【文献】
Journal of Investigative Dermatology,2012年,Vol.132,p.1392-1400
【文献】
Biochemical and Biophysical Research Communications,2012年,Vol.417,p.217-222
【文献】
Journal of Investigative Dermatology,2012年,Vol.132,p.2593-2600
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IL-33をコードするDNAを皮膚において特異的に発現可能な状態で保持するトランスジェニックアトピー性皮膚炎モデル非ヒト哺乳動物であって、SPF(specific pathogen free)の飼育条件下で、以下の(1)〜(4)の特徴:
(1)表皮の肥厚を伴う皮膚炎を自然発症する、
(2)対応する非トランスジェニック非ヒト哺乳動物と比較して、好酸球数が増加している、
(3)対応する非トランスジェニック非ヒト哺乳動物と比較して、総IgE濃度、ヒスタミン濃度、サイトカイン濃度および/またはケモカイン濃度が増加している、および
(4)対応する非トランスジェニック非ヒト哺乳動物と比較して、掻破行動時間が増加している
を有する、非ヒト哺乳動物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
IL-33をコードするDNAを皮膚において特異的に発現可能な状態で保持するトランスジェニック非ヒト哺乳動物(以下、「本発明のTg動物」という場合もある)は、IL-33をコードするDNAを皮膚において特異的に発現可能な状態で安定に保持する。「安定に保持」するとは、該動物の細胞内にIL-33をコードするDNAが皮膚において特異的に発現可能な状態で永続的に存在することを意味し、該DNAが宿主染色体上に組み込まれていても、あるいは染色体外DNAとして安定に存在していてもよいが、好ましくは、該DNAは宿主染色体上に組み込まれた状態で保持される。
【0013】
本発明のTg動物は、非ヒト哺乳動物の受精卵や、未受精卵、精子およびその前駆細胞(始原生殖細胞、卵原細胞、卵母細胞、卵細胞、精原細胞、精母細胞、精細胞等)などに、好ましくは受精卵の胚発生の初期段階(さらに好ましくは8細胞期以前)において、リン酸カルシウム共沈殿法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、リポフェクション法、凝集法、顕微注入(マイクロインジェクション)法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、DEAE-デキストラン法などの遺伝子導入法によって、目的とするIL-33をコードするDNAを導入することにより作製される。また、該遺伝子導入法により、非ヒト哺乳動物の体細胞、組織、臓器などに目的とするDNAを導入し、細胞培養、組織培養などに利用することもでき、さらに、この細胞を上述の胚(もしくは生殖)細胞と公知の細胞融合法を用いて融合させることによりTg動物を作製することもできる。あるいは、ノックアウト動物を作製する場合と同様に、非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞(ES細胞)に上記の遺伝子導入法を用いて目的とするDNAを導入し、予め該DNAが安定に組み込まれたクローンを選択した後に、該ES細胞を胚盤胞に注入するかあるいはES細胞塊と8細胞期胚とを凝集させてキメラ非ヒト哺乳動物を作製し、生殖系列に導入DNAが伝達されたものを選択することによってもTg動物を得ることが可能である。
【0014】
また、このようにして作製されたTg動物の生体の一部(例えば、(1) IL-33をコードするDNAを安定に保持する細胞、組織、臓器など、(2)これらに由来する細胞または組織を培養し、必要に応じて継代したものなど)も、本発明の「IL-33をコードするDNAを皮膚において特異的に発現可能な状態で保持する非ヒト哺乳動物の生体の一部」として、本発明の「IL-33をコードするDNAを発現可能な状態で保持する非ヒト哺乳動物」と同様な目的に用いることができる。
本発明のTg動物の生体の一部としては、皮膚や、皮膚由来の組織片(例えば、表皮)および細胞(例えば、表皮角化細胞)などが好ましく例示される。
【0015】
本発明で対象とし得る「非ヒト哺乳動物」は、トランスジェニック系が確立されたヒト以外の哺乳動物であれば特に制限はなく、例えば、マウス、ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスターなどが挙げられる。好ましくは、マウス、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター等であり、なかでも疾患モデル動物作製の面から個体発生および生物サイクルが比較的短く、繁殖が容易なマウス(例えば、純系としてC57BL/6系統、DBA2系統など、交雑系としてB6C3F
1系統、BDF
1系統、B6D2F
1系統、BALB/c系統、ICR系統など)が好ましい。
また、哺乳動物以外にもニワトリなどの鳥類が本発明で対象とする「非ヒト哺乳動物」と同様の目的に用いることができる。
【0016】
「IL-33をコードするDNA」は、導入対象の非ヒト哺乳動物(例えば、マウス)由来のIL-33 DNAであってもよいし、異種哺乳動物(例えば、ヒト、ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラットなど)由来のIL-33もしくはそれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAであってもよい。好ましくは、本発明のIL-33をコードするDNAは、導入対象の非ヒト哺乳動物のIL-33もしくはそれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAであり、より好ましくはマウスIL-33もしくはそれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAである。マウスIL-33をコードするDNAとしては、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列をコードするDNA、好ましくは配列番号:1で表わされる塩基配列を含むDNAが挙げられる。「実質的に同一のアミノ酸配列」としては、例えばマウスIL-33の場合、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。アミノ酸配列の同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。
「実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質」としては、例えばマウスIL-33の場合、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列からなる蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質が好ましい。「実質的に同質の活性」としては、例えば、(1)皮膚炎誘導活性、(2)真皮層への炎症細胞の遊走誘導活性、(3)血清中の総IgE増大活性、(4)血漿中のヒスタミン増大活性、(5)サイトカイン、ケモカイン増大活性および(6)掻破行動惹起活性などが挙げられる。実質的に同質とは、それらの活性が定性的に同等であることを示す。したがって、該活性が同等であることが好ましいが、これらの活性の程度(例、約0.01〜100倍、好ましくは約0.5〜20倍、より好ましくは約0.5〜2倍)は異なっていてもよい。該活性の測定は、自体公知の方法に準じて行なうことができる。また、後述する実施例の通りに測定することもできる。
【0017】
IL-33をコードするDNAは、例えば配列番号:1で表わされる塩基配列を含むDNAのように、イントロンを含まない形態(即ち、相補DNA)であることが好ましいが、イントロンの5’および3’末端配列はほとんどの真核生物遺伝子で共通であるので、別の実施態様においてはイントロンを含む形態(即ち、ゲノムDNA)もまた、好ましく用いられ得る。
【0018】
IL-33をコードするDNAは、ヒトや各種非ヒト哺乳動物(ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)の組織などに由来するDNAおよび市販の各種ゲノムDNAライブラリーに由来するゲノムDNAの全てあるいは一部を原料として用い、あるいはヒトや各種非ヒト哺乳動物の組織などに由来するRNAから公知の方法により調製されたcDNAを原料として用い、公知のIL-33遺伝子配列をもとに作製したオリゴヌクレオチドをプローブもしくはプライマーとして、ハイブリダイゼーション法もしくはPCR法などにより単離することができる。
【0019】
本発明のTg動物は、IL-33をコードするDNAを「皮膚において特異的に発現可能な状態で」保持している。したがって、当該DNAを対象動物に導入するにあたっては、当該DNAを対象動物の皮膚内で特異的に機能し得るプロモーターの下流に連結した発現カセットを含む形態(例、発現ベクターなど)で用いるのが一般に有利である。
【0020】
IL-33をコードするDNAを担持するベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウイルスなどのレトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスまたはバキュロウイルスなどの動物もしくは昆虫ウイルスなどが用いられる。なかでも、プラスミド(好ましくは大腸菌由来、枯草菌由来または酵母由来、特に大腸菌由来のプラスミド)や、動物ウイルス(好ましくはレトロウイルス、レンチウイルス)が好ましい。
【0021】
IL-33遺伝子の皮膚において特異的な発現調節を行うプロモーターとしては、例えば、各種哺乳動物(ヒト、ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)および鳥類(ニワトリなど)に由来する皮膚において特異的に発現調節される遺伝子のプロモーターなどが挙げられ、好ましくはヒトまたはマウス由来のプロモーターが挙げられ、より好ましくはヒト由来のプロモーターである。皮膚において特異的に発現調節される遺伝子のヒト由来プロモーターとしては、例えばケラチンプロモーターが挙げられる。ヒトケラチンは、54種類のサブタイプに分類され、各サブタイプはTypeIケラチンとTypeIIケラチンに大別される。TypeIケラチンとしてはケラチン9、10、12〜20、23〜28、31〜40が挙げられ、TypeIIケラチンとしてはケラチン1〜8、71〜86が挙げられる。従って、ヒト由来ケラチンプロモーターとしては、これらケラチン1プロモーターからケラチン86プロモーターが挙げられるが、本発明においては、ケラチン14プロモーター(GenBank AC105208.15の46730-47216)が好ましく用いられる。その他、ケラチン5プロモーター、また、前記ヒトケラチンの他の非ヒト哺乳動物におけるオルソログに含まれるプロモーターを用いることもできる。
【0022】
IL-33をコードするDNAの下流には、Tg動物において目的とするメッセンジャーRNAの転写を終結させる配列(ポリアデニレーション(polyA)シグナル、ターミネーターとも呼ばれる)を有していることが好ましく、例えば、ウイルス遺伝子由来、あるいは各種哺乳動物または鳥類の遺伝子由来のターミネーター配列を用いて、効率よい導入遺伝子の発現を達成することができる。本発明においては、ヒトケラチン14polyAシグナルが好ましく用いられる。また、ヒト成長ホルモンpolyAシグナル、SV40ウイルスpolyAシグナルなどを用いることもできる。IL-33遺伝子をさらに高発現させる目的で、真核遺伝子のイントロンの一部を、プロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間あるいは翻訳領域の3’下流に連結することも可能である。そのような場合に用いられるイントロン配列としては、例えば、ウサギβグロビンイントロン2などが挙げられる。その他、ウサギβグロビンとIgGのキメライントロン、CMVイントロン、SV40イントロンなども用いることもできる。各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域を、プロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間あるいは翻訳領域の3’下流に連結することも可能である。
【0023】
また、胚性幹細胞(ES細胞)を用いてTg動物を作製する場合、上記のベクターは、導入DNAが安定に組み込まれたクローンを選択するための選択マーカー遺伝子(例:ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子)をさらに含むことが好ましい。
【0024】
上記のプロモーター、イントロン、IL-33をコードするDNA、polyAシグナルなどは、適当な制限酵素およびDNAリガーゼ等を用いた通常の遺伝子工学的手法により、上記のベクター中に正しい配置で、即ちTg動物においてIL-33を皮膚において特異的に発現可能な配置で、挿入することができる。例えば、後述する実施例において用いられるように、5’側からケラチンプロモーター、イントロン、IL-33をコードするDNA、polyAシグナルの順番に連結されることが好ましい。より好ましくは、ベクター中において5’側からケラチン14プロモーター、ウサギβグロビンイントロン2、配列番号:1の塩基配列を有するIL-33をコードするDNA、ヒトケラチン14polyAシグナルの順番に連結される。
【0025】
好ましい一実施態様においては、上記のようにして得られるIL-33をコードするDNAを含む発現ベクターは、マイクロインジェクション法により対象となる非ヒト哺乳動物の初期胚に導入される。
【0026】
対象非ヒト哺乳動物の初期胚は、同種の非ヒト哺乳動物の雌雄を交配させて得られる体内受精卵を採取するか、あるいは同種の非ヒト哺乳動物の雌雄からそれぞれ採取した卵と精子を体外受精させることにより得ることができる。
用いる非ヒト哺乳動物の齢や飼育条件等は動物種によってそれぞれ異なるが、例えばマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのF
1など)を用いる場合は、雌が約4〜約6週齢、雄が約2〜約8ヶ月齢程度のものが好ましく、また、約12時間明期条件(例えば7:00-19:00)で約1週間飼育したものが好ましい。
体内受精は自然交配によってもよいが、性周期の調節と1個体から多数の初期胚を得ることを目的として、雌非ヒト哺乳動物に性腺刺激ホルモンを投与して過剰排卵を誘起した後、雄非ヒト哺乳動物と交配させる方法が好ましい。雌非ヒト哺乳動物の排卵誘発法としては、例えば初めに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン、一般にPMSGと略する)、次いで黄体形成ホルモン(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン、一般にhCGと略する)を、例えば腹腔内注射などにより投与する方法が好ましいが、好ましいホルモンの投与量、投与間隔は非ヒト哺乳動物の種類によりそれぞれ異なる。例えば、非ヒト哺乳動物がマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのF
1など)の場合は、通常、卵胞刺激ホルモン投与後、約48時間後に黄体形成ホルモンを投与し、直ちに雄マウスと交配させることにより受精卵を得る方法が好ましく、卵胞刺激ホルモンの投与量は約20〜約50IU/個体、好ましくは約30IU/個体、黄体形成ホルモンの投与量は約0〜約10IU/個体、好ましくは約5IU/個体である。
一定時間経過後、膣栓の検査等により交配を確認した雌非ヒト哺乳動物の腹腔を開き、卵管から受精卵を取り出して胚培養用培地(例:M16培地、修正Whitten培地、BWW培地、M2培地、WM-HEPES培地、BWW-HEPES培地等)中で洗って卵丘細胞を除き、微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下でDNA顕微注入まで培養する。直ちに顕微注入を行わない場合、採取した受精卵を緩慢法または超急速法等で凍結保存することも可能である。
【0027】
一方、体外受精の場合は、採卵用雌非ヒト哺乳動物(体内受精の場合と同様のものが好ましく用いられる)に上記と同様に卵胞刺激ホルモンおよび黄体形成ホルモンを投与して排卵を誘発させた後、卵子を採取して受精用培地(例:TYH培地)中で体外受精時まで微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で培養する。他方、同種の雄非ヒト哺乳動物(体内受精の場合と同様のものが好ましく用いられる)から精巣上体尾部を取り出し、精子塊を採取して受精用培地中で前培養する。前培養終了後の精子を卵子を含む受精用培地に添加し、微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で培養した後、2個の前核を有する受精卵を顕微鏡下で選抜する。直ちにDNAの顕微注入を行わない場合は、得られた受精卵を緩慢法または超急速法等で凍結保存することも可能である。
【0028】
受精卵へのDNAの顕微注入は、マイクロマニピュレーター等の公知の装置を用いて常法に従って実施することができる。簡潔に言えば、胚培養用培地の微小滴中に入れた受精卵をホールディングピペットで吸引して固定し、インジェクションピペットを用いてDNA溶液を雄性もしくは雌性前核、好ましくは雄性前核内に直接注入する。導入DNAはCsCl密度勾配超遠心または陰イオン交換樹脂カラム等で高度に精製したものを用いることが好ましい。また、導入DNAは制限酵素を用いてベクター部分を切断し、直鎖状にしておくことが好ましい。
【0029】
DNA導入後の受精卵は胚培養用培地中で微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で1細胞期〜胚盤胞期まで培養した後、偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の卵管または子宮内に移植される。受胚用雌非ヒト哺乳動物は移植される初期胚が由来する動物と同種のものであればよく、例えば、マウス初期胚を移植する場合は、ICR系の雌マウス(好ましくは約8〜約10週齢)などが好ましく用いられる。受胚用雌非ヒト哺乳動物を偽妊娠状態にする方法としては、例えば、同種の精管切除(結紮)雄非ヒト哺乳動物(例えば、マウスの場合、ICR系の雄マウス(好ましくは約2ヶ月齢以上))と交配させて、膣栓の存在が確認されたものを選択する方法が知られている。
受胚用雌は自然排卵のものを用いてもよいし、あるいは精管切除(結紮)雄との交配に先立って、黄体形成ホルモン放出ホルモン(一般にLHRHと略する)もしくはその類縁体を投与し、受精能を誘起させたものを用いてもよい。LHRH類縁体としては、例えば、[3,5-DiI-Tyr
5]-LH-RH、[Gln
8]-LH-RH、[D-Ala
6]-LH-RH、[des-Gly
10]-LH-RH、[D-His(Bzl)
6]-LH-RHおよびそれらのEthylamideなどが挙げられる。LHRHもしくはその類縁体の投与量、ならびにその投与後に雄非ヒト哺乳動物と交配させる時期は、非ヒト哺乳動物の種類によりそれぞれ異なる。例えば、非ヒト哺乳動物がマウス(好ましくはICR系のマウスなど)の場合には、通常、LHRHもしくはその類縁体を投与した後、約4日目に雄マウスと交配させることが好ましく、LHRHあるいはその類縁体の投与量は、通常、約10〜60μg/個体、好ましくは約40μg/個体である。
【0030】
通常、移植される初期胚が桑実胚期以後の場合は受胚用雌の子宮に、それより前(例えば、1細胞期〜8細胞期胚)であれば卵管に胚移植される。受胚用雌は、移植胚の発生段階に応じて偽妊娠からある日数が経過したものが適宜使用される。例えばマウスの場合、2細胞期胚を移植するには偽妊娠後約0.5日の雌マウスが、胚盤胞期胚を移植するには偽妊娠後約2.5日の雌マウスが好ましい。受胚用雌を麻酔(好ましくはAvertin、ネンブタール等が使用される)後、切開して卵巣を引き出し、胚培養用培地に懸濁した初期胚(約5〜約10個)を胚移植用ピペットを用いて、卵管腹腔口もしくは子宮角の卵管接合部付近に注入する。
【0031】
移植胚が首尾よく着床し受胚雌が妊娠すれば、自然分娩もしくは帝王切開により仔非ヒト哺乳動物が得られる。自然分娩した受胚雌にはそのまま哺乳を継続させればよく、帝王切開により出産した場合は、産仔は別途用意した哺乳用雌(例えばマウスの場合、通常に交配・分娩した雌マウス(好ましくはICR系の雌マウス等))に哺乳させることができる。
【0032】
受精卵細胞段階におけるIL-33をコードするDNAの導入は、導入DNAが対象非ヒト哺乳動物の生殖系列細胞および体細胞のすべてに存在するように確保される。導入DNAが染色体DNAに組み込まれているか否かは、例えば、産仔の尾部より分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることにより検定することができる。上記のようにして得られる仔非ヒト哺乳動物(F
0)の生殖系列細胞においてIL-33をコードするDNAが存在することは、その後代(F
1)の動物全てが、その生殖系列細胞および体細胞のすべてにIL-33をコードするDNAが存在することを意味する。
通常、F
0動物は相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体として得られる。また、個々のF
0個体は相同組換えによらない限り異なる染色体上にランダムに挿入される。従って、相同染色体の両方にIL-33をコードするDNAを有するホモ接合体を得たい場合には、F
0動物と非トランスジェニック動物とを交雑してF
1動物を作製し、相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体の兄妹同士を交雑すればよい。1遺伝子座にのみ導入DNAが組み込まれていれば、得られるF
2動物の1/4がホモ接合体となる。
【0033】
別の一実施態様においては、IL-33をコードするDNAを含む発現ベクターは、エレクトロポレーション法等の公知の遺伝子導入法により対象となる非ヒト哺乳動物のES細胞に導入される。
【0034】
ES細胞は胚盤胞期の受精卵の内部細胞塊(ICM)に由来し、インビトロで未分化状態を保ったまま培養維持できる細胞をいう。ICMの細胞は将来、胚本体を形成する細胞であり、生殖細胞を含むすべての組織の基になる幹細胞である。ES細胞としては、既に樹立された細胞株を用いてもよく、また、EvansとKaufmanの方法(ネイチャー(Nature)第292巻、154頁、1981年)に準じて新しく樹立したものでもよい。例えば、マウスES細胞の場合、現在、一般的には129系マウス由来のES細胞が使用されているが、免疫学的背景がはっきりしていないので、これに代わる純系で免疫学的に遺伝的背景が明らかなES細胞を取得するなどの目的で、例えば、C57BL/6マウスやC57BL/6の採卵数の少なさをDBA/2との交雑により改善したBDF
1マウス(C57BL/6とDBA/2とのF
1)から樹立されるES細胞なども良好に用いることができる。BDF
1マウスは、採卵数が多く、かつ卵が丈夫であるという利点に加えて、C57BL/6マウスを背景に持つので、これ由来のES細胞は疾患モデルマウスを作製したとき、C57BL/6マウスと戻し交雑することでその遺伝的背景をC57BL/6マウスに代えることが可能である点で有利に用い得る。
【0035】
ES細胞の調製は、例えば以下のようにして行うことができる。交配後の雌非ヒト哺乳動物[例えばマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのF
1など)を用いる場合は、約2ヶ月齢以上の雄マウスと交配させた約8〜約10週齢程度の雌マウス(妊娠約3.5日)が好ましく用いられる]の子宮から胚盤胞期胚を採取して(あるいは桑実胚期以前の初期胚を卵管から採取した後、胚培養用培地中で上記と同様にして胚盤胞期まで培養してもよい)、適当なフィーダー細胞(例えばマウスの場合、マウス胎仔から調製される初代線維芽細胞や公知のSTO線維芽細胞株等)層上で培養すると、胚盤胞の一部の細胞が集合して将来胚に分化するICMを形成する。この内部細胞塊をトリプシン処理して単細胞を解離させ、適切な細胞密度を保ち、培地交換を行いながら、解離と継代を繰り返すことによりES細胞が得られる。
【0036】
ES細胞は雌雄いずれを用いてもよいが、通常雄のES細胞の方が生殖系列キメラを作製するのに都合が良い。また、煩雑な培養の手間を削減するためにもできるだけ早く雌雄の判別を行なうことが望ましい。ES細胞の雌雄の判定方法としては、例えば、PCR法によりY染色体上の性決定領域の遺伝子を増幅、検出する方法が、その1例としてあげることができる。この方法を使用すれば、従来、核型分析をするのに約10
6個の細胞数を要していたのに対して、1コロニー程度のES細胞数(約50個)で済むので、培養初期におけるES細胞の第一次セレクションを雌雄の判別で行なうことが可能であり、早期に雄細胞の選定を可能にしたことにより培養初期の手間は大幅に削減できる。
また、第二次セレクションとして、例えば、G-バンディング法による染色体数の確認等により行うことができる。得られるES細胞の染色体数は正常数の100%が望ましいが、細胞株樹立の際の物理的操作等の関係上困難な場合は、ES細胞への遺伝子導入の後、正常細胞(例えば、マウスでは染色体数が2n=40である細胞)に再びクローニングすることが望ましい。
【0037】
このようにして得られるES細胞株は、未分化幹細胞の性質を維持するために注意深く継代培養することが必要である。例えば、STO線維芽細胞のような適当なフィーダー細胞上で、分化抑制因子として知られるLIF(1〜10,000U/ml)存在下に炭酸ガス培養器内(好ましくは、5%炭酸ガス/95%空気または5%酸素/5%炭酸ガス/90%空気)で約37℃で培養するなどの方法で培養し、継代時には、例えば、トリプシン/EDTA溶液(通常0.001〜0.5%トリプシン/0.1〜5mM EDTA、好ましくは約0.1%トリプシン/1mM EDTA)処理により単細胞化し、新たに用意したフィーダー細胞上に播種する方法などがとられる。このような継代は、通常1〜3日毎に行なうが、この際に細胞の観察を行い、形態的に異常な細胞が見受けられた場合はその培養細胞は放棄することが望まれる。
ES細胞は、適当な条件により、高密度に至るまで単層培養するか、または細胞集塊を形成するまで浮遊培養することにより、頭頂筋、内臓筋、心筋などの種々のタイプの細胞に分化させることが可能であり〔M. J. Evans及びM. H. Kaufman, ネイチャー(Nature)第292巻、154頁、1981年;G. R. Martin, プロシーディングズ・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.)第78巻、7634頁、1981年;T. C. Doetschmanら, ジャーナル・オブ・エンブリオロジー・アンド・エクスペリメンタル・モルフォロジー、第87巻、27頁、1985年〕、本発明のIL-33をコードするDNAを導入されたES細胞を分化させて得られるIL-33を皮膚において特異的に発現する非ヒト哺乳動物細胞は、生体におけるIL-33の細胞生物学的検討において有用である。
【0038】
ES細胞への遺伝子導入には、リン酸カルシウム共沈殿法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、リポフェクション法、レトロウイルス感染法、凝集法、顕微注入(マイクロインジェクション)法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、DEAE-デキストラン法などのいずれも用いることができるが、簡便に多数の細胞を処理できること等の点からエレクトロポレーション法が一般的に選択されている。エレクトロポレーションには通常の動物細胞への遺伝子導入に使用されている条件をそのまま用いればよく、例えば、対数増殖期にあるES細胞をトリプシン処理して単一細胞に分散させた後、10
6〜10
8細胞/mlとなるように培地に懸濁してキュベットに移し、IL-33をコードするDNAを含むベクターを10〜100μg添加し、200〜600V/cmの電気パルスを印加することにより行なうことができる。
【0039】
導入DNAが組み込まれたES細胞は、単一細胞をフィーダー細胞上で培養して得られるコロニーから分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることによっても検定することができるが、ES細胞を用いるトランスジェニック系の最大の長所は、薬剤耐性遺伝子やレポーター遺伝子の発現を指標として細胞段階で形質転換体を選択できることである。したがって、ここで使用される導入ベクターは、IL-33をコードするDNAを含む発現カセットに加えて、薬剤耐性遺伝子(例:ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(nptII)遺伝子、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hpt)遺伝子など)やレポーター遺伝子(例:β-ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)遺伝子など)等の選択マーカー遺伝子をさらに含むことが望ましい。例えば、選択マーカー遺伝子としてnptII遺伝子を含むベクターを用いた場合、遺伝子導入処理後のES細胞をG418などのネオマイシン系抗生物質を含有する培地中で培養し、出現した耐性コロニーをそれぞれ培養プレートに移してトリプシン処理、培地交換を繰り返した後、一部を培養用として残し、残りをPCRもしくはサザンハイブリダイゼーションにかけて導入DNAの存在を確認する。
【0040】
導入DNAの組込みが確認されたES細胞を同種の非ヒト哺乳動物由来の胚内に戻すと、宿主胚のICMに組み込まれてキメラ胚が形成される。これを仮親(受胚用雌)に移植してさらに発生を続けさせることにより、キメラトランスジェニック動物が得られる。キメラ動物の中でES細胞が将来卵や精子に分化する始原生殖細胞の形成に寄与した場合には、生殖系列キメラが得られることとなり、これを交配することにより導入DNAが遺伝的に固定されたTg動物を作製することができる。
【0041】
キメラ胚の作製方法としては、桑実胚期までの初期胚同士を接着させて集合させる方法(集合キメラ法)と、胚盤胞の割腔内に細胞を顕微注入する方法(注入キメラ法)とがある。ES細胞によるキメラ胚の作製においては従来より後者が広く行なわれているが、最近では、8細胞期胚の透明帯内へのES細胞の注入により集合キメラを作る方法や、マイクロマニピュレーターが不要で操作が容易な方法として、ES細胞塊と透明帯を除去した8細胞期胚とを共培養して凝集させることによって集合キメラを作製する方法も行われている。 いずれの場合も、宿主胚は受精卵への遺伝子導入における採卵用雌として使用され得る非ヒト哺乳動物から同様にして採取することができるが、例えばマウスの場合、キメラマウス形成へのES細胞の寄与率を毛色(コートカラー)で判定し得るように、ES細胞の由来する系統とは毛色の異なる系統のマウスから宿主胚を採取することが好ましい。例えば、ES細胞が129系マウス(毛色:アグーチ)由来であれば、採卵用雌としてC57BL/6マウス(毛色:ブラック)やICRマウス(毛色:アルビノ)を用い、ES細胞がC57BL/6もしくはDBF
1マウス(毛色:ブラック)由来やTT2細胞(C57BL/6とCBAとのF
1(毛色:アグーチ)由来)であれば、採卵用雌としてICRマウスやBALB/cマウス(毛色:アルビノ)を用いることができる。
また、生殖系列キメラ形成能はES細胞と宿主胚との組み合わせに大きく依存するので、生殖系列キメラ形成能の高い組み合わせを選択することがより好ましい。例えばマウスの場合、129系統由来のES細胞に対してはC57BL/6系統由来の宿主胚等を用いることが好ましく、C57BL/6系統由来のES細胞に対してはBALB/c系統由来の宿主胚等が好ましい。
採卵用雌マウスは約4〜約6週齢程度が好ましく、交配用の雄マウスとしては約2〜約8ヶ月齢程度の同系統のものが好ましい。交配は自然交配によってもよいが、好ましくは性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン、次いで黄体形成ホルモン)を投与して過剰排卵を誘起した後に行なわれる。
【0042】
胚盤注入法による場合は、胚盤胞期胚(例えばマウスの場合、交配後約3.5日)を採卵用雌の子宮から採取し(あるいは桑実胚期以前の初期胚を卵管から採取した後、上述の胚培養用培地中で胚盤胞期まで培養してもよい)、マイクロマニピュレーターを用いて胚盤胞の割腔内にIL-33をコードするDNAが導入されたES細胞(約10〜約15個)を注入した後、偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の子宮内に移植する。受胚用雌非ヒト哺乳動物は受精卵への遺伝子導入における受胚用雌として使用され得る非ヒト哺乳動物を同様に用いることができる。
共培養法による場合は、8細胞期胚および桑実胚(例えばマウスの場合、交配後約2.5日)を採卵用雌の卵管および子宮から採取して(あるいは8細胞期以前の初期胚を卵管から採取した後、上述の胚培養用培地中で8細胞期または桑実胚期まで培養してもよい)酸性タイロード液中で透明帯を溶解した後、ミネラルオイルを重層した胚培養用培地の微小滴中にIL-33をコードするDNAが導入されたES細胞塊(細胞数約10〜約15個)を入れ、さらに上記8細胞期胚または桑実胚(好ましくは2個)を入れて一晩共培養する。得られた桑実胚または胚盤胞を上記と同様にして受胚用雌非ヒト哺乳動物の子宮内に移植する。
【0043】
移植胚が首尾よく着床し受胚雌が妊娠すれば、自然分娩もしくは帝王切開によりキメラ非ヒト哺乳動物が得られる。自然分娩した受胚雌にはそのまま哺乳を継続させればよく、帝王切開により出産した場合は、産仔は別途用意した哺乳用雌(通常に交配・分娩した雌非ヒト哺乳動物)に哺乳させることができる。
生殖系列キメラの選択は、まずES細胞の雌雄が予め判別されている場合はES細胞と同じ性別のキメラマウスを選択し(通常は雄性ES細胞が使用されるので、雄キメラマウスが選択される)、次いで毛色等の表現型からES細胞の寄与率が高いキメラマウス(例えば、50%以上)を選択する。例えば、129系マウス由来の雄性ES細胞であるD3細胞とC57BL/6マウス由来の宿主胚とのキメラ胚から得られるキメラマウスの場合、アグーチの毛色の占める割合の高い雄マウスを選択するのが好ましい。選択されたキメラ非ヒト哺乳動物が生殖系列キメラであるか否かの確認は、適当な系統の同種動物との交雑により得られるF
1動物の表現型に基づいて行なうことができる。例えば、上記キメラマウスの場合、アグーチはブラックに対して優性であるので、雌C57BL/6マウスと交雑すると、選択された雄マウスが生殖系列キメラであれば得られるF
1の毛色はアグーチとなる。
【0044】
上記のようにして得られるIL-33をコードするDNAが導入された生殖系列キメラ非ヒト哺乳動物(ファウンダー)は、通常、相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体として得られる。また、個々のファウンダーは相同組換えによらない限り異なる染色体上にランダムに挿入される。相同染色体の両方にIL-33をコードするDNAを有するホモ接合体を得るためには、上記のようにして得られるF
1動物のうち相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体の兄妹同士を交雑すればよい。ヘテロ接合体の選択は、例えばF
1動物の尾部より分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることにより検定することができる。1遺伝子座にのみ導入DNAが組み込まれていれば、得られるF
2動物の1/4がホモ接合体となる。
【0045】
発現ベクターとしてウイルスを用いる場合の別の好ましい一実施態様として、IL-33をコードするDNAを含むウイルスで、非ヒト哺乳動物の初期胚もしくはES細胞を感染させる方法が挙げられる(例えば、プロシーディングズ・オヴ・ナショナル・アカデミー・オヴ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)第99巻, 第4号, 第2140-2145頁, 2002年参照)。例えば、レトロウイルスやレンチウイルスを用いる場合、ディッシュなどの適当な培養器に細胞(受精卵は透明帯を除いておくことが好ましい)を播き、培養液にウイルスベクターを加えて(所望によりポリブレンを共存させてもよい)、1〜2日間培養後、初期胚であれば、上述のように偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の卵管または子宮内に移植し、ES細胞であれば、上述のようにG418やハイグロマイシンなどの選択薬剤を添加して培養を続け、ベクターが組み込まれた細胞を選択する。
さらに、プロシーディングズ・オヴ・ナショナル・アカデミー・オヴ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)第98巻, 第13090-13095頁, 2001年に記載されるように、雄非ヒト哺乳動物から採取した精原細胞をSTOフィーダー細胞と共培養する間にウイルスベクターに感染させた後、雄性不妊非ヒト哺乳動物の精細管に注入して雌非ヒト哺乳動物と交配させることにより、効率よくIL-33へテロTg(+/-)産仔を得ることができる。
【0046】
本発明のTg動物は、SPFの飼育条件下で、対応する非トランスジェニック動物と比較して、以下の特性:
(1)皮膚炎を自然発症する、
(2)炎症細胞数が増加している、
(3)総IgE濃度、ヒスタミン濃度、サイトカイン濃度および/またはケモカイン濃度が増加している、および
(4)掻破行動時間が増加している
からなる群から選択される特徴を1つ以上有することを特徴とする。
アトピー性皮膚炎患者は、表皮角化細胞において健常者の該細胞よりも、IL-33の発現強度が高い(非特許文献3)。また、ヒトのアトピー性皮膚炎患者の皮疹部においてIL-5遺伝子発現が亢進しており(Corren J, Discov Med 13:305-12, 2012)、血中の好酸球増多がみられない患者でも皮疹部には好酸球浸潤が認められる(Kiehl P et al., Br J Dermatol. 145:720-9, 2001)。さらに、アトピー性皮膚炎患者においては、肥満細胞の活性化に伴い、ヒスタミン濃度、IgE濃度の増加が見られる。
一方、上記の本発明のTg動物も、皮膚において顕著に高いレベルのIL-33発現を確認することができると共に、その表現型も、アトピー性皮膚炎患者の有する特徴と一致する。後述する実施例では、本発明のTg動物がTgマウスであった場合、SPFの飼育条件下で6週齢から一部のTgマウスが皮膚炎を発症し、8週齢以降では全てTgマウスが皮膚炎を自然発症した。また、炎症細胞(特に好酸球、肥満細胞、2型自然リンパ球(type 2 innate lymphoid cells))について、皮膚、末梢血またはリンパ節において有意な増加を認めた。さらに、血清中の総IgE濃度についても、野生型マウスと比較して有意に増加し、また、血漿中のヒスタミン濃度についても、野生型マウスと比較して有意に増加した。サイトカインとして、IL-4、IL-13が皮膚中で、IL-5が、皮膚、血清中で野生型マウスと比較して有意に増加した。また、ケモカインについてCCL5、CCL11が皮膚中で、CCL2、CCL4が皮膚、血清中で野生型マウスと比較して有意に増加した。加えて、野生型マウスと比較して掻破行動時間が有意に増加し、抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン塩酸塩)やステロイド薬(ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル)によって増加した掻破行動時間や皮疹スコアを低減させることができた。
より具体的には、本発明のTgマウスの前記特徴は、皮膚炎の皮疹スコアとしては約10〜15であった。また、炎症細胞数としては野生型マウスと比較して好酸球は皮膚では約7〜8倍、末梢血では約4〜5倍であり、肥満細胞は皮膚では約2〜3倍であり、2型自然リンパ球は皮膚では約12倍、末梢血では約10倍、リンパ節では約20倍であった。また、総IgE濃度としては野生型マウスと比較して約20〜30倍であり、ヒスタミン濃度としては野生型マウスと比較して約8〜9倍であった。また、サイトカイン濃度としては野生型マウスと比較してIL-4、IL-13が皮膚ではそれぞれ約50倍、約3倍、IL-5が皮膚、血清中ではそれぞれ約50倍、約1500倍以上(IL-5は血清中において、野生型では検出限界(0.3pg/mL)以下であったが、Tgマウスでは約500pg/mLであった)に増加した。また、CCL5、CCL11が皮膚中ではそれぞれ約4倍、約5倍、CCL2が皮膚、血清中それぞれ約7倍、約14倍、CCL4が皮膚、血清中それぞれ約8倍、約100倍に増加した。
以上の特徴から、本発明のTg動物では、ヒトケラチン14プロモーターの制御の下IL-33をコードするDNAが、皮膚特異的に高発現され、好酸球、肥満細胞、2型自然リンパ球の活性化を介して、炎症反応を惹起し、アトピー性皮膚炎を発症していると考えられる。
【0047】
従って、本発明のTg動物は、アトピー性皮膚炎の予防または治療薬のスクリーニングに有用であり、本発明は、SPF(specific pathogen free)の飼育条件下で、該Tg動物に試験化合物を適用し、(1)皮疹スコア、(2)炎症細胞数、(3)総IgE濃度、ヒスタミン濃度、サイトカイン濃度および/またはケモカイン濃度、および(4)掻破行動時間からなる群から選択される項目を1つ以上測定し、測定された前記項目を試験化合物非投与の場合に比べて改善させる試験物質を選択することを含む、アトピー性皮膚炎治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【0048】
本発明のスクリーニング方法では、本発明のTg動物に試験化合物を投与する。試験化合物としては、公知の合成化合物、ペプチド、タンパク質、DNAライブラリーなどの他に、例えば哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物、細胞培養上清などが用いられる。試験化合物を投与する時期は、前記した特徴が観察されるようになる前でも後からでもよい。投与の方法としては、経口的であっても非経口的であってもよい。経口的投与としては飼料や飲料水に混ぜて投与することができる。非経口的投与としては、塗布による投与、腹腔内投与、静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射、点滴注射等による投与、坐剤による直腸投与などが挙げられる。また、投与は単回投与であっても複数回投与であってもよい。
【0049】
各項目の測定は公知の方法によって行うこともできるし、後述する実施例に従って行ってもよい。例えば、皮疹スコアについては、掻痒、紅斑/出血、浮腫、表皮剥離/糜爛、落屑/乾燥の5項目について、それぞれ無し(0点)、軽度(1点)、中等度(2点)、重症(3点)で評価し、その合計点数から計測することができる(Matsuda H et al., Int. Immunol, 9(3):461-466, 1997)。炎症細胞数については、例えば、皮膚組織、末梢血またはリンパ節由来の細胞をフローサイトメトリー解析することによって、その割合を測定することができる。ここで、炎症細胞は、好酸球、好中球、好塩基球、肥満細胞、2型自然リンパ球などが挙げられるが、好ましくは、好酸球、肥満細胞および2型自然リンパ球である。総IgE濃度、ヒスタミン濃度、サイトカイン濃度およびケモカイン濃度の測定については、各抗体を用いてELISAによって測定することができる。ここで、サイトカインは、IL-5またはIL-13が好ましく挙げられる。掻破行動時間については、試験化合物投与後に、一定時間内の掻破行動時間を測定することによって測定することができる。
【0050】
上記のようにして得られた前記特徴の測定結果について、試験化合物非投与の場合と比較する。そして、得られた前記特徴の測定結果が、試験化合物非投与の場合に比べて改善される場合には、該試験化合物をアトピー性皮膚炎の予防・治療剤として選択することができる。ここで改善されるとは、(1)皮疹スコアが試験化合物非投与の場合に比べて下がること、(2)炎症細胞数が試験化合物非投与の場合に比べて減ること、(3)総IgE濃度、ヒスタミン濃度、サイトカイン濃度および/またはケモカイン濃度が試験化合物非投与の場合に比べて下がること、(4)掻破行動時間が試験化合物非投与の場合に比べて短くなることをいう。例えば、試験化合物投与後の測定結果が、試験化合物非投与の場合と比べて、(1)皮疹スコアが60%以上、好ましくは70%以上下がり、(2)炎症細胞数が65%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは85%以上下がり、(3)総IgE濃度が65%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは85%以上下がり、ヒスタミン濃度が85%以上、好ましくは90%以上下がり、サイトカイン濃度が70%以上、好ましくは80%以上下がり、ケモカイン濃度が70%以上、好ましくは80%以上下がり、および/または(4)掻破行動時間が70%以上、好ましくは80%以上下がる場合、該試験化合物をアトピー性皮膚炎の予防・治療剤として選択することができる。
【0051】
あるいは、前記特徴についてアトピー性皮膚炎の有無との相関図をあらかじめ作製しておき、得られた前記特徴の測定結果をその相関図と比較してもよい。比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。比較した結果が、試験化合物非投与の場合に比べて改善される場合には、該試験化合物をアトピー性皮膚炎の予防・治療剤として選択することができる。
【0052】
該スクリーニング法により選択されたアトピー性皮膚炎治療薬は、哺乳動物(好ましくはヒト)におけるアトピー性皮膚炎の症状の改善に使用することができる。該治療薬は、必要に応じて製剤化され、経口的もしくは非経口的に哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に投与することができる。
【0053】
該アトピー性皮膚炎の予防・治療薬の投与量は、投与対象の年齢、体重、症状の重篤度、投与ルートなどにより異なるが、例えば、皮膚に塗布する場合、一般的に成人(体重60kg)においては、一日につき約0.1〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mgである。投与対象がヒト以外の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0054】
また、本発明のTg動物は、アトピー性皮膚炎のモデル動物として有用であることから、該動物は、アトピー性皮膚炎の予防・治療薬の評価方法に用いることができる。従って、本発明は、SPF(specific pathogen free)の飼育条件下で、該Tg動物にアトピー性皮膚炎の予防・治療薬を適用し、(1)皮疹スコア、(2)炎症細胞数、(3)総IgE濃度、ヒスタミン濃度、サイトカイン濃度および/またはケモカイン濃度、および(4)掻破行動時間からなる群から選択される項目を1つ以上測定し、測定された前記項目をアトピー性皮膚炎の予防・治療薬非投与の場合と比べる、アトピー性皮膚炎の予防・治療薬の効果の評価方法を提供する。
【0055】
本発明の評価方法で、本発明のTg動物に投与されるアトピー性皮膚炎の予防・治療薬としては、公知の予防・治療剤であってよく、たとえば、ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)(例、プロピオン酸クロベタゾール、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル、プロピオン酸アルクロメタゾン、酢酸デキサメタゾンなど);タクロリムス外用薬(プロトピック(登録商標)軟膏);抗ヒスタミン薬(例、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸プロメタジン、ヒドロキシジン、塩酸シプロヘプタジン、エピナスチン塩酸塩等)などが挙げられるが、それらに制限されない。アトピー性皮膚炎予防・治療剤の投与時期、投与方法、投与回数などは前記のスクリーニング方法と同様であってよい。また、投与量は、各アトピー性皮膚炎の予防・治療薬によって、当業者が適宜決定してよい。
【0056】
本発明の評価方法で比較される特徴の測定方法は、前記スクリーニング方法に記載に従って実施してよい。また、その評価方法について、得られた前記特徴の測定結果が、アトピー性皮膚炎予防・治療剤非投与の場合に比べて改善される程度が大きい程、該アトピー性皮膚炎の予防・治療薬を予防・治療効果が高いと評価することができる。ここで改善されるとは前記と同様であってよい。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【0058】
実施例1 トランスジーンの構築
pBluescript II KS(-)ファージミドベクター(Agilent technologies, La Jolla, CA)のEcoRIとHindIII部位の間に、2.0 kbのヒトケラチン14プロモーターを含むDNA配列(GenBank AC105208.15の40251-42254の塩基配列)、0.64 kb ウサギβグロビンイントロン 2を含むDNA配列(GenBank V00878.1の551-1195)、0.49 kbヒトケラチン14 poly Aシグナルを含むDNA配列(GenBank AC105208.15の46730- 47216)をもつK14発現ベクターを作製した。このベクターは、ウサギβグロビンイントロン 2とヒトケラチン14 poly Aシグナルの間にBamHI 部位を配し、BamHI部位に挿入したcDNAがケラチン14プロモーターの制御下に、表皮などの重層扁平上皮で安定して発現する構築である。0.8kb完全長マウスIL-33バリアント1をコードするcDNA(GenBank AK163464.1の61-861の塩基配列)はfantom
TM clone B230120N24(ダナフォーム、横浜)に含まれるプラスミドDNAを鋳型にして、
mIL33cinf1:
5’-GGGCGAATACGGATCATGAGACCTAGAATGAAGTATTCCA-3’ (配列番号:3)および
mIL33cinf2:
5’-GGACTCTAGAGGATCTTAGATTTTCGAGAGCTTAAACATA-3’ (配列番号:4)
のPCRプライマーで増幅し、BamHI部位にIn-Fusion HD cloning kit(タカラバイオ, 大津)を用いて挿入した。得られたマウスIL-33 cDNA発現ベクターをXmaI、XhoI、XmnI の制限酵素で消化し、ヒトケラチン14プロモーター、ウサギβグロビンイントロン2、マウスIL-33 variant 1 cDNA、ヒトケラチン14 poly Aシグナルを含む4.0 kbの線状DNA を単離、精製した(
図1)。
【0059】
実施例2 IL-33遺伝子トランスジェニックマウスの作出
マイクロインジェクションによるトランスジェニックマウス作製はHoganらの方法(Manipulating the mouse embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press. 1994)に従って行った。実施例1にて作製したマウスIL-33 variant 1 cDNAを含む前記DNA断片をC57BL/6J系統由来受精卵400個の前核にマイクロインジェクションした。インジェクションした受精卵を偽妊娠雌マウスの卵管内に移植し、飼育した。得られた産仔122匹を4週齢で離乳させた。6週齢に達した時点で、生育した109匹のマウス(雄68匹、雌41匹)の尾からDNAを採取した。取得したDNAに対して、
msF4358:
5'-GGAGGGGGCAAAGTTTTCAGGGTG-3'(配列番号:5)および
mIL33R5046:
5'-TTTGCAAGGCGGGACCAGGG-3'(配列番号:6)
の配列を有するプライマーセットを用いてPCRを行い、12匹のマウスがトランスジーンを有することを確認した。
【0060】
実施例3 IL-33遺伝子トランスジェニックマウスの耳組織におけるIL-33遺伝子の発現解析
実施例2において取得された12匹のIL-33遺伝子トランスジェニックマウスについて、耳生検組織からRNAを抽出した。得られたRNAをもとにして、TaqManプローブMm00505403_m1 (Life Technologies Corp, Carlsbad, CA) を用いて定量的リアルタイムRT-PCRを実施し、マウスIL-33遺伝子(Il33)を高発現するマウスを選別した。12匹のIL-33遺伝子トランスジェニックマウスのうち4匹は耳組織において、野生型マウスに比べてIL-33遺伝子が11〜41倍高発現していることを確認した(
図2)。このうち#89マウスをファウンダーとして用いることによって、生育とともに皮膚炎が安定的に生じ、生殖細胞系列へのトランスジーンの伝播が可能なマウス系統hK14mIL33tg #1 (HCM-0374)(以下、hK14mIL33tg)を樹立した。以後の解析は、hK14mIL33tgをC57BL/6Jマウスと交配して得た子孫のマウスを用いて行った。
【0061】
実施例4 hK14mIL33tgマウスの皮膚におけるIL-33の発現解析
マウスの耳介を4%パラホルムアルデヒドで固定後、パラフィンに包埋し、4μmの切片を作製した。切片を抗IL-33ポリクローナル抗体と反応させ、Alexa594で蛍光染色した。3回の実験のなかで、代表的な結果を図に示した(
図3)。蛍光強度は黒色で示した。図の実線は角層表面を、点線は表皮真皮境界部を示す。野生型マウス(WT)に比較して、hK14mIL33tgマウス(Tg)皮膚の表皮の角化細胞の核にIL-33の発現増強を認めた。
【0062】
実施例5 hK14mIL33tgマウスにおけるIL-33遺伝子の組織特異的発現解析
野生型マウスおよびhK14mIL33tgマウスの各臓器におけるIL-33遺伝子の発現をqPCRで比較した。データは2回の実験の代表的な結果を示した(
図4)。hK14mIL33tgマウスでは、各臓器に比較してIL-33遺伝子の発現が皮膚において選択的に増強していることが示唆された。
【0063】
実施例6 hK14mIL33tgマウスにおける皮膚炎の肉眼所見
hK14mIL33tgマウスにおいて、痂皮、びらん、あるいは落屑を伴う浸潤性紅斑が顔面、とくに眼周囲、鼻周囲、その他、頚部、耳介、手足、尾部等、毛が少なく外界からの刺激を受けやすい部位に生じた(
図5)。写真は24-28週齢のマウスの代表的な所見を示す。
【0064】
実施例7 hK14mIL33tgマウスにおける皮膚病変の発症経過と頻度
hK14mIL33tgマウスは正常に出生し、6週齢までは正常に発育した。野生型マウス(WT)(n = 7)と比較し、hK14mIL33tgマウス(Tg)(n = 4)では6週齢から8週齢にかけて皮膚病変が発症した。8週齢以降は全てのhK14mIL33tgマウスに皮膚病変が見られた(
図6)。
【0065】
実施例8 hK14mIL33tgマウスにおける皮膚病変組織のヘマトキシリン・エオシン染色所見
野生型マウス(WT)の皮膚組織とhK14mIL33tgマウス(Tg)の皮膚病変組織(いずれも眼囲)をヘマトキシリン・エオシン染色した。3匹のマウスを用いた2回の実験の代表的な組織像を示した(
図7)。hK14mIL33tgマウスでは、表皮の肥厚と真皮内に好酸球を含む炎症細胞浸潤がみられた。
【0066】
実施例9 hK14mIL33tgマウスの皮膚および末梢血好酸球のフローサイトメトリー解析
野生型マウス(WT)およびhK14mIL33tgマウス(Tg)の皮膚に浸潤する好酸球のフローサイトメトリー解析を行った。4匹のマウスを用いた2回の実験のうちの代表的データを示した(
図8)。好酸球の比率は、皮膚細胞のB220
-CD3
-CD45
+、即ち、T細胞、B細胞を除いた白血球(好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞、2型自然リンパ球などが相当)の細胞数から計算した。皮膚では、CCR3
+Siglec-F
+の好酸球浸潤がhK14mIL33tgマウスでは野生型マウスに比較して平均値で7.4倍と、著しい増加が見られた(
図9)。
また同様に、野生型マウス(WT)およびhK14mIL33tgマウス(Tg)の末梢血細胞のフローサイトメトリー解析を行った。4匹のマウスを用いた2回の実験のうちの代表的データを示した(
図10、11)。末梢血でも、同様にhK14mIL33tgマウスでは野生型マウスに比較して平均値で4.5倍と有意な好酸球増多が認められた。
さらに、眼囲皮膚から全RNAを調製し、好酸球マーカーである好酸球ペルオキシダーゼ(Epx)および好酸球顆粒主要塩基性タンパク質遺伝子(Prg2)の発現を定量的リアルタイムRT-PCRで解析した。その結果、EpxとPrg2の遺伝子発現はhK14mIL33tgマウス(Tg)において野生型マウス(WT)よりも、それぞれ、平均値で26.9倍、45.7倍と、有意に高値であった(
図12)。
【0067】
実施例10 hK14mIL33tgマウスにおける皮膚病変組織のトルイジンブルー染色所見
野生型マウス(WT)の皮膚組織とhK14mIL33tgマウス(Tg)の皮膚病変組織(いずれも眼囲)をトルイジンブルー染色した。3匹のマウスを用いた2回の実験の代表的な組織像を示した(
図13)。トルイジンブルーによる染色の結果、hK14mIL33tgマウスに生じた皮膚炎病変部組織では、真皮の肥満細胞が増加していることが判明した。
【0068】
実施例11 hK14mIL33tgマウスにおける肥満細胞のフローサイトメトリー解析
野生型マウス(WT)あるいはhK14mIL33tgマウス(Tg)の皮膚に存在する肥満細胞のフローサイトメトリー解析を行った(
図14)。肥満細胞の比率は、皮膚のB220
-CD3
-細胞のフローサイトメトリー解析から計算した(
図15)。hK14mIL33tgマウス病変部皮膚では、c-kit
+IgE
+である肥満細胞が野生型マウスの正常皮膚に比較して、有意に増加していることが明らかになった。
【0069】
実施例12 hK14mIL33tgマウスにおける血中ヒスタミン濃度およびIgE濃度解析
野生型マウス(WT)およびhK14mIL33tgマウス(Tg)から血漿を採取し、ヒスタミン濃度をELISAで測定した。また、野生型マウスおよびhK14mIL33tgマウスから血清を採取し、総IgE濃度をELISAで測定した。血漿中のヒスタミン濃度は、野生型マウスでは平均 0.18 μMであったが、hK14mIL33tgマウスでは平均1.46 μMと、著しい高値であり、hK14mIL33tgマウスにおける肥満細胞の活性化が示唆された(
図16)。また、血清中の総IgE値は、野生型マウスでは平均15 ng/mLに対し、hK14mIL33tgマウスでは平均386 ng/mLと、20倍以上の高値を示した(
図17)。
【0070】
実施例13 hK14mIL33tgマウスにおける掻破行動解析
野生型マウス(WT)およびhK14mIL33tgマウス(Tg)について、任意の20分間における皮膚掻破時間(sec/min)を測定した。野生型マウスに比較してhK14mIL33tgマウスでは有意な掻破時間の増加が見られ、皮膚の掻痒(かゆみ)が強いことが示唆された(
図18)。さらに、掻破行動に対する抗ヒスタミン薬の効果を検証した。ジフェンヒドラミン塩酸塩2mgをhK14mIL33tgマウスの腹腔内に投与した。それにより、投与6分後から20分間に観察されるマウスの掻破行動の時間が平均4.6分から平均0.2分に減少した(
図19)。hK14mIL33tgマウスの皮膚炎に伴う掻痒の原因として、肥満細胞が関与している可能性が示唆される。
【0071】
実施例14 hK14mIL33tgマウスにおけるサイトカインおよびケモカイン濃度の解析
好酸球の誘導はIL-5、IL-13などのTh2サイトカインや、好酸球が発現する受容体CCR3に結合するリガンドであるRANTES/CCL5やEotaxin-1/CCL11などのケモカインで制御されることが知られている。そこで、野生型マウス(WT)とhK14mIL33tgマウス(Tg)の血清および眼囲皮膚抽出液中のサイトカインとケモカイン濃度を網羅的に測定した。野生型マウスに比較して、hK14mIL33tgマウスでは、IL-5は血清と皮膚の両方で高値を示した(
図20、21)。またhK14mIL33tgマウスにおいて、CCL2、CCL4は血清と皮膚の両方で増加し、CCL5とCCL11は皮膚で増加した(
図20、21)。これらの結果から、hK14mIL33tgマウスにおける好酸球性炎症にこれらのサイトカインが重要な役割を担う可能性が示唆された。一方、hK14mIL33tgマウスにおいてTNF-αやIFN-γなどのTh1サイトカイン、IL-12p40には変化が無かった。他のアレルギー性炎症を引き起こす上皮細胞由来サイトカインであるIL-18、TSLP、IL-25については、皮膚病変部におけるIL-18の増加はわずかであり、他の皮膚炎モデルマウスで見られるような血清中のIL-18の増加は見られなかった。また、TSLPやIL-25には有意な増加は見られなかった。
【0072】
実施例15 hK14mIL33tgマウスにおける皮膚浸潤細胞、末梢血細胞またはリンパ節細胞のフローサイトメトリー解析
IL-33を誘導する肺の寄生虫感染の実験(Yasuda K et al., Proc Natl Acad Sci U S A,109:3451-62012, 2012)では、IL-33に依存してIL-5を産生する細胞として2型自然リンパ球が想定されている。実施例14において、hK14mIL33tgマウスにおいてIL-5やIL-13の産生増強が見られたため、これらのサイトカインを産生する2型自然リンパ球が増加しているかどうかを検討するため皮膚、末梢血、リンパ節由来細胞のフローサイトメトリー解析を行った。細胞は、Linマーカー陰性の細胞分画にゲートをかけた。3匹のマウスを用いた2回の実験の内の代表的なデータである(
図22)。野生型マウス(WT)と比べて、hK14mIL33tgマウス(Tg)ではLin
- ST2
+ Sca-1
+2型自然リンパ球が皮膚局所、末梢血、リンパ節で増加していることが判明した。即ち、IL-33は2型自然リンパ球の誘導に関与することが示唆された。次に、リンパ節のLin
- ST2
+ 細胞におけるIL-5、IL-13 の発現を解析した。IL-5やIL-13を産生する細胞を同定するため、細胞内染色を行った。細胞は、Linマーカー陰性の細胞分画にゲートをかけた。3匹のマウスを用いた実験の代表的なデータである(
図23)。さらに、Lin
-ST2
+IL-5
+またはLin
-ST2
+IL-13
+細胞の比率を、Lin
-細胞のフローサイトメトリー解析から計算した(
図24)。野生型マウス(WT)に比較してhK14mIL33tgマウス(Tg)のリンパ節では、IL-5あるいはIL-13を産生する2型自然リンパ球の増加が認められた。
【0073】
実施例16 hK14mIL33tgマウスにおけるIL-5中和抗体投与の効果解析
hK14mIL33tgマウスにおける好酸球増多にIL-5が必要かどうかを明らかにする目的で、対照のIgG1抗体(20μg/匹)あるいはIL-5中和抗体(20μg/匹)をhK14mIL33tgマウスの腹腔内に2日おきに2週間投与した。その後、hK14mIL33tgマウスの末梢血細胞のフローサイトメトリー解析を行った。細胞は、B220
-CD3
-CD45
+分画にゲートをかけた。4匹のマウスで行った実験の代表的なデータを示す(
図25)。得られた好酸球の比率はB220
-CD3
-CD45
+細胞の末梢血細胞のフローサイトメトリー解析から計算した(
図26)。IL-5中和抗体投与群のhK14mIL33tgマウスでは、対照群に比して末梢血中の好酸球増多が有意に改善した。さらに、hK14mIL33tgマウスの眼囲皮膚組織のヘマトキシリン・エオシン染色を行った。4匹のマウスで行った実験の代表的な図を示す(
図27)。皮膚炎の病変部では、表皮肥厚の改善、浸潤細胞の減少がみられ、好酸球の浸潤も明らかに改善した。また、皮膚病変部組織におけるIL-33と好酸球顆粒主要塩基性タンパク質遺伝子(Prg2)の発現を解析した(
図28)。hK14mIL33tgマウスにおいて、IL-5中和抗体投与により、皮膚のIL-33遺伝子発現誘導には変化が無かったが、好酸球のマーカーであるPrg2の発現は有意に低下した。従って、IL-5中和抗体投与によってhK14mIL33tgマウスにおける皮膚への好酸球浸潤が抑制された。以上から、hK14mIL33tgマウスの好酸球増多には2型自然リンパ球などから産生されるIL-5が重要であることが示唆された。
【0074】
実施例17 hK14mIL33tgマウスにおけるステロイド薬による掻破行動抑制
hK14mIL33tgマウスの掻破行動に対するステロイド薬の効果を検証した。hK14mIL33tgマウスの皮疹部に、対照として白色ワセリン、ステロイド薬としてベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルを2日おきに5回塗布した。皮疹スコアとして掻痒、紅斑/出血、浮腫、表皮剥離/糜爛、落屑/乾燥の5項目について、無し(0点)、軽度(1点)、中等度(2点)、重症(3点)で評価を行った(Matsuda H et al., Int. Immunol, 9(3):461-466, 1997)。その結果、皮疹スコアの合計点が平均12.3点から塗布後に4.8点にまで減少し、有意な改善が確認できた(
図29)。