特許第6361803号(P6361803)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6361803マルチレベルインバータの制御装置および制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6361803
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】マルチレベルインバータの制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20180712BHJP
   H02M 7/483 20070101ALI20180712BHJP
   H02M 7/487 20070101ALI20180712BHJP
【FI】
   H02M7/48 F
   H02M7/483
   H02M7/487
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-144996(P2017-144996)
(22)【出願日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年4月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小倉 和也
(72)【発明者】
【氏名】齋木 邦彦
【審査官】 高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−042772(JP,A)
【文献】 特開2016−032373(JP,A)
【文献】 特開2013−021895(JP,A)
【文献】 特開2006−087257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42 − 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相のNレベルインバータ(Nは3以上の奇数)の、U相、V相、W相の電圧指令値と(N−1)個のキャリア信号との比較に基づいて、前記Nレベルインバータ内の各スイッチング素子のスイッチング信号を生成するマルチレベルインバータの制御装置であって、
前記Nレベルインバータの3相各相の電流検出値又は電流指令値に基づいて、電流振幅が最も大きい最大電流相を選択する最大電流相選択部と、
前記Nレベルインバータの3相各相の電圧指令値から、前記選択された最大電流相の電圧指令値を減算する減算部と、
前記減算された3相各相の電圧指令値と(N−1)個のキャリア信号を比較して、前記Nレベルインバータの各スイッチング素子のスイッチング信号を生成するスイッチング信号生成部と、
を備えたマルチレベルインバータの制御装置。
【請求項2】
前記最大電流相選択部により選択された最大電流相の電圧指令値に対して、インバータの出力周波数が設定した周波数以上となる領域ではゲインを下げるゲイン補正部を備え、
前記減算部は、前記各相の電圧指令値から前記ゲイン補正部の出力を減算する請求項1に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
【請求項3】
前記最大電流相選択部は、前記各相の電流検出値又は電流指令値に代えて、電流検出値の位相又は電流指令値の位相に基づいて最大電流相を選択する請求項1又は2に記載のマルチレベルインバータの制御装置。
【請求項4】
3相のNレベルインバータ(Nは3以上の奇数)の、U相、V相、W相の電圧指令値と(N−1)個のキャリア信号との比較に基づいて、前記Nレベルインバータ内の各スイッチング素子のスイッチング信号を生成するマルチレベルインバータの制御方法であって、
最大電流相選択部が、前記Nレベルインバータの3相各相の電流検出値又は電流指令値に基づいて、電流振幅が最も大きい最大電流相を選択する最大電流相選択ステップと、
減算部が、前記Nレベルインバータの3相各相の電圧指令値から、前記選択された最大電流相の電圧指令値を減算する減算ステップと、
スイッチング信号生成部が、前記減算された3相各相の電圧指令値と(N−1)個のキャリア信号を比較して、前記Nレベルインバータの各スイッチング素子のスイッチング信号を生成するスイッチング信号生成ステップと、
を備えたマルチレベルインバータの制御方法。
【請求項5】
ゲイン補正部が、前記最大電流相選択部により選択された最大電流相の電圧指令値に対して、インバータの出力周波数が設定した周波数以上となる領域ではゲインを下げるゲイン補正ステップを備え、
前記減算ステップは、前記各相の電圧指令値から前記ゲイン補正部の出力を減算する請求項4に記載のマルチレベルインバータの制御方法。
【請求項6】
前記最大電流相選択ステップは、前記各相の電流検出値又は電流指令値に代えて、電流検出値の位相又は電流指令値の位相に基づいて最大電流相を選択する請求項4又は5に記載のマルチレベルインバータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3レベル以上の電圧型マルチレベルインバータに関し、極低速域又はゼロ周波数時に発生する損失の相集中を防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図9(a)に、3レベルインバータの代表的な回路構成例を示す。図9(a)において、直流電圧源として2つのコンデンサC1,C2が直列接続されてコンデンサ直列回路を構成している。このコンデンサ直列回路には、U相回路10U、V相回路10V、W相回路10Wが並列に接続されている。
【0003】
U相回路10Uは、直列接続されたスイッチング素子U1〜U4と、スイッチング素子U1,U2の共通接続点とスイッチング素子U3,U4の共通接続点の間に直列に接続されたダイオードD1U,D2Uとを備え、ダイオードD1U,D2Uの共通接続点を、コンデンサC1,C2の共通接続点である中性点NPに接続し、スイッチング素子U2,U3の共通接続点をU相出力端としている。
【0004】
V相回路10Vは、直列接続されたスイッチング素子V1〜V4と、スイッチング素子V1,V2の共通接続点とスイッチング素子V3,V4の共通接続点の間に直列に接続されたダイオードD1V,D2Vとを備え、ダイオードD1V,D2Vの共通接続点を、前記中性点NPに接続し、スイッチング素子V2,V3の共通接続点をV相出力端としている。
【0005】
W相回路10Wは、直列接続されたスイッチング素子W1〜W4と、スイッチング素子W1,W2の共通接続点とスイッチング素子W3,W4の共通接続点の間に直列に接続されたダイオードD1W,D2Wとを備え、ダイオードD1W,D2Wの共通接続点を、前記中性点NPに接続し、スイッチング素子W2,W3の共通接続点をW相出力端としている。
【0006】
コンデンサC1,C2の各電圧値は各々Eであり、コンデンサC1のスイッチング素子U1側端は+Eレベルとされ、中性点NPは0レベルとされ、コンデンサC2のスイッチング素子U4側端は−Eレベルとされる。各スイッチング素子U1〜U4、V1〜V4,W1〜W4は例えばIGBTなどの自己消弧型の半導体デバイスで構成されている。
【0007】
図9(a)の回路構成では、各スイッチング素子のON/OFF動作によって、E、0、−Eの3レベルの相電圧を出力する(相電圧は中性点NPを基準とする)ものであり、各スイッチング素子のON/OFF指令信号は、図10に示すように、正弦波状の電圧指令と2段のキャリア1、キャリア2との比較に基づいて決定される。図10中の太実線はU相電圧指令、破線はU相電流、細実線はキャリア1、2を各々示している。
【0008】
U相の電圧指令、キャリア1、キャリア2の各比較状態における、U相の各スイッチング素子(U1〜U4)についてのON/OFF信号指令とU相出力電圧を、表1に示す。
【0009】
【表1】
【0010】
スイッチング素子がOFF→ON、又はON→OFFに切り替わるときに、スイッチング動作が行われる。すなわち、図10の電圧指令とキャリア1、2との交点において、スイッチング動作が行われる。
【0011】
図10では、U相の電圧指令を代表で示しているが、V相、W相の各スイッチング素子についても、同様に、V相、W相の電圧指令とキャリア1、2との比較に基づいてON/OFF信号指令が定められる。
【0012】
尚、インバータ装置におけるスイッチング素子の損失を低減する方法は、例えば特許文献1、2に記載のものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2016−42772号公報
【特許文献2】特開2012−70498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
インバータの用途として、動力計測装置や射出成型機やエレベータなどがある。動力計測用インバータでは、坂道発進時のトルク計測など極低速(すなわち、インバータ出力電圧の周波数が非常に低い状態)あるいはゼロ速度(ゼロ周波数)で連続運転する場合がある。また、射出成型機などゼロ速度で圧力をかけ続けるような場合もある。
【0015】
この様な極低速あるいはゼロ速度で長い時間運転する場合、ある相に電流が集中する時間が長いため、その相のスイッチング素子の損失が大きくなり、発熱する。
【0016】
例えば図9(a)の3レベルインバータの動作時のU相、V相、W相の各電流波形を示す図9(b)の矢印で示す時刻において、インバータ出力電圧の周波数がゼロになるとU相電流が集中し続けるため、U相のスイッチング素子の損失が大きくなって発熱してしまう。
【0017】
この発熱の温度によるスイッチング素子の破壊を防止するため、出力トルクにリミットをかける必要があり、極低速域でトルクが十分取れない。
【0018】
また、エレベータ用インバータでは、エレベータの止まりこみ時や位置調整時の微速運転、メンテナンス時の低速運転など極低速にて大きな電流が流れる状況がある。この場合にもある相に電流が集中する時間が長くなるため、特定の相のスイッチング素子の温度リップルが大きくなり、スイッチング素子の寿命を短くしてしまう。
【0019】
よって、動力計測用インバータや射出成型機用インバータやエレベータ用インバータでは通常、スイッチング素子の定格を大きくし、余裕を持った設計をする必要がある。これらにより、数Hz以下の極低速域、あるいはゼロ速度域において、スイッチング素子の損失を低減することが可能になれば、スイッチング素子の定格を下げることが可能となり、低コスト化、あるいは信頼性向上を図ることができる。
【0020】
ここで、スイッチング素子の損失について説明する。
【0021】
インバータ回路のスイッチング素子において、スイッチング素子には、電圧・電流と損失の関係を示す図11のように、電流が導通することによる導通損失と、スイッチする(OFF→ON、又はON→OFFに切り換える)ことによるスイッチング損失が発生する。
【0022】
導通損失は、その相に流れる相電流とスイッチングのON電圧による積によって発生するため、相電流にほぼ比例する。また、スイッチング損失は、スイッチをする場合の過渡状態において、出力電圧と相電流の切り換わり時に発生する損失であり、インバータの直流電圧(図9(a)では、コンデンサC1,C2の直列回路の電圧)と相電流にほぼ比例する。
【0023】
電圧型インバータにおいて、直流電圧の選択により出力電圧を制御する性質上、上記の導通損失とスイッチング損失が発生し、その損失は相電流にほぼ比例する(図10)。
【0024】
これらの損失を低減させる方法として、ある相のスイッチング素子のスイッチング動作を停止し、スイッチング損失を低減させる方法がある(2アーム変調や特許文献1、2に記載の方法)。
【0025】
しかし、これらの方法は全て電圧位相を基準としており、図10のように、出力する電圧位相と電流位相が異なる場合(すなわち負荷力率≠1の場合)には、最大の効果は得られない。
【0026】
特に誘導電動機の場合には、励磁電流を必要とするため、電圧位相と電流位相は30〜90度程度ずれる。さらに、電流制御をかけた場合、極低速域では出力電圧の振幅自体が小さくなることと、電流制御をするために電圧を変化させるため綺麗な正弦波とならず歪んだ波形となることにより、電圧位相を特定することが困難である。
【0027】
また、出力周波数がゼロの場合である位相に固定される場合には、最大電流相を把握しないと間違った相のスイッチング動作を停止する場合があり、安定して損失を抑制することができない。
【0028】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、極低速域又はゼロ周波数時に発生する、最大電流相のスイッチング素子の損失を低減することができるマルチレベルインバータの制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記課題を解決するための請求項1に記載のマルチレベルインバータの制御装置は、
3相のNレベルインバータ(Nは3以上の奇数)の、U相、V相、W相の電圧指令値と(N−1)個のキャリア信号との比較に基づいて、前記Nレベルインバータ内の各スイッチング素子のスイッチング信号を生成するマルチレベルインバータの制御装置であって、
前記Nレベルインバータの3相各相の電流検出値又は電流指令値に基づいて、電流振幅が最も大きい最大電流相を選択する最大電流相選択部と、
前記Nレベルインバータの3相各相の電圧指令値から、前記選択された最大電流相の電圧指令値を減算する減算部と、
前記減算された3相各相の電圧指令値と(N−1)個のキャリア信号を比較して、前記Nレベルインバータの各スイッチング素子のスイッチング信号を生成するスイッチング信号生成部と、
を備えたことを特徴とする。
【0030】
また、請求項2に記載のマルチレベルインバータの制御装置は、請求項1において、
前記最大電流相選択部により選択された最大電流相の電圧指令値に対して、インバータの出力周波数が設定した周波数以上となる領域ではゲインを下げるゲイン補正部を備え、
前記減算部は、前記各相の電圧指令値から前記ゲイン補正部の出力を減算することを特徴としている。
【0031】
また、請求項3に記載のマルチレベルインバータの制御装置は、請求項1又は2において、
前記最大電流相選択部は、前記各相の電流検出値又は電流指令値に代えて、電流検出値の位相又は電流指令値の位相に基づいて最大電流相を選択することを特徴としている。
【0032】
また、請求項4に記載のマルチレベルインバータの制御方法は、
3相のNレベルインバータ(Nは3以上の奇数)の、U相、V相、W相の電圧指令値と(N−1)個のキャリア信号との比較に基づいて、前記Nレベルインバータ内の各スイッチング素子のスイッチング信号を生成するマルチレベルインバータの制御方法であって、
最大電流相選択部が、前記Nレベルインバータの3相各相の電流検出値又は電流指令値に基づいて、電流振幅が最も大きい最大電流相を選択する最大電流相選択ステップと、
減算部が、前記Nレベルインバータの3相各相の電圧指令値から、前記選択された最大電流相の電圧指令値を減算する減算ステップと、
スイッチング信号生成部が、前記減算された3相各相の電圧指令値と(N−1)個のキャリア信号を比較して、前記Nレベルインバータの各スイッチング素子のスイッチング信号を生成するスイッチング信号生成ステップと、
を備えたことを特徴とする。
【0033】
また、請求項5に記載のマルチレベルインバータの制御方法は、請求項4において、
ゲイン補正部が、前記最大電流相選択部により選択された最大電流相の電圧指令値に対して、インバータの出力周波数が設定した周波数以上となる領域ではゲインを下げるゲイン補正ステップを備え、
前記減算ステップは、前記各相の電圧指令値から前記ゲイン補正部の出力を減算することを特徴としている。
【0034】
また、請求項6に記載のマルチレベルインバータの制御方法は、請求項4又は5において、
前記最大電流相選択ステップは、前記各相の電流検出値又は電流指令値に代えて、電流検出値の位相又は電流指令値の位相に基づいて最大電流相を選択することを特徴としている。
【発明の効果】
【0035】
(1)請求項1〜6に記載の発明によれば、最大電流相のスイッチング損失をゼロとし、各相の損失発生アンバランスを低減させ、特定の相のスイッチング素子の温度上昇を抑制することができる。これにより、スイッチング素子の温度上昇破壊防止用の出力トルクのリミットを緩めることができ、極低速域でもインバータはトルクを十分取れるようになる。
【0036】
また、特定の相のスイッチング素子の温度リップルが低減されるため、スイッチング素子の寿命を向上させることができる。
(2)請求項2、5に記載の発明によれば、前記(1)の効果を、極低速域又はゼロ周波数時にのみ得ることができ、高速域での他の制御との干渉を防止することができる。
(3)請求項3、6に記載の発明によれば、最大電流相選択部での演算負荷を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施例1による基本構成図。
図2】本発明の実施形態例における、変調前のキャリアと電圧指令、電流の関係を示す波形図。
図3】本発明の実施形態例における、変調前の3相電圧指令値を説明するための波形図。
図4】本発明の実施形態例における、相電流による変調の様子を示す波形図。
図5】本発明の実施形態例における、変調後の3相電圧指令値を説明するための波形図。
図6】本発明が適用される5レベルインバータの代表構成を示す回路図。
図7】本発明の実施例2による基本構成図。
図8】本発明の実施例3による基本構成図。
図9】3レベルインバータにおける、周波数ゼロ時に発生する最大電流相のスイッチング素子の損失を表し、(a)は回路図、(b)は各相の電流波形図。
図10】3レベルインバータにおける、電圧指令とキャリアの比較時の、電圧と電流の位相差を表す波形図。
図11】3レベルインバータにおける、電圧・電流とスイッチング素子の損失の関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本発明は、電圧指令に3相共通の零相電圧を加えることにより、電圧指令を、後述する図4のような凸形状の変調波形とし、後述する図5のように電圧指令とキャリア1、2との交点を少なく(すなわちスイッチング回数を少なく)したことを特徴とする。
【0039】
前記零相電圧変調方式は、3つの相電圧に共通の零相電圧を加算することで、線間電圧を変えずに変調する方式である。本発明での零相電圧は、検出した相電流の振幅が最大となる相を検出し、その相の電圧指令がゼロとなるよう最大電流相から変調電圧を選択することで求められる。これにより、最大電流相の電圧指令をゼロとすることで最大電流相のスイッチング素子のスイッチング動作を停止させ損失の低減を図る。
【実施例1】
【0040】
本発明は3相のNレベルインバータ(Nは3以上の奇数)、例えば図9(a)の3レベルインバータに適用されるものであり、実施例1による基本構成を図1に示す。図1において、51U、51V、51Wは、U相、V相、W相の各電流を検出した、U相電流検出値(図9(a)のU相出力端子に流れる電流)、V相電流検出値(図9(a)のV相出力端子に流れる電流)、W相電流検出値(図9(a)のW相出力端子に流れる電流)に対して、絶対値処理を施して絶対値を求める絶対値演算器である。
【0041】
52は、絶対値演算器51U、51V、51Wの各出力から最も絶対値の大きい(電流振幅が最も大きい)相の電流検出値を選択する最大電流相選択部である。
【0042】
53は、U相電圧指令値、V相電圧指令値、W相電圧指令値から、最大電流相選択部52で選択された最大電流相の電圧指令値を選択する電圧選択スイッチである。
【0043】
54U、54V、54Wは、U相電圧指令値、V相電圧指令値、W相電圧指令値から、電圧選択スイッチ53で選択された最大電流相の電圧指令値を各々減算する減算器であり、それらの各減算出力はキャリア比較器55に入力される。
【0044】
例として、U相電流検出値の絶対値が、V相電流検出値の絶対値やW相電流検出値の絶対値よりも大きい場合、電圧選択スイッチ53では、U相電圧指令値が選択される。したがってU相電圧指令値が前記零相電圧となる。
【0045】
さらに、図1のキャリア比較器55に入力する各相の電圧指令値(補正後)は、
U相電圧指令値(補正後)=U相電圧指令値(補正前)−U相電圧指令値(補正前)=0、
V相電圧指令値(補正後)=V相電圧指令値(補正前)−U相電圧指令値(補正前)、
W相電圧指令値(補正後)=W相電圧指令値(補正前)−U相電圧指令値(補正前)、
となる。
【0046】
キャリア比較器55は、各相の減算器54U,54V,54Wの出力(補正後の各相の電圧指令値)とキャリア1、2との比較を行って、図9(a)の各スイッチング素子U1〜U4、V1〜V4、W1〜W4のON/OFF指令信号(スイッチング信号)を生成して出力する。
【0047】
ここで、電圧指令の変調前、すなわち図1の減算器54U,54V,54Wによる減算が行われる前のU相電圧指令、U相電流とキャリア1、2の関係を図2に示し、変調前の正弦波状の3相の電圧指令値とキャリア1、2の関係を図3に示す。図2図3のように、キャリア1の最大値は1、最小値は0である。キャリア2の最大値は0、最小値は−1である。
【0048】
したがって、3レベルインバータでは、図2に示すように電圧指令値がゼロの場合には、電圧指令値はキャリア1、2とも交差しないため、スイッチング動作をしない。よって、電流最大相の電圧指令値を図1の回路によってゼロとすることで、電流最大相のスイッチング損失を低減させることが可能となる。
【0049】
すなわち、図4は、最大電流相選択部52によってU相が最大電流相として選択されたタイミングにおけるU相電圧指令の変調の様子を示しており、U相電圧指令はU相電流の最大時にゼロとなるように(減算器54Uの減算により)変調され、凸形状の変調波形となっている。
【0050】
その結果、変調後の3相電圧指令値を示す図5のように、3相電流が例えばU相→W相→V相の順で最大電流相となる場合、最大電流相となったときの当該相の電圧指令が順次ゼロに変調され、その電圧指令ゼロの期間において電圧指令値がキャリア1、2ともに交差しないためスイッチング動作をしない。これによって電流最大相のスイッチング損失をゼロとし、各相の損失発生アンバランスを低減させ、特定の相のスイッチング素子の温度上昇を抑制することができる。
【0051】
尚、図1では、電流検出を用いているが、3相電流指令値がある場合には置換えが可能である。この場合、図1のU相電流検出値、V相電流検出値、W相電流検出値が、U相電流指令値、V相電流指令値、W相電流指令値に置き換わる。
【0052】
また、本発明は、図1図5に示すように電圧指令値とキャリア1、2を比較するキャリア比較器55を持つ構成であれば、図9(a)の構成に限らず、他の3レベルインバータにも適用できる。
【0053】
さらに、5レベル以上の奇数レベルのマルチレベルインバータにも拡張できる。図6に5レベルインバータの代表構成を示す。図6において、4つの直流電源61〜64が直列に接続されている。直流電源61の正極は+2E端子に接続され、直流電源64の負極は−2E端子に接続されている。直流電源61、62の共通接続点は+E端子に接続され、直流電源63、64の共通接続点は−E端子に接続されている。直流電源62、63の共通接続点は、中性点であるNP端子に接続されている。
【0054】
U相回路70Uは次のように構成されている。+2E端子と+E端子の間にはスイッチング素子S1,S2が直列に接続され、−E端子と−2E端子の間にはスイッチング素子S7,S8が直列に接続されている。スイッチング素子S1,S2の共通接続点とスイッチング素子S7,S8の共通接続点の間には、スイッチング素子S3〜S6が直列に接続されている。スイッチング素子S3,S4の共通接続点とスイッチング素子S5,S6の共通接続点の間には、図示極性ダイオードD1,D2が直列に接続されている。ダイオードD1,D2の共通接続点はNP端子に接続され、スイッチング素子S4,S5の共通接続点(インバータ出力側)はU相出力端子ACUに接続されている。
【0055】
V相回路70V、W相回路70Wも、U相回路70Uと同様に構成され、出力側はV相出力端子ACV、W相出力端子ACWに各々接続されている。5レベルインバータでは、各電圧指令と比較されるキャリア信号はキャリア1〜キャリア4の4個(N−1個)となる。図6の5レベルインバータにおいて、U相の電圧指令と、キャリア1〜キャリア4の各比較状態における、U相の各スイッチング素子(S1〜S8)についてのON/OFF信号指令と、U相出力電圧を、表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
前記キャリア信号は、キャリア1(最大値:1、最小値:0.5)、キャリア2(最大値:0.5、最小値:0)、キャリア3(最大値:0、最小値:−0.5)、キャリア4(最大値:−0.5、最小値:−1)の4種類の構成となる。
【0058】
この場合でも、電圧指令値が0であれば各キャリアとの交点が発生しないため、本発明は適用できる。したがって、図6の5レベルインバータに図1の回路による制御を適用した場合も、前記図4図5と同様に、電流最大相の電圧指令がゼロに変調され電流最大相のスイッチング損失が低減される。
【実施例2】
【0059】
本実施例2では、最大電流相の電圧指令をゼロとする本発明の制御を、極低速域でのみ実施させるように構成した。実施例1では、最大電流相の電圧指令をゼロとする制御を、インバータの出力周波数がゼロ周波数から最高周波数まで適用してしまう。特定相のスイッチング素子への損失の負荷集中は、出力周波数が数Hz以下の極低速域でのみ発生するため、出力周波数が数Hz以上では実施例1の制御構成は不要である。
【0060】
また、電圧の変調率が1に近い(電圧指令がキャリアの最大値に近い)場合には、3アーム変調によって出力可能な最大電圧を大きくする零相変調処理が必要となり、その場合、実施例1の零相変調処理と干渉してしまう。
【0061】
よって、図7に示すように、変調電圧にゲインを掛けるゲイン付与回路(アンプ)71を電圧選択スイッチ53の出力側に追加するとともに、そのゲインを出力周波数から計算するゲイン演算部72を追加し、数Hz以下の極低速域では補正ゲインを1とし、それ以上の周波数領域では補正ゲインをゼロとすることで、変調電圧の発生を極低速域に限定する。前記ゲイン付与回路71およびゲイン演算部72によって本発明のゲイン補正部を構成している。図7において図1と同一部分は同一符号をもって示している。なお、前記ゲイン演算部72に入力する出力周波数は、指令値でもよいし検出値でもよい。
【0062】
尚、図7ではゲインとしているが、ゲイン付与回路71の代わりにスイッチを用いて、変調電圧を減算するかしないかのON/OFF制御に置き換えても可能である。ただし、変調電圧を減算するかしないかのON/OFF制御とする場合には、変調電圧が急変するため、負荷としてのモータの対アース間の浮遊容量により、漏れ電流が増大する可能性がある。よって、ON/OFF制御とせずに、図7のゲイン演算部72の出力周波数−ゲイン特性にスロープを持たせる(特定の周波数以上の領域で、出力周波数が高くなるとともにゲインを1→0に徐々に変化させる)ことで、漏れ電流の増大を抑制させる。その他の動作は図1と同様である。
【0063】
本実施例2によれば、最大電流相のスイッチング損失をゼロとし、各相の損失発生アンバランスを低減させ、特定の相のスイッチング素子の温度上昇を抑制できる効果を、極低速域にのみ限定させることができ、高速域での他制御との干渉を防止することができる。
【実施例3】
【0064】
本実施例3では、他の制御で電流位相を検出している場合、その電流位相によって最大電流相を検出するように構成した。実施例1、2では、最大電流相を各相の電流検出値又は電流指令値の絶対値から求めている。
【0065】
しかし、センサレスベクトル制御など他の制御で電流検出値の位相、あるいは電流指令値の位相を求めている場合には、その位相を利用することで演算処理を低減させることが可能である。すなわち、電流位相と最大電流相の関係を定義した表3のようなテーブルを用いるか、あるいは電流位相から演算によって最大電流相を求めることによって、最大電流相を検出することが可能である。
【0066】
【表3】
【0067】
したがって、図1の絶対値演算器51U,51V,51Wおよび最大電流相選択部52に代えて、図8のように、表3の電流位相対最大電流相テーブルを備えるか、あるいは電流検出値の位相又は電流指令値の位相から最大電流相を求める演算部を備えた最大電流相選択部82を設ける。図8において、その他の部分は図1と同様に構成されている。
【0068】
また、最大電流相選択部82は、図7の絶対値演算器51U,51V,51Wおよび最大電流相選択部52に代えて設けるように構成してもよい。
【0069】
本実施例3によれば、最大電流相を電流位相から求めているので、実施例1、2の効果に加えて、演算負荷を低減させる効果が得られる。
【符号の説明】
【0070】
10U,70U…U相回路
10V,70V…V相回路
10W,70W…W相回路
51U,51V,51W…絶対値演算器
52、82…最大電流相選択部
53…電圧選択スイッチ
54U,54V,54W…減算器
55…キャリア比較器
61〜64…直流電源
71…ゲイン付与回路
72…ゲイン演算部
C1,C2…コンデンサ
D1,D2,D1U,D2U,D1V,D2V,D1W,D2W…ダイオード
S1〜S8,U1〜U4,V1〜V4,W1〜W4…スイッチング素子
【要約】      (修正有)
【課題】マルチレベルインバータにおいて、極低速域又はゼロ周波数時に発生する最大電流相のスイッチング素子の損失を低減する。
【解決手段】3相のNレベルインバータ(Nは3以上の奇数)の、3相各相の電流検出値又は電流指令値の絶対値に基づいて、電流振幅が最も大きい最大電流相を選択する最大電流相選択部52と、前記Nレベルインバータの3相各相の電圧指令値から、前記選択された最大電流相の電圧指令値を減算する減算部54U,54V,54Wと、前記減算された3相各相の電圧指令値と(N−1)個のキャリア信号を比較して、前記Nレベルインバータの各スイッチング素子のスイッチング信号を生成するキャリア比較器55と、を備えた。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11