位置P1
2から第2進出位置P2
2へ向けて駆動されるとき、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2は、互いが第1対称面SUR
aに対して単調的に近接する方向に、かつ第1対称面SUR
aに対して対称に回転される(駆動される)。具体的には、第1ジェットタブ20
1は、第1退避位置P1
1(実線)から第1進出位置P2
1(想像線)に向けて回転する。これと同時に、第2ジェットタブ20
2も、第2退避位置P1
2(実線)から第2進出位置P2
2(想像線)に向け回転する。
【0042】
このことを実現するためには、次の関係が成り立てばよい。第1回転軸21
1と第2回転軸21
2との間の距離は、D5=D2+D4で表される。距離D5は、回転軸間距離と呼ばれ、一定の値である。第1先端部23
1の面中心28
1と第2先端部23
2の面中心28
2との間の距離は、D6で表される。距離D6は、先端部間距離と呼ばれる。ここで、面中心とは、対応する先端部23の図心を指す。第1ジェットタブ20
1が第1退避位置P1
1にあり、かつ第2ジェットタブ20
2が第2退避位置P1
2にあるとき、先端部間距離D6は、回転軸間距離D5よりも大きい。
【0043】
上述の関係は、次のようにも表現される。距離D1及び距離D2の間に、次の関係が成り立てばよい。第1ジェットタブ20
1において、第1最先端24
1と第1回転軸21
1との間の距離D1が第1回転軸21
1と第1対称面SUR
aとの間の距離D2よりも大きい。その上、距離D3及び距離D4の間に、次の関係が必要である。第2ジェットタブ20
2において、第2最先端24
2と第2回転軸21
2との間の距離D3は、第2回転軸21
2と第1対称面SUR
aとの間の距離D4よりも大きい。
【0044】
5.2.動作(推力偏向方法)
駆動部30による第1タブ対TAB
1の動作は、次の通りである。推力偏向時に、駆動部30は、先端部間距離D6が単調に減少するように、第1ジェットタブ20
1を第1退避位置P1
1から第1進出位置P2
1へ駆動し、かつ第2ジェットタブ20
2を第2退避位置P1
2から第2進出位置P2
2へ駆動する。これとは逆に、推力偏向の解除時に、駆動部30は、先端部間距離D6が単調に増加するように、第1ジェットタブ20
1を第1進出位置P2
1から第1退避位置P1
1へ駆動し、かつ第2ジェットタブ20
2を第2進出位置P2
2から第2退避位置P1
2へ駆動する。
【0045】
5.3.効果
1個のタブ対TABに上述の関係がある。このことにより、次の効果が得られる。1つ目は、流体負荷トルクT及び曲げモーメントMの低減に関する。本実施の形態では、2個のジェットタブ20で1つのタブ対TABが構成されている。ここで、任意の1個のタブ対TABのみが進出位置にある場合を仮定する。ある重なり面積A
rを1個のジェットタブで得ようとすれば、1個のジェットタブの先端部の表面積(
図4における先端部23aの面積)が本実施の形態のものよりも大きくなる。これは、1個のジェットタブにかかる力F2(
図4を参照)の増大を意味し、推力偏向装置の小型化及び軽量化を妨げる。そこで、本実施の形態では、1個のジェットタブ20にかかる力F2を低減させるため、2個のジェットタブ20で1つのタブ対TABが構成されている。その結果、曲げモーメントMが低減されると共に、流体負荷トルクTも低減される。
【0046】
2つ目は、偏向力の増大に関する。この観点を
図7及び
図8に関連付けて説明する。
図7では、第1の実施の形態によって得られる偏向力を取り上げる。
図8では、比較例を取り上げる。
【0047】
図7は、第1の実施の形態に係る推力偏向装置1によって得られる偏向力の説明図である。なお、説明を明確にするため、
図7は、進出位置にある第1タブ対TAB
1のみを想像線で図示している。他のタブ対TAB
2−TAB
4は、退避位置にある。
【0048】
第1ジェットタブ20
1によって、第1偏向力F20
1が発生する。第1偏向力F20
1は、ノズル出口11を含む面において、ノズル10の中心軸Oから第1先端部23
1の面中心28
1の向きに働く。第1偏向力F20
1は、ベクトル量であり、X軸方向の成分とY軸方向の成分を持つ。第1偏向力F20
1がY軸となす角は、θ
1で表される。なお、Y軸は、第1対称面SUR
aに対して平行な軸であることに留意されたい。
【0049】
第2ジェットタブ20
2によって、第2偏向力F20
2が発生する。第2ジェットタブ20
2によって発生する第2偏向力F20
2は、ノズル出口11を含む面において、ノズル10の中心軸Oから第2先端部23
2の面中心28
2への向きに働く。第2偏向力F20
2がY軸となす角は、第1偏向力F20
1の場合と同じθ
1で表される。このことは、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2の形状及び配置の対称性に基づく。
【0050】
第1タブ対TAB
1によって発生する偏向力F20は、第1偏向力F20
1と第2偏向力F20
2との合力である。したがって、
図7に示すように、偏向力F20は、ノズル10の中心軸Oからノズル内壁面12の方向(Y軸の負方向)に発生する。
【0051】
図8は、他の観点の推力偏向装置1Aによって得られる偏向力の説明図である。
図8に示す推力偏向装置1Aは、第1回転軸21A
1の回りに回転する第1ジェットタブ20A
1と、第2回転軸21A
2の回りに回転する第2ジェットタブ20A
2とを備える。
図8は、第1ジェットタブ20A
1及び第2ジェットタブ20A
2の双方が進出位置にある場合を想像線で図示している。基本的には、
図8に示す推力偏向装置1Aは、
図7に示すものと同様の構成をとる。したがって、
図7に示す推力偏向装置1と、
図8に示す推力偏向装置1Aとの間では、重なり面積A
rに変わりはない。ただし、次の点に大きな差異がある。
【0052】
1つ目の差異は、2つの回転軸の間の距離である。
図8に示す第1回転軸21A
1と第2回転軸21A
2との間の距離は、
図7に示す第1回転軸21
1と第2回転軸21
2との間の距離よりも大きい。
2つ目の差異は、2個のジェットタブが退避位置から進出位置へ移動する際の回転方向において、
図8に示す第1ジェットタブ20A
1及び第2ジェットタブ20A
2の回転方向が
図7に示すものと逆である。
【0053】
つまり、第1ジェットタブ20A
1及び第2ジェットタブ20A
2の双方が退避位置にあるとき、第1先端部23A
1と第2先端部23A
2とが互いに向き合うために、
図8に示す配置がとられている。このことは、本実施の形態の推力偏向装置1とは異なる。
【0054】
上記2つの差異に起因して、偏向力Fの大きさも変わる。
図8では、第1偏向力F20A
1がY軸となす角は、θ
2である。この角θ
2は、
図7に示す角θ
1よりも大きい(θ
2>θ
1)。このことは、第2偏向力F20
2についても同様である。したがって、偏向力F20A(=F20A
1+F20A
2)は、
図7に示す偏向力F20よりも小さい(F20A<F20)。
【0055】
上述のように、
図7に示す推力偏向装置1と、
図8に示す推力偏向装置1Aとの間では、重なり面積A
rに変わりはない。それにもかかわらず、
図7に示す偏向力F20の方が、
図8に示す偏向力F20Aよりも大きい。換言すれば、
図7の例(本実施形態)では、同じ偏向力を得るために、
図8の例におけるジェットタブよりも小さなジェットタブで十分である。このことは、駆動部の小型化だけではなく、推力偏向装置の小型化及び軽量化につながる。
【0056】
3つ目は、偏向力のずれ(ミスアライメントとも呼ばれる)が極めて小さい点にある。偏向力のずれとは、対応する対称面SURと偏向力との間の差異を言う。この点については、次の理由が挙げられる。第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2が対称面SUR
aに対して対称な形状をしている。その上、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2が互いに第1対称面SUR
aに対して対称となるように駆動される。したがって、
図7に示すように、第1対称面SUR
aに対して互いに対称な2つの偏向力F20
1及びF20
2が得られる。その結果、両者の合力である偏向力F20と第1対称面SUR
aとの差異は、ゼロであるか、または非常に小さい。この対称性は、偏向力のずれを小さくするために寄与する事項である。
【0057】
6.本実施の形態の詳細
6.1.退避位置及び進出位置
退避位置及び進出位置の詳細は、次の通りである。第1退避位置P1
1とは、第1ジェットタブ20
1がノズル出口11に重なっている部分が存在しないように、第1ジェットタブ20
1がノズル出口11の外部にある位置をいう。例えば、第1退避位置P1
1は、第1ジェットタブ20
1の全体がノズル底部13に重なる位置である。
一方、第1進出位置P2
1とは、第1ジェットタブ20
1の一部(第1先端部23
1)がノズル出口11に重なる位置をいう。具体的には、第1進出位置P2
1は、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2による推力の偏向力が最大となる位置である。
【0058】
第2退避位置P1
2とは、第2ジェットタブ20
2がノズル出口11に重なっている部分が存在しないように、第2ジェットタブ20
2がノズル出口11の外部にある位置をいう。具体的に言えば、第2退避位置P1
2は、第2ジェットタブ20
2の全体がノズル底部13に重なる位置である。
一方、第2進出位置P2
2とは、第2ジェットタブ20
2の一部(第2先端部23
2)がノズル出口11に重なる位置をいう。具体的には、第2進出位置P2
2は、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2による推力の偏向力が最大となる位置である。
【0059】
なお、次のことに留意されたい。要求される偏向力が設計上の最大偏向力よりも小さい場合も想定される。この場合、第1進出位置P2
1は、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2による推力の偏向力が、要求される偏向力となる位置である。同様に、第2進出位置P2
2は、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2による推力の偏向力が、要求される偏向力となる位置である。
【0060】
以下、説明を明確にするため、次の表現が用いられることがある。(1)「第1タブ対TAB
1が退避位置にある」。このことは、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2が第1退避位置P1
1及び第2退避位置P1
2にそれぞれある状態を指している。(2)「第1タブ対TAB
1が進出位置にある」。このことは、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2が第1進出位置P2
1及び第2進出位置P2
2にそれぞれある状態を指している。言うまでもなく、以上の表現は、他のタブ対TAB
2‐TAB
4についても適用される。
【0061】
6.2.ジェットタブ
第1ジェットタブ20
1について説明する。第1先端部23
1は、第1ジェットタブ20
1の一部である。詳細には、第1先端部23
1は、第1ジェットタブ20
1が第1進出位置P2
1にあるときに、第1ジェットタブ20
1がノズル出口11と重なっている部分である。第1基端部22
1は、第1ジェットタブ20
1の全体から第1先端部23
1を除いた領域である。第1ジェットタブ20
1は、その形状にかかわらず、第1回転軸21
1から最も離れた第1最先端24
1を持つ。
【0062】
第2ジェットタブ20
2の構成について説明する。第2先端部23
2は、第2ジェットタブ20
2の一部である。詳細には、第2先端部23
2は、第2ジェットタブ20
2が第2進出位置P2
2にあるときに、第2ジェットタブ20
2がノズル出口11と重なっている部分である。第2基端部22
2は、第2ジェットタブ20
2の全体から第2先端部23
2を除いた領域である。第2ジェットタブ20
2は、その形状にかかわらず、第2回転軸21
2から最も離れた第2最先端24
2を持つ。
【0063】
6.3.推力偏向装置の側方断面
図9は、第1ジェットタブ20
1の周辺における推力偏向装置の側方断面図である。
図9は、第1ジェットタブ20
1が第1進出位置P2
1にあるときを図示している。
【0064】
第1ジェットタブ20
1は、ノズル底部13の後方に配置されている。ノズル底部13は、ノズル10の底部を構成する部分である。説明を簡単にするため、ノズル底部13は、Z方向から見て、平坦に描かれている。第1回転軸21
1は、シャフト51を介して駆動部30に連結されている。なお、シャフト51自体が第1回転軸21
1であってもよい。駆動部30は、例えば、燃焼ガスG1が流れる箇所とは異なるノズル10の中に配置されている。
【0065】
第1ジェットタブ20
1の表面25とノズル底部13との間には、わずかなギャップ(マージン)GPがある。ギャップGPの幅は、ギャップGPに流れ込む燃焼ガスG1ができるだけ少なく、かつ第1ジェットタブ20
1がノズル底部13に接触することなく滑らかに回転する範囲内であればよい。なお、ギャップGPが大きくなるほど、ギャップGPに流れ込む燃焼ガスG1の量が増えることに留意されたい。その結果、高圧領域REG(
図1を参照)の圧力が減少すると共に、偏向力Fも小さくなる。
【0066】
6.4.ジェットタブの配置
第1−第4タブ対TAB
1−TAB
4の全てが同時に駆動された場合であっても、第1−第4タブ対TAB
1−TAB
4の各々は、他のいずれのタブ対TABとも軌跡が干渉することのないように、タブ対TAB
1−TAB
4の各々を構成する各ジェットタブ20の配置が設定されている。
【0067】
その詳細は、次の通りである。
図10は、推力偏向装置1を後方からみた図である。
図10に示すように、ノズル出口11の後方から見て、ノズル出口11の形状は円である。第1‐第8ジェットタブ20
1‐20
8、つまり、第1−第4タブ対TAB
1−TAB
4は、ノズル底部13の形状に沿って、等間隔に配置されている。ここで、退避位置にある第1タブ対TAB
1に着目すると(想像線を参照)、第1ジェットタブ20
1の第1先端部23
1は、隣接する第8ジェットタブ20
8の第8先端部23
8と向き合っている。第2ジェットタブ20
2の第2先端部23
2は、隣接する第3ジェットタブ20
3の第3先端部23
3と向き合っている。
【0068】
なお、ノズル出口11の形状は、一例である。ノズル出口11の形状が他の形状(例えば、円以外の形状)であっても差支えはない。
【0069】
第1−第4タブ対TAB
1−TAB
4は、周方向にφ=90度間隔で配置されている。この間隔(φ)であれば、第1‐第8ジェットタブ20
1‐20
8の各々が周方向に隣接する2個のジェットタブ20と退避位置で接触することはない。更に、第1−第4タブ対TAB
1−TAB
4の各々が退避位置から進出位置へ(又はその逆に)駆動されるときも、第1‐第8ジェットタブ20
1‐20
8の各々が、周方向に隣接する2個のジェットタブ20と接触することはない。
【0070】
6.5.ジェットタブの形状
高圧領域REGから偏向力の発生に寄与しない方向へ燃焼ガスが漏れることを抑制するため、各ジェットタブ20は、次の形状を持つ。
図11は、進出位置にある第1タブ対TAB
1の外観図である。
図11に示すように、第1ジェットタブ20
1は、第1内側面27
1を更に備える。第2ジェットタブ20
2は、第2内側面27
2を更に備える。説明の便宜上、第1最先端24
1は、第1ジェットタブ20
1の表面25にあると定義される。第2最先端24
2も、第2ジェットタブ20
2の表面25にあると定義される。
【0071】
先ず、第1内側面27
1及び第2内側面27
2に着目する。第1内側面27
1の形状は、第1先端部23
1から第1基端部22
1にかけて平面部を備える形状である。第1タブ対TAB
1が進出位置にあるとき、第1内側面27
1は、第1対称面SUR
aに対して平行である。
同様に、第2内側面27
2の形状も、第2先端部23
2から第2基端部22
2にかけて平面部を備える形状である。第1タブ対TAB
1が進出位置にあるとき、第2内側面27
2は、第1対称面SUR
aに対して平行である。
したがって、第1タブ対TAB
1が進出位置にあるとき、第1内側面27
1及び第2内側面27
2は、少なくともその一部(平面部)が互いに対面すると共に、互いに平行である。
【0072】
このとき、第1内側面27
1及び第2内側面27
2の間には、ギャップ(マージン)GP2が存在する。ギャップGP2は、第1タブ対TAB
1が退避位置から進出位置へ駆動されるとき、第1内側面27
1及び第2内側面27
2が互いに衝突するのを防ぐ役割を持つ。なお、ギャップGP2、すなわち、第1内側面27
1と第2内側面27
2との間の距離は、例えば、1mmから5mm程度でもよい。この距離は、第1内側面27
1及び第2内側面27
2が互いに衝突しない程度の距離であればよい。ギャップGP2が1mm以上、5mm以下であるとき、高圧領域REGから偏向力の発生に寄与しない方向への燃焼ガスの漏れが十分に抑制される。
【0073】
上述の説明にて、原則、偏向力の大きさがジェットタブ20の形状に依存しないことを述べた。しかしながら、ジェットタブ20の形状が完全に任意でよいわけではない。
第1‐第8ジェットタブ20
1‐20
8の各々が、その位置にかかわらず、周方向に隣接する2個のジェットタブ20と接触することのない形状を持つ必要がある。
その上、第1‐第8ジェットタブ20
1‐20
8の各々が、中心軸Oに対して対向するジェットタブ20と接触することのない形状を持つ必要がある。
【0074】
そこで、第1−第4タブ対TAB
1−TAB
4の全てが同時に駆動された場合であっても、第1−第4タブ対TAB
1−TAB
4の各々は、他のいずれのタブ対TABとも軌跡が干渉することのないように、各タブ対TAB
1−TAB
4を構成する各ジェットタブ20の形状が設定されている。
【0075】
その詳細は、次の通りである。ここでは、第1タブ対TAB
1に焦点を当てる。まず、第1−第4タブ対TAB
1−TAB
4の各々の間には、第1‐第4平面SUR
1‐SUR
4がある。第1平面SUR
1は、第1タブ対TAB
1と第2タブ対TAB
2との間の平面である。同様に、第4平面SUR
4は、第1タブ対TAB
1と第4タブ対TAB
4との間の平面である。第1タブ対TAB
1が退避位置から進出位置(又はその逆)に駆動されたとき、第1最先端24
1及び第2最先端24
2の双方が描く軌跡(
図10における破線を参照)が、第1平面SUR
1と第4平面SUR
4との内側に存在する必要がある。
【0076】
ここで、第1先端部23
1及び第2先端部23
2に着目する。第1先端部23
1は、例えば、その先端(第1最先端24
1)に向かうにつれて、先細る形状を持っている。同様に、第2先端部23
2も、その先端(第2最先端24
2)に向かうにつれて、先細る形状を持っている。
【0077】
このことにより、第1タブ対TAB
1が退避位置から進出位置へ駆動されるとき、第1最先端24
1が描く軌跡(
図10の破線を参照)が第1対称面SUR
aと第4平面SUR
4の面内に収まる。これと共に、第2最先端24
2が描く軌跡が第1対称面SUR
aと第1平面SUR
1の面内に収まる。その上、第1先端部23
1の面中心28
1が第1基端部22
1側により近づく共に、第2先端部23
2の面中心28
2が第2基端部22
2側により近づく。その結果、スパンL2(
図4参照)が短くなり、曲げモーメントMが減る。
【0078】
次に、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2の厚みに着目する。第1ジェットタブ20
1において、第1先端部23
1の厚み(TH1)は、第1基端部22
1の厚み(TH2)よりも薄い。同様に、第2ジェットタブ20
2において、第2先端部23
2の厚み(TH1)は、第2基端部22
2の厚み(TH2)よりも薄い。具体的には、第1ジェットタブ20
1の厚みは、第1基端部22
1から第1先端部23
1へ向かうにつれて、徐々に薄くなる。第2ジェットタブ20
2の厚みも、第2基端部22
2から第2先端部23
2へ向かうにつれて、徐々に薄くなる。このことにより、必要最小限の厚みで燃焼ガスに押される力F2(
図4を参照)に耐えることができるという利点が得られる。
【0079】
6.6.ジェットタブの他の形状
上述の趣旨から、次の形状を持つジェットタブでもよいことが分かる。
図12は、ジェットタブ20の他の形状を例示する外観図である。
図12に示すように、第1ジェットタブ20B
1は、第1基端部22
1から第1先端部23
1に向かうにつれて、徐々に先細る形状を持っている。同様に、第2ジェットタブ20B
2も、第2基端部22
2から第2先端部23
2に向かうにつれて、徐々に先細る形状を持っている。この例でも、第1最先端24
1と第1回転軸21
1との間の距離D1は、第1回転軸21
1と第1対称面SUR
aとの間の距離D2よりも大きい。その上、第2最先端24
2と第2回転軸21
2との間の距離D3は、第2回転軸21
2と第1対称面SUR
aとの間の距離D4よりも大きい。
【0080】
理論上は、推力偏向装置1で用いられるジェットタブの形状は、全てが同一でなくてもよい。しかしながら、実用的な観点では、第1−第8ジェットタブ20
1−20
8の形状は、全て同じであることが望ましい。
【0081】
6.7.駆動系
6.7.1.構成
推力偏向装置1の駆動系について説明する。
図13は、推力偏向装置1の駆動系を示すブロック図である。推力偏向装置1は、第1−第8駆動部30
1−30
8と、第1−第8駆動機構33
1−33
8と、駆動制御部40とを備える。
【0082】
第1−第8駆動部30
1−30
8の各々は、典型的には、モータで構成されている。第1−第8駆動部30
1−30
8は、第1‐第8駆動機構33
1‐33
8にそれぞれ連結されている。第1−第8駆動部30
1−30
8は、駆動制御部40の制御の下、駆動力(回転力)を発生させる。第1−第8駆動部30
1−30
8のうち、駆動制御部40の制御対象である駆動部30は、発生させた駆動力を対応する駆動機構33に与える。
【0083】
第1駆動機構33
1は、第1ジェットタブ20
1を第1回転軸21
1の回りに回転させるように構成されている。他の駆動機構33も、第1駆動機構33と同様の構成をとる。
【0084】
その詳細は、次の通りである。第2駆動機構33
2は、第2ジェットタブ20
2を第2回転軸21
2の回りに回転させるように構成されている。第3駆動機構33
3は、第3ジェットタブ20
3を第3回転軸21
3の回りに回転させるように構成されている。第4駆動機構33
4は、第4ジェットタブ20
4を第4回転軸21
4の回りに回転させるように構成されている。第5駆動機構33
5は、第5ジェットタブ20
5を第5回転軸21
5の回りに回転させるように構成されている。第6駆動機構33
6は、第6ジェットタブ20
6を第6回転軸21
6の回りに回転させるように構成されている。第7駆動機構33
7は、第7ジェットタブ20
7を第7回転軸21
7の回りに回転させるように構成されている。第8駆動機構33
8は、第8ジェットタブ20
8を第8回転軸21
1の回りに回転させるように構成されている。
【0085】
駆動制御部40は、駆動系全体の制御を統括する。駆動制御部40は、次のように構成されている。駆動制御部40は、例えば、マイクロプロセッサ、メモリ及び種々の電子回路で構成されている。駆動制御部40は、第1−第8駆動部30
1−30
8にそれぞれ電気的に接続されている。
【0086】
駆動制御部40は、第1−第8駆動部30
1−30
8のうち、駆動対象のタブ対TABに対応する複数の駆動部30を動作させる。例えば、所望する偏向力を得るのに必要なタブ対TABが第1タブ対TAB
1である場合、駆動制御部40は、次の制御を実行する。駆動制御部40は、第1駆動部30
1及び第2駆動部30
2を同期制御することにより、第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2を第1対称面SUR
aに対して対称に駆動する。
【0087】
6.7.2.動力分割機構(駆動系の変形例)
上述の例では、1個のジェットタブ20に対して1つの駆動部30が設けられている。推力偏向装置の小型化及び軽量化の観点からは、駆動部30の個数が少ないことが望ましい。以下に、2個のジェットタブ20に対して1つの駆動部30が設けられている例を挙げる。その詳細は、次の通りである。
【0088】
図14は、動力分割機構50の外観図である。
図14は、第1タブ対TAB
1に対応する動力分割機構50を図示している。実際には、1つのタブ対TABに対して、1つの動力分割機構50が設けられている。つまり、推力偏向装置1は、第1−第4タブ対TAB
1−TAB
4の各々に対して動力分割機構50を備える。
【0089】
動力分割機構50は、駆動部30の駆動力を第1ジェットタブ20
1及び第2ジェットタブ20
2に同時に伝達する機構である。動力分割機構50は、次のように構成されている。
【0090】
動力分割機構50は、第1シャフト51
1と、第1歯車52
1と、第2シャフト51
2と、第2歯車52
2とを備える。第1シャフト51
1の基端部511
1は、解放されている。
第1シャフト51
1の先端部512
1は、第1ジェットタブ20
1に連結されている。なお、第1シャフト51
1及び第1ジェットタブ20
1の双方が一体成型された一つの部材であってもよい。第1歯車52
1は、第1シャフト51
1に設けられている。
第2シャフト51
2の基端部511
2は、第1駆動部30
1に連結されている。第2シャフト51
2の先端部512
2は、第2ジェットタブ20
2に連結されている。なお、第2シャフト51
2及び第2ジェットタブ20
2の双方が一体成型された一つの部材であってもよい。第2歯車52
2は、第2シャフト51
2に設けられている。その上で、第1歯車52
1は、第2歯車52
2と噛み合うように配置されている。ただし、第1歯車52
1の回転方向が第2歯車52
2の回転方向と逆向きとなるように、第1歯車52
1は、第2歯車52
2と噛み合っている。
【0091】
動力分割機構50の動作は、次の通りである。ここでは、第1タブ対TAB
1が退避位置から進出位置へ駆動される場合を例に挙げる。先ず、駆動制御部40は、第1駆動部30
1に制御信号を送る。制御信号は、例えば、ハイレベルの電気信号である。制御信号は、第1タブ対TAB
1が進出位置に駆動されるまで、第1駆動部30
1に送られる。第1駆動部30
1は、駆動制御部40から制御信号を受けると、第2シャフト51
2を回転させる。この回転方向は、X軸(正)からY軸(正)の方向である。第2シャフト51
2の回転は、制御信号を受けている期間行われる。第2シャフト51
2が回転すると、第2シャフト51
2の回転方向と同方向に第2歯車52
2も回転する。そして、第2歯車52
2の回転は、第1歯車52
1に伝達される。ただし、第1歯車52
1の回転方向は、第2歯車52
2の回転方向と逆向きである。第1歯車52
1が回転すると、第2シャフト51
2の回転方向と逆向きに同期回転して、第1シャフト51
1も回転する。
【0092】
2個のジェットタブ20に対して1つの駆動部30が設けられている。したがって、
図13に示す構成を
図14に示す構成と比べると、駆動部30の個数が半分である。このことは、推力偏向装置1の軽量化及び小型化に有益である。
【0093】
以上、第1の実施の形態によれば、ジェットタブの小型化及び駆動部の小型化が可能となる。このことは、推力偏向装置の小型化及び軽量化につながる。
【0094】
7.第2の実施の形態
第1の実施の形態では、8個のジェットタブ20
1−20
8について説明した。ジェットタブ20の個数は、設計上の要請により、8個よりも多い場合がある。第2の実施の形態は、この場合を例示する。
【0095】
図15は、第2の実施の形態に係る推力偏向装置1Bを後方からみた図である。本実施の形態では、12個のジェットタブ20
1−20
12が設けられている。つまり、6個のタブ対TAB
1−TAB
6がある。各タブ対TABを構成する2個のジェットタブ20の間に、第1‐第6対称面SUR
a‐SUR
fがある。
【0096】
以下に、第1の実施の形態との差異について説明する。第5タブ対TAB
5が第9ジェットタブ20
9及び第10ジェットタブ20
10で構成されている。第6タブ対TAB
6が第11ジェットタブ20
11及び第12ジェットタブ20
12で構成されている。
【0097】
第1−第6タブ対TAB
1−TAB
6は、周方向にφ=60度間隔で配置されている。本実施の形態においても、第1−第6タブ対TAB
1−TAB
6の各々が、他のいずれのタブ対TABとも軌跡が干渉することのないように、各タブ対TAB
1−TAB
6を構成する各ジェットタブ20の配置が設定されている。
【0098】
本実施の形態のように、ジェットタブ20の個数が増えても、第1実施の形態で述べた効果と同様のものが得られる。
【0099】
8.第3の実施の形態
第3の実施の形態では、ジェットタブ20の個数が8個よりも少ない場合を例示する。
図16は、第3の実施の形態に係る推力偏向装置1Cを後方からみた図である。本実施の形態では、6個のジェットタブ20
1−20
6が設けられている。つまり、3個のタブ対TAB
1−TAB
3がある。各タブ対TABを構成する2個のジェットタブ20の間に、第1‐第3対称面SUR
a‐SUR
cがある。
【0100】
第1−第3タブ対TAB
1−TAB
3は、周方向にφ=120度間隔で配置されている。本実施の形態においても、第1−第3タブ対TAB
1−TAB
3の各々が、他のいずれのタブ対TABとも軌跡が干渉することのないように、各タブ対TAB
1−TAB
3を構成する各ジェットタブ20の配置が設定されている。
【0101】
本実施の形態のように、ジェットタブ20の個数が減っても、第1実施の形態で述べた効果と同様のものが得られる。
【0102】
9.変形例1
駆動部30の個数を減らすために、1つのタブ対TABが2個以上のジェットタブ20で構成されていてもよい。なお、ジェットタブ20の個数は、偶数個(例えば、4個)であることに留意されたい。この場合、1つの駆動部30が、その個数のジェットタブ20を駆動する。このことは、動力分割機構50に工夫を凝らすことで可能となる。例えば、複数の歯車を更に設け、これら複数の歯車を好適に組み合わせることが考えられる。ただし、1つのタブ対TABを構成するジェットタブ20の個数が増えるほど、駆動系の機構が複雑になりやすい。
【0103】
10.変形例2
駆動部30の個数を減らすために、複数のタブ対TAB(例えば、2個)が1つの駆動部30により駆動されてもよい。この場合も、変形例1と同様に、動力分割機構50に工夫を凝らすことで可能となる。ただし、1つの駆動部30により駆動されるタブ対TABの個数が増えるほど、駆動系の機構が複雑になりやすい。
【0104】
11.第4の実施の形態
第1の実施の形態に係る推力偏向装置1は、ミサイルに例示される飛しょう体に好適である。
図17は、第4の実施の形態に係る飛しょう体6の外観図である。飛しょう体6は、第1の実施の形態に係る推力偏向装置1と、複数の操舵翼61とを備える。飛しょう体6が推力偏向装置1を備えているので、飛しょう体6自体の小型化及び軽量化に有益である。無論、推力偏向装置1の代わりに、第2又は第3実施の形態に係る推力偏向装置1B、1Cを用いることができる。
【0105】
本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、本発明に種々の変更を加えることができる。矛盾が生じない範囲で、上述の実施の形態及び変形例の全てを好適に組み合わせることができる。