【実施例1】
【0027】
図6(a)から
図6(d)は、実施例1に係る半導体装置の製造工程を示す断面図である。
図6(a)に示すように、基板10を準備する。基板10は、(111)面を主面とし、抵抗率が1000Ω・cmより大きいFZ−n型シリコン単結晶基板である。
図6(b)に示すように、基板10上にRDE法およびMBE法を用いバリウムシリサイド層12を形成する。バリウムシリサイド層12の平均グレイン面積を7.5μm
2以下となるようにする。
図6(c)に示すように、バリウムシリサイド層12の表面を大気に露出せず、MBEチャンバ内で、バリウムシリサイド層12
上に表面層14を形成する。表面層14は、バリウム層またはシリコン層であり、表面層14の膜厚は3nmである。表面層14の成長温度は100℃である。
図6(d)に示すように、サンプルをMBEチャンバより取り出し、表面層14を大気に曝露する。これにより、表面層14の少なくとも一部が酸化する。
【0028】
表2は、サンプルGおよびHの平均グレイン面積およびサンプル表面状態を示す表である。
【表2】
【0029】
サンプルGおよびHは、表面層14としてそれぞれバリウム層およびシリコン層を形成したサンプルである。サンプルGおよびHとも平均グレイン面積は、7.5μm
2以下であり、サンプル表面は鏡面である。
【0030】
サンプルGおよびHについてμ−PCD法を用い少数キャリア寿命を測定した。測定方法は比較例と同じである。
図7は、サンプルHの時間に対するマイクロ波強度を示す図である。
図7に示すように、レーザ光を遮断すると時定数τ
Augerでマイクロ波強度が減衰する。この減衰は、オージェ再結合による減衰である。次に、時定数τ
SRHでマイクロ波強度が減衰する。この減衰は、欠陥を介した電子とホールの再結合による減衰である。さらに、時定数τ
SRH−trappingでマイクロ波強度が減衰する。この減衰は、少数キャリアのトラップによる減衰である。オージェ再結合は、レーザ光が強くかつバリウムシリサイド層12の光吸収係数が大きいために生じる再結合である。バリウムシリサイド層12を太陽電池として使用する場合、このような強い光は照射されないため、オージェ再結合が生じることはない。そこで、時定数τ
SRHを少数キャリア寿命時間として用いる。
【0031】
図8は、実施例1および比較例における平均グレイン面積に対する少数キャリア寿命時間を示す図である。
図8に示すように、サンプルGおよびHは、平均グレイン面積がサンプル群Aと同程度であり、サンプル表面が鏡面であるにも係わらず、少数キャリア寿命時間はサンプル群Bと同程度であり、非特許文献1の800℃熱処理したサンプルと同程度である。このように、実施例1においては、非特許文献1のように、高温における熱処理を行なわなくとも少数キャリア寿命時間を長くできる。
【0032】
サンプルGおよびHのXPS分析を行なった。分析方法は比較例と同じである。
図9(a)から
図9(d)は、実施例1におけるそれぞれBa3d
5/2、O1s、Si2p、C1sの信号を示す図である。
図9(a)から
図9(d)中の縦線およびHバーは、主な結合のエネルギーを示している。
図9(a)に示すように、Ba3d
5/2のピークは、
図5(a)の比較例のピークと大きくは違わない。
図9(b)に示すように、サンプルGでは、ピークはBa−O結合に近く、サンプルHではSi−O、C=OまたはC−O−C結合に近い。
図9(c)に示すように、サンプルHでは、
図5(c)の比較例に比べ、Si−SiとSiO
2結合のピークが大きくなる。
図9(d)に示すように、サンプルGでは、
図5(d)の比較例に比べ、CO
3結合のピークが大きくなる。
【0033】
表3は、比較例および実施例1のサンプルA、B、GおよびHの各原子濃度と少数キャリア寿命時間を示す表である。各原子濃度はXPS分析により得られた結果である。
【表3】
【0034】
サンプルB、GおよびHは、サンプルAに比べ、酸素の原子濃度が高い。このように、表面の酸素濃度が高いと少数キャリア寿命時間が長くなる。さらに、サンプルGでは、バリウム原子濃度がサンプルAおよびBより高く、サンプルHでは、シリコン原子濃度がサンプルAおよびBより高い。
【0035】
以上のように、サンプルGでは、バリウムシリサイド層12の表面に酸化バリウム(例えばBaO
2またはBaCO
3)が形成されている。サンプルHでは、バリウムシリサイド層12の表面に酸化シリコン(例えばSiO
2)が形成されている。これらの酸化膜により、バリウムシリサイド層12の表面が不活性化し、少数キャリア寿命時間が長くなると考えられる。
【0036】
実施例1によれば、
図6(a)のように、基板10上にバリウムシリサイド層12を形成する。
図6(b)のように、バリウムシリサイド層12の表面を酸化雰囲気に曝すことなくバリウムシリサイド層12上に、表面層14としてバリウム層またはシリコン層を形成する。これにより、
図8のように、平均グレイン面積が小さくかつサンプル表面が鏡面のサンプルGおよびHにおいても少数キャリア寿命時間をサンプル群B程度とすることができる。このように、実施例1では、高温での熱処理を行なうことなく、少数キャリア寿命時間を長くすることができる。よって、バリウムシリサイド層12の割れおよびクラックを抑制し、かつ少数キャリア寿命時間を長くできる。
【0037】
図6(d)のように、表面層14を形成した後、表面層14の表面を酸化雰囲気に曝す。このとき、表面層14のバリウム層またはシリコン層が酸化し、バリウムシリサイド層12の表面に、酸化バリウムまたは酸化シリコンが形成される。これにより、バリウムシリサイド層12の表面が不活性化すると考えられる。酸化雰囲気としては、大気以外にも例えば酸素を含む雰囲気を用いることができる。
【0038】
図6(c)において、表面層14を形成する温度は、表面層14であるバリウム層またはシリコン層とバリウムシリサイド層12とが反応する温度より低いことが好ましく、例えば200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
【0039】
図6(c)において、表面層14の膜厚は、
図6(d)において表面層14を大気に暴露したときに、バリウム層またはシリコン層が金属としてほとんど残存しない程度の膜厚が好ましい。例えば表面層14の膜厚は20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましく、5nm以下がさらに好ましい。
【0040】
バリウムシリサイド層12は、バリウムシリサイドを含む半導体層であればよい。バリウムシリサイド層12は、バリウムシリサイド層以外に、例えばストロンチウム(Sr)を含んでいてもよい。つまり、バリウムシリサイドとストロンチウムシリサイドの混晶でもよい。また、バリウムシリサイド層12は、ストロンチウムシリサイド以外のシリサイドとバリウムシリサイドとの混晶でもよい。さらに、バリウムシリサイド層12は、例えばマグネシウム(Mg)またはカルシウム(Ca)等のII族の元素(すなわちアルカリ土類金属元素)を含んでもよく、マグネシウムシリサイドまたはカルシウムシリサイドとバリウムシリサイドとの混晶でもよい。バリウムシリサイド層12は、少なくともバリウムシリサイドを含むアルカリ土類金属シリサイドでもよい。
【0041】
基板10としてシリコン基板を例に説明したが、他の基板でもよい。基板10として、例えば半導体基板、またはガラス基板等の絶縁基板を用いることができる。バリウムシリサイド層12および表面層14の成長方法としてRDE法およびMBE法を例に説明したが蒸着、CVD(chemical vapor deposition)法等を用いることもできる。
【0042】
サンプルGでは、表3のように、表面層14は、表面層14を形成しないバリウムシリサイド層12(例えばサンプルAおよびB)に比べ、バリウムの原子濃度を高くする。すなわち、表面層14におけるバリウム原子濃度とシリコン原子濃度との和に対するバリウム原子濃度の比(バリウム/(バリウム+シリコン)比)が、バリウムシリサイド層におけるバリウム/(バリウム+シリコン)比より大きくする。さらに、表面層14内のバリウムを、酸化バリウムとする。すなわち、表面層14は、酸化バリウムを含む。これにより、少数キャリア寿命時間を長くできる。
【0043】
例えば、表面層14におけるバリウム/(バリウム+シリコン)比は、0.5以上とすることがより好ましい。また、表面層14のバリウムの原子濃度は、バリウムシリサイド層12の1.5倍以上であることがより好ましい。
【0044】
さらに、
図5(d)と
図9(d)を比較すると、実施例1のサンプルGにおける表面層14の表面をXPS分析したときのC1s信号のCO
3結合のピークは、バリウムシリサイド層の表面をXPS分析したときのC1s信号のCO
3結合のピークより高い。表面層14のC1s信号のCO
3結合のピークの高さは、バリウムシリサイド層12の表面の2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。
【0045】
サンプルHでは、表3のように、表面層14は、表面層14を形成しないバリウムシリサイド層12(例えばサンプルAおよびB)に比べ、シリコンの原子濃度を高くする。すなわち、表面層14におけるバリウム原子濃度とシリコン原子濃度との和に対するシリコン原子濃度の比(シリコン/(バリウム+シリコン)比)が、バリウムシリサイド層におけるシリコン/(バリウム+シリコン)比より大きくする。さらに、表面層14内のシリコンを、酸化シリコンとする。すなわち、表面層14は、酸化シリコンを含む。これにより、少数キャリア寿命時間を長くできる。
【0046】
例えば、表面層14におけるシリコン/(バリウム+シリコン)比は、0.8以上とすることがより好ましい。また、表面層14のシリコンの原子濃度は、バリウムシリサイド層12の1.5倍以上であることがより好ましい。
【0047】
さらに、
図5(c)と
図9(c)を比較すると、実施例1のサンプルHにおける表面をXPS分析したときのSi2p信号のSiO
2結合のピークは、バリウムシリサイド層の表面をXPS分析したときのSi2p信号のSiO
2結合のピークより高い。表面層14のSi2p信号のSiO
2結合のピークの高さは、バリウムシリサイド層12の表面の2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。
【0048】
さらに、実施例1のサンプルHにおける表面をXPS分析したときのSi2p信号のS−Si結合のピークは、バリウムシリサイド層の表面をXPS分析したときのSi2p信号のSi−Si結合のピークより高い。表面層14のSi2p信号のSi−Si結合のピークの高さは、バリウムシリサイド層12の表面の2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。