【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー部 共同研究「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発 次世代技術開発 高信頼性炭化水素系電解質膜の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イオン性基含有高分子電解質が、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)をそれぞれ1個以上含有するブロック共重合体である、請求項1〜4のいずれかに記載の高分子電解質膜。
前記イオン性基を含有するセグメント(A1)から構成される親水性ドメインと前記イオン性基を含有しないセグメント(A2)から構成される疎水性ドメインとが共連続様またはラメラ様の相分離構造を形成している、請求項5に記載の高分子電解質膜。
前記工程1において作製するポリアゾール粒子が、動的光散乱法により測定される粒子径分布において粒径2nmを超える粒子が確認されないものである、請求項12に記載の高分子電解質膜の製造方法。
前記工程2において、前記イオン性基含有高分子電解質を前記有機溶媒に溶解した高分子電解質溶液と、前記ポリアゾール粒子を前記有機溶媒に溶解したポリアゾール溶液をそれぞれ調製し、該高分子電解質溶液と該ポリアゾール溶液とを混合することで均一な電解質組成物溶液を調製する、請求項12または13に記載の高分子電解質膜の製造方法。
前記有機溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシドおよびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項12〜14のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
本発明の高分子電解質膜は、イオン性基含有高分子電解質と、ポリアゾールとを含有する高分子電解質膜であって、透過型電子顕微鏡観察においてポリアゾールを主成分とする2nm以上の
島状の相分離
構造が観察されない高分子電解質膜である。なお、本発明の高分子電解質膜の好ましい製造方法としては、イオン性基含有高分子電解質とポリアゾールとを含有する高分子電解質組成物を溶液製膜する方法があげられるが、それに限定するものではない。
【0025】
まず、高分子電解質膜の原料となる高分子電解質組成物を構成する各成分について説明する。
【0026】
〔ポリアゾール〕
本発明において高分子電解質組成物を構成する成分の一つであるポリアゾールは、アゾール環を分子内に複数有する化合物である。アゾール環を分子内に複数有する化合物の中でも、化学的安定性、耐熱性、耐溶出性が優れていることからアゾール環を骨格に含むポリマーが本発明に好ましく使用される。ここでアゾール環とは、環内に窒素原子を1個以上含む複素五員環である。なお、複素五員環は、炭素以外の異原子として窒素以外に酸素、硫黄等を含むものであっても構わない。
【0027】
アゾール環としては、例えば、炭素原子以外の異原子として1個の窒素原子のみを含有するピロール環の他に、炭素原子以外の異原子が2個のものとしては、イミダゾール(1,3−ジアゾール)環、オキサゾール環、チアゾール環、セレナゾール環、ピラゾール(1,2−ジアゾール)環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、等が、異原子が3個のものとしては、1H−1,2,3−トリアゾール(1,2,3−トリアゾール)環、1H−1,2,4−トリアゾール(1,2,4−トリアゾール)環、1,2,3−オキサジアゾール(ジアゾアンヒドリド)環、1,2,4−オキサジアゾール(ジアゾアンヒドリド)環、1,2,3−チアジアゾール環、1,2,4−チアジアゾール環等が、異原子が4個のものとしては、1H−1,2,3,4−テトラゾール(1,2,3,4−テトラゾール)環、1,2,3,5−オキサトリアゾール環、1,2,3,5−チアトリアゾール環などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0028】
これらアゾール環の中でも、酸性条件下における安定性から、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、セレナゾール環、1H−1,2,3−トリアゾール(1,2,3−トリアゾール)環、1H−1,2,4−トリアゾール(1,2,4−トリアゾール)環が好ましく、合成が容易で安価に用いることができることから、イミダゾール環がより好ましい。
【0029】
前記したようなアゾール環は、ベンゼン環などの芳香族環と縮合したものであってもよく、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、ナフタレン基、ジフェニレンエーテル基、ジフェニレンスルホン基、ビフェニレン基、ターフェニル基、2,2−ビス(4−カルボキシフェニレン)ヘキサフルオロプロパン基等の2価の芳香族基が複素五員環と結合した化合物を用いることが耐熱性を得る観点から好ましい。
【0030】
本発明において用いられるポリアゾールとしては、例えば、ポリイミダゾール系化合物、ポリベンズイミダゾール系化合物、ポリベンゾビスイミダゾール系化合物、ポリベンゾオキサゾール系化合物、ポリオキサゾール系化合物、ポリチアゾール系化合物、ポリベンゾチアゾール系化合物等の重合体が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0031】
これらポリアゾールの中でも、耐熱性、加工性の観点からポリベンズイミダゾール系化合物、ポリベンズビスイミダゾール系化合物、ポリベンズオキサゾール系化合物、ポリベンズチアゾール系化合物が好ましく、合成が容易で安価に用いることができることから、ポリベンズイミダゾール系化合物がより好ましい。
【0032】
本発明における耐久性向上のメカニズムは十分に解明されていないが、発明者らは、次の3点が理由であると推定している。但し、これらの推定は何ら本発明を限定するものではない。
(1)ポリアゾールに含まれる3価の窒素原子が5価のN−オキシドに酸化されることで、過酸化物分解剤として機能すること。
(2)ポリアゾールに含まれる窒素原子と、イオン性基含有高分子電解質に含まれるイオン性基とが、イオンコンプレックスや水素結合などの分子間相互作用により三次元的な架橋を形成することで、高分子電解質膜の機械強度が向上すると共に燃料電池運転中の膨潤・収縮が抑制されることにより物理的な劣化が抑制されること。
(3)窒素原子の部分が金属イオン(Fe
2+、Cu
2+など)に対する配位子として作用し、強固な錯体を形成することにより不活性化する金属不活性化剤としても機能すること。
【0033】
本発明の高分子電解質膜は、イオン性基含有高分子電解質とポリアゾールとを含有しており、透過型電子顕微鏡観察(以下「TEM観察」と略称することがある)においてポリアゾールを主成分とする2nm以上の
島状の相分離
構造が観察されないものである。ここで、TEM観察においてポリアゾールを主成分とする2nm以上の
島状の相分離
構造が観察されないとは、高分子電解質膜において、イオン性基含有高分子電解質とポリアゾールとが、均一に混合している状態を定量的に表現したものである。ポリアゾールを主成分とする2nm以上の
島状の相分離
構造が観察される場合、燃料電池運転中における高分子電解質膜の膨潤・収縮により、
島状の相分離
構造の界面部分において破断するため耐久性が低下するものと推測される。加えて、
島状の相分離
構造の界面部分のみにおいてポリアゾールとイオン性基含有高分子電解質とが接触している状態であるため、前記ポリアゾールによる、高分子電解質中の過酸化物を分解する効果を充分に得ることができず、またポリアゾールによるイオン性基との分子間相互作用形成が困難となるため本発明の効果が充分に得られなくなるものと推測される。
【0034】
前記高分子電解質膜におけるイオン性基含有高分子電解質とポリアゾールとの
島状の相分離
構造の有無は、以下のような方法により、ポリアゾールを主成分とする2nm以上の
島状の相分離
構造が観察されないことにより確認することができる。
【0035】
即ち、高分子電解質膜の厚み方向の断面について、任意に1箇所の15μm×15μmの領域をTEMで観察し、
島状の相分離
構造の有無及びサイズを確認する。イオン性基含有高分子電解質とポリアゾールが均一に混合せず相分離している場合、染色処理を施さずにTEM観察を行った場合のTEM像に、黒い島状の粒子(島相、或いは島粒子)が、灰色又は白色の海相(連続相)に分散した状態が観察される。島相(島粒子)の形状は、円形、楕円形、多角形、不定形等、特に限定されない。海/島構造において、黒い島粒子のコントラストは主にポリアゾールに起因し、白色の海(連続相)の部分は主にイオン性基含有高分子電解質に起因するものと考えられる。なお、海相に関しては、ポリマーの構造やTEM観察のコントラストによっては白色と灰色の共連続様またはラメラ様の相分離構造を形成していることがあるが、特に限定されるものではない。
【0036】
前記島相がポリアゾールを主成分としていることは、前記相分離構造をTEMにより観察する際、エネルギー分散型X線分析(EDX)もしくは電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて、窒素含有量をマッピングすることにより判定する。
【0037】
具体的な方法として、前記海/島構造において島相の50点において元素分析を行い島相内平均窒素量求め、下記の式に従い島相内におけるポリアゾール濃度を算出する。このとき、ポリアゾール濃度が50重量%以上であれば、該島相はポリアゾールが主成分であると判定することができる。
【0038】
ポリアゾール濃度(重量%)=
100×〔島相内平均窒素量(重量%)−ポリマー窒素量(重量%)〕/
〔アゾール窒素量(重量%)−ポリマー窒素量(重量%)〕
なお、ポリマー窒素量及びアゾール窒素量は、各々高分子電解質及びポリアゾールが含有する窒素量である。
【0039】
本発明のポリアゾールの重量平均分子量は、500以上30万以下であることが好ましく、500以上25万以下であればより好ましく、1000以上25万以下であればさらに好ましい。重量平均分子量が500未満の場合、ポリアゾールが高分子電解質膜の表面にブリードアウトすることにより発電性能を低下させることがある。一方、重量平均分子量が30万よりも大きい場合には、膜中におけるポリアゾールの分散性が悪くなるため高分子電解質とポリアゾールが2nm以上の相分離構造を形成しない高分子電解質膜の製造が困難になる場合がある。
【0040】
本発明の高分子電解質膜に使用されるポリアゾールとしては、スルホン酸基などを有する強酸性物質を含む水溶液に溶解しないものが好ましい。かかる観点からポリアゾールは、60℃の水及び硫酸に対する溶解度が100mg/L以下であれば好ましく、20mg/L以下であればより好ましく、4mg/L以下であれば特に好ましい。この範囲内であれば、ポリアゾールが、膜外に溶出することなく、効果を維持でき、より優れた化学的安定性や耐久性を得ることができる。
【0041】
本発明の高分子電解質膜中のポリアゾールの含有量は、発電特性と耐久性のバランスを考慮して適宜選択することができ、限定されるものではないが、高分子電解質膜中の不揮発性成分全体の0.002重量%以上、15重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.01重量%以上、5重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以上、3重量%以下である。0.002重量%未満では、耐久性が不足する場合がある。また、15重量%を越える場合は、プロトン伝導性が不足する場合がある。
【0042】
本発明で使用するポリアゾールはイオン性基を含有していないものが好ましい。ここで、イオン性基とは、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ヒドロキシル基等を指す。ポリアゾールがイオン性基を有している場合、水及び酸への溶解性が上がるため、ポリアゾールが膜外へ溶出し化学的安定性や耐久性が低下する場合がある。また、ポリアゾールが含有するイオン性基と窒素原子とが塩を形成するため、イオン性基含有高分子電解質が有するイオン性基との分子間相互作用を形成しにくくなり、過酸化水素やヒドロキシラジカルの分解、膨潤・収縮の抑制、機械強度の向上といった効果が充分に得られない場合がある。
【0043】
〔イオン性基含有高分子電解質〕
次に、本発明に使用するイオン性基含有高分子電解質について説明する。
【0044】
本発明で使用するイオン性基含有高分子電解質としては、後述する様なイオン性基を含有し発電特性と化学的安定性を両立できるものであれば、構造は限定されないが、例えばパーフルオロ系ポリマーや炭化水素系ポリマーが代表的なものとして挙げられる。
【0045】
パーフルオロ系ポリマーとは、ポリマー中のアルキル基および/またはアルキレン基の水素の大部分または全部がフッ素原子に置換されたものであり、イオン性基を有するパーフルオロ系ポリマーの代表例としては、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製)、フレミオン(登録商標)(旭硝子社製)およびアシプレックス(登録商標)(旭化成社製)などの市販品を挙げることができる。これらパーフルオロ系ポリマーは、湿度変化に伴う膨潤・収縮が小さいため、湿度変化に伴う電解質膜の破損は起こりにくいことから好ましく用いることができる。
【0046】
一方で、これらパーフルオロ系ポリマーは、非常に高価であり、ガスクロスオーバーが大きいという課題がある。かかる観点からは、イオン性基含有高分子電解質として炭化水素系ポリマーを用いることが好ましい。また、炭化水素系ポリマーは、機械強度、化学的安定性などの点からも、好ましく用いることができ、主鎖に芳香環を有する炭化水素系ポリマーであることがより好ましい。中でも、エンジニアリングプラスチックとして使用されるような十分な機械強度および物理的耐久性を有する炭化水素系ポリマーが好ましい。ここで、芳香環は、炭化水素のみからなる芳香環だけでなく、ヘテロ環などを含んでいてもよい。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットや、炭化水素以外の結合基がポリマーを構成していてもかまわない。
【0047】
主鎖に芳香環を有する炭化水素系ポリマーの好ましい例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホン等のポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
機械強度や物理的耐久性と、製造コストの観点を総合すると、芳香族ポリエーテル系ポリマーがさらに好ましい。さらに、主鎖骨格構造のパッキングの良さおよび極めて強い分子間凝集力から結晶性を示し、一般的な溶媒に溶解しない性質を有するとともに、引張強伸度、引裂強度および耐疲労性に優れる点から、芳香族ポリエーテルケトン系ポリマーが特に好ましい。ここで、芳香族ポリエーテルケトン系ポリマーとは、主鎖に少なくとも芳香環、エーテル結合およびケトン結合を有しているポリマーの総称であり、芳香族ポリエーテルケトン、芳香族ポリエーテルケトンケトン、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエーテルエーテルケトンケトン、芳香族ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、芳香族ポリエーテルケトンスルホン、芳香族ポリエーテルケトンホスフィンオキシド、芳香族ポリエーテルケトンニトリルなどを含む。
【0049】
イオン性基含有高分子電解質のイオン性基は、負電荷を有する原子団が好ましく、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく用いられる。中でも、プロトン伝導度が高いという点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基または硫酸基を有することがより好ましく、原料コストの点から少なくともスルホン酸基を有することがさらに好ましい。
【0050】
また、イオン性基は、塩となっている場合を含むものとする。イオン性基が、塩を形成している場合の対カチオンとしては、任意の金属カチオン、NR
4+(Rは任意の有機基)等を例として挙げることができる。金属カチオンの場合、その価数等特に限定されるものではなく、使用することができる。好ましい金属カチオンの具体例としては、Li、Na、K、Rh、Mg、Ca、Sr、Ti、Al、Fe、Pt、Rh、Ru、Ir、Pd等のカチオンが挙げられる。中でも、安価でかつ容易にプロトン置換可能なNa、K、Liのカチオンが好ましく使用される。
【0051】
本発明に使用するイオン性基含有高分子電解質の構造について詳細は後述するが、当該構造中にイオン性基を導入する方法は、イオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法と、高分子反応でイオン性基を導入する方法が挙げられる。
【0052】
イオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法としては、繰り返し単位中にイオン性基を有したモノマーを用いればよい。かかる方法は例えば、ジャーナル オブ メンブレン サイエンス(Journal of Membrane Science),197,2002,p.231−242に記載がある。この方法はポリマーのイオン交換容量の制御が容易であり好ましい。
【0053】
高分子反応でイオン性基を導入する方法としては、例えば、ポリマープレプリンツ(Polymer Preprints, Japan),51,2002,p.750等に記載の方法によって可能である。芳香族系高分子へのリン酸基導入は、例えばヒドロキシル基を有する芳香族系高分子のリン酸エステル化によって可能である。芳香族系高分子へのカルボン酸基導入は、例えばアルキル基やヒドロキシアルキル基を有する芳香族系高分子を酸化することによって可能である。芳香族系高分子への硫酸基導入は、例えばヒドロキシル基を有する芳香族系高分子の硫酸エステル化によって可能である。芳香族系高分子へのスルホン酸基の導入は、たとえば特開平2−16126号公報あるいは特開平2−208322号公報等に記載の方法を用いることができる。具体的には、例えば、芳香族系高分子をクロロホルム等の溶媒中でクロロスルホン酸のようなスルホン化剤と反応させたり、濃硫酸や発煙硫酸中で反応させたりすることによりスルホン化することができる。スルホン化剤には芳香族系高分子をスルホン化するものであれば特に制限はなく、上記以外にも三酸化硫黄等を使用することができる。この方法により芳香族系高分子をスルホン化する場合には、スルホン化の度合いはスルホン化剤の使用量、反応温度および反応時間により、制御することができる。芳香族系高分子へのスルホンイミド基の導入は、例えばスルホン酸基とスルホンアミド基を反応させる方法によって可能である。
【0054】
このようにして得られるイオン性基含有高分子電解質の分子量は、ポリスチレン換算重量平均分子量で、0.1万〜500万であることが好ましく、1万〜50万であることがより好ましい。0.1万未満では、成型した膜にクラックが発生するなど機械強度、物理的耐久性、耐溶剤性のいずれかが不十分な場合がある。一方、500万を超えると、溶解性が不充分となり、また溶液粘度が高く、加工性が不良になるなどの問題が生じる場合がある。
【0055】
本発明に使用するイオン性基含有高分子電解質としては、低加湿条件でのプロトン伝導性や発電特性の点から、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)とをそれぞれ1個以上含有するブロック共重合体であることが好ましい。また、さらにセグメント間を連結するリンカー部位を有するブロック共重合体はさらに好ましい。リンカーの存在により、副反応を効果的に抑制しながら異なるセグメントを連結することができる。
【0056】
イオン性基を含有するセグメント(A1)、イオン性基を含有しないセグメント(A2)の数平均分子量は、低加湿でのプロトン伝導性と物理的耐久性のバランスから、それぞれ0.5万以上が好ましく、1万以上がより好ましく、1.5万以上がさらに好ましい。また、5万以下が好ましく、4万以下がより好ましくは、3万以下がさらに好ましい。
【0057】
イオン性基含有高分子電解質として、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)とをそれぞれ1個以上含有するブロック共重合体を使用する場合におけるブロック共重合体としては、イオン性基を含有するセグメント(A1)が下記一般式(S1)で、イオン性基を含有しないセグメント(A2)が下記一般式(S2)で、表されるものが好ましい。
【0059】
(一般式(S1)中、Ar
1〜Ar
4は任意の2価のアリーレン基を表し、Ar
1およびAr
2の少なくとも1つは置換基としてイオン性基を有している。Ar
3およびAr
4は置換基としてイオン性基を有しても有しなくてもよい。Ar
1〜Ar
4はイオン性基以外の基で任意に置換されていてもよい。Ar
1〜Ar
4は構成単位ごとに同じでも異なっていてもよい。*は一般式(S1)または他の構成単位との結合部位を表す。)
【0061】
(一般式(S2)中、Ar
5〜Ar
8は任意の2価のアリーレン基を表し、置換されていてもよいが、イオン性基を有しない。Ar
5〜Ar
8は構成単位ごとに同じでも異なっていてもよい。*は一般式(S2)または他の構成単位との結合部位を表す。)
上記一般式(S1)および(S2)で表される構成単位を含有するブロック共重合体は、電子吸引性のケトン基で全てのアリーレン基が化学的に安定化されており、なおかつ、平面に近い構造であるため分子のパッキングが良くなることから結晶性の付与により機械強度を向上させることができる。また、ガラス転移温度が低下することにより柔軟化し、物理的耐久性を高くすることもできることから好ましい。
【0062】
上記一般式(S1)および(S2)における2価のアリーレン基Ar
1〜Ar
8の無置換の骨格としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基が挙げられ、好ましくはフェニレン基であり、より好ましくはp−フェニレン基である。
【0063】
上記イオン性基を含有するセグメント(A1)としては、化学的に安定で、電子吸引効果により酸性度が高められ、イオン性基が高密度に導入された構成単位がより好ましい。また、イオン性基を含有しないセグメント(A2)としては、化学的に安定な上、強い分子間凝集力を持たせ得ることから結晶性を示す構成単位がより好ましい。
【0064】
上記イオン性基を含有するセグメント(A1)中に含まれる一般式(S1)で表される構成単位の含有率としては、イオン性基を含有するセグメント(A1)中の20モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。また、イオン性基を含有しないセグメント(A2)中に含まれる一般式(S2)で表される構成単位の含有率としては、イオン性基を含有しないセグメント(A2)中の20モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。イオン性基を含有しないセグメント(A2)中に含まれる一般式(S2)の含有率が20モル%未満である場合には、結晶性の付与による機械強度、寸法安定性、物理的耐久性に対する本発明の効果が不足する場合がある。
【0065】
上記一般式(S1)で表される構成単位の好ましい具体例としては、原料入手性の点で、下記一般式(P2)で表される構成単位が挙げられる。中でも、原料入手性と重合性の点から、下記式(P3)で表される構成単位がより好ましく、下記式(P4)で表される構成単位がさらに好ましい。
【0067】
(式(P2)(P3)(P4)中、M
1〜M
4は、水素カチオン、金属カチオン、アンモニウムカチオンNR
4+(Rは任意の有機基)を表し、M
1〜M
4は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、r1〜r4は、それぞれ独立に0〜4の整数を表し、r1+r2は1〜8の整数であり、r1〜r4は構成単位ごとに異なっていてもよい。*は式(P2)(P3)(P4)または他の構成単位との結合部位を表す。)
本発明でイオン性基含有高分子電解質として、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)とをそれぞれ1個以上含有するブロック共重合体を使用する場合におけるブロック共重合体としては、イオン性基を含有するセグメント(A1)と、イオン性基を含有しないセグメント(A2)のモル組成比(A1/A2)が、0.2以上であることが好ましく、0.33以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。また、5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。モル組成比A1/A2が、0.2未満あるいは5を越えると、低加湿条件下でのプロトン伝導性が不足したり、耐熱水性や物理的耐久性が不足したりする場合がある。
【0068】
上記イオン性基を含有するセグメント(A1)のイオン交換容量は、低加湿条件下でのプロトン伝導性の点から、は2.5meq/g以上が好ましく、3meq/g以上がより好ましく、3.5meq/g以上がさらに好ましい。また、6.5meq/g以下が好ましく、5meq/g以下がより好ましく、4.5meq/g以下がさらに好ましい。イオン性基を含有するセグメント(A1)のイオン交換容量が2.5meq/g未満であると、低加湿条件下でのプロトン伝導性が不足する場合があり、6.5meq/gを越えると、耐熱水性や物理的耐久性が不足する場合がある。
【0069】
上記イオン性基を含有しないセグメント(A2)のイオン交換容量は、耐熱水性、機械強度、寸法安定性、物理的耐久性の点から、低いことが好ましく、は1meq/g以下が好ましく、0.5meq/g以下がより好ましく、0.1meq/g以下がさらに好ましい。イオン性基を含有しないセグメント(A2)のイオン交換容量が1meq/gを越えると、耐熱水性、機械強度、寸法安定性、物理的耐久性が不足する場合がある。
【0070】
イオン性基含有高分子電解質として、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)とをそれぞれ1個以上含有するブロック共重合体でありブロック共重合体のイオン性基を含有するセグメント(A1)がスルホン酸基を有する場合、イオン交換容量は、プロトン伝導性と耐水性のバランスの点から、0.1meq/g以上5meq/g以下が好ましく、下限については1.5meq/g以上がより好ましく、2meq/g以上がさらに好ましい。上限については、3.5meq/g以下がより好ましく、3meq/g以下がさらに好ましい。イオン交換容量が0.1meq/gより小さい場合には、プロトン伝導性が不足する場合があり、5meq/gより大きい場合には、耐水性が不足する場合がある。
【0071】
なお、本明細書において、イオン交換容量は中和滴定法により求めた値である。中和滴定法は、以下のとおりに行う。なお、測定は3回以上行ってその平均値を取るものとする。
(1)プロトン置換し、純水で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求める。
(2)電解質に5重量%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換する。
(3)0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定する。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とする。
(4)下記式によりイオン交換容量を求める。
【0072】
イオン交換容量(meq/g)=
〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/ml)×滴下量(ml)〕/試料の乾燥重量(g)
イオン性基を含有するセグメント(A1)およびイオン性基を含有しないセグメント(A2)の合成方法は、実質的に十分な分子量が得られる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば芳香族活性ジハライド化合物と2価フェノール化合物の芳香族求核置換反応、またはハロゲン化芳香族フェノール化合物の芳香族求核置換反応を利用して合成することができる。
【0073】
イオン性基を含有するセグメント(A1)の合成に用いる芳香族活性ジハライド化合物として、芳香族活性ジハライド化合物にイオン性基を導入した化合物をモノマーとして用いることは、化学的安定性、製造コスト、イオン性基の量を精密制御が可能な点から好ましい。かかるモノマーに好ましく導入されるイオン性基としては、スルホン酸基、ホスホン酸基、スルホンイミド基が挙げられる。
【0074】
イオン性基としてスルホン酸基を有するモノマーの好ましい具体例としては、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、等を挙げることができる。なかでも化学的安定性と物理的耐久性の点から、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンがより好ましく、重合活性の点から3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンがさらに好ましい。
【0075】
ホスホン酸基を有するモノマーの好ましい具体例としては、3,3’−ジホスホネート−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジホスホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジホスホネート−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジホスホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジホスホネート−4,4’−ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、3,3’−ジホスホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、等を挙げることができる。
【0076】
スルホンイミド基を有するモノマーの好ましい具体例としては、5,5’−カルボニルビス(2−フルオロ−N−(フェニルスルホニル)ベンゼンスルホンアミド)、5,5’−カルボニルビス(2−クロロ−N−(フェニルスルホニル)ベンゼンスルホンアミド)、5,5’−スルホニルビス(2−フルオロ−N−(フェニルスルホニル)ベンゼンスルホンアミド)、5,5’−スルホニルビス(2−クロロ−N−(フェニルスルホニル)ベンゼンスルホンアミド)、5,5’−(フェニルホスホリル)ビス(2−フルオロ−N−(フェニルスルホニル)ベンゼンスルホンアミド)、5,5’−(フェニルホスホリル)ビス(2−クロロ−N−(フェニルスルホニル)ベンゼンスルホンアミド)、などを挙げることができる。
【0077】
また、イオン性基を含有するセグメント(A1)およびイオン性基を含有しないセグメント(A2)の合成に用いるイオン性基を有しない芳香族活性ジハライド化合物としては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロジフェニルケトン、4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、4,4’−ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、4,4’−ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、等を挙げることができる。中でも4,4’−ジクロロジフェニルケトン、4,4’−ジフルオロジフェニルケトンが結晶性の付与、機械強度や物理的耐久性、耐熱水性の点からより好ましく、重合活性の点から4,4’−ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。これら芳香族活性ジハライド化合物は、単独で使用することができるが、複数の芳香族活性ジハライド化合物を併用することも可能である。
【0078】
また、イオン性基を含有するセグメント(A1)およびイオン性基を含有しないセグメント(A2)の合成に用いるイオン性基を有しないモノマーとして、ハロゲン化芳香族ヒドロキシ化合物を挙げることができる。当該化合物は、前記芳香族活性ジハライド化合物と共重合することで、前記セグメントを合成できる。ハロゲン化芳香族ヒドロキシ化合物は特に制限されることはないが、4−ヒドロキシ−4’−クロロベンゾフェノン、4−ヒドロキシ−4’−フルオロベンゾフェノン、4−ヒドロキシ−4’−クロロジフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−4’−フルオロジフェニルスルホン、4−(4’−ヒドロキシビフェニル)(4−クロロフェニル)スルホン、4−(4’−ヒドロキシビフェニル)(4−フルオロフェニル)スルホン、4−(4’−ヒドロキシビフェニル)(4−クロロフェニル)ケトン、4−(4’−ヒドロキシビフェニル)(4−フルオロフェニル)ケトン、等を例として挙げることができる。これらは、単独で使用することができるほか、2種以上の混合物として使用することもできる。さらに、活性化ジハロゲン化芳香族化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物の反応においてこれらのハロゲン化芳香族ヒドロキシ化合物を共に反応させて芳香族ポリエーテル系化合物を合成してもよい。
【0079】
上記ブロック共重合体の合成方法は、実質的に十分な分子量が得られる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、前記イオン性基を含有するセグメントとイオン性基を含有しないセグメントの芳香族求核置換反応を利用して合成することができる。
【0080】
上記ブロック共重合体のセグメントやブロック共重合体を得るために行う芳香族求核置換反応は、前記モノマー混合物やセグメント混合物を塩基性化合物の存在下で反応させることができる。重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない場合にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める場合がある。
【0081】
重合反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性有機溶媒などを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されてもよい。
【0082】
芳香族求核置換反応に用いる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。また、フェノキシドの求核性を高めるために、18−クラウン−6などのクラウンエーテルを添加することも好ましい。これらクラウンエーテル類は、スルホン酸基のナトリウムイオンやカリウムイオンに配位して有機溶媒に対する溶解性が向上する場合があり、好ましく使用できる。
【0083】
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水剤を使用することもできる。
【0084】
反応水又は反応中に導入された水を除去するのに用いられる共沸剤は、一般に、重合を実質上妨害せず、水と共蒸留し且つ約25℃〜約250℃の間で沸騰する任意の不活性化合物である。通常用いられる共沸剤には、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、塩化メチレン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、シクロヘキサンなどが含まれる。もちろん、その沸点が用いた双極性溶媒の沸点よりも低いような共沸剤を選定することが有益である。共沸剤が普通用いられるが、高い反応温度、例えば200℃以上の温度が用いられるとき、特に反応混合物に不活性ガスを連続的に散布させるときにはそれは常に必要ではない。一般には、反応は不活性雰囲気下に酸素が存在しない状態で実施するのが望ましい。
【0085】
芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ないと、重合度が上がりにくい場合がある。一方、50重量%よりも多いと、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる場合がある。
【0086】
重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低く、副生する無機塩の溶解度が高い溶媒中に加えることによって、無機塩を除去、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。回収されたポリマーは場合により水やアルコール又は他の溶媒で洗浄され、乾燥される。所望の分子量が得られたならば、ハライドあるいはフェノキシド末端基は場合によっては安定な末端基を形成させるフェノキシドまたはハライド末端封止剤を導入することにより反応させることができる。
【0087】
〔高分子電解質膜〕
本発明の高分子電解質膜においてイオン性基含有高分子電解質としてブロック共重合体を用いる場合、ポリアゾールは、その極性(親水性や疎水性)を適宜選択することにより、イオン性基を含有するセグメント(A1)が形成する親水性ドメイン、または、イオン性基を含有しないセグメント(A2)が形成する疎水性ドメインに集中して配置させることが可能である。
【0088】
ヒドロキシラジカルや過酸化水素は、通常親水性が高く、イオン性基を含有するセグメント(A1)が形成する親水性ドメインに存在して、当該セグメントを切断すると考えられている。従って、親水性のポリアゾールの適用は、イオン性基を含有するセグメント(A1)を安定化するために有効である。このような効果を目的とする場合、親水中ドメインにおけるポリアゾール濃度が、疎水性ドメインにおけるポリアゾール濃度の2倍以上であることが好ましい。各ドメインにおけるポリアゾール濃度は、前記相分離構造をTEMにより観察する際、エネルギー分散型X線分析(EDX)もしくは電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて、窒素含有量をマッピングすることにより判定する。
【0089】
具体的な方法として、親水性ドメイン、疎水性ドメイン、各々について50点において元素分析を行いドメイン内平均窒素量を求めることで、下記の式に従い各ドメインにおけるポリアゾール濃度を算出することができる。
【0090】
ポリアゾール濃度(重量%)=
100×〔ドメイン内平均窒素量(重量%)−ポリマー窒素量(重量%)〕/
〔アゾール窒素量(重量%)−ポリマー窒素量(重量%)〕
なお、ポリマー窒素量及びアゾール窒素量は、各々高分子電解質及びポリアゾールが含有する窒素量である。
【0091】
一方、イオン性基を含有しないセグメント(A2)が形成する疎水性ドメインは、機械強度を担う成分であるため、疎水性のポリアゾールを配置させることにより、物理的耐久性を向上する効果があると考えられる。親水性のポリアゾールと疎水性のポリアゾールは、必要に応じて併用することも好ましい。
【0092】
本発明の高分子電解質膜では、高分子電解質膜を構成するイオン性基含有高分子電解質が、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)とをそれぞれ1個以上含有するブロック共重合体である場合に、前記イオン性基を含有するセグメント(A1)から構成される親水性ドメインと前記イオン性基を含有しないセグメント(A2)から構成される疎水性ドメインとが共連続様またはラメラ様の相分離構造を有していることが好ましい。このような相分離構造は、非相溶な2種以上のセグメントからなるブロック共重合体などにおいて発現し得るものであり、その構造形態は大きく共連続(M1)、ラメラ(M2)、シリンダー(M3)、海島(M4)の四つに分けられる(
図1)。
【0093】
本発明のようなイオン性基含有高分子化合物を含有する高分子電解質膜においては、前記相分離構造はイオン性基を含む成分からなる親水性ドメインと、イオン性基を含まない成分からなる疎水性ドメインから形成されることが多い。
図1(M1)〜(M4)において、薄い色の連続相が親水性ドメイン、疎水性ドメインから選ばれる一方のドメインにより形成され、濃い色の連続相または分散相が、他方のドメインにより形成される。とくに共連続(M1)およびラメラ(M2)からなる相分離構造において、親水性ドメインおよび疎水性ドメインが、いずれも連続相を形成する。
【0094】
かかる相分離構造は、例えばアニュアル レビュー オブ フィジカル ケミストリ−(Annual Review of Physical Chemistry), 41, 1990, p.525等に記載がある。これら親水性ドメインを構成する化合物と疎水性ドメインを構成する化合物の構造や組成を制御することで、低加湿および低温条件下においても優れたプロトン伝導性が実現可能となる。特にその構造が
図1に示した(M1)、(M2)すなわち共連続様(M1)、ラメラ様(M2)からなる構造の際、連続したプロトン伝導チャネルが形成されことによりプロトン伝導性に優れる高分子電解質成形体を得ることができるが、同時に疎水性ドメインの結晶性により極めて優れた燃料遮断性、耐溶剤性や機械強度、物理的耐久性を有した高分子電解質膜が実現可能となる。なかでも共連続様(M1)の相分離構造が特に好ましい。
【0095】
一方、
図1に示した(M3)、(M4)すなわちシリンダー構造(M3)、海島構造(M4)の相分離構造の場合でも、連続したプロトン伝導チャネルを形成可能と考えられる。しかしながら、両構造ともに、親水性ドメインを構成する成分の比率が疎水性ドメインを構成する成分に対して相対的に少ない場合、もしくは疎水性ドメインを構成する成分の比率が、親水性ドメインを構成する成分に対して相対的に少ない場合に構築される構造である。親水性ドメインを構成する成分の比率が疎水性ドメインを構成する成分に対し相対的に少ない場合、プロトン伝導を担うイオン性基量が絶対的に減少し、特に海島構造では、連続したプロトン伝導チャネルそのものが形成されないため、プロトン伝導性に劣り、疎水性ドメインを構成する成分の比率が親水性ドメインを構成する成分に対し相対的に少ない場合、プロトン伝導性には優れるものの、結晶性の疎水性ドメインが少ないため、燃料遮断性、耐溶剤性や機械強度、物理的耐久性に劣り、本発明の効果が十分に得られない場合がある。
【0096】
ここでドメインとは、一つの成形体において、類似する物質やセグメントが凝集してできた塊のことを意味する。
【0097】
本発明において、共連続様(M1)、ラメラ様(M2)の相分離構造を有することは、以下の手法により、所望とする像が観察されることで確認することができる。高分子電解質膜の、TEMトモグラフィー観察により得られた3次元図に対して、縦、横、高さの3方向から切り出したデジタルスライス3面図を比較する。例えば、前記イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)とをそれぞれ1個以上有するブロック共重合体からなる高分子電解質膜において、その相分離構造が、共連続様(M1)またはラメラ様(M2)の場合、3面図すべてにおいて(A1)を含む親水性ドメインと(A2)を含む疎水性ドメインがともに連続相を形成する。
【0098】
一方、シリンダー構造(M3)や海島構造(M4)の場合、少なくとも1面で前記ドメインのいずれかが連続相を形成しないため前者と区別でき、また3面図の各々が示す模様から構造を判別できる。具体的には、共連続構造の場合、連続相のそれぞれが入り組んだ模様を示すのに対し、ラメラ構造では、層状に連なった模様を示す。ここで連続相とは、巨視的に見て、個々のドメインが孤立せずに繋がっている相のことを意味するが、一部繋がっていない部分があってもかまわない。
【0099】
特に、本発明においては、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)の凝集状態やコントラストを明確にするために、2重量%酢酸鉛水溶液中に高分子電解質膜を2日間浸漬することにより、イオン性基を鉛でイオン交換した後、透過電子顕微鏡(TEM)およびTEMトモグラフィー観察に供するものとする。
【0100】
イオン性基含有ポリマー(A)として用いるブロック共重合体としては、TEMによる観察を5万倍で行った場合に相分離構造が観察され、画像処理により計測した平均層間距離または平均粒子間距離が5nm以上、500nm以下であるものが好ましい。中でも、平均層間距離または平均粒子間距離が10nm以上、50nm以下がより好ましく、最も好ましくは15nm以上、30nm以下である。透過型電子顕微鏡によって相分離構造が観察されない、または、平均層間距離または平均粒子間距離が5nm未満である場合には、イオンチャンネルの連続性が不足し、伝導度が不足する場合がある。また、層間距離が500nmを越える場合には、機械強度や寸法安定性が不良となる場合がある。
【0101】
イオン性基含有ポリマー(A)として用いるブロック共重合体は、相分離構造を有しながら、結晶性を有することが好ましく、示差走査熱量分析法(DSC)あるいは広角X線回折によって結晶性が認められることが好ましく、具体的には示差走査熱量分析法によって測定される結晶化熱量が0.1J/g以上、または、広角X線回折によって測定される結晶化度が0.5%以上であることが好ましい。なお、「結晶性を有する」とはポリマーが昇温すると結晶化されうる、結晶化可能な性質を有する、あるいは既に結晶化していることを意味する。また、非晶性ポリマーとは、結晶性ポリマーではない、実質的に結晶化が進行しないポリマーを意味する。従って、結晶性ポリマーであっても、結晶化が十分に進行していない場合には、ポリマーの状態としては非晶状態である場合がある。
【0102】
本発明の高分子電解質膜においては、イオン性基含有高分子電解質とポリアゾールとがイオン性基と窒素原子の部分において分子間相互作用を形成しているものも好ましい。一般に、過酸化水素やヒドロキシラジカルは親水性の高い化合物であり、電解質膜中においても親水性が高く水濃度の高いイオン性基近傍に拡散しやすい。それゆえ、イオン性基含有高分子電解質膜とポリアゾールとがイオン性基と窒素の部分において分子間相互作用を形成することにより、イオン性基近傍に拡散する過酸化水素やヒドロキシラジカルを分解することで、高分子電解質膜の化学的安定性をより向上させることが可能となる。また、イオン性基含有高分子電解質膜とポリアゾールとが分子間相互作用を有することにより、三次元的な架橋を形成するため、湿度変化に起因する膨潤・収縮を抑制すると共に、機械強度をも向上させることが可能となる。
【0103】
本発明の分子間相互作用の具体例としては、イオンコンプレックスや水素結合、双極子相互作用、ファンデルワールス力などが挙げられるが、特に限定されるものではない。中でも、イオンコンプレックス、水素結合、双極子相互作用を形成するものが好ましく、イオンコンプレックス、水素結合を形成するものがより好ましく、イオンコンプレックスを形成するものが特に好ましい。イオン性基と窒素原子との間にはたらく分子間相互作用が強固な力であるほど、ポリアゾールはイオン性基の近傍に集中し、拡散する過酸化水素やヒドロキシラジカルを分解する速度を向上させることが可能となる。更に、分子間相互作用が強固な力であるほど、イオン性基含有ポリマーとポリアゾールの架橋も強固なものとなり、本発明の高分子電解質膜の膨潤・収縮を抑制し、機械強度を向上させることが可能となる。
【0104】
上記分子間相互作用が生じているか否かについては、フーリエ変換赤外分光計(Fourier−Transform Infrared Spectrometer)(以下「FT−IR」と略称することがある。)を用いて確認することができる。
【0105】
本実施の形態の高分子電解質膜をFT−IRを用いて測定した場合、高分子電解質の本来のピーク位置や、ポリアゾール系化合物の本来のピーク位置がシフトしたスペクトルが観察されれば、高分子電解質の一部が、ポリアゾール系化合物中の一部と分子間相互作用を形成していると判定できる。
【0106】
本発明においてポリアゾールは、加工の簡便さと相分離構造の形成を抑制する観点から、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系の有機溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系の有機溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系の有機溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系の有機溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系の有機溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性有機溶媒といった汎用有機溶媒に溶解するものであることが好ましい。ポリアゾールを可溶な汎用有機溶媒を用いることで、イオン性基含有ポリマーとの均一な溶液を得ることが可能となり、イオン性基含有高分子電解質との相分離構造の形成を抑制できるようになる。
【0107】
前記ポリアゾールが均一な溶液を形成するか否かについては、以下の方法で確認することが可能である。即ち、ポリアゾールの0.5重量%溶液を調製し、動的光散乱法(以下DLSと略称することがある)を用いて粒子径分布を測定することにより確認することができる。溶液中のポリアゾールの粒径としては、算術平均粒子径が10nm以下であればよく、5nm以下であれば好ましく、2nm以下であればより好ましい。粒径2nmを超える粒子が確認されない溶液は特に好ましく用いることができる。
【0108】
前記ポリアゾールは一般的に溶媒への溶解性が低いため、イオン性基含有高分子電解質との均一な組成物を得るためには、ポリマー溶液へ可溶化させる必要がある。可溶化させる方法としては特に限定されないが、(1)スプレードライ法、(2)アルカリ溶解、(3)低分子量化、を適用することが好ましく、(1)スプレードライ法、(2)アルカリ溶解を適用することがより好ましく、(1)スプレードライ法を適用することが更に好ましい。
【0109】
前記(1)のスプレードライ法とは、高温の空気や窒素ガスのフロー中、または減圧チャンバー内に、目的物質の溶液を数百μm以下の微細粒子として噴霧することで瞬間的に乾燥させる方法である。この方法を適用することで、ポリアゾールのアモルファス状の多孔質体を得ることができ、通常では不溶性・難溶性のポリアゾールを、常温での撹拌により容易に高濃度で溶解させることが可能となる。
【0110】
前記(2)のアルカリ溶解とは、ポリアゾールとアルカリ金属水酸化物を反応させることにより塩を形成させ可溶化させる方法である。ポリアゾールとアルカリ金属水酸化物を反応させる方法としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール又はグリセリン等の有機溶媒と、水との混合物からなるプロトン性の溶媒にアルカリ金属水酸化物を溶解させたものにポリアゾールを混合させる方法などが挙げられるが、特に限定されるものではない。この方法を適用することにより、ポリアゾールが塩を形成しジメチルスルホキシドやN−メチル−2−ピロリドン等の極性の有機溶媒に溶解させることが可能となる。
【0111】
前記(3)の低分子量化においては、ポリアゾールの構造によってどの程度の分子量のものを用いるかが異なるが、例えばポリアゾールの一種であるポリベンズイミダゾールの場合には、重量平均分子量で1000以上1万以下のものが好ましく用いられる。比較的分子量の低い化合物を適用することにより、添加剤分子鎖同士の相互作用を低減し可溶化することができる。
【0112】
前記(1)のスプレードライ法を適用する場合には、更に以下の工程1〜工程3を適用し高分子電解質膜を製造することが好ましい。即ち、工程1:スプレードライ法を用いてポリアゾール粒子を作製する工程、工程2:イオン性基含有高分子電解質と、前記ポリアゾール粒子と、前記イオン性基含有高分子電解質および前記ポリアゾール粒子の両者を溶解可能な有機溶媒とを混合し、均一な電解質組成物溶液を調製する工程、工程3:前記電解質組成物溶液を溶液製膜する工程である。
【0113】
前記工程1においては、スプレードライに供するポリアゾール溶液を調製する必要があるが、一般にポリアゾールは溶解性が非常に低く、有機溶媒と混合、撹拌する方法で溶液を調製することは困難であった。
【0114】
本発明においては、オートクレーブを用いることでスプレードライに供するポリアゾールの希薄溶液を調製することを可能とした。即ち、ポリアゾールと有機溶媒とをオートクレーブ容器中に入れ密閉後、加熱することにより、ポリアゾールの希薄溶液を調製することを可能とした。
【0115】
ポリアゾールの希薄溶液の調製工程において使用する有機溶媒としては、ポリアゾールを溶解することが出来れば特に限定されることはなく、ポリアゾールの構造に応じて適宜選択することが出来るが、通常ポリアゾールは溶解性が低く使用出来る有機溶媒は限られたものである。前記有機溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性有機溶媒及びそれらの混合物からなる群より選択される有機溶媒であることが好ましい。
【0116】
前記オートクレーブにおける加熱温度は、ポリアゾールを溶解することが出来れば特に限定されるものではないが、ポリアゾール希薄溶液の有機溶媒の沸点以上、300℃以下であることが好ましい。加熱温度が有機溶媒の沸点に満たないと、オートクレーブ内の圧力が低く、ポリアゾールの溶解が不十分となる場合がある。また、加熱温度が300℃を超えると、ポリアゾールの溶解速度は速くなるものの、有機溶媒やポリアゾールが変質、分解するため、本発明の効果が充分に得られない場合がある。
【0117】
スプレードライの入口温度は100℃以上250℃以下が好ましく、150℃以上220℃以下がより好ましい。入口温度が100℃未満の場合、有機溶媒の蒸発が不十分となりポリアゾール粒子が得られない場合がある。入口温度が250℃よりも高い場合、有機溶媒やポリアゾールが変質、分解するため、本発明の効果が充分に得られない場合がある。
【0118】
スプレードライの出口温度は100℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。出口温度が100℃よりも高い場合、生成したポリアゾール粒子が粗大化する場合がある。なお、出口温度下限については、特に限定されるものではないが、装置の仕様上0℃〜40℃程度となることが多い。このようにして作製したポリアゾール粒子は、前述の動的光散乱法により測定される粒子径分布において粒径2nmを超える粒子が確認されないものであることが好ましい。
【0119】
前記工程2においては、イオン性基含有高分子電解質をポリアゾール粒子と両者を溶解可能な有機溶媒とを所定の割合で混合し、従来公知の方法、例えばホモミキサー、ホモディスパー、ウエーブローター、ホモジナイザー、ディスパーサー、ペイントコンディショナー、ボールミル、マグネチックスターラー、メカニカルスターラーなどの混合機を用いて混合することにより調製することができる。回転式混合機の回転速度は、均一な電解質組成物溶液を調製することができれば特に制限はないが、製造効率の観点から50回/分以上が好ましく、100回/分以上がより好ましく、200回/分以上がさらに好ましい。回転数に特に上限値はないが、現実的には、20,000回/分または30,000回/分が混合機の性能上の限界となる場合が多い。また、混合機による混合時間は、均一な電解質組成物溶液を調製することができれば特に制限はないが、1分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。混合時の回転数や混合時間が不十分である場合、高分子電解質およびポリアゾール粒子との均一な電解質組成物溶液を得ることができず、結果として高分子電解質とポリアゾールとが2nmを超える相分離構造を形成するため十分な耐久性が得られない場合がある。
【0120】
また、前記工程2においては、前記イオン性基含有高分子電解質を前記有機溶媒に溶解した高分子電解質溶液と、前記ポリアゾール粒子を前記有機溶媒に溶解したポリアゾール溶液をそれぞれ調製し、該高分子電解質溶液と該ポリアゾール溶液とを混合することで均一な電解質組成物溶液を調製する方法も好ましく用いることができる。予め高分子電解質溶液とポリアゾール溶液をそれぞれ調製することで、より簡便にイオン性基含有高分子電解質とポリアゾールとを溶液中に均一に分散させることが可能となる。結果として高分子電解質とポリアゾールとが相分離構造を形成しにくくなり、高分子電解質膜の品質が向上する。
【0121】
電解質組成物溶液を調製する有機溶媒としては、イオン性基含有高分子電解質及びポリアゾール粒子を溶解し、その後に除去し得るものであればよく、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の非プロトン性極性有機溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系の有機溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系の有機溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロピルアルコールなどのアルコール系の有機溶媒、水およびこれらの混合物が好ましく用いられるが、非プロトン性極性有機溶媒が最も溶解性が高く好ましい。
【0122】
前記工程3の溶液製膜は、前記工程2で製造した電解質組成物溶液を膜状に塗布し高分子電解質膜を得ることができれば特に限定されるものではない。好ましくは前記電解質組成物溶液を支持体上に流延することで膜状に塗布した後、前記有機溶媒を除去する方法が例示される。
【0123】
電解質組成物溶液を支持体上に流延する方法としては、公知の方法を用いることができるが、一定の濃度の溶液を一定の厚みになるように流延することが好ましい。例えば、ドクターブレード、アプリケーター、バーコーター、ナイフコーターなど、一定のギャップの空隙に溶液を押しこんで流延した膜の厚みを一定にする方法や、スリットダイなどを用いて、電解質組成物溶液を一定速度で供給して流延する方法、グラビアロールを用いて一定量の電解質組成物溶液を支持体上に転写する方法が挙げられる。支持体上への流延は、バッチ方式で行ってもよいが、連続して行うほうが生産性がよいため好ましい。
【0124】
電解質組成物溶液を流延する支持体としては、電解質組成物溶液の有機溶媒に溶解しないものであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアラミド、ポリベンザゾールなどの樹脂フィルムや、それらの表面にシリカやチタニア、及びジルコニアなどの無機化合物をコートしたもの、あるいはステンレス鋼などの金属質からなるフィルム、ガラス基板などが挙げられる。耐熱性及び耐溶剤性の面から、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミド、ガラス基板が好ましい。
【0125】
前記工程3の溶液製膜に用いる電解質組成物溶液の固形分濃度は、イオン性基含有高分子電解質の分子量や、流延する際の温度などによって適宜決定することができ、5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。5重量%未満であると、後工程で行う溶媒の除去に時間を要して膜の品位が低下したり、膜中の溶媒含有量を適切に制御できない場合がある。50重量%を超えると、溶液の粘度が高くなりすぎてハンドリングが困難になることがある。より好ましくは5重量%以上35重量%以下である。
【0126】
電解質組成物溶液の粘度は、特に限定されるものではないが、支持体上に良好に流延することができる範囲であることが好ましい。より好ましくは、流延する温度において、粘度が1Pa・s以上1000Pa・s以下である。
【0127】
電解質組成物溶液を流延して得た膜から前記有機溶媒を除去する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、流延して得た膜を加熱して有機溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。流延して得た膜を加熱して得られる高分子電解質膜における溶媒の含有率は、50重量%以下が好ましく、30重量%であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。50重量%よりも多いと、高分子電解質膜の膨潤性が大きくなる場合がある。
【0128】
流延して得た膜を上記のごとく加熱する際の加熱温度は、300℃以下か、前記有機溶媒の沸点以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。加熱温度が300℃を超えると、有機溶媒の除去効率は向上するが、有機溶媒や高分子電解質膜の分解・変質が起こったり、得られる高分子電解質膜の形態が悪くなる(品位が低下する)場合がある。また加熱温度の下限については、50℃が好ましい。加熱温度が50℃未満であると、十分に有機溶媒を除去することが困難になる場合がある。加熱方法は、熱風、赤外線、マイクロ波など公知の任意の方法で行うことができる。また、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0129】
本発明では、流延して得た膜を加熱して有機溶媒を蒸発した後、当該有機溶媒と混和する、高分子電解質膜の貧溶媒で、膜中の有機溶媒を抽出することが好ましい。かかる抽出を行わないと、高分子電解質膜に残留する有機溶媒量が多くなりすぎて、イオン伝導性の低下や、膜の膨潤の増大といった特性の低下が生じ易くなる。
【0130】
貧溶媒としては、前駆体膜や、流延する工程で用いた溶媒の種類に応じて適切なものを用いればよい。例えば、水、アルコール、ケトン、エーテル、低分子炭化水素、含ハロゲン溶媒などが挙げられる。流延する工程で用いた溶媒が水と混和する場合には、貧溶媒として水を用いることが好ましい。
【0131】
高分子電解質膜中の有機溶媒を貧溶媒で抽出する方法としては、特に限定されないが、高分子電解質膜に対して貧溶媒が均一に接触するように行うことが好ましい。例えば、高分子電解質膜を貧溶媒中に、貧溶媒中に浸漬する方法や、高分子電解質膜に貧溶媒を塗布あるいは噴霧する方法が挙げられる。これらの方法は、2回以上行っても、また組み合わせて行ってもよい。
【0132】
本発明の高分子電解質膜としては、Ce、Mn、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、Au、Ruから選ばれた少なくとも1種の遷移金属をさらに含有することも好ましい。これら遷移金属は、かかる遷移金属、かかる遷移金属のイオン、かかる遷移金属イオンを含む塩、かかる遷移金属イオンを含む錯体、かかる遷移金属の酸化物からなる群から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0133】
なかでも、ラジカル捕捉剤、過酸化物分解剤としての機能が高いことから、Ce、Mn、V、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、Au、Ruを用いることが好ましく、より好ましくは、Ce、Mn、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Au、Ru、さらに好ましくは、Ce、Mn、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Ru、最も好ましくは、Ce、Mn、Co、Rh、Pd、Pt、Ruである。
【0134】
本発明の高分子電解質膜が遷移金属を含有するものである場合の高分子電解質膜中における遷移金属の含有率は、発電特性と耐久性のバランスを考慮して適宜選択することができ、限定されるものではないが、高分子電解質組成物全体の0.002重量%以上、15重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.01重量%以上、5重量%以下、最も好ましくは0.02重量%以上、3重量%以下である。0.002重量%以上であれば、耐久性がより向上し、15重量%以下であれば、プロトン伝導性がより向上する。
【0135】
また、本発明の高分子電解質膜が遷移金属を含有するものである場合の高分子電解質膜中におけるポリアゾールと遷移金属の含有比率も、発電特性と耐久性のバランスを考慮して適宜選択することができ、限定されるものではないが、窒素/遷移金属のモル比率が、0.1以上、100以下であることが好ましい。より好ましくは、1以上、20以下、最も好ましくは5以上、10以下である。0.1以上であれば、プロトン伝導性や耐熱水性がより向上し、100以下であれば、耐久性がより向上する。
【0136】
かかる場合における遷移金属イオンの態様としては特に限定されるものではないが、具体例として、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、アセチルアセトナト錯体などが挙げられる。中でも、酸化劣化を抑制する効果が高いことから、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、酢酸塩が好ましく、安価で電解質組成物への添加が容易であることから、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩がより好ましい。
【0137】
かかる場合における遷移金属イオンは、単独で存在してもよいし、有機化合物、ポリマー等と配位した錯体として存在してもよい。なかでも、ホスフィン化合物等との錯体であると、使用中における添加剤の溶出が抑えられるという観点で好ましく、多座ホスフィン化合物を用いた場合に特に耐熱水性に優れた高分子電解質膜となることから好ましい。
【0138】
また、かかる場合において遷移金属の酸化物を用いる場合、酸化セリウム、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化イリジウム、酸化鉛が好ましい例として挙げられる。なかでも、酸化劣化を抑制する効果が高いことから、酸化セリウム、酸化マンガンを用いることが好ましい。
【0139】
本発明の高分子電解質膜は、硫黄含有添加剤を更に含有することも好ましい。中でも、発電性能の観点からスルフィド類が好ましく、耐熱性、化学的安定性の観点から芳香族ポリスルフィドがより好ましく、製造コストの観点からポリパラフェニレンスルフィドが特に好ましい。
【0140】
本発明において、イオン性基含有高分子電解質膜にポリアゾールを含有せしめる方法として先に述べた方法の他に、例えばポリアゾールを溶解させた液に、高分子電解質膜を接触させる方法を採用することもできる。接触させる方法として、浸漬、バーコーティング、スプレーコーティング、スリットダイ、ナイフコーティング、エアナイフ、ブラッシング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、ドクターブレードオーバーロール(添加剤溶液または分散液を高分子電解質組成物成形体に塗布し、次いでナイフと支持ロールとの間の隙間に通し余分な液を除去する方法)、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0141】
本発明の高分子電解質膜の膜厚は、1〜2000μmが好ましい。実用に耐える膜の機械強度、物理的耐久性を得るには1μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能の向上のためには2000μmより薄い方が好ましい。かかる膜厚のさらに好ましい範囲は3〜50μm、特に好ましい範囲は1
0〜30μmである。かかる膜厚は、前述の溶液製膜に用いる電解質組成物溶液の濃度あるいは基板上へ塗布厚により制御することができる。
【0142】
本発明の高分子電解質膜には、先に述べた主たる組成の他に通常の高分子化合物に使用される結晶化核剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤あるいは離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内でさらに添加することができる。
【0143】
本発明の高分子電解質膜には、前述の諸特性に悪影響をおよぼさない範囲内で機械的強度、熱安定性、加工性などの向上を目的に、各種ポリマー、エラストマー、フィラー、微粒子、各種添加剤などを含有させてもよい。また、微多孔膜、不織布、メッシュ等で補強してもよい。
【0144】
本発明の高分子電解質膜に電極触媒層を塗布または転写することにより積層してなる触媒層付電解質膜も好ましく用いることができる。
【0145】
〔膜電極複合体〕
かかる高分子電解質膜を燃料電池に用いる際には、高分子電解質膜と電極とを接合した、膜電極複合体を作製する。このとき高分子電解質膜と電極の接合法(膜電極複合体)については特に制限はなく、公知の方法(例えば、電気化学,1985, 53, p.269.記載の化学メッキ法、電気化学協会編(J. Electrochem. Soc.)、エレクトロケミカル サイエンス アンド テクノロジー (Electrochemical Science and Technology),1988, 135, 9, p.2209. 記載のガス拡散電極の熱プレス接合法など)を適用することが可能である。
【0146】
加熱プレスにより一体化する場合は、その温度や圧力は、電解質膜の厚さ、水分率、触媒層や電極基材により適宜選択すればよい。また、本発明では電解質膜が乾燥した状態または吸水した状態でもプレスによる複合化が可能である。具体的なプレス方法としては圧力やクリアランスを規定したロールプレスや、圧力を規定した平板プレスなどが挙げられ、工業的生産性やイオン性基を有する高分子材料の熱分解抑制などの観点から0℃〜250℃の範囲で行うことが好ましい。加圧は電解質膜や電極保護の観点からできる限り弱い方が好ましく、平板プレスの場合、10MPa以下の圧力が好ましく、加熱プレス工程による複合化を実施せずに電極と電解質膜を重ね合わせ燃料電池セル化することもアノード、カソード電極の短絡防止の観点から好ましい選択肢の一つである。この方法を適用し、燃料電池として発電を繰り返すと、短絡箇所が原因と推測される電解質膜の劣化が抑制される傾向があり、燃料電池として耐久性が良好となる。
【0147】
本発明の高分子電解質膜を使用した固体高分子型燃料電池の用途としては、特に限定されないが、移動体の電力供給源が好ましいものである。特に、携帯電話、パソコン、PDA、テレビ、ラジオ、ミュージックプレーヤー、ゲーム機、ヘッドセット、DVDプレーヤーなどの携帯機器、産業用などの人型、動物型の各種ロボット、コードレス掃除機等の家電、玩具類、電動自転車、自動二輪、自動車、バス、トラックなどの車両や船舶、鉄道などの移動体の電力供給源、据え置き型の発電機など従来の一次電池、二次電池の代替、もしくはこれらとのハイブリット電源として好ましく用いられる。
【実施例】
【0148】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。測定n数は特に記載のないものは、n=1で実施した。
【0149】
(1)イオン交換容量(IEC)
以下の手順による中和滴定法により測定した。測定は3回行って、その平均値を取った。
(i)プロトン置換し、純水で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。
(ii)電解質に5重量%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。
(iii)0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。
(iv)イオン交換容量は下記の式により求めた。
【0150】
イオン交換容量(meq/g)=
〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/ml)×滴下量(ml)〕/試料の乾燥重量(g)
(2)プロトン伝導度(H
+伝導度)
膜状の試料を25℃の純水に24時間浸漬した後、80℃、相対湿度25〜95%の恒温恒湿槽中にそれぞれのステップで30分保持し、定電位交流インピーダンス法でプロトン伝導度を測定した。
【0151】
測定装置としては、Solartron製電気化学測定システム(Solartron 1287 Electrochemical InterfaceおよびSolartron 1255B Frequency Response Analyzer)を使用し、2端子法で定電位インピーダンス測定を行い、プロトン伝導度を求めた。交流振幅は、50mVとした。サンプルは幅10mm、長さ50mmの膜を用いた。測定治具はフェノール樹脂で作製し、測定部分は開放させた。電極として、白金板(厚さ100μm、2枚)を使用した。電極は電極間距離10mm、サンプル膜の表側と裏側に、互いに平行にかつサンプル膜の長手方向に対して直交するように配置した。
【0152】
(3)数平均分子量、重量平均分子量
ポリマーの数平均分子量、重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー製HLC−8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー製TSK gel SuperHM−H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N−メチル−2−ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN−メチル−2−ピロリドン溶媒)にて、サンプル濃度0.1重量%、流量0.2mL/min、温度40℃で測定し、標準ポリスチレン換算により数平均分子量、重量平均分子量を求めた。
【0153】
(4)膜厚
ミツトヨ製グラナイトコンパレータスタンドBSG−20にセットしたミツトヨ製ID−C112型を用いて測定した。測定は電解質膜左端より1cmの部位、電解質膜の中央部位、電解質膜の右端より1cmの部位、左端より1cmの部位と中央部位との中間部位、右端より1cmの部位と中央部位との中間部位の五箇所で実施し、その平均を膜厚とした。
【0154】
(5)純度の測定方法
下記条件のガスクロマトグラフィー(GC)により定量分析した。
カラム:DB−5(J&W社製) L=30m Φ=0.53mm D=1.50μm
キャリヤー:ヘリウム(線速度=35.0cm/sec)
分析条件
Inj.temp. 300℃
Detct.temp. 320℃
Oven 50℃×1min
Rate 10℃/min
Final 300℃×15min
SP ratio 50:1
(6)核磁気共鳴スペクトル(NMR)
下記の測定条件で、1H−NMRの測定を行い、構造確認、およびイオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)のモル組成比の定量を行った。該モル組成比は、8.2ppm(ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン由来)と6.5〜8.0ppm(ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを除く全芳香族プロトン由来)に認められるピークの積分値から算出した。
【0155】
装置 :日本電子社製EX−270
共鳴周波数 :270MHz(1H−NMR)
測定温度 :室温
溶解溶媒 :DMSO−d6
内部基準物質:TMS(0ppm)
積算回数 :16回
(7)透過電子顕微鏡(TEM)による相分離構造の観察
染色剤として2重量%酢酸鉛水溶液中に試料片を浸漬させ、25℃下で24時間放置した。染色処理された試料を取りだし、可視光硬化樹脂で包埋し、可視光を30秒照射し固定した。
【0156】
ウルトラミクロトームを用いて室温下で100nmの厚さの薄片を切削し、得られた薄片をCu グリッド上に回収しTEM観察に供した。観察は加速電圧100kVで実施し、撮影は、写真倍率として×8,000、×20,000、×100,000になるように撮影を実施した。機器としては、TEM H7100FA(日立製作所社製)を使用した。
【0157】
また、酢酸鉛溶液浸漬による染色工程を経ず、同様のTEM観察を実行することでポリアゾールに由来する島状の相分離構造の有無を確認した。
【0158】
(8)エネルギー分散型X線分析(EDX)
rTEM検出器(アメテック製)を上記TEMに接続し使用した。詳細な分析内容は下記(a)、(b)に示す通りである。
【0159】
(a)親水性ドメイン及び疎水性ドメインにおけるポリアゾール濃度の分析
親水性ドメイン、疎水性ドメイン、各々について50点において元素分析を行いドメイン内平均窒素量を求め、下記の式に従い各ドメインにおけるポリアゾール濃度を算出した。
【0160】
ポリアゾール濃度(重量%)=
100×〔ドメイン内平均窒素量(重量%)−ポリマー窒素量(重量%)〕/
〔アゾール窒素量(重量%)−ポリマー窒素量(重量%)〕
なお、ポリマー窒素量及びアゾール窒素量は、各々高分子電解質及びポリアゾールが含有する窒素量である。
【0161】
(b)海/島構造形成時におけるポリアゾールを主成分とする相分離構造の分析
前記高分子電解質膜が海/島構造を形成した場合は、以下に示す方法を用いてポリアゾールの分布を測定した。
【0162】
即ち、前記海/島構造において島相の50点において元素分析を行い島相内平均窒素量求め前記(a)項と同様にして、島相におけるポリアゾールの含有量を求めた。このとき、ポリアゾール含有量が50%以上のとき、該島相はポリアゾールが主成分であると判定した。
【0163】
(9)化学的安定性
(A)分子量保持率
N−メチルピロリドン(NMP)に可溶な電解質膜については、以下の方法にて電解質膜を劣化させ、劣化試験前後の分子量を比較することで化学安定性を評価した。
【0164】
市販の電極、BASF社製燃料電池用ガス拡散電極“ELAT(登録商標)LT120ENSI”5g/m2Ptを5cm角にカットしたものを1対準備し、燃料極、酸化極として電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、評価用膜電極接合体を得た。
【0165】
この膜電極接合体を英和(株)製 JARI標準セル“Ex−1”(電極面積25cm2)にセットし、80℃に保ちながら、低加湿状態の水素(70mL/分、背圧0.1MPaG)と空気(174mL/分、背圧0.05MPaG)をセルに導入し、開回路での劣化加速試験を行った。この条件で燃料電池セルを200時間作動させた後、膜−電極接合体を取り出してエタノール/水の混合溶液に投入し、さらに超音波処理することで触媒層を取り除いた。そして、残った高分子電解質膜の分子量を測定し、分子量保持率として評価した。
【0166】
(B)開回路保持時間
NMPに溶解不可能な電解質膜については、以下の方法にて電解質膜を劣化させ、開回路電圧の保持時間を比較することで化学安定性を評価した。
【0167】
上記と同様の方法にて膜電極接合体を作製し、評価用セルにセットした。続いて、上記と同様の条件にて、開回路での劣化加速試験を行った。開回路電圧が0.7V以下まで低下するまでの時間を開回路保持時間として評価した。
【0168】
(C)電圧保持率
上記(B)の開回路保持時間評価を行っても5000時間以上、0.7V以上を維持できる場合には、そこで評価を打ち切り初期電圧と5000時間後の電圧を比較し電圧保持率として化学耐久性を評価した。
【0169】
(10)膨潤率
以下の手法を用いて、膜状試料のサイズに基づいて測定した。
(i)試料を約5cm四方に切り出し、各辺のサイズを測定した。このとき、任意の一辺をx方向、x方向に垂直な一辺をy方向とした。
(ii)80℃の純水に2時間浸漬し、試料に水を吸収させた。
(iii)試料を水より取り出し、(i)にてx方向、y方向とした2辺の長さを測定した。
(iv)各方向の膨潤量は下記式に基づいて計算した。
【0170】
膨潤率(%)=
[{水浸漬後の長さ(cm)−水浸漬前の長さ(cm)}/水浸漬前の長さ(cm)]×100
(11)動的光散乱(DLS)
濃度0.5重量%となるようにポリアゾールをN−メチル−2−ピロリドンに溶解した。この溶液を、堀場製作所社製動的光散乱式粒径分布測定装置LB−500を用いて25℃における算術平均粒子径を測定した。
【0171】
合成例1
下記一般式(G1)で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン(K−DHBP)の合成
【0172】
【化4】
【0173】
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mLフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5重量%炭酸カリウム水溶液100mLで洗浄し分液後、有機溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mLを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.9重量%の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランと0.1重量%の4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
【0174】
合成例2
下記一般式(G2)で表されるジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンの合成
【0175】
【化5】
【0176】
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50重量%SO
3)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、上記一般式(G2)で示されるジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.4重量%であった。構造は1H−NMRで確認した。不純物はキャピラリー電気泳動(有機物)およびイオンクロマトグラフィー(無機物)で定量分析を行った。
【0177】
合成例3
(下記一般式(G3)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1’の合成)
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、前記合成例1で得たK−DHBP25.8g(100mmol)および4,4’−ジフルオロベンゾフェノン20.3g(アルドリッチ試薬、93mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中にて160℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のメタノールで再沈殿することで精製を行い、イオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は10000であった。
【0178】
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、イオン性基を含有しない前記オリゴマーa1(末端ヒドロキシル基)を20.0g(2mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中にて100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、デカフルオロビフェニル4.0g(アルドリッチ試薬、12mmol)を入れ、105℃で1時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G3)で示されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)を得た。数平均分子量は12000であり、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’の数平均分子量は、リンカー部位(分子量630)を差し引いた値11400と求められた。
【0179】
【化6】
【0180】
(下記一般式(G4)で表されるイオン性基を含有するオリゴマーa2の合成)
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、前記合成例1で得たK−DHBP12.9g(50mmol)および4,4’−ビフェノール9.3g(アルドリッチ試薬、50mmol)、前記合成例2で得たジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン39.3g(93mmol)、および18−クラウン−6、17.9g(和光純薬82mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中にて170℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G4)で示されるイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は17000であった。
【0181】
【化7】
【0182】
(式(G4)において、Mは、NaまたはKを表す。)
(イオン性基を含有するセグメント(A1)としてオリゴマーa2、イオン性基を含有しないセグメント(A2)としてオリゴマーa1、リンカー部位としてオクタフルオロビフェニレンを含有するブロック共重合体b1の合成)
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、4mmol)、イオン性基を含有するオリゴマーa2(末端ヒドロキシル基)を16g(1mmol)入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中にて100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)11g(1mmol)を入れ、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、ブロック共重合体b1を得た。重量平均分子量は37万であった。
【0183】
ブロック共重合体b1は、イオン性基を含有するセグメント(A1)、イオン性基を含有しないセグメント(A2)として、前記一般式(S1)および(S2)で表される構成単位をそれぞれ50モル%、100モル%含有していた。
【0184】
ブロックコポリマーb1そのものを高分子電解質膜としたときの、中和滴定から求めたイオン交換容量は1.8meq/g、1H−NMRから求めたモル組成比(A1/A2)は、56mol/44mol=1.27、ケタール基の残存は認められなかった。
【0185】
合成例4
(下記式(G6)で表されるセグメントと下記式(G7)で表されるセグメントからなるポリエーテルスルホン(PES)系ブロックコポリマー前駆体b2’の合成)
無水塩化ニッケル1.62gとジメチルスルホキシド15mLとを混合し、70℃に調整した。これに、2,2’−ビピリジル2.15gを加え、同温度で10分撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
【0186】
ここに、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)1.49gと下記式(G5)で示される、スミカエクセルPES5200P(住友化学社製、Mn=40,000、Mw=94,000)0.50gとを、ジメチルスルホキシド5mLに溶解させて得られた溶液に、亜鉛粉末1.23gを加え、70℃に調整した。これに前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、70℃で4時間重合反応を行った。反応混合物をメタノール60mL中に加え、次いで、6mol/L塩酸60mLを加え1時間攪拌した。析出した固体を濾過により分離し、乾燥し、灰白色の下記式(G6)と下記式(G7)で表されるセグメントを含むブロック共重合体b2’を1.62gを収率99%で得た。重量平均分子量は23万であった。
【0187】
【化8】
【0188】
合成例5
(式(G7)で表されるセグメントと下記式(G8)で表されるセグメントからなるPES系ブロックコポリマーb2の合成)
合成例4で得られたブロックコポリマー前駆体b2’0.23gを、臭化リチウム1水和物0.16gとN−メチル−2−ピロリドン8mLとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応混合物を、6mol/L塩酸80mL中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、灰白色の式(G7)で示されるセグメントと下記式(G8)で表されるセグメントからなるブロックコポリマーb2を得た。得られたポリアリーレンの重量平均分子量は19万であった。
【0189】
ブロックコポリマーb2そのものを高分子電解質膜としたときの、中和滴定から求めたイオン交換容量は2.0meq/gであった。
【0190】
【化9】
【0191】
合成例6
(下記式(G9)で表される疎水性オリゴマ−a3の合成)
【0192】
【化10】
【0193】
撹拌機、温度計、冷却管、Dean−Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1Lの三口フラスコに、2,6−ジクロロベンゾニトリル49.4g(0.29mol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン88.4g(0.26mol)、炭酸カリウム47.3g(0.34mol)をはかりとった。
【0194】
窒素置換後、スルホラン346mL、トルエン173mLを加えて攪拌した。フラスコをオイルバスにつけ、150℃に加熱還流させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean−Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を徐々に上げながら大部分のトルエンを除去した後、200℃で3時間反応を続けた。次に、2,6−ジクロロベンゾニトリル12.3g(0.072mol)を加え、さらに5時間反応した。
【0195】
得られた反応液を放冷後、トルエン100mLを加えて希釈した。副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を2Lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン250mLに溶解した。これをメタノール2Lに再沈殿し、目的のオリゴマーa3 107gを得た。オリゴマーa3の数平均分子量は7,600であった。
【0196】
合成例7
(下記式(G10)で表される親水性モノマーa4の合成)
【0197】
【化11】
【0198】
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸233.0g(2mol)を加え、続いて2,5−ジクロロベンゾフェノン100.4g(400mmolを加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷1000gにゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、淡黄色の粗結晶3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリドを得た。粗結晶は精製せず、そのまま次工程に用いた。
【0199】
2,2−ジメチル−1−プロパノール(ネオペンチルアルコール)38.8g(440mmol)をピリジン300mLに加え、約10℃に冷却した。ここに上記で得られた粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分撹拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1000mL中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、上記構造式(G10)で表される3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルa4の白色結晶を得た。
【0200】
合成例8
(下記式(G11)で表されるポリアリーレン系ブロックコポリマーb3の合成)
【0201】
【化12】
【0202】
撹拌機、温度計、窒素導入管を接続した1Lの3口フラスコに、乾燥したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)166mLを合成例6で合成した疎水性オリゴマー(a3)13.4g(1.8mmol)、合成例7で合成した3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル(a4)37.6g(93.7mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.62g(4.0mmol)、トリフェニルホスフィン10.5g(40.1mmol)、ヨウ化ナトリウム0.45g(3.0mmol)、亜鉛15.7g(240.5mmol)の混合物中に窒素下で加えた。
【0203】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には82℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc175mLで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い濾過した。撹拌機を取り付けた1Lの3つ口で、この濾液に臭化リチウム24.4g(281mmol)を1/3ずつ3回に分け1時間間隔で加え、120℃で5時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、アセトン4Lに注ぎ、凝固した。凝固物を濾集、風乾後、ミキサーで粉砕し、1N硫酸1500mLで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄後、80℃で一晩乾燥し、目的のブロックコポリマーb3 38.0gを得た。このブロックコポリマーの重量平均分子量は18万であった。
【0204】
ブロックコポリマーb3そのものを高分子電解質膜としたときの、中和滴定から求めたイオン交換容量は2.5meq/gであった。
【0205】
合成例9
(下記式(G12)で表されるポリベンズイミダゾール(PBI)化合物の合成)
【0206】
【化13】
【0207】
窒素導入管を備えた250mL二口フラスコに、イソフタル酸ジフェニル(東京化成製)29.7g(93.3mmol)及びポリリン酸(和光純薬製)5gを入れ窒素置換後、150℃まで昇温し、溶融、混合した。室温まで冷却後、3,3’−ジアミノベンジジン(Aldrich製)20.0g(93.3mmol))を加え、再度150℃まで昇温した。イソフタル酸ジフェニルの融解後、5時間かけ200℃まで昇温した。200℃到達より1時間経過後、30分間減圧しフェノールを除去した後、200℃にて8時間反応を行った。得られた褐色固体を350gのNMPに溶解、濾過後、2重量%重曹水溶液3Lで再沈殿することで精製を行い、式(G12)で示すPBI化合物25.9g(収率90%)を得た。
【0208】
[実施例1]
(スプレードライによる可溶性(PBI)の作製)
合成例9にて合成したPBI5gとジメチルアセトアミド95gをオートクレーブ中に入れて密閉し、250℃まで昇温し24時間保持した。オートクレーブを自然冷却し、PBI濃度5重量%のDMAc溶液を作製した。
【0209】
このPBI溶液100gを有機溶媒用スプレードライヤ(ヤマト科学(株)社製ADL311S−A)を用いて噴霧し、5gのPBI粉末を得た。この時の運転条件は、入口温度200℃、出口温度50℃、送液速度1.0g/min、噴霧圧力0.25MPaであった。このスプレードライにより得られたPBI粉末をNMPに溶解してGPC法により分子量測定したところ重量平均分子量は21万であった。また、NMP溶液のDLSを測定したところ、粒径2nm以上の粒子は見られなかった。
【0210】
(PBI添加膜の作製)
合成例3にて得た20gのブロックコポリマーb1を80gのNMPに溶解した。この溶液に、前記スプレードライにより可溶化させたPBIを200mg添加し、撹拌機で20,000rpm、3分間撹拌しポリマー濃度20重量%の透明な溶液を得た。得られた溶液を、ガラス繊維フィルターを用いて加圧ろ過後、ガラス基板上に流延することで膜状に塗布し、100℃にて4時間乾燥後、窒素下150℃で10分間熱処理し、ポリケタールケトン膜(膜厚15μm)を得た。ポリマーの溶解性は極めて良好であった。95℃で10重量%硫酸水溶液に24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、高分子電解質膜f1を得た。
【0211】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=85:15であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0212】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、5000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定しその結果を表1に示す。
【0213】
[実施例2]
PBIを6gにした以外は、実施例1と同様にして電解質膜f2を製造した。
【0214】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=72:28であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0215】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、5000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定しその結果を表1に示す。
【0216】
[実施例3]
PBIを4mgにした以外は、実施例1と同様にして電解質膜f3を製造した。
【0217】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=92:8であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0218】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0219】
[実施例4]
(フタロシアニン添加膜の作製)
PBIの代わりにフタロシアニン(和光純薬工業社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f4を製造した。
【0220】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=77:23であった。フタロシアニンに由来する島状の相分離構造(フタロシアニンを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0221】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、5000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0222】
[実施例5]
(PBI、硝酸セリウム(III)添加膜の作製)
0.716gの硝酸セリウム(III)(アルドリッチ社製)を純水に溶解し30Lとして55μmol/Lの硝酸セリウム(III)溶液を調製した。この溶液に、実施例1にて製造した20gの高分子電解質膜f1を72時間浸漬し、スルホン酸基とのイオン交換により、セリウムイオンを取り込ませ高分子電解質膜f5を得た。
【0223】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=80:20であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0224】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、5000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0225】
[実施例6]
(PBI、白金微粒子添加膜の作製)
200mgのPBIに加え、白金微粒子(STREM製)200mgを使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f6を製造した。
【0226】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=84:16であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0227】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、5000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0228】
[実施例7]
(PBI、酢酸パラジウム(II)添加膜の作製)
200mgのPBIに加え、酢酸パラジウム(II)(和光純薬工業社製)200mgを使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f7を製造した。
【0229】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=83:17であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0230】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、5000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0231】
[実施例8]
(PBI、ポリフェニレンスルフィド(PPS)添加膜の作製)
200mgのPBIに加え、PPS(アルドリッチ社製、375℃溶融粘度275ポイズ)200mgを使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f8を製造した。
【0232】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=84:16であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0233】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、5000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0234】
[実施例9]
(PBI、酢酸パラジウム(II)、PPS添加膜の作製)
200mgのPBIに加え、硝酸パラジウム(II)(和光純薬工業社製)、PPS(アルドリッチ社製、375℃溶融粘度275ポイズ)を使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f9を製造した。
【0235】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=83:17であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0236】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、5000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0237】
[実施例10]
(PBIアルカリ塩添加膜の作製)
合成例9にて合成したPBI5gと水酸化ナトリウム1.5g、水1g、エタノール2gを混合し、80℃にて12時間撹拌しPBIの赤褐色溶液を得た。有機溶媒留去後に多量の純水で洗浄し過剰量の水酸化ナトリウムを除去することでPBIアルカリ塩5.2gを得た。このアルカリ塩のDLSを測定したところ粒径2nm以上の粒子は見られなかった。
【0238】
スプレードライにより可溶化させた200mgのPBIの代わりにPBIアルカリ塩214mgを使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f10を製造した。
【0239】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=88:12であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0240】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、5000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0241】
[実施例11]
(低分子量PBIの合成)
イソフタル酸ジフェニルの仕込み量を28.0gに変えた以外は合成例9と同様にして低分子量PBIを合成した。重量平均分子量は5000であった。また、DLSを測定したところ粒径2nm以上の粒子は見られなかった。
【0242】
(低分子量PBI添加膜の作製)
スプレードライにより可溶化させた200mgのPBIの代わりに200mgの低分子量PBIを使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f11を製造した。
【0243】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=89:11であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0244】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、5000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0245】
[実施例12]
(NRE211CSとスプレードライ可溶化PBI混合膜の作製)
ブロックコポリマーb1の代わりにNRE211CS(ナフィオン)を使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f12を製造した。
【0246】
TEM観察においていかなる相分離構造も確認できなかった(PBIを主成分とする2nm以上の相分離についても見られなかった)。
【0247】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0248】
[実施例13]
(PES系ブロックコポリマーとスプレードライ可溶化PBI混合膜の作製)
ブロックコポリマーb1の代わりに合成例5で得たPES系ブロックコポリマーb2を使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f13を製造した。
【0249】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=84:16であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0250】
得られた膜は、NMPに可溶であったため、耐久性試験として分子量保持率を測定した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0251】
[実施例14]
(ポリアリーレン系ブロックコポリマーとスプレードライ可溶化PBI混合膜の作製)
ブロックコポリマーb1の代わりに合成例8で得たポリアリーレン系ブロックコポリマーb3を使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f14を製造した。
【0252】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=86:14であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0253】
得られた膜は、NMPに可溶であったため、耐久性試験として分子量保持率を測定した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0254】
[実施例15]
(ブロックコポリマー溶液とスプレードライ可溶化PBI溶液混合による高分子電解質溶液及び高分子電解質膜の作製)
(PBI添加膜の作製)
20gのブロックコポリマーb1と79.2gのNMPを混合した後、撹拌機で20,000rpm、3分間撹拌しブロックコポリマー溶液s1を作製した。別途、前記スプレードライにより可溶化させたPBI200mgと800mgのNMPを混合した後、撹拌機で20,000rpm、3分間撹拌しに溶解しスプレードライ可溶化PBI溶液s2を作製した。得られた溶液s1とs2を全量混合し、ポリマー濃度20重量%の透明な高分子電解質溶液を得た。得られた高分子電解質溶液を、ガラス繊維フィルターを用いて加圧ろ過後、ガラス基板上に流延することで膜状に塗布し、100℃にて4時間乾燥後、窒素下150℃で10分間熱処理し、ポリケタールケトン膜(膜厚15μm)を得た。95℃で10重量%硫酸水溶液に24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、高分子電解質膜f15を得た。
【0255】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、EDXを用いて窒素原子の分布から計算したPBIの存在比は、親水性ドメイン中:疎水性ドメイン中=88:12であった。PBIに由来する島状の相分離構造(PBIを主成分とする2nm以上の相分離)は見られなかった。
【0256】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定したが、5000時間以内に評価が終了しなかったので、電圧保持率として電解質膜の化学耐久性を評価した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定しその結果を表1に示す。
【0257】
比較例1
PBIを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして電解質膜f1’を製造した。
【0258】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。
【0259】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0260】
比較例2
0.716gの硝酸セリウム(III)(アルドリッチ社製)を純水に溶解し30Lとして55μmol/Lの硝酸セリウム(III)溶液を調製した。この溶液に、比較例1にて製造した電解質膜f1’を72時間浸漬し、Ce
3+を取り込ませ高分子電解質膜f2’を得た。
【0261】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。
【0262】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0263】
比較例3
ブロックコポリマーb1の代わりにNRE211CS(ナフィオン)を使用した以外は、比較例1と同様にして電解質膜f3’を製造した。
【0264】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0265】
比較例4
ブロックコポリマーb1の代わりにブロックコポリマーb2を使用した以外は、比較例1と同様にして電解質膜f4’を製造した。
【0266】
得られた膜は、NMPに可溶であったため、耐久性試験として分子量保持率を測定した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0267】
比較例5
ブロックコポリマーb1の代わりにブロックコポリマーb3を使用した以外は、比較例1と同様にして電解質膜f5’を製造した。
【0268】
得られた膜は、NMPに可溶であったため、耐久性試験として分子量保持率を測定した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0269】
比較例6
スプレードライにより可溶化させた200mgのPBIの代わりに合成例9で合成した200mgのPBIに可溶化処理を施すことなく使用した以外は、実施例1と同様にして電解質膜f6’を製造した。未処理PBIをNMP中にて20,000rpm、3分間撹拌し作製した分散液のDLSを測定したところ、算術平均粒子径は20nmであった。
【0270】
TEM観察において、周期長30nmの共連続様の相分離構造が確認できた。イオン性基を含有するドメイン、イオン性基を含有しないドメインともに連続相を形成していた。また、算術平均粒子径20nmのPBI由来の粒子(PBIを主成分とする20nmの相分離)が観察された。
【0271】
得られた膜は、NMPに不溶であり分子量保持率が測定不能であったため、耐久性試験として開回路保持時間を測定した。別途イオン交換容量、プロトン伝導度、膨潤率を測定し、その結果を表1に示す。
【0272】
【表1】
【0273】
表1より、可溶性ポリアゾールを添加し、高分子電解質とポリアゾールとの相分離が観察されなかった実施例1〜11の開回路保持時間は、同一ポリマーを用いた比較例1、2よりも長いものであった。予めブロックコポリマー溶液とポリアゾール溶液を作製し、溶液同士を混合することで高分子電解質膜を製造した実施例15は、ブロックコポリマー溶液にポリアゾールを添加した実施例1〜11よりも分子量保持率が向上していた。また、不溶性ポリアゾール粒子を加えた比較例6もポリアゾール添加により開回路保持時間が長くなっていたものの、可溶性ポリアゾールを添加した実施例1〜11と比較すると、開回路保持時間が短く、膨潤率も大きなものであった。また、実施例12と比較例3、実施例13と比較例4、実施例14と比較例5に関しても、添加剤を加えた方が膨潤率および開回路保持時間或いは分子量保持率が優れていた。以上より、本発明のポリアゾールは、燃料電池の発電により生成される過酸化水素または過酸化物ラジカルに対する優れた耐久性を、高分子電解質膜に付与することが出来るものである。