特許第6362044号(P6362044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362044
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0256 20060101AFI20180712BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20180712BHJP
   H01L 31/0216 20140101ALI20180712BHJP
   H01L 31/068 20120101ALI20180712BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   H01L31/04 320
   H01L31/04 420
   H01L31/04 240
   H01L31/06 300
   H01L21/363
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-103670(P2014-103670)
(22)【出願日】2014年5月19日
(65)【公開番号】特開2015-220371(P2015-220371A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年5月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(チーム型研究(CREST))産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137615
【弁理士】
【氏名又は名称】横山 照夫
(72)【発明者】
【氏名】末益 崇
(72)【発明者】
【氏名】都甲 薫
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 徳隆
(72)【発明者】
【氏名】原 康祐
【審査官】 河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/131639(WO,A1)
【文献】 特開2012−009494(JP,A)
【文献】 米国特許第05084411(US,A)
【文献】 Kosuke O. Hara et al.,Determination of Bulk Minority-Carrier Lifetime in BaSi2 Earth-Abundant Absorber Films by Utilizing a Drastic Enhancement of Carrier Lifetime by Post-Growth Annealing,Applied Physics Express,2013年,Vol.6, No.11,p.112302
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にバリウムシリサイドを含む半導体層を形成する工程と、
前記半導体層の表面を酸化雰囲気に曝すことなく前記半導体層上に、バリウム層またはシリコン層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記バリウム層またはシリコン層を形成した後、前記バリウム層またはシリコン層の表面を酸化雰囲気に曝す工程を含むことを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記バリウム層またはシリコン層を形成する温度は、前記バリウム層またはシリコン層と前記半導体層とが反応する温度より低いことを特徴とする請求項1または2記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
基板上に形成されたバリウムシリサイドを含む半導体層と、
前記半導体層上に、当該半導体層と直接接して設けられ、バリウム原子濃度とシリコン原子濃度との和に対するバリウム原子濃度の比が、前記半導体層における前記比より大きく、かつ酸化バリウムを含む表面層と、
を具備することを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
前記表面層の表面をXPS分析したときのC1s信号のCO結合のピークは、バリウムシリサイド層の表面をXPS分析したときのC1s信号のCO結合のピークより高いことを特徴とする請求項4記載の半導体装置。
【請求項6】
基板上に形成されたバリウムシリサイドを含む半導体層と、
前記半導体層上に、当該半導体層と直接接して設けられ、バリウム原子濃度とシリコン原子濃度との和に対するシリコン原子濃度の比が、前記半導体層における前記比より大きく、かつ酸化シリコンを含む表面層と、
を具備することを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
前記表面層の表面をXPS分析したときのSi2p信号のSiO結合のピークは、バリウムシリサイド層の表面をXPS分析したときのSi2p信号のSiO結合のピークより高いことを特徴とする請求項6記載の半導体装置。
【請求項8】
第1電極と第2電極とを具備し、
前記半導体層は、バリウムシリサイドを含むn型半導体層とバリウムシリサイドを含むp型半導体層とのいずれか一方の第1層と、前記一方の層上に形成された前記n型半導体層と前記p型半導体層との他方の第2層と、を含み、
前記第1電極は前記第1層に電気的に接続され、
前記第2電極は前記第2層に電気的に接続されたことを特徴とする請求項4から7のいずれか一項記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に関し、バリウムシリサイドを含む半導体層を有する半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バリウムシリサイド(BaSi)を含む半導体層を用いた太陽電池が開発されている。太陽光のスペクトルからエネルギー変換効率が高くなる半導体のバンドギャップエネルギーは1.4eVから1.6eVである。バリウムシリサイドのバンドギャップエネルギーは1.3eVであり、シリコンの1.1eVより、変換効率が高くなるバンドギャップエネルギーに近い。このため、バリウムシリサイドを用いた太陽電池は、高いエネルギー変換効率が期待できる。半導体の表面には、多数の欠陥が存在する。このような欠陥により、半導体層の少数キャリア寿命時間が短くなる。太陽電池の半導体層には、少数キャリア寿命時間が長いことが求められる。
【0003】
非特許文献1では、μ−PCD(microwave photo conductivity decay)法を用いバリウムシリサイド層の少数キャリア寿命時間を測定している。非特許文献1の図1に示されているように、バリウムシリサイド層を形成した後に、800℃において熱処理することにより、バリウムシリサイド層の少数キャリア寿命時間を長くすることができる。800℃において熱処理したバリウムシリサイド層の少数キャリア寿命時間は、膜厚が5μm程度の太陽電池に応用するには十分に長い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Appl. Phys. Express 6, 112302 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
太陽電池は、p型バリウムシリサイド層とn型バリウムシリサイド層とからなるpn接合を有する。しかしながら、800℃において熱処理することにより、p型バリウムシリサイド層とn型バリウムシリサイド層の不純物原子が相互に拡散する。これにより、pn接合が崩れてしまう。また、例えば膜厚が1μm以上のバリウムシリサイド層を熱処理すると、バリウムシリサイド層が割れ、クラックが発生する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、少数キャリア寿命時間を長くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板上にバリウムシリサイドを含む半導体層を形成する工程と、前記半導体層の表面を酸化雰囲気に曝すことなく前記半導体層上に、バリウム層またはシリコン層を形成する工程と、を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【0008】
上記構成において、前記バリウム層またはシリコン層を形成した後、前記バリウム層またはシリコン層の表面を酸化雰囲気に曝す工程を含む構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記バリウム層またはシリコン層を形成する温度は、前記バリウム層またはシリコン層と前記半導体層とが反応する温度より低い構成とすることができる。
【0010】
本発明は、基板上に形成されたバリウムシリサイドを含む半導体層と、前記半導体層上に、当該半導体層と直接接して設けられ、バリウム原子濃度とシリコン原子濃度との和に対するバリウム原子濃度の比が、前記半導体層における前記比より大きく、かつ酸化バリウムを含む表面層と、を具備することを特徴とする半導体装置である。
【0011】
上記構成において、前記表面層の表面をXPS分析したときのC1s信号のCO結合のピークは、バリウムシリサイド層の表面をXPS分析したときのC1s信号のCO結合のピークより高い構成とすることができる。
【0012】
本発明は、基板上に形成されたバリウムシリサイドを含む半導体層と、前記半導体層上に、当該半導体層と直接接して設けられ、バリウム原子濃度とシリコン原子濃度との和に対するシリコン原子濃度の比が、前記半導体層における前記比より大きく、かつ酸化シリコンを含む表面層と、を具備することを特徴とする半導体装置である。
【0013】
上記構成において、前記表面層の表面をXPS分析したときのSi2p信号のSiO結合のピークは、バリウムシリサイド層の表面をXPS分析したときのSi2p信号のSiO結合のピークより高い構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、第1電極と第2電極とを具備し、前記半導体層は、バリウムシリサイドを含むn型半導体層とバリウムシリサイドを含むp型半導体層とのいずれか一方の第1層と、前記一方の層上に形成された前記n型半導体層と前記p型半導体層との他方の第2層と、を含み、前記第1電極は前記第1層に電気的に接続され、前記第2電極は前記第2層に電気的に接続された構成とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少数キャリア寿命時間を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(a)から図1(c)は、比較例に係るバリウムシリサイド層の形成方法を示す断面図である。
図2図2(a)および図2(b)は、比較例におけるサンプルAからFの時間に対するマイクロ波強度を示す図である。
図3図3は、比較例における平均グレイン面積に対する少数キャリア寿命時間τSRHを示す図である。
図4図4(a)および図4(b)は、FWHMおよびa軸格子定数に対する少数キャリア寿命時間τSRHを示す図である。
図5図5(a)から図5(d)は、比較例におけるそれぞれBa3d5/2、O1s、Si2p、C1sの信号を示す図である。
図6図6(a)から図6(d)は、実施例1に係る半導体装置の製造工程を示す断面図である。
図7図7は、サンプルHの時間に対するマイクロ波強度を示す図である。
図8図8は、実施例1および比較例における平均グレイン面積に対する少数キャリア寿命時間を示す図である。
図9図9(a)から図9(d)は、実施例1におけるそれぞれBa3d5/2、O1s、Si2p、C1sの信号を示す図である。
図10図10は、実施例2に係る半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、比較例に係るバリウムシリサイド層を形成し、少数キャリア寿命を測定した。図1(a)から図1(c)は、比較例に係るバリウムシリサイド層の形成方法を示す断面図である。図1(a)に示すように、基板10を準備する。基板10は、FZ−n型シリコン(Si)基板である。シリコン基板10の主面は(111)面であり、抵抗率は1000Ω・cmより大きい。図1(b)に示すように、基板10上に島状のバリウムシリサイド種層18を形成する。種層18はRDE(reactive deposition epitaxy)法を用い形成する。RDE法では、シリコン基板10上にバリウム原子を堆積させることにより、バリウム原子と基板10のシリコン原子とが反応しバリウムシリサイド種層18が形成される。図1(c)に示すように、種層18上にバリウムシリサイド層12を形成する。バリウムシリサイド層12は、MBE(molecular beam epitaxy)法を用い形成する。バリウムレートRBaとシリコンレートRSiとの比RBa/RSi=3とする。これにより、シリコン基板10の(111)面の法線方向がバリウムシリサイド層12のa軸方向となるように、バリウムシリサイド層12が成長する。バリウムシリサイド層12の膜厚は0.5μmである。バリウムシリサイド層12には、粒界13により分離される多数のグレインが形成される。
【0018】
種層18を形成するときのバリウムレートRBaが遅く成長時間が長いと、種層18の島の面積S0が大きくなり、バリウムシリサイド層12のグレイン面積Sが大きくなる。バリウムレートRBaが速く成長時間が短いと、種層18の島の面積S0が小さくなり、バリウムシリサイド層12のグレイン面積Sが小さくなる。種層18のバリウムレートRBaを1nm/分から0.25nm/分の間で5段階変え、6つのサンプルAからサンプルFを作製した。種層18の成長時間は、バリウムレートRBaに応じ5分から120分とした。
【0019】
表1は、サンプルAからFの平均グレイン面積およびサンプルを大気に曝露した後の表面状態を示す表である。
【表1】
【0020】
サンプルAからFについてμ−PCD法を用い少数キャリア寿命を測定した。μ−PCD法においては、サンプル表面にマイクロ波を照射し、マイクロ波の反射強度を測定する。サンプル表面に光を照射すると、サンプル内に電子−ホール対が生じる。このため、マイクロ波の反射強度が大きくなる。光を遮断すると、少数キャリアが消滅し、マイクロ波の反射が小さくなる。光を遮断してからのマイクロ波の反射強度を測定することにより、少数キャリア寿命時間が測定できる。サンプルに照射するマイクロ波の周波数は26GHzとした。サンプルに照射する光は波長が349nmのレーザ光であり、照射時間は5nsである。
【0021】
図2(a)および図2(b)は、比較例におけるサンプルAからFの時間に対するマイクロ波強度を示す図である。図2(a)および図2(b)に示すように、レーザ光を遮断した後、マイクロ波強度が急激に減衰する。図2(a)では、0.2μs以降、図2(b)では、1μs以降の減衰が少数キャリア寿命時間τSRHに相当する。
【0022】
図3は、比較例における平均グレイン面積に対する少数キャリア寿命時間τSRHを示す図である。図3に示すように、平均グレイン面積が7.5μm以下のサンプル群Aでは、τSRHが小さく、平均グレイン面積が7.5μm以上のサンプル群Bでは、τSRHが大きい。サンプル群Aには、サンプルAおよびCが含まれ、サンプル群Bには、サンプルB、DからFが含まれる。さらに、サンプル群Aのサンプル表面は鏡面である。サンプル群Bのサンプル表面は白濁している。
【0023】
サンプルAからFについて、X線回折法を用い、BaSiの(600)面の信号強度の半値幅(FWHM:full width at half maximum)とa軸格子定数を測定した。図4(a)および図4(b)は、FWHMおよびa軸格子定数に対する少数キャリア寿命時間τSRHを示す図である。図4(a)および図4(b)に示すように、バリウムシリサイド層12の結晶性と少数キャリア寿命時間τSRHとには相関がない。
【0024】
サンプルAおよびBの表面をXPS(X-ray photoelectron spectroscopy)法を用い分析した。X線は、Al Kα線(1486.6eV)を用いた。プロビング深さは3nm程度である。図5(a)から図5(d)は、比較例におけるそれぞれBa3d5/2、O1s、Si2p、C1sの信号を示す図である。図5(a)から図5(d)中の縦線およびHバーは、主な結合のエネルギーを示している。図5(a)から図5(d)に示すように、サンプルAとBとで大きな違いはない。このように、サンプルの表面状態と少数キャリア寿命時間とには相関があまりない。
【0025】
以上のように、少数キャリア寿命時間が長いサンプル群Bと短いサンプル群Aが存在する。サンプル群AとBとの違いは、平均グレイン面積とサンプル表面の曇りである。平均グレイン面積およびサンプル表面の曇りが少数キャリア寿命時間に直接関係するか否かは定かではない。しかし、発明者らのこれまでの実験によると、平均グレイン面積が7.5μm以下かつサンプル表面が鏡面のサンプルの少数キャリア寿命時間は短い。そこで、平均グレイン面積が7.5μm以下かつサンプル表面が鏡面のサンプルにおいて、少数キャリア寿命時間を長くする方法があれば、どのようなサンプルにおいても少数キャリア寿命時間を長くできると考えられる。
【0026】
以下、平均グレイン面積が7.5μm以下かつサンプル表面が鏡面のサンプルにおいても少数キャリア寿命時間を長くできる実施例について説明する。
【実施例1】
【0027】
図6(a)から図6(d)は、実施例1に係る半導体装置の製造工程を示す断面図である。図6(a)に示すように、基板10を準備する。基板10は、(111)面を主面とし、抵抗率が1000Ω・cmより大きいFZ−n型シリコン単結晶基板である。図6(b)に示すように、基板10上にRDE法およびMBE法を用いバリウムシリサイド層12を形成する。バリウムシリサイド層12の平均グレイン面積を7.5μm以下となるようにする。図6(c)に示すように、バリウムシリサイド層12の表面を大気に露出せず、MBEチャンバ内で、バリウムシリサイド層12上に表面層14を形成する。表面層14は、バリウム層またはシリコン層であり、表面層14の膜厚は3nmである。表面層14の成長温度は100℃である。図6(d)に示すように、サンプルをMBEチャンバより取り出し、表面層14を大気に曝露する。これにより、表面層14の少なくとも一部が酸化する。
【0028】
表2は、サンプルGおよびHの平均グレイン面積およびサンプル表面状態を示す表である。
【表2】
【0029】
サンプルGおよびHは、表面層14としてそれぞれバリウム層およびシリコン層を形成したサンプルである。サンプルGおよびHとも平均グレイン面積は、7.5μm以下であり、サンプル表面は鏡面である。
【0030】
サンプルGおよびHについてμ−PCD法を用い少数キャリア寿命を測定した。測定方法は比較例と同じである。図7は、サンプルHの時間に対するマイクロ波強度を示す図である。図7に示すように、レーザ光を遮断すると時定数τAugerでマイクロ波強度が減衰する。この減衰は、オージェ再結合による減衰である。次に、時定数τSRHでマイクロ波強度が減衰する。この減衰は、欠陥を介した電子とホールの再結合による減衰である。さらに、時定数τSRH−trappingでマイクロ波強度が減衰する。この減衰は、少数キャリアのトラップによる減衰である。オージェ再結合は、レーザ光が強くかつバリウムシリサイド層12の光吸収係数が大きいために生じる再結合である。バリウムシリサイド層12を太陽電池として使用する場合、このような強い光は照射されないため、オージェ再結合が生じることはない。そこで、時定数τSRHを少数キャリア寿命時間として用いる。
【0031】
図8は、実施例1および比較例における平均グレイン面積に対する少数キャリア寿命時間を示す図である。図8に示すように、サンプルGおよびHは、平均グレイン面積がサンプル群Aと同程度であり、サンプル表面が鏡面であるにも係わらず、少数キャリア寿命時間はサンプル群Bと同程度であり、非特許文献1の800℃熱処理したサンプルと同程度である。このように、実施例1においては、非特許文献1のように、高温における熱処理を行なわなくとも少数キャリア寿命時間を長くできる。
【0032】
サンプルGおよびHのXPS分析を行なった。分析方法は比較例と同じである。図9(a)から図9(d)は、実施例1におけるそれぞれBa3d5/2、O1s、Si2p、C1sの信号を示す図である。図9(a)から図9(d)中の縦線およびHバーは、主な結合のエネルギーを示している。図9(a)に示すように、Ba3d5/2のピークは、図5(a)の比較例のピークと大きくは違わない。図9(b)に示すように、サンプルGでは、ピークはBa−O結合に近く、サンプルHではSi−O、C=OまたはC−O−C結合に近い。図9(c)に示すように、サンプルHでは、図5(c)の比較例に比べ、Si−SiとSiO結合のピークが大きくなる。図9(d)に示すように、サンプルGでは、図5(d)の比較例に比べ、CO結合のピークが大きくなる。
【0033】
表3は、比較例および実施例1のサンプルA、B、GおよびHの各原子濃度と少数キャリア寿命時間を示す表である。各原子濃度はXPS分析により得られた結果である。
【表3】
【0034】
サンプルB、GおよびHは、サンプルAに比べ、酸素の原子濃度が高い。このように、表面の酸素濃度が高いと少数キャリア寿命時間が長くなる。さらに、サンプルGでは、バリウム原子濃度がサンプルAおよびBより高く、サンプルHでは、シリコン原子濃度がサンプルAおよびBより高い。
【0035】
以上のように、サンプルGでは、バリウムシリサイド層12の表面に酸化バリウム(例えばBaOまたはBaCO)が形成されている。サンプルHでは、バリウムシリサイド層12の表面に酸化シリコン(例えばSiO)が形成されている。これらの酸化膜により、バリウムシリサイド層12の表面が不活性化し、少数キャリア寿命時間が長くなると考えられる。
【0036】
実施例1によれば、図6(a)のように、基板10上にバリウムシリサイド層12を形成する。図6(b)のように、バリウムシリサイド層12の表面を酸化雰囲気に曝すことなくバリウムシリサイド層12上に、表面層14としてバリウム層またはシリコン層を形成する。これにより、図8のように、平均グレイン面積が小さくかつサンプル表面が鏡面のサンプルGおよびHにおいても少数キャリア寿命時間をサンプル群B程度とすることができる。このように、実施例1では、高温での熱処理を行なうことなく、少数キャリア寿命時間を長くすることができる。よって、バリウムシリサイド層12の割れおよびクラックを抑制し、かつ少数キャリア寿命時間を長くできる。
【0037】
図6(d)のように、表面層14を形成した後、表面層14の表面を酸化雰囲気に曝す。このとき、表面層14のバリウム層またはシリコン層が酸化し、バリウムシリサイド層12の表面に、酸化バリウムまたは酸化シリコンが形成される。これにより、バリウムシリサイド層12の表面が不活性化すると考えられる。酸化雰囲気としては、大気以外にも例えば酸素を含む雰囲気を用いることができる。
【0038】
図6(c)において、表面層14を形成する温度は、表面層14であるバリウム層またはシリコン層とバリウムシリサイド層12とが反応する温度より低いことが好ましく、例えば200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
【0039】
図6(c)において、表面層14の膜厚は、図6(d)において表面層14を大気に暴露したときに、バリウム層またはシリコン層が金属としてほとんど残存しない程度の膜厚が好ましい。例えば表面層14の膜厚は20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましく、5nm以下がさらに好ましい。
【0040】
バリウムシリサイド層12は、バリウムシリサイドを含む半導体層であればよい。バリウムシリサイド層12は、バリウムシリサイド層以外に、例えばストロンチウム(Sr)を含んでいてもよい。つまり、バリウムシリサイドとストロンチウムシリサイドの混晶でもよい。また、バリウムシリサイド層12は、ストロンチウムシリサイド以外のシリサイドとバリウムシリサイドとの混晶でもよい。さらに、バリウムシリサイド層12は、例えばマグネシウム(Mg)またはカルシウム(Ca)等のII族の元素(すなわちアルカリ土類金属元素)を含んでもよく、マグネシウムシリサイドまたはカルシウムシリサイドとバリウムシリサイドとの混晶でもよい。バリウムシリサイド層12は、少なくともバリウムシリサイドを含むアルカリ土類金属シリサイドでもよい。
【0041】
基板10としてシリコン基板を例に説明したが、他の基板でもよい。基板10として、例えば半導体基板、またはガラス基板等の絶縁基板を用いることができる。バリウムシリサイド層12および表面層14の成長方法としてRDE法およびMBE法を例に説明したが蒸着、CVD(chemical vapor deposition)法等を用いることもできる。
【0042】
サンプルGでは、表3のように、表面層14は、表面層14を形成しないバリウムシリサイド層12(例えばサンプルAおよびB)に比べ、バリウムの原子濃度を高くする。すなわち、表面層14におけるバリウム原子濃度とシリコン原子濃度との和に対するバリウム原子濃度の比(バリウム/(バリウム+シリコン)比)が、バリウムシリサイド層におけるバリウム/(バリウム+シリコン)比より大きくする。さらに、表面層14内のバリウムを、酸化バリウムとする。すなわち、表面層14は、酸化バリウムを含む。これにより、少数キャリア寿命時間を長くできる。
【0043】
例えば、表面層14におけるバリウム/(バリウム+シリコン)比は、0.5以上とすることがより好ましい。また、表面層14のバリウムの原子濃度は、バリウムシリサイド層12の1.5倍以上であることがより好ましい。
【0044】
さらに、図5(d)と図9(d)を比較すると、実施例1のサンプルGにおける表面層14の表面をXPS分析したときのC1s信号のCO結合のピークは、バリウムシリサイド層の表面をXPS分析したときのC1s信号のCO結合のピークより高い。表面層14のC1s信号のCO結合のピークの高さは、バリウムシリサイド層12の表面の2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。
【0045】
サンプルHでは、表3のように、表面層14は、表面層14を形成しないバリウムシリサイド層12(例えばサンプルAおよびB)に比べ、シリコンの原子濃度を高くする。すなわち、表面層14におけるバリウム原子濃度とシリコン原子濃度との和に対するシリコン原子濃度の比(シリコン/(バリウム+シリコン)比)が、バリウムシリサイド層におけるシリコン/(バリウム+シリコン)比より大きくする。さらに、表面層14内のシリコンを、酸化シリコンとする。すなわち、表面層14は、酸化シリコンを含む。これにより、少数キャリア寿命時間を長くできる。
【0046】
例えば、表面層14におけるシリコン/(バリウム+シリコン)比は、0.8以上とすることがより好ましい。また、表面層14のシリコンの原子濃度は、バリウムシリサイド層12の1.5倍以上であることがより好ましい。
【0047】
さらに、図5(c)と図9(c)を比較すると、実施例1のサンプルHにおける表面をXPS分析したときのSi2p信号のSiO結合のピークは、バリウムシリサイド層の表面をXPS分析したときのSi2p信号のSiO結合のピークより高い。表面層14のSi2p信号のSiO結合のピークの高さは、バリウムシリサイド層12の表面の2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。
【0048】
さらに、実施例1のサンプルHにおける表面をXPS分析したときのSi2p信号のS−Si結合のピークは、バリウムシリサイド層の表面をXPS分析したときのSi2p信号のSi−Si結合のピークより高い。表面層14のSi2p信号のSi−Si結合のピークの高さは、バリウムシリサイド層12の表面の2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。
【実施例2】
【0049】
実施例2は、実施例1を用いた太陽電池の例である。図10は、実施例2に係る半導体装置の断面図である。図10に示すように、基板30上に半導体層36が形成されている。基板30は例えばシリコン基板である。半導体層36は、例えばバリウムシリサイド層である。半導体層36は、第1層32と、第1層32上に形成された第2層34と、を備える。第1層32はn型半導体層とp型半導体層とのいずれか一方であり、第2層34はn型半導体層とn型半導体層との他方である。基板30は、第1層32と同じ導電型でもよいし異なる導電型でもよい。第1層32と第2層34とによりpn接合が形成される。半導体層36上に表面層38が形成されている。表面層38は、実施例1の表面層14と同じである。基板30には第1電極42が接続されている。表面層38上に第2電極40として透明導電膜が形成されている。第1電極42および第2電極40は、それぞれ第1層32および第2層34と電気的に接続されている。
【0050】
実施例2のように、実施例1を太陽電池に用いることができる。太陽電池以外の半導体装置に用いることもできる。
【0051】
以上、発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10、30 基板
12 バリウムシリサイド層
14、38 表面層
18 種層
32 第1層
34 第2層
36 半導体層
40 第2電極
42 第1電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10