(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程Bにおいてアルカリを加えた後に、蒸留、ろ過及び分液の群から選ばれる少なくとも1種の処理を行う工程Cを具備する、請求項1に記載の有機化合物の精製方法。
前記工程Bの前に、前記工程Aで得られた混合物に有機溶媒を加えて抽出処理をした後、前記混合物を含む前記有機溶媒の層を取り出す分液工程を具備する、請求項1又は2に記載の有機化合物の精製方法。
前記有機溶媒が炭素数8〜16の直鎖又は分岐状のアルカン及び炭素数8〜16の直鎖又は分岐状のアルケンの群から選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載の有機化合物の精製方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
本実施形態の精製方法では、フッ化水素等を不純物として含む有機化合物から、不純物を除去して有機化合物を回収することができる。特に本実施形態の精製方法では、有機化合物と、フッ化水素と、SiO
2を含む材料とを含む混合物を調製する工程Aと、前記混合物にアルカリを加える工程Bとを具備する。
【0013】
上記精製方法によれば、高い純度で有機化合物を回収することができ、しかも、簡便な方法で安価に有機化合物を得ることができる。そのため、本発明の精製方法では、例えば、医農薬の中間体等として有用なジフルオロ酢酸エステル等のジフルオロエステル化合物を高い純度で得るための方法として適している。
【0014】
工程Aでは、有機化合物と、フッ化水素と、SiO
2を含む材料とを含む混合物を調製する。
【0015】
有機化合物の種類は、特に限定されない。例えば、有機化合物としては、下記一般式(1)
R
ACOOR
B (1)
(式中、R
A及びR
Bは有機基であり、R
A及びR
Bはそれぞれ互いに同一又は異なっていてもよい)で表されるエステル化合物が例示される。
【0016】
式(1)における有機基は特に限定されない。
【0017】
上記式(1)におけるR
A及びR
Bが有機基である場合の具体例としては、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、エーテル性酸素原子含有アルキル基、又は、一以上のハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基が挙げられる。
【0018】
上記アルキル基としては、炭素数が1〜20であることが好ましく、1〜12がより好ましく、1〜4が特に好ましい。アルキル基のさらなる具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、およびオクチル基等が挙げられる。アルキル基は、直鎖状または分枝鎖状のいずれでもよい。
【0019】
上記ハロゲン化アルキル基としては、上記アルキル基において、水素原子の1個以上がハロゲン原子に置換された基が挙げられる。ハロゲン原子としては、特に限定されないが、フッ素原子が好ましい。ハロゲン化アルキル基は、全ての水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0020】
上記エーテル性酸素原子含有アルキル基としては、アルコキシ基またはアルコキシアルキル基等が例示される。エーテル性酸素原子含有アルキル基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12がより好ましく、1〜4が特に好ましい。
【0021】
その他、上記のエーテル性酸素原子含有アルキル基としては、エーテル性の酸素原子を二以上有した基であってもよい。
【0022】
上記一以上のハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基としては、上記エーテル性酸素原子含有アルキル基において、水素原子の1個以上がハロゲン原子に置換された基が挙げられる。ハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基とは、例えば、ハロゲン含有(ポリ)エーテル基、すなわち、一個以上のハロゲン原子を有する(ポリ)エーテル基である。ハロゲン原子としては、特に限定されないが、フッ素原子が好ましい。一以上のハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基は、全ての水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0023】
上記の一以上のハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基の具体例としては、フルオロアルコキシ基、フルオロアルコキシアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、パーフルオロアルコキシアルキル基が挙げられる。
【0024】
その他、上記の一以上のハロゲン原子で置換されたエーテル性酸素原子含有アルキル基としては、エーテル性の酸素原子を二以上有した基であってもよい。
【0025】
式(1)におけるR
Aとしては、例えば、HCF
2であることが好ましい。この場合、式(1)で表されるエステル化合物を、より高純度で得ることが可能である。
【0026】
式(1)におけるR
Bとしては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が好ましく、この場合、式(1)で表されるエステル化合物を、より高純度で得ることができる。
【0027】
工程Aで用いるSiO
2を含む材料は、SiO
2のみであってもよいし、SiO
2を構成成分として含有する材料であってもよい。SiO
2を含む材料がSiO
2である場合、SiO
2の純度は、特に限定的ではないが、80重量%程度以上であれば、高い収率で目的の有機化合物を得ることができる。
【0028】
SiO
2を含む材料の具体例としては、シリカゲル、珪石、珪砂、ガラス、石英等が挙げられる。また、SiO
2を含む材料は、SiO
2と他の金属及び/又は金属酸化物との複合酸化物であってもよい。この複合酸化物としては、シリカーチタニア複合酸化物、シリカーアルミナ複合酸化物、シリカーアルミナ−鉄複合酸化物が例示される。
【0029】
SiO
2を含む材料は、例えば、市販品を使用することができる。SiO
2を含む材料としてはシリカゲル、珪石粉末、珪砂粉末などがより好ましく、特に、珪石粉末及びシリカゲルの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この場合、特に高い純度で、有機化合物を得ることができる。
【0030】
SiO
2を含む材料の形状は特に限定されず、例えば、良好な反応性を維持するという観点から、粒径1μm〜2mm程度の粉末であることが好ましい。
【0031】
工程Aで混合物を調製する方法は、特に限定されない。例えば、有機化合物がエステル化合物で有る場合を例にとると、フッ化水素を副生成物として含むエステル化合物をあらかじめ合成し(例えば、後述の「製造方法1−1」参照)、このフッ化水素及びエステル化合物を含む生成物に、SiO
2を含む材料を添加することで、エステル化合物と、フッ化水素と、SiO
2を含む材料とを含む混合物を調製することができる。あるいは、SiO
2を含む材料の存在下での反応によって、エステル化合物をあらかじめ合成すれば(フッ化水素が副生成物として生じる)、この合成による生成物が上記混合物となり得る(例えば、後述の「製造方法1−2」参照)。その他、工程Aで使用する混合物の調製方法は、エステル化合物と、フッ化水素と、SiO
2を含む材料とをそれぞれ準備し、これらを所定の混合量で配合する方法が挙げられる。
【0032】
ここで、上記式(1)で表されるエステル化合物を製造する方法の例を説明する。エステル化合物を製造する方法としては、例えば、下記の一般式(2)
R
ACF
2OR
B (2)
(式中、R
A及びR
Bは式(1)と同義であり、R
A及びR
Bはそれぞれ互いに同一又は異なっていてもよい)
で表される化合物を出発原料として製造することができる。
【0033】
具体的に上記エステル化合物は、上記式(2)で表される出発原料を、金属酸化物触媒の存在下にて気相反応し、次いで、アルコールで処理することで得ることができる。以下、この方法を「製造方法1−1」と称する。当該製造方法1−1は、例えば、上述した特許文献1と同様の方法で行うことができる。
【0034】
金属酸化物触媒としては、上記の反応を効率的に進ませる金属酸化物であることが好ましい。該金属酸化物における金属成分としては、アルミニウム、ジルコニウム及びチタンが例示される。金属酸化物触媒は、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、チタニア(TiO
2)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、特にアルミナが反応性及び触媒寿命の点で好ましい。
【0035】
また、金属酸化物触媒は、金属成分及び酸素以外の他の原子を含んでいてもよい。他の原子としては、フッ素原子、塩素原子等が挙げられる。他の原子は、例えば、部分フッ素化アルミナ、部分塩素化アルミナ、部分フッ素化塩素化アルミナ、部分フッ素化ジルコニア、部分フッ素化チタニア等であってもよい。金属酸化物触媒中の塩素原子及びフッ素原子の割合は特に限定されない。
【0036】
金属酸化物触媒は、反応に先立って活性化処理が施されてもよい。活性化処理としては、通常の手法が適用され、特に限定されない。好ましい活性化処理としては、250℃〜300℃程度の窒素気流中で金属酸化物触媒を充分に脱水し、ジクロロジフルオロメタン(以下、R12と記す)、クロロジフルオロメタン、またはフッ化水素等で活性化させることである。
【0037】
上記製造方法1−1においては、不活性ガスを反応系内に存在させてもよい。該不活性ガスとしては、窒素、希ガス類等が挙げられ、扱いやすさおよび入手しやすさ等の点から、窒素及びアルゴン等が好ましい。
【0038】
上記気相反応の温度は、触媒の種類および原料によって異なるが、例えば、100〜300℃程度とすることができる。反応時間は、例えば、0.1秒〜24時間の範囲内で設定とすることができる。反応圧力は、特に限定されず、常圧、減圧及び加圧のいずれであってもよい。例えば、反応圧力は、ゲージ圧で0.05〜1MPの範囲内で設定することができる。
【0039】
上記気相反応では、酸フルオリド(R
ACOF)が生成する。この酸フルオリド(R
ACOF)にアルコールが添加されることで、式(1)で表されるエステル化合物が生成する。また、この反応では、副生成物として、フッ化水素が生成する。
【0040】
上記アルコールの種類は特に制限されないが、R
BOH(R
Bは式(1)と同義である)で表される化合物が例示される。R
Bとしては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が好ましい。特に、R
BOHにおけるR
Bは、製造方法1−1で用いる式(2)で表される化合物のR
Bと同一とすることが好ましい。例えば、式(2)で表される化合物のR
Bがエチル基であれば、R
BOHはエタノールであることが好ましい。R
BOHは、異なる2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記製造方法1−1でエステル化合物を製造すると、生成物中には、主生成物である式(1)で表されるエステル化合物が含まれ、その他、フッ化水素も生成物中に含まれ得るので、この生成物にSiO
2を含む材料を添加すれば、工程Aの混合物を調製することができる。なお、反応中、SiF
4ガスも発生するが、このSiF
4ガスはコンデンサーを通じてHF水溶液を仕込んだ洗浄塔に放出し、ケイフッ酸として回収することができる。
【0042】
上記製造方法1−1において、式(2)で表される化合物のR
A及びR
Bの組み合わせとしては、R
AがHCF
2及びR
Bが炭素数1〜4のアルキル基であることが特に好ましい。この場合、所望の式(1)で表されるエステル化合物が高純度で得られやすい上に、得られた式(1)で表されるエステル化合物は、医農薬の中間体等として特に有用であるからである。式(2)におけるR
AがHCF
2及びR
Bが炭素数1〜4のアルキル基である場合、生成する式(1)で表されるエステル化合物は、ジフルオロ酢酸エステルである。
【0043】
また、上記製造方法1−1では、フッ化水素を副生成物として含むエステル化合物を合成した後に、SiO
2を含む材料を添加するが、これに限らず、SiO
2を含む材料の存在下でフッ化水素を副生成物として含むエステル化合物を合成して、工程Aの混合物を調製してもよい。
【0044】
例えば、製造方法1−1において、上記酸フルオリドが生成した後、アルコールを添加する前に、SiO
2を含む材料をあらかじめ添加しておき、次いで、アルコールを添加してエステル化合物を生成させてもよい。以下、このようなあらかじめSiO
2を含む材料を添加してエステル化合物を生成させる方法を「製造方法2」という。この製造方法2にあっても、副生成物としてフッ化水素が生成するので、フッ化水素を副生成物として含むエステル化合物を得ることができる。従って、上記製造方法2によって式(1)で表されるエステル化合物を製造すると、生成物中には、主生成物であるエステル化合物の他、フッ化水素も含まれ得る。さらに、この製造方法2では、反応時に使用したSiO
2も生成物中に残存するので、上記製造方法2で得られた反応物がそのまま工程Aの混合物となり得る。
【0045】
製造方法1−1以外に上記式(1)で表されるエステル化合物を製造する方法としては、上記式(2)で表される化合物を、SiO
2を含む材料及びR
BOH(R
Bは式(1)と同義である)の存在下において、酸触媒に接触させる方法が挙げられる。以下、この方法を「製造方法1−2」と称する。この製造方法1−2では、上記式(1)で表されるエステル化合物及びフッ化水素を含む粗生成物が得られ、さらに、粗生成物には反応に使用したSiO
2も含まれる。
【0046】
製造方法1−2において、上記式(1)で表されるエステル化合物の形態及び好ましい形態、並びに上記式(2)で表される化合物の形態及び好ましい形態は、製造方法1−1と同様である。また、製造方法1−2において、SiO
2を含む材料の形態及び好ましい形態は、製造方法1−1と同様である。また、製造方法1−2において、R
BOH(R
Bは式(1)と同義である)の形態及び好ましい形態も製造方法1−1と同様である。
【0047】
R
BOHの使用量は、原料として用いる式(2)で表される化合物1モルに対して0.03〜1モル程度とすることが好ましく、0.3〜0.6モル程度とすることがより好ましい。
【0048】
製造方法1−2で用いる酸触媒としては、酸加水分解反応に対して活性を有する物質であれば特に制限されない。このような酸触媒の具体例としては、硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、三フッ化ホウ素、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸等が挙げられる。特に好ましい酸触媒は硫酸である。酸触媒は、異なる2種以上を併用してもよい。
【0049】
製造方法1−2において、SiO
2を含む材料及びR
BOHの存在下、式(2)で表される化合物を酸触媒に接触させる方法は特に限定されず、例えば、公知の方法に従って、接触させることができる。例えば、式(2)で表される化合物、SiO
2を含む材料、R
BOH及び酸触媒を同時に接触させる方法が挙げられる。より具体的には、式(2)で表される化合物、SiO
2を含む材料及びR
BOHを含む反応容器中に酸触媒を滴下する方法等を適用できる。
【0050】
酸触媒の使用量については、式(2)で表される化合物1モルに対して例えば、0.1〜0.5モル程度とすることができ、0.2〜0.4モル程度とすることが好ましい。酸触媒の使用量を上記範囲とすることによって、20〜60℃という低い反応温度であっても、過剰な酸触媒を用いることなく、反応を進行させることができる。さらに、酸触媒を上記使用量でR
BOHと併用することによって、高い選択率で、式(1)で表されるエステル化合物を得ることができる。
【0051】
SiO
2を含む材料及びR
BOHの存在下、式(2)で表される化合物を酸触媒に接触させることで反応が進行する。
【0052】
上記反応の温度は、例えば、20〜60℃程度とすることができ、30〜50℃とすることが好ましい。この様な比較的低い反応温度とすることによって、原料や副生成物の揮発を抑制して、収率良く目的とする式(1)で表されるエステル化合物を得ることができる。
【0053】
反応時の雰囲気については、特に限定はないが、過剰の水分の存在下での反応を避ける場合は、大気圧で反応を行うことが好ましい。大気圧で反応を行う場合は、乾燥空気や窒素もしくは不活性ガス雰囲気中等で反応を行うことが好ましい。
【0054】
反応時の圧力も特に限定されない。反応系内にはSiO
2が含まれるので、反応の進行に伴ってSiF
4ガスが発生し、これにより容器内の圧力が上昇しやすくなる。
【0055】
反応時間は、通常、3時間〜48時間程度である。
【0056】
製造方法1−2の反応においては、R
BOHを二回に分けて反応系に添加することもでき、この場合、式(1)で表されるエステル化合物の選択率及び収率を向上させることができる。この方法では、反応開始時に使用するR
BOHを式(2)で表される化合物1モルに対して、0.01〜0.5モル程度、好ましくは0.2〜0.3モル程度とし、反応開始から30分以上経過後、好ましくは1時間程度以上経過後、さらに好ましくは3時間程度以上経過後に、さらに、0.02〜0.5モル程度、好ましくは0.1〜0.3モル程度のR
BOHを添加することが好ましい。二回目にR
BOHを添加した後には、さらに反応を1〜10時間程度継続し、全体の反応時間を3〜48時間程度とすることが好ましい。この方法によれば、反応速度の低下が生じることなく、高い選択率で、収率よく式(1)で表されるエステル化合物を得ることができる。
【0057】
製造方法1−2における反応では、目的生成物である式(1)で表されるエステル化合物の他、フッ化水素も副生する。従って、製造方法1−2の反応により、前記エステル化合物及びフッ化水素を含む粗生成物が得られる。その他、製造方法1−2で使用した各種原料(すなわち、未反応原料)も粗生成物に含まれ得る。
【0058】
また、反応系内にはSiO
2が含まれるので、式(2)で表される化合物の加水分解反応によって生じたHFが、系内でSiO
2と反応し得る。これにより、SiF
4も副生し得る。しかし、ここで生じたSiF
4は気体であるために、反応中あるいは反応後に容易に系外に除去することができる。ここで発生するSiF
4ガスは、例えば、コンデンサーを通じて、HF水溶液を仕込んだ洗浄塔に放出することで、ケイフッ酸として回収することができる。
【0059】
エステル化合物は、製造方法1−1、1−2及び2に限定されず、その他の方法で製造されたものであってもよい。
【0060】
上記のように、工程Aの混合物は、例えば、製造方法1−1で得られた生成物にSiO
2を含む材料を添加する方法によって調製することができる。また、工程Aの混合物は、製造方法2を実施することによっても調製することができる。
【0061】
混合物における有機化合物(例えば、エステル化合物)の含有量は特に限定的ではないが、有機化合物をより高い純度で回収するという観点から、有機化合物と、フッ化水素及びSiO
2の全量に対して、有機化合物の含有量の下限を10質量%とすることができる。より具体的には、有機化合物と、フッ化水素及びSiO
2の全量に対して、有機化合物を10〜90質量%とすることができ、20〜80質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることが特に好ましい。
【0062】
また、混合物におけるSiO
2を含む材料の含有量は特に限定的ではないが、有機化合物をより高い純度で回収するという観点から、有機化合物と、フッ化水素及びSiO
2の全量に対して、SiO
2の含有量の下限を10質量%とすることができる。より具体的には、有機化合物と、フッ化水素及びSiO
2を含む材料の全量に対して、SiO
2を含む材料を10〜50質量%とすることができ、15〜40質量%であることが好ましい。
【0063】
また、混合物におけるフッ化水素の含有量は特に限定的ではないが、有機化合物をより高い純度で回収するという観点から、有機化合物と、フッ化水素及びSiO
2の全量に対して、フッ化水素の含有量の下限を1質量%とすることができる。より具体的には、有機化合物と、フッ化水素及びSiO
2を含む材料の全量に対して、フッ化水素を1〜30質量%とすることができ、5〜20質量%であることが好ましい。
【0064】
工程Bでは、有機化合物、フッ化水素及びSiO
2を含む材料とを含む混合物にアルカリを加える操作を行う。この工程Bにより、工程Aで得られた混合物からフッ化水素及びSiO
2が除去され、式(1)で表される有機化合物が回収される。
【0065】
アルカリの種類は特に限定的ではなく、例えば、無機物、有機物のいずれであってもよい。具体的なアルカリとしては、NaHCO
3、KHCO
3、Ca(OH)
2、Mg(OH)
2、NaOH、KOH等の無機物が挙げられ、その他、NaOR、KOR等(Rは例えば、炭素数1〜4のアルキル基)の金属アルコキシドであってもよい。これらのアルカリであれば、金属フッ化物が形成され、分離が容易になるので、高い純度の有機化合物を製造しやすくなる。特に、アルカリがNaOR、KOR等の金属アルコキシドである場合、アルカリ処理による中和時に水を生成せず、不要な加水分解が抑制され得る点で好ましい。また、アルカリが無機物である場合は、中和時の加水分解が抑制される観点から、NaHCO
3及びKHCO
3が好ましい。なお、アルカリは、異なる2種以上を併用してもよい。
【0066】
工程Bで反応混合物にアルカリを加えるにあたって、アルカリは固体状態で加えてもよいし、あるいは、アルカリをあらかじめ溶媒に溶解させてアルカリ溶液として加えてもよい。アルカリを溶解させる溶媒は、例えば、アルカリが無機物であれば水等であるが、デカン等の高沸点有機溶媒や、他の有機溶媒を用いてもよく、この場合、アルカリは無機物及び有機物のいずれであってもよい。
【0067】
アルカリの使用量は限定的ではないが、フッ化水素等の不純物を除去しやすいという観点から、有機化合物1モルに対し、0.01〜0.2モルとすることができる。好ましいアルカリの使用量は有機化合物1モルに対し、0.01〜0.1モルである。
【0068】
混合物には、上述のように有機化合物、フッ化水素及びSiO
2を含む材料が含まれる。また、混合物に含まれるSiO
2はフッ化水素と反応し、SiF
4が副生し得る。さらに、フッ化水素は、SiO
2との反応により、H
2SiF
6をさらに副生させるため、このような化合物も副生成物として生じ得る。
【0069】
つまり、混合物には、上述のように有機化合物、フッ化水素及びSiO
2を含む材料の他、SiF
4、H
2SiF
6等の化合物も不純物として含まれ得る。
【0070】
このような混合物にアルカリが加えられると中和が起こり、フッ化水素、SiF
4、H
2SiF
6などがアルカリによって分解されてM
aSiF
6及びM
bFが沈殿物として生成し得る。ここで、Mは、上述したアルカリに由来するアルカリ金属、例えば、Na、K、Ca、Mgである。MがNa又はKである場合、aは2、bは1であり、MがCa又はMgである場合、aは1であり、bは0.5である。
【0071】
上記中和で生成したM
aSiF
6及びM
bFは沈殿物として生成するので、いずれも混合物から容易に除去することができる。この結果、混合物から有機化合物(例えば、式(1)で表されるエステル化合物)を容易に取り出すことができ、高純度で有機化合物を得ることができる。
【0072】
アルカリは、炭酸水素金属塩及び金属アルコキシドの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この場合、上記中和反応が進行しやすい。炭酸水素金属塩は、NaHCO
3、KHCO
3が例示され、NaHCO
3が好ましい。金属アルコキシドは、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドが例示される。特に、アルカリがナトリウムアルコキシドである場合、次の反応
RONa + HF → NaF +ROH
(Rは式(1)と同義であり、特に、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい)により、HFを除去することができる。しかも、この反応では水の生成が抑制され、ROH(アルコール)が生成する。このROHは蒸留等の操作によって、水に比べて容易に分離することができるので、アルカリがナトリウムアルコキシドである場合は、HFをより簡便な方法で除去することが可能となる。
【0073】
アルカリ処理した混合物から有機化合物を取り出す方法は特に限定されない。例えば、蒸留、ろ過、分液等の処理によって式(1)で表される有機化合物を取り出すことができる。これらの処理は組み合わせてもよい。
【0074】
すなわち、本実施形態の精製方法では、前記工程Bにおいてアルカリを加えた後に、蒸留、ろ過及び分液の群から選ばれる少なくとも1種の処理を行う工程Cを具備することができる。これにより、アルカリ処理された混合物から、有機化合物を簡便な方法で、かつ、純度よく、取り出すことができる。
【0075】
上記蒸留は、1kPa程度の減圧下で行ってもよいし、大気圧下で行ってもよい。上記ろ過は、蒸発による収率低下が起こりにくいという観点から、大気圧下又は加圧下で行うことが好ましい。上記分液の方法については特に制限はなく、0〜40℃程度の温度、大気圧下で行うことができる。この分液で使用する有機溶媒は特に限定されず、例えば、後述の有機溶媒と同様の有機溶媒を用いることができる。
【0076】
本実施形態の精製方法では、前記工程Bの前に、前記工程Aで得られた混合物に有機溶媒を加えて抽出処理をした後、前記混合物を含む前記有機溶媒の層を取り出す分液工程を具備することもできる。
【0077】
上記分液工程にて、混合物に有機溶媒を加えることで、有機溶媒の層には、混合物が抽出される。この抽出された混合物に含まれる成分は、主に有機化合物であり、その他の上記フッ化水素等の各不純物も有機溶媒の層へ抽出されるが、抽出前に比べると有機溶媒の層に含まれる不純物の量は大きく低減される。
【0078】
上記抽出処理の後、有機溶媒の層を取り出し、他の層は除去する。この有機溶媒の層に含まれる混合物を、上述と同様のアルカリ処理を行うことで、中和反応が進行して混合物が除去され、有機化合物を高純度で得ることができる。上記同様、アルカリ処理の後は、必要に応じて工程Cを経ることもできる。
【0079】
上記分液工程を経ることで、混合物に含まれるフッ化水素等の不純物の量がより低減されるので、結果として、さらに高い純度で目的の有機化合物を得ることができる。
【0080】
分液工程で使用する有機溶媒の種類は特に限定的ではない。例えば、上述の製造方法1又は製造方法2で得られたエステル化合物であれば、有機溶媒としては、炭素数8〜16の直鎖又は分岐状のアルカン及び炭素数8〜16の直鎖又は分岐状のアルケンの群から選ばれる少なくとも1種であること好ましい。この場合、式(1)で表されるエステル化合物が有機溶媒層へ抽出されやすく、エステル化合物をより高収率、かつ、高純度で得ることができる。このような有機溶媒としては、例えば、n−デカンが挙げられる。また、製造方法1又は製造方法2で得られたエステル化合物以外の有機化合物であれば、当該有機化合物との沸点差が50℃以上である、難水溶性又は非水溶性の有機溶媒であることが好ましい。溶媒は、異なる2種以上を併用してもよい。
【0081】
また、本実施形態の精製方法では、工程Bの前に、前記混合物を蒸留してもよい。この蒸留は、上記分液工程の前に行ってもよいし、あるいは、上記分液工程の後に行ってもよい。あるいは、工程Bの前に蒸留のみを行い、分液工程は行わなくてもよい。
【0082】
本実施形態の精製方法では、不純物を十分に除去することができ、高純度で目的の有機化合物を得ことができる。特に、本実施形態の精製方法では、従来、除去することが困難であったフッ化水素をより簡便な方法で除去することができる点で有利である。
【0083】
また、本実施形態の精製方法では、アルカリが添加される混合物には、SiO
2を含む材料が存在していることで、上述のように一部のフッ化水素が反応する。これにより、混合物中にフッ化水素量が減少するので、アルカリの使用量を少なくすることができる。この結果、アルカリによって、目的物の有機化合物が加水分解されにくく、目的のエステル化合物を高い収率で得ることが可能となる。特に、エステル化合物はアルカリで加水分解するおそれがあるので、有機化合物がエステル化合物である場合に、本発明の精製方法が特に有効である。
【0084】
また、有機化合物中にフッ化水素が不純物として含まれにくいことから、生成物を次工程に供給したとしても、反応器を腐食させる等の問題を起こしにくい。従って、例えば、医薬、農薬の中間体として有用な化合物であるジフルオロ酢酸エチル等に代表されるジフルオロエステル化合物を製造する方法として本実施形態の精製方法が好適である。
【0085】
また、従来のように蒸留だけでフッ化水素を除去する方法では、フッ化水素が除去されたとしても、副生したケイフッ化水素酸等が不純物として残存しやすい。そのため、例えば、製造方法2によるエステル化合物の合成を連続的に行う場合、副生したケイフッ化水素酸等が不純物として残存しやすいので、この不純物の分解によって生じたSiO
2が、例えば冷却管内に蓄積されて冷却管内の熱伝導率の低下を引き起こす。しかし、本実施形態の精製方法では、アルカリ処理することで、不純物として存在していたH
2SiF
6がより安定な塩(例えば、Na
2SiF
6)を形成する結果、SiO
2が冷却管内に蓄積することが防止されやすい。よって、本実施形態の精製方法を適用すれば、冷却管内の熱伝導率の低下が起こりにくく、製造方法2によるエステル化合物の反応を連続して行ったとしても、安定した反応を続けることができる。その結果、エステル化合物の回収率の低下も抑制でき、しかも、長期間にわたって、高収率、かつ、高純度でエステル化合物を製造することができる。
【0086】
以上の観点から、有機化合物を製造方法するにあたっては、上記本発明の精製方法を含むことが好ましい、つまり、有機化合物の製造方法において、少なくとも上記工程A及び工程Bを含む精製工程を備えていることが好ましい。これにより、より高純度で有機化合物を得ることができる。特に、有機化合物が上記エステル化合物である場合に、本実施形態の精製方法が好適である。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
コンデンサーを取り付けたハステロイ製500mLオートクレーブに、シリカゲル60gを仕込み、フッ化水素20質量%を含むジフルオロ酢酸エチル300g(フッ化水素として3.0mol、ジフルオロ酢酸エチルとして1.93molを含む)を室温でゆっくりと滴下して混合物を調製した。オートクレーブ内の上記混合物を50℃で6時間加熱撹拌した後、室温まで冷却した。
【0089】
混合物をフッ素樹脂製分液ロートに移した後、室温にて有機層を回収し、この有機層へ5%NaHCO
3水溶液50gを加えて洗浄した後、有機層を回収した。回収量は217g(回収率90.4%)であり、フッ素イオン濃度は13ppmであった。Fイオン濃度はイオンメーターを使用して測定し、ASTM規格 D−1179に準拠して分析した。以降の実施例及び比較例においても同様である。
【0090】
(実施例2)
コンデンサーを取り付けたハステロイ製500mLオートクレーブに、シリカゲル60gを仕込み、フッ化水素20質量%を含むジフルオロ酢酸エチル300g(フッ化水素として3.0mol、ジフルオロ酢酸エチルとして1.93molを含む)を室温でゆっくりと滴下して混合物を調製した。オートクレーブ内の上記混合物を50℃で6時間加熱撹拌した後、室温まで冷却した。
【0091】
混合物をフッ素樹脂製分液ロートに移した後、室温にて下層を分離して有機層を回収し、この有機層へ5%NaHCO
3水溶液50gを加えた後、常圧で蒸留した。ジフルオロ酢酸エチルの回収量は197g(回収率82%)であり、フッ素イオン濃度は14ppmであった。
【0092】
(実施例3)
コンデンサーを取り付けたハステロイ製500mLオートクレーブに、シリカゲル60gを仕込み、フッ化水素20質量%を含むジフルオロ酢酸エチル300g(フッ化水素として3.0mol、ジフルオロ酢酸エチルとして1.93molを含む)を室温でゆっくりと滴下して混合物を調製した。オートクレーブ内の上記混合物を50℃で6時間加熱撹拌した後、室温まで冷却した。
【0093】
混合物をフッ素樹脂製分液ロートに移した後、室温にて下層を分離して有機層を回収し、この有機層へナトリウムエトキシド5.0gを加えた後、常圧で蒸留した。ジフルオロ酢酸エチルの回収量は205g(回収率85%)であり、フッ素イオン濃度は8ppmであった。
【0094】
(実施例4)
コンデンサーを取り付けたハステロイ製500mLオートクレーブに、シリカゲル60g、1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン300g、エタノール19.0gを仕込み、内温を50℃に加熱した。その後、98%硫酸100.8gを滴下した。オートクレーブを50℃で18時間加熱撹拌した後、さらにエタノール28.4gを加え50℃で5時間加熱撹拌した。得られた反応混合物(粗生成物)を室温まで冷却した。
【0095】
反応混合物をフッ素樹脂製分液ロートに移した後、そこへn−デカン300gを加えて洗浄分液し、上層を有機層として回収した。この有機層に5%NaHCO
3水溶液200gを加え、洗浄を行った(工程B)。その後、アルカリ処理した反応混合物を回収して1Lのガラスフラスコに仕込み、ガラス製精留塔を使用して大気圧で精留を行った。目的物が99.8%以上の留分を集め、185gのジフルオロ酢酸エチルを得た(収率73%)。ジフルオロ酢酸エチル中、Fイオン濃度は5ppmであった。
【0096】
(実施例5)
工程Bにおいて、5%NaHCO
3水溶液200gの代わりにNaHCO
3を15gに変更したこと以外は実施例4と同様の方法でジフルオロ酢酸エチルを得た(192g、収率75%)。ジフルオロ酢酸エチル中、Fイオン濃度は13ppmであった。
【0097】
(実施例6)
工程Bにおいて、NaHCO
315gの代わりにナトリウムエトキシド5gに変更したこと以外は実施例5と同様の方法でジフルオロ酢酸エチルを得た(198g、収率78%)。ジフルオロ酢酸エチル中、Fイオン濃度は11ppmであった。
【0098】
(実施例7)
コンデンサーを取り付けたハステロイ製500mLオートクレーブに、シリカゲル60g、1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン300g、エタノール19.0gを仕込み、内温を50℃に加熱した。その後、98%硫酸100.8gを1時間かけて滴下した。オートクレーブを50℃で18時間加熱撹拌した後、さらにエタノール28.4gを加え50℃で5時間加熱撹拌した。得られた反応混合物(粗生成物)を室温まで冷却した。
【0099】
反応混合物を単蒸留し、酸分やエタノールを含む粗体230gを得た。この粗体を、φ2.5cm×高さ30cm、スチル容量1Lのステンレス製精留塔に仕込み、NaHCO
330gを加えて室温で1時間撹拌した後(工程B)、大気圧で精留を行った。目的物が99.8%以上の留分を集め、219gのジフルオロ酢酸エチルを得た(収率86%)。ジフルオロ酢酸エチル中、Fイオン濃度は8ppmであった。
【0100】
(比較例1)
コンデンサーを取り付けたハステロイ製500mLオートクレーブに、シリカゲル60gを仕込み、フッ化水素20質量%を含むジフルオロ酢酸エチル300g(フッ化水素として3.0mol、ジフルオロ酢酸エチルとして1.93molを含む)を室温でゆっくりと滴下して混合物を調製した。オートクレーブ内の上記混合物を60℃で1時間加熱撹拌した後、室温まで冷却した。
【0101】
混合物をフッ素樹脂製分液ロートに移した後、室温にて下層を分離し、有機層を回収した。回収されたジフルオロ酢酸エチルの量は221g(回収率92%)であった。酸分の含有量はフッ化水素換算で0.16%(18mmol)であった。この酸分の測定は、0.1N−NaOH溶液による中和滴定により行った。
【0102】
(比較例2)
コンデンサーを取り付けたハステロイ製500mLオートクレーブに、シリカゲル60g、1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン300g、エタノール19.0gを仕込み、内温を50℃に加熱した。その後、98%硫酸100.8gを滴下した。オートクレーブを50℃で18時間加熱撹拌した後、さらにエタノール28.4gを加え50℃で5時間加熱撹拌した。得られた反応混合物(粗生成物)を室温まで冷却した。
【0103】
反応混合物を単蒸留し、酸分やエタノールを含む粗体230gを得た。この粗体を、φ2.5cm×高さ30cm、スチル容量1Lのステンレス製精留塔に仕込み、大気圧で精留を行った。目的物が99.8%以上の留分を集め、213gのジフルオロ酢酸エチルを得た(収率83%)。ジフルオロ酢酸エチル中、Fイオン濃度は140ppmであった。また、反応装置において、コンデンサーにはシリカの付着が見られた。
【0104】
以上の実施例及び比較例の結果から、有機化合物(エステル化合物)と、フッ化水素と、SiO
2を含む材料とを含む混合物にアルカリを加える処理を行う工程を経ることで、フッ化水素等のフッ素分を効率よく除去することができ、高純度でジフルオロ酢酸エチル等のエステル化合物を回収できることがわかる。