(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362051
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】結合親和性の検出に用いる装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/47 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
G01N21/47 A
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-545784(P2015-545784)
(86)(22)【出願日】2013年12月3日
(65)【公表番号】特表2015-536471(P2015-536471A)
(43)【公表日】2015年12月21日
(86)【国際出願番号】EP2013075408
(87)【国際公開番号】WO2014086789
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】12195532.2
(32)【優先日】2012年12月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512115852
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロッシュ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001346
【氏名又は名称】特許業務法人 松原・村木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファッティンガー、クリストフ
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05071248(US,A)
【文献】
特表平10−506190(JP,A)
【文献】
特開平09−061346(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0194345(US,A1)
【文献】
特表2000−508083(JP,A)
【文献】
特開2011−237374(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0212890(US,A1)
【文献】
特開昭54−034846(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0170356(US,A1)
【文献】
特表平08−504955(JP,A)
【文献】
特表2003−528311(JP,A)
【文献】
米国特許第05843651(US,A)
【文献】
国際公開第97/036198(WO,A1)
【文献】
米国特許第05738825(US,A)
【文献】
特表2009−540312(JP,A)
【文献】
特開平10−302291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00− 21/01
G01N 21/17− 21/61
G01N 33/48− 33/98
G02B 5/18
G02B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合親和性の検出に用いる装置であって、基板(3)上に配置された平面導波路(2)を備え、さらに、所定波長のコヒーレント光(1)を前記平面導波路(2)内に結合させるための、所定の長さを有する光カプラー(41)を備えることで、前記平面導波路(2)の外表面(21)に沿って伝播するコヒーレント光のエバネッセント場(11)を伴って、コヒーレント光の平行光線が前記平面導波路(2)を通って伝播するように構成され、前記平面導波路(2)の外表面(21)は、その上に対象試料(6)を結合可能な結合サイト(5)を備え、前記結合サイト(5)に結合された対象試料(6)によって前記エバネッセント場(11)の光を回折させるように構成され、前記結合サイト(5)は、隣接する直線間で一定距離(d)を置いて相互に平行する複数の所定の直線(7)に沿ってのみ配置され、当該複数の所定の直線(7)の所定の直線は、前記エバネッセント場(11)の伝播方向に対して角度(β)で配置されることで、前記結合サイト(5)に結合された前記対象試料(6)により回折したコヒーレント光(12)が、前記所定の直線に対して回折角(α)で、前記平面導波路(2)を通って伝播するコヒーレント光の前記平行光線の外側で前記平面導波路(2)の一部に配置された別の光カプラー(8)に衝突するように構成され、当該別の光カプラー(8)は、所定の検出域(9)において前記所定波長の整数倍の光路差で干渉するように、前記平面導波路(2)の外部に前記回折したコヒーレント光(12)を結合させ、
前記隣接する直線(7)間の一定距離(d)が、ブラッグ条件
2Ndsin(α)=kλ
[ここで、
Nは、前記平面導波路の被嚮導モードの有効屈折率、
dは、隣接する所定の直線間の距離、
αは、回折角、
kは、強度の最大値の数値
λは、伝播する光の真空波長
である。]
を満たすように選択され、
前記別の光カプラー(8)が複数の格子線(81)を含み、前記複数の格子線(81)のそれぞれが、それぞれの曲率と、隣接する格子線(81)間の距離を有し、前記所定の検出域(9)で前記所定の波長の整数倍の光路差で干渉するように、前記別の光カプラー(8)が前記平面導波路(2)の外部に前記回折したコヒーレント光(12)を結合することが可能であり、前記複数の格子線(81)は、前記所定の直線(7)に対して前記回折角(α)をなして延びる対称軸を有することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記所定の直線(7)が前記エバネッセント場(11)の伝播方向に対して22.5°の角度(β)で配置され、前記結合サイト(5)に結合された前記対象試料(6)によって回折した前記コヒーレント光(12)が、前記別の光カプラー(8)に、前記所定の直線(7)に対して22.5°の回折角(α)で衝突することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数の所定の直線(7)は前記平面導波路(2)の有効ゾーン(71)に配置され、当該有効ゾーン(71)は、前記光カプラー(41)によって前記平面導波路(2)内に結合された前記コヒーレント光の前記エバネッセント場(11)により全有効ゾーン(71)が照射されるように、前記光カプラー(41)の長さに等しい幅を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
少なくとも2組の複数の所定の直線(7)が、前記平面導波路(2)上で前記エバネッセント場(11)の伝播方向に並べて配置され、前記各組の複数の直線(7)の前記直線に沿って配置された前記結合サイト(5)に結合された前記対象試料(6)によって回折した前記コヒーレント光(12)が、それぞれ別の光カプラー(8)に回折角(α)で衝突するように、それぞれ別の光カプラー(8)が、各複数の所定の直線(7)に対して配置されていることを特徴とする先行する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記少なくとも2組の複数の所定の直線(7)は、それぞれ隣接する直線間の一定距離dが等しいことを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも2組の複数の所定の直線(7)は、それぞれ隣接する直線間の一定距離d1…nが異なることを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項7】
複数の所定の直線(7)の隣接する組に属する隣接する直線間の前記一定距離d1…nは、0.5から10nmの範囲の一定の刻みで差が設けられていることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記少なくとも2組の複数の所定の直線(7)は、複数の所定の直線(7)の群を含み、各群は隣接する直線間で等しい一定距離dを有し、複数の所定の直線(7)の異なる群の間では、隣接する直線間の一定距離d1…nが異なることを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項9】
前記光カプラー(41)は、前記所定波長のコヒーレント光(1)の平行光線を前記平面導波路(2)内に結合するための少なくとも2つの分離部分(411,412,413)を含み、各分離部分(411,412)は、所定の長さを有し、前記光カプラー(41)の前記隣接する分離部分(411,412,413)から所定距離だけ横方向に離れていることで、当該コヒーレント光の平行光線が、前記所定距離離れて前記平面導波路(2)を通って伝播することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記結合サイト(5)が、前記平面導波路(2)の前記外表面(21)に、前記所定の直線(7)のみに沿って付着した捕獲分子を含み、当該捕獲分子は前記対象試料(7)を結合させることが可能であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記結合サイト(5)が前記対象試料(6)を結合することが可能な捕獲分子を含み、前記対象試料(6)を結合することが可能な当該捕獲分子は、前記平面導波路(2)の前記外表面(21)上に前記対象試料を結合させることが可能な捕獲分子(6)を固定化し、前記所定の直線(7)に沿って配置されていない捕獲分子を不活性化することにより、前記所定の直線(7)に沿って配置されることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
結合親和性の検出用システムであって、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の装置を含み、
さらに、所定波長のコヒーレント光(1)を発光する光源を含み、
当該光源と当該装置は、前記光源により発光された前記コヒーレント光(1)が前記光カプラー(41)を介して前記平面導波路(2)内に結合するように、相対配置されていることを特徴とするシステム。
【請求項13】
前記光源と前記装置は、前記光源により発光された前記コヒーレント光(1)が前記光カプラー(41)を介して前記平面導波路(2)内に結合する角度である入射結合角を変更するために、相互に調整可能に配置され、前記光源は、所定範囲内で所定波長の光を発光するように調整可能であることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合親和性の検出に用いる装置および結合親和性の検出用システムであって、それぞれの独立クレームに記載されたものに関する。
【背景技術】
【0002】
そのような装置は、たとえばバイオセンサとして、多様な用途で使用される。個別の用途の一つとしては、結合親和性または結合プロセスの検出または監視があげられる。たとえば、この種のバイオセンサを利用して、対象となる試料の結合サイトへの結合を検出するさまざまな分析検査を行うことができる。通常、多くのそのような分析検査は、バイオセンサ上で、当該バイオセンサの表面の2次元マイクロアレイに配置されたスポットで行われる。マイクロアレイの使用によって、高スループットの選別において異なる対象試料の結合親和性または結合プロセスを同時検出するためのツールが提供され、分子、タンパク質またはDNAなどのような多数の対象試料の高速分析が可能となる。対象試料の、特定の結合サイトに結合する親和性(たとえば、対象分子が異なる捕獲分子に結合する親和性)を検出するために、バイオセンサの表面上の、たとえばインクジェットスポッティングまたはフォトリソグラフィーによって塗布可能なスポットで、数多くの結合サイトを固定化する。各スポットは、所定タイプの捕獲分子用の個別測定ゾーンを形成する。特定タイプの捕獲分子への対象試料の親和性が検出され、当該対象試料の結合親和性に関する情報を提供するために使用される。
【0003】
対象試料の結合親和性を検出するための公知の技術には、励起すると蛍光を発することが可能なラベルを用いるものがある。たとえば、対象試料をラベリングするためのラベルとして、蛍光タグを用いることができる。励起すると、蛍光タグは特有の発光スペクトルをもつ蛍光を放出させられる。特定のスポットでこの特有の発光スペクトルが検出されることで、ラベリングされた対象分子がそれぞれのスポットに存在する結合サイトの特定のタイプに結合していることが示される。
【0004】
ラベリングされた対象試料を検出するセンサーが、論文『Zeptosensのタンパク質マイクロアレイ:低存在度タンパク質分析のための新規な高性能マイクロアレイプラットフォーム(Zeptosens’ protein microarrays: A novel high performance microarray platform for low abundance protein analysis)』(Proteomics 2002, 2, S. 383-393, Wiley-VCH Verlag GmbH, 69451 Weinheim, Germany)に記載されている。この論文に記載のセンサーは、基板上に配置された平面導波路と、所定波長のコヒーレント光を当該平面導波路内に結合する回折格子とを備える。この平面導波路の、当該平面導波路内に結合する回折格子から離れた端部には、もう一つの回折格子が配置されている。平面導波路を通って伝播したコヒーレント光は、このもう一つの回折格子によって導波路外部に結合される。外部結合された光は、所定波長のコヒーレント光の平面導波路内への結合を調整するために利用される。平面導波路の外面に沿って伝播するコヒーレント光がエバネッセント場により全反射する状況下で、コヒーレント光は平面導波路を通って伝播する。平面導波路の外面において低屈折率の媒質側へのエバネッセント場の浸透する深さは、平面導波路を伝播するコヒーレント光の波長の数分の1のオーダーである。エバネッセント場は、平面導波路の表面上に配置された結合サイトに結合されたラベル付対象試料の蛍光タグを励起する。平面導波路の外表面ではエバネッセント場の光学的に薄い媒質内への浸透が非常に小さいので、平面導波路の外表面で固定化された結合サイトに結合されたラベル付試料のみが励起される。そして、これらのタグが発する蛍光が、CCDカメラを手段として検出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光ラベルを用いて結合親和性を検出することは基本的に可能であるが、この技法は、検出信号が結合の相手方自体ではなく、ラベルによって生成される点に難点がある。また、対象試料のラベリングには、追加の作業工程が必要となる。さらに、ラベル付の対象試料は、比較的高価である。もう一つの問題は、対象試料の捕獲分子への結合に干渉する虞がある対象試料における蛍光ラベルの立体障害により、検出結果に歪曲が生じることである。さらに別の問題は、ラベルの光退色やクエンチングの効果により、検出結果に歪曲が生じることである。
【0006】
本発明は、対象となる試料の結合親和性の検出に利用する装置およびそのような結合親和性を検出可能なシステムであって、前記した先行技術のセンサーの問題を克服ないし大幅に低減するものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にしたがって、この目的は、結合親和性の検出に用いる装置によって、達成される。この装置は、基板上に配置された平面導波路を備え、所定波長のコヒーレント光を前記平面導波路内に結合するための所定の長さを有する光カプラーをさらに備え、コヒーレント光の平行光線が、前記平面導波路の外表面に沿って伝播するコヒーレント光のエバネッセント場を伴って、前記平面導波路を通って伝播するよう構成されている。前記平面導波路の外表面は、その上に対象試料を結合可能な結合サイトを備え、前記結合サイトに結合された対象試料によって前記エバネッセント場の光を回折させるよう構成されている。前記結合サイトは、互いに平行に延び、隣りどうしの間隔が一定の複数の所定の直線に沿って配置される。所定の直線は前記エバネッセント場の伝播方向に対して角度βをなして配置され、前記結合サイトに結合した対象試料によって回折したコヒーレント光が、前記平面導波路を通って伝播するコヒーレント光の光線の外側で当該平面導波路の一部に配置された別の光カプラーに、前記直線に対して回折角αで衝突する。別の光カプラーは、所定の検出域において前記所定波長の整数倍の光路差で干渉するように、前記平面導波路の外部に前記回折したコヒーレント光を結合する。技術的には、「回折(した)」という用語は、結合サイトに結合した対象試料と既に相互に作用した前記エバネッセント場のコヒーレント光の干渉を記述するものである。回折により、前記外表面でエバネッセント場を伴って前記平面導波路を通って伝播するコヒーレント光が、前記平面導波路内で所定の方向で、強めあうように干渉する。
【0008】
本発明による結合親和性の検出は、対象試料の特定の種類に限定されるものではなく、結合サイトの任意の種類に限定されるものでもなく、分子、タンパク質、DNAなどの結合特性が、平面導波路上の任意の種類の結合サイトについて分析可能である。結合親和性の検出は、ラベルを使用しない方法で達成可能である。代替的に、光を強力に散乱させる回折エンハンサー(たとえば、回折ラベル)を使用して、検出感度を高めることができる。そのような回折エンハンサーとしては、ナノ粒子(単独でまたはバインダーとともに)あるいは、他の例としては、コロイド粒子を使用することができる。好適には、分析対象とする結合特性としては、静的なタイプ(たとえば、対象試料が結合サイトに結合しているか、していないかを分析することができる)、または、動的なタイプ(たとえば、結合プロセスの経時的な動態を分析することができる)が可能である。本発明によると、装置は基板上に平面導波路を含み、当該平面導波路は、前記平面導波路の上側を形成する前記外表面上で媒質に対して高い屈折率を有している。たとえば、平面導波路の屈折率は、1.6から2.8の範囲とすることができる一方、平面導波路の表面の媒質の屈折率は、通常、1から1.6、特に水または水性分析緩衝剤の場合には1.33から1.4の範囲、空気の場合には1である。被嚮導モードの有効屈折率Nと、平面導波路の表面における媒質の屈折率と、光の所定波長により、平面導波路の外表面上の媒質内へのエバネッセント場の浸透深度(平面導波路の外表面とエバネッセント場の1/e
2強度低下するところとの間の距離)が測定される。浸透深度とは、平面導波路の外表面の外部に貫通するエバネッセント場が、当該外表面に配置された結合サイトに結合した対象試料で回折することである。使用に際して、所定波長のコヒーレント光(望ましくは単色光)は光カプラーを介して平面導波路内に結合され、コヒーレント光の平行光線が、前記外表面に沿って伝播するエバネッセント場を伴って、前記平面導波路を通って伝播する。平行光線は、前記光カプラーの所定の長さに対応する幅を有し、その所定長さは、平面導波路内にコヒーレント光を結合させる光回折格子の場合には、当該光回折格子を画定する直線の長さである。所定波長は特定の値に限定されるものではないが、可視光の範囲にあることが望ましい。前記平面導波路の外表面は、その上に結合サイトを備えている。結合サイトとは、対象試料が結合可能な平面導波路の外表面上の場所である。たとえば、結合サイトは、平面導波路の外表面上に固定化された捕獲分子を含むものであってもよく、単に、対象試料を結合させることができる平面導波路の外表面上の活性化された場所を含んでいるのでもよく、平面導波路の外表面上の所望の場所に対象試料を結合するのに適した他の任意の方法で構成してもよい。原則として、結合サイトは対象試料を結合することができ、エバネッセント場の光が、結合サイトに結合された対象試料によって回折する。本発明によると、結合サイトは複数の所定の直線に沿って配置されている。「所定の直線に沿った」結合サイトの配置とは、すべての結合サイトが精確に所定の直線上に配置される最も理想的な場合を表している。結合サイトのそのような最も理想的な配置によって、検出域で最大の信号が得られることになる。当該技術分野における熟練技術者にとって、実用上、結合サイトの配置が、検出域における検出可能な信号が消滅しない限り、そのような最も理想的な配置からある程度ずれてもよいことは明らかである。たとえば、ずれは、詳細を後述するように、平面導波路の外表面上に結合サイトを配置するそれぞれの方法が原因となって生ずるものかもしれない。直線は、当該直線に向けて回折した光が平面導波路内で高強度の最大値で、強めあうように干渉するものである。所定の直線は、隣接する直線間で一定距離を置いて相互に平行して設けられている。隣接する所定の直線間の好適な一定距離は、100nmを超えるオーダーである。隣接する所定の線間の距離としては、約100nmから約1000nm、特に300nm〜600nmの範囲が好ましい。上述した範囲は、波長の範囲が350nmから1500nmに亘る可視光、近赤外線および軟UV線を使用することを可能とするので、回折光を標準的な光学手段によって検出することができる。所定の直線は、エバネッセント場の伝播方向に対して10°から70°の範囲内の角度βで配置されている。伝播方向は、光カプラーを始点として、光カプラーを形成する光回折格子の線に通常略直交する平面導波路内にコヒーレント光が結合する方向に延びるように決定される。結合サイトに結合する対象試料によって回折するコヒーレント光は、前記直線に対して回折角αで、別の光カプラーに衝突する。光が所定波長の整数倍で強めあうように干渉するような回折角は、所定波長と、この波長での基板、平面導波路および導波路の外表面における媒質それぞれの屈折率とを考慮して、隣接する所定の直線間の一定距離に依存する。平面導波路の外表面に沿って伝播するエバネッセント場の光は、平面導波路を通って伝播する光のようにコヒーレントであるので、エバネッセント場のコヒーレント光は、異なる所定の直線上に配置された結合サイトに結合された対象試料によって形成された回折中心によりコヒーレントに回折する。任意の場所での回折光は、個別の回折中心のそれぞれからの貢献を加えることにより測定することができる。有益には、平面導波路を通って伝播する光の内部回折は、平面導波路の外部における被嚮導光の回折と比較すると高効率である。結合サイトに結合した対象試料での回折は通常かなり弱いので、平面導波路の面内での回折は、比較的少数の回折中心を検出することさえも可能な改善された検出感度を提供する。回折光が衝突する別の光カプラーは、平面導波路の外部で光と結合するのに適した物理的回折格子(physical grating)とすることができる。本発明のさらなる肝要な点は、平面導波路を通って伝播するコヒーレント光の光線の外側で、平面導波路の一部に別の光カプラーが配置されていることである。これにより、平面導波路を通って伝播するコヒーレント光の光線からのバックグランドがない状態で、回折光からの信号を検出することが可能となる。検出域内で検出される信号はバックグラウンド信号が少ないので、より優れた検出感度が実現され、少ない回折中心によって得られた信号の検出が可能となる。回折光の最大値は所定の検出域に位置する。なぜなら所定の検出域で、回折格子の異なる線によって回折した光の光路長が光の波長の整数倍だけ異なるように、別の光カプラーが回折格子として形成されているからである。検出域での最大の信号に対して、光カプラーから所定の直線まで、そして、そこから別の光カプラーまでと、そこから所定の検出域までの光の光路長も、所定波長の整数倍である。したがって、結合サイトに結合された対象試料によって回折した光は、所定の検出域で強めあうように干渉する。強めあう干渉の条件は、検出域の検出可能な信号に回折光が加わることによって満たされる。
【0009】
本発明の有益な態様によると、隣接する直線間の一定距離dは、ブラッグ条件2Ndsin(α)=kλ(ここで、Nは、平面導波路の被嚮導モードの有効屈折率、dは、隣接する所定の直線間の距離、αは、回折角、kは、強度の最大値の数値、λは、伝播する光の真空波長である)を満たすように選択される。所定の検出域で強めあうような干渉が起こる、隣接する所定の直線d間の距離は、有効屈折率Nに、ひいては導波路の外表面での媒質の屈折率に依存することに留意することが重要である。有益には、隣接する所定の直線間の距離dは、外表面に塗布した異なる試料の屈折率の変化を考慮するように選択される。隣接する線間の一定距離dは、隣接する線間の距離が小さく変化する場合も明示的に含んでいる。複数の所定の線に対する隣接する線間の距離のこのような勾配(gradient)により、複数の所定の線のほんの僅かでブラッグ条件を満たすことが可能となる。
【0010】
本発明の別の有益な態様によると、所定の直線は、エバネッセント場の伝播方向に対して10°〜70°の範囲内の角度βで配置されている。結合サイトに結合した対象試料によって回折したコヒーレント光は、別の光カプラーに、前記直線に対して回折角α(βに等しい)で衝突する。所定の直線および別の光カプラーを固定角度で配置することは、装置の外表面上の所定の(装置上で固定された方向を有する)直線を準備するのに有利である。
【0011】
本発明のさらなる有益な態様によると、別の光カプラーが複数の格子線を含む。当該複数の格子線のそれぞれは、それぞれの曲率と、隣接する格子線間の距離を有し、所定の検出域で所定の波長の整数倍の光路差で干渉するように、別の光カプラーが平面導波路の外部に当該回折したコヒーレント光を結合することが可能である。複数の格子線は、所定の直線に対して回折角αをなして延びる対称軸を有していてもよい。この対称性は、平面導波路の外部に結合する単一の所定波長を有する光が、検出域で光路差が当該単一の所定波長の整数倍となる条件を満たすように、隣接する格子線の間の距離が狭くなる対称的な湾曲グリッド状の構造を、別の光カプラーの複数の格子線に対して維持する。当該回折角で対称軸を配置することは、円形に形成された光回折格子の中心軸を検出域が含むことを可能とする。
【0012】
本発明のさらに別の有益な態様によると、複数の所定の直線が平面導波路の有効ゾーンに配置されている。当該有効ゾーンは、光カプラーによって平面導波路内に結合されたコヒーレント光のエバネッセント場により全有効ゾーンが照射されるように、光カプラーの長さに等しい幅を有している。導波路内を伝播する光線は、装置の他の寸法に比較して光線幅の増加が無視できるぐらいに発散角が小さい。したがって、有効ゾーンの幅は、一般に、有効ゾーン全体を照射するための光カプラーの長さと同一に選択することができる。しかしながら、実際には、有効ゾーンの幅は光カプラーの長さと比較して小さくなっている。一例として、有効ゾーンの幅は310μmであり、光カプラーの長さは400μmである。
【0013】
本発明の別の有益な態様によると、少なくとも2組の複数の所定の直線が、平面導波路上でエバネッセント場の伝播方向に並べて配置されている。各組の複数の直線のうちの該当する直線に沿って配置された結合サイトに結合された対象試料によって回折したコヒーレント光が、各別の光カプラーに回折角αで衝突するように、それぞれ別の光カプラーが、各複数の所定の直線に対して配置されている。複数の所定の直線をエバネッセント場の伝播方向に並べて配置することによって、多数の試料で同時に結合親和性を検出できるように、光線のエバネッセント場が、すべての複数の所定の直線上に衝突(すべての複数の所定の直線で回折)する。
【0014】
本発明の好適で代替的な態様によると、少なくとも2組の複数の所定の直線は、それぞれ隣接する直線間の一定距離dが等しい。各複数の所定の直線の隣接する直線間の一定距離dを等しくすることで、多数の試料で重複した結合親和性の検出が可能となる。
【0015】
本発明のさらに好適で代替的な態様によると、少なくとも2組の複数の所定の直線は、それぞれ隣接する直線間の一定距離d
1…nが異なる。異なる一定距離d
1…nは、導波路の外表面における媒質の検出可能な屈折率の範囲に対応する一定距離の範囲を包含してもよい。検出可能な屈折率の範囲により、異なるまたは未知の屈折率を有する媒質において試料の結合親和性を検出することが可能となる。センサ表面に接触した試料の屈折率は、異なる組成に起因して数パーセントの範囲内でばらつきがあるかもしれない。本発明の好適な追加の態様では、隣接する複数の所定の直線の隣接する直線間の一定距離d
1…nは、0.5から3nm刻みで差が設けられている。複数の所定の直線で同一値ずつ変化する一定距離d
1…nが異なっていることにより、既知の検出可能な屈折率の範囲で、異なるまたは未知の屈折率の試料における結合親和性を都合よく定量化することが可能となる。複数の所定の直線の距離dが、塗布した試料の屈折率に対してブラッグ条件に合うとき、所定の検出域で強めあう干渉が起こる。
【0016】
本発明のさらに別の好適で代替的な態様によると、少なくとも2組の複数の所定の直線は、複数の所定の直線の群を含み、各群は隣接する直線間で等しい一定距離dを有している。複数の所定の直線の異なる群の間では、隣接する直線間の一定距離d
1…nが異なっている。隣接する直線間で等しい一定距離dを有する群とすることにより、上述した他の代替例で述べた利点と組み合わせて、結合親和性の重複した検出と、既知の検出可能な屈折率の範囲で異なるまたは未知の屈折率を有する媒質の試料に対する結合親和性の検出が可能となる。
【0017】
本発明のさらに別の好適な態様によると、光カプラーは、所定波長のコヒーレント光の平行光線を平面導波路内に結合するための少なくとも2つの分離部分を含んでいる。各分離部分は、所定の長さを有し、他の分離部分に対して所定の間隔を空けて離れていることで、コヒーレント光の少なくとも2つの平行光線が、所定間隔を空けて離れて平面導波路を通って伝播する。光カプラーの分離部分により、各分離部分を介して平面導波路内に結合する各光線の伝播方向で、1組以上の複数の所定の直線を配置することが可能となる。中間に所定の間隔を空けて導波路に結合した平行光線を分離することで、コヒーレント光の平行光線の外側に平面導波路の一部ができる。前記一部に配置された別の光カプラーは、検出域のバックグラウンド光を減少させることにより、検出信号を改善する。400μmの大きさを有する別の光カプラーの例では、所定の間隔は600μmとなるように選択される。
【0018】
本発明の有益な態様によると、結合サイトは、平面導波路の外表面に、所定の直線のみに沿って付着した捕獲分子を含んでいる。当該捕獲分子は、対象試料を結合させることが可能である。結合サイトをどのように複数の所定の直線に沿って配置することができるかに関して、2つの実施形態が特に想定されている。第1の実施形態によれば、結合サイトは、所定の線のみに沿って平面導波路の表面に付着した捕獲分子を含む。これらの捕獲分子は、対象試料を結合可能であり、平面導波路の外表面上に固定化される(もっとも、上述のように、結合サイトは、平面導波路自体の活性化された表面によって形成することが可能である)。捕獲分子を平面導波路の外表面上に所定の線に沿って固定化することは、一般に、任意の適切な方法によって実現可能であり、たとえば、直線を備えたリソグラフィックマスクを使用したフォトリソグラフィック法を用いて実行してもよい。言うまでもなく、所定の直線に沿って結合サイトを配置することは、本発明のすべての実施形態において、結合サイト―本実施形態では捕獲分子―の大多数が所定の直線に沿って配置されているとともに一部の結合サイトはそれらとは異なる場所に配置されていることを明示的に含むものであると理解されるべきである。
【0019】
第2の実施形態によれば、結合サイトは、対象試料を結合することができる捕獲分子を含んでおり、対象試料を結合することができる捕獲分子は、平面導波路の外表面上で対象試料を結合することができる捕獲分子を固定化することによって、そして、所定の線に沿って配置されていない捕獲分子については不活性化することによって、所定の直線に沿って配置される。この文脈での「不活性化」という用語は、平面導波路の外表面上で不活性化を行う前後において、捕獲分子の結合能力を改変するための任意の適切な方法を示している。たとえば、不活性化は、対象試料を結合することができなくなる状態を実現するために捕獲分子を紫外線で露光することによって行うことができる。所定の直線の間で固定化された捕獲分子を不活性化することは、たとえば、捕獲分子の結合領域を改変することによって実現することができる。本発明のこの実施形態によれば、捕獲分子は、平面導波路の外表面上に均一にあるいは統計的に均一に、塗布することができる。所定の直線の間に配置された捕獲分子の不活性化後、所定の直線に沿って配置された捕獲分子(これらは不活性化されていない)のみが対象試料を結合することができる。しかしながら、不活性化された捕獲分子は、平面導波路の外表面上に固定化されたままである。
【0020】
この実施形態には、捕獲分子に結合された対象分子により回折した光によって生成された信号の、検出域における信号全体に対する寄与が増すという追加の利点がある。一般に、捕獲分子に結合された小さな対象分子によって回折した光の信号と対象分子が結合されていない捕獲分子によって回折した光の信号との間の差は、捕獲分子だけで回折する光に比べると小さい。所定の直線に沿って配置された(不活性化されていない)捕獲分子の回折特性と所定の直線の間に配置された不活性化された捕獲分子の回折特性とが略同一であると仮定し、さらに、平面導波路の外表面に亘って捕獲分子が均一に分布していると仮定すると、理想的には、捕獲分子が平面導波路の外表面上で固定化された後であって、かつ、所定の直線の間に配置された捕獲分子が不活性化された後において、検出域で信号が生成されることはない。しかし、実際には、捕獲分子の不活性化は、捕獲分子の回折特性をわずかに変化させるので、所定の直線の間に配置された捕獲分子のすべてを不活性化することは、理想的ではないかもしれない。そのかわり、所定の直線の間に配置された捕獲分子の大部分のみを不活性化してもよい。捕獲分子の不活性化は、所定の直線に沿って配置された捕獲分子によって生じる信号と所定の直線の間に配置された不活性化された捕獲分子および不活性化されていない捕獲分子によって生じる信号とを含む、検出域の信号全体が最小となる、そして好ましくはゼロとなるような程度で実行される。そのように検出域で得られた信号がゼロまで小さくすることができると仮定すると、対象試料を加えた後には、検出域で生成される信号が、捕獲分子に結合された対象試料からだけ得られることを意味する。捕獲分子に結合されている対象試料がない場合には、検出域における信号はゼロのままである。これによって、検出域で捕獲分子に結合された対象分子により回折する光によって発生する信号に対する検出器の感度が向上する。
【0021】
本発明の別の態様は、結合親和性の検出用システムに関するもので、当該システムは、先行する請求項のいずれか一項に記載の装置を含み、さらに、所定波長のコヒーレント光を発光する光源を含む。光源と装置は、光源により発光されたコヒーレント光が光カプラーを介して平面導波路内に結合するように、相互に配置されている。
【0022】
本発明の追加の態様によると、光源と装置は、光源により発光されたコヒーレント光が光カプラーを介して平面導波路内に結合する角度である入射結合角を変更するために、相互に調整可能に配置されている。光源は、350nmから1500nmの範囲内で(調整可能な)波長を有する、優先的には可視、近赤外または軟UVスペクトル領域内にある所定波長のコヒーレント光を発光する。
【0023】
本発明のさらなる態様によると、光源は、同調範囲が約1から5nmの所定波長のコヒーレント光を発光するように調整可能である。光源が同調範囲を持つことにより、光源と装置を固定した入射結合角で配置することが可能となる。調整可能な光源により発光された光は、同調範囲で発光された光の波長が固定した入射結合角で結合が起こる波長と一致すると、光カプラー(たとえば、光回折格子)を介して平面導波路内に結合する。
【0024】
調整可能な光源は、結合親和性の検出用システムにおける装置の第2の有益な操作モードに使用することができる。強めあう干渉の最大強度を記述するブラッグ条件は、隣接する所定の直線の間の距離、所定の直線に沿って配置された結合サイトに結合する対象試料でエバネッセント場が回折する角度、平面導波路を通って伝播する光の波長、および被嚮導モードの有効屈折率Nに関係する。屈折率が正確にわからない試料を考慮すると、調整可能な光源により結合が起こる波長を変えることで、(隣接する線の間の距離を固定し、所定の線に対して回折角を固定した場合であっても)強めあう干渉の最大強度に関してブラッグ条件を満たすことができる。調整可能な光源の波長および(光カプラーを介して光が導波路内に結合する)入射結合角の両方を変化させることで、導波路内への結合が起こる波長を、隣接する所定の直線間の固定した距離に対してブラッグ条件を満たす波長に調整することが可能となる。
【0025】
本発明のさらなる有利な態様は、以下の、添付の図面を参照しての装置の実施形態の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明による装置の第1実施形態の斜視図を示す。
【
図2】本発明による異なる角度を図示した、
図1の装置の平面導波路の平面図を示す。
【
図3】結合サイトの配置を図示した、
図1の装置の平面導波路の平面図を示す。
【
図4】有効ゾーンを図示した、
図1の装置の平面導波路の平面図を示す。
【
図5】異なる光路を図示した、
図1の装置の平面導波路の平面図を示す。
【
図6】2つの複数の所定の直線を有する、
図1の装置の平面導波路の平面図を示す。
【
図7】隣接する所定の直線間の等距離dが異なる、3つの複数の所定の線を示す。
【
図8】その上に24の複数の所定の直線のパターンを有する、本発明の第2実施形態による装置を準備するのにマスクの平面図を示す。
【
図9】
図8のマスクを用いて準備する、本発明の第2実施形態による準備がなされていない装置の平面図を示す。
【
図10】本発明の第2実施形態による準備がなされた装置の平面図を示し、当該装置は結合親和性の検出に用いる準備ができた
図9の装置である。
【
図11】複数の所定の直線に沿って配置された結合サイトに結合された対象試料のエバネッセント場の光の回折に対する光路長の違いを可視化した簡略図を示す。
【
図12】
図11の簡略図を示し、結合サイトが、複数の所定の直線に沿った捕獲分子と、最小バックグラウンド信号を実現する中間の不活性化された捕獲分子とを含む状態を示す。
【
図13】
図12の簡略図を示し、対象試料を結合可能な捕獲分子に塗布した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、結合親和性の検出に用いる装置の実施形態の斜視図を示す。構造的に、装置は、基板3と、平面導波路2の外表面21に配置された複数の所定の直線7(図示した各直線は複数の直線を表す)と、光カプラー41と、検出域および別の光カプラー8を備えている。装置の動作原理によると、コヒーレント光1が、回折するエバネッセント場11(平行な矢印で示す)を伴って伝播するように平面導波路2内に結合することがさらに示され、当該エバネッセント場11は、回折したコヒーレント光12(平行な矢印で示す)が所定の線7に対して角度をなして伝播し、平面導波路2の外部に結合されることで、平面導波路2の外部に結合した結合光13が検出域9内で干渉するように回折する。
【0028】
図示した実施形態では、平面導波路2は基板3上に配置されるとともに、可視コヒーレント光を通過させ、伝播することができる。平面導波路2は、厚みが数十ナノメートルから数百ナノメートルの範囲内であるため、基板3に由来するその上面の線と共通の描線で図示してある。光源(図示せず)により供給されるコヒーレント光1は、所定の波長を有する。実際には、所定の波長は、特定の波長の値に限定されるものではなく、光カプラー41、所定の線7および別の光カプラー8の大きさ、位置および幾何学的配置の他、とりわけ被嚮導モードの有効屈折率に応じて選択される。所定波長のコヒーレント光1を平面導波路2内に結合するため、図示した実施例では、光カプラー41が所定長さの直線を有する回折格子を利用し、平面導波路2内に所定の結合角度でコヒーレント光1のコヒーレント結合を行うことができる。光カプラー41が所定長さを有することにより、光カプラー41の長さに応じた幅を有するコヒーレント光の平行光線が平面導波路2を通って伝播する。コヒーレント光の平行光線は特有の浸透深度をもつエバネッセント場11を有している。平面導波路2の外表面21上の媒質内へのエバネッセント場11の浸透深度(平面導波路2の外表面21とエバネッセント場11の1/e
2強度低下するところとの間の距離)は、被嚮導モードの有効屈折率N、平面導波路の外表面上の媒質の屈折率、および光の波長λに依存する。エバネッセント場11の光は、結合サイト(
図1には図示せず)に結合された対象試料(
図1には図示せず)によって回折する。原則的に、結合サイトは、隣接する直線間で一定距離を置いて相互に平行する複数の所定の直線7に沿って配置される。所定の直線7は、エバネッセント場11の伝播方向に対して角度をなして、平面導波路2の外表面21上に配置される。エバネッセント場11の光は、平面導波路2に形成された別の光カプラー8上に直線に対して回折角をなして衝突するように回折する。回折光は、所定波長の整数倍の光路差で別の光カプラー8内で干渉する。有益には、平面導波路2を通って伝播する光の内部回折は、平面導波路2の外部への被嚮導光の回折と比較すると高効率である。これにより、回折中心の数が比較的少なくても検出することが可能となる十分な検出感度が提供される。理論上は、回折光が最大強度となる直線に対する他の回折角が存在することで、別の光カプラー8も他の回折角で配置することができるかもしれない。別の光カプラー8の配置に関する、本発明の他の利点が
図1から読み取れる。別の光カプラー8と、それにともなう検出域9を平面導波路2上に、平面導波路2を通って伝播する光線の光が検出されないように別の光カプラー8と検出域9との互いの相対的な向きを決めて配置する。したがって、別の光カプラー8は、光カプラー41から平面導波路2を通って伝播するコヒーレント光の光線の外側で、平面導波路2の一部10に配置されている。これにより、平面導波路を通って伝播するコヒーレント光の光線からのバックグランドがなく、回折光から信号を検出することが可能となる。さらに別の利点は、一部10内に別の光カプラー8を配置したことにより、検出域9で検出した信号のバックグランドがより少なくなることに関する。これにより、少ない回折中心によって発生させた信号を検出することができるより優れた検出感度が得られる。別の光カプラー8は、回折角の方向に対称軸が向けられた位相格子レンズ(phase grating lens)として示されている。位相格子レンズは、結合親和性を検出するための十分な強度で検出域9内に回折コヒーレント光12を集束させつつ、平面導波路2の外部に回折コヒーレント光12を結合させる光学手段を例示する。
【0029】
図2から
図6は、それぞれ、すでに平面導波路2と、光カプラー41と、別の光カプラー8と、平面導波路2の外表面21上に配置された複数の所定の線7を図示した
図1からの平面導波路2の外表面21を示す平面図である。
【0030】
図2では、所定の直線7に対する角度αとエバネッセント場11の伝播方向に対する角度βが図示されている。本実施形態においては、角度βは22.5°であり、角度αは22.5°である。角度を固定することは、装置を準備する上で明らかな利点となる。平面導波路2の外表面21に沿って伝播するエバネッセント場11(光カプラー41を始点として所定の直線7の中心を終点とする矢印で表す)は、結合サイト(図示せず)に結合した対象試料(図示せず)で回折する。回折したコヒーレント光12(所定の直線7の中心を始点として別の光カプラー8の対称軸に沿って伝播する矢印で表す)は、22.5°の角度αで別の光カプラー8に衝突するように、強めあうように干渉する。角度αは、ブラッグ条件2Ndsin(α)=kλによると、隣接する所定の直線7間の距離dと、所定の波長λとに依存し、ブラッグ条件を満たすように変更可能である。Nは平面導波路の被嚮導モードの有効屈折率であり、λは平面導波路2を通って伝播する光の真空波長である。
【0031】
図1の装置の平面導波路2平面図を、所定の直線7に沿って配置された結合サイト5を誇張して
図3に図示した。この誇張した図において、エバネッセント場11の光は、既知の角度βをなして配置された所定の直線7に近づく平行な矢印によって表されている。所定の直線7は、一定距離dを置いて相互に平行に配置されている。所定の直線7に沿って配置された結合サイト5に結合する対象試料6で回折する回折コヒーレント光12は、所定の角度に対して波長の整数倍の光路差を有する。回折したコヒーレント光12は、これらの所定の角度に対して最大強度を有する。上述した回折角は、このような最大強度が発生する第1の角度である。事実、これはブラッグ回折の原理を説明する公知の図面であり、光が「結晶構造」で回折して、特定の方向に強めあうように干渉する。この図は、結合サイト5と、この方法で結合サイト5に結合された対象試料6が、図示した規則正しい順で所定の直線7に沿って配置されていないという点に限れば誤っている。これらの配置は、回折したコヒーレント光12の最大の強度を失うことなく、これらの線に沿った方向、およびこれらの線に直交する方向にある程度ずらしてある。
【0032】
図4では、所定の直線7が平面導波路2上の有効ゾーン71に配置されていることが説明的に示されている。有効ゾーン71の構造が、平面導波路2を通って伝播するコヒーレント光と関連づけて示されている。有効ゾーン71内で回折中心の密度が均一であるとすると、原則として、有効ゾーン71の面積が大きいほど、より多くの回折中心が回折コヒーレント光12に寄与する。有効ゾーン71の面積は、主に結合親和性の検出に適した検出信号の強度に依存して選択される。光カプラー41の長さが固定されているため、有効ゾーン71の幅もこれと同等に固定される。これにより、有効ゾーン71の幅を横方向に制限する平行な矢印で示すように、エバネッセント場11により全有効ゾーン71を照射することができる。有効ゾーン71は、回折コヒーレント光12が別の光カプラー8上に完全に衝突する一方、別の光カプラー8が有効ゾーン11の回折中心からの回折したコヒーレント光12によってのみ照射されるような長さを有する。エバネッセント場11から回折コヒーレント光12を横方向に分離することで、有効ゾーン71の回折中心からの回折コヒーレント光12のみが別の光カプラー8に衝突するように制限し、領域10に別のバックグラウンド光が発生するのを回避する(回折光12を除いてその他の光が領域10を通って伝播することはない)。
【0033】
図5では、光の異なる光路を示す2つの例が、エバネッセント場11の矢印と、回折したコヒーレント光12の矢印、および検出域9で干渉する光13の矢印によって示されている。原則として、複数の平行光線が光カプラー41を出て、所定の直線7が配置された有効ゾーン71全体の領域に亘って回折する。回折したコヒーレント光12は、所定波長の整数倍の光路差で、別の光カプラー8に向かって伝播する。回折したコヒーレント光12は、平面導波路2の外部に結合するように、別の光カプラー8に衝突する。別の光カプラー8は、複数の格子線81を備えた光回折格子として図示されている。格子線81は、衝突する回折コヒーレント光12が平面導波路2の外部に結合され、検出域9に集束されるように形成される。平面導波路2の外部に結合した光13を検出域9内で集束するために、各複数の格子線81はそれぞれ曲率を有し、隣接する格子線81間の距離が回折したコヒーレント光12の伝播方向に向かうにつれて減少するように配置される。これにより、所定波長の光が、所定波長の整数倍の光路差で、「理想的には」単一の焦点位置に回折することが可能となる。空白部分82が別の光カプラー8に形成され、検出信号の全体の強度を潜在的に減少させるような二次ブラッグ反射或いは同様の光学効果が回避される。
【0034】
本発明の一つの有利な態様を
図6に示すが、この態様では、
図1の装置の平面導波路2が2組の複数の所定の直線7を含んでいる。この2組の複数の所定の直線7は、隣接する所定の直線7の間の距離が異なる。一般に、隣接する所定の直線7の間の距離が異なると、同一の「固定した」回折角のもとで、異なる屈折率を有する試料の結合親和性を検出することが可能となる。試料の屈折率が異なると、それぞれ、平面導波路2を通って伝播する光に対して異なる有効屈折率を生じさせる。一般に、平面導波路内の被嚮導モードの有効屈折率は、平面導波路2の厚さと屈折率、基板の屈折率、平面導波路2の外表面21上の媒質の屈折率、および被嚮導モードの偏光に依存する。したがって、平面導波路2を通って伝播する光のエバネッセント場11は、平面導波路上の異なる試料に対して、隣接する線の間の固有光路長が異なる。実際には、平面導波路2の外表面21上の媒質の屈折率は正確にはわからない。有益には、異なる距離を有する複数の所定の直線7は、試料間で屈折率の少数第2位または第3位が異なっているかもしれない既知の検出可能な屈折率の範囲内で、未知の屈折率に対する信号を検出することができる。結合親和性を検出するためには、複数の所定の直線7が1組検出可能な信号を示せば十分である。図示したように、少なくとも2組の複数の所定の直線7が、エバネッセント場11の伝播方向に並んで、平面導波路2上に配置されている。平面導波路2内に結合したコヒーレント光12は、各複数の所定の直線7の結合サイト5に結合した対象試料6により回折する。各組の複数の所定の直線7では、コヒーレント光の光線の外側の領域10で直線に対して回折角をなして衝突する光のために、別の光カプラー8が設けられている。
【0035】
図7も平面導波路2に少なくとも2組の複数の所定の直線7を配置するという思想に関連している。これは3組の複数の所定の線7の配置で示されており、左側の複数の線が、隣接する直線7間の距離が24種という多数の一定距離から選ばれる第1の一定距離d
1…24を有するものとして示されている。このことは、24組の複数の所定の直線7が、隣接する直線間でそれぞれ異なる一定距離dを有して配置されるという思想を示している。一例として、隣接する所定の線間の距離d
1は446nmであり、隣接する所定の線間の距離d
2は447nmである。24の複数の所定の直線は任意に選択された数であり、本実施形態では、446nmから469nmまで1nm単位(刻み)で徐々に増加する24種の異なる距離という変動幅を提供する。上述した単位は、少数第2位または第3位における有効屈折率の予想変動範囲(百分率から千分率の範囲で有効屈折率の変動に対応する)を十分にカバーするものである。
【0036】
本発明の第2実施形態を
図9および
図10に示す装置で示す。
図9および
図10は、準備がなされる前の装置と、使用する準備ができた装置を図示する。前記装置は、
図8に示すマスク14を用いて準備される。
【0037】
図8は、所定の直線7に沿って平面導波路2の外表面21に結合サイト5を配置するための、フォトリソグラフィック法に用いるマスク14を示す。このようなマスク14は、所定の直線7を外表面21上に転写するのに適したパターンをその上に備えている。当該パターンは、平面導波路2の外表面21上に所定の直線7状の結合サイトを付着させるためのフォトリソグラフィック処理に用いる。まだ準備がなされていない装置を
図9に示す。フォトリソグラフィック法は、所定の直線7を平面導波路2の外表面21に配置する好適な方法を代表するものである。一般に、この技術分野で公知のナノメートル乃至マイクロメートルの尺度で結合サイトを構成するのに適した、あらゆる方法が、結合サイトを配置するのに用いることができる。
図10には、24組の複数の所定の直線7を備えた、準備がなされた装置を示す。24組の複数の所定の直線7は、3つの個別の部分411,412,413の一つに対して一列に配置され、各個別の部分を介して結合したコヒーレント光が、並べて配置された8組の複数の所定の直線7で回折する。24組の複数の所定の直線7は、所定の距離を有する3つの平行な列に配置されており、各列の中間には、平面導波路を通って伝播するコヒーレント光の平行光線の外側に、平面導波路2の部分10が形成されている。光カプラー41は、コヒーレント光の3つの平行光線を平面導波路2内に結合するための3つの個別の部分411,412,413を含む。光カプラーを形成する3つの個別の部分411,412,413は、一列に配置され、隣接する個別の部分から所定距離だけ横方向に離れている。したがって、コヒーレント光の平行光線は、この所定距離だけ離れて、平面導波路2を通って伝播する。個別の部分411,412,413は、それぞれ、各組が1つの列に配置された複数の所定の直線7の各組の幅と等しい所定の長さを有する。個別の部分411,412,413は、それぞれ、コヒーレント光の光線を平面導波路内に結合させる。中間にあるのは、コヒーレント光の光線の外側となる、平面導波路2の外表面21上の3つの部分10である。これらの部分10は、別の光カプラー8をそれぞれ、複数の所定の直線7の各組に配置するのに用いる。所定の直線7に沿って配置された結合サイトに結合した対象試料で回折しないコヒーレント光は、平面導波路を通って、さらに別の光カプラー42に向けて伝播する。さらに別の光カプラー42は、平面導波路2を通って伝播する光のうち、所定の直線7に沿って配置された結合サイトに結合した対象試料で回折しない光を外部に結合するためのものである。
【0038】
図11、
図12および
図13は、エバネッセント場11の光の回折を例示したものである。光11は、所定の検出域内で最大限に貢献するように、距離d離れた所定の線7に沿って配置された結合サイト5に結合した対象試料6で回折する。図示した例は、「結晶構造」におけるブラッグ回折の説明から周知である。原則的に、ブラッグ条件2Ndsin(α)=kλは、回折光の最大強度が検出できる角度を説明している。隣接する線の間を一定距離dとして所定の直線7を平行に配置することで、後続の線で回折するエバネッセント場11の光が、平面導波路2を通って伝播する光の所定波長の整数倍の光路差を有するように、所定の回折角で干渉する。したがって、図示した回折光の平行光線12は、伝播する光の所定波長の整数倍の光路差を有するような回折角で干渉する。図示した試料は、結合サイトのタイプや対象試料6のタイプに対して如何なる前提条件も設けずに、結合サイトに結合した対象試料6を例示したものである。強めあう干渉とするため、対象試料が結合するまたは結合しないかもしれない結合サイトを、所定の条件で光が強めあうように干渉するように、所定の直線7に沿って配置することが重要である。
【0039】
図11では、結合サイトが単一タイプの捕獲分子を含んでいる。結合親和性の検出は、対象試料6が捕獲分子に結合することを実際に観察することで、捕獲分子が対象試料6に結合する特性を有するか否かについて検証することである。この最初の例では、捕獲分子は、所定の直線7のみに沿って配置されて平面導波路の外表面に付着している。
【0040】
図12および
図13に示す別の実施例によると、対象試料6を結合することが可能な捕獲分子5は、平面導波路の外表面全体の上に対象試料6を結合させることが可能な捕獲分子5を配置し、所定の直線7に沿って配置されていない捕獲分子51を不活性化することにより、所定の直線7に沿って配置される
【0041】
これは、捕獲分子が平面導波路の外表面(全体)に亘って固定化されることで、複数の所定の線7のみに沿って捕獲分子が配置されることがなくなることで実現される。したがって、捕獲分子5および捕獲分子51によって回折したエバネッセント場11の光は、回折コヒーレント光12について上述したように、別の光カプラーで干渉することはない。
【0042】
その後、所定の線7の間に配置された捕獲分子51は不活性化され、もはや対象試料6がこれらの不活性化された捕獲分子51に結合することがなくなる。
図12に示すように、不活性化は、不活性化後に、不活性化された捕獲分子51および対象試料を結合することが可能な捕獲分子5により生成した別の光カプラーにおけるすべての信号(対象試料6はまだ追加されていない)が、検出域で(弱めあう干渉となるように)調整された最小信号、理想的にはゼロに設定または調整されるように行われる。捕獲分子5および不活性化された捕獲分子51で回折した光121は、所定の検出域の増加が最小となるような光路長の差を有している。捕獲分子5および不活性化された捕獲分子51の図示した線は、「理想の」線であるが、十分な近似を提供する。なぜなら、複数の所定の「理想的な」直線7以外(または複数の所定の「理想的な」直線7の付近)に配置された捕獲分子5および不活性化された捕獲分子51から回折した光は、原則として、それ自体が消失されるからである。
【0043】
代替的に、対象試料の塗布前の最小信号は、第1のステップとして捕獲分子5が複数の所定の直線7(
図11と同様)に沿って平面導波路の外表面に塗布されるように、捕獲分子5および不活性化された捕獲分子51を順次塗布することによって実現することができる。後のステップでは、不活性化された捕獲分子51は、複数の所定の直線7の列の間に塗布される。
【0044】
最後のステップでは、対象試料が平面導波路の外表面に塗布される。所定の直線7に沿って配置された捕獲分子のみが対象試料6と結合することが可能なので、
図13に示すように、対象試料6は、所定の直線7に沿ったこれらの捕獲分子に結合する。不活性化された捕獲分子51および捕獲分子により生成された検出域での信号があらかじめ最小値に設定または調整されていることに起因して、検出域での信号は、主に(または不活性化された捕獲分子51および捕獲分子5があらかじめゼロに減少されている場合には、完全に)、所定の線7に沿って配置された捕獲分子に結合された対象試料6によって回折した光12により発生する。
【0045】
本発明の諸実施形態について図面の助けを借りて説明してきたが、本発明の基礎をなす一般的な教示から逸脱することなく、説明された実施形態に対する変形や変更が可能である。したがって、本発明は、説明された実施形態に限定されるものと理解されるべきではなく、保護の範囲は、特許請求の範囲によって画定される。