特許第6361912号(P6361912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6361912タイルの劣化診断装置及びタイルの劣化診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361912
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】タイルの劣化診断装置及びタイルの劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/12 20060101AFI20180712BHJP
   G01N 29/26 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   G01N29/12
   G01N29/26
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-108970(P2014-108970)
(22)【出願日】2014年5月27日
(65)【公開番号】特開2015-28467(P2015-28467A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2016年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-141157(P2013-141157)
(32)【優先日】2013年7月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 周男
(72)【発明者】
【氏名】西村 淳
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−099906(JP,A)
【文献】 特開2009−115782(JP,A)
【文献】 特開平10−170482(JP,A)
【文献】 特開平06−003336(JP,A)
【文献】 特開昭50−150484(JP,A)
【文献】 特開2013−096943(JP,A)
【文献】 実開平04−122363(JP,U)
【文献】 米国特許第05589635(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の一端側に金属球を備えて形成された擦過棒を、前記金属球をタイル面に押し付けつつ移動させて発生する擦過音を捉えてタイルの劣化の有無を診断するタイルの劣化診断装置であって、
前記擦過棒を有する擦過機構部と、前記擦過機構部を一方向に往復移動させるための往復移動機構部と、前記擦過音を捉える擦過音記録部とを備え、
前記擦過機構部は、前記擦過棒と、前記擦過棒の軸部を支持する支持機構と、前記支持機構とともに前記擦過棒を前記一方向に直交する前記擦過棒の軸線方向に沿う他方向に進退移動させ、前記金属球を前記タイル面に押し付け/離間するための擦過棒進退機構とを備えるとともに、
前記擦過棒が、引張用弾性部材を介して前記軸部の一端側に前記金属球を接続して形成され、
前記支持機構が、一端側から前記擦過棒の軸部を互いの軸線が同軸上に配されるように内部に挿通して前記擦過棒を前記他方向に進退自在に支持する筒状体と、前記筒状体の他端を挿通した前記擦過棒の軸部の他端部側に一体に設けられて前記筒状体の他端に係止される係止部材と、前記筒状体の一端と前記擦過棒の金属球の間に介設された圧縮用弾性部材とを備えて構成されており、
且つ、前記往復移動機構部が、前記一方向に延設された走行レールと、前記走行レールの両端部側にそれぞれ取り付けられた一対のスプロケットと、前記一対のスプロケットに巻き掛けられて前記走行レールを囲繞するように配設された無端状の回動部材と、一方のスプロケットを回転駆動させる駆動手段と、前記回動部材の回動量及び回動方向を計測して制御するための回動計測制御手段とを備え、前記擦過棒進退機構を前記走行レールに前記一方向に進退自在に係合させるとともに前記回動部材に接続して構成されていることを特徴とするタイルの劣化診断装置。
【請求項2】
軸部の一端側に金属球を備えて形成された擦過棒を、前記金属球をタイル面に押し付けつつ移動させることによって発生した擦過音を捉えてタイルの劣化の有無を診断するためのタイルの劣化診断方法であって、
前記擦過音を記録する擦過音記録工程と、
前記擦過音記録工程で記録した擦過音データから低周波成分を除去する低周波成分除去処理工程と、
前記低周波成分除去処理工程で処理した後の擦過音データを自乗し、タイルの健全部で発生した擦過音とタイルの劣化部で発生した擦過音との差を強調処理する自乗処理工程と、
前記自乗処理工程で処理した後の擦過音データに対し、任意の時間間隔毎の擦過音データを積分処理し、予め設定した閾値と比較してタイルの劣化部の有無を判定するとともにタイルの劣化部の位置を特定するタイルの劣化診断工程とを備えていることを特徴とするタイルの劣化診断方法。
【請求項3】
請求項2記載のタイルの劣化診断方法において、
予め特定した正常部の擦過音データを取得する正常部擦過音取得工程と、
前記正常部擦過音取得工程及び前記低周波成分除去処理工程によって予め取得した正常部擦過音プロファイルを用い、前記擦過音記録工程及び前記低周波成分除去処理工程によって取得した診断データに対してスペクトル減算処理を行うスペクトル減算処理工程とを備えることを特徴とするタイルの劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイルの劣化診断装置及びタイルの劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば建物の外壁や床に貼設されたタイルは、経年劣化等により浮き・剥離や割れが発生し、特に外壁等に貼設されたタイルは、浮き・剥離、割れによって剥落すると大きな事故につながるおそれがある。
【0003】
このため、従来、建物の外壁等に貼設されたタイルの劣化を診断(検査、調査)することが行なわれ、この種のタイルの劣化診断を行う手法として、外観目視法、打音検査法、反発法、赤外線診断法等が用いられている。
【0004】
このうち、打音検査法は、熟練した検査員がテストハンマーでタイル面を叩き、劣化部と健全部の微妙な音の違いを聞き分けることにより、外観では判別しにくいタイルの浮き・剥離の有無を比較的容易に判別できるため、タイルの劣化診断手法として多用されている。
【0005】
一方、打音検査法と同様、劣化部と健全部の微妙な音の違いによって劣化部分を特定するタイルの劣化診断方法として、擦過法も多用されている(例えば、特許文献1参照)。擦過法は、例えば、直径20mm程度の金属球を検査対象面のタイル面に押し付け、タイル面を金属球で擦るように移動させ、その時に発生する音(擦過音)からタイルの浮き・剥離等の劣化の有無を判別することができ、また、劣化部分を特定することができる。
【0006】
さらに、この擦過法は、金属球を検査対象面のタイル面に押し付けた状態を維持しつつ移動することによる擦過音を捉える手法であるため、打音検査法と比較し、ロボット等で自動化を図りやすい。すなわち、ロボット等を操作し、マイクロフォンで録音された擦過音を検査員がコンピュータ等で分析することで診断を行うことができ、検査員の経験や資質といった個人差の影響が少なく、高精度で診断を行うことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平7−34367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ロボットを用い、擦過法でタイルの劣化診断を行う場合において、特許文献1の診断装置のように、金属球をタイル面に押し付けながら円弧状に揺動させる構成を採用すると、特にタイル面の段差等に起因して様々な周波数を含むノイズが発生し、コンピュータで分析診断する際にこのノイズによってタイルの劣化の有無を精度よく診断できなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、擦過法を用いた場合であっても、ノイズの発生を抑え、精度よくタイルの劣化診断を行うことを可能にするタイルの劣化診断装置及びタイルの劣化診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明のタイルの劣化診断装置は、軸部の一端側に金属球を備えて形成された擦過棒を、前記金属球をタイル面に押し付けつつ移動させて発生する擦過音を捉えてタイルの劣化の有無を診断するタイルの劣化診断装置であって、前記擦過棒を有する擦過機構部と、前記擦過機構部を一方向に往復移動させるための往復移動機構部と、前記擦過音を捉える擦過音記録部とを備え、前記擦過機構部は、前記擦過棒と、前記擦過棒の軸部を支持する支持機構と、前記支持機構とともに前記擦過棒を前記一方向に直交する前記擦過棒の軸線方向に沿う他方向に進退移動させ、前記金属球を前記タイル面に押し付け/離間するための擦過棒進退機構とを備えるとともに、前記擦過棒が、引張用弾性部材を介して前記軸部の一端側に前記金属球を接続して形成され、前記支持機構が、一端側から前記擦過棒の軸部を互いの軸線が同軸上に配されるように内部に挿通して前記擦過棒を前記他方向に進退自在に支持する筒状体と、前記筒状体の他端を挿通した前記擦過棒の軸部の他端部側に一体に設けられて前記筒状体の他端に係止される係止部材と、前記筒状体の一端と前記擦過棒の金属球の間に介設された圧縮用弾性部材とを備えて構成されており、且つ、前記往復移動機構部が、前記一方向に延設された走行レールと、前記走行レールの両端部側にそれぞれ取り付けられた一対のスプロケットと、前記一対のスプロケットに巻き掛けられて前記走行レールを囲繞するように配設された無端状の回動部材と、一方のスプロケットを回転駆動させる駆動手段と、前記回動部材の回動量及び回動方向を計測して制御するための回動計測制御手段とを備え、前記擦過棒進退機構を前記走行レールに前記一方向に進退自在に係合させるとともに前記回動部材に接続して構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明のタイルの劣化診断方法は、軸部の一端側に金属球を備えて形成された擦過棒を、前記金属球をタイル面に押し付けつつ移動させて発生した擦過音を捉えてタイルの劣化の有無を診断するためのタイルの劣化診断方法であって、前記擦過音を記録する擦過音記録工程と、前記擦過音記録工程で記録した擦過音データから低周波成分を除去する低周波成分除去処理工程と、前記低周波成分除去処理工程で処理した後の擦過音データを自乗し、タイルの健全部で発生した擦過音とタイルの劣化部で発生した擦過音との差を強調処理する自乗処理工程と、前記自乗処理工程で処理した後の擦過音データに対し、任意の時間間隔毎の擦過音データを積分処理し、予め設定した閾値と比較してタイルの劣化部の有無を判定するとともにタイルの劣化部の位置を特定するタイルの劣化診断工程とを備えていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のタイルの劣化診断方法においては、予め特定した正常部の擦過音データを取得する正常部擦過音取得工程と、前記正常部擦過音取得工程及び前記低周波成分除去処理工程によって予め取得した正常部擦過音プロファイルを用い、前記擦過音記録工程及び前記低周波成分除去処理工程によって取得した診断データに対してスペクトル減算処理を行うスペクトル減算処理工程とを備えることが望ましい。
【0015】
なお、本発明に係るタイルにはタイルを貼設するためのモルタルも含まれ、本発明(劣化診断装置、劣化診断方法)はタイル単体とともにこのモルタルも診断対象とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のタイルの劣化診断装置においては、擦過棒が引張用弾性部材を介して軸部の一端側に金属球を接続して形成され、また、支持機構が筒状体の一端と擦過棒の金属球の間に介設された圧縮用弾性部材とを備えて構成されて、擦過棒の金属球が引張用弾性部材と圧縮用弾性部材によって軸線方向に進退自在且つ軸線中心に斜動自在に設けられているため、検査対象面のタイル面に多少の段差があっても、金属球をタイル面に押し付けつつこの段差を乗り越えて移動させることができる。
【0017】
これにより、擦過動作を停止させることなく連続して診断(検査、調査)を行うことが可能になるとともに、好適にタイル面に金属球を擦過させ、段差に起因したノイズの発生を抑えた擦過音を捉えることができ、信頼性の高い診断を行うことが可能になる。
【0018】
また、本発明のタイルの劣化診断方法においては、擦過音の低周波成分を除去処理し、健全部と浮き等の劣化部の擦過音の差を拡大することで、信頼性の高い診断を行うことが可能になる。
【0019】
さらに、処理操作が比較的簡易に行え、周波数分析などと比較して短時間で且つ低コストで処理することができる。
【0020】
これにより、従来検査員の感覚に頼っていた擦過法の判定処理をコンピュータを使用して自動的に且つ高速で処理することが可能になり、診断ロボット等への適用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るタイルの劣化診断装置を示す斜視図である。
図2図1のS1部を拡大した図である。
図3図2のS2部を拡大した図である。
図4】本発明の一実施形態に係るタイルの劣化診断装置の擦過機構部を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係るタイルの劣化診断装置の擦過棒を示す分解図である。
図6】本発明の一実施形態に係るタイルの劣化診断装置によって得られた擦過音データ(記録波形)の一例を示す図である。
図7図6の擦過音データに対し、低周波成分の除去処理を施した後の擦過音データ(記録波形)を示す図である。
図8図7の擦過音データのP部を抽出して示した図である。
図9図8のP部の擦過音データを自乗処理した後の図である。
図10図9のP部の擦過音データを5msec(220データ)毎に積分処理した後の図である。
図11図9のP部の擦過音データを40msec(1760データ)毎に積分処理し、閾値と比較した図である。
図12】正常部擦過音取得工程及び低周波成分除去処理工程によって予め取得した正常部擦過音プロファイルを用い、擦過音記録工程及び低周波成分除去処理工程によって取得した診断データに対してスペクトル減算処理(スペクトル減算処理工程)を行うタイルの劣化診断方法の説明に用いた図である。
図13】スペクトル減算処理後のスペクトルサブトラクション処理データを自乗する演算処理を行い(自乗処理工程)、健全部の擦過音データと劣化部の音データとの差を拡大させ、この擦過音データを順番に積分処理して劣化部を特定する(タイルの劣化診断工程)説明に用いた図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1から図11を参照し、本発明の一実施形態に係るタイルの劣化診断装置及びタイルの劣化診断方法について説明する。ここで、本実施形態は、例えば建物の外壁や床に貼設されたタイル(タイルを貼設するためのモルタルも含む)の浮き・剥離、割れ等、劣化の有無を診断(検査、調査)するためのタイルの劣化診断装置及びタイルの劣化診断方法に関するものである。
【0023】
本実施形態のタイルの劣化診断装置Aは、図1に示すように、擦過機構部1と、擦過機構部1を一方向T1に往復(進退)移動させるための往復移動機構部2と、擦過音記録部3とを備えて構成されている。
【0024】
擦過機構部1は、図2図3図4及び図5に示すように、軸部4の一端部側に例えば20mm程度の直径で形成された金属球5を備えた擦過棒6と、擦過棒6の軸部4を支持する支持機構7と、支持機構7とともに擦過棒6を、擦過棒6の軸線O1方向に沿う他方向T2に進退移動させるための擦過棒進退機構8とを備えている。
【0025】
擦過棒6は、軸部4の一端部と金属球5を、密巻した引張用コイルばね(引張用弾性部材)9を介して一体に接続して形成されている。具体的に、擦過棒6は、図5に示すように、軸部4の軸線O1と引張用コイルばね9のバネ軸O2と金属球5に設けられた突状部5aの軸線O3とを同軸上に配しつつ、軸部4の一端部と金属球5に設けられた突状部5aを引張用コイルばね9の両端部側にそれぞれ挿入して係合させ、これにより、金属球5を引張用コイルばね9を介して軸部4に接続して形成されている。
【0026】
支持機構7は、図2及び図4に示すように、筒状体10と係止部材11と圧縮用コイルばね(圧縮用弾性部材)12と取付部材13を備えて構成されている。具体的に、支持機構7は、筒状体10の内部に一端側から擦過棒6の軸部4を互いの軸線O1、O4が同軸上に配されるように挿通し、筒状体10の他端を挿通した軸部4の他端部側にナットなどの係止部材11を設け、この係止部材11を筒状体10の他端に係止させることにより、擦過棒6を筒状体10に係合支持させて構成されている。
【0027】
また、支持機構7の圧縮用コイルばね12は、筒状体10の一端側から軸線O4方向外側に突出した軸部4の一端部側と引張用コイルばね9と金属球5の突状部5aを、互いの軸線を同軸上に配して内包しつつ、一端を筒状体10の一端に、他端を金属球5の突状部5a(あるいは球面)にそれぞれ当接させるようにして設けられている。
【0028】
そして、このように擦過棒6の軸部4の他端部側を筒状体10の他端に係止部材11で係止し、筒状体10の一端と金属球5の間に圧縮用コイルばね12を設けて支持機構7が構成されていることにより、この支持機構7によって、擦過棒6ひいては金属球5が軸線O1方向に進退自在に支持されている。
【0029】
また、支持機構7の取付部材13は、筒状体10に一体に接続し、筒状体10及び擦過棒6の軸線O1、O4直交方向外側に突設されている。
【0030】
擦過棒進退機構8は、図2及び図3に示すように、往復移動機構部2に係合接続し、往復移動機構部2の駆動によって一方向T1に進退移動する接続部材15と、接続部材15に一体に設けられたガイド部材16と、ガイド部材16に係合し、ガイド部材16に案内されて前記一方向T1に直交する他方向T2に進退自在に支持された進退部材17と、進退部材17を他方向T2に進退させるため擦過棒進退機構本体18とを備えて構成されている。
【0031】
また、本実施形態の擦過棒進退機構本体18は、リンク機構であり、前記一方向T1及び他方向T2の両方向に直交する方向に回転軸を配して設けられたサーボモータ19と、サーボモータ19の回転軸に一端部側を固設した第1リンク20と、一端部側を第1リンク20の他端部側に、他端部側を進退部材17にそれぞれ回動自在に接続して設けられた第2リンク21とを備えている。
【0032】
また、擦過棒6を他方向T2に進退自在に支持する支持機構7の取付部材13を擦過棒進退機構8の進退部材17に取り付けて、支持機構7(ひいては擦過棒6)と擦過棒進退機構8とが接続されている。そして、擦過棒進退機構8のサーボモータ19を駆動して回転軸を正逆回転させると、第1リンク20、第2リンク21が回動し、進退部材17がガイド部材16に案内されて移動し、この進退部材17とともに支持機構7及び擦過棒6が他方向T2に進退する。
【0033】
次に、擦過機構部1を一方向T1に進退移動させるための往復移動機構部2は、図1に示すように、一方向T1に延設された走行レール22と、走行レール22の両端部側にそれぞれ取り付けられたスプロケット23、24と、一対のスプロケット23、24に巻き掛けられて走行レール22を囲繞するように配設された無端状のチェーンやベルトなどの回動部材25と、一方のスプロケット23を回転駆動させる駆動モータ26と、回動部材25の回動量、回動方向を計測して制御するためのエンコーダ27及びリミットスイッチ28とを備えて構成されている。
【0034】
図1図2図3に示すように、この往復移動機構部2の一方向T1に延びる走行レール22に擦過棒進退機構8の接続部材15を一方向T1に進退自在に係合させるとともに回動部材25に接続することにより、往復移動機構部2と擦過機構部1の支持機構7とが接続されている。そして、往復移動機構部2の駆動モータ26を正逆駆動し、回動部材25が正逆回動することにより、擦過機構部1の支持機構7とともに擦過棒6が一方向T1に進退移動する。
【0035】
一方、擦過音記録部3は、往復移動機構部2のエンコーダ27によって検出される位置データに対応した位置で発生する擦過音を捉えて記録するものであり、例えば、図1及び図2に示すように、擦過機構部1の取付部材13に内蔵したり、進退部材17等に取り付けるなどして、擦過棒進退機構8ひいては擦過棒6とともに一方向T1に進退自在に設けられている。
【0036】
上記構成からなる本実施形態のタイルの劣化診断装置Aを用いて建物の外壁等に貼設されたタイルの浮き・剥離、割れ等、劣化の有無を診断(検査、調査)する際には、上記構成のタイルの劣化診断装置Aを直接ワイヤー等で支持し、あるいは台車等に搭載し、一方向T1が検査対象面のタイル面に沿い、他方向T2がタイル面に略直交するように配置する。
【0037】
この段階で、擦過棒進退機構8のサーボモータ19を駆動して回転軸を回転させ、第1リンク20、第2リンク21の回動によって進退部材17とともに支持機構7及び擦過棒6を他方向T2に進出させ、タイル面に所定の押圧力をもって擦過棒6の金属球5を当接させる。
【0038】
次に、往復移動機構部2の駆動モータ26を駆動し、無端状のチェーンやベルトなどの回動部材25を正逆回動させ、これに従動して、金属球5をタイル面に押し付けつつ擦過棒6を走行レール22に沿って一方向T1に進退させる。このとき、回動部材25の回動量、回動方向がエンコーダ27及びリミットスイッチ28で計測制御され、擦過棒6は走行レール22の長さに応じた範囲内で進退する。
【0039】
そして、このように擦過棒6の金属球5がタイル面に押し付けながら一方向T1に進退移動することで、擦過音が発生し、エンコーダ27による擦過棒6の位置データとともにこの位置データに対応した位置で発生した擦過音が擦過音記録部3に記録される。
【0040】
これにより、金属球5を検査対象面のタイル面に押し付け、タイル面を金属球で擦るように移動させたときに発生する擦過音からタイルの浮き・剥離等の劣化の有無が判別される。
【0041】
また、擦過棒進退機構8のサーボモータ19を駆動して、擦過棒6を金属球5の押し付け状態、退避状態で繰り返し切り替え、順次本実施形態のタイルの劣化診断装置Aの位置を変えながら擦過音を記録してタイルの劣化の有無を判別してゆく。これにより、劣化が生じている場合に、その劣化部分の大きさ、範囲が特定される。
【0042】
さらに、本実施形態のタイルの劣化診断装置Aでは、上記のようにタイルを診断(検査、調査)するにあたり、擦過棒6が軸部4に引張用コイルばね9を介して金属球5を取り付けて形成され、また、擦過機構部1の筒状体10と擦過棒6の金属球5の間に、軸部4と引張用コイルばね9を内包するようにして、且つ金属球5を軸線O1方向外側に押圧するように圧縮用コイルばね12が設けられ、擦過棒6が他方向T2に進退自在に支持されている。また、これにより、金属球5が軸線O1方向に進退自在に且つ軸線O1中心に傾動自在に設けられている。
【0043】
このため、本実施形態のタイルの劣化診断装置Aにおいては、検査対象面のタイル面に不陸が生じていたり、検査時に風などの影響で装置に浮上り等が生じた場合であっても、擦過棒6の進退可能量に応じた例えば1cm程度の不陸や浮上り等が吸収できる。よって、検査時に、多少の段差があってもそれを金属球5が支障なく乗り越え、擦過棒6のタイル面への押し付け状態が好適に維持されることになり、動作を停止させることなく連続して、高精度で擦過音の記録、ひいてはタイルの診断が行なえる。
【0044】
一方、本実施形態のタイルの劣化診断装置Aでタイル面の検査を行い、擦過音記録部3に記録された擦過音データを分析する際には、浮き等の劣化が生じているタイルの擦過音を強調させる処理を行い、設定した閾値以上の音信号を浮き等の劣化と判定する。
【0045】
具体的に、本実施形態のタイルの劣化診断方法では、擦過音を記録し(擦過音記録工程)、図6に示すような擦過音記録部3に記録された擦過音データに対して、図7に示すように、低周波成分を除去するLPF処理を施す(低周波成分除去処理工程)。
【0046】
次に、本実施形態では、図6図7のP部のような浮き等の劣化が生じている可能性がある部位を図8に示すように抽出し、図9に示すように、低周波成分をカットした後の擦過音データ(音信号)を自乗する演算処理を行い、健全部の擦過音データと劣化部の音データとの差を拡大させ、強調処理する(自乗処理工程)。
【0047】
そして、図10図11に示すように、設定したタイル面の範囲(時間の範囲)の擦過音データ、例えばタイルの1/2〜1枚分の擦過音データを順番に積分処理するとともに、処理後の値を閾値と比較し、予め設定した閾値を上回る擦過音データが発生した箇所を浮き等の劣化部として特定する(タイルの劣化診断工程)。
【0048】
最後に、このように劣化部の発生箇所を特定し、全体範囲の劣化部の存在位置、大きさなどをグラフィック処理、マッピング処理して可視化する。
【0049】
これにより、従来、正常な健全部と劣化部(不具合部)との擦過音の差が小さく、また、周囲の騒音などの影響で、正確に劣化部の微妙な音の差異を検出することが難しく、高精度で診断を行うことができなかった問題が解消される。
【0050】
したがって、本実施形態のタイルの劣化診断装置Aにおいては、擦過棒6が引張用コイルばね(引張用弾性部材)9を介して軸部4の一端側に金属球5を接続して形成され、また、支持機構7が筒状体10の一端と擦過棒6の金属球5の間に介設された圧縮用コイルばね(圧縮用弾性部材)12とを備えて構成されて、擦過棒6の金属球5が引張用コイルばね9と圧縮用コイルばね12によって軸線O1方向に進退自在且つ軸線O1中心に斜動自在に設けられているため、検査対象面のタイル面に多少の段差があっても、金属球5をタイル面に押し付けつつこの段差を乗り越えて移動させることができる。
【0051】
これにより、擦過動作を停止させることなく連続して診断(検査、調査)を行うことが可能になるとともに、好適にタイル面に金属球5を擦過させ、段差に起因したノイズの発生を抑えた擦過音を捉えることができ、信頼性の高い診断を行うことが可能になる。
【0052】
また、本実施形態のタイルの劣化診断方法においては、擦過音の低周波成分を除去処理し、健全部と浮き等の劣化部の擦過音の差を拡大することで、信頼性の高い診断を行うことが可能になる。
【0053】
さらに、処理操作が比較的簡易に行え、周波数分析などと比較して短時間で且つ低コストで処理することができる。
【0054】
これにより、従来検査員の感覚に頼っていた擦過法の判定処理をコンピュータを使用して自動的に且つ高速で処理することが可能になり、診断ロボット等への適用が可能になる。
【0055】
以上、本発明に係るタイルの劣化診断装置及びタイルの劣化診断方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0056】
例えば、本実施形態では、引張用弾性部材、圧縮用弾性部材がそれぞれコイルばねであるものとして説明を行ったが、板ばね、皿ばね等を適用してもよく、本発明に係る引張用弾性部材、圧縮用弾性部材は必ずしもコイルばねに限定しなくてもよい。
【0057】
また、本実施形態では、本発明に係るタイルの劣化診断方法が、擦過音を記録する擦過音記録工程と、記録した擦過音データから低周波成分を除去する低周波成分除去処理工程と、低周波成分除去処理工程で処理した後の擦過音データを自乗し、タイルの健全部で発生した擦過音とタイルの劣化部で発生した擦過音との差を強調処理する自乗処理工程と、自乗処理工程で処理した後の擦過音データに対し、任意の時間間隔毎の擦過音データを積分処理し、予め設定した閾値と比較してタイルの劣化部の有無を判定するとともにタイルの劣化部の位置を特定するタイルの劣化診断工程とを備えるものとして説明を行った。
【0058】
一方で、このタイルの劣化診断方法においては、周囲の騒音やロボット(タイルの劣化診断装置)の駆動音等に影響されず高速で診断を行うことが可能であるが、例えば、正常部の擦過音が閾値に対して大きな値になったり、非常に軽度の浮き(微妙な浮き)に対する判定が難しくなることも考えられる。
【0059】
これに対し、本発明においては、以下のようにタイルの劣化診断を行うようにしてもよい。
まず、診断を行う前に、予め作業員が詳細に打診、確認するなどして正常部を特定し、図12(b)に示すように、タイルの劣化診断装置Aでこの正常部の擦過音データを取得し(正常部擦過音取得工程)、低周波成分を除去するLPF処理を施す(低周波成分除去処理工程)。
【0060】
次に、タイルの劣化診断装置Aでタイル面の検査を行い、図12(a)に示すように、擦過音を記録し(擦過音記録工程)、擦過音記録部3に記録された擦過音データに対して、低周波成分を除去するLPF処理を施す(低周波成分除去処理工程)。
【0061】
次に、正常部擦過音取得工程及び低周波成分除去処理工程によって予め取得した正常部擦過音プロファイルを用い、擦過音記録工程及び低周波成分除去処理工程によって取得した診断データに対してスペクトル減算処理を行う(スペクトル減算処理工程)。すなわち、ノイズプロファイルを使用したノイズリダクションと同様に、周波数領域で、「(診断データ)−(正常部擦過音プロファイル)」を実施する。これにより、図12(c)に示すように、スペクトルサブトラクション処理データ(擦過音データ)を得る。
【0062】
そして、図13に示すように、スペクトル減算処理後のスペクトルサブトラクション処理データを自乗する演算処理を行い、健全部の擦過音データと劣化部の音データとの差を拡大させ、強調処理する(自乗処理工程)。
【0063】
さらに、設定したタイル面の範囲(時間の範囲)の擦過音データ、例えばタイルの1/2〜1枚分の擦過音データを順番に積分処理するとともに、処理後の値を閾値と比較し、予め設定した閾値を上回る擦過音データが発生した箇所を浮き等の劣化部として特定する(タイルの劣化診断工程)。
【0064】
これにより、軽度の浮き(微妙な浮き)も正確に捉え、本実施形態よりもさらに高精度でタイルの劣化診断を行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0065】
1 擦過機構部
2 往復移動機構部
3 擦過音記録部
4 軸部
5 金属球
5a 突状部
6 擦過棒
7 支持機構
8 擦過棒進退機構
9 引張用コイルばね(引張用弾性部材)
10 筒状体
11 係止部材
12 圧縮用コイルばね(圧縮用弾性部材)
13 取付部材
15 接続部材
16 ガイド部材
17 進退部材
18 擦過棒進退機構本体
19 サーボモータ
20 第1リンク
21 第2リンク
22 走行レール
23 スプロケット
24 スプロケット
25 回動部材
26 駆動モータ
27 エンコーダ
28 リミットスイッチ
A タイルの劣化診断装置
O1 擦過棒の軸線
O4 筒状体の軸線
T1 一方向
T2 他方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13