特許第6361943号(P6361943)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6361943補体因子Bタンパク質に特異的に結合する抗体及び糖鎖抗原19−9タンパク質に特異的に結合する抗体を含む膵臓癌診断用キット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6361943
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】補体因子Bタンパク質に特異的に結合する抗体及び糖鎖抗原19−9タンパク質に特異的に結合する抗体を含む膵臓癌診断用キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20180712BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   G01N33/53 DZNA
   G01N33/574 A
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-567615(P2016-567615)
(86)(22)【出願日】2014年9月3日
(65)【公表番号】特表2017-526896(P2017-526896A)
(43)【公表日】2017年9月14日
(86)【国際出願番号】KR2014008242
(87)【国際公開番号】WO2015174585
(87)【国際公開日】20151119
【審査請求日】2016年11月11日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0056585
(32)【優先日】2014年5月12日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518210801
【氏名又は名称】ジェイダブリュ ホールディングス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペク・ヨンキ
(72)【発明者】
【氏名】イ・ミンジュン
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0038844(US,A1)
【文献】 国際公開第2004/055519(WO,A2)
【文献】 特開2014−020930(JP,A)
【文献】 特開2007−051880(JP,A)
【文献】 WINGREN, C et al.,Cancer Res.,2012年 5月15日,72(10),2481-2490
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体から分離した血液試料内の補体因子B及び糖鎖抗原19−9のタンパク質発現水準を測定することを含む、膵臓癌診断のための情報の提供方法。
【請求項2】
個体から分離した血液試料内の補体因子B及び糖鎖抗原19−9のタンパク質発現水準を正常対照群内の補体因子B及び糖鎖抗原19−9のタンパク質発現水準とそれぞれ比較する段階をさらに含む、請求項1に記載の膵臓癌診断のための情報の提供方法。
【請求項3】
血液試料は、全血、血漿または血清試料である、請求項1に記載の膵臓癌診断のための情報の提供方法。
【請求項4】
補体因子B及び糖鎖抗原19−9のタンパク質発現水準は、2次元蛍光電気泳動、ウェスタンブロッティング、ELISA、放射免疫分析、放射免疫拡散法、免疫電気泳動または質量分析を利用して測定するものである、請求項1に記載の膵臓癌診断のための情報の提供方法。
【請求項5】
補体因子Bに特異的に結合する抗体及び糖鎖抗原19−9に特異的に結合する抗体を含む膵臓癌診断用キット。
【請求項6】
補体因子Bは、配列番号1のアミノ酸配列よりなる、請求項5に記載の膵臓癌診断用キット。
【請求項7】
抗体は、ポリクロナル抗体またはモノクロナル抗体である、請求項5に記載の膵臓癌診断用キット。
【請求項8】
膵臓癌診断のために膵臓癌診断用バイオマーカーとして補体因子B及び糖鎖抗原19−9のタンパク質発現水準を測定することを含む方法において、
個体から収集された血液試料を用意する第1段階と;
バイオマーカーに特異的に結合し、検出可能に標識された抗体に前記血液試料を接触して、前記抗体及び前記バイオマーカーの複合体を形成する第2段階と;
複合体を含まない標識された抗体から前記第2段階で形成された複合体を分離する第3段階と;
前記第2段階で形成された複合体を含む抗体の検出可能な標識から信号を定量し、前記血液試料内のバイオマーカーの量を測定する第4段階と;
前記第4段階で測定されたバイオマーカーの量と対照群バイオマーカーの量を比較する第5段階と;
前記第5段階で、試料においてバイオマーカーの量が対照群バイオマーカーの量より多い場合、膵臓癌として決定される第6段階と;を含む方法
【請求項9】
対照群バイオマーカーの量は、膵臓癌がない個体の血液試料内のバイオマーカーの量である、請求項8に記載の方法
【請求項10】
血液試料は、全血、血漿または血清試料である、請求項8に記載の方法
【請求項11】
第1段階と第2段階との間に、
免疫沈降によって血液試料内のバイオマーカー以外のタンパク質とバイオマーカーを分離する段階をさらに含む、請求項8に記載の方法
【請求項12】
バイオマーカー以外のタンパク質とバイオマーカーを分離する段階は、
i)個体から分離した血液試料をバイオマーカーに特異的に結合する抗体と接触して、前記抗体と前記バイオマーカーとの間に複合体を形成する段階と;
ii)前記i)段階で形成された複合体を沈降させる段階と;
iii)バイオマーカー以外の他のタンパク質及び複合体を形成しない抗体を含む試料の上澄み液から沈降された複合体を分離する段階とを含む、請求項11に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、補体因子Bタンパク質に特異的に結合する抗体及び糖鎖抗原19−9タンパク質に特異的に結合する抗体を含む膵臓癌診断キットと、これを利用して膵臓癌診断のための情報を提供する方法及びこれを利用した膵臓癌診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓癌は、世界的に9番目と多く発病する主要癌であって、死亡率が4番目と高い悪性腫瘍である(非特許文献1Lowenfels、A.B.、et al.、Best Pract Res Clin Gastroenterol、197−209、2006)。大部分の国家において膵臓癌が全体悪性腫瘍の発生で占める比重は、2〜3%に過ぎないが、死亡者の数が占める比重は、全体腫瘍関連死亡のうち略6%を占める。その理由は、膵臓癌の2年生存率が10%内外に過ぎないほどに低くて、5年生存率も5%を越えないほどに予後が不良であるからである(非特許文献2Lee、C.N.、et al.、Pancreas、94−94、2012)。
【0003】
膵臓癌は、かなり進行する前までは症状が現われない場合が大部分であるから、一旦膵臓癌が診断されれば、既に非常に進行した後であるため、手術が不可能な場合が多い。また、手術が可能な場合にも、手術した患者の80〜90%が再発し、死亡に至るようになる。膵臓癌を治療するために、手術療法以外にも、放射線療法、化学療法などが実施されているが、患者の生存期間には、制限された効果を示す場合が大部分である。したがって、膵臓癌を早期に診断することが非常に重要である。
【0004】
膵臓癌を診断する方法としては、コンピューター断層撮影(computed tomography;CT)や磁気共鳴映像装置(magnetic resonance imaging;MRI)を用いた組織検査があり、最近には、膵臓癌を診断できる臨床試料として血漿のような体液でのタンパク質分析を同時に測定し、膵臓癌の存在または発病可能性の有無を判断している。現在、膵臓癌と関連して最も頻繁に使用される腫瘍標識子は、糖鎖抗原19−9(carbohydrate antigen 19−9:CA19−9)であるが、CA19−9は、膵臓癌以外に、胆道を含む消化器系の癌患者の血漿においても全て上昇すると知られており、また、悪性腫瘍がない胆管炎と胆道の閉塞がある場合にも上昇すると知られていて、特異度が低いという問題点がある(出処:韓国国家健康情報ポータル)。また、早期癌では、CA19−9標識子の血中濃度が正常に現われる場合が多いので、早期診断には使用できない。
【0005】
なお、補体因子B(Complement factor b;CFB)は、CFBとも呼ばれるタンパク質であって、補体活性の代替経路(Alternative pathway)のうち重要な成分の1つである。代替経路は、抗原−抗体複合体の形成と関係なく、病原体細胞表面の糖構造によって活性化される。まず、血液中に少量存在するC3bが微生物の表面に結合することによって、活性化が誘導される。C3bは、血液中の補体因子Bと結合すれば、補体因子DによってC3bBbとBaとに分解され、C3bBbは、プロペリジンによって安定化され、代替経路のC3転換酵素(convertase)になり、さらに多いC3bを形成する増幅過程(amplification phase)に入る。その結果、さらに多いC3転換酵素が生成され、生成されたC3転換酵素とC3bが微生物細胞の表面に結合し、C3bBb3b複合体を形成する。形成されたC3bBb3b複合体は、代替経路のC5転換酵素作用を示し、C5をC5aとC5bとに分解し、最終的に細菌の表面にMACを形成する。その結果、細菌が死んで、抗原が除去される。補体因子Bは、この代替経路の初期段階であるc3bタンパク質と結合し、c5の生成に重要な役目をする分泌タンパク質(secreted protein)と知られており、糖タンパク質としてグリカン位置(glycan site)が5個存在している。
【0006】
補体因子Bは、卵巣癌(非特許文献3Wu.J.、et al.、JPR、4541−52、2012)、上咽頭癌(非特許文献4Seriramalu.R.、et al.、Electrophoresis、2388−95、2010)、乳房癌(非特許文献5Doustjalali、S.R.、et al.、Electrophoresis、2392−401、2004)などの多様な患者の血清で分泌されると知られている。しかし、現在まで補体因子Bとカーボーハイドレートを組み合わせて膵臓癌を診断しようとする試みはなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lowenfels、A.B.、et al.、Best Pract Res Clin Gastroenterol、197−209、2006
【非特許文献2】Lee、C.N.、et al.、Pancreas、94−94、2012
【非特許文献3】Wu.J.、et al.、JPR、4541−52、2012
【非特許文献4】Seriramalu.R.、et al.、Electrophoresis、2388−95、2010
【非特許文献5】Doustjalali、S.R.、et al.、Electrophoresis、2392−401、2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本出願は、特異度及び敏感度に優れた新しい膵臓癌診断用バイオマーカーである補体因子Bタンパク質に特異的に結合する抗体と糖鎖抗原19−9タンパク質に特異的に結合する抗体を含む膵臓癌診断キットと、これを利用して膵臓癌診断のための情報の提供方法及びこれを利用して膵臓癌を診断する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願は、個体から分離した血液試料内の補体因子Bのタンパク質発現水準を測定することを含む膵臓癌診断方法及び膵臓癌診断のための情報の提供方法を提供する。
【0010】
また、本出願は、補体因子B(complement factor B;CFB)の膵臓癌診断マーカーとしての用途を提供する。具体的に、本出願は、補体因子Bタンパク質に特異的に結合する抗体を含む膵臓癌診断用キットを提供する。
【0011】
一具体例において、補体因子Bタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列よりなるものであることができる。
【0012】
配列番号1:
MGSNLSPQLCLMPFILGLLSGGVTTTPWSLARPQGSCSLEGVEIKGGSFRLLQEGQALEYVCPSGFYPYPVQTRTCRSTGSWSTLKTQDQKTVRKAECRAIHCPRPHDFENGEYWPRSPYYNVSDEISFHCYDGYTLRGSANRTCQVNGRWSGQTAICDNGAGYCSNPGIPIGTRKVGSQYRLEDSVTYHCSRGLTLRGSQRRTCQEGGSWSGTEPSCQDSFMYDTPQEVAEAFLSSLTETIEGVDAEDGHGPGEQQKRKIVLDPSGSMNIYLVLDGSDSIGASNFTGAKKCLVNLIEKVASYGVKPRYGLVTYATYPKIWVKVSEADSSNADWVTKQLNEINYEDHKLKSGTNTKKALQAVYSMMSWPDDVPPEGWNRTRHViiLMTDGLHNMGGDPITVIDEIRDLLYIGKDRKNPREDYLDVYVFGVGPLVNQVNINALASKKDNEQHVFKVKDMENLEDVFYQMIDESQSLSLCGMVWEHRKGTDYHKQPWQAKISVIRPSKGHESCMGAVVSEYFVLTAAHCFTVDDKEHSIKVSVGGEKRDLEIEVVLFHPNYNINGKKEAGIPEFYDYDVALIKLKNKLKYGQTIRPICLPCTEGTTRALRLPPTTTCQQQKEELLPAQDIKALFVSEEEKKLTRKEVYIKNGDKKGSCERDAQYAPGYDKVKDISEVVTPRFLCTGGVSPYADPNTCRGDSGGPLIVHKRSRFIQVGVISWGVVDVCKNQKRQKQVPAHARDFHINLFQVLPWLKEKLQDEDLGFL
【0013】
一具体例において、個体は、膵臓癌が疑われる患者であることができる。
一具体例において、個体から分離した血液試料内の補体因子Bのタンパク質発現水準を正常対照群内の補体因子Bのタンパク質発現水準と比較する段階をさらに含むことができる。本明細書で、正常対照群は、膵臓癌その他疾病がない健常な個体から分離した血液試料を意味する。2つの膵臓癌の試料を比較し、膵臓癌疑い患者の試料の補体因子Bのタンパク質発現水準が正常対照群試料の補体因子Bのタンパク質発現水準より高い場合、前記候補患者を膵臓癌患者に分類できる。例えば、膵臓癌候補患者の試料の補体因子Bタンパク質水準が正常対照群試料の補体因子Bタンパク質水準より2倍以上高い場合、前記候補患者を膵臓癌患者に分類できる。
一具体例において、血液試料は、全血、血漿または血清試料であることができる。
【0014】
本出願で用語「診断」は、病理状態の存在または特徴を確認することを意味する。本出願の目的に照らして、診断は、膵臓癌の生成及び再発可否を確認するものである。
【0015】
本出願で用語「診断用マーカー」または「診断マーカー」は、癌細胞を正常細胞と区分して診断できる物質であって、正常細胞に比べて癌を有する細胞で増加または減少するポリペプチドまたは核酸(例:mRNAなど)、脂質、糖脂質、糖タンパク質または糖(単糖類、二糖類、オリゴ糖類など)などのような有機生体分子などを含む。本出願の目的に照らして、膵臓癌診断マーカーは、正常膵腸組織の細胞に比べて、膵臓癌細胞で特異的に高い水準の発現を示すCA19−9及び/または補体因子Bの遺伝子及びこれによってコーディングされるタンパク質である。
【0016】
本出願で用語「タンパク質発現水準測定」というのは、癌を診断するために生物学的試料において癌マーカー遺伝子で発現されたタンパク質の存在有無と発現程度を確認する過程であって、前記遺伝子のタンパク質に対して特異的に結合する抗体を利用してタンパク質の量を確認する。このための分析方法としては、ウェスタンブロッティング(western blotting)、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)、放射免疫分析(RIA:Radioimmunoassay)、放射免疫拡散法(radio immunodiffusion)、オクタロニー(Ouchterlony)免疫拡散法、ロケット(rocket)免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈澱分析法(Immunoprecipitation Assay)、補体固定分析法(Complement Fixation Assay)、FACS及びタンパク質チップ(protein chip)などがあるが、これに制限されるものではない。
【0017】
本出願において「特異的に結合する」というのは、結合によってターゲット物質の存在有無を検出できるほどに、他の物質に比べてターゲット物質に対する結合力に優れていることを意味する。
【0018】
本出願において「抗体」は、抗原またはエピトープに特異的に結合できる免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子ら、またはその断片から由来するか、これを倣って作った実質的にこれによって暗号化されたペプチドまたはポリペプチドを示す。本出願で抗体は、全体抗体及び抗体断片を含み、これに制限されない多様な形態の抗体構造を含む。抗体断片は、全体長さの抗体の一部分、抗体の可変ドメイン、または少なくとも抗体の抗原結合部位を含む。抗体断片の例は、ダイアボディ(diabody)、単一鎖抗体分子及び抗体断片から形成された多重特異的抗体を含む。
【0019】
一具体例において、抗体は、ポリクロナル抗体またはモノクロナル抗体であることができる。補体因子Bタンパク質に対する抗体は、当業界において通常的に実施される方法、例えば、融合方法(Kohler and Milstein、European Journal of Immunology、6:511−519(1976))、組み換えDNA方法(米国特許第4,816,56号)またはファージ抗体ライブラリ方法(Clackson et al、Nature、352:624−628(1991)及びMarks et al、J.Mol.Biol.、222:58、1−597(1991))によって製造され得る。抗体の製造に対する一般的な過程は、Harlow、E.and Lane、D.、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、New York、1999;Zola、H.、Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques、CRC Press、Inc.、Boca Raton、Florida、1984;及びColigan、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY、Wiley/Greene、NY、1991に詳細に記載されている。例えば、モノクロナル抗体を生産するハイブリードマ細胞の製造は、不死滅化細胞株を抗体−生産リンパ球と融合させてなり、この過程に必要な技術は、当業者によく知られており、容易に実施できる。ポリクロナル抗体は、補体因子Bタンパク質抗原を適合な動物に注射し、この動物から抗血清を収集した後、公知の親和性(affinity)技術を利用して抗血清から抗体を分離して得ることができる。
【0020】
本出願で用語「敏感度(sensitivity)」とは、当該疾患にかかったとき、その診断検査結果が陽性と現われる確率を示し、「特異度(specificity)」とは、ある疾患にかかっていない場合、検査結果が陰性となる可能性の程度を示す。
【0021】
膵臓癌診断用マーカーの候補物質として補体因子Bタンパク質を選定し、正常人及び膵臓癌患者の血漿において補体因子Bタンパク質の存在を確認し、変化を観察した。その結果、補体因子Bのタンパク質発現水準が膵臓癌患者の血漿において正常対照群に比べて非常に高いことを確認できた(実施例1及び実施例2)。また、従来膵臓癌診断用マーカーとして知られたCA19−9と比較したとき、CFBの膵臓癌診断用マーカーとしての効用性を検証するために、ELISA及びROC(Receiver Operating Characteristic)曲線分析を行い、これらの最適カット−オフ値に基づいてCFB及びCA19−9それぞれの敏感度及び特異度を分析した(実施例3〜6)。その結果、CA19−9は、膵臓癌を含めて肝癌、胆管癌及び胃癌においても発現が増加し、特異度が劣ることが分かった。すなわち、これは、CA19−9単独では、膵臓癌診断マーカーとして使用するに適していないことを意味する。しかし、CFBは、膵臓癌だけでは、特異的に発現が増加し、敏感度及び特異度に優れていて、膵臓癌診断用マーカーとして適していることを意味する。
【0022】
なお、CA19−9単独では、膵臓癌診断マーカーとして特異度が劣る問題があるが、CA19−9をCFBとともに使用した場合には、敏感度及び特異度に最も優れていることが分かった。これは、CA19−9単独の場合、膵臓癌診断のためのマーカーとして使用するに適していないが、CFBとともに使用した場合、さらに正確に膵臓癌を診断できることを意味する。
【0023】
したがって、一具体例において、前記キットは、糖鎖抗原19−9に特異的に結合する抗体をさらに含むことができる。
【0024】
また、本出願は、個体から分離した血液試料内の補体因子B及び糖鎖抗原19−9のタンパク質発現水準を測定することを含む膵臓癌診断方法及び膵臓癌診断のための情報の提供方法を提供する。
【0025】
一具体例において、個体は、膵臓癌疑い患者群であることができる。
一具体例において、膵臓癌疑い患者から分離した血液試料内の補体因子B及びCA19−9のタンパク質発現水準を正常対照群内の補体因子B及びCA19−9のタンパク質発現水準と比較する段階をさらに含むことができる。2つの試料を比較し、膵臓癌疑い患者の試料の補体因子B及びCA19−9のタンパク質の発現水準が、いずれも、正常対照群試料の補体因子B及びCA19−9のタンパク質の発現水準より高い場合、前記候補患者を膵臓癌患者に分類できる。例えば、膵臓癌疑い患者の試料の補体因子Bのタンパク質水準が正常対照群試料の補体因子Bのタンパク質水準より2倍以上高くて、膵臓癌疑い患者の試料のCA19−9の濃度が37U/mL以上である場合、前記膵臓癌疑い患者を膵臓癌患者に分類できる。
一具体例において、血液試料は、全血、血漿または血清試料であることができる。
【0026】
また、本出願は、膵臓癌診断用バイオマーカーとして補体因子B及び糖鎖抗原19−9のタンパク質発現水準を測定することを含む膵臓癌診断方法において、
個体から血液試料を収集する第1段階と;
バイオマーカーに特異的に結合し、検出可能に標識された抗体に前記血液試料を接触して、前記抗体及び前記バイオマーカーの複合体を形成する第2段階と;
複合体を含まない標識された抗体から前記第2段階で形成された複合体を分離する第3段階と;
前記第2段階で形成された複合体を含む抗体の検出可能な標識から信号を定量し、前記血液試料内のバイオマーカーの量を測定する第4段階と;
前記第4段階で測定されたバイオマーカーの量と対照群バイオマーカーの量を比較する第5段階と;
前記第5段階で、試料においてバイオマーカーの量が対照群バイオマーカーの量より多い場合、膵臓癌として診断する第6段階とを含む膵臓癌診断方法を提供する。
【0027】
ここで、バイオマーカーは、補体因子Bまたは糖鎖抗原19−9を意味する。
前記第4段階で、バイオマーカー−抗体複合体の検出可能な標識からの信号は、血液試料内のバイオマーカーの量と比例するので、これから前記バイオマーカーの量を把握できる。
一具体例において、対照群バイオマーカーの量は、膵臓癌がない個体の血液試料内のバイオマーカーの量を意味する。
【0028】
一具体例において、血液試料は、全血、血漿または血清試料であることができる。
一具体例において、前記第1段階と第2段階との間に、免疫沈降によって血液試料内のバイオマーカー以外のタンパク質とバイオマーカーを分離する段階をさらに含むことができる。
【0029】
一具体例において、バイオマーカー以外のタンパク質とバイオマーカーを分離する段階は、
i)個体から分離した血液試料をバイオマーカーに特異的に結合する抗体と接触して、前記抗体と前記バイオマーカーとの間に複合体を形成する段階と;
ii)前記i)段階で形成された複合体を沈降させる段階と;
iii)バイオマーカー以外の他のタンパク質及び複合体を形成しない抗体を含む試料の上澄み液から沈降された複合体を分離する段階とを含むことができる。
【0030】
また、本発明は、前記方法によって膵臓癌として診断される場合、個体に膵臓癌治療剤を処理することを含む膵臓癌治療方法を提供する。膵臓癌治療剤は、膵臓癌治療効果があると知られた公知の薬物を制限なく利用できる。
【発明の効果】
【0031】
本出願によれば、敏感度及び特異度が向上した膵臓癌診断用マーカーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1a図1aは、正常人の血漿に対する2次元電気泳動イメージを示し、図1bは、膵臓癌患者の血漿に対する2次元電気泳動イメージを示す。矢印が示すスポットは、補体因子Bタンパク質を意味する。
図1b図1aは、正常人の血漿に対する2次元電気泳動イメージを示し、図1bは、膵臓癌患者の血漿に対する2次元電気泳動イメージを示す。矢印が示すスポットは、補体因子Bタンパク質を意味する。
図2】正常人の血漿と膵臓癌患者の血漿において補体因子Bの発現差を示す図であり、図1a及び図1bのスポット(黒色)部分の2次元垂直電気泳動イメージを示す。
図3a】正常人と膵臓癌患者の血漿の補体因子Bのタンパク質発現水準をウェスタンブロッティングで分析した結果を示す(N:正常人、C:膵臓癌患者)。
図3b図3aのウェスタンブロッティングバンドの強度を示すグラフである。
図4a】正常細胞株(HPDE)と膵臓癌細胞株(HPAC1、BXPC3、PANC1)において補体因子Bのタンパク質発現水準をウェスタンブロッティングで分析した結果を示す。
図4b】正常細胞株(HPDE)と膵臓癌細胞株(HPAC1、BXPC3、PANC1)において補体因子Bのタンパク質発現水準をRT−PCRで分析した結果を示す。
図4c図1bのバンド強度を示すグラフである。
図5a】ウェスタンブロッティングによる補体因子B(CFB)のタンパク質発現水準を分析した結果である。HDは正常、CPは膵臓炎、PCは、膵臓癌を示す。
図5b図5aのウェスタンブロッティングバンドの強度を示すグラフである。HDは正常、CPは膵臓炎、PCは膵臓癌を示す。
図6a】多様な癌において、CFB及びCA19−9の発現水準をELISAによって分析した結果を示す(a:CFB、b:CA19−9)。HDは正常、CPは膵臓炎、PCは膵臓癌、HCCは肝臓癌、CCは胆管癌及びGCは胃癌を示す。
図6b】多様な癌において、CFB及びCA19−9の発現水準をELISAによって分析した結果を示す(a:CFB、b:CA19−9)。HDは正常、CPは膵臓炎、PCは膵臓癌、HCCは肝臓癌、CCは胆管癌及びGCは胃癌を示す。
図7】CA19−9、CFB及びCFB+CA19−9のROC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本出願を実施例を通じて詳しく説明する。下記実施例は、本出願を例示するものに過ぎず、本出願の範囲が下記実施例に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]補体因子B(CFB)のタンパク質発現水準分析
[実施例1−1]電気泳動及び質量分析による血漿でのCFBタンパク質検出
正常人及び膵臓癌患者の血漿においてCFBの存在及び量を検出するために、電気泳動及び質量分析を行った。
【0035】
血漿の収得は、セブランス病院遺伝子銀行と消火器内科から供給を受け、臨床試験委員会(IRB)の規定に従った。血漿試料は、200μLずつ分注し、−70℃で実験前まで保管して使用した。補体因子Bは、分泌タンパク質(secreted protein)であり、血漿には、知られている多量のタンパク質(high abundance proteins)が存在しているため、Hu−14(Agilent)を利用して補体因子B以外のタンパク質を除去した後、2次元蛍光電気泳動を行った。2次元電気泳動のために、10人の正常人の血漿及び10人の膵臓癌患者の血漿の試料に対して各分析試料とそれに該当する標準試料50μgは、蛍光染料である400pmol Cy3、Cy5、Cy2(GE Healthcare)で暗黒条件で30分間標識させ、1μLの10mMリジン(lysine)で反応を停止させた。蛍光染料でそれぞれ標識された3個の試料は、互いに混合させて最終450μLとなるように試料緩衝溶液[6Mウレア、2Mチオウレア、4%チャップス(CHAPS)、60mMジチオトレイトール(dithiothreitol;DTT)、30mMトリス、pH8.5]を添加し、2%のIPG4−7NL緩衝溶液とともに常温で16時間再水和(rehydration)させた。等電点電気泳動(isoelectric focusing;IEF)は、イモビラインドライストリップ(Immobiline DryStrip)pH4−7NL(GE Healthcare)を使用してMuLtiPhor 電気泳動(electrophoresis)システム(GE Healthcare)で最適要件である95,000Vまで高めて実施し、トリブチルホスフィン(Tributylphosphine)緩衝溶液[6Mウレア、2%硫酸塩(Sodium dodecyl sulfate、SDS)、30mMトリス、20%グリセロール(glycerol)、2.5%アクリルアミド溶液(acrylamide solution)、5mMトリブチルホスフィン]で25分間ワン−ステップ還元及びアルキル化した。
【0036】
正常人の血漿に対する2次元電気泳動結果を図1aに示し、膵臓癌患者の血漿に対する2次元電気泳動結果を図1bに示した。図面内の矢印は、CFBを示す。その結果、膵臓癌患者において、CFBの発現が増加することが分かった。
【0037】
また、正常人と膵臓癌患者の血漿において、CFBの発現差を調べるために、2次垂直電気泳動を行った。2次垂直電気泳動は、Ettan Dalttwelve電気泳動システム(GE Healthcare)を用いて9%〜16%ポリアクリルアミドゲルを使用して分離し、電気泳動が終わった後、Typhoon 9400(GE Healthcare)スキャナを利用してCy2、Cy3、Cy5に該当する波長でスキャンした。各ゲルイメージは、DeCyder 2−D分析ソフトウェア(GE Healthcare)を利用して分析した。
【0038】
その結果、2次元電気泳動結果と同様に、膵臓癌患者において、CFBの発現が増加することが分かった(図2)。
【0039】
イメージ分析後、CFBの存在を確認するために、図1a及び図1bの矢印が示すスポットに対して質量分析を行った。タンパク質スポットは、クマシーブルー(Coomassie blue)染料で染色されたゲルからピッキング(picking)し、脱色してトリプシンで切断(digestion)した後、切断したペプチドは、ポロス(Poros)R2及びオリゴ(Oligo)R3レジン(resin)混合物を使用して脱塩(desalting)させた。タンパク質の同定は、Q−TOF(Agilent)で分析し、Q−TOF−MSで得たスペクトルは、MASCOTデータベースを利用して同定した。
【0040】
その結果、下記表1に示されたように、図1a及び図1bの矢印が示すスポットがCFBであることを確認できた。
【0041】
【表1】
【0042】
[実施例1−2]血漿内でのCFBタンパク質発現水準分析
膵臓癌患者の血漿でのCFBタンパク質発現水準を分析するために、免疫ブロットを行った。10人に対する正常人の血漿と10人の膵臓癌患者の血漿において同一のタンパク質量から抗体を利用してウェスタンブロッティングを行った。血漿タンパク質10μgを10%SDS−PAGE分析後、ウェスタンブロッティングのためにゲル全体をニトロセルロース(nitrocellulose;NC)膜に転換(transfer)した後、5%脱脂乳(skimmed milk)が含まれたTBS−T緩衝溶液[20mMトリス、137mM塩化ナトリウム、0.1%ツイン20(Tween−20)、pH7.6]で1時間ブロッキングした。抗−補体因子B抗体(CFB、Abcam)を5%脱脂乳が含まれたTBS−T緩衝溶液に1:1000倍ずつ希釈して1次処理し、抗−マウス(mouse)IgG−HRP(Santa Cruz)を1:10000倍を2次処理した。最終NC膜は、ECL Plusウェスタンブロッティング試薬(GE Healthcare)で1分間反応させ、Typhoon 9400スキャナでスキャンして分析した。
【0043】
その結果、図3aに示されたように、膵臓癌患者群においてCFBの発現が増加することが分かった。
【0044】
図3aの結果を、バンド強度(Band intensity)を通じてfold ratioを分析した結果、正常群に比べて膵臓癌患者の血漿においてCFBが高く発現することを確認した(図3b)。
【0045】
[実施例1−3]膵臓癌細胞内でのCFB発現水準分析
膵臓癌細胞株でのCFB発現水準を確認するために、ウェスタンブロッティングとRT−PCRを行った。正常細胞株としては、HPDE(human pancreatic ductepithelial cell)を使用し、膵臓癌細胞株としては、HPAC1、BXPC3(human pancreas adenocarcinoma epithelial cell)、PANC1(human pancreas epithelioidcarcinoma)を使用した。それぞれの細胞溶解物(cell lysate)1mgを使用して抗−補体因子B抗体2ug、タンパク質Gアガローズ10uLを一緒に1mLのチューブで2時間免疫沈降させた後、ウェスタンブロッティングを通じて正常細胞と膵臓癌細胞内でのCFB発現水準を確認した。その結果、CFBが正常細胞では検出されず、膵臓癌細胞だけで検出されることを確認した(図4a)。
【0046】
次は、RT−PCRを利用してCFBのmRNA発現水準を確認した。全体RNAは、easy−BLUE(iNtRON、Gyeonggi、Korea)を使用して抽出し、cDNAは、オムニスクリプトRTキット(omniscript RT kit;Qiagen、Hilden、Germany)を使用して合成した。使用されたプライマーは、次の通りである:
CFBプライマー(配列番号2):5’−CAACAGAAGCGGAAGATCGTC−3’(フォワード)
CFBプライマー(配列番号3):5’−TATCTCCAGGTCCCGCTTCTC−3’(リバース)
GAPDHプライマー(配列番号4):5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC−3’(フォワード)
GAPDHプライマー(配列番号5):5’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA−3’(リバース)
【0047】
PCR条件は、35サイクル、変性(denaturation)を94℃で1分、アニーリングを59℃で1分、プライマー伸長(primer extension)を72℃で1分にした。その結果、ウェスタンブロッティングデータと同様に、正常細胞ではCFBがほとんど検出されず、膵臓癌細胞だけでCFBが検出されることを確認した(図4b)。図1bの結果から、バンド強度(Band intensity)を通じてfold ratioを分析した結果、正常細胞株に比べて膵臓癌細胞株においてCFBが高く発現することを確認した(図4c)。
【0048】
[実施例2]多数のサンプルを利用した補体因子B(CFB)のタンパク質発現水準分析
CFBがバイオマーカー候補としての確かな可能性を調べるために、独立的な且つ大規模患者集団(large patient cohorts)を使用して追加確認実験を行った。
【0049】
正常人44人、膵臓炎患者12人、膵臓癌患者40人の血漿を使用し、標準として正常人の血漿はプーリング(pooling)したサンプルを使用して実施例1−3と同一の方法でウェスタンブロッティングを行った。その結果、HDとCPに比べてPCにおいてCFBが高く発現することを確認でき(図5a)、このウェスタンブロッティングバンドの強度(intensity)を点で示した結果、p<0.05であって、HDとCPに比べてPCにおいてCFBが高く発現することが分かった(図5b)。したがって、大規模の患者集団を使用し、独立的な実験を行った場合にも、CFBが有意的な値でHDとCPに比べてPCにおいて約2倍高く発現していることを確認できた。
【0050】
[実施例3]ELISAによる多様な癌患者でCFB及びCA19−9のタンパク質発現水準分析
現在膵臓癌バイオマーカーとして知られているCA19−9とCFBの発現水準を比較するためにHD、CP、PC、HCC、CC、GCの血漿を使用してELISAテストを行った。CFBとCA19−9 ELISA KITは、それぞれUSCNとPanomics製品を使用し、各製品ごとにそれぞれのプロトコルによって実験を行った。
【0051】
まず、CFB ELISAの場合、それぞれの血漿を1:10,000で希釈した後、CFBに対する抗体が敷かれているウェルにそれぞれ100uLずつ入れた。2時間常温でインキュベーションした。その後、ウェルから血漿を除去し、100uLの検出試薬Aワーキング溶液(working solution)を入れた後、常温で1時間インキュベーションした。1時間後、溶液をウェルから除去した後、350uLの洗浄溶液を入れ、3回繰り返して洗浄した。その後、それぞれのウェルに100uLの検出試薬Bワーキング溶液を入れ、常温で30分間反応させた。洗浄溶液で5回洗浄した。その後、90uLの基質溶液(substrate solution)をそれぞれのウェルに入れた後、15分間ダーク条件で反応させ、その後、50uLの停止溶液(stop solution)を入れた後、マイクロプレートリーダーを用いて450mmで定量した。これらグループにおいてCFBの発現水準は、34.0(範囲:26.1−41.3)、73.5(範囲:62.3−77.1)、92.0(範囲:75.2−121.6)、37.0(範囲:28.8−47.5)、41.5(範囲:29.1−52.1)、63.0(範囲:56.3−72.9)ng/mLであった(図6a)。
【0052】
CA19−9 ELISAの場合、CA19−9抗体が敷かれているプレートにそれぞれの血漿を10uLずつ入れ、100uLのCA19−9アッセイバッファーをその上に入れた。その後、30秒間よく交ぜた後、常温で90分間インキュベーションした。その後、ウェルからバッファーを除去し、ウォッシュバッファー(wash buffer)を用いて4回繰り返して洗浄した。その後、ワーキングコンジュゲート試薬(working conjugate reagent)100uLをそれぞれのウェルに入れ、30秒間よく交ぜた後、常温で90分間インキュベーションした。試薬をウェルから除去し、ウォッシュバッファーを用いて4回繰り返して洗浄した。その後、TMBをそれぞれのウェルに入れ、10秒間交ぜた後、ダーク条件で20分間反応させた。その後、100uLの停止溶液(stop solution)を入れた後、30秒間交ぜ、マイクロプレートリーダーを用いて450mmで定量した。これらのグループにおいてCA19−9の水準は、それぞれ4.6(範囲:2.8−7.2)、10.2(範囲:6.0−21.4)、298.8(範囲:111.4−832.6)、50.5(範囲:18.1−159.5)、137.5(範囲:53.8−537.9)、10.0(範囲:9.4−16.7)U/mLであった(図6b)。CFBの血漿内の発現水準は、CA19−9と同様に、非−PC群(HD、CP、HCC、CC、GC)よりPC群において特に高く発現した(p<0.002)。また、CFBの場合、CA19−9と比べて、PCと非−PC患者をさらに良好に区別することが分かった(p<0.0001)。
【0053】
これは、CA19−9単独では、膵臓癌診断マーカーとして使用するに適していないが、膵臓癌だけで特異的に発現が増加するCFBは、膵臓癌診断用マーカーとして適していることを意味する。
【0054】
[実施例4]膵臓癌診断において、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線によるCFB及びCA19−9の敏感度及び特異度分析
CFBとCA19−9が、膵臓癌患者と膵臓癌患者でない人(HD、CP、HCC、CC、GC)をどれほど良好に区別するかどうかを確認するために、Mann−Whitney rank sum testプログラムを利用してROC曲線分析を行った。AUC値を通じてCFBとCA19−9を比較した。その結果、CFBの場合、0.958(95%CI:0.956−0.959)であって、CA19−9の0.833(95%CI:0.829−0.837)よりAUC値がさらに高かった。2つの(CFB+CA19−9)を組み合わせた場合のAUCは、0.986(0.985−0.986)であって、CFBとCA19−9(p<0.01)を単独で使用した場合より非常に高いAUC値を示した(図7)。
【0055】
これは、CFB単独またはCFB及びCA19−9の組合によって膵臓癌を診断できることを意味する。
【0056】
[実施例5]CFB及びCA19−9の最適カット−オフ値(cut−off value)に基づく膵臓癌診断
それぞれのグループ別に(HD;正常、CP;膵臓炎、PC;膵臓癌、HCC;肝臓癌、CC;胆管癌、GC;胃癌)CA19−9とCFBの診断効率を確認した。その結果、下記表2に示されたように、CA19−9とCFBがいずれもPCにおいて類似な診断効率を示した(CA19−9:80.5%、CFB:73.2%)。しかし、CA19−9の場合、他の癌(HCC、CC、GC)でも高い診断効率(HCC:61.3%、CC:77.2%、GC:17.1%)を示したが、CFBは、他の癌では低い診断効率を示した(HCC:0%、CC:0%、GC:8.6%)。これは、他の癌と比較したとき、CFBがCA19−9よりPCにさらに特異的であることを意味する。
【0057】
【表2】
【0058】
[実施例6]CFB及びCA19−9の敏感度と特異度確認
CFB、CA19−9及びCFB+CA19−9の膵臓癌診断指標としての正確度を評価するために、最大ヨーデン指標(maximum Youden index)によって予測された最適のカット−オフ値によるCA19−9、CFB及びCFB+CA19−9の他の疾病と比較した膵臓癌診断の敏感度及び特異度(%)を確認した。その結果、下記表3に示されたように、PCと他の群(HD、CP、HCC、CC、GC)を比較した場合、CA19−9の敏感度は80.4%、特異度は70.0%であり、CFBは、敏感度73.1%、特異度97.9%であることが分かった。また、CFBとCA19−9を組み合わせた場合には、敏感度90.1%、特異度97.2%であった。これは、CA19−9とCFBを単独で使用した場合に比べて、CA19−9とCFBを組み合わせた場合にさらに好適な診断効率が発揮されることを意味する。
【0059】
【表3】
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図6a
図6b
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]