【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、先端的低炭素化技術開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、資源枯渇や地球温暖化を防止する技術が求められている。特に電力分野においては、温暖化ガスの一つである二酸化炭素の排出を抑制し、化石資源に頼らない再生可能エネルギーの開発が進んでいる。再生可能エネルギーは、太陽光、太陽熱、水力、風力、地熱、バイオマスなど、自然から定常的または反復的に補充される再生可能エネルギー源から得られるエネルギーであり、例えば、バイオマスから水素を製造し、燃料電池を使って水素と空気から発電することにより得られる電力が挙げられる。
【0003】
最近、水素を製造するための有力な技術として、水蒸気電解の研究が広く進められている。水蒸気電解は、H
2Oを電気分解して水素と酸素を得る際に、液体である水ではなく気体の水蒸気を用いるものであり、高温で作動させることができるため電解に必要な電圧が小さく、エネルギー効率が高いという特徴を有する。
【0004】
従来、水蒸気電解では、電解質として酸素イオン伝導性のものが専ら用いられていた。例えば特許文献1には、固体電解質として、酸素イオン伝導性であるイットリア安定化ジルコニアを用いた水蒸気電解技術が開示されている。
【0005】
しかし、酸素イオン伝導性固体電解質を用いて水蒸気電解を行う場合、アノードおよびカソードで起こる電極反応はそれぞれ以下のとおりである。
アノード: 2O
2- → O
2 + 4e
-
カソード: 2H
2O + 4e
- → 2H
2 + 2O
2-
上記式のとおり、この場合には、水素はカソード側で発生し、共存する水蒸気と分離する工程が別途必要になるという問題がある。
【0006】
かかる問題を解決できる技術としては、例えば特許文献2のように、プロトン伝導性の電解質を用いて水蒸気電解する技術が開発されている。当該技術においてアノードおよびカソードで起こる電極反応はそれぞれ以下のとおりである。
アノード: 2H
2O → O
2 + 4H
+ + 4e
-
カソード: 4H
+ + 4e
- → 2H
2
上記式のとおり、この場合には、酸素イオン伝導性電解質を用いた場合と同様に水素はカソード側で発生するものの、水蒸気はアノード側に導入されるため、水素を水蒸気から分離する必要がないという利点がある。
【0007】
また、水素と酸素などから発電する燃料電池は、発電時の副生成物が水のみでCO
xを排出しないことから、クリーンなエネルギー源として注目されている。よって、例えば、上記で得られた水素源をもとに燃料電池を使って発電することにより、CO
xの排出を伴うことなく電気エネルギーを得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、クリーンエネルギー技術として、水蒸気電解や燃料電池が知られている。これら両技術は、電解質層の両面にアノード層とカソード層を有する電気化学セルを用い、また、運転時の温度は数百度に達する点で共通する。よって、オン−オフによる温度変化などにより、電解質膜と電極層との間で剥離が生じる場合がある。特に燃料電池では、所望の電圧を得るために上記の単セルが直列に積層されており、一つでも単セルに剥離などの不良が生じると、全体の電圧が極端に低下してしまう。
【0010】
電解質膜と電極層とを接合させるためには、一般的に、電解質膜上に電極層ペーストを塗布した後、1000℃超といった高温での焼成が行われる。一方、1000℃以下での焼成では、使用し得る電極材料は増えるものの、電解質層−電極層間の密着性が低下するという問題が生じる。水蒸気電解や燃料電池で使われる電解質には、上記のとおり酸素イオン伝導性のものとプロトン伝導性のものがあるが、特にプロトン伝導性電解質を用いる場合には電解質層−電極層間の密着性がより低い傾向にある。
【0011】
そこで本発明は、比較的低い温度で焼成したものであっても電解質層−電極層間の密着性に優れる電気化学セルと、かかる電気化学セルを効率的に良好に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、電極層の構成成分としてペロブスカイト型金属酸化物を用い、さらに貴金属粒子または貴金属合金粒子を配合することにより、比較的低い温度で焼成しても電解質層−電極層間で高い密着性が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0013】
本発明に係る電気化学セルは、
アノード層とカソード層を有し、当該アノード層と当該カソード層との間にプロトン伝導性固体電解質層を有し、
当該アノード層または当該カソード層の少なくとも一方は、遷移金属元素を含むペロブスカイト型金属酸化物に加えて貴金属粒子または貴金属合金粒子を含むことを特徴とする。
【0014】
上記電気化学セルとしては、上記貴金属粒子がAg粒子であるもの、または、上記貴金属合金粒子がAg合金粒子であるものが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る電気化学セルの製造方法は、
遷移金属元素を含むペロブスカイト型金属酸化物と貴金属粒子または貴金属合金粒子とを少なくとも含むアノード層ペーストまたはカソード層ペーストを調製する工程、
当該アノード層ペーストまたはカソード層ペーストをプロトン伝導性固体電解質層に塗布する工程、および、
酸化性雰囲気下、1000℃未満で焼成する工程を含むことを特徴とする。
【0016】
上記の本発明に係る製造方法においては、上記貴金属粒子または貴金属合金粒子として、平均粒子径が300nm以下のものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る電気化学セルは、比較的低い温度で焼成しても、電解質膜−電極層間における密着性は高い。よって、運転時における電解質膜−電極層間の剥離が抑制されるため、高い電解性能や発電性能が得られる。また、本発明方法によれば、かかる高品質の電気化学セルを良好に製造することができる。よって本発明は、いわゆるクリーンエネルギーの有効利用を促進できるものとして、産業上非常に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、先ず、本発明に係る電気化学セルの製造方法につき説明する。
【0019】
1. プロトン伝導性固体電解質層
電気化学セルには、主に電解質支持型セルと電極支持型セルがある。電解質支持型セルの場合、一般的に、電解質層、アノード層、カソード層の中では、電解質層の焼成温度が最も高いことから、先ず、電解質層を準備する。電極支持型セルの場合には、支持層となる電極層の上に電解質層を形成する。
【0020】
本発明で用いることができる固体電解質の材料としては、プロトン伝導性を示す金属酸化物を挙げることができ、かかるプロトン伝導性金属酸化物としては、例えば、ABO
3型の構造を有するペロブスカイト型酸化物やA
2B
2O
7型の構造を有するパイロクロア型酸化物、セリア−希土類酸化物固溶体あるいはセリア−アルカリ土類金属酸化物固溶体、ブラウンミラライト型構造を有する金属酸化物などを挙げることができる。好ましくは、ABO
3型の構造を有するペロブスカイト型金属酸化物であって、A成分がアルカリ土類金属、B成分が周期律表の第4族〜第14族に属する3価あるいは4価の遷移金属で構成されたペロブスカイト型金属酸化物、さらには、当該ペロブスカイト酸化物のA成分および/またはB成分の一部をLa、Pr、Nd、Sm、Gd、Yb、Sc、Y、In、Ga、Fe、Co、Ni、Zn、Ta、Nbから選択される少なくとも1以上の元素に置換したペロブスカイト型金属酸化物を用いることができる。具体的には、Sr−Zr−Y系、Sr−Zr−Ce−Y系、Ba−Zr−Y系、Ba−Zr−Ce−Y系、Ca−Zr−In系、La−Sc系、Sr−Ce−Yb系、Ba−Ce−Y系のペロブスカイト型金属酸化物などが挙げられる。
【0021】
プロトン伝導性固体電解質層の厚さは特に制限されず、セル形状などに応じて適宜設定すればよい。例えば、電解質支持型セルの場合では50μm以上、500μm以下とすることが好ましい。当該厚さが50μm未満であると、十分な強度が得られない可能性があり得る。一方、当該厚さが500μmを超えると、プロトン伝導性に支障が生じるおそれがあり得る。電極支持型セルの場合では、当該厚さは1μm以上、50μm以下とすることが好ましい。当該厚さが1μm未満であると、スクリーンプリントなどの工業的プロセスでプロトン伝導性固体電解質層を形成することが難しくなり得る。一方、当該厚さが50μmを超えると、プロトン伝導性に支障が生じるおそれがあり得る。
【0022】
プロトン伝導性固体電解質層の作製方法は、例えば、以下の方法が挙げられる。プロトン伝導性金属酸化物に、エタノールなどの有機溶媒、分散剤、可塑剤およびバインダーなどを加え、ボールミルなどで湿式粉砕混合し、スラリーとした後、ドクターブレード法などでグリーンシートとする。次いで焼成することにより、プロトン伝導性固体電解質層とすることができる。電極支持型セルの場合には、支持層となる電極層の上に上記スラリーを塗布し、次いで焼成することにより、支持電極層の上にプロトン伝導性固体電解質層とする。
【0023】
2. 水蒸気電解用アノード層または燃料電池用カソード層の形成
本発明の電気化学セルが電解質支持型セルである場合には、プロトン伝導性固体電解質層にアノード層ペーストとカソード層ペーストを塗布した後に焼成することにより作製する。アノード層とカソード層は、各ペーストをプロトン伝導性固体電解質層に塗布した後に同時に焼成して形成してもよい。しかし、アノード層とカソード層の焼成温度が同様であるとは限らないため、一般的には、焼成温度がより高い電極層を先に形成した後に、他方の電極層を形成することが好ましい。
【0024】
本発明の電気化学セルが電極支持型セルである場合には、支持層となる電極層の上に電解質層を形成し、さらに当該電解質層の上に他方の電極層を形成する。この場合、一般的には、水蒸気電解用アノード層および燃料電池用カソード層よりも水蒸気電解用カソード層および燃料電池用アノード層の方が焼成温度が高いため、水蒸気電解用カソード層または燃料電池用アノード層を支持電極層とし、その上に電解質層を形成し、さらに当該電解質層の上に水蒸気電解用アノード層および燃料電池用カソード層を形成する。
【0025】
本発明に係る電気化学セルを水蒸気電解に用いる場合には、アノード層は、2H
2O → O
2 + 4H
+ + 4e
-の反応を促進する触媒作用を示すと共に、電子伝導性を有する必要がある。このような材料としては、上記反応を促進する触媒成分である遷移金属元素を含むペロブスカイト型金属酸化物を用いることができ、具体的には、AサイトがSrとLa、Pr、Nd、Smなどで、BサイトがCo、Ni、Feを含むペロブスカイト型金属酸化物で、具体的には、Sm−Sr−Co系、La−Sr−Co系、Pr−Sr−Co系、Nd−Sr−Co系、Eu−Sr−Co系などのペロブスカイト型金属酸化物が挙げられる。これらを単独で用いることもできるし、或いは上記プロトン伝導性酸化物等を加えた電極も用いることができる。
【0026】
水蒸気電解用電気化学セルのアノード層は、燃料電池用電気化学セルのカソード層に対応する。燃料電池用電気化学セルのカソード層は、O
2 + 4H
+ + 4e
- → 2H
2Oの反応の場となる。当該カソードの構成成分としては、例えば、(La,Sr)(Fe,Co)O
3、(Pr,Sr)(Fe,Co)O
3、(La,Sr)MnO
3、(La,Ca)MnO
3、(La,Sr)(Co)O
3、(La,Sr)(Fe)O
3、(Sm,Sr)(Co)O
3、(Ba,Sr)(Co,Fe)O
3などのペロブスカイト型金属酸化物を挙げることができる。
【0027】
水蒸気電解用アノード層および燃料電池用カソード層の厚さは特に限定されず、セル形状などに応じて適宜決定すればよい。例えば、電解質支持型セルと電極支持型セルのいずれにおいても5μm以上、100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0028】
水蒸気電解用アノード層および燃料電池用カソード層は、常法により形成することができる。例えば、プロトン伝導性固体電解質層の場合と同様に上記構成成分のペーストを調製した後に、上記プロトン伝導性固体電解質層上に所望の膜厚が得られるよう塗布した後、焼成すればよい。当該電極層を支持層とする電極支持型セルの場合には、支持体としての役割も有する当該電極層を形成した後、その上にプロトン伝導性固体電解質層を形成し、さらに当該電解質層の上に他方の電極層を形成すればよい。また、この場合には、当該電極層の下(電解質層の反対側)に多孔質のサポート層を形成してもよい。
【0029】
3. 水蒸気電解用カソード層または燃料電池用アノード層の形成
本発明に係る電気化学セルを水蒸気電解に用いる場合には、カソード層は、4H
+ + 4e
- → 2H
2の反応を促進する触媒作用を示すと共に、電子伝導性を有する必要がある。このような材料としては、Pt、Pd、Ni、Co、Feなどを挙げることができる。これらを単独で用いることもできるし、或いは上記電極触媒にプロトン伝導性金属酸化物を加えた電極も用いることができる。
【0030】
水蒸気電解用電気化学セルのカソード層は、燃料電池用電気化学セルのアノード層に対応する。燃料電池用電気化学セルのアノード層は、H
2 → 2H
+ + 2e
-の反応の場となる。この場合、電子伝導性成分を単独で用いることができ、或いは電子伝導性成分とプロトン伝導性酸化物の混合系を用いることができる。
【0031】
電子伝導性成分は、ニッケル、コバルト、鉄、白金、パラジウム、ルテニウム等の金属;酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄のように還元性雰囲気で電子伝導性金属に変化する金属酸化物;或いはこれらの酸化物を2種以上含有するニッケルフェライトやコバルトフェライトのような複合金属酸化物が挙げられる。これらは単独で使用し得るほか、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用できる。これらの中でも、金属ニッケル、金属コバルト、金属鉄またはこれらの酸化物が好ましい。
【0032】
プロトン伝導性金属酸化物としては、A成分がアルカリ土類金属、B成分が周期律表の第4族〜第14族に属する3価あるいは4価の遷移金属で構成されたペロブスカイト型金属酸化物、当該ペロブスカイト型金属酸化物のA成分および/またはB成分の一部をLa、Pr、Nd、Sm、Gd、Yb、Sc、Y、In、Ga、Fe、Co、Ni、Zn、Ta、Nbから選択される少なくとも1以上の元素に置換したペロブスカイト型金属酸化物を用いることができる。
【0033】
水蒸気電解用カソード層および燃料電池用アノード層の厚さは特に限定されず、セル形状などに応じて適宜決定すればよいが、例えば、電解質支持型セルの場合では5μm以上、100μm以下とすることが好ましい。当該電極層を支持層とする電極支持型セルの場合では、当該厚さは100μm以上、2000μm以下とすることが好ましい。下限と上限の規定理由は、電解質支持型セルの場合と同様である。
【0034】
水蒸気電解用カソード層および燃料電池用アノード層は、常法により形成することができる。例えば、プロトン伝導性固体電解質層の場合と同様に上記構成成分のペーストを調製した後に、上記プロトン伝導性固体電解質層上に所望の膜厚が得られるよう塗布した後、焼成すればよい。当該電極層を支持層とする電極支持型セルの場合には、支持体としての役割も有する当該電極層を形成した後、その上にプロトン伝導性固体電解質層を形成し、さらに当該電解質層の上に他方の電極層を形成すればよい。また、この場合には、当該電極層の下(電解質層の反対側)に多孔質のサポート層を形成してもよい。
【0035】
本発明においては、アノード層またはカソード層の少なくとも一方の構成成分として各触媒作用を示す遷移金属元素を含むペロブスカイト型金属酸化物に加えて貴金属粒子または貴金属合金粒子を配合することにより、当該電極層とプロトン伝導性固体電解質層との間の密着性を高める。
【0036】
一般的に、ペロブスカイト型金属酸化物を主成分とする電極と固体電解質層との密着性は低く、電気化学セルの使用時などに剥離してしまう可能性がある。それに対して本発明では、密着性が問題となるアノード層またはカソード層の少なくとも一方の主要な構成成分として遷移金属元素を含むペロブスカイト型金属酸化物を用い、且つ、当該アノード層またはカソード層にはさらに貴金属粒子または貴金属合金粒子を添加することにより、上記密着性の改善を図っている。
【0037】
上記貴金属粒子としては、Ag粒子を挙げることができる。また、上記貴金属合金粒子としては、Ag−Zn合金、Ag−In合金、Ag−Au合金、Ag−Pd合金、Ag−Sn合金などのAg合金を挙げることができる。
【0038】
なお、本発明では、便宜上「貴金属粒子または貴金属合金粒子」と規定しているが、2以上の貴金属粒子または貴金属合金粒子を用いてもよく、また、貴金属粒子と貴金属合金粒子を併用してもよいものとする。
【0039】
原料として使用する貴金属粒子または貴金属合金粒子は、微細であるほど電極層全体に高分散できるため、電極触媒同士、電極層−電解質層の密着性が向上すると考えられる。原料として用いる貴金属粒子または貴金属合金粒子の平均一次粒子径としては、好ましくは300nm以下、より好ましくは50nm以下である。当該平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡や電界放出形走査型電子顕微鏡など装置を用いて測定することができる。
【0040】
貴金属粒子または貴金属合金粒子の使用量は特に制限されず適宜調整すればよいが、例えば、貴金属粒子または貴金属合金粒子を添加する電極全体に対する質量割合で、2.0質量%以上、25質量%以下とすることが好ましい。当該割合が2.0質量%以上であれば、貴金属粒子または貴金属合金粒子による層間密着性の向上効果をより確実に発揮せしめることができる。一方、当該割合が大き過ぎると電極の気孔率が過剰に低下するおそれがあり得るので、当該割合としては25質量%以下が好ましい。
【0041】
本発明では、遷移金属元素を含むペロブスカイト型金属酸化物と貴金属粒子または貴金属合金粒子とを少なくとも含む電極ペーストをプロトン伝導性固体電解質層に塗布した後、焼成する。
本発明において、上記電極層の焼成条件は、酸化性雰囲気下、1000℃未満とする。
【0042】
従来、電極層の焼成は、1000℃を超えるような高温下で行われてきた。しかし、かかる高温下では、電極材料の選択肢が限られてくる。本発明では、電極の材料としてペロブスカイト型金属酸化物を選択し、電極中に貴金属粒子または貴金属合金粒子を配合することにより、焼成温度を比較的低く設定したとしても、電解質層と電極層間で高い密着性を得ることができる。
【0043】
当該焼成温度としては、900℃以下が好ましく、850℃以下がより好ましく、800℃以下がさらに好ましく、750℃以下がさらに好ましく、700℃以下がよりさらに好ましく、650℃以下が特に好ましい。
【0044】
また、本発明では、上記焼成温度を低く設定することにより、電極の気孔率を維持するということも目的としている。電極の気孔は、原料ガスを電極中に分散させて電極反応の効率を高める上で重要である。本発明に係る電気化学セルのペロブスカイト型金属酸化物と貴金属粒子または貴金属合金粒子を含む電極の気孔率としては、20%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましく、40%以上がよりさらに好ましく、45%以上が特に好ましい。なお、電極の気孔率は、電極の見かけ密度と真密度を測定した上で、以下の式から算出することができる。
気孔率 = 1−(見かけ密度/真密度)
【0045】
また、本発明では、上記焼成を酸化性雰囲気下で行う。電極の焼成は還元性雰囲気で行われることも多いが、本発明では、電解質層−電極層間の密着性を高めるためにペロブスカイト型金属酸化物を用いている。還元性雰囲気で焼成を行うと、かかるペロブスカイト型金属酸化物が化学変化をおこすおそれがあるので、安定化のために酸化性雰囲気を用いる。酸化性雰囲気としては、空気を挙げることができる。
【0046】
以上の方法で製造された本発明に係る電気化学セルは、電極の少なくとも一方が触媒作用をも有するペロブスカイト型金属酸化物と貴金属粒子または貴金属合金粒子を含んでいることから、当該電極層と固体電解質層との層間密着性が高い。
【0047】
なお、電極における貴金属粒子または貴金属合金粒子の割合は、ペロブスカイト型金属酸化物など、使用した原料における貴金属粒子または貴金属合金粒子の割合と同等である。
【0048】
また、貴金属粒子または貴金属合金粒子は、焼成時に近傍の粒子と融着する可能性がある。よって、原料として用いた貴金属粒子または貴金属合金粒子の平均粒子径よりも、焼成後の電極中における貴金属粒子または貴金属合金粒子の平均粒子径の方が大きくなる傾向がある。電極中の貴金属粒子または貴金属合金粒子の平均粒子径は、本発明の電気化学セルを切断し、電極断面の拡大写真を撮影した後、画像解析ソフトなどで解析することにより求めることが可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0050】
実施例1
(1) 電極支持体の作製
市販の酸化ニッケル粉末(正同化学社製,製品名「Green」)と電解質粒子としてSrZr
0.5Ce
0.4Y
0.1O
3-δとを、当該酸化ニッケル粉末50vol%、電解質粒子50vol%となるように秤量し、乳鉢で攪拌混合して混合物を得た。この混合物をプレス機にて一軸成型および等方静水圧プレスし、円板状に成型した。この円板状成形体を1250℃で10時間焼成し、直径25φ、厚み0.5mmの電極支持体を作製した。
【0051】
(2) プロトン伝導性電解質層の作製
SrZr
0.5Ce
0.4Y
0.1O
3-δ、エチルセルロースおよびα−テルピネオールを添加し、乳鉢で混合した。その後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製,型式「M−80S」)を用いて混練し、電解質層ペーストを得た。
当該ペーストを上記電極支持体にスクリーン印刷法で塗布し、乾燥後、1400℃、空気雰囲気下で2時間焼成し、厚さ20μmのプロトン伝導性電解質層を作製した。
【0052】
(3) 貴金属粒子を含む電極層の作製
市販の純度99.9質量%のLa
2O
3約49質量部、SrCO
3約44質量部およびCo
3O
4約48質量部の粉末を混合した。得られた混合物にエタノールを加え、ボールミルで60時間湿式粉砕した後、120℃で10時間乾燥した。次いで、1100℃で10時間焼成することにより、焼成粉末を得た。さらに、得られた上記焼成粉末にエタノールを加え、ボールミルで60時間湿式粉砕した後、120℃で10時間乾燥することにより、水蒸気電解用アノード層材料とすることができる電極触媒粉末とした。得られた電極触媒粉末の組成はLa
0.5Sr
0.5CoO
Xであり、X線回折により、ペロブスカイトからなる単一相であることを確認した。
【0053】
上記電極触媒粉末と、平均一次粒子径が30nmであるAgペーストとを、電極触媒成分とAgとの体積比が9:1となるように混合し、さらにバインダーとしてエチルセルロール、溶媒としてα−テルピネオールを加え、乳鉢で混合した。その後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製,型式「M−80S」)を用いて混練し、電極用ペーストを得た。
【0054】
上記プロトン伝導性電解質の支持電極層の反対側に、上記電極用ペーストをスクリーンプリント法により塗布した後、950℃、空気雰囲気下で1時間焼成することにより、厚さ30μmの電極層を形成させた。
【0055】
(4) 層間密着性と気孔率の試験
上記で得られた積層体について、プロトン伝導性電解質層−電極層間の密着性をテープ剥離試験により評価した。詳しくは、セロハンテープ(ニチバン社製「CT24」)を用い、常温、常圧下で指の腹でテープを電極層に密着させた後に、テープを剥離し、層間密着性を評価した。結果を表1に示す。なお、表1中、層間密着性の「○」はテープ剥離試験において電極層がテープに付着していない場合を示す。
また、電極層の見かけ密度と真密度を測定し、以下の式から気孔率を算出した。
気孔率 = 1−(見かけ密度/真密度)
【0056】
【表1】
【0057】
上記結果のとおり、電極層をペロブスカイト型金属酸化物とAgにより構成すれば、1000℃未満で焼成しても、プロトン伝導性電解質層−電極間の密着性は十分に高いことが明らかとなった。
【0058】
実施例2〜7
上記実施例1において、ペロブスカイト型電極触媒粉末とAgとの比および焼成温度を表2のとおり変更した以外は同様にして、プロトン伝導性電解質層−電極層積層体を調製した。
【0059】
得られた積層体について、上記実施例1と同様にしてプロトン伝導性電解質層−電極層間の密着性と気孔率を評価した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
上記結果のとおり、電極層をペロブスカイト型金属酸化物とAgにより構成すれば、焼成温度を1000℃未満、650℃まで低下させても、プロトン伝導性電解質層−電極間の密着性は十分に高いことが明らかとなった。
【0062】
また、焼成温度が高く、電極層におけるAg割合が高いほど電極の気孔率が低下する傾向がみられた。一般的に、焼成温度が高いほど電解質層−電極間の密着性は高くなることから、焼成温度を比較的高くし且つAgを配合して電解質層−電極層間の密着性を高めると共に、電極の気孔率を保持するためには、電極におけるAgの割合をおおよそ25質量%以下にすることが好ましいことが分かった。