(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基礎と、前記基礎上で水平方向に並べられた複数の1階壁要素を有する1階壁と、を備えた既存の建物において、ダンパーを有する制震壁要素と前記1階壁要素とを交換する建物の制震リフォーム方法であって、
前記制震壁要素を準備する準備ステップと、
前記1階壁において交換対象となる前記1階壁要素を選定する選定ステップと、
前記選定ステップにおいて選定された前記1階壁要素と前記制震壁要素とを交換する交換ステップと、を備え、
前記選定ステップは、
前記1階壁において前記制震壁要素と交換可能な空軸要素の有無を確認するステップと、
前記空軸要素が無い場合に、前記1階壁において前記制震壁要素と交換可能な開口軸要素の有無を確認するステップと、
前記空軸要素及び前記開口軸要素が無い場合に、前記1階壁において前記制震壁要素と交換可能な耐力壁要素の有無を確認するステップと、を有し、
前記選定ステップでは、前記制震壁要素と交換可能な前記空軸要素が有ることを確認した場合に、前記空軸要素を前記制震壁要素との交換対象として選定し、
前記1階壁は、前記建物の外周に設けられると共に水平方向に互いに対向する一対の1階外周壁部であって、前記複数の1階壁要素により各々構成された前記一対の1階外周壁部を有し、
前記選定ステップでは、前記一対の1階外周壁部の各々において交換対象となる前記1階壁要素を選定し、
前記1階壁は、前記一対の1階外周壁部の間に配置されると共に前記1階外周壁部と同じ方向に延在し、少なくとも1つの前記1階壁要素を有する1階内側壁部を有し、
前記選定ステップは、一方の前記1階外周壁部において前記空軸要素又は前記開口軸要素が交換対象として選定され且つ他方の前記1階外周壁部において前記耐力壁要素が交換対象として選定された場合に、前記1階内側壁部において前記耐力壁要素と交換可能な一の前記1階壁要素を選定するステップをさらに有し、
前記交換ステップは、前記1階内側壁部において選定された前記一の1階壁要素と前記耐力壁要素とを交換するステップをさらに有することを特徴とする、制震リフォーム方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような既存の建物の制震リフォームにおいては、基本的に1階壁の一部と制震壁とを交換することにより、建物の揺れを抑制する効果を高めることができる。ここで、上記特許文献1,3のように、ダンパーを有する制震壁との交換対象として耐力壁を初めから選定するリフォームにおいては、多数の耐力壁を取り外し又は移動させることになる。その結果、これらの従来の制震リフォームにおいては、既存の建物の耐震性能の低下や耐震構造のバランスの悪化を招く虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、既存の建物の耐震性能の低下及び耐震構造のバランスの悪化を抑制しつつ、制震性能を向上させることが可能な制震リフォーム方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係る制震リフォーム方法は、基礎と、前記基礎上で水平方向に並べられた複数の1階壁要素を有する1階壁と、を備えた既存の建物において、ダンパーを有する制震壁要素と前記1階壁要素とを交換する建物の制震リフォーム方法である。この制震リフォーム方法は、前記制震壁要素を準備する準備ステップと、前記1階壁において交換対象となる前記1階壁要素を選定する選定ステップと、前記選定ステップにおいて選定された前記1階壁要素と前記制震壁要素とを交換する交換ステップと、を備える。前記選定ステップは、前記1階壁において前記制震壁要素と交換可能な空軸要素の有無を確認するステップと、前記空軸要素が無い場合に、前記1階壁において前記制震壁要素と交換可能な開口軸要素の有無を確認するステップと、前記空軸要素及び前記開口軸要素が無い場合に、前記1階壁において前記制震壁要素と交換可能な耐力壁要素の有無を確認するステップと、を有する。前記選定ステップでは、前記制震壁要素と交換可能な前記空軸要素が有ることを確認した場合に、前記空軸要素を前記制震壁要素との交換対象として選定する。
前記1階壁は、前記建物の外周に設けられると共に水平方向に互いに対向する一対の1階外周壁部であって、前記複数の1階壁要素により各々構成された前記一対の1階外周壁部を有している。前記選定ステップでは、前記一対の1階外周壁部の各々において交換対象となる前記1階壁要素を選定する。前記1階壁は、前記一対の1階外周壁部の間に配置されると共に前記1階外周壁部と同じ方向に延在し、少なくとも1つの前記1階壁要素を有する1階内側壁部を有している。前記選定ステップは、一方の前記1階外周壁部において前記空軸要素又は前記開口軸要素が交換対象として選定され且つ他方の前記1階外周壁部において前記耐力壁要素が交換対象として選定された場合に、前記1階内側壁部において前記耐力壁要素と交換可能な一の前記1階壁要素を選定するステップをさらに有している。前記交換ステップは、前記1階内側壁部において選定された前記一の1階壁要素と前記耐力壁要素とを交換するステップをさらに有している。
【0008】
上記制震リフォーム方法によれば、ダンパーを有する制震壁要素と既存の建物の1階壁要素とを交換することにより、建物の制震性能を向上させることができる。ここで、上記制震リフォーム方法では、制震壁要素との交換対象となる1階壁要素を選定するステップにおいて、空軸要素、開口軸要素、耐力壁要素の優先順位で交換対象を探し、交換可能な空軸要素が有る場合にはそれを交換対象として選定する。このため、既存の建物の耐力壁要素を可能な限り取り外し又は移動させることなく、制震壁要素を設置することが可能になる。従って、上記制震リフォーム方法によれば、既存の建物の耐震性能の低下及び耐震構造のバランスの悪化を抑制しつつ、制震性能を向上させることができる。
また水平方向に互いに対向する1階外周壁部の各々に制震壁要素を設置することができるため、制震壁要素をバランス良く設置することができる。その結果、リフォーム後における建物の偏心(即ち、水平方向に互いに対向する1階外周壁部において制震性能が異なることに起因する捻じれ)を抑制することができる。また他方の1階外周壁部において制震壁要素との交換により耐力壁要素の数が減少しても、1階内側壁部に耐力壁要素を新たに設置することで、リフォーム前後における耐力壁要素の数を維持することができる。このため、リフォーム後における建物の耐震性能の低下を防ぐことができる。
【0009】
ここで、「空軸要素」とは、建物において窓やドアなどの開放部分が設けられない部分に設置される壁要素である。一方、「開口軸要素」とは、建物において窓やドアなどの開放部分が設けられる部分に設置される壁要素であり、当該開放部分の形状に応じた開口形状を有する。空軸要素及び開口軸要素は、「耐力壁」と異なり、建物に加わる水平荷重に対して抵抗する能力が小さい「非耐力壁」である。
【0010】
上記制震リフォーム方法において、前記選定ステップでは、前記制震壁要素と交換可能な前記開口軸要素が有り且つ所定の条件が満たされることを確認した場合に、前記開口軸要素を交換対象として選定してもよい。
【0011】
これにより、空軸要素が無い場合でも開口軸要素を制震壁要素との交換対象として選定することで、既存の建物の耐力壁要素に手を加えることなく制震リフォームを行うことができる。
【0016】
上記制震リフォーム方法において、前記選定ステップは、前記1階内側壁部において前記耐力壁要素と交換可能な他の前記1階壁要素を選定するステップをさらに有していてもよい。前記交換ステップは、前記一方の1階外周壁部を構成する前記耐力壁要素を取り外すと共に、前記他の1階壁要素と前記耐力壁要素とを交換するステップをさらに有していてもよい。
【0017】
これにより、一方及び他方の1階外周壁部の各々から耐力壁要素が取り外されるため、リフォーム後における耐震構造のバランスの悪化を防ぐことができる。しかも、1階外周壁部から耐力壁要素を取り外した後、建物の重心に対して一対の1階外周壁部よりも近い1階内側壁部に耐力壁要素を設置することで、耐震性能を維持しつつ建物の偏心を効果的に抑制することができる。
【0018】
本発明の他局面に係る制震リフォーム方法
は、基礎と、前記基礎上で水平方向に並べられた複数の1階壁要素を有する1階壁と、を備えた既存の建物において、ダンパーを有する制震壁要素と前記1階壁要素とを交換する建物の制震リフォーム方法である。この制震リフォーム方法は、前記制震壁要素を準備する準備ステップと、前記1階壁において交換対象となる前記1階壁要素を選定する選定ステップと、前記選定ステップにおいて選定された前記1階壁要素と前記制震壁要素とを交換する交換ステップと、を備える。前記選定ステップは、前記1階壁において前記制震壁要素と交換可能な空軸要素の有無を確認するステップと、前記空軸要素が無い場合に、前記1階壁において前記制震壁要素と交換可能な開口軸要素の有無を確認するステップと、前記空軸要素及び前記開口軸要素が無い場合に、前記1階壁において前記制震壁要素と交換可能な耐力壁要素の有無を確認するステップと、を有する。前記選定ステップでは、前記制震壁要素と交換可能な前記空軸要素が有ることを確認した場合に、前記空軸要素を前記制震壁要素との交換対象として選定する。前記建物は、前記耐力壁要素を含むと共に水平方向に並べられた複数の2階壁要素を有し、前記1階壁上に配置された2階壁をさらに備えてい
る。前記準備ステップでは、第1制震壁要素と、前記第1制震壁要素よりも低いダンパー性能を有する第2制震壁要素と、を前記制震壁要素として準備
する。前記選定ステップ後であって前記交換ステップ前に、前記選定ステップにおいて選定された前記1階壁要素と前記制震壁要素とを交換した場合に、前記制震壁要素の柱と2階の前記耐力壁要素の柱とが鉛直方向に互いに重なると共に、前記建物に水平方向の震動力が加わることにより両柱に対して同じ向きに鉛直方向の力が加わる、という条件が満たされるか否かを判断する判断ステップをさらに備えてい
る。前記交換ステップでは、前記条件が満たされると判断した場合、前記第2制震壁要素と前記1階壁要素とを交換
する。
【0019】
上記条件が満たされる場合には、2階の耐力壁要素がそれより上の部分から受ける力を負担し、この力が2階の耐力壁要素の柱及び制震壁要素の柱を介して基礎に伝わるため、制震壁要素による交換後に基礎に加わる負荷が過大になる。このため、上記条件が満たされると判断した場合には、第1制震壁要素よりもダンパー性能が低く、基礎に対する負荷がより小さい第2制震壁要素と1階壁要素とを交換する。これにより、制震壁要素の柱の傾きが許容されることで基礎に対する負荷が軽減される。このため、リフォーム後において建物の基礎に対する負担の増加を抑えることができる。
【0020】
上記制震リフォーム方法では、前記判断ステップにおいて前記条件が満たされないと判断した場合、前記交換ステップでは前記第1制震壁要素と前記1階壁要素とを交換してもよい。
【0021】
上記条件が満たされず、リフォーム後に基礎に対して過大な負担が加わる虞が少ない場合には、ダンパー性能がより高い第1制震壁要素と1階壁要素とを交換することで、建物の制震性能をさらに改善することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、既存の建物の耐震性能の低下及び耐震構造のバランス悪化を抑制しつつ制震性能を向上させることが可能な制震リフォーム方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。
【0025】
(実施形態1)
まず、本発明の一実施形態である実施形態1に係る制震リフォーム方法について説明する。
図1は、この制震リフォーム方法の対象となる既存の建物1の外観を模式的に示している。まず、この建物1の全体構造について説明する。
図1に示すように、建物1は、基礎2と、基礎2上に配置された1階壁7と、1階壁7上に配置された2階壁8と、2階壁8上に配置された屋根6と、を備える。
【0026】
基礎2は、1階壁7、2階壁8及び屋根6を支持するための部分であり、例えば鉄筋コンクリートなどからなる。1階壁7は、基礎2上で水平方向に並べられた複数の1階壁要素3を有する。
図1に示すように、1階壁要素3は、矩形の枠体からなり、矩形状の主面が外側に向くよう鉛直方向に起立した姿勢で配置されている。また各1階壁要素3は、アンカーボルト91などの締結部材により基礎2上に固定されている。
【0027】
2階壁8は、水平方向に並べられた複数の2階壁要素4を有する。
図1に示すように、2階壁要素4は、1階壁要素3と同様に矩形の枠体からなり、矩形状の主面が外側に向くよう鉛直方向に起立した姿勢で配置されている。2階壁要素4は、図略のボルトなどの締結部材により梁9上に固定されている。本実施形態に係る制震リフォーム方法においては、ダンパーを有する制震壁要素と1階壁要素3とを交換することにより、建物1の制震性能を向上させる。
【0028】
1階壁要素3及び2階壁要素4は、空軸要素20、開口軸要素20A及び耐力壁要素30のいずれかである。本実施形態では、1階壁7は、空軸要素20(以下、「1階空軸要素」とも称する)、開口軸要素20A(以下、「1階開口軸要素」とも称する)及び耐力壁要素30(以下、「1階耐力壁要素」とも称する)をいずれも有する。また2階壁8は、空軸要素20(以下、「2階空軸要素」とも称する)、開口軸要素20A(以下、「2階開口軸要素」とも称する)及び耐力壁要素30(以下、「2階耐力壁要素」とも称する)をいずれも有する。
【0029】
図1に示すように、空軸要素20は、鉛直方向に延びる2本の柱21と、水平方向に延びると共に柱21の上下端に組み付けられた2本の梁22と、2本の柱21及び2本の梁22よりなる矩形の枠体の内側において水平に配置された中間梁23と、を有する。開口軸要素20Aは、空軸要素20と同様に、2本の柱21と、2本の梁22と、を有し、窓やドアの開放部分に対応した開口部を有する。耐力壁要素30は、鉛直方向に延びる2本の柱31と、水平方向に延びると共に柱31の上下端に組み付けられた2本の梁32と、2本の柱31及び2本の梁32よりなる矩形の枠体の対角線上に配置された2本のブレース33と、を有する。
【0030】
図2は、建物1の1階平面図であり、各1階壁要素3が破線四角により示されている。
図2に示すように、1階壁7は、建物1の外周に設けられると共に水平方向に互いに対向する一対の1階外周壁部として、北側壁部7A及び南側壁部7Bと、東側壁部7C及び西側壁部7Dと、を有する。また1階壁7は、北側壁部7Aと南側壁部7Bの間及び東側壁部7Cと西側壁部7Dの間に配置されると共に、北側壁部7A及び南側壁部7Bと同じ方向に延在する1階内側壁部7Eを有する。この1階内側壁部7Eは、例えば建物1における間仕切り壁であり、1階外周壁部7A〜7Dよりも建物1の重心G(
図2の平面図における重心)に近い位置に配置されている。より具体的には、1階内側壁部7Eは、重心Gを通過する線(
図2中一点鎖線)上に配置されている。この重心Gは、建物1における荷重の中心であって、地震時において当該重心Gを中心に建物1が変形する。
図2に示すように、1階外周壁部7A〜7D及び1階内側壁部7Eは、複数の1階壁要素3を水平方向に並べることにより各々構成されている。
【0031】
次に、本実施形態に係る制震リフォーム方法について、
図3及び
図4のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0032】
まず、制震壁要素10を準備する準備ステップS10が行われる。制震壁要素10は、地震動エネルギーを熱エネルギーに変換して吸収する機能を有する。
図5に示すように、制震壁要素10は、2本の柱11と、2本の柱11の上下端に組み付けられた2本の梁12と、2本の柱11及び2本の梁12よりなる矩形の枠体の内側に配置された複数(2つ)のダンパー13と、を有する。
【0033】
ダンパー13は、伸縮可能な高減衰ゴムを有する。
図5に示すように、地震時に制震壁要素10に対して水平方向に震動力F1が加わると、制震壁要素10の枠体が水平方向に変形する。これにより、ダンパー13に対して圧縮力又は引張力が加わることで高減衰ゴムが伸縮し、その結果ダンパー13において温度上昇(例えば2〜3℃)が起こる。このように、制震壁要素10によれば、ダンパー13が有する高減衰ゴムの伸縮により制震壁要素10に加わる地震動エネルギーを熱エネルギーに変換することができる。
【0034】
この準備ステップS10では、ダンパー性能が互いに異なる2種類の制震壁要素10(第1制震壁要素40及び第2制震壁要素50)がそれぞれ準備される。
図5に示すように、第1制震壁要素40及び第2制震壁要素50は、互いに同じ大きさ及び形状を有するが、第2制震壁要素50のダンパー性能が第1制震壁要素40のそれよりも低くなっている。即ち、第2制震壁要素50による地震動エネルギーの吸収能力は、第1制震壁要素40のそれよりも低くなっており、具体的には第1制震壁要素40の1/2となっている。
【0035】
次に、1階壁7において交換対象となる1階壁要素3を選定する選定ステップS20が行われる。この選定ステップS20では、1階外周壁部7A〜7Dの各々において制震壁要素10との交換対象となる1階壁要素3を選定する。
【0036】
具体的には、
図4のフローチャートに沿って、以下のようにして交換対象の1階壁要素3を選定する。まず、1階壁7において制震壁要素10と交換可能な空軸要素20の有無を確認するステップS21が行われる。このステップS21において、制震壁要素10と交換可能な空軸要素20が有ることが確認された場合(YES)、空軸要素20が交換対象として選定される(S22)。
【0037】
一方、ステップS21において制震壁要素10と交換可能な空軸要素20が無いことが確認された場合(NO)、1階壁7において制震壁要素10と交換可能な開口軸要素20Aの有無を確認するステップS23が行われる。このステップS23において、制震壁要素10と交換可能な開口軸要素20Aが有ることが確認された場合(YES)、続いて所定の条件を満たすか否かを判断するステップS24が行われる。具体的には、開口軸要素20Aと制震壁要素10とを交換した後の建物1の採光面積が所定の基準を満たすか否かを判断する。この採光面積の基準については、建築基準法第28条の規定に準じ、建物1のような住宅において、「居室の床面積に対して採光に有効な部分の面積が1/7以上である」、という基準を採用する。そして、交換後の建物1の採光面積が上記基準を満たすと判断された場合(YES)、開口軸要素20Aが交換対象として選定される(S25)。
【0038】
一方、ステップS23において、制震壁要素10と交換可能な開口軸要素20Aが無いことが確認された場合(NO)、又はステップS24において交換後の建物1の採光面積が所定の基準を満たさないと判断された場合(NO)、1階壁7において制震壁要素10と交換可能な耐力壁要素30の有無を確認するステップS26が行われる。このステップS26において、制震壁要素10と交換可能な耐力壁要素30が有ることが確認されると(YES)、耐力壁要素30が交換対象として選定される(S27)。
【0039】
そして、全ての1階外周壁部7A〜7Dについて交換対象となる1階壁要素3の選定が完了したか否かを確認する(S28)。未選定の1階外周壁部7A〜7Dが有る場合(NO)には、上述した選定プロセスS21〜S27を繰り返す。そして、全ての1階外周壁部7A〜7Dについて交換対象の選定が完了すると(YES)、次のステップS29に移行する。
【0040】
ここで、
図2を参照して、北側壁部7A、南側壁部7B、東側壁部7C及び西側壁部7Dの各々における交換対象の選定について詳細に説明する。
図2に示すように、北側壁部7Aには、2つの空軸要素20が当該北側壁部7Aの両側に配置されている。従って、北側壁部7Aでは、ステップS21において「YES」と判断され、1つの空軸要素20(
図2中斜線)が制震壁要素10との交換対象として選定される。また東側壁部7C及び西側壁部7Dにも1つの空軸要素20が各々配置されている。このため、これらの空軸要素20(
図2中斜線)が制震壁要素10との交換対象として各々選定される。
【0041】
一方、南側壁部7Bには、
図2に示すように、開口軸要素20A及び耐力壁要素30が複数配置されている一方で、空軸要素20が配置されていない。従って、南側壁部7Bでは、ステップS21において「NO」と判断され、ステップS23において「YES」と判断される。
【0042】
次に、ステップS24における建物1の採光面積の判断について、本実施形態では交換後の建物1の採光面積が所定の基準を満たさない場合を例示する。このため、ステップS24において「NO」と判断され、1つの耐力壁要素30(
図2中斜線)が制震壁要素10との交換対象として選定される。従って、本実施形態では、一方の1階外周壁部である北側壁部7Aにおいて空軸要素20が制震壁要素10との交換対象として選定され、且つ、他方の1階外周壁部である南側壁部7Bにおいて耐力壁要素30が制震壁要素10との交換対象として選定される。
【0043】
ステップS29では、一方の1階外周壁部において空軸要素20又は開口軸要素20Aが交換対象として選定され、且つ、他方の1階外周壁部において耐力壁要素30が交換対象として選定される、という条件が満たされるか否かを判断する。上述の通り、本実施形態では、北側壁部7Aにおいて空軸要素20が交換対象として選定され、且つ、南側壁部7Bにおいて耐力壁要素30が交換対象として選定されるため、上記条件を満たすと判断される(YES)。そのため、ステップS31に移行する。一方、上記条件を満たさないと判断した場合(NO)、選定ステップS20は終了する。
【0044】
ステップS31では、1階内側壁部7Eにおいて耐力壁要素30と交換可能な一の1階壁要素3を選定する。
図2に示すように、本実施形態では、1階内側壁部7Eが2枚の1階壁要素3(空軸要素20)により構成されているため、その一方(右側)が耐力壁要素30との交換対象として選定される。
図2中矢印S1で示すように、この一方の空軸要素20は、後述する交換ステップにおいて南側壁部7Bから取り外される耐力壁要素30(
図2中斜線)と交換されるものである。
【0045】
次に、ステップS32では、1階内側壁部7Eにおいて耐力壁要素30と交換可能な他の1階壁要素3を選定する。具体的には、1階内側壁部7Eにおける他方(左側)の1階壁要素3(空軸要素20)が耐力壁要素30との交換対象として選定される。
図2中矢印S2で示すように、この他方の空軸要素20は、後述する交換ステップにおいて北側壁部7Aから取り外される耐力壁要素30と交換されるものである。以上のプロセスS21〜S32により、1階壁7において交換対象となる1階壁要素3(
図2中斜線)が選定される。
【0046】
次に、選定ステップS20において選定された1階壁要素3と制震壁要素10とを交換した場合に、制震壁要素10の柱11と2階の耐力壁要素30の柱31とが鉛直方向に互いに重なると共に、建物1に水平方向の震動力F1が加わることにより両柱11,31に対して同じ向きに鉛直方向の力が加わる、という条件が満たされるか否かを判断する判断ステップS30が行われる。
【0047】
図6,7は、1階壁要素3と制震壁要素10とを交換した後における、2階の耐力壁要素30と制震壁要素10との位置関係を示している。
【0048】
図6では、制震壁要素10の左右の柱11と2階の耐力壁要素30の左右の柱31とが、それぞれ鉛直方向において互いに重なっている。また
図6に示すように、建物に水平方向の震動力F1が加わることにより、鉛直方向に重なる両柱11,31に対して同じ向きに鉛直方向の力F2,F3が加わる。具体的には、
図6の左から右に向かって震動力F1が加わることにより、右側の両柱11,31に対して鉛直方向下向きの力F2が加わると共に、左側の両柱11,31に対して鉛直方向上向きの力F3が加わる。
【0049】
一方、
図7では、2階の耐力壁要素30の左側の柱31と制震壁要素10の右側の柱11とが鉛直方向に互いに重なっているが、震動力F1が加わることにより両柱11,31に対して互いに逆向きに鉛直方向の力F2,F3が加わる。具体的には、2階の耐力壁要素30の左側の柱31に対して鉛直方向上向きの力F2が加わると共に、制震壁要素10の右側の柱11に対して鉛直方向下向きの力F3が加わる。
【0050】
この判断ステップS30では、
図6のような場合には「上記条件が満たされる」と判断し、
図7のような場合には「上記条件が満たされない」と判断する。上記条件が満たされる場合には、2階の耐力壁要素30がそれよりも上の部分(例えば屋根6(
図1))から受ける力が、2階の耐力壁要素30の柱31及び制震壁要素10の柱11を介して基礎2に伝わる。このため、上記条件が満たされない場合に比べて、制震壁要素10による交換後に基礎2に加わる負荷が大きくなる。そこで、以下に説明する通り、上記条件が満たされる場合には、基礎2に対する負荷を軽減するため、ダンパー性能が相対的に低い第2制震壁要素50と1階壁要素3とを交換する。本実施形態では、北側壁部7A、南側壁部7B及び西側壁部7Dにおいては上記条件が満たされず、東側壁部7Cにおいてのみ上記条件が満たされる。
【0051】
次に、選定ステップS20において選定された1階壁要素3と制震壁要素10とを交換する交換ステップS40が行われる。この交換ステップS40では、まず、建物1の外周に設けられた1階壁要素3が、第1制震壁要素40及び第2制震壁要素50のうち一方の制震壁要素10と交換される。
【0052】
この交換ステップS40では、基本的に、判断ステップS30において上記条件が満たされると判断した場合には(
図6)、ダンパー性能が低い第2制震壁要素50と1階壁要素3とを交換する。一方で、判断ステップS30において上記条件が満たされないと判断した場合には(
図7)、ダンパー性能が高い第1制震壁要素40と1階壁要素3とを交換する。従って、本実施形態では、北側壁部7A及び南側壁部7Bにおいては、1階壁要素3(空軸要素20、耐力壁要素30)と第1制震壁要素40とを交換する。一方で、東側壁部7Cにおいては、1階壁要素3(空軸要素20)と第2制震壁要素50とを交換する。
【0053】
ここで、西側壁部7Dにおいては、上記条件が満たされないが、例外的に第2制震壁要素50と1階壁要素3(空軸要素20)とを交換してもよい。これにより、水平方向に互いに対向する東側壁部7C及び西側壁部7Dにおいて同じ種類の制震壁要素10を設置することができるため、リフォーム後における建物1の偏心を抑制することができる。なお、本実施形態のように、西側壁部7Dに第2制震壁要素50を設置する場合に限定されず、第1制震壁要素40を設置してもよい。
【0054】
次に、1階内側壁部7Eにおいて選定された一の1階壁要素3(
図2中右側)と耐力壁要素30とを交換するステップが行われる。具体的には、南側壁部7Bにおいて第1制震壁要素40と交換する際に取り外された耐力壁要素30を、1階内側壁部7Eにおける一方(右側)の1階壁要素3と交換する。続いて、北側壁部7Aを構成する耐力壁要素30を取り外すと共に、これを1階内側壁部7Eにおいて選定された他の1階壁要素3(
図2中左側)と交換するステップが行われる。
【0055】
これにより、北側壁部7A及び南側壁部7Bから耐力壁要素30が1枚ずつ削除される一方で、1階内側壁部7Eに2枚の耐力壁要素30が新たに追加される。このため、制震リフォームの前後において耐力壁要素30の数が維持され、既存の建物1の耐震性能を維持することができる。しかも、北側壁部7A及び南側壁部7Bから取り外した耐力壁要素30を、建物1の重心Gにより近い1階内側壁部7Eに移動させることにより、リフォーム後における建物1の耐震構造のバランスが維持され、建物1の偏心を抑制することができる。また、このように耐力壁要素30の削除及び追加を行った後、再び建物1の耐震構造の確認が行われる。
【0056】
なお、本実施形態のように、北側壁部7A及び南側壁部7Bから取り外された耐力壁要素30を1階内側壁部7Eに移動させる場合に限定されず、別途準備された耐力壁要素30を、1階内側壁部7Eを構成する1階壁要素3と交換してもよい。また1階内側壁部7Eに新たに設置される耐力壁要素30の壁量は、北側壁部7A及び南側壁部7Bに設置されていた耐力壁要素30の壁量と同じであってもよいし、それよりも小さくてもよい。つまり、耐力壁要素30の性能が等しくても良いし、異なっていてもよい。以上のような手順で本実施形態に係る制震リフォーム方法が終了する。
【0057】
次に、上述した本実施形態に係る制震リフォーム方法の特徴及びその作用効果について説明する。
【0058】
本実施形態に係る制震リフォーム方法は、基礎2と、基礎2上で水平方向に並べられた複数の1階壁要素3を有する1階壁7と、を備えた既存の建物1において、ダンパー13を有する制震壁要素10と1階壁要素3とを交換する方法である。この制震リフォーム方法は、制震壁要素10を準備する準備ステップS10と、1階壁7において交換対象となる1階壁要素3を選定する選定ステップS20と、選定ステップS20において選定された1階壁要素3と制震壁要素10とを交換する交換ステップS40と、を備える。選定ステップS20は、1階壁7において制震壁要素10と交換可能な空軸要素20の有無を確認するステップS21と、空軸要素20が無い場合に、1階壁7において制震壁要素10と交換可能な開口軸要素20Aの有無を確認するステップS23と、空軸要素20及び開口軸要素20Aが無い場合に、1階壁7において制震壁要素10と交換可能な耐力壁要素30の有無を確認するステップS26と、を有する。選定ステップS20では、制震壁要素10と交換可能な空軸要素20が有ることを確認した場合に、空軸要素20を制震壁要素10との交換対象として選定する。
【0059】
この制震リフォーム方法によれば、ダンパー13を有する制震壁要素10と既存の建物1の1階壁要素3とを交換することにより、建物1の制震性能を向上させることができる。ここで、制震壁要素10との交換対象となる1階壁要素3を選定するステップS20において、空軸要素20、開口軸要素20A、耐力壁要素30の優先順位で交換対象を探し、交換可能な空軸要素20が有る場合にはそれを交換対象として選定する(S22)。このため、既存の建物1の耐力壁要素30を可能な限り取り外し又は移動させることなく、制震壁要素10を設置することが可能になる。
【0060】
上記制震リフォーム方法において、選定ステップS20では、制震壁要素10と交換可能な開口軸要素20Aが有り且つ建物1の採光面積の基準が満たされることを確認した場合に、開口軸要素20Aを交換対象として選定する(S25)。これにより、空軸要素20が無い場合でも開口軸要素20Aを制震壁要素10との交換対象として選定することで、既存の建物1の耐力壁要素30に手を加えることなく制震リフォームを行うことができる。
【0061】
上記制震リフォーム方法において、1階壁7は、建物1の外周に設けられると共に水平方向に互いに対向する一対の1階外周壁部7A〜7Dであって、複数の1階壁要素3により各々構成された一対の1階外周壁部7A〜7Dを有する。選定ステップS20では、一対の1階外周壁部7A〜7Dの各々において交換対象となる1階壁要素3を選定する。これにより、水平方向に互いに対向する1階外周壁部7A〜7Dの各々に制震壁要素10を設置することができるため、制震壁要素10をバランス良く設置することができる。その結果、リフォーム後における建物1の偏心を抑制することができる。
【0062】
上記制震リフォーム方法において、1階壁7は、一対の1階外周壁部7A〜7Dの間に配置されると共に1階外周壁部7A〜7Dと同じ方向に延在し、複数の1階壁要素3を有する1階内側壁部7Eを有する。選定ステップS20は、一方の1階外周壁部(北側壁部7A)において空軸要素20が交換対象として選定され且つ他方の1階外周壁部(南側壁部7B)において耐力壁要素30が交換対象として選定された場合に、1階内側壁部7Eにおいて耐力壁要素30と交換可能な一の1階壁要素3を選定するステップS31をさらに有する。交換ステップS40は、1階内側壁部7Eにおいて選定された当該一の1階壁要素3と耐力壁要素30とを交換するステップをさらに有する。
【0063】
これにより、南側壁部7Bにおいて制震壁要素10との交換により耐力壁要素30の数が減少しても、1階内側壁部7Eに耐力壁要素30を新たに設置することで、リフォーム前後における耐力壁要素30の数を維持することができる。このため、リフォーム後における建物1の耐震性能の低下を防ぐことができる。
【0064】
上記制震リフォーム方法において、選定ステップS20は、1階内側壁部7Eにおいて耐力壁要素30と交換可能な他の1階壁要素3を選定するステップS32をさらに有する。交換ステップS40は、一方の1階外周壁部(北側壁部7A)を構成する耐力壁要素30を取り外すと共に、当該他の1階壁要素3と耐力壁要素30とを交換するステップをさらに有する。
【0065】
これにより、北側壁部7A及び南側壁部7Bの各々から耐力壁要素30が取り外されるため、リフォーム後における耐震構造のバランスの悪化を防ぐことができる。しかも、耐力壁要素30を取り外した後、建物1の重心Gに対してより近い1階内側壁部7Eに耐力壁要素30を設置することで、耐震性能を維持しつつ建物1の偏心を効果的に抑制することができる。
【0066】
上記制震リフォーム方法において、建物1は、2階耐力壁要素30を含むと共に水平方向に並べられた複数の2階壁要素4を有し、1階壁7上に配置された2階壁8をさらに備える。準備ステップS10では、第1制震壁要素40と、第1制震壁要素40よりも低いダンパー性能を有する第2制震壁要素50と、を制震壁要素10として準備する。上記制震リフォーム方法は、選定ステップS20において選定された1階壁要素3と制震壁要素10とを交換した場合に、制震壁要素10の柱11と2階耐力壁要素30の柱31とが鉛直方向に互いに重なると共に、建物1に水平方向の震動力F1が加わることにより両柱11,31に対して同じ向きに鉛直方向の力F2,F3が加わる、という条件が満たされるか否かを判断する判断ステップS30を備える。交換ステップS40では、上記条件が満たされると判断した場合、第2制震壁要素50と1階壁要素3とを交換する。
【0067】
上記条件が満たされる場合には、2階耐力壁要素30がそれより上の部分から受ける力を負担し、この力が2階耐力壁要素30の柱31及び制震壁要素10の柱11を介して基礎2に伝わるため、制震壁要素10による交換後に基礎2に加わる負荷が過大になる。このため、上記条件が満たされると判断した場合には、第1制震壁要素40よりもダンパー性能が低く、基礎2に対する負荷がより小さい第2制震壁要素50と1階壁要素3とを交換する。これにより、制震壁要素10の柱11の傾きが許容されることで基礎2に対する負荷が軽減される。このため、リフォーム後において建物1の基礎2に対する負担の増加を抑えることができる。
【0068】
上記制震リフォーム方法では、判断ステップS30において上記条件が満たされないと判断した場合、交換ステップS40では第1制震壁要素40と1階壁要素3とを交換してもよい。上記条件が満たされず、リフォーム後に基礎2に対して過大な負担が加わる虞が少ない場合には、ダンパー性能がより高い第1制震壁要素40と1階壁要素3とを交換することで、建物1の制震性能をさらに改善することができる。
【0069】
(その他実施形態)
最後に、本発明のその他実施形態について説明する。
【0070】
上記実施形態1では、ステップS24(
図4)において、建物1の採光面積を基準に開口軸要素20Aを交換対象として選定するか否かを決定する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、リフォーム注文主の要求に応じて、交換可能な開口軸要素20Aが有り且つ採光面積の基準を満たすにも関わらず、窓の数をより多く確保したい等の要望がある場合には、開口軸要素20Aを交換対象として選択しなくてもよい。つまり、注文主の要望を開口軸要素20Aの選定の可否の条件として設定してもよい。
【0071】
上記実施形態1では、2種類の制震壁要素10(第1及び第2制震壁要素40,50)を準備し、2階耐力壁要素30と制震壁要素10との位置関係に基づいてこれらを使い分ける場合について説明したが、これに限定されない。1種類のみの制震壁要素10が用いられてもよい。また本発明の制震リフォームの対象は、上記実施形態1のような2階建構造の建物1に限定されず、1階構造の建物であってもよい。
【0072】
上記実施形態1では、重心Gを通過する線上に配置された間仕切壁である1階内側壁部7Eに耐力壁要素30を新たに設置する場合について説明したが、これに限定されない。耐力壁要素30を設置する場所は、既存の建物1の構造に依存し、例えば、重心Gを通過する線上には配置されていないが北側壁部7A及び南側壁部7Bよりも重心Gに近い位置にある他の間仕切壁等に耐力壁要素30が配置されてもよい。
【0073】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。