特許第6361504号(P6361504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361504
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】装飾成形用フィルムおよび装飾成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/40 20060101AFI20180712BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   B32B27/40
   B32B27/00 E
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-530838(P2014-530838)
(86)(22)【出願日】2014年6月3日
(86)【国際出願番号】JP2014064706
(87)【国際公開番号】WO2014196516
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2017年3月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-117502(P2013-117502)
(32)【優先日】2013年6月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】蓑毛 克弘
(72)【発明者】
【氏名】松井 洋輔
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−31561(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/118739(WO,A1)
【文献】 特開2010−260942(JP,A)
【文献】 特開2002−226775(JP,A)
【文献】 特開2007−301982(JP,A)
【文献】 特開2010−184493(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136042(WO,A1)
【文献】 特開2009−23144(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099829(WO,A1)
【文献】 特開2013−151666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29C 51/00−51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に保護層が配された積層構造を有する装飾成形用フィルムであって、前記基材フィルムは、面内平均屈折率が異なる樹脂PAと樹脂PBであって、樹脂PAの面内平均屈折率は樹脂PBの面内平均屈折率より相対的に高いものを用い、樹脂PAを含む層(PA層)と樹脂PBを含む層(PB層)とを交互にそれぞれ50層以上積層した構造を有し、1層の厚みが0.03μm以上0.5μm以下であるフィルムであり、前記保護層が少なくとも活性水素成分(A)と有機イソシアネート成分(B)とから形成され、脂環式炭化水素基を含有するポリカーボネート骨格を有するポリウレタン樹脂(U)を含有してなり、少なくとも条件(1)および条件(2)のいずれかを満たす装飾成形用フィルム。
条件(1):前記ポリウレタン樹脂(U)が分子内にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する。
条件(2):前記ポリウレタン樹脂(U)がカルボキシル基および/またはその塩を含有し、前記保護層がさらにグリシジルエーテル基ならびにアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する化合物(X)を含有する。
【請求項2】
PA層を構成する樹脂PAの面内平均屈折率とPB層を構成する樹脂PBの面内平均屈折率の差が0.01以上である請求項1に記載の装飾成形用フィルム。
【請求項3】
波長帯域400〜800nmのいずれかの波長における基材フィルムの絶対反射率が30%以上である請求項1または2に記載の装飾成形用フィルム。
【請求項4】
樹脂PAと樹脂PBのガラス転移温度の差が20℃以下である請求項1〜3のいずれかに記載の装飾成形用フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の装飾成形用フィルムを用いた装飾成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材や携帯電話、電機製品、遊技機部品、自動車部品などで使用される被装飾体に対してフィルム装飾を施す際に用いる装飾成形用フィルムおよびそれを用いた装飾成形体に関し、深絞りなどの複雑な形状の被装飾体に対しても形状の追従性が良好で、かつ、表面に傷のつきにくい、装飾成形用フィルムおよびそれを用いた装飾成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建材や携帯電話、電機製品、遊技機部品、自動車部品などの被装飾体において、意匠性を高めるために木目調、布目調、金属調など、さまざまに加飾したものが用いられているが、近年、樹脂を射出成形したものにメッキを施し、金属調の外観を有する部材が多数用いられている。しかしながら、環境問題への関心が高まるにつれて、樹脂にメッキをする際の薬液漕中のメッキ液が環境に及ぼす影響が問題視されつつあり、特にメッキ液の漏出防止への取組みが必要であり、さらにはメッキ液そのものを規制する動きも出つつある。
【0003】
そのような中、メッキに代わる金属調成形部材として、ポリエステルフィルムに金属蒸着などを施し作製した装飾成形用フィルムを被装飾体に貼り付け成形加工する、フィルム装飾法の導入が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
例えば特許文献1のように、高融点であるポリエチレンテレフタレートを使用した易成形性フィルムの提案がなされている。
【0005】
また、例えば特許文献2、3のように、二軸配向フィルムであっても、共重合ポリエステルを用い、融点の比較的低いフィルムを用いることで成形部材として用いる提案がなされている。
【0006】
また、例えば特許文献4、5のように、屈折率の異なる樹脂層を交互に多層に積層することより、選択的に波長を反射するポリエステルフィルム等が存在する。この選択的に特定の波長を反射するフィルムは、層数と反射波長によって金属調の外観を有し、また非常に柔軟なため成形性をも有している特徴がある。
【0007】
装飾成形用フィルムとして、例えば特許文献6、7のように、アクリル樹脂をメインとする保護層を持つ成形用のフィルムが提案されている。
【0008】
また、特許文献8のように、ウレタン樹脂をメインとし、熱硬化のみで硬化させる保護層を持つ成形用のフィルムが提案されている。
【特許文献1】特開2001−347565号公報
【特許文献2】特開2005−97528号公報
【特許文献3】特開2004−131546号公報
【特許文献4】特開2005−059332号公報
【特許文献5】特開2004−249587号公報
【特許文献6】特開2004−299223号公報
【特許文献7】特開2003−212938号公報
【特許文献8】特開2010−260942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3で提案されているフィルムでは変形時の応力が高すぎるため、目的とする部材にまで熱成形で成形加工することが困難である。
【0010】
一方、フィルム装飾法に用いられる装飾成形用フィルムにおいて、被装飾体の最表面を覆う層である保護層は、傷の付きにくさ(耐引っかき傷性)や耐候性を有する必要があり、被装飾体の装飾において、重要な役割を果たす。被装飾体フィルム装飾法において被装飾体のサイズが大型になった場合には、一度に被装飾体の頂部から底部にまで到る全領域を残さずカバーするように装飾できることが必要となり、形状が複雑になった場合には、装飾成形用フィルムが凹凸形状に沿って変形し、全面が形状に追従することが必要となる。すなわち、装飾成形用フィルムの保護層には、耐引っかき傷性と装飾成形用フィルムとしての被装飾体への追従性が必要であり、これらの特性への要求が高まってきている。また、生産性が高いこと、すなわち、少ない工程で成形が完了することも求められている。
【0011】
特許文献4,5で提案されているフィルムでは、フィルムを装飾成形体に適用した場合、フィルムの表面硬度が低いため、装飾成形体の耐引っかき傷性が劣るという課題があった。
【0012】
特許文献6,7で提案されているフィルムでは保護層を硬化させる為に、装飾成形用フィルムを被装飾体に貼り付けた後、さらにUVランプなどによるエネルギー線照射という工程が必要になり、生産性が低くなるという問題があった。
【0013】
特許文献8で提案されているフィルムでは保護層に必要な耐引っかき傷性と被装飾体への追従性が両立しないという問題があった。
【0014】
本発明は、このような従来技術の背景に鑑み、フィルム装飾法に適した良好な延伸性があり、耐引っかき傷性が良好な保護層を有する装飾成形用フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の装飾成形用フィルムは、上記課題を解決するために、次の構成を有する。すなわち、
基材フィルムの少なくとも片面に保護層が配された積層構造を有する装飾成形用フィルムであって、前記基材フィルムは、面内平均屈折率が異なる樹脂PAと樹脂PBであって、樹脂PAの面内平均屈折率は樹脂PBの面内平均屈折率より相対的に高いものを用い、樹脂PAを含む層(PA層)と樹脂PBを含む層(PB層)とを交互にそれぞれ50層以上積層した構造を有し、1層の厚みが0.03μm以上0.5μm以下であるフィルムであり、前記保護層が少なくとも活性水素成分(A)と有機イソシアネート成分(B)とから形成され、脂環式炭化水素基を含有するポリカーボネート骨格を有するポリウレタン樹脂(U)を含有してなり、少なくとも条件(1)および条件(2)のいずれかを満たす装飾成形用フィルム、である。
【0016】
条件(1):前記ポリウレタン樹脂(U)が分子内にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する。
【0017】
条件(2):前記ポリウレタン樹脂(U)がカルボキシル基および/またはその塩を含有し、前記保護層がさらにグリシジルエーテル基ならびにアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する化合物(X)を含有する。
【0018】
また、本発明の装飾成形体は、上記課題を解決するために、次の構成を有する。すなわち、
上記装飾成形用フィルムを用いた装飾成形体、である。
【0019】
なお、本発明の装飾成形用フィルムは、PA層を構成する樹脂PAの面内平均屈折率とPB層を構成する樹脂PBの面内平均屈折率の差が0.01以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の装飾成形用フィルムは、波長帯域400〜800nmのいずれかの波長における基材フィルムの絶対反射率が30%以上であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の装飾成形用フィルムは、樹脂PAと樹脂PBのガラス転移温度の差が20℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の装飾成形用フィルムは、被装飾体への追従性に優れ、さらに成形時の熱により保護層の硬化が十分に進行し完了するものであるため、本発明の装飾成形用フィルムを用いることにより、生産性が高く、かつ被装飾体への追従性や耐引っかき傷性の良好な装飾成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の装飾成形用フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に保護層が配された積層構造を有する装飾成形用フィルムであって、前記基材フィルムは、面内平均屈折率が異なる樹脂PAと樹脂PBであって、樹脂PAの面内平均屈折率は樹脂PBの面内平均屈折率より相対的に高いものを用い、樹脂PAを含む層(PA層)と樹脂PBを含む層(PB層)とを交互にそれぞれ50層以上積層した構造を有し、1層の厚みが0.03μm以上0.5μm以下であるフィルムであり、前記保護層が少なくとも活性水素成分(A)と有機イソシアネート成分(B)とから形成され、脂環式炭化水素基を含有するポリカーボネート骨格を有するポリウレタン樹脂(U)を含有してなり、少なくとも条件(1)[ポリウレタン樹脂(U)が分子内にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する。]および条件(2)[前記保護層がグリシジルエーテル基ならびにアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する化合物(X)を含有し、ポリウレタン樹脂(U)がカルボキシル基および/またはその塩を含有する。]のいずれかを満たすものである。
【0024】
本発明の装飾成形用フィルムは、以下の(i)に示すように、基材フィルムが被装飾体の表面に当たるように積層して熱成形にて被装飾体に貼り付けることにより、被装飾体に装飾を施すことができる。(被装飾体は、本発明の装飾成形用フィルムの構成要素ではないが、本発明の装飾成形用フィルムの適用態様を明確に示すために、括弧内に記している。)
(i)保護層/基材フィルム(/被装飾体)
このような本発明の装飾成形用フィルムを用いて被装飾体を装飾することにより、溶剤レス塗装やメッキ代替などが達成できる。その結果、従来多段階の工程が必要であった塗装による装飾方法と比べて、装飾層を形成する工程数を減らすことが可能となり、装飾層を有する成形品の生産効率が向上し、低コスト化が可能となる。また、揮発性有機化合物やCOなど環境負荷物質排出量を低下させることができる。更には、かかる装飾成形用フィルムは、少なくとも前記条件(1)および条件(2)のいずれかを満たす保護層を有しているため、成形時の熱により保護層の硬化が進行し、別途エネルギー線照射の工程を必要としないことから生産性が高く、また、耐引っかき傷性が良好で、かつ被装飾体への追従性が良い。このような装飾成形用フィルムを用いることによって、外観の良好な装飾成形体を得ることが可能となる。
[基材フィルム]
本発明における基材フィルムは、樹脂PAを含む層(PA層)と樹脂PBを含む層(PB層)を交互にそれぞれ50層以上積層した構造を含むものであり、PA層、PB層を形成する樹脂としては、PA層の面内平均屈折率はPB層の面内平均屈折率より相対的に高い樹脂であれば、それぞれ熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよく、ホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。より好ましくは、成形性が良好であるため、熱可塑性樹脂である。面内平均屈折率については後述する。
【0025】
また、各樹脂中には、各種添加剤、例えば、顔料、染料、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
【0026】
PA層、PB層を構成する樹脂熱可塑性樹脂(樹脂PA、樹脂PB)の例としては、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンテレフタレート・ポリプロピレンテレフタレート・ポリブチルサクシネート・ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂、などを用いることができる。この中で、表面硬度に優れる樹脂はアクリル樹脂、メタクリル樹脂、アセタール樹脂であるが、強度・耐熱性・透明性・成形性の観点から、特にポリエステルであることがより好ましい。
【0027】
本発明において樹脂PA、樹脂PBとして好ましく用いることのできるポリエステルは、ジカルボン酸成分骨格とジオール成分骨格との重縮合体であるホモポリエステルや共重合ポリエステルのことをいう。ここで、ホモポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンジフェニルレートなどが代表的なものである。特にポリエチレンテレフタレートは、安価であるため、非常に多岐にわたる用途に用いることができ好ましい。
【0028】
本発明において樹脂PA、樹脂PBとして好ましく用いることのできる共重合ポリエステルは、次に挙げるジカルボン酸骨格を有する成分とジオール骨格を有する成分とより選ばれる少なくとも3つ以上の成分からなる重縮合体のことと定義される。
【0029】
ジカルボン酸骨格を有する成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。グリコール骨格を有する成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどが挙げられる。
【0030】
特に、装飾成形用フィルムとして用いる場合、基材フィルムは高伸度であることが好ましい。具体的には150℃における弾性率が80MPa以上380MPa以下であることが好ましく、破断伸度が120%以上400%以下であることが好ましい。このような特徴を持つことにより、求める形状への成形加工が容易となる。
【0031】
かかる成形性の観点から、樹脂PA、樹脂PBとして好ましく用いられるいずれのポリエステル樹脂も、構成するグリコール残基成分の50〜90モル%がエチレングリコール残基、10〜30モル%が1,4−ブタンジオール残基、0.1〜10モル%がその他のグリコール残基成分であることが好ましい。1,4−ブタンジオール残基の含有量は15〜25モル%であればより好ましく、また、その他のグリコール残基成分は1〜5モル%であればより好ましい。
【0032】
ここで、各グリコール残基成分は、ポリエステルの中で共重合されて存在させてもよいが、共重合を行なうと融点が低下し、耐熱性が劣化するなど好ましくない場合があるので、それぞれのグリコール残基成分を単独で有する数種のポリエステル樹脂をブレンドしてフィルム中に含有させてもよいし、ブレンドと共重合を併用してもよい。また、その他のグリコール残基成分としては特に限定されるものではないが、ジエチレングリコール残基、1,4−シクロへキサンジメタノール残基、ネオペンチルグリコール残基、1,3−プロパンジオール残基などを好ましく挙げることができる。また、その他のグリコール残基成分として複数のグリコール残基成分を含んでもよい。
【0033】
さらに、成形性の観点から、基材を形成しているポリエステルフィルムは、フィルムを構成するポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸残基成分の95〜99モル%がテレフタル酸残基であり、1〜5モル%がその他のジカルボン酸残基成分であることが好ましい。ここでその他のジカルボン酸残基成分が1〜3モル%であればより好ましい。なお、ジカルボン酸残基成分はジカルボン酸を出発成分としても、ジカルボン酸エステル誘導体を出発成分としてもよい。
【0034】
ここで、テレフタル酸残基とその他のジカルボン酸残基はポリエステル中に共重合されて存在してもよいが、共重合を行なうと融点低下が起こることから、耐熱性の観点からは別々のポリエステル樹脂中に存在し、そのポリエステル樹脂をブレンドすることでフィルム中に含有させる方法が好ましい。また、共重合とブレンドを併用してもよい。その他のジカルボン酸残基成分としては特に限定されるものではないが、2,6−ナフタレンジカルボン酸残基、イソフタル酸残基、5−ナトリウムスルホイソフタル酸残基、アジピン酸残基、セバシン酸残基、ダイマー酸残基、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基などを好ましく挙げることができる。
【0035】
また、PA層とPB層については、PA層を構成する樹脂PAの面内平均屈折率はPB層を構成する樹脂PBの面内平均屈折率より相対的に高くするものであり、PA層を構成する樹脂PAの面内平均屈折率とPB層を構成する樹脂PBの面内平均屈折率の差が、0.01以上であることが好ましい。より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.05以上である。ここでいう面内屈折率とは、基材フィルム面と平行な方向に対する屈折率を指し、公知の屈折率計にて測定することができ、面内平均屈折率とは、フィルム面に平行な面内の1点を中心として45°間隔で4本の線を引き各線の方向に測定した面内屈折率を平均したものをいう
さらに、PA層を構成する樹脂PAの面内平均屈折率と該樹脂PAの厚み方向屈折率の差が0.01以上であり、PB層を構成する樹脂PBの面内平均屈折率と該樹脂PBの厚み方向屈折率差が0.01以下であると、入射角が大きくなっても、反射帯域の反射率低下が起きにくいため、より好ましい。ここでいう厚み方向屈折率とは、基材フィルム面と垂直方向に対する屈折率を指し、JIS K 7105(1981)に従い、公知の屈折率計にて測定することができる。
【0036】
また、PA層およびPB層の1層の厚みは0.03μm以上0.5μm以下とするものであり、0.05μm以上0.5μm以下であれば好ましく、0.1μm以上0.5μm以下であればより好ましい。このような構成を持つことにより、干渉反射によりフィルムは優れた光沢感を示すようになる。
【0037】
樹脂PAと樹脂PBの好ましい組み合わせとしては、樹脂PAと樹脂PBのSP値の差の絶対値が、1.0以下であることが好ましい。ここでいう、SP値とはFedorsの計算式を用いて求められた溶解度パラメータを意味する。上記溶解度パラメータが大きいほど樹脂の極性が高いことになる。
【0038】
SP値の差の絶対値が1.0以下であると層間剥離が生じにくくなるため好ましい。ここで、樹脂PAと樹脂PBは同一の基本骨格を含む樹脂であることが好ましい。ここで基本骨格とは、樹脂を構成する繰り返し単位のことであり、例えば、一方の樹脂がポリエチレンテレフタレートの場合は、エチレンテレフタレートが基本骨格である。また別の例としては、一方の樹脂がポリエチレンの場合、エチレンが基本骨格である。樹脂PAと樹脂PBが同一の基本骨格を含む樹脂であると、さらに層間での剥離が生じにくくなるため好ましい。
【0039】
樹脂PAと樹脂PBの好ましい組み合わせとしては、樹脂PAと樹脂PBのガラス転移温度の差が20℃以下であることが好ましい。より好ましくは10℃以下であり、さらに好ましくは5℃以下である。また、下限値としては0℃(樹脂PAと樹脂PBのガラス転移温度の差がないこと)が好ましい。
【0040】
樹脂PAと樹脂PBのガラス転移温度の差を上記好ましい範囲とすると、積層フィルムを製膜する際の厚み均一性が良好で、色むらなどの外観不良が起きにくい。また、装飾成形用フィルムを成形する際にも、過延伸が発生しにくい。ここでいうガラス転移温度とは、比熱容量変化を伴う階段状吸熱ピークの中点の温度のことであり、JIS K 7122(1987)に従い、公知の示差熱量分析(DSC)にて算出することができる。
【0041】
また、樹脂PAがポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートであり、樹脂PBがスピログリコールまたはシクロヘキサンジメタノールを含んでなるポリエステルであることがより好ましい。スピログリコールを含んでなるポリエステルとは、スピログリコールを共重合したコポリエステル、またはホモポリエステル、またはそれらをブレンドしたポリエステルのことを言う。シクロヘキサンジメタノールを含んでなるポリエステルとは、シクロヘキサンジメタノールを共重合したコポリエステル、またはホモポリエステル、またはそれらをブレンドしたポリエステルのことを言う。スピログリコールまたはシクロヘキサンジメタノールを含んでなるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートとのガラス転移温度の差が小さいため、成形時に過延伸になりにくく、かつ層間剥離も発生しにくいため好ましい。
【0042】
樹脂PAがポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートであり、樹脂PBがスピログリコールを含んでなるポリエステルである場合に、より好ましくは、樹脂PBがスピログリコールおよびシクロヘキサンジカルボン酸を含んでなるポリエステルであることが好ましい。樹脂PBがスピログリコールおよびシクロヘキサンジカルボン酸を含んでなるポリエステルとは、スピログリコールおよびシクロヘキサンジカルボン酸(またはシクロヘキサンジカルボン酸のエステル誘導体)を共重合したポリエステル、またホモポリエステル、またはこれをブレンドしたポリエステルのことを言う。樹脂PBがスピログリコールおよびシクロヘキサンジカルボン酸を含んでなるポリエステルであると、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートとの面内屈折率差が大きくなるため、高い反射率が得られやすくなる。また、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートとのガラス転移温度の差が小さいため、成形時に過延伸になりにくく、かつ層間剥離もしにくい。
【0043】
樹脂PAがポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートであり、樹脂PBがシクロヘキサンジメタノールを含んでなるポリエステルである場合に、より好ましくは、樹脂PBがシクロヘキサンジメタノールの共重合量が15モル%以上60モル%以下であるエチレンテレフタレート重縮合体である。このようにすることにより、高い反射性能を有しながら、特に加熱や経時による光学的特性の変化が小さく、層間での剥離も生じにくくなる。シクロヘキサンジメタノールの共重合量が15モル%以上60モル%以下であるエチレンテレフタレート重縮合体は、ポリエチレンテレフタレートと非常に強く接着する。また、そのシクロヘキサンジメタノール基は幾何異性体としてシス体あるいはトランス体があり、また配座異性体としてイス型あるいはボート型もあるので、ポリエチレンテレフタレートと共延伸しても配向結晶化しにくく、高反射率で、熱履歴による光学特性の変化もさらに少なく、製膜時のやぶれも生じにくいものである。
【0044】
樹脂PAを含む層(PA層)と樹脂PBを含む層(PB層)を交互に積層した構造を有するとは、PA層とPB層を厚み方向に交互に積層した構造を有している部分が存在することと定義される。すなわち、本発明のフィルム中のPA層とPB層の厚み方向における配置の序列がランダムな状態ではないことが好ましく、PA層とPB層以外の第3の層以上についてはその配置の序列については特に限定されるものではない。また、PA層、PB層、樹脂PCを含むPC層を有する場合には、PA層をA、PB層をB、PC層をCと略して表記すると、A(BCA)、A(BCBA)、A(BABCBA)などの規則的順列で積層されることがより好ましい。ここでnは繰り返しの単位数であり、例えばA(BCA)においてn=3の場合、厚み方向にABCABCABCAの順列で積層されているものを表す。
【0045】
また、基材フィルムは樹脂PAを含む層(PA層)と樹脂PBを含む層(PB層)を交互にそれぞれ50層以上含んでおり、200層以上含んでいることが好ましい。PA層とPB層の総積層数が600層以上であるとより好ましい。PA層とPB層をそれぞれ50層以上積層した構造を含まないと、十分な反射率が得られなくなり、輝度の低い外観となる場合がある。また、樹脂PAを含む層(PA層)と樹脂PBを含む層(PB層)が交互にそれぞれ200層以上含まれていると、波長帯域400nm〜800nmの絶対反射率を30%以上とすることが容易となる。また、PA層とPB層の総積層数が600層以上であると、波長帯域400nm〜800nmの絶対反射率を60%以上とすることが容易となり、非常に輝度の高い金属調の外観を有することが容易となる。また、積層数の上限値としては特に限定するものではないが、装置の大型化や層数が多くなりすぎることによる積層精度の低下に伴う波長選択性の低下を考慮すると、1,500層以下であることが好ましい。
【0046】
本発明において用いられる、樹脂PAを含む層(PA層)と樹脂PBを含む層(PB層)を交互にそれぞれ50層以上積層した基材フィルムは、波長帯域400〜800nmのいずれかの波長における絶対反射率が30%以上であることが好ましい。波長帯域400nm〜800nmのいずれかの波長における絶対反射率が30%以上であると、輝度が高く、高級感のある金属調またはハーフミラー調のフィルムとすることが可能となる。より好ましくは、波長帯域400nm〜1,000nmの全域における絶対反射率が30%以上である。この場合、成形後も金属調を維持し、視野角によっても色の変化がほとんど起きないものとなるため好ましい。これは、可視光より高波長側(700nm以上)も絶対反射率が30%以上であるためで、たとえ延伸によってフィルム厚みが薄くなり、視野角によって反射帯域が低波長側にシフトしても、可視光領域の絶対反射率は30%以上を維持できるためである。より好ましくは、波長帯域400nm〜1,000nmの全域における絶対反射率が40%以上である。さらに好ましくは、波長帯域400nm〜1,000nmの全域における絶対反射率が60%以上である。絶対反射率が上がるほど、より高い輝度の金属調とすることが可能となる。また、波長帯域400nm〜1,200nmの絶対反射率が30%以上であるのもより好ましい。この場合、より高い絞り比で成形しても、色づきなどが起こりにくく、金属調を維持することができる。ここでいう絶対反射率とは、入射角5°における絶対反射率であり、公知の分光光度計にて測定することができる。
【0047】
基材フィルムの厚みは、破断強度や形状保持性の点で、12μm以上500μm以下であることが好ましい。より好ましくは25μm以上300μm以下あり、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。
【0048】
基材フィルムの厚みの測定は、JIS C 2151(2006)に準じてマイクロメータにて測定して、算出することができる。また、既に基材フィルムに保護層を積層した状態においては、ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルを、微分干渉顕微鏡やレーザー顕微鏡、電子顕微鏡などを用いて観察することにより測定することができる。保護層との境界が不鮮明な場合は、コントラストを高く得るために、公知のRuOやOsOなどを使用した染色技術を用いてもよい。なお、基材フィルムの内部のPA層、PB層の層構成については、前記の基材フィルムに保護層を積層した状態と同様の方法(この場合において、「保護層との境界」は、「PA層、PB層等の境界」と読み替えるものとする)で観察することにより求めることができる。
【0049】
本発明で用いられる基材フィルムは、例えば、コロナ放電処理、低温プラズマ処理、グロー放電処理、火炎処理、エッチング処理、粗面化処理などの表面処理を施したものでもよく、易滑層、帯電防止層、耐摩耗性層、反射防止層、色補正層、紫外線吸収層、印刷層、透明導電層、ガスバリア層、ホログラム層、剥離層、エンボス層、粘着層、接着層などの機能性層を形成していてもよい。
[保護層]
本発明における保護層は、少なくとも活性水素成分(A)と有機イソシアネート成分(B)とから形成され、脂環式炭化水素基を含有するポリカーボネート骨格を有するポリウレタン樹脂(U)を含有する。ポリウレタン樹脂(U)が脂環式炭化水素基を含有するポリカーボネート骨格を有することにより、結晶性が高く、耐引っかき傷性や意匠特性が得られ易く、かつ被装飾体への追従性を確保することができる。
【0050】
このようなポリウレタン樹脂(U)は、脂環式炭化水素基を含有するポリカーボネートポリオール(a1)を含有する活性水素成分(A)および有機イソシアネート成分(B)から形成されるポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0051】
脂環式炭化水素基を含有するポリカーボネートポリオール(a1)としては、炭素数6〜20の脂環式多価(2〜3価またはそれ以上)アルコールまたはこれらと炭素数2〜20の非環式多価(2〜3価またはそれ以上)アルコール(好ましくは炭素数6〜10、さらに好ましくは炭素数6〜9のアルキレン基を含有するアルキレンジオール)の1種または2種以上の混合物を、低分子カーボネート化合物(例えば、アルキル基の炭素数1〜6のジアルキルカーボネート、炭素数2〜6のアルキレン基を含有するアルキレンカーボネートおよび炭素数6〜9のアリール基を含有するジアリールカーボネート等)と脱アルコール反応させながら縮合させることによって製造されるポリカーボネートポリオール等が挙げられる。なお、以下において、「脂環式炭化水素基を含有するポリカーボネートポリオール(a1)」等の化合物名に記号を付したものを単に「(a1)」等の記号のみで表す場合がある。
【0052】
炭素数6〜20の脂環式多価(2〜3価またはそれ以上)アルコールとしては、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−または1,4−シクロヘキサンジメタノール水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、スピログリコールおよびジヒドロキシメチルトリシクロデカン等が挙げられる。
【0053】
炭素数2〜20の非環式多価(2〜3価またはそれ以上)アルコールとしては、エチレングリコール、1,2−または1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−、1,3−、2,3−または1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール、1,2−、1,4−、1,5−または2,4−ペンタンジオール、2−または3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−または3−メチル−4,5−ペンタンジオール、2,3−ジメチルトリメチレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,4−、1,5−、1,6−または2,5−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−または3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、2−、3−または4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−、3−または4−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,12−ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、炭素数6〜12のトリアルカノールアミン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、トリグリセリン、ジペンタエリスリトール、ソルビトールおよびマンニトール等が挙げられる。
【0054】
脂環式炭化水素基を含有するポリカーボネートポリオール(a1)の数平均分子量(以下、Mnと略記)の範囲は、得られる保護層の柔軟性の観点から、好ましくは500〜5,000、より好ましくは750〜3,000、さらに好ましくは1,000〜2,000である。なお、Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、テトラヒドロフランを溶媒として、ポリスチレンを標準試料として測定することができる。
【0055】
ポリウレタン樹脂(U)中における脂環式炭化水素基を含有するポリカーボネートポリオール(a1)に由来の骨格の含有率は、保護層の耐引っかき傷性や意匠特性の観点から、活性水素成分(A)と有機イソシアネート成分(B)の合計質量に対する(a1)が含有する環状炭化水素基の質量割合が1〜30質量%となる量であることが好ましく、さらに5〜20質量%、特に10〜15質量%となる量であることが好ましい。
【0056】
脂環式炭化水素基を含有するポリカーボネートポリオール(a1)以外の活性水素成分(A)としては、従来からポリウレタンの製造に使用されているものが使用できる。例えば、(a1)以外のMnが500〜5,000の高分子ポリオール(a2)、カルボキシル基含有ポリオールおよびその塩(a3)、鎖伸長剤(a4)並びに反応停止剤(a5)等を用いることができる。
【0057】
(a1)以外のMnが500〜5,000の高分子ポリオール(a2)としては、従来からポリウレタンの製造に使用されている高分子ポリオールが使用できるが、得られる保護層の耐候性および耐水性の観点から好ましいのは脂肪族ポリカーボネートポリオール(a21)である。(a21)としては、炭素数4〜10の直鎖のジオール(1,4−ブタンジオール、1,6ーヘキサンジオールおよび1,9−ノナンジオール等)、炭素数4〜10の分岐のジオール(2−メチルブタンジオール、2−エチルブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチルペンタンジオールおよび3−メチルペンタンジオール等)およびこられの1種または2種以上の混合物を、低分子カーボネート化合物(例えば、アルキル基の炭素数1〜6のジアルキルカーボネート、炭素数2〜6のアルキレン基を含有するアルキレンカーボネートおよび炭素数6〜9のアリール基を含有するジアリールカーボネート等)と脱アルコール反応させながら縮合させることによって製造されるポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0058】
カルボキシル基含有ポリオールおよびその塩(a3)としては、ポリウレタン樹脂(U)を水分散体として用いる場合に、その分散安定性の優れたものが特に好ましく用いられる。(a3)としては、炭素数6〜24のジアルキロールアルカン酸[例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸(以下、DMPAと略記)、2,2−ジメチロールブタン酸、2 ,2−ジメチロールヘプタン酸および2,2−ジメチロールオクタン酸]等およびこれらの塩が挙げられる。かかる塩の種類としては、例えばアンモニウム塩、アミン塩[炭素数1〜12の1級アミン(1級モノアミン、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンおよびオクチルアミン)塩、2級モノアミン(ジメチルアミン、ジエチルアミンおよびジブチルミン)塩および3級モノアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンおよびN,N−ジメチルエタノールアミン等の脂肪族3級モノアミン)塩等]が挙げられ、これらの2種以上の併用も可能である。
【0059】
上記塩のうち、得られる保護層の耐水性およびウレタン樹脂の水分散体の安定性の観点から好ましいのは、上記塩を構成する塩基性化合物の常圧における沸点が−40℃〜150℃のものであり、具体的には、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩、N,N−ジメチルエタノールアミン塩等である。
【0060】
ポリウレタン樹脂(U)中におけるカルボキシル基含有ポリオールおよびその塩(a3)に由来の骨格の含有率は、分散安定性および得られる保護層の耐水性の観点から、活性水素成分(A)と有機イソシアネート成分(B)の合計質量に対する(a3)に含まれるカルボキシル基の質量割合が0.01〜1.5質量%となる値であることが好ましく、より好ましくは上記質量割合が0.05〜0.75質量%となる値であり、さらに好ましくは上記質量割合が0.08〜0.50質量%となる値である。
【0061】
ポリウレタン樹脂(U)形成後のポリウレタン樹脂(U)中のカルボキシル基の含量は、3〜10gのポリウレタン樹脂(U)を130℃で45分間加熱乾燥して得られる残査を水洗後再度130℃で45分間加熱乾燥し、ジメチルホルムアミドに溶解し、JIS K 0070(1992)記載の方法(電位差滴定法)で測定される酸価から算出できる。
【0062】
鎖伸長剤(a4)としては、炭素数2〜20の非環式多価(2〜3価またはそれ以上の価数)アルコール、これら非環式多価アルコールのエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド低モル付加物(化学式量またはMnが500未満)、炭素数2〜10のジアミン(例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびトルエンジアミン等);ポリ(n=2〜6)アルキレン(炭素数2〜6)ポリ(n=3〜7)アミン類(例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等)、ヒドラジンおよびその誘導体(二塩基酸ジヒドラジド例えばアジピン酸ジヒドラジド等)等が挙げられる。
【0063】
反応停止剤(a5)としては、炭素数1〜8のモノアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、セロソルブ類およびカービトール類等)、炭素数1〜10のモノアミン類(モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、モノオクチルアミン、モノエタノールアミンおよびジエタノールアミン等)が挙げられる。
【0064】
活性水素成分(A)の構成成分(a1)〜(a5)等はそれぞれ1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
有機イソシアネート成分(B)としては、従来からポリウレタンの製造に使用されているものが使用でき、炭素数6〜17の脂環式ポリイソシアネート(B1)、炭素数4〜21の脂肪族ポリイソシアネート(B2)、炭素数8〜25の芳香族ポリイソシアネート(B3)、炭素数10〜17の芳香脂肪族ポリイソシアネート(B4)およびこれらのポリイソシアネートの変性物(B5)等が使用される。有機イソシアネート成分(B)としては、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
炭素数6〜17の脂環式ポリイソシアネート(B1)としては、例えばイソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略記)、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、水添MDIと略記)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレートおよび2,5−または2,6−ノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
【0067】
炭素数4〜21の脂肪族ポリイソシアネート(B2)としては、例えばエチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネートおよび2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエートが挙げられる。
【0068】
炭素数8〜25の芳香族ポリイソシアネート(B3)としては、例えば1,3−または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネート(以下、TDI略記)、粗製TDI、4,4’−または2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記)、粗製MDI、ポリアリールポリイソシアネート、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネートおよびm−またはp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートが挙げられる。
【0069】
炭素数10〜17の芳香脂肪族ポリイソシアネート(B4)としては、例えばm−またはp−キシリレンジイソシアネートおよびα,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネートが挙げられる。
【0070】
(B1)〜(B4)のポリイソシアネートの変性物(B5)としては、ポリイソシアネートの変性物(ウレタン基、カルボジイミド基、アロファネート基、ウレア基、ビューレット基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、イソシアヌレート基またはオキサゾリドン基含有変性物等;遊離イソシアネート基含有量が通常8〜33質量%、好ましくは10〜30質量%、特に好ましくは12〜29質量%のもの)が挙げられ、具体的には変性MDI(ウレタン変性MDI、カルボジイミド変性MDIおよびトリヒドロカルビルホスフェート変性MDI等)、ウレタン変性TDI、ビウレット変性HDI、イソシアヌレート変性HDIおよびイソシアヌレート変性IPDI等のポリイソシアネートの変性物が挙げられる。
【0071】
これら有機イソシアネート成分(B)の内で得られる保護層の耐候性の観点から好ましいのは(B1)および(B2)であり、さらに好ましいのはIPDIおよび水添MDIである。
【0072】
ポリウレタン樹脂(U)は、装飾成形用フィルムを形成する際の塗工性の観点から、溶剤溶液、または水分散体とすることができるものが好ましく、揮発性有機化合物(VOC)の削減による環境対応の観点から水分散体とすることができるものがさらに好ましい。ポリウレタン樹脂(U)の溶剤溶液または水分散体を作製する方法としては、既知の手法を用いることができる。
【0073】
溶剤溶液の作製方法としては、溶剤中で各原料を反応させる手法や、無溶剤下で反応させたポリウレタン樹脂(U)を溶剤に溶解させる手法が挙げられる。用いる溶剤としては、公知の有機溶剤が使用できるが、ポリウレタン樹脂(U)の溶解性および保護層を得る際の乾燥性の観点から、アセトン、ジメチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフランおよびイソプロピルアルコール等の沸点が100℃以下の極性溶剤を使用することが好ましい。
【0074】
また、水分散体の製造方法としては、特開2004−2732号公報等に記載されているプレポリマーミキシング法や、特開2009−96998号公報に記載されているウレタン樹脂のdeadポリマー(イソシアネート基をほとんど含有しないポリウレタン樹脂)を形成後、これを水に分散させる方法が挙げられる。
【0075】
ポリウレタン樹脂(U)を用いて保護層を形成する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
【0076】
ポリウレタン樹脂(U)の溶剤溶液、またはポリウレタン樹脂(U)の水分散体(このような水分散体を「塗料」と記すこともある。)を、成形用フィルム上に公知の塗布方法(例えば、バーコート、ロールコート、グラビアコート、カーテンコート、スプレーコート、シルクスクリーン印刷等)を用いて薄く均一に塗布し、熱風オーブン等に入れて反応させることにより、ポリカーボネート系ポリウレタン層を形成することができる。
【0077】
このようにして形成される、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂から構成される保護層は、上記反応物以外の樹脂をさらに含有してもよく、例えば、アクリル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン等を含有することができる。
【0078】
被装飾体への追従性を損ねずに得られる保護層の耐水性および耐引っかき傷性を向上させるために、さらに少なくとも以下の条件(1)および条件(2)のいずれかを満たすことが好ましい。
【0079】
条件(1)ポリウレタン樹脂(U)が分子内にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する。
【0080】
条件(2)保護層がグリシジルエーテル基ならびにアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する化合物(X)を含有し、ポリウレタン樹脂(U)がカルボキシル基および/またはその塩を含有する。
【0081】
上記条件(1)に規定される分子内にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を有するポリウレタン樹脂(U)を製造する方法としては、例えば、アミノ基又はカルボキシル基を含有するウレタン樹脂と、分子内にグリシジルエーテル基ならびにアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する化合物(X)とを反応させる方法(1−1)、イソシアネート基を含有するウレタン樹脂と、分子内にアミノ基ならびにアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する化合物(Y)とを反応させる方法(1−2)が挙げられる。
【0082】
方法(1−1)に用いられる化合物(X)としては、炭素数4〜11のグリドキシアルキルトリアルコキシシラン、炭素数4〜13のグリドキシアルキル(アルキル)ジアルコキシシランおよび炭素数4〜15のグリドキシアルキル(ジアルキル)アルコキシシラン等およびこれらの加水分解物(上記化合物におけるアルコキシ基が水酸基に変換されたもの)が挙げられ、具体的には3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランおよび3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等およびこれらの加水分解物(上記化合物におけるアルコキシ基が水酸基に変換されたもの)が挙げられる。化合物(X)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0083】
方法(1−1)に用いられるカルボキシル基を含有するウレタン樹脂を得る方法としては、ウレタン樹脂の製造時に上記カルボキシル基含有ポリオールおよびその塩(a3)を活性水素成分(A)として用いる方法等が挙げられる。また方法(1−1)に用いられるアミノ基を含有するウレタン樹脂を得る方法としては、ウレタン樹脂の製造時の説明において鎖伸長剤(a4)として例示した炭素数2〜10のジアミンおよびポリ(n=2〜6)アルキレン(炭素数2〜6)ポリ(n=3〜7)アミン等の多官能アミンを用いて末端にアミノ基を導入する方法、活性水素成分(A)と有機イソシアネート成分(B)の反応において、イソシアネート基と反応する活性水素(水酸基、アミノ基等)に対して、イソシアネート基のモル量を過剰にして末端にイソシアネート基を導入した後、水と反応させて末端アミノ基とする方法等が挙げられる。
【0084】
グリシジルエーテル基とカルボキシル基又はアミノ基等との反応の温度および時間等の条件は、通常これらの基の反応に用いられる条件と同様でよい。
【0085】
方法(1−2)に用いられる化合物(Y)としては、炭素数4〜11のアミノアルキルトリアルコキシシラン、炭素数4〜13のアミノアルキル(アルキル)ジアルコキシシランおよび炭素数4〜15のアミノアルキル(ジアルキル)アルコキシシラン等およびこれらの加水分解物(上記化合物におけるアルコキシ基が水酸基に変換されたもの)が挙げられ、具体的には3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等およびこれらの加水分解物(上記化合物におけるアルコキシ基が水酸基に変換されたもの)が挙げられる。化合物(Y)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0086】
方法(1−2)に用いられるイソシアネート基を導入する方法としては、活性水素成分(A)と有機イソシアネート成分(B)の反応における、イソシアネート基と反応する活性水素(水酸基、アミノ基等)に対して、イソシアネート基のモル量を過剰にして、末端にイソシアネート基を導入する方法等が挙げられる。
【0087】
グリシジルエーテル基とカルボキシル基又はアミノ基等との反応の温度および時間等の条件は、通常これらの基の反応に用いられる条件と同様でよい。
【0088】
ポリウレタン樹脂(U)が分子内にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する場合、装飾成形時の加熱等により、アルコキシシリル基および/またはシラノール基が架橋することにより架橋構造が形成され、耐水性および耐引っかき傷性に優れた保護層が得られる。
【0089】
条件(2)に規定されるグリシジルエーテル基ならびにアルコキシシリル基および/またはシラノール基を含有する化合物(X)としては、方法(1−1)に用いられる化合物(X)を用いることができる。また、カルボキシル基を含有してなるポリウレタン樹脂(U)を得る方法としては、方法(1−1)に用いられるカルボキシル基を含有するウレタン樹脂を得る方法を用いることができる。
【0090】
条件(2)を満たすために化合物(X)を保護層に含有させる方法としては、予め、カルボキシル基を含有するポリウレタン樹脂(U)と化合物(X)とを混合する方法、装飾成形用フィルムの製造時にポリウレタン樹脂(U)と化合物(X)とを混合する方法等が挙げられる。
【0091】
グリシジルエーテル基とカルボキシル基との反応の温度および時間等の条件は、通常これらの基の反応に用いられる条件と同様でよい。
【0092】
保護層に化合物(X)を含有させた場合は、化合物(X)が含有するグリシジルエーテル基とポリウレタン樹脂(U)が含有するカルボキシル基とが反応し、さらに、装飾成形時の加熱等により化合物(X)が含有するアルコキシシリル基および/またはシラノール基が架橋することにより架橋構造が形成され、耐水性および耐引っかき傷性に優れた保護層が得られる。
【0093】
(X)および/または(Y)の使用量は、得られる保護層の耐水性および耐引っかき傷性の観点から、(A)と(B)の合計100質量部に対する(X)および/または(Y)が含有するアルコキシシリル基および/またはシラノール基に由来するSi原子の合計質量の割合が0.05〜2.0質量部となる量であることが好ましく、さらに0.1〜1.5質量部、特に0.2〜1.0質量部となる量であることが好ましい。
【0094】
また、保護層には必要に応じて、硬化促進剤、粘結剤、表面調整剤、顔料、染料、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤などが含有されてもよい。保護層におけるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂以外の樹脂や添加剤の含有量の合計は、ポリウレタン樹脂の全質量を100質量部として、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。反応物以外の樹脂が上記範囲より多く含まれると、保護層の本来の性能が得られなくなる場合がある。
【0095】
保護層の厚みは、好ましくは10〜70μmであり、さらに好ましくは、20〜50μmである。該厚みが10μm以上であると、塗膜特性を付与させることが容易となり好ましい。また、該厚みが70μm以下であると、適度な厚みとなり、表面が平坦となり、高い表面品位を維持し易いため好ましい。該厚みの測定は、装飾成形用フィルムの製造工程中であれば、各層を形成する際にJIS C 2151(2006)に準じマイクロメータにて測定することができる。また、既に被装飾体に積層した状態でも、微分干渉顕微鏡やレーザー顕微鏡、電子顕微鏡などで断面を観察することで、保護層の厚みを測定することができる。
[装飾成形体の作製方法]
本発明の装飾成形用フィルムを用いた装飾成形体の作製方法としては、3次元形状の被装飾体に装飾可能な熱成形方法であれば特に限定されるものではなく、一般に公知の成形方法、例えば、真空成形法、真空・圧空成形法、ブロー(吹き込み)成形法、プレス成形法、インサートインジェクション成形法、インモールド(金型内)成形法、押し出し成形法などで成形することができる。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例および比較例で作製した装飾成形用フィルムの評価方法を以下に示す。
[被装飾体への追従性]
装飾成形用フィルムを、真空成形機「FORMECH300X」(成光産業(株)製)を用いて、遠赤外線ヒーターを用いて、フィルム表面温度が170℃になるように1分間加熱し円柱状の金型(底面直径50mm)を用いて真空成形してフィルムを成形した。金型に沿って成形できた状態を成形度合い(絞り比:成形高さ/底面直径)に応じて以下の基準で評価した。
【0097】
A級:絞り比1.0以上で成形できた。
【0098】
B級:絞り比0.6以上1.0未満で成形できたが、1.0以上では成形できなかった。
【0099】
C級:絞り比0.3以上0.6未満で成形できたが、0.6以上では成形できなかった。
【0100】
D級:絞り比0.3未満の曲面成形のみ可能であり、0.3以上では成形できなかった。
【0101】
E級:わずかに折り曲げるだけでも、フィルム破れ・クラックが発生した。
【0102】
評価は各サンプル5回ずつ行い、E級評価が無かったものを追従性が合格であると判定し、E級評価が1回以上あったものを追従性が不合格であると判定した。
[耐引っかき傷性]
装飾成形用フィルムを被装飾体に貼り付けて得られた装飾成形体の保護層側の面を引っかき試験機(HEIDON社製)を用いて耐引っかき傷性を評価した。試験針の種類としては、0.1mmR(サファイア製)を使用し、傷を付ける速度は300mm/分とした。また、測定時の荷重は200gとした。試験後に傷の状態を確認して、保護層が削れずに傷跡がつくものを欠点なし、保護層のみが削れたものを一部欠点あり、装飾成形用フィルムが削れて被装飾体が露出したものを欠点ありと評価した。測定は各サンプル5回ずつ行い、5回中、欠点ありが1回以下であるものを耐引っかき傷性が合格であると判定し、欠点ありが2回以上であるものを耐引っかき傷性が不合格であると判定した。
[150℃時の伸度・弾性率]
装飾成形用フィルムを長さ150mm×幅10mmの短形に切り出し、サンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用いて、初期引張チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分として引張試験を行った。測定は予め150℃の温度に設定した恒温層中にサンプルをセットし、60秒間の予熱の後で引張試験を行った。得られた荷重−歪曲線から破断伸度と弾性率を求めた。なお、測定は各サンプル5回ずつ行い、算出最大値、最小値を除く3点の平均値で評価を行った。
[固有粘度]
ポリエステル樹脂およびフィルムの固有粘度を、ポリエステルをオルソクロロフェノールに溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃にて測定した。
[層の厚み]
ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡H−7100FA型((株)日立製作所製)を用い、加速電圧75kVでフィルムの断面を40,000倍に拡大観察し、断面画像を撮影した。
【0103】
次いで、撮影した画像をCanonScan D123Uを用いて画像サイズ720dpiで取り込んだ。画像をJPEG形式で保存し、次いで画像処理ソフトImage−Pro Plus ver.4(販売元 プラネトロン(株))を用いて、このJPGファイルを開き、画像解析を行った。画像解析処理は、垂直シックプロファイルモードで、厚み方向位置と幅方向の2本のライン間で挟まれた領域の平均明るさとの関係を、数値データとして読み取った。表計算ソフト(Excel2000)を用いて、位置(nm)と明るさのデータに対してサンプリングステップ6(間引き6)、3点移動平均の数値処理を施した。さらに、この得られた周期的に明るさが変化するデータを微分し、その微分曲線の極大値と極小値を読み込み、隣り合うこれらの間隔を1層の層厚みとして層厚みを算出した。この操作を任意の10枚の画像について行い、算出した値の平均値を層厚みとした。なお、本実施例では、コントラストを高く得るために公知のRuOを使用してサンプルを染色した。
[面内平均屈折率]
アタゴ(株)製アッベ屈折計「NAR−4T」を用いて、接眼レンズに偏光板を取り付け、偏光板の向きおよびフィルムの向きをそれぞれ調整し、PA層、PB層単独で作製したフィルムの面内屈折率を測定した。面内平均屈折率はフィルム面に平行な面内の1点を中心として45°間隔で4本の線を引き各線と平行な方向に測定した面内屈折率を平均した。
[絶対反射率]
(株)島津製作所製の分光光度計UV−3150に入射角5°の絶対反射率測定装置 ASR−3105を取り付け、付属の取扱説明書に従い、以下の条件にて400〜1,200nmまでの絶対反射率を測定した。
【0104】
・スキャンスピード:高速
・サンプリングピッチ:1nm
・測定モード:シングル
・スリット幅:30nm
・光源切り替え波長:360nm
・検出器切替波長:805nm
・S/R切り替え:標準
・検出器ロック:自動
・スリットプログラム:標準
[ガラス転移温度]
示差熱量分析(DSC)を用い、JIS K 7122(1987)に従って測定・算出した。なお、まず1st Runで、25℃から290℃まで20℃/分で昇温した後、290℃で5分間ホールドした後、25℃まで急冷した。また続く2nd Runでは、25℃から290℃まで20℃/分で昇温した。樹脂のガラス転移温度は2nd Runにおけるガラス転移温度を用いた。
【0105】
・装置:セイコー電子工業(株)製 ロボットDSC−RDC220
・データ解析 ディスクセッションSSC/5200
・サンプル質量:5mg
次に、実施例および比較例に使用したポリウレタン樹脂の製造例を以下に示す。
〔製造例1〕ポリウレタン樹脂(U1)の製造例
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に、1,4−シクロヘキサンジメタノールとエチレンカーボネートとの反応より得られたMn1,000のポリカーボネートジオール165.5質量部、1,4−ブタンジオール及び1,6−ヘキサンジオールの混合物(モル比70:30)とエチレンカーボネートとの反応より得られたMn2,000のポリカーボネートジオール66.2質量部、エチレングリコール0.26質量部、DMPA21.3質量部、IPDI104.4質量部およびアセトン153.3質量部を仕込んで85℃で15時間攪拌してウレタン化反応を行い、末端にイソシアネート基を含有するウレタンプレポリマーのアセトン溶液を得た。得られたウレタンプレポリマーのアセトン溶液511質量部を簡易加圧反応装置に仕込み、40℃で撹拌しながらトリエチルアミン(中和剤)12.9質量部及び水623.9質量部を加えた。60rpmで3分間攪拌後、3−アミノプロピルトリメトキシシラン1.5質量部、エチレンジアミン(鎖伸長剤)3.6質量部を加え、減圧下に65℃で8時間かけてアセトンを留去し、分子内にシラノール基を有するポリウレタン樹脂(U1)の水分散体1,000質量部を得た。
〔製造例2〕ポリウレタン樹脂(U2)の製造例
窒素雰囲気下で二軸混練機であるKRCニーダー[栗本鐵工(株)製]に、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び1,6−ヘキサンジオールの混合物(モル比50:50)とエチレンカーボネートとの反応より得られたMn900のポリカーボネートジオール13.1質量部、1,4−ブタンジオール及び1,6−ヘキサンジオールの混合物(モル比70:30)とエチレンカーボネートとの反応より得られたMn1,000のポリカーボネートジオール116.8質量部、エチレングリコール5.1質量部、DMPA34.4質量部および水添MDI119.6質量部を仕込み、220℃で10分間混練してウレタン化反応操作を行った。反応物を取り出し、180℃に加熱した加圧プレス機で圧延後、角形ペレタイザー[(株)ホーライ製]にて裁断してポリウレタン樹脂を得た。続いて、温度制御可能な耐圧容器に得られたポリウレタン樹脂289.1部、25質量%アンモニア水14質量部および水660.4質量部を仕込み、乳化分散機“クレアミックス”[登録商標、エムテクニック(株)製]を用いて150℃で12,000rpm、3分間分散処理することでポリウレタン樹脂水分散体を得た。続いて、得られたポリウレタン樹脂水分散体963.5質量部に、30℃で3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン36.5質量部を加えて均一撹拌することで、分子内にカルボキシル基の塩を含有するポリウレタン樹脂(U2)と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含有する水分散体1,000質量部を得た。
〔製造例3〕ポリウレタン樹脂(U3)の製造例
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び1,6−ヘキサンジオールの混合物(モル比50:50)とエチレンカーボネートとの反応より得られたMn900のポリカーボネートジオール184.7質量部、1,6−ヘキサンジオールとエチレンカーボネートとの反応より得られたMn2,000のポリカーボネートジオール68.4質量部、1,6−ヘキサンジオール26.9質量部、DMPA29質量部、水添MDI178.2質量部およびメチルエチルケトン487.3質量部を仕込んで90℃で24時間攪拌してウレタン化反応操作を行い、ポリウレタン樹脂のメチルエチルケトン溶液を得た。得られたポリウレタン樹脂のメチルエチルケトン溶液974.5質量部に、30℃で3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン25.5質量部を加えて均一撹拌することで、分子内にカルボキシル基の塩を含有するポリウレタン樹脂(U3)と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含有するメチルエチルケトン溶液1,000質量部を得た。
〔比較製造例1〕ポリウレタン樹脂(U’1)の製造例
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に、1,6−ヘキサンジオールとエチレンカーボネートとの反応より得られたMn2,000のポリカーボネートジオール239質量部、1,6−ヘキサンジオール41質量部、DMPA29質量部、水添MDI178.2質量部およびメチルエチルケトン487.3質量部を仕込んで90℃で24時間攪拌してウレタン化反応操作を行い、ポリウレタン樹脂のメチルエチルケトン溶液を得た。得られたポリウレタン樹脂のメチルエチルケトン溶液974.5質量部に、30℃で3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン25.5質量部を加えて均一撹拌することで、ポリウレタン樹脂(U’1)のメチルエチルケトン溶液1,000質量部を得た。
〔比較製造例2〕ポリウレタン樹脂(U’2)の製造例
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置に、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び1,6−ヘキサンジオールの混合物(モル比50:50)とエチレンカーボネートとの反応より得られたMn900のポリカーボネートジオール189.6質量部、1,6−ヘキサンジオールとエチレンカーボネートとの反応より得られたMn2,000のポリカーボネートジオール70.2質量部、1,6−ヘサンジオール27.6質量部、DMPA29.8質量部、水添MDI182.9質量部およびメチルエチルケトン500質量部を仕込んで90℃で24時間攪拌してウレタン化反応操作を行い、ポリウレタン樹脂(U’2)のメチルエチルケトン溶液1,000質量部を得た。
(実施例1)
樹脂PAとして、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート(以下PET)を用いた。樹脂PBとして、Easter PETG6763[イーストマンケミカル製](以下PETG)を用いた。これらポリエステル樹脂PAおよびPBは、それぞれ乾燥した後、押出機にて280℃の溶融状態とし、ギヤポンプおよびフィルターを介した後、吐出比1.1/1で801層のフィードブロックにて交互に積層するように合流させた後、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し冷却ドラムに密着させ未延伸フィルムを得た。次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、最終的にフィルム温度96℃で長手方向に3.2倍延伸し、すぐに40℃に温度制御した金属ロールで冷却化した。この一軸延伸フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、基材フィルムの濡れ張力を55mN/mとし、その処理面に、以下の塗剤A、B、C、Dを凝集のないように混合して、#4のバーコーターにて均一に塗布し易接着層を形成した。
「易接着層」
A:水分散アクリル樹脂(酸基2.8mg/g)
B:メチロール化メラミン(希釈剤:イソプロピルアルコール/水)
C:コロイダルシリカ(平均粒径80nm)
D:フッ素系界面活性剤(希釈剤:水)
固形分質量比:A/B/C/D=100質量部/25質量部/3質量部/0.2質量部
次いでテンター式横延伸機にて予熱温度85℃、延伸温度95℃で幅方向に3.2倍延伸し、そのままテンター内にて幅方向に4%のリラックスを掛けながら温度230℃で2秒間の熱処理を行いフィルム厚み100μmの二軸配向フィルムを得た。前記二軸配向フィルムを基材フィルムとした。
【0106】
[層の厚み]にしたがって算出した基材フィルムのPA層の厚みは、0.125μm、PB層の厚みは0.125μm、樹脂PAを含む層(PA層)の面内平均屈折率は1.60、樹脂PBを含む層(PB層)の面内平均屈折率は1.57、波長帯域400〜800nmの波長における基材フィルムの絶対反射率の最小値が88%、樹脂PAのガラス転移温度は80℃、樹脂PBのガラス転移温度は81℃であった。
【0107】
次いで、製造例1で得られたポリウレタン樹脂(U1)の水分散体を、乾燥後の厚さが40μmとなるよう、アプリケーター法により成形用フィルムの片面に塗布した後、100℃で10分間乾燥し、保護層を形成し、装飾成形用フィルムを得た。得られた装飾成形用フィルムを用い、170℃の温度で真空成形を行って装飾成形体を得た。このときの真空成形時の結果と、物性を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
(実施例2)
製造例1で得られたポリウレタン樹脂(U1)の水分散体を製造例2で得られたポリウレタン樹脂(U2)の水分散体に代えた以外は、実施例1と同様の条件で行った。結果を表1に併せて示す。
(実施例3)
製造例1で得られたポリウレタン樹脂(U1)の水分散体を製造例3で得られたポリウレタン樹脂(U3)のメチルエチルケトン溶液に代えた以外は、実施例1と同様の条件で行った。結果を表1に併せて示す。
(比較例1)
製造例1で得られたポリウレタン樹脂(U1)の水分散体を比較製造例1で得られたポリウレタン樹脂(U’1)のメチルエチルケトン溶液に代えた以外は、実施例1と同様の条件で行った。結果を表1に併せて示す。
(比較例2)
製造例1で得られたポリウレタン樹脂(U1)の水分散体を比較製造例2で得られたポリウレタン樹脂(U’2)のメチルエチルケトン溶液に代えた以外は、実施例1と同様の条件で行った。結果を表1に併せて示す。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の装飾成形用フィルムは、建材や携帯電話、電機製品、遊技機部品、自動車部品などを装飾する際に好ましく用いる事ができるが、これらに限定されるものではなく、意匠性が必要とされ、かつ、耐引っかき傷性、耐候性等の機能性が求められる用途にも好ましく適用することができる。