特許第6361680号(P6361680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6361680音場制御システム、解析装置、音響装置、音場制御システムの制御方法、解析装置の制御方法、音響装置の制御方法、プログラム、記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361680
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】音場制御システム、解析装置、音響装置、音場制御システムの制御方法、解析装置の制御方法、音響装置の制御方法、プログラム、記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/00 20060101AFI20180712BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20180712BHJP
   H04S 7/00 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   G10K15/00 L
   H04R3/00 310
   H04S7/00 300
【請求項の数】17
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-68904(P2016-68904)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-181783(P2017-181783A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】710014351
【氏名又は名称】オンキヨー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】特許業務法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平 和彦
【審査官】 渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−191541(JP,A)
【文献】 特開2007−158582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/00−15/12
H04R 3/00− 3/14
H04S 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーに、テスト信号列を供給する信号供給部と、
前記テスト信号列に基づいて前記スピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音し、前記テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定部と、を備え、
前記先頭テスト音収音時刻決定部は、前記マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した前記先頭音の収音時刻から、前記テスト信号列によって規定される前記先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、前記先頭音の収音時刻を前記先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする音場制御システム。
【請求項2】
前記先頭テスト音収音時刻決定部は、検出した前記先頭音の収音時刻から、前記先頭テスト音と前記n番目のテスト音との発音間隔経過後に音が検出されなかったと判定した場合、前記先頭音の次に検出された音を、新たな先頭音として判定を行うことを特徴とする請求項1に記載の音場制御システム。
【請求項3】
前記先頭テスト音収音時刻決定部は、前記先頭テスト音を発音するスピーカーについて、前記テスト信号列によって規定される最後のテスト音の収音時刻から、当該最後のテスト音とその前のテスト音との発音間隔経過後に音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、前記先頭音の次に検出された音を、新たな先頭音として判定を行うことを特徴とする請求項2に記載の音場制御システム。
【請求項4】
前記テスト信号列は、複数の前記スピーカーに、それぞれx回(但し、xはx≧2となる整数)ずつテスト音を発音させるものであり、
前記先頭テスト音収音時刻決定部により決定した前記先頭テスト音の収音時刻を基準として、前記スピーカーごとに、前記x回発音された前記テスト音の収音結果のうち少なくとも一部の収音結果を用いて同期加算を行う同期加算部と、
前記同期加算部の加算結果を用いて、各スピーカーに供給する音声信号の遅延処理を行う信号処理部と、を備えることを特徴とする請求項3に記載の音場制御システム。
【請求項5】
前記テスト信号列の発音タイミングを示す情報と、前記同期加算部の加算結果から得られる前記スピーカーごとに同期加算された各テスト音の収音タイミングと、を比較し、各テスト音の発音タイミングと収音タイミングの時間差を算出する時間差算出部を備え、
前記信号処理部は、前記時間差算出部により算出された前記時間差に基づいて、前記遅延処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の音場制御システム。
【請求項6】
前記テスト信号列は、前記テスト音を一定の間隔で発音させる信号列であることを特徴とする請求項5に記載の音場制御システム。
【請求項7】
前記時間差算出部は、前記先頭テスト音の収音時刻から所定時間遡った時点を基準とし、前記一定の間隔ごとに分割区間を設定したときの各分割区間の開始点から各テスト音の収音時刻までの時間長と、前記所定時間との時間差を算出することを特徴とする請求項6に記載の音場制御システム。
【請求項8】
前記マイクロフォンにより前記テスト音列を含む音を収音し、前記先頭テスト音収音時刻決定部、前記同期加算部および前記時間差算出部を有する解析装置と、
前記信号供給部および前記信号処理部を有する音響装置と、から成り、
前記解析装置と前記音響装置は、無線通信を介して接続されることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の音場制御システム。
【請求項9】
テスト信号列に基づいてスピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音する収音部と、
前記収音部の収音結果から、前記テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定部と、を備え、
前記先頭テスト音収音時刻決定部は、前記マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した前記先頭音の収音時刻から、前記テスト信号列によって規定される前記先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、前記先頭音の収音時刻を前記先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする解析装置。
【請求項10】
スピーカーに、テスト信号列を供給する信号供給部と、
前記テスト信号列に基づいて前記スピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音した収音結果から、前記テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定部と、を備え、
前記先頭テスト音収音時刻決定部は、前記マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した前記先頭音の収音時刻から、前記テスト信号列によって規定される前記先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、前記先頭音の収音時刻を前記先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする音響装置。
【請求項11】
スピーカーに、テスト信号列を供給する信号供給ステップと、
前記テスト信号列に基づいて前記スピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音し、前記テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定ステップと、を実行し、
前記先頭テスト音収音時刻決定ステップは、前記マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した前記先頭音の収音時刻から、前記テスト信号列によって規定される前記先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、前記先頭音の収音時刻を前記先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする音場制御システムの制御方法。
【請求項12】
テスト信号列に基づいてスピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音する収音ステップと、
前記収音ステップの収音結果から、前記テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定ステップと、を実行し、
前記先頭テスト音収音時刻決定ステップは、前記マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した前記先頭音の収音時刻から、前記テスト信号列によって規定される前記先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、前記先頭音の収音時刻を前記先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする解析装置の制御方法。
【請求項13】
スピーカーに、テスト信号列を供給する信号供給ステップと、
前記テスト信号列に基づいて前記スピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音した収音結果から、前記テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定ステップと、を実行し、
前記先頭テスト音収音時刻決定ステップは、前記マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した前記先頭音の収音時刻から、前記テスト信号列によって規定される前記先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、前記先頭音の収音時刻を前記先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする音響装置の制御方法。
【請求項14】
コンピューターに、請求項11に記載の音場制御システムの制御方法における前記先頭テスト音収音時刻決定ステップを実行させるプログラム。
【請求項15】
コンピューターに、請求項12に記載の解析装置の制御方法における各ステップを実行させるプログラム。
【請求項16】
コンピューターに、請求項13に記載の音響装置の制御方法における各ステップを実行させるプログラム。
【請求項17】
請求項14ないし16のいずれか1項に記載のプログラムを記録したコンピューター読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響装置の音場制御を行う音場制御システム、解析装置、音響装置、音場制御システムの制御方法、解析装置の制御方法、音響装置の制御方法、プログラム、記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として特許文献1が知られている。特許文献1には、複数のスピーカーに対しテスト音を発音させるためのテスト信号を供給し、音像定位位置に置かれたマイクロフォンにより各テスト音を収音して収音信号のピーク点を検出することにより各スピーカーからの音到達時間を測定し、音到達時間に逆比例した時間分、各スピーカーに入力する音声信号を遅延させる音像定位装置が開示されている。このように、特許文献1によれば、各スピーカーからマイクロフォンまでの距離のばらつきによる音の遅延を解消する音場制御を行うことで、スピーカーの設置環境に応じたセットアップを容易に行うことができるといった効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−297881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように、従来の技術では、テスト音の収音タイミングを検出する場合、収音信号の信号レベルだけで検出を行っている。このため、不測のノイズが混入した場合、そのノイズをテスト音と誤検出してしまう虞がある。このようなノイズを低減する方法としては、複数回発音されたテスト音を収音し、それらを同じタイミングで足し合わせることでS/Nを大きくする同期加算が知られている。この同期加算を行うためには、複数回発音されるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を正確に決定しておく必要がある。そもそも、上記特許文献1のような従来の技術では、テスト音を発音する音響装置と、テスト音を収音するマイクロフォンとが同一装置内に含まれているため、先頭テスト音についても発音時刻から収音時刻を正確に求めることが可能であり、ノイズにより先頭テスト音の収音時刻を誤検出する可能性は低い。ところが、スマートフォン(スマートフォンに搭載されたマイクロフォン)など、テスト音を発音する音響装置とは別の装置を用いて収音する場合、テスト音の発音タイミングを特定できないため、先頭テスト音の収音時刻を正確に測定することができないといった問題がある。特に、音響装置と別の装置が無線通信を介して接続されている場合、ルーティングや再送などにより通信遅延が発生するため、収音時刻の決定がさらに困難である。
【0005】
一方、先頭テスト音の収音時刻を正確に決定することは、上記のような音の遅延を解消するための音場制御のみならず、スピーカーの周波数特性等を計測する際にも重要である。つまり、スピーカーから発音されたテスト音列を収音して、各種計測を行う場合に、先頭テスト音の収音時刻を正確に測定可能な手法が望まれている。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑み、スピーカーから発音されたテスト音列を収音して各種計測を行う場合の、先頭テスト音の収音時刻を正確に測定することが可能な音場制御システム、解析装置、音響装置、音場制御システムの制御方法、解析装置の制御方法、音響装置の制御方法、プログラム、記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の音場制御システムは、スピーカーに、テスト信号列を供給する信号供給部と、テスト信号列に基づいてスピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音し、テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定部と、を備え、先頭テスト音収音時刻決定部は、マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した先頭音の収音時刻から、テスト信号列によって規定される先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、先頭音の収音時刻を先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする。
【0008】
本発明の解析装置は、テスト信号列に基づいてスピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音する収音部と、収音部の収音結果から、テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定部と、を備え、先頭テスト音収音時刻決定部は、マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した先頭音の収音時刻から、テスト信号列によって規定される先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、先頭音の収音時刻を先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする。
【0009】
本発明の音響装置は、スピーカーに、テスト信号列を供給する信号供給部と、テスト信号列に基づいてスピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音した収音結果から、テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定部と、を備え、先頭テスト音収音時刻決定部は、マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した先頭音の収音時刻から、テスト信号列によって規定される先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、先頭音の収音時刻を先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする。
【0010】
本発明の音場制御システムの制御方法は、スピーカーに、テスト信号列を供給する信号供給ステップと、テスト信号列に基づいてスピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音し、テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定ステップと、を実行し、先頭テスト音収音時刻決定ステップは、マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した先頭音の収音時刻から、テスト信号列によって規定される先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、先頭音の収音時刻を先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする。
【0011】
本発明の解析装置の制御方法は、テスト信号列に基づいてスピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音する収音ステップと、収音ステップの収音結果から、テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定ステップと、を実行し、先頭テスト音収音時刻決定ステップは、マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した先頭音の収音時刻から、テスト信号列によって規定される先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、先頭音の収音時刻を先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする。
【0012】
本発明の音響装置の制御方法は、スピーカーに、テスト信号列を供給する信号供給ステップと、テスト信号列に基づいてスピーカーから発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォンにより収音した収音結果から、テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音の収音時刻を決定する先頭テスト音収音時刻決定ステップと、を実行し、先頭テスト音収音時刻決定ステップは、マイクロフォンにより収音した収音信号から先頭音を検出し、検出した先頭音の収音時刻から、テスト信号列によって規定されると先頭テスト音と当該先頭テスト音と同一のスピーカーから発音されるn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に、音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、先頭音の収音時刻を先頭テスト音の収音時刻として決定することを特徴とする。
【0013】
本発明の構成によれば、テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭テスト音とn番目のテスト音との収音時間間隔に基づいて、検出した先頭音が先頭テスト音であるか否かを判定するため、先頭テスト音の収音時刻を正確に測定することができる。これにより、スピーカーから発音されたテスト音列を収音して各種計測を行う場合に、正確な計測結果を得ることができる。特に、テスト音を発音する音響装置と、テスト音を収音するマイクロフォンとが別装置の場合など、テスト音を発音する音響装置とは別の装置を用いて収音する場合、本発明の適用が効果的である。
また、複数の複数のスピーカーに対してテスト信号列が供給される場合、つまりステレオスピーカーやマルチチャンネルスピーカーを用いる場合は、本発明を、各スピーカーからマイクロフォンまでの距離のばらつきによる音の遅延を解消するための音場制御に用いることができる。
なお、「先頭テスト音」とは、テスト音列に含まれる複数のテスト音のうち先頭の音を指す。また、「先頭音」とは、収音信号から検出される先頭の音を指す。
また、「音が検出されたか否かの判定」は、収音信号に基づき、先頭音が検出された収音時刻から所定時間経過後に、テスト音に近似する音が検出されたか否かを判定するものである。
【0014】
上記の音場制御システムにおいて、先頭テスト音収音時刻決定部は、検出した先頭音の収音時刻から、先頭テスト音とn番目のテスト音との発音間隔経過後に音が検出されなかったと判定した場合、当該先頭音の次に検出された音を、新たな先頭音として判定を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明の構成によれば、先頭テスト音とn番目のテスト音との収音時間間隔が、テスト信号列によって規定される所定の発音間隔と異なる場合、すなわち検出した先頭音が先頭テスト音でないと判定した場合であっても、先頭テスト音を決定するまで判定を繰り返すことができる。
【0016】
上記の音場制御システムにおいて、先頭テスト音収音時刻決定部は、先頭テスト音を発音するスピーカーについて、テスト信号列によって規定される最後のテスト音の収音時刻から、当該最後のテスト音とその前のテスト音との発音間隔経過後に音が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、先頭音の次に検出された音を、新たな先頭音として判定を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明の構成によれば、先頭テスト音を発音するスピーカー(複数のスピーカーを用いる場合は、最初にテスト信号が供給されるスピーカー)から発音されたテスト音のうち、最後に収音されたテスト音から所定の収音時間間隔が経過した後に音が検出された場合は、一旦決定した先頭テスト音が正しい先頭テスト音でないと看做して判定を繰り返すため、先頭テスト音をより正確に測定することができる。
【0018】
上記の音場制御システムにおいて、テスト信号列は、複数のスピーカーに、それぞれx回(但し、xはx≧2となる整数)ずつテスト音を発音させるものであり、先頭テスト音収音時刻決定部により決定した先頭テスト音の収音時刻を基準として、スピーカーごとに、x回発音されたテスト音の収音結果のうち少なくとも一部の収音結果を用いて同期加算を行う同期加算部と、同期加算部の加算結果を用いて、各スピーカーに供給する音声信号の遅延処理を行う信号処理部と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の構成によれば、同期加算を行うためノイズ軽減効果が期待できる。また、先頭テスト音の判定および最終テスト音の判定を行う上記の構成により先頭テスト音を正確に測定できるため、信頼性の高い同期加算結果を得ることができる。
【0020】
上記の音場制御システムにおいて、テスト信号列の発音タイミングを示す情報と、同期加算部の加算結果から得られるスピーカーごとに同期加算された各テスト音の収音タイミングと、を比較し、各テスト音の発音タイミングと収音タイミングの時間差を算出する時間差算出部を備え、信号処理部は、時間差算出部により算出された時間差に基づいて、遅延処理を行うことを特徴とする。
【0021】
本発明の構成によれば、各テスト音の発音タイミングと収音タイミングの時間差に基づいて各スピーカーに供給する音声信号の遅延処理を行うため、テスト音を発音する装置と発音指令を行う装置とが異なる場合など、テスト音の発音指令から発音までの時間が未知の場合でも、正確な音場制御を行うことができる。
なお、「タイミング」とは、期間設定ではなく時期設定を指す。例えば、「テスト信号列の発音タイミングを示す情報」は、テスト信号列によって規定される各テスト音の発音時期を示す情報を指す。なお、「発音タイミング」は、テスト音間の発音間隔で規定しても良いし、拍子やリズムおよびその時間長などによって規定しても良い。また、「各テスト音の収音タイミング」とは、各テスト音の収音時期を指す。なお、「収音タイミング」は、収音時刻で規定しても良い。
【0022】
上記の音場制御システムにおいて、テスト信号列は、テスト音を一定の間隔で発音させる信号列であることを特徴とする。
【0023】
本発明の構成によれば、テスト音の発音間隔が一定であるため、単純な演算処理で先頭テスト音の判定を行うことができる。
【0024】
上記の音場制御システムにおいて、時間差算出部は、先頭テスト音の収音時刻から所定時間遡った時点を基準とし、一定の間隔ごとに分割区間を設定したときの各分割区間の開始点から各テスト音の収音時刻までの時間長と、所定時間との時間差を算出することを特徴とする。
【0025】
本発明の構成によれば、先頭テスト音の収音時刻から所定時間遡った時点を基準とし、各分割区間の中で時間差を算出する。これにより、小さいワークエリアでも支障なく演算処理を行うことができる。また、先頭テスト音を発音したスピーカー(チャンネル)を基準として時間差を算出するため、他のスピーカーに対する遅延量の算出が容易である。
【0026】
上記の音場制御システムにおいて、マイクロフォンによりテスト音列を含む音を収音し、先頭テスト音収音時刻決定部、同期加算部および時間差算出部を有する解析装置と、信号供給部および信号処理部を有する音響装置と、から成り、解析装置と音響装置は、無線通信を介して接続されることを特徴とする。
【0027】
解析装置と音響装置が無線通信を介して接続されている場合、ルーティングや再送などにより通信遅延が発生する。本発明によれば、このように通信遅延が発生した場合でも、正確に先頭テスト音の収音時刻を測定することができる。また、無線通信を用いることにより、有線ケーブルを取り回す煩雑さを解消できる。
【0028】
本発明のプログラムは、コンピューターに、上記の音場制御システムの制御方法における先頭テスト音収音時刻決定ステップを実行させることを特徴とする。
【0029】
本発明のプログラムは、コンピューターに、上記の解析装置の制御方法における各ステップを実行させることを特徴とする。
【0030】
本発明のプログラムは、コンピューターに、上記の音響装置の制御方法における各ステップを実行させることを特徴とする。
【0031】
本発明の記録媒体は、上記のプログラムを記録し、コンピューター読み取り可能であることを特徴とする。
【0032】
本発明のプログラムまたは記録媒体を用いることにより、スピーカーから発音されたテスト音列を収音して各種計測を行う場合の、先頭テスト音の収音時刻を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】音場制御システムのシステム構成図である。
図2】音場制御システムのハードウェア構成を示す制御ブロック図である。
図3】スマートフォンおよびAVアンプ装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図4】解析部の機能構成を示す機能ブロック図である。
図5】スピーカーに供給されるテスト信号列の一例を示す図である。
図6】マイクロフォンにより収音した収音信号の測定結果の一例を示す図である。
図7】時間差算出部の説明図である。
図8】スマートフォンの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施形態に係る音場制御システム、解析装置、音響装置、音場制御システムの制御方法、解析装置の制御方法、音響装置の制御方法、プログラム、記録媒体について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、音場制御システムSYのシステム構成図である。音場制御システムSYは、スマートフォン1(解析装置)と、AVアンプ装置2と、スピーカー群3(3a〜3f)を備える。請求項における「音響装置」は、AVアンプ装置2およびスピーカー群3を指す。
【0035】
なお、スマートフォン1とAVアンプ装置2は、Bluetooth(登録商標)や無線LAN(Local Area Network)等の無線通信5を介して接続される。また、AVアンプ装置2と各スピーカー3a〜3fは、専用ケーブル等の有線通信4を介して接続される。
【0036】
また、本実施形態のスピーカー群3は、5.1チャンネルに対応し、フロントレフトスピーカー3a(L)、フロントセンタースピーカー3b(C)、フロントライトスピーカー3c(R)、サラウンドライトスピーカー3d(SR)、サラウンドレフトスピーカー3e(SL)およびサブウーファー3f(SW)を含む。
【0037】
なお、図1に示した例に限らず、スピーカー群3を構成するスピーカー数およびスピーカー種類は任意である。また、AVアンプ装置2と各スピーカー3a〜3fを、無線通信を介して接続しても良い。さらに、スマートフォン1に代えて、他のタブレット端末、携帯電話、ノート型PC等の情報処理端末を用いても良い。この場合、情報処理端末の通信規格に応じて、AVアンプ装置2と情報処理端末を、有線通信を介して接続しても良い。
【0038】
次に、図2を参照し、音場制御システムSYのハードウェア構成について説明する。スマートフォン1は、タッチパネル11、マイクロフォン12、通信部13、記憶部14および制御部15を備える。タッチパネル11は、操作手段および表示手段として機能する。マイクロフォン12は、音を収音(音波を入力)する。通信部13は、AVアンプ装置2と情報の送受信を行う。記憶部14は、OS(Operating System)をはじめ、各種スマートフォン用アプリケーションを不揮発に記憶する。スマートフォン用アプリケーションとしては、AVアンプ装置2の音場制御を行うための音場制御アプリケーションを含む。なお、「音場制御」とは、各スピーカー3a〜3fから聴取位置(スマートフォン1の位置)までの距離のばらつきによる音の遅延を解消するために、各スピーカー3a〜3fからテスト音を発音してこれを測定し、当該測定結果に基づいて各スピーカー3a〜3fに供給する音声信号の遅延処理を行うことを指す。制御部15は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)等により構成され、音場制御など各種演算処理を行う。
【0039】
一方、AVアンプ装置2は、通信部21、DSP22(Digital Signal Processor)、アンプ群23および制御部24を備える。通信部21は、スマートフォン1と情報の送受信を行う。DSP22は、音声信号の遅延処理など各種デジタル信号処理を行う。アンプ群23は、各チャンネルに対応した複数のアンプを含む(図示省略)。各アンプは、各チャンネルの音声信号をそれぞれ増幅し、対応する各スピーカー3a〜3fに供給する。制御部24は、CPUやRAM等により構成され、再生制御など各種演算処理を行う。一方、スピーカー群3は、音を発音(音波を出力)する。
【0040】
次に、図3を参照し、スマートフォン1およびAVアンプ装置2の機能構成について説明する。スマートフォン1は、機能構成として、テスト信号記憶部110、発音指令部120、収音部130、録音部140、解析部150、調整情報送信部160を備える。また、AVアンプ装置2は、機能構成として、信号供給部210、調整情報受信部220および信号処理部230を備える。なお、スマートフォン1の各部110〜160は、主に上記の音場制御アプリケーションによって実現される。
【0041】
スマートフォン1のテスト信号記憶部110は、音場制御を行う際に用いるテスト信号列を記憶する。本実施形態のテスト信号列は、テスト音を各スピーカー3a〜3fから予め定められたタイミング(予め定められた発音間隔)、予め定められた順序および予め定められた繰り返し回数だけ発音させるものである。AVアンプ装置2の信号供給部210は、当該テスト信号列をスピーカー群3に供給する(信号供給ステップ)。信号供給部210は、DSP22および制御部24を主要部とする。
【0042】
図5は、テスト信号列の一例を示す図である。同図では、説明を分かり易くするため、スピーカー構成が3チャンネルの場合のテスト信号列を示している。同図に示すテスト信号列は、フロントレフト(L)、フロントセンター(C)、フロントライト(R)の順にスピーカー3を切り替えながらテスト音を発音させる動作を4回(請求項における「x回」)繰り返すものである。つまり、L→C→R→L→C→R→L→C→R→L→C→Rのようにテスト音が12回(スピーカー数×繰り返し数)発音される。また、本実施形態では、テスト音の発音間隔を一定時間T(等間隔)とする。したがって、スピーカー3ごとの発音間隔は、3Tとなる。なお、テスト音としては、インパルス信号など、信号レベルが急変する信号を用いることが好ましい。
【0043】
一方、テスト信号記憶部110は、AVアンプ装置2の機種別またはスピーカー構成(チャンネル数)別にテスト信号列を記憶する。後述する発音指令部120は、接続先となるAVアンプ装置2に適したテスト信号列を用いて発音指令を行う。つまり、AVアンプ装置2との接続確立時に機種またはスピーカー構成を判定し、当該判定結果に応じて使用するテスト信号列を決定する。なお、使用するテスト信号列は、ユーザーにより機種またはスピーカー構成が選択されることにより決定する構成でも良い。
【0044】
スマートフォン1の発音指令部120は、AVアンプ装置2に対しテスト信号の発音指令を行う。本実施形態では、テスト信号(テスト音)ごとに発音指令を行うのではなく、1回の無線通信によりテスト信号列(テスト音列)の発音指令を行う。AVアンプ装置2の信号供給部210は、当該発音指令部120による発音指令にしたがって、各スピーカー3にテスト信号列を供給する。
【0045】
スマートフォン1の収音部130は、マイクロフォン12によりテスト音列を収音する(収音ステップ)。収音部130は、記憶部14(音場制御アプリケーション)および制御部15を主要部とする。また、スマートフォン1の録音部140は、収音部130により収音されたテスト音列を録音する。図6は、マイクロフォンにより収音した収音信号の測定結果の一例を示す図である。同図は、図5に示したテスト信号列に基づくテスト音列を録音した場合を示している。また、同図のt0〜t12は、録音部140により録音された録音データをA/D変換したサンプル値を示している。
【0046】
スマートフォン1の解析部150は、図6に示した録音データを解析することにより、音場制御を行うための調整情報を生成する。ここで、図4を参照し、解析部150について詳細に説明する。解析部150は、先頭テスト音収音時刻決定部151、同期加算部152、時間差算出部153および調整情報生成部154を含む。
【0047】
先頭テスト音収音時刻決定部151は、テスト信号列に基づいて各スピーカー3から発音されたテスト音列を含む音をマイクロフォン12により収音し、テスト音列に含まれるテスト音のうち先頭の音である先頭テスト音の収音時刻を決定する(先頭テスト音収音時刻決定ステップ)。具体的には、マイクロフォン12により収音した収音信号の信号レベルに基づいて先頭音(収音信号から検出される先頭の音)を検出し、検出した先頭音の収音時刻から、スピーカー3ごとの発音間隔(本実施形態では、3T)が経過した後に音(先頭テスト音を発音するスピーカー3から発音されたと看做される音)が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、先頭音の収音時刻を先頭テスト音の収音時刻として決定する。これは、スピーカー3とマイクロフォン12との相対的な位置関係が変わらない場合、スピーカー3ごとの発音間隔経過後には、テスト音が収音されると考えられるためである。なお、マイクロフォン12によりテスト音列を収音している期間(テスト音列の収音開始から収音終了までの間)は、スピーカー3とマイクロフォン12を移動させないことを前提とする。一方、検出した先頭音の収音時刻から、スピーカー3ごとの発音間隔経過後に音が検出されなかったと判定した場合は、検出した先頭音はノイズである可能性が高いため、当該先頭音の次に検出された音を、新たな先頭音として判定を行う。
【0048】
例えば、図6の例では、収音時刻t0に音(所定の閾値を超えたサンプル値)が検出されているが(符号61の点線枠参照)、収音時刻t0から発音間隔3T後に音が検出されていないため(符号62の点線枠参照)、収音時刻t0に検出された音はノイズである可能性が高い。このため、次に検出された音(収音時刻t1)を新たな先頭音として判定を行う。この新たな先頭音については、収音時刻t1から発音間隔3T後に音が検出されているため(収音時刻t4)、当該収音時刻t1を先頭テスト音の収音時刻として決定する。
【0049】
なお、音が検出されたか否かの判定は、インパルス波形のある一定時間の実効値(rms)を算出し、閾値(例えば、定常ノイズの実効値)より大きい場合に、音が検出されたと判定可能である。また、検出した先頭音のインパルス波形の実効値と、発音間隔3T後に検出したインパルス波形の実効値とを比較し、所定の誤差範囲内(例えば、10%以内)である場合に限り、音が検出されたと判定しても良い。これにより、先頭テスト音と同じスピーカー3から発音されたテスト音であるか否かを判定できるため、先頭テスト音をより精度良く判定することができる。
【0050】
但し、先頭テスト音収音時刻決定部151は、上記の先頭テスト音の判定により、先頭テスト音の収音時刻を決定した場合でも、最終テスト音の判定により、その決定が不適切であると判定した場合は、再度先頭テスト音の判定を繰り返す。つまり、先頭テスト音を発音するスピーカー3について、テスト信号列によって規定される最後のテスト音の収音時刻から、スピーカー3ごとの発音間隔(本実施形態では、3T)が経過した後に音(先頭テスト音を発音するスピーカー3から発音されたと看做される音)が検出されたか否かを判定し、検出されたと判定した場合、一旦決定した先頭テスト音はノイズである可能性が高いため、当該先頭音の次に検出された音を、新たな先頭音として判定を行う。
【0051】
例えば、図6の例では、フロントレフト(L)のスピーカー3について、テスト信号列に基づいて最後に発音されたテスト音(10番目のテスト音)と看做される音の収音時刻t10から発音間隔3T後に音が検出されていないため(符号63の点線枠参照)、収音時刻t1は、先頭テスト音の収音時刻として正しかったと判定する。仮に、収音時刻t10から発音間隔3T後に音が検出されていた場合は、収音時刻t1に検出された先頭音はノイズである可能性が高いため当該先頭音の次に検出された音を、新たな先頭音として判定を行う。なお、本実施形態のように、スピーカー3を切り替えながらテスト音を発音させる場合であって、テスト信号列に基づいて発音されるテスト音の数がm個(但し、mはm≧nとなる整数)、スピーカー数がs個(但し、sはs≧1となる整数)である場合、請求項における「先頭テスト音を発音するスピーカーについて、テスト信号列によって規定される最後のテスト音」は、(m−s+1)番目のテスト音となる。
【0052】
なお、先頭テスト音収音時刻決定部151が決定する「先頭テスト音の収音時刻」とは、必ずしも絶対時刻を示すものでなくても良く、収音タイミング(収音時期)を示すものであっても良い。つまり、「先頭テスト音の収音時刻」は、他のテスト音の収音タイミングに対する相対時刻を示すものであっても良い。
【0053】
図4の説明に戻る。同期加算部152は、先頭テスト音収音時刻決定部151により決定した先頭テスト音の収音時刻を基準として、スピーカー3ごとに4回(x回)の同期加算を行う。これにより、S/Nを大きくし、ノイズの影響を低減する。
【0054】
時間差算出部153は、テスト信号列の発音タイミングを示す情報と、同期加算部152の加算結果から得られるスピーカー3ごとに同期加算された各テスト音の収音タイミングと、を比較し、各テスト音の発音タイミングと収音タイミングの時間差を算出する。なお、「テスト信号列の発音タイミングを示す情報」とは、テスト信号列の発音時期を規定する情報であり、本実施形態では、発音間隔Tによって規定される。また、「収音タイミング」とは、サンプル値が所定の閾値を超えた時点を指す。
【0055】
図7は、図6の収音時刻t1,t2,t3に収音されたテスト音(L,C,Rの実線参照)を示す図である。本実施形態では、先頭テスト音(L用)の収音時刻t1から所定時間遡った時点を基準として、先頭テスト音に対応する基準チャンネル(Lチャンネル)との時間差ΔTを算出する。同図では、先頭テスト音(L用)の収音時刻t1からT/2だけ遡った時点(ta)を基準とし、一定の間隔Tごとに分割区間を設定したときの各分割区間の開始点を、ta〜tcとして示している。この場合、tbから2番目のテスト音(C用)の収音時刻までの時間長Tbは、「Tb=T/2+ΔTb」と表すことができる。同様に、tcから3番目のテスト音(R用)の収音時刻までの時間長Tcは、「Tc=T/2+ΔTc」と表すことができる。なお、時間差ΔTはマイナスとなる場合もある。
【0056】
調整情報生成部154は、時間差算出部153により算出された時間差ΔTに基づいて、各スピーカー3に供給する音声信号の遅延処理に用いる調整情報を生成する。つまり、基準となるLチャンネルに対し、Cチャンネルを−ΔTbだけ遅延させ(Cチャンネルへの音声信号の供給タイミングをΔTbだけ早め)、Rチャンネルを−ΔTcだけ遅延させる(Rチャンネルへの音声信号の供給タイミングをΔTcだけ早める)ための調整情報を生成する。実際には、供給タイミングを早めることはできないため、スマートフォン1からの距離Lnが最も長いスピーカー3を基準として、他チャンネルを遅延させるための調整情報を生成する。つまり、図7の例では、R用のスピーカー3を基準として、LチャンネルをΔTcだけ遅延させ、Rチャンネルを(ΔTc−ΔTb)だけ遅延させる調整情報を生成する。
【0057】
なお、所定時間は、必ずしもT/2ではなく、T/3、T/4など、発音間隔Tに所定値を乗算した値でも良いし、発音間隔Tに関係なく、予め定められた規定値であっても良い。また、先頭テスト音の収音時刻から所定時間遡った時点を基準とするのではなく、2番目以降に発音されたテスト音の収音時刻から所定時間遡った時点を基準としても良い。
【0058】
図3の説明に戻る。調整情報送信部160は、調整情報生成部154により生成された調整情報を、AVアンプ装置2に送信する。AVアンプ装置2の調整情報受信部220は、送信された調整情報を受信する。また、信号処理部230は、受信した調整情報に基づいて、各スピーカー3に供給する音声信号の遅延処理を行う(信号処理ステップ)。例えば、上記のように、R用のスピーカー3がスマートフォン1から最も離れている場合、L用およびC用のスピーカー3に対応するチャンネルに対して遅延処理を行う。
【0059】
次に、図8のフローチャートを参照し、音場制御を行う際のスマートフォン1の処理の流れを説明する。スマートフォン1は、タッチパネル11に対する自動測定開始操作に基づき、録音を開始する(S01)。その後、テスト信号列の発音指令(テスト信号列+制御信号)をAVアンプ装置2に送信し(S02)、AVアンプ装置2からテスト信号列の発音開始信号を受信する(S03)。スマートフォン1は、当該発音開始信号の受信から所定時間経過後、録音を停止する(S04)。なお、S01で録音を開始するのではなく、発音開始信号を受信した後、録音を開始する構成としても良い。また、S01の自動測定開始操作を、AVアンプ装置2に対して行い、その操作信号をAVアンプ装置2からスマートフォン1に送信する構成でも良い。
【0060】
スマートフォン1は、録音終了後、定常ノイズ(暗騒音)を測定し(S05)、テスト音検出の閾値を決定する(S06)。例えば、録音期間のA/D変換されたサンプル値のピーク値または実効値に基づいて閾値を決定する。その後、当該閾値を超えたサンプル値をチェックし(S07,図6参照)、最初に検出した音である先頭音について判定を行う(S08)。ここでは、検出した先頭音の収音時刻から発音間隔3T後に音が検出された場合、検出した先頭音が先頭テスト音である(先頭テスト音判定「OK」)と判定する。なお、先頭音の収音時刻から発音間隔3T後に音が検出されなかった場合、検出した先頭音が先頭テスト音ではないと判定し(先頭テスト音判定「NG」)、S07に戻る。
【0061】
S08にて、「OK」と判定された場合は、続いて、最終音について判定を行う(S09)。ここでは、L用のスピーカー3について最後に発音されるテスト音(本実施形態では、10番目のテスト音)の収音時刻から発音間隔3T後に音が検出されていない場合、検出した先頭音が先頭テスト音である(最終テスト音判定「OK」)と判定する。なお、L用のスピーカー3について最後に発音されるテスト音の収音時刻から発音間隔3T後に音が検出された場合は、検出した先頭音が先頭テスト音ではないと判定し(最終テスト音判定「NG」)、S07に戻る。
【0062】
以上、S08,S09の工程により先頭テスト音を決定すると(S10)、決定した先頭テスト音の収音時刻を基準として、スピーカー3ごとに複数回(本実施形態では、4回)の同期加算を行う(S11)。また、テスト信号列の発音タイミングを示す情報(発音間隔T)に基づく所定期間(本実施形態では、T/2)と、S11の同期加算によって得られる各テスト音の収音タイミングと、を比較し、各テスト音の発音タイミングと収音タイミングの時間差ΔTを算出する(S12)。その後スマートフォン1は、当該時間差に基づいて調整情報を生成し(S13)、当該調整情報をAVアンプ装置2に送信する(S14)。なお、図示は省略するが、この後AVアンプ装置2は、調整情報に基づいて音声信号の遅延処理(DSP22による各チャンネルの遅延量設定)を行い、当該遅延処理の終了後、スマートフォン1に対し処理終了を示す信号を送信する。スマートフォン1は、当該信号の受信により、音場制御に係る一連の処理を終了する。
【0063】
以上説明したとおり、本実施形態の音場制御システムSYは、同一のスピーカー3から発音されるテスト音のうち先頭テスト音とその次に発音されるテスト音との収音時間間隔に基づいて、検出した先頭音が先頭テスト音であるか否かを判定する。このため、テスト音を発音する装置(AVアンプ装置2)と、テスト音を収音する装置(スマートフォン1)とが別装置の場合であっても、先頭テスト音の収音時刻を正確に測定することができる。
【0064】
また、本実施形態では、先頭テスト音の判定だけではなく、最後のテスト音と看做される音の収音時刻から所定の収音時間間隔が経過した後に音が検出されたか否かの最終テスト音の判定を行い、音が検出されたと判定した場合は、一旦決定した先頭テスト音がノイズである可能性が高いと判定して先頭テスト音の判定を繰り返すため、先頭テスト音をより正確に測定することができる。
【0065】
また、本実施形態では、テスト信号列の発音タイミングを示す情報と、各テスト音の収音タイミングと、を比較して、各テスト音の発音タイミングと収音タイミングの時間差を算出し、当該時間差に基づいて各スピーカー3に供給する音声信号の遅延処理を行うため、テスト音の発音指令から発音までの時間が未知の場合でも、正確な音場制御を行うことができる。また、スマートフォン1からAVアンプ装置2への発音指令は、1回の無線通信でテスト信号列(全テスト音)の発音指令を行うため、無線通信5の通信環境が安定していない場合でも、正確な音場制御を実現できる。つまり、テスト信号ごとに発音指令を行った場合であって通信環境が不安定な場合、発音指令から発音までの時間が一定とならず、各スピーカー3からスマートフォン1(マイクロフォン12)までの距離差を正確に測定することができないが、本実施形態では1回の無線通信により全テスト音の発音指令を行うため、そのような不具合がない。
【0066】
なお、上記の実施形態によらず、以下の変形例を採用可能である。
[変形例1]
上記の実施形態の同期加算部152は、スピーカー3ごとに、テスト音の繰り返し回数(本実施形態では、4回)だけ同期加算を行ったが、そのうちの最大値と最小値を除いた中間値だけを用いて同期加算を行っても良い。つまり、必ずしもテスト音の繰り返し回数(請求項における「x回」)分の収音結果を用いて同期加算を行うのではなく、一部の収音結果(例えば、実効値が極端に大きすぎるもの、および/または、極端に小さすぎるものを除いたもの)を用いて同期加算を行っても良い。これにより、先頭テスト音の判定精度をより高めることができる。また、さらなる変形例として、同期加算を行わない構成としても良い。
【0067】
[変形例2]
上記の実施形態では、スピーカー3を切り替えながらテスト信号を供給したが、一つのスピーカー3に対して複数回連続してテスト信号を供給しても良い。つまり、L→L→L→L→C→C→C→C→R→R→R→Rのように、テスト信号を供給しても良い。この場合、最終テスト音判定は、先頭テスト音を発音するスピーカー3(上記の例では、L用のスピーカー)について、最後に発音されるテスト音(4番目のテスト音)の収音時刻から発音間隔Tを経過した後に、音が検出されたか否かを判定する。このため、先頭テスト音を発音するスピーカー3と、その他のスピーカー3とを切り替えるとき(上記の例では、4番目のテスト音と5番目のテスト音の間)に、他のテスト音の発音間隔の数倍の間隔(空白期間)を設けることが好ましい。これにより、最終テスト音判定を正確に行うことができる。
【0068】
[変形例3]
上記の実施形態では、スピーカー3ごとに、最初のテスト音(先頭テスト音)と次に発音されるテスト音とを対象として先頭テスト音判定を行ったが、次に発音されるテスト音に限らず、同じスピーカー3について3番目に発音されるテスト音を対象として先頭テスト音判定を行っても良い。つまり、スピーカー3を切り替えながらテスト信号を供給する場合であって、スピーカー数がs個(但し、sはs≧1となる整数)である場合は、1番目と(s+1)番目、1番目と(2s+1)番目、1番目と(3s+1)番目、・・・のいずれを対象としても良い。この場合、先頭テスト音収音時刻決定部151は、テスト信号列によって規定される先頭テスト音とn番目(但し、nはn≧2となる整数)のテスト音との発音間隔経過後に音(n番目のテスト音に近似する音)が検出されたか否かを判定すれば良い。また、一つのスピーカー3に対して複数回連続してテスト信号を供給する場合も、同じスピーカー3から発音されるテスト音であれば、対象となるテスト音は必ずしも2番目のテスト音でなくても良い。
【0069】
[変形例4]
上記の実施形態では、テスト音を一定の間隔で発音させたが、発音するスピーカー3の特性に応じた発音間隔で発音させても良い。例えば、残響の多い音を発音するサブウーファー(SW)などのスピーカー3については、次のテスト音の発音タイミングまでの間隔を広く設定することが好ましい。この構成によれば、次のテスト音の収音時刻を正確に検出することができ、ひいては、より正確な音場制御を実現できる。
【0070】
また、さらなる変形例として、何らかの拍子(三拍子や四拍子など)やリズム(「○○曲の1小節目のリズム」など)に合わせた発音タイミングでテスト音を発音させても良い。この構成によれば、音場制御中であることをユーザーに知らせることができると共に、ユーザーを退屈させることがない。
【0071】
なお、テスト音を一定の間隔で発音させない場合、先頭テスト音判定は、検出した先頭音の収音時刻から、テスト信号列によって規定される先頭テスト音と同じスピーカー3から次に発音されるテスト音との発音間隔経過後に音が検出されたか否かを判定する。最終テスト音判定は、テスト信号列によって規定される最後のテスト音の収音時刻から、当該最後のテスト音と同じスピーカー3からその前に発音されるテスト音との発音間隔経過後に音が検出されたか否かを判定する。
【0072】
[変形例5]
上記の実施形態では、スマートフォン1にテスト信号記憶部110を備えたが、AVアンプ装置2に備えても良い。この場合、スマートフォン1の発音指令部120は、発音指令のみを行い、AVアンプ装置2の信号供給部210は、予め記憶されているテスト信号列を各スピーカー3に供給する。また、スマートフォン1は、接続確立時または発音指令時にAVアンプ装置2からテスト信号列を取得し、解析部150により、取得したテスト信号列の発音タイミングを示す情報と、収音部130により収音された各テスト音の収音タイミングと、を比較する。
【0073】
なお、さらなる変形例として、スマートフォン1とAVアンプ装置2の両方にテスト信号記憶部110を備えても良い。この場合、スマートフォン1は、AVアンプ装置2からのテスト信号列の取得は不要であり、接続されたAVアンプ装置2の機種やスピーカー数を判定し、その判定結果に基づくテスト信号列をテスト信号記憶部110から読み出して、解析部150による解析を行えば良い。
【0074】
[変形例6]
上記の実施形態では、解析部150をスマートフォン1内に備えたが(図3参照)、これをAVアンプ装置2内に備えても良い。この場合、スマートフォン1は、録音部140の録音データ(テスト音列を含む音をマイクロフォン12により収音した収音結果)をAVアンプ装置2に送信すれば良い。
【0075】
[変形例7]
上記の実施形態では、先頭テスト音(L用)の収音時刻t1から所定時間遡った時点を基準として、先頭テスト音に対応する基準チャンネル(Lチャンネル)との時間差ΔTを算出したが、n番目に発音されるテスト音とn+1番目に発音されるテスト音との収音間隔(T+ΔTn)から、発音間隔Tとの時間差ΔTnを求め、当該時間差ΔTnから各チャンネルの遅延量を算出しても良い。例えば、L用テスト音の収音時刻がt1、C用テスト音の収音時刻がt2、R用テスト音の収音時刻がt3であって、t1からt2の経過時間が「T+ΔT1」、t2からt3の経過時間が「T+ΔT2」で表される場合であって、スマートフォン1からの距離Lnが最も長いスピーカー3がL用のスピーカーの場合、Cチャンネルに「ΔT1」だけ遅延させ、Rチャンネルに「ΔT1+ΔT2」だけ遅延させれば良い。なお、時間差ΔTnはマイナスとなる場合もある。
【0076】
[変形例8]
上記の実施形態では、時間差算出部153の算出結果を用いて音声信号の遅延処理を行うための調整情報を生成したが、ユーザーに対し各スピーカー3の位置を調整させるための音場制御情報をスマートフォン1により生成しても良い。例えば、音場制御情報として、例えば、「フロントレフトスピーカーをスマートフォン側に50cm、フロントセンタースピーカー側に30cm近づけてください」など、移動対象となるスピーカー3と、移動量と、移動方向と、を示すメッセージを生成し、タッチパネル11に表示することが考えられる。なお、表示に代えて、音声案内や、電子メール等の通信手段によりメッセージを出力しても良い。また、さらなる変形例として、スピーカー3が自走可能な場合、「音場制御情報」として、各スピーカー3に対する制御信号を出力しても良い。この場合、「音場制御情報」として、移動対象となるスピーカー3と、移動量と、移動方向と、を示す制御信号を生成することが考えられる。各スピーカー3は、取得した音場制御情報に基づいて、不図示の自走手段により移動する。この構成によれば、ユーザーの手を煩わせることなく、各スピーカー3からスマートフォン1までの距離を一致させることができる。
【0077】
[変形例9]
上記の実施形態では、複数のスピーカー3を対象として音場制御を行う場合を説明したが、音場制御以外にも、スピーカー3の周波数特性を測定する場合など、テスト音列の先頭テスト音の収音時刻を正確に決定する必要がある場合に、本発明を適用可能である。その場合、測定対象となるスピーカー3は、1つであっても良い。
【0078】
以上、メインとなる実施形態および各種変形例を示したが、これらに示した音場制御システムSY(スマートフォン1、AVアンプ装置2)の各構成要素をプログラムとして提供しても良い。また、そのプログラムを各種記録媒体(CD−ROM、フラッシュメモリー等)に格納して提供しても良い。すなわち、コンピューターをスマートフォン1またはAVアンプ装置2の各構成要素として機能させるためのプログラム(実施形態中における、音場制御アプリケーションを含む)、およびそれをコンピューター読み取り可能に記録した記録媒体も、本発明の権利範囲に含まれる。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1:スマートフォン 2:AVアンプ装置 3:スピーカー 12:マイクロフォン 110:テスト信号記憶部 120:発音指令部 130:収音部 140:録音部 150:解析部 151:先頭テスト音収音時刻決定部 152:同期加算部 153:時間差算出部 154:調整情報生成部 160:調整情報送信部 210:信号供給部 220:調整情報受信部 230:信号処理部 SY:音場制御システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8