(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
骨材、及び膨張黒鉛を単独で1〜40質量%または膨張黒鉛1質量%以上と、鱗状黒鉛、土状黒鉛、カーボンブラック及び人造黒鉛からなる群から選択された1種または2種以上の炭素源39質量%以下とを炭素源と膨張黒鉛との合計量で10〜40質量%よりなる原料配合物を所定の形状に成形後、得られた成形体を還元雰囲気下で焼成し、次に、残炭率が30質量%以上の有機物を焼成済成形体内に含浸処理することによって得られた炭素含有耐火物を、転炉装入壁にライニングすることを特徴とする転炉装入壁のライニング方法。
【背景技術】
【0002】
炭素含有耐火物は、その優れた耐食性と耐熱衝撃性から、転炉や電気炉などの製鋼炉の内張り用耐火物として広く用いられている。炭素含有耐火物の製鋼炉への適用は、操業技術や補修技術の向上と相俟って、炉寿命を著しく延長した。しかしながら、近年の転炉においては、高級鋼種の精錬比率の増加等による操業条件の過酷化が進んでおり、耐火物の損傷が増大しているのが現状である。
【0003】
転炉操業においては、転炉を片側に傾けてスクラップと溶銑を転炉に装入し、酸素を吹いて脱炭や成分調整を行い、溶銑を溶鋼に変える。吹錬が終了したら、転炉を逆側に傾けて出鋼口から溶鋼を取鍋に排出する。スクラップを装入する際には、転炉を傾け、樋状の形状をしたスクラップシュートにスクラップを入れ、スクラップシュートの後方を吊り上げてスクラップシュートを傾け、転炉内に滑り落とす。また、溶銑を転炉に受ける際には、同様に転炉を傾け、溶銑鍋に入った溶銑を溶銑鍋の上部に当たる炉口から、転炉に注ぎ込む。転炉へスクラップと溶銑を装入する際には、スクラップが衝突し、溶銑が注ぎ込まれる部分は、スクラップや溶銑の装入による機械的衝撃や高い熱的負荷を受けることにより、他の部位と比較して特異な損傷形態を呈するため、装入壁と呼ばれている。特に、転炉装入壁は、吹錬中に他の側壁部位と同様に溶鋼や溶融スラグに曝されるだけではなく、スクラップや溶銑の装入による機械的衝撃や高い熱的負荷を受けるため、転炉装入壁の損傷速度が大きく炉寿命を決定することとなる場合も多い。このことから、より高耐用な装入壁用煉瓦が求められている。従来、装入壁用煉瓦が有するべき特性として、スクラップの装入に耐えうる高い熱間強度や耐摩耗性が求められるとされてきた。これは、高熱間強度とすることでスクラップ衝突による亀裂の発生を抑制し、また、スクラップによる摩耗を軽減させるためである。その対策としては以下のようなものがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、耐火物母体中に、長炭素繊維からなる繊維網を一層以上埋設してなることを特徴とする耐火れんがが開示されており、機械的衝撃と熱衝撃抵抗性に優れた当該耐火れんがは、機械的衝撃及び熱衝撃抵抗性が要求される転炉装入側煉瓦等において特に好ましいとしている。
また、特許文献2には、MgO含量96質量%以上のマグネシアクリンカー50〜90質量%と固定炭素97質量%以上の鱗状黒鉛50〜10質量%の混合物100質量部に対し、平均粒径20〜200メッシュで純度98質量%以上の金属マグネシウム粉末0.5〜10質量部及び長さ1〜70mm、直径3〜100μのカーボンファイバー0.1〜10質量部を加えたことを特徴とする炭素結合マグネシア・カーボンれんがが開示されている。特許文献2によれば、金属マグネシウム粉末及びカーボンファイバーを併用することにより亀裂の発生を最小限に留め、緻密な二次ペリクレース層を形成させ、熱間強度と耐機械的摩耗性の向上し、剥離を防止することにより、炭素結合マグネシア・カーボンれんがの耐用を増大できるとしている。
更に、特許文献3には、マグネシア原料にカーボンファイバーを内掛けで0.1〜50質量%添加したことを特徴とするマグネシア・カーボンれんがが開示されている。特許文献3によれば、マグネシア・カーボンれんがに通常用いられる黒鉛原料の代わりにカーボンファイバーを用いることで、耐熱衝撃性を低下させることなく、機械的強度及び耐摩耗性を高められるとしている。
【0005】
また、特許文献4には、マグネシア95〜60%、カーボン5〜40%にアルミニウム粉末又はアルミニウムを50%以上含むアルミニウム合金粉末を0.5〜10%(外掛)添加した混合物に有機結合剤を加えて混練成形し、ついで500〜1000℃間で焼成した後加熱による炭化収率25%以上の有機物で含浸処理したことを特徴とするマグネシア−カーボン質低温焼成耐火煉瓦が開示されている。特許文献4では、金属Al粉末またはAl合金粉末を添加したマグネシア・カーボン煉瓦を加熱焼成し、その後有機物を煉瓦気孔内に含浸処理することにより、熱間強度の向上と共に耐食性の向上を図ろうとしている。
更に、特許文献5には、仮焼無煙炭を0.5〜10質量%含有し、残部が結晶質及び/または非晶質カーボンからなるカーボン材と、マグネシア系の耐火性骨材からなる高耐スポーリング性マグネシア・カーボンれんが;仮焼無煙炭を0.5〜10質量%含有し、残部が結晶質及び/または非晶質カーボンからなるカーボン材と、マグネシア系の耐火性骨材との原料組成に有機結合剤を添加し、混合、成形後、150〜300℃での熱処理を施す高耐スポーリング性マグネシア・カーボンれんがの製造方法;仮焼無煙炭を0.5〜10質量%含有し、残部が結晶質及び/または非晶質カーボンからなるカーボン材と、マグネシア系の耐火性骨材との原料組成に有機結合剤を添加し、混合、成形後、600〜1500℃で還元熱処理を施す高耐スポーリング性マグネシア・カーボンれんがの製造方法;仮焼無煙炭を0.5〜10質量%含有し、残部が結晶質及び/または非晶質カーボンからなるカーボン材と、マグネシア系の耐火性骨材との原料組成に有機結合剤を添加し、混合、成形後、150〜300℃で熱処理し、更に、600〜1500℃で還元熱処理を施す高耐スポーリング性マグネシア・カーボンれんがの製造方法が開示されている。また、特許文献5の[0014]段落には、「焼成マグネシア・カーボンれんがは還元熱処理後のれんが組成中に発生する気孔の密封、強度アップ、耐消化性の向上を狙って、タールの含浸を施すことも有効である。」旨の記載もあるが、焼成マグネシア・カーボンれんがへのタール含浸処理の具体例については何ら記載がない。
【0006】
また、耐火物の耐スポーリング性を向上する手段として、特許文献6には、炭素質材利用として膨張黒鉛を含有することを特徴とする炭素含有れんがが開示されており、特許文献6によれば、炭素含有れんがの耐スポーリング性並びに破壊エネルギーを向上できるとしている。
更に、特許文献7には、炭素質物質0.5〜40重量%よりなる炭素含有れんがにおいて、炭素質物質として圧縮後粉砕した膨張黒鉛を含有することを特徴とする圧縮、粉砕した膨張黒鉛含有れんが(請求項1);炭素含有れんががマグネシア・カーボンれんがであり、圧縮後粉砕した膨張黒鉛の含有量が0.5〜15重量%であることを特徴とする前記膨張黒鉛含有れんが(請求項2)が開示されている。特許文献7によれば、膨張黒鉛含有れんがの膨張黒鉛として圧縮後粉砕した膨張黒鉛を使用することにより、耐スポーリング性を維持しつつ耐食性を向上できるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の耐火煉瓦に使用されている長繊維からなる繊維網は高価であり、また、この繊維網を埋設する作業は極めて煩雑であるため、極めて高コストとなるという問題点があった。
また、特許文献2及び3のようなカーボンファイバーを添加した煉瓦に、機械的衝撃や熱衝撃への抵抗性の向上効果を付与しようとすると、一定量のカーボンファイバーの添加が必要となるが、カーボンファイバーを煉瓦中に分散させることが困難なため、成形時に充填性の低下を招き、実機使用の際の寿命のばらつきが大きいという問題があった。更に、特許文献1に使用されている長繊維からなる繊維網と同様に、カーボンファイバーも高価であり、コストに見合うだけの耐用性の向上を図ることができず、実用化に至っていないのが現状である。
【0009】
一方、特許文献4及び5は、炭素含有耐火物を非酸化条件で非酸化性雰囲気中または還元雰囲気中で焼成した後、有機物を含浸したものであるが、特許文献4では、アルミニウム粉末またはアルミニウム合金粉末が使用されているために、アルミニウム粉末またはアルミニウム合金粉末が非酸化性雰囲気での焼成時に反応して生成する炭化アルミニウムまたは窒化アルミニウムが、水分と反応して水酸化アルミニウムを生成し、体積膨張により耐火物を破壊させる消化現象が起こるという問題点がある。また、特許文献5では、カーボン材の一部として仮焼無煙炭が配合されているために、焼成後の残炭はポーラスなものとなり、耐酸化性に劣るという問題点があった。
【0010】
また、特許文献6及び7は、炭素質材料として膨張黒鉛を使用した炭素含有れんがに係るものであり、破壊エネルギーが向上することも開示されているが、膨張黒鉛の添加のみでは破壊エネルギー向上の効果は不十分であり、依然として転炉装入壁の材質として満足できる耐用が得られていないのが現状である。
【0011】
従って、本発明の目的は、従来よりも寿命の延長が可能となる、特定の炭素含有耐火物を用いた転炉装入壁のライニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述のとおり、転炉装入壁用煉瓦の耐用性向上には、煉瓦の熱間強度ならびに耐摩耗性の向上を図ることが有効であると考えられ、種々の改良が進められてきた。材質面の改良に加え、特許文献1〜3のように繊維網やカーボンファイバーを添加することが試みられており、それらの目的も熱間強度の向上や、摩耗の抑制に主眼が置かれてきた。しかしながら、満足できる十分な耐用性が得られているという状況にはなかった。
【0013】
本発明者らは、耐用性を向上する手段として、熱間強度や耐摩耗性を向上させることが、必ずしも正しい方法ではない可能性があると考えた。そこで、本発明者らが鋭意研究を行った結果、転炉装入壁用煉瓦に使用される炭素含有耐火物の寿命延長に対して、熱間強度や耐摩耗性の向上が必ずしも有効に働くわけではなく、煉瓦全体の力学的特性、特に、破壊エネルギーが大きく影響することを見出した。すなわち、転炉装入壁における炭素含有耐火物の主な損傷要因は、大きな機械的衝撃ならびに熱衝撃により発生した亀裂が連結することによる煉瓦表面の剥落であり、スクラップによる摩耗は煉瓦の寿命に大きく影響しない。特に、数百kg〜数トンもの重量があるスクラップを装入した際の機械的衝撃は極めて大きく、実際にはいくら耐火物の熱間強度を高めても耐えうるものではなく、亀裂の発生は免れない。
そこで、本発明者らは、亀裂発生の抑制ではなく、亀裂進展の抑制に着目した。煉瓦表面の剥落は、発生した亀裂が進展して連結することによって起こるため、亀裂の進展を抑制することにより煉瓦の寿命延長が可能であると考えた。また、従来の方向性である熱間強度の向上は、亀裂進展に対する抵抗性に対してはむしろ不利な方向に働くため、転炉装入壁用煉瓦の改良には、熱間強度や耐摩耗性の向上とは異なった手法が必要であった。
【0014】
亀裂進展抑制の指標として「破壊エネルギー」の考え方がある。耐火物の破壊エネルギーは、亀裂が進展して新しい表面が形成される際、その表面形成に必要なエネルギーとして定義される。耐火物に応力がかかり、一定量の弾性エネルギーが蓄えられ、そのエネルギーによって亀裂が生成されるとすると、破壊エネルギーが大きいほど亀裂が進展しにくいことになる。
【0015】
本発明者らが、炭素含有耐火物の破壊エネルギーを向上させる方法を模索した結果、還元焼成並びに有機物含浸が破壊エネルギーの向上に有効であることを見出した。炭素含有耐火物の還元焼成並びに有機物含浸は、以前から一般的に適用されている技術であり、例えば、特許文献4では耐食性の向上を目的としている。また、特許文献5では、還元焼成による耐スラグ侵食性、及び弾性率の低下による耐熱スポーリング性の向上効果が述べられている。この中では、焼成後の煉瓦について、気孔の密閉、強度アップ、耐消化性の向上を狙って、タール含浸を施すことも有効であると説明しているが、具体的な記載はない。従って、本発明の主眼である破壊エネルギー向上による亀裂の進展抑制効果については全く言及されておらず、前例はない。
【0016】
ここで、炭素含有耐火物を還元焼成並びに有機物含浸することにより破壊エネルギーが増大する理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。炭素含有耐火物は、一般にフェノール樹脂などをバインダーとして製造される。フェノール樹脂は、高温で熱分解され、一部が残炭として残存し、炭素含有耐火物の結合材として機能する。しかし、その結合の程度は大きくなく、亀裂が発生すると容易に進展してしまうため破壊エネルギーはあまり大きくない。これに対して、還元焼成後に有機物を含浸させた場合、有機物が耐火物の内部まで均等に拡散して浸透し、耐火物内のマトリックス部分や鱗状黒鉛の層間などに有機物が入り込む。これらの有機物は、耐火物使用時に加熱されることによって分解し、炭素結合が形成される。その結果、鱗状黒鉛などの炭素材料と耐火性骨材の聞に緩い結合が生じることで結合の程度が高まり、亀裂が発生しても容易に進展しにくくなる。加えて、緩い結合が生じたために適度な応力によって有機物由来の炭素結合が引き剥がされ、炭素長繊維を添加した場合と同様に耐火物組織間の架橋として働く、いわゆる引き抜き性の向上効果が得られ、その結果として破壊エネルギーが増大するものと思われる。
【0017】
また、破壊エネルギーを更に向上させるために、炭素含有耐火物に添加される炭素源として膨張黒鉛を使用することが有効である。ここで、膨張黒鉛は、黒鉛の層間に硫酸などを挿入して黒鉛層間化合物を800〜1000℃の温度に急激に加熱することにより黒鉛層間を膨張させたものであり、膨張黒鉛を用いることにより、熱膨張が抑制され、炭素含有耐火物の弾性率が低下することで破壊エネルギーを向上させることができる。
本発明は、かかる知見に基づき発明に至ったものである。
【0018】
すなわち、本発明は、骨材、及び膨張黒鉛を単独で1〜40質量%または膨張黒鉛1質量%以上と、鱗状黒鉛、土状黒鉛、カーボンブラック及び人造黒鉛からなる群から選択された1種または2種以上の炭素源39質量%以下とを炭素源と膨張黒鉛との合計量で10〜40質量%
よりなる原料配合物を所定の形状に成形後、得られた成形体を還元雰囲気下で焼成し、次に、残炭率が30質量%以上の有機物を焼成済成形体内に含浸処理することによって得られた炭素含有耐火物を、転炉装入壁にライニングすることを特徴とする転炉装入壁のライニング方法にある。
【0019】
また、本発明の転炉装入壁のライニング方法は、前記炭素含有耐火物の破壊エネルギーが120J/m
2以上であることを特徴とする。
【0020】
更に、本発明の転炉装入壁のライニング方法は、前記炭素含有耐火物の気孔率が3%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明よれば、炭素含有耐火物の破壊エネルギーを向上させることが可能となり、この炭素含有耐火物を転炉装入壁にライニングすることで、スクラップの衝突に伴う機械的衝撃によって発生する亀裂の進展を抑制し、転炉装入壁の寿命を著しく向上させることが可能となるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
炭素含有耐火物を構成する骨材としては、例えば、マグネシア、アルミナ、ドロマイト、ジルコニア、クロミア、スピネル(アルミナ−マグネシア、クロミア−マグネシア)等を使用することができる。これらの中でも、マグネシアを用いることが、溶鋼や溶融スラグに対する耐食性の点から好ましい。
【0023】
次に、炭素含有耐火物には、膨張黒鉛を単独で使用するか、若しくは膨張黒鉛と、例えば、鱗状黒鉛、土状黒鉛、カーボンブラック、人造黒鉛等からなる群から選択される1種または2種以上の炭素源とを併用する。膨張黒鉛の配合量は1〜40質量%、好ましくは5〜30質量%の範囲内である。ここで、膨張黒鉛の配合量が1質量%未満であると、破壊エネルギーの向上効果が十分に得られないために好ましくない。また、膨張黒鉛の配合量が40質量%を超えると、溶鋼に対する耐食性の悪化が顕著となるために好ましくない。また、膨張黒鉛と炭素源を併用する場合、膨張黒鉛の配合量は1質量%以上であり、炭素源の配合量は39質量%以下であり、炭素源の配合量と膨張黒鉛の配合量の合計量は10〜40質量%、好ましくは12〜30質量%の範囲内である。炭素源と膨張黒鉛の合計量が10質量%未満であると、熱伝導率の低下等により耐熱スポーリング性の悪化が顕著となるために好ましくない。また、炭素源と膨張黒鉛の合計量が40質量%を超えると、溶鋼に対する耐食性の悪化が顕著となるために好ましくない。
【0024】
なお、添加物として、金属Al、金属Si、Al−Mg合金等の炭素含有耐火物に一般的に添加されている金属種や、SiC、B
4Cなどの炭化物を配合することもできる。ただし、金属Alを多量に添加すると還元雰囲気下での焼成の際に、反応して生成する炭化アルミニウムまたは窒化アルミニウムが、水分と反応して水酸化アルミニウムを生成し、体積膨張により耐火物を破壊させる消化現象が起こる場合があり、多量に添加することは好ましくない。従って、添加量は2質量%未満、好ましくは1質量%未満である。
【0025】
骨材及び炭素源並びに適宜添加物よりなる配合物に外掛けで0.5〜7.0質量%、好ましくは1.0〜5.0質量%のバインダーを配合して原料配合物を調製する。バインダーとしては、例えばフエノール樹脂、液体状ピッチ等の一般的に定形耐火物のバインダーとして使用できるものを使用することができる。バインダーの配合量が外掛けで0.5質量%未満であると、成形体の強度が不足するため好ましくない。また、バインダーの配合量が外掛けで7.0質量%を超えると、緻密な成形体が得られず、耐食性が悪くなるため好ましくない。
【0026】
なお、原料配合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、配合された原料を一括あるいは分割して、混合機もしくは混練機により混合及び混練する。一般的に原料配合物の混練には、容器固定型の場合は、ローラー式のSWPやシンプソンミキサー、ブレード式のハイスピードミキサー、加圧式ハイスピードミキサーやヘンシェルミキサー、あるいは加圧ニーダーと呼ばれる混練機が、容器駆動型の場合は、ローラー式のMKPやウェットパン、コナーミキサー、ブレード式のアイリッヒミキサー、ボルテックスミキサーなどの混練機が使用できる。また、これら混練機や混合機に加圧もしくは減圧、温度制御装置(加温や冷却もしくは保温)等を付ける場合もある。混合もしくは混練時間は、原料の種類、配合量、バインダーの種類、温度、混合機もしくは混練機の種類や大きさによって異なるが、通常数分から数時間である。得られた原料配合物は、衝撃圧プレスであるフリクションプレス、スクリュープレスあるいはハイドロスクリュープレス等や、静圧プレスである油圧プレス、トッグルプレスなどのほか、振動プレス、CIPと呼ばれている成形機によって成形することができる。これら成形機には真空脱気装置や温度制御装置(加温や冷却もしくは保温)等を付ける場合もある。プレス成形機による成形圧力や締め回数は、成形体の大きさ、原料の種類、配合量、バインダーの種類、温度、成形機の種類や大きさによって異なるが、成形圧力は、通常0.2〜3.0トン/cm
2の範囲内であり、締め回数は1回から数十回で成形される。
【0027】
上述のようにして所定の形状に成形した成形体を還元雰囲気下で焼成する。還元焼成の方法は、特に限定されるものではなく、常用される方法を採用することができる。例えば、焼成炉内に挿入する台車上に煉瓦を組合せたサヤや金属製の容器を作製し、その内部に成形体を入れる。その後、成形体周囲にコークスなどの炭素源を充填した後、上部に蓋をかけ、外気を遮蔽しながら、所定の温度、時間にて還元焼成を実施することができる。
【0028】
還元焼成温度は400〜1600℃の範囲内である。還元焼成温度が400℃未満では、バインダーの熱分解が十分には起こらず、後述の焼成済成形体への有機物の含浸が不十分となり、得られる炭素含有耐火物の破壊エネルギーが向上しないため好ましくない。また、還元焼成温度が1600℃を超えると、焼成済成形体組織の脆化が著しくなるため好ましくない。還元焼成温度は好ましくは800〜1500℃の範囲内である。これは、後述の焼成済成形体への有機物の含浸を十分に行って破壊エネルギーをより向上させるためには800℃以上が望ましく、また、1500℃以下では焼成済成形体組織の脆化がほとんど問題とならないためである。また、還元焼成において、所定の熱処理温度での保持時間は1〜100時間の範囲内が望ましい。保持時間が1時間未満の場合には、焼成済成形体全体の熱処理が不十分となるために好ましくなく、また、100時間を超えても、それに伴う焼成効果は得られない。なお、保持時間は、好ましくは2〜48時間の範囲内である。
【0029】
ここで、後述の有機物含浸には、還元焼成処理が必須となる。炭素含有耐火物は基本的に焼成を行わない不焼成煉瓦であり、バインダーの硬化に伴って不焼成煉瓦の気孔率は数%程度と非常に低くなり、不焼成煉瓦のままでは有機物を煉瓦全体に含浸することは困難である。そのため、有機物を含浸するためには、事前の還元焼成処理が必要となる。更に、還元焼成処理では、成形体全体を熱処理することで、バインダーなどに由来する炭素成分が結合剤として均質に生成するため、実機稼働時の受熱により煉瓦組織が変化する不焼成品と比較し、均質な耐火物組織を得つつ、有機物を容易に含浸させることが可能となる。
【0030】
還元焼成後、得られた焼成済成形体に有機物を含浸処理する。含浸処理に使用する有機物の残炭率は30質量%以上、好ましくは35質量%以上である。なお、本明細書に記載する「残炭率」は、JIS K 6910(フェノール樹脂試験方法)中の固定炭素測定法に基づいて測定したものである。残炭率が30質量%未満の場合、残炭による炭素含有耐火物組織の強化効果が小さいため好ましくない。
【0031】
残炭率が30質量%以上の有機物としては、例えばコールタールピッチの加熱軟化物や、液状のフェノール樹脂、フラン樹脂などを使用することができる。これらの中でも、コールタールピッチの加熱軟化物は、熱分解後の炭素が結晶化し易く、破壊エネルギーの向上により寄与するために好ましい。
【0032】
焼成済成形体への有機物の含浸方法は特に限定されるものではないが、例えば、一旦真空に減圧した後、前記有機物を含浸することが好ましい。例えば、焼成済成形体を入れた容器内部の真空度を100Torr以下に減圧した後、容器を有機物で満たし、その後加圧力5kgf/cm
2以上にて2時間以上保持する。真空度が100Torrを超えると、焼成済成形体内に残留した気泡により、加圧時に焼成済成形体内部まで均質に前記有機物を含浸することが出来ない。より好ましくは、真空度は60Torr以下である。また、減圧後の加圧力が5kgf/cm
2未満で、保持時間が2時間未満であると、焼成済成形体内に有機物を十分に含浸することができない。より好ましくは、加圧力10kgf/cm
2以上、加圧時間4時間以上である。これら含浸条件を満たすことにより焼成済成形体内に有機物が均質に充填され、上述の効果により炭素含有耐火物の破壊エネルギーを向上させることができる。
【0033】
上述のようにして得られた炭素含有耐火物の破壊エネルギーは、120J/m
2以上、好ましくは150J/m
2以上である。ここで、本明細書に記載する「破壊エネルギー」は、不活性雰囲気中にて1200℃で行い、25×25×140mmの試験片を三点曲げ試験法を用い、試料に0.1mm/分の速度で曲げ荷重を加え、応力・歪み曲線を求めることで、応力・歪み曲線のなす面積から算出したものである。同一材質にて、通常の乾燥処理までを実施した不焼成煉瓦からなる試料片、焼成済成形体からなる試料片、及び上述のようにして得られた炭素含有耐火物の試料片の破壊エネルギーを比較したところ、破壊エネルギーはそれぞれ81J/m
2、65J/m
2、165J/m
2となり、還元焼成及び含浸処理を施した炭素含有耐火物の破壊エネルギーは飛躍的に向上していた。なお、破壊エネルギーが120J/m
2未満の場合には、従来の不焼成煉瓦との差は小さく、寿命の延長効果は小さいために好ましくない。
【0034】
また、上述のようにして得られた炭素含有耐火物の気孔率は3%以下が好ましい。気孔率が3%を超えると、有機物の炭素含有耐火物内への含浸効果が小さくなってしまうことを意味するために好ましくない。ここで、焼成済成形体内への有機物の含浸効果が小さい場合、炭素含有耐火物組織を強化して靭性を向上させる効果が小さくなり、破壊エネルギーも120J/m
2以上を確保することが困難となる。炭素含有耐火物の気孔率は1.5%以下が更に好ましい。
【0035】
耐火物を転炉内壁に築造することを、ライニングするという。上述のようにして得られた炭素含有耐火物を転炉装入壁にライニングする方法は特に限定されるものではなく、一般的な方法が適用でき、例えば、前記炭素含有耐火物を転炉炉内に搬入し、手積み、あるいは吸着パッドを用いて、煉瓦積みを行う。炭素含有耐火物背面に塗布するモルタルについては、マグネシア質、アルミナ質など各種のものが使用可能である。また、炭素含有耐火物の目地は基本的に空目地で施工可能である。ただし、鉄皮の歪み等の要因により施工に難をきたす場合は、炭素含有耐火物背面に塗布するモルタルと同様に、マグネシア質、アルミナ質など各種のモルタルを用いることができる。この場合、目地厚は2mm程度となることが望ましい。
【0036】
転炉は円筒状の容器であり、耐火物のライニング位置は角度と煉瓦積みの段数で指定される。角度の場合、溶鋼を排出する部位である出鋼口を0度とし、一周を360度で示す方法が一般的である。前記炭素含有耐火物をライニングする範囲は、転炉の形状、大きさによって異なるが、一般的に装入壁と称される、135〜225度の角度に適用できる。より好ましくは、スクラップが衝突する可能性が高くなる150〜210度の範囲である。適用高さは、転炉の形状、大きさによって異なるが、スクラップが衝突する部位の中心を基準として、ライニングされる角度範囲の幅と同等の高さ範囲が好ましい。また、炭素含有耐火物の長さであるライニング厚みは特に規定されるものではなく、どのような厚みでも適用可能であるが、一般的には540〜1350mm程度である。
【実施例】
【0037】
実施例1
下記の表に記載する原料配合、還元焼成条件並びに有機物含浸条件にて、本発明例及び比較例の転炉装入壁のライニング方法に使用される炭素含有耐火物を作製し、各評価を行った。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
表中の各配合において、電融マグネシアは、純度98.2質量%のものを使用した。ドロマイトは、CaO:MgO=1:3の合成ドロマイトであって、CaO+MgOの純度が97.7質量%のものを使用した。スピネルは、MgAl
2O
4の理論スピネルであって、純度が99.0質量%のものを使用した。鱗状黒鉛は、純度98.4質量%、平均粒子径0.18mmのものを使用した。膨張黒鉛は純度98.0質量%、平均粒子径0.16mmのものを使用した。仮焼無煙炭は、予め1800℃で熱処理を行っており、真比重1.80、揮発分0.6質量%のものを使用した。金属アルミニウムは、粒度200メッシュ以下のものを使用した。フェノール樹脂は残炭量が46質量%のものを使用した。
コールタールピッチの加熱軟化物とフェノール樹脂の残炭率は、JIS K 6910(フェノール樹脂試験方法)中の固定炭素測定法に基づいて測定したものである。
【0042】
上記原料をアイリッヒミキサーを用いて混練して原料配合物を得、原料配合物を230×200mmの金型を用いて油圧プレスで2.5トン/cm
2の圧力で成形し、乾燥機を用いて250℃で10時間硬化乾燥することにより230×200×100mmの成形体を得た。次に、還元焼成条件に従ってコークスブリーズ中で還元焼成した後、焼成済成形体を、表に記載のコールタールピッチの加熱軟化物またはフェノール樹脂で含浸をして炭素含有耐火物を得た。なお、還元焼成時間は還元焼成最高温度での保持時間である。
【0043】
表中、
「気孔率(%)」は、得られた炭素含有耐火物の気孔率である。なお、気孔率は、JIS R 2205に従い測定を行った。なお、測定には真空法を用い、煤液には白灯油を用いた。
「破壊エネルギー」は、次の方法で測定を行った。すなわち、炭素含有耐火物の試験片(25×25×140mm)を用い、100mmスパンにて三点曲げ試験を行った。曲げ試験は1200℃の不活性雰囲気中で行った。試験機には島津製作所製オートグラフAG−X/Rを用い、クロスヘッドスピードを0.1mm/分とした。三点曲げ試験によって得られた応力・歪み曲線から安定破壊が起こっていることを確認し、応力・歪み曲線のなす面積を切断面の投影面積(25×25mm)の2倍で割り、破壊エネルギーを求めた。なお、測定のいずれの場合も安定破壊が起こっていることを確認した。
「耐熱スポーリング性」は、溶銑浸漬法により溶銑浸漬前後における弾性率の変化によって評価した。試験片として、炭素含有耐火物(40×40×230mm)を事前に還元雰囲気下において1000℃で3時間熱処理して残留揮発分による爆裂を防止したものを使用し、これを試験前試験片とした。溶銑浸漬試験は1700℃の溶銑に1分間浸漬後、15秒水冷することにより行い、これを試験後試験片とした。弾性率はJ.W.Lemmens社製MK5 Grind Sonicによって求めた。試験前と試験後の弾性率低下率によって耐熱スポール性を評価した。弾性率低下率は(1)式によって計算される値である:
弾性率変化率=(試験前の弾性率−試験後の弾性率)/試験前の弾性率×100 (1)
弾性率低下率の数値が小さい方が耐熱スポーリング性は良いものと評価した。弾性率低下率が20%以下を良好(○)とし、弾性率低下率が20%より大きく、40%以下を許容範囲(△)とし、弾性率低下率が40%より大きい場合を不適合(×)とした。
「耐食性」は高周波侵食試験により評価した。雰囲気調整機能を有する高周波誘導炉を用いた侵食試験により行った結果である。誘導加熱で熔解させた溶鋼の上に塩基度(CaO/SiO
2質量比)=3.0の転炉スラグを浮かべ炉壁に配した各炭素含有耐火物の侵食量を比較した。試験は5時間にわたり行われた。「侵食量(mm)」は、試験前の厚みから最も炭素含有耐火物の損傷が進んだ部分の残厚を差し引くことで求め、比較例1(通常の不焼成マグネシア−カーボン煉瓦)の侵食量を100とした侵食指数で表した。数値が小さい方が耐食性は良好であるが、90未満であれば良好(○)、90〜110であれば許容範囲(△)、110より高い場合を不適合(×)とした。
「耐酸化性」は、酸化試験により評価した。電気炉を用いて、40×40×40mmの寸法の試料を大気雰囲気中1500℃、3時間保持の条件で試験を行った。昇温速度は5℃/分で行った。焼成後の試料の切断面から、酸化層厚みを測定した。酸化層厚みが薄い方が耐酸化性は良好であり、1mm未満であれば良好(○)、1〜2mmであれば許容範囲(△)、2mmより厚い場合を不適合(×)とした。
「耐消化性」は、オートクレーブ試験により評価した。40×40×40mmの寸法の試料を、圧力3kgf/cm
2、3時間保持の条件で試験を行った。試験終了後、試料を取り出し、目視観察により評価した。亀裂が全くないものを良好(○)、やや亀裂が認められるものを許容範囲(△)、消化して崩壊しているものを不適合(×)とした。
【0044】
本発明例はいずれも低気孔率であり、高い破壊エネルギーを有していた。ここで、比較例1は通常使用されている不焼成マグネシア・カーボン煉瓦、比較例2は比較例1の不焼成マグネシア・カーボン煉瓦を1400℃で還元焼成したものであるが、いずれも本発明例に比べ破壊エネルギーが小さく、本発明例が特に優れた破壊エネルギーを有することが確認された。更に、比較例3は、膨張黒鉛を使用していないマグネシア・カーボン煉瓦に還元焼成並びに有機物含浸を施したものであるが、破壊エネルギーの向上が不十分であった。また、比較例7は特許文献4に対応するもので、金属アルミニウムを外掛けで3質量%添加したものであるが、消化試験後に崩壊が観察された。更に、比較例8は、特許文献5に対応するもので、仮焼無煙炭を外掛けで8質量%添加したものであるが、耐酸化性に劣るものであった。また、比較例9は、特許文献6及び7に対応するもので、膨張黒鉛を使用した不焼成マグネシア・カーボン煉瓦であるが、破壊エネルギーは向上しているものの、不焼成マグネシア・カーボン煉瓦への膨張黒鉛の添加のみでは不十分なものであった。
【0045】
実施例2
本発明例と比較例の炭素含有耐火物を250トン転炉の装入壁に使用した。本発明例のうち、基準とした本発明例1と、還元焼成温度を300℃とした本発明例2、従来の不焼成品である比較例1で比較テストを行った。適用した部位は、角度範囲を135〜225度とし、それぞれの適用高さを10段分とした合計30段の範囲とした。ライニング厚みは900〜1170mmで、最も損傷が大きい部位を厚くするゾーンドライニングというライニング方法を採用した。耐火物の解体作業では、通常、装入側を下にして出鋼側の耐火物を崩していく。そのため、装入壁の使用後耐火物は出鋼側の耐火物が堆積するため回収ができない。そこで、3217チャージ(ch)使用後のレーザープロフィールメーターによる残寸測定結果を比較した。比較例1の損傷速度を100として比較すると、本発明例1の損傷速度はおよそ87となり、損傷速度が小さく、明らかに良好な結果であった。また、本発明例2の損傷速度はおよそ95となり、ある程度の改善が認められた。