【実施例】
【0054】
以下、易電子放射物質としてバリウムを用い、これを多孔質の高融点金属に含浸させた電子放出部焼結体からなるバリウム含浸型陰極に本発明を適用した実施例を説明する。
【0055】
上述したように、本発明の放電ランプ用陰極は35Wから1000Wまでの含浸型電極を用いた放電ランプに適用できるが、この実施例では、250Wのキセノン水銀放電ランプに本発明の放電ランプ用陰極を用いた。
【0056】
本発明における放電ランプ用陰極は、
図1(a)、(b)を用いて説明している、易電子放射物質を含浸させた含浸型電極である電子放出部焼結体からなる放電ランプ用陰極において、前記電子放出部焼結体の尖頭の先端立体角頂点部分の尖頭形状・寸法・構造に特徴を有するものである。
【0057】
そこで、本発明の放電ランプ用陰極は、本明細書の背景技術の欄において、
図1(a)、(b)を用いて説明した構造を含んでいるので、前述した説明と共通している部分には共通する符号を用いてその説明を省略する。
【0058】
図1(a)〜(c)図示の実施例では、本発明の放電ランプ用陰極が採用されている250Wのキセノン水銀放電ランプは、定格ランプ電力DC250W、定格ランプ電圧22.5Vで、キセノンガスと水銀が発光部であるガラスバルブ1にランプ封入物として封入され、陰極2と陽極3の電極間は2mmとした。
【0059】
本発明の放電ランプ用陰極において、電子放出部焼結体7は、先端側である一端に尖頭9を有している(
図1(b))。
【0060】
図1(c)は
図1(b)中の尖頭9の拡大図である。
【0061】
陰極先端チップを構成する電子放出部焼結体7は、易電子放射物質を含浸させた含浸型電極である電子放出部焼結体を作製するために従来から行なわれている方法を応用して製作される。本実施例では、以下のようにして製作した。
【0062】
図1(b)、(c)図示の電子放出部焼結体7(陰極先端チップ)の形状に対応する金型の電子放出部焼結体7に対応する部分に高融点金属(タングステン)の粉末を充填した。次いで、プレス成型焼結加工を行った。プレス成型焼結加工後の先端部分は多孔質が露出している。
【0063】
次に、先端部分を旋盤を用いて切削し、引き続いてダイヤモンドやすりによる加工により、尖頭の先端の形状・寸法・構造を次のような3種類の形状・構造のものにした。なお、旋盤を用いた切削に替えてグラインダーを用いた切削にすることができる。また、ダイヤモンドやすりによる加工に替えて、レーザー加工を用いることができる。
【0064】
(第一の形態)
尖頭9の先端を、円錐立体角に近似する先端立体角を有するものにし、
図1(c)において符号10で示す、尖頭9の先端より1mmの範囲における表面は前記多孔質が露出し、それ以外の表面は前記多孔質が塞がれている構造。
【0065】
(第二の形態)
尖頭9の先端部形状を半円状で、かつこの半円寸法半径が0.05mm〜0.5mmで、
図1(c)において符号10で示す、尖頭9の先端より1mmの範囲における表面は前記多孔質が露出し、それ以外の表面は前記多孔質が塞がれている構造。
【0066】
(第三の形態)
尖頭9の先端が有する先端立体角が円錐立体角で、
図1(c)において符号10で示す、尖頭9の先端より1mmの範囲における表面は前記多孔質が露出し、それ以外の表面は前記多孔質が塞がれている構造。
【0067】
旋盤あるいはグラインダーを用いて切削が行われた先端部分の表面は、前述したプレス成型焼結加工後に露出していた多孔質の孔がつぶされて、塞がれた構造になる。
【0068】
そして、引き続いて、
図1(c)において符号10で示す、尖頭9の先端より1mmの範囲における表面にダイヤモンドやすりによる加工あるいは、レーザー加工を施すことにより、この範囲における表面に、再度、多孔質を露出させる。
【0069】
一方、尖頭9の先端より1mmの範囲以外の表面は、前述した旋盤あるいはグラインダーを用いた切削により多孔質が塞がれている状態が保たれる。そこで、前記の工程で、旋盤あるいはグラインダーを用いた切削は、尖頭9の先端より少なくとも1mmを越えている範囲にまで行っておく。
【0070】
次に易電子放射物質(バリウム)を電子放出部焼結体7の表面に塗布し、真空中で溶融、含浸した。なお、電子放出部焼結体7の表面に塗布した易電子放射物質の溶融、含浸は、水素雰囲気中で行ってもよい。
【0071】
その後、易電子放射物質を含浸させた含浸型電極である電子放出部焼結体7の尖頭9が存在している一端に対向する他端を、高融点金属棒8の先端部に取り付けた。
【0072】
なお、この実施例において、電子放出部焼結体7の他端(
図1(b)下端)は、高融点金属製母材である高融点金属棒8の先端部に埋設あるいは溶接によって取り付けられている。その取り付け方法には、電子放出部焼結体7を高融点金属棒の内部に噛合、又は、溶接、若しくは、ろう付けする方法を採用できる。
【0073】
電子放出部焼結体7の製作は、前述した以外に、電子放出部焼結体7の他端を高融点金属棒8の先端に取り付けてから、易電子放射物質(バリウム)を電子放出部焼結体7の表面に塗布し、含浸させ、真空中または水素雰囲気中にて溶融する方法を採用することもできる。
【0074】
前記では、電子放出部焼結体7の製作に用いる高融点金属、易電子放射物質として、タングステン、バリウムをそれぞれ例示したが、これら以外に、本発明の技術分野で従来から用いられている高融点金属、易電子放射物質を用いることができる。
【0075】
易電子放射物質を含浸させた含浸型電極である電子放出部焼結体を作製する上述した方法により、上述した第一の形態〜第三の形態からなる形状・寸法・構造の尖頭9の先端を有する含浸型電極を調製できる。
【0076】
この実施例で作成した含浸型電極によれば、電子放出部焼結体7(陰極先端チップ)の形状にプレス成型焼結加工した後の先端部分で表面に露出していた多孔質は、尖頭の先端より1mmの範囲では露出しているが、それ以外の表面は前記多孔質が塞がれている。
【0077】
多孔質部が露出していなくとも易電子放射物質(バリウム)を電子放出部焼結体7の表面に塗布することにより、十分に含浸させることができ本来の長寿命を達成できた。
【0078】
この実施例では、陰極2を全長26mm、外径5mm、電子放出部焼結体7の先端角度10(
図1(c))を95°とし、後述する検討を行うため、先端部半径R(
図1(c))が0.027mm〜0.627mmの範囲内のものを複数製作した。また、これら複数のものそれぞれについて、表面に多孔質を露出させている範囲を尖頭9の先端より1mmの範囲におさめた実施例品と、1mmの範囲を越えている比較例品とをそれぞれ複数準備した。
【0079】
こうして調製した本発明の放電ランプ用陰極が採用されている250Wのキセノン水銀放電ランプを準備し、前述したように、楕円鏡を用いて、第一焦点に本願の陰極先端部を配置し、第二焦点部に光ファイバーの入射部を配置して光ファイバー出口の照度を計測して輝度を評価した。前述したように、陰極として、先端部半径Rを0.027mm〜0.627mmの範囲内で変化させたものを複数製作し、それぞれ評価を行った。
【0080】
この結果、電子放出部焼結体7の先端部の形状と光ファイバー出口の光照度との間には
図2図示のような相関があることが判った。
【0081】
すなわち、先端形状半径である先端部半径Rが0.5mmを越えると、評価用光学系の光ファイバー出力では3000ルックス以下になり、照度不足で実用的でなくなることが判明した。
【0082】
また、先端形状半径である先端部半径Rが0.05mmより小さくなると、ガラスバルブ1内壁に蒸発物が蒸着し光量が減衰することがあった。先端部温度が上がり過ぎることによる高融点金属の溶解蒸発が生じたためと思われた。
【0083】
このようにして調製した本発明の放電ランプ用陰極(実施例品)が採用されている250Wのキセノン水銀放電ランプを準備し、前述した磁石を装備した光学装置に装着して点灯させても陰極先端の斜面からの放電は起こらず先端部からの放電のみで安定した状態であった。
【0084】
一方、 表面に多孔質を露出させている範囲が尖頭9の先端より1mmを越えている比較例品を用いた250Wのキセノン水銀放電ランプでは、斜面からの異常放電が発生することがあった。
【0085】
このように、本発明によれば、易電子放射物質を含浸させた含浸型電極である電子放出部焼結体7の先端部である尖頭9の先端(
図1(c)中、右端)の先端立体角及び、尖頭9の先端部形状と、半円寸法半径を制御することにより高照度、高安定、長寿命の放電ランプ用陰極を供することができた。
【0086】
また、本発明によれば、易電子放射物質を含浸させた含浸型電極である電子放出部焼結体7の先端部である尖頭9の先端(
図1(c)上端)の先端立体角及び、尖頭9の先端部形状と、半円寸法半径を制御することにより、高照度が得られ斜面部(
図1−Cの11)における多孔質部分の露出を抑え、先端1mmだけ露出することにより安定した長寿命の放電ランプ用陰極を供することができた。
【0087】
以上、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態、実施例を説明した。本発明は、上述した実施形態、実施例に限られることなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。