(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361678
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】ボビン
(51)【国際特許分類】
B65H 75/18 20060101AFI20180712BHJP
G02B 6/46 20060101ALI20180712BHJP
B65D 85/04 20060101ALI20180712BHJP
B65H 75/14 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
B65H75/18 Z
G02B6/46
B65D85/04
B65H75/14
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-53765(P2016-53765)
(22)【出願日】2016年3月17日
(65)【公開番号】特開2017-165561(P2017-165561A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】特許業務法人 東和なぎさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 勝司
(72)【発明者】
【氏名】粟飯原 勝行
【審査官】
大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3049579(JP,U)
【文献】
特開2007−290784(JP,A)
【文献】
特開2004−059198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 75/00−75/32
B65D 85/04
G02B 6/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状体が巻き付けられる胴体と、該胴体の端部に固定される鍔とを備え、該鍔が、前記胴体の一端が挿入される有底穴を有し、該有底穴において接着剤により前記胴体と固定されるボビンであって、
前記鍔の前記有底穴は、複数の円周状若しくは歯車形状の、底部から突出する凸部または底部から陥没する凹部を有し、
前記胴体は、前記凸部または前記凹部とそれぞれ嵌合する、複数の円周状若しくは歯車形状の、凹部または凸部を有するボビン。
【請求項2】
前記有底穴の底面及び前記胴体の前記鍔側の先端が前記胴体の中心軸に垂直な面に対して傾斜している斜面で形成されている請求項1に記載のボビン。
【請求項3】
前記胴体と前記鍔とは発泡スチロールで形成されている請求項1または2に記載のボビン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビンに関し、特に、光ファイバケーブル等の線状体を巻き取るために使用するボビンに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブル等の線状体は、通常ボビンに巻付けて保管、搬送等が行なわれている。ボビンは、リール、ドラム、スプール、巻枠等の名称で呼ばれることもあり、例えば発泡スチロールで形成される(特許文献1参照)。
図9は、従来のボビンの一例を示す断面図である。図のボビン100は、線状体が巻き付けられる円筒状の胴体101と、胴体101の両端に位置する一対の鍔102,103を備える。
このボビン100に線状体を巻き付けるに当たっては、ボビン100の軸孔104a,105aに回転軸を通して、ボビン100を回転させながら、他の装置から線状体をボビン100の胴体101の周囲にガイドして整列させて巻き付ける。
【0003】
このボビン100は、本体104と鍔部材105とから成り、本体104は胴体101と上記一対の鍔102,103のうちの一方の鍔103とが一体となっているものであり、鍔部材105は他方の鍔102である。
鍔部材105は、本体104の胴体101の端部104bが挿入される有底穴105bを有し、該有底穴105bにおいて接着剤により胴体101すなわち本体104と鍔部材105とは接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭62−77178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、光ファイバ等の線状体が巻かれたボビン100は、ダンボール箱等の梱包箱に収容されて出荷され、トラックや船などで輸送されることがある。このように輸送される際、トラックの荷台の上方や船の甲板に積載されると、気温が20℃程度であっても、輻射熱を浴びることで、梱包箱内の温度は、50℃を超えることがある。また、ボビン100は外国に出荷されることもあり、例えば、中東地域などでは日本に比べて高温の環境で使用される。
このような高温環境では、一般的に接着剤の接着強度が弱まるため、本体104と鍔部材105との接着強度が落ち、大きな力が掛からなくても、鍔部材105が本体104すなわち胴体101から剥がれてしまうことがある。
【0006】
本発明は、上述のごとき実情に鑑みてなされたもので、胴体と鍔とが接着剤により接合されているボビンであって、高温環境でも鍔が胴体から容易に剥がれることのないボビンを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のボビンは、線状体が巻き付けられる胴体と、該胴体の端部に固定される鍔とを備え、該鍔が、胴体の一端が挿入される有底穴を有し、該有底穴において接着剤により胴体と固定されているものであって、鍔の有底穴が、
複数の円周状若しくは歯車形状の、底部から突出する凸部または底部から陥没する凹部を有し、胴体が、凸部または凹部と
それぞれ嵌合する、
複数の円周状若しくは歯車形状の、凹部または凸部を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のボビンによれば、胴体と接着剤により接合されている鍔が高温環境でも胴体から容易に剥がれることがないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るボビンの一例を説明するための断面図である。
【
図2】
図1のボビンにおける本体と鍔部材との接合部分の部分拡大断面図である。
【
図7】
図5の鍔部材と本体との接合部分の部分拡大断面図である。
【
図8】本発明に係るボビンの他の例における鍔部材と本体との接合部分の部分拡大断面図である。
【
図9】従来のボビンを説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
(1)本願の実施形態に係るボビンは、線状体が巻き付けられる胴体と、該胴体の端部に固定される鍔とを備え、該鍔が、胴体の一端が挿入される有底穴を有し、該有底穴において接着剤により胴体と固定されているものであって、鍔の前記有底穴が、
複数の円周状若しくは歯車形状の、底部から突出する凸部または底部から陥没する凹部を有し、胴体が、
前記凸部または
前記凹部と
それぞれ嵌合する
、複数の円周状若しくは歯車形状の、凹部または凸部を有する。このように構成することにより、胴体と接着剤により接合されている鍔が胴体から容易に剥がれることがないようにできる。
【0011】
(2)鍔の有底穴の底面及び胴体の鍔側の先端が胴体の中心軸に垂直な面に対して傾斜している斜面で形成されていることが好ましい。これにより鍔と本体の接着強度をより高めることができる。
【0012】
(3)胴体と鍔とは発泡スチロールで形成されていることが好ましい。これにより、軽量化を図ることができ、胴体に巻き付けられた線状体を繰り出す際に線状体に大きな引き戻し力が加わることを防ぎ、また、線状体を含めた総重量を抑えることができる。
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るボビンの好適な実施の形態について説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内ですべての変更が含まれることを意図する。また、以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0014】
図1は、本発明に係るボビンの一例を説明するための断面図である。
図のボビン1は、光ファイバ等の線状体が巻き付けられる円筒状の胴体2と、胴体2の両端に位置する一対の円板状の鍔3,4を備える。鍔3,4の形状は略同一である。
【0015】
ボビン1は、本体5と鍔部材6の二つからなり、本体5が胴体2と上記一対の鍔のうち一方の鍔3とを一体的に有し、鍔部材6が他方の鍔4を有し、本体5と鍔部材6とは後述のように接着剤により接合されている。
このボビン1に線状体を巻き付ける際やボビン1から線状体を繰り出す際に、ボビン1は胴体2の中心軸すなわちボビン1の中心軸Xを中心に回転される。この回転のための回転軸を通す軸孔5a,6aが、本体5の鍔3側の端部及び鍔部材6の中心に形成されている。
【0016】
胴体2は、中空に形成されている。胴体2は、中実に形成されていてもよいが、繰り出される線状体に大きな引き戻し力を与えることのないように、できるだけ軽量にすることが望ましいため、一般的には中空に形成される。また、できるだけ長い線状体を巻き付けつつ、巻き付けた線状体を含めた総重量を抑えるためにも、胴体2は中空に形成される。
【0017】
さらに、軽量化のために本体5及び鍔部材6は、成形材料として発泡スチロールなどの軽量材料が用いられることが望ましい。
【0018】
また、鍔部材6には、中心軸X方向と平行方向に突出するボス6dが中央に形成されている。ボス6dは、胴体2の中空部分に挿入される。後述の
図3に示すように、ボス6dの外側部分は、中心軸X方向から見て例えば歯車形に形成されている。
鍔部材6のボス6dの外周には、本体5の鍔3とは反対側の端部5bが挿入される、有底穴6bが形成されている。後述の
図3に示すように、有底穴6bは中心軸X方向から見て環状に形成されている。
有底穴6bにおいて接着剤により本体5の胴体2と鍔部材6とが接合されることによりボビン1が形成されている。
【0019】
図2〜
図4を用いて、ボビン1における本体5と鍔部材6との接合部分についてより詳しく説明する。
図2は、上記接合部分の拡大断面図、
図3は、中心軸X方向(
図1参照)であって鍔3側から見た鍔部材6の平面図、
図4は鍔部材6の斜視図である。
図2〜
図4に示すように、鍔部材6の有底穴6bには、該有底穴6bの底部から中心軸Xと平行方向に突出する二つの凸部6cが形成されており、本体5の端部5bには凸部6cが挿入される凹部5cが形成されている。
このように凹凸を設けることにより接着面積が広くなるのでボビン1では高い接着強度を得ることができる。
なお、上記では、鍔部材6側の有底穴6bから突出する凸部を有する形態を説明したが、鍔部材6の有底穴6bの厚みに余裕があれば、有底穴6bの底部から陥没する凹部を形成し、本体5の端部5b側に凸部を形成してもよい。
【0020】
ボビン1では、凸部6cは円周状に設けられている。なお、図示は省略するが、本体5の凹部5cも円周状に設けられている。ただし、凸部6c及び凹部5cはボス6dの外周形状に沿って歯車形状に設けられてもよい。歯車形状にした方が、接触面積をさらに広くすることができる。
【0021】
また、ボビン1では、鍔部材6の有底穴6bの底面と、本体5の先端面は、胴部の中心軸に垂直な面に対して傾斜していることが望ましい。より具体的には、ボビン1では、鍔部材6と本体5との接触面が、凸部6cの突出方向すなわち中心軸Xと非平行方向の面は斜面で形成されている。ここで「斜面」とは中心軸Xに垂直な面に対して傾いた面のことをいう。上述のように傾斜していることにより、さらに接触面積が広くなり、ボビン1ではさらに高い接着強度を得ることができる。なお、上述のように上記非平行方向の面が傾斜せず、中心軸Xに垂直に形成されていても、有底穴6bの掘り込みを深くすれば接触面積を広くすることはできる。しかし、単純に彫り込みを深くするだけでは、鍔部材6の有底穴6bを形成した部分が薄くなり物理的な強度が保てなくなる。そこで、上述のように傾斜させることで、物理的な強度を保ちつつ、接着強度を高くすることができる。
【0022】
図5〜
図7と、
図2を参照し、本発明の一実施例に係るボビン1と、比較例のボビンの接着強度の比較結果を説明する。
図5〜
図7は、比較例である従来のボビン100の鍔部材105の構造を説明する図であり、
図5は鍔部材105の平面図、
図6は鍔部材105の斜視図、
図7は鍔部材105と本体104との接合部分の部分拡大断面図である。
比較例のボビン100と上述のボビン1とは、有底穴の形状及びそれに対応する本体部の端部の形状のみが相違し、他の箇所は同一である。
【0023】
比較例のボビン100の寸法は、例えば、鍔部材105の直径L1は450mm、鍔102の幅L2は85mm、有底穴105bの最も狭い部分の幅L3は40mm、ボス105cの径方向に刳り抜かれた部分の刳り抜き径L4は42mmΦ、軸孔105aの直径L5は51mm、ボス105cの直径L6は200mm、有底穴105bの外側の直径L7は280mm、鍔102の厚みL8は25mm、ボス105cの厚みL9は20mm、有底穴105bの外側部分の深さL10は10mmである。
以上の寸法において、本体104の先端部が接着に寄与しているとするとし、本体104と鍔部材105の接着される部分の面積を求めると、比較例のボビン100における接着面積は46,923mm
2である。
【0024】
一方、本発明の実施例に係るボビン1の寸法は、比較例のボビン100の上述のL1〜L8に相当する部分については比較例のボビン100と同一である。その一方で、例えば本実施例に係るボビン1の有底穴6bの2つの凸部6cは、有底穴6bの内周壁から内側の凸部6cまでの距離と、有底穴6bの外周壁から凸部6cまでの距離と、内側の凸部6cから外側の凸部までの距離とが略等しくなる位置に形成されており、凸部6cの幅L11は10mm、凸部6cの高さL12は15mmである。また、有底穴6bの外周部分の深さL13は15mm、有底穴6bの内周部分の深さL15すなわちボス6dの厚みは20mmである。
以上の寸法において、本体5の先端部が接着に寄与しているとするとし、本体5と鍔部材6の接着される部分の面積を求めると、本実施例のボビン1における接着面積は106,242mm
2である。本実施例のボビン1の接着面積は、比較例のボビン100の接着面積の2.3倍である。
【0025】
本実施例のボビン1を2つ用意し、一方は接着固定後、以下の引っ張り試験を行い、他方は固定後に60℃の環境で3日間晒した後に同引っ張り試験を行った。また、比較例のボビン100を同様に2つ用意し、同様に同引っ張り試験を行った。なお、今回行った引っ張り試験は、ボビンの本体を装置に固定した状態で鍔部材の縁を保持し、鍔部材を本体から剥がす方向に引っ張る試験であり、剥がれた時の力を測定するものである。
【0026】
比較例のボビン100については、引っ張り試験において、60℃の環境に晒していない通常のものは、本体104から鍔部材105が剥離する前に鍔部材105が破壊されたが、60℃の環境に晒したものについては上記破壊されたときの約半分の力で本体104から鍔部材105が剥離してしまった。
一方、本実施例のボビン1については、引っ張り試験において、60℃の環境に晒していない通常のものは、比較例のボビン100と同様、本体104から鍔部材105が剥離する前に鍔部材105が破壊された。しかし、60℃の環境に晒した本実施例のボビン1は、比較例のボビン100の鍔部材105が本体104から剥離したときの力の約2.3倍の力が加わってようやく鍔部材6が本体5から剥離された。
このように、本実施例のボビン1は比較例に比べて、高温環境に晒されても鍔部材6が本体5から容易に剥がれることがなかった。
【0027】
図8は、本発明に係るボビンの他の例を説明するための部分拡大断面図である。
図のボビン1´は、
図1のボビン1と同様、線状体が巻き付けられる胴体2´等を有する本体5´と、鍔4を有する鍔部材6´とから成る。また、
図1のボビン1と同様、鍔部材6´には、本体5´の端部5b´が挿入される有底穴6b´が形成されており、該有底穴6b´には、該有底穴6b´の底部から中心軸X(
図1参照)と平行方向に突出する二つの凸部6c´が形成され、本体5´の端部5b´には凸部6c´が挿入される凹部5c´が形成されている。ただし、ボビン1´では、鍔部材6´の有底穴6b´の底面と、本体5´の先端面は傾斜しておらず、中心軸Xに垂直な面で形成されている。このボビン1´においても、従来のボビンに比べ、接着強度が上がり、胴体と接着剤により接合されている鍔が、高温環境でも胴体から容易に剥がれることがない。
【符号の説明】
【0028】
1…ボビン、2…胴体、3,4…鍔、5…本体、5c…凹部、6…鍔部材、6b…有底穴、6c…凸部、6d…ボス。