特許第6362151号(P6362151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362151
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】圧延設備
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/34 20060101AFI20180712BHJP
   B21B 45/00 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   B21B1/34
   B21B45/00 N
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-504470(P2017-504470)
(86)(22)【出願日】2015年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2015056878
(87)【国際公開番号】WO2016143048
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(72)【発明者】
【氏名】森田 進一
【審査官】 坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−290210(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/013827(WO,A1)
【文献】 特開2014−161892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00−11/00
B21B 45/00−45/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2台のコイラーファーナスと、
前記2台のコイラーファーナス間に設けられ、リバース圧延する為の複数台のミルスタンドと、
前記複数台のミルスタンド間に設けられ、特定のまたは各リバース圧延中に鋼板長手方向及び幅方向の加熱昇温を実施する誘導加熱装置と、
を備えた圧延設備。
【請求項2】
前記誘導加熱装置は、磁束が鋼板長手方向断面に対して垂直なトランスバース方式、磁束が鋼板幅断面に対して垂直なソレノイド方式、または、両者の組み合わせである請求項1記載の圧延設備。
【請求項3】
前記複数台のミルスタンド間にテンションロールを少なくとも2台、前記誘導加熱装置の前後に設置して、張力検出及び張力制御機能を持たせ、鋼板先端が次圧延機に噛込み後、前記2台のテンションロールを上昇同一高さに固定させ、鋼板により台形を形成し、張力検出装置からの張力値により圧延機速度を制御して、安定したミルスタンド間張力制御を実施し、前記誘導加熱装置による昇温をし易くする請求項1記載の圧延設備。
【請求項4】
前記テンションロールは、ピンチロールである請求項3記載の圧延設備。
【請求項5】
張力検出及び張力制御機能を持たせ、先端が次圧延機に噛込み後、圧延機トルク及び荷重を使ってミルスタンド間張力値を計算することにより圧延機速度を制御して、安定したミルスタンド間張力制御を実施し、前記誘導加熱装置による昇温をし易くする請求項1記載の圧延設備。
【請求項6】
前記誘導加熱装置は、前記トランスバース方式であり、鋼板幅端部を板幅中央部に比較して高く、更にその他の板幅部分をできるだけ平坦に昇温する請求項2記載の圧延設備。
【請求項7】
前記誘導加熱装置は、前記トランスバース方式であり、鋼板長手方向圧延中に昇温パターンを鋼板幅中央部昇温優先か、板幅端部昇温優先かを選択して、2台の前記誘導加熱装置を自在に幅方向配置変更ができ、または圧延パス間での配置設定変更も可とする請求項2記載の圧延設備。
【請求項8】
前記誘導加熱装置は、前記トランスバース方式であり、圧延中ゼロ張力検出及びループ検出した時、インダクタギャップを開して、鋼板反りとの接触を回避する請求項2記載の圧延設備。
【請求項9】
前記誘導加熱装置は、前記トランスバース方式であり、次圧延機鋼板先端噛込み前無張力時には、鋼板反りに接触しないよう余裕を持ってインダクタギャップを開しておき、次圧延機鋼板先端噛込み後の張力発生以降で加熱適正ギャップに閉し、鋼板の尾端が当該圧延機を抜けることにより無張力状態になる少し前に、鋼板反りとの接触を回避する為インダクタギャップを開する請求項2記載の圧延設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、圧延設備に関する。より具体的には、コイラーファーナスと呼ばれる保温を有する巻取り装置を圧延機前後に2台有し、かつ複数台の圧延機を有する圧延設備(いわゆるステッケルミル)のリバース圧延において、鋼板の温度分布を改善する為に、圧延機の間に新たに設置される誘導加熱装置のレイアウト及び鋼板温度補償方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステッケルミルのリバース圧延において、保温機能を有するコイラーファーナスを圧延機前後に2台有するが、それでもコイラーファーナスから外れる鋼板先尾端部及び幅端部の温度は低下する。
【0003】
そこで、圧延機1台の場合のステッケルミルに関する特許文献1に有るように、コイラーファーナスと圧延機の間に加熱装置を設備して、鋼板温度を改善しようとする考案がなされている。しかし、加熱装置が燃焼装置では表面からの加熱となり昇温効率は悪く、コイラーファーナス以上の効果は期待できない。また、誘導加熱装置のように効率を良くする為にできるだけインダクタ間隙を鋼板に近付ける場合には、ピンチロールが設置されていたとしても、コイラーファーナスとミルスタンド間では張力検出及び張力制御の精度が上がらず鋼板張力が緩んだ場合には、鋼板がループ状になると装置に接触し、容易に破損する確率が高いことが考えられる。インダクタギャップを安全方向に開くと加熱効率は悪くなるか、加熱できなくなる。また、本考案にて設置される加熱装置の圧延機入出の場所は、優先度の高い圧延自動制御の為の板厚計、板幅計、放射温度計、及び鋼板検出等のセンサーが一般的に多く設置され、加熱装置の設置スペースが取れない場合が多い。また、ミルスタンド複数台構成でコイラーファーナス以外での加熱設置による鋼板温度分布改善の考案及び特許はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5771732号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、ステッケルミルのリバース圧延において、保温機能を有するコイラーファーナスをミルスタンド前後に2台有するが、それでもコイラーファーナスから外れる鋼板先尾端部及び幅端部の温度は低下する。一般的な例では、各リバース圧延時の鋼板平均温度(幅方向中央部)で、リバースパス前長手方向鋼板温度は全て1000℃以上に収まっているが、リバースパスが進むに連れ、リバース3パス目には全て1000℃以下となり、3パス目尾端部はかなり低下してくる。最終7パス目では長手方向中央部最高温度と先端部最低温度では約100℃の開きが出てくる。また、幅方向端部でも放熱による温度降下が大きく、平均温度に比し各長手方向でやはり更に約50℃下がる。従って、このような鋼板温度分布の為、鋼板品質歩留まりが悪いという課題があった。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、従来の鋼板温度分布を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明における圧延設備(ステッケルミル)のミルスタンド間に配置する誘導加熱装置レイアウト及び鋼板温度補償方法は、以下のような手段を有している。
【0008】
本発明の請求項1に記載の圧延設備におけるミルスタンド間に配置する誘導加熱装置の機器レイアウトは、特定のまたは各リバース圧延中に鋼板長手方向及び幅方向の昇温を実施して、従来の鋼板温度分布を改善することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に記載の誘導加熱装置は、ソレノイド(磁束が鋼板幅断面に垂直)またはトランスバース(磁束が鋼板長手方向断面に垂直)方式の誘導加熱装置。または両者を組合せた誘導加熱装置とすることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に記載の機器レイアウト及び張力制御方法は、請求項1乃至2に記載の装置を具備する圧延設備において、ミルスタンド間に昇降式ロール(テンションロール)を少なくとも2台、誘導加熱装置前後に設置して、ロードセルまたはストレインゲージを具備した張力検出及び張力制御機能を持たせ、先端が次圧延機に噛込み後、2台のテンションロールを上昇同一高さに固定させ、張力検出装置からの張力値により圧延機速度を制御して、安定したミルスタンド間張力制御を実施する。被加熱材鋼板により台形を形成し、上記誘導加熱装置による昇温をし易くすることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に記載の機器レイアウトは、請求項1から3に記載の装置を具備するステッケルミルにおいて、請求項3のテンションロールをピンチロールに置き換えることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に記載の機器レイアウト及び張力制御方法は、請求項1乃至2に記載の装置を具備する圧延設備において、張力検出及び張力制御機能を持たせ、先端が次圧延機に噛込み後、圧延機トルク及び荷重を使ってミルスタンド間張力値を計算することにより圧延機速度を制御して、安定したミルスタンド間張力制御を実施する。誘導加熱装置による昇温をし易くすることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に記載の誘導加熱装置の機器配置及び加熱温度設定方法は、請求項1から5に記載のトランスバース方式誘導加熱装置において、鋼板幅端部を板幅中央部に比較して高く、更にその他の板幅部分をできるだけ平坦に昇温することを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7に記載の誘導加熱装置の機器配置及び加熱温度設定方法は、請求項1から5に記載のトランスバース方式誘導加熱装置において、鋼板長手方向圧延中に昇温パターンを鋼板幅中央部昇温優先か、板幅端部昇温優先かを選択して、2台の誘導加熱装置を自在に幅方向配置変更できる。または圧延パス間での配置設定変更も可とすることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項8に記載の誘導加熱装置のインダクタギャップ制御方法は、請求項1から5に記載のトランスバース方式誘導加熱装置において、圧延中ゼロ張力検出及びループ検出した時、インダクタギャップを開して、鋼板反りとの接触を回避することを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項9に記載の誘導加熱装置インダクタギャップの制御方法は、請求項1から5に記載のトランスバース方式誘導加熱装置において、次圧延機鋼板先端噛込み前無張力時には、鋼板反りに接触しないよう余裕を持ってインダクタギャップを開しておき、次圧延機鋼板先端噛込み後の張力発生以降で加熱適正ギャップに閉すること。また、尾端が当該圧延機を鋼板が抜けることにより無張力状態になる少し前に、鋼板反りとの接触を回避する為インダクタギャップを開することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に係わる圧延設備におけるミルスタンド間に配置する誘導加熱装置の機器レイアウトは、特定のまたは各リバース圧延中に鋼板長手方向及び幅方向の昇温を可能とする特徴を備え、鋼板温度分布を改善することに優れている。
【0018】
本発明の請求項2に係わる誘導加熱装置は、ソレノイド(磁束が鋼板幅断面に垂直)またはトランスバース(磁束が鋼板長手方向断面に垂直)方式の誘導加熱装置。または両者を組合せた誘導加熱装置で、特定のまたは各リバース圧延中に鋼板長手方向及び幅方向の昇温ができ、鋼板温度分布を改善することに優れている。
【0019】
本発明の請求項3に係わる機器レイアウト及び張力制御方法は、請求項1乃至2に記載の装置を具備するステッケルミルにおいて、ミルスタンド間に昇降式ロール(テンションロール)を少なくとも2台、誘導加熱装置前後に設置して、張力検出及び張力制御機能を持たせ、先端が次圧延機に噛込み後、2台のテンションロールを上昇同一高さに固定させ、張力検出装置からの張力値により圧延機速度を制御して、安定したミルスタンド間張力制御を実施する。鋼板により台形を形成し、上記誘導加熱装置による昇温をし易くすることができる。
【0020】
本発明の請求項4に係わる機器レイアウトは、請求項1から3に記載の装置を具備するステッケルミルにおいて、請求項3のテンションロールをピンチロールに置き換え、ミルスタンド間のループを抑えることができる。
【0021】
本発明の請求項5に係わる機器レイアウト及び張力制御方法は、請求項1乃至2に記載の装置を具備するステッケルミルにおいて、張力検出及び張力制御機能を持たせ、先端が次圧延機に噛込み後、圧延機トルク及び荷重を使ってミルスタンド間張力値を計算することにより圧延機速度を制御して、安定したミルスタンド間張力制御を実施する。誘導加熱装置による昇温をし易くすることができる。
【0022】
本発明の請求項6に係わる誘導加熱装置の機器配置及び加熱温度設定方法は、請求項1から5に記載のトランスバース方式誘導加熱装置において、鋼板幅端部を板幅中央部に比較して高く、更にその他の板幅部分をできるだけ平坦に昇温することができるので、一般的に鋼板幅端部が板幅中央部に比べ温度が低く、被加熱鋼板幅方向の最適な温度補償ができる。
【0023】
本発明の請求項7に係わる誘導加熱装置の機器配置及び加熱温度設定方法は、請求項1から5に記載のトランスバース方式誘導加熱装置において、鋼板長手方向圧延中に昇温パターンを鋼板幅中央部昇温優先か、板幅端部昇温優先かを選択して、2台の誘導加熱装置を自在に幅方向配置変更できる。または圧延パス間での配置設定変更も可能であり、被加熱鋼板長手方向及び板幅方向での加熱パターン変更が随時できる。
【0024】
本発明の請求項8に係わる誘導加熱装置のインダクタギャップ制御方法は、請求項1から5に記載のトランスバース方式誘導加熱装置において、圧延中ゼロ張力検出及びループ検出した時、インダクタギャップを開して、鋼板反りとの接触を回避することができる。
【0025】
本発明の請求項9に係わる誘導加熱装置インダクタギャップの制御方法は、請求項1から5に記載のトランスバース方式誘導加熱装置において、次圧延機鋼板先端噛込み前無張力時には、鋼板反りに接触しないよう余裕を持ってインダクタギャップを開しておき、次圧延機鋼板先端噛込み後の張力発生以降で加熱適正ギャップに閉すること。また、尾端が当該圧延機を鋼板が抜けることにより無張力状態になる少し前に、鋼板反りとの接触を回避する為インダクタギャップを開し、誘導加熱装置の破損を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1の実施形態に係る圧延設備を表す模式図である。
図2】バーヒータを模式的に表す斜視図である。
図3】トランスバース式のバーヒータの加熱原理を表す模式図である。
図4】2台のトランスバース式バーヒータのレイアウトを表す模式図である。
図5図5(a)及び図5(b)は、2台のトランスバース式バーヒータによる鋼板の加熱パターンの一例を表すグラフ図である。
図6】リバース圧延時の鋼板平均温度の一例を表すグラフ図である。
図7】第2の実施形態に係る圧延設備を表す模式図である。
図8】ソレノイド式のバーヒータの加熱原理を表す模式図である。
図9】第3の実施形態に係る圧延設備を表す模式図である。
図10】第4の実施形態に係る圧延設備を表す模式図である。
図11図11(a)及び図11(b)は、第5の実施形態に係る加熱パターンの一例を表すグラフ図である。
図12図12(a)及び図12(b)は、第5の実施形態に係る加熱パターンの一例を表すグラフ図である。
図13図13(a)及び図13(b)は、第6の実施形態に係る加熱パターンの一例を表すグラフ図である。
図14】第7の実施形態に係る圧延設備を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0028】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る圧延設備を表す模式図である。
図1に表したように、ステッケルミル1(圧延設備)は、一対のコイラーファーナス3と、各コイラーファーナス3の間に配置された複数台のミルスタンド2と、を備える。各コイラーファーナス3は、保温機能を有する巻取り装置である。ステッケルミル1は、各コイラーファーナス3で鋼板を温めながらリバース圧延を行う。この例では、各コイラーファーナス3の間に2台のミルスタンド2が設けられている。ミルスタンド2の台数は、2台に限ることなく、3台以上でもよい。
【0029】
ステッケルミル1は、一対のバーヒータ28、29(誘導加熱装置)と、一対のテンションロール32、33と、をさらに備える。2台のミルスタンド2間に鋼板とのギャップを可変にできるトランスバース式のバーヒータ28(BH1)及びバーヒータ29(BH2)を配置し、バーヒータ28とバーヒータ29の外側に、更にスタンド間張力制御をする為に昇降できるテンションロール32及びテンションロール33を配置する。
【0030】
鋼板先端が次圧延機に噛込み後、2台のテンションロール32、33を上昇同一高さに固定させ、張力検出装置40からの張力値により圧延機速度を制御して、安定したミルスタンド間張力制御を実施する。鋼板により台形を形成し、上記誘導加熱装置による昇温をし易くする。また、圧延中ゼロ張力検出及びループ検出した時、インダクタギャップを開して、鋼板反りとの接触を回避する。
【0031】
ステッケルミル1では、鋼板温度を改善する為の加熱装置として最良の誘導加熱装置を適用する。誘導加熱装置にて発生させる磁束により、その磁束を切る方向に鋼板を移動させれば、鋼板内に生じる渦電流により、鋼板内部から鉄損にて加熱される。ガスバーナー等での表面加熱よりも、加熱昇温速度及び効率が良い誘導加熱装置であるバーヒータ28、29の原理について次に説明する。
【0032】
図2は、バーヒータを模式的に表す斜視図である。
図2に表したように、トランスバース式のバーヒータ28、29は、上U型鉄心13と上コイル銅管15にて上インダクタ17を構成し、同様に下U型鉄心14と下コイル銅管16で下インダクタ18を構成して、鋼板19を上下に挟む様に配置する。
【0033】
図3は、トランスバース式のバーヒータの加熱原理を表す模式図である。
図3に表したように、各コイル銅管15、16に電流を流し、磁束Φ20が各U型鉄心13、14を磁路として、鋼板19を垂直に貫通する。すると鋼板19内に渦電流21が生じ、鉄損にて加熱する。磁束Φ20が垂直に鋼板19を貫通するような誘導加熱方式をトランスバース式と称する。
【0034】
図4は、2台のトランスバース式バーヒータのレイアウトを表す模式図である。
図4に表したように、トランスバース式の2台のバーヒータ28及び29を使って、テーブルロールにて搬送される被加熱鋼板19に配置して、誘導加熱する。誘導加熱装置は移動可能な車輪が付いており、鋼板19の幅方向の配置は自由に変更できる。これにより、2台のトランスバース式バーヒータ28、29にて、加熱昇温量を鋼板幅端部優先か、板幅中央部優先昇温かの設定変更が配置変更により連続的に可能となり、加熱昇温量の全体レベルも誘導加熱装置へ供給する電力量を制御することにより自在に連続的に変更できる。
【0035】
バーヒータ28、29は、例えば、水平移動機構46に接続される。水平移動機構46は、各バーヒータ28、29を個別に鋼板19の幅方向に移動させる。水平移動機構46は、制御部44に接続されている。水平移動機構46の動作は、制御部44によって制御される。これにより、各バーヒータ28、29の幅方向の位置を変化させることで、幅方向の加熱昇温パターンを任意に変化させることができる。
【0036】
図5(a)及び図5(b)は、2台のトランスバース式バーヒータによる鋼板の加熱パターンの一例を表すグラフ図である。
図5(a)は、バーヒータ28による鋼板19の加熱パターン例、及び、バーヒータ29による鋼板19の加熱パターン例を表す。図5(b)は、2台のバーヒータ28、29の合計の加熱パターン例を表す。
【0037】
図5(a)及び図5(b)に表したように、鋼板幅端部高温、その他板幅方向は平坦である加熱温度分布は、鋼板19の長手方向で加熱昇温レベルを可変にし、長手方向の温度及び幅方向の温度分布を改善する最良の形態である。というのは、トランスバース式バーヒータ28とバーヒータ29を、圧延材の幅方向に対して対称にし、板幅に対し最適に配置できるからに他ならない。
【0038】
また、鋼板先尾端がバーヒータ28及びバーヒータ29を通過する時、インダクタギャップの制御方法としては、次圧延機鋼板先端噛込み前無張力時には、鋼板反りに接触しないよう余裕を持ってインダクタギャップを開しておき、次圧延機鋼板先端噛込み後の張力発生以降で加熱適正ギャップに閉すること。また、尾端が当該圧延機を鋼板が抜けることにより無張力状態になる少し前に、鋼板反りとの接触を回避する為インダクタギャップを開し、誘導加熱装置の破損を無くすように制御する。
【0039】
各テンションロール32、33及び各バーヒータ28、29は、同期昇降機構42に接続されている。同期昇降機構42は、各テンションロール32、33の高さ方向の位置を変化させ一定に保持する。それと同時に、同期昇降機構42は、各バーヒータ28、29の各インダクタ17、18のパスライン基準高さを各テンションロール32、33の高さに同期して設定する。但し、インダクタギャップ(上インダクタ17と下インダクタ18との間の距離)はパスライン基準を基に独自に設定させる。
【0040】
同期昇降機構42は、制御部44に接続されている。各テンションロール32、33の位置及び各バーヒータ28、29のパスライン基準位置は、制御部44によって同期制御される。制御部44には、張力検出装置40からの張力値が入力される。張力検出装置40は、各ミルスタンド2によって圧延される鋼板19の張力を検出し、検出した張力値を制御部44に入力する。張力検出装置40は、例えば、テンションロール32、33に具備するロードセルなどから鋼板19に加わる張力を検出する。
【0041】
また、制御部44は、各ミルスタンド2に接続され、各ミルスタンド2の動作を制御する。制御部44は、上述のように、張力検出装置40からの張力値により各ミルスタンド2の速度を制御して、安定したミルスタンド間張力制御を実施する。なお、各ミルスタンド2の動作を制御する制御部は、同期昇降機構42の動作を制御する制御部と分けてもよい。
【0042】
図6は、リバース圧延時の鋼板平均温度の一例を表すグラフ図である。
図6は、コイラーファーナスのみで鋼板の保温を行う参考のステッケルミルにおける各リバース圧延時の鋼板平均温度(幅方向中央部)を表す。この例では、リバースパス前長手方向鋼板温度は全て1000℃以上に収まっているが、リバースパスが進むに連れ、リバース3パス目には全て1000℃以下となり、3パス目尾端部はかなり低下してくる。最終7パス目では長手方向中央部最高温度と先端部最低温度では約100℃の開きが出てくる。ここでは示していないが、幅方向端部でも放熱による温度降下が大きく、平均温度に比し各長手方向でやはり更に約50℃下がる。従って、このような鋼板温度分布の為、鋼板品質歩留まりは悪い。
【0043】
これに対して、本実施形態に係るステッケルミル1では、2台のミルスタンド2間にバーヒータ28、29を設け、バーヒータ28、29によって鋼板19を誘導加熱する。これにより、特定のまたは各リバース圧延中に鋼板長手方向及び幅方向の昇温を実施して、鋼板温度分布を改善することができる。例えば、歩留まりを向上させることができる。
【0044】
また、各ミルスタンド2の間では、鋼板19の張力を適切に制御することができる。これにより、例えば、鋼板19との接触にともなうバーヒータ28、29の破損を抑制することができる。例えば、インダクタギャップを適切に設定し、鋼板19を効率良く加熱することができる。
【0045】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態に係る圧延設備を表す模式図である。
以下、本発明における第2の実施形態を図7に基づいて説明する。なお、図7では、ステッケルミルの一部を抜き出して図示している。
【0046】
図7では、各ミルスタンド2間に図1でのトランスバース式のバーヒータ28、29の代わりに、ソレノイド式のバーヒータ35(BH1)およびソレノイド式バーヒータ36(BH2)を設置して、バーヒータ35とバーヒータ36の外側に、更にスタンド間張力制御をする為に昇降できるテンションロール32及びテンションロール33を配置する。
【0047】
図8は、ソレノイド式のバーヒータの加熱原理を表す模式図である。
図8に表したように、ソレノイド式のバーヒータ35、36は、コイル銅管25を有する。バーヒータ35、36では、ソレノイド方式のコイル銅管25内を流れる電流により、図示のように被加熱材の長手方向に磁束20が貫通して、その働きにより被加熱鋼板幅方向において鋼板内に渦電流21が循環して流れ、鉄損により被加熱材の全幅方向を加熱する。この誘導加熱方式をソレノイド式と称する。この誘導加熱装置にても鋼板温度を幅方向に略均一に昇温でき、そのレベルも誘導加熱装置へ供給する電力量を制御することにより自在に連続的に変更できる。従って、ステッケルミルにおける長手方向温度分布の改善対策に使える。
【0048】
鋼板19の先端が次圧延機に噛込み後、2台のテンションロール32、33を上昇同一高さに固定させ、張力検出装置からの張力値により圧延機速度を制御して、安定したミルスタンド間張力制御を実施する。各テンションロール32、33の昇降と同期してソレノイド式バーヒータ35およびソレノイド式バーヒータ36を昇降させる。鋼板19により台形を形成し、上記誘導加熱装置による昇温をし易くする。
【0049】
加熱昇温温度パターンは板幅方向均一に昇温できるので、長手方向にて昇温量を可変として、鋼板長手方向温度降下分を昇温補償する。
【0050】
(第3の実施形態)
図9は、第3の実施形態に係る圧延設備を表す模式図である。
以下、本発明における第3の実施形態を図9に基づいて説明する。なお、図9では、ステッケルミルの一部を抜き出して図示している。
【0051】
図9に表したように、この例では、ミルスタンド2間に図1でのトランスバース式のバーヒータ28とバーヒータ29の外側のスタンド間張力制御をするテンションロール32及びテンションロール33の配置を止め、両ミルスタンド2の荷重及びトルク変動からスタンド間張力を検出してテンションロールレススタンド間張力制御する。張力制御は、前述のように、張力検出装置40及び制御部44で実施される。これにより圧延機速度を制御して、安定したミルスタンド間張力制御を実施し、バーヒータ28、29と鋼板19との接触を防ぎ、誘導加熱装置による昇温をし易くする。
【0052】
(第4の実施形態)
図10は、第4の実施形態に係る圧延設備を表す模式図である。
以下、本発明における第4の実施形態を図10に基づいて説明する。なお、図10では、ステッケルミルの一部を抜き出して図示している。
【0053】
図10に表したように、この例では、ミルスタンド2間に図9でのトランスバース式のバーヒータ28、29の代わりに、ソレノイド式のバーヒータ35およびソレノイド式のバーヒータ36を設置して、両ミルスタンド2の荷重及びトルク変動からスタンド間張力を検出してテンションロールレススタンド間張力制御をして、バーヒータ35、36と鋼板19との接触を防ぎ、誘導加熱装置による昇温をし易くする。
【0054】
(第5の実施形態)
図11(a)及び図11(b)、図12(a)及び図12(b)は、第5の実施形態に係る加熱パターンの一例を表すグラフ図である。
以下、本発明における第5の実施形態を図11(a)及び図11(b)、図12(a)及び図12(b)に基づいて説明する。
【0055】
トランスバース式のバーヒータ28とバーヒータ29の板幅方向の配置を対称に変え、図11(b)は圧延材板幅方向の端部加熱温度を比較的押さえた2台合計鋼板加熱パターン例、図12(b)は板幅端部を板幅中央に比べ加熱温度を上げた2台合計鋼板加熱パターン例である。各圧延パスにて加熱昇温パターン設定を変更し、例えば前半の圧延パスでは板幅端部を押さえたパターンを使用し、後半圧延パスでは圧延材は薄くなり、板幅端部温度降下が大きいので、板幅端部の加熱温度を上げたパターンとして昇温すれば、改善効果がある。また、長手方向での可変例としては、長手方向中央部に近いところでは幅端部加熱優先とし、長手方向先尾端部に近いところでは板幅中央部を優先する加熱昇温パターン設定として変更ができる。こうした加熱昇温パターンは、前述のように、制御部44によって制御される。図11(a)及び図12(a)は各バーヒータ28、29毎の加熱パターン例を示した。
【0056】
(第6の実施形態)
図13(a)及び図13(b)は、第6の実施形態に係る加熱パターンの一例を表すグラフ図である。
以下、本発明における第6の実施形態を図13(a)及び図13(b)に基づいて説明する。
【0057】
鋼板板幅がトランスバース式のバーヒータ28、29の幅に比べかなり広い場合には、図13(a)の板幅端部の加熱昇温温度が板幅中央部に比べ低い2台合計鋼板加熱パターン例、及び、図13(b)の板幅中央部加熱昇温温度低、幅端部加熱昇温温度高での2台合計鋼板加熱パターン例での昇温設定の組み合わせとなる。前述同様に長手方向及び各圧延パスにて組合せることで、従来の鋼板低温度分布を改善する。
【0058】
(第7の実施形態)
図14は、第7の実施形態に係る圧延設備を表す模式図である。
以下、本発明における第7の実施形態を図14に基づいて説明する。なお、図14では、ステッケルミルの一部を抜き出して図示している。
【0059】
図14では、各ミルスタンド2間にテンションロール32、33の代わりに、ピンチロール37、38を配置する。そして、ピンチローラ37、38の間にバーヒータ28、29を配置する。ピンチロール37、38は、一対のローラによって鋼板19を挟む。
【0060】
このように、テンションロールは、ピンチローラ37、38でもよい。この場合、各ミルスタンド2間における鋼板19のループをより適切に抑えることができる。
【0061】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、圧延設備に含まれるコイラーファーナス、ミルスタンド、誘導加熱装置、及び、テンションロールなどの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0062】
その他、本発明の実施の形態として上述した圧延設備を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての圧延設備も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0063】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14