特許第6361477号(P6361477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361477
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】コネクタ用端子
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/03 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
   H01R13/03 Z
   H01R13/03 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-234519(P2014-234519)
(22)【出願日】2014年11月19日
(65)【公開番号】特開2016-100115(P2016-100115A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】夏目 貴史
(72)【発明者】
【氏名】古川 欣吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幹朗
【審査官】 高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−302866(JP,A)
【文献】 特開平11−274387(JP,A)
【文献】 特開2000−213530(JP,A)
【文献】 特開2012−054170(JP,A)
【文献】 特開平10−112403(JP,A)
【文献】 特開2006−19183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R13/00−13/08
H01R13/15−13/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属母材の表面にめっき膜を有する端子材料より構成されたコネクタ用端子であって、
上記金属母材は、90質量%以上のFeを含有するFe基合金からなり、
上記金属母材が露出してなる母材露出部と、端子外表面に上記めっき膜を露出させた状態で上記母材露出部の表面を覆う防錆油からなる塗膜とを有しており、
上記防錆油からなる塗膜は、上記金属母材に吸着する吸着層と、上記吸着層の上に配置される油層とを有していることを特徴とするコネクタ用端子。
【請求項2】
上記母材露出部は、上記端子材料が打ち抜かれてなる打ち抜き破面、および/または、上記端子材料が曲げられてなる曲げ部に存在していることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用端子。
【請求項3】
上記めっき膜は、Snめっき膜またはSn合金めっき膜を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のコネクタ用端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ用端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に用いられるコネクタにおいて、各種形状を有するコネクタ用端子が使用されている。コネクタ用端子は、一般に、黄銅等の銅合金の表面にSnめっき膜を有する端子材料より構成されていることが多い(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−185984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、コネクタ全体の軽量化、小型化および低コスト化のために、より高い剛性を有するとともに材料コストを低減できるコネクタ用端子が望まれている。そこで、材料強度が高く、材料コストの低いFeまたはFe基合金をコネクタ用端子の金属母材として用いることが考えられる。この場合、接続信頼性を向上させるべく、従来と同様に、FeまたはFe基合金の表面にもSnめっき膜等のめっき膜を形成することが有効である。
【0005】
上記めっき膜の存在により、コネクタ用端子の大部分において耐食性が維持可能である。しかしながら、FeまたはFe基合金は、黄銅等に比べると、耐食性がきわめて低い。そのため、この種のコネクタ用端子は、わずかな金属母材の露出によっても腐食が進行しやすいという問題がある。
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、金属母材がFeまたはFe基合金からなる場合であっても、耐食性を向上させることが可能なコネクタ用端子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、金属母材の表面にめっき膜を有する端子材料より構成されたコネクタ用端子であって、
上記金属母材は、90質量%以上のFeを含有するFe基合金からなり、
上記金属母材が露出してなる母材露出部と、端子外表面に上記めっき膜を露出させた状態で上記母材露出部の表面を覆う防錆油からなる塗膜とを有しており、
上記防錆油からなる塗膜は、上記金属母材に吸着する吸着層と、上記吸着層の上に配置される油層とを有していることを特徴とするコネクタ用端子にある。
【発明の効果】
【0008】
上記コネクタ用端子は、金属母材が上記Fe基合金からなっていても、金属母材が露出してなる母材露出部の表面が防錆油からなる塗膜により覆われている。そのため、上記コネクタ用端子は、塗膜により、耐食性の低い母材露出部と水分とが直接接触し難くなり、耐食性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1のコネクタ用端子の模式的な外観図である。
図2】実施例1のコネクタ用端子におけるII−II断面の一部を模式的に示す説明図である。
図3】実施例2のコネクタ用端子の模式的な外観図である。
図4】実施例2のコネクタ用端子の断面の一部を模式的に示す説明図である。
図5】実験例における、試料1の塩水噴霧試験の結果を示す写真であり、(a)は嵌合部側を真上方向から見た外観写真、(b)はバレル部側を真上方向から見た外観写真、(c)は嵌合部側を側面方向から見た外観写真、(d)はバレル部側を側面方向から見た外観写真である。
図6】実験例における、試料1Cの塩水噴霧試験の結果を示す写真であり、(a)は嵌合部側を真上方向から見た外観写真、(b)はバレル部側を真上方向から見た外観写真、(c)は嵌合部側を側面方向から見た外観写真、(d)はバレル部側を側面方向から見た外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記コネクタ用端子において、金属母材は、Fe基合金からなる。Fe基合金は、Feを主成分とする合金である。Fe基合金におけるFe含有量は、端子強度の向上、材料コストの低減などの観点から、90質量%以上とされる。Fe基合金は、Fe以外の合金元素として、例えば、C、Mn、Si、Mo、Al、P、Cu、Cr、Niなどの元素を1種または2種以上含有することができる。
【0011】
上記コネクタ用端子は、金属母材の表面の大部分がめっき膜により被覆されている。但し、上記コネクタ用端子は、金属母材の表面の一部が外部に露出してなる母材露出部を有している。
【0012】
上記コネクタ用端子において、母材露出部は、上記端子材料が打ち抜かれてなる打ち抜き破面、および/または、上記端子材料が曲げられてなるげ部に存在している構成とすることができる。
【0013】
打ち抜き破面は、めっき膜が被覆されていない。また、曲げ部は、曲げ部を形成するための曲げ加工前には金属母材がめっき膜により被覆されていたものの、曲げ加工時にめっき膜が割れ、金属母材が露出する場合がある。そのため、これらの部位が防錆油からなる塗膜により被覆されていない場合には、これらの部位から金属母材の腐食が進行しやすい。これに対し、上記コネクタ用端子は、これらの部位が防錆油からなる塗膜により被覆されているので、耐食性の向上が確実なものとなる。
【0014】
上記コネクタ用端子において、めっき膜は、Snめっき膜またはSn合金めっき膜を含む構成とすることができる。この場合には、接触抵抗の低減、耐食性の向上、接続信頼性の確保等のバランスに優れる。なお、めっき膜は、Snめっき膜またはSn合金めっき膜よりも金属母材側に、例えば、Niめっき膜またはNi合金めっき膜などを含むことができる。この場合には、めっき膜の密着性向上等に有利である。
【0015】
上記コネクタ用端子において、防錆油としては、具体的には、例えば、防錆調整剤、油膜調整剤、これらを溶解する基剤等から構成される防錆油などを使用することができる。防錆調整剤としては、例えば、金属スルホネート、エステル化合物、脂肪酸類などを例示することができる。油膜調整剤としては、例えば、ワックス、樹脂等を例示することができる。基剤としては、例えば、石油系鉱油などを例示することができる。
【0016】
上記コネクタ用端子において、防錆油からなる塗膜は、母材露出部の一部または全てを覆う構成とすることができる。耐食性向上の観点から、好ましくは、塗膜は、母材露出部の全てを覆っているとよい。また、上記コネクタ用端子において、防錆油からなる塗膜は、コネクタ用端子の電気特性等を阻害しない範囲であれば、母材露出部以外のめっき膜表面を覆っていてもよい。
【0017】
上記コネクタ用端子の端子形状は、特に限定されない。上記コネクタ用端子は、具体的には、例えば、タブ部を有するオス型端子、タブ部が電気的に接続される嵌合部を有するメス型端子、略L字状等の形状を呈する基板コネクタ用端子、中継端子等、各種の端子形状を呈することができる。
【0018】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例のコネクタ用端子について、図面を用いて説明する。
【0020】
(実施例1)
実施例1のコネクタ用端子について、図1および図2を用いて説明する。図1および図2に示されるように、コネクタ用端子1は、金属母材21の表面にめっき膜22を有する端子材料2より構成されている。
【0021】
本例では、具体的には、コネクタ用端子1は、図1に示されるように、メス型端子であり、自動車用ワイヤーハーネスが有するコネクタ(不図示)に用いられる。より具体的には、コネクタ用端子1は、角筒状の嵌合部11と、嵌合部11に連なるバレル部12とを有している。
【0022】
嵌合部11には、電気接続すべき相手方端子としてのオス型端子(不図示)が有するタブ部が挿入される。嵌合部11の内部には、嵌合部11の底板部が内側後方へ折り返されることにより、弾性接触片111が形成されている。弾性接触片111には、接点部(不図示)が設けられている。弾性接触片111は、嵌合部11に挿入されたタブ部を押圧するとともに、接点部を通じてタブ部と電気的に接続される。バレル部12は、ワイヤバレル部121と、インシュレーションバレル部122とを有している。ワイヤバレル部121は、絶縁電線(不図示)の端末部にて露出させた導体を圧着し、導体と電気的に接続される。インシュレーションバレル部122は、絶縁電線の絶縁体を圧着する。ワイヤバレル部121およびインシュレーションバレル部122は、コネクタ用端子1の長手方向に垂直な断面が略U字状を呈している。
【0023】
コネクタ用端子1において、端子材料2を構成する金属母材21は、Fe基合金からなる。本例では、金属母材21は、具体的には、90質量%以上のFeを含有するFe基合金からなる。また、本例では、端子材料2を構成するめっき膜22は、Snめっき膜であり、具体的には、金属母材21の表面に形成されたSnめっきがリフロー処理されて形成されたものである。
【0024】
ここで、コネクタ用端子1は、金属母材21が露出してなる母材露出部3を有している。本例では、コネクタ用端子1は、具体的には、プレスを用いて板状の端子材料2から上記端子形状を構成可能な素材片(ブランク)が打ち抜かれ、素材片が折り曲げ加工されることによって形成されている。したがって、コネクタ用端子1は、上記端子材料2が打ち抜かれて形成された打ち抜き破面31に母材露出部3が存在している。また、コネクタ用端子1は、上記端子材料2が曲げ加工されて形成された曲げ部32を有している。曲げ部32は、曲げ加工時にめっき膜22が割れて形成された割れ部分321を含みうる。したがって、本例のコネクタ用端子1は、曲げ部32にも母材露出部3が存在しうる。
【0025】
コネクタ用端子1は、母材露出部3の表面を覆う防錆油からなる塗膜4を有している。本例では、コネクタ用端子1の外表面に露出している打ち抜き破面31と、90°以上の折り曲げによる曲げ加工が施された曲げ部32とが、上記塗膜4によって覆われている。防錆油は、具体的には、防錆調整剤と、油膜調整剤と、これらを溶解する基剤とを含んで構成されている。そのため、防錆油からなる塗膜4は、金属母材21に吸着する吸着層(不図示)と、吸着層の上に配置される油層(不図示)とを有している。
【0026】
次に、本例のコネクタ用端子の作用効果について説明する。
【0027】
本例のコネクタ用端子1は、金属母材21がFe基合金からなっていても、金属母材21が露出してなる母材露出部3の表面が防錆油からなる塗膜4により覆われている。そのため、本例のコネクタ用端子1は、塗膜4により、耐食性の低い母材露出部3と水分とが直接接触し難くなり、耐食性を向上させることが可能となる。
【0028】
また、本例のコネクタ用端子1は、打ち抜き破面31および曲げ部32に存在する母材露出部3に防錆油が塗布されているので、耐食性の向上が確実なものとなる。
【0029】
また、本例のコネクタ用端子1は、金属母材21を構成するFe基合金が90質量%以上のFeを含有している。そのため、本例のコネクタ用端子1は、端子強度の向上、材料コストの低減に寄与することができる。
【0030】
また、本例のコネクタ用端子1は、めっき膜22がSnめっき膜より構成されている。そのため、本例のコネクタ用端子1は、接触抵抗の低減、耐食性の向上、接続信頼性の確保等のバランスに優れる。
【0031】
(実施例2)
実施例2のコネクタ用端子について、図3および図4を用いて説明する。図3および図4に示されるように、本例のコネクタ用端子1は、ピン端子であり、略「L字状」の端子形状を呈している。コネクタ用端子1は、具体的には、PCBに適用される基板コネクタ(不図示)に用いられる。
【0032】
本例のコネクタ用端子1は、より具体的には、線状の端子材料2を所定の長さに切断し、この切断片の途中部位を90°折り曲げる曲げ加工を施して曲げ部32を形成する工程を経て作製されている。他にも、コネクタ用端子1は、板状の端子材料2を打ち抜いて打ち抜き片を形成し、この打ち抜き片の途中部位を90°折り曲げる曲げ加工を施して曲げ部32を形成する工程を経て作製することもできる。
【0033】
コネクタ用端子1において、曲げ部32は、曲げ加工時にめっき膜22が割れて形成された割れ部分321を含んでいる。したがって、本例のコネクタ用端子1は、曲げ部32に母材露出部3が存在している。そしてこの部分が防錆油からなる塗膜4により覆われている。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0034】
本例のコネクタ用端子1も、金属母材21がFe基合金からなっているものの、上記塗膜4により、耐食性の低い母材露出部3と水分とが直接接触し難くなり、耐食性を向上させることができる。その他の作用効果は、実施例1と同様である。
【0035】
<実験例>
以下、実験例を用いてより具体的に説明する。
【0036】
質量%で、C:0.4%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる板状の金属母材(板厚0.3mm)の表面にリフローSnめっきからなるSnめっき膜(厚み1.2μm)が形成された板状の端子材料を準備した。
【0037】
次いで、プレスを用いて板状の端子材料から0.64型のメス型端子形状を構成可能な素材片を打ち抜き、素材片を折り曲げ加工することにより、0.64型のメス型端子を得た。なお、得られたメス型端子は、打ち抜き破面に金属母材が露出している。また、得られたメス型端子は、曲げ部の一部においてめっき膜が割れ、割れ部分に金属母材が露出している。
【0038】
上記メス型端子の外表面における打ち抜き破面および曲げ部の母材露出部に、防錆油を塗布することにより塗膜を形成し、試料1を得た。また、全く防錆油を塗布しなかった以外は上記と同様にして、試料1Cを得た。なお、防錆油には、キレスト社製、P−18Cを用いた。
【0039】
次いで、各試料に、5質量%食塩水(液温25℃)を96時間噴霧した後、腐食状態を観察した。その結果を、図5および図6に示す。
【0040】
図6に示されるように、試料1Cは、打ち抜き破面に存在する母材露出部および曲げ部に存在する母材露出部の表面が防錆油からなる塗膜により覆われていない。そのため、試料1Cは、母材露出部が腐食しやすく、錆が端子全体に広がっていることがわかる。
【0041】
これに対し、図5に示されるように、試料1は、打ち抜き破面に存在する母材露出部および曲げ部に存在する母材露出部の表面が防錆油からなる塗膜により覆われている。そのため、試料1は、母材露出部が腐食せず、耐食性が向上されていることが確認された。
【0042】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 コネクタ用端子
2 端子材料
21 金属母材
22 めっき膜
3 母材露出部
4 塗膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6