(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記の水中生物の誘導は、誘導されるべき水中生物に前記電界及び/又は磁界によって刺激を与えることにより該水中生物の移動方向を制限し、該水中生物を所望の領域に留まらせ及び/又は所望の方向に移動させることで行われる、請求項1記載の方法。
前記の電界及び/又は磁界によって水中生物に与えられる刺激が該水中生物を誘導すべき方向に向かって小さくなるように、前記電気パルスを印加する、請求項1記載の方法。
前記の水中生物の誘導を、誘導されるべき水中生物に前記電界及び/又は磁界によって刺激を与えることにより該水中生物の移動方向を制限し、該水中生物を所望の領域に留まらせ及び/又は所望の方向に移動させることにより行う、請求項9記載のシステム。
前記の電界及び/又は磁界によって水中生物に与えられる刺激が該水中生物を誘導すべき方向に向かって小さくなるように、前記制御手段によって前記電気パルスのパラメータが設定される、請求項9記載のシステム。
前記制御手段によって設定される前記電気パルスのパラメータは、前記電気パルスの平均電圧又は平均電流、前記電気パルスの波高値、デューティ比、周波数のうち少なくとも1つを含む、請求項11記載のシステム。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施例を添付の図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、水中生物として、魚を例に挙げて説明する。なお、各図面において、同一の又は類似の構成については、同一の符号を付して、説明を省略する場合がある。
【0029】
図1は、本発明にかかるシステム、特に魚の養殖システムの一実施形態の概略を示す図である。
図1では、魚の養殖システム1が、海2に設けられた例を示している。魚の養殖システム1は、水中に設置された複数の電極手段10と、各電極手段10に印加される電気パルスを制御する制御手段20とを備えている。これらの複数の電極手段10によって取り囲まれた領域12内で前記電気パルスによって形成された電界によって魚を誘導する。なお、
図1では、各電極手段10と制御装置20は、無線を介して通信を行う例が示されているが、各電極手段10と制御装置20とは、有線接続により電気的に接続されていてもよい。また、各電極手段10及び/又は制御装置20への給電は、後述のように電極手段10に設けられた電池モジュールから行われてもよいし、外部電源から、有線/無線又は非接触方式による接続により行われてもよい。制御手段20は、以下で説明する、電気パルスを印加すべき電極手段の選択、印加すべき電気パルスのパラメータの設定及びタイミングのコントロール、その他の付属のセンサ及び機器の制御又は管理等を行うように構成されている。制御装置20は、さらに、電気パルスの各種のパラメータや、誘導すべき魚の特性に関する情報、水質や気象等の自然条件に関するデータを記憶したメモリを備えていてもよい。また、制御装置20は、システム1に対して1つのコントローラとして設けられていてもよいし、例えば電極手段ごとに、分散して設けられていてよい。
【0030】
図1では、堤防14a,14bによって区切られた湾の外側及び内側に、複数の電極手段10が互いに間隔をおいて配列されている。これらの複数の電極手段10で取り囲まれた領域12は、生簀領域12aと、この生簀領域12aと出入口領域12bを介して連通しており、生簀領域12aから港16へ向かって延在する誘導路領域12cとを含んでいる。なお、
図1では、電極手段10が上記の生簀領域12a、出入口領域12b、誘導路12c、の、主に輪郭に沿って配置されている例を示したが、電極手段10は、生簀領域、出入口領域、及び/又は、誘導路領域を含み得る領域に、マトリックス状に配置されていてもよい。このような場合には、マトリックス状に配置された電極手段の中から、生簀領域、出入口領域、及び/又は、誘導路領域を形成すべき位置に配置されている電極手段を選択して電気パルスを印加することで、その所望の領域に、生簀領域、出入口領域、誘導路領域を形成することができる。このような実施例によれば、例えば、季節ごと、水温、水流の状態、餌の分布状態など種々の条件に応じて、生簀領域、出入口、誘導路の位置を変更することができ、遊牧民が羊を放牧するように、その時期に最も適した領域に魚を誘導することができる。
【0031】
このように水中に互いに間隔をおいて配置された複数の電極手段10に、電気パルスを印加することで、水中に電界を生じさせ、生じた電界によって、魚を誘導する。
【0032】
電極手段10に電気パルスを印加することにより、水中に電界が生じると、その電界が生じている領域にいる魚に電気刺激が与えられる。この電気パルスの強度、周期、周波数等を調節することで、特に、誘導すべき魚が嫌うタイプの刺激を与えることができる。換言すれば、魚が嫌う電気刺激を与える電界が生ずるような電気パルスを電極手段に印加して、その電極手段の周囲に魚が寄りつかない領域を生じさせ、電界によるバリアを形成することができる。
【0033】
電極手段10に電気パルスを印加することにより水中に形成される電界の強度は、その電極手段10からの距離が小さくなるに従って大きくなり、距離が大きくなるに従って電界強度は小さくなる。さらに、電界の強度が大きくなると、魚が感じる刺激の強さも大きくなる。従って、ある電極手段10に電気パルスを印加した時に、その電極手段10の近くにいる魚ほど、より大きな刺激を受けることになる。従って、ある電極手段10に電気パルスが印加されると、魚が刺激の弱い方向へ逃げようとして、自然にその電極手段10から離れる方向に移動することになり、魚を誘導することができる。
【0034】
複数の電極手段のうちから、各電極手段の位置に応じて、電気パルスを印加すべき電極手段を適宜選択し、かつ、各電極手段に印加される各電気パルスのパラメータを適宜選択することで、所望の位置に、所望の広さ及び強さの電界によるバリア/魚が進入できない領域を形成して、魚を誘導する。
【0035】
図2は、電極手段に印加される電気パルスを例示する図である。複数の電極手段10のうちの少なくとも1つ、特に互いに隣り合う2つの電極手段10の一方に、例えば、
図2(a)(b)又は(c)に示すような電気パルスを印加する。
図2(a)は方形波の例、
図2(b)(c)はサイン波の例を示している。
図2(a)乃至(c)はいずれも、周期T[sec]内において期間t[sec]の間だけ、波高値A[V]又は[A]の電気パルスを印加する例を示している。すなわち、この場合のデューティ比はD=t/Tとなり、周波数は1/T[Hz]となる。これらの、波高値、デューティ比、周波数、平均電圧又は平均電流等のパラメータを調節して、電気パルスに起因して発生する電界によって誘導されるべき魚に与えられる刺激の強さを設定する。これらのパラメータを、誘導しようとする魚に応じて適した刺激となるように調節し、かつ、電気パルスが印加される電極手段10の位置に応じてパラメータを調節することで、目的とする魚の、目的とする器官に、適切な刺激を与えることができる。なお、
図2(c)は、期間tの中で、波高値Aが徐々に小さくなるサイン波が印加される例を示している。
図2(c)では、最大波高値を波高値Aの代表値として示している。このように、波高値Aが期間t内で変化してもよい。また、波高値Aがマイナスになる場合であっても、平均電圧又は平均電流は、実効値の平均値から求められる。なお、ここでは、間欠的に印加される電気パルスの繰り返される頻度を周期Tと称し、1つの電気パルス内で印加される電圧/電流の周波数、即ち例えば
図2(b)(c)のサイン波の周波数を周波数と称する。 また、周期Tのうちの電気パルスが印加されていない期間の電圧/電流値は、0であってもよいし、直流又は交流のバイアス電圧/電流がかけられていてもよい。また、微弱な、直流又は交流の電流/電圧成分が重畳しているような場合も考えられる。
【0036】
なお、電気パルスに起因して魚に与えられる刺激の強さ又は魚が感じる刺激の強さは、波高値又は平均電流などの電気的強度に依存しているが、周波数等のその他のパラメータにも依存している。すなわち、魚の刺激に対する感受性には強度依存性だけでなく、周波数依存性がある。従って、所望の刺激の強度を得るために、印加する電気パルスの強度、周波数、周期、デューティ比など種々のパラメータを調節するとよい。また、その依存性は、魚のサイズ、種類等に応じて異なる。従って、誘導しようとする魚の感受性の依存性、例えば周波数依存性を考慮して、最も感度の高い周波数を選択すれば、比較的低い強度の電気パルスであっても、比較的強い刺激を与えることができる。電気パルスの強度、例えば電圧値又は電流値を抑えることができれば、システム全体の消費電力を低減することができる。また、誘導対象である魚への不所望な影響、例えば過大な強度の電圧/電流によるショックや、皮膚、筋肉、内臓等の損傷のような影響を最低限に抑えることができる。また、後述する電極への電蝕等による影響も低減することができる。すなわち、目的の魚に対して最適なパラメータ、例えば最適な周波数を選択することによって、より小さい強度の電界によって、十分な刺激を与えて、その魚を誘導することが可能になる。
【0037】
なお、電極手段の間隔は、印加することができる波高値、誘導しようとする魚のサイズ、水底の地理的条件、例えば船などの往来に対する障害の度合い等のようなその他の外的条件等を考慮して定めることができる。電極手段10同士の間隔としては、例えば、100m程度や、1km程度などの比較的長い距離であってもよいし、50cm以上10m以下、60cm以上5m以下、70cm以上3m以下、80cm以上1m以下、等比較的短い距離であってもよい。また例えば水槽内であれば、水槽の大きさ位に応じて、数十cmオーダー、例えば30cm〜50cm等、適宜選択することができる。そして定められた電極手段間隔に対して、所望の刺激の強さ、例えば電界強度が得られるようなパラメータ、例えば平均電圧又は平均電流を選択して、電極手段に電気パルスを印加する。
【0038】
図3は、本発明による方法の原理を説明するための図である。
図3は、所定の間隔dをおいて一列に配置された電極手段10a乃至10fに、電気パルスが印加されたときに生じる電界のイメージを表している。なお、
図3では、6個の電極手段10a乃至10fを示すが、電極手段10の数は6個に限らず、
図1に示したように、全体としては生簀領域12a乃至誘導路12cを形成するように多数の電極手段10が並べて配置される。
【0039】
例えば、
図3の例によれば、ある周期では、電極手段10a,10c,10eに電気パルスが印加され(+極になり)、隣の電極手段10b,10d,10fが0[V](−極)になる。次の周期では、電極手段10b,10d,10fに電気パルスが印加され、電極手段10a,10c,10eが0[V]になる。このように、隣り合う電極手段10間に電気パルスが印加される。ここで、−極とは、必ずしも0[V]や+極側と異なる極性である必要はなく、+極側との間に何らかの電位差が生ずる電位であってもよい。このように、隣接する電極手段間に極性を交互に反転させて電気パルスを印加すると、水中、特に海水中で、電極手段に電気を印加することによって、電極手段に生じるダメージを低減することができる。このダメージとは、水中で電極手段に電気を印加することによって生じる、電極手段からのイオンの流出や、酸化による腐食、水中に含まれる成分の析出などである。このようなダメージを、交番的に印加される電気パルスによって、中和したり、電極手段間で特定の電極手段にダメージが集中しないように平均化したりすることができる。従って、電極手段のメンテナンス性を向上させることができる。
【0040】
図3では、このような場合において、電極手段10a乃至10fの周りに、各周期において生じる電界の強度を等電位線30の形で模式的に示している。図面の見易さを考慮して、各電極手段10a乃至10fの周りの等電位線30は、部分的な範囲しか表していないが、実際には電界は、もちろんこれより遠い範囲にも同様に広がっていってもよいし、隣の電極手段まで、又は、それより遠い範囲まで、広がっていてもよい。
【0041】
図3では、それぞれの電極手段10a乃至10fの周囲を取り囲むように同心円状に等電位線30が表されている。従って、互いに間隔を空けて一列に配置されている電極手段10a乃至10fをつなげた領域が、同心円状の等電位線30によって覆われている。この等電位線30によって覆われている領域、即ち、電極手段10a乃至10fが一列に並んでいる領域全体に、各電極手段10a乃至10fに印加された電気パルスによる電界が発生しており、この領域に魚32が近づくと、又は、入ると、電気刺激を受ける。電極手段10a乃至10fに印加される電気パルスは、魚32が嫌う電気刺激を与えるような電界が生じるように設定されている。従って、魚32は、この電気刺激が弱くなる方、及び、なくなる方へ移動しようとする。従って、電極手段10a乃至10fから遠ざかる方、即ち、
図3の矢印34aの方へ魚は誘導される。逆に、電極手段10a乃至10fに近づくほど、電界は強くなり、電気刺激も強くなるので、電極手段10a乃至10fに近づく方向、即ち、
図3の矢印34bの方へは魚は移動しない。このようにして、電界によるバリアが形成され、魚は電極手段10a乃至10fの間を通り抜けることができなくなる。
【0042】
このように、電気パルスが印加されている電極手段の周囲に電界が発生し、この電界は、電極手段からの距離に依存して変化する。電極手段に近づけば近づくほど電界は強くなり、従って魚が受ける刺激も大きくなる。ただし、魚の刺激への感受性には、周波数など他のパラメータへの依存性もある。以下の説明では、説明の簡単化のために、電界の強度について主に述べるが、電界自体の物理的な「強度」よりはむしろ、電界によって魚が受ける刺激の「強度」を意図している場合があることに留意されたい。なお、電気パルスに起因して生じる電界によって魚が感じる刺激の度合い/魚が受ける影響、即ち、魚の電気刺激に対する感受性/感応性は、魚の種類、サイズ及び/又は魚の各種器官、例えば、エラ、ヒレ、浮き袋等、に応じて異なる。電気パルスの、平均電圧又は平均電流、波高値、デューティ比、周波数などの種々のパラメータを、魚の種類、サイズ及び/又は作用を与えようとする各種器官の感応性などの特有の個性に応じて調整することで、魚が受ける刺激の度合いや種類を適切にコントロールすることができる。
【0043】
例えば
図1に示したように、複数の電極手段10を、生簀領域12aを形成する略四角形状の輪郭線に沿って、互いに間隔をおいて配列し、これらの電極手段10の隣り合う電極手段10間に例えば
図2に示したような電気パルスを印加すると、
図3に示したような、電気刺激を与える電界が水中に生じる。このようにして、生簀領域12aの輪郭線に沿って魚が通り抜けられない電界によるバリアを形成し、生簀領域12a内に魚を閉じ込めるように誘導することができる。
【0044】
さらに、
図3に示した電極手段10a乃至10fのうちの、いずれか1つ又は複数の電極手段、例えば電極手段10c,10dを、
図1の出入口12bに割り当てる。この出入口12bに割り当てられた電極手段10c,10dへの電気パルスをオンオフ切り替えることで、出入口を開閉することができる。例えば
図3において、電極手段10a乃至10fの(図中における)上側を生簀領域12a、(図中における)下側を誘導路側12cとすると、出入口12bに割り当てられた電極手段10c,10dに電気パルスを印加すれば、電極手段10c,10dの位置にも電界が形成されて、この電界を通り抜けようとする魚には電気刺激が与えられ、生簀領域12aの中にいる魚は、生簀領域12a内に閉じ込められるように誘導され、生簀領域12aの外にいる魚は、生簀領域12aから締め出される。
【0045】
出入口12bに割り当てられた電極手段10c,10dへの電気パルスの印加を切ると、電極手段10c,10dの位置には電界が形成されず、出入口12bが開放されて、魚は、この電極手段10c,10d間の領域であれば、通り抜けることができる。従って、生簀領域12aと誘導路12cとの間の魚の行き来が、出入口12bを介して可能になる。
【0046】
なお、生簀領域12aから魚を誘導路12cへ誘導したい場合は、単に出入口12bを開放して、生簀領域12a内の魚が自然に出入口12bに気づいて誘導路12cへと移動するようにしてもよい。又は、生簀領域12aを形成する電極手段10のうち、出入口12bから遠い位置にある電極手段10から順に、より強い刺激を与える電気パルスを印加していき、魚がその領域から離れて出入口12bに近づいてくるに従って、徐々に出入口12bに近い電極により強い刺激を与える電気パルスを印加するようにして、魚を出入口12bに誘導するようにしてもよい。また、出入口12bの近辺や、誘導路12c内に、魚をおびき寄せる誘魚手段が設けられていても良い。この誘魚手段は、光によるもの、例えば、魚が好むような光を放射する誘魚灯(電球、LED、又は、レーザなどの発光素子からなる)であっても良いし、魚が好む電気刺激を発生する電極手段であってもよい。例えば、電極手段10に、上述の電気パルスとは異なる電気を印加して魚を誘き寄せることができる。また、魚の種類によっては、音波や超音波を使用することもできる。この誘魚手段は、電極装置10に取り付けられ、又は、一体的に設けられていてもよいし、電極装置10とは別個に設けられていても良い。また、代替的に又は付加的に、追い込み手段が設けられていてもよい。例えば、ポンプなどを用いてジェット水流を発生させ、魚が水流に流されて移動するようにしてもよい。
【0047】
図4は、例えば誘導路12cを形成する、電極手段10の配列の一実施形態を例示する図であって、例えば電極手段10g乃至10lに、電気パルスが印加されたときに生じる電界のイメージを表す図である。
図4では、互いに間隔をおいて一列に配置された電極手段10g乃至10lが、ほぼ一定の幅wを介して2列並べられている。電極手段10g乃至10lのうち、電極手段10g乃至10kには、
図3に示した電極手段10a乃至10fと同様に、同一の強度の電気パルスが印加されている。従って、上述したように、電極手段10g乃至10kで形成される列を魚が通り抜けられないような電界が形成される。このような電界が、幅wを介して並べられた電極手段10g乃至10kの周囲に形成されるので、これらの2列の電極手段10g乃至10kに挟まれた領域から魚が出ることができず、誘導路12cが形成される。魚はこの誘導路12c内を、主に図中の左右方向へ移動することになる。即ち、電極手段10g乃至10lの列をまたいで、誘導路12cから魚が出て行くことも、誘導路12c内に魚が入ることもできない。
【0048】
図4では、この2列の電極手段10g乃至10lの右端の電極手段10lに、電極手段10g乃至10kよりも強い電気パルスが印加されており、電極手段10lの周囲に強い電界が形成されている。電極手段10lに印加されるこの強い電気パルスの強度は、電極手段10lの周囲に形成される電界による刺激が、少なくとも2つの電極手段10l,10lの間の幅W方向に亘るどの位置でも、魚が通過するのを阻止するのに十分な刺激を生じるように設定されている。(なお以下では、このような(比較的強い)電界及び電気パルスを、単に「強い電界」及び「強い電気パルス」と称する場合がある。)従って、電極手段10g乃至10lの列同士の間に形成されている誘導路12cにおいて電極手段10lで挟まれた位置に、電界によるバリアが生じて、誘導路12c内において、魚が上記の強い電気パルスが印加されている電極手段10l,10lに挟まれた領域を通り抜けることができなくなる。従って、誘導路12c内において、魚が矢印42bの方向へ移動することができなくなり、従って矢印42aの方へ誘導される。
【0049】
なお、ここでは電気パルスの強度を高めて、より広い範囲(即ち誘導路を横切る方向全体)にわたって刺激を与えることができる電界を形成する例を示したが、このようなより広い範囲にわたって刺激を与える電界を形成するために、別のパラメータを調節することもできる。即ち、例えば周波数、パルス幅、デューティ比、その他の種々のパラメータ等を変化させて、より目的の魚の感受性の高い値を選択したり、より広い範囲に伝搬しやすい値を選択したりすることによっても、より広い範囲にわたって刺激を与える電界を形成することができる。
【0050】
この強い電気パルスを、所定の期間、電極手段10l,10lに印加した後、続いて、隣の電極手段10k,10kに印加する。その際、電極手段10l,10lに印加される電気パルスは、上記の強い電気パルスと同じ強度を維持してもよいし、他の電極手段10g乃至10jと同じ強度まで弱めることもできる。続いて、さらに所定の期間が経過した後、隣の電極手段10jに、上記の強い電気パルスと同じ強度の電気パルスが印加される。このようにして、魚が移動する早さに応じて、所望の移動方向に沿って、順次隣の電極手段に強い電気パルスを印加していき、この強い電気パルスによって形成される電界によるバリアを、誘導路12c内において魚を誘導しようとする方向に向かって徐々に移動させていく。そうすると誘導路12c内の魚は、この強い電気パルスによって形成される電界によるバリアに後ろから、あたかも徐々に押されていくような形で、図中の矢印42aの方向へと移動し、誘導されていく。
【0051】
誘導路12c内に強い電気パルスによるバリアを形成して、魚が所望の方向と逆方向へ移動するのを妨げて、所望の方向へ誘導するのに加えて、さらに、魚を誘導しようとする方向、即ち、
図4において矢印42aで示される方向の先に、魚をおびき寄せる誘魚手段が設けられていても良い。この誘魚手段は、前述したとおり、様々な種類の手段を単独で、又は、組み合わせて適用することができる。また、代替的に又は付加的に、前述の追い込み手段が設けられていてもよい。
【0052】
図5には、誘導路12cにおける電極手段10の配列の別の例を示す。
図5(a)は、誘導路12cの電極手段10の配置を示す図である、
図5(b)は
図5(a)の誘導路12cの幅方向の中央付近に生じる電界の強さを表す図である。
【0053】
図5の例では、
図4に示した例と同じように、2列の電極手段10g乃至10lが互いに略平行に設けられており、その間に誘導路12cが形成される。さらに、2列の電極手段10g乃至10lの間に、1列の電極手段10’g乃至10’lが設けられている。
図5では、この中央の列の電極手段10’g乃至10’lの1つの電極手段10’kに電気パルスが印加されており、周囲に電界が生じている。誘導路12cの輪郭となる電極手段10k,10k及び中央の電極手段10’kによって形成される電界によって、誘導路12c内の電極手段10’kの位置に、誘導路12cの幅全体に亘って電界が生じ、電界によるバリアが形成される。従って、誘導路12c内の魚は、この電界によるバリアを通り抜けることができず、即ち、誘導路12c内において、電極手段10’kよりも右側、つまり矢印52bの方向へは移動することができず、矢印52aの方へ誘導される。
【0054】
誘導路12c内の幅方向の中央付近における、電界強度の変化を
図5(b)に示す。
図5(b)の横軸は、
図5(a)の横方向に対応しており、縦軸は電界強度に対応する。曲線54によって、それぞれの位置における電界の強度が示されている。
【0055】
中央の列の電極手段10’g乃至10’lには、電極手段10’kに上述したような電気パルスが印加されており、さらに、この電極手段10’kの隣、特に、魚を誘導しようとする方向の隣の電極手段10’jには、電極手段10’kよりも弱い電気パルスが印加されていてもよい。この電気パルスによって、電極手段10’jの周囲には弱い電界が形成される。従って、曲線54で示すように、誘導路12cの幅方向の中央付近の電界は、電極手段10’g乃至10’jまでは、低い値(例えば0であってもよい)を示しており、電極手段10’iから電極手段10’jに近づくに従って、徐々に上がり始め、電極手段10’kの位置で最も高くなり、電極手段10’kから離れるに従って下がり始める。そうすると、
図5における誘導路12c内の電極手段10’kより左側、例えば、電極手段10’iの近辺にいる魚が図中右側に移動すると、徐々に電界が強くなっていくので、魚が受ける電気刺激の強さも強くなる。そのため、魚は電界による刺激が弱くなる方向、即ち矢印52aの方向へ自ら移動するようになる。従って、誘導路12c内の魚は、電極手段10’kへ接近する前に、電極手段10’jへ近づいた段階でより電界による電気刺激の弱い方向へ移動しようとし始める。
【0056】
このように、魚を誘導しようとする方向に向かって徐々に刺激が弱くなるように電気パルスを印加すると、逆に魚が進んでほしくない方向へ進むに従って電気刺激が強くなるので、魚がより電気刺激の弱い方向へ自然に移動し始めるため、魚をよりスムーズに誘導することができる。
【0057】
さらに、
図4で説明した例と同様に、電極手段10’kに所定の期間電気パルスを印加した後、続いて、隣の電極手段、より詳しくは、魚を誘導しようとする方向にある隣の電極手段、例えば電極手段10’jに、電極手段10’kに印加した電気パルスと同様の電気パルスを印加する。その際、さらにその隣の電極手段10’jに、電極手段10’jに印加していた弱い電気パルスを印加する。このようにして、魚が移動する早さに応じて、順次、所望の方向の隣の電極手段に電気パルス及び弱い電気パルスを印加していくことで、これらの電気パルスによって形成される電界によるバリアを、誘導路12c内において魚を誘導しようとする方向に向かって徐々に移動させていき、魚を誘導する。
【0058】
このように、誘導路12c内にさらなる電極手段10’g乃至10’lを設けて、誘導路12c内に電気的バリアを形成し、魚を誘導するという形態によれば、
図4の例に比べて、誘導路12c内に一列多く電極手段を要するが、
図4の例のように、電気的なバリアを形成するために、強い電気パルスを印加する必要がない。
【0059】
電極手段10に水中で電気パルスを印加すると、例えば、海水中で印加した場合は特に、電極手段10がイオン伝導等の影響により電極手段の材料の溶出を起こしたり、酸化により腐食したり、付着物が堆積するなどして損傷を避けられない場合がある。電気パルスの強さが大きくなると、即ち、印加される電気パルスの電圧値/電流値が大きくなると、このような損傷がより大きくなる虞がある。そのような場合に、
図5に示した例によれば、より強い電気パルスを印加する必要がないので、各電極手段10に生じる損傷の程度を低く抑えることができる。
【0060】
図6には、誘導路12cにおける電極手段10の配列のさらなる別の例を示す。
図6の例では、2列の電極手段10m乃至10sが、それぞれジグザグ状に配置されている。即ち、誘導路12cにおいて、内側に配置されている電極手段10m,10o,10q,10sと、外側に配置されている電極手段10n,10p,10rとが交互に配置されて、2つの列を形成している。
【0061】
図6では、
図4の例と同様に、これらの電極手段10m乃至10sのうち、電極手段10m乃至10rに同じ強さの電気パルスが印加され、
図6の一番右側の電極手段10sに、強い電気パルスが印加されている。その後、所定の時間毎に、順次隣の電極手段に、この強い電気パルスが印加されていく。
【0062】
このように、電極手段10m乃至10sがジグザグ状に配置されていると、例えば、
図7に示すように(
図7では、図中下側の電極手段への符号が省略されているが、各電極手段は
図6と同じ符号を有しているものとみなす。)、1つの電極手段10o(図中の下側の列の左から2番目の電極手段)が故障等により、所定の電界を形成することができなくなったような場合であっても、両側の隣の電極手段10n,10pによって、保障することができる。なぜなら、電極手段がジグザグ状に配置されていると、隣り合う電極手段間の距離に対して、誘導路12cの長手方向、即ち、誘導路12cの輪郭に沿った方向における距離は短くなる。即ち、例えば、
図6に示した形態において、1つの電極手段10oが欠けた場合には、残った隣り合う電極手段10n,10p間の距離が、
図4及び
図5に例示した形態において、1つの電極手段が欠けた場合に残った隣り合う電極手段間の距離に比べて短くなる。従って、これらの残った電極手段10n,10pによって、故障等により欠けた部分の電界をカバーして、誘導路12cの輪郭を覆うように電界を形成することができる。
【0063】
図8は、本発明で使用される電極手段を含む電極装置70の一実施形態を示す図である。
図8(a)は、電極装置70を水中の所定の位置に設置する過程を表す図、
図8(b)は、電極装置70は、電気パルスが印加される電極手段10と、電極手段を水中の所望の設置位置に固定するための固定手段74とが連結された状態を表し、電気パルスが印加された時に、水中に電界を形成する。
【0064】
電極手段10は、少なくとも部分的に水底から水面に向かって延びる、導電性かつ耐腐食性の表面を有する線状部72aを含み、固定手段74は、線状部72aの下端に設けられる。線状部72aの上端には、固定手段74との間で線状部72aを支持する浮き76が設けられる。
【0065】
図8(a)には、この浮き76の内部が模式的に示されている。この浮き76は、内部に空間を有する略球形状の殻で、水面に浮かぶように構成されている。電極装置70が所定の位置に設置される前には、浮き76の内部には、線状部72aが巻き取られた状態で収納されており、浮き76が固定手段74の上に到達すると、線状部72aが巻き出される。例えば、この浮きに、例えばプロペラやジェット水流発生器のような推進手段と、GPS装置のような位置検出手段が設けられていると、浮きは位置検出手段を介して位置検出しながら、所定の位置まで推進手段を介して自動的に進んでいき、目的の位置に達したら、線状部材72aを巻き出すようにすることができる。その際、固定手段74と浮き76との相互の位置関係を検出できる相互位置検出手段が設けられていてもよい。例えば、固定手段74側に発信器が設けられており、浮き側にその発信器からの信号を受信する受信器が設けられていてもよいし、また、浮き側にレーダのようなものが設けられていてもよい。
【0066】
電極装置70の線状部72aの下端には、線状部72aと固定手段74とを着脱可能に連結する連結部78が設けられている。
【0067】
線状部72aが巻き出されると、線状部72aの下端に設けられた連結部78が水底に配置された固定手段74に接近していく。連結部78が、水底に設けられた固定手段74の深さまで達すると、固定手段74に連結され、電極手段10が所定の位置に固定される。
例えば、固定手段74の上面と連結部78の下面に、互いに螺合する螺合部を設けても良いし、又は、互いに吸着する磁石等を設けても良い。その際、磁石として電磁石を用いれば、コイルに流れる電流を入切することで、連結部78を固定手段74に着脱可能に取り付けることができる。
【0068】
このように、電極手段と固定手段とが着脱可能に構成されていると、電極手段をメンテナンスする際に、固定手段から取り外すことができるようになる。仮に、電極手段が腐食したり、電極手段に堆積する付着物が一定のレベル(量)に達したりして、所望の電界を得られないような場合が生じたとしても、電極手段を固定手段から取り外して、電極手段を水中から引き上げてメンテナンスすることができる。また、電極手段が取り外された固定手段に、すぐ別の新たな電極手段を連結し、電極装置を再び使用することができる。また、このような構成によれば、例えば水中で使用された電極手段を交換する際に、固定手段をその場所に残して電極手段だけを取り外し、この残された固定手段に新たな電極手段を取り付けることで、簡単に元どおりの位置に電極手段を設置することができる。
また、電極手段は、その機能上、水中に電界を形成できるように構成されているため、電蝕等の影響を受ける恐れがあり、そのため、固定手段に比べて、より頻繁なメンテナンスを要し、その寿命が比較的短くならざるを得ない場合が考えられる。そうすると、電極手段と固定手段とを連結したまま、交換/メンテナンスを行えば、固定手段に対しては本来必要のないほど短いサイクルで、固定手段を水中から引き上げ、場合によっては電極手段とともに交換されてしまうことになり、効率が悪くなる。電極手段と固定手段とが着脱可能に構成されていれば、固定手段を水中に残したまま、電極手段を必要に応じて水中から引き上げて、メンテナンス及び/又は交換することができるため、作業上も費用上も効率がよくなる。
また、固定手段が、固定手段自身と電極手段とにかかる浮力に抗して、電極手段を水中に固定できるように構成されていると、これを引き上げるためには、多大な労力を必要とする。これに対し、電極手段は、比較的に容易に引き上げることができるため、電極手段を固定手段から分離して引き上げることができれば、引き上げにかかる労力そのものを低減することができる。
【0069】
線状部72aは、浮き76と固定手段74との間で、架設された状態で支持される。このような構成を有することにより、線状部72aが可撓性であったとしても、浮き76にかかる浮力によって、浮き76と固定手段74との間でピンと張られた状態で支持されることができる。この固定手段と浮きとの間で線状部にかかる張力によって、線状部が直線的に保持されることができる。電極手段となる線状部が、直線状に保持されることにより、複数の電極手段が並べて配置された時に、隣り合う電極手段の間の距離が一定の範囲内に保たれ、従って、電極手段の長手方向にわたって一定の強さを有する電界を形成することができる。
線状部72aは、可撓性の編組線パイプ又はワイヤを適用することができる。この編組線パイプ又はワイヤとしては、ステンレス鋼からなる導電性の線材を編み込んだものを使用することができる。さらに、ステンレス鋼からなる線材に換えて、又は、加えて、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、チタン、銅、クロム、カーボン、及び/又はこれらを含む合金等その他の導電性材料からなる線材を編みこんだものを使用しても良い。また、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどからなる導電性の高分子材料や、高分子材料に無機及び/又は有機(例えば、カーボンなど)の導電性材料を添加した複合材料を適用することもできる。さらに、非導電性の合成樹脂からなる線材を組み合わせてもよい。これらの素線を適宜組み合わせ、その割合を選択することで、線状部72aの所定の導電性、耐食性、可撓性及び/又は伸縮性を担保することができる。
また、上記の編組線パイプ又はワイヤは、耐食性のコーティングやメッキが施されていてもよい。この耐食性のコーティングは、編組線ワイヤ又はパイプは全体としてコーティングされていてもよいし、素線がコーティングされていてもよい。
線状部の表面が導電性を有していると、線状部そのものを電極として機能させることができ、電極手段に印加された電気パルスによって、水中に電界を発生させることができる。また、線状部が耐腐食性の表面を有していると、水中に設置され、電気を印加されることによる電極手段の劣化を低減することができる。また、電極手段が線状に形成されていると、電極手段の構造を単純化することができ、従来の網の網目状の構造に比べて形状が単純化され、メンテナンス性が向上する。
また、線状部が、可撓性のパイプ又はワイヤを含んでいると、パイプ又はワイヤは比較的細い形状を有するため、水中において、線状部が水流の力を受けにくくなる。また、線状部が可撓性を有すると、水流の力を好適に受け流すことができる。そうすると、水中で変形して破損してしまったり、電極手段の設置位置がずれてしまったりするのを防ぐことができ、また、水中に電極手段を設置する前後に電極手段を運搬したりする際に、ワイヤを巻いた状態で取り扱うことができ、電極手段の取り扱いが容易になる。
さらに、線状部が編組線パイプ又はワイヤであれば、編み込まれた素線の間を水が通り抜けることができるので、水流の力を適宜逃がすことができるとともに、素線の材質、太さ、これらの組み合わせ、及び/又は、編み方等を変更することができ、パイプ又はワイヤの導電性、耐食性、可撓性等の特性を幅広く調節することができる。
また、線状部は、例えば、直線状の中実の導電体棒又は中空の導電体パイプ、可撓性の導電体ワイヤであって、直線状に引っ張られて支持されたものであってもよい。
また、線状部は少なくとも表面の一部が導電性かつ耐腐食性であれば足り、内部及び表面の他の部分は、例えばプラスチックやコンクリート、土砂等の不導体であってもよい。
【0070】
固定手段74は、電極手段10を水中に固定できる重量を有していても良いし、水底に固定された固着部74aを有していてもよい。固着部74aを設ければ、固定手段10をより堅固に水底に固定することができる。従って、水流が激しい場合などのように、電極手段に大きな力が加わっても、電極手段がずれたりすることがない。一方、固定手段74が電極手段10を水中に固定できる重量を有していれば、固定手段74を水底に固定するための工事を要せずとも、固定手段10を水中に沈めるだけで、より簡易に固定手段10を水底に設置することができ、電極手段を水中の所望の位置に容易に設置することができる。
【0071】
さらに、電極装置70には、電池モジュールBMが設けられていてもよい。
図8(b)には電池モジュールBMとして、浮き76の上半球に太陽電池モジュールが取り付けられた例が示されている。電池モジュールBMには、太陽電池モジュールの他に、海水電池モジュール、風力発電モジュール、潮力発電モジュール等の様々な発電方式のもモジュールを適用することができる。電池モジュールには、これらの発電モジュールの他に、蓄電池が含まれていてもよい。例えば、電池モジュールが、太陽電池セルと蓄電池とを備えていれば、太陽電池セルを用いて昼間に発電した電力を蓄電池に蓄えて、恒常的に電池モジュールを介して、電極装置に必要な電力を賄うことができる。また、電池モジュールが、潮力発電機や、風力発電機を備えているか、又は、種類の異なる複数の発電手段を備えれば、蓄電池を備えなくても、安定して電力を供給することができる。
【0072】
これらの発電モジュールBMは、各電極装置70にそれぞれ設けられていてもよいし、例えば1対の又はいくつかの電極装置70に対して1つの電池モジュールBMが設けられていてもよい。発電モジュールBMが、電極手段10で使用される全ての電力を安定的に供給することができれば、発電モジュールBMを備えた電極装置70には給電するためのケーブルを設ける必要がなくなる。従って、複数の電極手段10同士及びこれらと電源とを接続するためのケーブルを敷設する手間を省くことができる。特に海のような広い範囲に多数の電極装置を配置するような場合には、ケーブルを敷設する手間を省けると非常に有用である。また、1対の又はいくつかの電極装置70に対して1つの発電モジュールBMが設けられていれば、1つの発電モジュールBMに対応するいくつかの電極手段70同士だけを有線で接続すればよい。そうすると、養殖システムを構成する全ての電極装置に、1つ1つ電池モジュールを接続するよりは電池モジュールの数を節約でき、かつ、全ての電極装置を網羅するように広範囲にわたって電線を敷設する必要がないので、電線の敷設が容易になる。さらに、各電極装置70に給電するためのケーブルを設けた上で、発電モジュールBMを非常時又は給電設備の故障時のバックアップ電源として使用することもできる。
【0073】
さらに、電極装置70には、電気パルスを制御する制御手段と通信をする通信モジュールCMが設けられていてもよい。
図8(b)には、浮き76の内部に、無線による通信モジュールCMが設けられている例を示している。この無線による通信モジュールCMを介して、電極装置70は、電極手段10に印加されるべき電気パルスを定める信号を制御手段から受信することができる。また、電極装置70の位置情報や、電極手段10の損傷や腐食などの状態を示す情報、固定手段74との連結の状態に関する情報などを制御手段に送信することができる。電極装置70の位置情報は、GPSなどにより取得することもできるし、周辺の電極装置70との相互間の位置関係に基づいて相対的により精細に求めることもできる。このように通信モジュールCMが無線によるものであると、制御部と電極装置との間の制御信号の通信のための電線を敷設する手間を省くことができる。
【0074】
さらに、複数の電極手段10が設けられている領域内及びその近傍を移動する移動体の位置を、各電極手段10との相互の位置関係に基づいて、精細に求めることもできる。
【0075】
図9は、電極装置の別の実施形態を表す図である。
図9には、例示的に2つの電極装置80が示されている。これらの電極装置80は水底に設けられた固定手段74の上面に、電極手段10として線状部72aが直接設けられている。この線状部72aは、上述したような編組線パイプから形成されている。一方の電極装置80には、電池モジュールBMが設けられており、他方の電極装置80とケーブル82を介して接続されている。このようにして、1つの電池モジュールで生成される電気を複数の電極装置へ供給することができる。また、ケーブル82を介して両電極装置80の間で種々の信号のやり取りなどを行うこともできる。
【0076】
さらに、電極装置70のさらなる実施形態を
図10に示す。本実施形態の電極装置70は、
図8に示した第1の実施形態では線状に形成されている電極手段110が、点状に形成されている点で、
図8に示した第1の実施形態と異なっている。
図8の第1の実施形態では、線状部72aの略全体が導電性に形成されているが、本実施形態では、線状部172は、非導電性に形成されており、複数の点状電極174が互いに離間して線状部172に取り付けられて設けられている。本実施形態においては、これらの点状電極174は、線状部172上に等間隔に設けられている。そして線状部172を水深方向に延ばして設置した状態において、点状電極174が水深方向に等間隔に分布するようになる。ただし、点状電極間の間隔は、必ずしも等間隔でなくてもよく、水底の方が間隔が小さく、水面に行くにつれて徐々に大きくなるように、点状電極174を配置してもよいし、逆に、水底の方で間隔が大きく、水面に行くにつれて徐々に小さくなるように、点状電極174を配置してもよい。線状部172には、各点状電極174に個別に電気パルスを印加できるように、それぞれ配線が取り付けられている。制御部20の指令に応じて、各点状電極に選択的に電気パルスが印加される。
【0077】
この様に水深方向に分布して配置された点状電極174を有する電極装置70において、
図11に模式的に示すように、水底側に配置された点状電極174には強い電気パルスを印加し、水面側に配置された点状電極に弱い電気パルスを印加すると、魚を水面方向134a、即ち水深の浅い位置に誘導することができる。また、逆に、水面側に配置された点状電極174には強い電気パルスを印加し、水底側に配置された点状電極に弱い電気パルスを印加すると、魚を水底方向134b、即ち水深の深い位置に誘導することができる。また、1本の線状部172に設けられた各点状電極174に、同じ強さの電気パルスを印加すれば、水深方向に一様な電界を形成することができる。
【0078】
このように、水面方向(すなわち水平方向)だけでなく、水深方向(すなわち垂直方向)にも魚を誘導することができると、例えば養殖魚を捕獲しようとするときには水面方向へ魚を誘導することができる。また、例えば水面付近の流れが荒くなっているときには、養殖魚を水底方向へ誘導することができる。また、何らかの原因で水深方向に水質の分布が生じているような場合には、より好ましい水質の深さ領域へ魚を誘導することができる。
【0079】
さらに、水平方向及び/又は水深方向において、電気パルスの強さ、周波数及びデューティ比等を、魚の種類や大きさに合わせて異ならせることで、水面方向だけでなく水深方向へも、魚を種類毎に所望の位置へ誘導することができるようになる。例えば、魚の種類に合わせた生け簀領域を、水深方向に部分的に重なり合わせて配置し、季節や給餌、捕獲の時期に合わせて、必要な種類の魚を浅い方へ又は深い方へ誘導することができる。
【0080】
図12は、電極装置の他の実施形態を模式的に示す図である。本実施形態においては、水中で線状部274が垂直方向に対して傾いて設置されている。より詳しくは、水面に2つの浮き76が配置されており、これらを水平方向に固定する為の固定手段74が各浮き76の真下に配置されている。これらの固定手段74の間に、別の固定手段74が設けられており、この別の固定手段74に対して、各浮き76から線状部274が架け渡されている。この線状部274に等間隔に点状電極174が設けられており、その結果、点状電極174が垂直方向に対して斜めに、水面上から見ると水底から水面に向けて放射状に配置される。
【0081】
点状電極174がこのように配置されていると、まず、各点状電極174に同じ強さの電気パルスを印加したとしても、水底側の点状電極174同士は距離が近いため、水面側と比べると電界の強さが相対的に強くなる。従って、魚は水面方向へ誘導されることになる。その後に、
図13に示すように、水底側の点状電極174に強い電気パルスを印加すると、魚がさらに水面方向へ誘導されることになる。
【0082】
例えば、
図10に示した第3の実施形態のような電極装置を多数水平方向にマトリックス状に配置することにより、水中に三次元マトリックス状に点状電極174を配置し、
図12に示した第4の実施形態に相応する位置の点状電極174に電気パルスを印加することで、第4の実施形態と同様の電界分布を得ることができる。
【0083】
また、
図10とは上下逆に、線状電極174同士の間隔が、水面付近で狭くなり、水底付近で広くなるようにすることもできる。その際は、固定手段74同士の間に配置された別の固定手段74の代わりに、浮き76同士の間に別の浮き76を設け、この別の浮き76と両端の固定手段74との間に線状部274を架け渡して配設することができる。
【0084】
本発明の実施形態による方法又はシステムを使用する際には、先ず、生簀領域12aと、この生簀領域12aと出入口12bを介して連通する誘導路12cとを形成するように電極手段10を配置し、電極手段10に電気パルスを印加する。
【0085】
生簀領域12a内に、養殖しようとする魚の若魚又は稚魚を投入する際には、誘導路12cの港側に設けられた一方の端部から、これらの魚を誘導路12c内に投入し、制御手段によって、電極手段10に電気パルスを次のように制御して印加する。すなわち、魚が誘導路12c内を生簀領域12aの方へ誘導されるような電界が生じるように、電気パルスを設定し、印加する。誘導路12cを通ってきた魚が生簀領域12aへ入る際には、制御手段は、出入口12bの電極手段10へは電気パルスを印加せず、出入口12bが開放される。誘導路12c内の魚の略全部が生簀領域12aに入ったら、制御手段は、出入口12bの電極手段10にも電気パルスを印加して、出入口12bを閉鎖する。
【0086】
誘導路12cの魚が生簀領域12aに入ったかどうかは、誘導路12c内に残っている魚の数、出入口12bを通過した魚の数、及び/又は、生簀領域12aに入った魚の数を検出し、これに基づいて判断することができる。これらの魚の数を検出するためには、公知の魚群探知機や、光学式の検知器などを利用してもよいし、本発明の電極手段を介して電界を形成するとともに、そこに流れる電流を検出し、この電流値をその電極手段の位置情報とともに分析することで、電界内のどの位置にどの程度の量の魚がいるか判断してもよい。
【0087】
生簀領域12aに魚が入ったら、生簀領域12a内で所定の期間魚を飼育し、成長させる。その間、例えば、生簀領域12a内で飼育されている養殖魚の餌、例えば小魚等を、誘導路12cを介して、港側から生簀領域12a側に送ることができる。
【0088】
また、生簀領域12aをさらに2以上の区画に分割するように、電極に電気パルスを印加して電界を発生させ、水中の環境に応じて、例えば、潮の満ち引きや流れ、天候による水温の変化、餌の分布の状態等に応じて、いずれかの区画に誘導することができる。その際、上述の集魚手段及び/又は追い込み手段と組み合わせて、所望の区画への魚の誘導を行ってもよい。
【0089】
養殖魚が出荷するのに適した状態まで成長したら、養殖魚を生簀領域12aから誘導路12cを介して港付近まで誘導することができる。
【0090】
また、上述して本発明の実施形態による方法及びシステムは、水槽内で養殖をおこなう場合でも上記の場合と同様に適用できる。すなわち、水槽内に生簀領域12aを形成し、生簀領域12a内に電界を発生させて複数の区画に区切り、魚の大きさ等に応じて所望の魚を所望の区画へ分類することができる。また、水槽内の特定の箇所に魚が密集しすぎないように、電界を用いて誘導して分散させたり、特定の魚を隔離したりする場合にも用いることができる。また、水槽が魚が出入りできる(実体的な)出入り口を有していれば、本発明の実施形態による方法又はシステムを利用して、そこに向かって魚を誘導したり、さらにその(実体的な)出入り口に(実体的な)誘導路が連結されていれば、その誘導路内を本方法又はシステムを用いて誘導したりすることができる。
【0091】
さらに、養殖システム1は、水温、気温、水流のスピード、餌の密度、養殖魚の生育状況等を検出する各種のセンサを備えていてもよい。制御手段が、これらのセンサからの検出値に基づいて、どの電極手段10にどのような電気パルスを印加するか、判断することができる。また、制御手段は、予め定められた日時に、所定の電極手段10に所定の電気パルスを印加するように、予めプログラムされていてもよい。その際、例えば上記の各種のセンサによる検出値に個別の閾値を設定し、又は、複合的な条件設定を行い、どの電極手段10にどのような電気パルスを印加するか予めパターン化されたテーブルを備え、そのテーブルに従って、各電極手段に電気パルスを印加するようにしてもよい。さらに、これらの閾値、及び、テーブルは、養殖魚の種類に応じて複数記憶されており、現在の養殖魚の種類に応じて、適宜読み出して使用されることができる。
【0092】
なお、本発明はここに記載した実施態様に限定して解釈されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の態様で実施されてもよい。例えば、上記の実施形態では、水中生物の一例として「魚」を用いて説明したが、本発明の適用範囲は、必ずしも生物学上の魚類に限らず、鯨、イルカ、オットセイ、アシカなどの哺乳類、ワニなどの爬虫類、カエルなどの両生類、クラゲ、イカ、タコ、エビ、藻類等の水中に生息するあらゆる生物に適用できる。また、貝類や珊瑚など、さほど自由に移動しない生物を養殖しようとする場合に、これらを捕食しようとする水中の生物や、これらに有害な病原菌などを持っている生物を遠ざけるための防護柵として本発明を適用することも可能である。
【0093】
また、電極手段又は電極装置が、その上部に、所謂灯浮標などのような、ライトなどの発光体を有していてもよい。このような発光体が、色や明るさなどを変化させることができれば、各電極手段に印加されている電気パルスの状態を、発光体の表示態様/発光態様によって外部から視認することができる。そうすると、上述の生簀領域、出入口、及び/又は、誘導路の使用状態、例えば、生簀領域がどの範囲で使用されているか、出入口が閉じられているか、誘導路内で魚がどちら向きに誘導されているかなど、をその場で一目瞭然に確認することができる。また、各電極手段又は電極装置が、自己診断機能を備え、自己の状態、例えば、電極手段の劣化の程度、故障の有無、故障の種類など、に応じて、発光体の表示態様/発光態様を異ならせてもよい。また、上述のように、電極手段/電極装置が、マトリックス状に配置されている場合には、電極手段の状態とは関係なく、発光体の発光態様を変化させて、外部、特に上部、例えば上空、の人に対する何らかのメッセージ、例えば広告などを表示してもよい。
また、浮きが水面から視認可能に構成されていると、水面を航行する船に対して、そこに電極装置が設置されていることを認識できる目印とすることができ、船の安全な航行と、養殖魚の安全との両方を担保することができる。
【0094】
図14は、本発明の実施形態にかかる方法の手順を例示する図である。以下、
図14に示される各ステップを説明する。
【0095】
ステップS101:所定の領域(例えば、生簀領域)において飼育される前の魚(例えば、稚魚)を第1の場所からその所定の領域まで泳がせて移動させる。このように移動させることは、例えば、その所定の領域(例えば、生簀領域)において飼育される前の魚(例えば、稚魚)を水面方向及び/又は水深方向に泳がせて移動させることを含む。このことは、例えば、その所定の領域において飼育される前の魚に対して水面方向及び/又は水深方向に第1の外的要因を付与することによって達成される。第1の外的要因の例としては、例えば、電界、磁界、その所定の領域において飼育される前の魚自身の推力より大きい水圧を有する水流、貧酸素水塊、超音波、光、エアー(泡)、水温の変化、又は、その所定の領域において飼育される前の魚の天敵あるいはその天敵を模したもの(例えば、疑似餌)であるが、これらに限定されない。
【0096】
ステップS102:第2の場所からその所定の領域まで、その所定の領域において飼育中の魚の餌となる魚を泳がせて移動させる。このように移動させることは、例えば、その所定の領域において飼育中の魚の餌となる魚を水面方向及び/又は水深方向に泳がせて移動させることを含む。このことは、例えば、その餌となる魚に対して水面方向及び/又は水深方向に第2の外的要因を付与することによって達成される。第2の外的要因の例としては、第1の外的要因と同様に、例えば、電界、磁界、その餌となる魚自身の推力より大きい水圧を有する水流、貧酸素水塊、超音波、光、エアー(泡)、水温の変化、又はその餌となる魚の天敵あるいはその天敵を模したもの(例えば、疑似餌)であるが、これらに限定されない。
【0097】
ステップS103:その所定の領域において飼育された後の魚(例えば、成魚)をその所定の領域から第3の場所まで泳がせて移動させる。このように移動させることは、例えば、その所定の領域において飼育された後の魚(例えば、成魚)を水面方向及び/又は水深方向に泳がせて移動させることを含む。このことは、例えば、その所定の領域において飼育された後の魚に対して水面方向及び/又は水深方向に第3の外的要因を付与することよって達成される。第3の外的要因の例としては、第1の外的要因及び第2の外的要因と同様に、例えば、電界、磁界、その所定の領域において飼育された後の魚自身の推力より大きい水圧を有する水流、貧酸素水塊、超音波、光、エアー(泡)、水温の変化、又は、その所定の領域において飼育された後の魚の天敵あるいはその天敵を模したもの(例えば、疑似餌)であるが、これらに限定されない。なお、その所定の領域において飼育された後の魚は、成魚にまで成長した魚には限定されない。その所定の領域において飼育された後の魚は、成魚にまで成長する途中の魚であってもよい。
【0098】
ステップS103の後、第3の場所において、その所定の領域において飼育された後の魚が捕獲される。このような捕獲は、人力によって又は機械を用いて行われる。ここで、この捕獲は、水面付近の水中で行われてもよいし、水底付近で行われてもよいし、水面と水底との中間の深さで行われてもよいし、水面付近の空気中で行われてもよい。また、その所定の領域において飼育された後の魚を捕獲するための手段は問わない。例えば、第3の外的要因を引き続き利用して捕獲してもよいし、網を使用して捕獲してもよい。
【0099】
代替的には、その捕獲は、その所定の領域において飼育された後の魚を水中の第3の場所まで泳がせて移動させ、次いで、その水中の第3の場所とは緯度及び経度が実質的に等しくかつ水深のみが異なる水面付近の第4の場所までその所定の領域において飼育された後の魚を泳がせて移動させた後、その水面付近の第4の場所において行われてもよい。すなわち、その捕獲の直前に、その水中の第3の場所からその水面付近の第4の場所まで、その所定の領域において飼育された後の魚を水深方向にのみ泳がせて移動させてもよい。このことは、例えば、低温を好む魚(例えば、鮭)の養殖に適している。なぜなら、低温を好む魚は、水温が上がるとその魚自体の品質が落ちてしまうため、水温が上がる前にその魚を捕獲して水揚げをすることが要求されるからである。
【0100】
その所定の領域において飼育された後の魚をその所定の領域から第3の場所まで泳がせて移動させる際の水深レベルは、その所定の領域において飼育される前の魚を第1の場所からその所定の領域まで泳がせて移動させる際の水深レベルと異なるようにしてもよい。このことは、例えば、ヒラメの養殖に適している。なぜなら、ヒラメの稚魚は水面に近い水深レベルを泳ぐという性質があるのに対し、ヒラメの成魚は水底に近い水深レベルを泳ぐという性質があるからである。
【0101】
なお、第1の場所及び第2の場所及び第3の場所のうちの少なくとも2つが同じ場所であってもよい。例えば、第1の場所及び第2の場所のみが、港(例えば、後述する
図1に示される港16)であってもよいし、第1の場所及び第2の場所及び第3の場所が、全て港(例えば、後述する
図1に示される港16)であってもよい。例えば、第1の場所と第2の場所とが同じ場所である場合、その所定の領域において飼育される前の魚が泳いで移動する際に通る経路と、餌となる魚が泳いで移動する際に通る経路とは、全く同じであってもよいし、それらの経路の少なくとも一部が重なっていてもよいし、全く異なっていてもよい。この場合、その所定の領域において飼育される前の魚及びその餌となる魚を、第1の場所(又は第2の場所)からその所定の領域まで、同時に泳がせて移動させてもよい。また、例えば、第1の場所と第3の場所とが同じ場所である場合、その所定の領域において飼育される前の魚が泳いで移動する際に通る経路と、その所定の領域において飼育された後の魚が泳いで移動する際に通る経路とは、全く同じであってもよいし、それらの経路の少なくとも一部が重なっていてもよいし、全く異なっていてもよい。さらに、例えば、第2の場所と第3の場所とが同じ場所である場合、餌となる魚が泳いで移動する際に通る経路と、その所定の領域において飼育された後の魚が泳いで移動する際に通る経路とは、全く同じであってもよいし、それらの経路の少なくとも一部が重なっていてもよいし、全く異なっていてもよい。
【0102】
また、第1の外的要因及び第2の外的要因及び第3の外的要因は、全て同じであってもよいし、それらのうちの少なくとも1つが異なっていてもよい。第1の外的要因は、第1の外的要因付与手段によって魚に付与される。第2の外的要因は、第2の外的要因付与手段によって魚に付与される。第3の外的要因は、第3の外的要因付与手段によって魚に付与される。ここで、第1の外的要因付与手段及び第2の外的要因付与手段及び第3の外的要因付与手段は、単一の手段によって構成されてもよいし、それらのうちの少なくとも1つが別個の手段によって構成されてもよい。例えば、第1の外的要因付与手段及び第2の外的要因付与手段及び第3の外的要因付与手段は、前述の
図1に示される制御手段20という単一の手段によって構成されることが可能である。
【0103】
第1の外的要因が付与されることによるその所定の領域において飼育される前の魚に対する影響は、その所定の領域において飼育される前の魚を移動させようとしている方向に向かって小さくなるようにしてもよい。これにより、第1の外的要因によって与えられる影響がより小さくなる方向に魚を誘導することが可能である。このようにして、ユーザが魚を移動させることを意図している方向にスムーズに魚を泳がせて移動させることが可能である。また、魚の移動中に天候が急変したことなどを理由として魚を移動させたい方向を転換したい場合には、魚の進行方向の先の当該影響を大きくすることによって、魚の進行方向を転換することが可能である。例えば、前述のように、外的要因が、複数の電極手段に電圧を印加することによって生成される電界及びその複数の電極手段に流れる電流によって生成される磁界のうちの少なくとも一方であり、かつ、
図4に示されるように互いに間隔をおいて一列に配置された複数の電極手段10g乃至10lが平行に2列並べられている場合には、電極手段10gに印加される電圧を強くした後に、電極手段10lに印加される電圧を電極手段10i等と同程度まで弱くすることにより、魚を移動させたい方向を矢印42a方向から矢印42b方向へ転換することが可能である。
【0104】
同様に、第2の外的要因が付与されることによる餌となる魚に対する影響、及び、第3の外的要因が付与されることによるその領域において飼育された後の魚に対する影響もまた、それらの魚を移動させようとしている方向に向かって小さくなるようにしてもよい。これにより、第2の外的要因及び第3の外的要因によって与えられる影響がより小さくなる方向に魚を誘導することが可能である。このようにして、ユーザが移動させることを意図している方向にスムーズに魚を泳がせて移動させることが可能である。
【0105】
例えば、その所定の領域において飼育された後の魚の捕獲の際に、その所定の領域において飼育された後の魚に対して第3の外的要因が付与されることによる影響の大きさを水底から水面に向かうにつれて小さくすることにより、その所定の領域において飼育された後の魚を水底から水面に向かって泳がせて移動させるようにしてもよい。これにより、その所定の領域において飼育された後の魚が水面に集まってくるため、ユーザは、その所定の領域において飼育された後の魚を水中で捕獲して引き上げる通常の捕獲作業に比して、その所定の領域において飼育された後の魚の捕獲作業をより容易に行うことが可能となる。また、例えば、ステップS101〜S103における魚の移動中に、外的要因が付与されることによる影響の大きさを水面から水底に向かうにつれて小さくすることにより、魚を水面から水底に向かって泳がせて移動させるようにしてもよい。これにより、例えば水面に有害物又は障害物が浮いている場合、水面を避けて移動させることができる。
【0106】
なお、
図14に示される実施形態では、魚を養殖する方法がステップS101〜S103のすべてを含む場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明の魚を養殖する方法は、ステップS101〜S103のうちの少なくとも1つを含む方法として認識されるべきである。すなわち、ステップS101〜S103のうちの任意の1つのステップを含む方法、又は、ステップS101〜S103のうちの任意の2つのステップを含む方法、又は、ステップS101〜S103のうちのすべてのステップを含む方法は、すべて、本発明の魚を養殖する方法の範囲内である。
【0107】
例えば、所定の領域(例えば、生簀領域)において魚の卵が孵化した等の理由で、その所定の領域において飼育される前の魚(例えば、稚魚)をその所定の領域に投入する必要がない場合には、ステップS101を省略することが可能である。あるいは、ステップS101に代えて、その所定の領域において飼育される前の魚(例えば、稚魚)を船で第1の場所からその所定の領域まで運搬するようにしてもよい。
【0108】
例えば、所定の領域(例えば、生簀領域)内に生息するプランクトン等の餌が豊富である等の理由で、餌をその所定の領域に投入する必要がない場合には、ステップS102を省略することが可能である。あるいは、ステップS102に代えて、その所定の領域において飼育中の魚の餌となる魚を船で第2の場所からその所定の領域まで運搬するようにしてもよい。
【0109】
例えば、ステップS103に代えて、所定の領域(例えば、生簀領域)において飼育された後の魚をその所定の領域において捕獲し、捕獲された魚を船でその所定の領域から第3の領域まで運搬するようにしてもよい。
【0110】
以下、外的要因の一例として、複数の電極手段に電圧が印加されることによって生成される電界を用いる実施形態を説明する。ただし、外的要因がこのような電界に限定されないことは上述したとおりである。外的要因が電界以外である場合にも、外的要因が電界である場合と同様に、外的要因付与手段がその外的要因を魚に付与することによって魚を泳がせて移動させることが可能である。また、上記の実施形態では磁界については明示的に記載されていないが、魚を泳がせて移動させる際、複数の電極手段に電圧が印加されることによって生成される電界に加えて、又は、その電界に代えて、その複数の電極手段に流れる電流によって生成される磁界によって、魚を泳がせて移動させてもよい。すなわち、複数の電極手段に電圧が印加されることによって生成される電界及びその複数の電極手段に流れる電流によって生成される磁界のうちの少なくとも一方によって、魚を泳がせて移動させてもよい。磁界によって魚に刺激を与え誘導する際には、上述の実施例と同じように、電極手段に印加される電圧、即ち電流のパラメータを調節することで、水中に生じる磁界も調節することができる。また、電極手段が水に直接接触する必要がなく、通電路として機能すれば足りるので、電極手段を防水性のコーティング等で覆うことができ、電極手段へのダメージを著しく低減することができる。
【0111】
以下では、本発明のさらなる実施形態、特に本発明を水槽に適用した実施形態について、
図15を参照しながら説明する。
【0112】
水槽100には、柱状の多数の電極110が、互いに略平行に並んで、マトリックス状に配列された状態で設けられている。電極110は、例えば円柱又は円筒状の柱状体であってもよいし、四角柱等の角柱形状を有していてもよい。また、より細いワイヤ状の線状体の電極110であってもよい。電極110の上部と下部にはそれぞれ、これらの電極110の上端又は下端を支持して位置決めする、位置決め部材120、120が設けられている。なお、
図1に示した実施形態と同様に、本実施形態においても制御部が設けられているが、図示していない。制御部は、多数の電極110から1つ以上の電極110を選択し、電気パルスを印加するようにコントロールする。
まず、電極110が自立できる程度の比較的太い太さ及び剛性を有している実施形態について説明する。
【0113】
各位置決め部材120は、電極110の端部の横断面輪郭に対応する輪郭形状を有する多数の嵌入部122が設けられた、絶縁性のプレート124を有している。電極110の上部と下部にそれぞれ位置決め部材120が配置され、各位置決め部材120の嵌入部122に、電極110の端部が嵌入することによって、電極110が位置決め部材120に対して少なくとも横方向に位置決めされて、固定される。これらの嵌入部122は、プレート124を貫通するように形成されていてもよいし、貫通してない凹部として形成されていてもよい。
【0114】
プレート124と各電極110とは、予め一体的に固定された状態で、水中、特に水槽内に配置されてもよいし、水槽100内に設置するときに、組み立てながら設置されていてもよい。組立て式の場合には、先ず水槽内に下側プレート124を設置し、続いて上側プレート124を設置し、その後に上側プレート124の貫通孔状の嵌入部122に電極110を挿入して下側へ挿通し、下側プレート124の嵌入部122に電極110の先端を嵌入させて、電極110を水槽内で位置決めしてもよい。
【0115】
水槽100の内側に、上部又は下部プレート124を固定するための固定部材が設けられていてもよいし、又は、プレート124の外側に、水槽100の内壁面に固定するための固定部材が設けられていてもよい。例えば、水槽側の固定部材であれば、水槽壁面から内側に向けて膨出して設けられた載置片又は載置枠であり、その上にプレート124の外周端部を載置することで、プレート124を水槽内100の所定の位置に位置決めすることができる。付加的に又は代替的に、プレート124の外側に、水槽の内壁面に係合するための突出部が設けられていてもよい。また、上部又は下部プレートを、ネジ止めや、接着、磁石、摩擦等を用いて、水槽の内壁、底部、又は場合によっては蓋部に固定することもできる。
【0116】
また、上部及び下部プレート124の間に、これらを所定の間隔で離間させて相互に固定するスペーサ部材が設けられていてもよい。
【0117】
また、下部プレート124のみが水槽内の底部近傍の所定の位置で固定され、上部プレートは、例えば上部プレートの嵌入部122に挿通された電極を介してガイドされた状態で、水槽内の水面近傍で水面の上下に合わせて移動できるように構成されていてもよい。その際、上部プレートは、例えば中空状又は発泡材料から形成されるなどして、密度が調整されて、所望の浮力を水槽内の水から受けられるように構成されているとよい。
【0118】
別の実施形態としては、電極110が、例えばワイヤのような比較的細い線状部材として形成されている例を用いて説明する。
【0119】
この実施形態は、先の実施形態に対して、主にプレート124と電極110との固定方法の点で異なっている。それ以外の各実施形態で共通し/相応する点については、個別の説明を省略し、そのまま/相応に適用できる。
【0120】
この場合、電極110は、その端部が、上部プレート124及び/又は下部プレート124の各嵌入部122に埋め込まれた状態で固定的に組み付けられることができる。
【0121】
例えば、下部プレート124の嵌入部122には電極110の下端が、埋め込まれて固定された状態で位置決めされており、上部プレート124の嵌入部122には電極110の上端が挿通されて位置決めされてもよい。
【0122】
プレート124の外側輪郭は、水槽100の内側輪郭の形状に、所定のクリアランスを備えた状態で略一致するように形成されていてもよいし、多角形や円形などの任意の形状を有していてもよい。少なくとも使用しようとする水槽100の内側輪郭より小さい外側輪郭を有していればよい。
【0123】
各電極110に電気パルスを供給するための配線は、プレート124又は各電極110に組みつけられていてもよく、各電極110の、好ましくは上側の、端部に設けられた接続部に、防水コネクタを介して取り外し可能に取り付け接続されていてもよいし、半田付け等により固定的に接続されており防水処理されていてもよい。又は誘導接続などにより非接触で接続されていてもよい。
【0124】
各電極110に印加される電気パルスは、既述べた上記の実施形態と同様である。例えば、数V〜数kV、数V〜数百V、5V〜50V、10V〜30V、など種々の電圧範囲で、数Hz〜数GHz、数Hz〜数MHz、10Hz〜100kHz、100Hz〜10KHz、1k〜10kHzなど種々の周波数範囲の電気パルスを、各電極に順次印加していくことで、水槽内の魚を所望の方向へ誘導することができる。
【0125】
また、電極110は、水槽の内壁表面に沿った位置に配置されていてもよい。この場合、電極110は水槽の内壁表面の上側及び下側にそれぞれ設けられた固定部を介して取り付け配置されていてもよいし、電極110が水槽の内壁面に接着等により貼り付けられていてもよい。また、水槽内壁面に溝状の凹部が形成されており、この凹部に電極110を挿入して、水槽の内壁面に電極110を配置してもよい。
【0126】
このような電極装置を利用して電気パルスを印加することにより、水槽内の魚を所望の方向へ誘導することができる。水槽内に入れられる水は、海水でも淡水でもよい。また人工的に生成された海水であってもよい。このような電極装置は、業務用又は個人用の、観賞用、アミューズメント用、養殖用、保管用の任意の水槽に適用される。
【0127】
例えば、予め設定し、所定の時間に所定の方向へ魚を移動させるように誘導することができる。また、人感センサ等と組み合わせて、水槽外の人の動きに応じて魚を誘導することができる。また、水槽の中及び/又は外にイルミネーションなどの照明装置を設け、魚を誘導する方向と連動させて、照明装置を点灯消灯することで、鑑賞する人に対する演出効果を及ぼしながら、魚を誘導することができる。
【0128】
例えば、水族館などの観賞用の水槽であれば、水槽の外で魚を鑑賞している人の位置、例えば人が水槽の側面から水槽内を見ているのか、上面又は下面から見ているのか、に応じて、人の見やすい位置に魚を誘導することができる。また、異なる種類の魚が同一の水槽内に入れられている場合に、魚の種類ごとに居場所を決めて誘導し、異なる種類の魚が混ざらないようにすることもできる。このようにすることで、空間そのものを区切ることなく、水槽内の魚に対して、自由に移動することのできる空間を区画することができるので、水質の管理等は水槽で統一して行うことができ、水槽内の環境の管理を効率的に行うことができる。
【0129】
また、水槽内の清掃等の任意の作業を行いたい場合などに、魚を予め所定の領域に誘導し、魚がいない領域で作業を行うようにすることができる。その際、本発明にかかる装置又は方法を使用して魚を誘導した後に、魚を誘導した領域と他の領域との間を別の手段で物理的に水を遮断して、一方の領域のみから排水できるようにしてもよい。
【0130】
このような構成を有することで、タモや網などで魚に触れることなく魚を誘導できる。
【0131】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で様々な変形が可能である。
【0132】
本願は、日本特許庁に2016年6月10日に出願された基礎出願2016−128131号、2016年8月26日に出願された基礎出願2016−166353号、2016年10月24日に出願された基礎出願2016−207470号の優先権を主張するものであり、その全内容を参照によりここに援用する。