特許第6361892号(P6361892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6361892-煮干佃煮の製造方法 図000002
  • 特許6361892-煮干佃煮の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361892
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】煮干佃煮の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20180712BHJP
【FI】
   A23L17/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-257888(P2016-257888)
(22)【出願日】2016年12月15日
(65)【公開番号】特開2018-93851(P2018-93851A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】517008320
【氏名又は名称】有限会社内田建設
(72)【発明者】
【氏名】高尾 信昭
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−059358(JP,A)
【文献】 特開平11−000136(JP,A)
【文献】 特開2008−011749(JP,A)
【文献】 特開平08−070819(JP,A)
【文献】 だしガラの再利用!いりこの佃煮,Cookpad [online],2013年 9月17日, [検索日 2017.11.13],インターネット: <URL:https://cookpad.com/recipe/1257275>
【文献】 煮干しで佃煮,Cookpad [online],2016年 9月20日, [検索日 2017.11.14],インターネット: <URL:https://cookpad.com/recipe/2331164>
【文献】 出汁をとったあとの煮干しで佃煮,Cookpad [online],2016年 2月 4日, [検索日 2017.11.14],インターネット: <URL:https://cookpad.com/recipe/2664291>
【文献】 調理のポイント「だし・みそ・薬味」,non-no お料理基本大百科,1998年,p.526
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
煮干に吸水させる吸水工程と、吸水された煮干を煮沸して軟化させる煮沸工程と、煮沸された煮干を冷蔵庫に入れて3℃〜6℃の低温で6〜10時間かけて乾燥させて水分量を調整する乾燥工程と、乾燥された煮干をオーブンに入れて190℃〜200℃で加熱して膨化させる膨化工程と、膨化された煮干に所要の調味材で味付けする調理工程からなることを特徴とする煮干佃煮の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記乾燥工程では、煮沸処理された煮干しの水分量を10〜20%に調整することを特徴とする煮干佃煮の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
上記膨化工程では、水分調整された煮干を190〜200℃で40〜50分加熱して膨化させることを特徴とする煮干佃煮の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、出汁を取った後の煮干、即ち、ダシガラ煮干を使った煮干佃煮の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、煮干を使った佃煮の製造方法がいくつか提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に示されるものは、水分が10〜20%程度に乾燥された煮干を、所要の味付け液に10〜20分間撹拌しながら浸漬した後、液切りし、温風乾燥により乾燥させて冷却して、味付煮干を得るとともに、この味付煮干を所要の調味料に混ぜて煮干佃煮を得るものである。
【0004】
特許文献2に示されるものは、チリメン(煮干のうちで最も小さいものの別称)をアルカリ金属炭酸塩に浸漬して含水率を高めた後、水洗し、調味液に含浸して75〜100℃、3〜30分程度に加熱して佃煮を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−70819号公報
【特許文献2】特開2005−253333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、これら特許文献1,2に示された製法により得られる佃煮は、乾燥状態にある煮干とかチリメンをアルカリ金属炭酸塩等に浸漬して含水率を高めて膨潤させた後、これに調味処理を施すことを基本とするものであることから、煮干とかチリメンの肉質部分及び骨部分の軟化が十分ではなく、しかもこの煮干とかチリメンの表面側が調味材によって覆われているので、この佃煮を食するとき、その食感が比較的硬いものとなり、食べにくいものであった。
【0007】
なお、本願発明者は、煮干を用いて出汁を取った後、このダシガラ煮干を佃煮にして利用することに想到し、このダシガラ煮干(即ち、十分に煮沸され肉質部及び骨部が軟らかくなったと思われるダシガラ煮干)を調味材にて味付けして佃煮を作ったが、上掲各特許文献1,2の場合と同様に、その食感は依然として硬く、食べ易い軟らかな食感は得られなかった。
【0008】
そこで本願発明は、如上の事情に鑑み、サクサク感のある軟らかい食感で食べ易い煮干佃煮の製造方法を提案することを目的としたなされたものである。」
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明では、上記目的を解決するための手段として、以下のような構成を採用している。
【0010】
本願の第1の発明に係る煮干佃煮の製造方法では、図1に示すように、煮干に吸水させる吸水工程と、吸水された煮干を煮沸して軟化させる煮沸工程と、煮沸された煮干を冷蔵庫に入れて3℃〜6℃の低温で6〜10時間かけて乾燥させて水分量を調整する乾燥工程と、乾燥された煮干をオーブンに入れて190℃〜200℃で加熱して膨化させる膨化工程と、膨化された煮干に所要の調味材で味付けする調理工程からなることを特徴としている。
【0011】
本願の第2の発明に係る煮干佃煮の製造方法では、上記第1の発明における上記乾燥工程において、煮沸処理された煮干の水分量を10〜20%に調整することを特徴としている。
【0012】
本願の第3の発明に係る煮干佃煮の製造方法では、上記第1の発明における上記膨化工程において、水分調整された煮干を190〜200℃で40〜50分加熱して膨化させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本願発明に係る製造方法により得られる煮干佃煮においては、吸水させ且つ煮沸により軟化された煮干を冷蔵庫に入れて3℃〜6℃の低温で6〜10時間かけて乾燥させてその水分量を10〜20%に調整した後、これをオーブンに入れて190℃〜200℃で40〜50分加熱することで、上記煮干は膨化してその肉質部のみならず骨部も多孔質化し、軟らかくサクサクした軽い食感をもつものとなる。そして、このように膨化した煮干に所要の調味材で味付けすることで、煮干の内部まで調味材が十分に浸透する。この結果、軟らかくサクサクした軽い食感をもち且つ十分に調味材による味付けがされた食べ易くて旨い煮干佃煮が得られる。
【0014】
また、通常、煮干出汁を取る場合には、乾燥した煮干を水に浸漬して膨潤させるとともにこれを煮沸し、その上澄みを出汁として利用するが、残ったダシガラ煮干はほとんど利用されていない。しかし、このダシガラ煮干を用いて煮干佃煮を作る場合には、既にダシガラ煮干が吸水工程と煮沸工程を経たものであることから、これに乾燥工程と膨化工程及び調理工程を施せば煮干佃煮が得られることから、食材としての煮干の有効利用が図れるとともに、煮干佃煮の製造工程の削減によってその低コスト化が図れることになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】 本願発明に係る煮干佃煮の製造方法の加工プロセス図である。
図2】 本願発明の実施形態に係る煮干佃煮の製造フロチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下においては、本願発明に係る煮干佃煮の製造方法の実施形態として、うどん用の出汁をとった後のダシガラ煮干を用いて煮干佃煮を製造する場合を例にとって、図2を参照しつつ具体的に説明する。
【0017】
この実施形態では、素材として市販されている乾燥煮干を用いる。そして、この煮干から出汁を取るとともに、出汁を取った後に残るダシガラ煮干を用いて煮干佃煮を製造するものである。
【0018】
先ず、常温下において、所定量のアルカリ水溶液(以下、単に「調理水」という)が満たされた煮沸釜に煮干を所定量投入し、これを6〜10時間ほど浸漬し(ステップS1)、煮干に十分に吸水させる(図1の吸水工程)。この吸水により、上記煮干は膨潤となり、その肉質部及び骨部が軟らかくなり、旨味が出易くなる。
【0019】
次に、上記煮沸釜を加熱し、1時間ほどかけて調理水の温度を徐々に上げて沸騰させ、沸騰したら加熱を停止する(ステップS2)。これが図1の煮沸工程であって、この煮沸によって、煮干の旨味が調理水に浸出する(いわゆる「出汁が出た」状態)。
【0020】
ここで、煮沸釜内の調理水の上澄みを取り出して(ステップS3)、これをうどん用の出汁として利用する一方、煮沸釜内に残った煮干、即ち、旨味が浸出した後のダシガラ煮干を取出し(ステップS4)、これを煮干佃煮の材料として利用する。
【0021】
先ず、煮沸釜から取り出したダシガラ煮干を冷蔵庫に入れて低温(3℃〜6℃)で6〜10時間ほど乾燥させる(ステップS5)。図1の乾燥工程であって、この低温乾燥によって、ダシガラ煮干の水分量を10〜20%に調整する。ここで、このダシガラ煮干の水分量は、次の膨化工程での良好な膨化を実現する観点から設定されたものであって、この水分量が10%以下では膨化率が低下し所要の食感が得られにくく、また水分量が20%以上では膨化率が頭打ちとなり水分蒸発エネルギーの浪費を招来する。
【0022】
次に、水分調整がされたダシガラ煮干を、オーブンに入れて、これを190℃〜200℃の温度で、40分から50分間加熱する(ステップS6)。これが図1の膨化工程であって、この加熱によって、上記ダシガラ煮干内の水分が急速に蒸発して体積膨張し、該ダシガラ煮干の肉質部及び骨部が共に多孔質化し(いわゆる膨化状態)、軟らかくサクサクした軽い食感が得られる。
【0023】
ここで、この実施形態では、ダシガラ煮干の加熱温度を190℃〜200℃に設定しているが、この加熱温度が190℃以下では十分な膨化作用が得られにくく、また200℃以上ではダシガラ煮干の炭化が発生し始めることから、上記加熱温度に設定したものであり、好ましくは195℃とするのが最適である。また、この実施形態では、ダシガラ煮干の加熱時間を40分から50分に設定しているが、この時間設定は上記加熱温度との関係において、良好な膨化状態が得られる時間として経験的に見出されたものである。
【0024】
次に、膨化処理されたダシガラ煮干を、醤油、酒、みりん、砂糖等を含む所要の調味材を用いて味付けする(ステップS7)。これが図1の調理工程であって、この調理によって、多孔質化された上記ダシガラ煮干はその表面側が調味材によって覆われるとともに、その内部にも調味材が十分に浸み込むことで、全体に万遍なく味付けがされる。しかも、この味付けによっても、上記ダシガラ煮干の軟らかくサクサクした軽い食感は損なわれず、そのまま維持されている。
【0025】
したがって、この味付調理によって得られる煮干佃煮は、軟らかくサクサクした軽い食感をもち且つ十分に味付けがされた食べ易くて旨い煮干佃煮とされる。
【0026】
そして、この実施形態のように出汁を取った後のダシガラ煮干を用いて煮干佃煮を作る場合には、既にダシガラ煮干が既に吸水工程と煮沸工程を経たものであり、これに乾燥工程と膨化工程及び調理工程を施せば煮干佃煮が得られることから、食材としての煮干の有効利用が図れるとともに、煮干佃煮の製造工程の削減によってその低コスト化も図れる。
【0027】
「その他」
(1)この実施形態では、出汁を取った後のダシガラ煮干を使用して煮干佃煮を製造しているが、本願発明は係る構成に限定されるものではなく、例えば、出汁を取ることを意図せず、少量の調理水に煮干を入れて吸水させ且つ煮沸させたのち(即ち、吸水工程と煮沸工程を経たのち)、煮沸された煮干と残った調理水をそのまま使用して、さらに乾燥工程、膨化工程及び調理工程を施して煮干佃煮を製造することもできる。この場合には、煮干が本来有する旨味成分がそのまま煮干佃煮に持ち込まれることから、より旨味のある煮干佃煮を得ることができる。
【0028】
(2)この実施形態では、吸水工程と煮沸工程を別工程としているが、本願発明は係る構成に限定されるものではなく、例えば、煮干への吸水のみを行う吸水工程を省き、煮沸工程を長時間かけて実行することで、この煮沸工程中において吸水させる(即ち、加熱しながら吸水させる)ように構成することもできる。
【0029】
(3)この実施形態では、膨化処理法として、「加熱による膨化処理」を採用しているが、本願発明はこれに限定されるものではなく、例えば、「減圧による膨化処理」とか化学膨張剤を用いた「化学反応による膨化処理」等の他の膨化処理法を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願発明に係る佃煮の製造方法は、食品加工分野において広く利用されるものである。
図1
図2