【文献】
Database GenBank [online], Accessin No. XM_001832177, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/169851075?sat=4&satkey=42865228>, 2010-Jun-28 uploaded, [retrieved on 2018-Jan-18], Definition: Coprinopsis cinerea okayama7#130 L-amino acid oxidase, mRNA
【文献】
Anal.Biochem. (2013) vol.438, no.2, p.124-132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
L−トリプトファンに対する作用性を100%とした場合に、L−フェニルアラニン及びL−チロシンに対する作用性が1%以下である請求項5記載のL−トリプトファンオキシダーゼ。
L−トリプトファンに対する作用性を100%とした場合に、L−フェニルアラニン及びL−チロシンに対する作用性が1%以下である請求項7記載のL−トリプトファン測定方法。
L−トリプトファンに対する作用性を100%とした場合に、L−フェニルアラニン及びL−チロシンに対する作用性が1%以下である請求項10記載のL−トリプトファン測定用試薬組成物。
L−トリプトファンに対する作用性を100%とした場合に、L−フェニルアラニン及びL−チロシンに対する作用性が1%以下である請求項13記載のL−トリプトファン測定用キット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、効率的な可溶性L−トリプトファンオキシダーゼの製造方法、並びに熱安定性や基質特異性が高い該酵素を使用して、短時間で正確なL−トリプトファン測定が可能な、L−トリプトファンの測定方法、測定試薬組成物及び測定キットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、スクリーニングにより単離したポリヌクレオチドを利用することにより、短期間で効率的に製造できる可溶性L−トリプトファンオキシダーゼの製造方法を見出すと共に、L−トリプトファンオキシダーゼの熱安定性や基質特異性が高いという知見から、短時間で正確なL−トリプトファン測定が可能なことを見出すことで、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[8]の態様に関する。
[1]以下の(a)、(b)又は(c)からなるポリヌクレオチド:
(a)配列番号1に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド、
(b)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列と類似性が少なくとも90%のアミノ酸配列を有し、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[2][1]に記載のポリヌクレオチドを保有する組換えベクター。
[3][1]に記載のポリヌクレオチドを保有する形質転換細胞。
[4][3]記載の形質転換細胞を培養し、得られた培養物からL−トリプトファンオキシダーゼを採取することを特徴とするL−トリプトファンオキシダーゼの製造方法。
[5]以下の(i)、(ii)又は(iii)からなる可溶性L−トリプトファンオキシダーゼ:
(i)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、
(ii)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列と類似性が少なくとも90%のアミノ酸配列を有し、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質、
(iii)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列において好ましくは多くとも55個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するL−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
[6]L−トリプトファンに対する作用性を100%とした場合に、L−フェニルアラニン及びL−チロシンに対する作用性が1%以下である[5]記載のL−トリプトファンオキシダーゼ。
[7][5]又は[6]記載のトリプトファンオキシダーゼを使用するL−トリプトファン測定方法。
[8]L−トリプトファンに対する作用性を100%とした場合に、L−フェニルアラニン及びL−チロシンに対する作用性が1%以下である[7]記載のL−トリプトファン測定方法。
[9][7]又は[8]記載の血中L−トリプトファン測定方法。
[10][5]又は[6]記載のトリプトファンオキシダーゼを含むL−トリプトファン測定用試薬組成物。
[11]L−トリプトファンに対する作用性を100%とした場合に、L−フェニルアラニン及びL−チロシンに対する作用性が1%以下である[10]記載のL−トリプトファン測定用試薬組成物。
[12][10]又は[11]記載の血中L−トリプトファン測定用試薬組成物。
[13][5]又は[6]記載のトリプトファンオキシダーゼを含むL−トリプトファン測定用キット。
[14]L−トリプトファンに対する作用性を100%とした場合に、L−フェニルアラニン及びL−チロシンに対する作用性が1%以下である[13]記載のL−トリプトファン測定用キット。
[15][13]又は[14]記載の血中L−トリプトファン測定用キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、熱安定性や基質特異性の高い可溶性のL−トリプトファンオキシダーゼを簡便に製造することができるようになり、酵素、並びに該酵素を含む試薬組成物及び測定キットの製造コストの削減も可能になった。加えて、種々のアミノ酸が夾雑する試料においても、短時間で正確かつ特異的なL−トリプトファン測定が可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリヌクレオチドは、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)からなるポリヌクレオチドである。
(a)配列番号1に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド、
(b)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列と類似性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、90%、92%、95%又は98%のアミノ酸配列を有し、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号1に示される塩基配列と同一性が少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%の塩基配列を有し、且つL−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(e)配列番号1のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つL−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(f)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列において好ましくは多くとも60個、より好ましくは多くとも55個、50個、40個、30個、20個、10個又は5個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するL−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
(g)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列と同一性が少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%のアミノ酸配列を有し、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
例えば、配列番号3〜5、7〜11、16〜18記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが例示でき、該塩基配列は
図3及び
図4に示している。配列番号3〜5、7〜11、16〜18記載の配列と類似性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、90%、92%、95%又は98%のアミノ酸配列を有し、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドでも良い。
【0015】
更に、本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは多くとも650アミノ酸、多くとも630アミノ酸又は多くとも600アミノ酸の配列長からなるL−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである。また、成熟タンパク質である活性酵素のアミノ酸配列において、N末端から、FAD結合モチーフ配列であるGly−Xaa−Gly−Xaa−Xaa−Glyの最初のGlyまでのアミノ酸数が、好ましくは多くとも100個、80個、70個、60個又は50個である、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドである。
【0016】
同一性は、GENETYX(ゼネティックス社製)の塩基配列同士又はアミノ酸配列同士のホモロジー解析により算出されたidentityの値に基づく。
【0017】
類似性は、GENETYX(ゼネティックス社製)のアミノ酸配列同士のホモロジー解析により算出されたSimilarityの値に基づく。
【0018】
本発明において、ハイブリダイズに際しての「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ」の具体的な条件とは、例えば、50%ホルムアミド、5×SSC(150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸三ナトリウム、10mM リン酸ナトリウム、1mM エチレンジアミン四酢酸、pH7.2)、5×デンハート(Denhardt’s)溶液、0.1% SDS、10% デキストラン硫酸及び100μg/mLの変性サケ精子DNAで42℃インキュベーションした後、フィルターを0.2×SSC中42℃で洗浄することを例示することができる。
【0019】
本発明において、「ポリヌクレオチド」とは、L−トリプトファンオキシダーゼをコードする合成DNA、染色体DNA、RNAから合成されたcDNA又はそれらを鋳型としてPCR増幅して得たポリヌクレオチドを含む。
【0020】
染色体DNA又はRNAの由来は特に制限されないが、真菌であるのが好ましく、より好ましくは担子菌又は子嚢菌であり、更に好ましくはハラタケ綱に属する菌由来であり、特に好ましくはCoprinopsis属、Volvariella属、Tricholoma属、Bjerkandera属、Cortinarius属又はPhanerochaete属に属する菌由来であり、Coprinopsis cinerea、Volvariella volvacea、Tricholoma matsutake、Bjerkandera adusta、Cortinarius glaucopus又はPhanerochaete carnosaを例示できる。
【0021】
前記真菌から染色体DNA又はRNAを抽出し、DNA又はcDNAライブラリーを調製することができる。続いて、精製したL−トリプトファンオキシダーゼのN末端アミノ酸配列及び/又は内部アミノ酸配列の解析データに基づいて該酵素をコードするポリヌクレオチドの取得用プライマーを作成する。又は、
図3及び
図4に示すアライメントに基づいて複数のオリゴヌクレオチドプローブ又は縮重プライマーを作製する。前記のプローブ又はプライマーを用いてハイブリダイズ、PCR、RT−PCR等、常法によって前記ライブラリーから、本発明のポリヌクレオチドを取得することができる。
【0022】
塩基配列の相同性を比較したアライメントに基づく取得方法は、具体的には、前記アライメントの内、同一性の高い部位から内部配列解読用のフォワードプライマー及びリバースプライマーを設計し、前記ライブラリーを鋳型としてPCRを行う。プライマー設計部位は、好ましくは15〜40塩基程度の配列長で同一性の高い部位であって、かつ、フォワードプライマーは、好ましくは増幅側(下流側)が少なくとも2塩基一致する部位で、リバースプライマーは、好ましくは増幅側(上流側)が少なくとも2塩基一致する部位を選択し、適宜混合塩基を使用して設計できる。この部位から設計したプライマーを用いてPCRを行う際、アニーリング温度は低く設定し、40〜50℃が好ましく、40〜45℃がより好ましい。1段階目で使用したプライマーセットの内側のプライマーセットを用いて2段階目のPCRを行っても良い。プライマーに利用した塩基の位置からPCR産物のサイズを予想し、該当するPCR産物を解読する。解読したPCR産物が配列番号1と少なくとも50%の同一性、好ましくは少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性があれば、本発明のポリヌクレオチドの内部配列を取得できている。次に解読した内部配列から、周知の方法で本発明のポリヌクレオチド全長を取得できる。つまり、本発明のL−トリプトファンオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドのORFの開始コドン周辺及び終止コドン周辺を解明するためにプライマーを設計し、該プライマーを用いて、前記ライブラリーを鋳型として5’−RACE法及び3’−RACE法を行う。その結果、ORFの開始コドン周辺及び終止コドン周辺が解明できる。続いて、解明した配列と配列番号2との相同性を比較したアライメントに基づき、配列番号2のN末端(1番目のアミノ酸)に相当する、解明した配列のN末端を決定して、N末端をコードする塩基から終止コドンまでのポリヌクレオチドを増幅できるプライマーを設計する。好ましくは該プライマーを用いて、前記ライブラリーを鋳型として本発明のポリヌクレオチドを取得することができる。
【0023】
本発明のポリヌクレオチドは、配列番号2記載のアミノ酸配列を用いて、機能未知の公開配列に対して例えばBLAST(blastp又はtblastn)等によるホモロジー検索を行い、類似性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも82%、85%、88%、90%、92%、95%、98%でヒットしたアミノ酸配列をコードする塩基配列から取得することができる。ヒットした公開配列と配列番号2との相同性を比較したアライメントに基づき、配列番号2のN末端(1番目のアミノ酸)に相当する、ヒットした配列のN末端を決定して、N末端をコードする塩基から終止コドンまでのポリヌクレオチドを増幅できるプライマーを公開配列から設計する。続いて、該塩基配列の由来株のDNA又はRNAを鋳型としてPCR又はRT−PCRにより増幅して得ることができる。更に増幅して得たポリヌクレオチドを用いて、常法により組換えタンパク質を取得し、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を確認することで、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであることが確認できれば良い。DNA又はRNAは、公開配列の由来株と同種又は同属の株からも得ることができる。
【0024】
本発明のポリヌクレオチドは、公知のミューテーション導入法や変異導入PCR法等によって改変して作製することができる。また、配列番号2〜11に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、例えば
図3及び
図4に示した塩基配列の情報を基に、周知の化学合成技術により、本発明のポリヌクレオチドを合成することができる。
【0025】
本発明の組換えベクターは、クローニングベクター又は発現ベクターであり、ベクターは適宜選択し、インサートとして本発明のポリヌクレオチドを含む。インサートとしては、宿主細胞に対応して、コドンの使用頻度を最適化したポリヌクレオチドを導入しても良い。更に、インサートは、宿主が真核細胞の場合、イントロンを含んでいても良い。遺伝子に開始コドンを含まない場合は、開始コドンを付加するか、又はベクター側の開始コドンを利用して、融合タンパク質として発現するベクターを選択しても良い。発現ベクターとしては、原核細胞発現用ベクター又は真核細胞発現用ベクターの何れでも良く、pUC系、pBluescriptII、pET発現システム、pGEX発現システム、pCold発現システムなどが例示できる。尚、必要に応じて、シャペロンやリゾチームなどの遺伝子を、本発明のポリヌクレオチドと同一及び/又は別のベクターに導入することも可能である。
【0026】
本発明の形質転換細胞としては、例えば、大腸菌、枯草菌等の原核細胞や、真菌(酵母、アスペルギルス属などの子嚢菌、担子菌等)、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞等を使用することができる。
【0027】
本発明の形質転換細胞を培養して得られた培養物からL−トリプトファンオキシダーゼを採取することによって、可溶性L−トリプトファンオキシダーゼを製造することができる。
【0028】
本発明で使用されるL−トリプトファンオキシダーゼ生産菌の培養には、通常の微生物培養用培地が使用でき、炭素源、窒素源、ビタミン類、無機物、その他使用する微生物が必要とする微量栄養素を程よく含有するものであれば、合成培地、天然培地の何れでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、デキストリン、澱粉、グリセリン、糖蜜などが使用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機塩類、DL−アラニン、L−グルタミン酸などのアミノ酸類、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカーなどの窒素含有天然物が使用できる。ビタミン類としては、リボフラビン、ピリドキシン、ナイアシン(ニコチン酸)、チアミンなどが使用できる。無機物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化第二鉄などが使用できる。更に、タンパク質の発現の調整に必要な化合物を適宜添加しても良い。
【0029】
本発明のL−トリプトファンオキシダーゼを得るための培養は、L−トリプトファンオキシダーゼの生産に適した培養条件に設定すれば特に限定されないが、培養温度は10℃から45℃、且つpH4からpH10の範囲で行うのが好ましい。培養期間は回分培養であれば、1日から8日以内の範囲が好ましいが、流加培養や連続培養による生産量増大を行うのであれば、生産性が最適と判断される範囲で期間を延ばすことができる。
【0030】
培養物中からL−トリプトファンオキシダーゼを得る方法は、通常のタンパク質の精製方法が使用できる。この方法は、例えば、L−トリプトファンオキシダーゼ生産菌を培養後、培養液を遠心分離して培養上清液を得る方法、又は培養微生物を得、適当な方法で該培養微生物を破砕及び/又は溶菌処理し、処理液から遠心分離などによって上清液を得る方法である。これらの上清液中に含まれるL−トリプトファンオキシダーゼは、限外ろ過、塩析、溶媒沈殿、熱処理、透析、イオン交換クロマトグラフィー、疎水吸着クロマトグラフィー、ゲルろ過、アフィニティークロマトグラフィーなどの適当な精製操作を組み合わせることによって精製できる。
【0031】
本発明の可溶性L−トリプトファンオキシダーゼは、好ましくは本発明のポリヌクレオチドにより形質転換した前記形質転換細胞より得られる組換えL−トリプトファンオキシダーゼである。
【0032】
本発明のL−トリプトファンオキシダーゼは、下記(1)、(2)、(3)及び(4)であり、好ましくは(5)、(6)又は(7)である。
(1)電子受容体存在下で、L−トリプトファンを酸化して、インドールピルビン酸、過酸化水素及びアンモニアを生成する反応を触媒する酵素であって、酸素に電子を授受することができる。
(2)補酵素としてフラビンが結合している。フラビンとしては、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)が挙げられる。
(3)下記(i)、(ii)、(iii)又は(iv)からなるタンパク質である。
(i)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。
(ii)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列と類似性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、88%、90%、92%、95%又は98%のアミノ酸配列を有し、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質である。
(iii)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列において好ましくは多くとも60個、より好ましくは多くとも55個、50個、40個、30個、20個、10個又は5個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するL−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質である。
(iv)配列番号2又は6記載のアミノ酸配列と同一性が少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%のアミノ酸配列を有し、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質である。
(4)膜非結合型酵素であり、可溶性である。
【0033】
(5)熱安定性が高く、熱処理前の活性を100%とした場合、40℃、1時間処理で好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の活性を保持する。
(6)好ましくは多くとも650アミノ酸、多くとも630アミノ酸、多くとも600アミノ酸の配列長からなるL−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質である。より好ましくは、成熟タンパク質のアミノ酸配列の先端にメチオニンから始まる1〜数アミノ酸を付加させた改変酵素である。
(7)成熟タンパク質である活性酵素のアミノ酸配列において、N末端から、FAD結合モチーフ配列であるGly−Xaa−Gly−Xaa−Xaa−Glyの最初のGlyまでのアミノ酸数が、好ましくは多くとも100個、80個、70個、60個又は50個であるタンパク質である。
例えば、配列番号3〜5、7〜11、16〜18記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、並びに該配列と類似性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、90%、92%、95%又は98%のアミノ酸配列を有し、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有するタンパク質でも良い。
【0034】
本発明のL−トリプトファンオキシダーゼは、L−トリプトファンに対する作用性を100%とした場合に、L−フェニルアラニン及びL−チロシンに対する作用性が低く、好ましくは3%以下であり、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下である。本発明のL−トリプトファンオキシダーゼは、L−トリプトファンに対する基質特異性が高いため、特異的なL−トリプトファン測定が可能である。
【0035】
本発明のL−トリプトファンオキシダーゼの酵素活性は、次の方法で測定できる。
(酵素活性測定法)
リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)が終濃度33.3mM、4−アミノアンチピリンが終濃度0.833mM、フェノール溶液が終濃度14mM、西洋わさびペルオキシダーゼが終濃度3.33units/ml、L−トリプトファンが終濃度33.3mMになるよう石英セルに入れ、恒温セルホルダー付き分光光度計にセットして37℃で10分間インキュベートした後、酵素溶液0.1mlを加えて撹拌し(総液量3.0ml)、500nmにおける5分間の吸光度(Absorbance)変化(△ABS/min)を測定する。そして、次の式により酵素活性を算出する。尚、式中のnは酵素の希釈倍率を表す。1分間に1μmolのL−トリプトファンが酸化される酵素活性を1unit(U)と定義する。
【0037】
本発明のL−トリプトファンオキシダーゼを用いて、L−トリプトファンを効率よく測定することができる。L−トリプトファンを含む被検試料と本発明のL−トリプトファンオキシダーゼとを接触させる工程を含み、過酸化水素を産生させる事などより、被検試料中のL−トリプトファンを定量することができる。本発明の測定対象は特に限定されないが、例えば生体試料が例示でき、血液試料の測定に適している。
【0038】
また、本発明のL−トリプトファンオキシダーゼを用いて、L−トリプトファン測定用試薬組成物を製造することができる。本発明の試薬組成物は、酵素として本発明のL−トリプトファンオキシダーゼを含む試薬組成物であれば良い。本組成物中の酵素量は、試料中のL−トリプトファン測定ができれば特に限定されないが、1試料当り0.001から200U程度が好ましく、0.05から50U程度がより好ましい。該試薬組成物の製造方法としては、該酵素と他の成分とを混合して製造することができる。例えば、牛血清アルブミン(BSA)若しくは卵白アルブミン、糖類(例えば、トレハロースなど)若しくは糖アルコール類、カルボキシル基含有化合物、アルカリ土類金属化合物、アンモニウム塩、硫酸塩又はタンパク質等から成る群より選ばれる安定化剤、抗酸化剤又は緩衝剤等の当業者に公知の安定化成分を適宜含有させ、該酵素や試薬成分の熱安定性や保存安定性を高めることができる。また、前記安定化剤やその他物質を、反応性向上又は特異性向上の目的で、前記試薬組成物に使用する事もできる。
【0039】
本発明のL−トリプトファンオキシダーゼ又は前記試薬組成物を用いて、L−トリプトファン測定キットを製造することができる。
【0040】
本発明の測定方法、測定試薬組成物及び測定キットは、L−フェニルアラニン及びL−チロシンへの作用性が低く、試料中の好ましくは200μM以下、より好ましくは150μM以下、更に好ましくは100μM以下、特に好ましくは80μM以下のL−フェニルアラニン及びL−チロシンへの作用性が低い。本発明の測定方法、並びに測定試薬組成物又は測定キットを用いた測定において、L−トリプトファンに対する作用性を100%とした場合に、試料中のL−フェニルアラニン及びL−チロシンへの作用性は、何れも好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下である。加えて、本発明の測定方法、測定試薬組成物及び測定キットは、L−グルタミンの影響をほとんど受けず、好ましくは1000μM以下、より好ましくは800μM以下、更に好ましくは600μM以下のL−グルタミンの影響をほとんど受けない。L−グルタミン存在下と非存在下とのL−トリプトファン測定値の差は、好ましくは15%以内、より好ましくは10%以内、更に好ましくは5%以内である。よって、本発明の測定方法、測定試薬組成物及び測定キットを使用すれば、夾雑物を含む試料中のL−トリプトファンの特異的測定が可能である。特に、本発明の測定方法、測定試薬組成物及び測定キットは、L−グルタミン存在下でのL−トリプトファンの測定に使用可能で、L−グルタミンは血中アミノ酸の内、最も高濃度で存在するため、血中のL−トリプトファン測定への使用に適している。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
(L−トリプトファンオキシダーゼ(TRO)の製造方法)
(1)L−トリプトファンオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドの取得
土壌から単離したL−トリプトファンオキシダーゼを産生する株を培養し、得られた培養物から、L−トリプトファンオキシダーゼを精製した。
精製酵素のN末端及び内部アミノ酸配列を解析した結果、N末端はTDPHQだった。
内部アミノ酸配列から5’−RACE法及び3’−RACE法用のプライマーを作成し、該酵素生産株から抽出したDNAを鋳型として、5’−RACE法及び3’−RACE法を行い、該酵素をコードするポリヌクレオチドの一部の塩基配列を解明した。
解明した塩基配列より、該酵素をコードするポリヌクレオチドを含むORFを予測して、開始コドンから終始コドンまでのポリヌクレオチドを取得するプライマーを作成した。該プライマーを用いて、該酵素生産株から抽出したRNAを鋳型としてRT−PCRを行って、ORFの塩基配列を解明した。
該酵素のN末端配列より、成熟タンパク質である酵素をコードする塩基配列を予測し、配列番号1に示した。該酵素のアミノ酸配列を配列番号2に示した。
【0043】
(2−1)L−トリプトファンオキシダーゼの組換え微生物による製造
L−トリプトファンオキシダーゼ産生株から抽出したRNAを鋳型として、下記プライマー1及び2(配列番号12及び13)を用いたRT−PCRにより、インサートを調製した。インサートは、配列番号1記載の塩基配列の上流にatgが付加し、NheI制限酵素サイトを有し、また下流にXhoI制限酵素サイトを有するDNAである。該インサートをpET−21(a)+ベクターに挿入し、L−トリプトファンオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドが挿入されたベクターpET21-Tを得た。該ベクターを、大腸菌JM109に挿入し、増幅、単離した後、大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。その結果、配列番号1を含むDNAを保有する形質転換細胞1(組換え大腸菌)を得た。
プライマー1:5’-CTAGCTAGCATG ACCGATCCTCACCAGCCC-3’
プライマー2:5’-CCGCTCGAGTTA TTAAGGGGTTTGCAAGTCCAACTT-3’
【0044】
該組換え大腸菌を、2日間培養して集菌し、集菌した細胞を50mMトリス緩衝液(pH8.0)中で破砕して遠心することにより、遠心上清(可溶性画分)を回収した。尚、培養は、20℃で培養開始し、24時間後に15℃に変更した後、IPTGを添加した。
遠心上清にL−トリプトファンオキシダーゼ活性を確認できたことから、可溶性のL−トリプトファンオキシダーゼが取得できており、短期間の培養でL−トリプトファンオキシダーゼが得られることが分かった。
本製造法により得られたL−トリプトファンオキシダーゼは、配列番号16に記載したアミノ酸配列を有する。
次に、前記上清を40℃で1時間熱処理した後、遠心して得られた上清を回収し、L−トリプトファンオキシダーゼサンプルとした。
【0045】
(2−2)L−トリプトファンオキシダーゼの組換え微生物による製造
前記2−1で得たベクターpET21-Tを鋳型として、下記プライマー3及び4(配列番号14及び15)を用いたPCRにより、インサートを調製した。インサートは、配列番号1記載の塩基配列の上流にatgが付加し、HindIII制限酵素サイトを有し、また下流にXbaI制限酵素サイトを有するDNAである。該インサートをpColdIIIベクターに挿入し、トリプトファンオキシダーゼをコードするポリヌクレオチドが挿入されたベクターpCold−Tを得た。該ベクターを、大腸菌JM109に挿入し、増幅、単離した後、大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。その結果、配列番号1を含むDNAを保有する形質転換細胞2(組換え大腸菌)を得た。
プライマー3:5’-CCCAAGCTT ATGACCGATCCTCACCAGCCC-3’
プライマー4:5’-CTATCTAGATTA TTAAGGGGTTTGCAAGTCCAACTT-3’
【0046】
該組換え大腸菌を、1日間培養して集菌し、集菌した細胞を50mMトリス緩衝液(pH8.0)中で破砕して遠心することにより、遠心上清(可溶性画分)を回収した。尚、培養は、37℃で培養開始し、5.5時間後に15℃に変更した後、IPTGを添加した。
遠心上清にL−トリプトファンオキシダーゼ活性を確認できたことから、可溶性のL−トリプトファンオキシダーゼが取得できており、短期間の培養でL−トリプトファンオキシダーゼが得られることが分かった。
本製造法により得られたL−トリプトファンオキシダーゼは、配列番号17に記載したアミノ酸配列を有する。
【0047】
[実施例2]
(L−トリプトファンオキシダーゼの特性)
(1)熱安定性
実施例1(2−1)の熱処理前後の酵素活性を測定したところ、熱処理前のL−トリプトファンオキシダーゼ活性を100%とすると、熱処理後の活性は90%であり、本発明のL−トリプトファンオキシダーゼは高い熱安定性を有することが分かった。
【0048】
(2)作用性
実施例1(2−1)のL−トリプトファンオキシダーゼを用いて、L−トリプトファン、L−フェニルアラニン又はL−チロシンへの作用性を確認した。前記活性測定法において、基質として0、20、40、60及び80μMのL−トリプトファン、L−フェニルアラニン又はL−チロシンを使用した。尚、L−トリプトファンオキシダーゼは何れも0.37U使用した。
各基質に対する測定結果(検量線)を
図1に示した。80μM L−トリプトファンに対する活性を100%として、各基質濃度の相対活性として示した。
各基質に対する検量線の傾きを算出し、L−トリプトファンに対する値を100%として、L−フェニルアラニン及びL−チロシンの作用性として算出したところ、0〜80μMの範囲で各基質への作用性はそれぞれ0.59%及び0.86%だった。
以上より、本発明のL−トリプトファンオキシダーゼは、L−フェニルアラニン及びL−チロシンへの作用性は何れも1%以下と低く、基質特異性の高い酵素であり、L−トリプトファンの特異的な測定に利用可能であることが分かった。
【0049】
[実施例3]
(L−トリプトファンの測定)
実施例1(2−1)のL−トリプトファンオキシダーゼを用いて、L−グルタミン存在下又は非存在下で、L−トリプトファンを測定した。前記活性測定法において、基質として0、20、40、60及び80μMのL−トリプトファンを使用し、L−グルタミン存在下では、更に600μMのL−グルタミンを添加して測定した。
尚、血中に存在するアミノ酸の内、L−グルタミンは約600μMという最も高濃度で存在することが知られている。
【0050】
測定結果を
図2に示した。L−グルタミン非存在下の80μM L−トリプトファンに対する活性を100%として、各測定値を相対活性として示した。
本発明のL−トリプトファンオキシダーゼを用いたL−トリプトファンの測定で、L−グルタミン存在下及び非存在下で、L−トリプトファンの相対活性にほとんど差は見られなかった。
よって、本発明のL−トリプトファンオキシダーゼを用いた測定では、600μM L−グルタミン存在下であっても、正確なL−トリプトファンの測定が可能であることが分かった。更に、5分間という短い測定時間であっても、L−トリプトファン濃度と相対活性との間に良好な直線性が認められた。
以上より、本発明の測定方法はL−グルタミンの影響をほとんど受けず、例えばL−グルタミン濃度の高い血液サンプルのように他のアミノ酸が夾雑する試料であっても、迅速に正確なL−トリプトファンの測定が可能であると思われる。
【0051】
[実施例4]
(L−トリプトファンオキシダーゼの製造方法2)
(1)L−トリプトファンオキシダーゼの検索
配列番号2記載のアミノ酸配列を用いて、公開配列に対してBLAST(blastp)によるホモロジー検索を行い、高い類似性を有する配列を取得した。取得した各配列と配列番号2とを比較することで、成熟タンパク質である活性酵素のアミノ酸配列を決定し、配列番号3〜11に示した。GENETYXを用いて、配列番号2記載のアミノ酸配列と各配列のホモロジー解析をした結果、配列番号2記載のアミノ酸配列と配列番号3〜11との各類似性は、配列番号3及び4が95%、配列番号5が93%、配列番号6が92%、配列番号7〜10が88%、配列番号11が87%だった。これらの配列を有するタンパク質は、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有すると推察された。
GeneDocを用いて、配列番号2〜11記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列同士のアライメントをとった結果を、
図3及び
図4に示した。
【0052】
(2)L−トリプトファンオキシダーゼの組換え微生物による製造2
(1)の結果を基に、配列番号6記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを用いてL−トリプトファンオキシダーゼの組換え製造を行うこととした。
配列番号6記載のアミノ酸配列をコードし、コドンの使用頻度を最適化した塩基配列の上流に開始コドンatgを含むNdeIを付加させ、下流にXhoI制限酵素サイトを付加させたインサートDNAを合成した。該インサートをpET−21(a)+ベクターに挿入し、配列番号6記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが挿入されたベクターを得た。該ベクターを、大腸菌JM109に挿入し、増幅、単離した後、大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。その結果、配列番号6記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含むDNAを保有する形質転換細胞(組換え大腸菌)を得た。
【0053】
該組換え大腸菌を、3日間培養して集菌し、集菌した細胞を50mMトリス緩衝液(pH8.0)中で破砕して遠心することにより、遠心上清(可溶性画分)を回収した。尚、培養は、37℃で培養開始し、3.5時間後に15℃に変更した後、IPTGを添加した。
遠心上清に、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を確認できたことから、可溶性のL−トリプトファンオキシダーゼが取得できており、短期間の培養でL−トリプトファンオキシダーゼが得られることが分かった。
本製造法により得られたL−トリプトファンオキシダーゼは、配列番号18に記載したアミノ酸配列を有する。
【0054】
以上より、配列番号6記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドから、L−トリプトファンオキシダーゼが製造可能なことが分かった。
故に、配列番号3〜5及び7〜11記載のアミノ酸配列を有するタンパク質も、L−トリプトファンオキシダーゼ活性を有すると共に、配列番号3〜5及び7〜11記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドからも、同様にL−トリプトファンオキシダーゼが製造可能と推察される。