特許第6361763号(P6361763)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6361763
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20180712BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   B60C11/03 300E
   B60C11/03 300B
   B60C11/13 C
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-41924(P2017-41924)
(22)【出願日】2017年3月6日
【審査請求日】2018年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勇平
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−81439(JP,A)
【文献】 特開2016−222207(JP,A)
【文献】 特開2014−121916(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0041939(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0103416(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03、11/11、11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部のセンター領域に複数のセンターブロックが設けられ、且つ、前記トレッド部のショルダー領域に複数のショルダーブロックが設けられ、前記センターブロックはタイヤ周方向に対して傾斜して延びる傾斜溝を挟んで対を成すように配列され、前記センターブロックの対の一方側のセンターブロックはタイヤ赤道の一方側から他方側にタイヤ赤道を跨ぐように延在し、他方側のセンターブロックはタイヤ赤道の他方側から一方側にタイヤ赤道を跨ぐように延在し、各センターブロックはトレッド踏面においてV字状に接続された2つの壁面からなる切り込みを有し、前記2つの壁面はトレッド踏面においてタイヤ周方向に対して±20°以内の角度で延在する第一壁とタイヤ幅方向に対して±10°以内の角度で延在する第二壁とを含み、前記ショルダーブロックは前記センターブロックの前記切り込みに対向する第三壁を有し、該第三壁は前記第一壁の前記ショルダーブロック側の端点P1と前記第二壁の前記ショルダーブロック側の端点P2とを結んだ直線に対して±5°以内の角度で延在していることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第三壁の長さが前記第一壁の前記ショルダーブロック側の端点P1と前記第二壁の前記ショルダーブロック側の端点P2との間の距離の0.3倍〜0.8倍であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第三壁が、前記第一壁の延長線と前記第三壁の延長線との交点p1と前記第二壁の延長線と前記第三壁の延長線との交点p2とを結んだ線分の中点と重なることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第一壁の前記ショルダーブロック側の端点P1と前記第二壁の前記ショルダーブロック側の端点P2とを結んだ線分と前記第三壁との距離が前記第一壁の前記ショルダーブロック側の端点P1と前記第二壁の前記ショルダーブロック側の端点P2とを結んだ線分と前記第一壁と前記第二壁との交点P3との距離よりも小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第三壁の壁面角度が80°〜90°であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ショルダーブロックを構成する壁面のうち前記第三壁に接続する壁面のトレッド踏面における傾斜方向が前記傾斜溝の傾斜方向と逆方向であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未舗装路走行用タイヤとして好適な空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、未舗装路での走行性能を改善した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
不整地、泥濘地、雪道、砂地、岩場等の未舗装路の走行に使用される空気入りタイヤでは、一般的に、エッジ成分の多いラグ溝やブロックを主体とするトレッドパターンであって、溝面積が大きいものが採用される。このようなタイヤでは、路面上の泥、雪、砂、石、岩等(以下、これらを総称して「泥等」と言う)を噛み込んでトラクション性能を得ると共に、溝内に泥等が詰まることを防いで、未舗装路での走行性能を向上している(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、このようなタイヤであっても、未舗装路での走行性能(特に、トラクション性能や発進性能)が必ずしも充分に得られるとは言えず、更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015‐223884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、未舗装路走行用タイヤとして好適な空気入りタイヤであって、未舗装路での走行性能を改善した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、前記トレッド部のセンター領域に複数のセンターブロックが設けられ、且つ、前記トレッド部のショルダー領域に複数のショルダーブロックが設けられ、前記センターブロックはタイヤ周方向に対して傾斜して延びる傾斜溝を挟んで対を成すように配列され、前記センターブロックの対の一方側のセンターブロックはタイヤ赤道の一方側から他方側にタイヤ赤道を跨ぐように延在し、他方側のセンターブロックはタイヤ赤道の他方側から一方側にタイヤ赤道を跨ぐように延在し、各センターブロックはトレッド踏面においてV字状に接続された2つの壁面からなる切り込みを有し、前記2つの壁面はトレッド踏面においてタイヤ周方向に対して±20°以内の角度で延在する第一壁とタイヤ幅方向に対して±10°以内の角度で延在する第二壁とを含み、前記ショルダーブロックは前記センターブロックの前記切り込みに対向する第三壁を有し、該第三壁は前記第一壁の前記ショルダーブロック側の端点P1と前記第二壁の前記ショルダーブロック側の端点P2とを結んだ直線に対して±5°以内の角度で延在していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、上述のように、センターブロックがタイヤ赤道を跨ぐように延在していため、センターブロックのタイヤ幅方向のエッジ成分を増やすことができ、未舗装路での走行性能(例えば、マッド性能等)を高めることができる。また、各センターブロックが切り込みを備えることで、この切り込みによって溝内の泥等を効果的に把持することが可能になり、これによっても未舗装路での走行性能(例えば、マッド性能等)を高めることができる。特に、第一壁と第二壁の延在方向を上述の角度に設定しているので、第一壁によってタイヤの横滑りを抑制し、第二壁によってトラクション性能を高めるには有利になる。更に、上記のように切り込みに対向する第三壁を設けることで、切り込みから流出しようとする泥等に対して第三壁が抵抗を与えて剪断力を高めることができ、且つ、第三壁が切り込みの開口部と略平行に延在するため泥等を適度に排出することができ、この点からも未舗装路での走行性能(例えば、マッド性能等)を高めることができる。
【0007】
本発明では、第三壁の長さが第一壁のショルダーブロック側の端点P1と第二壁のショルダーブロック側の端点P2との間の距離の0.3倍〜0.8倍であることが好ましい。このように第三壁を切り込みの開口部に対して適度な大きさに設定することで、第三壁による剪断力を高める効果と、泥等の排出性とをバランスよく両立するには有利になる。
【0008】
本発明では、第三壁が、第一壁の延長線と第三壁との交点p1と第二壁の延長線と第三壁との交点p2とを結んだ線分の中点と重なることが好ましい。このように第三壁を配置することで、切り込みの開口部に対する第三壁の位置が最適化されて、第三壁によって剪断力を高めるには有利になる。
【0009】
本発明では、第一壁のショルダーブロック側の端点P1と第二壁の前記ショルダーブロック側の端点P2とを結んだ線分と第三壁との距離が第一壁のショルダーブロック側の端点P1と第二壁の前記ショルダーブロック側の端点P2とを結んだ線分と第一壁と第二壁との交点P3との距離よりも小さいことが好ましい。これにより、センターブロックとショルダーブロックとの間隔(センターブロックとショルダーブロックとの間に形成される溝の溝幅)と切り込みの大きさとのバランスが良好になり、第三壁による剪断力を高める効果と、泥等の排出性とをバランスよく両立するには有利になる。
【0010】
本発明では、第三壁の壁面角度が80°〜90°であることが好ましい。このように第三壁の壁面角度を設定することで、第三壁による剪断力を高める効果と、泥等の排出性とをバランスよく両立するには有利になる。尚、第三壁の壁面角度とは、センターブロックとショルダーブロックとの間に形成される溝の溝底に対する角度である。
【0011】
本発明では、ショルダーブロックを構成する壁面のうち第三壁に接続する壁面のトレッド踏面における傾斜方向が傾斜溝の傾斜方向と逆方向であることが好ましい。これにより、ショルダーブロックを構成する壁面のうち第三壁に接続する壁面によって構成される溝内の泥等の一部と傾斜溝内の泥等の一部とが切り込みに流れ込みやすくなり、それにより切り込み内の泥等が圧縮されて、剪断力を得易くなるため、未舗装路での走行性能(例えば、マッド性能等)を向上するには有利になる。
【0012】
本発明において、各種寸法(長さや角度)は、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに測定した値である。「長さ」は、特に断りが無い限りトレッド踏面における長さである。各ブロックの「踏面」とは、この状態においてタイヤが置かれた平面に実際に接触する各ブロックの表面部分であり、実際に接触しない例えば面取り部などは含まれないものとする。また、「接地端」とは、この状態におけるタイヤ軸方向の両端部である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車である場合には180kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッド面を示す正面図である。
図3図2のセンターブロックを拡大して示す正面図である。
図4図2のセンターブロックおよびショルダーブロックの一部を拡大して示す正面図である。
図5】切り込みと第三壁との位置関係について示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。尚、図1において、符号CLはタイヤ赤道を示し、符号Eは接地端を示す。
【0016】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。
【0017】
本発明は、このような一般的な空気入りタイヤに適用されるが、その断面構造は上述の基本構造に限定されるものではない。
【0018】
図1,2に示すように、トレッド部1の外表面のセンター領域には複数のセンターブロック10が設けられている。また、トレッド部1の外表面のショルダー領域には複数のショルダーブロック20が設けられている。言い換えると、トレッド部1の外表面において、タイヤ赤道の両側にそれぞれ2種類のブロック(センターブロック10およびショルダーブロック20)が設けられ、センターブロック10がタイヤ赤道側(センター領域)に配置され、ショルダーブロック20がセンターブロック10よりもタイヤ幅方向外側(ショルダー領域)に配置されている。
【0019】
センターブロック10は、タイヤ周方向に対して傾斜して延びる傾斜溝30を挟んで対(ブロック対10′)を成すように配列されている。そして、このブロック対10′の一方側(図中のタイヤ赤道の左側)のセンターブロック10はタイヤ赤道の一方側(図中のタイヤ赤道の左側)から他方側(図中のタイヤ赤道の右側)にタイヤ赤道を跨ぐように延在し、他方側(図中のタイヤ赤道の右側)のセンターブロック10はタイヤ赤道の他方側(図中のタイヤ赤道の右側)から一方側(図中のタイヤ赤道の左側)にタイヤ赤道を跨ぐように延在している。
【0020】
図3に拡大して示すように、各センターブロック10のタイヤ幅方向外側の壁面(傾斜溝30の反対側の壁面)には、トレッド踏面においてV字状に接続された2つの壁面(第一壁11aおよび第二壁11b)からなる切り込み11が設けられている。第一壁11aはトレッド踏面においてタイヤ周方向に対して±20°以内の角度で延在し、第二壁11bはタイヤ幅方向に対して±10°以内の角度で延在している。即ち、トレッド踏面において、第一壁11aがタイヤ周方向に対して成す角度θaが±20°以内であり、第二壁11bがタイヤ周方向に対して成す角度θbが±10°以内である。
【0021】
ショルダーブロック20は、前述のようにセンターブロック10のタイヤ幅方向外側に配置されるブロックであれば、その形状は特に限定されないが、センターブロック10の切り込み11に対向する第三壁21を必ず有する。第三壁21は切り込み11の開口部と略平行に延在しており、具体的には、第一壁11aのショルダーブロック20側の端点P1と第二壁11bのショルダーブロック20側の端点P2とを結んだ直線Aに対して±5°以内の角度で延在している。
【0022】
このようにセンターブロック10がブロック対10′を成すように設けられて、各センターブロック10がタイヤ赤道CLを跨ぐように延在しているため、センターブロック10のタイヤ幅方向のエッジ成分を増やすことができ、未舗装路での走行性能(例えば、マッド性能等)を高めることができる。また、各センターブロック10が切り込み11を備えることで、この切り込み11によって溝内の泥等を効果的に把持することが可能になり、これによっても未舗装路での走行性能(例えば、マッド性能等)を高めることができる。特に、第一壁11aと第二壁11bの延在方向が上述の角度に設定されているので、第一壁11aによってタイヤの横滑りを抑制し、第二壁11bによってトラクション性能を高めることができ、未舗装路での走行性能を高めるには有利になる。更に、上記のようにショルダーブロック20が切り込み11に対向する第三壁21を備えることで、切り込み11から流出しようとする泥等に対して第三壁21が抵抗を与えて剪断力を高めることができる。その一方で、第三壁21が切り込み11の開口部と略平行に延在するため泥等を適度に排出することができる。これらが相乗することで、未舗装路での走行性能(例えば、マッド性能等)を効果的に高めることができる。
【0023】
センターブロック10がタイヤ赤道を越えない形状であると、センターブロック10のタイヤ幅方向のエッジ成分を充分に確保することができず、未舗装路での走行性能を高めることができない。第一壁11aの角度θaがタイヤ周方向に対して±20°以内の範囲から外れると、第一壁11aのトレッド踏面における延在方向がタイヤ周方向に対して傾き過ぎるため、第一壁11aによるエッジ効果が充分に得られず、タイヤの横滑りを充分に抑制することができない。第二壁11bの角度θbがタイヤ幅方向に対して±10°以内の範囲から外れると、第二壁11bのトレッド踏面における延在方向がタイヤ幅方向に対して傾き過ぎるため、第一壁11bによるエッジ効果が充分に得られず、トラクション性能を充分に高めることができない。第一壁11aおよび第二壁11bの壁面角度が切り込み11が設けられた壁面の壁面角度よりも小さいと、ブロック剛性を充分に確保することが難しくなる。ショルダーブロック20が第三壁21を備えないと、第三壁21による効果(切り込み11から流出しようとする泥等に対して抵抗を与えて剪断力を高める効果)が見込めなくなる。第三壁の角度が直線Aに対して±5°以内の範囲から外れると、第三壁21の一方の端部がセンターブロック10(切り込み11)に接近し過ぎるため泥等の適度な排出が阻害される。
【0024】
第三壁21が上記のように切り込み11から流出しようとする泥等に対して抵抗を与えるには、第三壁21が切り込み11の開口部に対して適度な大きさを有することが好ましい。具体的には、図4に示すように、第三壁21の長さL3を第一壁11aのショルダーブロック20側の端点P1と第二壁11bのショルダーブロック20側の端点P2との間の距離D1の0.3倍〜0.8倍に設定することが好ましい。この寸法設定であれば、第三壁21が切り込み11の開口部に対して適度な大きさになるので、第三壁21による剪断力を高める効果と、泥等の排出性とをバランスよく両立するには有利になる。第三壁21の長さL3が距離D1の0.3倍未満であると、切り込み11から流出しようとする泥等に対して充分な抵抗を与えることが難しくなる。第三壁21の長さL3が距離D1の0.8倍超であると、第三壁21が切り込み11を実質的に塞ぐ形態になるため、泥等の排出性を充分に得ることが難しくなる。
【0025】
尚、第一壁11aの長さL1や第二壁11bの長さL2は、切り込み11に関する距離D1が第三壁21の長さL3と上述の関係を満たしていれば特に限定されない。但し、第一壁11aによる横滑りの抑制と、第二壁11bによるトラクション性の向上とをバランスよく両立することを鑑みると、第二壁11bの長さL2を、第一壁11aの長さL1の好ましくは0.5倍〜2.0倍、より好ましくは1.1倍〜2.0倍に設定するとよい。
【0026】
第三壁21によって剪断力を高める効果を良好に発揮させるためには、第三壁21と切り込み11の開口部との位置関係が重要になる。そのため、図5に示すように、第三壁21が、第一壁11aの延長線と第三壁21の延長線との交点p1と第二壁11bの延長線と第三壁21の延長線との交点p2とを結んだ線分Bの中点Mと重なることが好ましい。これにより、第三壁21が切り込み11の開口部と重複するように対向することになり、第三壁21と切り込み11の開口部との位置関係が最適化されて、第三壁21によって剪断力を効果的に高めることが可能になる。第三壁21が線分Bの中点Mと重ならないと、第三壁21が切り込み11の開口部に対してずれて配置されることになり、切り込み11から流出しようとする泥等に対して充分な抵抗を与えることが難しくなる。
【0027】
センターブロック10とショルダーブロック20とは互いに独立したブロックであるので、これらの間には溝が形成される。このとき、センターブロック10の切り込み11とショルダーブロック20の第三壁21との間に形成される溝が適度な溝幅を有することが、第三壁による剪断力を高める効果と泥等の排出性とをバランスよく両立するには有効である。そのため、第一壁11aのショルダーブロック20側の端点P1と第二壁11bのショルダーブロック20側の端点P2とを結んだ線分Aと第三壁21との距離D2を第一壁11aと第二壁11bとの交点P3と線分Aとの距離D3よりも小さくすることが好ましい。特に、距離D2が距離D3の0.4倍〜0.8倍であるとよい。距離D2が距離D3の0.4倍よりも小さいと第三壁21がセンターブロック10(切り込み11)に接近し過ぎるため、泥等の排出性を充分に得ることが難しくなる。距離D2が距離D3の0.8倍よりも大きいと第三壁21がセンターブロック10(切り込み11)から大きく離間するため、第三壁21によって切り込み11から流出しようとする泥等に対して充分な抵抗を与えることが難しくなる。
【0028】
第三壁21は、上述のように、切り込み11から流出しようとする泥等に対して抵抗を与える役目を担うので、溝底に対して略垂直であることが好ましい。そのため、第三壁21の壁面角度を80°〜90°に設定することが好ましい。第三壁21の壁面角度が80°よりも小さいと、溝体積を確保することが難しくなり、剪断力を充分に確保することが難しくなる。第三壁21の壁面角度が90°よりも大きいと、泥等を排出し難くなる。また、第三壁21によって切り込み11から流出しようとする泥等に対して充分な抵抗を与えることが難しくなる。
【0029】
上述の第三壁21の壁面角度に対して、切り込み11を構成する第一壁11aおよび第二壁11bの壁面角度は特に限定されないが、第一壁11aの壁面角度を例えば5°〜20°、第二壁11bの溝壁角度を例えば5°〜20°に設定することができる。
【0030】
ショルダーブロック20は、上述のように第三壁21を有していれば、その形状は特に限定されないが、好ましくは、ショルダーブロック20を構成する壁面のうち第三壁21に接続する壁面22,23のトレッド踏面における傾斜方向が傾斜溝30の傾斜方向と逆方向であることが好ましい。これにより、ショルダーブロック20を構成する壁面のうち第三壁21に接続する壁面22,23によって構成される溝(図示の例では、タイヤ周方向に隣り合うショルダーブロック20間に形成されるショルダー傾斜溝40の切り込み11側の端部)が切り込み11に向かって延在するように傾斜することになるので、溝内の泥等の一部が切り込みに流れ込み易くなる。その結果、切り込み11内の泥等が圧縮されて剪断力を得易くなるため、未舗装路での走行性能(例えば、マッド性能等)を向上するには有利になる。
【0031】
上記のように、タイヤ周方向に隣り合うショルダーブロック20間にショルダー傾斜溝40が形成されるが、このショルダー傾斜溝40の溝幅は、溝内の泥等の排出性を高めるために、図示のようにタイヤ赤道CL側に向かって溝幅が広くなることが好ましい。また、図示のように、ショルダー傾斜溝40には、ショルダー傾斜溝40の溝幅方向の中央部において溝底から突出する溝底突起41を形成することが好ましい。溝底突起41の突出高さは例えばショルダー傾斜溝40の溝深さの10%〜25%、溝底突起41の幅はショルダー傾斜溝40の溝幅の5%〜20%に設定することができる。このような溝底突起41は、ショルダー傾斜溝40の溝底まで泥等が詰まることを回避すると共に、走行中の溝底突起41の振動によって泥等の排出を助ける役割を担う。この溝底突起41は、ショルダーブロック40の外側端、即ちショルダーブロック40の踏面におけるタイヤ幅方向外側の端部(ショルダーブロック40の踏面とショルダーブロック40のタイヤ幅方向外側の側面とがなすエッジ)を越えてタイヤ幅方向外側に向かって延在することが好ましい。このように溝底突起41を設けることで、ショルダー傾斜溝40内の泥等を効果的に排出し易くすることができる。
【0032】
ブロック対10′を構成する2つのセンターブロック10の間に挟まれる傾斜溝30は一定の太さで延在していてもよいが、図示の例のように、センターブロック10の傾斜溝30側の壁面をトレッド踏面において屈曲させて、傾斜溝30の延在方向の中腹(図示の例ではタイヤ赤道CLと重なる部位)に傾斜溝30の他の部位よりも溝幅の広い幅広部31を設けるようにしてもよい。このような幅広部31を備えることで、走行中に幅広部31内の泥等が押し固められるようになり剪断力が得られるので未舗装路での走行性能を向上するには有利になる。
【0033】
センター領域では、複数のブロック対10′がタイヤ周方向に間隔をおいて配列されるので、タイヤ周方向に隣り合うブロック対10′の間には溝が形成されるが、この溝として、図示のように、タイヤ周方向に隣り合う傾斜溝30どうしを繋ぐ接続溝50を設けることが好ましい。特に、この接続溝50は、トレッド踏面においてタイヤ幅方向に対して±10°以内の角度で延在していることが好ましい。また、この接続溝50はタイヤ赤道CLと交差する位置に設けられることが好ましい。このように接続溝50を設けることで、接続溝50による更なるトラクション性能の向上を図ることができる。
【0034】
上述のように、本発明のトレッド部1は、センターブロック10およびショルダーブロック20を必ず備えるが、いずれのブロックも少なくとも一方の端部が溝(傾斜溝30、ショルダー傾斜溝40、接続溝50など)と連結するサイプ60を備えることが好ましい。そして、サイプ60が溝(傾斜溝30、ショルダー傾斜溝40、接続溝50など)と連結する端部においてサイプ深さが浅くなっているとよい。例えば、図示の例では、センターブロック10に、一端が接続溝50に連通して他端が傾斜溝20(切り込み11)の近傍で終端するサイプ61と、一端がショルダー傾斜溝40に連通して他端が傾斜溝30(切り込み11)の近傍で終端するサイプ62とが設けられている。また、ショルダーブロック50に、一端がショルダー傾斜溝40に連通して他端がショルダーブロック50の踏面から側面にかけて形成されたジグザグ形状の凹部の近傍で終端するサイプ63が設けられている。これらサイプ61,62,63では、溝に連通する端部のサイプ深さが浅くなっている。このようなサイプ60(サイプ61,62,63)を設けることで、サイプ60によるエッジ効果を得てトラクション性能を高めることができる。尚、このようにサイプ60の深さを変化させる場合、各サイプ60において相対的に浅い部分のサイプ深さを相対的に深い部分のサイプ深さの例えば0.1倍〜0.4倍に設定するとよい。
【実施例】
【0035】
タイヤサイズがLT265/70R17であり、図1に例示する基本構造を有し、図2のトレッドパターンを基調とし、タイヤ周方向に対する第一壁の角度θa、タイヤ幅方向に対する第二壁の角度θb、第一壁のショルダーブロック側の端点と第二壁のショルダーブロック側の端点とを結んだ直線に対する第三壁の角度、第一壁のショルダーブロック側の端点と第二壁のショルダーブロック側の端点との間の距離D1に対する第三壁の長さL3の比L3/D1、第一壁の延長線と第三壁の延長線との交点と第二壁の延長線と第三壁の延長線との交点とを結んだ線分の中点と第三壁との位置関係、第一壁のショルダーブロック側の端点と第二壁のショルダーブロック側の端点とを結んだ線分と第三壁との距離D2と第一壁のショルダーブロック側の端点と第二壁のショルダーブロック側の端点とを結んだ線分と第一壁と第二壁との交点との距離D3との大小関係、第三壁の壁面角度、センター領域の傾斜溝に対するショルダーブロックの第三壁に接続する壁面の傾斜方向をそれぞれ表1〜2のように設定した従来例1、比較例1〜3、実施例1〜13の17種類の空気入りタイヤを作製した。
【0036】
尚、表1,2の「中点Mと第三壁との位置関係」の欄では、第三壁と中点Mとが重複する場合を「重複」、重複しない場合を「非重複」と示した。表1,2の「第三壁に接続する壁面の傾斜方向」の欄では、当該壁面の傾斜方向が傾斜溝の傾斜方向と逆方向である場合を「逆」、同方向である場合を「同」と示した。
【0037】
これら17種類の空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、マッド性能を評価し、その結果を表1〜2に併せて示した。
【0038】
マッド性能
各試験タイヤをリムサイズ17×8.0のホイールに組み付けて、空気圧を450kPaとして試験車両(ピックアップトラック)に装着し、泥濘路面においてトラクション性能と発進性についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどマッド性能が優れることを意味する。尚、指数値が「105」以上で充分なマッド性能が得られたと判定し、指数値が「105」未満では、従来例1と比較してマッド性能の向上効果があったとしても不充分であると判定した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1〜2から明らかなように、実施例1〜13はいずれも、従来例1と比較して、マッド性能を向上した。尚、泥濘路面におけるマッド性のみを評価したが、他の未舗装路(雪道、砂地、岩場等)を走行した場合であっても、本発明のタイヤは、路面上の雪、砂、石、岩等に対して泥濘路面上の泥と同様の機能を発揮するので、未舗装路における優れた走行性能を発揮した。
【0042】
一方、比較例1,2は、第一壁または第二壁の角度(θaまたはθb)が大き過ぎるためマッド性能を向上する効果が充分に得られなかった。比較例3は、第三壁の角度が大き過ぎて、切り込みの開口部に対して第三壁が大きく傾いているため、マッド性能を向上する効果が充分に得られなかった。
【符号の説明】
【0043】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
10 センターブロック
11 切り込み
11a 第一壁
11b 第二壁
20 ショルダーブロック
21 第三壁
30 傾斜溝
40 ショルダー傾斜溝
41 溝底突起
50 接続溝
60(61,62,63) サイプ
CL タイヤ赤道
E 接地端
【要約】
【課題】未舗装路走行用タイヤとして好適な空気入りタイヤであって、未舗装路での走行性能を向上した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部1のセンター領域に設けられたセンターブロック10をタイヤ周方向に対して傾斜して延びる傾斜溝30を挟んで対を成すように配列し、各センターブロック10をタイヤ赤道CLの一方側から他方側にタイヤ赤道CLを跨ぐように延在させ、各センターブロックCLにトレッド踏面においてV字状に接続された第一壁11aおよび第二壁11bからなる切り込み11を設け、第一壁11aをタイヤ周方向に対して±20°以内の角度で延在させ、第二壁11bをタイヤ幅方向に対して±10°の角度で延在させ、且つ、トレッド部1のショルダー領域に設けられたショルダーブロック20の切り込み11に対向する第三壁21を、第一壁11aのショルダーブロック20側の端点P1と第二壁11bのショルダーブロック20側の端点P2とを結んだ直線Aに対して±5°以内の角度で延在させる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5