【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願は、個体から分離した血液試料内の補体因子Bのタンパク質発現水準を測定することを含む膵臓癌診断方法及び膵臓癌診断のための情報の提供方法を提供する。
【0010】
また、本出願は、補体因子B(complement factor B;CFB)の膵臓癌診断マーカーとしての用途を提供する。具体的に、本出願は、補体因子Bタンパク質に特異的に結合する抗体を含む膵臓癌診断用キットを提供する。
【0011】
一具体例において、補体因子Bタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列よりなるものであることができる。
【0012】
配列番号1:
MGSNLSPQLCLMPFILGLLSGGVTTTPWSLARPQGSCSLEGVEIKGGSFRLLQEGQALEYVCPSGFYPYPVQTRTCRSTGSWSTLKTQDQKTVRKAECRAIHCPRPHDFENGEYWPRSPYYNVSDEISFHCYDGYTLRGSANRTCQVNGRWSGQTAICDNGAGYCSNPGIPIGTRKVGSQYRLEDSVTYHCSRGLTLRGSQRRTCQEGGSWSGTEPSCQDSFMYDTPQEVAEAFLSSLTETIEGVDAEDGHGPGEQQKRKIVLDPSGSMNIYLVLDGSDSIGASNFTGAKKCLVNLIEKVASYGVKPRYGLVTYATYPKIWVKVSEADSSNADWVTKQLNEINYEDHKLKSGTNTKKALQAVYSMMSWPDDVPPEGWNRTRHViiLMTDGLHNMGGDPITVIDEIRDLLYIGKDRKNPREDYLDVYVFGVGPLVNQVNINALASKKDNEQHVFKVKDMENLEDVFYQMIDESQSLSLCGMVWEHRKGTDYHKQPWQAKISVIRPSKGHESCMGAVVSEYFVLTAAHCFTVDDKEHSIKVSVGGEKRDLEIEVVLFHPNYNINGKKEAGIPEFYDYDVALIKLKNKLKYGQTIRPICLPCTEGTTRALRLPPTTTCQQQKEELLPAQDIKALFVSEEEKKLTRKEVYIKNGDKKGSCERDAQYAPGYDKVKDISEVVTPRFLCTGGVSPYADPNTCRGDSGGPLIVHKRSRFIQVGVISWGVVDVCKNQKRQKQVPAHARDFHINLFQVLPWLKEKLQDEDLGFL
【0013】
一具体例において、個体は、膵臓癌が疑われる患者であることができる。
一具体例において、個体から分離した血液試料内の補体因子Bのタンパク質発現水準を正常対照群内の補体因子Bのタンパク質発現水準と比較する段階をさらに含むことができる。本明細書で、正常対照群は、膵臓癌その他疾病がない健常な個体から分離した血液試料を意味する。2つの膵臓癌の試料を比較し、膵臓癌疑い患者の試料の補体因子Bのタンパク質発現水準が正常対照群試料の補体因子Bのタンパク質発現水準より高い場合、前記候補患者を膵臓癌患者に分類できる。例えば、膵臓癌候補患者の試料の補体因子Bタンパク質水準が正常対照群試料の補体因子Bタンパク質水準より2倍以上高い場合、前記候補患者を膵臓癌患者に分類できる。
一具体例において、血液試料は、全血、血漿または血清試料であることができる。
【0014】
本出願で用語「診断」は、病理状態の存在または特徴を確認することを意味する。本出願の目的に照らして、診断は、膵臓癌の生成及び再発可否を確認するものである。
【0015】
本出願で用語「診断用マーカー」または「診断マーカー」は、癌細胞を正常細胞と区分して診断できる物質であって、正常細胞に比べて癌を有する細胞で増加または減少するポリペプチドまたは核酸(例:mRNAなど)、脂質、糖脂質、糖タンパク質または糖(単糖類、二糖類、オリゴ糖類など)などのような有機生体分子などを含む。本出願の目的に照らして、膵臓癌診断マーカーは、正常膵腸組織の細胞に比べて、膵臓癌細胞で特異的に高い水準の発現を示すCA19−9及び/または補体因子Bの遺伝子及びこれによってコーディングされるタンパク質である。
【0016】
本出願で用語「タンパク質発現水準測定」というのは、癌を診断するために生物学的試料において癌マーカー遺伝子で発現されたタンパク質の存在有無と発現程度を確認する過程であって、前記遺伝子のタンパク質に対して特異的に結合する抗体を利用してタンパク質の量を確認する。このための分析方法としては、ウェスタンブロッティング(western blotting)、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)、放射免疫分析(RIA:Radioimmunoassay)、放射免疫拡散法(radio immunodiffusion)、オクタロニー(Ouchterlony)免疫拡散法、ロケット(rocket)免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈澱分析法(Immunoprecipitation Assay)、補体固定分析法(Complement Fixation Assay)、FACS及びタンパク質チップ(protein chip)などがあるが、これに制限されるものではない。
【0017】
本出願において「特異的に結合する」というのは、結合によってターゲット物質の存在有無を検出できるほどに、他の物質に比べてターゲット物質に対する結合力に優れていることを意味する。
【0018】
本出願において「抗体」は、抗原またはエピトープに特異的に結合できる免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子ら、またはその断片から由来するか、これを倣って作った実質的にこれによって暗号化されたペプチドまたはポリペプチドを示す。本出願で抗体は、全体抗体及び抗体断片を含み、これに制限されない多様な形態の抗体構造を含む。抗体断片は、全体長さの抗体の一部分、抗体の可変ドメイン、または少なくとも抗体の抗原結合部位を含む。抗体断片の例は、ダイアボディ(diabody)、単一鎖抗体分子及び抗体断片から形成された多重特異的抗体を含む。
【0019】
一具体例において、抗体は、ポリクロナル抗体またはモノクロナル抗体であることができる。補体因子Bタンパク質に対する抗体は、当業界において通常的に実施される方法、例えば、融合方法(Kohler and Milstein、European Journal of Immunology、6:511−519(1976))、組み換えDNA方法(米国特許第4,816,56号)またはファージ抗体ライブラリ方法(Clackson et al、Nature、352:624−628(1991)及びMarks et al、J.Mol.Biol.、222:58、1−597(1991))によって製造され得る。抗体の製造に対する一般的な過程は、Harlow、E.and Lane、D.、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、New York、1999;Zola、H.、Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques、CRC Press、Inc.、Boca Raton、Florida、1984;及びColigan、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY、Wiley/Greene、NY、1991に詳細に記載されている。例えば、モノクロナル抗体を生産するハイブリードマ細胞の製造は、不死滅化細胞株を抗体−生産リンパ球と融合させてなり、この過程に必要な技術は、当業者によく知られており、容易に実施できる。ポリクロナル抗体は、補体因子Bタンパク質抗原を適合な動物に注射し、この動物から抗血清を収集した後、公知の親和性(affinity)技術を利用して抗血清から抗体を分離して得ることができる。
【0020】
本出願で用語「敏感度(sensitivity)」とは、当該疾患にかかったとき、その診断検査結果が陽性と現われる確率を示し、「特異度(specificity)」とは、ある疾患にかかっていない場合、検査結果が陰性となる可能性の程度を示す。
【0021】
膵臓癌診断用マーカーの候補物質として補体因子Bタンパク質を選定し、正常人及び膵臓癌患者の血漿において補体因子Bタンパク質の存在を確認し、変化を観察した。その結果、補体因子Bのタンパク質発現水準が膵臓癌患者の血漿において正常対照群に比べて非常に高いことを確認できた(実施例1及び実施例2)。また、従来膵臓癌診断用マーカーとして知られたCA19−9と比較したとき、CFBの膵臓癌診断用マーカーとしての効用性を検証するために、ELISA及びROC(Receiver Operating Characteristic)曲線分析を行い、これらの最適カット−オフ値に基づいてCFB及びCA19−9それぞれの敏感度及び特異度を分析した(実施例3〜6)。その結果、CA19−9は、膵臓癌を含めて肝癌、胆管癌及び胃癌においても発現が増加し、特異度が劣ることが分かった。すなわち、これは、CA19−9単独では、膵臓癌診断マーカーとして使用するに適していないことを意味する。しかし、CFBは、膵臓癌だけでは、特異的に発現が増加し、敏感度及び特異度に優れていて、膵臓癌診断用マーカーとして適していることを意味する。
【0022】
なお、CA19−9単独では、膵臓癌診断マーカーとして特異度が劣る問題があるが、CA19−9をCFBとともに使用した場合には、敏感度及び特異度に最も優れていることが分かった。これは、CA19−9単独の場合、膵臓癌診断のためのマーカーとして使用するに適していないが、CFBとともに使用した場合、さらに正確に膵臓癌を診断できることを意味する。
【0023】
したがって、一具体例において、前記キットは、糖鎖抗原19−9に特異的に結合する抗体をさらに含むことができる。
【0024】
また、本出願は、個体から分離した血液試料内の補体因子B及び糖鎖抗原19−9のタンパク質発現水準を測定することを含む膵臓癌診断方法及び膵臓癌診断のための情報の提供方法を提供する。
【0025】
一具体例において、個体は、膵臓癌疑い患者群であることができる。
一具体例において、膵臓癌疑い患者から分離した血液試料内の補体因子B及びCA19−9のタンパク質発現水準を正常対照群内の補体因子B及びCA19−9のタンパク質発現水準と比較する段階をさらに含むことができる。2つの試料を比較し、膵臓癌疑い患者の試料の補体因子B及びCA19−9のタンパク質の発現水準が、いずれも、正常対照群試料の補体因子B及びCA19−9のタンパク質の発現水準より高い場合、前記候補患者を膵臓癌患者に分類できる。例えば、膵臓癌疑い患者の試料の補体因子Bのタンパク質水準が正常対照群試料の補体因子Bのタンパク質水準より2倍以上高くて、膵臓癌疑い患者の試料のCA19−9の濃度が37U/mL以上である場合、前記膵臓癌疑い患者を膵臓癌患者に分類できる。
一具体例において、血液試料は、全血、血漿または血清試料であることができる。
【0026】
また、本出願は、膵臓癌診断用バイオマーカーとして補体因子B及び糖鎖抗原19−9のタンパク質発現水準を測定することを含む膵臓癌診断方法において、
個体から血液試料を収集する第1段階と;
バイオマーカーに特異的に結合し、検出可能に標識された抗体に前記血液試料を接触して、前記抗体及び前記バイオマーカーの複合体を形成する第2段階と;
複合体を含まない標識された抗体から前記第2段階で形成された複合体を分離する第3段階と;
前記第2段階で形成された複合体を含む抗体の検出可能な標識から信号を定量し、前記血液試料内のバイオマーカーの量を測定する第4段階と;
前記第4段階で測定されたバイオマーカーの量と対照群バイオマーカーの量を比較する第5段階と;
前記第5段階で、試料においてバイオマーカーの量が対照群バイオマーカーの量より多い場合、膵臓癌として診断する第6段階とを含む膵臓癌診断方法を提供する。
【0027】
ここで、バイオマーカーは、補体因子Bまたは糖鎖抗原19−9を意味する。
前記第4段階で、バイオマーカー−抗体複合体の検出可能な標識からの信号は、血液試料内のバイオマーカーの量と比例するので、これから前記バイオマーカーの量を把握できる。
一具体例において、対照群バイオマーカーの量は、膵臓癌がない個体の血液試料内のバイオマーカーの量を意味する。
【0028】
一具体例において、血液試料は、全血、血漿または血清試料であることができる。
一具体例において、前記第1段階と第2段階との間に、免疫沈降によって血液試料内のバイオマーカー以外のタンパク質とバイオマーカーを分離する段階をさらに含むことができる。
【0029】
一具体例において、バイオマーカー以外のタンパク質とバイオマーカーを分離する段階は、
i)個体から分離した血液試料をバイオマーカーに特異的に結合する抗体と接触して、前記抗体と前記バイオマーカーとの間に複合体を形成する段階と;
ii)前記i)段階で形成された複合体を沈降させる段階と;
iii)バイオマーカー以外の他のタンパク質及び複合体を形成しない抗体を含む試料の上澄み液から沈降された複合体を分離する段階とを含むことができる。
【0030】
また、本発明は、前記方法によって膵臓癌として診断される場合、個体に膵臓癌治療剤を処理することを含む膵臓癌治療方法を提供する。膵臓癌治療剤は、膵臓癌治療効果があると知られた公知の薬物を制限なく利用できる。