特許第6361599号(P6361599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361599
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/06 20130101AFI20180712BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20180712BHJP
   H01M 10/0563 20100101ALI20180712BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20180712BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20180712BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20180712BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20180712BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   H01G11/06
   H01G11/50
   H01M10/0563
   H01M10/0525
   H01M10/054
   H01M4/133
   H01M4/62 Z
   H01M4/60
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-136482(P2015-136482)
(22)【出願日】2015年7月7日
(65)【公開番号】特開2017-22186(P2017-22186A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
【審査官】 小池 秀介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−175211(JP,A)
【文献】 特開2014−183161(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0040954(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G11/00−11/86
H01M 4/00− 4/62
10/05−10/0587
10/36−10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、前記カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を備えた負極と、
電気二重層容量を発現する正極と、
前記負極と前記正極との間に介在し、アルカリ金属塩を含む非水系電解液と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項2】
前記層状構造体は、前記芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、空間群P21/cに帰属される単斜晶の結晶構造を有する、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記層状構造体は、異なる前記ジカルボン酸アニオンの酸素4つと前記アルカリ金属元素とが4配位を形成する式(1)の構造を備えている、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【化1】
【請求項4】
前記有機骨格層は、式(2)で示される構造を含む芳香族化合物により構成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【化2】
【請求項5】
前記有機骨格層は、式(3)〜(5)からなる群より選ばれる1種以上の構造を含む芳香族化合物を備えている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【化3】
【請求項6】
前記負極は、アルカリ金属イオンをあらかじめ吸蔵及び/又は担持したものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
充放電を行う電圧範囲において、前記正極の有する電気容量A(mAh)に対する前記負極の有する電気容量B(mAh)の比である容量比B/Aの値が6以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
前記正極は、比表面積が1000m2/g以上の活性炭を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項9】
前記正極は、比表面積が2000m2/g以上の活性炭を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項10】
前記負極は、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールのうち少なくとも一方である水溶性ポリマーを、2質量%以上8質量%以下の範囲で含む負極合材を備えている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項11】
前記負極は、導電材を5質量%以上15質量%以下の範囲で含む負極合材を備えている、請求項1〜10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項12】
前記負極は、スチレンブタジエン共重合体を8質量%以下の範囲で含む負極合材を備えている、請求項1〜11のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の蓄電デバイスとしては、例えば、正極に活性炭、負極に黒鉛などを用いたリチウムイオンキャパシタが知られている(非特許文献1参照)。また、リチウムイオンキャパシタにおいて、セル電圧を高めることを目的として、リチウムプレドープを行うこと、すなわち、あらかじめ負極にリチウムイオンを吸蔵したり担持したりすることが知られている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2003/003395号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/059672号パンフレット
【特許文献3】特開2008−66342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、黒鉛負極などを備えたリチウムイオンキャパシタ等では、過放電によってセルが劣化しやすいため、それを防止するためにセルの下限電圧の制限等が行われているが、過放電によるセルの劣化をより容易に抑制することが望まれていた。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、過放電によるセルの劣化をより容易に抑制できる蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究したところ、電気二重層容量を発現する正極と所定の層状構造体を備えた負極とを組み合わせた蓄電デバイスでは、過放電が進行しにくく、結果として過放電によるセルの劣化をより容易に抑制できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の蓄電デバイスは、
芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、前記カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を備えた負極と、
電気二重層容量を発現する正極と、
前記負極と前記正極との間に介在し、アルカリ金属塩を含む非水系電解液と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蓄電デバイスでは、過放電によるセルの劣化をより容易に抑制できる。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、本発明において負極に用いる層状構造体では、層状構造体内に吸蔵されていたイオンが放電により所定量以上放出されると、抵抗が急激に上昇し、電流が流れにくくなる(こうした機能を、以下ではシャットダウン機能とも称する)。このため、過放電が進行しにくく、結果として、過放電によるセルの劣化をより容易に抑制できる。なお、過放電とは、セルの下限電圧を下回る電圧で放電を行うことをいう。この下限電圧は、例えば、黒鉛負極を用いた場合における一般的な下限電圧である1.5Vとしてもよいし、1.0Vとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】層状構造体の構造の一例を示す説明図。
図2】蓄電デバイス10の一例を示す説明図。
図3】実験例1の規格化容量に対する内部抵抗変化を示すグラフ。
図4】実験例2の規格化容量に対する内部抵抗変化を示すグラフ。
図5】実験例3,4の示差走査熱量測定の結果を示すグラフ。
図6】実験例3,4の総発熱量を示すグラフ。
図7】実験例3,4の容量あたりの総発熱量を示すグラフ。
図8】実験例5〜8の各充放電条件におけるエネルギー密度を示すグラフ。
図9】実験例9〜12の各充放電条件におけるエネルギー密度を示すグラフ。
図10】CMCの割合と最大容量との関係を表すグラフ。
図11】CMCの割合と初期効率との関係を表すグラフ。
図12】CMCの割合と容量維持率との関係を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の蓄電デバイスは、本発明の層状構造体を備えた負極と、電気二重層容量を発現する正極と、負極と正極との間に介在し、アルカリ金属塩を含む非水系電解液と、を備えている。本発明の層状構造体は、芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有している。この層状構造体において、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。また、非水系電解液に含まれ、充放電により層状構造体に吸蔵・放出されるアルカリ金属は、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素と異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。ここでは、説明の便宜のため、層状構造体のアルカリ金属元素層にLiを含み、充放電により層状構造体に吸蔵・放出されるアルカリ金属をLiとしたリチウムイオンキャパシタについて、以下主として説明する。
【0011】
本発明の蓄電デバイスにおいて、負極は、上述した本発明の層状構造体を、活物質として備えている。図1は、本発明の層状構造体の構造の一例を示す説明図である。この層状構造体は、芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、空間群P21/cに帰属される単斜晶型の結晶構造を有するものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。また、層状構造体は、異なるジカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素とが4配位を形成する式(1)の構造を備えているものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。但し、この式(1)において、Rは1以上の芳香族環構造を有し、複数あるRのうち2以上が同じであってもよいし、1以上が異なっていてもよい。また、Aはアルカリ金属元素である。このように、アルカリ金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有することが好ましい。
【0012】
【化1】
【0013】
有機骨格層は、1以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含んでいる。芳香族化合物は、1の芳香族環構造を有するものとしてもよいが、2以上の芳香族環構造を有するものが好ましい。すなわち、式(1)のRは、2以上の芳香族環構造を有することが好ましい。芳香族環構造が2以上では層状構造を形成しやすいからである。2以上の芳香族環構造は、例えば、ビフェニルなど2以上の芳香族環が結合した芳香族多環化合物としてもよいし、ナフタレンやアントラセン、ピレンなど2以上の芳香族環が縮合した縮合多環化合物としてもよい。また、芳香族化合物は、5以下の芳香族環構造を有するものが好ましい。芳香族環構造が5以下ではエネルギー密度をより高めることができるからである。この芳香族環は、五員環や六員環、八員環としてもよく、六員環が好ましい。この有機骨格層は、ジカルボン酸アニオンのうちカルボン酸アニオンの一方と他方とが芳香族環構造の対角位置に結合されている芳香族化合物を含むものとするのが好ましい。こうすれば、有機骨格層とアルカリ金属元素層とによる層状構造を形成しやすい。カルボン酸が結合されている対角位置とは、一方のカルボン酸の結合位置から他方のカルボン酸の結合位置までが最も遠い位置としてもよく、例えば芳香族環構造がベンゼンであれば1,4位(パラ位)が挙げられ、ナフタレンであれば2,6位が挙げられ、ピレンであれば2,7位が挙げられる。この有機骨格層は、式(2)で示される構造を含む芳香族化合物により構成されているものとしてもよい。但し、Rは1以上の芳香族環構造を有する上記芳香族環構造であるものとしてもよい。具体的には、この有機骨格層は、次式(3)〜(5)のうちいずれか1以上の芳香族化合物を備えているものとしてもよい。但し、式(3)〜(5)において、nは1以上5以下の整数、mは0以上3以下の整数であることが好ましい。nが1以上5以下では、有機骨格層の大きさが好適であり、充放電容量をより高めることができる。また、mが0以上3以下では、有機骨格層の大きさが好適であり、充放電容量をより高めることができる。この式(3)〜(5)において、これらの芳香族化合物は、その構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、芳香族化合物の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、芳香族化合物の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。なお、式(3)〜(5)におけるLiは、アルカリ金属元素層を構成するLiを示している。
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
アルカリ金属元素層は、例えば図1に示すように、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成している。このアルカリ金属元素は、Li,Na及びKのうちいずれか1以上としてもよいが、このうちLiが好ましい。アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、層状構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないもの、すなわち、充放電時に吸蔵放出されないものと推察される。このように構成された層状構造体は、図1に示すように、構造においては、有機骨格層とこの有機骨格層の間に存在するLi層(アルカリ金属元素層)とにより形成されている。また、エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、層状構造体の有機骨格層はレドックス(e-)サイトとして機能する一方、Li層はLi+吸蔵サイト(アルカリ金属イオン吸蔵サイト)として機能するものと考えられる。即ち、この層状構造体は、次式(6)に示すようにエネルギーを貯蔵・放出すると考えられる。更に、この層状構造体において、有機骨格層にはLiが入り込み可能な空間が形成されていることがあり、式(6)におけるアルカリ金属層以外の部分にもLiを吸蔵放出可能であり、充放電容量をより高めることができると推察される。
【0017】
【化4】
【0018】
負極は、例えば、活物質としての上述した層状構造体とその他の材料とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。
【0019】
負極合材は、水溶性ポリマーを含むものであることが好ましい。水溶性ポリマーは、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールのうちの少なくとも一方としてもよい。この水溶性ポリマーは、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める結着材としての役割を果たすものとしてもよい。カルボキシメチルセルロースは、例えば、カルボキシメチル基の末端がナトリウムやカルシウムなどである無機塩としてもよいし、カルボキシメチル基の末端がアンモニウムであるアンモニウム塩としてもよい。負極合材は、水溶性ポリマーを含む場合、2質量%以上8質量%以下の範囲で含むものであることが好ましい。水溶性ポリマーを2質量%以上の範囲で含むものでは、容量維持率をより高めることができる。また、水溶性ポリマーを8質量%以下の範囲で含むものでは、電極材料同士や電極材料と集電体との密着性が高い。このうち、水溶性ポリマーを7質量%以下の範囲で含むものが好ましく、6質量%以下の範囲で含むものがより好ましい。
【0020】
負極合材は、水溶性ポリマーに加えて、スチレンブタジエン共重合体を含むものとしてもよい。スチレンブタジエン共重合体は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める結着材としての役割を果たすものとしてもよい。スチレンブタジエン共重合体を含むものでは、活物質粒子間をより強く結着できる点で好ましい。負極合材は、スチレンブタジエン共重合体を含む場合、スチレンブタジエン共重合体を8質量%以下の範囲で含むことが好ましい。8質量%以下であれば、活物質、導電材、水溶性ポリマーの量が少なくなり過ぎないため、活物質や導電材、水溶性ポリマーの機能を十分に発揮できる。
【0021】
負極合材は、導電材を含むことが好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維などの炭素材料、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。負極合材は、導電材を含む場合、導電材を5質量%以上15質量%以下の範囲で含むことが好ましく、7質量%以上としてもよいし、9質量%以上としてもよい。5質量%以上であれば、電極に十分な導電性を持たせることができ、充放電特性の劣化を抑制できる。また、15質量%以下であれば、活物質や水溶性ポリマーが少なくなり過ぎないため、活物質や水溶性ポリマーの機能を十分に発揮できる。
【0022】
負極合材は、活物質を70質量%以上90質量%以下の範囲で含むことが好ましく、75質量%以上85質量%以下の範囲としてもよい。有機系の活物質を用いた電極では一般に導電性が低く導電材を多量に加えて導電性を向上させる必要があるため、活物質の量は70質量%未満となってしまうが、本発明では、活物質を70質量%以上にまで増加させることができる点で好ましい。活物質を90質量%以下の範囲で含むものでは、導電材や水溶性ポリマーの量が少なくなり過ぎないため、導電材や水溶性ポリマーの機能を十分に発揮できる。
【0023】
負極合材は、上述した水溶性ポリマーやスチレンブタジエン共重合体に代えて又は加えて、結着材を含むものとしてもよい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエン−モノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等としてもよい。これらは、単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。
【0024】
活物質やその他の材料を分散させる溶剤としては、水を用いてもよいし、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いてもよい。なお、上述した水溶性ポリマーやスチレンブタジエン共重合体を結着材とする場合には、水が好適である。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。
【0025】
集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。このうち、負極の集電体は、アルミニウム金属とすることがより好ましい。即ち、層状構造体は、アルミニウム金属の集電体に形成されていることが好ましい。アルミニウムは、豊富に存在し、耐食性に優れるからである。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0026】
負極は、芳香族環構造(好ましくはナフタレン骨格又はベンゼン骨格)を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層とカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備えた層状構造体と、導電材と、を含む負極合材を、集電体上に形成した後、不活性雰囲気中で250℃以上450℃以下の温度範囲で焼成処理されているものとしてもよい。こうすれば、結晶構造をより好適なものとすることができ、芳香族化合物のπ電子相互作用が高まり、電子の授受が容易となるなどして、充放電特性をより高めることができる。この焼成処理において、焼成温度が250℃以上では、充放電特性を向上することができ好ましく、450℃以下では、層状構造体の構造破壊をより抑制することができ好ましい。この焼成温度は、275℃以上であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、300℃程度が更に好ましい。また、焼成時間は、焼成温度に応じて適宜選択するが、例えば、2時間以上24時間以下の範囲が好ましい。また、不活性雰囲気は、例えば、窒素ガス、He,Arなどの希ガスとしてもよく、このうちArが好ましい。
【0027】
負極は、アルカリ金属イオンのプレドープを行ったもの、すなわち、金属イオンをあらかじめ吸蔵及び/又は担持したものとしてもよい。こうすれば、蓄電デバイスのセル電圧を高め、充放電容量を高めることができる。また、黒鉛負極などを用いた場合には、アルカリ金属イオンのプレドープを行うと特に過放電が進行しやすくなるが、本発明の層状構造体を備えた負極を用いた場合には、プレドープの有無にかかわらず、過放電が進行しにくい。プレドープの方法としては、特許文献1〜3に記載された方法など、公知の方法を採用できる。例えば、負極を蓄電デバイスに組み込む前に、別途アルカリ金属を対極とするセルを組み、所定量のアルカリ金属をドープしてもよい。また、例えば、蓄電デバイス内にアルカリ金属を配置し、負極に電気化学的に接触させることによってアルカリ金属をドープしてもよい。
【0028】
本発明の蓄電デバイスにおいて、正極は、電気二重層容量を発現するものであれば特に限定されず、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている公知の正極を用いてもよい。正極は、例えば、炭素材料を含むものとしてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、非水系電解液に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着・脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、非水系電解液に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入・脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0029】
正極は、例えば上述した炭素材料と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ負極で例示したものを用いることができる。正極の集電体には、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、負極と同様のものを用いることができる。なお、正極の集電体は、負極の集電体と同じものとしてもよい。
【0030】
本発明の蓄電デバイスにおいて、正極及び負極は、充放電を行う電圧範囲において、正極の有する電気容量A(mAh)に対する負極の有する電気容量B(mAh)の比である容量比B/Aの値が6以上となるような組合せで用いることが好ましく、7以上がより好ましい。こうすれば、高いエネルギー密度を安定的に得ることができる。容量比B/Aの値は、例えば20以下でもよいし、15以下でもよい。こうした範囲であれば、負極活物質の量が多すぎず、負極活物質をより有効に利用できる。
【0031】
本発明の蓄電デバイスにおいて、非水系電解液としては、例えば、支持塩(支持電解質)を含む有機溶媒などを用いることができる。支持塩としては、アルカリ金属塩などの公知の支持塩を用いることができる。アルカリ金属塩としては、例えば、LiPF6, LiClO4,LiAsF6,LiBF4,Li(CF3SO22N,LiN(C25SO22などのリチウム塩や、これらに対応するナトリウム塩やカリウム塩などが挙げられる。これらの支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.2Mであることがより好ましい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水系電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。
【0032】
本発明の蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0033】
本発明の蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図2は、上述した実施形態の蓄電デバイス10の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス10は、集電体11に正極合材12を形成した正極シート13と、集電体14の表面に負極合材17を形成した負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間に設けられたセパレータ19と、正極シート13と負極シート18の間を満たす非水電解液20と、を備えたものである。この蓄電デバイス10では、正極シート13と負極シート18との間にセパレータ19を挟み、これらを捲回して円筒ケース22に挿入し、正極シート13に接続された正極端子24と負極シートに接続された負極端子26とを配設して形成されている。正極合材は、電気二重層容量を発現する材料を備えている。負極合材は、芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を備えている。
【0034】
本実施形態の蓄電デバイスでは、過放電によるセルの劣化、例えば、水素ガスなどのガスの発生や発生したガスの反応などによるセルの劣化を、より容易に抑制できる。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、本発明において負極に用いる層状構造体では、層状構造体内に吸蔵されていたイオンが放電により所定量以上放出されると、抵抗が急激に上昇し、シャットダウン機能を発揮する。このため、過放電が進行しにくく、結果として、過放電によるセルの劣化をより容易に抑制できる。特に、アルカリ金属イオンのプレドープを行った場合、黒鉛負極では特に過放電が進行しやすいが、本発明の層状構造体を用いた負極では、プレドープの有無にかかわらず、過放電状態になる前や過放電が進行する前に負極の抵抗が急激に上昇して、シャットダウン機能を発揮するため、過放電によるセルの劣化をより容易に抑制できる。なお、シャットダウン後、充電すれば、負極がリチウムイオンを吸蔵することによって負極の抵抗は元通りに低下し、再び充放電を行うことができる。
【0035】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0036】
以下には、本発明の蓄電デバイスを具体的に作製した例について説明する。なお、実験例1,3,5〜12が本発明の実施例に相当し、実験例2,4が比較例に相当する。本発明は、下記の実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0037】
1.過放電時のシャットダウン機能
[実験例1]
(2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの合成)
層状構造体としての2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムの合成には、出発原料として2,6−ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。具体的には、まず、水酸化リチウム1水和物(0.556g)にメタノール(100mL)を加え撹拌した。水酸化リチウム1水和物がとけた後に2,6−ナフタレンジカルボン酸(1.0g)を加え1時間撹拌した。撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより白色の粉末試料の2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム(式(7))を合成した。
【0038】
【化5】
【0039】
(2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極の作製)
活物質として上記手法で作製した2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを77.7質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500(直径約50nm))を13.7質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)(ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)を5.5質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR)(日本ゼオン、BM−400B)を3.2質量%混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に単位面積当たりの2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム活物質が3.5mg/cm2となるように均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2.05cm2の面積に打ち抜いて円盤状の負極を準備した。
【0040】
(二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水系電解液を作製した。上記2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極とし、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0041】
(間欠充放電試験)
上記二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下で、以下の間欠充放電試験を行った。まず、電流値0.15mA(200mAh/gを容量基準として10時間放電に相当する電流値)で20mAh/g放電(作用極の還元)を行い、その後、セルを開回路状態とし、電圧変化が1mV/800sec.以下となるまで(ただし、最大6時間まで)放置した。この通電・開回路放置操作を放電方向に20回繰り返すことにより間欠放電試験を行った。次に、電流値0.15mAで20mAh/g充電(作用極の酸化)を行い、その後、セルを開回路状態とし、電圧変化が1mV/800sec.以下となるまで(ただし、最大6時間まで)放置した。この通電・開回路放置操作を充電方向に繰り返すことにより間欠充電試験を行った。繰り返しの回数は、内部抵抗Rが約670Ωに達するまでとした。内部抵抗Rは、各通電・開回路動作毎に、通電前(開回路時)の電圧V0と通電1秒後の電圧V1を測定し、電圧V0,V1と電流I(=0.15mA)からR=(V0−V1)/Iの式によって求めた。
【0042】
[実験例2]
活物質として、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムに代えて、d002=0.388nm以下の黒鉛を用いた。この活物質95質量%と、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(クレハ製 KFポリマ)を5質量%とを混合し、NMPで分散させて負極合材のペーストを得た。このペーストを、厚さ10μm銅箔の両面に塗工し乾燥させ、ロールプレスして、合材層の空隙率を36%に調節してシート状の黒鉛負極を得た。得られた黒鉛負極を作用極として用い、間欠充放電試験における各通電条件を電流値0.15mAで37mAh/g放電(又は充電)とし、間欠充電試験の繰り返し回数を内部抵抗Rが約140Ωに達するまでとした以外は、実験例1と同様とした。
【0043】
[実験結果]
図3,4に、実験例1,2の、内部抵抗変化を示した。規格化容量は、実験例1では容量基準である215mAh/gを1として規格化したときの残容量であり、実験例2では容量基準である360mAh/gを1として規格化したときの残容量である。図3,4に示した内部抵抗変化は、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極や黒鉛負極を負極として使用し、活性炭電極を正極として構成したリチウムイオンキャパシタにおける、セル放電方向(層状構造体からのリチウムの脱離が進行する方向)での負極の内部抵抗変化に相当する。2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極を用いた実験例1ではセル放電方向に向けて内部抵抗が急激に上昇した。一方、黒鉛負極を用いた実験例2では内部抵抗がそれほど大きくならなかった。なお、図3,4に示した内部抵抗変化は、いずれも、過放電状態(ここではリチウムイオンキャパシタにおいてセル電圧1.5V以下に相当する状態)となる前のものである。図4では、セル放電方向に向かって、規格化容量が0.2を過ぎた辺りから内部抵抗の上昇が見られるが、この後は、内部抵抗の上昇が止まり、低抵抗な黒鉛負極の抵抗値付近に収束する。一方、図3では、層状構造体が絶縁体であるため、内部抵抗はさらに上昇を続ける。
【0044】
以上より、2,6−ナフタレンジカルボン酸負極を用いたリチウムイオンキャパシタでは、過放電が起こる前に負極の内部抵抗が急峻に上昇することなどによって電流が流れにくくなり、異常反応を制御するシャットダウン機能を有することがわかった。
【0045】
2.発熱の確認
[実験例3]
(2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極の作製)
実験例1と同様にして得られた2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを60.0質量%、繊維状炭素導電材として比表面積が13m2/gで繊維長が平均15μmであるVGCF(気相成長炭素繊維)を10.0質量%、粒子状炭素導電材として比表面積が225m2/gで粒子径が平均25nmであるカーボンブラックを20.0質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデンを10.0質量%混合し、分散材としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2.05cm2の面積に打ち抜いて円盤状の負極を準備した。
【0046】
(二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記負極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東燃タピルス)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0047】
(Li吸蔵状態負極の発熱測定)
上記二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.02mAで0.5Vまで還元(充電)したのち、シート負極から合材を3.8mg剥ぎ取り、2μLの上記電解液をステンレス容器に加え密閉して、昇温温度:450℃、昇温速度:5℃/minの条件下での示差走査熱量測定を行った。
【0048】
[実験例4]
二極式評価セルの負極に実験例2の黒鉛負極を用い、20℃の温度環境下、0.02mAで0.05Vまで還元(充電)した以外は、実験例3と同様にLi吸蔵状態負極の発熱測定を行った。
【0049】
[実験結果]
図5に、実験例3,4の示差走査熱量測定の結果を示す。また、図6には、実験例3,4の総発熱量を、図7には、実験例3,4の容量あたりの総発熱量を示す。図5〜7より、黒鉛負極に比べて2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極では発熱量が小さいことがわかった。よって、黒鉛負極を用いたリチウムイオンキャパシタに比べて、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極を用いた方が、発熱量の低減が期待できることがわかった。
【0050】
3.放電特性
[実験例5]
(2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極の作製)
銅箔集電体に単位面積当たりの2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムが2.0mg/cm2となるように均一に塗布した以外は、実験例1と同様に実験例5の2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極を作製した。
【0051】
(活性炭正極の作製)
ヤシ殻活性炭(クラレケミカル株式会社製、YP−50F)を83質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500)を10.7質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)(ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)を4質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR)(日本ゼオン、BM−400B)を2.3質量%を混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を15μm厚さのアルミ箔集電体に、単位面積当たり活性炭が3mg/cm2となるように均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2.05cm2の面積に打ち抜いて円盤状の電極を準備した。その後、アルゴン不活性雰囲気下で300℃, 12時間、焼成を行った。
【0052】
(二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記の2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極と、活性炭正極との間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。この2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極は、事前に、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製し、20℃の温度環境下、0.075mAで0.5Vまで還元した後、0.075mAで1.5Vまで酸化させ、電極の容量密度を算出し、その容量密度の半分まで還元させた電極を用いた。
【0053】
(充放電試験)
上記二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.3mAで3.4Vまで充電した後、0.3mAで1.5Vまで放電させた。この充放電操作を5回行った。その後、充電電圧を3.7、4.0、4.2Vと変えて、同様の充放電操作を行った。
【0054】
[実験例6〜8]
2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを単位面積当たり4mg/cm2となるように均一に塗布した以外は、実験例5と同様に実験例6の充放電試験を行った。また、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを単位面積当たり6mg/cm2となるように均一に塗布した以外は、実験例5と同様に実験例7の充放電試験を行った。また、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを単位面積当たり8mg/cm2となるように均一に塗布した以外は、実験例5と同様に実験例7の充放電試験を行った。
【0055】
[実験例9]
(4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウム負極の作製)
2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムと同様の合成方法によって、4,4’−ビフェニルジカルボン酸と水酸化リチウム1水和物から、層状構造体としての4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウム(式(8))を合成した。合成した4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを活物質として用い、単位面積当たり2mg/cm2となるように均一に塗布した以外は、実験例5と同様に実験例9の充放電試験を行った。
【0056】
【化6】
【0057】
[実験例10〜12]
4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを単位面積当たり4mg/cm2となるように均一に塗布した以外は、実験例9と同様に実験例10の充放電試験を行った。4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを単位面積当たり6mg/cm2となるように均一に塗布した以外は、実験例9と同様に実験例11の充放電試験を行った。4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを単位面積当たり8mg/cm2となるように均一に塗布した以外は、実験例9と同様に実験例12の充放電試験を行った。
【0058】
[実験結果]
表1に各充放電電圧範囲における正極の有する電気容量A(mAh)に対する負極の有する電気容量B(mAh)の容量比B/Aを示す。また、図8,9に実験例5〜8,実験例9〜12の各充放電条件におけるエネルギー密度を示す。容量比B/Aが6以上ではより安定したサイクル特性を有し、7以上ではさらに安定したサイクル特性を有することがわかった。また、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを用いた負極では、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを4mg/cm2以上用いた場合に、正負極活物質の合計重量当たりのエネルギー密度が40〜90Wh/kgの高い値を安定的に示し、良好な充放電が可能であることがわかった。また、4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを用いた負極では、4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを4mg/cm2以上用いた場合に、正負極活物質の合計重量当たりのエネルギー密度が40〜120Wh/kgの高い値を安定的に示し、良好な充放電が可能であることがわかった。このことから、本発明の層状構造体を含む負極では、一般的なリチウムイオンキャパシタに用いる黒鉛負極において実際に利用可能な容量(約70mAh/g)に比べて、大きな容量を利用可能であることがわかった。また黒鉛負極を用いる場合と、同等の電圧で充放電可能であるため、エネルギー密度をより高めることができることがわかった。
【0059】
【表1】
【0060】
4.負極合材の配合比の検討
以下では、負極合材における層状構造体の配合比について、参考例として検討した。
[参考例1]
(2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極の作製)
上記手法で作製した2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを73.9質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500(直径約50nm))を13.0質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)(ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)を5.2質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR)(日本ゼオン、BM−400B)を7.8質量%を混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2.05cm2の面積に打ち抜いて円盤状の電極を準備した。
【0061】
(二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水系溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記の2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0062】
(充放電試験)
作製した二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.14mAで0.5Vまで還元(放電)したのち、0.14mAで2.0Vまで酸化(充電)させた。この充放電操作において、1回目の還元容量をQ(1st)red、酸化容量をQ(1st)oxiとし、10回目の還元容量をQ(10th)red、酸化容量をQ(10th)oxiとした。そして、(Q(1st)oxi/Q(1st)red)×100の式より初期効率を算出した。また、(Q(10th)oxi/Q(1st)oxi)×100の式より10サイクル後の容量維持率を算出した。また、最大容量は、1回目から10回目の酸化容量のうち最大のものとした。
【0063】
[参考例2〜12]
塗工電極の作成において、負極の構成を表2に示すものに変更した以外は、参考例1と同様にセルを作製し、充放電試験を行った。なお、参考例12では、繊維状導電材として、繊維状炭素(気相成長炭素繊維、昭和電工製、VGCF(直径約150nm、長さ約10〜20μm))を用い、結着材としてポリフッ化ビニリデンを用い、分散剤としてN−メチル−2−ピロリドンを用いた。
【0064】
[結果と考察]
表2に、参考例1〜12の、最大容量、初期効率及び容量維持率の結果を示す。また、図10〜12にCMCの割合と最大容量、初期効率、容量維持率との関係を表すグラフを示す。表2より、CMC系結着材を用いなかった参考例10や、CMC系結着材を過剰に用いた参考例11、PVdF系結着材を用いた参考例12に比べて、CMC系結着材を2質量%以上8質量%以下の割合で用いた参考例1〜8では、最大容量、初期効率及び容量維持率の全てにおいて優れていることが分かった。この点について、電極の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、参考例1〜8では電極合材全体が黒っぽく、活物質、導電材及び水溶性ポリマーが均一に混合しており集電体に密着していた。これに対し、参考例10では、電極合材に白い部分と黒い部分とが混在しており、相分離していた。また、参考例11や12では、電極合材が集電体に密着していない部分が多く観察された。このことから、CMC系結着材を適量用いた参考例1〜8では、CMC系結着材を用いない参考例10、CMC系結着材を過剰に用いた参考例11、PVdF系の結着材を用いた参考例12よりも、活物質や導電材を均一に混合させて集電体に密着させる効果が高いため、電極内での不均一反応の発生を抑制することができ、充放電特性をより高めることができるものと推察された。また、図10,11より、電極中のCMCが8.0質量%以下であれば、最大容量や初期効率をより高めることができることがわかった。また、図12より、電極中のCMCが2.0質量%以上8.0質量%以下であれば、容量維持率をより高めることができることがわかった。なお、電極中のCMCが1.9質量%である参考例9では、最大容量や初期効率は参考例1〜8と同等であるものの、容量維持率は参考例1〜8よりも1割以上低い値となった。よって、電極は、水溶性ポリマーを2質量%以上8質量%以下の範囲で含むものとすることで、より良好な発現容量、初期効率、容量維持率を示すことがわかった。
【0065】
【表2】
【0066】
5.その他
2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムの動作電位はリチウム金属基準で0.8V、4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムの動作電位はリチウム金属基準で0.7Vである。そこから両者を負極に用いたリチウムイオンキャパシタの活性炭正極の到達電位を見積もると、それぞれ5Vと4.9Vとなる。一方、黒鉛を用いたリチウムイオンキャパシタの活性炭正極の電位は、リチウム金属基準で4Vである。このことから、黒鉛を用いたリチウムイオンキャパシタよりも、本発明の層状構造体を負極として用いたリチウムイオンキャパシタの方が、活性炭正極の到達電位をより高電位にすることができると推察される。
【0067】
ところで、活性炭正極ではその電位が4.2V以上となるとガス発生を起こすことが知られており、リチウムイオンキャパシタのセルの上限電圧は活性炭正極の到達電位の制限によって決まる。このガス成分の1つである水素ガスの発生機構は、正極で分解された生成物が負極へ拡散して還元分解することによると考えられている(例えば、Electrochem. Commun. 7. 925-930 (2005).参照)。ここで、本発明の層状構造体を備えた負極は黒鉛負極よりも高い電位で動作していることから、正極で生成した成分が拡散され負極上でガス発生を伴う分解がされにくくなり、結果として、正極活性炭の動作電位を高めても、セルの劣化を抑制できると推察される。
【0068】
6.まとめ
以上より、本発明の層状構造体を負極に用いたリチウムイオンキャパシタでは、過放電によるセルの劣化をより容易に抑制でき、また、発熱を抑制できることがわかった。また、正極の有する電気容量Aに対する負極の有する電気容量Bの比である容量比B/Aの値が6以上となるような組合せで用いると、高いエネルギー密度を安定的に得ることができ、好ましいことがわかった。なお、実施例では、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムや、4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを負極とした場合について具体的に検討したが、これらに構造が類似している本発明の層状構造体では、いずれも同様の効果が得られると推察された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、電池産業の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 蓄電デバイス、11 集電体、12 正極合材、13 正極シート、14 集電体、17 負極合材、18 負極シート、19 セパレータ、20 非水電解液、22 円筒ケース、24 正極端子、26 負極端子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12