【実施例】
【0036】
以下には、本発明の蓄電デバイスを具体的に作製した例について説明する。なお、実験例1,3,5〜12が本発明の実施例に相当し、実験例2,4が比較例に相当する。本発明は、下記の実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0037】
1.過放電時のシャットダウン機能
[実験例1]
(2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの合成)
層状構造体としての2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムの合成には、出発原料として2,6−ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H
2O)を用いた。具体的には、まず、水酸化リチウム1水和物(0.556g)にメタノール(100mL)を加え撹拌した。水酸化リチウム1水和物がとけた後に2,6−ナフタレンジカルボン酸(1.0g)を加え1時間撹拌した。撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより白色の粉末試料の2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム(式(7))を合成した。
【0038】
【化5】
【0039】
(2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極の作製)
活物質として上記手法で作製した2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを77.7質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500(直径約50nm))を13.7質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)(ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)を5.5質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR)(日本ゼオン、BM−400B)を3.2質量%混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に単位面積当たりの2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム活物質が3.5mg/cm
2となるように均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2.05cm
2の面積に打ち抜いて円盤状の負極を準備した。
【0040】
(二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水系電解液を作製した。上記2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極とし、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0041】
(間欠充放電試験)
上記二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下で、以下の間欠充放電試験を行った。まず、電流値0.15mA(200mAh/gを容量基準として10時間放電に相当する電流値)で20mAh/g放電(作用極の還元)を行い、その後、セルを開回路状態とし、電圧変化が1mV/800sec.以下となるまで(ただし、最大6時間まで)放置した。この通電・開回路放置操作を放電方向に20回繰り返すことにより間欠放電試験を行った。次に、電流値0.15mAで20mAh/g充電(作用極の酸化)を行い、その後、セルを開回路状態とし、電圧変化が1mV/800sec.以下となるまで(ただし、最大6時間まで)放置した。この通電・開回路放置操作を充電方向に繰り返すことにより間欠充電試験を行った。繰り返しの回数は、内部抵抗Rが約670Ωに達するまでとした。内部抵抗Rは、各通電・開回路動作毎に、通電前(開回路時)の電圧V0と通電1秒後の電圧V1を測定し、電圧V0,V1と電流I(=0.15mA)からR=(V0−V1)/Iの式によって求めた。
【0042】
[実験例2]
活物質として、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムに代えて、d
002=0.388nm以下の黒鉛を用いた。この活物質95質量%と、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(クレハ製 KFポリマ)を5質量%とを混合し、NMPで分散させて負極合材のペーストを得た。このペーストを、厚さ10μm銅箔の両面に塗工し乾燥させ、ロールプレスして、合材層の空隙率を36%に調節してシート状の黒鉛負極を得た。得られた黒鉛負極を作用極として用い、間欠充放電試験における各通電条件を電流値0.15mAで37mAh/g放電(又は充電)とし、間欠充電試験の繰り返し回数を内部抵抗Rが約140Ωに達するまでとした以外は、実験例1と同様とした。
【0043】
[実験結果]
図3,4に、実験例1,2の、内部抵抗変化を示した。規格化容量は、実験例1では容量基準である215mAh/gを1として規格化したときの残容量であり、実験例2では容量基準である360mAh/gを1として規格化したときの残容量である。
図3,4に示した内部抵抗変化は、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極や黒鉛負極を負極として使用し、活性炭電極を正極として構成したリチウムイオンキャパシタにおける、セル放電方向(層状構造体からのリチウムの脱離が進行する方向)での負極の内部抵抗変化に相当する。2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極を用いた実験例1ではセル放電方向に向けて内部抵抗が急激に上昇した。一方、黒鉛負極を用いた実験例2では内部抵抗がそれほど大きくならなかった。なお、
図3,4に示した内部抵抗変化は、いずれも、過放電状態(ここではリチウムイオンキャパシタにおいてセル電圧1.5V以下に相当する状態)となる前のものである。
図4では、セル放電方向に向かって、規格化容量が0.2を過ぎた辺りから内部抵抗の上昇が見られるが、この後は、内部抵抗の上昇が止まり、低抵抗な黒鉛負極の抵抗値付近に収束する。一方、
図3では、層状構造体が絶縁体であるため、内部抵抗はさらに上昇を続ける。
【0044】
以上より、2,6−ナフタレンジカルボン酸負極を用いたリチウムイオンキャパシタでは、過放電が起こる前に負極の内部抵抗が急峻に上昇することなどによって電流が流れにくくなり、異常反応を制御するシャットダウン機能を有することがわかった。
【0045】
2.発熱の確認
[実験例3]
(2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極の作製)
実験例1と同様にして得られた2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを60.0質量%、繊維状炭素導電材として比表面積が13m
2/gで繊維長が平均15μmであるVGCF(気相成長炭素繊維)を10.0質量%、粒子状炭素導電材として比表面積が225m
2/gで粒子径が平均25nmであるカーボンブラックを20.0質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデンを10.0質量%混合し、分散材としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2.05cm
2の面積に打ち抜いて円盤状の負極を準備した。
【0046】
(二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記負極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東燃タピルス)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0047】
(Li吸蔵状態負極の発熱測定)
上記二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.02mAで0.5Vまで還元(充電)したのち、シート負極から合材を3.8mg剥ぎ取り、2μLの上記電解液をステンレス容器に加え密閉して、昇温温度:450℃、昇温速度:5℃/minの条件下での示差走査熱量測定を行った。
【0048】
[実験例4]
二極式評価セルの負極に実験例2の黒鉛負極を用い、20℃の温度環境下、0.02mAで0.05Vまで還元(充電)した以外は、実験例3と同様にLi吸蔵状態負極の発熱測定を行った。
【0049】
[実験結果]
図5に、実験例3,4の示差走査熱量測定の結果を示す。また、
図6には、実験例3,4の総発熱量を、
図7には、実験例3,4の容量あたりの総発熱量を示す。
図5〜7より、黒鉛負極に比べて2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極では発熱量が小さいことがわかった。よって、黒鉛負極を用いたリチウムイオンキャパシタに比べて、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極を用いた方が、発熱量の低減が期待できることがわかった。
【0050】
3.放電特性
[実験例5]
(2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極の作製)
銅箔集電体に単位面積当たりの2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムが2.0mg/cm
2となるように均一に塗布した以外は、実験例1と同様に実験例5の2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極を作製した。
【0051】
(活性炭正極の作製)
ヤシ殻活性炭(クラレケミカル株式会社製、YP−50F)を83質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500)を10.7質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)(ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)を4質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR)(日本ゼオン、BM−400B)を2.3質量%を混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を15μm厚さのアルミ箔集電体に、単位面積当たり活性炭が3mg/cm
2となるように均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2.05cm
2の面積に打ち抜いて円盤状の電極を準備した。その後、アルゴン不活性雰囲気下で300℃, 12時間、焼成を行った。
【0052】
(二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記の2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極と、活性炭正極との間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。この2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極は、事前に、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製し、20℃の温度環境下、0.075mAで0.5Vまで還元した後、0.075mAで1.5Vまで酸化させ、電極の容量密度を算出し、その容量密度の半分まで還元させた電極を用いた。
【0053】
(充放電試験)
上記二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.3mAで3.4Vまで充電した後、0.3mAで1.5Vまで放電させた。この充放電操作を5回行った。その後、充電電圧を3.7、4.0、4.2Vと変えて、同様の充放電操作を行った。
【0054】
[実験例6〜8]
2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを単位面積当たり4mg/cm
2となるように均一に塗布した以外は、実験例5と同様に実験例6の充放電試験を行った。また、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを単位面積当たり6mg/cm
2となるように均一に塗布した以外は、実験例5と同様に実験例7の充放電試験を行った。また、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを単位面積当たり8mg/cm
2となるように均一に塗布した以外は、実験例5と同様に実験例7の充放電試験を行った。
【0055】
[実験例9]
(4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウム負極の作製)
2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムと同様の合成方法によって、4,4’−ビフェニルジカルボン酸と水酸化リチウム1水和物から、層状構造体としての4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウム(式(8))を合成した。合成した4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを活物質として用い、単位面積当たり2mg/cm
2となるように均一に塗布した以外は、実験例5と同様に実験例9の充放電試験を行った。
【0056】
【化6】
【0057】
[実験例10〜12]
4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを単位面積当たり4mg/cm
2となるように均一に塗布した以外は、実験例9と同様に実験例10の充放電試験を行った。4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを単位面積当たり6mg/cm
2となるように均一に塗布した以外は、実験例9と同様に実験例11の充放電試験を行った。4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを単位面積当たり8mg/cm
2となるように均一に塗布した以外は、実験例9と同様に実験例12の充放電試験を行った。
【0058】
[実験結果]
表1に各充放電電圧範囲における正極の有する電気容量A(mAh)に対する負極の有する電気容量B(mAh)の容量比B/Aを示す。また、
図8,9に実験例5〜8,実験例9〜12の各充放電条件におけるエネルギー密度を示す。容量比B/Aが6以上ではより安定したサイクル特性を有し、7以上ではさらに安定したサイクル特性を有することがわかった。また、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを用いた負極では、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを4mg/cm
2以上用いた場合に、正負極活物質の合計重量当たりのエネルギー密度が40〜90Wh/kgの高い値を安定的に示し、良好な充放電が可能であることがわかった。また、4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを用いた負極では、4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを4mg/cm
2以上用いた場合に、正負極活物質の合計重量当たりのエネルギー密度が40〜120Wh/kgの高い値を安定的に示し、良好な充放電が可能であることがわかった。このことから、本発明の層状構造体を含む負極では、一般的なリチウムイオンキャパシタに用いる黒鉛負極において実際に利用可能な容量(約70mAh/g)に比べて、大きな容量を利用可能であることがわかった。また黒鉛負極を用いる場合と、同等の電圧で充放電可能であるため、エネルギー密度をより高めることができることがわかった。
【0059】
【表1】
【0060】
4.負極合材の配合比の検討
以下では、負極合材における層状構造体の配合比について、参考例として検討した。
[参考例1]
(2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム負極の作製)
上記手法で作製した2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムを73.9質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500(直径約50nm))を13.0質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)(ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)を5.2質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR)(日本ゼオン、BM−400B)を7.8質量%を混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2.05cm
2の面積に打ち抜いて円盤状の電極を準備した。
【0061】
(二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水系溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記の2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウム電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0062】
(充放電試験)
作製した二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.14mAで0.5Vまで還元(放電)したのち、0.14mAで2.0Vまで酸化(充電)させた。この充放電操作において、1回目の還元容量をQ(1st)red、酸化容量をQ(1st)oxiとし、10回目の還元容量をQ(10th)red、酸化容量をQ(10th)oxiとした。そして、(Q(1st)oxi/Q(1st)red)×100の式より初期効率を算出した。また、(Q(10th)oxi/Q(1st)oxi)×100の式より10サイクル後の容量維持率を算出した。また、最大容量は、1回目から10回目の酸化容量のうち最大のものとした。
【0063】
[参考例2〜12]
塗工電極の作成において、負極の構成を表2に示すものに変更した以外は、参考例1と同様にセルを作製し、充放電試験を行った。なお、参考例12では、繊維状導電材として、繊維状炭素(気相成長炭素繊維、昭和電工製、VGCF(直径約150nm、長さ約10〜20μm))を用い、結着材としてポリフッ化ビニリデンを用い、分散剤としてN−メチル−2−ピロリドンを用いた。
【0064】
[結果と考察]
表2に、参考例1〜12の、最大容量、初期効率及び容量維持率の結果を示す。また、
図10〜12にCMCの割合と最大容量、初期効率、容量維持率との関係を表すグラフを示す。表2より、CMC系結着材を用いなかった参考例10や、CMC系結着材を過剰に用いた参考例11、PVdF系結着材を用いた参考例12に比べて、CMC系結着材を2質量%以上8質量%以下の割合で用いた参考例1〜8では、最大容量、初期効率及び容量維持率の全てにおいて優れていることが分かった。この点について、電極の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、参考例1〜8では電極合材全体が黒っぽく、活物質、導電材及び水溶性ポリマーが均一に混合しており集電体に密着していた。これに対し、参考例10では、電極合材に白い部分と黒い部分とが混在しており、相分離していた。また、参考例11や12では、電極合材が集電体に密着していない部分が多く観察された。このことから、CMC系結着材を適量用いた参考例1〜8では、CMC系結着材を用いない参考例10、CMC系結着材を過剰に用いた参考例11、PVdF系の結着材を用いた参考例12よりも、活物質や導電材を均一に混合させて集電体に密着させる効果が高いため、電極内での不均一反応の発生を抑制することができ、充放電特性をより高めることができるものと推察された。また、
図10,11より、電極中のCMCが8.0質量%以下であれば、最大容量や初期効率をより高めることができることがわかった。また、
図12より、電極中のCMCが2.0質量%以上8.0質量%以下であれば、容量維持率をより高めることができることがわかった。なお、電極中のCMCが1.9質量%である参考例9では、最大容量や初期効率は参考例1〜8と同等であるものの、容量維持率は参考例1〜8よりも1割以上低い値となった。よって、電極は、水溶性ポリマーを2質量%以上8質量%以下の範囲で含むものとすることで、より良好な発現容量、初期効率、容量維持率を示すことがわかった。
【0065】
【表2】
【0066】
5.その他
2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムの動作電位はリチウム金属基準で0.8V、4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムの動作電位はリチウム金属基準で0.7Vである。そこから両者を負極に用いたリチウムイオンキャパシタの活性炭正極の到達電位を見積もると、それぞれ5Vと4.9Vとなる。一方、黒鉛を用いたリチウムイオンキャパシタの活性炭正極の電位は、リチウム金属基準で4Vである。このことから、黒鉛を用いたリチウムイオンキャパシタよりも、本発明の層状構造体を負極として用いたリチウムイオンキャパシタの方が、活性炭正極の到達電位をより高電位にすることができると推察される。
【0067】
ところで、活性炭正極ではその電位が4.2V以上となるとガス発生を起こすことが知られており、リチウムイオンキャパシタのセルの上限電圧は活性炭正極の到達電位の制限によって決まる。このガス成分の1つである水素ガスの発生機構は、正極で分解された生成物が負極へ拡散して還元分解することによると考えられている(例えば、Electrochem. Commun. 7. 925-930 (2005).参照)。ここで、本発明の層状構造体を備えた負極は黒鉛負極よりも高い電位で動作していることから、正極で生成した成分が拡散され負極上でガス発生を伴う分解がされにくくなり、結果として、正極活性炭の動作電位を高めても、セルの劣化を抑制できると推察される。
【0068】
6.まとめ
以上より、本発明の層状構造体を負極に用いたリチウムイオンキャパシタでは、過放電によるセルの劣化をより容易に抑制でき、また、発熱を抑制できることがわかった。また、正極の有する電気容量Aに対する負極の有する電気容量Bの比である容量比B/Aの値が6以上となるような組合せで用いると、高いエネルギー密度を安定的に得ることができ、好ましいことがわかった。なお、実施例では、2,6−ナフタレンジカルボン酸リチウムや、4,4’−ビフェニルジカルボン酸リチウムを負極とした場合について具体的に検討したが、これらに構造が類似している本発明の層状構造体では、いずれも同様の効果が得られると推察された。