特許第6362063号(P6362063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362063
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/80 20130101AFI20180712BHJP
   H01G 11/78 20130101ALI20180712BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20180712BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   H01G11/80
   H01G11/78
   H01M10/04 Z
   H01M2/02 G
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-244982(P2013-244982)
(22)【出願日】2013年11月27日
(65)【公開番号】特開2015-103737(P2015-103737A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年9月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 涼
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 忠仁
(72)【発明者】
【氏名】三塚 輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 知美
【審査官】 馬場 慎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−069910(JP,A)
【文献】 特開2013−021340(JP,A)
【文献】 特開2013−089694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/80
H01G 11/78
H01M 2/02
H01M 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を収容部とし、絶縁性を有する凹状容器と、
前記凹状容器の上端面に接合されたシールリングと、
前記シールリングの上面に接合され、かつ、前記シールリングの上面を塞ぐ蓋部とから形成され、
前記凹状容器は、四角板状の底部と、前記底部の外縁に立設した四角枠状の壁部とから構成されており、
前記底部と前記壁部とから形成された前記凹状容器の凹部(収容部)の内部には、正極が収容されており、
前記壁部の内周面は連続した面により構成されており、
前記壁部の高さが、0.3mm以下である場合において、
前記正極と前記シールリングとの距離をDとしたときに、D≧60μmを満たすように前記凹状容器と前記シールリングと前記正極とを配置し
前記収容部の前記底部及び前記壁部に接する部分には絶縁性を有する突出部が形成され、前記壁部及び前記突出部により前記収容部の内周面に段差が設けられており、
前記突出部は前記正極の上面よりも下方に配置されていることを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
内部を収容部とし、絶縁性を有する凹状容器と、
前記凹状容器の上端面に接合されたシールリングと、
前記シールリングの上面に接合され、かつ、前記シールリングの上面を塞ぐ蓋部とから形成され、
前記凹状容器は、四角板状の底部と、前記底部の外縁に立設した四角枠状の壁部とから構成されており、
前記底部と前記壁部とから形成された前記凹状容器の凹部(収容部)の内部には、正極が収容されており、
前記壁部の内周面は連続した面により構成されており、
前記壁部の高さが、0.3mm以下である場合において、
前記正極と前記シールリングとの距離をA、前記壁部の高さをBとしたときに、A/B≧20%を満たすように前記凹状容器と前記シールリングと前記正極とを配置し
前記収容部の前記底部及び前記壁部に接する部分には絶縁性を有する突出部が形成され、前記壁部及び前記突出部により前記収容部の内周面に段差が設けられており、
前記突出部は前記正極の上面よりも下方に配置されていることを特徴とする電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面実装可能な電気化学セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタや電池等の電気化学セルは、時計や半導体メモリのバックアップ用電源としてプリント基板上に実装されている。これらの実装機器の小型化に伴い、電気化学セル自体の小型化や実装面積の縮小化に対応すべく、従前の丸形状であるコイン型やボタン型の電気化学セルに代わって、四角形状であるチップ型の電気化学セルが提供されている。
チップ型の電気化学セルは、ケースに凹状容器が用いられている。この凹状容器の凹部(収容部)には正極及び負極からなる一対の電極、両電極の間に設けたセパレータ及び電解質が収容されている。また凹状容器の上面にシールリングを設け、その上に板状の蓋を被せることにより、容器として形成されている。
【0003】
特許文献1には、小型化及び高容量を実現した電気化学セルが開示されている。凹状容器の収容部の底面に設けられた正極集電体は、電解質と直接接触した状態で使用すると表面が腐食し断線が生じる。そのためこの電気化学セルでは、正極集電体をアルミニウム等からなる保護膜で覆うことで信頼性の向上を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2007/013223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、上記電気化学セルの小型化の要請があるものの、電気化学セルを小型化しようとした場合、全体の厚さを薄くする必要が生じている。
そこで全体を薄くしようとして、凹状容器の収容部の高さを低くした場合、正極の上端付近と負の電位を持つシールリングの側面部とが近接することになる。このため、蓋部のシールリングへの溶接時や、基板固定の際のリフロー加熱時に、凹状容器や正極の熱変形が起こり内部の相対的な位置関係に変化が生じた場合、正極とシールリングとの接触により、内部ショートが発生することがある。また、正極を凹状容器の収容部に設置する際の製造プロセスにおいて正極の接着位置が凹状容器の中心から偏った場合、正極とシールリングとの接触により、内部ショートが発生することがある。
【0006】
そこで、本発明は上記の問題点を解決すべく、容器の小型化、薄型化を図っても、内部ショートが発生しない信頼性の高い電気化学セルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(第1の発明)
本発明のうち第1の発明は、内部を収容部2aとし、絶縁性を有する凹状容器2と、凹状容器2の上端面に接合されたシールリング3と、シールリング3の上面に接合され、かつ、シールリング3の上面を塞ぐ蓋部4とから形成され、凹状容器2は、四角板状の底部2bと、底部2bの外縁に立設した四角枠状の壁部2cとから構成されており、底部2bと壁部2cとから形成された凹状容器2の凹部(収容部2a)の内部には、正極8が収容されており、壁部2cの内周面は連続した面により構成されており、壁部2cの高さが、0.3mm以下である場合において、正極8とシールリング3との距離をDとしたときに、D≧60μmを満たすように凹状容器2とシールリング3と正極8とを配置し、収容部2aの底部2b及び壁部2cに接する部分には絶縁性を有する突出部2dが形成され、壁部2c及び突出部2dにより収容部2aの内周面に段差が設けられており、突出部2dは正極8の上面よりも下方に配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、凹状容器2の壁部2cの高さが、0.3mm以下である超小型のチップ型の電気化学セルにおいて、正極8とシールリング3との間隔を距離で規定したものである。すなわち、正極8とシールリング3との距離をDとしたときに、D≧60μmの関係が成り立つように凹状容器2とシールリング3と正極8とを配置する。これにより、蓋部4のシールリング3への溶接時や、基板固定の際のリフロー加熱時に、各部に熱膨張による変形が生じたとしても、負の電位を有するシールリング3と、正極8との接触を避けることができる。このため、内部ショートの発生を抑えることができる。さらに、正極8を凹状容器2の収容部2aに設置する際の製造プロセスにおいて、正極8の接着位置が凹状容器2の中心から偏った場合であっても、内部ショートの発生を抑えることができる。
【0009】
(第2の発明)
本発明のうち第2の発明は、内部を収容部2aとし、絶縁性を有する凹状容器2と、凹状容器2の上端面に接合されたシールリング3と、シールリング3の上面に接合され、かつ、シールリング3の上面を塞ぐ蓋部4とから形成され、凹状容器2は、四角板状の底部2bと、底部2bの外縁に立設した四角枠状の壁部2cとから構成されており、底部2bと壁部2cとから形成された凹状容器2の凹部(収容部2a)の内部には、正極8が収容されており、壁部2cの内周面は連続した面により構成されており、壁部2cの高さが、0.3mm以下である場合において、正極8とシールリング3との距離をA、壁部2cの高さをBとしたときに、A/B≧20%を満たすように凹状容器2とシールリング3と正極8とを配置し、収容部2aの底部2b及び壁部2cに接する部分には絶縁性を有する突出部2dが形成され、壁部2c及び突出部2dにより収容部2aの内周面に段差が設けられており、突出部2dは正極8の上面よりも下方に配置されていることを特徴とする。
【0010】
本発明では、凹状容器2の壁部2cの高さが、0.3mm以下である超小型のチップ型の電気化学セルにおいて、正極8とシールリング3との間隔を壁部2cの高さに対する比率で規定したものである。すなわち、正極8とシールリング3との距離をA、壁部2cの高さをBとしたときに、A/B≧20%の関係が成り立つように凹状容器2とシールリング3と正極8とを配置する。これにより、蓋部4のシールリング3への溶接時や、基板固定の際のリフロー加熱時に、各部に熱膨張による変形が生じたとしても、負の電位を有するシールリング3と、正極8との接触を避けることができるため、内部ショートの発生を抑えることができる。さらに、正極8を凹状容器2の収容部2aに設置する際の製造プロセスにおいて、正極8の接着位置が凹状容器2の中心から偏った場合であっても、内部ショートの発生を抑えることができる。
【0011】
第1及び第2の発明によれば、底部2bと壁部2cとが接する収容部2aの角部に、突出部2dが形成されている。これにより、正極8を収容部2aの底面に接着する際の製造プロセスにおいて、正極8の接着位置が収容部2aの底面の中心から偏ったとしても、突出部2dによって、負の電位を有するシールリング3と、正極8との接触を避けることができるため、内部ショートの発生を抑えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上のように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
本発明に係る電気化学セルによれば、負の電位を有するシールリングと正極との距離が一定以上に離れるように、凹状容器とシールリングと正極とを配置している。このため、電気化学セルの小型化に伴い凹状容器を薄くしたとしても、内部ショートが発生しないため、信頼性の高い電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態の電気化学セルの垂直断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態の電気化学セルの凹状容器の平面図である。
図3図1に示す電気化学セルの正極とシールリングとの、垂直距離を示す図(A)及び水平距離を示す図(B)である。
図4】本発明の第1の実施形態の電気化学セルの変形例を示す断面図である。
図5図4に示す電気化学セルの正極とシールリングとの、(A)水平距離を示す図及び(B)垂直距離と水平距離との和を示す図である。
図6】本発明の第2の実施形態の電気化学セルの垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
本発明の電気化学セル1は、その外観が略立方形状である。図1に示すとおり、電気化学セル1は、内部に収容部2aを有する絶縁材料からなる有底四角筒状の凹状容器2と、凹状容器2の上端面に接合された四角枠状のシールリング3と、シールリング3の上面に接合され、かつ、シールリング3の上面を塞ぐ四角板状の蓋部4とから構成されている。
凹状容器2は、上方を開放した箱体状のセラミックからなる容器であって、長方形状の底部2bと、底部2bの外縁に立設した長方形枠状の壁部2cを有している。図2に示すとおり、凹状容器2の収容部2aの底面には正極8と電気的に接続される正極集電体6bが4箇所形成されている。また、図1に示すとおり、収容部2aの底面から底部2bの厚さの半分の深さまでビア配線6cが4箇所形成されている。そして、各ビア配線6cの上面が正極集電体6bとして収容部2aの底面に露出している。収容部2aの底面と底部2bの下面との中間部分には層間配線6dが形成されている。この層間配線6dは、一端はビア配線6cに接続され、他端は凹状容器2の側面に露出している。そして、この層間配線6dの露出部分から底部2bの下面にかけて正極外部端子6eが形成されている。さらに、正極外部端子6eのある凹状容器2の側面と反対側の側面の上端部から、壁部2cを経て底部2bの下面にかけて負極外部端子7bが形成されている。
【0015】
凹状容器2は、アルミナ、窒化ケイ素、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化アルミ、ムライト及びこれらの複合材料からなる群から選ばれた少なくとも1種類を含むセラミックから構成されている。また、凹状容器2は、ガラスやガラスセラミックスなどの耐熱材料を用いることができる。一方、ビア配線6c、層間配線6d、正極外部端子6e及び負極外部端子7bは、タングステン、モリブデン、ニッケル、金及びこれらの複合材料から形成されている。
この凹状容器2は、長方形状に打ち抜かれた底部2bに対応するセラミックグリーンシートに、長方形枠状に打ち抜かれた壁部2cに対応するセラミックグリーンシートを貼り合せた後、焼成することにより形成される。この際、あらかじめセラミックグリーンシートに電極のパターンを印刷しておけば、ビア配線6c、層間配線6d、正極外部端子6e及び負極外部端子7bを形成することができる。また、ビア配線6cは、あらかじめ各ビアホールに炭素と樹脂を混合したペーストを充填し、凹状容器2となるセラミックグリーンシートと共に焼成することにより形成してもよい。
【0016】
シールリング3は、凹状容器2の壁部2cの上端面の形状に合わせた四角枠状の断面を有しており、壁部2cの上端面に接合されている。このシールリング3は、熱膨張係数がセラミックの熱膨張係数と近いコバールなどを用いることができる。
なお、壁部2cの上端面とシールリング3は、Ag−Cu合金やAu−Cu合金などのロウ材を介して接合してもよい。
蓋部4は、シールリング3の上面に接合されており、凹状容器2の収容部2aを密封している。蓋部4には、熱膨張係数がセラミックの熱膨張係数と近いコバールや42alloyなどの合金にニッケルメッキを施したものが使用される。このような材料を用いた蓋部4は、例えば、抵抗シーム溶接、レーザーシーム溶接、電子ビーム溶接などによってシールリング3に溶接させることができ、塞がれた状態の収容部2aの気密性を向上させる。なお、シールリング3を使用せず、壁部2cの上端面と蓋部4とをロウ材で直接接合させてもよい。
【0017】
本実施の形態の蓋部4は、導電性を有する材料であるため、蓋部4自体が負極集電体としての役割を果たしている。一方、蓋部4に耐熱樹脂、ガラス、セラミック又はセラミックガラス等の材料を使用した場合、蓋部4の下面に負極集電体を形成する必要がある。この負極集電体は、耐食性に優れかつ膜厚法での形成が可能なタングステン、銀や金を使用することが好ましい。
凹状容器2の収容部2aには、正極及び負極からなる一対の電極と電解質などが収容されている。具体的には、収容部2aは図1に示すように、正極集電体6bの上面とその周囲に形成された保護膜6aと、この保護膜6aに接合される正極8と、正極8の上に設置されるセパレータ10と、セパレータ10により正極8と隔離された負極9と、負極9と蓋部4との間位に設けられた接着部7aとから構成されている。また、収容部2a内は、電解質11で満たされている。
【0018】
保護膜6aは、正極集電体6bと正極8とを接着する導通性接着剤であるとともに、正極集電体6bと電解質11との直接の接触を防止することにより、充電や放電による正極集電体6bの腐食を抑制するために設けられている。保護膜6aは、耐腐食性が高く、導電性を有するアルミニウム又は炭素を主体とした材料から構成されている。アルミニウムからなる保護膜6aの場合、JISにより規定された純アルミニウム系、Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Mg系合金などを用いた蒸着、スパッタ、容射、ペースト塗布などの方法で形成することができる。
また、蓋部4と負極9との間に設けられた接着部7aは、導通性接着剤から形成されており、この導通性接着剤については、保護膜6aに使用される導通性接着剤と同様のものを用いることができる。
【0019】
正極8と負極9は、電気化学セルを電気二重層キャパシタとして使用する場合には、それぞれおが屑、椰子殻、ピッチなどを賦活処理して得られる活性炭粉末を、適当なバインダーと一緒にプレス成型、又は圧延ロールしたものを用いることができる。また、フェノール系、レーヨン系、アクリル系、ピッチ系などの繊維を、不融化及び炭化賦活処理して活性炭又は活性炭繊維とし、これをフェルト状、繊維状、紙状、又は焼結体状にして用いてもよい。またポリアニリン(PAN)やポリアセンなども用いてもよい。
また、正極8は、電気化学セルを電池として使用する場合には、リチウム含有マンガン酸化物、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有ニッケル酸化物、リチウム含有チタン酸化物、三酸化モリブデン、五酸化ニオブなど、従来から知られている活物質に適当なバインダーと導電助剤であるグラファイトを混合したものを用いることができる。
【0020】
また、負極9は、電気化学セルを電池として使用する場合には、炭素、リチウム−アルミニウムなどのリチウム合金、シリコンやシリコン酸化物など従来から知られている活物質に適当なバインダーと導電助剤であるグラファイトを混合したものを用いることができる。
セパレータ10には、大きなイオン透過度を有し、機械的強度を有する絶縁膜を用いることができる。リフローハンダ付けにおける炉での実装と、蓋部4との溶接による熱影響を考慮すると、セパレータ10は、熱的、機械的耐性に優れたガラス繊維を用いることができる。また、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレンなどの樹脂を用いてもよい。
【0021】
電解質11は、公知の電気二重層キャパシタや非水電解質二次電池に用いられる液体状、ゲル状のものが好ましい。
液体状及びゲル状の電解質11に用いられる有機溶媒には、アセトニトリル、ジエチルエーテル、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボーネート、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、γ−ブチロラクトン(γBL)などがある。
液体状及びゲル状の電解質11に含まれる材料には、(CPBF、(CPBF、(CH)(CNBF、(CNBF、(CPPF、(CPCFSO、(CNPF、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CFSO]、チオシアン塩、アルミニウムフッ化塩、リチウム塩などを用いることができるが、これらに限定するものではない。
【0022】
また、ゲル状の電解質11は、液体状の電解質をポリマーゲルに含浸させたものである。ポリマーゲルとしては、ポリエチレンオキシド、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデンが適しているが、これらに限定するものではない。
更に、ピリジン系や脂環式アミン系、脂肪族アミン系やイミダゾリウム系のイオン性液体やアミジン系等の常温溶融塩を用いても構わない。
次に、本電気化学セル1における、凹状容器2、シールリング3及び正極8の位置関係について説明する。
電気化学セル1を薄くするに際し、凹状容器2の壁部2cの高さを低くした場合、正極8の上端付近とシールリング3の側面部とが近接することになる。シールリング3は、蓋部4を介して負極9と通電しているため、負の電位を有している。ここで、正極8の上端付近とシールリング3とが接触すれば、ショートが発生することになる。本実施形態は、壁部2cの高さが、0.3mm以下の超小型化した凹状容器2において、図3(A)に示すように、正極8の上端からシールリング3までの垂直距離をDとすると、D≧60μmを満たすように設計している。
【0023】
このように形成されている電気化学セル1は、蓋部4のシールリング3への溶接時や、基板固定の際のリフロー加熱時に、各部に熱膨張による変形が生じたとしても、負の電位を有するシールリング3と、正極8との接触を避けることができる。このため、内部ショートの発生を抑えることができるだけでなく、正極8を凹状容器2の収容部2aに設置する際の製造プロセスにおいて、正極8の接着位置が凹状容器2の中心から偏った場合であっても、内部ショートの発生を抑えることができる。
また、図3(B)に示すように、正極8の側面部から、シールリング3までの水平距離をDとした場合、D≧60μmを満たすように設計してもよい。この場合も同様の作用効果を得ることができる。
【0024】
また、正極8のシールリング3側の上端部から、シールリング3の正極8側の下端部までの距離をDとした時にD≧60μmを満たすように設計してもよい。この場合も同様の作用効果を得ることができる。
なお、ロウ材を介してシールリング3を壁部2cの上端面に接合させた場合や、シールリング3を使用せず、壁部2cの上端面と蓋部4とを直接ロウ材で接合させた場合には、負の電荷を有するロウ材と正極8との距離をDとするとよい。
図4及び図5は第1の実施形態の変形例である。
図4に示すように、シールリング3の幅が狭く、シールリング3の内周面が、凹状容器2の壁部2cの内壁面と一致しない電気化学セル1場合、図5(A)のように、正極8の側面部からシールリング3までの水平距離をDとして、D≧60μmとなるように設計してもよい。この場合、図5(B)のように、正極8の上端からシールリング3までの垂直距離d1と、正極8の側面部からシールリング3までの水平距離d2との和をDと規定してもよい。
【0025】
なお、本実施形態及びその変形例においては、凹状容器2、シールリング3及び正極8の位置関係を上記のように距離ではなく、凹状容器2の壁部2cの高さに対する比率で規定してもよい。
この際、正極8の上端からシールリング3までの垂直距離、正極8の側面部からシールリング3までの水平距離又は両距離の和をA、壁部2cの高さをBとすると、B=0.3mmの時、A=60μm(0.06mm)であることを踏まえると、A/B≧20%を満たすように設計することができる。
【実施例】
【0026】
実施例として、壁部2cの高さが0.23mmの凹状容器2を製作し、収容部2aには異なる厚さの正極8を収容し、電気二層キャパシタを組み立てる。そして、壁部2cの上面と正極8との垂直距離をDとした際、異なる厚さの正極8毎に、(1)正極8を壁部2cに接するように接着させた場合、及び、(2)正極8を凹状容器2の中央に配置した場合、それぞれの正極の厚み、垂直距離D及びショート率(%)について評価を行う。評価結果を下記表1に示す。
【0027】
なお、ショート率は、以下の式1に従って算出した。
ショート率(%)=(ショート検体数)/全試験検体数×100・・・式1
【0028】
【表1】
【0029】
上記表1のとおり、Dが10μmの参考例では、壁部2cと接触するように正極8を配置すれば、100%の確率でショートが発生し、凹状容器2の中央に配置した場合であっても1.5%の確率でショートが発生する。正極8の凹状容器2内でのわずかな変位や膨張等によって、正極8とシールリング3とが接触したためである。
一方、Dが60μmの実施例1では、正極8が壁部2cに接触した場合のショート率が27%に低減し、凹状容器2の中央に配置した場合は、ゼロとなった。また、Dが100μmの実施例2では、正極8を壁部2cに接触させても、中央に置いてもショートは発生しない。
【0030】
したがって、Dが60μm以上であれば、正極8が凹状容器2の中央に配置された通常状況下でショートが発生せず、正極8が壁部2cに接触するという不測の場合であってもショート率が低減できる。このようなことから、正極8を凹状容器2の中央に配置すべく製造した場合に、結果として若干配置位置にずれがあったとしても、ほぼショートしないDの値は、60μm以上である。
更に、より望ましくは100μm以上であれば、正極8の位置に係らずショートは発生しない。したがって、電気化学セル1の小型化に伴い凹状容器2を薄くしたとしても、内部ショートが発生しない、信頼性の高い電気化学セルを提供することができる。
【0031】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の電気化学セル1の断面図を図6に示す。第2の実施形態は、第1の実施形態の電気化学セル1の凹状容器2の形状に相違があるのもの、その他については第1の実施形態と同様であるので、相違点についてのみ説明する。
第2の実施形態の凹状容器2は、図6に示すとおり、内部に収容部2aを有する箱体状のセラミックからなる容器であって、長方形状の底部2bと、この底部2bに立設する長方形枠状の壁部2cとが形成されている。さらに、底部2b及び壁部2cに接する部分に突出部2dを形成し、壁部2cに段差を設けている。
【0032】
そして、収容部2aの底部2bのうち突出部2dに囲まれた底面上に正極8を配置したものである。
突出部2dは絶縁性を有しており、凹状容器2と同じ素材で形成されている。したがって、第2の実施形態に係る凹状容器2は、底部2b、壁部2c及び突出部2dを一体に形成することができる。この凹状容器2は、底部2bにあたる長方形状に切り抜いたセラミックグリーンシートに、壁部2c及び突出部2dに対応する長方形枠状に切り抜いたセラミックグリーンシートを貼り合せ、さらに、壁部2cのみに対応する長方形枠状に切り抜いたセラミックグリーンシートを貼り合せた後、焼成することにより形成される。
【0033】
本実施形態の電気化学セル1では、突出部2dの厚さを60μm以上、又は、壁部2cの高さに対して20%以上となるように設計すれば、正極8を凹状容器2に設置する際、正極8とシールリング3との距離を確実に確保することができる。したがって、蓋部4のシールリング3への溶接時や、基板固定の際のリフロー加熱時に、各部に熱膨張による変形が生じたとしても、負の電位を有するシールリング3と、正極8との接触を避けることができるため、内部ショートの発生を抑えることができる。また、正極8を収容部2aの底面に接着する際の製造プロセスにおいて、正極8の接着位置が収容部2aの底面の中心から偏ったとしても、突出部2dによって、負の電位を有するシールリング3と、正極8との接触を避けることができるため、内部ショートの発生を抑えることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 電気化学セル 2 凹状容器 2a 収容部
2b 底部 2c 壁部 2d 突出部
3 シールリング 4 蓋部
6a 保護膜 6b 正極集電体 6c ビア配線
6d 層間配線 6e 正極外部端子
7a 接着部 7b 負極外部端子
8 正極 9 負極 10 セパレータ
11 電解質
図1
図2
図3
図4
図5
図6